説明

非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池

【課題】負極の高容量化に好ましい少なくともリチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核にカーボンナノファイバを付着させた複合負極活物質を用いて、高容量と優れた高負荷放電特性を備えた非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池用負極1では、負極合剤層12において、集電体10に近い側にカーボンナノファイバの付着量の多い複合負極活物質を分布させ、集電体10から遠い側、すなわち正極に対向する表面12A側にカーボンナノファイバの付着量の少ない複合負極活物質を分布させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極および非水電解質二次電池に関し、より詳しくは充放電特性を損なうことなく大容量の非水電解質二次電池用負極を備えた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれて、小型・軽量で、かつ高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池への期待は高まりつつある。現在、黒鉛などの炭素材料が非水電解質二次電池の負極活物質として実用化されている。しかしながらその理論容量密度は372mAh/gである。そこで、さらに非水電解質二次電池を高エネルギー密度化するために、リチウムと合金化するケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)やこれらの酸化物および合金などが検討されている。これらの負極活物質材料の理論容量密度は、炭素材料に比べて大きい。特にSi粒子や酸化ケイ素粒子などの含ケイ素粒子は安価なため、幅広く検討されている。
【0003】
しかしながら、通常非水電解質二次電池の負極活物質として用いられる炭素材料は放電状態における体積に対する充電状態における体積の比が1.1以下であるのに対し、理論容量密度が炭素材料より大きく833mAh/cmを超えるこれらの材料では1.2以上の大きな体積変化が起こる。この大きな体積変化により活物質粒子は微紛化し、その結果、活物質粒子間の導電性が低下する。そのため、十分な充放電サイクル特性(以下、「サイクル特性」という)が得られていない。
【0004】
そこでリチウム合金を形成しうる金属または半金属を含む活物質粒子を核に、複数の炭素繊維を結合させて複合粒子化させることが提案されている。この構成では、活物質粒子の体積変化が起こっても導電性が確保され、サイクル特性が維持できることが報告されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−349056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらリチウム合金を形成しうる金属または半金属を含む活物質粒子核に、複数の炭素繊維を結合させて複合粒子化させた場合、その炭素繊維の量により、活物質容量や、高負荷充放電などの特性は大きく異なる。すなわち炭素繊維の量が活物質粒子に対して多いと、より導電性の確保が確実となり高率充放電特性に優れる。しかし、活物質粒子の占有比率が少なくなるため単位重量当たり(または単位体積当たり)の容量は低下する。逆に炭素繊維が少ない場合には、高容量化は図れるが、高負荷充放電特性はやや劣る。したがって総合的に優れた特性を実現するためには、活物質の合成に対する制約条件が多くなる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、簡易な方法により総合的に優れた特性を有する非水電解質二次電池を実現する非水電解質二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の非電解質二次電池用負極は、集電体と、少なくともリチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核にカーボンナノファイバ(以下、CNFという)が付着した複合負極活物質を含み、集電体上に設けられた負極合剤層とを有する。この活物質核の放電状態における体積Bに対する充電状態における体積Aの比A/Bは、1.2以上である。そして負極合剤層では、集電体に近い側にCNFの付着量の多い複合負極活物質を分布させ、集電体から遠い側にCNFの付着量の少ない複合負極活物質を分布させている。活物質核にCNFを付着させる量が多いと高負荷放電やサイクル特性に優れた活物質となる。その反面、負極合剤層中の体積当たりの活物質核の量が少なくなるために電池としての充放電容量が小さくなる。逆にCNFを付着させる量が少ないと充放電容量が大きくなるが、高負荷放電やサイクル特性が低下する。本発明の構成では、これら性能の異なる複合負極活物質を負極合剤層内で効果的に配置することで、高容量と優れた高負荷放電特性を実現することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非水電解質二次電池用負極を用いれば、簡易な方法により高容量と優れた高負荷放電特性を実現することができる非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の発明は、集電体と、少なくともリチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核にCNFが付着した複合負極活物質を含み、集電体上に設けられた負極合剤層とを有する非水電解質二次電池用負極である。この活物質核の放電状態における体積Bに対する充電状態における体積Aの比A/Bは、1.2以上であり、その理論容量密度は炭素材料より大きく833mAh/cmを超える。この負極合剤層では、集電体に近い側にCNFの付着量の多い複合負極活物質を分布させ、集電体から遠い側にCNFの付着量の少ない複合負極活物質を分布させている。この構成では、これら性能の異なる複合負極活物質を負極合剤層内で機能的に配置することで、高容量と優れた高負荷放電特性を実現することができる。
