説明

非水電解質二次電池の製造方法

【課題】 水系溶媒を用いた電極ペーストをフィルターに好適に透過させることで,電極ペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 水系溶媒を用いる電極ペーストとして,次の粘度特性のものを用いる。せん断速度2(1/sec)でのペーストの粘度Z1と,せん断速度40(1/sec)でのペーストの粘度Z2との比Z1/Z2が,3.8以上である電極ペーストを用いる。フィルターの目開きが,活物質のD50の4〜5倍の範囲内であり,かつ,活物質のD90の値以上であるフィルターを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,非水電解質二次電池の製造方法に関する。さらに詳細には,水系溶媒を用いる塗工液を電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池には,リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電極体は,電極芯材に塗工液(以下,「電極ペースト」という)を塗工して乾燥することにより作成される。電極ペーストには,正極用ペーストおよび負極用ペーストがある。
【0003】
これらの電極ペーストは,活物質や結着材等を溶媒に投入し,混練機により混練して作成される。このように作成した電極ペーストを,塗布装置から電極芯材に塗工する前にフィルターにより濾過する。電極ペースト中の未分散の凝集塊を除去するためである。電極ペーストに凝集塊が含まれていると,電極ペーストを塗工する際に塗工層に塗工スジを生じることがあるからである。電極体に塗工スジのある電池では,所望の出力を発揮できないことがある。また,そのような電池では,塗工スジの箇所にリチウムが析出するおそれもある。
【0004】
そこで,電極ペーストから凝集塊を除去する種々の技術が開発されてきている。例えば,特許文献1には,攪拌翼を備える攪拌装置により電極ペーストを攪拌するとともに,フィルターを用いて未分散の凝集塊を除去する電池の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1および段落[0013]および図1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−213310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,電極ペーストがフィルターを透過する際には,メッシュの隙間を抜けるときにせん断力が電極ペーストに加わる。せん断力が電極ペーストに加わると,せん断力が加わっている期間内のみ電極ペーストの粘度が変化することがある。ペーストにせん断力が加わっている期間内のみ,ペーストの粘度が上昇する現象をダイラタンシーという。逆に,ペーストにせん断力が加わっている期間内のみ,ペーストの粘度が下降する現象をチクソトロピーという。
【0007】
電極ペーストの粘度が急激に上昇すると,電極ペーストがフィルターを透過しにくくなる。つまり,単位時間当たりにフィルターを透過する電極ペーストの流量(フィルター透過速度)は,少なくなる。そうすると,塗布装置から流出する電極ペーストの流量も減少する。これにより,電極体の生産性は低下する。また,電極ペーストの流量の減少により,規程の厚みと幅で塗工することができず,塗工不良となるおそれがある。そのため,電極ペーストのフィルター透過時における粘度の急上昇を抑制することが好ましい。ただし,こうした粘度特性とフィルター透過速度との関係は,水系溶媒を用いる場合と有機溶媒を用いる場合とで異なっている。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,水系溶媒を用いた電極ペーストをフィルターに好適に透過させることで,電極ペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における非水電解質二次電池の製造方法は,水系溶媒を用いた電極ペーストをフィルターの透過後に電極芯材に塗工して乾燥させることにより正極板または負極板とする電極板作成工程と,正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを介して配置することにより電極体とする電極体作成工程と,電池容器に電極体を収容するとともに電解液を注入して封止する電池組立工程とを有する方法である。そして,電極板作成工程では,フィルターとして,活物質のD50(メディアン径)の4〜5倍であって活物質のD90の値以上の目開きのものを用いるとともに,電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,
Z1: せん断速度2(1/sec)における電極ペーストの粘度
Z2: せん断速度40(1/sec)における電極ペーストの粘度
3.8以上である電極ペーストを用いる。かかる非水電解質二次電池の製造方法では,フィルターにより電極ペーストから凝集塊を除去するとともに,十分な量の電極ペーストを塗工することができる。そのため,電池の生産性は高い。
【0010】
