説明

非水電解質二次電池用負極およびその製造法

【課題】Si等からなる高容量な負極において、活物質層に電解液の流通経路を確保し、常に活物質と電解液とが接した状態を実現する。
【解決手段】少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質層および活物質層を担持するLiと反応しない集電体シートからなり、活物質層は、前記集電体シートの表面に担持された複数の堆積膜もしくは焼結膜からなり、各堆積膜もしくは焼結膜の側面32には、上面30側から集電体シート側14へ向かう少なくとも1つの溝34が形成されている、非水電解質二次電池用負極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量かつ長寿命である非水電解質二次電池を与える負極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池用負極として、高電圧で高エネルギー密度を実現可能な金属リチウムを用いる研究開発が多く行われてきた。しかし、負極に金属リチウムを用いると、充電時に負極の金属リチウムの表面に樹枝状のリチウム(デンドライト)が析出し、電池の充放電効率は低下する。また、デンドライトは、セパレータを突き破り、正極と接触して、内部短絡を生じる不具合を起こすことがある。そこで、安全性とサイクル寿命の観点から、金属リチウムより容量が小さいにもかかわらず、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できる黒鉛系の炭素材料を負極に用いたリチウムイオン二次電池が実用化されている。
【0003】
しかし、実用化されている負極の容量は約350mAh/gであるから、既に黒鉛系の炭素材料の理論容量(372mAh/g)に近い状態であり、さらなる高容量化に限界がある。一方、将来の高機能携帯機器のエネルギー源を確保するためには、さらなる高容量化を実現した負極が必要である。そのためには、黒鉛系の炭素材料以上の容量を有する負極材料が必要である。
【0004】
そこで、現在注目されているのがケイ素、スズ等の元素を含む合金系負極材料である。ケイ素、スズ等の金属元素は、リチウムイオンと電気化学的な可逆反応を起こす。また、これらの元素は、黒鉛系の炭素材料に比べて、非常に大きな理論容量を有する。例えばケイ素の場合、その理論放電容量は4199mAh/gであり、黒鉛の11倍の高容量を示す。
【0005】
ところが、ケイ素、スズ等の元素は、リチウムと反応すると、リチウム−ケイ素合金や、リチウム−スズ合金を形成する。その際、結晶構造が変化するため、負極材料は非常に大きな膨張を伴う。例えばケイ素の場合、最大限までリチウムを充電すると、理論上4.1倍に膨張する。インターカレーション反応を利用する黒鉛の場合、リチウムは黒鉛層間に挿入されるため、1.1倍の膨張ですむ。
【0006】
このような膨張により、負極には大きな応力が発生する。そのため、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレン−ブタジエンゴム(SBR)に代表される結着剤では、活物質を集電体に充分に固定することができず、集電体から活物質が剥がれたり、活物質同士の接触点が減少したりする。そのため負極の内部抵抗が増大し、集電性が低下し、サイクル特性も低下する。これを防ぐために結着剤を増量すると、充放電に関与しない材料が増加することになり、負極の放電容量が減少する。また、導電性のない材料が多く混在することで、負極の内部抵抗が増加し、結局、高率放電特性やサイクル特性が低下する。
【0007】
そこで、非晶質ケイ素からなる負極活物質を、表面を粗化した集電体上に成膜することにより、活物質−集電体間の強固な接合を実現し、集電性やサイクル特性の低下を防止する提案がある(特許文献1)。しかし、特許文献1の提案では、リチウム吸蔵時のケイ素の膨張が厚さ方向にしか許容されないため、活物質粒子は充電(膨張)時に互いに押し合い、活物質層から電解液を押し出していく。その結果、充電末期および放電初期には、負極の最表面だけしか電解液と接触できず、電気化学反応が抑制される。
【0008】
また、負極形成時に、集電体上に、メッシュを配置してから活物質を堆積させることにより、互いに分離した複数の島状の堆積膜を配置する提案がある(特許文献2)。このような負極であれば、膨張時に活物質層から電解液が押し出されずに保持されるが、メッシュの太さが大きいため、島状の堆積膜間の距離が極めて広くなり、無駄な空間が負極内部に形成される。さらに、メッシュ下に堆積物が回り込んでしまうため、複数の堆積膜を分離した状態で、かつ膜間距離を短くして形成することは難しい。よって、負極容量は極めて低くなり、ケイ素等からなる活物質の高容量という利点を相殺してしまうことになる。
【0009】
さらに、集電体上に活物質層を形成した後、エッチングにより活物質層に厚さ方向の空隙を形成し、複数の微小領域に分割する負極の製造法が提案されている(特許文献3)。しかし、エッチングの効果は、集電体の表面粗さに大きく影響され、制御が非常に困難である。また、化学エッチングでは、活物質層の表面に多くの酸化物が形成されるため、電解液と活物質との反応が阻害されることが懸念される。さらに、化学エッチングを用いた場合、マスク下の範囲まで活物質層がエッチングされるアンダーカット現象が生じ、各微少領域の形状は、集電体近傍が多く削り取られた逆錐状になり、膨張時に集電体近傍で破断しやすくなる。
【特許文献1】特開2002−83594号公報
【特許文献2】特開2002−279974号公報
【特許文献3】特開2003−17040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記を鑑み、ケイ素等の元素を活物質として用いた高容量な負極において、活物質層に電解液の流通経路を確保し、常に活物質と電解液とが接した状態を実現することを目的とする。また、そのような負極を用いることで、充放電サイクル性および高率放電特性(レート性)に優れた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質層および活物質層を担持するLiと反応しない集電体シートからなり、活物質層は、集電体シートの表面に担持された複数の堆積膜もしくは焼結膜からなり、各堆積膜もしくは焼結膜の側面には、上面側から集電体シート側へ向かう少なくとも1つの溝が形成されている非水電解質二次電池用負極に関する。
ここで、複数の堆積膜もしくは焼結膜は、それぞれ「膜厚」÷「上面の最短幅」で定義されるアスペクト比が0.1以上であることが望ましい。「上面」とは、堆積膜もしくは焼結膜の上面である。従って、各堆積膜もしくは焼結膜は、好ましくは、高さの低い微小な柱状もしくは錘状(角錐台、円錐台(Frustum)などの形状)であることが望ましい。
【0012】
なお、堆積膜とは、例えばスパッタ、蒸着、CVD(chemical vapor deposition)法等を含む様々な薄膜形成プロセスで形成され、かつバインダとなる樹脂成分を含まない薄膜を言う。
また、焼結膜とは、例えば活物質粒子とバインダを含むペーストの塗膜を焼結して形成される薄膜を言う。
また、上面側から集電体シート側へ向かう溝とは、例えば上面側から集電体シート側へ向かう線上の窪みを意味する。
【0013】
複数の堆積膜もしくは焼結膜は、集電体シートの表面に格子状、千鳥格子状またはハニカム状に配列していることが望ましい。
完全放電状態もしくは製造直後の初期状態において、複数の堆積膜もしくは焼結膜の平均高さは、1μm以上30μm以下であることが望ましい。また、各堆積膜もしくは焼結膜は、高密度であることが望ましく、空孔率は50%以下であることが望ましい。
完全放電状態もしくは製造直後の初期状態において、互いに隣接する堆積膜もしくは焼結膜間の最短距離は、それらの膜の上面における最短幅より狭いことが望ましい。
【0014】
各堆積膜もしくは焼結膜は、Liと電気化学的に反応する元素M1を含み、元素M1が、Si、Sn、Al、Ge、Pb、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
各堆積膜もしくは焼結膜は、さらに、Liと電気化学的に反応しない元素M2を含んでもよい。元素M2は、遷移金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。また、元素M2は、集電体シートの構成元素であることが望ましい。
【0015】
元素M2の含有量は、各堆積膜もしくは焼結膜の表面側よりも、集電体シート側の方で高くなっていることが望ましい。例えば、集電体シートが元素M2からなり、元素M2が集電体シートから堆積膜もしくは焼結膜に熱拡散した状態が望ましい。熱拡散の場合、堆積膜もしくは焼結膜の集電体シート側から表面側に向かって、元素M2の濃度は徐々に減少する。