【0010】
本発明の第2の発明は、第1の発明において負極合剤層が集電体に近い側に設けられ、CNFの付着量の多い複合負極活物質を含む第1層と、集電体に遠い側に設けられCNFの付着量の少ない複合負極活物質を含む第2層を含む非水電解質二次電池用負極である。この構成は第1の発明による非水電解質二次電池用負極の一例であり、簡便な方法で上記の構成が得られる。
【0011】
本発明の第3の発明は、第2の発明において第1層を第2層より厚くした非水電解質二次電池用負極である。CNF付着量の多い複合負極活物質を含む第1層を厚く構成することでより高負荷放電に適した非水電解質二次電池を得ることができる。
【0012】
本発明の第4の発明は、第2の発明において第2層を第1層より厚くした非水電解質二次電池用負極である。CNF付着量の少ない複合負極活物質を含む第2層を厚く構成することでより高容量な非水電解質二次電池を得ることができる。
【0013】
本発明の第5の発明は、第1の発明において活物質核を含ケイ素粒子とした非水電解質二次電池用負極である。含ケイ素粒子は活物質核の典型例であり高容量で比較的安価である。
【0014】
本発明の第6の発明は、第5の発明において含ケイ素粒子が酸化ケイ素であり、ケイ素に対する酸素の比率が0.3以上、1.3以下とした非水電解質二次電池用負極である。この組成範囲とすることにより、活物質容量を確保しつつ、充放電による体積変化を抑制することができる。
【0015】
本発明の第7の発明は、上記いずれかの非水電解質二次電池用負極を用いて構成した非水電解質二次電池である。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、本明細書に記載された基本的な特徴に基づく限り、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による非水電解質二次電池の断面図である。図2は、図1に示す非水電解質二次電池の負極合剤層に含まれる複合負極活物質の概略図である。このコイン型の電池は、負極1と、負極1に対向し放電時にリチウムイオンを還元する正極2と、負極1と正極2との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水電解質3とを有する。負極1および正極2は、非水電解質3とともに、ガスケット4と蓋体5とを用いて、ケース6内に収納されている。正極2は集電体7と正極活物質を含む正極合剤層8からなる。負極1は集電体10とその表面に設けられた負極合剤層12とを有する。
【0018】
正極合剤層8はLiCoOやLiNiO、LiMn、またはこれらの混合あるいは複合化合物などのような含リチウム複合酸化物を正極活物質として含む。正極活物質としては上記以外に、LiMPO(M=V、Fe、Ni、Mn)の一般式で表されるオリビン型リン酸リチウム、LiMPOF(M=V、Fe、Ni、Mn)の一般式で表されるフルオロリン酸リチウムなども利用可能である。さらにこれら含リチウム化合物の一部を異種元素で置換してもよい。金属酸化物、リチウム酸化物、導電剤などで表面処理してもよく、表面を疎水化処理してもよい。
【0019】
正極合剤層8はさらに導電剤と結着剤とを含む。導電剤としては、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料を用いることができる。
【0020】
また結着剤としては、負極1に用いるものと同様のものを用いることができる。すなわち、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
正極2に用いる集電体7としては、アルミニウム(Al)、炭素、導電性樹脂などが使用可能である。またこのいずれかの材料に、カーボンなどで表面処理してもよい。
【0022】
非水電解質3には有機溶媒に溶質を溶解した電解質溶液や、これらを含み高分子で非流動化されたいわゆるポリマー電解質層が適用可能である。少なくとも電解質溶液を用いる場合には正極2と負極1との間にポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、アミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミドなどからなる不織布や微多孔膜などのセパレータ(図示せず)を用い、これに溶液を含浸させるのが好ましい。またセパレータの内部あるいは表面には、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニアなどの耐熱性フィラーを含んでもよい。セパレータとは別に、これらのフィラーと、電極に用いるのと同様の結着剤とから構成される耐熱層を設けてもよい。
【0023】
