説明

非水電解質電気化学素子用電極の製造方法およびその非水電解質電気化学素子用電極を備えた非水電解質電気化学素子

【課題】厚さ方向でバインダ密度の差が生じることを抑制することのできる非水電解質電気化学素子用電極の製造方法およびその非水電解質電気化学素子用電極を備えた非水電解質電気化学素子を提供する。
【解決手段】厚さ0.3mm以上の正極の製造方法は、正極活物質とバインダと溶剤とを含むスラリを集電体に塗布する塗布工程と、加熱装置により溶剤を蒸発させる乾燥工程と含む。上記乾燥工程では、スラリを塗布した塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電気化学素子用電極の製造方法およびその非水電解質電気化学素子用電極を備えた非水電解質電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ますます大容量の蓄電システムが要求されている。例えば、スマートグリッドとよばれる電力網が着目されているが、スマートグリッドを実現させるためには電力を一時的に蓄える大容量の蓄電システムが必要とされる。また、電気自動車用の大容量蓄電システムが要求されている。各種電気機器の非常用電源としても蓄電システムの大容量化が求められている。
【0003】
蓄電システムの蓄電装置としては、リチウムイオン2次電池に代表される非水電解質2次電池、ナトリウム溶融塩電池に代表される溶融塩電池、およびリチウムイオンキャパシタに代表される電気二重層コンデンサ等が用いられている。なお、前者の2つと後者とは充電原理が大きく異なるため、ここでは、これらを総称するとき電気化学素子といい、このうち、電解液として原理的には水を含まないものを非水電解質電気化学素子という。以下、各種の非水電解質電気化学素子について簡単に説明する。
【0004】
リチウムイオン2次電池(LIB)等の非水電解質二次電池では、正極にリチウム金属酸化物を用い、負極に炭素を用い、電解液に有機電解液が用いられる。有機電解液の一例としては、イオン伝導を担う支持塩のLiPFを1mol/Lの濃度としてEC(エチレンカーボネイト)−DEC(ジエチルカーボネイト)混合の有機溶媒に溶解した溶液が挙げられる。なお、使用する有機電解液のイオン伝導度が水溶液系の電解液と比較して一桁以上低いことから、電極活物質層(以下、電極層という。)内でのイオン伝導量を確保する必要とされる。このため基本的に電極層の厚さを大きくすることができず、集電体上の片面に形成される厚さが100μm〜300μmの範囲にされている(例えば、特許文献1)。
【0005】
溶融塩電池は、リチウムイオン2次電池よりもイオン伝導度が高く、高容量・高出力を得やすいこと、200℃以下で溶融する溶融塩が開発されたことから、近年着目されている。溶融塩としては、Mn+[N(SO(M;アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の内の一種類、n;価数で、1あるいは2の整数、R,R;独立にフッ素またはフルオロアルキル基)、または、これらの混合物が使用される(特許文献2参照)。
【0006】
リチウムイオンキャパシタ(LIC)は、正極および負極に電気二重層を形成することにより蓄電する。正極としては、アルミニウム集電体に活性炭を充填した電極が用いられる。負極としては、黒鉛粉末等のリチウムイオンを吸蔵脱離可能な負極活物質を銅集電体に充填した電極が用いられる。電解液としては、例えば、LiPF等のリチウム塩とEC−DEC混合の有機溶媒が用いられる(例えば、特許文献3)。
【0007】
以上に示すように、蓄電システムの蓄電装置として3種類の非水電解質電気化学素子を挙げたが、電池構造に関係なく、それぞれ大容量化が要求されている。大容量を実現するためには、活物質を吸収および放出する電極または活物質を吸蔵脱離する電極の容量増大が必要である。すなわち、電極厚の増大が必要となる。
【0008】
リチウムイオン2次電池(LIB)はイオン伝導度が低いことから、現状では集電体上の片面に形成される正極厚が100μm〜300μmの範囲とされているが、高い放電レートを必要としない用途において、容量増大のリチウムイオン2次電池が要求されている。具体的には、正極厚さを300μm以上とすることが要求されている。
【0009】
溶融塩電池は、イオン伝導が高いため電極層の厚さを300μm以上とすることも可能である。このため、リチウムイオン2次電池よりも高容量の電池を構成することができる。しかし、車両用等の用途においては、さらに高容量にすることが要求されている。具体的には、正極の厚さ0.3mm以上のものが要求されている。
【0010】
また、リチウムイオンキャパシタについても同様であり、その容量を大きくするために、正極および負極の厚さを大きくすることが要求されている。特に、従来のリチウムイオンキャパシタにおいては、負極容量が正極容量よりも大きいため、リチウムイオンキャパシタの容量は正極容量で決まる。このため、リチウムイオンキャパシタのさらなる高容量化を図る上で、正極厚さ0.3mm以上のものが要求されている。
【0011】
ところで、これら非水電解質電気化学素子の電極は、同様の製造方法で形成されている。すなわち、非水電解質二次電池の正極、溶融塩電池の正極、電気二重層コンデンサの正極または負極は、活物質とバインダの樹脂溶剤とを混合してスラリを形成し、このスラリを平面状の集電体に塗布または集電体に充填し、これを乾燥し、さらに加熱処理することにより、形成される。なお、最後の加熱処理が省略されることもある(特許文献1、特許文献3、および特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−096800号公報
