説明

非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池

【課題】本発明の目的は原料コストが安く、電池抵抗が低減され、高温保存特性が向上した非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池を提供することである。
【解決手段】スピネル構造のマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極活物質において、前記マンガン酸リチウムはリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質、及びそれを用いた非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池に関する。特に、高温保存特性が向上し、電池抵抗が低減されるスピネル構造のマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、VTR、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器の普及及び小型化が進み、その電源用にリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池が用いられるようになってきている。更に、最近の環境問題への対応から、電気自動車等の動力用電池としても注目されている。
【0003】
リチウム二次電池用正極活物質としてはLiCoO(コバルト酸リチウム)が4V級の二次電池を構成できるものとして一般的に広く採用されている。
【0004】
しかしながら、コバルト酸リチウムはその原材料にコバルトを含む。コバルトは希少資源であり、コストがかかる。そのため、比較的豊富な資源であるマンガンを原材料としたLiMn等のマンガン酸リチウムが検討されている。
【0005】
マンガン酸リチウムはコバルト酸リチウムと同様に4V級の二次電池を構成できるが、導電性が低いため電池の内部抵抗が増大して電池特性が低下するという問題がある。その対策として、カーボンブラック等の導電材を添加して電池の内部抵抗を低減する手法や、マンガン酸リチウムの表面を導電性の高い酸化タングステン等で被覆して正極活物質自体の特性を改善する手法(特許文献1)が用いられている。
【0006】
また、マンガン酸リチウムは充放電時あるいは高温保存時(特に85℃以上)にMnが電解液に溶出し、結果としてサイクル特性の低下を招く。その対策として、マンガン酸リチウムにCr等のLi、Mn以外の多種元素を含有させてMn溶出を少なくする手法(特許文献2)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−320184号公報
【0008】
【特許文献2】特開平11−071115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のこれらの手法では、リチウム二次電池の内部抵抗の低減と高温保存特性の向上を共に満足する効果が得られず、出力特性やサイクル特性が十分でないことから更なる改良が必要であった。本発明は上述の事情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は原料コストが安く、電池抵抗が低減され、高温保存特性が向上した非水電解質二次電池用正極活物質及び非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。本発明者らはスピネル構造のマンガン酸リチウムにリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を存在させることで、電池抵抗が低減され、高温保存特性が向上することを見出した。本発明の特徴は以下の通りである。なお、本発明において、マンガン酸リチウム中のマンガンの一部を他元素で置換したものもまとめてマンガン酸リチウムと呼ぶこととする。
【0011】
(1)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、スピネル構造のマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極活物質において、前記マンガン酸リチウムはリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を有することを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(1)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記マンガン酸リチウムは少なくとも粒子の表面にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(1)又は(2)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記マンガン酸リチウムは二次粒子を有し、該二次粒子の表面及び内部にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(1)乃至(3)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウムホウ素複合酸化物はホウ酸リチウムであり、前記リチウムタングステン複合酸化物はタングステン酸リチウムであることを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(4)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記ホウ酸リチウムはLiであり、前記タングステン酸リチウムはLiWOであることを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(1)乃至(5)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記マンガン酸リチウムのマンガンは、マグネシウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてなることを特徴とする。
