説明

非球面光学部品及びその製造装置並びにそれに用いるマスクの設計方法

【課題】 従来非球面レンズ或いは反射鏡は、型によるプレス加工又は研磨加工で製造していた。しかしながら加工精度を上げるには問題が多くあった。そこでスパッタ蒸着を用いて、時間がかかるが人手の必要としない高精度の加工により非球面光学部品を提供することを目的とする。
【解決手段】 従来のスパッタ蒸着流により堆積膜を形成させる方法は均一な膜厚の多層膜を形成して、それを研磨して製造する方法であったが、本発明はターゲットと堆積基板との間に回転するマスクを外周から駆動して、中心対称の補正収差が行える光学系の堆積膜厚変化に対応するマスキング羽根の形状を設計し、そのマスクを用いて所望の非球面膜をスパッタ蒸着で形成する製造装置により各種非球面光学部品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集光用球面レンズにおける光束の収差の補正、凹状球面反射鏡における光束の収差の補正、又は完全な平行光線の出力などができる非球面光学部品に関し、またそれらの製造装置としてスパッタ蒸着により前記集光用球面レンズ光路に配置する平面或いは凹状球面反射鏡表面上にターゲットから蒸着材を堆積させた非球面レンズ系を形成させる非球面光学部品の製造装置に関する。また、非球面堆積膜を形成させるための基板とターゲットの間に回転するマスク形状の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の球面レンズ系、非球面レンズ系などに関する加工方法は切削+研磨加工、或いはプレス加工、又はプレス加工+研磨加工で製造していた。また、特許文献1は研磨行程をなくし、一度で成形する成形型を用いた非球面レンズ系の製造方法が公開されている。
【0003】
このような型にはめて成形するプレス加工においては、nm(10−9m)の微細な変化での加工は難しく、製品精度を1μm以下にするためには多くの労力を要した。また、1μm以下の精度の加工では温度の変化によっても形状寸法も変化するなど再現性を保つための大きな設備を必要とした。
【0004】
特に、性能の高い非球面光学部品はその形状寸法精度を高くする必要があるが、プレス加工ではその型を作る際に切削跡が残らぬよう相当量の研磨を行なわねばならない。高い形状精度で非球面性能を落とすことなく研磨を行なうには高い技術が必要とされ、成形型は高価なものであった。
【0005】
一方、スパッタにより基板上の所定の領域範囲内に均一な薄膜状にターゲットからのスパッタ粒子を堆積させて円板状基板に記録媒体を形成させる技術がある。特許文献2には中心穴部分のインナーマスクと外周部分のアウターマスクに囲まれたドーナツ状の所定の領域範囲の全面を均一性のある薄膜で記録媒体層を製造することが公開されている。
【0006】
特許文献3には、球面形状に加工された基板上に種類以上の物質を交互に積層する工程と、積層された多層膜表面の一部を除去して非球面形状を創生する行程と、除去された多層膜表面の模様から非球面形状を測定する行程からなる非球面ミラー製造方法が提案されている。
【0007】
この発明は、イオンビームスパッタ装置により2種類のターゲットを用いて交互に基板上に均一な厚さの多層膜を形成し、その後、スモールツール研磨装置を用いて多層膜表面を研磨し、研磨により現れる縞模様の形から所望の非球面形状を作製する方法である。
【0008】
スパッタによる薄膜の厚さ制御は高精度であり、1μm以下から1nm精度まで適用できる。しかしながら、スパッタの蒸着により基板上に所定の非球面となる膜厚変化形状の膜を直接形成し非球面レンズ系などに製作することは考えられていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−208833号公報(第2頁、第1図)
【特許文献2】特開2003−193131号公報(第2頁、第1図)