【0016】
元素M1は、各堆積膜もしくは焼結膜中において、低結晶または非晶質の領域を形成していることが望ましい。ここで、低結晶の領域とは、元素M1の結晶子(結晶粒)の粒径が50nm以下の領域を言い、非晶質の領域とは、2θ=15〜40°の範囲にブロードなピークを有し、結晶が確認されない領域を言う。
高容量を確保する観点から、各堆積膜もしくは焼結膜中の元素M1の含有量は、40重量%以上であることが望ましい。
【0017】
本発明は、また、リチウムの吸蔵および放出が可能な正極、上記の負極、前記正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解質を具備した非水電解質二次電池に関する。
【0018】
本発明は、上記のような非水電解質二次電池用負極の製造法、すなわち(i)少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質からなる薄膜をLiと反応しない集電体シートの表面に形成し、(ii)前記薄膜上に複数のマスクを配置し、(iii)薄膜の複数のマスクで覆われていない露出部分に微粒子を打ち込むことにより、露出部分を削り取り、(iv)露出部分が削り取られた薄膜から複数のマスクを除去することを含む非水電解質二次電池用負極の製造法に関する。
複数のマスクの配列状態は、複数の堆積膜もしくは焼結膜の配列状態と一致する。
なお、堆積膜もしくは焼結膜のアスペクト比を決定する「(堆積膜もしくは焼結膜の)上面の最短幅」は、工程(ii)で薄膜上に配置されるマスクの最短幅に一致する。
【0019】
工程(i)で薄膜を形成する方法は特に限定されない。例を挙げるなら、工程(i)では、薄膜をスパッタ、蒸着またはCVD法により形成してもよく、集電体シートの表面に活物質粒子とバインダを含むペーストの塗膜を形成し、その塗膜を焼結することにより薄膜を形成してもよい。また、工程(i)では、集電体シートの表面に活物質粒子を衝突させることにより薄膜を形成してもよい。
【0020】
工程(ii)でマスクを形成する方法は特に限定されない。例を挙げるなら、工程(ii)では、複数のマスクをフォトレジストにより形成することができる。フォトレジストには、例えばフェノール樹脂を用いることが望ましい。また、工程(ii)では、薄膜上に高分子材料を印刷することにより複数のマスクを形成することができる。なお、複数のマスクを形成する前に、薄膜上に離型剤を塗布することが望ましい。
【0021】
各堆積膜または焼結膜の上面側から集電体シート側へ向かう溝の幅は、上面の最短幅の1/2以下であることが望ましく、その溝の深さは、上面の最短幅の1/2以下であることが望ましい。従って、工程(iii)では、薄膜に打ち込まれる微粒子の直径が、マスクの1つあたりの最短幅の1/2以下であることが望ましい。また、微粒子は、Al23、SiCおよびSi34よりなる群から選択される少なくとも1種からなることが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の非水電解質二次電池用負極は、高容量な材料を活物質として用いる場合の課題であった電解液の流通経路の確保を可能にし、優れた充放電サイクル特性と高率放電特性とを両立する高容量な非水電解質二次電池を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の非水電解質二次電池用負極の一例の上面図を図1に示し、図1におけるI−I断面図を図2に示す。
図1、2において、負極10は、少なくともリチウムを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質層12と、活物質層12を担持するLiと反応しない集電体シート14からなる。活物質層12は、集電体シート14の表面に担持された複数の堆積膜もしくは焼結膜16の集合体である。
複数の堆積膜もしくは焼結膜16は、集電体シート14上に格子状に配列している。ただし、複数の堆積膜もしくは焼結膜16の配列状態はこれに限定されず、他の様々な配列状態をとることができる。
また、堆積膜もしくは焼結膜16は、上面がほぼ平坦であり、厚さの薄い四角柱もしくは四角錐台を形成している。ただし、堆積膜もしくは焼結膜16の形状はこれに限られず、他の様々な多角柱や多角錐台でもよく、円柱や円錐台でもよい。
【0024】
複数の堆積膜もしくは焼結膜16は、図1、2が示すように、それぞれが島状であり、独立した状態で集電体シート14に担持されていることが望ましい。複数の堆積膜もしくは焼結膜16が、互いに連続している場合、活物質層は凹凸を有する薄膜と同様に、電解液が集電体シートの近傍にまで浸透しない。また、リチウムを吸蔵した際に、膨張応力が緩和されず、不均一なひび割れや破壊が生じる可能性がある。
【0025】
堆積膜もしくは焼結膜16は、「膜厚(T1)」÷「上面の最短幅(W1)」で定義されるアスペクト比が0.1以上である。アスペクト比が0.1より小さい場合は、活物質層内に電解液が入り込むべき空間の割合が極めて少なくなり、電解液の浸透が不十分になる要因となる。電解液の浸透性と容量とのバランスに特に優れた負極を得る観点からは、アスペクト比は0.3以上であることが好ましい。
【0026】
放電状態において、堆積膜もしくは焼結膜16の高さ(T1)は1μm以上30μm以下が好ましい。堆積膜もしくは焼結膜16の高さが1μmより低い場合、活物質層の厚さが一般的な集電体シートの厚さに比べて極めて薄くなる。そのため、電池内に占める活物質層の割合が極めて小さくなり、電池容量が低くなる。一方、堆積膜もしくは焼結膜16の高さが30μmより高い場合、活物質層の膨張および収縮の厚さ方向への影響が大きくなる。そのため、充放電の繰り返しによって、堆積膜もしくは焼結膜16が割れたり、集電体シートから剥がれたりして、電池特性が低下する。活物質層の強度と電池容量とをバランス良く確保する観点から、堆積膜もしくは焼結膜16の高さは2μm以上20μm以下が好ましい。
【0027】
放電状態において、互いに隣接する堆積膜もしくは焼結膜間の最短距離(W2)は、それらの膜の上面の最短幅(W1)より狭いことが望ましい。最短距離(T2)が膜の上面の最短幅(W1)より広い場合、電解液の浸透性は良好になるが、負極合剤層内に占める充放電反応に関与しない空間の割合が極めて大きくなり、電池容量が低くなる。最短幅(W1)と最短距離(W2)との関係は、特に0.1W1≦W2≦0.8W1を満たすことが望ましい。
【0028】
図3に、堆積膜もしくは焼結膜16の上面の拡大図を示し、図4に、堆積膜もしくは焼結膜16の側面の拡大図を示す。図3、4が示すように、堆積膜もしくは焼結膜16の側面32には、上面30側から集電体シート14側へ向かう少なくとも1つの溝34が形成されている。溝34を形成することにより、充電時に活物質層が膨張し、堆積膜もしくは焼結膜16の間隔が少なくなったときに、電解液が膜の上面30から集電体シート14の近傍まで浸透することが容易になり、電気化学反応が良好に進行する。
【0029】
溝の深さは、上面30近傍に比べて、集電体シート14近傍の方が浅くなっていることが望ましい。このように、深さに傾斜を有する溝を設けることにより、集電体シート14近傍まで電解液を効率的に浸透させることが可能になる。
【0030】
堆積膜または焼結膜16の上面30側から集電体シート14側へ向かう溝の幅は、堆積膜または焼結膜16の上面30の最短幅の1/2以下であることが望ましく、1/10以下であることが特に望ましい。溝34の幅が上面30の最短幅の1/2より大きい場合、活物質層12に占める溝空間の割合が大きくなり、電池容量が低下する。一方、溝34の幅は、上面30の最短幅の1/100以上であることが望ましい。溝34の幅が上面30の最短幅の1/100未満では、溝幅が細過ぎて、活物質層12への電解液の浸透性が不十分となる場合がある。
【0031】
溝34の深さについても、堆積膜または焼結膜16の上面30の最短幅の1/2以下であることが望ましく、1/10以下であることが特に望ましい。溝34の深さが上面30の最短幅の1/2より大きい場合、活物質層12に占める溝空間の割合が大きくなり、電池容量が低下する。一方、溝34の深さは、上面30の最短幅の1/100以上であることが望ましい。溝34の深さが上面30の最短幅の1/100未満では、溝深さが浅過ぎて、活物質層12への電解液の浸透性が不十分となる場合がある。また、溝34は、堆積膜または焼結膜16の一側面あたり、複数本存在することが好ましく、溝幅の和は上面の最短幅の2/3以下であることが望ましい。
【0032】
溝は、堆積膜または焼結膜16の上面30には形成する必要がない。膜の上面は必ず電解液と接するからである。また、上面に溝を形成すると、溝のエッジの鋭利な部分がセパレータを介して正極と対面することになり、内部短絡の原因となる可能性がある。よって、堆積膜または焼結膜16の上面30には、溝を形成しない方が好ましい。
