説明

非水電解質二次電池

【課題】過充電時に電極体の内部でガスが発生する場合であっても、電極体の膨張を防止して安定した充電を行えるようにすることにより、優れた安全性の発揮が期待できる非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】正極板102、セパレータ101、負極板100を巻き回し、これを側面から押圧して直方体状の電極体10を得る。電極体10の最外周の主面中央に、4.5V以上の高圧域でガスを発生するガス発生物質(炭酸リチウムもしくは蓚酸リチウムの少なくともいずれか)と導電剤を含むガス発生板14をPPSテープ15で固定して配設する。この電極体10をポリマー電解質とともにラミネート外装体20で被覆し内部封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電池などの非水電解質二次電池に関し、特に過充電時に発生する熱等により誘発する電池の変形を防止して安全性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、モバイルPC、携帯オーディオ、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)などのポータブル電子機器の普及に伴い、薄型・軽量で高容量の非水電解質二次電池に対する要求が急速に高まっている。特に、代表的な非水電解質二次電池である、リチウムポリマー電解質とラミネート外装体を備えたリチウムイオンポリマー二次電池(ポリマー電池、ラミネート電池とも称する。以下、「ポリマー電池」と称する。)は、柔軟で非常に薄く形成でき、大容量でありながら極めて薄型で軽量化することが可能である。このため、上記のような小型電子機器の最適な電源として広く使用されている。
【0003】
ポリマー電池は、一般的には、セパレータを介して帯状の正極板と負極板を積層し、これを巻回して押し潰してなる略直方体状の巻回体(電極体)に、所定のポリマー電解液を含浸した発電要素を有する。電極体には、各極板の芯体に対して、タブ(集電端子、電極タブとも称する。)が取り付けられる。発電要素は各タブを外部へ露出させた状態で、ラミネート外装体で被覆される。このときラミネート外装体の内部は、電極体および電解液が外部へ漏れ出さないように、特にタブ付近の辺において熱圧着処理により確実に封止される。
【0004】
ポリマー電池では、ポリマー電解質の化学的特性により、充電器の故障や不調等で過充電となった場合に、高温で電極体の内部でガスが発生し、その影響により電極体が変形するおそれがある。図5は、このようなガスの発生で変形を生じた電極体の様子を示す模式的な断面図である。当図に示す例では、電極体の変形の際に正極板がセパレータおよび負極板から離間するように外部に膨出するので、この膨出を生じた領域で両極板間距離が増し、元来円滑に行われていたリチウムイオン等の授受が困難になる。これは電極体において電流が局所的に集中して流れる現象を誘発し、電池がさらに過熱する等の危険性を増加させるおそれがある。なお、図5では正極板が膨出する例を示しているが、負極板が膨出する場合もあるほか、両極板がそれぞれ膨出することも同様にありうる。
【0005】
また、ポリマー電池は柔らかなラミネート外装体を有しているため、このように過充電時に高温状態になると外装体が軟化してしまい、電池の形態が変形しやすくなる問題もある。
ここで特許文献1には、ポリマー電解質の内部または電極の内部、あるいはポリマー電解質層と電極との界面にイオン電導を妨げる妨害体を形成する物質を含有させることにより、電池の高温時にガスを意図的に発生させ、内部抵抗を上昇させて電流の流れを阻害して過熱を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−260346号公報
【特許文献2】特開平9−306510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来技術では、電池の内部空間にガスを発生させることによって電流の流れを阻害する一定の効果は得られるが、電極体の膨張を抑制して極板の局所的な接触により生じる過熱を防止する効果は得られない。このため、たとえ過充電時に電極体の内部でガスが発生したとしても、極板同士がセパレータを介して適切に積層された構造を保つことにより、安定した電池性能を得ることは困難である。
【0008】
また特許文献2には、電池内部の電極体の外周部分に炭酸塩を配設し、電池内に混入した水分を吸収するとともに、電流遮断機構を作動させる技術が記載されている。しかしながら、当該技術はポリマー電解質を備えるポリマー電池の電極体の膨張を抑制するものではない。
