説明

非水電解質二次電池用正極およびそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】集電体の劣化を抑制しつつ、捲回しても集電体から活物質層がはがれにくく、高容量であり、かつ特に高電流密度で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極およびそれを用いた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】集電体と、活物質層とを含み、活物質層は、粒径0.01〜0.5μmの複数の一次粒子が相互に結合してなり、かつ隣接する一次粒子間にネックを有し、活物質層の空隙率が、5〜65%である、非水電解質二次電池用正極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極に関し、特に高率充放電において良好な充放電特性を示す非水電解質二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話などの電子機器のモバイル化が急速に進んでいる。これらの電子機器の電源として、小型で軽量かつ高容量な二次電池が必要とされている。また、ハイブリッド自動車(HEV)用の電源として、高率充放電特性に優れた二次電池が必要とされている。これらの理由から、高容量な非水電解質二次電池の開発が広く行われている。
【0003】
非水電解質二次電池の更なる高エネルギー密度化を実現するために、高容量な活物質の開発が進められている。また、電極の活物質密度(充填率)を向上させるために様々な取り組みが行われている。例えば、電極の活物質密度を高めるために、導電剤や樹脂製の結着剤を用いずに、集電体表面に活物質を直接堆積させ、緻密な活物質層を形成することが提案されている。更に、高電流密度での充放電特性を向上させるために、活物質の構造を制御する研究が行われている。
【0004】
特許文献1は、活物質密度の高い電極を得るために、電子サイクロトロン共鳴スパッタ法により、正極活物質LiCoO2を集電体表面に直接堆積させることを提案しており、全固体電池用の電極として、厚さ2.6μm程度の活物質層を開示している。RF−スパッタ法の成膜速度が2.4nm/minであるのに対して、電子サイクロトロン共鳴スパッタ法の成膜速度は16.6nm/min程度と速くなる。また、電子サイクロトロン共鳴スパッタ法で得られる活物質は、RF−スパッタ法で得られるものより結晶性が比較的高くなり、電池の充放電特性が向上する。
【0005】
非特許文献1も、特許文献1と同様に電子サイクロトロン共鳴スパッタ法により、正極活物質を集電体表面に直接体積させることを提案している。
【0006】
特許文献2は、比表面積が大きい活物質粒子を用いて、高率充放電での充放電特性を向上させることを提案している。活物質粒子は、平均粒子径が0.1〜1μmである一次粒子の集合体であり、空隙を含む二次粒子である。この二次粒子は長手方向の平均長さが5〜15μmの棒状または板状である。このような活物質粒子は、比面積が大きく、リチウムイオン伝導パスを十分に確保でき、高率充放電での充放電特性とサイクル特性が良好となる。更に、二次粒子が大きいため、高充填が可能で高容量化が可能となる。
【0007】
特許文献3は、レーザー光を用いて、リチウムと遷移金属とを含有する液体原料を熱分解させて、リチウム金属酸化物粒子を合成する方法を提案している。特許文献3の方法によれば、平均粒子径が約100nm以下となり、比表面積が大きい粒子が得られると述べられている。また、ナノ粒子合成を行うチャンバー中に基板を設置し、粒子を堆積させることで薄膜形成が可能となると述べられている。
【0008】
特許文献4は、ナノ粒子を含むコロイド溶液を熱プラズマ中へ噴霧し、ナノ構造を有する膜を製造する方法を提案している。
【特許文献1】特開2007−5219号公報
【特許文献2】特開2004−265806号公報
【特許文献3】特開2003−536231号公報
【特許文献4】特表2008−517159号公報
【非特許文献1】M.Hayashi et al. Preparation of positive LiCoO2 films by electron cyclotron resonance(ECR)plasma sputtering method and its application to all-solid-state thin-film lithium batteries, Journal of Power Sources, ELSEVIER, Vol.174, pp990-995, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1および非特許文献1は、いずれも全固体電池等に用いられる薄膜電極の製造方法に関する。一般的な非水電解質二次電池用電極の活物質層は、10μm以上、例えば60μm程度の厚さを有する。特許文献1および非特許文献1が提案している電子サイクロトロン共鳴(ECR)スパッタ法は、RF−スパッタ法よりも成膜速度が遅く、一般的な厚さの活物質層を形成するには成膜速度が不十分である。さらに、特許文献1および非特許文献1の方法で得られる活物質層は緻密な膜であるため、リチウムイオン導電パスが形成されにくい。よって、上記活物質層の厚さが比較的大きい場合、電気化学的な反応が困難となり、特に高率充放電での充放電特性が悪くなる。また、このような活物質層は、極板を捲回するときに、活物質層が集電体から剥離しやすい。
【0010】
さらに、特許文献1のような方法で得られる電極においては、十分な結晶性を得るためにポストアニールが必要となる場合が多い。ポストアニールを行うことで、活物質の結晶性は高くなるが、集電体が加熱によって劣化してしまう。
【0011】
特許文献2のように比表面積の大きい活物質粒子を用いる場合、電極を作製するためには、多量の導電材や結着材を用いる必要がある。そのため、電極の活物質密度が相対的に小さくなったり、リチウムイオン伝導パスと電子導電パスが遮られたりして、電池容量、特に高率充放電での電池容量が低下すると考えられる。
【0012】
