説明

非水電解質二次電池およびその充電方法

【課題】スズを含む材料を電極に用いた非水電解質二次電池において、充放電サイクルに伴う容量低下を小さくすることが可能な非水電解質二次電池とその充電方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池は、金属スズを電極に用いた非水電解質二次電池であって、充電時における電極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には非水電解質二次電池およびその充電方法に関し、特定的には、スズ(Sn)を電極に用いた非水電解質二次電池およびその充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯用電子機器の市場拡大に伴い、これら電子機器のコードレス電源としてエネルギー密度が大きく長寿命の二次電池が待望されている。そして、このような要求に応えるべく、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体とし、その電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。その中でも、エネルギー密度の大きなリチウムイオン二次電池は広く普及している。
【0003】
上記のリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物が使用されている。また、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料が使用されている。
【0004】
ところで、携帯用電子機器の機能が多くなるに伴って、その消費電力が著しく増加している。この消費電力の増大に対応するために大容量のリチウムイオン二次電池が必要になってきている。しかしながら、上記のように負極活物質として炭素材料を用いている限り、リチウムイオン二次電池の大容量化には限界がある。
【0005】
そこで、炭素の約2.7倍の理論エネルギー密度を有するスズ(Sn)またはスズ合金が負極活物質として検討されている。
【0006】
たとえば、特開2008−41347号公報(以下、特許文献1という)では、Cu箔またはCu合金箔からなる負極集電体の表面にSnめっきを施した後、所定の熱処理を施してSnめっきをCu−Sn合金化することにより、Cu−Sn合金層を形成してリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−41347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で作製されたCu−Sn合金層を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、0.01〜1Vの範囲で充放電試験が行われている。しかしながら、充放電サイクルに伴う容量低下が大きくなるという問題がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、スズ(Sn)を含む材料を電極に用いた非水電解質二次電池において、充放電サイクルに伴う容量低下を小さくすることが可能な非水電解質二次電池とその充電方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者は、Snを含む材料からなる電極を使用する場合、上記の電極の電位がLi/Li基準で0〜0.2V未満で、Snの剥離と脆化が急激に起こることが考えられ、0.2V以上の電位で充放電を繰り返すことにより、Snの剥離と脆化を抑制することができ、充放電サイクルによる容量低下を小さくすることができることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従った非水電解質二次電池は、次のような特徴を備えている。
【0011】
本発明に従った非水電解質二次電池は、金属スズを電極に用いた非水電解質二次電池であって、充電時における電極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である。
【0012】
また、本発明に従った非水電解質二次電池は、リチウムを含む物質を正極、金属スズを負極に用いた非水電解質二次電池であって、充電時における負極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である。
【0013】
本発明の非水電解質二次電池では、充電時の電位が0.2V以上であるので、充放電を繰り返しても、Snの剥離と脆化を抑制することができる。これにより、充放電サイクルによる容量低下を小さくすることができる。
【0014】
本発明の非水電解質二次電池において、リチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いることが好ましい。
【0015】
上記の場合、リチウム遷移金属複合酸化物が組成式Li1+αNiMnCoMeβ(ただし、α、β、x、yおよびzは−1<α≦0.5、0≦β<0.3、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たし、MeはNi、Mn、Co以外の金属元素である)で表わされる層状岩塩構造を有する材料であることが好ましい。
【0016】
上記の場合、充電時における電池電圧が4.1V以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池において、負極が、リチウムと合金化しない金属箔上に形成された金属スズであることが好ましい。
【0018】
上記の場合、負極が、銅箔上に形成された、密度が6g/cm以上である金属スズであることが好ましい。
【0019】
本発明に従った非水電解質二次電池の充電方法は、リチウムを含む物質を正極、金属スズを負極に用いた非水電解質二次電池の充電方法であって、充電時における負極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である。