【特許文献3】特開平7−84098号公報(第2頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、集光用球面レンズ光路上に配置し、その球面レンズの収差を補正する非球面レンズ系として以下のような非球面光学部品とその製造装置を提供することを目的とする。
【0011】
すなわち、真空気密チャンバー内において高電界により気体を電離し生じた正イオンがターゲットに衝突して原子が飛出し、それを平面基板上に堆積させるスパッタ蒸着空間を使用して、その基板上に回転マスクを備えてスパッタ蒸着流を制御し所定膜厚変化形状の非球面膜を形成させた非球面光学部品とその製造装置を提供することである。
【0012】
また、集光用或いは平行光線出力用の凹球面反射鏡の集光の収差などを補正するため、その凹球面表面上に所定膜厚変化形状の非球面膜をスパッタ蒸着流の回転マスクによる制御により形成させ、放物面鏡として収差を少なくした非球面光学部品とその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の非球面光学部品は、集光用球面レンズ光路上に配置し、その球面レンズの収差を補正する非球面レンズであって、
前記非球面レンズは平行平面形状の基板と、気密チャンバー内の高電界により気体を電離し生じた正イオンによりターゲットから原子を飛出させたスパッタ蒸着流を用いて、遮断部分と開口部分を有してそれらの外周を駆動して一定の角速度で回転させたマスクによりその流れを制御し、前記基板上に円形状でその中心対称に堆積させた堆積膜とから構成され、
前記ターゲットの材質を透明な材質にすることにより、堆積膜が基板に一体化したレンズ系を形成させ、
前記堆積膜の各円周上の膜厚はその円周毎の開口部分の長さによって定まり、従って、径方向の求めたい膜厚変化形状を決めれば円周毎の開口部分の長さが定まり、前記マスキング形状が設定され、
前記膜厚変化形状を少なくとも高次多項式で表す非球面レンズ系とすることを特徴とする。
【0014】
また、集光用又は平行光線出力用凹状球面反射鏡表面上に、その球面反射鏡の収差を補正する非球面膜を形成させ、さらに表面上に反射用金属薄膜を蒸着して収差が補正された非球面の放物面反射鏡であって、
前記放物面反射鏡は、凹面球状反射鏡と、気密チャンバー内の高電界により気体を電離し生じた正イオンによりターゲットから原子を飛出させたスパッタ蒸着流を用いて、
遮断部分と開口部分を有してそれらの外周を駆動して一定の角速度で回転させたマスクによりその流れを制御し、前記凹状球面反射鏡表面上に堆積させた堆積膜とから構成され、
前記堆積膜の材質が透明である場合は堆積膜上に前記反射用金属薄膜を備え、
前記堆積膜の各円周上の膜厚はその円周毎の開口部分の長さによって定まり、従って、径方向の求めたい膜厚変化形状を決めれば円周毎の開口部分の長さが定まり、前記マスクのマスキング形状が設定され、
前記膜厚変化形状を少なくとも高次多項式で表す非球面レンズ系とすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の非球面光学部品の製造装置は、非球面光学部品(非球面レンズ)及び非球面光学部品(放物面反射鏡)の製造装置であって、
その製造装置は、気密チャンバー内でターゲットからのスパッタ蒸着流を堆積させて前記非球面レンズを形成させる平行平面基板或いは凹状球面鏡をM枚(1以上)セットできる保持機構と、前記平行平面基板或いは凹状球面鏡と前記ターゲットの間に配置して各平行平面基板或いは凹状球面鏡毎に一定の角速度で回転させ、収差を補正する非球面光学系を形成する径方向の膜厚変化形状がその回転中心からの距離毎の各円周上の遮断部分と開口部分の比を定め、その比の値からスパッタ蒸着流を制御するマスキング羽根が設計されたマスクと、前記平行平面基板或いは凹状球面鏡の中心部分の堆積膜を含めて前記膜厚変化形状とする非球面膜にするため、前記マスクには中心軸を用いずマスク外周に設けたマスク自転用歯車で駆動させるマスク外周駆動機構と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0016】
また、非球面部品の製造装置に用いるマスクのマスキング羽根の設計方法であって、
