説明

非破壊検査方法

【課題】 外部磁界による残留磁気を利用して非磁性体下にある長尺状の強磁性体の異常の有無を判定するについて、熟練を要することなく正確に異常の有無を判定し得る新規かつ有用な非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】 非磁性体11下の強磁性体12に直流磁界を付与して該強磁性体をその長手方向に磁化させ、MIセンサまたはフラックスゲート型センサ16を用いて非磁性体11の表面11a上で強磁性体12の長手方向に沿って該強磁性体の残留磁束密度についての該強磁性体の長手方向と直角な方向の磁束密度成分を測定し、該磁束密度成分の分布に基づいて異常箇所の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性体下に在る強磁性体から発せられる磁界を測定して該強磁性体の異常の有無を推定する非破壊検査方法及びその装置に関し、特に、人為的に外部磁界を強磁性体に付加した後、該強磁性体に残留する磁界の強度を測定して異常の有無を推定する非破壊検査方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに埋設された鉄筋に破断のような異常が生じているか否かを鉄筋コンクリートを破壊することなく診断する非破壊検査方法に、X線を利用したX線透過法がある。しかしながら、X線のような放射線の取り扱いには、細心の注意が必要であり、また被測定物の両面から接近できない場所では、X線透過法は利用できない。
【0003】
また、コンクリートのような非磁性体に鉄筋のような強磁性体が埋設されている場合の非破壊検査方法として、磁界を利用した方法がある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
この従来の磁界を利用した非破壊検査方法によれば、検査対象の強磁性体に人為的に外部磁界を印加し、破断のような欠損が生じている異常箇所での強磁性体からの残留磁気による漏れ磁束を検出することにより、X線透過法におけるような制限を受けることなく、コンクリート内の鉄筋の異常の有無を判定することができる。
【非特許文献1】電子磁気工業株式会社、「Products」第2頁、品名 マイクロ磁気探傷装置、[online]、[平成16年12月15日 検索]、インターネット<URL:http://www.emic-jp.com/pro/hihakai.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の磁界を利用した非破壊検査方法では、外部磁界に磁束方向を交互に反転させる交番磁界が用いられており、商用周波数に応じた周期で外部磁界の磁束方向が反転することから、強磁性体が常に所定方向および所定の強度の同一条件で磁化されるように交番磁界を停止することは容易ではなく、外部磁界の付与操作に熟練を要した。外部磁界による残留磁気の磁化方向およびその強度が定まらず、そのために測定される漏れ磁束の磁化方向および強度が測定毎にばらつきを生じると、磁束検出手段による検出磁束の強度が測定毎にばらつきを生じることから、正確かつ容易な判定は困難になる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、外部磁界による残留磁気を利用して非磁性体下に在る長尺状の強磁性体の異常の有無を判定するについて、熟練を要することなく正確に異常の有無を判定し得る新規かつ有用な非破壊検査方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基本的に、外部磁界として磁束の方向を交互に反転させることのない直流磁界を用い、非磁性体下に在る測定対象物である強磁性体をその長手方向に磁化すること、さらに直流外部磁界によって磁化された強磁性体の残留磁気による磁束密度のうち、該強磁性体の磁化方向と直角な残留磁束密度成分を前記強磁性体の長手方向に沿って測定すること、この残留磁束密度成分の測定に、複雑な設定操作を必要とすることのない高精度磁束センサであるMIセンサまたはフラックスゲート型センサを用いること、さらに測定された磁束の分布を用いることを特徴とし、これによって、初めて容易かつ正確な判定が可能になる。
