説明

非水電解液二次電池

【課題】経時的な電池容量の低下を抑止することができ、車両駆動出力等を十分に高く維持することが可能な車両駆動電源用の非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池100は、略角筒状をなす電池ケース10の内部に、電解質が含浸されたセパレータを介して正極と負極が積層されてなる電極体20が収容され、そのケース10の開口部12が蓋体14によって閉塞されたものである。また、蓋体14には、正極端子38及び負極端子48が設けられており、それらは、電池ケース10の内部において、内部正極端子37及び内部負極端子47に接続されている。このリチウム二次電池100に用いられる非水電解液には、少なくとも正極の空孔体積に対して1.0mmol/cc以上の含有割合でビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動電源用の非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウム(イオン)二次電池等の非水電解液二次電池は、過充電状態における電解液の電気分解によるガスの生成に起因する内圧上昇を防止するべく、電流遮断機能を備えている。このような電流遮断機能を発現させるための機構としては、内圧そのものの上昇を契機として動作するものの他、それに加えて過度の温度上昇に追随するものもあり、例えば、特許文献1には、放電容量特性及びサイクル特性の低下を抑制しつつ、過充電時に電流遮断機能を確実に動作させることを企図したリチウム二次電池が記載されている。このリチウム二次電池は、主としてリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極に0.02〜0.1wt%のビフェニルが添加されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−77478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リチウム二次電池の過充電時に生じ得る不都合としては、上述したガス発生による内圧上昇の他に、規定(例えば、仕様値)以上の大電流が流れることによって電解液中のリチウムが負極に析出することに起因する容量低下等が挙げられる。特に、車載電池としてのリチウム二次電池においては、車両の運転時間が増えるにつれて、その二次電池の容量低下が進行し、車両駆動出力や車両に搭載された補機等への電力供給が過度に低下してしまう傾向にある。
【0005】
これに対し、本発明者の知見によれば、上記従来の如く正極に0.02〜0.1wt%のビフェニルが添加されたリチウム二次電池を車両駆動電源として用いても、リチウムの析出を十分に抑制することができず、経時的な電池容量の低下を防止するには不十分であることが判明した。
【0006】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、車両の運転に伴う経時的な電池容量の低下を抑止することができ、これにより、車両駆動出力や補機等への電力供給を十分に高く維持することが可能な車両駆動電源用の非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による非水電解液二次電池は、車両に搭載され、その車両を駆動するための電源として用いられるものであって、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水溶媒中にリチウム塩を含む非水電解液とを備えており、その非水電解液は、正極の空孔体積に対して1.0mmol/cc以上の含有割合で、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を含む。なお、本明細書において、正極の空孔体積(cc/g)は、水銀ポロシメータを用いて測定される値を意味する。
【0008】
このように構成された非水電解液二次電池においては、正極及び負極間に印加される電圧が所定値(例えば、4.5V)に達すると、供給された電気エネルギー(電力;充電電流)の一部が、非水電解液に含まれるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の電気分解によって消費され得る。このとき、非水電解液中のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合が前述した範囲内にあると、非水電解液二次電池の容量維持率を長期間十分に高く維持可能であることが確認された。これは、正極及び負極間に大電流が流れるような場合でも、かかる含有量のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体によって、非水電解液に含まれるリチウムイオンが負極へ大量に移動して負極に析出してしまうことを十分に防止することができる程度に、非水電解液二次電池に供給される電気エネルギーの一部が消費されることによるものと推定される(但し、作用はこれに限定されない。)。
【0009】
上記構成の非水電解液二次電池の好ましい態様は、それが搭載された車両の運転において、負極にリチウムの析出を伴う可能性のある所定の負荷急変事象が生じたときに、発生する回生エネルギーの一部によって、非水電解液に含まれるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を分解せしめ、それにより、負極へのリチウムの析出を抑制するように構成されたものである。
【0010】
より具体的には、その所定の負荷急変事象として、車両のアクセルのON/OFF、又は、車両のタイヤに生じるスリップグリップを例示することができる。本発明者らの知見によれば、車両のアクセルのON/OFFや車両のタイヤに生じるスリップグリップは、他の事象に比して殊に大きな電流を生じさせ得るので、これらの事象に起因するリチウムの析出およびこれに伴う容量低下を抑制するように構成することで、車両の運転に伴う経時的な電池容量の低下が、より一層効果的に発揮される。とりわけ、車両のアクセルのON/OFFや車両のタイヤに生じるスリップグリップに起因する短時間大電流充電の課題は、車両駆動電源用途で使用される場合に発生する課題であり、民生用途では発生しない。したがって、上記記構成の非水電解液二次電池は、車両駆動電源用途で用いる場合において、特に有用である。
【0011】