非球面部品の収差を補正する非球面光学系を形成する径方向の膜厚変化形状に堆積させたいマスクの一定の角速度で回転するマスキング羽根の形状を定めるに際して、
その角速度で一回相対回転させたい時間に、回転中心からrだけ離れた位置に堆積させたい膜厚をd(r)とすれば、同時間でマスクが無い(遮断部分が無い)円周上における堆積をDとし、各円周上における膜厚d(r)に対する開口部分区間の弧の長さLの見る開口角をθで表すは、マスキング羽根の形状を開口領域を座標X、Yとの間に成立する関係式
X=r cosθ (1)、Y=r sinθ (2)
θ=2πd(r)/D (3)
式(1)〜(3)を用いて予め定めてある膜厚d(r)から開口角θと座標X、Yが計算され、総てのrの変化に対して計算すれば座標X、Yの軌跡からマスクの開口領域の形状が定まり堆積させたい膜厚に対応したマスキング羽根が定まることを特徴とする。
【0017】
また、半径rの円周上における開口部の弧の長さLはr・θから算出し、更にその弧の長さLをn(整数)分割して、複数に分離した開口部を配置し、マスクの回転時の安定度を向上させる複数枚マスキング羽根のマスク形状とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非球面光学部品並びにその製造装置及びそれに用いるマスク設計方法は以下の効果を奏する。
【0019】
基板面或いは球面形状表面に堆積させて形成する膜厚層はnmの微細な変化の加工が行なえる。従来のプレス加工、研磨加工などのμm程度の精度に較べ格段と精度が高い加工が行なえる。
【0020】
よって、高い精度を必要とする非球面形状、特に堆積膜が中心位置まで所定の膜厚変化形状に形成し製造するので適した装置となる。
【0021】
温度の変化によって形状も変化するなどの再現性を保つための大きな設備も必要としない。
【0022】
従来のプレス加工、研磨加工では精度の良い製品を作るため、型に対する前処理など前述した多くの工程が必要であったが、本装置によるスパッタ空間を用いれば前述の工程を踏む必要がない。そのような人の手による作業は不用となる。
【0023】
集光用球面レンズの光束の収差補正においては、従来の補正レンズ系は集光能力を決める曲率と収差を取り除く非球面形状を一体にして設計されており、使い方が限定されていた。
すなわち、一体となっているので非球面レンズを分離して任意に組み合わせて使うことができなかった。
【0024】
本発明の集光用球面レンズの光束の収差補正は、その球面レンズの光路上に配置した平行平面基板上に堆積した非球面レンズで補正する。
【0025】
すなわち、集光レンズ部分と補正レンズ部分と分離しているので、集光系は製造の楽な球面レンズとして、収差のみを基板に非球面膜を堆積した部品を加えて取り除く構成である。
【0026】
よって、球面レンズを多様に利用することができる。つまり収差が発生している球面光学系に集光力の値を変えずに収差のみを取り除くことができるので、この構成は非常に有効となる。
【0027】
例えば、レーザ光を集光させるのに収差の大きい球面レンズ一枚と、基板上に形成した非球面光学部品とを組み合わせれば、回析限界まで集光可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の非球面光学部品並びにその製造装置及びそれに用いるマスクの設計方法の実施の形態を、以下図を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1(a)は非球面光学部品の一例を示す。この例は集光用球面レンズの収差補正用に使える非球面レンズである。
【0030】
図1(b)は、その非球面光学部品を使用して集光用の球面レンズ7の焦点7aの収差を補正した状態を示す。
【0031】
ここで、1は非球面光学部品の平行平面基板(平面基板)を示し、2はその基板上にスパッタ蒸着流をマスクを介して堆積した収差補正用の堆積物(非球面レンズ)を示す。尚、平面基板1の材質とターゲット3の材質を同じ素材(例えば、石英)とすることが望ましいが、石英基板上に耐熱ガラスや多成分ガラスをスパッタしても、密着強度は高く、一体化したレンズ系となる。