【0008】
本発明の基本原理の詳細を図1乃至図4に沿って説明する。例えば図1に示すように、コンクリートのような非磁性体1内に埋設された鉄筋のような強磁性体2に破断箇所3があるか否かを知るために、図3に示すような磁気センサ4を用いて非磁性体1の表面1a上で磁束密度を測定するが、この測定に先立って、強磁性体2に直流外部磁界を付与する。
【0009】
図1に示す例では、直流磁界の付与のために、両端に磁極面N、Sを有する直方体の永久磁石5が用いられている。この永久磁石5が、その磁化方向を強磁性体2の長手方向(y)に沿わせて、非磁性体1の表面1a上で強磁性体2の長手方向(y)へその全長にわたって往復移動される。この永久磁石5の磁石操作によって、強磁性体2に磁束の方向を反転することのない直流外部磁界が付与され、この外部磁界により、強磁性体2がその長手方向(y)に磁化される。
【0010】
直方体の永久磁石5に代えて、図2に示すように、一対の脚部6aと該両脚部間の梁部6bとを有し、脚部6aの下端面に磁極面S、Nを有する門型の永久磁石6を用いて、同様に強磁性体2に直流外部磁界を付与することができる。
【0011】
強磁性体2に破断箇所3が存在せず、強磁性体2がその長手方向(y)に連続する場合、前記した直流の外部磁界によって強磁性体2に生じる磁束は、強磁性体2の長手方向に分断されることがないことから、基本的に、強磁性体2の長手方向に連続してその全長にわたって伸びる図2に磁束φ1で示すような閉曲線の磁束が得られる。
【0012】
しかしながら、強磁性体2に破断が生じ、2つの部分2a、2aに分断されていると、あるいは強磁性体2に分断を生じるような亀裂が生じていると、この破断箇所3で強磁性体2の磁束が漏洩し、図2及び図3に示すように、一部の磁束が破断箇所3で強磁性体2の長手方向へ2つの閉曲線に分断され、その結果、分断部分2a、2a毎に閉塞する磁束φ2、φ2が生じる。そのため、図3に矢印7a、7bで示されているように、破断箇所3に対応する部分で、強磁性体2の長手方向(y)と直角な方向(z)に沿って、磁束の方向が反転する。
【0013】
そこで、図3に示すように、非磁性体1の表面1a上を強磁性体2の長手方向(y)に沿って磁気センサ4を移動させながら強磁性体2の残留磁気による強磁性体2の長手方向(y)と直角な方向(z)の磁束密度成分を測定すると、図4に示すような強磁性体2の長手方向に沿った磁束密度変化の分布を示す特性線Aのグラフを得ることができる。このグラフに示された特性線Aの線分A1及び線分A2は、強磁性体2の健全部分に対応してほぼ同一方向に傾斜する線分で示される緩やかな磁束密度変化を示す。しかしながら、両線分A1及びA2間に位置する線分A3では、破断箇所3で磁束の方向が反転することにより、線分A3の傾斜が反転する。この傾斜が反転する線分A3の中点位置y1が破断箇所3に対応する。このように、強磁性体2の残留磁気による強磁性体2の長手方向(y)と直角な方向(z)の磁束密度成分を測定して得られる特性線Aの傾きの変化から、非磁性体1内の強磁性体2に破断箇所3があるか否かを判定し、破断箇所3があると判定されたとき、その位置を知ることができる。
【0014】
本発明は前記した原理に基づく非破壊検査方法であり、本発明に係る非破壊検査方法は、非磁性体下に在る長尺状の強磁性体に直流外部磁界を付与して該強磁性体をその長手方向に磁化し、MIセンサまたはフラックスゲート型センサを用いて前記非磁性体の表面上で前記強磁性体の長手方向に沿って該強磁性体の残留磁束密度についての該強磁性体の長手方向と直角な方向の磁束密度成分を測定し、該磁束密度成分の前記強磁性体の長手方向に沿った分布に基づいて異常箇所の有無を判定することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る前記非破壊検査方法では、検査対象である強磁性体に外部磁界として磁束方向を反転することのない直流磁界が付与され、該強磁性体がその長手方向に磁化される。この強磁性体の磁化に直流磁界を用いることにより、交番磁界の反転タイミングに合わせてこの交番磁界による外部磁界を停止させる必要はなく、容易かつ確実に、強磁性体をその長手方向にばらつき無く適正に磁化させることができる。