このように現在では、ポリマー電池の電極体の膨張を抑制し、安全かつ良好に当該電池を使用する上で改善の余地が残されている。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、過充電時に電極体の内部でガスが発生する場合であっても、電極体の膨張を防止して安定した充電を行えるようにすることにより、優れた安全性の発揮が期待できる非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層され、前記正極板を最外面にして直方体状に成型された電極体を有し、当該電極体をポリマー電解質とともにラミネート外装体の内部に封止してなる非水電解質二次電池であって、過充電時にガスを発生するガス発生物質を含むガス発生板が、前記正極板と接するように、前記電極体の両主面の少なくとも一方と、ラミネート外装体との間に介設されている構成とした。
【0011】
ここで前記ガス発生板は、ガス発生物質と導電剤とを含んでなるように構成することができる。
前記ガス発生板において、導電剤を前記ガス発生板重量に対して2wt%以上15wt%以下の割合で添加することもできる。
また、前記電池はリチウムイオンポリマー電池であり、前記ガス発生物質は、4.5V以上の高電圧域でガスを発生させる物質であって、且つ、固体状態で前記ガス発生板に含まれている構成とすることもできる。
【0012】
前記ガス発生物質としては、炭酸リチウムまたは蓚酸リチウムの少なくとも一方を含んでなる構成とすることもできる。
前記ガス発生物質は、電極体の最外面における複数個所に配設されている構成とすることもできる。
前記ガス発生板において、前記ガス発生物質は前記電池重量に対して2wt%以上25wt%以下の範囲で添加することもできる。
【0013】
或いは前記ガス発生板において、前記ガス発生物質は電池重量に対して5wt%以上25wt%以下の範囲で添加することもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成を持つ本発明の非水電解質二次電池では、ラミネート外装体と電極体との間にガス発生板を介設しており、過充電時において所定の高電圧域(リチウムイオンポリマー二次電池の場合、例えば4.5V以上)の負荷が電池に掛かると、ガス発生板よりガスが発生する。このガスの圧力はラミネート外装体と電極体の最外面との間に蓄積するともに、電極体をその主面から厚み方向内方へ向けて押圧するように作用する。その結果、たとえ従来のように過充電時に電極体の内部でガスが発生したとしても、電極体が外方へ膨張するのが抑制され、常に電極体内部において、正極板、セパレータ、負極板が密に積層された状態が保たれる。その結果、電極体内部で局所的に電流が集中して流れる現象を防止でき、電池の過熱を防止して良好な安全対策を講じることができる。
【0015】
また、このようにガス発生板の利用によって電池の過熱が効果的に防止されるので、ラミネート外装体が高温で軟化して電池の形態が歪む問題も、併せて良好に回避することができる。
なお、本発明では直方体状の電極体を構成要素として備えるが、ここで言う「直方体状」及び「矩形主面」とは、数学的な定義よりも広く、実質的に直方体状と言えるものであれば含まれるものとする。帯状の巻回体を押しつぶしてなる電極体は、側面がカーブしているためこれらの定義に対して厳密な形状はないが、本発明ではこのような形状も「直方体状」に該当するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1に係るポリマー電池1の構成を示す図である。
【図2】ポリマー電池1の内部構成を示す組図である。
【図3】電極体とガス発生板との配設位置を示す図である。
【図4】本発明の効果を説明するための模式な断面図である。
【図5】従来のガス発生時の問題を説明するための模式な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、一例を用いて説明する。
なお、以下の実施の形態は、本発明の構成および作用・効果を分かりやすく説明するための例示にすぎず、本発明は、その本質的な特徴部分以外に何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
<実施の形態1>
図1は、本発明の非水電解質二次電池の実施の形態1である、リチウムイオンポリマー電池1(以下、単に「電池1」と称す)の構成を示す一部切り欠き図である。当図ではラミネート外装体を部分的に切り欠き、内部の様子を示している。図2は、ラミネート外装体に電極体を配設する際の様子を示す組図である。
【0018】
電池1は、図1のように、ラミネート外装体20に対し、その内部に扁平な電極体10がポリマー電解質を含浸した状態で収納されてなる。