【0032】
図2は図1の堆積物(非球面レンズ)2の実際の形状例を示す。すなわち非球面レンズの中心位置2aからの距離rとその膜厚d(r)の関係を示してある。
【0033】
図2における横軸0の位置は、図1の堆積物(非球面レンズ)2の中心位置2aに相当する。中心位置2a付近はその膜厚d(r)は薄く、中心位置2aから径方向に距離rの位置の膜厚d(r)の変化形状は次第に厚くなる。その非球面形状は高次多項式で表すことができる。式の形は光学用途によって異なるが、例えば以下のように表されている。
d(r)=cr/[1+{1−(1+K)c1/2]+α+α+α+α−−−−−−(A)
d(r)=cr/[1+{1−(1+K)c1/2]+β+β+β+β−−−−−−(B)
【0034】
但し、K:コーニック定数、c:曲率半径の逆数、α、βは定数
【0035】
以上の式(A)、(B)によって殆どの非球面形状を表すことができるが、ある特定の球面レンズの収差補正のための非球面レンズを式(A)又は(B)によって設計できた場合、この式によって表される中心位置2aからの膜厚d(r)の変化形状に合わせるようにスパッタ蒸着流を制御するマスク20を製造装置に設ける必要がある。尚、図2の例は6次式で表された非球面形状である。
【0036】
そのマスク20は、スパッタ蒸着流を制御するため堆積させたい平面基板或いは球面表面上に配置され、遮断部分と開口部分を有するマスキング羽根20aを、一定の角速度ωで回転する。マスク20が整数回転する時間にその開口部分を通過して基板或いは球面表面に堆積する膜厚d(r)の径方向rによる変化形状を式(A)、(B)のようにするマスキング羽根の設計方法は後述する。
【0037】
図3は、非球面光学部品(非球面レンズ系、放物面反射鏡)の製造装置の一実施例を示す。ここでは前記マスキング羽根を用い所定膜厚変化形状d(r)に堆積させる非球面光学部品製造装置スパッタ概念図を示す。
【0038】
ここで、10は真空気密チャンバーを示し、この内部に堆積させたい平面基板1又は凹状球面鏡8などをセットする穴のある基板用ベースプレート33がある。
【0039】
また、回転するマスク20をセットする穴のあるマスク用ベースプレート32がある。ここで30aはマスクを回転させるマスク回転用歯車を示し、真空気密チャンバー外部からの駆動伝達機構によりマスク20の外周を回転させる。すなわち、回転の中心位置20aには軸はなく、この中心位置に対向する平面基板1の堆積物の中心位置2aにも所定の膜厚d(0)を堆積させることができる。
【0040】
3はターゲットを示し、周辺に対して負電位になるようにして、真空気密チャンバー内は高電界のフィールドにする。
【0041】
4はその高電界により電離された気体の正イオンを示し、そのイオンはターゲット3に衝突する。尚、気体はアルゴンArなどであり、Arイオンが生ずる。
【0042】
5はターゲット3から飛出したスパッタ原子であり、これが多数生成され、これらの粒子は一様なスパッタ蒸着流6となってマスク20全面へ流れ込む。
【0043】
そのスパッタ蒸着流は回転するマスク20のマスキング羽根20aを通り、堆積物の対称中心位置2aを中心として堆積し、図示のような堆積物(非球面レンズ)2が形成される。
【0044】
そのマスキング羽根20aの形状が4枚羽根の場合の一実施例を図4に示す。図から解かるようにマスク回転中心付近、すなわち基板の堆積物の中心位置2a付近にも所定の膜厚を堆積させるようにそのマスク20の回転の駆動はその外周にある歯車を介して駆動する。尚マスキング羽根20aの作成方法についても後述する。
【0045】
図4は、中心対称なマスキング羽根と平面基板の関係を示す図である。図4では製造装置100の真空気密チャンバー10の中にターゲット3からのスパッタ粒子5によるスパッタ蒸着流を堆積させる平面基板1とその基板面上で堆積を制御するマスク20からなる一組がある場合が概念図として示されているが、実際の場合は前記の平面基板1とマスク20からなる組が複数組収容した真空気密チャンバー10を備えることが望ましい。