【0017】
(7)本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、(1)乃至(6)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記マンガン酸リチウムの組成は一般式
Li1+xMn2−x−y・aLi・bLiWO
(但し、MはMg、Alからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、0≦x≦0.20、0≦y≦0.5、0.0001≦a≦0.005、0.005≦b≦0.1)
で表されることを特徴とする。
【0018】
(8)本発明の非水電解質二次電池は、(1)乃至(7)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を用いた正極活物質層を、帯状正極集電体の少なくとも片面に形成させることにより構成した帯状正極と、
金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物を負極活物質として用いた負極活物質層を、帯状負極集電体の少なくとも片面に形成させることにより構成した帯状負極と、
帯状セパレータとを具備し、
前記帯状正極と前記帯状負極とを前記帯状セパレータを介して積層した状態で複数回巻回させて、前記帯状正極と前記帯状負極との間に前記帯状セパレータが介在している渦巻型の巻回体を構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は上記の特徴を備えているため、高温保存時のマンガン溶出を抑制し、電池抵抗を低減することができる。また、本発明の正極活物質を用いることにより、電池の内部抵抗の低減と高温保存特性の向上を共に満足するリチウム二次電池を得ることができる。さらに、本発明によってコストの安い正極活物質が得られることから、苛酷な環境で使用することが可能で且つ安価な非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は実施例3及び比較例7のX線回折図である。
【図2】図2は本発明において求めた内部抵抗の概念図である。
【図3】図3は実施例1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】図4は電子線マイクロアナライザ(EPMA)のマップ図である。
【図5】図5は電池抵抗と正極活物質のb値との関係を示す図である。
【図6】図6はMn溶出量と正極活物質のb値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の正極活物質について、実施の形態及び実施例を用いて詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0022】
本発明の正極活物質は、リチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を有するスピネル構造のマンガン酸リチウムからなる正極活物質である。前記マンガン酸リチウムは、少なくとも粒子の表面にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することが好ましく、二次粒子を有し、該二次粒子の表面及び内部にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することがより好ましい。前記リチウムホウ素複合酸化物はホウ酸リチウムであることが好ましく、ホウ酸リチウムとしてはメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウムが好ましく、Liで表される四ホウ酸リチウムがより好ましい。また、前記リチウムタングステン複合酸化物はタングステン酸リチウムであることが好ましく、LiWOであることがより好ましい。リチウムとマンガンとタングステンを含む原料中にホウ素を含有させた原料混合物を焼成することにより、リチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が形成され、電池抵抗を低減することができ、高温保存時のマンガン溶出を抑制することができる。これに対し、原料中にホウ素を含有させずに原料混合物を焼成すると、マンガンタングステン複合酸化物が形成されるため、電池抵抗を低減する効果や高温保存時のマンガン溶出を抑制する効果は非常に小さくなってしまう。なお、原料中のリチウム、マンガン、タングステン及びホウ素の添加量は、目的のリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が形成されるように調整する。
【0023】
前記マンガン酸リチウムは、一次粒子及び/又は一次粒子の凝集体である二次粒子を有する。一次粒子径は0.1〜5μmの範囲が好ましく、X線回折装置を用いてラインブロードニング法により結晶子サイズとして求められる。二次粒子径は6〜30μmの範囲が好ましく、レーザー回折装置を用いてレーザー回折散乱法により、体積分布での粒径分布において50%累積径として求められる。このような粒径範囲において本発明の好ましい効果が得られる。