特許文献3のようにレーザー光により液体原料を熱分解させる場合、レーザー光を吸収させて、励起させる液体原料またはガスが必要となるためプロセスコストが高くなる。また、レーザーにより合成された粒子はエネルギーが低いため、活物質と集電体との密着性が不十分となる。そのため、活物質と集電体との間の電子抵抗が大きくなりやすい。また、極板を捲回するときに活物質層が集電体から剥離しやすい。
【0013】
さらに、特許文献3のナノ粒子を塗工する場合、高度な分散技術が必要であり、プロセスコストが高くなる。また、ナノ粒子は比表面積が大きいため、電極を作製する際に多量の導電材と結着材とを用いる必要があり、特許文献2と同様に電池容量が低下する。
【0014】
特許文献4のように、ナノ粒子を含むコロイド溶液を熱プラズマ中へ直接投入する場合、コロイド溶液の分解や気化等のためにプラズマのエネルギーが多く奪われるため、プラズマの温度が低下する。したがって、基板と粒子に与えられるエネルギーが低くなり、基板上で焼結やアニール等が起こりにくくなるため、粒子サイズが小さくなる。そのため、粒子と基鵜川板および隣接する粒子間での接触面積が小さくなる。したがって、活物質と集電体との密着性が不十分となり、活物質と集電体との間の電子抵抗が大きくなりやすい。
【0015】
そこで、本発明は、集電体の劣化を抑制しつつ、捲回しても集電体から活物質層がはがれにくく、高容量であり、かつ特に高電流密度で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、集電体と、活物質層とを含み、活物質層は、粒径0.01〜0.5μmの複数の一次粒子が相互に結合してなり、かつ隣接する一次粒子間にネックを有し、活物質層の空隙率が、5〜65%である非水電解質二次電池用正極を提供する。
【0017】
本発明の一形態において、集電体は、アルミニウムからなる。このとき、集電体の比抵抗は、2×10-8〜1×10-5Ω・mであることが好ましい。
また、集電体は、ステンレス鋼であってもよい。このとき、集電体の比抵抗は、60×10-8〜10×10-5Ω・mであることが好ましい。
集電体がアルミニウムからなる場合、その伸び率は、10%以上であることが好ましい。
集電体がステンレス鋼からなる場合、その伸び率は、10%以上であることが好ましい。
活物質層は、六方晶の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物を含むことが好ましい。このとき、活物質層のX線回折像は、(101)面に帰属されるピークおよび(110)面に帰属されるピークを有することが好ましい。
本発明の非水電解質二次電池用正極において、ネックの部分は、隣接する一次粒子間の拡散結合により形成され、一次粒子と同じ材料を含むことが好ましい。
本発明の非水電解質二次電池用正極においては、集電体と、活物質層とが、拡散結合していることが好ましい。
活物質層は、集電体側の空隙率が、表面側の空隙率よりも小さくなっていることが好ましい。本発明において、活物質層の集電体側とは、活物質層と集電体とが接する面から、全体の10分の1の厚さまでの領域をいう。
【0018】
また、本発明は、正極、負極、非水電解質および正極と負極との間に介在する多孔質絶縁層を有し、正極が、上記のいずれかの非水電解質二次電池用正極である、非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、集電体の劣化を抑制しつつ、捲回しても集電体から活物質層がはがれにくく、高容量であり、かつ特に高電流密度で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極および非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の非水電解質二次電池用正極の一例の断面を示す電子顕微鏡写真である。
本発明の非水電解質二次電池用正極は、集電体20と、活物質層21とを含む。活物質層21は、複数の一次粒子が相互に結合してなり、かつ隣接する一次粒子間にネックを有する。一次粒子の粒径は0.01〜0.5μmである。ネックの部分が隣接する一次粒子間の拡散結合により形成される場合、ネックの部分は一次粒子と同じ材料を含む。
【0021】
複数の一次粒子が相互に結合している状態とは、1つの一次粒子に対して、少なくとも1つ以上他の一次粒子が結合している状態をいう。これにより、捲回しても集電体から活物質層がはがれにくくなる。1つの一次粒子に結合している他の一次粒子の数は、特に限定されない。
【0022】
複数の一次粒子は、相互に導通するように結合していることが好ましい。これにより、良好な導電性を有する活物質層が得られる。よって、本発明によれば、導電材を使用する必要がない。使用する場合でも、導電材の量は、例えば活物質100重量部あたり0.1〜3重量部と少量にすることができる。
【0023】
リチウムイオンの拡散抵抗は、非水電解質中より活物質中のほうが大きい。そのため、活物質中でのリチウムイオンの拡散距離を短くすることで、高率充放電での放電特性が向上する。そこで、本発明では、活物質層を、粒径0.01〜0.5μmの一次粒子で構成している。これにより、拡散抵抗が大きい活物質中における、リチウムイオンの拡散距離を短くすることができる。
【0024】
一次粒子の粒径は、0.01〜0.5μmであるが、その平均粒径は、0.05〜0.3μmであることが好ましい。一次粒子の粒径が0.01μmより小さいと、一次粒子が活物質層から剥がれやすくなる場合がある。一方、一次粒子の粒径が0.5μmを超えると、活物質中でのリチウムイオンの拡散距離を十分に短くすることができない場合がある。そのため、高率充放電での放電特性を向上させる効果が不十分となる場合がある。
【0025】
集電体と、活物質層とは拡散結合していることが好ましい。これにより、活物質を集電体に付着させるための結着剤を用いることなく、十分な結着性が得られる。すなわち、本発明の非水電解質二次電池用正極は、結着剤を含む必要がない。結着剤は、主に樹脂からなり、充放電容量には寄与しない。本発明の活物質層は結着剤を含む必要がないため、活物質が活物質層の表面に多く露出する。よって、高容量であり、かつ高電流密度での充放電特性が良好な非水電解質二次電池用正極が得られる。