電極体10は、正極板102および負極板100をセパレータ101(図4を参照)を介して巻き回した渦巻電極体を、側面から扁平に押圧して薄型の直方体状としたものである。なお、電極体10はこの他、短冊状の正負極両板をセパレータを介して積層する構成としてもよい。いずれの場合も、最外面(もしくは最外周)に正極板102が位置するように形成する。
【0019】
正極板102は、芯体であるアルミ箔に、リチウムを吸蔵・放出可能な所定の正極活物質(正極材料)を塗布してなる。この正極材料は、例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMnO、LiNi1−x(0<x<1)、LiNi1−xCo(0<x<1)、LiNiMnCo(0<x、y、z<1)、LiFePO等のリチウム複合酸化物、オリビン構造を有するリン酸化合物が望ましい。その他、酸化チタン、酸化バナジウム、二酸化マンガン等の酸化物、二硫化鉄、二硫化チタン、硫化モリブデン等の二硫化物、ポリアリニン、ポリチオフェン等の導電性高分子等も挙げられる。正極材料は2種類以上を混合して用いても良い。
【0020】
負極板100は、芯体である銅箔に、リチウムを吸蔵・放出可能な所定の負極活物質(負極材料)を塗布してなる。この負極材料は、例えば黒鉛、難(易)黒鉛化性炭素等の炭素材料、LiTiO、TiO等のチタン酸化物、Mg、B、Al、Ga、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Zn、Ag等の金属元素、あるいは半金属元素が用いられる。これらの金属元素あるいは半金属元素の合金または化合物としては、たとえばSiB、SiB、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<x≦2)、SnO(0<x≦2)、SnSiO、LiSiO、LiSnO、MgSnあるいはスズ・コバルト含有合金等が挙げられる。これらの負極材料は2種類以上を混合して用いても良い。
【0021】
セパレータ101は、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン材料から形成された微多孔膜が選択できる。なお、このほか、シャットダウン応答性を確保するために、融点の高い樹脂を混合したり、積層してもよい。厚みは0.03mmとすることができる。
なお、正極板102、負極板100、セパレータ101の各サイズ幅(z方向長)は、同順に大きくなるように設定される。これは正極板より負極板の面積を広く確保することによって、充電時において、正極板からのLiイオンを十分に負極板に吸収させ、デンドライト(樹枝状結晶)の発生を抑制するように考慮されたものである。
【0022】
正極板102、負極板100には、前記渦巻電極体の巻回方向下流側の一端部に、電力を外部に取り出すための短冊状のタブ(正極タブ11、負極タブ12)が抵抗溶接等により取着される。正極タブ11はアルミ系材料で構成され、負極タブ12はニッケル系材料で構成される。
なお図1及び図2に示すように、帯状体200と重なるタブ11、12の部分には、前記熱圧着に先立ち、熱溶着性樹脂材料からなるフィルム(いわゆるタブ樹脂30、30)が挿通される。タブ樹脂30、30は、前記熱圧着時に軟化してタブ11、12の各表面と帯状体200の内面との間隙に入り込むことで、電池1の内部封止を確実に図ることができる。
【0023】
電極体10の最外周(面)には、正極板102が配向するように積層される。この略直方体の形状において、一方の主面の中央には、シート状のガス発生板14がPPSテープ15を貼着して固定されている。当該電極体10に含浸させる電解質には、非水電解質であるゲル状のポリマー電解質が利用されている。
ガス発生板14は本発明の主たる特徴部分であり、所定のガス発生物質(粉末状の炭酸リチウムあるいは蓚酸リチウム)に対して導電剤(粉末状のアセチレンブラック)を少量混合し、これをプレスしてペレット状に加工した板体である。PPS(ポリフェニレンサルファイド)テープ15は耐熱性の樹脂テープであり、ガス発生板14を確実に電極体10の主面中央領域に貼着して固定するために用いられる。
【0024】
なお、図2ではガス発生板14を完全に被覆するようにテープ15を配設しているが、これに限定されず、正極板102の表面にガス発生板14を固定できるのであれば部分的に貼着しても構わない。また、テープ15を多孔質で構成することもできる。このような工夫はガス発生板14のガスをラミネート外装体20との間で発生させるために好適である。また、テープ15の材料もPPSに限定せず、各種耐熱性材料を用いることができる。
【0025】