【特許文献2】特開2009−067644号公報
【特許文献3】特開2006−286919号公報
【特許文献4】特開2004−172035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この種の製造方法では次の問題が生じるため、厚さ0.3mm以上でかつ充電容量を確保することのできる電極を形成することは困難であった。すなわち、上記製造方法においては、電極内部を完全に乾燥させるために比較高温でスラリを乾燥する。しかし、温風の温度を高くし過ぎると、集電体にスラリを塗布した塗布体について表面が内部よりも先に乾燥する。この乾燥の結果、表面温度が上昇し、表面上のバインダ同士が互いに接着し、表面にバインダ層が形成される。このため、内部の溶剤が蒸発しにくくなる。表面が乾燥した状態で、更に乾燥を進めると、溶剤の蒸発とともにバインダの移動が生じ、表面のバインダの密度が高くなり、内部のバインダ密度が低くなる。この結果、当該塗布体の内部において、活物質を集電体に固定するために十分な量のバインダがなくなり、活物質と集電体とが離れた状態となるため、活物質が電池の充電および放電に寄与しなくなる。
【0014】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、厚さ方向にバインダ密度差が生じることを抑制することのできる非水電解質電気化学素子用電極の製造方法およびその非水電解質電気化学素子用電極を備えた非水電解質電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下、上記目的を達成するための手段について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、厚さ0.3mm以上の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法であって、活物質とバインダと溶剤とを含むスラリを集電体に塗布する塗布工程と、加熱装置により前記溶剤を蒸発させる乾燥工程と含み、前記乾燥工程では、前記スラリを塗布した塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持することを要旨とする。
【0016】
この構成によれば、塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持するため、塗布体の内部よりも塗布体の表面が先に乾燥することを抑制することができる。また、表面にあるバインダ同士が接着することおよび表面にバインダ層が形成されることを抑制することができる。この結果、溶剤が塗布体の内部に溜まる量が少なくなるため、非水電解質電気化学素子用電極の表面と内部との間でバインダ密度差が大きくなることが抑制される。
【0017】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、前記乾燥工程では、前記塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持し、かつ前記スラリを塗布した塗布体の表面温度と内部温度との温度差の絶対値を設定温度幅以内に維持することを要旨とする。
【0018】
この構成によれば、塗布体の内部における乾燥度合いと塗布体の表面における乾燥度合との間に差が生じることが抑制される。すなわち、塗布体の表面が内部よりも先に乾燥することが抑制され、内部から表面へ移動するバインダ量が少なくなるため、塗布体の厚さ方向における表面と内部との間でバインダ密度差を小さくすることができる。
【0019】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、前記設定温度幅は50℃であることを要旨とする。
この構成によれば、塗布体の表面と内部の温度差が50℃よりも大きくなる条件で乾燥する場合に比べて、表面と内部との間でバインダ密度差を小さくすることができる。
【0020】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、前記設定表面温度は150℃であることを要旨とする。
【0021】
この構成によれば、塗布体の表面温度が150℃を超えることを許容する条件で乾燥する場合に比べて、塗布体の表面にバインダ層が形成されること、または当該層の厚さが大きくなることを抑制することができる。
【0022】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、前記加熱装置として波長が2μm〜4μmの赤外線加熱装置を用いることを要旨とする。
【0023】
赤外線は塗布体の内部にまで透過するため、温風により加熱する場合に比べて、塗布体の表面温度と内部温度との温度差を小さくすることができる。このため、塗布体の内部よりも塗布体の表面が先に乾燥することが抑制される。特に、波長が2μm〜4μmである中波長赤外線の場合、長波長赤外線および短波長赤外線に比べて次の特徴があるため、塗布体の乾燥には赤外線の中でも中波長赤外線を用いることが好ましい。
【0024】
長波長赤外線(4μmより大きい波長)の場合、塗布体の内部まで殆ど透過しない。このため、塗布体の表面が内部よりも速く加熱される。これに対して中波長赤外線は塗布体の内部まで透過する。このため、長波長赤外線を用いて加熱する場合に比べて、塗布体の表面と内部との温度差を小さくすることができ、これにより塗布体の内部における乾燥度合いと塗布体の表面における乾燥度合との間に差が生じることを抑制することができる。
【0025】