【0046】
なぜならば、スパッタ蒸着流による膜厚の制御量は前述したように数nmが可能であるので、精度の高い非球面光学部品の製作に適応できるが、一方、その膜厚を所定の厚さ、例えば図2のように100μm程度まで堆積させるのに長時間必要とする。その時間は人手を要せず、製造装置100を必要な時間稼動させれば良い。
【0047】
従って製造装置100の真空気密チャンバー10の中で複数組同時に平面基板1上に堆積膜2を堆積させることは効率的な装置となる。
【0048】
以上のような製造装置100のマスク・基板の取り付け治具の一実施例を図5に示す。図5では平面基板1とその基板面上で堆積を制御するマスク20からなる組が4組とした場合である。
【0049】
図5において、マスク20と平面基板1とをそれぞれ4枚ずつ取付ける取付治具を示してある。
【0050】
ここで30は、気密チャンバー外部からの駆動により4個のマスク20をその外周に沿って歯車で回転させるマスク回転駆動機構の全体を示す。
【0051】
31は治具全体を載せるベースプレートを示し、スパッタ蒸着流はベースプレートの下から上方へ流れる。
【0052】
32はマスク用ベースプレートであり90度間隔の4箇所にマスクセット穴32aがある。マスク20のマスキング羽根20aの形状は図4に示したマスキング羽根20aと同形のものである。
【0053】
33は基板用ベースプレートであり、90度間隔の4箇所に基板セット穴33aがある。基板セット穴33aの中心は丁度マスクセット穴32aの中心に一致し、各平面基板1下側面にそれぞれマスク20が配列する。
【0054】
マスクセット穴32aの外周に沿ってそれぞれマスク回転用歯車30aがある。その4個のマスク回転用歯車30aに同時にかみ合う公転用内歯車37があり、その外周には公転用外歯車38を備え、その公転用外歯車38の外周(図5では最上端)はこの歯車と噛合う駆動歯車39aを介して回転駆動シャフト39で駆動する。尚、回転駆動シャフト39は真空気密チャンバー10の外部から駆動伝達機構により駆動される。
【0055】
図5ではマスク20を4個取り付けた例であるが、更にそれ以上の枚数を取付けるセット穴を設けるようにしても良い。
【0056】
次に、マスク20のマスキング羽根20aの形状の設計方法について述べる。
【0057】
すなわち、中心からの距離rとその膜厚d(r)との関係が与えられれば、それを満たすマスクのマスキング羽根の形状を設定することができる。
【0058】
図6、図7、図8は、中心からの距離rの変化に対して膜厚d(r)が一定の場合、膜厚d(r)が比例して増加する場合、膜厚d(r)が複雑に変化する場合についてそれぞれのマスキング羽根の形状を示してある。
【0059】
以下、その方法を図9に基づいて説明する。図9は堆積したい形状の膜厚d(r)が与えられているとき、その膜厚d(r)の変化形状に堆積させるマスキング羽根20aの形状座標X、Y及び各円周上毎の開口角θと膜厚d(r)との関係を説明する図である。
【0060】
図9(a)はマスク平面図を示す。(b)は堆積したい形状の膜厚d(r)を示す。この膜厚形状は図8に相当する。
【0061】
マスク20のマスキング羽根20aは平面基板1に対して一定の角速度ωで一回相対回転させた場合とし、作成するマスク20の半径をRとし、径方向にrだけ離れた位置に堆積させたい膜厚をd(r)とする。
【0062】
尚、ここでは一回相対回転させた場合とし、以下にその設計法を述べてあるが、整数回相対回転させた場合としても良い。
【0063】
平面基板1全面にマスク20がない状態で、前記一回相対回転させた時間2π/ωの間にその平面基板1に一様に堆積される膜厚をDとすれば、マスク20のマスキング羽根20aの或る径方向位置rにおいてマスキング羽根20aの遮断部分がなく、開口部分のみであればその径位置rの円周上の膜厚はDとなる。
【0064】