非水電解質3の材料は、活物質の酸化還元電位などを基に選択される。非水電解質3に用いるのが好ましい溶質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiN(CFCO)、LiN(CFSO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiF、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ほう酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ほう酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ほう酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ほう酸リチウムなどのほう酸塩類、(CFSONLi、LiN(CFSO)(CSO)、(CSONLi、テトラフェニルホウ酸リチウムなど、一般にリチウム電池で使用されている塩類が適用できる。
【0024】
さらに上記塩を溶解させる有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシメタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、トリメトキシメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのテトラヒドロフラン誘導体、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、スルホラン、3−メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、エチルエーテル、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、フルオロベンゼンなどの1種またはそれ以上の混合物など、一般にリチウム電池で使用されているような溶媒が適用できる。
【0025】
さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、ジアリルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、カテコールカーボネート、酢酸ビニル、エチレンサルファイト、プロパンサルトン、トリフルオロプロピレンカーボネート、ジベニゾフラン、2,4−ジフルオロアニソール、0−ターフェニル、m−ターフェニルなどの添加剤を含んでいてもよい。
【0026】
なお、非水電解質3は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどの高分子材料の1種またはそれ以上の混合物などに上記溶質を混合して、固体電解質として用いてもよい。また、上記有機溶媒と混合してゲル状で用いてもよい。さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を固体電解質として用いてもよい。
【0027】
負極合剤層12は図2に示すように、少なくともリチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核35の表面にカーボンナノファイバ(CNF)36を付着させた複合負極活物質34を含む。CNF36は活物質核35の表面に付着あるいは固着しており、電池内では集電に対する抵抗が小さくなり、高い電子伝導性が維持される。
【0028】
負極合剤層12はさらに結着剤を含む。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。
【0029】
また、必要に応じて鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅やニッケルなどの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などの導電剤を負極合剤層12に混入させてもよい。
【0030】
集電体10には、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンなどの金属箔、炭素や導電性樹脂の薄膜などが利用可能である。さらに、カーボン、ニッケル、チタンなどで表面処理を施してもよい。
【0031】
次に複合負極活物質34について詳細に説明する。活物質核35としては、ケイ素(Si)やスズ(Sn)などのようにリチウムイオンを大量に吸蔵放出可能な材料を用いることができる。このような材料であれば、単体、合金、化合物、固溶体および含ケイ素材料や含スズ材料を含む複合活物質の何れであっても、本発明の効果を発揮させることは可能である。すなわち、含ケイ素材料として、Si、SiO(0.05<x<1.95)、またはこれらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金や化合物、または固溶体などを用いることができる。含スズ材料としてはNiSn、MgSn、SnO(0<x<2)、SnO、SnSiO、LiSnOなどが適用できる。
【0032】
これらの材料は単独で活物質核35を構成してもよく、また複数種の材料により活物質核35を構成してもよい。上記複数種の材料により活物質核35を構成する例として、Siと酸素と窒素とを含む化合物やSiと酸素とを含み、Siと酸素との構成比率が異なる複数の化合物の複合物などが挙げられる。この中でもSiO(0.3≦x≦1.3)は、放電容量密度が大きく、かつ充電時の膨張率がSi単体より小さいため好ましい。