短波長赤外線(0.78μm〜2μm未満)の場合、塗布体の内部まで透過するが、透過体により吸収される光量が少ないため、効率的に塗布体を加熱することができず、乾燥時間が長くなる。これに対して中波長赤外線は短波長赤外線に比べて塗布体に吸収される光量が大きい。このため、短波長赤外線を用いる加熱する場合に比べて短時間で塗布体を加熱することができる。
【0026】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、前記加熱装置として誘導加熱装置を用いることを要旨とする。
【0027】
この構成によれば、集電体を均一に加熱することができる。これにより、塗布体の内部よりも塗布体の表面が先に乾燥することを抑制することができる。
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造された電極を備える非水電解質電気化学素子である。
【0028】
この構成によれば、電極が上記非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造されるため、電極の表面と内部との間のバインダ密度差が小さくなる。すなわち、電極の表面にはバインダ層が形成されていないかまたはその層が薄いため、バインダ層による内部抵抗の増大が小さい。従来の製造方法により製造した電極を備える電池に比べて、電気化学素子の充放電容量を大きくすることができる。
【0029】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造された正極を備え、電解質が溶融塩である非水電解質電気化学素子、すなわち溶融塩電池である。
【0030】
この構成によれば、正極が上記非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造されるため、正極の表面と内部との間のバインダ密度差が小さくなる。すなわち、正極の表面にはバインダ層が形成されていないかまたはその層が薄いため、バインダ層による内部抵抗の増大が小さい。従来の製造方法により製造した正極を備える電池に比べて、電池の充電容量を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、厚さ方向にバインダ密度差が生じることを抑制することのできる非水電解質電気化学素子用電極の製造方法およびその非水電解質電気化学素子用電極を備えた非水電解質電気化学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態の溶融塩電池を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の溶融塩電池について、正極の製造工程を示すフローチャート。
【図3】同実施形態の正極の製造に用いる赤外線加熱装置を模試的に示す模式図。
【図4】同実施形態の正極の製造に用いる誘導加熱装置を模試的に示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態>
非水電解質電気化学素子の例としてナトリウム溶融塩電池を挙げる。以下、実施形態の一例を説明する。
【0034】
図1に示すように、溶融塩電池1は、正極10と、負極20と、正極10および負極20との間に配置されるセパレータ30と、正極10および負極20およびセパレータ30を収容する収容ケース40とを備える。収容ケース40内には溶融塩が満たされている。
【0035】
収容ケース40は、正極10と電気的に接続される正極ケース41と、負極20と電気的に接続される負極ケース42と、正極ケース41と負極ケース42との間を封止する封止部材43と、負極20を正極10側に押圧する板ばね44とを備えている。
【0036】
正極ケース41は電池の正極端子として機能する。負極ケース42は電池の負極端子として機能する。封止部材43は、正極活物質および負極活物質および溶融塩による腐食がないフッ素系の弾性部材により形成されている。正極ケース41および負極ケース42は、溶融塩電池1の充放電による酸化還元反応により腐食しない導電性部材、例えばアルミニウム合金により形成されている。
【0037】
正極10は、正極活物質の酸化還元反応により発生する電子を集める集電体11と、正極活物質と、バインダと、導電助剤とを備えている。正極活物質および導電助剤はバインダにより集電体11に接着している。正極活物質に発生する電子または正孔は導電助剤を介して集電体11に伝達される。
【0038】
集電体11としてはアルミニウム不織布が用いられる。アルミニウム不織布は正極ケース41に接触している。アルミニウム不織布はアルミニウム細線の集合体である。アルミニウム細線の表面には酸化アルミニウムの薄膜が形成されている。集電体11としては、例えば、アルミニウム細線の平均径が100μm、厚さ100μm〜1000μm、気孔率70%〜90%のアルミニウム不織布が用いられる。
【0039】
集電体11としてアルミニウム多孔体を用いることもできる。アルミニウム多孔体は、ポリウレタン等の連続した気孔(連通気孔)を有する樹脂多孔体に、めっき法あるいは蒸着法によりアルミニウム層を形成した後に、下地のポリウレタンを熱分解等により除去することにより、製造することができる。気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μmとするのが好ましい。
【0040】
正極活物質としては、ナトリウムイオンを吸収および放出する酸化物、例えばNaCrOが用いられる。導電助剤としては、導電性を有しかつ電気分解しない炭素系導電物質、例えばアセチレンブラックが用いられる。バインダとしては、電解液に対して不活性でありかつアルミニウム等に接着する物質、例えばポリフッ化ビニリデンが用いられる。
【0041】