図9の堆積膜厚d(r)の例では、r=Rの最外周位置ではd(r)=Dであり、その円周上位置は開口部分のみであり、r=0の中心ではd(r)=0として、その位置は遮断部分のみとなり、径方向0〜R間における各径rの円周上毎の遮断部分と開口部分の比率或いはそれらの弧の長さを以下のようにして求められる。
【0065】
半径rの円周上で、堆積が膜厚d(r)に対応する開口区間を図9に示すように点A(r、0)〜点B(X、Y)で表し、その間の弧の長さLが中心を見るときの開口角をθとすると以下の関係式が成り立つ。
X=r cosθ (1)
Y=r sinθ (2)
θ=2πd(r)/D (3)
【0066】
そこで与えられた、或いは形成させたい膜厚d(r)に対して径方向Rを0≦r≦Rの範囲に変化させて、式(1)〜(3)より開口角θと座標(X、Y)の軌跡を求める。
【0067】
その座標(X、Y)の軌跡曲線と径方向線分(0、0)−(R、0)と円Rの円周とに囲まれた領域が開口した形状のマスク20が設計できる。
【0068】
図8(b)に以上の開口したマスク形状の一例を示す。尚、図6(b)、図7(b)にはそれぞれ膜厚d(r)が中心からの距離rに対して一定の場合、直線的に比例する場合のそれぞれのマスク形状を示す。
【0069】
さらに、マスク回転時の不安定な角速度の影響を少なくして安定度を向上させるために、各円周r毎に計算された開口区間A〜B間の弧の長さLはrとθの積で求められるが、その開口区間弧の長さLを複数に分割してその円周上の遮断区間と入れ替えて配置しても良い。
【0070】
図8(c)には、その一例を示す。各円周上の弧の長さLを4等分して、それぞれ図示するように、円Rを4分円或いは4象限に分割して、それぞれ4等分した開口区間弧の長さLの1/4(又は遮断区間弧の長さの1/4)を割り当てて作成したマスキング羽根20aである。
【0071】
尚、図6(c)、図7(c)には、同様の方法で膜厚d(r)が距離rに対して一定の場合、直線的に比例する場合のそれぞれのマスク形状を示す。
【0072】
図10は、式(1)、(2)、(3)により設計されたマスク20のマスキング羽根20aの各種例を示してある。
【0073】
図10(a)は、式(1)〜(3)を満たすX、Yの軌跡曲線により設計されたマスキング羽根20aの形状を示す。
【0074】
図10(b)、(c)は、(a)に計算された弧の長さLを1/2に分割し組合せ作成したマスキング羽根20aの形状を示す。
【0075】
図10(d)、(e)は、(a)に計算された弧の長さLを1/4に分割し組合せ作成したマスキング羽根20aの形状を示す。
【0076】
以上述べた非球面光学部品の堆積によるレンズ系などは総て中心位置に堆積した中心対称な部品であり、平面基板1の中心とマスク20の回転中心が一致する部品である。
【0077】
中心対称部品に対して中心対称軸が部品の外部にある軸外部品の製造装置について述べる。尚、軸外部品を使用して径の大きい大型の収差補正レンズ系を形成する場合は、それらの軸外部品を所定の円周上に複数個配置して組み合わせれば良い。
【0078】
そのような軸外部品を製造する場合の真空気密チャンバー10内の構成について図11に示す。
【0079】
図11(a)では軸外部品を4個同時に製造する場合を示す。
【0080】
ここで、8は凹状球面基板を示す。この凹状球面基板8を図示するように破線で示す球面上に配置し、且つ回転させるマスク20の軸中心から一定径の円周上に複数個(図11では4個)並べる。
【0081】
それらの凹状球面基板8の表面側には回転するマスク20がありスパッタ蒸着流を制御して軸外部品を製作する。この軸外部品である非球面光学部品は同一円周状に配置して使用する。大きな基板上に堆積膜を非球面状に形成させて、端の部分を切出した物と同じ機能となる。
【0082】
マスクの回転中心から同心円上に複数個の軸外部品を配置すれば良いので、大型の製造装置を必要としない。
【0083】
図11(b)は軸外部品を中心軸から離れた同一円周上に複数個配列させ、焦点から出力する光線を放物面鏡9により反射させて平行光線を発生させた状態を示す。尚放物面鏡9の表面には金属蒸着薄膜9aがある。尚、ターゲットを反射材となる金属とした場合は金属蒸着薄膜9aに代えることができる。