また、上記構成の非水電解液二次電池のより好ましい態様は、その非水電解液二次電池が、電流遮断装置(CID)が搭載されていない、換言すればCID非搭載(CIDレス)の非水電解液二次電池である。ここでいう電流遮断装置とは、少なくとも電池内の圧力が規定(例えば、仕様値)以上の場合に、電池の電流経路を遮断するものである。上記構成の非水電解液二次電池においては、上述したとおり、非水電解液中に所定量のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が含まれることにより車両の運転に伴う経時的な電池容量の低下が抑止されたものなので、一般的に必須とされる電流遮断装置を省略した態様を採り得る点で、殊に有用である。また、電流遮断装置は比較的に大型且つ高価なので、これを省略することにより、電池の小型化、軽量化及び低コスト化が図られる。
【0012】
また、非水電解液中のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合が、正極の空孔体積に対して6.0mmol/cc未満であると好適である。このようにすれば、非水電解液二次電池における正極及び負極間の電気抵抗の過度の増大が十分に且つ確実に抑制され、かかる電気抵抗の増大に起因する非水電解液二次電池の効率低下を効果的に防止することができる。
【0013】
さらに、非水電解液中のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合は、非水電解液の全体量に対して1.0wt%以上6.0wt%未満であることが好ましい。この程度の含有割合でビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を用いることにより、非水電解液二次電池における正極及び負極間の電気抵抗の過度に増大させることなく、車両のアクセルのON/OFFや車両のタイヤに生じるスリップグリップ等の比較的大きな負荷急変事象に起因する効率低下を防止することができる。
【0014】
また、本発明者が、リチウム析出挙動とビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の消費量に着目して更に研究を進めたところ、これまでの技術常識からは予想されなかった新たな知見が得られた。ここで、図9及び図10は、それぞれ、所定条件下での耐久運転試験を実施して非水電解液からリチウムを析出させる前、及び、リチウムを析出させた後におけるビフェニル含有割合の測定結果の一例を示すグラフである。この測定では、非水電解液二次電池を、正極、負極、セパレータ、及び、非水電解液の余剰液に分解し、それらの各部位におけるビフェニル含有割合(上述したのと同様に、正極の空孔体積に対する含有割合)を破壊分析した。
【0015】
これらのグラフに示すとおり、耐久運転試験の実施により析出したリチウムは、正極の非水電解液中のビフェニルが消費されたことに起因するものであり、このとき、負極、セパレータ、及び、余剰液中のビフェニルは、殆ど又は全く消費されていないことが判明した。しかし、非水電解液は液状であるので、技術常識に照らせば、正極でビフェニルが消費されて減少しても、負極、セパレータ、及び余剰液に含まれるビフェニルが正極に供給され、非水電解液全体(二次電池全体)として、ビフェニルの含有割合は短時間のうちに均一化されるはずである。それにも拘らず、図9及び図10に示す分析結果から判断すれば、かかる液中現象の常識的な理解に反し、それらの負極、セパレータ、及び、余剰液中のビフェニルが正極側へ供給されることは、殆ど又は全くないことが明らかとなった。
【0016】
そして、このように、正極の非水電解液のみビフェニルが消費されてしまい、且つ、他の部位(負極、セパレータ、及び余剰液)から正極にビフェニルが供給されないのであれば、負極へのリチウム析出に対する抑制効果を長期に亘って維持し難くなる可能性がある。また、それを防止するには、非水電解液の交換や非水電解液へのビフェニルの追添加が必要になってしまい、そうした場合、材料コストの増大に起因して経済性が悪化してしまう観点から、望ましくない。
【0017】
そこで、かかる不都合に対し、本発明者は、非水電解液に外部からビフェニルを添加するのではなく、負極、セパレータ、及び、余剰液中に残存するビフェニルを有効利用することを企図して鋭意研究を重ねた結果、更なる発明に到達するに至った。
【0018】
すなわち、上記構成の非水電解液二次電池の好ましい他の態様として、それが搭載された車両の運転において負極にリチウムが析出したことを検知又は推定したときに、過放電及び過充電を少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返して実施するように構成されたものが挙げられる。なお、この構成は、非水電解液二次電池に対して過放電と過充電を実施するという作為に鑑みると、上述した各態様の非水電解液二次電池を保守し再生する方法であって、車両の運転において負極にリチウムが析出したことを検知又は推定したときに、その非水電解液二次電池に過放電及び過充電を少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返して実施する非水電解液二次電池の電池保守再生方法と等価でもある。
【0019】
本発明者は、このような構成を用いることにより、非水電解液二次電池の運転後に負極、セパレータ、及び、余剰液中に留まって残存していたビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が減少し、正極側の非水電解液において、その減少相当分のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が増加することを確認した。かかる事象のメカニズムの詳細は、未だ不明であるものの、過放電と過充電を実施することにより、非水電解液二次電池における正極以外の他の部位の形状や性状が変化(例えば体積変化)し、その結果、その他の部位に留まっていたビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が正極側へ移行することが要因の一つと推察される。ただし、作用はこれに限定されない。なお、そもそも、図9及び図10に示す如く、ビフェニルが非水電解液中を移動しない(拡散しない)で、初期の部位に留まっている作用機序の詳細についても、未だ解明されていない。
【0020】