【0024】
本発明の正極活物質は、前記マンガン酸リチウムのマンガンの一部が他の金属元素、例えば、Mg、Al、Cr、Fe、Zr、Co、Niなどの金属元素で置換されていても良く、合計でマンガンの25mol%まで置換可能である。置換量が25mol%を超えるとマンガン酸リチウムのスピネル構造の歪みが大きくなってしまうので好ましくない。特に好ましい置換元素はMgとAlであり、これらの元素で置換することによりサイクル特性や負荷特性の向上が可能である。
【0025】
本発明の正極活物質は、前記マンガン酸リチウムの組成は一般式
Li1+xMn2−x−y・aLi・bLiWO
(但し、MはMg、Alからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、0≦x≦0.20、0≦y≦0.5、0.0001≦a≦0.005、0.001≦b≦0.1)で表されることが特に好ましい。このような組成を有するマンガン酸リチウムは、電池抵抗を低減する効果や高温保存時のマンガン溶出を抑制する効果がさらに向上する。x値は0≦x≦0.15の範囲がより好ましく、y値は0≦y≦0.3の範囲がより好ましく、0≦y≦0.2の範囲がさらに好ましい。この範囲においてさらに効果が大きくなる。a値は一次粒子径の大きさにも関係するため、0.0003≦a≦0.003の範囲がより好ましい。また、b値は0.005≦b≦0.05の範囲がより好ましい。
【0026】
[正極活物質の製造]
本発明の正極活物質は、例えば次のようにして製造することができる。
【0027】
リチウム化合物、マンガン化合物、タングステン化合物、ホウ素化合物、必要に応じて置換金属元素の化合物を目的の組成となるように秤量し、混合する。
【0028】
リチウム化合物は酸化物や、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の加熱分解して酸化物となる物質が使用できる。例えば、Li2O、LiOH、Li2CO3、LiNO3などが使用できる。
【0029】
マンガン化合物は酸化物や、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の加熱分解して酸化物となる物質が使用できる。例えば、MnO2、Mn23、Mn34、Mn(OH)2、MnCO3などが使用できる。
【0030】
マンガンの一部を他の金属元素で置換する場合も、同様に、酸化物や、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の加熱分解して酸化物となる物質が使用できる。例えば、置換元素がマグネシウムの場合はMgO、Mg(OH)2、MgCO3、Mg(NO32などが使用でき、アルミニウムの場合はAl23、Al(OH)、Al(NO3などが使用できる。また、マンガンと置換金属元素を同時に溶解して水溶液とし、水酸化物や炭酸塩などで共沈させた後、沈殿物を加熱分解して得られる共沈酸化物を使用するのが好ましい。
【0031】
タングステン化合物は、酸化物、タングステン酸、タングステン酸塩等、例えば、WO3、H2WO、LiWOなどが使用できる。
【0032】
ホウ素化合物としては、酸化物、ホウ酸、ホウ酸塩等、例えば、B23、HBO3、Liなどが使用できる。ホウ素化合物はフラックスとしても機能し、添加量が多いと一次粒子径が大きくなってしまうため、ホウ素換算で正極活物質に対して0.04mol%〜2mol%、より好ましくは0.12mol%〜1.2mol%添加する。
【0033】
次に、原料混合物を焼成する。焼成温度、時間、雰囲気等は特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。焼成温度は650℃以上であるのが好ましく、700℃以上であるのがより好ましい。焼成温度が低すぎると、未反応の原料が正極活物質に残留し、正極活物質の本来の特徴を生かせない場合がある。また、焼成温度は、1100℃以下であるのが好ましく、950℃以下であるのがより好ましい。焼成温度が高すぎると、正極活物質の粒径が大きくなりすぎて、充放電特性が低下する場合がある。また、LiMnO、LiMnO等の副生成物が生成しやすくなり、単位重量あたりの放電容量の低下、サイクル特性の低下、動作電圧の低下を招く場合がある。焼成時間は1〜48時間であるのが好ましく、6〜30時間がより好ましい。焼成時間が短すぎると、原料粒子間の拡散反応が進行しない。焼成時間が長すぎるのはエネルギーの無駄になるし、また、焼結による粗大粒子が形成されてしまう場合がある。
【0034】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0035】
[正極活物質の作製]
【実施例1】
【0036】
純水中に硫酸アルミニウム、硫酸マンガンをAl:Mn=0.5:9.5となるよう溶解し、12.5体積%のアンモニア水を滴下してpH8以上に調整する。次に炭酸ガスを吹き込み、アルミニウムとマンガンの共沈炭酸塩を得る。得られた共沈炭酸塩を分離、乾燥し、560℃で約3時間熱処理し、アルミニウム−マンガン共沈酸化物を得る。得られたアルミニウム−マンガン共沈酸化物(0.095Al23・1.805Mn23)1.900mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.122mol、酸化タングステン(WO3)0.020mol、及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Al0.095Mn1.805・0.001Li・0.01LiWOで表される正極活物質を得る。なお、正極活物質の組成については、正極活物質を酸で溶解した溶液をICP発光分光分析して求める。