【0033】
CNF36は、活物質核35の表面に担持された触媒元素(図示せず)を核として成長して形成される。触媒元素として銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)およびマンガン(Mn)よりなる群から選択された少なくとも1種を用いることができ、CNF36の成長を促進する。このようにCNF36が活物質核35の表面に付着していることにより良好な充放電特性が期待できる。また触媒元素の介在によって活物質核35への結合力が強く、負極合剤層12を集電体10上に塗布する際の圧延負荷に対する負極1の耐久性を向上させることができる。
【0034】
CNF36の成長が終了するまでの間、触媒元素が良好な触媒作用を発揮するためには、触媒元素が活物質核35の表層部において金属状態で存在することが望ましい。触媒元素は、例えば粒径1nm〜1000nmの金属粒子の状態で存在することが望まれる。一方、CNF36の成長終了後においては、触媒元素からなる金属粒子を酸化することが望ましい。
【0035】
CNF36の繊維長は、1nm〜1mmが好ましく、500nm〜100μmがさらに好ましい。CNF36の繊維長が1nm未満では、電極の導電性を高める効果が小さくなりすぎ、また繊維長が1mmを超えると、活物質密度や容量が小さくなる傾向がある。
【0036】
CNF36の形態は、特に限定されないが、チューブ状カーボン、アコーディオン状カーボン、プレート状カーボンおよびヘーリング・ボーン状カーボンよりなる群から選択された少なくとも1種からなることが望ましい。CNF36は、成長する過程で触媒元素を自身の内部に取り込んでもよい。また、CNF36の繊維径は1nm〜1000nmが好ましく、50nm〜300nmがさらに好ましい。
【0037】
触媒元素は、金属状態でCNF36を成長させるための活性点を与える。すなわち触媒元素が金属状態で表面に露出した活物質核35を、CNF36の原料ガスを含む高温雰囲気中に導入すると、CNF36の成長が進行する。活物質粒子の表面に触媒元素が存在しない場合には、CNF36は成長しない。
【0038】
活物質核35の表面に触媒元素からなる金属粒子を設ける方法は、特に限定されないが、例えば固体の金属粒子を活物質核35と混合することが考えられる。また金属粒子の原料である金属化合物の溶液に、活物質核35を浸漬する方法が好適である。溶液に浸漬後の活物質核35から溶媒を除去し、必要に応じて加熱処理すると、表面に均一にかつ高分散状態で、粒径1nm〜1000nm、好ましくは10nm〜100nmの触媒元素からなる金属粒子を担持した活物質核35を得ることが可能である。
【0039】
触媒元素からなる金属粒子の粒径が1nm未満の場合、金属粒子の生成が非常に難しく、また1000nmを超えると、金属粒子の大きさが極端に不均一となり、CNF36を成長させることが困難になったり、導電性に優れた電極が得られなくなったりすることがある。そのため、触媒元素からなる金属粒子の粒径は1nm以上、1000nm以下であることが望ましい。
【0040】
上記溶液を得るための金属化合物としては、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸マンガン、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物などを挙げることができる。また溶液に用いる溶媒には、化合物の溶解度、電気化学的活性相との適性を考慮して、水、有機溶媒および水と有機溶媒との混合物の中から好適なものを選択すればよい。有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0041】
一方、触媒元素を含む合金粒子を合成し、これを活物質核35として用いることもできる。この場合、Si、Snなどと触媒元素との合金を、通常の合金製造方法により合成する。Si、Snなどの元素は、電気化学的にリチウムと反応して合金を生成するので、電気化学的活性相が形成される。一方、触媒元素からなる金属相の少なくとも一部は、例えば粒径10nm〜100nmの粒子状で合金粒子の表面に露出する。
【0042】
触媒元素からなる金属粒子もしくは金属相は、活物質核35の0.01重量%〜10重量%であることが望ましく、1重量%〜3重量%であることがさらに望ましい。金属粒子もしくは金属相の含有量が少なすぎると、CNF36を成長させるのに長時間を要し、生産効率が低下する場合がある。一方、触媒元素からなる金属粒子もしくは金属相の含有量が多すぎると、触媒元素の凝集により、不均一で太い繊維径のCNF36が成長するため、合剤層中の導電性や活物質密度の低下につながる。また、電気化学的活性相の割合が相対的に少なくなり、複合負極活物質34を高容量の電極材料とすることが困難となる。
【0043】
次に、活物質核35とCNF36とから構成された複合負極活物質34の製造方法について述べる。この製造方法は以下の4つのステップで構成される。
【0044】
(a)リチウムの吸蔵放出が可能な活物質核35の少なくとも表層部に、CNF36の成長を促進するCu、Fe、Co、Ni、MoおよびMnよりなる群から選択された少なくとも1種の触媒元素を設けるステップ。
【0045】