また、この場合、過放電を過充電よりも過酷な(強い、きつい、激しい、厳しい)条件で実施すると、更に好適であることも判明した。この条件としては、特に制限されず、過放電時と過充電時の総電荷量が同じであっても、過放電における放電容量を比較的大きく且つ1回の放電時間を比較的短くする一方で、過充電における充電容量を比較的小さく且つ1回の充電時間を比較的長くする例が挙げられる。こうすることにより、過放電及び過充電中にリチウムが析出してしまうことを抑止し易くなり、且つ、正極へのビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の供給をより促進させることができ、また、過放電及び過充電に要する時間を短縮し易くなる利点がある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非水電解液二次電池に備わる非水電解液中にビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が所定量以上の割合で含まれるので、負荷急変等によって正極及び負極間に規定以上の高電圧が印加されて過大な充電電流が流れる状態になったとしても、その電気エネルギーの一部がビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の電気分解に効果的に消費される。その結果、非水電解液に含まれるリチウムが大量に負極へ移動して析出してしまうことを十分に抑止することができ、これにより、車両の運転に伴う経時的な電池容量の低下を防止して、車両駆動出力や補機等への電力供給を十分に高く維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の非水電解液二次電池が搭載された車両を示す模式図である。
【図2】本実施形態の非水電解液二次電池の構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】容量維持率の測定結果(実施例1及び2並びに比較例1)を示すグラフである。
【図5】抵抗の測定結果(実施例1〜4並びに比較例1)を示すグラフである。
【図6】容量維持率の測定結果(実施例5及び6並びに比較例1)を示すグラフである。
【図7】抵抗の測定結果(実施例5〜8並びに比較例1)を示すグラフである。
【図8】図1等に示す非水電解液二次電池に対して過放電と過充電とを繰り返して実施する手順の一例を示すフロー図である。
【図9】非水電解液二次電池に対して所定条件の耐久運転試験を実施する前におけるビフェニル含有割合の測定結果の一例を示すグラフである。
【図10】非水電解液二次電池に対して所定条件の耐久運転試験を実施した後におけるビフェニル含有割合の測定結果の一例を示すグラフである。
【図11】実施例9で得たリチウム二次電池におけるビフェニル含有割合の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例10で得たリチウム二次電池におけるビフェニル含有割合の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0024】
図1は、本実施形態の非水電解液二次電池及びこれが搭載された車両を示す模式図であり、図2は、本実施形態の非水電解液二次電池の構成を概略的に示す斜視図であり、図3は、図2におけるIII−III線断面図である。
【0025】
図1に示す如く、リチウム二次電池100(非水電解液二次電池)は、車両1(例えば自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車といった電動機を備える自動車)に搭載され、その車両1を駆動するための電源として機能するものである。
【0026】
また、図2及び図3に記載のとおり、リチウム二次電池100は、略角筒状(直方体形状)をなす電池ケース10の内部に、電解質が含浸されたセパレータを介して正極と負極が積層されてなるいわゆる捲回電極体等の電極体20が収容され、そのケース10の開口部12が蓋体14によって閉塞された構造を有している。また、蓋体14には、外部接続用の正極端子38及び負極端子48が設けられており、それらの正極端子38及び負極端子48は、図示上端側の一部が蓋体14の表面から外部に突設されており、それぞれの図示下端部が、電池ケース10の内部において、内部正極端子37及び内部負極端子47に接続されている。
【0027】
さらに、電極体20は、例えば長尺状の正極集電体32の表面に正極活物質層34を有する正極シート30、及び、長尺状の負極集電体42の表面に負極活物質層44を有する負極シート40が、長尺シート状のセパレータ50を介して交互に積層されたものである。この積層体は、例えば、その軸芯(図示しない)の周囲に筒状に捲回されて得られた捲回電極体を、側面方向から押しつぶすようにして扁平形状に成形されている。
【0028】
また、上述した内部正極端子37及び内部負極端子47は、それぞれ、正極集電体32の正極活物質層非形成部36、及び、負極集電体42の負極活物質層非形成部46に、超音波溶接や抵抗溶接等の適宜の手法によって接合されており、これにより、電極体20の正極シート30及び負極シート40と電気的に接続されている。
【0029】
セパレータ50は、正極シート30及び負極シート40間に介在しており、正極シート30に設けられた正極活物質層34と、負極シート40に設けられた負極活物質層44の両方に当接するように配置されている。このセパレータ50に形成された空孔内に電解質(非水電解液)を含浸させることにより、正極及び負極間に伝導パス(導電経路)が画成される。なお、セパレータ50は、正極活物質層32及び負極活物質層44の積層部位の幅よりも大きく、且つ、電極体20の幅よりも小さい幅を有しており、正極集電体32と負極集電体42が互いに接触して内部短絡を生じないように、正極活物質層34及び負極活物質層44の積層部位に挟持されるように設けられている。
【0030】
かかるセパレータ50の構成材料としては、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に制限されない。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができ、その樹脂の種類としては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。セパレータ50は、単層のもの(単層体)、2層或いは3層以上の積層体のいずれであっても、好適に用いることができる。
【0031】
(正極シート30)
正極シート30の基材となる正極集電体32を形成するための材料は、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に制限されない。例えば、アルミニウムやアルミニウムを主成分とする合金又は複合金属等の導電性に優れる金属が挙げられる。
【0032】
正極活物質層34には、少なくとも、電荷担体となるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質が含まれる。この正極活物質としては、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に制限されないが、例えば、リチウム(Li)と少なくとも一種の遷移金属元素を含み、且つ、層状構造又はスピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。
