説明

非水電解質電池および非水電解質

【課題】高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化およびガス発生を抑制できる非水電解質電池および非水電解質を提供する。
【解決手段】この非水電解質電池は、正極33と、負極34と、溶媒および電解質塩を含むゲル状の電解質36とを備える。ゲル状の電解質36は、ポリ酸および/またはポリ酸化合物とを含み、溶媒は総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質電池および非水電解質に関する。詳しくは、鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質を用いた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ一体型VTR(Video Tape Recroder)、携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が広く普及し、その小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電子機器のポータブル電源として、電池、特に軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
中でも、充放電反応にリチウム(Li)の吸蔵および放出を利用する二次電池(いわゆるリチウムイオン二次電池)は、従来の非水系電解液二次電池である鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、広く実用化されている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解質を備えている。
【0004】
特に外装にアルミニウムラミネートフィルムを使用するラミネート電池は軽量なためエネルギー密度が大きい。また、ラミネート電池に於いては、電解液をポリマーに膨潤させるとラミネート電池の変形を抑制する事ができるため、ラミネートポリマー電池も広く使用されている。
【0005】
非水電解質電池に用いられる電解液は、主として電解質と非水溶媒とから構成されている。非水溶媒の主成分としては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトンやγ−バレロラクトンなどの環状カルボン酸エステル、酢酸エチルや酪酸エチルなどの鎖状カルボン酸エステルなどが用いられている。
【0006】
カルボン酸エステルは、カーボネート類と比較して粘度が低く誘電率が高いためイオン導電性の向上が期待できる。特許文献1では、鎖状カルボン酸エステルを含む電解液を用いることでサイクル特性を向上させることが提案されている。
【0007】
しかしながら、鎖状カルボン酸エステルは、カーボネートと比べて沸点が低く、また、電気的に分解されやすい。このため、鎖状カルボン酸エステルを非水溶媒として用いた電池では、高温環境下で充放電を繰り返したりすると、容量が劣化したり、ガスの発生が顕著となる問題があった。
【0008】
この問題を改善するため、特許文献2では、分解物がガス化しにくいと考えられている、「総炭素数が6以上」と制限された鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解液を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−241339号公報
【特許文献2】特開2009−301954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、「総炭素数が6以上」と制限された鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解液を用いた場合でも、依然として、高温環境下で充放電を繰り返したりするとガスの発生が顕著となる問題があった。
【0011】
したがって、この発明の目的は、鎖状カルボン酸エステルを非水溶媒として用いた場合において、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化およびガス発生を抑制できる非水電解質電池および非水電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、正極と、負極と、非水電解質とを備え、非水電解質は、溶媒と、電解質塩と、ポリ酸および/またはポリ酸化合物とを含み、溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質電池である。
【0013】
第2の発明は、正極と、負極と、溶媒および電解質塩を含む非水電解質とを備え、溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含み、負極に1種以上のポリ元素を有する非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成された非水電解質電池である。
【0014】
第3の発明は、正極と、負極と、溶媒および電解質塩を含む非水電解質とを備え、溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含み、電池内部にポリ酸および/またはポリ酸化合物を含む非水電解質電池である。
【0015】
第4の発明は、溶媒と、電解質塩と、ポリ酸および/またはポリ酸化合物とを含み、溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質である。
【0016】
第1の発明では、非水電解質中に、ポリ酸および/またはポリ酸化合物と共に、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む。充電により、ポリ酸および/またはポリ酸化合物に由来する被膜が、負極に形成される。これにより、高温環境下での充放電時において、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解が抑制されるため、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化やガス発生を抑制することができる。
【0017】
第2の発明では、溶媒は、総炭素数4以上鎖状カルボン酸エステルを含み、負極に、1種以上のポリ元素を有する非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成される。これにより、高温環境下での充放電時において、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解が抑制されるため、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化やガス発生を抑制することができる。
【0018】
第3の発明では、電池内部に、ポリ酸および/またはポリ酸化合物を含み、溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む。充電により、ポリ酸および/またはポリ酸化合物に由来する被膜が、負極に形成される。これにより、高温環境下での充放電時において、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解が抑制されるため、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化やガス発生を抑制することができる。
【0019】
第4の発明では、非水電解質中に、ポリ酸および/またはポリ酸化合物と共に、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む。これにより、電池などの電気化学デバイスに用いた場合に、高温環境下での充放電時において、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解が抑制されるため、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化やガス発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、高温環境下での充放電繰り返し時の容量劣化やガス発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成例を示す分解斜視図である。
【図2】図1における巻回電極体のI−I線に沿った断面図である。
【図3】負極表面のSEM写真である。
【図4】ケイタングステン酸を電池系内に添加することにより析出物が析出した負極表面における飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)による二次イオンスペクトルの一例である。
【図5】ケイタングステン酸を電池系内に添加することにより析出物が析出した負極表面におけるX線吸収微細構造(XAFS)解析によるスペクトルをフーリエ変換して得られるW−O結合の動径構造関数の一例である。
【図6】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成の一例を示す断面図である。
【図7】巻回電極体の一部を拡大した断面図である。
【図8】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図9】電池素子の外観の一例を示す斜視図である。
【図10】電池素子の構成の一例を示す断面図である。
【図11】正極の形状の一例を示す平面図である。
【図12】負極の形状の一例を示す平面図である。
【図13】セパレータの形状の一例を示す平面図である。
【図14】この発明の実施の形態による非水電解質電池に用いられる電池素子の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(非水電解質電池の第1の例)
2.第2の実施の形態(非水電解質電池の第2の例)
3.第3の実施の形態(非水電解質電池の第3の例)
4.第4の実施の形態(非水電解質電池の第4の例)
5.第5の実施の形態(非水電解質電池の第5の例)
6.他の実施の形態(変形例)
【0023】
1.第1の実施の形態
(電池の構成)
この発明の第1の実施の形態による非水電解質電池について説明する。図1はこの発明の第1の実施の形態による非水電解質電池の分解斜視構成を表しており、図2は図1に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面を拡大して示している。
【0024】
この非水電解質電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0025】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0026】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着または接着剤によって互いに接着された構造を有している。
【0027】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0028】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0029】
図1は、図2に示した巻回電極体30のI−I線に沿った断面構成を表している。この巻回電極体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ37によって保護されている。
【0030】
(正極)
正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層33Bは、正極集電体33Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0031】
正極集電体33Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
【0032】
正極活物質層33Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0033】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムまたはこれらの固溶体{Li(NixCoyMnz)O2(x、yおよびzの値は0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1である。)、Li(NixCoyAlz)O2(x、yおよびzの値は0<x<1、0<y<1、0≦z<1、x+y+z=1である。)など}、マンガンスピネル(LiMn24)またはこれらの固溶体{Li(Mn2-vNiv)O4(vの値はv<2である。)}などのリチウム複合酸化物、またはリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、LixFe1-yM2yPO4(式中、M2は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。xは、0.9≦x≦1.1であり、yは、0≦y<1である。)などのオリビン構造を有するリン酸化合物が好ましい。高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0034】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、または二酸化マンガンなどの酸化物、二硫化鉄、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどの二硫化物、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0035】
勿論、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、例示したもの以外のものであってもよい。
【0036】
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0037】
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されていてもよい。