上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,電極板作成工程では,電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,8以上である電極ペーストを用いるとなおよい。電極ペーストがフィルターをより透過しやすく,より多量の電極ペーストを塗布することができるからである。
【0011】
上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,電極板作成工程では,電極ペーストの粘度Z2の値が500〜1500mPa・sの範囲内にある電極ペーストを用いるとよい。フィルターを透過する電極ペーストの流量が十分であるからである。
【0012】
上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法において,電極板作成工程では,活物質の粒度分布が1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たす活物質を用いるとなおよい。電極ペーストの粘度の調整を行いやすいからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,水系溶媒を用いた電極ペーストをフィルターに好適に透過させることで,電極ペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る組電池の概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係る電池の概略構成を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係る電池の捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係る電池の捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係る電池の正極板(負極板)の断面構造を説明するための斜視断面図である。
【図6】実施形態に係る電池の製造方法に用いられる塗工装置を説明するための概略構成図である。
【図7】実施形態に係る電池の製造方法に用いられるフィルターとその前後の領域におけるペーストの透過速度を説明するための模式図である。
【図8】実施形態に係る電池の製造方法に用いられる電極ペーストの粘度比を説明するためのグラフである。
【図9】負極活物質の粒度分布を例示するグラフである。
【図10】負極活物質の粒度分布における半値幅および四半値幅を示すグラフである。
【図11】実施例に係る実験で用いた実験設備を説明するための概略構成図である。
【図12】実施例に係る実験で用いた負極用ペーストの粘度比によるフィルターの透過速度の違いを説明するためのグラフである。
【図13】実施例に係る実験で用いた負極用ペーストの粘度の固練り固形分率依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池の製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0016】
1.電池の構造
1−1.組電池
本形態の組電池BPは,図1に示すように,電池100を直列に接続した組電池である。電池100は,角型の単電池である。組電池BPでは,図1に示すように,電池100の正極端子と,その電池100に隣り合う電池100の負極端子とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0017】
1−2.単電池
電池100は,リチウムイオン二次電池の単電池である。電池100の概略構成を図2の断面図に示す。図2は,図1に示した組電池BPから電池100を取り出して描いたものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,封口板130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。封口板130は,電池容器本体120の開口部を塞ぐためのものである。そのため,電池容器本体120に接合されている。
【0018】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。この電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC),1,2−ジメトキシエタン,1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジオキサン,1,3−ジオキソラン,エチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,アセトニトリル,プロピオニトリル,ニトロメタン,N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド,スルホラン,γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒またはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0019】
また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO4)やホウフッ化リチウム(LiBF4),六フッ化リン酸リチウム(LiPF6),六フッ化砒酸リチウム(LiAsF6),LiCF3SO3,LiC49SO3,LiN(CF3SO22,LiC(CF3SO23,LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0020】
