説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】貯蔵時のガス発生を抑制することにより、膨張及び容量劣化が抑制された非水電解質二次電を提供する。
【解決手段】実施形態に従って、正極と、負極活物質層を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池が提供される。負極活物質層は二酸化炭素を含んでいる。負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量は、負極活物質層の単位重量あたり0.1ml以上5ml以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池に含まれる負極活物質の表面には、SEI被膜(Solid Electrolyte Interface:SEI、以降は「被膜」と称する。)が存在することが知られている。この被膜は、初回充放電時に電解液が負極と反応して還元分解されることよって生じる。この被膜が形成されることにより、その後の電解液と負極の反応が抑制される。
【0003】
近年、チタン酸リチウムを負極活物質として用いた非水電解質二次電池が開発されている。このような非水電解質二次電池における、負極のリチウムイオン吸蔵放出電位は比較的貴である。そのため、負極活物質の表面に被膜が生じにくい。被膜の形成が不十分であるため、電解液と負極の反応が抑制されない。特に、高温且つ高い充電深度で電池を貯蔵した時に、電解液と負極の反応が増大する。よって、電解液の還元分解が進行し、ガスが発生する。その結果、電池の膨張及び内部抵抗の上昇に起因する容量劣化が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−216843号公報
【特許文献2】特開平11−339856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貯蔵時のガス発生を抑制することにより、膨張及び容量劣化が抑制された非水電解質二次電を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、正極と、負極活物質層を含む負極と、非水電解質とを具備する非水電解質二次電池が提供される。負極活物質層は二酸化炭素を含んでいる。負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量は、負極活物質層の単位重量あたり0.1ml以上5ml以下である。
【0007】
他の側面から、非水電解質二次電池の製造方法が提供される。該方法は、負極活物質の粉末を加熱することと、露点−10℃以下の雰囲気下において、前記加熱後の負極活物質の粉末を用いてスラリーを調製することと、前記雰囲気下において、前記スラリーを用いて負極を作製することとを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態の非水電解質二次電池の切欠斜視図。
【図2】実施例1〜3及び比較例1の負極の熱分解GC/MS測定図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、薄型非水電解質二次電池の部分切欠斜視図である。電池1は、ラミネートフィルム製の外装袋2と、外装袋2内に収容された扁平型の電極群3を備える。電極群3は、正極4、負極5、及びセパレータ6から構成されており、偏平形状を有している。正極4と負極5は、間にセパレータ6を挟んで積層されている。積層された正極4、負極5、及びセパレータ6は、渦巻き状に捲回されている。正極4には帯状の正極端子7が接続されている。負極5には帯状の負極端子8が接続されている。正極端子7及び負極端子8の端部は、外装袋2の開口から外部に延出されている。外装袋2内にはさらに、図示しない非水電解質が収容されている。外装袋2の開口は、正極端子7及び負極端子8を挟んだ状態でヒートシールされる。これによって、外装袋2は密閉されている。
【0011】
以下、本実施形態の非水電解質二次電池に用いられる負極、正極、非水電解質、セパレータについて詳細に説明する。
【0012】
(負極)
負極は、負極集電体及び負極活物質層を備える。負極活物質層は、負極活物質、及び任意に導電剤及び結着剤を含む。負極活物質層は、負極集電体の片面又は両面に形成される。
【0013】
負極活物質の例には、リチウムチタン複合酸化物及びチタン酸化物が含まれる。それらの酸化物は、リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上であることが好ましい。リチウムイオン吸蔵電位が0.4V(対Li/Li+)以上である酸化物の例には、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(Li4+xTi5O12)、及び、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(Li2+xTi3O7)が含まれる。ここで、xは、いずれも0以上3以下の範囲である。チタン酸化物(例えばTiO2)は、電池の充放電によってリチウムを吸蔵し、リチウムチタン酸化物になる。
【0014】
負極活物質は、上記の酸化物のいずれか一つを含んでもよいが、二種以上の酸化物を含んでもよい。
【0015】
負極活物質は、一次粒子の平均粒径が5μm以下であることが好ましい。一次粒子の平均粒径が5μm以下である負極活物質は、十分な表面積を有する。それ故、良好な大電流放電特性を有する。