【0033】
より具体的には、例えば、コバルトリチウム複合酸化物(LiCoO2)、ニッケルリチウム複合酸化物(LiNiO2)、マンガンリチウム複合酸化物(LiMn24)、またはニッケル・コバルト系のLiNixCo1-x2(0<x<1)、コバルト・マンガン系のLiCoxMn1-x2(0<x<1)、ニッケル・マンガン系のLiNixMn1-x2(0<x<1)やLiNixMn2-x4(0<x<2)で表わされるような、遷移金属元素を2種含むいわゆる2元系リチウム遷移金属複合酸化物、或いは、遷移金属元素を3種含むニッケル・コバルト・マンガン系のような3元系リチウム遷移金属複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/32)等を例示することができる。なお、これらのリチウム遷移金属複合酸化物は、約3.5〜4.2V(リチウム基準電極に対する電位)の範囲内の電位を有する。
【0034】
また、リチウム遷移金属複合酸化物には、微少構成金属元素として、例えば、アルミニウム (Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、及びセリウム(Ce)よりなる群から選択される1種又は2種以上が含まれていても構わない。
【0035】
なお、このようなリチウム遷移金属酸化物は、例えば、従来公知の方法で調製・提供されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができ、或いは、原子組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定のモル比で混合し、適当な手段で焼成することによって調製することもできる。また、焼成物を適宜の手段で粉砕、造粒、及び分級することにより、所望の平均粒径及び/又は粒径分布を有する二次粒子によって実質的に構成された粒状のリチウム遷移金属酸化物粉末を得ることも可能である。
【0036】
さらに、正極活物質層34には、添加剤として、リチウム二次電池100の放電に伴い後述する非水電解液に含有される添加剤との酸化反応により分解する物質であって、その酸化反応によって正極活物質の表面に生成する被膜生成量の調節を可能とする自己犠牲型補助物質が含有されていてもよい。
【0037】
この自己犠牲型補助物質としては、上記列挙した正極活物質の電位(約3.5〜4.2V)よりも電位(リチウム基準電極に対する電位)が卑であるものを好適に使用することができ、例えば、一般式LiMPO4(式中、Mは、Co、Ni、Mn、及びFeからなる群より選択される少なくとも1種又は2種以上の遷移金属元素を示す。)で表されるオリビン型構造のリチウム含有リン酸塩等が挙げられる。かかるオリビン型リチウム含有リン酸塩の好適例として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)等(対リチウム基準電極電位は、約3.2〜3.8V)を例示することができる。
【0038】
上述した正極活物質と自己犠牲補助物質との組み合わせは、正極活物質と自己犠牲型補助物質との電位(対リチウム基準電極電位)の関係が、正極活物質>自己犠牲型補助物質を満たすものであれば、特に制限されない。例えば、正極活物質として層状構造のLiNi1/3Co1/3Mn1/32を用い、自己犠牲型補助物質としてオリビン構造のLiFePO4を用いた組み合わせが好適例として挙げられる。或いは、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を自己犠牲型補助物質として用いてもよく、比較的電位が高い(約4.2V)スピネル構造のLiMn24を正極活物質として用い、それよりも電位が低い層状構造のLiNiO2を自己犠牲型補助物質として用いた組み合わせ等が挙げられる。
【0039】
また、正極活物質層34には、必要に応じて、導電材や結着材等、当業界で公知の他成分(任意成分)が含まれていてもよい。かかる導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が挙げられる。カーボン粉末の具体例としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が挙げられる。また、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅やニッケル等の金属粉末類、及び、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等を、単独で又はこれらの混合物として含有していてもよい。
【0040】
また、結着材としては、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に限定されないが、各種のポリマー材料を好適に使用し得る。具体的には、正極活物質層34の製作に使用する溶媒に溶解又は分散可溶なポリマーを選択して用いることができ、例えば、水系溶媒を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類等の水溶性又は水分散性ポリマーを好ましく使用することができる。また、非水系溶媒を用いる場合、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のポリマーを好ましく採用することができる。なお、例示した各種ポリマー材料は、結着材としての機能の他に増粘材その他の添加材としての機能を発現することもあり得る。
【0041】
(負極シート40)
負極シート40の基材となる負極集電体42を形成するための材料は、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に制限されない。例えば、銅や銅を主成分とする合金又は複合金属等の導電性に優れる金属が挙げられる。
【0042】
負極活物質層44には、少なくとも、電荷担体となるリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれる。この負極活物質は、リチウム二次電池の充電に伴い後述する非水電解液に含有される添加剤と還元反応により分解する物質であって、その還元反応によって負極活物質の表面に生成する被膜生成量の調節を可能とするものであり、従来から当業界で用いられているものを特に制限なく使用することができる。負極活物質の具体例としては、例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。また、いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもの等、種々の炭素材料を好適に使用することができる。