ガス発生物質としては、リチウムイオンポリマー二次電池に本発明を適用する場合、充電時の正極板102と負極板100との間の電圧が4.5V以上の高電圧域(例えば4.5V以上12V程度の範囲)に達したときにガスを発生させる物質が好適である。その例として炭酸リチウムまたは蓚酸リチウムの少なくともいずれかを用いることができる。また、このほか、Co、Mn、Ni、Al、Sn、Bi、Li、Moのうち少なくとも1種の元素と、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、燐酸塩、硼酸塩、酢酸塩のうち一種または複数種の組み合わせが利用できる。ガス発生板14は、4.5V未満の電圧域では固体状態を保っている。
【0026】
なお、導電剤としては、アセチレンブラックのほか、カーボンブラックやケッチェンブラック等の少なくともいずれかを用いることもできる。
電極体10には、所定の溶媒に電解質塩及び添加剤を分散させてなるポリマー電解質が含浸される。
電解質塩としては、LiClO、LiCFSO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等が例示できる。これらは2種以上を混合して用いても良い。
【0027】
溶媒としては、EC、PC、BC等の環状炭酸エステル、γ−BL、γ−VL等のカルボン酸エステル、DMC、EMC、DEC、DNBC等の鎖状炭酸エステル、MA、MP、ピバリン酸メチルエステル等のカルボン酸エステル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、N、Nジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等のアミド化合物、スルホラン等の硫黄化合物、テトラフルオロ硼酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、テトラフルオロ硼酸1−ブチルピリジニウム等の常温溶融塩等が例示できる。これらは2種以上を混合して用いることが望ましい。
【0028】
添加剤としては、VC、VEC、SUCAH(無水コハク酸)、MAAH(無水マレイン酸)、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトン、ES(エチレンサルファイト)、VS(ジビニルスルホン)、VA(ビニルアセテート)、VP(ビニルピバレート)、t−AV(tert−アミルベンゼン)、t−BB(tert−ブチルベンゼン)、1,3−DOX(1,3−ジオキサン)、1,3−DOXL(1,3−ジオキソラン)、カテコールカーボネート、CHB(シクロヘキシルベンゼン)、BP(ビフェニル)、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−トリフロオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等が例示できる。
【0029】
続いて、ポリマー電解質のポリマー成分としては、アルキレンオキシド系高分子や、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のようなフッ素系高分子等が好ましい。
ポリマー電解質を作製する方法は、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基等の不飽和二重結合を有するモノマーや、エポキシ、オキセタン、ホルマール等のカチオン重合性の環状エーテル基を有するモノマーを上記した非水電解質に含ませた後、モノマーを重合させる方法が例示できる。このモノマーを重合させるタイミングは電池を組み立てた後としてもよい。
【0030】
不飽和二重結合を有するモノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンアルコキシレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールアルコキシレートテトラアクリレート、ペンタエリスリトールアルコキシレートテトラアクリレート等を用いることができる。また、環状エーテル基を有するモノマーとしては、メチルメタクリレートと(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレートとの共重合ポリマー、テトラエチレングリコールビスオキセタン、ポリビニルホルマール等を用いることができる。
【0031】
これらの材料のうち、不飽和二重結合を有するモノマーは、熱、紫外線、電子線などによって重合させることができるが、反応を効果的に進行させるために重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシクメン、ラウロイルパーオキサイド、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどの有機過酸化物が例示できる。