【0016】
負極活物質は、比表面積が1〜10m/gであることが好ましい。比表面積が1m/g以上である負極活物質は、十分な表面積を有する。それ故、良好な大電流放電特性を有する。比表面積が10m/g以下である負極活物質は、非水電解質との反応性が低い。それ故、充放電効率の低下や貯蔵時のガス発生が抑制される。
【0017】
導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。アルカリ金属の吸蔵性が高く、また、導電性が高い炭素質物が好適に用いられる。
【0018】
結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。
【0019】
負極活物質層において、負極活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ、70〜95重量%、0〜25重量%、2〜10重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0020】
負極集電体として金属箔が用いられる。金属は、アルミニウム、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから成る群より選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金、又は銅が好適に用いられる。
【0021】
負極は二酸化炭素を含んでいる。二酸化炭素は主に負極活物質層に含まれる。負極における二酸化炭素の含有量は、負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量が、負極活物質層の単位重量あたり0.1ml以上5ml以下になる量である。
【0022】
このような量の二酸化炭素が負極に含まれることにより、非水電解質と負極との反応が抑制され、その結果、ガス発生が抑制される。発生するガス量が減少するため、電池の膨張及び内部抵抗の上昇に起因する容量劣化が抑制される。
【0023】
負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を用いた負極は、表面に形成される皮膜の厚さが10nm以下であるか、または皮膜が形成されないことが多い。このような電池は、高温貯蔵時に非水電解質と負極が反応しやすい。特に、70℃以上の高温であり、さらに、高い充電深度(State of Charge;SOC)、すなわち満充電に近い状態において、反応が増大する。従って、多量のガスが発生し、電池の膨張を引き起こす。また、ガスが微少量でも電極間に蓄積されると内部抵抗が上昇するため、電池の容量劣化の原因となる。
【0024】
しかしながら、本実施形態に従って、上記のような量で負極に二酸化炭素を含有することにより、ガスの発生を抑制することができる。これは、二酸化炭素が非水電解質二次電池内において自己放電促進剤として作用するためと考えられる。
【0025】
負極に含まれる二酸化炭素の一部は、電池の充放電によって非水電解質中に溶解する。非水電解質中に含まれる二酸化炭素は、負極表面において還元されて一酸化炭素になる。一酸化炭素は、正極表面において酸化されて二酸化炭素となる。このように、非水電解質中の二酸化炭素は、正極と負極の間を往復するシャトル化合物として機能することが、本発明者らによって見出された。このような二酸化炭素の酸化還元反応は、負極と非水電解質の反応よりも先に進行するか、或いは、より速い反応速度を有する。そのため、非水電解質の分解が抑制され、その結果、ガス発生が抑制される。
【0026】
このような二酸化炭素の酸化還元反応により自己放電が生じるため、貯蔵後の電池容量は減少している。しかしながら、二酸化炭素の酸化還元反応は可逆的であるため、電池の劣化をもたらさない。よって、電池を再度充電することにより、貯蔵前の容量とほとんど相違しない容量を得ることができる。また、二酸化炭素は、非水電解質中に含まれる電解質とほとんど反応しないため、電池貯蔵中に電解質濃度が低下しないという利点も有している。
【0027】
二酸化炭素が負極活物質層に含まれていることにより、負極表面だけでなく負極活物質層全体において自己放電を促進することができる。
【0028】
負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量が、負極活物質層の単位重量あたり5mlを超えると、二酸化炭素がガスの発生要因になる。一方、放出される二酸化炭素の量が、0.1ml未満であると、自己放電促進剤として作用する二酸化炭素が不足するため、非水電解質の分解が抑制されない。
【0029】
負極における二酸化炭素の含有量は、負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量が、負極活物質層の単位重量あたり0.2ml以上2ml以下になる量であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態における電池は、さらに、下式(I)を満たすことが好ましい。
【0031】
a/b ≧1 (I)
負極活物質層を熱分解GC/MS測定に供すると、120℃〜350℃にかけて2つのピークが観測される。この二つのピークは、二酸化炭素が少なくとも二つの異なる形態で電極中に存在していることを示している。120℃〜350℃に表れる主なピークの内、低温側のピークをピークAと称し、高温側のピークをピークBと称することとする。上記の式(I)において、aは、低温側のピークAのピーク強度であり、bは、高温側のピークBのピーク強度である。