図2に示すように,電池100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160とを有している。絶縁部材150は,正極端子50と封口板130とを絶縁するための部材である。絶縁部材160は,負極端子60と封口板130とを絶縁するための部材である。
【0021】
図2に示すように,封口板130には注液孔140が設けられている。注液孔140は,封口板130を貫通する貫通孔である。注液孔140は,電解液を電池容器110の内部に注入するためのものである。蓋体170は,封口板130の注液孔140を塞ぐための注液孔用蓋体である。したがって,蓋体170は,注液孔140の開口部分を覆っている。蓋体170は,封口板130の外側から封口板130にシーム溶接されている。
【0022】
1−3.捲回電極体の構造
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0023】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0024】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。
【0025】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0026】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0027】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0028】
1−4.電極板の構造
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0029】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0030】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に,導電材,結着材,増粘材を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO2),マンガン酸リチウム(LiMn24),コバルト酸リチウム(LiCoO2),LiNi1/3Co1/3Mn1/32等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0031】
正極用の導電材として,カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック,グラファイト粉末,などのカーボン粉末である。
【0032】
正極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0033】
正極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0034】
本形態では,溶媒として水系の溶媒を用いる。一般に,有機溶剤系の溶媒を用いることもできるが,本形態の正極用ペーストは,溶媒に水系の溶媒を用いることに特徴があるからである。
【0035】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0036】
負極合材層NAは,負極芯材NBである銅箔に負極活物質,結着材,増粘材を含む合材を塗布して乾燥させた層である。負極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質である。負極活物質として,少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素(ハードカーボン),易黒鉛化炭素(ソフトカーボン),黒鉛(グラファイト),またはこれらを組み合わせた構造を有する炭素材料を用いることができる。
【0037】
負極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,負極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0038】
負極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0039】
本形態では,溶媒として水系の溶媒を用いる。一般に,有機溶剤系の溶媒を用いることもできるが,本形態の負極用ペーストは,溶媒に水系の溶媒を用いることに特徴があるからである。
【0040】
2.塗工装置
続いて,本形態の電池の製造方法に用いられる塗工装置1000について説明する。塗工装置1000は,正極板Pの作成および負極板Nの作成のいずれにも用いることができるものである。ここでは,説明のために,負極板Nを例に挙げて説明する。本形態の塗工装置1000を図6に示す。図6に示すように,塗工装置1000は,混練装置1100と,第1フィルター1200と,バッファタンク1300と,第2フィルター1400と,弁1500と,ポンプ1600と,第3フィルター1700と,塗工用ダイ1800と,バックアップローラー1900とを有している。
【0041】
