説明

非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池、ならびに非水電解質二次電池用電極の製造方法

【課題】形成時に電極合剤層から剥がれにくく、電極合剤層端面に加工不良があった場合でも、短絡を防止できるセパレータ層を有する非水電解質二次電池用電極を提供する。
【解決手段】少なくとも片面に電極合剤層12が形成された集電体11を、エネルギー線硬化樹脂を含むセパレータ原料スラリーに浸漬し、引上げることにより、電極合剤層12の表面および端面全体を覆って、セパレータ層13を一体的に形成する。前記セパレータ層13の厚さは、3〜45μmとすればよく、前記セパレータ層13には、フィラー粒子を含有させることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池、ならびに非水電解質二次電池用電極の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
従来、正負の電極、およびセパレータを備えた非水電解質二次電池の構成が知られている。セパレータとして、例えば膜厚が20〜30μm程度のポリオレフィン系の多孔質フィルムが使用されている。
【0003】
近年、高出力で大電流特性を持つ非水電解質二次電池が求められている。このような電池においては、内部抵抗を低くするため、セパレータの膜厚をできるだけ薄くすることが好ましい。しかし、セパレータの膜圧を薄くすれば、取扱いが困難になる。
【0004】
特許第4407020号公報(特許文献1)および特開2010−170770号公報(特許文献2)には、セパレータを電極と一体的に形成する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1には、セパレータを構成する構成材料を溶媒中に分散させた溶液中に電池用電極を浸漬する工程と、溶液内に電位勾配を発生させて構成材料を電気泳動により電池用電極表面に付着させる工程とを有する、セパレータ付き電池用電極の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献2に記載の非水電解質二次電池は、多孔性の隔離材(セパレータ)が架橋樹脂を含有しており、この架橋樹脂の一部が、正極合剤層および/または負極合剤層に存在していることを特徴とする。また、この文献には、架橋樹脂として、エネルギー線照射によって重合硬化する化合物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4407020号公報
【特許文献2】特開2010−170770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非水電解質二次電池として、複数の正負の短冊状の電極を、間にセパレータを介在させて積層させた構成が知られている。この構成では、長尺の電極を巻回して用いた場合と異なり、正負の電極の各々を、短冊状に切断する工程が必要となる。この切断工程の際に、電極合剤層の端面に、剥がれやバリ等の加工不良が起こる場合がある。このような電極合剤層端面の加工不良は、内部短絡の原因となり得る。
【0009】
また、特許文献2のように、セパレータ層がエネルギー線照射によって重合硬化する化合物を含む場合、硬化収縮によりセパレータ層が収縮する場合がある。また、セパレータ層の内部応力によって電極に反りが生じる場合がある。このような場合、セパレータ層の形成条件によっては、セパレータ層が電極合剤層から剥がれてしまう。セパレータ層の剥がれは、内部短絡の原因となり得る。
【0010】
本発明の目的は、電極合剤層端面に加工不良があった場合でも、短絡を防止できる、非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池の構成、ならびに非水電解質二次電池用電極の製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに開示する非水電解質二次電池用電極は、集電体と、電極合剤層と、エネルギー線硬化樹脂を含むセパレータ層とを備える。電極合剤層は、集電体の少なくとも片面に形成される。セパレータ層は、厚さが3〜45μmであり、電極合剤層の表面および端面全体を覆って、一体的に形成される。
【0012】
上記の非水電解質二次電池用電極の構成によれば、セパレータ層は、電極合剤層の表面および端面全体を覆っている。そのため、電極合剤層端面に加工不良があった場合でも、短絡することがない。また、電極合剤層の表面のみにセパレータ層が形成されている場合と比較して、セパレータ層形成時の収縮や電極の反りが発生しても、セパレータ層が電極合剤層から剥がれにくい。
【0013】
ここに開示する非水電解質二次電池用電極の製造方法は、エネルギー線硬化樹脂を含むセパレータ原料スラリーを準備する工程と、活物質を含有する電極合剤層が形成された集電体を、前記電極合剤層の表面および端面全体が浸漬するように前記スラリーに浸漬し、引上げてセパレータ層を形成する工程とを含む。また、前記セパレータ層の厚さは、3〜45μmに調整される。
【0014】