【0016】
また、この外部磁界の除去後、該外部磁界によって磁化された強磁性体の残留磁束密度の長手方向と直角磁束密度成分が磁束センサにより測定されるが、磁束センサとして、複雑な設定操作が不要なMIセンサあるいはフラックスゲート型センサのような高感度磁気センサを用いることにより、例えば数十μTのような微小な磁束密度を正確かつ容易に測定することができ、この測定結果に基づいて、強磁性体に破断のような異常が生じているか否かを正確に判定することができる。
【0017】
MIセンサは、非晶質(アモルファス)磁性ワイヤの磁気インピーダンス(Magneto-Impedance)効果を利用した高感度磁気センサであり、またフラックスゲート型センサは、軟磁性体の非線形の高透磁率特性を利用して微小直流磁界を検出する高感度磁気センサである。
【0018】
本発明に係る前記非破壊検査方法は、強磁性体が非磁性体中に該非磁性体の表面に沿って埋設されているとき、前記残留磁束密度における前記非磁性体の表面に沿った面上での該面に垂直な残留磁束密度成分を測定することができ、この測定結果から強磁性体の異常の有無を判定することができる。
【0019】
このような直流磁界を付与する磁気手段として、Nd系のような磁力の強い希土類金属磁石を用いることが望ましい。この永久磁石を用いて強磁性体へ直流磁界を付与する場合、該強磁性体の長手方向に沿って永久磁石を前記非磁性体の表面上に移動させることにより強磁性体を長手方向へ磁化することができる。図1に示したように、この永久磁石の磁化方向が強磁性体の長手方向に沿うように非磁性体の表面上に配置され、強磁性体の長手方向に移動されるとき、永久磁石を往復移動させることができる。他方、同様な永久磁石の一方の磁極面を非磁性体の表面に当接して配置し、この永久磁石を強磁性体の長手方向に移動させることによっても、強磁性体を磁化することができるが、この場合、永久磁石は往復移動することなくそのいずれか一方向へのみ移動される。
【0020】
前記測定値の前記強磁性体の長手方向についての微分値を求めることにより、磁束密度の傾きの変化を容易に知ることができ、この傾きの変化から破断の有無を判定することができる。
【0021】
前記微分値として、微分近似値を用いることができる。この微分近似値は、前記強磁性体の長手方向への所定の変位量毎の磁束密度変化量で求めることができる。したがって、この所定の変位量毎の磁束密度変化量は、測定された磁束密度をソフトウエア的に所定の変位量で除することにより求めることができる。
【0022】
本発明に係る非破壊検査装置は、非磁性体内に該非磁性体表面に沿って埋設された強磁性体の異常の有無を推定するための非破壊検査装置であって、前記非磁性体の表面に沿った面上で予め直流外部磁界により磁化された強磁性体の長手方向に沿って該強磁性体からの前記磁性体表面に直角な残留磁束密度成分を測定するMIセンサまたはフラックスゲート型センサと、該センサによって得られた測定値の長手方向についての微分値を求める微分回路と、該微分回路により求めた微分値によって示される傾きが閾値を超えて変化したか否かを判定する判定回路と、該判定回路の判定結果を表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る前記非破壊検査装置では、前記センサにより測定された前記強磁性体からの前記磁性体表面に直角な残留磁束密度が前記微分回路により順次微分処理を施され、この微分処理によって得られた微分値が判定回路により閾値と比較される。この閾値は、例えば磁束密度変化の傾きがX軸に平行となり、あるいは傾きが逆転する箇所を明確に峻別できるように、設定することが望ましく、この閾値と前記微分回路により得られた微分値との比較結果に応じて表示手段は迅速に誤りなく破断のような異常の有無を表示する。
【0024】
したがって、前記非破壊検査装置によれば、本発明の前記非破壊検査方法を容易に実施することが可能となる。
【0025】