【0020】
本発明の非水電解質二次電池の充電方法において、リチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いることが好ましい。なお、リチウム遷移金属複合酸化物が組成式Li1+αNiMnCoMeβ(ただし、α、β、x、yおよびzは−1<α≦0.5、0≦β<0.3、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たし、MeはNi、Mn、Co以外の金属元素である)で表わされる層状岩塩構造を有する材料を用いた場合、充電時における電池電圧が4.1V以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Snを含む材料を電極に用いた非水電解質二次電池において、充放電サイクルに伴う容量低下を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一つの実施の形態としてのコイン型非水電解質二次電池、ならびに本発明の実施例1〜5および比較例1で作製されたコイン型非水電解質二次電池を示す図である。
【図2】本発明の実施例1〜2と比較例1で作製されたコイン型非水電解質二次電池の充放電サイクル試験の結果として充電容量と放電容量の変化を示す図である。
【図3】本発明の実施例3〜5で作製されたコイン型非水電解質二次電池の充放電サイクル試験の結果として放電容量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の非水電解質二次電池で用いられる電極(負極)は、リチウムと合金化しない金属箔上に形成された金属スズの一例としてスズの金属膜であることが好ましい。この場合、リチウムと合金化しない金属箔としては、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などを挙げることができる。リチウムと合金化しない金属箔として銅箔を用いる場合、スズの金属膜の密度が6g/cm以上であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の非水電解質二次電池では、充電時における電極(負極)の電位がLi/Li基準で0.2V以上である。このため、充放電を繰り返しても、Snの剥離と脆化を抑制することができる。これにより、充放電サイクルによる容量低下を小さくすることができる。
【0025】
さらに、本発明の非水電解質二次電池では、リチウムを含む物質を正極、金属スズを負極に用いることが好ましい。また、リチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いることが好ましい。さらに、リチウム遷移金属複合酸化物が組成式Li1+αNiMnCoMeβ(ただし、α、β、x、yおよびzは−1<α≦0.5、0≦β<0.3、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たし、MeはNi、Mn、Co以外の金属元素である)で表わされる層状岩塩構造を有する材料を用いた場合、電池電圧が4.1V以下であることが好ましい。この場合、充放電を繰り返しても、Snの剥離と脆化を抑制することができ、さらに正極の劣化を抑制することが可能となる。これにより、充放電サイクルによる容量低下を小さくすることができる。
【0026】
次に、本発明の金属スズを負極に用いた場合の非水電解質二次電池の製造方法の一例を以下で詳細に説明する。
【0027】
まず、負極を形成する。たとえば、銅箔上にスズめっき膜を形成することにより、負極を形成する。
【0028】
次に、正極を形成する。例えば、正極活物質を導電助剤、及び結合剤と共に混合し、有機溶剤または水を加えて正極活物質スラリーとし、該正極活物質スラリーを電極集電体上に任意の塗工方法で塗工し、乾燥することにより正極を形成する。
【0029】
本発明において、正極活物質は特に限定されるものではなく、コバルト酸リチウム複合酸化物(LCO)、マンガン酸リチウム複合酸化物(LMO)、ニッケル酸リチウム複合酸化物(LNO)、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物(LNMCO)、リチウム−マンガン−ニッケル複合酸化物(LMNO)、リチウム−マンガン−コバルト複合酸化物(LMCO)、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物(LNCO)等のリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。たとえば、正極活物質として、組成式Li1+αNiMnCoMeβ(ただし、α、β、x、yおよびzは−1<α≦0.5、0≦β<0.3、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たし、MeはNi、Mn、Co以外の金属元素である)で表わされるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。さらに、正極活物質は、上記の材料を混合したものでもよい。正極活物質は、LiFePOといったオリビン系材料でもよい。
【0030】
本発明において結合剤は特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の各種樹脂を使用することができる。
【0031】
また、有機溶剤についても、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒等を使用することができる。また、有機溶剤の種類、有機化合物と有機溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量等は、二次電池の要求特性や生産性等を考慮し、任意に設定することができる。