ただし、本発明は、結着剤を含む場合を排除するものではなく、活物質層の強度を補強する目的で、少量の樹脂からなる結着剤を用いてもよい。この場合、結着剤の量は、活物質100重量部あたり0.1〜3重量部であることが好ましい。
【0026】
上記のような活物質層は多くの空隙を含むため、非水電解質の保液性に優れる。本発明において、活物質層の空隙率は5〜65%である。活物質層の空隙率は、例えば8〜50%であることがより好ましく、10〜40%であることが特に好ましい。空隙率が5%より小さいと、非水電解質を十分に保液できない場合がある。空隙率が65%を超えると、活物質の充填密度が小さくなり、電池容量が不十分となる場合がある。活物質層の空隙率が5〜65%であることで、活物質層の比表面積が大きくなるため、活物質層と非水電解質との接触面積も大きくなり、良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極が得られる。
【0027】
活物質層において、集電体側の空隙率は、表面側の空隙率よりも小さいことが好ましい。これにより、活物質層と集電体とを十分に結合することができ、かつ、活物質層の比表面積をより大きくすることができる。
【0028】
活物質層の厚さは、0.1〜120μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。活物質層の厚さが120μmを超えると、特に電極群の捲回時に、活物質層から活物質が欠落しやすくなる場合がある。
【0029】
正極活物質は、リチウム含有複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物は六方晶の結晶構造を有することが好ましく、層状構造を有することが好ましく、Co、Ni、Mn、Feなどの遷移金属を含むことが好ましい。具体的には、LiCoO2、LiNi1/2Mn1/22、LiNi1/2Co1/22、LiNiO2、LiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi1/2Fe1/22、LiMn24、LiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4等が挙げられる。正極活物質は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明において、六方晶の活物質層のX線回折像は、(101)面に帰属されるピークおよび(110)面に帰属されるピークを有することが好ましい。このようなピークを有するリチウム含有複合酸化物は結晶性が高く、非水電解質二次電池用の正極活物質とすることで、優れた放電特性が得られる。
【0031】
従来の製造方法(スパッタ法等)で得られるリチウム含有複合酸化物は通常結晶性が低く、上記のようなピークを示さない。これらのリチウム含有複合酸化物に対しては、結晶性を高めるためにポストアニールを行うことが一般的である。この場合、リチウム含有複合酸化物の結晶性は高められるものの、アニールによって集電体が劣化してしまう。すなわち、従来の方法では、リチウム含有複合酸化物の結晶性が高く、かつ集電体が劣化していない非水電解質二次電池用正極を得ることは困難である。
【0032】
活物質層は、空隙率の異なる複数の層を有してもよい。例えば、隣接する一次粒子間にネックを有する活物質層を第1活物質層とするとき、第1活物質層と集電体との間には、第2活物質層があってもよい。第2活物質層は、集電体を保護する保護層の役割を有する。第2活物質層は、第1活物質層よりも活物質密度が大きいことが好ましい。これにより、第2活物質層と集電体もしくは第1活物質層とを十分に結合することができ、かつ、第1活物質層の比表面積が大きくなる。活物質密度をより大きくする観点から、第2活物質層は、第1活物質層よりも空隙が少ないことが好ましい。
【0033】
第1活物質層の空隙率は、8〜65%であることが好ましく、第2活物質層の空隙率は、5〜40%であることが好ましい。第2活物質層の空隙率が上記の範囲であることで、第1活物質層を形成する際に、集電体を良好に保護することができるため、第1活物質層の成膜速度を早くすることができる。
【0034】
第1活物質層の厚さは、0.1〜80μmであることが好ましく、10〜80μmであることが更に好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。第2活物質層の厚さは、第1活物質層の厚さの10分の1以下であることが好ましく、例えば、0.01〜8μmであることが好ましい。
【0035】
第2活物質層は、第1活物質層に含まれる一次粒子よりも小さい一次粒子を含んでいてもよい。これにより、活物質密度が大きくなるため、電池容量が向上する。また、第2活物質層を形成することで、集電体を保護することができるため、高い生産性を保ちつつ、良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池用正極を得ることができる。
【0036】
正極用集電体は、特に限定されず、例えば一般的に電気化学素子で使用される導電性材料を用いることができる。具体的には、Al、ステンレス鋼(SUS)、Fe、Ti、Ni、Au、Pt等を用いることが望ましい。これらを含む集電体は、3.5〜4.5V(vs.Li/Li+)程度までLiの脱離反応を行っても、集電体からの金属の溶出が比較的少ない点で好ましい。
【0037】
本発明の好ましい一形態において、集電体は、アルミニウムからなる。このとき、集電体の比抵抗は、2×10-8〜1×10-5Ω・mであることが好ましい。また、アルミニウムの伸び率は、10%以上であることが好ましく、11〜30%であることが更に好ましい。アルミニウムからなる集電体の厚さは、例えば5〜30μmである。
長さLの集電体を所定の強さで引っ張ったとき、破断する直前の長さをL+αとすると、集電体の伸び率は、α/L×100で表される。
【0038】
活物質層を形成した後の集電体の比抵抗は、例えば2短針測定や4短針測定により測定することができる。また、活物質層を形成した後の集電体の伸び率は、例えば、活物質層を削り取った集電体を所定の強さで引っ張り、破断する直前の長さを測定することで求められる。