【0033】
堆積膜もしくは焼結膜16は、高密度であることが望ましく、空孔率は低いほど好ましい。空孔率は多くとも50%以下であることが望ましく、好ましくは30%以下であり、特に好ましくは10%以下である。空孔率が低い方が、堆積膜もしくは焼結膜16における活物質密度が高いため、高容量な負極が得られる。空孔率が50%より大きいと、負極容量が低くなる他、活物質層12の膨張および収縮の際に、活物質層12が割れたり、剥がれたりしやすくなる。
【0034】
堆積膜もしくは焼結膜16は、少なくともLiと電気化学的に反応する元素M1を含む。元素M1としては、Si、Sn、Al、Ge、Pb、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの元素は、多くのLiと電気化学的に反応可能な高容量材料である。なかでもSi、SnおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、特にSiが好ましい。
【0035】
堆積膜もしくは焼結膜16は、Liと電気化学的に反応する元素M1の単体から構成されていてもよく、元素M1を含む合金もしくは化合物から構成されていてもよい。また、元素M1の単体、合金、化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。元素M1を含む化合物としては、元素M1の酸化物、窒化物および硫化物よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。例えば化学式:SiOx(x<2)で表される酸化物が堆積膜もしくは焼結膜16を構成する材料として適している。
【0036】
元素M1は、堆積膜もしくは焼結膜中16において、低結晶または非晶質の領域を形成していることが望ましい。結晶性の高い領域は、リチウムの吸蔵に伴いひび割れを起こしやすく、集電性が低下する傾向が強いからである。
ここで、低結晶の領域とは、結晶子(結晶粒)の粒径が50nm以下の領域を言う。結晶子(結晶粒)の粒径は、X線回折分析で得られる回折像の中で最も強度の大きなピークの半価幅から、Scherrerの式によって算出される。また、非晶質の領域とは、X線回折分析で得られる回折像において、2θ=15〜40°の範囲にブロードなピークを有する領域を言う。
【0037】
各堆積膜もしくは焼結膜16は、さらに、Liと電気化学的に反応しない元素M2を含んでもよい。元素M2は、主に負極からの集電の役割を果たす。元素M2は、遷移金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、なかでもCu、Ti、NiおよびFeよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、特にCuまたはTiが好ましい。
【0038】
元素M2の含有量は、堆積膜もしくは焼結膜16の表面30側よりも、集電体シート14側の方で高くなっていることが望ましい。このような構造により、安定な集電性能を得ることが可能となる。このような構造は、例えば元素M2からなる集電体シート14上に元素M1からなる活物質層12を形成し、その後、適当な熱処理を施して元素M2を活物質層12に拡散させることで得られる。熱処理温度が高いほど、元素M2が拡散しやすく、安定な集電性能が得られる。ただし、元素M1の結晶性が高くなるのを防止する観点から、600℃以下の温度で熱処理することが望ましい。
活物質層内に元素M1とM2とが混在する場合、高容量を確保する観点から、活物質層内の元素M1の含有量は、40重量%以上であることが望ましく、70重量%以上であることが特に望ましい。
【0039】
次に、本発明の非水電解質二次電池用負極の製造法を図5を参照しながら例示する。
工程(i)
まず、少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質からなる薄膜54をLiと反応しない集電体シート52の表面に形成する(図5(a))。集電体シートの厚さ(T2)は、特に限定されないが、一般に8〜40μmである。また、活物質層の厚さに対応する薄膜の厚さ(T1)は、特に限定されないが、一般に完全放電状態において1〜50μmである。
【0040】
薄膜を形成する方法は特に限定されないが、例えば以下を挙げることができる。
第1に、真空プロセスにより薄膜を形成することができる。真空プロセスには、スパッタ法、蒸着法、CVD法等が含まれる。真空プロセスによれば、集電体シートの表面に均一に元素M1を成膜することが可能である。真空プロセスのなかでも、特に蒸着法は、他の方法に比べて成膜速度が速く、プロセスコストを低くすることが可能である。
【0041】
第2に、集電体シートの表面に活物質粒子とバインダを含むペーストの塗膜を形成し、その塗膜を焼結することにより薄膜を形成することができる。このようなプロセスは、活物質粒子とバインダとの練合および得られたペーストの塗布が容易であることから、製造コストの点で有利である。
【0042】
バインダは、集電体シートおよび活物質粒子と結着する材料であれば特に限定はないが、500℃以下の温度で分解し、ガス化する材料であることが望まれる。よって、例えばブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等を用いることが好ましい。焼結工程は、加熱で行ってもよいが、電流を流すことにより焼結する放電焼結または放電プラズマ焼結により行うことが好ましい。
【0043】
第3に、集電体シートの表面に活物質粒子を衝突させることにより薄膜を形成することができる。活物質粒子の粒径は0.1〜45μmが好適である。このようなプロセスは、例えばショットブラスト(新東工業(株)製)などの装置を用いて行うことができる。
【0044】
活物質粒子を高速および高圧で集電体シートの表面に打ち付けることにより、粒子の有する運動エネルギーが衝突した瞬間に熱エネルギーに変換される。その結果、極めて高強度の接合が形成される。このプロセスは、常温で、大気雰囲気下で実施可能であり、プロセスコストを低くすることが可能である。活物質粒子を集電体シートの表面に打ち付ける際に、粒子および/または集電体シートを加熱することで、さらに強固な接合を得ることが可能になる。
【0045】
工程(ii)
次に、前記薄膜上に複数のマスクを配置する。マスクを配置する方法は特に限定されないが、例えば以下を挙げることができる。なお、複数のマスクを形成する前に、薄膜上に離型剤を塗布することが望ましい。
【0046】
第1に、複数のマスクをフォトレジストにより形成することができる(図5(b)〜(c))。フォトレジストを用いることで、非常に高精度のパターニングが可能になる。この場合、まず、フォトレジストからなる未硬化の塗膜56を、活物質からなる薄膜54上に形成する(図5(b))。塗膜56の厚さ(T3)は、特に限定されないが、一般に0.5〜10μmである。
【0047】
次に、フォトレジストの塗膜56上に、例えば図6に示すような、格子状のメタルカバー58を被せ、塗膜56を露光する(図5(c))。塗膜56のメタルカバー58で被覆されていた部分は硬化しないため、洗浄により除去できる(図5(d))。一方、塗膜56の露光された部分は硬化し、マスク56’を形成する。なお、フォトレジスト材料としては、フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0048】
第2に、活物質からなる薄膜上に、高分子材料を印刷することにより、複数のマスクを形成することができる。例えば、格子状のパターンを有するスクリーンを用いて、高分子材料を薄膜上に印刷する。この場合、洗浄工程は不要である。なお、印刷に用いる高分子材料としては、ポリウレタン樹脂などが好ましく用いられる。上記高分子材料は、活物質と化学的に反応せず、かつ印刷が可能なものであればどのような材料でも構わない。高分子材料は、溶剤に溶解した状態で印刷に用いてもよい。
【0049】
工程(iii)
次に、複数のマスク56’で覆われていない薄膜54の露出部分に、図5(d)の白抜き矢印で示した方向から、微粒子を打ち込むことにより、露出部分を削り取る。このプロセスにより、複数の堆積膜または焼結膜54’からなる活物質層が得られる(図5(e))。微粒子を打ち込む装置としては、特に限定されないが、ブラスト加工に用いられる様々な装置を用いることができる。なお、ブラスト加工は、研磨材からなる微粒子を、圧縮空気で被処理部に吹き付け、もしくは回転翼で連続して投射し、被処理部の研磨を行う方法である。微粒子には、Al23、SiC、Si34等を用いることが望ましい。これらは非常に硬い材料であり、かつ微粒子自身が活物質層に残存しても特に問題が生じない。
【0050】