前記センサとして、前記非磁性体の表面に沿った面上で前記強磁性体の長手方向へ相互に間隔をおいて配置される一対のMIセンサまたはフラックスゲート型センサを用いることができる。該両センサは、前記強磁性体からの残留磁束密度の前記非磁性体の表面に直角な残留磁束密度成分を測定すべく該強磁性体の長手方向へ相互に間隔をおいて該長手方向へ一体的に移動される。この一体的な移動を伴う一対の前記センサによる磁束密度測定によって前記強磁性体の長手方向へ前記両センサ間の距離を隔てた2点での磁束密度を同時に測定することができる。
【0026】
演算回路を用いて一対の前記センサによる磁束密度の測定値の差分を求めることにより、所定の変位量すなわち前記両センサ間距離毎の磁束密度変化量である前記微分近似値が得られる。この微分近似値すなわち前記演算回路により求められた差分が前記閾値を超えるか否かを前記したと同様な判定回路で判定し、その判定結果を前記表示手段で表示させることができる。
【0027】
前記した一対のセンサを用いることにより、比較的複雑な構成を必要とする前記微分回路を用いることなく、オペアンプのような比較機能を有する演算回路によって微分値とほぼ同等な微分近似値を得ることができることから、前記した一対のセンサを用いる構成は、非破壊検査装置の構成の簡素化を図る上で、有利である。この場合、演算回路は前記両センサの差分を算出するので、該演算回路の算出結果として得られる前記差分からは、地磁気成分が相殺される。したがって、この地磁気成分の影響を排除するための格別な回路構成を採用することなく地磁気成分の影響を除去できる点でも、一対のセンサを用いる構成が望ましい。
【0028】
また、前記一対の磁気センサを移動方向へ相互に40mm乃至60mmの間隔をおくように設置することが望ましく、これにより、測定対象物の品質のばらつきや測定条件の変化等に拘わらず、異常箇所での異常による磁束密度変化の微分値と、環境ノイズによる磁束密度変化の微分値との間に、この両者を正確に判別するに充分な大きさの違いを確保することができるので、ノイズの影響を排除してより正確かつ迅速な判定が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記したように、直流磁界を強磁性体に付与して該強磁性体をその長手方向に磁化し、その残留磁界のうち強磁性体の長手方向に直角な残留磁束密度成分をMIセンサやフラックスゲート型センサのような高精度磁束センサを用いて測定し、この測定により得られた磁束密度成分の分布から、強磁性体に破断のような異常が生じているか否かを熟練を要することなく迅速かつ正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明が特徴とするところは、図示の実施例に沿っての以下の説明により、さらに明らかとなろう。
【実施例】
【0031】
図5には、本発明に係る非破壊検査方法を実施する非破壊検査装置が全体に符号10で示されており、図5は本発明に係る非破壊検査方法が、コンクリート体11内に埋設された鉄筋12に破断のような異常13が生じているか否かの判定に適用された例を示す。
【0032】
本発明に係る非破壊検査方法では、非破壊検査装置10を用いてコンクリート体11内に埋設された鉄筋12からの磁束を測定するに先立って、図1または図2に示したように、例えばNd系のような希土類金属磁石からなる永久磁石5あるいは6を用いて、鉄筋12がその長手方向に磁化される。この永久磁石5、6による磁界は直流磁界であることから、交流磁界におけるような磁界付与の停止時期に応じた磁化方向あるいは磁気強度にばらつきを生じることなく、効果的に鉄筋12をその長手方向に磁化することができる。
【0033】
また、鉄筋12の長手方向に沿って配置される門型の永久磁石6を用いることにより、該永久磁石を鉄筋12に沿って移動させることなく、あるいは少ない移動距離で以て鉄筋12に適正に直流外部磁界を付与することができるが、永久磁石6が大型化する。これに対して、図1に示したような永久磁石5を用いることにより、永久磁石6に比較して小型の永久磁石5で以て永久磁石6におけると同様に、鉄筋12に直流外部磁界を付与し、これにより鉄筋12をその長手方向に効果的に磁化することができる。
【0034】
外部の直流磁界により鉄筋12を磁化した後、永久磁石5あるいは6がコンクリート体11の表面11aから除去される。その後、本発明に係る非破壊検査装置10を用いてコンクリート体11内の鉄筋12からの残留磁束密度が測定される。