【0039】
本発明の他の好ましい一形態において、集電体は、ステンレス鋼からなる。このとき、集電体の比抵抗は、60×10-8〜10×10-5Ω・mであることが好ましい。また、ステンレス鋼の伸び率は、10%以上であることが好ましく、10〜40%であることが更に好ましい。ステンレス鋼からなる集電体の厚さは、例えば5〜200μmである。
【0040】
集電体が鉄からなる場合、その比抵抗は、10×10-8〜10×10-6Ω・mであることが好ましい。
集電体がチタンからなる場合、その比抵抗は、50×10-8〜10×10-6Ω・mであることが好ましい。
集電体がニッケルからなる場合、その比抵抗は、6×10-8〜10×10-6Ω・mであることが好ましい。
ポストアニールなどにより集電体を700℃以上で加熱すると、上記の比抵抗や伸び率を満足することができなくなる。
【0041】
上記の非水電解質二次電池用正極は、例えば、熱プラズマを利用する成膜装置を用いて形成することができる。本発明の非水電解質二次電池用正極は、例えば、熱プラズマ中に原料を供給する工程と、熱プラズマ中で、供給された原料から、活物質の一次粒子を得る工程と、一次粒子を相互に結合させるとともに集電体表面に堆積させて、活物質層を得る工程とを含む製造方法により得られる。
【0042】
熱プラズマを用いることで、隣接する一次粒子間にネックを有する活物質層が形成される詳細なメカニズムは不明だが、以下のように考えられる。
熱プラズマ中で生成する粒子は、集電体付近で冷却され、複数の粒子が結合して、ナノサイズのクラスタが形成される。ナノクラスタは、集電体上もしくは活物質層に付着し、集電体上に堆積する。熱プラズマから粒子にエネルギーが与えられ続けることで、一次粒子が相互に結合してなりかつ隣接する一次粒子間にネックを有する活物質層が形成されると考えられる。熱プラズマを利用して成膜することで、結着剤を含まない活物質層を容易に形成することができるため、結着剤を必要とするプロセスより高容量な電池が得られる。
【0043】
スパッタ法等の従来の製造方法で形成される活物質層は、非晶質であることが多いため、ポストアニールを行い、結晶性を高める必要がある。ポストアニールでは、700〜900℃程度で正極を加熱するため、集電体が劣化したり、変形したりしやすい。例えば、アルミニウムが劣化した場合、その比抵抗は通常0.1〜10MΩ・mとなる。
【0044】
一方、本発明では、熱プラズマを用いて活物質層を成膜するため、結晶性の高い活物質層が得られる。本発明によれば、結晶性を高めるためのポストアニールを行う必要がないため、集電体の劣化が抑制された非水電解質二次電池用正極が得られる。
【0045】
熱プラズマ中に供給する原料は、液体状態であっても、粉末状態であっても良い。ただし、原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する方が簡便であり、製造コスト上も有利である。また、粉末状態の原料は、液体状態の原料(例えば、アルコキシド等)よりも比較的安価である。
【0046】
原料を液体状態で熱プラズマ中に供給すると、溶媒や炭素等の不純物の除去が必要になる場合がある。一方、原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する場合、上記のような不純物がほとんど含まれないため、優れた電気化学特性を有する非水電解質二次電池用正極を得ることができる。
【0047】
原料を粉末状態で熱プラズマ中に供給する場合、原料のD50(体積基準のメディアン径)は、5μm未満であることが好ましい。原料のメディアン径が5μmを超えると、熱プラズマ中で原料が十分に気化もしくは分解せず、活物質が生成しにくい場合がある。
【0048】
活物質の原料には、様々な材料を用いることができる。例えば、(i)遷移金属化合物を含む原料、(ii)遷移金属化合物とリチウム化合物とを含む原料、(iii)リチウム含有遷移金属酸化物を含む原料等が挙げられる。
【0049】
遷移金属化合物としては、例えば、ニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物および鉄化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ニッケル化合物としては、例えば、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケルなどが挙げられる。コバルト化合物としては、例えば、酸化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、水酸化コバルトなどが挙げられる。マンガン化合物は、例えば、酸化マンガン、炭酸マンガンなどが挙げられる。鉄化合物としては、例えば、酸化鉄、炭酸鉄などが挙げられる。
【0050】
リチウム化合物としては、例えば酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウムおよび硝酸リチウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
例えば、リチウム遷移金属酸化物を含む活物質層を形成する場合、リチウム化合物と、遷移金属を含む化合物とを、活物質の原料として熱プラズマ中へ供給する。これらの化合物は、別々に熱プラズマ中へ供給してもよいが、十分に混合してから熱プラズマへ供給することが好ましい。
【0052】
熱プラズマ中では、リチウムが蒸発しやすいため、原料におけるリチウム化合物の混合比は、目的とする活物質におけるリチウムの化学量論比よりも大きいことが好ましい。
【0053】
以下、具体的な材料の組み合わせを例示する。
LiCoO2を含む活物質層を形成する場合、活物質の原料には、リチウム化合物と、コバルト化合物とを用いることが好ましい。
LiNixCo1-x2を含む活物質層を形成する場合、活物質層の原料には、リチウム化合物と、コバルト化合物と、ニッケル化合物とを用いることが好ましい。
LiNixMn1-x2を含む活物質層を形成する場合、活物質層の原料には、リチウム化合物と、マンガン化合物と、ニッケル化合物とを用いることが好ましい。