【0032】
次いで、図1に示すように、上記で得られた正極14を電解質に含浸させることにより、この正極14に電解質を染み込ませた後、正極端子を兼ねたケース11の底部中央の正極集電体上に正極14を載置する。その後、電解質を含浸させたセパレータ16を正極14上に積層し、さらに負極15と集電板17を順次積層し、内部空間に電解質を注入する。そして、集電板17上に金属製のばね部材18を載置すると共に、ガスケット13を周縁に配し、かしめ機等で負極端子を兼ねた封口板12をケース11に固着して外装封止することによってコイン型非水電解質二次電池1が作製される。
【0033】
なお、電解質は、正極14と対向電極である負極15との間に介在して両電極間の荷電担体輸送を行う。このような電解質としては、室温で10−5〜10−1S/cmのイオン伝導度を有するものを使用することができる。例えば、電解質塩を有機溶剤に溶解させた電解液を使用することができる。ここで、電解質塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiCFSO、Li(CFSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CFSOC、Li(CSOC等を単独で用いることができ、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記の有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を使用することができる。
【0035】
また、電解質には、固体電解質を使用してもよい。固体電解質に用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等を挙げることができる。また、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを電解質として使用してもよい。あるいは電解質塩を含有させた高分子化合物のみをそのまま電解質に使用してもよい。なお、電解質として、LiS−P系、LiS−B系、LiS−SiS系に代表される硫化物ガラスなどの無機固体電解質を用いてもよい。
【0036】
セパレータとしては、特に限定されるべきものではなく、従来から公知のものを用いることができる。なお、本発明においては、セパレータは、その名称によって限定されるべきものではなく、セパレータの代わりにセパレータとしての機能(役割)を有するような固体電解質やゲル状電解質を用いてもよい。また、アルミナやジルコニアなどの無機材料を含有させたセパレータを用いてもよい。
【0037】
上記の実施の形態では、コイン型二次電池について説明したが、電池形状は特に限定されるものでないのはいうまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフイルム等を使用してもよい。
【0038】
なお、本発明でいう「非水電解質二次電池」は、電圧を検出する機構や充放電を制御する機能を設けた電池パック、充放電を制御する機能を搭載した充電器等を含めた電池システムも意味する。
【0039】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
以下、金属スズを電極(負極)に用いたコイン型非水電解質二次電池の実施例1〜5と比較例1について説明する。
【0041】
(実施例1)
金属スズを電極(負極)として用いて、図1に示すようなコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
図1に示すように、コイン型非水電解質二次電池1は、正極端子を兼ねたケース11と、負極端子を兼ねた封口板12と、ケース11と封口板12とを絶縁するガスケット13と、正極14と、負極15と、正極14と負極15との間に介在したセパレータ16と、負極15の上に配置された集電板17と、集電板17と封口板12との間に配置されたばね部材18とから構成され、ケース11の内部には電解液が充填されている。
【0043】
具体的には、電解めっきにより、厚みが10μmの銅箔上にスズめっき膜を5μmの厚みで形成した。この銅箔を直径14mmの円形に打ち抜くことにより、負極(評価用電極)15を作製した。正極(対極)14には金属リチウムを用いた。電解液としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを重量比で3:7で混合した溶媒に、溶媒1リットル当り1モルの6フッ化燐酸リチウムを溶解した有機電解液を用いた。セパレータ16としてポリエチレン多孔膜を用いた。このようにして、直径が20mm、厚みが3.2mmのコイン型非水電解質二次電池1を作製した。
【0044】
以上のようにして作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。具体的には、0.1mAの電流値で、0.2Vから1.0Vの電圧範囲で1回充放電を行い、安定化させた後、0.2mAの電流値で、0.2Vから1.0Vの電圧範囲で充放電を10回繰り返してサイクル試験を行った。なお、ここでは、負極15の材料として用いられたスズめっき膜に対してリチウムを挿入することによって電池電圧が低下する場合を充電と定義した。
【0045】
図2に示すように、このサイクル試験の結果、初回の充電容量がスズ(Sn)の重量当たり559mAh/g、初回の放電容量がSnの重量当たり558mAh/gであり、10回目の充電容量がSnの重量当たり564mAh/g、10回目の放電容量がSnの重量当たり554mAh/gであることがわかる。したがって、容量低下が少ない良好な充放電サイクル性能が得られた。
【0046】
また、Snめっき膜の密度は6.5g/cmであった。この値から算出されるSnの体積当たりの充放電容量は、初回の充電容量が3634mAh/cm、初回の放電容量が3627mAh/cmと高い値を示した。
【0047】