【0043】
これらのなかでは、特に、グラファイト等の黒鉛粒子を好ましく使用することができる。黒鉛粒子は、電荷担体としてのリチウムイオンを好適に吸蔵することができるため導電性に優れるとともに、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことから、ハイレートのパルス充放電に適した負極活物質となり得る点で有利である。
【0044】
さらに、負極活物質層44には、添加剤として、リチウム二次電池100の充電に伴い上記添加剤を還元分解する物質であって、上記負極活物質の電位よりも電位(リチウム基準電極に対する電位)が貴である自己犠牲型補助物質が含有されていてもよい。
【0045】
この自己犠牲型補助物質としては、例えば、チタン系酸化物又は硫化物等の遷移金属の酸化物又は硫化物等が挙げられ、より具体的には、チタン酸リチウム、酸化チタン(TiO2)、硫化チタン、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化コバルト、硫化鉄等を例示でき、特に好ましくは、チタン酸リチウムが挙げられ、更に好適には、Li4+xTi512(0≦x≦3)やLi2+xTi37(0≦x≦3)等が挙げられる。
【0046】
また、負極活物質層44には、必要に応じて、結着材等の当業界で公知の他成分(任意成分)が含まれていてもよい。かかる結着材としては、一般的なリチウム二次電池の負極に使用される結着材を適宜採用することができ、例えば、上述した正極活物質層34の結着材に用いられるものと同じものを適宜選択して使用することができる。
【0047】
(非水電解液)
このリチウム二次電池100に用いられる非水電解液は、非水溶媒と、支持電解質(支持塩)としてのリチウム塩と、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体と少なくとも含み、好ましくは上述した正極活物質層34及び/又は負極活物質層44の表面に被膜を生成する添加剤をさらに含む。
【0048】
非水溶媒としては、当業界で公知のものを適宜用いることができ、特に制限されないが、例えば、各種有機溶媒、より好ましくはカーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類のほか、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等の、一般にリチウム二次電池の電解液に使用し得るものを、1種又は2種以上組み合わせて使用し得る。
【0049】
ここで、リチウム二次電池100は、一般に、充電状態において負極活物質が強還元剤として機能し、初回の充電時に非水電解液が還元分解され、活物質の表面に被膜(SEI:Solid Electrolite Interface)が生成される。この被膜は、非水電解液の分解を阻止する物理的バリヤとなり、負極上での還元分解反応が抑制され、電池特性(例えばサイクル特性またはハイレート特性)の向上に寄与し得る一方、過剰量の被膜が生成されると、電池容量の低下や充電効率の低下を引き起こし得る。そのため、非水電解液は、かかる被膜生成を制御するための添加剤を含有することが好ましい。
【0050】
このような添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、及びエリスリタンカーボネート等のエチレン性不飽和結合を有するカーボネート化合物、或いは、リチウムを含有するアルカリ金属塩のLiPF2(C242(いわゆるLPFO)、Li[(C242B]、Li(C24)BF2等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのなかでは、ビニレンカーボネート又はLiPF2(C242が特に好ましい。
【0051】
非水電解液には、支持電解質(支持塩)としてのリチウム塩が含まれている。かかるリチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiCF3SO3、LiC49SO3、LiC(SO2CF33、LiClO4等のリチウム二次電池の電解液において支持電解質として機能し得ることが知られている各種のリチウム塩が挙げられるが、これらに特に限定されない。リチウム塩は、1種のみを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのなかでは、LiPF6が特に好ましい。なお、この支持電解質としてのリチウム塩の非水電解液における濃度は特に制限されず、要求性能に応じて適宜設定することができ、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様に組成することができる。
【0052】
非水電解液には、リチウム塩の他に、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が含まれている。ここで、「ビフェニル誘導体」とは、ビフェニル分子の炭素原子に結合した水素原子が、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、水酸基等の適宜の置換基で置換されたものを示す。
【0053】
このビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の非水電解液における含有割合は、正極の空孔体積に対して1.0mmol/cc以上、好ましくは2.0mmol/cc以上、より好ましくは3.0mmol/cc以上とされる。また、その含有割合の上限は特に制限されないものの、正極の空孔体積に対して6.0mmol/cc未満であると好適である。このように構成されたリチウム二次電池100によれば、負荷急変事象が起き、正極及び負極間に比較的高い電圧が印加されてリチウム二次電池100の充電が行われる際、その回生エネルギー(電力;充電電流)の一部が、非水電解液に含まれるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の電気分解反応に消費される。具体的には、正極及び負極間に印加される電圧が所定値(例えば、4.5V)に達すると、供給された電気エネルギーの一部が、非水電解液に含まれるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の電気分解によって消費され得る。
【0054】