【0084】
図12、図13は中心対称の球面鏡8とその表面に非球面の放物面鏡9を堆積させ、収差補正をした光集束例を示してある。尚、図13の放物面鏡9の表面には金属蒸着薄膜9aがあり完全反射させる。
【0085】
図12は、収差があり平行入力光線は焦点に集まらない。従ってその結像の文字は判読できない。
【0086】
図13は球面鏡の収差は補正され、平行入力光線は焦点に集束する。従ってその結像の文字は容易に判読できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】非球面光学部品の一例で、(a)は非球面レンズの断面図、(b)はそれを利用した収差補正状態を示す図である。
【図2】非球面レンズ堆積物の膜厚具体例を示す図である。
【図3】非球面光学部品製造装置スパッタ概念図である。
【図4】中心対称なマスキング羽根と平面基板の関係を示す図である。
【図5】マスク・基板の取り付け治具の実施例である。
【図6】膜厚が中心からの距離に対して一定の場合を示し(a)は膜厚とマスクの関係、(b)はX、Yの軌跡、(C)はマスク形状例である。
【図7】膜厚が中心からの距離に比例する場合を示し、(a)は膜厚とマスクの関係、(b)はX、Yの軌跡、(C)はマスク形状例である。
【図8】膜厚が中心からの距離に対して複雑に変化する場合を示し、(a)は膜厚とマスクの関係、(b)はX、Yの軌跡、(C)はマスク形状例である。
【図9】堆積膜厚とマスキング羽根の形状、座標X、Y、開口角θとの関係図である。
【図10】マスク形状各種例で、(a)はX、Y軌跡曲線により設計されたマスキング羽根、(b)、(c)は、(a)の弧の長さを1/2に分割し組合せた形状例、(d)、(e)は弧の長さを1/4に分割し組合せた形状例である。
【図11】軸外部品への堆積例を示し、(a)は軸外部品を4個同時に製造する例、(b)は軸外部品の利用例を示す図である。
【図12】球面鏡の収差のある光集束例を示し、(a)はスポットダイアグラム、(b)は結像、(c)は光学配置を示す図である。
【図13】非球面鏡による光集束収差補正例を示し、(a)はスポットダイアグラム、(b)は結像、(c)は光学配置を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 平行平面基板(平面基板)
2 堆積物(非球面レンズ)
2a 堆積物(非球面レンズ)の中心位置
3 ターゲット
4 気体、正イオン
5 スパッタ粒子、原子
6 スパッタ蒸着流
7 球面レンズ
7a 焦点
8 凹状球面鏡、球面基板
9 凹状非球面鏡、放物面鏡
9a 金属蒸着薄膜
10 真空気密チャンバー
20 マスク
20a マスキング羽根
30 マスク回転駆動機構
30a マスク回転用歯車
31 ベースプレート
32 マスク用ベースプレート
32a マスクセット穴
33 基板用ベースプレート
33a 基板セット穴
37 公転用内歯車
38 公転用外歯車
39 回転駆動シャフト
39a 駆動歯車
100 非球面光学部品の製造装置(製造装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光用球面レンズ光路上に配置し、その球面レンズの収差を補正する非球面レンズであって、
前記非球面レンズは平行平面形状の基板と、気密チャンバー内の高電界により気体を電離し生じた正イオンによりターゲットから原子を飛出させたスパッタ蒸着流を用いて、遮断部分と開口部分を有してそれらの外周を駆動して一定の角速度で回転させたマスクによりその流れを制御し、前記基板上に円形状でその中心対称に堆積させた堆積膜とから構成され、
前記ターゲットの材質を透明な材質にすることにより、堆積膜が基板に一体化したレンズ系を形成させ、
前記堆積膜の各円周上の膜厚はその円周毎の開口部分の長さによって定まり、従って、径方向の求めたい膜厚変化形状を決めれば円周毎の開口部分の長さが定まり、前記マスキング形状が設定され、
前記膜厚変化形状を少なくとも高次多項式で表す非球面レンズ系とすることを特徴とする非球面光学部品。