ここで用いる微粒子の直径により、堆積膜または焼結膜の上面側から集電体シート側へ向かう溝の幅と深さを制御できる。従って、薄膜に打ち込まれる微粒子の直径は、メタルカバー58のパターン幅(W2)に応じて決定すればよいが、少なくとも各マスク56’の最短幅W1(すなわち堆積膜または焼結膜の上面の最短幅)の1/2以下であることが望ましく、1/10以下であることが特に好ましい。なお、微粒子の直径がマスクの1つあたりの最短幅W1の1/2より大きい場合、充分なブラスト加工を行うことが困難になる。
【0051】
工程(iv)
次に、各堆積膜または焼結膜54’上に形成されているマスクを除去する。マスクの除去方法は、特に限定されないが、例えばフォトレジストを用いてマスクを形成した場合には、所定の洗浄液を用いて洗浄すればマスクを除去できる。また、高分子材料の印刷によりマスクを形成した場合には、所定の溶剤中で放置あるいは洗浄することでマスクを除去できる。なお、活物質からなる薄膜に離形剤を塗布しておくことで、マスクを剥がすことが容易になる。
【0052】
上述のような工程を経ることで、集電体シート52と集電体シートの表面に担持された複数の堆積膜もしくは焼結膜54’からなる非水電解質二次電池用負極50が得られる(図5(f))。このような負極を用いた非水電解質二次電池は、高容量と長寿命とを両立することが可能である。ここで、非水電解質二次電池は、負極の他に、非水電解質、セパレータ、およびリチウムの吸蔵・放出が可能な正極を具備する。
【0053】
正極としては、特に限定されないが、正極活物質としてリチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn24、LiMnO2)、リチウムコバルト酸化物中のコバルトの一部を他元素で置き換えた酸化物(例えばLiCo0.5Ni0.52)、リチウムニッケル酸化物中のニッケルの一部を他元素で置き換えた酸化物(例えばLiNi0.7Co0.2Mn0.12)、リチウムマンガン酸化物中のマンガンの一部を他元素で置き換えた酸化物等を好ましく用いることができる。
【0054】
非水電解質には、非水溶媒にリチウム塩等の溶質を溶解したものが用いられる。非水溶媒としては、特に限定されないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル、スルホラン、酢酸メチル等の鎖状エステル等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0055】
非水溶媒に溶解させる溶質としては、特に限定されないが、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiC(C25SO23、LiAsF6、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、非水電解質には、無機固体電解質、有機固体電解質、固体ポリマー電解質、ポリマー材料に電解液を保持させたゲルポリマー電解質などを用いることもできる。
【0056】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
《実施例1−14》
(i)負極の作製
負極材料として表1に示す材料を用いた。まず、各元素の単体インゴット(全て(株)高純度化学研究所製、純度99.999%、平均粒径5mm〜35mm)を黒鉛製坩堝の中に入れた。なお、複数の元素を用いる場合は、表1記載の所定の重量比率で混合してから坩堝の中に入れた。この坩堝と、集電体シートとなる電解Cu箔(古河サーキットフォイル(株)製、厚さ20μm)とを、真空蒸着装置内に導入し、電子ビーム銃を用いて、真空蒸着を行った。複数の元素を蒸着させるときは、複数の電子ビーム銃を用いた。
【0057】
蒸着条件は、Siの場合、加速電圧−8kV、電流150mAとした。また、他の元素の場合、加速電圧−8kV、電流100〜250mAの範囲とした。真空度は、いずれの場合も3×10-5Torrとした。
【0058】
集電体シート片面の蒸着が終了後、さらに裏側(未蒸着面)についても同様に真空蒸着を行い、両面に活物質からなる薄膜を成膜した。これらの薄膜に対し、X線回折分析を行ったところ、集電体シートであるCuに帰属される結晶性のピークが観察され、どの薄膜においても2θ=15−40°の位置にブロードなピークが検出された。この結果から、活物質は非晶質であることが判明した。
【0059】
負極全体の厚さは約30〜36μmであり、片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さは約5〜8μmであった。薄膜の厚さの調整は蒸着時間を変えることで行った。例えば上記条件でSiを成膜する場合、2分間の蒸着で厚さ5μmの薄膜を形成できる。各実施例で得られた薄膜の厚さを表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
薄膜を担持した集電体シートを所定サイズの試験片に打ち抜き、試験片の重量および厚さを測定し、活物質からなる薄膜の空孔率を算出した。空孔率は以下の式から算出した。その結果、全ての薄膜において、空孔率は5〜15%であったことから、非常に高密度に活物質が堆積していることが判明した。各実施例で得られた薄膜の空孔率を表1に示す。
空孔率(%)=100−活物質の真密度×(負極の重量−集電体シートの重量)/(負極の体積−集電体シートの体積)×100
【0062】
(ii)マスクの形成
活物質からなる薄膜の上に、フォトレジスト材(信越化学工業(株)製)を厚さ2μmになるように塗布し、20μm×20μmの開口が格子状に配列しているメッシュ状のメタルカバーを上から被せた。次いで、露光を行い、メタルカバーで覆われない部分のフォトレジスト材を硬化させた。なお、メタルカバーには、太さ10μmのワイヤを編んで作製されたメッシュを用いた。
【0063】
露光後、溶剤で洗浄を行い、メタルカバーで覆われた部分のフォトレジスト材を除去した。その結果、硬化したフォトレジスト材からなるマスクが格子状に形成された。
以下、フォトレジスト材によりマスクされた薄膜部分をマスク部、マスクの一辺の長さをマスク幅と称する。また、フォトレジスト材が除去され、表面が露出した薄膜部分をパターン部、パターン部の幅をパターン幅と称する。マスク幅は約20μm、パターン幅は約10μmであった。
【0064】
(iii)ブラスト処理(パターニング処理)
次に、上記のマスクを有する薄膜に対し、ブラスト処理を行った。ブラスト処理は、マイクロブラスト加工装置(新東工業(株)製)を用いて、Si34微粒子(平均粒径0.5μm)を射出圧力10kgf/cm2で被処理面に打ち込んで行った。これにより、パターン部の活物質が削り取られた。マイクロブラスト加工装置のノズル幅は10mmΦとし、被処理面上におけるノズル移動速度は3cm/秒とした。活物質の切削量は、被処理面上のノズルの通過回数により制御した。
【0065】
ブラスト処理の際、マスクにも微粒子が衝突するため、マスクにも傷がついたが、完全にマスクが除去されるまでには至らなかった。よって、マスクで覆われた薄膜部分(マスク部)の活物質は、削り取られずに残った。断面SEM(Scanning Electron Microscopy)観察によれば、パターン部は、集電体シートの極近傍まで削り取られ、一部では集電体シートのCuの露出を観察することができた。よって、各マスク部は、いずれも島状に独立した状態と同視することができた。
【0066】
(iv)マスク剥離
上記ブラスト処理の後、集電体シートとともにマスク部を、水中で超音波洗浄し、さらに離形剤を用いて残存しているマスクを剥離し、複数の堆積膜からなる活物質層を露出させ、負極を完成した。
【0067】
各堆積膜の形状は、高さの低い微小な柱状もしくは四角錐台であった。また、各堆積膜の側面には、その表面から集電体シートへ向かう複数の溝が形成された状態であった。複数の溝は、ブラスト処理で上方から微粒子が打ち込まれる際に、微粒子によって薄膜が切削されるために形成されたものである。また、各堆積膜の上面に傷はついていなかった。
【0068】
溝の深さは、マスク部の表面近傍では、最大0.9μmであった。また、集電体シート近傍では、最大0.3μmであった。すなわち、集電体シートに近くなるにつれ、溝深さは浅くなる傾向にあった。この傾向は、マスク部の表面に近い領域ほど、微粒子と衝突する機会が多く、集電体シートに近い領域ほど、微粒子と衝突する機会が少なくなることに起因する。溝幅は、最大で0.7μmであり、溝幅の平均は0.5μmであった。
【0069】
各実施例で得られた堆積膜のアスペクト比を、マスク幅およびパターン幅とともに表2に示す。なお、アスペクト比は、堆積膜の「膜厚」÷「上面の最短幅」で定義され、「膜厚」は、始めに形成した活物質からなる薄膜の「片面あたりの厚さ」に相当し、かつ「上面の最短幅」は、「マスク幅」に相当する。よって、アスペクト比は、「片面あたりの厚さ」÷「マスク幅」より算出することができる。
【0070】
【表2】