このとき、車両1の運転期間中(リチウム二次電池100の使用サイクル期間中)に上述した負荷急変事象が生じる想定回数をN(回)、その事象1回当たりに電池電圧が上記所定値(4.5V)に保持されるときの電荷量をQ(任意単位/回)、及び、非水電解液に添加されたフェニル及び/又はビフェニル誘導体の電気分解によって消費される電荷量をB(任意単位/mol)とすれば、その期間中に電池電圧が上記所定値(4.5V)になったときの電荷量を全て消費可能なフェニル及び/又はビフェニル誘導体の最少量A(mol)は、下記式(1)で表される。
A=Q×N/B …(1)
【0055】
そして、本発明者の知見によれば、非水電解液におけるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合が、正極の空孔体積に対して上述の如く1.0mmol/cc以上であると、リチウム二次電池100の容量維持率を長期間に亘って十分に高く維持可能であることが判明した。また、その含有割合が、正極の空孔体積に対して6.0mmol/cc未満であれば、リチウム二次電池100における正極及び負極間の電気抵抗の増大を有効に抑制可能であることも確認された。
【0056】
ここで、非水電解液におけるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合は、非水電解液の全体量に対して好ましくは1.0wt%以上6.0wt%未満、より好ましくは2.0wt%以上5.0wt%以下、さらに好ましくは3.0wt%以上5.0wt%以下である。このようにビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の含有割合を非水電解液の全体量に対して1.0wt%以上6.0wt%未満とすることにより、正極及び負極間の電気抵抗の過度に増大させることなく、車両のアクセルのON/OFFや車両のタイヤに生じるスリップグリップ等の比較的大きな負荷急変事象に起因する効率低下を抑制して、リチウム二次電池100の容量維持率を長期間に亘って十分に高く維持可能であることが判明した。
【0057】
このように、本実施形態のリチウム二次電池100では、それが搭載された車両1の運転において負極にリチウムの析出を伴う可能性のある所定の負荷急変事象が生じた場合、特に、車両のアクセルのON/OFFや車両のタイヤに生じるスリップグリップ等の比較的大きな負荷急変事象が生じた場合であっても、それに伴って発生し得る回生エネルギーの一部を、非水電解液に含まれるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体によって消費させることができる。これにより、過大な充電電流が流れて非水電解液に含まれるリチウムが大量に負極へ移動して析出してしまうことを、十分に抑制することができ、その結果、車両の運転に伴う経時的なリチウム二次電池100の容量低下を防止することが可能となり、車両1の駆動出力やそれに搭載された他の補機等への電力供給を十分に高く維持することができる。また、本実施形態のリチウム二次電池100では、かかる構成を採用しているため、電流遮断装置(CID)の搭載が必須とはならない。そのため、CID非搭載のリチウム二次電池100とすることで、電池の小型化、軽量化及び低コスト化が図られる。
【0058】
なお、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の分解により、水素ガスが極少量、例えば、アクセルON/OFF1回当たり6.7×10-2(ml)程度生じ得るものの、その量は、リチウム二次電池に一般に備わる安全弁が作動するレベルに比して十分に少ない。また、逆言すれば、そのようにして水素ガスが生じることにより、安全弁の作動がより安全サイドで実施され得る。
【0059】
次に、本発明の好適な他の一実施形態として、負極にリチウムが析出したことを検知又は推定したときに、過放電と過充電とが実施されるように構成された非水電解液二次電池について説明する。図8は、先述した実施形態のリチウム二次電池100に対して、過放電と過充電とを少なくとも1回、好ましくは複数回繰り返して実施する際の手順の一例を示すフロー図である。
【0060】
本実施形態では、まず、車両1の走行時、停止時、又は、点検時において、リチウム二次電池100の負極にリチウムが析出したか否かを判断する(ステップS1)。具体的には、ステップS11において、正極及び負極間の抵抗Rが、そのリチウム二次電池100の運転前のそれら電極間の初期抵抗R0に適宜の係数α(例えば1.3)を乗じた値(R0×α)よりも大きいか否かを判断する。また、ステップS12において、リチウム二次電池100の電池容量Cが、そのリチウム二次電池100の運転前の初期容量C0に適宜の係数β(例えば0.95)を乗じた値(C0×β)よりも小さいか否かを判断する。なお、図8においては、図示の都合上、ステップS11,S12をこの順に実施するように記載したが、これらのステップS11,S12は、いずれを先に実施しても、同時に実施してもよい。
【0061】
ステップS1において、ステップS11,S12の判定結果がともに「Yes」の場合、つまり、抵抗R>初期抵抗R0×αであり、且つ、C<初期容量C0×βである場合、リチウム二次電池100の正極中のビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が過度に消費され、負極にリチウムが不都合な程度に析出した(又は析出する可能性がある若しくはその可能性が高い)と判断し、リチウム二次電池100に対して過放電と過充電を実施する(ステップS2)。
【0062】
このステップS2の過放電及び過充電の条件としては、特に制限されず、例えば、過放電及び過充電ともに、電圧2V〜4.1V及び容量1Cで1サイクル(1回ずつ)実施する条件が挙げられ、この場合の充放電に要する時間は、例えば1時間〜数時間程度である。この充放電電圧が2V未満であると、正極集電体32の相転移が生じてしまったり、非水電解液に銅(Cu)イオンが含まれる場合、その銅が析出してしまったりする可能性がある。一方、この充放電電圧が4.1Vを超えると、非水電解液からリチウムが析出するおそれがある。換言すれば、過放電及び過充電の電圧を2V〜4.1Vの範囲内の値にすることにより、充放電による非水電解液二次電池へのダメージを軽減することができる。
【0063】
また、ステップS2においては、過放電を過充電よりも過酷な条件で実施するとより好ましい。このときの過放電及び過充電の条件としては、例えば、上述の如く、過放電時と過充電時の総電荷量が同じ場合、過放電における放電容量を比較的大きく且つ1回の放電時間を比較的短くし、及び、過充電における充電容量を比較的小さく且つ1回の充電時間を比較的長くすることができる。より具体的には、過放電の条件を、前述した電圧(2V〜4.1V)、及び容量10Cで1回あたり10秒とし、過充電の条件を、前述した電圧(2V〜4.1V)、及び容量2.5Cで1回あたり40秒とし、過放電及び過充電を100サイクル繰り返す例が挙げられる。