溶融塩として、例えば、N(SOR1)(SOR2)で示されるアニオン(以下、「FSA」)とナトリウムカチオンとカリウムカチオンとを含む塩(以下、NaFSA−KFSA)が用いられる。ここで、R1およびR2はそれぞれF(フッ素)を示す。NaFSAとKFSAとの組成比はモル比で56対44とされる。
【0042】
負極20としてはSn−Na合金が用いられる。負極20の芯部がSnであり、表面がSn−Na合金とされている。Sn−Na合金は、メッキでSn金属にNaを析出させることにより形成される。
【0043】
セパレータ30は、正極10と負極20とが接触しないように両極を隔離するものであり、溶融塩を通過させる。溶融塩は、正極10および負極20に接触する。具体的には、厚200μmのガラスクロスがセパレータ30として用いられている。
【0044】
<正極の製造方法>
図2を参照して、正極10の製造方法を説明する。
正極活物質としてのNaCrOと、導電助剤としてのアセチレンブラックと、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンと、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンとを、質量比で85:10:5:50の割合で混合し、スラリを形成する(S100)。
【0045】
次に、アルミニウム不織布にスラリを塗布する(塗布工程:S110)。次に、スラリを塗布したもの(以下、「塗布体50」)を加熱装置により乾燥する(乾燥工程:S120)。乾燥工程においては、塗布体50の表面温度TAが設定表面温度TSA以下となるように加熱装置が制御される。この後、塗布体50を乾燥したものを1000kgf/cmの圧力によりプレスし、所定の厚さにする(S130)。
【0046】
<電極製造装置>
図3を参照して、正極10を製造するための電極製造装置100について説明する。
なお、電極製造装置100は、シート状の集電体11にスラリを塗布する塗布工程から塗布体50を乾燥する乾燥工程までの処理を行う。
【0047】
電極製造装置100は、集電体11を搬送する搬送部110と、集電体11にスラリを塗布する塗布部120と、塗布体50を乾燥させる加熱部130と、塗布体50の表面温度を測定する測定部140とを備えている。
【0048】
搬送部110は、集電体11を繰り出す第1搬送ローラ111と、集電体11を巻き取る第2搬送ローラ112とを備えている。第1搬送ローラ111および第2搬送ローラ112の回転速度は、塗布体50の乾燥度合いに応じて制御される。
【0049】
塗布部120は、スラリを集電体11に吐出するとともに集電体11の表面をならす。単位時間当たりの塗布量は、集電体11の搬送速度、集電体11の気孔率、および集電体11の厚さ等に応じて調整される。
【0050】
測定部140は表面温度センサにより構成されている。
表面温度センサとして非接触型のセンサが採用されている。例えば、赤外線量を赤外線吸収膜により吸収して熱に変換するとともにこの熱を熱電対により測定することにより表面温度TAを測定するセンサが用いられる。測定部140により測定された値は、当該値と実際の表面温度TAとの差を補正して測定表面温度TAXとされる。測定表面温度TAXは加熱部130に出力される。
【0051】
加熱部130は、波長が2μm〜4μmの光(以下、「中波長赤外線」)を放射する赤外線加熱装置200により構成されている。赤外線加熱装置200は波長が2μm〜4μmである中波長赤外線ヒータ210と、複数本の中波長赤外線ヒータ210のうち作動させるヒータを選択する制御部220とを備えている。中波長赤外線ヒータ210は、集電体11の搬送路の上側と下側にそれぞれ配置されている。
【0052】
中波長赤外線ヒータ210の放射強度は、表面温度TAが内部温度TBよりも異常に高くならないように設定されている。具体的には、塗布体50の表面温度TAと塗布体50の厚さ方向の中間部分の内部温度TBとの温度差の絶対値が設定温度幅TSC以内となる条件が成立するように、中波長赤外線ヒータ210の放射強度が設定される。中波長赤外線ヒータ210の放射強度は中波長赤外線ヒータ210に流す電流により調整する。設定温度幅TSCは例えば50℃と定められる。
【0053】
なお、中波長赤外線ヒータ210に流す電流が調整することができない場合には、次の方法により光量を調整する。例えば、中波長赤外線ヒータ210と塗布体50との間の距離を調整する。または中波長赤外線ヒータ210と塗布体50との間に光量カットフィルタ(NDフィルタ)等を配置する。
【0054】
中波長赤外線ヒータ210の放射強度は、中波長赤外線ヒータ210の乾燥の前に予め試験により求められる。具体的には、中波長赤外線ヒータ210に流す電流量と、塗布体50の表面温度TAと塗布体50の内部温度TBと温度差との関係を示すマップが作成され、これに基づいて中波長赤外線ヒータ210の電流量の範囲が設定される。
【0055】
制御部220は、表面温度センサの測定表面温度TAXが第1設定表面温度TSA(設定表面温度)を超えるか否かに基づいて複数の中波長赤外線ヒータ210のうちから作動させるヒータを選択する。例えば、測定表面温度TAXが第1設定表面温度TSAを超えるとき、作動している中波長赤外線ヒータ210のいずれかを停止させる。これに対して、測定表面温度TAXが第2設定表面温度TSBよりも小さいとき、動作していない中波長赤外線ヒータ210のいずれかを動作させる。
【0056】
第1設定表面温度TSAは、例えば150℃と定められる。塗布体50の表面温度TAが150℃を超えるとき、溶剤の蒸発量が増大するとともにバインダ同士の接着が促進されるためである。第2設定表面温度TSBは、例えば100℃に設定される。塗布体50の表面温度TAが低下しすぎるとき塗布体50の乾燥時間が長くなるためである。