混練装置1100は,前述した,水系溶媒に,負極活物質と,結着材と,増粘材とを混入して混練することで負極用ペーストを作成するためのものである。第1フィルター1200は,混練した負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。バッファタンク1300は,負極用ペーストを一時的に保管しておくためのものである。
【0042】
第2フィルター1400は,バッファタンク1300から送り出される負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。弁1500は,負極用ペーストの流路の開閉を調整するためのものである。ポンプ1600は,負極用ペーストの流量を調整するためのものである。第3フィルター1700は,塗工用ダイ1800による塗工を行う前に,負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。
【0043】
塗工用ダイ1800は,負極芯材NBに負極用ペーストを塗工するためのものである。バックアップローラー1900は,塗工用ダイ1800による塗工に際して,負極芯材NBに塗工する面の反対側の面から負極芯材NBを支持しつつ,負極芯材NBを搬送するためのものである。
【0044】
第1フィルター1200と,第2フィルター1400と,第3フィルター1700とは,同じ種類のフィルターである。これらは,デプスフィルターであるとよい。また,スクリーンフィルターであってもよい。そして,フィルターの目開きは,活物質の平均粒径(メディアン径)の4〜5倍の範囲内である。活物質の平均粒径として,5〜100μmの範囲内のものを用いてよい。
【0045】
3.電極ペーストの粘度の変化
前述したように,これらのフィルター1200,1400,1700を電極ペーストが透過する際に電極ペーストの粘度が急激に上昇すると,電極ペーストは,フィルター1200,1400,1700をほとんど透過しない。特に,第3フィルター1700を透過する電極ペーストの透過速度が遅いと,狙いとする塗工幅および塗工厚で電極ペーストを電極芯材PB,NBに塗工することは困難である。また,塗工ムラ等の原因となることもある。したがって,フィルター1200,1400,1700を透過する際に粘度がそれほど上昇しないような電極ペーストを作成することが好ましい。
【0046】
ここでいうダイラタンシー,すなわち急激な粘度の上昇とは,可逆的な粘度の変化のことである。電極ペーストがフィルターを透過する際には,せん断が加わる。このせん断が加わっている間のみ,電極ペーストの粘度は上昇するのである。そのため,フィルターを透過した後の電極ペーストの粘度は,フィルターを透過させる前の電極ペーストの粘度とほぼ等しい。このように,フィルターを透過するときのみ,粘度が上昇しているのである。なお,このダイラタンシー,すなわちフィルター透過時における粘度の急激な上昇は,電極ペースト中の固形分率が高いほど生じやすい。なお,チクソトロピーも,ダイラタンシーと同様に可逆的な粘度の変化である。
【0047】
フィルター透過時におけるペーストの様子を図7に示す。図7は,フィルターのメッシュとその周辺を模式的に示す図である。実際には,フィルターは,メッシュのある箇所とない箇所とが交互に表れる多層構造を有している。図7からも明らかなように,フィルターのメッシュのある箇所(領域R2)では,粒子(負極活物質等)の通り道1201は狭い。フィルターのメッシュの前後の箇所(領域R1,R3)では,粒子が透過するのに障害となるものはない。
【0048】
ここで,電極ペーストがフィルターのメッシュを透過する前の領域R1における電極ペーストの平均速度をV1とする。電極ペーストがフィルターのメッシュを透過している最中の領域R2における電極ペーストの平均速度をV2とする。電極ペーストがフィルターのメッシュを透過した後の領域R3における電極ペーストの平均速度をV3とする。すると,次の関係式が成り立つ。
V2 >> V1
V3 ≒ V1
【0049】
ここで,粒子は,フィルターのメッシュを透過する領域R2において,せん断力を受ける。そのせん断力を受けて,領域R2では粒子は速い平均速度V2で移動する。これらの原因により,電極ペーストの粘度は変化する。前述のとおり,この粘度の変化は,フィルター透過時にのみ生ずる。電極ペーストがフィルターを透過した後の電極ペーストの粘度は,フィルターを透過する前の電極ペーストの粘度とほぼ同じである。そして後述するように,活物質の粒度分布や混練工程が異なっていると,この粘度の変化の度合いも異なる。
【0050】
4.せん断速度とペーストの粘度との関係
本形態の非水電解質二次電池の製造方法は,用いる電極ペーストの粘度特性に特徴のある方法である。したがって,電極ペーストの粘度特性について説明する。ここで電極ペーストの粘度特性とは,電極ペーストの粘度を測定する際に電極ペーストにせん断力を加える際のせん断速度と,電極ペーストの粘度との関係を示すものである。図8に,本形態で用いる電極ペーストの粘度特性を例示する。
【0051】
本形態では,せん断速度2(1/sec)で羽根を回転させたときの粘度と,せん断速度40(1/sec)で羽根を回転させたときの粘度と,2つの条件下で測定した粘度を用いる。異なる羽根の回転速度で粘度を測定すると,異なる粘度の値が得られる。つまり,粘度は,羽根の回転速度,すなわちせん断速度に依存する。本形態では,異なるせん断速度で測定したときの粘度の値の比を採用する。