【0064】
こうして過放電及び過充電を行うステップS2が実施されたリチウム二次電池100、及び、ステップS1におけるステップS11,S12の少なくもいずれか一方の判定が「No」であったリチウム二次電池100は、必要に応じて適宜の検査が行われた後、継続使用に供される(ステップS3)。
【0065】
このように構成されたリチウム二次電池100によれば、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が消費されてしまった正極へ、リチウム二次電池100における正極以外の部位(負極、セパレータ、及び、非水電解液の余剰液中)から、そこに残存しているビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を補給することができる。
【0066】
すなわち、まず、過放電と過充電を実施することにより、リチウム二次電池100における正極以外の他の部位の形状や性状が変化し、特に負極へのリチウムの出入りによって負極が膨張/収縮する傾向にあると推察される。そして、これにより、負極及び他の部位からビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を押し出すように移動させるポンピング作用が得られ、その結果、正極以外の部位に留まっていたビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が正極側へ移行(移動)するものと推量される(ただし、作用はそれらに限定されない。)。
【0067】
そして、これにより、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体が過度に消費されてしまった正極の非水電解液に対して、それらを外部から新たに供給することなく、正極以外の部位から補給することができるので、負極へのリチウム析出に対する抑制効果を長期に亘って維持することができ、且つ、材料コストが増大してしまうことを有効に防止することができる。
【0068】
また、過放電と過充電を複数回繰り返した場合、上述した特に負極によるポンピング作用が更に増進されるので、正極以外の部位に留まっていたビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の正極側への移動量を更に増大させることができる(作用はこれにも限定されない。)。これにより、材料コストの増大を更に抑えて経済性の悪化をより有効に防止することができる。さらに、正極へのビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の補給をより短時間に達成することができるので、作業効率を向上させて保守を容易ならしめることが可能となる。
【0069】
さらに、過放電を過充電よりも過酷な条件で実施するようにすれば、負極の体積膨張を一層増大させることが可能となり、その結果、負極の体積変化がより大きくなる傾向にある。よって、負極によるビフェニル及び/又はビフェニル誘導体のポンピング作用が更に一層強まる、つまり、言わば負極のポンプ機能をより増長させることができ、正極へのビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の補給量を一層増大させることができる。また、これにより、正極へのビフェニル及び/又はビフェニル誘導体の補給を更に短時間に実現することができるので、作業効率を更に向上させて保守容易性をより一層高めることが可能となる。
【実施例1】
【0070】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(比較例1)
図1及び図2に示すリチウム二次電池100と同等の構成を有し、且つ、非水電解液として、ビフェニル及びビフェニル誘導体の何れも含有しないものを比較例1として用意した。
【0072】
(実施例1〜4)
比較例1の非水電解液に代えて、比較例1の非水電解液にビフェニルを所定量添加した実施例1〜4の非水電解液を用いること以外は、比較例1と同様にして、実施例1〜4のリチウム二次電池100を作製した。なお、実施例1〜4の非水電解液において、非水電解液中のビフェニルの含有割合は、正極の空孔体積に対して、それぞれ1.0mmol/cc(実施例1)、2.0mmol/cc(実施例2)、5.0mmol/cc(実施例3)、及び、6.0mmol/cc(実施例4)とした。
【0073】
(実施例5〜8)
比較例1の非水電解液に代えて、比較例1の非水電解液にビフェニルを所定量添加した実施例5〜8の非水電解液を用いること以外は、比較例1と同様にして、実施例5〜8のリチウム二次電池100を作製した。なお、実施例5〜8の非水電解液において、非水電解液中のビフェニルの含有割合は、正極の空孔体積に対して1.0mmol/cc以上6.0mmol/cc未満の範囲内とし、さらに非水電解液の全体量に対して、それぞれ1.0wt%(実施例5)、2.0wt%(実施例6)、5.0wt%(実施例7)、及び、6.0wt%(実施例8)とした。
【0074】
(評価試験1)
実施例1、2、5及び6並びに比較例1のリチウム二次電池を車両に搭載し、その車両を、アクセルON/OFF回数=4000サイクル条件下で運転したときの容量維持率(運転後の容量/運転前の容量の百分率)を測定した。また、実施例1〜8及び比較例1のリチウム二次電池の電極間の抵抗を測定した。図4及び図6に容量維持率の測定結果を、図5及び図7に抵抗の測定結果を、ともに棒グラフで示す。同図中、符号E1〜E8がそれぞれ実施例1〜8の測定データを示し、符号R1が比較例1の測定データを示す。
【0075】
これらの結果より、比較例1のリチウム二次電池は、容量維持率が90%未満であったのに対し、実施例1、2、5、及び6のリチウム二次電池は、容量維持率が95%を超えて高く維持されることが確認された。また、実施例4及び8のリチウム二次電池では、抵抗が比較的大きく(2.60mΩ)なる傾向にあるものの、それ未満のビフェニル含有割合を有する実施例1〜3及び実施例5〜7のリチウム二次電池では、抵抗が十分に低く抑えられることが確認された。
【0076】
(実施例9及び10)