(b)炭素含有ガスおよび水素ガスを含む雰囲気中で、活物質核35の表面に、CNF36を成長させるステップ。
【0046】
(c)不活性ガス雰囲気中で、CNF36が付着した活物質核35を400℃以上、1600℃以下で焼成するステップ。
【0047】
(d)CNF36が付着した活物質核35を解砕してタップ密度を0.42g/cm以上、0.91g/cm以下に調整するステップ。
【0048】
ステップ(c)の後、さらに、大気中で複合負極活物質34を100℃以上、400℃以下で熱処理して触媒元素を酸化してもよい。100℃以上、400℃以下の熱処理であれば、CNF36を酸化させずに触媒元素だけを酸化することが可能である。
【0049】
ステップ(a)としては、活物質核35の表面に触媒元素からなる金属粒子を担持するステップ、触媒元素を含む活物質核35の表面を還元するステップ、Si、Snなどの元素と触媒元素との合金粒子を合成するステップなどが挙げられる。ただしステップ(a)は上記に限られるものではない。
【0050】
次に、ステップ(b)において、活物質核35の表面にCNF36を成長させる際の条件について説明する。少なくとも表層部に触媒元素を有する活物質核35を、CNF36の原料ガスを含む高温雰囲気中に導入するとCNF36の成長が進行する。例えばセラミック製反応容器に活物質核35を投入し、不活性ガスもしくは還元力を有するガス中で100℃〜1000℃、好ましくは300℃〜600℃の高温になるまで昇温させる。その後、CNF36の原料ガスである炭素含有ガスと水素ガスとを反応容器に導入する。反応容器内の温度が100℃未満では、CNF36の成長が起こらないか、成長が遅すぎて生産性が損なわれる。また、反応容器内の温度が1000℃を超えると、原料ガスの分解が促進されCNF36が成長し難くなる。
【0051】
原料ガスとしては、炭素含有ガスと水素ガスとの混合ガスが好適である。炭素含有ガスとしては、メタン、エタン、エチレン、ブタン、一酸化炭素などを用いることができる。混合ガスにおける炭素含有ガスのモル比(体積比)は、20%〜80%が好適である。活物質核35の表面に金属状態の触媒元素が露出していない場合には、水素ガスの割合を多めに制御することで、触媒元素の還元とCNF36の成長とを並行して進行させることができる。CNF36の成長を終了させる際には、炭素含有ガスと水素ガスとの混合ガスを不活性ガスに置換し、反応容器内を室温まで冷却する。
【0052】
続いて、ステップ(c)にて、CNF36が付着した活物質核35を、不活性ガス雰囲気中にて400℃以上、1600℃以下で焼成する。このようにすることで電池の初期充電時に進行する電解質とCNF36との不可逆反応が抑制され、優れた充放電効率を得ることができるため好ましい。このような焼成行程を行わないか、もしくは焼成温度が400℃未満では、上記の不可逆反応が抑制されず電池の充放電効率が低下することがある。また、焼成温度が1600℃を超えると、活物質核35の電気化学的活性相とCNF36とが反応して活性相が不活性化したり、電気化学的活性相が還元されて容量低下を引き起こしたりすることがある。例えば、活物質核35の電気化学的活性相がSiである場合には、SiとCNF36とが反応して不活性な炭化ケイ素が生成してしまい、電池の充放電容量の低下を引き起こす。なお、活物質核35がSiの場合、焼成温度は1000℃以上、1600℃以下が特に好ましい。なお、成長条件によってCNF36の結晶性を高めることもできる。このようにCNF36の結晶性が高い場合には電解質とCNF36との不可逆反応も抑制されるため、ステップ(c)は必須ではない。
【0053】
不活性ガス中で焼成後の複合負極活物質34は、さらに触媒元素からなる金属粒子もしくは金属相の少なくとも一部(例えば表面)を酸化するために、大気中で、100℃以上、400℃以下で熱処理することが好ましい。熱処理温度が100℃未満では、金属を酸化することは困難であり、400℃を超えると成長させたCNF36が燃焼してしまうことがある。
【0054】
ステップ(d)ではCNF36が付着した焼成後の活物質核35を解砕する。このようにすることにより、充填性の良好な複合負極活物質34が得られるため好ましい。ただし、解砕しなくてもタップ密度が0.42g/cm以上、0.91g/cm以下の場合は必ずしも解砕する必要はない。すなわち、充填性のよい活物質核を原料に用いた場合、解砕する必要がない場合もある。
【0055】
次に、負極合剤層12の構成について説明する。図3は負極1の拡大断面図である。本実施の形態における負極合剤層12では、集電体10に近い側にCNF36の付着量の多い複合負極活物質34を分布させ、正極2に対向する表面12A側にCNF36の付着量の少ない複合負極活物質34を分布させている。すなわち、集電体10から遠い位置の複合負極活物質34はCNF36の付着量が少ない。
【0056】
活物質核35へのCNF36の付着量は、CNF36の成長時間や、触媒元素の付着量を変えるなど、CNF36の作製条件の変更により変えることができる。
【0057】
活物質核35にCNF36を付着させる場合、その比率により、電池特性への影響が大きく異なる。活物質核35にCNF36を付着させる量が多いと高負荷放電やサイクル特性に優れた活物質となる。その反面、体積当たりの活物質核35の量が少なくなるために電池としての充放電容量が小さくなる。逆にCNF36を付着させる量が少ないと充放電容量が大きくなるが、高負荷放電やサイクル特性が低下する。
【0058】