以上のことから、本発明の実施例1として作製されたコイン型非水電解質二次電池1では、充放電サイクルによる容量低下を抑制できることがわかる。
【0048】
(実施例2)
充放電サイクル試験時の充放電範囲を0.3Vから1.0Vとした以外は、実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池1を作製し、作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。
【0049】
図2に示すように、このサイクル試験の結果、初回の充電容量がSnの重量当たり521mAh/g、初回の放電容量がSnの重量当たり515mAh/gであり、10回目の充電容量がSnの重量当たり525mAh/g、10回目の放電容量がSnの重量当たり510mAh/gであることがわかる。したがって、容量低下が少ない良好な充放電サイクル性能が得られた。
【0050】
また、Snめっき膜の密度は6.5g/cmであった。この値から算出されるSnの体積当たりの充放電容量は、初回の充電容量が3387mAh/cm、初回の放電容量が3348mAh/cmと高い値を示した。
【0051】
以上のことから、本発明の実施例2として作製されたコイン型非水電解質二次電池1では、充放電サイクルによる容量低下を抑制できることがわかる。
【0052】
(比較例1)
充放電サイクル試験時の充放電範囲を0.1Vから1.0Vとした以外は、実施例1と同様にしてコイン型非水電解質二次電池1を作製し、作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。
【0053】
図2に示すように、このサイクル試験の結果、実施例1、2と比較して、初回の充電容量がSnの重量当たり680mAh/gと増加したが、初回の放電容量がSnの重量当たり430mAh/gであり、3回目の充電容量がSnの重量当たり208mAh/g、3回目の放電容量がSnの重量当たり88mAh/gと大きく容量が低下した。
【0054】
(実施例3)
電解メッキにより厚みが10μmの銅箔上にスズめっき膜を6μmの厚みで形成した。この銅箔を直径14mmの円形に打ち抜くことにより、負極15を作製した。
【0055】
正極14は以下のようにして作製した。まず、Li(Ni0.8Co0.2)Oで示されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを重量比で85:7.5:7.5となるように秤量し、これらとNメチルピロリドンとを、回転羽根式撹拌装置を用いて混合して電極スラリーを作製した。この電極スラリーをドクターブレード法により厚みが20μmのアルミニウム集電箔上に均一に塗布し、140℃の温度に加熱することによってNメチルピロリドンを揮発させて乾燥させた。その後、電極スラリーが塗布されたアルミニウム集電箔をロールプレスすることにより、合材シートを作製した。この合材シートを直径が12mmの円形に打ち抜くことにより、正極14を作製した。
【0056】
ここで、単位面積あたりの電極重量(アルミニウム集電箔、銅箔の重量を除く)は正極14が6.3mg/cm、負極15が4.0mg/cmであり、電極密度は(アルミニウム集電箔、銅箔の重量を除く)は正極14が2.8g/cm、負極15が6.7g/cmであった。
【0057】
電解液としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを重量比で3:7で混合した溶媒に、溶媒1リットル当り1モルの6フッ化燐酸リチウムを溶解した有機電解液を用いた。セパレータ16としてポリエチレン多孔膜を用いた。このようにして、直径が20mm、厚みが3.2mmのコイン型非水電解質二次電池1を作製した。
【0058】
以上のようにして作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。具体的には、0.2mAの電流値で、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で3回充放電を行い、安定化させた後、0.4mAの電流値で、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で充放電を20回繰り返してサイクル試験を行った。なお、ここでは、電池電圧が上昇する方向に電流を流した場合を充電、その反対を放電と定義した。
【0059】
図3に示すように、このサイクル試験の結果、初回の放電容量が545μAh、20回目の放電容量が531μAhであることがわかる。したがって、容量低下が少ない良好な充放電サイクル性能が得られた。
【0060】
以上のことから、本発明の実施例3として作製されたコイン型非水電解質二次電池1では、充放電サイクルによる容量低下を抑制できることがわかる。
【0061】
(実施例4)
電解メッキにより厚みが10μmの銅箔上にスズめっき膜を6μmの厚みで形成した。この銅箔を直径14mmの円形に打ち抜くことにより、負極15を作製した。
【0062】
正極14は以下のようにして作製した。まず、Li(Ni0.34Mn0.33Co0.33)Oで示されるリチウムニッケルコバルト複合酸化物とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとを重量比で85:7.5:7.5となるように秤量し、これらとNメチルピロリドンとを、回転羽根式撹拌装置を用いて混合して電極スラリーを作製した。この電極スラリーをドクターブレード法により厚みが20μmのアルミニウム集電箔上に均一に塗布し、140℃の温度に加熱することによってNメチルピロリドンを揮発させて乾燥させた。その後、電極スラリーが塗布されたアルミニウム集電箔をロールプレスすることにより、合材シートを作製した。この合材シートを直径が12mmの円形に打ち抜くことにより、正極14を作製した。
【0063】