【実施例2】
【0037】
純水中に硫酸マグネシウム、硫酸マンガンをMg:Mn=0.25:9.75となるよう溶解し、12.5体積%のアンモニア水を滴下してpH8以上に調整する。次に炭酸ガスを吹き込み、マグネシウムとマンガンの共沈炭酸塩を得る。得られた共沈炭酸塩を分離、乾燥し、560℃で約3時間熱処理し、マグネシウム−マンガン共沈酸化物を得る。得られたマグネシウム−マンガン共沈酸化物(0.095MgO・1.8525Mn23)1.9475mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.122mol、酸化タングステン(WO3)0.020mol、及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mg0.0475Mn1.8525・0.001Li・0.01LiWOで表される正極活物質を得る。
【実施例3】
【0038】
純水中に硫酸マンガンを溶解し、12.5体積%のアンモニア水を滴下してpH8以上に調整する。次に炭酸ガスを吹き込み、マンガンの炭酸塩を得る。得られた炭酸塩を分離、乾燥し、560℃で約3時間熱処理し、マンガン酸化物を得る。得られたマンガン酸化物(Mn23)1.900mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.122mol、酸化タングステン(WO3)0.020mol、及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mn1.900・0.001Li・0.01LiWOで表される正極活物質を得る。
【実施例4】
【0039】
マンガン酸化物の代わりに電解酸化マンガン(MnO2)を3.800mol用いることを除いて実施例3と同様の操作を行い、一般式がLi1.100Mn1.900・0.001Li・0.01LiWOで表される正極活物質を得る。
【実施例5】
【0040】
マンガン酸化物の代わりに水酸化マンガン(Mn(OH)2)を3.800mol用いることを除いて実施例3と同様の操作を行い、一般式がLi1.100Mn1.900・0.001Li・0.01LiWOで表される正極活物質を得る。
【0041】
[比較例1]
炭酸リチウム(Li2CO3)1.100mol及び電解酸化マンガン(MnO2)3.800molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mn1.900で表される正極活物質を得る。
【0042】
[比較例2]
炭酸リチウム(Li2CO3)1.120mol、電解酸化マンガン(MnO2)を3.800mol、及び酸化タングステン(WO3)0.020molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mn1.900・0.01MnWOで表される正極活物質を得る。
【0043】
[比較例3]
実施例1と同様の操作を行い、アルミニウム−マンガン共沈酸化物を得る。得られたアルミニウム−マンガン共沈酸化物(0.095Al23・1.805Mn23)1.900mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.102mol及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Al0.095Mn1.805・0.001Liで表される正極活物質を得る。
【0044】
[比較例4]
実施例2と同様の操作を行い、マグネシウム−マンガン共沈酸化物を得る。得られたマグネシウム−マンガン共沈酸化物(0.095MgO・1.8525Mn23)1.9475mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.102mol及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mg0.0475Mn1.8525・0.001Liで表される正極活物質を得る。
【0045】
[比較例5]
実施例3と同様の操作を行い、マンガン酸化物を得る。得られたマンガン酸化物(Mn23)1.900mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.102mol及びホウ酸(HBO3)0.008molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mn1.900・0.001Liで表される正極活物質を得る。
【0046】
[比較例6]
実施例3と同様の操作を行い、マンガン酸化物を得る。得られたマンガン酸化物(Mn23)1.900mol、炭酸リチウム(Li2CO3)1.120mol、酸化タングステン(WO3)0.020molを混合し、原料混合物を得る。得られた原料混合物を大気雰囲気中800℃で24時間焼成する。焼成後に粉砕して一般式がLi1.100Mn1.900・0.01MnWOで表される正極活物質を得る。
【0047】
[比較例7]
マンガン酸化物の代わりに水酸化マンガン(Mn(OH)2)を3.800mol用いることを除いて比較例6と同様の操作を行い、一般式がLi1.100Mn1.900・0.01MnWOで表される正極活物質を得る。
【0048】
[正極活物質の粉末X線回折測定]