【0032】
低温側のピークAは、負極にゆるく物理吸着した二酸化炭素に由来するものであり、高温側のピークBは、炭酸リチウムを主成分とする化合物として含まれる二酸化炭素に由来するものと考えられる。炭酸リチウム等の化合物は、高温且つ高SOCでの貯蔵時のガス発生要因になる。
【0033】
ピーク強度比(a/b)が1以上であると、負極に物理吸着した二酸化炭素が、炭酸リチウムなどの化合物として存在する二酸化炭素よりも相対的に多くなる。この場合、高温且つ高SOCで電池を貯蔵した時のガス発生量をより効果的に抑制することができる。
【0034】
炭酸リチウムなどの化合物として存在する二酸化炭素は、高温且つ高SOCで電池を貯蔵した時のガス発生量を低減するために、少ない方が好ましい。しかしながら、炭酸リチウムなどの化合物は、負極表面の被膜生成を促進し、非水電解質と負極の反応を抑制する効果を有する。よって、炭酸リチウムなどの化合物として存在する二酸化炭素は微量に存在することが好ましい。例えば、ピーク強度比(a/b)は、これに限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0035】
負極に物理吸着した二酸化炭素は、負極活物質層を200℃程度で加熱したときに放出される。一方、炭酸リチウムなどの化合物として含まれる二酸化炭素は、200℃より高い温度、例えば300℃で加熱したときに放出される。よって、負極活物質層を200℃で加熱することにより、自己放電の促進に寄与する物理吸着した二酸化炭素の量を測定することができる。また、上記のように、炭酸リチウムなどの化合物として存在する二酸化炭素は少ない方が好ましい。それ故、負極活物質層を300℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量は、負極活物質層の単位重量あたり0.5ml以上3ml以下であることが好ましい。
【0036】
負極は、以下のように作製することができる。まず、負極活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。溶媒として、例えば、Nメチルエチルピロリドンを用いることができる。このスラリーを負極集電体の片面又は両面に塗布して乾燥し、負極活物質層を形成する。次いで、負極活物質層を負極集電体と共に圧延する。
【0037】
(二酸化炭素の放出量の測定及び熱分解GC/MS測定)
負極から放出される二酸化炭素の量は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって測定する。GC測定は、次のように行うことができる。
【0038】
まず、不活性ガス雰囲気下において、集電体と負極活物質層を分離し、導電剤および結着剤を含む負極活物質層の一部を試料として採取する。例えば、不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で、スパチュラ等を用いて活物質層を数mg掻き出すことにより、試料を採取する。次いで、不活性ガス雰囲気を保ったまま試料を装置内に導入する。次いで、200℃で1分間加熱し、発生した二酸化炭素量を測定する。不活性ガス雰囲気は、試料に水分が吸着しないように湿度を管理し、例えば、露点を−50℃以下にする。採取中及び測定中に、試料に二酸化炭素や水分が吸着するのを防ぐため、所定の雰囲気を維持するように注意する。
【0039】
GC測定において、加熱温度が高すぎると、他の成分に由来する二酸化炭素が検出される。例えば、500℃以上で加熱すると、結着剤が燃焼して二酸化炭素が発生したり、カーボンブラックなどの導電剤の影響が生じたりする。よって、GC測定における加熱温度は200℃程度であることが好ましい。
【0040】
熱分解GC/MS測定に供する試料は、上記と同様に採取する。ここで、熱分解GC/MSとは、パイロライザーを具備したガスクロマトグラフィー(GC)と、質量分析(MS)を直結した装置である。熱分解GC/MS測定は、5℃/分の昇温条件で行う。
【0041】
負極活物質層に二酸化炭素が含まれている場合、及び、加熱により二酸化炭素の発生を促す物質が存在する場合、熱分解GC/MS測定によって得られるピーク図においてピークが表れる。このピーク図から、二酸化炭素が物理吸着しているのか、或いは、炭酸リチウムのような化合物として存在しているのかを確認することができる。
【0042】
ピーク強度a及びbは、ピーク図の例えば50℃から300℃にかけてベースラインを引き、低温側のピークAの強度a、及び、高温側のピークBの強度bの値からベースラインの値を減算して得ることができる。
【0043】
本実施形態において、GC測定及び熱分解GC/MS測定は、初回充電前の電池又は負極について測定される。
【0044】
非水電解質二次電池を解体して試料を採取する場合は、電池を不活性ガス雰囲気で解体した後、負極をメチルエチルカーボネート(MEC)で10分間洗浄する。その後、大気曝露しないように−80kPaの減圧雰囲気下で1時間、室温で乾燥させる。その後、上記と同様に、試料を採取する。
【0045】
なお、試料は、リチウム電位基準に対して2.5V以上3.5V以下の範囲内の電位を有する状態の負極から採取する。例えば充電状態の負極のような、上記範囲外の電位を有する負極から採取した試料は、測定によって得られるピークが変化する。