LiNixFe1-x2を含む活物質層を形成する場合、活物質層の原料には、リチウム化合物と、ニッケル化合物と、鉄化合物とを用いることが好ましい。
【0054】
リチウム含有遷移金属酸化物(活物質自体)を、原料として用いることもできる。熱プラズマ中へ供給されたリチウム含有遷移金属酸化物は、溶解、気化、分解された後、再合成されて、集電体に堆積する。
【0055】
原料として用いられるリチウム含有遷移金属酸化物としては、例えば、LixNiyCo1-y-zAlz2、LixNiyMn1-y2、LixNiyFe1-y2、LixNi1/3Mn1/3Co1/32、LixMn24、LiNbO3、LixFeyMn1-yPO4およびLixCoPO4(0.8≦x≦1.5、0≦y≦1、0≦z≦0.2)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
成膜速度を向上させるためには、活物質の原料の供給速度を速くする必要があるが、それに伴って必要なエネルギー量が大きくなる。しかし、エネルギー量が大きすぎると、活物質や集電体が変質し、電池容量が低下する場合がある。そこで、先に比較的小さい一次粒子を含む第2活物質層を形成し、その後比較的大きい一次粒子を含む第1活物質層を形成することが好ましい。
【0057】
まず、比較的小さいエネルギーで、第2活物質層を形成する。第2活物質層は、集電体を保護する役割を有するため、集電体の変質を抑制できる。これにより、早い成膜速度で第1活物質層を形成することができる。
【0058】
熱プラズマを利用する成膜装置の一例について、図面を参照しながら説明する。
図2は、成膜装置の概略を示す縦断面図である。成膜装置は、成膜のための空間を与えるチャンバー1と、熱プラズマ発生源とを備える。熱プラズマ発生源は、熱プラズマを発生させる空間を与えるトーチ10と、トーチ10を囲む誘導コイル2とを備える。誘導コイル2には、電源9が接続されている。
【0059】
チャンバー1は、必要に応じて、排気ポンプ5を備えてもよく、無くてもよい。排気ポンプ5でチャンバー1内に残存する空気を除去してから、熱プラズマを発生させることで、不純物のコンタミネーションを抑制することができる。排気ポンプ5を用いることで、プラズマのガス流の形状を制御しやすくなる。さらに、チャンバー1内の圧力等、成膜条件の制御が容易となる。チャンバー1は、粉塵を採取するためのフィルタ(図示せず)等を備えてもよい。
【0060】
トーチ10の鉛直下方には、ステージ3が設置されている。ステージ3の材質は特に限定されないが、耐熱性に優れたものであることが好ましく、例えばステンレス鋼等が挙げられる。ステージ3には、集電体4が配置される。ステージ3は、必要に応じて、集電体を冷却する冷却部(図示せず)を有してもよい。
【0061】
トーチ10の一方の端部は、チャンバー1側に解放されている。高周波電圧を用いる場合、トーチ10は、優れた耐熱性および絶縁性を有する材質からなることが好ましく、例えばセラミックス(石英や窒化珪素)等からなることが好ましい。トーチ10の内径は特に限定されない。トーチの内径を大きくすることで、反応場をより広くすることができる。よって、効率よく活物質層を形成することができる。
【0062】
トーチ10の他端には、ガス供給口11と、原料供給口12とが配置されている。ガス供給口11は、バルブ7aおよび7bを介して、ガス供給源6aおよび6bとそれぞれ接続されている。原料供給口12は、原料供給源8と接続されている。ガス供給口11からトーチ10へガスを供給することで、熱プラズマを効率よく発生させることができる。
【0063】
熱プラズマを安定化させ、熱プラズマ中のガス流を制御する観点から、ガス供給口11は複数設けられていてもよい。ガス供給口11を複数設ける場合、ガスを導入する方向は特に限定されず、トーチ10の軸方向や、トーチ10の軸方向と垂直な方向等であってもよい。トーチ10の軸方向からのガス導入量と、トーチ10の軸方向と垂直な方向からのガス導入量との比は、100:0〜10:90であることが好ましい。トーチ10の軸方向からのガス導入量が多いほど、熱プラズマ中のガス流は細くなり、ガス流の中心部分が高温となるため、原料を気化、分解し易くなる。熱プラズマを安定化させる観点から、マスフローコントローラ(図示せず)等を用いてガス導入量を制御することが好ましい。
【0064】
電源9から誘導コイル2に電圧を印加すると、トーチ10内で熱プラズマが発生する。印加する電圧は、高周波電圧であってもよく、直流電圧であってもよい。もしくは、高周波電圧と直流電圧とを併用してもよい。高周波電圧を用いる場合、その周波数は、1000Hz以上であることが好ましい。誘導コイル2の材質は、特に限定されないが、銅等の抵抗の低い金属を用いればよい。
【0065】
熱プラズマを発生させる際、誘導コイル2およびトーチ10は高温となる。よって、誘導コイル2およびトーチ10の周囲には、冷却部(図示せず)を設けることが好ましい。冷却部としては、例えば水冷冷却装置等を用いればよい。
【0066】
次に、本発明の非水電解質二次電池について説明する。
本発明の非水電解質二次電池は、正極、負極、非水電解質および正極と負極との間に介在する多孔質絶縁層を有する。本発明の非水電解質二次電池は、上記の非水電解質二次電池用正極を含むものであり、その他の構成は特に限定されない。
【0067】
本発明において、非水電解質二次電池は、捲回型であってもよく、積層型であっても良い。本発明の非水電解質二次電池用正極は、活物質層が柔軟で密着性に優れるため、容易に捲回することができる。
【0068】
非水電解質二次電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
図3は、コイン型の非水電解質二次電池を概略的に示す縦断面図である。コイン型の非水電解質二次電池は、負極活物質層33と、正極36と、これらの間に介在する多孔質絶縁層35と、非水電解質(図示せず)とを含む。負極は、負極集電体34と、負極集電体に形成される負極活物質層33とを含む。負極集電体34には、皿バネ37が接続されている。皿バネ37は、正極、負極および多孔質絶縁層を圧縮している。多孔質絶縁層35には、非水電解質が含浸されている。負極端子を兼ねるケース31と負極端子を兼ねる封口板38とは、ガスケット32によって互いに絶縁されている。