【0071】
負極と電解液との濡れ性(表面粗さ)を評価するために、充電状態の負極の活物質層上に電解液を滴下し、活物質層と電解液との接触角を測定した。結果を表2に示す。なお、充電状態では活物質が最も膨張しており、電解液が浸透しにくくなり、濡れ性が低下するため、その状態で測定を行った。
【0072】
接触角の測定は、JIS R 3257記載の「基板ガラス表面の濡れ性試験方法」に準拠して行った。接触角の測定には、片面あたりの活物質面積が約1cm2の負極試料を用いた。また、電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶媒に1モル/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF4)を溶解したものを用いた。
【0073】
《実施例15−23》
集電体シート片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さを表3に示すように変化させたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。
膜厚の制御は、蒸着時間により制御した。すなわち、例えば厚さ10μm(実施例19)の薄膜を形成する場合には、蒸着時間を4分間とし、厚さ35μm(実施例23)の薄膜を形成する場合には、蒸着時間を7分間とした。
各実施例で得られた薄膜の空孔率を表3に示す。また、堆積膜のアスペクト比を、マスク幅およびパターン幅とともに表4に示す。さらに、活物質層と電解液との接触角を表4に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
《実施例24−29》
集電体シート片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さを表5に示すように6μmに固定するとともに、マスク幅およびパターン幅を表6に示すように変化させたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた薄膜の空孔率は5%であった(表5参照)。堆積膜のアスペクト比を、マスク幅およびパターン幅とともに表6に示す。さらに、活物質層と電解液との接触角を表6に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
《実施例30》
集電体シート片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さを表5に示すように1μmとするとともに、マスク幅およびパターン幅を表6に示すようにそれぞれ10μmおよび5μとしたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた薄膜の空孔率は2%であった(表5参照)。また、活物質層と電解液との接触角は23°であった(表6参照)。
【0080】
《比較例1−7》
活物質として表7に示す元素を用い、集電体シート片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さを表7に示すように変化させ、さらに、マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表7に示す。また、活物質層と電解液との接触角を表8に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
《比較例8》
負極活物質である人造黒鉛100重量部に対し、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学(株)製)1重量部および結着剤であるスチレン−ブタジエン共重合ゴム(JSR(株)製)1重量部を混合し、負極ペーストを作製した。得られた負極ペーストを実施例1と同じCu箔上に塗布し、乾燥し、圧延して、片面あたりの厚さ85μmの活物質層を形成し、負極とした。得られた活物質層の空孔率を上記と同様の方法で測定したところ30%であった(表7参照)。また、活物質層と電解液との接触角は18°であった(表8参照)。
【0084】
《比較例9》
実施例1と同様にフォトレジスト材を用いてマスキングを行った後、ICP(誘導結合型プラズマ)ドライエッチング装置(住友精密工業(株)製)でエッチング加工し、負極を作製した。エッチングの深さは5μmであったが、得られた活物質層の各堆積膜の側面をSEMで観察したところ、全く溝が形成されていなかった。この負極を用いて電池を作製し、充電時における負極と電解液との接触角は42°であった(表8参照)。
【0085】
次に、実施例1〜30および比較例1〜9の負極を用い、以下の要領で円筒型電池を作製し、その評価を行った。
(i)正極の作製
Li2CO3とCoCO3とを所定のモル比で混合し、950℃で加熱することによってLiCoO2を合成した。これを45μm以下の大きさに分級したものを正極活物質として用いた。正極活物質100重量部に対し、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン4重量部、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え、充分に混合し、正極合剤ペーストを得た。所定量の正極合剤ペーストをAl芯材上に塗布し、乾燥し、圧延して、正極を得た。なお、正極容量は、これと組み合わせる負極容量に合わせて適宜調整した。
【0086】
(ii)円筒型電池の組立
所定の負極と正極とを、両極板より幅広で帯状のポリエチレン製セパレータを介して渦巻状に捲回し、極板群を構成した。この極板群の上下それぞれにポリプロピレン製の絶縁板を配して電槽に挿入した。その後、電槽の上部に段部を形成、次いで非水電解液を注液した。電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶媒に1モル/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウムを溶解したものを用いた。最後に封口板で電槽の開口を密閉し、電池を完成した。
【0087】
(iii)評価
[放電容量]
20℃に設定した恒温槽中で、以下の手順〈a〉〜〈c〉で円筒型電池の充放電を行い、放電容量を求めた。結果を表2、4、6および8に示す。
〈a〉定電流充電:充電電流0.2C(1Cは1時間率電流)
充電終止電圧4.05V
〈b〉定電圧充電:充電電圧4.05V
充電終止電流0.01C
〈c〉定電流放電:放電電流0.2C
放電終止電圧2.5V
【0088】
[容量維持率]
上記要領で放電容量を測定した後の電池について、20℃に設定した恒温槽中で、以下の手順〈d〉〜〈f〉からなる充放電サイクルを繰り返し、初期サイクルでの放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を百分率で求め、容量維持率(%)とした。容量維持率が100%に近いほど、サイクル寿命が良好であることを示す。結果を表2、4、6および8に示す。
〈d〉定電流充電:充電電流1C
充電終止電圧4.05V
〈e〉定電圧充電:充電電圧4.05V
充電終止電流0.05C
〈f〉定電流放電:放電電流1C
放電終止電圧2.5V
【0089】
[高率放電特性]
20℃に設定した恒温槽中で、以下の手順〈g〉〜〈i〉で円筒型電池の充放電を行った。
〈g〉定電流充電:充電電流0.2C(1Cは1時間率電流)
充電終止電圧4.05V
〈h〉定電圧充電:充電電圧4.05V
充電終止電流0.01C
〈i〉定電流放電:放電電流0.2C
放電終止電圧2.5V
【0090】
続いて、以下の手順〈j〉〜〈l〉で円筒型電池の充放電を行った。
〈j〉定電流充電:充電電流1C
充電終止電圧4.05V
〈k〉定電圧充電:充電電圧4.05V
充電終止電流0.05C
〈l〉定電流放電:放電電流1C
放電終止電圧2.5V
【0091】
さらに続いて、以下の手順〈m〉〜〈o〉で円筒型電池の充放電を行った。
〈m〉定電流充電:充電電流1C
充電終止電圧4.05V
〈n〉定電圧充電:充電電圧4.05V
充電終止電流0.05C
〈o〉定電流放電:放電電流2.5C
放電終止電圧2.5V
【0092】
放電電流2.5Cのときの放電容量に対する、放電電流1Cにおける放電容量の割合を百分率で求め、高率放電特性(%)とした。結果を表2、4、6および8に示す。
【0093】
[考察]
実施例1〜14、16〜30は、黒鉛を負極に用いた比較例8に比べて高容量であり、かつ容量維持率および高率放電特性も良好であった。また、活物質層の厚さが1μmより薄い実施例15の場合、比較例8と同程度の容量であった。ただし、活物質層の厚さが30μmより厚い実施例23では、高容量ではあるが、充放電サイクル特性と高率放電特性がともに低くなった。また、アスペクト比が0.1より小さい実施例15、16、29については、他の実施例に比較して、高率放電特性が低下する傾向にあった。さらに、マスク幅に対してパターン幅が広い実施例25および28では、他の実施例に比較して低容量であった。
【0094】
実施例1〜7では、ブラスト処理を行わなかった比較例1〜7に比べて、充放電サイクル特性および高率放電特性が極めて良好であった。この傾向は、実施例1〜7の負極は、比較例1〜7の負極に比べて接触角が低く、電解液との濡れ性が向上していることに関連している。実施例1〜7の負極は、ブラスト処理を経ているため、堆積膜に微細な溝が形成されており、電解液が浸透しやすくなっていると考えられる。
【0095】
なお、実施例15、16、29の場合、接触角は比較例に比べて小さいものの、他の実施例に比較すると、濡れ性が低下している。これはアスペクト比が1より小さく、また厚さ方向の空間が少ないため、溝の存在の寄与が小さくなるためと考えられる。なお、実施例29においてはマスク幅が80μmと大きく、溝がない上面の影響によって濡れ性が低下しているものと推測される。
【0096】
比較例9では、高容量かつ良好な寿命特性を示したものの、高率放電特性が低下した。また、比較例9では、負極が複数の堆積膜から構成されているにも関わらず、濡れ性が低かった。これは、エッチングで活物質からなる薄膜のパターニングを行ったため、各堆積膜の側面が非常に平滑であり、溝がほとんど存在しないことと関連している。特に充電時に活物質が膨張したとき、比較例9の負極には電解液が浸透しにくく、電極反応の進行が妨げられるものと予測される。
【0097】
表3〜4において、活物質からなる薄膜が厚くなるにつれ、空孔率が増加する傾向が見られる。また、実施例15と実施例23の接触角を比較すると、厚い活物質層を有する実施例21は、実施例15よりも接触角が小さく、表面が極めて粗いことがわかる。一方、実施例15では、接触角が大きく、活物質層が平滑な表面を有することがわかる。以上のような傾向は、薄膜を厚く形成する場合、長時間の蒸着を行う必要があることに起因する。すなわち、活物質を繰り返し堆積させるため、活物質が不均一に析出することが原因と考えられる。
【0098】
《実施例31〜32、比較例10〜11》
(i)実施例31
活物質からなる薄膜の成膜法としてスパッタ法を用い、集電体シート(古河サーキットフォイル(株)製の電解Cu箔、厚さ20μm)片面あたりの薄膜の厚さを表9に示すように4μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表9に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表10に示す。
【0099】
なお、スパッタ法では、2極RFスパッタ装置と、Siターゲット((株)高純度化学研究所製、純度99.999%)を用いた。スパッタの際、装置内にスパッタガスとしてArを流量150sccmで流通させ、装置内の真空度は3×10-5Torrに設定した。
【0100】
(ii)比較例10
マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例31と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表9に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表10に示す。
【0101】
(iii)実施例32
活物質からなる薄膜の成膜法としてCVD法を用い、集電体シート(古河サーキットフォイル(株)製の電解Cu箔、厚さ20μm)片面あたりの薄膜の厚さを表9に示すように5μmとしたこと以外、実施例1と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表9に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表10に示す。
【0102】
CVD法では、シランガスを用い、シランガス含有量が10%になるようにキャリアガス(水素ガス)で希釈した。銅箔温度は250℃とした。CVDの際、装置内に水素とシランの混合ガスを流量100sccmで流通させ、装置内の真空度は3Torrに設定した。
【0103】
(iv)比較例11
マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例33と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表9に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表10に示す。
【0104】
【表9】