なお、集電体に電極合剤層を形成する工程は、特に限定されることはなく、例えば、集電体の少なくとも片面に、活物質を含有する電極合剤層を塗布し、次いで、これを所定の形状に切断するのであっても良く、また、あらかじめ集電体を所定の形状に切断し、次いで、切断された集電体の少なくとも片面に、活物質を含有する電極合剤層を塗布するのであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極合剤層端面に加工不良があった場合でも、短絡を防止できる、非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池の構成、ならびに非水電解質二次電池用電極の製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる非水電解質二次電池用電極の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1におけるII−II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図1におけるIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかる非水電解質二次電池の概略構成を示す平面図である。
【図5】図5は、図4におけるV−V線に沿った断面図である。
【図6】図6は、図4におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0018】
[非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池の構成]
図1は、本発明の一実施形態にかかる非水電解質二次電池用電極1の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1におけるII−II線に沿った断面図である。図3は、図1におけるIII−III線に沿った断面図である。
【0019】
図1〜図3に示すように、非水電解質二次電池用電極1は、集電体11、電極合剤層12、およびセパレータ層13を備えている。
【0020】
電極合剤層12は、平面視矩形でシート状の集電体11の、両面に形成されている。セパレータ層13は、電極合剤層12を覆って、一体的に形成されている。図2および図3に示すように、セパレータ層13は、電極合剤層12の表裏の主面を覆うとともに、上下および左右の側面(端面)の全てを覆って形成されている。電極合剤層12は、セパレータ層13によって完全に覆われており、外部に露出していない。
【0021】
一方、集電体11は、電極合剤層12およびセパレータ層13のどちらにも覆われていない、露出部分11aを有している。この露出部分11aは、非水電解質二次電池用電極1にリード等を接続するために用いられる。
【0022】
次に、この非水電解質二次電池用電極1を備えた非水電解質二次電池10の構成について説明する。本実施形態にかかる非水電解質二次電池用電極1は、正極および負極の、どちらにも適用可能である。以下では、非水電解質二次電池用電極1を、負極に用いた場合を説明する。
【0023】
図4は、本発明の一実施形態にかかる非水電解質二次電池10の概略構成を示す平面図である。図5は、図4におけるV−V線に沿った断面図である。図6は、図4におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【0024】
図4〜図6に示すように、非水電解質二次電池10は、負極電極1A、正極電極2、負極タブ3、正極タブ4、ラミネート外装体5、負極リード6、および正極リード7を備えている。非水電解質二次電池10は、非水電解質二次電池用電極1を、負極電極1Aとして用いたものである。
【0025】
非水電解質二次電池10は、平面視矩形で偏平形状のラミネート外装体5を備えている。ラミネート外装体5の一辺から、負極タブ3および正極タブ4が引き出されている。
【0026】
ラミネート外装体5の内部には、複数の負極電極1Aと、複数の正極電極2とを、交互に重ねて積層させた電極積層体が、図示しない電解液とともに収容されている。複数の負極電極1Aのそれぞれは、負極リード6を介して、ラミネート外装体5の内部から外部へ引き出された負極タブ3と接続されている。同様に、複数の正極電極2のそれぞれは、正極リード7を介して、ラミネート外装体5の内部から外部へ引き出された正極タブ4と接続されている。
【0027】
負極電極1Aは、非水電解質二次電池用電極1と同じ構成を備えている。すなわち、負極電極1Aは、図5および図6では詳しい構成を図示していないが、集電体と、電極合剤層と、セパレータ層とを備えている。
【0028】
セパレータ層は、詳しくは後述するが、必要に応じて加えられるフィラー粒子と、バインダ樹脂とを含むスラリーを、電極合剤層の表面および端面全体に塗布することによって、電極合剤層と一体的に形成されたものである。
【0029】
セパレータ層は、正極と負極とを、空間的に隔離して電気的に絶縁している。一方、セパレータ層は、内部に細孔を有しており、正極と負極との間で電解液を介してイオンの移動を可能にしている。
【0030】
すなわち、非水電解質二次電池10は、正負の電極と、別体のセパレータとを備える一般的な電池の構成に代えて、負極電極1Aの電極合剤層の表面および端面全体に、セパレータ層が一体的に形成された構成を有している。
【0031】
正極電極2は、図5および図6では詳しい構成を図示していないが、集電体と、電極合剤層とを備えている。非水電解質用電極1と同様に、平面視矩形でシート状の集電体の両面に、電極合剤層が形成されている。
【0032】