【0069】
負極活物質としては、炭素材料、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物などが用いられる。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが好ましい。金属もしくは合金としては、リチウム単体、リチウム合金、ケイ素単体、ケイ素合金、スズ単体、スズ合金などが好ましい。金属酸化物としては、SiOx(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1.2)などが好ましい。
【0070】
負極用集電体は特に限定されず、例えば電気化学素子で一般的に使用される導電性材料を用いることができる。具体的には、Cu、Ni、ステンレス鋼(SUS)等を用いることが望ましい。これらの集電体は、負極電位が0〜3.5V(vs. Li/Li+)程度になるまでLiの挿入反応を行っても、集電体からの金属溶出が比較的少ない点で好ましい。
【0071】
多孔質絶縁層には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、アミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド等からなる不織布や微多孔膜を用いることができる。不織布や微多孔膜は、単層であってもよく、多層構造であってもよい。多孔質絶縁層の内部または表面には、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニア等の耐熱性フィラーが含まれていてもよい。
【0072】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した溶質とを含む。溶質は、特に限定されず、活物質の酸化還元電位等を考慮して適宜選択すればよい。好ましい溶質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiOCOCF3、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiF、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O')ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウム等のホウ酸塩類、LiN(CF3SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiN(C25SO22、テトラフェニルホウ酸リチウム等が挙げられる。
【0073】
非水溶媒も特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシメタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、トリメトキシメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のテトラヒドロフラン誘導体、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、スルホラン、3−メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、エチルエーテル、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、フルオロベンゼン等を用いればよい。これらは1種のみ単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
非水電解質は、添加剤を含んでもよい。添加剤は特に限定されないが、例えば、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、ジアリルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、カテコールカーボネート、酢酸ビニル、エチレンサルファイト、プロパンサルトン、トリフルオロプロピレンカーボネート、ジベンゾフラン、2,4−ジフルオロアニソール、o−ターフェニル、m−ターフェニル等が挙げられる。
【0075】
非水電解質は、高分子材料を含む固体電解質であってもよく、更に非水溶媒を含むゲル状電解質であってもよい。高分子材料としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。
【0076】
さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、Li3PO4−Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物等の無機材料を固体電解質としてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、これらの実施例および比較例は、本発明を限定するものではない。
《実施例1》
(1)正極の作製
成膜装置として、内容積6250cm3のチャンバーと、熱プラズマ発生源とを備える日本電子(株)製の高周波誘導熱プラズマ発生装置(TP−12010)を用いた。熱プラズマ発生源には、Φ42mmの窒化珪素管からなるトーチと、トーチを囲む銅製の誘導コイルとを用いた。
【0078】
チャンバー内のトーチの下端から345mmの位置にステージを配置した。ステージ上には、SUS板からなる集電体(厚さ0.1mm)を配置した。その後、アルゴンガスを用いてチャンバー内の空気を置換した。
【0079】
チャンバーにアルゴンガスを流量50L/minで導入し、酸素ガスを流量30L/minで導入した。チャンバー内の圧力は18kPaとした。誘導コイルに42kW、周波数3.5MHzの高周波電圧を印加し、熱プラズマを発生させた。
【0080】