実施例3及び比較例7で得られる正極活物質について、理学電気製のX線回折装置(RINT2500V)を使用し、X線源にCuKα線を用いて粉末X線回折(XRD)を測定する。X線回折図を図1に示す。この図から、実施例3及び比較例7で得られる正極活物質はスピネル構造のマンガン酸リチウムからなる正極活物質であることがわかる。また、実施例3で得られる正極活物質にはLiWOが存在し、比較例7で得られる正極活物質にはMnWOが存在することが確認される。なお、LiWOの存在は実施例3だけでなく他の実施例で得られる正極活物質においても確認することができる。
【0049】
[正極活物質のSEM写真]
実施例1で得られる正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。この図から、本発明の正極活物質は一次粒子の凝集体である二次粒子を有することがわかる。
【0050】
[正極活物質のEPMA分析]
実施例1で得られる正極活物質について、日本電子製の波長分散型X線分光装置を(WDX)を装備した電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、正極活物質の二次粒子の断面を測定し、マップ図を図4に示す。この図から正極活物質の二次粒子の表面及び一次粒子の界面にW元素が存在することが確認される。従って、上記粉末X線回折測定結果よりLiWOの存在が確認されることから、二次粒子の表面及び内部にLiWOが存在することがわかる。
【0051】
[正極活物質の溶出試験]
実施例3で得られる正極活物質について、次の様に溶出試験を行う。純水200gに正極活物質50gを添加し、8時間撹拌した後、スラリーを固液分離し、溶出液をICP分光分析する。また、純水200gに正極活物質50gとジルコニアボール500gを添加し、8時間ボールミル粉砕した後、スラリーを固液分離し、溶出液をICP発光分光分析する。溶出液の分析値とLi及びLiWOの溶出量を表1に示す。ここで、Li及びLiWOの溶出量(%)は、実施例3で得られる正極活物質中のLi量及びLiWO量をそれぞれ100%としたときの溶出割合である。
【0052】
【表1】

表1から、ボールミル粉砕した場合、撹拌のみの場合よりもLi及びLiWOの溶出量が多いことがわかる。すなわち、撹拌のみの場合は、主に正極活物質の二次粒子の表面からLi及びLiWOが溶出するが、ボールミル粉砕することによって、正極活物質の二次粒子の表面だけでなく、二次粒子の内部からもLi及びLiWOが溶出していることがわかる。
【0053】
従って、上述した測定結果から、本発明の正極活物質は、二次粒子を有し、二次粒子の表面及び内部にLi及びLiWOが存在するスピネル構造のマンガン酸リチウムからなる正極活物質であることがわかる。
【0054】
[リチウムイオン二次電池の作製]
上記実施例1〜5及び比較例1〜7で得られる正極活物質を用いて、次のようにリチウムイオン二次電池を作製し、各種評価に用いる。
【0055】
正極活物質の粉末90重量%と、導電剤となる炭素粉末5重量%と、ポリフッ化ビニリデンのノルマルメチルピロリドン溶液(ポリフッ化ビニリデン量として5重量%)とを混練してペーストを調整し、これを正極集電体に塗布し乾燥させて正極板とする。
【0056】
負極活物質として炭素材料を用い、正極板の場合と同様の方法で負極板を作製する。
【0057】
セパレータとして多孔性プロピレンフィルムを用い、正極板、負極板、及びセパレータを薄いシート状に成形し、これを巻回させて金属円筒状の電池ケースに収納する。電池ケース内に、エチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=3/7(体積比)の混合溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させてなる非水電解液を注入し、円筒形のリチウムイオン二次電池を得る。
【0058】
[電池抵抗(DC−IR)の評価]
以下の要領で電流と電位を測定し、電池抵抗を求める。
【0059】
測定温度25℃において、4.2Vで充電深度50%まで定電圧充電し、パルス放電を行う。パルス時間は10秒、パルス間隔を3分とする。パルス放電時の電流0.04A、0.08A、0.12A、0.16A及び0.20Aについて、充電後の電位とパルス放電時の電位との差(電位差)をパルス放電時の電流で除して測定時のパルス放電時の電流における電池抵抗とする。各パルス放電時の電流における電池抵抗を平均し、最終的な電池抵抗(DC−IR)として評価する(図2参照)。
【0060】
[高温保存特性の評価]
以下の要領で正極からのマンガン溶出量を測定し、高温保存特性の評価とする。
【0061】
レート0.2Cで、4.2Vまで定電流−定電圧充電を行った後2.75Vまで定電流放電を行い、初期放電容量を測定する。その後4.2Vで充電深度40%まで定電圧充電し、80℃の恒温槽で3日間保管する。保管後、恒温槽から取り出し、レート0.2Cで2.75Vまで放電、4.2Vまで充電、2.75Vまで放電を行う。最後の放電終了後、二次電池から負極を取り出し、HCl溶液で負極に含まれるマンガンを抽出する。その溶液を濾過したあと、ICP発光分光分析によって溶出したマンガン量を分析する。
【0062】
実施例1〜5及び比較例1〜7で得られる正極活物質の組成とリチウムイオン二次電池の電池抵抗(DC−IR)及び高温保存特性の評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より、本発明の実施例1〜5の正極活物質はLi及びLiWOを含有していることから、LiとLiWOのいずれも含有していない比較例1や、Li又はMnWOを含有している比較例2〜7の正極活物質に比べて、電池抵抗を低減することができ、高温保存時のマンガン溶出を抑制することができることがわかる。
【0065】