【0052】
図8に示すように,線Lは右下がりの線である。つまり,せん断速度を上げるほど,電極ペーストの粘度は下がることを意味している。チクソトロピーを示すペーストは,図8では,線Lのように右下がりの線となる。ダイラタンシーを示すペーストは,図8では,右上がりの線となる。このように本形態では,チクソトロピーを示す電極ペーストを用いる。
【0053】
電極ペーストをフィルターに透過させるためには,ある程度のチクソトロピーを示すことが好ましい。電極ペーストをフィルターに透過させる際には,電極ペーストにせん断力が加わる。つまり,せん断速度は速いものとなる。したがって,チクソトロピーを示す電極ペーストを用いると,フィルターの透過により凝集塊を除去するとともに,多量の電極ペーストを塗布装置に供給することができる。一方,ダイラタンシーを示すような場合には,フィルター透過時に電極ペーストの粘度が上昇するため,フィルターを透過するペーストの流量は少ない。
【0054】
5.用いるペーストの粘度特性の条件
このように,電極ペーストの流量を増やすには,ある程度のチクソトロピーを示す電極ペーストを用いる必要がある。したがって本形態では,粘度比が次のような条件を満たす電極ペーストを用いる。
条件1: Z1/Z2 ≧ 3.8
Z1: せん断速度2(1/sec)における電極ペーストの粘度
Z2: せん断速度40(1/sec)における電極ペーストの粘度
つまり,電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,3.8以上である電極ペーストを用いる。ここで,電極ペーストの粘度を回転粘度計(円錐平板型回転粘度計)により測定することとする。この条件1と後述する条件2および条件3を満たす場合に,単位時間当たりのペーストの流量は,5g/sec以上となる。詳細については,実施例の項で説明する。
【0055】
また,電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,8以上となる電極ペーストを用いるとなおよい。実施例の項で後述するように,電極ペーストの単位時間当たりの流量(透過速度)は,およそ10g/sec以上となるからである。電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,10以上となる電極ペーストを用いるとさらによい。電極ペーストの透過速度が10g/secの値を十分に超えるからである。
【0056】
6.用いるフィルターの条件
これまで,電極ペーストの粘度について説明した。好適な量の電極ペーストがフィルターを透過するには,電極ペーストの粘度以外にももちろん,フィルターの目開きも重要な因子となる。各フィルター1200,1400,1700として,次の条件2および条件3の双方を満たすフィルターを用いる。
条件2: フィルターの目開きが活物質のD50の4〜5倍の範囲内
条件3: フィルターの目開きが活物質のD90の値以上
活物質をフィルターに好適に透過させるためである。
【0057】
7.電池の製造方法
本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では,電極ペーストの粘度特性(条件1)およびフィルターの目開き(条件2,3)の条件を満たすことに特徴がある。本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は,次に示す製造工程を有する。
(A)電極板作成工程
(B)電極体作成工程
(C)電池組立工程
【0058】
7−1.(A)電極板作成工程
7−1−1.正極板作成工程
正極活物質と,導電材と,増粘材と,結着材とを,水系溶媒に混入し,混練して正極用ペーストを作成する。ここで用いる正極活物質等の各材料については,上記に示したものを用いればよい。なお,正極活物質は,前述のとおり,条件1を満たすものである。
【0059】
そして,塗工装置1000を用いて正極芯材PBに正極用ペーストを塗工して正極用ペースト層とする。フィルターとして,条件2および条件3を満たすものを用いる。なお,正極用ペースト層とは,正極合材層PAの乾燥前の層のことである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。ここで,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。なお,正極板Pに適宜ロールプレス工程やスリット工程を施してもよい。
【0060】
7−1−2.負極板作成工程
負極活物質と,結着材と,増粘材とを,水系溶媒に混入し,混練して負極用ペーストを作成する。ここで用いる負極活物質等の各材料については,上記に示したものを用いればよい。なお,負極活物質は,前述のとおり,条件1を満たすものである。
【0061】
そして,塗工装置1000を用いて負極芯材NBに負極用ペーストを塗工する。そのため,負極用ペーストを第3フィルター1700の透過後に,負極芯材NBに塗工することとなる。そして,乾燥炉内で負極用ペースト層を乾燥させることで,負極板Nが作成される。
【0062】
7−2.(B)電極体作成工程