【請求項2】
集光用又は平行光線出力用凹状球面反射鏡表面上に、その球面反射鏡の収差を補正する非球面膜を形成させ、さらに表面上に反射用金属薄膜を蒸着して収差が補正された非球面の放物面反射鏡であって、
前記放物面反射鏡は、凹面球状反射鏡と、気密チャンバー内の高電界により気体を電離し生じた正イオンによりターゲットから原子を飛出させたスパッタ蒸着流を用いて、
遮断部分と開口部分を有してそれらの外周を駆動して一定の角速度で回転させたマスクによりその流れを制御し、前記凹状球面反射鏡表面上に堆積させた堆積膜とから構成され、
前記堆積膜の材質が透明である場合は堆積膜上に前記反射用金属薄膜を備え、
前記堆積膜の各円周上の膜厚はその円周毎の開口部分の長さによって定まり、従って、径方向の求めたい膜厚変化形状を決めれば円周毎の開口部分の長さが定まり、前記マスクのマスキング形状が設定され、
前記膜厚変化形状を少なくとも高次多項式で表す非球面レンズ系とすることを特徴とする非球面光学部品。
【請求項3】
請求項1記載の非球面光学部品(非球面レンズ)及び請求項2記載の非球面光学部品(放物面反射鏡)の製造装置であって、
その製造装置は、気密チャンバー内でターゲットからのスパッタ蒸着流を堆積させて前記非球面レンズを形成させる平行平面基板或いは凹状球面鏡をM枚(1以上)セットできる保持機構と、前記平行平面基板或いは凹状球面鏡と前記ターゲットの間に配置して各平行平面基板或いは凹状球面鏡毎に一定の角速度で回転させ、収差を補正する非球面光学系を形成する径方向の膜厚変化形状がその回転中心からの距離毎の各円周上の遮断部分と開口部分の比を定め、その比の値からスパッタ蒸着流を制御するマスキング羽根が設計されたマスクと、前記平行平面基板或いは凹状球面鏡の中心部分の堆積膜を含めて前記膜厚変化形状とする非球面膜にするため、前記マスクには中心軸を用いずマスク外周に設けたマスク自転用歯車で駆動させるマスク外周駆動機構と、を少なくとも備えたことを特徴とする非球面光学部品の製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の非球面部品の製造装置に用いるマスクのマスキング羽根の設計方法であって、
非球面部品の収差を補正する非球面光学系を形成する径方向の膜厚変化形状に堆積させたいマスクの一定の角速度で回転するマスキング羽根の形状を定めるに際して、
その角速度で一回相対回転させたい時間に、回転中心からrだけ離れた位置に堆積させたい膜厚をd(r)とすれば、同時間でマスクが無い(遮断部分が無い)円周上における堆積をDとし、各円周上における膜厚d(r)に対する開口部分区間の弧の長さLの見る開口角をθで表すは、マスキング羽根の形状を開口領域を座標X、Yとの間に成立する関係式
X=r cosθ (1)、Y=r sinθ (2)
θ=2πd(r)/D (3)
式(1)〜(3)を用いて予め定めてある膜厚d(r) d(r)から開口角θと座標X、Yが計算され、総てのrの変化に対して計算すれば座標X、Yの軌跡からマスクの開口領域の形状が定まり堆積させたい膜厚に対応したマスキング羽根が定まることを特徴とする非球面光学部品の製造装置に用いるマスクの設計方法。
【請求項5】
半径rの円周上における開口部の弧の長さLはr・θから算出し、更にその弧の長さLをn(整数)分割して、複数に分離した開口部を配置し、マスクの回転時の安定度を向上させる複数枚マスキング羽根のマスク形状とすることを特徴とする請求項4記載の非球面光学部品の製造装置に用いるマスクの設計方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−122469(P2009−122469A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297434(P2007−297434)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(300021633)朝日分光株式会社 (7)
【Fターム(参考)】