【0046】
(正極)
正極は、正極集電体及び正極活物質層を備える。正極活物質層は、正極活物質、及び任意に導電剤及び結着剤を含む。正極活物質層は、正極集電体の片面又は両面に形成される。
【0047】
正極活物質の例には、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及び、リチウム含有リン酸化合物が含まれる。
【0048】
リチウムマンガン複合酸化物の例には、LiMn2O4のような複合酸化物、及び、例えば、Li(MnxAly)2O4(ここで、x+y=1である)のようなMnの一部を異種元素で置換した、異種元素含有リチウムマンガン複合酸化物が含まれる。
【0049】
リチウムニッケル複合酸化物の例には、LiNiO2などの酸化物、及び、例えば、Li(NixMnyCoz)O2及びLi(NixCoyAlz)O2(ここで、x+y+z=1である)のようなNiの一部を異種元素で置換した、異種元素含有リチウムニッケル複合酸化物が含まれる。
【0050】
リチウム含有リン酸化合物の例には、LiFePO4などのリン酸化物、及び、Li(FexMny)PO4(ここで、x+y=1である)のような、LiFePO4の一部のFeを異種元素で置換した異種元素を含有するリチウム含有リン酸化物が含まれる。
【0051】
導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。
【0052】
結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、エチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。
【0053】
正極活物質層において、正極活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ、80〜95重量%、3〜18重量%、2〜7重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0054】
正極集電体として金属箔が用いられる。金属は、アルミニウム、又は、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから成る群より選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金が好適に用いられる。
【0055】
正極は、以下のように作製することができる。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。溶媒として、例えば、Nメチルエチルピロリドンを用いることができる。このスラリーを正極集電体の片面又は両面に塗布して乾燥し、正極活物質層を形成する。次いで、正極活物質層を正極集電体と共に圧延する。
【0056】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される。リチウム電池に用いられることが公知の非水溶媒を用いることができる。
【0057】
非水溶媒の例には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)のような環状カーボネート;環状カーボネートと該環状カーボネートより低粘度の非水溶媒(以下第2の溶媒)との混合溶媒が含まれる。
【0058】
第2の溶媒の例には、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート又はジエチルカーボネートのような鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル;テトラヒドロフラン又は2−メチルテトラヒドロフランのような環状エーテル;ジメトキシエタン又はジエトキシエタンのような鎖状エーテルが含まれる。
【0059】
電解質の例には、アルカリ塩が含まれる。好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩の例には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、及びトリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)が含まれる。好ましくは、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)又は四フッ化硼酸リチウム(LiBF4)が用いられる。
【0060】
非水溶媒中の電解質の濃度は0.5〜2モル/Lの範囲であることが好ましい。
【0061】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極の間に配置され、正極と負極が接触するのを防止する。セパレータは、絶縁性材料で形成される。また、セパレータは、正極及び負極の間を電解質が移動可能な形状を有する。セパレータの例には、合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム、及び、セルロース系のセパレータが含まれる。
【0062】
(製造方法)
次に、実施形態による非水電解質二次電池の製造方法を説明する。該方法は、負極活物質の粉末を加熱することと、露点−10℃以下の雰囲気下において、前記加熱後の負極活物質の粉末を用いてスラリーを調製することと、前記雰囲気下において、前記スラリーを用いて負極を作製することとを含む。