続いて,捲回電極体10を作成する。その際に,図4に示したように,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて積み重ねた状態で捲回する。これにより,正極板Pおよび負極板Nの間にセパレータS,Tを介して配置した,円筒形状の捲回電極体が作成される。この円筒形状の捲回電極体を円筒の径方向から圧縮することにより,図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0063】
7−3.(C)電池組立工程
次に,捲回電極体10を電池容器本体120に収容する。また,封口板130を電池容器本体120に接合する。この接合にレーザ溶接を用いるとよい。もちろん,その他の接合方法を用いてもよい。そして,注液孔140から電池容器本体120の内部に電解液を注入する。次に,蓋体170を封口板130に接合することで封止する。これにより,電池100が組み立てられる。
【0064】
7−4.その他の工程
電池容器110の内部に電解液を注入した後,電解液は捲回電極体10の正極合材層PAおよび負極合材層NAに徐々に含浸していく。この電解液の含浸後に,初期充電工程や高温エージング工程等を施すこととするとよい。また,その他の各種の検査工程を行ってもよい。以上の工程を経ることにより,組電池BPが製造される。
【0065】
7−5.製造された電池
本形態の電池の製造方法により製造された電池100では,電極芯材に塗工層が好適に塗工されており,塗工不良がほとんどない。塗工の段階で,電極芯材に好適に電極ペーストが供給されているからである。
【0066】
8.電極ペーストに有機溶媒を用いる場合
本形態では,正極用ペーストおよび負極用ペーストに用いる溶媒として水系溶媒を用いることとした。しかし,有機溶媒を用いる場合には,電極ペーストの粘度特性と,その電極ペーストを用いた場合の透過速度との関係は,本形態のものとは異なる。
【0067】
例えば,正極用ペーストが有機溶剤系の溶媒を用いるもので,負極用ペーストが水系溶媒を用いるものであれば,本形態のペーストの製造方法を負極用ペーストの製造に用いることができる。正極用ペーストの製造に用いるには好適でない。逆に,正極用ペーストが水系溶媒を用いるもので,負極用ペーストが有機溶剤系の溶媒を用いるものであれば,本形態のペーストの製造方法を正極用ペーストの製造に用いることができる。負極用ペーストの製造に用いるには好適でない。
【0068】
9.変形例
9−1.活物質の粒度分布
本形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は,用いる電極ペーストの粘度特性に特徴がある方法である。塗工に用いる電極ペーストの作成に際して,活物質の粒度分布についても,好適なものを選ぶとよい。これは正極でも負極でも同様であるため,以下,負極で説明する。
【0069】
ここでは,粒度分布に1つのピークがある負極活物質を用いる。例えば,図9では,粒度分布X1,X2がこの条件を満たす。図9の粒度分布X3のように,粒度分布にダブルピークのある負極活物質を用いたペーストは,後述するように,フィルターを透過できない。
【0070】
そしてさらに,負極活物質の粒度分布は,次式(1),(2)を満たす。
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0 ………(1)
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0 ………(2)
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
ここでメディアン径とは,粒子の粒径を小さい順に並べた場合に,粒子の累積個数が全体の個数の半分(50%)となる径である。粒度分布の半値幅Aおよび四半値幅Bを図10に示す。図10に示すように,半値幅Aは,粒度分布のピーク値Hの半分の値H/2であるときの粒度分布の幅である。四半値幅Bは,ピーク値Hの1/4の値H/4であるときの粒度分布の幅である。
【0071】
ここで用いる負極活物質は,次の条件を満たすものを用いる。
条件4: 粒度分布のピークが1つであること
条件5: 式(1),(2)を満たすこと
図9に示した粒度分布のうち,粒度分布X1が,条件4および条件5を満たしている。粒度分布X2は,条件4を満たすものの条件5を満たさない。そして,粒度分布X3は,ダブルピークであり,条件4すら満たしていない。
【0072】
そして,条件4および条件5を満たす負極活物質を用いる。粒度分布がダブルピークをもつものを用いると,負極用ペーストはフィルター1200,1400,1700を透過することができない。そして,粒度分布が狭いシングルピークをもつもの,すなわち粒度の揃った負極活物質を用いると,負極用ペーストがフィルター1200,1400,1700を透過する際に,負極用ペーストの粘度が急激に上昇する。
【0073】
したがって,条件4および条件5を満たす負極活物質を用いると,フィルターを透過するとともに,フィルター透過時に急激なペーストの粘度上昇を抑制し,塗工用ダイ1800から適量のペーストを送出させることができる。もちろん,ペーストから凝集塊を除去することができる。これにより,生産性の高い電池の製造方法を実現することができる。
【0074】
10.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法は,せん断速度の異なる場合の粘度比を用いることに特徴を有する方法である。つまり,せん断速度2(1/sec)のときの粘度Z1と,せん断速度40(1/sec)のときの粘度Z2との比が3.8以上となる電極ペーストを用いるのである。これにより,フィルターを十分な透過速度で透過して,好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法が実現されている。
