説明

非水電解液電池

【課題】電池異常時の安全性を確保し高率放電時の容量低下を抑制することができる非水電解液電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池20は、電池容器7に電極群6が収容されている。電極群6は、正極板と負極板とがセパレータW5を介して捲回されている。正極板は正極集電体のアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質を含む正極合剤層W2が形成されている。正極合剤層W2の表面には、難燃化剤を含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤の正極合剤に対する割合は8wt%以下に設定されている。負極板は負極集電体の圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質を含む負極合剤層W4が形成されている。高率放電時にリチウムイオンの移動抵抗が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液電池に係り、特に、活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液が水溶液系である二次電池としては、アルカリ蓄電池や鉛蓄電池等が知られている。これらの水溶液系二次電池に代わり、小型、軽量かつ高エネルギー密度であり、リチウム二次電池に代表される非水電解液電池が普及している。非水電解液電池に用いられる電解液には、ジメチルエーテル等の有機溶媒が含まれている。有機溶媒が可燃性を有するため、短絡等の電池異常時や火中投下時に電池温度が上昇した場合には、電池構成材料の燃焼や活物質の熱分解反応により電池挙動が激しくなるおそれがある。
【0003】
このような事態を回避し電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。例えば、非水電解液に難燃化剤(難燃性付与物質)を溶解させて非水電解液を難燃化する技術(特許文献1参照)が開示されている。また、本出願人らは、正極板、負極板あるいはセパレータに難燃化剤層を形成させる技術(特許文献2参照)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】WO/2010/101180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、難燃化剤を含有させた非水電解液を難燃化させることができるものの、難燃化剤により、非水電解液電池内におけるリチウムイオンの移動抵抗が増大することが考えられる。特に、大容量非水電解液電池のように大型化するほど、難燃化剤によるリチウムイオンの移動抵抗は大きくなり、高率放電容量の低下の影響が大きく問題となる。また、特許文献2の技術では、難燃化剤層が形成された正極板、負極板あるいはセパレータ等の電池構成材料を難燃化することができるものの、リチウムイオンの移動性を考えれば、高率放電時の容量を十分に確保できるとはいえない。
【0006】
本発明は上記事案に鑑み、電池異常時の安全性を確保し高率放電時の容量低下を抑制することができる非水電解液電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記非水電解液電池の設計容量が4Ah以上であり、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤を含む難燃化剤層が配されており、前記難燃化剤の前記正極合剤に対する割合が8質量%以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明において、難燃化剤層がリチウムイオン透過性を有することが好ましい。このとき、難燃化剤層が多孔化されていてもよい。また、難燃化剤が80℃以下の温度環境で固体であることが好ましい。このような難燃化剤をホスファゼン化合物とすることができる。また、難燃化剤層は、難燃化剤が正極合剤に対して1質量%以上の割合で含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤を含む難燃化剤層を配したことで、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤が分解するため、電池挙動を穏やかにし安全性を確保できると共に、難燃化剤の正極合剤に対する割合を8質量%以下とすることで、充放電時に正負極板間のリチウムイオンの移動抵抗が低減するので、設計容量が4Ah以上の非水電解液電池において高率放電時の容量低下を抑制することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した実施形態の円筒形リチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】実施例および比較例における設計容量4Ahのリチウムイオン二次電池について、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合と、高率放電時の放電容量との関係を示すグラフである。
【図3】実施例および比較例における設計容量90Ahのリチウムイオン二次電池について、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合と、高率放電時の放電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を設計容量が4Ahの円筒形リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の円筒形リチウムイオン二次電池20は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器7を有している。電池容器7には、帯状の正負極板がセパレータを介して断面渦巻状に捲回された電極群6が収容されている。