【0038】
(負極)
負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層34Bは、負極集電体34Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0039】
負極集電体34Aは、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
【0040】
負極活物質層34Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、結着剤および導電剤は、それぞれ正極で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0041】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0042】
上述の炭素材料の他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、この発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種以上が共存するものがある。
【0043】
上記した金属元素または半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0044】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金または化合物や、スズの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0045】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0046】
スズの化合物またはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)または炭素(C)を含むものが挙げられ、スズ(Sn)またはケイ素(Si)に加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0047】
特に、ケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、スズ(Sn)を第1の構成元素とし、そのスズ(Sn)に加えて第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。勿論、この負極材料を上記した負極材料と共に用いてもよい。第2の構成元素は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)およびケイ素(Si)からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素(B)、炭素(C)、アルミニウム(Al)およびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
【0048】
中でも、スズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)を構成元素として含み、炭素(C)の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、スズ(Sn)およびコバルト(Co)の合計に対するコバルト(Co)の割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下の範囲内であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られるからである。
【0049】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ガリウム(Ga)またはビスマス(Bi)などが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。容量特性またはサイクル特性がさらに向上するからである。
【0050】
なお、SnCoC含有材料は、スズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)を含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下は、スズ(Sn)などが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集または結晶化が抑制されるからである。
【0051】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素(C)の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0052】
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0053】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物または高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0054】
さらに、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、チタンのようにリチウムと複合酸化物を形成する元素を含む材料でもよい。
【0055】
勿論、負極活物質として金属リチウムを用いて、金属リチウムを析出溶解させてもよい。リチウム以外のマグネシウムやアルミニウムを析出溶解させることも可能である。
【0056】
負極活物質層34Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、焼成法、または塗布のいずれにより形成してもよく、それらの2以上を組み合わせてもよい。なお、気相法としては、例えば、物理堆積法または化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)法またはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金または無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させることにより塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0057】
負極活物質として金属リチウムを用いる場合には、負極活物質層34Bは、組み立て時から既に有するようにしてもよいが、組み立て時には存在せず、充電時に析出したリチウム金属により構成されるようにしてもよい。また、負極活物質層34Bを集電体としても利用することにより、負極集電体34Aを省略するようにしてもよい。
【0058】
(セパレータ)
セパレータ35は、正極33と負極34とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ35は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0059】
(電解質)
電解質36は、電解液と、電解液を吸収して膨潤した高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。このゲル状の電解質では電解液が高分子化合物に保持されている。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0060】
(電解液)
電解液は、溶媒と、電解質塩と、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を含む。電解液には、予めヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が添加される。これにより、充放電前において、電解液は、溶媒に溶解したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を含む。
【0061】
(溶媒)
溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含有する。総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの中でも、電解液の粘度低減および鎖状カルボン酸エステルの熱安定性の観点から、総炭素数が4以上8以下の鎖状カルボン酸エステルが好ましく、総炭素数が4以上7以下の鎖状カルボン酸エステルがより好ましい。総炭素数が4未満であると、高温環境下での充放電における鎖状カルボン酸エステルの分解が著しく、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物による分解抑制効果を凌駕してしまうからである。総炭素数が8を超えると、電解液の粘度が上昇し、それに伴いヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の移動度も減少し負極に均一に行き渡らず、後述の、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の分解によって生ずる負極表面の被膜が不均一に形成されてしまうからである。この鎖状カルボン酸エステルとしては、具体的に、例えば、式(1)で表される鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。
【0062】
【化1】

(R1およびR2は、それぞれ独立して、炭化水素基である。炭化水素基は、分岐していてもよい。R1およびR2の炭素数の合計は3以上である。)
【0063】
式(1)において、炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基などが挙げられる。電解液の粘度低減の観点から、R1およびR2の炭素数の合計は、6以下が好ましい。
【0064】
この鎖状カルボン酸エステルとしては、より具体的に、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、2−メチル酪酸エステル、吉草酸エステル、イソ吉草酸エステルなどが挙げられる。さらに、具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、2−メチル酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸プロピル、カプロン酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸ブチルなどが挙げられる。
【0065】
溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共に、他の溶媒を含有していてもよい。
【0066】
(他の溶媒)
他の溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの炭酸エステル系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンあるいはε−カプロラクトンなどのラクトン系溶媒、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランあるいは2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルフォラン系溶媒、リン酸類、リン酸エステル溶媒、またはピロリドン類などの非水溶媒が挙げられる。溶媒は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
また、他の溶媒として、環状エステルまたは鎖状エステルの水素の一部または全部がフッ素化された化合物を含有していてもよい。このフッ素化された化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)などが挙げられる。
【0068】
(含有量)
総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステル化合物の含有量は、電解液を構成する全溶媒に対して、0.1質量%以上40質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましい。0.1質量%未満であると、電解液の粘度低減の効果が十分に得られないからである。40質量%を超えると、高温環境下での充放電における鎖状カルボン酸エステルの分解量が多くなり、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物による分解抑制効果を凌駕してしまうからである。
【0069】
(電解質塩)
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種以上2種以上を含有している。リチウム塩としては、具体的に、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)などの無機リチウム塩が挙げられる。また、リチウム塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF3SO3Li)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド((CF3SO22NLi)、リチウムビス(ペンタフルオロメタンスルホン)イミド((C25SO22NLi)、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホン)メチド((CF3SO23CLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体のリチウム塩などが挙げられる。
【0070】
(ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸化合物)
ヘテロポリ酸は、2種以上のオキソ酸の縮合物である。このヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸化合物は、そのヘテロポリ酸イオンが、ケギン構造、アンダーソン構造、ドーソン構造またはプレイスラー構造等の、電池の溶媒に溶解しやすいものが好ましく、ケギン構造を有するものはより溶媒に溶解しやすいのでより好ましい。