【0105】
【表10】

【0106】
[考察]
ブラスト処理で活物質層のパターニングを行った負極は、その処理を行わなかった負極よりも接触角が低く、電解液による濡れ性が向上しており、その負極を用いた電池は、充放電サイクル特性および高率放電特性が良好であった。
【0107】
《実施例33〜34、比較例12〜13》
(i)実施例33
金属Tiおよび金属Siの単体粒子(どちらも(株)高純度化学研究所製、純度99.9% 平均粒径20〜26μm)をTi:Si=2:8(重量比)の比率で混合した後、高周波炉によって1700℃で溶融した。その後、溶融物をアトマイズ法により平均粒径約17〜23μmの粒子とした。この合金粒子についてX線回折分析を行ったところ、全て結晶質な相を有し、その結晶子(結晶粒)サイズは8〜19μmと大きかった。
【0108】
上記合金粒子をステンレス鋼製ボールとともに、合金:ボール=1:10(重量比)の比率でアトライタボールミル中に投入し、Ar雰囲気下、回転数6000rpmの一定回転で、3時間のメカニカルミリングを行った。その後、得られた粉末をAr雰囲気中で取り出し、活物質粉末として用いた。得られた活物質粉末のX線回折分析を行ったところ、少なくともTiSi2からなる金属間化合物相とSi単体相の2種類が存在しており、どちらも非晶質相であることが確認された。
【0109】
活物質粉末を5μm以下の粒径になるように分級し、得られた粉末30gと、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製のエスレックB(商品名))3gと、適量の酢酸エチルとを混合し、ペーストを得た。このペーストを集電体シート(古河サーキットフォイル(株)製の電解Cu箔、厚さ15μm)の両面に、乾燥後の片面あたりの厚さが40μm、空孔率70%になるように塗布した。乾燥は、60℃でAr流通下で行った。
【0110】
乾燥後のペースト塗膜を、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株)製)を用いて焼結させ、活物質からなる薄膜を形成した。ここでは、真空雰囲気下で、両面にペースト塗膜を担持した銅箔を60mm×60mm×厚さ30mmの超硬金型((株)アライドマテリアル製のWC(タングステンカーバイド)で挟み込み、金型にプレス圧(0.8t/cm2)を印加して3分間保持した。その際、パルス電流を前記金型へ印加した。パルス電流周波数は720Hz、印加電流値は1200A、印加電圧は1.5Vとした。
【0111】
その後、両面にペースト塗膜を担持した銅箔を6cmずつずらしながら上記操作を繰り返した。処理中の最高到達温度は380℃であった。得られた薄膜のX線回折分析を行ったところ、活物質が非晶質を維持していることが判明した。
【0112】
次いで、マスクの形成やブラスト処理を行う実施例1と同様の方法で負極を完成した。薄膜の空孔率を表11に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表12に示す。
【0113】
(ii)比較例12
マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例35と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表11に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表12に示す。
【0114】
(iii)実施例34
実施例33と同様にして、両面にペースト塗膜を担持した銅箔を作製し、乾燥後の塗膜を銅箔とともにローラで圧延し、片面あたりの塗膜の厚さが約12μmになるように調整した。これを窒素気流雰囲気中(流量5L/分)で350℃で焼成して樹脂成分を除去し、その後、450℃で10時間焼結を行い、活物質からなる薄膜を形成した。得られた薄膜のX線回折分析を行ったところ、活物質が非晶質を維持していることが判明した。
【0115】
次いで、マスクの形成やブラスト処理を行う実施例1と同様の方法で負極を完成した。薄膜の空孔率を表11に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表12に示す。
【0116】
(iv)比較例13
マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例37と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表11に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表12に示す。
【0117】
【表11】