【0032】
また、環状エーテル基を有するモノマーは、非水電解質中のLiや微量のHによって、熱あるいは充放電により重合させることができる。
ポリマー電解質を作製する他の方法として、高温とした非水電解質中にポリマー成分を溶解させ、これを冷却する方法が挙げられる。この場合のポリマー成分は、常温において非水電解質を含んだゲル状態となり、且つ電池材料として安定なものであれば、どのような成分でもよい。このようなポリマー成分として、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドンなどの環を有するポリマー、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチルなどのアクリル誘導体ポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリビニリデンフルオライドなどのフッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ポリマーなどが挙げられる。また、上記のポリマーなどとの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。これらのポリマー成分の重量平均分子量は、通常10000〜5000000の範囲である。
【0033】
不飽和結合を有するモノマーを、熱、紫外線、電子線などによって重合させてポリマー電解質を形成させる場合、その添加量((非水溶媒+電解質塩+キレート化合物+本発明添加剤+モノマー(必要であれば+重合開始剤やその他の添加剤))の質量に占める割合)は、好ましくは1.5〜15質量%とし、より好ましくは3〜7質量%、さらに好ましくは4.5〜5.8質量%とする。
【0034】
重合開始剤を用いる場合、その添加量は、全電解質量に対して500ppm〜1質量%とすることが好ましく、1000ppm〜5000ppmとすることがより好ましい。
ポリビニルホルマールなどの環状エーテル基を有する化合物を用いる場合、その添加量は、好ましくは0.5〜5質量%とし、より好ましくは1〜2.5質量%、さらに好ましくは1.5〜2.0質量%とする。
【0035】
高温とした非水電解質中にポリマーを溶解させ、これを冷却してポリマー電解質を作製する場合、その添加量は、好ましくは10〜35質量%とし、より好ましくは15〜30質量%とし、さらに好ましくは20〜25質量%とする。
外装体20は、ポリプロピレン層(PP層)/アルミニウム箔(Al層)/ポリプロピレン層(PP層)の3層積層構造を有するアルミラミネートシート(厚み100μm)で構成される。その全体形状は図2に示すように帯状体200であり、長手方向に沿って、電極体10を収納するための凹部201を有するカップ成型部20aと、平坦な内側主面202を有するシート部200bが連続的に設けられている。帯状体200の周縁は幅約2mm程度の熱圧着部L1〜L6になっており、シート部200bをカップ成型部200aに折り返した状態で、各熱圧着部L1〜L6の表面のPP層同士を熱圧着して3方が封止される。なお、PP層は樹脂層の一例であって、その他に例えばナイロン層を用いてもよい。
【0036】
電極体10は、図1に示すように、前記3方封止の際に帯状体200のカップ成型部200aとシート部200bとの間に挟設され、正極タブ11及び負極タブ12を外部に露出した状態で、電極体10の矩形主面周囲におけるトップシール部20T(熱圧着部L3とL6の圧着部)とサイドシール部(熱圧着部L1とL4、及び熱圧着部L2とL5の圧着部)において内部封止される。この内部封止処理により、帯状体200は外装体20となる。サイドシール部は、電極体10の厚み方向(図2のz方向)に起ち上げられ、折曲サイド部20R、20Lとなる。
【0037】
なお、電池1のサイズ例としては、短辺(y方向長)34mm×長辺(z方向長)50mm×厚み(x方向長)3.8mmとすることができる。トップシール部20Tの幅(z方向長)としては4mmが例示できる。電池1の重量は例えば約14gである。
以上の構成を有する電池1では、ラミネート外装体20(具体的にはその内側主面202)と電極体10との間にガス発生板10を介設したことにより、過充電時の電池1の変形が抑制され、従来に比べて安全性が大きく向上されている特徴を有する。図4は、電池1で得られる効果を説明するための模式的な部分断面図である。
【0038】