【0071】
このヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、例えば、元素群(a)から選ばれるポリ原子を有するもの、または
元素群(a)から選ばれるポリ原子を有し、ポリ原子の一部が元素群(b)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである。
元素群(a):Mo、W、Nb、V
元素群(b):Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、Re、Tl、Pbである。
【0072】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が、例えば、元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有するもの、または
元素群(c)から選ばれるヘテロ原子を有し、へテロ原子の一部が元素群(d)から選ばれる少なくとも何れかの元素で置換されたものである。
元素群(c):B、Al、Si、P、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、As
元素群(d):H、Be、B、C、Na、Al、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Rh、Sn、Sb、Te、I、Re、Pt、Bi、Ce、Th、U、Np
【0073】
例えば、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物としては、下記の一般式((式A)〜(式D))で表されるヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が挙げられる。
【0074】
(式A)
アンダーソン(Anderson)構造:Hxy[BD624]・zH2
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0075】
(式B)
ケギン(Keggin)構造:Hxy[BD1240]・zH2
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦4、0≦y≦4、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0076】
(式C)
ドーソン(Dawson)構造:Hxy[B21862]・zH2
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0077】
(式D)
プレイスラー(Preyssler)構造:Hxy[B530110]・zH2
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦15、0≦y≦15、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0078】
なお、上述の(式A)〜(式D)中、Aはリチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),アルミニウム(Al),アンモニウム(NH4),アンモニウム塩,ホスホニウム塩を表す。Bはリン(P),ケイ素(Si),ヒ素(As)、ゲルマニウム(Ge)を表す。Dはチタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),テクネチウム(Tc),ロジウム(Rh),カドミウム(Cd),インジウム(In),スズ(Sn),タンタル(Ta),タングステン(W),レニウム(Re),タリウム(Tl)から選ばれる1種以上の元素である。
【0079】
ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物としては、より具体的には、例えば、式(I)で表される化合物が挙げられる。この式(I)で表される化合物は、そのヘテロポリ酸イオンがケギン構造をとるものであり、電解液に溶解しやすいので好ましい。
式(I)
x[BD1240]・yH2
(AはH、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Al、NH4、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩を表し、BはP、Si、As、Geを表す。DはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Tlから選ばれる1種以上の元素である。xおよびyはそれぞれ0≦x≦7、0≦y≦50の範囲内の値である。)
【0080】
より具体的には、ヘテロポリ酸としては、例えば、リンタングステン酸(H3PW1240)、ケイタングステン酸(H4SiW1240)などのようなヘテロポリタングステン酸、リンモリブデン酸(H3PMo1240)、ケイモリブデン酸(H4SiMo1240)などのようなヘテロポリモリブデン酸などが挙げられる。リンモリブデン酸30水和物(H3[PMo1240]・30H2O)、ケイモリブデン酸30水和物(H4[SiMo1240]30H2O)、リンタングステン酸30水和物(H3[PW1240]30H2O)、ケイタングステン酸30水和物(H4[SiW1240]30H2O)、リンモリブデン酸7水和物(H3[PMo1240]・7H2O)、ケイモリブデン酸7水和物(H4[SiMo1240]・7H2O)、リンタングステン酸7水和物(H3[PW1240]・7H2O)、ケイタングステン酸7水和物(H4[SiW1240]・7H2O)、ケイタングステン酸リチウム(Li4[SiW1240])などのヘテロポリ酸水和物であってもよい。
【0081】
ヘテロポリ酸化合物としては、例えば、ケイタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸アンモニウムなどのようなヘテロポリタングステン酸化合物が挙げられる。また、ヘテロポリ酸化合物としては、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウムなどのようなヘテロポリモリブデン酸化合物が挙げられる。
【0082】
また、複数種のポリ元素を含むヘテロポリ酸として、リンバナドモリブデン酸(H4PMo11VO40)、リンタングトモリブデン酸、リンタングトモリブンデン酸、ケイタングトモリブデン酸などが挙げられる。
【0083】
ヘテロポリ酸化合物は、例えばLi+、Na+、K+、Rb+およびCs+、ならびにR4+、R4+(なお、式中、RはHあるいは炭素数10以下の炭化水素基である)等の陽イオンを有することが好ましい。また、陽イオンとしては、Li+、テトラ−ノルマル−ブチルアンモニウムあるいはテトラ−ノルマル−ブチルホスホニウムであることがより好ましい。
【0084】
このようなヘテロポリ酸化合物としては、例えば、ケイタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸テトラ−テトラ−n−ブチルホスホニウム塩などのようなヘテロポリタングステン酸化合物が挙げられる。また、ヘテロポリ酸化合物としては、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸トリ−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのようなヘテロポリモリブデン酸化合物が挙げられる。さらに、複数のポリ酸を含む化合物として、リンタングトモリブデン酸トリ−テトラ−n−アンモニウム塩などのような材料が挙げられる。
【0085】
これらのヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸化合物は、2種類以上混合して用いてもよい。これらのヘテロポリ酸やヘテロポリ酸化合物は、溶媒に溶解しやすく、また電池中において安定しており、他の材料と反応する等の悪影響を及ぼしにくい。
【0086】
ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の代わりに、またはヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物と共に、電解液に溶解性を示すポリ酸および/またはポリ酸化合物を用いてもよい。このようなポリ酸および/またはポリ酸化合物としては、例えば、タングステン酸(VI)、モリブデン酸(VI)等が挙げられる。また、無水タングステン酸および無水モリブデン酸、ならびにその水和物が挙げられる。水和物の例としては、タングステン酸一水和物(WO3・H2O)であるオルトタングステン酸(H2WO4)、モリブデン酸二水和物(H4MoO5,H2MoO4・H2O、MoO3・2H2O)から、モリブデン酸一水和物(MoO3・H2O)であるオルトモリブデン酸(H2MoO4)を用いることができる。また、上記水和物のイソポリ酸であるメタタングステン酸、パラタングステン酸等より水素含量が少なく究極的に0である無水タングステン酸(WO3)、メタモリブデン酸、パラモリブデン酸等より水素含量が少なく究極的に零である無水モリブデン酸(MoO3)等を用いることもできる。
【0087】
(充電による、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の挙動)
ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液に添加した、非水電解質電池の充電によるヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の挙動について説明する。
【0088】
予めヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を添加した電解液を用いた非水電解質電池では、初回充電あるいは予備充電により、これらの化合物に由来する被膜が負極34に形成される。すなわち、初回充電あるいは予備充電により、電解液中のヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極34の表面に析出して被膜を形成する。
【0089】
負極34に析出する、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が電解により生成する、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物より、溶解性の乏しい1種以上のポリ原子を有するポリ酸および/またはポリ酸化合物や1種以上のポリ原子を有するポリ酸および/またはポリ酸化合物の還元物などを含む。
【0090】
具体的には、負極表面に析出するポリ酸および/またはポリ酸化合物は、非晶質であり、例えば非水電解液を吸収してゲル状の被膜として負極表面に存在する。ポリ酸および/またはポリ酸化合物を含む析出物は、予備充電時または充電時において、例えば3次元網目構造状に成長して析出する。また、析出したポリ酸および/またはポリ酸化合物は、その少なくとも一部が還元されていてもよい。
【0091】
ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する被膜の有無は、充電あるいは予備充電後の非水電解質電池を分解して負極34を取り出し、SEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)で確認することができる。なお、図3は、充電後の負極表面のSEM像であり、非水電解液を洗浄し、乾燥して撮影したものである。
【0092】
負極集電体34A上に析出した析出物の組成を確認し、ポリ酸および/またはポリ酸化合物が析出していれば、同様に負極活物質層34B上にもポリ酸および/またはポリ酸化合物が析出していることが容易に推測でき、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する被膜が形成されていることが確認できる。ポリ酸および/またはポリ酸化合物の有無は、例えば、SEM−EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)、X線光電子分光(XPS)分析、飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)により確認することができる。この場合、電池を解体後に、ジメチルカーボネートで洗浄を行う。これは表面に存在する、揮発性の低い溶媒成分などを除去するためである。サンプリングは可能な限り、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。
【0093】
例えば、図4に、ケイタングステン酸を電池系内に添加し、充電することにより、ケイタングステン酸に由来する負極被膜が形成された非水電解質電池の負極表面の飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF−SIMS)による二次イオンスペクトルの一例を示す。図4より、タングステン(W)と酸素(O)とを構成元素とする分子が存在することが分かる。
【0094】
また、図5に、ケイタングステン酸を電池系内に添加し、充電することにより、この発明の負極被膜が形成された非水電解質電池の負極表面のX線吸収微細構造(XAFS)解析によるスペクトルをフーリエ変換して得られるW−O結合の動径構造関数の一例を示す。また、図5では、負極被膜の解析結果と共に、タングステン酸(WO3、WO2)およびケイタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)のW−O結合の動径構造関数の一例を示す。
【0095】
図5より、負極表面の析出物のピークL1と、ケイタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)、二酸化タングステン(WO2)および三酸化タングステン(WO3)のそれぞれのピークL2、L3およびL4とは異なった位置にピークを有し、異なる構造であることが分かる。典型的なタングステン酸化物の三酸化タングステン(WO3)、二酸化タングステン(WO2)、ならびに、この発明の出発物質でケイタングステン酸(H4(SiW1240)・26H2O)においては、前記動径構造関数より、1.0〜2.0Åの範囲内において、主要ピークが存在し、また、2.0〜4.0Åの範囲においてもピークを確認することができる