【0118】
【表12】

【0119】
[考察]
ブラスト処理で活物質層のパターニングを行った負極は、その処理を行わなかった負極よりも接触角が低く、電解液による濡れ性が向上しており、その負極を用いた電池は、充放電サイクル特性および高率放電特性が良好であった。
【0120】
《実施例35、比較例14》
(i)実施例35
実施例33と同様にして得られた、Ti−Si合金からなり、5μm以下の粒径になるように分級された活物質粉末を、エアブラスト式ショットピーニング装置((株)不二製作所製)に投入し、集電体シート(古河サーキットフォイル(株)製の電解Cu箔、厚さ15μm)に対して、15kg/cm2の応力が印加されるように、10mmΦのノズルから打ち出した。
【0121】
このノズルを銅箔の短手方向へ3cm/秒の速度で走査させ、銅箔の端部で長手方向へ10mmノズル位置を移動させて、折り返し短手方向へ3cm/秒の速度で走査させる操作を繰り返した。こうして銅箔全面に活物質粉末を打ち込んで、活物質からなる薄膜を形成した。薄膜の厚さは約13μmであった。銅箔片面への薄膜形成が終了次第、裏面に対しても同様の手法で薄膜を形成した。得られた薄膜のX線回折分析を行ったところ、活物質が非晶質を維持していることが判明した。
【0122】
次いで、マスクの形成やブラスト処理を行う実施例1と同様の方法で負極を完成した。薄膜の空孔率を表13に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表14に示す。
【0123】
(ii)比較例14
マスクの形成やブラスト処理を行わずに薄膜をそのまま活物質層として用いたこと以外、実施例35と同様にして、負極を作製した。薄膜の空孔率を表13に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表14に示す。
【0124】
【表13】

【0125】
【表14】

【0126】
[考察]
ブラスト処理で活物質層のパターニングを行った負極は、その処理を行わなかった負極よりも接触角が低く、電解液による濡れ性が向上しており、その負極を用いた電池は、充放電サイクル特性および高率放電特性が良好であった。
【0127】
《実施例36》
以下の手法でマスク部を形成したこと以外、実施例18と同様にして、負極を作製した。ここでは、ポリウレタン樹脂のディスパージョン(大日精化工業(株)製のレザミンD(商品名))を、Siからなる薄膜上に、10μm×10μmの正方形のマスク部と6μm幅のパターン部が格子状に配列するようにスクリーン印刷で塗布を行った。
【0128】
その後、実施例18と同様にブラスト処理等を行い、負極を完成した。薄膜の空孔率を表15に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表16に示す。
【0129】
【表15】

【0130】
【表16】

【0131】
《実施例37〜43》
(i)実施例37〜41
ブラスト処理で被処理面に衝突させる微粒子を表17に示すものに変更したこと以外、実施例18と同様にして、負極を作製した。Si34の代わりにAl23およびSiCを用いた場合でも、Si34と同様のパターニングが可能であった。なお、実施例37〜39では、Si34の平均粒径を変化させたが、その結果、堆積膜の側面に形成される溝の幅と深さが変化した。溝の最大幅は、衝突微粒子の幅とほぼ一致した。また、溝深さは衝突微粒子の平均粒径のほぼ1/2〜2/3であった。
【0132】
活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表18に示す。また、堆積膜の側面に形成された溝の最大幅と最大深さを表18に示す。
【0133】
(ii)実施例42〜43
ブラスト処理で被処理面に衝突させる微粒子を表17に示すものに変更したこと以外、実施例18と同様にして、負極を作製した。Si34の代わりに、柔らかいポリエチレンまたはクルミの微粒子を用いた場合、吹きつけ時間を長くしても負極をパターニングすることができなかった。活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表18に示す。
【0134】
【表17】

【0135】
【表18】

【0136】
[考察]
上記より、衝突微粒子として、Si34、Al23、SiC等の硬度の高い材料を用いることが望ましいことが明らかになった。また、実施例39のように、マスク幅の1/2より大きな溝が堆積膜の側面に形成された場合には、濡れ性が低下し、電池特性が低下することが判明した。これは、堆積膜の側面に生成する溝数が少なくなるため、電解液の浸透性が低くなるためと考えられる。また、溝深さがマスク幅の1/2より大きくなると、活物質の絶対量が少なくなるため、容量も低下している。
【0137】
《実施例44〜48》
実施例1で用いたのと同じパターニング済みの負極に対して、表19の条件(温度、時間、雰囲気ガス)で熱処理を行い、集電体シートからCuを活物質層に拡散させた。雰囲気ガス(Ar)の圧力は1気圧とした。熱処理後の活物質層のX線回折分析を行ったところ、温度によって結晶性が変化した。結果を表19に示す。また、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表20に示す。
【0138】
【表19】