充電中に充電器の故障や不調など、何らかの理由で電池1が過度に充電されると、負極上における反応性の高いリチウム金属が析出する際に反応熱が生じたり、正極上において溶媒が分解する際にジュール熱を発して電池温度が上昇する。このとき図5のように、電極体の内部からガスが発生することで、セパレータを介して対向していた正極板と負極板の極板間距離が増すため、それまで円滑に行われていた両極板間のリチウムイオンの授受が困難になる。これにより、電極体内部の有効電極面積が減少し、局所レートが増大する。このことは、さらに上記したリチウム金属の析出反応とジュール熱の発生を誘発させ、電池温度の上昇を招くので、電池の安全性を損なう原因にもなる。
【0039】
また、ポリマー電池では柔らかなラミネート外装体を採用しているので、過充電時に前記反応熱や前記ジュール熱等により電池が高温状態になると、ラミネート外装体が軟化して電池が変形しやすくなる問題もある。
これに対して電池1では、過充電の電圧が4.5V以上の高電圧域に達すると、図4に示すように、ガス発生板14中のガス発生物質が分解し、電池の内部でガスを発生する。これにより、主としてラミネート外装体20と電極体10との間にガスが発生する。このガス発生板14由来のガスが、ラミネート外装体20と電極体10の最外周の間で局所的に充満するので、当該ガスの圧力が電極体10をその厚み方向内方へ押圧して拘束するように作用する。これにより、たとえ図5に示したように、過充電状態において電極体10の内部(セパレータに接する正極板の部分)でガスが発生したとしても、正極板102が電極体10の厚み方向外方へ膨張するのが抑制され、常に正極板102、セパレータ101、負極板100の各々が密に積層された状態が保たれる。したがって、電極体10の内部では、当該電極体10中に局所的に大電流が流れて高温になるのが防止され、安全に電池1の充電を行うことができる。また、このような原理で電池1が高温になるのが効果的に防止されるので、ラミネート外装体20が高温で軟化して電池の形態が歪む問題も良好に回避することができる。
【0040】
なお、ガス発生板14は正極板102と接触させなければガスを発生させる反応を生じないので留意する。望ましくは、ガス発生板14は正極板12の芯体(アルミ箔芯体)に接触させるようにする。
また、ガス発生物質に炭酸リチウムまたは蓚酸リチウムを用いた場合、これらの化合物は導電性を持たない。したがって前記ガス発生反応を行うために、ガス発生板14中に導電剤を添加する必要がある点にも留意する。
【0041】
なお、このような効果を得るには、ガス発生板14により発生したガスが電池内部の一定の位置にとどまる必要があるため、流動性の高い液体の電解質(電解液)を利用する電池には適用できない。これは、液体の電解質がポリマー電解質のような粘性を持たないため、電池内部でガス発生板より発生するガスが拡散してしまい、電極体を押圧する力(拘束力)が小さいためである。
【0042】
また、一般的な固体電解質では、もともと電極体内部でガスが発生することはない。したがって本発明は、少なくともゲル状のポリマー電解質を用いた電池に適用する必要がある点に留意する。
<その他の実施の形態>
実施の形態1の電池1では、ガス発生板14の配設位置は図1に示すように、電極体10の最外周において、主面中央に配設する構成を示した。しかしながら、本発明はこの構成に限定されず、電極体10の最外周の任意の位置において、正極板102と接するように、1か所または複数個所にわたり配設することができる。
【0043】
ここで図3(b)に示す電池1Aは、実施の形態1の電池1とは逆に、電極体10Aの下方主面の中央側にガス発生板14を設けた電池1Aの内部構成を示す図である。当図では電池の内部のみを選択的に図示しており、外装体はカップ成型部200a、凹部201とシート部200bの内側の輪郭のみを示している。この構成では、シート部200bの内側主面202と電極体10Aとの間(タブ11、12に近い位置)にガス発生板14を配設している(テープ15の図示は省略)。このような構成を持つ電池でも、実施の形態1の電池1と同様に、過充電時において高い安全性を発揮することができる。
【0044】
次に示す図3(c)の電池1Bでは、電極体10Bの両主面中央に、それぞれガス発生板14A、14Bを配設した構成としている。この図3(c)の構成では、電極体10Bはその両主面からガス発生板14A、14Bから発生するガスの押圧力を受けるので、電極体の変形を極力低減できるとともに、電極体内部の密着性をさらに向上させることができる。その結果、過充電時の電池の過熱を一層効果的に防止でき、優れた安全性を発揮できるようになっている。
【0045】
この他、ガス発生板は電極体10に対して複数ヵ所に分散して配設する(例えば各主面の中央と四隅に配設する)こともできる。この場合も、ガス発生板は電極体の最外面の正極板と接触させるべき点に留意する。