以上、非水電解質二次電池10の構成を説明した。この構成は、一つの例示であり、例えば、ラミネート外装体5は矩形に限定されず、任意の形状を取り得る。また、負極タブ3および正極タブ4は、ラミネート外装体5の、異なる辺から引き出されていても良い。また、本発明はいわゆるラミネート型の電池に限定されず、例えば、スチール缶やアルミニウム缶等の缶体を外装体として使用することも可能である。
【0033】
[非水電解質二次電池用電極1および非水電解質二次電池10の製造方法]
以下、非水電解質二次電池10の製造方法の一例を説明する。なお、前述のように、非水電解質二次電池10は、非水電解質二次電池用電極1を、負極電極1Aとして用いたものである。そのため、負極電極1Aの製造方法を説明することで、非水電解質二次電池用電極1の製造方法を説明する。
【0034】
[負極電極1Aの作製]
まず、集電体の両面に電極合剤層を形成する。負極の集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス等の箔、平織金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル等を用いることができる。負極の集電体の厚さは、例えば、5〜30μmである。
【0035】
負極の活物質とバインダとを、純水または有機溶媒中で十分に混合し、スラリーを作製する。負極の電極合剤層の活物質としては、天然黒鉛、メソフェーズカーボン、非晶質カーボン等を用いることができる。負極の電極合剤層のバインダとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシメチルセルロース(HPC)等のセルロースや、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム等のゴムバインダ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を、単独または混合して用いることができる。
【0036】
このスラリーを、集電体に塗布する。このとき、集電体の一部にはスラリーを塗布せず、露出部分を設けておく。スラリーの塗布方法は特に限定されないが、例えば、ダイコータが用いられる。塗布したスラリーを乾燥させて溶媒を除去した後、カレンダ処理を行って、密度を所定の値に調整する。負極の電極合剤層の厚さは、例えば、片面あたり20〜200μmである。
【0037】
電極合剤層が形成された集電体を、所定の形状に切断する。なお、あらかじめ集電体を所定の形状に切断しておき、その上に電極合剤層を形成しても良い。
【0038】
次に、電極合剤層を覆ってセパレータ層を形成する。まず、フィラー粒子と、バインダ樹脂とを含むスラリーを調整する。
【0039】
フィラー粒子は、セパレータ層の強度や寸法安定性を高めることから、添加されることが望ましい。また、フィラー粒子によって、セパレータ層の空孔率や孔径が制御することも可能である。フィラー粒子は、電気絶縁性と耐熱性とを有し、非水電解質二次電池10の電解液や、製造工程で使用される溶剤に対して安定であることが好ましい。さらに、非水電解質二次電池10の作動電圧範囲内で酸化還元されにくいことが好ましい。
【0040】
フィラー粒子としては、酸化鉄、シリカ、アルミナ、TiO、BaTiO等の無機酸化物微粒子、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の無機窒化物微粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶微粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶微粒子、モンモリロナイト等の粘土微粒子等を用いることができる。無機酸化物微粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカ等の鉱物資源由来物質またはこれらの人造物であっても良い。また、金属、SnO、ITOなどの導電性酸化物、カーボンブラック、グラファイト等の導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であっても良い。また、これらを2種以上混合しても良い。
【0041】
フィラー粒子の粒径は、平均粒径で、0.001μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、15μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計を用いて、溶媒に分散させて測定した数平均粒子径として規定することができる。
【0042】
バインダ樹脂は、電極合剤層との密着性に優れていることが好ましい。また、バインダ樹脂は、十分な強度と非水電解質二次電池10の電解液に対する耐性を持っていることが好ましい。そのため、バインダ樹脂は、少なくとも一部に架橋構造を有していることが好ましい。
【0043】
バインダ樹脂としては、光重合により形成される樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂を用いることで、上記要求が満たされるだけでなく、製造が容易となり、製造時間も短くできるためである。
【0044】