【0057】
次に、赤外線加熱装置200による塗布体50の加熱について、温風加熱装置による加熱の場合と比較して説明する。
温風加熱装置によれば、塗布体50の表面が加熱され、その後、表面の熱が内部に伝達される。このため、塗布体50の厚さが大きくなるにつれて表面と内部との温度差が大きくなる。特に、塗布体50の厚さが0.3mmを超えるとき次の現象が生じる。塗布体50の表面の溶剤が蒸発することにより表面温度TAが上昇し、バインダ同士が接着し、バインダ層を形成する。このため、内部の溶剤が蒸発せず、塗布体50の内部に残存する。溶剤が残存した状態で正極10が溶融塩電池1に組み込まれると、溶融塩電池1の発熱により溶剤が蒸発し、内部圧が上昇する。また、溶剤の酸化により電池寿命が低下する。
【0058】
また、塗布体50の内部のバインダ密度が低下することがある。これは次のように考えられる。すなわち、温風加熱により表面に形成されるバインダ層により溶剤が内部に閉じ込められ、これにより内部圧力が上昇する。内部圧力が内部のバインダを移動させる力として働き、バインダを表面に移動させる。この結果、表面のバインダ密度が高くなり、内部のバインダ密度が低下する。このような正極10が溶融塩電池に組み込まれると、次の問題が生じる。すなわち、正極10の表面にバインダ層が形成されると、バインダは絶縁物であるため電気抵抗層となるとともに、正極10内部に電解液が浸入しにくくなるため、充電容量または充電速度が低下する。また、正極10内部のバインダの密度の低下により、内部の正極活物質が集電体から隔離され、この正極活物質が溶融塩電池1の充放電に寄与しなくなるため、充電容量が低下する。
【0059】
このような現象は、温風加熱による乾燥の場合に限らず、その他の加熱手段、例えばオーブンによる加熱等によっても同様に生じる。すなわち、塗布体50の不均一な加熱により、特に塗布体50の表面温度TAが第1設定表面温度TSA以上に上昇することにより生じる。
【0060】
これに対して、赤外線加熱装置200による加熱によれば次の作用を奏する。
中波長赤外線は、波長が4μmよりも大きい光に比べて塗布体50の内部まで透過する。また、中波長赤外線は、波長が2μm未満の光に比べて効率的に塗布体50を加熱する。このため、上記温風加熱装置等に比べ、塗布体50の表面と内部との温度差が大きくならない。
【0061】
また、塗布体50に対して中波長赤外線を上方向と下方向から照射する。
中波長赤外線は光源から離れるにつれて強度が低下するため、仮に方向からのみ照射したときには、光が照射されない裏側面の温度が照射側の面よりも低くなる。この点、中波長赤外線を上方向と下方向から照射するため、塗布体50の厚さ方向の各場所における温度差が小さくなる。
【0062】
このように表面温度TAが異常に昇温することを抑制される。このため、塗布体50の内部よりも塗布体50の表面が先に乾燥することが抑制され、表面のバインダ同士が接着することによりバインダ層が形成されることも少ない。
【0063】
このようなことから内部の溶剤が塗布体50の内部に残存する量を少なくすることができる。この結果、塗布体50の内部圧力が増大することも抑制されるため、内部圧力の増大にともなうバインダの移動も殆どなく、正極10の表面と内部との間のバインダ密度差が大きくなることが抑制される。
【0064】
なお、表面にバインダ層が形成されなくなること、またはバインダ層の厚さが小さくなることに起因する正極10の内部抵抗の低下は、高レート放電における端子間電圧の比較により確かめられた。すなわち、温風加熱により乾燥した従来正極を用いた溶融塩電池の端子間電圧に比べ、赤外線加熱装置200により乾燥した正極10を用いた溶融塩電池1の端子間電圧が大きいことが確かめられた。
【0065】
図4を参照して、電極製造装置100について他の例を挙げる。
この電極製造装置100は、加熱部130として誘導加熱装置300を用いている。加熱部130以外の構成は、先に説明した電極製造装置100と同様構造であるため、加熱部130以外の説明は省略する。
【0066】
誘導加熱装置300は、誘導コイル310と、交流電源320と、誘導コイル310に流す電流および周波数を制御する制御部330とを備えている。制御部330は交流の周波数を一旦整流し更にインバータにより所定周波数に変換して誘導コイル310に交流を流す。誘導コイル310に流す交流の周波数は50kHz〜500kHzの間で設定される。
【0067】
誘導コイル310は、導電線は、複数本の導線を撚って形成されている。誘導コイル310の内部に集電体11が通る。誘導コイル310の中心軸と集電体11の進行方向とは一致させている。すなわち、誘導コイル310による磁界と集電体11の進行方向を一致させている。
【0068】
制御部330は、表面温度センサの測定表面温度TAXが第1設定表面温度TSAを超えるか否かに基づいて、誘導コイル310に流す電流量を制御する。例えば、測定表面温度TAXが第1設定表面温度TSAを超えるとき、電流量を減少させる。これに対して、測定表面温度TAXが第2設定表面温度TSBよりも小さいとき、電流量を増大させる。
【0069】
次に、誘導加熱装置300による塗布体50の加熱について説明する。
集電体11が誘導コイル310を通過するとき、誘導コイル310の磁界により、集電体11に電流が流れ、これにより集電体11が加熱される。そして、集電体11が加熱されるとともにバインダおよび溶剤が加熱され、これにより溶剤が蒸発する。
【0070】