次に、実施例1において原料のW量を変化させて得られる正極活物質について、それぞれリチウムイオン二次電池を作製し、電池抵抗(DC−IR)及び高温保存特性を評価する。図5に、電池抵抗と正極活物質のb値(LiWO量)との関係を示す。この図から、正極活物質のb値が0.001≦b≦0.1の範囲で電池抵抗が低減され、0.005≦b≦0.05範囲においてより低減されることがわかる。また、図6に、Mn溶出量と正極活物質のb値(LiWO量)との関係を示す。この図から、正極活物質のb値が0.005≦b≦0.1の範囲でMn溶出量が少ないことがわかる。従って、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の低減と高温保存特性の向上を共に満足するためには、正極活物質のb値は0.001≦b≦0.1の範囲が好ましく、0.005≦b≦0.05範囲がより好ましいことがわかる。
【0066】
また、正極活物質のa値(Li量)については、電池抵抗(DC−IR)や高温保存特性だけでなく、一次粒子径の大きさにも関係するため、0.0001≦a≦0.005の範囲が好ましく、0.0003≦a≦0.003の範囲がより好ましい。
【0067】
このように、本発明の正極活物質は、リチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を有するスピネル構造のマンガン酸リチウムからなる正極活物質であって、本発明の正極活物質を用いることにより、電池の内部抵抗の低減と高温保存特性の向上を共に満足するリチウム二次電池を得ることができる。また、本発明の正極活物質は、電池抵抗を低減できることから出力特性の向上が期待でき、マンガン溶出を抑制できることからサイクル特性の向上が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の正極活物質を用いることで、過酷な環境でも長期的に使用可能な非水電解質二次電池が実現できる。こうして実現される非水電解質二次電池は、VTR、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器に好適に利用可能である。さらに、電池抵抗が低いので、電動工具、電動アシスト自転車などの中型機器、更には電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の大型機器といった高出力の用途に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造のマンガン酸リチウムからなる非水電解質二次電池用正極活物質において、前記マンガン酸リチウムはリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物を有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記マンガン酸リチウムは少なくとも粒子の表面にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記マンガン酸リチウムは二次粒子を有し、該二次粒子の表面及び内部にリチウムホウ素複合酸化物及びリチウムタングステン複合酸化物が存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムホウ素複合酸化物はホウ酸リチウムであり、前記リチウムタングステン複合酸化物はタングステン酸リチウムであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記ホウ酸リチウムはLiであり、前記タングステン酸リチウムはLiWOであることを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記マンガン酸リチウムのマンガンは、マグネシウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されてなることを特徴とする請求項1乃至5に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記マンガン酸リチウムの組成は一般式
Li1+xMn2−x−y・aLi・bLiWO
(但し、MはMg、Alからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、0≦x≦0.20、0≦y≦0.5、0.0001≦a≦0.005、0.005≦b≦0.1)
で表されることを特徴とする請求項1乃至6に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を用いた正極活物質層を、帯状正極集電体の少なくとも片面に形成させることにより構成した帯状正極と、
金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物を負極活物質として用いた負極活物質層を、帯状負極集電体の少なくとも片面に形成させることにより構成した帯状負極と、
帯状セパレータとを具備し、
前記帯状正極と前記帯状負極とを前記帯状セパレータを介して積層した状態で複数回巻回させて、前記帯状正極と前記帯状負極との間に前記帯状セパレータが介在している渦巻型の巻回体を構成してなることを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216214(P2011−216214A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80629(P2010−80629)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】