原料には、Li2OとCo34との混合物を用いた。Li2Oは30μm以下に分級した。Co34の(体積基準の)平均粒径D50は5μmとした。Li2OとCo34は、化学量論比でLi:Co=1.5:1となるように混合した。アルゴンガスを50L/min、酸素ガスを30L/minで一本の流路に導入し、これらの混合ガスを2方向からチャンバーに導入した。ここでは、トーチの軸方向と略垂直な方向からのガス導入量Dxと、トーチの軸方向からのガス導入量Dyとの比率(以下、Dx:Dyとする)を30:60とした。原料の熱プラズマ中への供給速度を0.24g/minとして、3分間成膜を行った。その後、Dx:Dyを40:50とし、原料の熱プラズマ中への供給速度を0.1g/minとして、20分間成膜を行って、厚さ0.73μmの活物質層を形成した。
これにより、0.01〜0.5μmの一次粒子を相互に導通するように結合させた活物質層を形成した。
【0081】
実施例1で作製したLiCoO2/SUSとLiCoO2粉のX線回折パターンとを図4に示す。図4のX線回折パターンより、実施例1で得られた正極板のメインピークがLiCoO2であることを確認した。
活物質層のICP分析を行ったところ、活物質層における元素比は、Li:Co=1.2:1(モル比)であることが確認された。
【0082】
極板中のLiCoO2の重量は、極板を全溶解して、ICP分析でLiとCoの絶対量を求めた後、Coの物質量を算出して求めた。CoはすべてLiCoO2となっていると仮定し算出した。
【0083】
活物質層を形成した後の集電体の比抵抗を4短針測定で測定したところ、200×10-8Ω・mであった。
また、活物質層を削り取った集電体を両端から長さ方向に一定速度で引っ張り、集電体の伸び率を測定した。活物質層を削り取った集電体の伸び率は、20%であった。
【0084】
(2)非水電解質の調製
非水溶媒に対して、溶質であるLiPF6を1.25mol/Lの濃度で溶解させて、非水電解質を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:3の混合液を用いた。
【0085】
(3)電池の作製
図4に示すようなコイン型非水電解質二次電池を作製した。
封口板38の内側に、厚さ0.3mmのリチウム箔を負極36として貼り付けた。その上に多孔質絶縁層35を配置した。多孔質絶縁層35の上に、正極活物質層33が多孔質絶縁層35と対面するように正極を配置した。正極集電体34の上には皿バネ37を配置した。非水電解質を封口板38が満たされるまで注液した後、ガスケット32を介してケース31を封口板38にはめ込み、コイン型電池を作製した。
【0086】
《比較例1》
ステージ上にAu板からなる集電体(厚さ1mm)を配置し、マグネトロンスパッタリング装置を用いて、集電体上に活物質層を形成した。ターゲットには、LiCoO2を用いた。ターゲットの径は3インチとした。ステージ上の集電体とターゲットとの距離は、3.0cmとした。
【0087】
ロータリーポンプと拡散ポンプとを用いて、チャンバー内の真空度を5×10-2Paとした。その後、チャンバー内の真空度が1Paとなるように、チャンバー内にアルゴンガスを流量8×10-2L/minで導入し、酸素ガスを流量2×10-2L/minで導入した。ターゲットに80W、周波数13.56MHzの高周波電圧を印加し、プラズマを発生させた。集電体付近の温度を25℃とし、成膜時間を1時間40分として、活物質層を形成した。その後、活物質層を形成した集電体を、マッフル炉を用いて800℃で1時間焼成した。得られた活物質層の厚さは0.71μmであった。
活物質層のICP分析を行ったところ、Li:Co=0.98:1であることが確認された。
上記の正極を用いたこと以外、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製した。
【0088】
《比較例2》
SUS板からなる集電体(厚さ0.1mm)を用いたこと以外、比較例1と同様にして、集電体上に活物質層を形成した。活物質層を形成した集電体をマッフル炉で800℃、1時間焼成したところ、集電体が大きく変形していた。そのため、比較例2では、電池を作製することができなかった。マッフル炉で焼成した後の集電体は、比抵抗が大きくなり、導電性が低下していた。
【0089】
実施例1のコイン型電池のサイクリックボルタムメトリーを行った。温度条件は20℃とし、Li/Li+を基準として3.0〜4.3Vの範囲で掃印速度を0.1mV/sとして測定した。得られたサイクリックボルタモグラムを図5に示す。
【0090】
図5より、実施例1で作製したコイン電池を用いたサイクリックボルタムメトリーにおいて、LiCoO2の酸化還元反応に由来する酸化側の3.94Vのピーク電流と、還元側の3.88Vのピーク電流を確認した。
【0091】
実施例1および比較例1のコイン電池の充放電を行った。Li/Li+を基準として3.05〜4.25Vの範囲で充放電を行い、0.2C、2Cの放電容量を測定した。温度条件は20℃とした。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例1の電池の放電容量は、比較例1の電池の放電容量よりも大きかった。特に、実施例1は、高率充放電である2Cでの放電容量が大きかった。
【0094】
図2は、実施例1の正極の活物質層の断面を示す電子顕微鏡写真である。図6は、実施例1の正極の活物質層の表面を示す電子顕微鏡写真である。
実施例1の活物質層では、一次粒子が相互に導通し、かつ隣接する一次粒子間にネックが形成されていた。実施例1において、一次粒子の直径は、0.06〜0.4μmであり、その平均値は、0.13μmであった。
【0095】
実施例1の活物質充填率は52%であった。よって、実施例1の活物質層の空隙率は48であった。活物質充填率は、以下のようにして求めた。まず、極板を全て溶解した後にICP分析を行って、極板に含まれるCoの絶対量を求めた。次に、Coが全てLiCoO2になっていると仮定して、成膜したLiCoO2の体積を算出した。充填率は、この体積を集電体の面積と平均膜厚をかけた体積で割ることで求めた。また、活物質層の断面を確認したところ、集電体側の空隙率は、表面側の空隙率よりも小さくなっていた。
【0096】