【0035】
この残留磁束密度を測定する非破壊検査装置10は、コンクリート体11の表面11aに沿った平面上を鉄筋12の長手方向に沿って符号14で示す方向へ移動される磁気検知部15を備える。この磁気検知部15の移動は、手動で行いあるいは図示しない駆動機構を用いて機械的に行うことができる。磁気検知部15には、例えばMIセンサからなる磁気センサ16が組み込まれている。この磁気検知部15に、該磁気検知部の移動距離(y)を求めるための距離センサ(図示せず)を必要に応じて組み込むことができる。
【0036】
MIセンサは、従来よく知られているように、アモルファス磁性ワイヤの磁気インピーダンス効果を利用した高感度磁気センサである。高感度の磁気センサ16は、鉄筋12からの磁束密度を高感度で検出する。
【0037】
MIセンサに代えて、フラックスゲート型センサを磁気センサ16として用いることができる。このフラックスゲート型センサは、軟磁性体の非線形の高透磁率特性を利用して微小直流磁界を磁気変調することにより、励磁周波数と検出周波数とを分離して高いS/N比で直流磁界を検出する。
【0038】
これらMIセンサあるいはフラックスゲート型磁気センサのような高感度磁気センサを用いることにより、磁気検出のための複雑な磁気バイアス調整等を行うことなく、鉄筋12からの例えば数十μTの微小な磁束密度をも良好に検出することができる。
【0039】
磁気センサ16は、例えばコンクリート体11の表面11aに垂直な方向の磁束密度成分Bzを検出すべく磁気検知部15に支持されており、検出した磁束密度成分Bzに応じた電気信号を装置本体17に出力することにより、鉄筋12の長手方向に沿って磁束密度を測定する。装置本体17は、磁気検知部15から出力される電気信号すなわち磁束密度成分Bzを鉄筋12の長手方向について微分する微分回路18と、該微分回路により得られた微分値(dBz/dy)を閾値と比較し、閾値を超えるか否かを判定する傾き判定回路19と、微分回路18により得られた微分値が閾値を超えると傾き判定回路19が判定したとき、該傾き判定回路からの出力によって動作する判定表示回路20とを備える。微分回路18は、磁気検知部15から出力される磁束密度成分Bzを鉄筋12の長手方向について微分することから、この微分値は、鉄筋12の長手方向に沿った磁束密度成分の傾きを示す。微分回路18は、従来よく知られた微分演算機能を有するアナログ電気回路あるいはソフトウエア的に処理するディジタル回路で構成することができる。
【0040】
これにより、単に、磁気検知部15をコンクリート体11の表面11a上で鉄筋12の長手方向に沿ってその一方向へ移動させることにより、微分回路18の出力値である微分値から、図4に示したと同様なグラフを得ることができる。
【0041】
また、傾き判定回路19は、微分回路18からの微分値と、傾きが零を示す閾値と比較し、微分回路18からの微分値が傾きを反転させたと判定したとき、判定表示回路20にその旨を表示させる。この判定表示回路20によって、前記したように鉄筋12の破断箇所x1の有無が表示され、また破断箇所が存在するときにその位置を表示させることができる。
【0042】
従って、本発明に係る非破壊検査装置10によれば、微分回路18からの出力により得られる微分特性曲線の観察によって、熟練を要することなく迅速に鉄筋12の異常の有無を判定できる。さらに、装置本体17に微分回路18からの出力信号を処理する前記傾き判定回路19及び判定表示回路20を組み込むことにより、閾値との比較結果から異常の有無についての判定を自動的に下し、異常箇所がある場合、その旨を自動的に表示させることができるので、一層正確かつ容易に異常の有無を判定することができる。
【0043】
図5に示した非破壊検査装置10では、単一の磁気センサ16を有する磁気検知部15からの磁束密度成分に微分処理を施す微分回路18を用いた例を示した。これに対し、図6に示す非破壊検査装置110では、磁気検知部15の磁気センサにそれぞれがMIセンサあるいはフラックスゲート型センサからなる一対の磁気センサ16a、16bが用いられており、非破壊検査装置10の装置本体17に組み込まれた微分回路18に代えて、一対の磁気センサ16a、16bで得られる磁束密度の測定値の差分を求める演算回路すなわち差分回路21が用いられている。