また、バインダ樹脂として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、共重合ポリオレフィン、ポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレン等)、スチレンブタジエン共重合体、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、フッ素樹脂(PVDF等)、およびこれらの誘導体を、上記光重合により形成される樹脂と併用することもできる。これら樹脂は、2種以上混合しても良い。
【0045】
光重合により形成される樹脂としては、アクリル樹脂モノマーまたはオリゴマーと架橋剤とから形成されるアクリル樹脂、ウレタンアクリレートと架橋剤とから形成される架橋樹脂、エポキシアクリレートと架橋剤とから形成される架橋樹脂等を用いることができる。なお、前記のいずれの樹脂においても、架橋剤としては、2価または多価のアクリルモノマーを用いることができる。
【0046】
光重合反応を開始させるための光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α´−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系化合物;べンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタールなどのケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1―プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソンなどのチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィンオキシド;アシルホスフォナートなどが挙げられる。また、上記光重合開始剤は、必要に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。
【0047】
また、バインダ樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂由来の架橋樹脂、多官能エポキシ、多官能オキセタンまたはこれらの混合物から形成される樹脂、ポリウレタン樹脂等も用いることができる。
【0048】
フィラー粒子とバインダ樹脂とを、溶媒中で十分に混合して、スラリーを調整する。溶媒は、バインダ樹脂のモノマー、オリゴマー、架橋剤および重合開始剤等を溶解し、フィラー粒子を均一に分散できるものが好ましい。溶媒としては例えば、トルエン等の芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン等のフラン類、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類が用いられる。
【0049】
また、フィラー粒子をスラリー中に分散させる際には、必要に応じて分散剤を添加することができる。分散剤としては、例えば、シリコーン系、アミン系、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、高分子系の界面活性剤が挙げられる。また、上記分散剤は、必要に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。
【0050】
セパレータ層の強度や形状安定性を向上させるために、このスラリーにさらに、繊維状物を含有させても良い。繊維状物は、例えば、セルロースおよびその変性体、ポリオレフィン、ポリエステル等の樹脂、ガラス、アルミナ、シリカ等の無機酸化物を用いることができる。
【0051】
セパレータ層に、いわゆるシャットダウン特性を付与するために、このスラリーにさらに、シャットダウン樹脂を含有させても良い。シャットダウン特性とは、異常発熱が生じた場合に、セパレータ層の空孔が閉塞して電池の反応を停止させる特性である。シャットダウン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等、一定の温度で溶融する熱可塑性樹脂や、ポリメチルメタクリレートの架橋体等、加熱によって電解液を吸収して膨潤する樹脂等を用いることができる。
【0052】
調整したスラリーを、負極の電極合剤層の表面および端面全体に塗布する。スラリーの塗布方法は特に限定されないが、例えばダイコータが用いられる。このとき、特に、電極合剤層の平面視上下および左右の全ての端面が覆われるように、スラリーの粘度や塗布速度を調整する。
【0053】
また、このスラリーの塗布は、ディップコータによって行うこともできる。すなわち、電極合剤層の表面および端面全体が浸漬するように、電極合剤層が形成された集電体をスラリーに浸漬する。このとき、集電体の、電極合剤層が形成されていない露出部分を把持部とすることができる。そして、この把持部を掴んで、電極合剤層が形成された集電体をスラリーから引上げる。セパレータ層の厚さは、スラリーの粘度および引上げ速度によって調整される。特に、電極合剤層の平面視上下および左右の全ての端面が覆われるように、スラリーの粘度や引上げ速度を調整する。
【0054】
セパレータ層の厚さは、3μm以上とする必要があり、5μm以上が好ましく、より好ましくは、10μm以上である。セパレータ層の厚さが3μm未満であると、均一な膜を形成することが難しくなるためである。一方、セパレータ層の厚さは、45μm以下とする必要があり、40μm以下が好ましく、より好ましくは、30μm以下である。セパレータ層の厚さが45μmよりも厚いと、硬化時の収縮によってセパレータ層が剥がれ易くなるためである。
【0055】