【0063】
本発明者らによって、負極に吸着した二酸化炭素が水分と反応して容易に炭酸リチウムを生成することが確認されている。特に、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を用いた場合、活物質表面に吸着している水分と、活物質内のリチウムとが容易に反応して炭酸リチウムを生成する。よって、製造工程中の雰囲気の水分量を低減させることが好ましい。
【0064】
通常の固相法などによって製造された負極活物質は、大量の二酸化炭素や水分が吸着している。二酸化炭素を多く含む負極活物質を用いると、作製環境にも依存するが、負極を作製するときに炭酸リチウムが生成しやすい。そこで、まず、負極活物質を加熱処理することにより、脱気及び乾燥させて、二酸化炭素及び水分を除去する。脱気及び乾燥は、二酸化炭素および水分の再吸着を抑制するため、露点管理された不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、露点−10℃以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。加熱温度は、250℃〜650℃の範囲であることが好ましく、150℃〜600℃の範囲であることがより好ましい。加熱時間は、3〜24時間の範囲であることが好ましい。
【0065】
次いで、露点−10℃以下の雰囲気下において、加熱後の負極活物質の粉末を用いてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体に塗布及び乾燥して負極活物質層を形成し、負極活物質層を負極集電体と共にプレスすることによって、負極を作製することができる。スラリーの調製は、大気または不活性ガス雰囲気下で行ってよい。
【0066】
このように作製した負極と、正極及びセパレータを用いて電極群を作製する。正極、第1のセパレータ、負極及び第2のセパレータをこの順で重ねて積層体を作製し、この積層体を、負極が最外周に位置するように渦巻き状に捲回する。捲回した積層体を、加熱しながらプレスすることにより、偏平状の電極群を作製することができる。
【0067】
このように作製した電極群を、外装袋の中に収容し、非水電解質を注入して、外装袋を密封することにより、電池を作製することができる。
【0068】
電極群の作製及び電池の組立ては、大気あるいは不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、露点−10℃以下で行うことが好ましい。
【0069】
上記の工程の何れにおいても、不活性ガスとしては、アルゴン、窒素などを用いることができる。
【0070】
負極活物質の粉末の加熱処理において処理条件を制御することにより、粉末中に含まれる水分量を粉末中に存在する二酸化炭素量よりも小さくすることができる。これにより、負極活物質層を熱分解GC/MS測定に供したときのピーク強度比(a/b)を1以上にすることができる。例えば、加熱温度を高くするか、加熱時間を長くすることにより、ピーク強度比(a/b)を高くすることができる。なお、上記の粉末中の水分量と二酸化炭素量は、GC測定において600℃で1分間、該粉末を加熱した際に発生する水と二酸化炭素の量を指す。
【0071】
また、スラリー調製工程から電池の組立までの工程を、露点が低い雰囲気下で行うことによっても、ピーク強度比(a/b)を高くすることができる。
【0072】
なお、化合物の種類、表面積、組成などにより、二酸化炭素の吸着のしやすさが異なる。そのため、活物質として異なる化合物を組合せて用いることによっても、電極に含まれる二酸化炭素の量を制御することが可能である。
【0073】
以上の実施形態によれば、電池を貯蔵した時のガス発生が抑制され、膨張及び容量劣化が抑制された非水電解質二次電を提供することができる。例えば、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を用い、高温且つ高SOCで電池を貯蔵しても、膨張及び容量劣化を抑制することができる。
【0074】
なお、上記の実施形態では、電極群がラミネートフィルム製外装袋に収容された非水電解質二次電池を例示したが、これに限定されず、例えば金属製の缶を外装部材として用いることもできる。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
<負極の作製>
負極活物質として、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)粉末を準備した。Li4Ti5O12のリチウム吸蔵電位は1.55V(対Li/Li+)である。Li4Ti5O12粉末をArガス雰囲気下、250℃で6時間加熱した。
【0076】
加熱処理後のLi4Ti5O12粉末、グラファイト、及びPVdFを、それぞれ90重量%、5重量%、及び5重量%の割合でNMPに加え、ガラスビーズを用いて30分間混合し、負極用スラリーを調製した。
【0077】
負極用スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、乾燥して、負極活物質層を形成した。負極活物質層を集電体と共にプレスすることにより負極を作製した。負極活物質層の密度は2.0g/cm3であった。
【0078】
スラリーの調製、塗布、乾燥及びプレスは、露点−10℃の大気雰囲気下で行った。