本実施の形態では、これら性能の異なる複合負極活物質34を負極合剤層12内で効果的に配置することで、高容量と優れた高負荷放電特性を実現することができる。また求める性能に応じて特性を調整することができる。すなわち、集電体10の近傍に高負荷放電特性に優れるCNF36の付着量の多い活物質を分布させ、正極2に対向する表面12A側に充放電容量を確保する目的でCNF36の付着量の少ない活物質を分布させる。
【0059】
負極合剤層12をこのような構成にするには、例えばCNF36の付着量の異なる複合負極活物質34を含むペーストを数種類用意する。そしてCNF36の付着量の最も多い複合負極活物質34を含むペーストをスプレー法にて集電体10上に吹き付ける。乾燥後にそれよりCNF36の付着量の少ない複合負極活物質34を含むペーストをその上に吹きつけ乾燥させる。以下、CNF36の付着量の多い順にペーストを吹き付ける。このようにして活物質核35に対し連続的にCNF36の付着量が変化した負極合剤層12が得られる。
【0060】
上記以外に、図4の断面図に示すような構成に負極合剤層12を形成してもよい。この構成では、集電体10に近い側にCNF36の付着量の多い複合負極活物質34を含む第1層12Bが設けられ、正極2に対向する表面12A側(集電体10に遠い側)にCNF36の付着量の少ない複合負極活物質34を含む第2層12Cが設けられている。このようにしても上記と同様の効果が得られる。このような負極合剤層12は、次のようにして形成される。まずCNF36の付着量の多い複合負極活物質34を含むペーストをドクターブレード法などにより塗工して第1層12Bを形成する。次に、第1層12Bの上に、CNF36の付着量の少ない複合負極活物質34を含むペーストをドクターブレード法などにより塗工して第2層12Cを形成する。この方法は比較的簡便である。なお、このとき第1層12Bを完全に乾燥させる前に第2層12Cを形成することがより好ましい。このようにすることで第1層12Bと第2層12Cとが剥離しにくくなる。
【0061】
さらに、図5の断面図に示すように、第1層12Bの表面に凹凸を設け、その上に第2層12Cを設けると、第1層12Bと第2層12Cとの結合が強まり、さらに剥離しにくくなるため好ましい。
【0062】
なお、図4、図5に示す構成に負極合剤層12を形成し、乾燥後に負極1を圧延すると、負極合剤層12内で複合負極活物質34の再配列が生じ、擬似的にCNF36の付着量が連続的に変化した負極合剤層12が得られる。また、図4、図5では負極合剤層12を2層に形成しているが、集電体10から遠ざかるほどCNF36の付着量の少ない複合負極活物質34が少なくなるように3層以上の層で形成してもよい。
【0063】
次に、本発明の実施の形態における具体的な実施例について説明する。なお、以下の実施例では、負極1の効果を明確にする目的で、正極2の代わりに金属リチウムを用いて図1と同様のコイン型二次電池を作製し評価した。
【0064】
(1)負極の作製
リチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核35として、サンプル1では、粒径10μm以下に粉砕したO/Si比(ケイ素に対する酸素の比率)がモル比で1.01である酸化ケイ素を使用した。
【0065】
また、触媒元素をこの酸化ケイ素粒子の表層部に結合するために、硝酸鉄9水和物(特級)1gをイオン交換水100gに溶解させた溶液を使用した。なお、酸化ケイ素粒子のモル比の測定は、JIS Z2613に基づく重量分析法に準じて行った。この酸化ケイ素粒子と硝酸鉄溶液との混合物を、1時間攪拌後、エバポレータ装置で水分を除去することで、酸化ケイ素粒子の表層部に均一にかつ高分散状態で、粒径が1nm〜1000nmの硝酸鉄を担持させた。
【0066】
次に、この硝酸鉄を担持した活物質核35をセラミック製反応容器に投入し、ヘリウムガス存在下で500℃まで昇温させた。その後、ヘリウムガスを、水素ガス50体積%と一酸化炭素ガス50体積%との混合ガスにより置換し、500℃で1時間保持した。これにより、硝酸鉄を還元するとともに活物質核35の表面に、繊維径が約80nm、繊維長が約50μmのプレート状のCNF36を成長させた。
【0067】
次に、混合ガスを再びヘリウムガスにより置換し、反応容器内を室温になるまで冷却させた。成長したCNF36の量は、酸化ケイ素100重量部当たり25重量部であった。このようにして複合負極活物質34を得た。
【0068】
次に、ペースト作製のために、複合負極活物質34の100重量部に対し、結着剤として平均分子量が15万のポリアクリル酸1%水溶液を固形分に換算して10重量部と、コアシェル型変性スチレン−ブタジエン共重合体を10重量部とを混合し、さらに蒸留水200重量部を添加して混合分散し、負極合剤ペーストAを調製した。
【0069】
また、CNF36の成長工程において、成長時間を30分とした複合負極活物質34を作製し、上記と同様にして負極合剤ペーストBを調製した。さらに成長時間を2時間とした複合負極活物質34を作製し、上記と同様にして負極合剤ペーストCを調製した。負極合剤ペーストB、負極合剤ペーストCにおけるCNF36の量は、酸化ケイ素100重量部当たりそれぞれ15重量部、35重量部であった。
【0070】
これらの負極合剤ペーストを用いて、厚さ14μmのCu箔よりなる集電体10の両面にドクターブレード法により塗布、乾燥し、乾燥後の総厚み(銅箔を含む)が100μmとなるように負極合剤層12を形成した。その後、直径12.5mmの円形に打ち抜いて負極1を得た。