<性能確認実験>
本発明の性能を確認するため、以下のように実施例及び比較例の各電池を作製し、所定の実験を行った。
(正極板の作製)
LiCoOを95wt%、導電剤としてアセチレンブラックを2.5wt%、結着剤としてのポリビニリデンフルオライド(PVdF)を2.5wt%の割合で混合し、これにNMP(N−メチルピロリドン)を加えてスラリー状にした。これをアルミ箔(12μm膜厚)上に塗布した(塗布量380g/m)。その後、これを乾燥させてNMPを除去した後、加圧成型(充填密度3.70g/cc)して正極板を得た。
【0046】
(負極板の作製)
人造黒鉛を95wt%、結着剤のカルボキシメチルセルロース(CMC)を1wt%、スチレンブタジエンゴム(SBR)を1wt%、導電剤としてアセチレンブラックを3wt%の割合で混合し、これに水を加えてスラリー状にした。このスラリーを銅箔(厚み8μm)上に塗布(165g/m)した。その後、これを乾燥して水分を除去し、加圧成型(充填密度1.60g/cc)することにより、負極板を得た。
(ガス発生板の作製)
炭酸リチウムあるいは蓚酸リチウム粉末を95wt%、アセチレンブラック(導電剤)を5wt%の割合で混合し、これをPP樹脂枠に充填した。そして100kg/cmで加圧してペレット状に成型した。その後、これを切断・研磨することにより、高さ40mm、幅10mm、厚さ0.5〜2.0mmの板状のガス発生板を得た。
(非水電解質の作製)
非水電解液として、次の化1に示すメチルトリメチルアセテート(MTMA)と、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)を同順に質量比50:30:20で混合した。これに電解質塩としてLiPFを1.0M(mol/L)となるように溶解して加え、さらにモノマーとしてトリプロピレングリコールジアクリレートを5wt%、重合開始剤(商品名:パーブチル(登録商標)PV、日本油脂(株)製)を3000ppmそれぞれ加え、プレゲルとした。
【0047】
【化1】

(注液前電池の作製)
所定の寸法にスリットした正極版及び負極板の各々に対し、集電タブを溶接した。これらをポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレータ(厚み12μm)を挟んで巻回し、厚さ3.8mm、幅34mm、高さ50mmの電極体を作製した。ガス発生板を電極体の最外周中央部にPPSテープで固定した後、カップ成型したラミネートに収納し、注液口を除いて熱シールすることで注液前電池を作製した。
【0048】
このとき、ガス発生板の配置数量および位置、あるいは厚みを変化させることにより、実施例1〜24の各電池を得た。ここで構成例1は実施の形態1の電池1、構成例2は図3(b)の電池1A、構成例3は図3(c)の電池1Bを指す。
(電池の作製方法)
注液口より電解液を注入したのち、含浸処理を行い、加熱により内包液をゲル化させ、その後、注液口を熱シールして充放電を行うことにより、出力750mAhの電池を完成した。
【0049】
なお、比較例電池(比較例1)として、ガス発生板を用いないこと以外を、上記実施例と同様に設定した電池を作製した。
実施例の電池重量は、いずれも13.8〜16.9gの範囲に収まるように設定した。
(過充電安全性試験)
作製した上記各電池について、定電流0.6lt(450mA)で電圧が12.0Vに達するまで充電した。その後、定電圧12.0Vで合計15時間過充電した(23℃)。発煙が確認されたものに対してはさらなる試験を行わず、発煙が確認されなかったものに関しては、0.1lt(75mA)刻みで定電流値を上げて同様の試験を行った。発煙が確認されない最大電流レートを限界電流値として確認した。この結果を表1に示す。
【表1】

(考察)
表1の実験結果が示すように、いずれの実施例1〜24も、比較例に比べて良好な性能を有していることが確認できた。
【0050】
比較例1では、過充電の進行に伴い、電極体の内部でガスが発生し、その厚み方向に向かって膨張した。この電極体の変形により、正極板と負極板の面対向が取れない状態のまま充電が進行すると、電池反応が局所的に集中して行われる。その結果、比較例1では比較的低い電圧で発煙が発生したものと考えられる。
一方、構成例1、2では、ラミネート外装体と電極体との間に介設したガス発生板の配置位置において、ガスを意図的に発生させている。このガスの発生に伴う圧力は、電極体が厚み方向に沿って膨張しようとする力の方向と反対方向に掛かるので、電極体の変形が抑制され、結果として正極板と負極板との離間が防止される。したがって、構成例1、2のいずれでも比較例1のように局所的な電池反応が生じにくく、その分、過充電の限界レートを上昇させることができたものと考えられる。