【0096】
これに対して、この発明における正極、負極に析出したタングステン酸を主体とするポリ酸のW−O結合距離の分布は、1.0〜2.0Åの範囲内においてピークが確認されるものの、この範囲外では、ピークL1と同等の明確なピークが見られない。すなわち、3.0Åを超える範囲において、実質的にピークが観測されない。このような状況において、負極表面の析出物が非晶質であることが確認される。
【0097】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の添加量に応じて、初回充電あるいは予備充電により、電解液中のヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極33の表面に析出して被膜を形成する。
【0098】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶解した電解液は、負極活物質層34Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、負極活物質層34B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0099】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶解した電解液は、正極活物質層33Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、正極活物質層33B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0100】
(含有量)
ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の含有量としては、電解液の全質量に対して、0.1質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。0.1質量%未満であると、生じる被膜の量が少なくカルボン酸エステルの分解抑制効果が十分に得られないからである。10.0質量%を超えると、生じる被膜量が多すぎて抵抗となり、電池特性に悪影響を与えてしまうからである。
【0101】
この非水電解質電池では、電解液中に、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共に、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を含有する。これにより、充放電時において電極活物質および電解液の副反応が抑制されるため、高温サイクル特性の低下や高温サイクル時のガス発生を抑制することができる。例えば、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解自体も抑制できる。これは、使用初期の充放電時に、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が分解することにより生じる負極上34の被膜〔SEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質膜)〕が比較的安定な構造を取っているためと考えられるからである。
【0102】
さらに、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解自体を抑制することで、ガス発生を抑制することによって、電池厚みの増大を従来よりも大きく低減できる。総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの分解自体によるガス発生を懸念しなくてすむことから、多くの総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステル化合物を非水電解質に利用することが可能となり、その結果として、常温でのサイクル特性も向上させることが可能となる。
【0103】
また、本願発明者等は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を多く含む非水電解液では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の移動度が減少してしまい、これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が負極上に均一に行き渡らなくなり、良好で均質なSEIが生じなくなる知見を得ている。すなわち、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を多量に含む非水電解液では、良好で均質なSEIが生じなくなり、優れた効果を得ることができない傾向にあることを見出している。
【0104】
これに対して、この電解液では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物と共に、低粘度である、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含有することによって、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の移動度が減少することを抑制できる。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を多く含有した場合でも、優れた特性を得ることができる。
【0105】
(高分子化合物)
高分子化合物としては、電解液を吸収してゲル化するものを用いることができる。高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよく、2種以上の共重合体であってもよい。具体的には、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、またはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンまたはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0106】
(電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下の3種類の製造方法(第1〜第3の製造方法)によって製造される。
【0107】
(第1の製造方法)
(正極の製造)
まず、正極33を作製する。例えば、正極材料と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクターブレードまたはバーコータなどによって正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層33Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0108】
(負極の製造)
次に、負極34を作製する。例えば、負極材料と、結着剤と、必要に応じて導電剤とを混合して負極合剤としたのち、これを有機溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、ドクターブレードまたはバーコータなどによって負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して負極活物質層34Bを形成する。
【0109】
続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、電解液の調製の際に添加する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。
【0110】
続いて、電解質36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図1および図2に示す非水電解質電池が完成する。
【0111】
(第2の製造方法)
まず、第1の製造方法と同様にして正極33および負極34をそれぞれ作製する。次に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。
【0112】
続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、電解液の調製の際に添加する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、図1および図2に示す非水電解質電池が完成する。
【0113】
(第3の製造方法)
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。
【0114】
このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体または多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。
【0115】
なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種または2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、電解液の調製の際に添加する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成され、図1および図2に示す非水電解質電池が完成する。
【0116】
この非水電解質電池は、例えば、充電および放電が可能な非水電解質二次電池である。例えば、充電を行うと、正極33からリチウムイオンが放出され電解質36を介して負極34に吸蔵される。放電を行うと、負極34からリチウムイオンが放出され電解質36を介して、正極33に吸蔵される。あるいは、例えば、充電を行うと、電解質36中のリチウムイオンが電子を受け取り負極34に金属リチウムとして析出する。放電を行うと、負極34の金属リチウムが電子を放出し、リチウムイオンとなって、電解質36中に溶解する。あるいは、例えば充電を行うと、正極33からリチウムイオンが放出され電解質36を介して、負極34に吸蔵され、充電途中に金属リチウムが析出する。放電を行うと、負極34において、析出した金属リチウムが電子を放出し、リチウムイオンとなって、電解質中に溶解し、放電途中で負極34に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、これらのリチウムイオンが電解質36を介して、正極33に吸蔵される。
【0117】
(変形例)
上述の非水電解質電池の構成例では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を、予め電解液に添加する例について説明したが、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液以外の他の電池構成要素に添加するようにしてもよい。
【0118】
以下に説明する第1の変形例〜第3の変形例では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液以外の他の電池構成要素に添加した非水電解質電池の構成例について説明する。なお、以下では、上述した非水電解質電池の構成例(予め電解液にヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を添加した例)と異なる点を中心に説明し、上述した非水電解質電池の構成例と同様の点は説明を適宜省略する。
【0119】
(第1の変形例:ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を正極活物質層に添加する例)
第1の変形例は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液に添加しないで、正極活物質層に添加すること以外は、上述の非水電解質電池の構成例と同様である。
【0120】
(正極33の製造方法)
第1の変形例では、以下のように正極33を作製する。まず、正極材料と、結着剤と、導電剤とを混合する、また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物をN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤に溶解して溶液を調製する。次に、この溶液と、上記の正極材料、結着剤および導電剤の混合物とを混合して、正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。続いて、ドクターブレードまたはバーコータなどによって正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層33Bを形成する。
【0121】
(正極活物質層33B)
第1の変形例では、充放電前において、正極活物質層33Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上と、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物とを含んでいる。なお、正極活物質層33Bは、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0122】
(充電による、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の挙動)
電解液は正極活物質層33Bに含浸しており、これにより、正極活物質層33Bに含まれるヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、電解液に溶出する。そして、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する被膜が負極34に形成される。
【0123】
すなわち、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極34の表面に析出して被膜を形成する。