【0079】
<正極の作製>
リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi0.33Mn0.33 Co0.33O2)の粉末、アセチレンブラック、グラファイト、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、それぞれ91重量%、2.5重量%、3重量%、及び3.5重量%の割合でNMPに加えて混合し、正極用スラリーを調製した。
【0080】
正極用スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(集電体)の両面に塗布し、乾燥して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を集電体と共にプレスすることにより正極作製した。正極活物質層の密度は3.3g/cm3であった。
【0081】
<電極群の作製>
上記で作製した負極及び正極、セパレータとして厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用い、電極群を作製した。正極、第1のセパレータ、負極及び第2のセパレータをこの順で重ねて積層体を作製した。この積層体を、負極が最外周に位置するように渦巻き状に捲回した。捲回した積層体を、90℃で加熱しながらプレスすることにより、偏平状の電極群を作製した。電極群の寸法は、幅58mm、高さ95mm、厚さ3.0mmであった。
【0082】
得られた電極群を袋状の外装部材に収容し、80℃で24時間真空乾燥した。外装部材は、厚さが40μmのアルミニウム箔と、該アルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層から構成された、厚さが0.1mmのラミネートフィルムで形成されたものである。
【0083】
電極群の作製は、負極用スラリーの調製と同じ雰囲気下で行った。
【0084】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比で1:2になるように混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル/Lの濃度で溶解して非水電解液を調製した。
【0085】
<電池の作製>
電極群を収容した外装部材に非水電解液を注入し、密封して、図1に示すような非水電解質二次電池を作製した。この電池は、3Ahの容量を有した。
【0086】
電極の作製は、負極用スラリーの調製と同じ雰囲気下で行った。
【0087】
(実施例2〜7)
負極活物質の粉末の熱処理条件と製造工程の露点を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製した。
【0088】
(比較例1)
負極活物質の粉末の熱処理条件と製造工程の露点を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製した。
【0089】
(比較例2)
負極活物質の粉末を熱処理せず、また、製造工程を、露点管理されていないArガス雰囲気で行った以外は、実施例1と同様に電池を作製した。製造工程の雰囲気の湿度は53%であった。
【0090】
<二酸化炭素の放出量の測定及び熱分解GC/MS測定>
実施例1〜7及び比較例1〜2で作製した負極電極に含まれる二酸化炭素量を測定した。まず、−70℃の不活性ガス雰囲気下で、負極活物質層とアルミニウム箔を分離し、負極活物質層(導電剤および結着剤を含む)の一部を採取してGC測定に供した。測定は、200℃で1分間の加熱条件で行い、発生した二酸化炭素量を測定した。得られた値から、負極活物質層の単位重量あたりの二酸化炭素の放出量を算出した。その結果を表1に示した。
【0091】
また、上記と同様に採取した負極活物質層の一部を、熱分解GC/MS測定に供した。実施例1〜3及び比較例1のピーク図を図2に示した。図2に示すように、低温側50℃から高温側300℃にかけてベースラインを設定した。低温側のピークAの強度a、及び、高温側のピークBの強度bの値からベースラインの値を減算し、ピーク強度比(a/b)を算出した。結果を表1に示した。
【0092】
なお、比較例1は、ベースラインよりもピークが下回った。このような場合、ピーク強度が検出できないため、ピーク強度比は測定不能とした。
【表1】

【0093】
実施例1〜7は何れも、負極に含まれる二酸化炭素量が0.1〜5ml/g負極活物質層の範囲内であった。実施例2〜7は、熱分解GC/MS測定図において、ピーク強度比(a/b)が1以上であった。実施例7は、ピーク強度比(a/b)が著しく高かった。これは、負極活物質の粉末の加熱温度が高かったために、炭酸リチウムが僅かしか生成しなかったためであると考えられる。
【0094】
比較例1は、負極活物質の粉末を過酷な条件で加熱したものである。比較例1の負極に含まれる二酸化炭素量は著しく低かった。熱分解GC/MS測定図においても、2つのピークは極めて低く、且つ曖昧であり、ピークBの強度(b)は確認できなかった。
【0095】
比較例2は、負極活物質の粉末を加熱処理せず、また、管理されていない雰囲気中で作製された電池である。比較例2の負極に含まれる二酸化炭素量は著しく多かった。熱分解GC/MS測定図においても、2つのピークは極めて高く、また、ピークBの強度(b)がピークAの強度(a)より大きかった。
【0096】
<貯蔵試験>