ここで、単位面積あたりの電極重量(アルミニウム集電箔、銅箔の重量を除く)は正極14が7.7mg/cm、負極15が4.0mg/cmであり、電極密度は(アルミニウム集電箔、銅箔の重量を除く)は正極14が2.8g/cm、負極15が6.7g/cmであった。
【0064】
電解液としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを重量比で3:7で混合した溶媒に、溶媒1リットル当り1モルの6フッ化燐酸リチウムを溶解した有機電解液を用いた。セパレータ16としてポリエチレン多孔膜を用いた。このようにして、直径が20mm、厚みが3.2mmのコイン型非水電解質二次電池1を作製した。
【0065】
以上のようにして作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。具体的には、0.2mAの電流値で、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で3回充放電を行い、安定化させた後、0.4mAの電流値で、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で充放電を20回繰り返してサイクル試験を行った。なお、ここでは、電池電圧が上昇する方向に電流を流した場合を充電、その反対を放電と定義した。
【0066】
図3に示すように、このサイクル試験の結果、初回の放電容量が562μAh、20回目の放電容量が554μAhであることがわかる。したがって、容量低下が少ない良好な充放電サイクル性能が得られた。
【0067】
以上のことから、本発明の実施例4として作製されたコイン型非水電解質二次電池1では、充放電サイクルによる容量低下を抑制できることがわかる。
【0068】
(実施例5)
充放電サイクル試験時の充放電範囲を3.0Vから4.2Vとした以外は、実施例3と同様にしてコイン型非水電解質二次電池1を作製し、作製されたコイン型非水電解質二次電池1を用いて充放電サイクル試験を行った。
【0069】
図3に示すように、このサイクル試験の結果、実施例3、4と比較して、初回の放電容量が580μAhと増加したが、20回目の放電容量が524μAhとなり、大きく容量が低下した。しかし、実施例5では、比較例1と比べて容量低下は抑制された。これらのことから、正極材料にLi(Ni0.8Co0.2)Oで示されるようなリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を使用した場合、電池電圧を4.1V以下とすることで、容量低下をさらに抑制できることがわかる。
【0070】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、Snを含む材料を電極に用いた非水電解質二次電池において、充放電サイクルに伴う容量低下を小さくすることができるので、たとえば、消費電力の増大に対応するために大容量のリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:コイン型非水電解質二次電池、11:ケース、12:封口板、13:ガスケット、14:正極、15:負極、16:セパレータ、17:集電板、18:ばね部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スズを電極に用いた非水電解質二次電池であって、
充電時における前記電極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
リチウムを含む物質を正極、金属スズを負極に用いた非水電解質二次電池であって、
充電時における前記負極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である、非水電解質二次電池。
【請求項3】
リチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いた、請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が組成式Li1+αNiMnCoMeβ(ただし、α、β、x、yおよびzは−1<α≦0.5、0≦β<0.3、0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1を満たし、MeはNi、Mn、Co以外の金属元素である)で表わされる層状岩塩構造を有する材料である、請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
充電時における電池電圧が4.1V以下である、請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極が、リチウムと合金化しない金属箔上に形成された金属スズである、請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記負極が、銅箔上に形成された、密度が6g/cm以上である金属スズである、請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
リチウムを含む物質を正極、金属スズを負極に用いた非水電解質二次電池の充電方法であって、
充電時における前記負極の電位がLi/Li基準で0.2V以上である、非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項9】
リチウム遷移金属複合酸化物を正極に用いて、充電時における電池電圧が4.1V以下である、請求項8に記載の非水電解質二次電池の充電方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−124052(P2011−124052A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279974(P2009−279974)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】