【0013】
電極群6の捲回中心には、ポリプロピレン樹脂製で中空円筒状の軸芯1が使用されている。電極群6の上側には、軸芯1のほぼ延長線上に正極板からの電位を集電するための円環状導体の正極集電リング4が配置されている。正極集電リング4は、軸芯1の上端部に固定されている。正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周縁には、正極板から導出された正極リード片2の端部が超音波溶接で接合されている。正極集電リング4の上方には、安全弁を内蔵し正極外部端子となる円盤状の電池蓋11が配置されている。正極集電リング4の上部は、導体リードを介して電池蓋11に接続されている。
【0014】
一方、電極群6の下側には負極板からの電位を集電するための円環状導体の負極集電リング5が配置されている。負極集電リング5の内周面には軸芯1の下端部外周面が固定されている。負極集電リング5の外周縁には、負極板から導出された負極リード片3の端部が溶接で接合されている。負極集電リング5の下部は、導体リードを介して電池容器7の内底部に接続されている。電池容器7の寸法は、本例では、外径40mm、内径39mmに設定されている。
【0015】
電池蓋11は、絶縁性および耐熱性のEPDM樹脂製ガスケット10を介して電池容器7の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。また、電池容器7には、非水電解液が注液されている。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解したものが用いられている。なお、リチウムイオン二次電池20は、所定電圧および電流で初充電を行うことで、電池機能が付与される。
【0016】
電極群6は、正極板と負極板とが、これらの両極板が直接接触しないように、リチウムイオンが通過可能なポリエチレン製セパレータW5を介し、軸芯1の周囲に捲回されている。セパレータW5の厚さは、本例では、30μmに設定されている。正極リード片2と負極リード片3とが、それぞれ電極群6の互いに反対側の両端面に配置されている。下表1に示すように、電極群6の直径は、電池の設計容量によって異なり、正極板、負極板、セパレータW5の長さを調整することで調整される。本例では、電極群6の直径は38mmに設定されている。電極群6および正極集電リング4の鍔部周面全周には、電極群6と電池容器7との電気的接触を防止するために絶縁被覆が施されている。絶縁被覆には、ポリイミド製の基材の片面にヘキサメタアクリレートの粘着剤が塗布された粘着テープが用いられている。粘着テープは鍔部周面から電極群6の外周面に亘って一重以上巻かれている。電極群6の最大径部が絶縁被覆存在部となるように捲き数が調整され、該最大径が電池容器7の内径より僅かに小さく設定されている。
【0017】
【表1】

【0018】
電極群6を構成する正極板は、正極集電体としてアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の厚さは、本例では、20μmに設定されている。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤が実質的に均等かつ均質に塗着され正極合剤層W2が形成されている。すなわち、形成された正極合剤層W2の厚さがほぼ一様であり、かつ、正極合剤層W2内では正極合剤がほぼ一様に分散されている。リチウム遷移金属複合酸化物には、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかが用いられている。正極合剤には、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の85wt%に対して、導電材として鱗片状黒鉛の8wt%およびアセチレンブラックの2wt%と、バインダ(結着材)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)の5wt%と、が配合されている。アルミニウム箔W1に正極合剤を塗着するときには、分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)が用いられる。アルミニウム箔W1の長寸方向一側の側縁には、幅30mmの正極合剤の無塗着部が形成されている。無塗着部は櫛状に切り欠かれており、切り欠き残部で正極リード片2が形成されている。隣り合う正極リード片2の間隔が20mm、正極リード片2の幅が5mmに設定されている。正極板は、乾燥後プレス加工され、幅80mmに裁断されている(表1参照)。
【0019】
また、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面には、難燃化剤を含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤層W6は、リチウムイオン透過性を有するように、造孔剤(孔形成剤)を配合することで多孔化されている。難燃化剤には、リンおよび窒素を基本骨格とするホスファゼン化合物が用いられている。難燃化剤の配合割合は、本例では、正極合剤に対して8wt%以下に設定されている。また、造孔剤には酸化アルミニウムが用いられている。酸化アルミニウムの配合割合は、難燃化剤層W6に形成する多孔の割合に合わせて調整することができる。この難燃化剤層W6は、次のようにして形成された
ものである。すなわち、ホスファゼン化合物とバインダのPVDFとを溶解させたNMP溶液に酸化アルミニウムを分散させる。得られた分散溶液を正極合剤層W2の表面に塗布し、乾燥後、プレス処理を施すことで正極板全体の厚さを調整する。