電極合剤層の表面および端面全体に塗布されたスラリーに、加熱または光照射を行って、バインダ樹脂を硬化させる。
【0056】
以上により、負極電極1Aが作製される。
【0057】
[正極電極2の作製]
まず、集電体の両面に電極合剤層を形成する。正極の集電体としては、アルミニウムやチタン等の箔、平織金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル等を用いることができる。正極の集電体の厚さは、例えば、5〜30μmである。
【0058】
正極の活物質と、導電電助剤と、バインダとを、有機溶媒中で十分に混合し、スラリーを作製する。正極の電極合剤層の活物質としては、マンガン酸リチウム、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、酸化バナジウム、酸化モリブデン等を用いることができる。導電助剤としては、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。正極の電極合剤層のバインダとしては、ポリイミド、ポリアミドイミド、PTFE、PVDF等を、単独または混合して用いることができる。
【0059】
このスラリーを、集電体に塗布する。このとき、集電体の一部にはスラリーを塗布せず、露出部分を設けておく。スラリーの塗布方法は特に限定されないが、例えば、ダイコータが用いられる。塗布したスラリーを乾燥させて溶媒を除去した後、カレンダ処理を行って、密度を所定の値に調整する。正極の電極合剤層の厚さは、例えば、片面あたり20〜200μmである。
【0060】
電極合剤層が形成された集電体を、所定の形状に切断する。なお、あらかじめ集電体を所定の形状に切断しておき、その上に電極合剤層を形成しても良い。
【0061】
以上により、正極電極2が作製される。
【0062】
[非水電解質二次電池10の組み立て]
負極電極1Aの集電体の、電極合剤層が形成されていない露出部分に、負極リード6を取り付ける。この接続は、抵抗溶接、超音波溶接、レーザー溶接、カシメ、導電性接着材による接着等を用いることができる。同様の方法によって、負極リード6と負極タブ3とを接続する。
【0063】
同様にして、正極電極2と、正極リード7と、正極タブ4とを接続する。
【0064】
上記のようにして作製された、複数の負極電極1Aと、複数の正極電極2とを、交互に重ね合わせて、ラミネート外装体5に収容する。
【0065】
ラミネート外装体5は、内側に熱溶着用樹脂層が形成された金属フィルムである。金属フィルムとしては、アルミニウム、酸化アルミニウム、ニッケル、ステンレス等を用いることができる。熱溶着用樹脂は例えば、変性ポリオレフィンが用いられる。ラミネート外装体5は、金属フィルムの外側に外装樹脂層をさら備えても良い。外装樹脂としては例えば、ナイロンやポリエステル等が用いられる。
【0066】
次に、ラミネート外装体5に、電解液を注入する。電解液は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた溶液である。有機溶媒としては、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ‐ブチロラクトン等を、単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiN(CFSO等を用いることができる。
【0067】
負極タブ3および正極タブ4を、ラミネート外装体5の内側から外側に引き出した状態で、ラミネート外装体5の周縁部を熱溶着する。熱溶着は、減圧化で行うことが好ましい。
【0068】
以上、非水電解質二次電池10の製造方法を説明した。上記の説明から明らかなように、本実施形態は、非水電解質二次電池10が、リチウムイオン二次電池である場合を示している。本発明は、非水電解質二次電池10が、リチウムイオン二次電池である場合に特に有用である。しかし、本発明をこれに限定されず、発明の趣旨の範囲で種々の非水電解質二次電池として実施が可能である。
【0069】
本実施形態にかかる非水電解質二次電池10の負極電極1Aでは、その電極合剤層の表面および端面全体を覆って、セパレータ層が一体的に形成されている。また、負極電極1Aの製造方法によれば、集電体または集電体と電極合剤層とを切断した後に、セパレータ層が形成される。
【0070】
この構成によれば、集電体または集電体と電極合剤層とを切断する際に加工不良(例えば、電極合剤層の剥がれや、バリ等の発生)があったとしても、これらを覆ってセパレータ層が形成されていることにより、電極合剤層が露出することがない。これにより、負極電極1Aの電極合剤層と、正極電極2の電極合剤層とが、短絡することがない。
【0071】
また、セパレータ層を硬化させる際、硬化収縮により収縮しても、セパレータ層は電極合剤層の表面および端面全体を覆って一体的に形成されているため、電極合剤層が露出することはない。電極合剤層の表面のみにセパレータ層が形成されている場合と比較して、セパレータ層の収縮や電極の反りが発生しても、セパレータ層を、電極合剤層から剥がれにくくすることができる。
【0072】
この効果は、セパレータ層がエネルギー線照射によって重合硬化する化合物を含む場合に特に有用である。このような化合物は、硬化収縮が大きいからである。
【0073】