【0139】
【表20】

【0140】
[考察]
500℃以上の温度で熱処理を行った場合、Siは非晶質から低結晶に変化し、実施例45および実施例46では、それぞれ結晶子(結晶粒)の平均粒径が15nmおよび50nmと肥大化していた。また、SiおよびCu単相のスペクトルばかりでなく、Cu−Si化合物のスペクトルが観察されるようになった。
【0141】
実施例47では、Siが完全な結晶質に変化しており、その結晶子(結晶粒)の平均粒径は200nmであった。また、実施例48では、Si単相のスペクトルは確認できず、Cu−Si化合物のスペクトルのみを示した。
【0142】
Cu−Si化合物のスペクトル強度の増加にともない、放電容量は低下する傾向にあった。これは活物質のSiが、Cuと反応することで、消費されたためである。なお、実施例48の負極は、熱処理後に電極形状の維持が困難であったため、電池の作製とその評価は行わなかった。
【0143】
実施例44では、実施例1に比べて、容量がわずかに減少しているが、充放電サイクル特性および高率放電特性は向上している。これは、活物質層と集電体シートとの界面において、わずかにCuの拡散が生じ、両者に高強度の接合が生じていることと関連している。また、導電性を有するCu−Si化合物が形成されることで、電子の授受がスムーズになるものと考えられる。
【0144】
実施例44および実施例47の負極について、研磨断面を形成し、その断面をSEMおよびEPMA(Electron Probe Micro-Analysis)で観察を行った。その結果、実施例44においては、集電体シートと活物質層との界面から活物質層方向に約1μmの厚さまでCuが拡散していることが判明した。それより表面に近い位置にはCuは存在してなかった。一方、実施例47においては、活物質層の全体にCuが拡散しており、活物質層の最表面にもCuの存在が確認された。
【0145】
以上より、集電体シートを構成する元素は、集電体シート近傍の活物質層に拡散することでサイクル特性を良好にすることが判明した。ただし、活物質層の表層には、集電体シートを構成する元素が存在しないことが望ましい。
【0146】
《実施例49〜52》
SiまたはSnの単体インゴット(全て(株)高純度化学研究所製、純度99.999%、平均粒径5mm〜35mm)を黒鉛製坩堝の中に入れた。この坩堝と、集電体シートとなる電解Cu箔(古河サーキットフォイル(株)製、厚さ20μm)とを、真空蒸着装置内に導入し、電子ビーム銃を用いて、真空蒸着を行った。
【0147】
蒸着条件は、Siの場合、加速電圧−8kV、電流150mAとした。また、Snの場合、加速電圧−8kV、電流100mAとした。真空度は、いずれの場合も3×10-5Torrとした。電子ビーム照射と同時に、20sccmの流量で酸素を装置内に流通させた。
【0148】
集電体シート片面の蒸着が終了後、さらに裏側(未蒸着面)についても同様に真空蒸着を行い、両面に活物質からなる薄膜を成膜した。これらの薄膜に対し、X線回折分析を行ったところ、集電体シートであるCuに帰属される結晶性のピークが観察され、どの薄膜においても2θ=15−40°の位置にブロードなピークが検出された。この結果から、活物質は非晶質であることが判明した。
薄膜中に含まれる酸素量を赤外線吸収法(JIS Z 2613)で測定し、その活物質の組成(表21のx値)を算出した。負極全体の厚さは約36〜38μmであり、片面あたりの活物質からなる薄膜の厚さは約8〜9μmであった。
【0149】
次いで、マスクの形成やブラスト処理を行う実施例1と同様の方法で負極を完成した。薄膜の空孔率を表21に示す。また、マスキング処理の際のマスク幅とパターン幅、各堆積膜のアスペクト比、活物質層と電解液との接触角、ならびに上述の[評価]と同様に求めた放電容量、容量維持率、および高率放電特性を表22に示す。
【0150】
【表21】

【0151】
【表22】

【0152】
[考察]
表21〜22より、活物質層として酸化物を形成した場合にも、実施例1と同様に、高容量かつ長寿命な電池が得られることがわかる。また、ここでは示さないが、SiまたはSnの代わりに、Al、Ge、Pb、BiまたはSbを用いても同様の結果を示した。さらに、酸素のかわりに装置内に窒素を流しても同様の結果が得られる。
【0153】
また、真空蒸着の蒸着源として、Si、Sn、Al、Ge、Pb、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種の元素M1の酸化物、窒化物および硫化物よりなる群から選択される少なくとも1種を用いて蒸着を行った場合にも、同様の結果が得られる。
【0154】
ただし、活物質として酸化物を用いる場合、いったん酸化物を還元する必要があることから、正極容量の一部が不可逆容量として使われ、電池容量は低下する傾向にある。そこで、容量低下を防ぐために、負極表面または負極集電体に金属Liを貼り付けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、様々な形態の非水電解質二次電池に適用可能であり、実施例で挙げた円筒型電池のみならず、例えばコイン型、角型、扁平型等の形状を有する電池に適用できる。また、本発明は、捲回型および積層型のいずれの極板群を有する電池にも適用可能である。本発明の非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明の非水電解質二次電池用負極の一例の上面図である。
【図2】図1におけるI−I断面図である。
【図3】堆積膜もしくは焼結膜の上面拡大図である。
【図4】堆積膜もしくは焼結膜の側面拡大図である。
【図5】本発明の非水電解質二次電池用負極の製造法の一例の説明図である。
【図6】マスキング処理に用いた格子状のメタルカバーの上面図である。
【符号の説明】
【0157】
10 負極
12 活物質層
14 集電体シート
16 堆積膜もしくは焼結膜
30 堆積膜もしくは焼結膜の上面
32 堆積膜もしくは焼結膜の側面
34 溝
50 負極
52 集電体シート
54 活物質からなる薄膜
54’堆積膜または焼結膜
56 フォトレジストの塗膜
56’マスク
58 メタルカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質層および前記活物質層を担持するLiと反応しない集電体シートからなり、
前記活物質層は、前記集電体シートの表面に担持された複数の堆積膜もしくは焼結膜からなり、
各堆積膜もしくは焼結膜の側面には、上面側から集電体シート側へ向かう少なくとも1つの溝が形成されている、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記複数の堆積膜もしくは焼結膜は、それぞれ「膜厚」÷「上面の最短幅」で定義されるアスペクト比が0.1以上である請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記複数の堆積膜もしくは焼結膜は、前記集電体シートの表面に格子状、千鳥格子状またはハニカム状に配列している請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
放電状態において、前記複数の堆積膜もしくは焼結膜の平均高さが、1μm以上30μm以下である請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
放電状態において、互いに隣接する堆積膜もしくは焼結膜間の最短距離が、前記上面の最短幅より狭い請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
各堆積膜もしくは焼結膜が、Liと電気化学的に反応する元素M1を含み、元素M1が、Si、Sn、Al、Ge、Pb、BiおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
各堆積膜もしくは焼結膜が、Liと電気化学的に反応しない元素M2を含み、元素M2が、遷移金属元素よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項8】
元素M2の含有量は、各堆積膜もしくは焼結膜の表面側よりも、前記集電体シート側の方で高くなっている請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項9】
元素M1は、各堆積膜もしくは焼結膜中において、低結晶または非晶質の領域を形成している請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項10】
各堆積膜もしくは焼結膜中の元素M1の含有量が、40重量%以上である請求項1記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項11】
リチウムの吸蔵および放出が可能な正極、請求項1記載の負極、前記正極と負極との間に介在するセパレータ、および非水電解質を具備した非水電解質二次電池。
【請求項12】
(i)少なくともLiを電気化学的に吸蔵および放出可能な活物質からなる薄膜をLiと反応しない集電体シートの表面に形成し、
(ii)前記薄膜上に複数のマスクを配置し、
(iii)前記薄膜の前記複数のマスクで覆われていない露出部分に微粒子を打ち込むことにより、前記露出部分を削り取り、
(iv)前記露出部分が削り取られた薄膜から前記複数のマスクを除去する
ことを含む非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項13】
前記工程(i)において、前記薄膜をスパッタ、蒸着またはCVD法により形成する請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項14】
前記工程(i)において、前記集電体シートの表面に活物質粒子とバインダを含むペーストの塗膜を形成し、前記塗膜を焼結することにより前記薄膜を形成する請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項15】
前記工程(i)において、前記集電体シートの表面に活物質粒子を衝突させることにより前記薄膜を形成する請求項14記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項16】
前記工程(ii)において、前記複数のマスクをフォトレジストにより形成する請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項17】
前記工程(ii)において、前記薄膜上に高分子材料を印刷することにより前記複数のマスクを形成する請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項18】
前記工程(iii)において、前記微粒子の直径が、前記複数のマスクの1つあたりの最短幅の1/2以下である請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。
【請求項19】
前記工程(iii)において、前記微粒子が、Al23、SiCおよびSi34よりなる群から選択される少なくとも1種からなる請求項12記載の非水電解質二次電池用負極の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−120445(P2006−120445A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306819(P2004−306819)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】