図7は、比較例1の正極の活物質層の表面を示す電子顕微鏡写真である。比較例1の正極活物質層は、Φ0.5μm程度の大きさの粒子から構成された緻密な膜であった。比較例1の正極活物質層の活物質充填率は、97%であった。すなわち正極活物質層の空隙率は、3%であった。
【0097】
図2および6(実施例1)と、図7(比較例1)とを比較すると、比較例1よりも実施例1の方が活物質の比表面積が大きい。そのため、集電体付近まで非水電解質が十分に浸透し、良好なリチウムイオンの導電パスが確保され、高率充放電での充放電特性が向上したと考えられる。
【0098】
次に、実施例1および比較例1のコイン電池の交流インピーダンスを測定した。測定温度は20℃とした。複素インピーダンスプロットを図8に示す。
【0099】
実施例1では交流インピーダンスを示す円弧が小さくなっていた。実施例1の活物質層は、比較例1の活物質層よりも比表面積が大きいため、交流インピーダンスが小さくなったと考えられる。このことは、本発明の正極が、高率放電での容量が大きい理由の一つと考えられる。
【0100】
以上より、本発明の非水電解質二次電池用正極を用いることで、高容量であり、かつ特に高率充放電で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の非水電解質二次電池用正極を用いることで、高容量であり、かつ特に高率充放電で良好な充放電特性を有する非水電解質二次電池を提供することができる。この非水電解質二次電池は、携帯電話などの携帯型電子機器や、大型の電子機器等の電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池用正極の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】成膜装置の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図3】コイン型の非水電解質二次電池を概略的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る正極LiCoO2のX線回折パターンと、LiCoO2粉のX線回折パターンを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池用正極の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例に係る非水電解質二次電池用正極の表面を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1および比較例1のコイン電池の交流インピーダンス特性を示す複素インピーダンスプロット図である。
【符号の説明】
【0103】
1 チャンバー
2 誘導コイル
3 ステージ
4 集電体
5 排気ポンプ
6a、6b ガス供給源
7a、7b バルブ
8 原料供給源
9 電源
10 トーチ
11 ガス供給口
12 原料供給口
20 集電体
21 負極活物質層
31 外装ケース
32 ガスケット
33 負極活物質層
34 負極集電体
35 多孔質絶縁層
36 正極
37 皿バネ
38 封口板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、活物質層とを含み、
前記活物質層は、粒径0.01〜0.5μmの複数の一次粒子が相互に結合してなり、かつ隣接する一次粒子間にネックを有し、
前記活物質層の空隙率が、5〜65%である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記集電体がアルミニウムを含み、その比抵抗が、2×10-8〜1×10-5Ω・mである、請求項1記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記集電体がステンレス鋼を含み、その比抵抗が、60×10-8〜10×10-5Ω・mである、請求項1記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記集電体がアルミニウムを含み、その伸び率が、10%以上である、請求項1または2記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記集電体がステンレス鋼を含み、その伸び率が、10%以上である、請求項1または3記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記活物質層が、六方晶の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物を含み、前記活物質層のX線回折像が、(101)面に帰属されるピークおよび(110)面に帰属されるピークを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
前記ネックの部分が、前記隣接する一次粒子間の拡散結合により形成され、前記一次粒子と同じ材料を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
前記集電体と、前記活物質層とが、拡散結合している、請求項1〜7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項9】
前記活物質層は、集電体側の空隙率が、表面側の空隙率よりも小さい、請求項1〜8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項10】
正極、負極、非水電解質および前記正極と前記負極との間に介在する多孔質絶縁層を有し、前記正極が、請求項1〜9のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極である、非水電解質二次電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−165644(P2010−165644A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9275(P2009−9275)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】