【0051】
また、構成例1及び2を比較すると、構成例2に比べて構成例1の方が効果が大きいことが確認された。構成例2では、タブ側にガス発生物質を配置しているので、タブ側のラミネートが膨張するにつれ、タブも引っ張られて電極体にわずかに変形が生じてしまう。このため、構成例1ほどの効果は得られなかったものと考えられる。それでも構成例1は比較例よりも十分に高い効果を示しており、それなりの性能を有することが確認できる。
【0052】
一方、構成例3では電池の厚み方向上下から電極体に向かってガス圧力がかかるので、電極体の変形を抑制する効果がさらに顕著である。このため、電池の安全性が飛躍的に向上している。なお、過充電限界レートの値は、より高いほど電池の安全性が増す。このため、少しでも高い方が望ましい。
なお、用いたガス発生物質の違いを比較すると、蓚酸リチウムを使用した実施例13〜24の電池は、炭酸リチウムを使用した実施例1〜12の電池に比べ、効果が大きいことが分かった。これは、重量当たりのガス発生量が多いためと考えられる。
【0053】
以上の実験結果の通り、従来例に対する本発明の優位性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば携帯電話機、ポータブルオーディオ、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)などの主電源としてのリチウムイオンポリマー電池に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、1A、1B リチウムイオンポリマー二次電池(非水電解質二次電池)
10、10A、10B 電極体
11 正極タブ
12 負極タブ
14、14A、14B ガス発生板
15 PPSテープ
20 外装体
20R、20L サイドシール部
20T トップシール部
30 タブ樹脂
200 帯状体
200a カップ成型部
200b シート部
201 凹部
202 内側主面
L1〜L6 熱圧着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板及び負極板がセパレータを介して積層され、前記正極板を最外面にして直方体状に成型された電極体を有し、当該電極体をポリマー電解質とともにラミネート外装体の内部に封止してなる非水電解質二次電池であって、
過充電時にガスを発生するガス発生物質を含むガス発生板が、前記正極板と接するように、前記電極体の両主面の少なくとも一方と、ラミネート外装体との間に介設されている
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記ガス発生板は、ガス発生物質と導電剤とを含んでなる
ことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記ガス発生板において、導電剤は前記ガス発生板重量に対して2wt%以上15wt%以下の割合で添加されている
ことを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記電池はリチウムイオンポリマー電池であり、
前記ガス発生物質は、4.5V以上の高電圧域でガスを発生させる物質であって、且つ、固体状態で前記ガス発生板に含まれている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記ガス発生物質は、炭酸リチウムまたは蓚酸リチウムの少なくとも一方を含んでなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記ガス発生物質は、電極体の最外面における複数個所に配設されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記ガス発生板において、前記ガス発生物質は前記電池重量に対して2wt%以上25wt%以下の範囲で添加されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記ガス発生板において、前記ガス発生物質は電池重量に対して5wt%以上25wt%以下の範囲で添加されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−199035(P2010−199035A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45845(P2009−45845)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】