【0124】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の添加量に応じて、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極33の表面に析出して被膜を形成する。
【0125】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、負極活物質層34Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、負極活物質層34B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0126】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、正極活物質層33Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、正極活物質層33B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0127】
(第2の変形例:ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め負極活物質層に添加する例)
第2の変形例は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液に添加しないで、負極活物質層34Bに添加すること以外は、上述の非水電解質電池の構成例と同様である。
【0128】
(負極34の製造方法)
第2の変形例では、負極34を以下のように作製する。まず、負極材料と、結着剤と、必要に応じて導電剤とを混合する。また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を溶解して溶液を調製する。次に、この溶液と、上記の混合物とを混合して負極合剤としたのち、これをN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、ドクターブレードまたはバーコータなどによって負極集電体34Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して負極活物質層34Bを形成する。
【0129】
(負極活物質層34B)
第2の変形例では、充放電前において、負極活物質層34Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上と、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物とを含んでいる。なお、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0130】
(充電による、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の挙動)
電解液は負極活物質層34Bに含浸しており、これにより負極活物質層34Bに含まれるヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解液に溶出する。そして、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する被膜が負極34に形成される。
【0131】
すなわち、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極34の表面に析出して被膜を形成する。
【0132】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の添加量に応じて、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極33の表面に析出して被膜を形成する。
【0133】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、負極活物質層34Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、負極活物質層34B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0134】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、正極活物質層33Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、正極活物質層33B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0135】
(第3の変形例)
第3の変形例は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を予め電解液に添加しないで、セパレータ35に、予めヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を添加したこと以外は、上述の非水電解質電池の構成例と同様である。
【0136】
第3の変形例では、セパレータ35に、予めヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を添加している。例えば、セパレータ35に、予めヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を、以下のように添加している。
【0137】
セパレータ35を、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を炭酸ジメチル等の極性有機溶媒に溶解した溶液に浸して含浸させた後、真空雰囲気で乾燥させる。これにより、セパレータ35の表面や孔内にポリ酸および/またはポリ酸化合物が析出する。
【0138】
(充電による、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の挙動)
電解液はセパレータ35に含浸しており、これによりセパレータに添加したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解液に溶出する。そして、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する被膜が負極34に形成される。
【0139】
すなわち、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極34の表面に析出して被膜を形成する。
【0140】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の添加量に応じて、初回充電あるいは予備充電により、電解液に溶出したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は電解し、これによりヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極の表面に析出して被膜を形成する。
【0141】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、負極活物質層34Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、負極活物質層34B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が負極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0142】
また、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物が溶出した電解液は、正極活物質層33Bに含浸していることから、充電あるいは予備充電により、正極活物質層33B内で、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が析出していてもよい。これにより、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物に由来する化合物が正極活物質粒子間に存在していてもよい。
【0143】
2.第2の実施の形態
この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池について説明する。この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池は、電解液を高分子化合物に保持させたもの(電解質36)に代えて、電解液をそのまま用いた点以外は、第1の実施の形態による非水電解質電池と同様である。したがって、以下では、第1の実施の形態と異なる点を中心にその構成を詳細に説明する。
【0144】
(非水電解質電池の構成)
この発明の第2の実施の形態による非水電解質電池では、ゲル状の電解質36の代わりに、電解液を用いている。したがって、巻回電極体30は、電解質36が省略された構成を有し、電解液がセパレータ35に含浸されている。
【0145】
(非水電解質電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下のように製造する。
【0146】
まず、例えば正極活物質と結着剤と導電剤とを混合して正極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを両面に塗布し、乾燥させ圧縮成型して正極活物質層33Bを形成し正極33を作製する。次に、例えば正極集電体33Aに正極リード31を、例えば超音波溶接、スポット溶接などにより接合する。
【0147】
また、例えば負極材料と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体34Aの両面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層34Bを形成し、負極34を作製する。次に、例えば負極集電体34Aに負極リード32を例えば超音波溶接、スポット溶接などにより接合する。
【0148】
続いて、正極33と負極34とをセパレータ35を介して巻回して外装部材40の内部に挟み込んだのち、外装部材40の内部に電解液を注入し、外装部材40を密閉する。これにより、図1および図2に示す非水電解質電池が得られる。
【0149】
3.第3の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
次に、図6〜図7を参照しながら、この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池の構成について説明する。図6は、この発明の第3の実施の形態による非水電解質電池の一構成例を示す。この非水電解質電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、外装部材としての円筒缶であるほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。
【0150】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗(PTC:Positive Temperature Coefficient)素子16が、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0151】
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)などよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0152】
図7は、図6に示した巻回電極体20の一部を拡大して表す断面図ある。巻回電極体20のは、正極21と負極22とをセパレータ23を介して積層し、巻回したものである。
【0153】
正極21は、例えば、正極集電体21Aと、この正極集電体21Aの両面に設けられた正極活物質層21Bとを有している。負極22は、例えば、負極集電体22Aと、この負極集電体22Aの両面に設けられた負極活物質層22Bとを有している。正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、セパレータ23および電解液の構成はそれぞれ、上述の第1の実施の形態における正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、セパレータ35および電解液と同様である。
【0154】
(非水電解質電池の製造方法)
上述した非水電解質電池は、以下のようにして製造できる。
【0155】
正極21は、第1の実施の形態の正極33と同様にして作製する。負極22は、第1の実施の形態の負極34と同様にして作製する。
【0156】
次に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12、13で挟み、電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。その後、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16を、ガスケット17を介してかしめることにより固定する。以上により、図6に示した非水電解質電池が作製される。
【0157】
4.第4の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
図8は、この発明の第4の実施の形態による非水電解質電池の構成の一例を示す分解斜視図である。図8に示すように、この非水電解質電池は、正極リード73および負極リード74が取り付けられた電池素子71をフィルム状の外装部材72の内部に収容したものであり、小型化、軽量化および薄型化が可能となっている。
【0158】
正極リード73および負極リード74は、それぞれ外装部材72の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。
【0159】
図9は、電池素子71の外観の一例を示す斜視図である。図10は、電池素子71の構成の一例を示す断面図である。図9および図10に示すように、この電池素子71は、正極81と負極82とをセパレータ83を介して積層した積層電極体であり、電池素子71には、電解液が含浸されている。
【0160】