実施例1〜7および比較例1〜2の電池を、それぞれ2つずつ準備した。それぞれの電池の厚さをSOC50%の状態で測定した。その後、各実施例及び比較例の電池について、1CレートでSOC30%又はSOC100%に調整した。それぞれの電池を70℃の環境下で1週間貯蔵した。
【0097】
貯蔵後の電池を、25℃の環境下で、充電せずに1Cレートで放電して容量を測定した。この時の容量を残存容量と称することとする。貯蔵前の容量(理論容量)と残存容量から、貯蔵後の容量の減少率を算出し、これを自己放電率(%)として定義した。例えば、容量3Ahの電池をSOC30%に調整した場合、理論容量は0.9Ahである。貯蔵後の残存容量が0.72Ahであった場合、容量の減少率(即ち、自己放電率)は20%である。
【0098】
残存容量を測定した後、1Cレートで充放電試験を1回行って容量を測定した。測定された容量から、貯蔵前の容量(理論容量)に対する容量維持率を算出した。例えば、貯蔵前の電池が3Ahの容量を有し、貯蔵後の電池が2.7Ahの容量を有した場合、容量維持率は90%である。
【0099】
さらに、各電池を、1Cレートで充電してSOC50%に調整し、厚さを測定した。貯蔵前の厚さに対する貯蔵後の厚さの割合を膨張率(倍)として算出した。
【0100】
それらの結果を下記表2に示す。
【表2】

【0101】
負極から放出された二酸化炭素量が5mlを超える比較例2は、膨張率が著しく大きかった。このような電池を、電池モジュールを構成する電池として使用すると、電池同士を連結するバスバーが破損する恐れがある。また、比較例2の容量維持率は著しく低かった。これは、膨張率が高すぎたため、電極間にガスが蓄積され、内部抵抗が大幅に上昇し、これによって容量が劣化したものと考えられる。
【0102】
比較例1の電池は、膨張率及び自己放電率は小さかったが、容量維持率は低かった。これは、負極に含まれる二酸化炭素の量が少なすぎたため、自己放電が促進されなかったためと考えられる。
【0103】
実施例1〜7の電池は何れも、比較例2の電池よりも膨張率が低く、SOC100%で貯蔵した場合でも、膨張率が1.3倍未満であった。貯蔵後の膨張率が1.3倍未満である電池は、複数の電池を備えるモジュールを構成する電池として使用することができる。また、実施例1〜7の電池は何れも、比較例1の電池よりも自己放電率が高く、容量維持率が高かった。よって、負極に0.1ml以上の二酸化炭素を含むことにより、自己放電が促進され、さらに、自己放電が促進されることにより、容量劣化が抑制されることが示された。
【0104】
なお、二酸化炭素量が5ml以下の範囲内では、二酸化炭素量が多いほど自己放電率が大きかった。
【0105】
SOC100%で貯蔵した結果から、ピーク強度比a/bが1以上である実施例2〜7の電池は、特に膨張率が低く、容量維持率も概ね高かった。なお、実施例5の電池は、実施例1の電池よりも容量維持率が低かった。これは、二酸化炭素量が低く、自己放電率が低かったためであると考えられる。
【0106】
以上の結果から、負極が本実施形態で規定される量の二酸化炭素を含むことにより、高温且つ高SOC状態で貯蔵した場合であっても、膨張が抑制され、且つ、容量劣化が抑制されることが示された。
【0107】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1…非水電解質二次電池、2…外装袋、3…電極群、4…正極、5…負極、6…セパレータ、7…正極端子、8…負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極活物質層を含む負極と、
非水電解質と、
を具備し、
前記負極活物質層は二酸化炭素を含み、前記負極活物質層を200℃で1分間加熱したときに放出される二酸化炭素の量は、前記負極活物質層の単位重量あたり0.1ml以上5ml以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
下式(I)を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池:
a/b ≧1 (I)
ここにおいて、
aは、前記負極活物質層を5℃/分の昇温条件による熱分解GC/MS測定に供したときに120℃〜350℃の範囲に表れる2つのピークのうち、低温側のピークAのピーク強度であり、
bは、前記2つのピークのうち、高温側のピークBのピーク強度である。
【請求項3】
前記負極活物質層はリチウムチタン複合酸化物を含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
負極活物質の粉末を加熱することと、
露点−10℃以下の雰囲気下において、前記加熱後の負極活物質の粉末を用いてスラリーを調製することと、
前記雰囲気下において、前記スラリーを用いて負極を作製することと、
を具備する、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質の粉末を、250℃以上650℃以下の温度範囲で加熱することを含む、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−45757(P2013−45757A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185187(P2011−185187)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】