【0020】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。置換基の種類により固体または液体となるが、本例では、80℃以下の温度環境で固体のホスファゼン化合物が用いられている。また、これらのホスファゼン化合物は、それぞれ所定温度で分解するものである。
【0021】
一方、負極板は、負極集電体として圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の厚さは、本例では、10μmに設定されている。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む負極合剤が、正極板と同様に実質的に均等かつ均質に塗着され負極合剤層W4が形成されている。負極活物質の炭素材には、本例では、非晶質炭素粉末が用いられている。負極合剤には、例えば、非晶質炭素粉末の90wt%に対して、バインダとしてPVDFの10wt%が配合されている。圧延銅箔W3に負極合剤を塗着するときには、分散溶媒のNMPが用いられる。圧延銅箔W3の長寸方向一側の側縁には、正極板と同様に幅30mmの負極合剤の無塗着部が形成されており、負極リード片3が形成されている。隣り合う負極リード片3の間隔が20mm、負極リード片3の幅が5mmに設定されている。負極板は、乾燥後、プレス加工され、幅86mmに裁断されている(表1参照)。なお、負極板の長さは、正極板および負極板を捲回したときに、捲回最内周および最外周で捲回方向に正極板が負極板からはみ出すことがないように、正極板の長さより120mm長く設定されている。また、負極合剤層W4(合剤塗布部)の幅は、捲回方向と垂直方向において正極合剤層W2が負極合剤層W4からはみ出すことがないように、正極合剤層W2の幅より6mm長く設定されている。
【実施例】
【0022】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0023】
(実施例1)
実施例1では、設計容量が4Ahのリチウムイオン二次電池20を作製した。すなわち、難燃化剤のホスファゼン化合物(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、固体状、分解温度250℃以上)とPVDFとを溶解させたNMP溶液に酸化アルミニウムを分散させ分散溶液を調製した。この分散溶液を正極合剤層W2の表面に塗布した。このとき、分散溶液の塗布量を調整することで、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合を調整した。下表2に示すように、実施例1では、難燃化剤の配合割合を1wt%に調整した。また、設計容量が20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20についても、各設計容量に対応するように電極群6の直径を調整し(表1参照)、同様の手順でそれぞれ作製した。
【0024】
【表2】

【0025】
(実施例2〜実施例6)
表2に示すように、実施例2〜実施例6では、難燃化剤の配合割合を変える以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20をそれぞれ作製した。すなわち、難燃化剤の配合割合は、実施例2では2wt%、実施例3では3wt%、実施例4では5wt%、実施例5では6wt%、実施例6では8wt%にそれぞれ調整した。
【0026】
(比較例1〜比較例3)
表2に示すように、比較例1では、正極合剤層の表面に難燃化剤層を形成しない以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。また、比較例2および比較例3では、難燃化剤を8wt%を超える配合割合としたこと以外は実施例1と同様にして、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。すなわち、難燃化剤の配合割合を、比較例2では10wt%、比較例3では15wt%にそれぞれ調整した。
【0027】
(試験1)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池のうち、設計容量が4Ahおよび90Ahのリチウムイオン二次電池についてそれぞれ放電試験を行い、放電容量を評価した。放電試験は、0.2CA、5CAおよび10CAの放電電流で3.0Vまでの放電容量を測定した。正極合剤に対する難燃化剤の割合と、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量を100%としたときの、実施例1〜6および比較例2、3の放電容量比との関係を、設計容量毎に、図2および図3のグラフにそれぞれ示す。
【0028】
図2、図3に示すように、0.2CAの放電電流で放電容量を測定した場合、難燃化剤層が形成された実施例1〜6および比較例2、3では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が90%以上を示し、固体難燃化剤量が増加しても放電容量が維持された。これは、難燃化剤層が多孔化されて形成されたことで、充放電時にリチウムイオンが正負極板間を十分に移動でき、電池性能が確保されたためと考えられる。
【0029】
これに対して、5CAの放電電流で放電容量を測定した場合、固体難燃化剤量が8wt%以下の実施例1〜6のリチウムイオン二次電池では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が80%以上を示したが、固体難燃化剤量が8wt%を超える比較例2、3では、放電容量比が70%以下を示した。また、10CAの放電電流で放電容量を測定した場合、固体難燃化剤量が5wt%以下の実施例1〜4のリチウムイオン二次電池では、設計容量が4Ahおよび90Ahのいずれについても放電容量比が85%以上を示したが、固体難燃化剤量が6wt%以上の実施例5、6のリチウムイオン二次電池では、固体難燃化剤量が増加するにつれ放電容量比が次第に減少した。さらに、固体難燃化剤量が10wt%以上の比較例2、3のリチウムイオン二次電池では、放電容量比が25%以下となり、大幅に減少した。このことから、固体難燃化剤量が同じ場合、放電電流が大きいほどリチウムイオンの移動抵抗が大きくなることが判った。これは、固体難燃化剤が高率放電のような速い反応に対して正負極板間のリチウムイオンの移動抵抗となるため、放電容量比が低下したものと考えられる。