正極81は、例えば、一対の面を有する正極集電体81Aの両面に正極活物質層81Bが設けられた構造を有している。正極81は、図11に示すように、矩形状の電極部分と、その電極部分の一辺から延在された集電体露出部分81Cとを有する。この集電体露出部分81Cには正極活物質層81Bが設けられず、正極集電体81Aが露出した状態となっている。集電体露出部81Cは、正極リード73と電気的に接続される。なお、図示はしないが、正極集電体81Aの片面のみに正極活物質層81Bが存在する領域を設けるようにしてもよい。
【0161】
負極82は、例えば、一対の面を有する負極集電体82Aの両面に負極活物質層82Bが設けられた構造を有している。負極82は、図12に示すように、矩形状の電極部分と、その電極部分の一辺から延在された集電体露出部分82Cとを有する。この集電体露出部分82Cには負極活物質層82Bが設けられず、負極集電体82Aが露出した状態となっている。集電体露出部82Cは、負極リード74と電気的に接続される。なお、図示はしないが、負極集電体82Aの片面のみに負極活物質層82Bが存在する領域を設けるようにしてもよい。
【0162】
セパレータ83は、図13に示すように、矩形状などの形状を有する。
【0163】
正極集電体81A、正極活物質層81B、負極集電体82A、負極活物質層82B、セパレータ83および電解液を構成する材料は、それぞれ、上述の第1の実施の形態における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、セパレータ23および電解液と同様である。
【0164】
(非水電解質電池の製造方法)
上述のように構成された非水電解質電池は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0165】
(正極の作製)
正極81は以下のようにして作製する。まず、例えば、正極材料と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチルピロリドンなどの有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーを作製する。次に、これを正極集電体81Aの両面に塗布、乾燥後、プレスすることにより正極活物質層81Bを形成する。その後、これを図11に示す形状などに切断し、正極81を得る。
【0166】
(負極の作製)
負極82は以下のようにして作製する。まず、例えば、負極材料と、結着剤と、導電剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチルピロリドンなどの有機溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーを作製する。次に、これを負極集電体82Aの両面に塗布、乾燥後、プレスすることにより負極活物質層82Bを形成する。その後、これを図12に示す形状などに切断し、負極82を得る。
【0167】
(電池素子の作製)
電池素子71を以下のようにして作製する。まず、ポリプロピレン製微多孔フィルムなどを図13に示す形状に切断し、セパレータ83を作製する。次に、上述のようにして得られた複数枚の負極82、正極81およびセパレータ83を、例えば、図10に示すように、負極82、セパレータ83、正極81、・・・、正極81、セパレータ83、負極82の順で積層して電池素子71を作製する。
【0168】
次に、正極81の集電体露出部82Cを正極リード73に溶接する。同様にして、負極82の集電体露出部82Cを負極リード74に溶接する。次に、電解液を電池素子71に含浸させた後、外装部材72の間に電池素子71を挟み込み、外装部材72の外縁部同士を熱溶着などにより密着させて封入する。その際、正極リード73、負極リード74が熱融着部を介して外装部材72の外部に出るようにし、これらを正負極端子とする。以上により、目的とする非水電解質電池が得られる。
【0169】
5.第5の実施の形態
次に、この発明の第5の実施の形態について説明する。この第5の実施の形態による非水電解質電池は、第5の実施の形態の非水電解質電池において、電解液の代わりに、ゲル状の電解質層を用いるものである。なお、上述の第4の実施の形態と同様の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0170】
(非水電解質電池の構造)
図14は、第5の実施の形態による非水電解質二次電池に用いられる電池素子の構成の一例を示す断面図である。電池素子85は、正極81と負極82とをセパレータ83および電解質層84を介して積層したものである。
【0171】
電解質層84は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質層84は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。高分子化合物の構成は、第1の実施の形態による非水電解質電池と同様である。
【0172】
(非水電解質電池の製造方法)
上述のように構成された非水電解質電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0173】
まず、正極81および負極82のそれぞれに、電解液と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層84を形成する。その後の工程は、電解質層84が形成された正極81および負極82を用いる以外のことは上述の第4の実施の形態と同様にして、非水電解質電池を得ることができる。
【実施例】
【0174】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0175】
以下に、実施例および比較例で使用したヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を示す。
リンモリブデン酸30水和物:H3[PMo1240]・30H2O・・・式(2)
ケイモリブデン酸30水和物:H4[SiMo1240]・30H2O・・・式(3)
リンタングステン酸30水和物:H3[PW1240]・30H2O・・・式(4)
ケイタングステン酸30水和物:H4[SiW1240]・30H2O・・・式(5)
リンモリブデン酸7水和物:H3[PMo1240]・7H2O・・・式(6)
ケイモリブデン酸7水和物:H4[SiMo1240]・7H2O・・・式(7)
リンタングステン酸7水和物:H3[PW1240]・7H2O・・・式(8)
ケイタングステン酸7水和物:H4[SiW1240]・7H2O・・・式(9)
ケイタングステン酸リチウム:Li4[SiW1240]・・・式(10)
【0176】
<実施例1−1>
先ず、正極活物質としてリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO2)を94質量部と、導電材としてグラファイトを3質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量部とを均質に混合してN−メチルピロリドンを添加し正極合剤塗液を得た。次に、得られた正極合剤塗液を、厚み10μmのアルミニウム箔上の両面に均一に塗布、乾燥して片面当たり30μmの正極合剤層(合剤の体積密度:3.40g/cc)を形成した。これを幅50mm、長さ300mmの形状に切断して正極を作製した。
【0177】
次に、負極活物質としてMCMB系黒鉛97質量部添加し、結着剤としてPVdFを3質量部とを均質に混合してN−メチルピロリドンを添加し負極合剤塗液を得た。次に、得られた負極合剤塗液を、負極集電体となる厚み10μmの銅箔上の両面に均一に塗布、乾燥後200MPaで粉砕・片面当たり30μmの負極合剤層を形成した。これを幅50mm、長さ300mmの形状に切断して負極(合剤の体積密度:1.80g/cc)を作製した。
【0178】
電解液としては、溶媒としてエチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、酪酸エチル(EB)とを混合した混合溶媒と、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)と、式(I)に示したヘテロポリ酸化合物として、式(2)のリンモリブデン酸30水和物(式(2))とを含むものを用いた。その際、混合溶媒の組成を質量比でEC:DEC:EB=40:40:20とし、電解液中におけるLiPF6の濃度を1mol/kgとし、リンモリブデン酸30水和物(式(2))の含有量を0.1質量%とした。この「質量%」とは、電解液を100質量%とする場合の値であり、「質量%」が意味するところは以降においても同様である。また、リンモリブデン酸30水和物の質量は、結合水の質量を除いたものである。
【0179】
セパレータは、厚さを7μmの微多孔性ポリエチレンフィルムの両面にポリフッ化ビニリデンを2μmずつ塗布したものを使用した。この正極と負極を、セパレータを介して積層して巻き取り、アルミニウムラミネートフィルムからなる袋に入れた。この袋に電解液を2g注液後、袋を熱融着してラミネート型電池を作製した。
【0180】
<実施例1−2>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の含有量を0.5質量%とした以外は、実施例1−1と同様にして実施例1−2のラミネート型電池を作製した。
【0181】
<実施例1−3>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の含有量を4.0質量%とした以外は、実施例1−1と同様にして実施例1−3のラミネート型電池を作製した。
【0182】
<実施例1−4>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の含有量を7.0質量%とした以外は、実施例1−1と同様にして実施例1−4のラミネート型電池を作製した。
【0183】
<実施例1−5>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の含有量を10.0質量%とした以外は、実施例1−1と同様にして実施例1−5のラミネート型電池を作製した。
【0184】
<実施例1−6〜実施例1−10>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにケイモリブデン酸30水和物(式(3))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−6〜実施例1−10のラミネート型電池を作製した。
【0185】
<実施例1−11〜実施例1−15>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにリンタングステン酸30水和物(式(4))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−11〜実施例1−15のラミネート型電池を作製した。
【0186】
<実施例1−16〜実施例1−20>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにケイタングステン酸30水和物(式(5))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−16〜実施例1−20のラミネート型電池を作製した。
【0187】
<実施例1−21〜実施例1−25>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにリンモリブデン酸7水和物(式(6))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−21〜実施例1−25のラミネート型電池を作製した。
【0188】
<実施例1−26〜実施例1−30>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにケイモリブデン酸7水和物(式(7))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−26〜実施例1−30のラミネート型電池を作製した。
【0189】
<実施例1−31〜実施例1−35>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにリンタングステン酸7水和物(式(8))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−25〜実施例1−35のラミネート型電池を作製した。
【0190】
<実施例1−36〜実施例1−40>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにケイタングステン酸7水和物(式(9))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−36〜実施例1−40のラミネート型電池を作製した。
【0191】
<実施例1−41〜実施例1−45>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))の代わりにケイタングステン酸リチウム(式(10))を用いた以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−41〜実施例1−45のラミネート型電池を作製した。
【0192】
<実施例1−46〜実施例1−50>
実施例1−1の電池において、正極活物質のリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO2)に代えて、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2)を使用した以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして実施例1−46〜実施例1−50のラミネート型電池を作製した。
【0193】
<比較例1−1>
リンモリブデン酸30水和物(式(2))を使用しなかった以外は、実施例1−1と同様にして比較例1−1のラミネート型電池を作製した。
【0194】
<比較例1−2>