誘導加熱装置300による塗布体50の加熱によっても赤外線加熱装置200による塗布体50の加熱と同様の作用を奏する。すなわち、表面温度TAが異常に昇温することが抑制されるため、内部の溶剤が塗布体50の内部に残存する量を少なくすることができる。また、塗布体50の内部圧力が増大することも抑制されるため、正極10の表面と内部との間のバインダ密度差が大きくなることが抑制される。
【0071】
(本実施形態の効果)
(1)上記実施形態では、乾燥工程においてスラリを塗布した塗布体50の表面温度TAを第1設定表面温度TSA(設定表面温度)以下に維持して加熱する。この構成によれば、正極10の表面と内部との間でバインダ密度差が大きくなることが抑制することができる。
【0072】
(2)上記実施形態では、乾燥工程において塗布体50の表面温度TAを第1設定表面温度TSA以下に維持し、かつスラリを塗布した塗布体50の表面と内部の温度差を設定温度幅TSC内に維持して乾燥する。
【0073】
この構成によれば、塗布体50の内部における乾燥度合いと塗布体50の表面における乾燥度合いとにばらつきが生じることを抑制することができる。すなわち、塗布体50の表面が内部よりも先に乾燥することが抑制され、内部から表面へ移動するバインダ量が少なくなる。これにより、塗布体50の厚さ方向における表面と内部とのバインダ密度差を小さくすることができる。
【0074】
(3)上記実施形態では設定温度幅TSCを50℃とする。これにより、塗布体50の表面と内部の温度差が50℃よりも大きくなる条件で乾燥する場合に比べて、塗布体50の表面と内部との間のバインダ密度差を小さくすることができる。
【0075】
(4)上記実施形態では第1設定表面温度TSAを150℃とする。これにより、塗布体50の表面温度TAが150℃よりも大きくなる条件で乾燥する場合に比べて、塗布体50の表面にバインダ層が形成されること、または当該バインダ層の厚さが厚くなることを抑制することができる。
【0076】
(5)上記実施形態では波長が2μm〜4μmの赤外線加熱装置200を用いる。これにより、短波長赤外線よりも効率的に塗布体50を加熱することができる。また、長波長赤外線に比べて、塗布体50の内部における乾燥度合いと塗布体50の表面における乾燥度合との間に差が生じることを抑制することができる。
【0077】
(6)上記実施形態では誘導加熱装置300を用いる。この構成によれば、集電体11の表面および内部にかかわらず、集電体11を均一に加熱することができる。これにより、塗布体50の内部よりも表面が先に乾燥することを抑制することができる。
【0078】
(7)上記実施形態では溶融塩電池1の正極10は上記製造方法により製造されている。正極10は上製造方法により製造されるため、正極10の表面と内部との間のバインダ密度差は小さい。すなわち、正極10の表面にはバインダ層が形成されていないかまたはバインダ層が薄いため、バインダ層による内部抵抗の増大が小さい。すなわち、従来の製造方法により製造した正極10を備える溶融塩電池に比べて、溶融塩電池1の充電容量を大きくすることができる。
【0079】
(8)上記実施形態では、Naイオンを伝導種とする電池において、NaFSAとKFSAの混合物(モル比56:44)を電解質として用いている。この構成によれば、上記の有機物質を電解質として用いる非水電解質2次電池と比較して、電池動作に係わるイオンの濃度を一桁以上高くすることができ、イオン伝導度も高いため、放電レートを大きくすることができる。
【0080】
<第2実施形態>
非水電解質電気化学素子としてリチウムイオンキャパシタを挙げる。以下、実施形態について説明する。
【0081】
リチウムイオンキャパシタは、正極と、負極と、セパレータとを備えている。正極は、活性炭を主成分とする正極活物質を正極集電体に充填して形成される。負極は、リチウムイオンを吸蔵脱離できる負極活物質を負極集電体(例えば、金属箔)に塗布することにより形成される。
【0082】
正極集電体としては、例えば三次元構造のアルミニウム多孔体が用いられる。アルミニウム多孔体は、発泡ウレタンにアルミニウムを被覆した後にウレタンを焼失することにより得られる。例えば、気孔率が90%〜95%のアルミニウム多孔体が用いられる。好ましくは、気孔率が93%のアルミニウム多孔体が用いられる。
【0083】
負極にはリチウムイオンもしくはリチウムが含まれる。リチウムイオンもしくはリチウムは、電気化学的手法により、上記構成の負極に吸蔵される。例えば、リチウムイオンキャパシタ内に予めリチウム金属を入れておく。そして、リチウムイオンキャパシタの組み立て後、かつ2次電池としての使用前に、リチウムイオンキャパシタを所定期間一定温度条件で放置することにより、リチウム金属から電解液に溶出するリチウムイオンまたはリチウムを負極に取り込ませる。
【0084】
セパレータとしては、ポリエチレン製の多孔体シートで、厚さ25μmのものが用いられる。
電解液としては、リチウム塩を含む有機電解液が用いられる。例えば、エチレンカーボネイトとエチルメチルカーボネイトとの混合液に、リチウム支持塩としてのLiPFを1mol/Lで溶解させた有機電解液が用いられる。
【0085】
<正極の作製方法>
正極は、正極集電体としてのアルミニウム多孔体に正極活物質ペーストを含浸させることにより、形成される。
【0086】
正極活物質ペーストは、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンと溶媒としてのピロリドンの混合物と、活性炭粉末と、導電助剤とを、混合機で攪拌することにより得られる。
正極を圧縮成形することにより、アルミニウム多孔体に活性炭ペーストをより高密度に充填することができる。また、圧縮成形の圧力を調整することにより、正極の厚さが調整される。圧縮成形後の正極の厚さは300〜3000μm程度が好ましい。
【0087】
<負極の製造方法>