【0071】
サンプル1〜3では負極合剤ペーストAを先に塗工した後、やや乾燥させてから負極合剤ペーストBを塗工した。すなわち第1層12Bを負極合剤ペーストAにより、第2層12Cを負極合剤ペーストBにより形成した。
【0072】
サンプル1では、第1層12B、第2層12Cの厚みがそれぞれ50μmとなるようにした。サンプル2では第1層12Bの厚みが30μm、第2層12Bの厚みが70μmとなるようにした。サンプル3では第1層12Bの厚みが10μm、第2層12Bの厚みが90μmとなるようにした。
【0073】
サンプル4〜6では負極合剤ペーストCを先に塗工した後、やや乾燥させてから負極合剤ペーストAを塗工した。すなわち第1層12Bを負極合剤ペーストCにより、第2層12Cを負極合剤ペーストAにより形成した。
【0074】
サンプル4では、第1層12B、第2層12Cの厚みがそれぞれ50μmとなるようにした。サンプル5では第1層12Bの厚みが30μm、第2層12Bの厚みが70μmとなるようにした。サンプル6では第1層12Bの厚みが10μm、第2層12Bの厚みが90μmとなるようにした。
【0075】
サンプル7、8では、活物質核35として、それぞれO/Si比がモル比で0.3、1.3である酸化ケイ素を使用した。それ以外はサンプル3と同様にして負極1を作製した。
【0076】
なお、比較のため、以下のサンプルを作製した。サンプルC1、C2、C3ではそれぞれ、負極合剤ペーストA、負極合剤ペーストB、負極合剤ペーストCのみで負極合剤層12を作製した。サンプルC4では活物質核35として、O/Si比がモル比で0.1である酸化ケイ素を使用した。それ以外はサンプル3と同様にして負極1を作製した。
【0077】
なお、サンプル7、8、C4では活物質核35におけるO/Si比が異なるためにCNF36の付着量がサンプル3とは微妙に異なった。サンプル7では負極合剤ペーストA、負極合剤ペーストBにおけるCNF36の量は、酸化ケイ素100重量部当たりそれぞれ29重量部、16重量部であった。サンプル8では負極合剤ペーストA、負極合剤ペーストBにおけるCNF36の量は、酸化ケイ素100重量部当たりそれぞれ27重量部、18重量部であった。サンプルC4では負極合剤ペーストA、負極合剤ペーストBにおけるCNF36の量は、酸化ケイ素100重量部当たりそれぞれ24重量部、15重量部であった。
【0078】
(2)電池の作製と評価
上記のように作製した負極1を、直径20mm、厚さ1.6mmのケース6に挿入した。その上に厚さ20μmのセパレータを介してリチウム金属を配置後、非水電解質3である電解液を数滴注入し、封口して理論容量5mAh前後の電池を作製した。電解液は、EC:DMC:EMC=2:3:3(体積比)である混合溶媒に1.0mol/dmのLiPFを溶解させて調製した。
【0079】
このようにして作製した各電池を0.5mAの定電流で0Vまで放電し、続いて0.5mAの定電流で1Vまで充電した。この操作を3回繰り返した。この3回目の充電容量を低負荷容量とした。その後、0.5mAの定電流で0Vまで放電し、続いて2.5mAの定電流で1Vまで充電した。この充電容量を高負荷容量とした。なお、本実施例では金属リチウムより電位の貴な負極1を金属リチウムと組み合わせて電池を構成しているため、充電により負極1がリチウムイオンを放出し、放電により負極1がリチウムイオンを吸蔵する。すなわち、通常の電池の場合と逆になっている。
【0080】
まずサンプル1〜6とサンプルC1〜C3の諸元と評価結果を(表1)に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
サンプルC1とサンプル1〜3とを比較すると、高負荷容量はサンプルC1の方が大きいものの、低負荷容量はサンプル1〜3の方が大きい。これは第2層12CにおけるCNF36の付着量が少ないために活物質核35の量が多くなって低負荷容量が増大したためである。サンプルC2とサンプル1〜3とを比較すると、低負荷容量はサンプルC2の方が大きいが、高負荷容量はサンプル1〜3の方が大きい。これは第1層12Bが高負荷充電での過電圧(電圧上昇)を低減して高負荷容量が増大したためである。この傾向はサンプルC1、C3とサンプル4〜6との比較においても同様である。
【0083】
低負荷放電における容量は電池内に充填された活物質の量にほぼ比例する。一方、高負荷放電における容量は、電池内に充填された活物質の量と、その活物質の放電しやすさの2つのパラメータで決まる。サンプルC2とサンプル1〜3との比較やサンプルC1とサンプル4〜6との比較では、高負荷放電における容量維持率が示すように、後者の影響が大きく反映されている。
【0084】
なお、サンプル1〜3を比較すると、CNF36の付着量が少ない第2層12Cの厚みが大きいほど低負荷容量は大きいが、高負荷容量は小さくなっている。これは高負荷放電における容量維持率が示すように、活物質の放電しやすさのパラメータの影響が大きく反映されているためと考えられる。一方、サンプル4〜6を比較すると、CNF36の付着量が少ない第2層12Cの厚みが大きいほど低負荷容量、高負荷容量とも大きくなっている。これは高負荷放電における容量維持率がいずれも90%を超えているため、結果的に電池内に充填された活物質の量のパラメータの影響が大きく反映されているためと考えられる。以上のように、第1層12Bが第2層12Cより厚ければ高負荷放電に好適な電池が得られ、第2層12Cが第1層12Bより厚ければ低負荷放電に好適な電池が得られる。このように求められる電池の性能によっては、CNF36が多い第1層12BとCNF36が少ない第2層12Cの構成比を適正化して、最適な特性を得ることができる。つまり、例えば電動工具のようにある程度の出力を持ちながら、容量も必要な用途に対しては、第2層12Cを比較的多く構成する。また、ハイブリッド電気自動車用途のように出力を必要とする場合には、第1層12Bを多く構成することで、それぞれの用途に適した特性を得ることができる。