本実施形態では、非水電解質二次電池用電極1を、負極として用いる場合を説明した。既述のように、非水電解質二次電池用電極1は、正極に用いられても良い。すなわち、正極の電極合剤層の表面および端面全体を覆って、セパレータ層が形成されていていも良い。また、正極および負極の、両方がセパレータ層を備える構成であっても良い。
【0074】
また、本実施形態では、集電体11の両面に電極合剤層12を形成した。しかし、電極合剤層12は、集電体11の、片面にのみ形成されていても良い。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は本発明を限定するものではない。
【0076】
[実施例1]
[負極電極の作製]
負極の活物質として黒鉛を、バインダとしてPVDFを、溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)を用いた。黒鉛95重量部とPVDF5重量部とを、NMP中で均一になるように混合し、スラリーを調整した。
【0077】
厚さ10μmの銅箔を集電体として、この両面に上記スラリーを7mg/cmずつ塗布した。塗布したスラリーを100℃で乾燥し、溶媒を除去した。その後、カレンダ処理を行って、電極合剤層の密度が1.5g/cmになるように調整した。
【0078】
電極合剤層が形成された集電体を、一辺35mmの正方形に切断し、負極電極の中間品を得た。
【0079】
集電体の露出部に、負極リードを介して負極タブを取り付けた。
【0080】
次に、セパレータ層を形成するためのスラリーの調整を行った。バインダ樹脂としてウレタンアクリレートを、架橋剤としてとして1,6‐ヘキサンジオールジアクリレートを、光重合開始剤として2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを、無機粒子としてベーマイト(平均粒子径0.6μm)を、溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)を、それぞれ用いた。
【0081】
ウレタンアクリレート4重量部、1,6‐ヘキサンジオールジアクリレート1重量部、2,4,6‐トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド0.15重量部、ベーマイト14重量部、MEK70重量部を、ジルコニアビーズ(φ1mm)50重量部とともに、直径50mmの円柱状密閉容器に装入した。この円柱状密閉容器を100rpmで回転させて12時間撹拌し、ベーマイトを分散させ、スラリーを調整した。
【0082】
ディップコータによって、負極電極の中間品に上記のスラリーを塗布した。より詳しくは、まず、電極合剤層の表面および端面全体が浸漬するように、負極電極の中間品を、上記のスラリーに浸漬した。そして、引上げ速度10mm/secで引上げた。
【0083】
スラリーが塗布された負極電極の中間品に、メタルハライドランプにて、積算光量300mJ/cmの紫外線を照射し、ウレタンアクリレートおよび1,6‐ヘキサンジオールジアクリレートを光重合反応させた。その後、25℃で1時間乾燥させた。
【0084】
以上のようにして、負極電極を作製した。セパレータ層の厚さは、片面あたり20μmであった。
【0085】
[正極電極の作製]
正極の活物質としてLiCoOを、導電助剤としてアセチレンブラックを、バインダとしてPVDFを、溶媒としてNMPを用いた。LiCoO90重量部、アセチレンブラック7重量部、PVDF3重量部を、NMP中で均一になるように混合し、スラリーを調整した。
【0086】
厚さ15μmのアルミニウム箔を集電体として、この両面に上記スラリーを16mg/cmずつ塗布した。塗布したスラリーを100℃で乾燥し、溶媒を除去した。その後、カレンダ処理を行って、電極合剤層の密度が2.9g/cmになるように調整した。
【0087】
電極合剤層が形成された集電体を、一辺30mmの正方形に切断し、正極電極を得た。
【0088】
集電体の露出部に、正極リードを介して正極タブを取り付けた。
【0089】
[電池の組み立て]
上記のようにして得た負極電極と正極電極とを、それぞれ10枚ずつ交互に重ね合わせて、アルミニウムラミネート外装体に装入した。その後、電解液を3mL注入した。電解液は、ECとMECとを体積比で1:2になるように混合した溶媒に、LiPFを濃度1.2mol/リットルで溶解させて調整した。電解液を注入後、正負のタブをラミネート外装体の外部に引き出した状態で、減圧化でラミネート外装体の周縁部を熱溶着した。
【0090】
以上のようにして、非水電解質二次電池を得た。
【0091】
[実施例2]
セパレータ層形成時の、ディップコータの引上げ速度を1mm/secとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、この場合のセパレータ層の厚さは、片面あたり5μmであった。
【0092】
[実施例3]
セパレータ層形成時の、ディップコータの引上げ速度を25mm/secとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、この場合のセパレータ層の厚さは、片面あたり35μmであった。
【0093】
[比較例1]
セパレータ層形成時の、ディップコータの引上げ速度を0.2mm/secとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、この場合のセパレータ層の厚さは、片面あたり2μmであった。
【0094】
[比較例2]