負極は、負極活物質を含む負極活物質ペーストを金属箔(負極集電体)に塗布することにより、形成される。
【0088】
負極活物質としては天然黒鉛(以下、単に黒鉛という。)が用いられる。負極活物質ペーストは、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンと溶媒のピロリドンの混合物と、黒鉛と、導電助剤としてのケッチェンブラックとを、混合機で撹拌することにより得られる。
【0089】
負極は、負極集電体としての銅金属箔に負極活物質ペーストをドクターブレード法により塗布し、これを乾燥し、その後、ローラプレス機等により加圧して形成される。成形後の負極の厚さは、例えば150μmとされる。
【0090】
負極にリチウムイオンもしくはリチウムを吸蔵させる方法としては次の方法がある。上記方法により形成した負極の表面にリチウム金属箔を形成し、この負極を用いてリチウムイオンキャパシタを組み立てる。そして、組立後のリチウムイオンキャパシタを60℃の恒温層中で24時間保温する。これにより、リチウム金属箔から電解液に溶出したリチウムイオンもしくはリチウムが負極に吸蔵される。
【0091】
(実施例)
[1.正極の作製]
活性炭粉末(比表面積2500m/g、平均粒径約5μm)100質量部に、導電助剤としてケッチェンブラック2質量部、バインダとしてポリフッ化ビニリデン粉末4質量部、溶媒としてN−メチルピロリドン15質量部を添加し、混合機で攪拌することにより、正極活物質ペーストを調製した。正極集電体としては、厚さ1.0mm、気孔率93%、セル径400μmのアルミニウム多孔体を用いた。
【0092】
正極活物質ペーストをこの正極集電体に、活性炭粉末の含量が20mg/cmとなるように充填した。なお、以降の説明では、活性炭正極ペーストを充填した正極集電体を正極シートという。
【0093】
次に、赤外線加熱装置により、正極シートを乾燥した。表面温度を150℃とし、表面温度と内部温度との差を50℃とした。乾燥後、ローラプレス機(スリット:300μm)で加圧し、正極を得た。加圧後の正極の厚さは400μmであった。正極の容量は0.50mAh/cmであった。なお、ローラプレス機のスプリングバックにより、加圧後の正極厚さはスリット幅より大きくなった。
【0094】
[2.負極の作製]
負極集電体として、厚さ20μmの銅箔を用いた。
天然黒鉛粉末100質量部に、導電助剤としてケッチェンブラック2質量部、バインダとしてポリフッ化ビニリデン粉末4質量部、溶媒としてN−メチルピロリドン15質量部を添加し、混合機で攪拌することにより、負極活物質ペーストを調製した。負極活物質ペーストを負極集電体にドクターブレードを用いて塗布した。なお、以降の説明では、負極集電体に負極活物質ペーストを塗布したものを負極シートという。
【0095】
次に、乾燥機を用いて、負極シートを100℃で1時間にわたって加熱することにより乾燥し、溶媒を除去した後、ローラプレス機(スリット:100μm)で加圧して負極を得た。加圧後の負極の厚さは75μmであった。得られた負極の容量は0.50mAh/cmであった。さらに、負極の表面に、真空蒸着法で、厚さ1μmリチウム金属箔(約0.45mAh/cm相当量)を形成した。このリチウム金属箔は、リチウムイオンキャパシタの組立後、負極にリチウムを吸蔵させるためのリチウム源である。
【0096】
[3.リチウムイオンキャパシタの作製]
正極および負極を5cm×5cmの寸法に裁断した。
正極の一部から正極活物質を除去し、正極活物質の除去部分にアルミニウムのタブリードを溶接した。また、負極の一部から負極活物質を除去し、負極活物質の除去部分にニッケルのタブリードを溶接した。
【0097】
そして、各電極をドライルームに移し、まず140℃で12時間、減圧環境で乾燥した。さらに、両電極の間にポリエチレン製のセパレータを挟んで対向させて単セル素子とし、アルミラミネートで作製したセル内に単セル素子を配置した。そして、セル内に電解液を注入し、正極および負極およびセパレータ内に電解液を含浸させた。電解液としては、エチレンカーボネイト(EC)とジエチルカーボネイト(DEC)とを体積比1:1で混合した溶液に1mol/LのLiPFを溶かした溶液を用いた。次に、真空シーラでセル内を減圧しながらアルミラミネートを封止した。その後、セルを60℃の恒温槽中で24時間保温することにより、負極にリチウムを吸蔵させた。
【0098】
(本実施形態の効果)
本実施形態よれば、上記第1実施形態の(1)〜(6)に準じた効果を得ることができる。すなわち、リチウムイオンキャパシタの正極の製造工程において、第1実施形態と同様の条件で正極の乾燥を行うことにより、正極の表面と内部との間でバインダ密度差が大きくなることを抑制することができる。
【0099】
また、リチウムイオンキャパシタの正極が上記製造方法により製造されていることから、正極10の表面と内部との間でバインダ密度差が小さくなり、正極10の表面にはバインダ層が形成されていないかまたはバインダ層が薄くなる。すなわち、バインダ層による内部抵抗の増大が小さい。このようなことから従来のリチウムイオンキャパシタよりも、本実施形態の正極を備えるリチウムイオンキャパシタの方が充電容量が大きい。
【0100】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態にて例示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0101】