比較例1−1の電池において、正極活物質のリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO2)に代えて、リチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2)を使用した以外は、比較例1−1と同様にして比較例1−2のラミネート型電池を作製した。
【0195】
<比較例1−3〜比較例1−7>
実施例1−1の電解液において、リンモリブデン酸30水和物(式(2))に代えて、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を使用した以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして比較例1−3〜比較例1−7のラミネート型電池を作製した。
【0196】
<比較例1−8〜比較例1−12>
実施例1−1の電解液において、リンモリブデン酸30水和物(式(2))に代えて、ビニレンカーボネート(VC)を使用した以外は、実施例1−1〜実施例1−5と同様にして比較例1−8〜比較例1−12のラミネート型電池を作製した。
【0197】
(評価)
実施例1−1〜実施例1−50および比較例1−1〜比較例1−12のラミネート型電池について、以下に説明する高温サイクル試験を行った。
【0198】
(高温サイクル試験)
まず、23℃で1サイクル目の充放電を行い、45℃の雰囲気中において2サイクル目の充放電をさせることにより、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させることにより、100サイクル目の放電容量を測定した。最後に、高温サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)を算出した。
【0199】
また、2サイクル目および100サイクル目における電池の厚みを測定し、高温サイクル電池膨張率(%)={(100サイクル目の電池厚み/2サイクル目の電池厚み)−1}×100(%)を算出した。
【0200】
なお、1サイクルの充放電条件としては、840mAhの定電流で電池電圧が所定電圧(4.2V)に達するまで充電し、さらに所定電圧での定電圧で電流が42mAに達するまで充電したのち、840mAの定電流で電池電圧が3Vに達するまで放電した。
【0201】
高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率の測定結果を表1に示す。
【0202】
【表1】

【0203】
表1に示すように、実施例1−1〜実施例1−45および比較例1−1によれば、正極にニッケル酸リチウム(LiNiO2)を用いた場合に、電解液に総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共にヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を含むことにより、高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率を改善できることがわかった。
【0204】
また、実施例1−46〜実施例1−50および比較例1−2によれば、正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いた場合に、電解液に総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共にヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を含むことにより、高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率を改善できることがわかった。また、実施例1−1〜実施例1−50および比較例1−1、比較例1−2によれば、正極にニッケル酸リチウム(LiNiO2)を用いた場合の方が、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いた場合より改善率が高かった。
【0205】
比較例1−3〜比較例1−7では、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共に、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の代わりとしてFECを用いているため、比較例1−3〜比較例1−7では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を用いた場合程、高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率を改善できなかった。
【0206】
比較例1−8〜比較例1−12では、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルと共に、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物の代わりとしてVCを用いているため、比較例1−8〜比較例1−12では、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を用いている場合程、高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率を改善できなかった。
【0207】
<実施例2−1>
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)および酪酸エチル(EB)をEC:DEC:EB=40:59.9:0.1の割合で混合してLiPF6の濃度を1mol/kgとし、さらにケイタングステン酸7水和物(式(5))を0.1質量%添加することにより電解液を調製した。以上の点以外は、実施例1−1と同様にして、実施例2−1のラミネート型電池を作製した。
【0208】
<実施例2−2>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を0.5質量%とした以外は、実施例2−1と同様にして実施例2−2のラミネート型電池を作製した。
【0209】
<実施例2−3>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を4.0質量%とした以外は、実施例2−1と同様にして実施例2−3のラミネート型電池を作製した。
【0210】
<実施例2−4>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を7.0質量%とした以外は、実施例2−1と同様にして実施例2−4のラミネート型電池を作製した。
【0211】
<実施例2−5>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を10.0質量%とした以外は、実施例2−1と同様にして実施例2−5のラミネート型電池を作製した。
【0212】
<実施例2−6〜実施例2−10>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:55:5の割合で混合した以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、実施例2−6〜実施例2−10のラミネート型電池を作製した。
【0213】
<実施例2−11〜実施例2−15>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:50:10の割合で混合した以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、実施例2−11〜実施例2−15のラミネート型電池を作製した。
【0214】
<実施例2−16〜実施例2−20>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:20:40の割合で混合した以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、実施例2−16〜実施例2−20のラミネート型電池を作製した。
【0215】
<実施例2−21〜実施例2−25>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:59.99:0.01の割合で混合した以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、実施例2−21〜実施例2−25のラミネート型電池を作製した。
【0216】
<実施例2−26〜実施例2−30>
電解液の調製の際に、EC:EB=40:60の割合で混合した以外は、実施例2−1〜実施例2−5と同様にして、実施例2−26〜実施例2−30のラミネート型電池を作製した。
【0217】
<比較例2−1>
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)および酪酸エチル(EB)をEC:DEC:EB=40:59.9:0.1の割合で混合してLiPF6の濃度を1mol/kgとした。なお、ケイタングステン酸7水和物(式(5))は添加しなかった。以上の点以外は、実施例2−1と同様にして、比較例2−1のラミネート型電池を作製した。
【0218】
<比較例2−2>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:55:5の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−2のラミネート型電池を作製した。
【0219】
<比較例2−3>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:50:10の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−3のラミネート型電池を作製した。
【0220】
<比較例2−4>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:20:40の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−4のラミネート型電池を作製した。
【0221】
<比較例2−5>
電解液の調製の際に、EC:DEC:EB=40:59.99:0.01の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−5のラミネート型電池を作製した。
【0222】
<比較例2−6>
電解液の調製の際に、EC:EB=40:60の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−6のラミネート型電池を作製した。
【0223】
<比較例2−7>
電解液の調製の際に、1,2−ジメトキシエタン(DME)をEBの代わりに用い、EC:DEC:DME=40:40:20の割合で混合した以外は、実施例2−1と同様にして、比較例2−7のラミネート型電池を作製した。
【0224】
<比較例2−8>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を0.5質量%とした以外は、比較例2−7と同様にして、比較例2−8のラミネート型電池を作製した。
【0225】
<比較例2−9>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を4.0質量%とした以外は、比較例2−7と同様にして、比較例2−9のラミネート型電池を作製した。
【0226】
<比較例2−10>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を7.0質量%とした以外は、比較例2−7と同様にして、比較例2−10のラミネート型電池を作製した。
【0227】
<比較例2−11>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を10.0質量%とした以外は、比較例2−7と同様にして、比較例2−11のラミネート型電池を作製した。
【0228】
<比較例2−12>
電解液の調製の際に、EC:DEC=40:60の割合で混合した以外は、比較例2−1と同様にして、比較例2−12のラミネート型電池を作製した。
【0229】
<比較例2−13>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を0.1質量%とした以外は、比較例2−12と同様にして、比較例2−13のラミネート型電池を作製した。
【0230】
<比較例2−14>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を0.5質量%とした以外は、比較例2−12と同様にして、比較例2−14のラミネート型電池を作製した。
【0231】
<比較例2−15>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を4.0質量%とした以外は、比較例2−12と同様にして、比較例2−15のラミネート型電池を作製した。
【0232】
<比較例2−16>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を7.0質量%とした以外は、比較例2−12と同様にして、比較例2−16のラミネート型電池を作製した。
【0233】
<比較例2−17>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を10.0質量%とした以外は、比較例2−12と同様にして、比較例2−17のラミネート型電池を作製した。
【0234】
(評価)
実施例2−1〜実施例2−30および比較例2−1〜比較例2−17のラミネート型電池について、実施例1−1と同様にして、高温サイクル試験を行った。高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率の測定結果を表2に示す。なお、実施例1−21〜実施例1−25および比較例1−1も評価対象とするため、実施例1−21〜実施例1−25および比較例1−1の測定結果も併せて表2に示す。
【0235】
【表2】

【0236】