【0030】
また、リチウムイオン二次電池の設計容量の違いを考えると、設計容量4Ahのものと比較して設計容量90Ahのものでは、放電電流を大きくするほど、容量低下の大きくなることが判った。さらに、設計容量20Ah、50Ahのリチウムイオン二次電池についても同様の結果を示し、設計容量4Ahのものと90Ahのものとの中間的な結果となることを確認している。従って、固体難燃化剤量を8wt%以下とすることで、設計容量が4Ah以上の非水電解液電池において高率放電時の容量低下を抑制することが期待できる。
【0031】
(試験2)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い、電池表面の破裂・発火の有無を確認した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5CAの電流値で充電し続けた。過充電における破裂・発火の有無を下表3に示す。なお、表3において、矢印を表記した欄は、その上の欄と同じ結果であることを示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3に示すように、難燃化剤層が形成されていない比較例1の電池では、いずれの設計容量の電池においても、過充電試験により破裂・発火が認められた。これに対して、難燃化剤層が形成された実施例1〜6および比較例2、3の電池のうち、設計容量が4Ahの電池では、固体難燃化剤量が1wt%以上含まれれば、破裂・発火しないことが確認された。また、設計容量が20Ahおよび50Ahの電池では、固体難燃化剤量が2wt%以上、設計容量が90Ahの電池では、固体難燃化剤量が3wt%以上含まれれば、破裂・発火しないことが確認された。この結果から、過充電試験における安全性を確保するためには、設計容量が大きい電池ほど固体難燃化剤量が多く必要になることが判明した。これは、設計容量の大きい電池ほど、充放電時にエネルギーが大きく、放熱性が悪化するためと考えられる。
【0034】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0035】
本実施形態では、電極群6を構成する正極板の正極合剤層W2の表面に、難燃化剤としてホスファゼン化合物が含有された難燃化剤層W6が形成されている。このホスファゼン化合物は、電池異常時等の高温環境下の所定温度で分解する。難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されることで、ホスファゼン化合物が正極活物質の近傍に存在することとなる。このため、リチウムイオン二次電池20が異常な高温環境下に曝されたときや電池異常が生じたときに、正極活物質の熱分解反応やその連鎖反応で電池温度が上昇すると、ホスファゼン化合物が分解する。これにより、電池構成材料の燃焼が抑制されるため、リチウムイオン二次電池20の電池挙動を穏やかにし、安全性を確保することができる。
【0036】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6に含まれる難燃化剤を正極合剤に対して8質量%以下に設定した。また、難燃化剤層W6はリチウムイオン透過性を有し、多孔化されている。このため、通常の電池使用時(充放電)時に正負極板間のリチウムイオンの移動抵抗が低減し、リチウムイオンが正負極板間を十分に移動することができる。従って、大型(設計容量が4Ah以上)の非水電解液電池において、電池性能を確保することができ、高率放電時の容量低下を抑制することができる。更に、難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されているため、正極合剤層W2では、電極反応を生じさせる正極活物質の配合割合が確保されるので、リチウムイオン二次電池20の容量や出力を確保することができる。
【0037】
更に、本実施形態では、難燃化剤として80℃以下の温度環境で固体のホスファゼン化合物が用いられている。このため、通常の電池使用時にはホスファゼン化合物が固体の状態で難燃化剤層W6として保持され、非水電解液中に溶出することがないので、リチウムイオン二次電池20の電池性能を確保することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、設計容量が4Ah、20Ah、50Ah、90Ahのリチウムイオン二次電池20をそれぞれ例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、設計容量が90Ahを超える電池において、過充電試験における安全性を確保することを考慮すれば難燃化剤の配合割合が3wt%以上に制限されるものの、難燃化剤の配合割合を8wt%以下とすることで、高率放電時の容量低下を抑制することが期待できる。
【0039】
また、本実施形態では、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面に難燃化剤層W6を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、負極板やセパレータW5に形成するようにしてもよい。すなわち、難燃化剤層W6が、正極板、負極板およびセパレータW5の少なくとも1つの片面または両面に形成されていればよい。更に、本実施形態では、バインダとしてPVDFを用いて難燃化剤層W6を形成させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、難燃化剤層W6を形成可能であればいかなるバインダを用いてもよい。