【0085】
次にサンプル3、7、8とサンプルC4の諸元と評価結果を(表2)に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
各サンプルにおいて第1層12B、第2層12Cそれぞれにおける活物質核35へのCNF36の付着量は若干異なっているものの、サンプル3、7、8では、ほぼ同様の高負荷容量が得られている。これに比べ、サンプルC4では高負荷容量が小さい。以上より、活物質核35におけるO/Si比は0.3以上、1.3以下が好ましい。なお、焼成温度および焼成時間を増やし、さらにO/Si比の大きいSiOの合成を試みたが、今回の実験ではO/Si比が1.35を超えるものは合成できなかった。
【0088】
なお、本実施例ではコイン型二次電池について説明したが、本発明に係わる電池の形状は、これに限定するものではなく、平型電池、捲回式の円筒型電池、捲回式または積層構造の角形電池にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、活物質核にCNFが付着した複合負極活物質を用い、この複合負極活物質を含む負極合剤層では、集電体に近い側にCNFの付着量の多い複合負極活物質を分布させ、正極に対向する側にCNFの付着量の少ない複合負極活物質を分布させている。このような構成により、低負荷放電特性と高負荷放電特性とをバランスよく実現させるものである。すなわち本発明は、放電状態における体積に対する充電状態における体積の比が1.2以上である活物質核にCNFが付着した複合負極活物質を用いる非水電解質二次電池の特性向上に寄与する。そのため、今後大きな需要が期待されるリチウム二次電池の高エネルギー密度に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態1による非水電解質二次電池の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における複合負極活物質の概略図
【図3】本発明の実施の形態1における非水電解質二次電池用負極の断面図
【図4】本発明の実施の形態1における非水電解質二次電池用負極の他の構造を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態1における非水電解質二次電池用負極のさらに他の構造を示す断面図
【符号の説明】
【0091】
1 負極
2 正極
3 非水電解質
4 ガスケット
5 蓋体
6 ケース
7,10 集電体
8 正極合剤層
12 負極合剤層
12A 表面
12B 第1層
12C 第2層
34 複合負極活物質
35 活物質核
36 カーボンナノファイバ(CNF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
少なくともリチウムイオンの吸蔵放出が可能な活物質核にカーボンナノファイバが付着した複合負極活物質を含み、前記集電体上に設けられた負極合剤層とを備え、
前記活物質核の放電状態における体積に対する充電状態における体積の比が、1.2以上であり、前記負極合剤層では、前記集電体に近い側に前記カーボンナノファイバの付着量の多い複合負極活物質を分布させ、前記集電体から遠い側にカーボンナノファイバの付着量の少ない複合負極活物質を分布させた非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記負極合剤層は、
前記集電体に近い側に設けられ前記カーボンナノファイバの付着量の多い複合負極活物質を含む第1層と、
前記集電体に遠い側に設けられ前記カーボンナノファイバの付着量の少ない複合負極活物質を含む第2層とを含む請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記第1層が前記第2層より厚く構成された請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記第2層が前記第1層より厚く構成された請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記活物質核を含ケイ素粒子とした請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
前記含ケイ素粒子が酸化ケイ素であり、ケイ素に対する酸素の比率が0.3以上、1.3以下とした請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極を備えた非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−220585(P2007−220585A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42157(P2006−42157)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】