表2より、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの量を増加させるにつれて、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を多く添加した場合でも、優れた効果を発現していることがわかる。これは、粘度の低い総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルがヘテロポリ酸化合物の移動を促進するため、比較的多いヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物を用いても、均一なSEIが負極面上に形成されるためであると考えられる。
【0237】
実施例2−1〜実施例2−30によれば、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルは全溶媒量の0.1質量%以上40%質量以下含まれることが好ましく、5質量%以上40質量%含まれることがより好ましいことがわかった。実施例1−21〜実施例1−25と、比較例2−7〜比較例2−11との比較によれば、他の低粘度溶媒と比べても総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを用いた場合が好ましいことがわかった。
【0238】
<実施例3−1>
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)および酢酸エチル(EA)をEC:DEC:EA=40:40:20の割合で混合してLiPF6の濃度を1mol/kgとし、さらにケイタングステン酸7水和物(式(5))を4.0質量%添加することにより電解液を調製した。以上の点以外は、実施例1−1と同様にして、実施例3−1のラミネート型電池を作製した。
【0239】
<実施例3−2>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を7.0質量%とした点以外は、実施例3−1と同様にして、実施例3−2のラミネート型電池を作製した。
【0240】
<実施例3−3〜実施例3−4>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、プロピオン酸エチル(EP)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−3〜実施例3−4のラミネート型電池を作製した。
【0241】
<実施例3−5〜実施例3−6>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、酢酸ブチル(BA)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−5〜実施例3−6のラミネート型電池を作製した。
【0242】
<実施例3−7〜実施例3−8>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、イソ酪酸エチル(EIB)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−7〜実施例3−8のラミネート型電池を作製した。
【0243】
<実施例3−9〜実施例3−10>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、吉草酸エチル(EV)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−9〜実施例3−10のラミネート型電池を作製した。
【0244】
<実施例3−11〜実施例3−12>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、2−メチル酪酸エチル(MEB)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−11〜実施例3−12のラミネート型電池を作製した。
【0245】
<実施例3−13〜実施例3−14>
実施例3−1および実施例3−2の電解液において、酢酸エチルに代えて、イソ吉草酸プロピル(PIV)を使用した以外は、実施例3−1〜実施例3−2と同様にして、実施例3−13〜実施例3−14のラミネート型電池を作製した。
【0246】
<比較例3−1>
電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)および酢酸メチル(MA)をEC:DEC:MA=40:40:20の割合で混合してLiPF6の濃度を1mol/kgとした。なお、ケイタングステン酸7水和物(式(5))は添加しなかった。以上の点以外は、実施例3−1と同様にして、比較例3−1のラミネート型電池を作製した。
【0247】
<比較例3−2>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を4.0質量%とした点以外は、比較例3−1と同様にして、比較例3−1のラミネート型電池を作製した。
【0248】
<比較例3−3>
電解液の調製の際に、ケイタングステン酸7水和物(式(5))の添加量を7.0質量%とした点以外は、比較例3−1と同様にして、比較例3−3のラミネート型電池を作製した。
【0249】
<比較例3−4>
実施例3−1の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−1と同様にして、比較例3−4のラミネート型電池を作製した。
【0250】
<比較例3−5>
実施例3−3の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−3と同様にして、比較例3−5のラミネート型電池を作製した。
【0251】
<比較例3−6>
実施例3−5の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−5と同様にして、比較例3−6のラミネート型電池を作製した。
【0252】
<比較例3−7>
実施例3−7の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−7と同様にして、比較例3−7のラミネート型電池を作製した。
【0253】
<比較例3−8>
実施例3−9の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−9と同様にして、比較例3−8のラミネート型電池を作製した。
【0254】
<比較例3−9>
実施例3−11の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−11と同様にして、比較例3−9のラミネート型電池を作製した。
【0255】
<比較例3−10>
実施例3−13の電解液において、ケイタングステン酸7水和物(式(5))を添加せずに電解液を調製した。以上の点以外は、実施例3−13と同様にして、比較例3−10のラミネート型電池を作製した。
【0256】
(評価)
実施例3−1〜実施例3−14および比較例3−1〜比較例3−10のラミネート型電池について、実施例1−1と同様にして、高温サイクル試験を行った。高温サイクル維持率および高温サイクル電池膨張率の測定結果を表3に示す。なお、実施例1−23、実施例1−24および比較例1−1も評価対象とするため、実施例1−23、実施例1−24および比較例1−1の測定結果も併せて表3に示す。
【0257】
【表3】

【0258】
表3に示すように、実施例3−1〜実施例3−14および実施例1−23〜実施例1−23によれば、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物による高温サイクル特性の改善効果は、鎖状カルボン酸エステル化合物の種類によらないことがわかった。また、実施例3−1〜実施例3−14、実施例1−23〜実施例1−23および比較例3−1〜比較例3−3によれば、含有される鎖状カルボン酸エステルの総炭素数は、4以上が好ましく、4以上7以下がより好ましいことがわかった。
【0259】
6.他の実施の形態
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、上述の実施の形態および実施例では、ラミネートフィルム型、円筒型の電池構造を有する電池、電極を巻回した巻回構造を有する電池、電極を積み重ねた構造を有するスタック型の電池について説明したが、これらに限定されるものではない。例えば、角型、コイン型、またはボタン型などの他の電池構造を有する電池についても同様に、この発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0260】
11・・・電池缶、12,13・・・絶縁板、14・・・電池蓋、15A・・・ディスク板、15・・・安全弁機構、16・・・熱感抵抗素子、17・・・ガスケット、20・・・巻回電極体、21・・・正極、21A・・・正極集電体、21B・・・正極活物質層、22・・・負極、22A・・・負極集電体、22B・・・負極活物質層、23・・・セパレータ、24・・・センターピン、25・・・正極リード、26・・・負極リード、27・・・ガスケット、30・・・巻回電極体、31・・・正極リード、32・・・負極リード、33・・・正極、33A・・・正極集電体、33B・・・正極活物質層、34・・・負極、34A・・・負極集電体、34B・・・負極活物質層、35・・・セパレータ、36・・・電解質、37・・・保護テープ、40・・・外装部材、41・・・密着フィルム、71・・・電池素子、72・・・外装部材、73・・・正極リード、74・・・負極リード、81・・・正極、82・・・負極、83・・・セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
非水電解質と
を備え、
上記非水電解質は、
溶媒と、
電解質塩と、
ポリ酸および/またはポリ酸化合物と
を含み、
上記溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質電池。
【請求項2】
上記ポリ酸および/またはポリ酸化合物は、ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物である請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項3】
上記ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物は、式(I)で表される化合物である請求項2記載の非水電解質電池。
式(I)
x[BD1240]・yH2
(AはH、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Al、NH4、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩を表し、BはP、Si、As、Geを表す。DはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Tc、Rh、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Tlから選ばれる1種以上の元素である。xおよびyはそれぞれ0≦x≦7、0≦y≦50の範囲内の値である。)
【請求項4】
上記ポリ酸および/またはポリ酸化合物は、2種以上のポリ元素を有するヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸化合物である請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項5】
上記総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルは、式(1)で表される鎖状カルボン酸エステルである請求項1記載の非水電解質電池。
【化1】

(R1およびR2は、それぞれ独立して、炭化水素基である。炭化水素基は、分岐していてもよい。R1およびR2の炭素数の合計は3以上6以下である。)
【請求項6】
上記ポリ酸および/またポリ酸化合物の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下である請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項7】
上記総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルの含有量は、0.1質量%以上40質量%以下である請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項8】
上記非水電解質は、ゲル状の電解質である請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項9】
正極と、
負極と、
溶媒および電解質塩を含む非水電解質と
を備え、
上記溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含み、
上記負極に1種以上のポリ元素を有する非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物を含むゲル状の被膜が形成された非水電解質電池。
【請求項10】
上記ゲル状の被膜は、3次元網目構造を有する上記非晶質のポリ酸および/またはポリ酸化合物と、上記非水電解質とを含む請求項9記載の非水電解質電池。
【請求項11】
正極と、
負極と、
溶媒および電解質塩を含む非水電解質と
を備え、
上記溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含み、
電池内部にポリ酸および/またはポリ酸化合物を含む非水電解質電池。
【請求項12】
セパレータを備え、
上記正極、上記負極、上記非水電解質および上記セパレータの少なくとも1つが上記ポリ酸および/またはポリ酸化合物を含む請求項11記載の非水電解質電池。
【請求項13】
溶媒と、
電解質塩と、
ポリ酸および/またはポリ酸化合物と
を含み、
上記溶媒は、総炭素数4以上の鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−18796(P2012−18796A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154709(P2010−154709)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】