【0040】
更に、本実施形態では、難燃化剤層W6の形成時に、造孔剤として酸化アルミニウムを配合する例を示したが、本発明は、用いる造孔剤に制限されるものではない。また、本実施形態では、難燃化剤層W6が多孔化されている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、通常の充放電時にリチウムイオンが通過可能であれば、難燃化剤層W6が多孔化されていなくてもよい。
【0041】
また更に、本実施形態では、難燃化剤層W6に含まれる難燃化剤の正極合剤に対する割合を1wt%以上に設定する例を示した(実施例1〜実施例6)。難燃化剤の配合割合が1wt%に満たないと熱分解反応による温度上昇を抑制することが難しくなり、反対に、難燃化剤の配合割合が8wt%超えると、リチウムイオン移動抵抗が大きくなり、高率放電時の容量や出力を低下させることとなる。難燃化剤の配合割合が増加するほど、高率放電時の容量が低下することを考慮すれば、難燃化剤の配合割合を1〜8wt%の範囲とすることが好ましい。また、過充電時における安全性の確保を考慮すれば、設計容量が20Ah以上の電池では固体難燃化剤量が2wt%以上、設計容量が90Ah以上の電池では固体難燃化剤量が3wt%以上含まれることが好ましい。
【0042】
更にまた、本実施形態では、難燃化剤としてホスファゼン化合物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所定温度で分解し活物質の熱分解反応やその連鎖反応による温度上昇を抑制することができるものであればよい。また、ホスファゼン化合物についても本実施形態で例示した化合物以外の化合物を用いることも可能である。
【0043】
また、本実施形態では、設計容量が4Ahの円筒形リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容量が4Ahを超える大型のリチウムイオン二次電池に適用することができる。また、本実施形態では、正極板、負極板を捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。更に、電池形状についても、円筒形以外に角型等としてもよいことはもちろんである。また、正極活物質や負極活物質の種類、非水電解液の組成等についても特に制限されるものではない。
【0044】
更に、本実施形態では、有底円筒状の電池容器7を用いたリチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、無底円筒状の電池容器を用いてもよい。電池容器に無底円筒状のものを用いた場合、2つの開口を2つの蓋体で封止すればよい。このとき、2つの蓋体の中心に穴を形成し、正極外部端子および負極外部端子を構成する2本の極柱をそれぞれ2つの蓋体の穴に嵌め込み軸芯に挿入してもよい。
【0045】
また更に、本実施形態では、正極活物質に、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかを用いる例を示したが、本発明で用いることのできる正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物であればよい。また、本発明はリチウムイオン二次電池に制限されるものではなく、非水電解液を用いた非水電解液電池に適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は電池異常時の安全性を確保し高率放電時の容量低下を抑制することができる非水電解液電池を提供するため、非水電解液電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0047】
W1 アルミニウム箔(集電体)
W2 正極合剤層
W3 圧延銅箔(集電体)
W4 負極合剤層
W5 セパレータ
W6 難燃化剤層
6 電極群
20 円筒形リチウムイオン二次電池(非水電解液電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記非水電解液電池の設計容量が4Ah以上であり、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤を含む難燃化剤層が配されており、前記難燃化剤の前記正極合剤に対する割合が8質量%以下であることを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
前記難燃化剤層はリチウムイオン透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記難燃化剤層は多孔化されていることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記難燃化剤は80℃以下の温度環境で固体であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記難燃化剤はホスファゼン化合物であることを特徴とする請求項4に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記難燃化剤層は、前記難燃化剤が前記正極合剤に対して1質量%以上の割合で含有されたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54891(P2013−54891A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192038(P2011−192038)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】