・上記第1実施形態では、乾燥工程において塗布体50の表面温度TAに応じて中波長赤外線ヒータ210を作動させているが、このような制御を省略することもできる。すなわち、周囲温度が変化した場合においても第1設定表面温度TSA以下かつ設定温度幅TSB以内となる加熱条件を見出し、この加熱条件で中波長赤外線ヒータ210を動作させる。この場合でも上記製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0102】
・上記第1実施形態では、赤外線加熱装置200の一例として、中波長赤外線ヒータ210により構成される加熱装置を挙げているが、これに代えて次の構成とすることもできる。すなわち、2μm〜4μmの波長のLEDにより赤外線加熱装置200を構成することができる。この場合、LEDのデューティ制御により中波長赤外線の放射量を制御することができるため、中波長赤外線ヒータ210により構成する場合と比べて、塗布体50に照射する光量をより精確に制御することができる。
【0103】
・上記第1実施形態では、加熱部130を特定の加熱手段により構成しているが、タイプの異なる加熱手段を組み合わせて、加熱部130を構成することもできる。例えば、次の組み合わせがある。すなわち、温風加熱装置と赤外線加熱装置200、赤外線加熱装置200と誘導加熱装置300、誘導加熱装置300と温風加熱装置、および温風加熱装置と赤外線加熱装置200と誘導加熱装置300の組み合わせが考えられる。
【0104】
・上記第1実施形態では、誘導コイル310による磁界方向と集電体11の移動方向とを一致させているが、磁界方向はこの方向に限定されない。磁界方向を集電体11の面に対して垂直にしてもよい。また、磁界方向と集電体11の幅方向とを一致させてもよい。
【0105】
・上記第1実施形態では、集電体11としてアルミニウム不織布を用いているが、この他、アルミニウム多孔体、アルミ箔等を用いることができる。また、集電体11を金または白金等、耐腐食性材料により形成してもよい。
【0106】
・上記実施形態において、非水電解質電気化学素子として、溶融塩電池およびリチウムイオンキャパシタについて本発明を適用したが、非水電解質リチウムイオン2次電池にも本発明を適用することができる。この場合、従来に比べて大容量のものとすることができる。なお、非水電解質リチウムイオン2次電池はその構造上でイオン伝導度が低いことから、正極の厚さを大きくすることで電流密度が小さくなるが、大容量化を図れることからメリットがある。
【0107】
・上記実施形態および変形例では、各種電池の正極について本発明を適用することを説明したが、集電体11にスラリを塗布したものを乾燥することにより形成される電極であれば、当該電極(非水電解質電気化学素子用電極)の製造に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…溶融塩電池、10…正極(非水電解質電気化学素子用電極)、11…集電体、20…負極、30…セパレータ、40…収容ケース、41…正極ケース、42…負極ケース、43…封止部材、44…板ばね、50…塗布体、100…電極製造装置、110…搬送部、111…第1搬送ローラ、112…第2搬送ローラ、120…塗布部、130…加熱部、140…測定部、200…赤外線加熱装置、210…中波長赤外線ヒータ、220…制御部、300…誘導加熱装置、310…誘導コイル、320…交流電源、330…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ0.3mm以上の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法であって、
活物質とバインダと溶剤とを含むスラリを集電体に塗布する塗布工程と、
加熱装置により前記溶剤を蒸発させる乾燥工程と含み、
前記乾燥工程では、前記スラリを塗布した塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持する
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、
前記乾燥工程では、前記塗布体の表面温度を設定表面温度以下に維持し、かつ前記スラリを塗布した塗布体の表面温度と内部温度との温度差の絶対値を設定温度幅以内に維持する
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、
前記設定温度幅は50℃である
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、
前記設定表面温度は150℃である
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、
前記加熱装置として波長が2μm〜4μmの赤外線加熱装置を用いる
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法において、
前記加熱装置として誘導加熱装置を用いる
ことを特徴とする非水電解質電気化学素子用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造された電極を備える非水電解質電気化学素子。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項の非水電解質電気化学素子用電極の製造方法により製造された正極を備え、電解質が溶融塩である非水電解質電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26444(P2013−26444A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159967(P2011−159967)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】