【0075】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。また,もちろん,電極体の形状によらない。また,本形態では塗工液を電極ペーストということとしたが,塗工液の固形分率や粘度の範囲を限定するものではなく,電極ペーストは塗工液一般を指すものである。
【実施例】
【0076】
A.実験方法
本実験では,粘度比の異なる複数の負極用ペーストを作成した。そして,それらの負極用ペーストの透過速度を測定した。
【0077】
A−1.材料
この実験に際して,負極活物質として,天然黒鉛を用いた。増粘材として,カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)を用いた。結着材として,スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。溶媒として,水を用いた。これらの材料の混合比率は,重量パーセントで,負極活物質:CMC−Na:SBR=98:1:1である。また,これらの材料(溶媒を除く)質量は,300gである。
【0078】
A−2.混練条件
混練において,固形分率がやや高い状態で材料を練る粗練りを行った後,粗練りした材料を溶媒によりさらに希釈する。混練に際して,用いた混練機および混練条件は次の通りである。
混練機 : 1Lプラネタリミキサー
混練温度 : 20℃(室温)
粗練り固形分率: 60%
粗練り回転数 : 50rpm
粗練り時間 : 20〜45min
希釈回転数 : 50rpm
希釈時間 : 10min
最終固形分率 : 54%
【0079】
こうして,複数種類の負極用ペーストを得た。複数種類のペーストでは,互いに粘度特性が異なる。粘度特性の異なる負極用ペーストを得るために,粗練り時間をそれぞれ異なる時間とした。粘度の測定に,パラレルプレート型レオメーターを用いた。その粘度測定範囲は0.2〜10000(1/sec)である。
【0080】
A−3.実験装置
実験に用いた透過速度を測定する装置を図11に示す。図11に示すように,混練した負極用ペーストを第1タンク2100から第2タンク2300に移動させる。その際に,フィルター2200を透過させる。フィルターとして,負極活物質のメディアン径(D50)の5倍の目開きであるデプスフィルターを用いた。フィルターの濾材は,ポリプロピレンである。
【0081】
負極用ペーストをフィルターに透過させるために,第1タンク2100には,0.13MPaの圧力を加圧する。この圧力の値は,実施形態で説明した塗工装置1000においても,各フィルターの透過前に加えられる圧力の値と同じである。そして,第2タンク2300に移し変えられた負極用ペーストの重量を電子天秤2400により測定する。これにより,フィルターの透過速度(g/sec)を測定できる。
【0082】
B.評価項目
本実験における評価項目は,前述したとおり,フィルターの透過速度(g/sec)である。これは,単位時間当たりに第2タンク2300に流入した負極用ペーストの量(g/sec)である。
【0083】
C.実験結果
種々の負極用ペーストにおけるフィルター2200の透過速度を表1に示す。実施例1で用いた負極活物質の粒度分布の半値幅をYとした。表1のうち,粘度比とフィルターの透過速度との関係を図12のグラフに示す。図12に示すように,フィルターの透過速度が5(g/sec)以上のものを塗工に適しているとし,フィルターの透過速度が5(g/sec)未満のものを塗工に適していないとした。なお,図12では,負極活物質の粒度分布の半値幅が0.72Yのものを「×」印で表している。
【0084】
【表1】

【0085】
C−1.実施例1
実施例1では,負極用ペーストの粘度比は10.4である。このときの透過速度は17.5g/secであった。この透過速度は,10g/secを超えており,非常に大きい値である。実施例1の負極用ペーストは,塗工に用いるのに優れている。
【0086】
C−2.実施例2
実施例2では,負極用ペーストの粘度比は10.0である。このときの透過速度は16.1g/secであった。この透過速度は,10g/secを超えており,非常に大きい値である。実施例2の負極用ペーストは,塗工に用いるのに優れている。
【0087】
C−3.実施例3
実施例3では,負極用ペーストの粘度比は10.0である。このときの透過速度は12.9g/secであった。この透過速度は,10g/secを超えており,非常に大きい値である。実施例3の負極用ペーストは,塗工に用いるのに優れている。
【0088】
C−4.実施例4
実施例4では,負極用ペーストの粘度比は6.4である。このときの透過速度は5.9g/secであった。この透過速度は,5g/secを超えており,十分に大きい値である。実施例4の負極用ペーストは,塗工に適している。
【0089】
C−5.実施例5
実施例5では,負極用ペーストの粘度比は3.8である。このときの透過速度は5.8g/secであった。この透過速度は,5g/secを超えており,十分に大きい値である。実施例5の負極用ペーストは,塗工に適している。
【0090】
C−6.実施例6