セパレータ層形成時の、ディップコータの引上げ速度を50mm/secとしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。なお、この場合のセパレータ層の厚さは、片面あたり50μmであった。
【0095】
[比較例3]
セパレータ層の形成時、ディップコータによるスラリーの塗布に代えて、アプリケータによる片面ずつの摺り切り塗布を行った。このとき、電極合剤層の表面にのみスラリーの塗布を行い、端面には塗布されないようにした。セパレータ層の厚さは片面あたり20μmとなるように調整した。その他は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0096】
[評価]
上記の実施例1〜3、および比較例1〜3の非水電解質二次電池について、セパレータ層を形成するためのスラリーを負極に塗布し、乾燥させた段階で、セパレータ層の目視観察およびセパレータ層の膜厚測定(セパレータ層の均一性、およびセパレータ層の剥がれの有無)を行った。さらに、それぞれの非水電解質二次電池を各10個ずつ作製し、正極と負極との短絡が発生したものの個数を調べた。
【0097】
結果を表1に示す。表1中、「セパレータ層の均一性」は、以下の方法により判断を行った。
【0098】
セパレータ層を形成する前の負極について、正方形の合剤層の対角線上に5mm間隔で5点を選び、マイクロメータを用いてその点での負極の厚さを測定した。次いで、セパレータ層を形成後に、同じ位置で同様に全体の厚さを測定し、セパレータ層形成前の負極厚さとの差から、各点でのセパレータ層の膜厚(ただし、両面の膜厚の合計)を求めた。この5点の厚さの測定値の最大値と最小値との差からセパレータ層の均一性を評価し、その差が3μm以内のものは○、3μmより大きいものは×とした。
【表1】

【0099】
表1に示すように、実施例1〜3の非水電解質二次電池は、セパレータ層が電極合剤層の表面および端面全体を覆い、セパレータ層の厚さが5〜40μmの範囲であった。実施例1〜3の非水電解質二次電池は、セパレータ層が均一に形成され、電極合剤層からの剥がれがなかった。そのため、短絡は発生しなかった。
【0100】
比較例1の非水電解質二次電池は、セパレータ層の厚さが薄すぎた。そのため、セパレータ層を均一に形成することができなかった。これにより、短絡が発生した。
【0101】
比較例2の非水電解質二次電池は、セパレータ層の厚さが厚すぎた。そのため、セパレータ層を重合硬化させる際の硬化収縮によって、セパレータ層の電極合剤層からの剥がれが発生した。これにより、短絡が発生した。
【0102】
比較例3の非水電解質二次電池は、電極合剤層の端面がセパレータ層に覆われていなかった。そのため、セパレータ層を重合硬化させる際の硬化収縮によって、セパレータ層の端面において、電極合剤層からの剥がれが発生した。これにより、短絡が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池、ならびに非水電解質二次電池用電極の製造方法として産業上の利用が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 非水電解質二次電池用電極、11 集電体、12 電極合剤層、13セパレータ層、10、非水電解質二次電池、1A 負極電極、2 正極電極、3 負極タブ、4 正極タブ、5 ラミネート外装体、6 負極リード、7 正極リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の少なくとも片面に形成された、活物質を含有する電極合剤層とを備えた非水電解質二次電池用電極であって、
エネルギー線硬化樹脂を含むセパレータ層が、前記電極合剤層の表面および端面全体を覆って一体的に形成されており、
前記セパレータ層の厚さが、3〜45μmである、非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記セパレータ層は、フィラー粒子を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記セパレータ層の厚さが5〜40μmである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
正極および負極を備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極および前記負極の少なくとも一方が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法であって、
エネルギー線硬化樹脂を含むセパレータ原料スラリーを準備する工程と、
活物質を含有する電極合剤層が形成された集電体を、前記電極合剤層の表面および端面全体が浸漬するように前記スラリーに浸漬し、引上げてセパレータ層を形成する工程とを含み、
前記セパレータ層の厚さを3〜45μmとする、非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーは、フィラー粒子を含む、請求項5に記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−69495(P2013−69495A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206236(P2011−206236)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】