実施例1と同等の構成を有するリチウム二次電池を車両に搭載し、その車両を、負極にリチウムが過度に析出するような所定の耐久運転条件下で運転した後、そのリチウム二次電池に対して、異なる条件で過放電及び過充電を実施し、実施例9及び10のリチウム二次電池を得た。これらのうち実施例9においては、過放電及び過充電ともに、電圧2V〜4.1V及び容量1Cで1サイクル(1回ずつ)実施した。また、実施例10においては、過放電の条件を、電圧2V〜4.1V、及び容量10Cで1回あたり10秒とし、過充電の条件を、電圧2V〜4.1V、及び容量2.5Cで1回あたり40秒とし、それらの過放電及び過充電を交互に100サイクル繰り返した。
【0077】
(評価試験2)
図11及び図12は、それぞれ、実施例9及び10で得たリチウム二次電池におけるビフェニル含有割合の測定結果を示すグラフである。両図において、白抜きの棒グラフで示す値が、先述した図9及び図10におけるのと同様に、それぞれ、各リチウム二次電池を、正極、負極、セパレータ、及び、非水電解液の余剰液に分解し、それらの各部位におけるビフェニル含有割合を破壊分析して得られた値である。また、両図においては、実施例9及び10と同等の構成を有し且つ同じ耐久運転条件下で運転したリチウム二次電池に対して過放電及び過充電を実施することなく、同様に破壊分析して得られたビフェニル含有割合の測定値を、斜線を付した棒グラフで併せて示す(つまり、それらの値は、実施例9及び10のリチウム二次電池に過放電及び過充電を実施する前のビフェニル含有割合に相当し、図10に対応する。)。
【0078】
図11及び図12に示す結果より、過放電と過充電を同条件で実施した実施例9のリチウム二次電池、及び、過放電を過充電よりも過酷な条件で実施した実施例10のリチウム二次電池ともに、負極、セパレータ、及び余剰液から、正極に対してビフェニルが供給されていることが確認された。換言すれば、本発明によれば、正極の非水電解液にビフェニルが補給されて再生されたリチウム二次電池が得られることが確認された。
【0079】
また、正極におけるビフェニルの含有割合(正極以外の部位からのビフェニルの供給量)は、実施例10のリチウム二次電池の方が実施例9のリチウム二次電池よりも多いことも判明した。このことから、過放電を過充電よりも過酷な条件で実施することの優位性が理解される。
【0080】
なお、上述したとおり、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、リチウム二次電池100は、角筒形ではなく円筒形であってもよい。また、図8に示す実施形態のステップS1において、リチウム二次電池100の負極にリチウムが析出したか否かを判断するのに、抵抗R及び電池容量Cを判定パラメータとして用いたが、それらに代えて又は加えて、所定の走行距離を判定基準として定め、その走行距離基準値を超えた場合に、リチウム二次電池100の負極にリチウムが析出したと推定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したとおり、本発明は、車両の運転に伴う経時的な電池容量の低下を抑止することができ、車両駆動出力や補機等への電力供給を十分に高く維持することが可能な非水電解液二次電池を提供することができるので、例えば、図3に模式的に示す如く、リチウム二次電池を車両駆動用電源として備える車両(特に、上述したような負荷急変事象が生じ得る車両)、及び、それらの製造等に広く且つ有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 車両
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート
32 正極集電体
34 正極活物質層
36 正極活物質層非形成部
37 正極集電端子
38 外部正極集電端子
40 負極シート
42 負極集電体
44 負極活物質層
46 負極活物質層非形成部
47 負極集電端子
48 外部負極集電端子
50 セパレータ
100 リチウム二次電池(非水電解液二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、該車両を駆動するための電源として用いられる非水電解液二次電池であって、
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水溶媒中にリチウム塩を含む非水電解液とを備えており、
前記非水電解液は、前記正極の空孔体積に対して1.0mmol/cc以上の含有割合で、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を含むものである、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記非水電解液は、前記正極の空孔体積に対して6.0mmol/cc未満の含有割合で、ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を含むものである、
請求項1記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記非水電解液は、前記非水電解液の全体量に対して1.0wt%以上6.0wt%未満の含有割合で、前記ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を含むものである、
請求項1又は2記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
当該非水電解液二次電池は、前記車両の運転において前記負極にリチウムの析出を伴う可能性のある所定の負荷急変事象が生じたときに、回生エネルギーの一部によって前記ビフェニル及び/又はビフェニル誘導体を分解せしめることにより、前記リチウムの析出を抑制するように構成されたものである、
請求項1〜3のいずれか一項記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記所定の負荷急変事象が、前記車両のアクセルのON/OFF、又は、前記車両のタイヤに生じるスリップグリップである、
請求項4記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
当該非水電解液二次電池は、前記車両の運転において前記負極にリチウムが析出したことを検知又は推定したときに、過放電及び過充電を少なくとも1回実施するように構成されたものである、
請求項1〜5のいずれか一項記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−69659(P2013−69659A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46915(P2012−46915)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】