実施例6では,負極用ペーストの粘度比は10.0である。このときの透過速度は12.9g/secであった。この透過速度は,10g/secを超えており,非常に大きい値である。実施例6の負極用ペーストは,塗工に用いるのに優れている。ただし,後述するように,負極活物質の粒度分布の半値幅がやや狭いので,負極用ペーストの粘度の調整が難しい。
【0091】
C−7.比較例1
比較例1では,負極用ペーストの粘度比は3.5である。このときの透過速度は3.4g/secであった。この透過速度は,5g/secを下回っており,小さい値である。このとき,チクソトロピーの程度が十分でない。つまり,フィルター透過時における粘度が高いため,フィルターを透過しにくいのである。したがって,比較例1の負極用ペーストは,塗工にあまり適していない。
【0092】
以上の実施例1−6および比較例1で説明したように,負極用ペーストの粘度比Z1/Z2の値が3.8以上である負極用ペーストを用いると,フィルター透過速度が5(g/sec)以上となる。また,負極用ペーストの粘度比Z1/Z2の値が8以上である負極用ペーストを用いると,フィルターの透過速度がおよそ10(g/sec)以上となる。そして,負極用ペーストの粘度比Z1/Z2の値が10以上である負極用ペーストを用いると,フィルターの透過速度が10(g/sec)の値を十分に超える。
【0093】
C−8.負極活物質の粒度分布の半値幅
図13は,固練り固形分率とペースト粘度(せん断速度40(1/sec))との関係を示すグラフである。縦軸のペースト粘度は,固練り後のペーストの粘度ではなく,最終的に得られたペーストの粘度である。実施例1から実施例6までにおいて,せん断速度40(1/sec)でのペースト粘度は,500〜1500mPa・sの範囲内であった。このとき,ペーストの透過速度は十分な値である。
【0094】
図13に示すように,半値幅Yの負極活物質を用いた場合には,固練り固形分率の幅U1は広い。半値幅0.72Yの負極活物質を用いた場合には,固練り固形分率の幅U2は狭い。つまり,半値幅0.72Yの負極活物質を用いた場合には,固練りにおける固形分率に差があると,最終的なペーストの粘度が大きく変わってしまうおそれがある。つまり,ペーストの粘度の調整が難しい。
【0095】
実施形態の項で説明したように,本発明は,ペーストの粘度比を調整することに特徴がある。そのため,本発明を実施するためには,ペーストの粘度を調整しやすいほうが好ましい。したがって,用いる活物質の粒度分布は,前述の式(1),(2)を満たすものを用いるほうが好ましい。
【符号の説明】
【0096】
10…捲回電極体
30…正極端部
40…負極端部
50…正極端子
60…負極端子
100…電池
110…電池容器
120…電池容器本体
130…封口板
140…注液孔
150…絶縁部材
160…絶縁部材
170…蓋体
1000…塗工装置
1100…混練装置
1200…第1フィルター
1300…バッファタンク
1400…第2フィルター
1500…弁
1600…ポンプ
1700…第3フィルター
1800…塗工用ダイ
1900…バックアップローラー
BP…組電池
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒を用いた電極ペーストをフィルターの透過後に電極芯材に塗工して乾燥させることにより正極板または負極板とする電極板作成工程と,
前記正極板と前記負極板とをこれらの間にセパレータを介して配置することにより電極体とする電極体作成工程と,
電池容器に前記電極体を収容するとともに電解液を注入して封止する電池組立工程とを有する非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記電極板作成工程では,
前記フィルターとして,
活物質のD50(メディアン径)の4〜5倍であって活物質のD90の値以上の目開きのものを用いるとともに,
電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,
Z1: せん断速度2(1/sec)における電極ペーストの粘度
Z2: せん断速度40(1/sec)における電極ペーストの粘度
3.8以上である電極ペーストを用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記電極板作成工程では,
前記電極ペーストの粘度比Z1/Z2の値が,8以上である電極ペーストを用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記電極板作成工程では,
電極ペーストの粘度Z2の値が500〜1500mPa・sの範囲内にある電極ペーストを用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記電極板作成工程では,
活物質の粒度分布が1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たす活物質を用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−80626(P2013−80626A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220098(P2011−220098)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】