【0044】
一対の磁気センサ16a、16bは相互に中心間距離Δyの間隔をおくように磁気検知部15に整列して配置されており、磁気検知部15は一対の磁気センサ16a、16bの整列方向が鉄筋12の長手方向に沿って移動される。
【0045】
図5に示した非破壊検査装置10の微分回路18は、前記したように、Bz成分のy方向の変化分である微分値dBz/dyを求めた。この微分値dBz/dyは、近似的に微小区間ΔyにおけるBz成分の微小変化分ΔBzの比と見なすことができることから、次の式(1)及び式(2)の関係が成り立つ。
【0046】
dBz/dy ≒ ΔBz/Δy …(1)
ΔBz/Δy = (Bz1−Bz2)/Δy …(2)
ここで、Bz1及びBz2は、それぞれ一対の磁気センサ16a、16bにより検出される垂直なz軸方向の磁束密度成分である。Δyを一定とすると、式(2)に示すように、両磁気センサ16a、16bによって得られる磁束密度成分の差(Bz1−Bz2)を一定値である磁気センサ16a、16bの中心間距離Δyで除すことにより、微分値dBz/dyに近似する近似微分値ΔBz/Δyが得られるので、この近似微分値が閾値を超えると、近似微分値により示される傾きが反転したと判定し、その旨を判定表示回路20により表示させるべく該判定表示回路を動作させる。
【0047】
さらに、ここで、Δyは定数であるので、Δyで除すことを省略し、差分回路21によって得られる磁束密度成分の差(Bz1−Bz2)の大きさのみでレベル判定することができ、これにより傾き判定回路19の回路構成の簡素化を図ることができる。また、差分回路21からの出力により、図4に示したと同様なグラフを得ることができる。
【0048】
図6に示した非破壊検査装置110によれば、一対の磁気センサ16a、16bを用いることにより、複雑な微分回路18を用いることなく、この微分回路18に代えて単純な構成の差分回路21で以て、微分近似値あるいはこれに相当する値を求めることができるので、構成の簡素化を図ることができる。
【0049】
さらに、差分回路21からなる演算回路によって、地磁気成分を相殺することができるので、この地磁気成分の影響を排除するための格別な回路構成を採用することなく地磁気成分の影響を除去できる。
【0050】
また、前記一対の磁気センサを移動方向へ相互に40mm乃至60mmの間隔をおくように設置することにより、測定対象物の品質のばらつきや測定条件の変化等に拘わらず、異常箇所での異常による磁束密度変化の微分値と、環境ノイズによる磁束密度変化の微分値との間に、この両者を正確に判別するに充分な大きさの違いを確保することができるので、ノイズの影響を排除してより正確かつ迅速な判定が可能となる。
【0051】
図6に示した非破壊検査装置110を用いて、主鉄筋および補助鉄筋を格子状に組んだモデルで実測した例を図7および図8に沿って説明する。
【0052】
図7に示すように、モデルとなった鉄筋12は、互いに平行に配置され、それぞれが約3mmの直径を有する補助鉄筋12aと、該補助鉄筋下で該補助鉄筋と直角に配置され、それぞれが約9mmの直径を有する互いに平行に配置された主鉄筋12bとから成る。
【0053】
主鉄筋12bを長手方向に磁化するために、図1に示したと同様な方法によって永久磁石5を主鉄筋12bの表面から約4cm上方の水平面H上を移動させた。この永久磁石5には、33mm×33mm×20mmの方形を有するNd系の永久磁石が用いられた。この永久磁石による主鉄筋12b上の長手方向に沿った磁束密度は、約0.02T(200G)であった。
【0054】
主鉄筋12bの磁化後、非破壊検査装置110を用いて、主鉄筋12bの約7cm上方の水平面上を主鉄筋12bの長手方向に沿って、これと直角な方向の残留磁束密度が測定された。
【0055】
図8は、その測定結果を示すグラフであり、その横軸が原点からの磁気検知部15の移動時間で示されている以外は図4と同様である。図8のグラフに示されているとおり、主鉄筋12bに交差する補助鉄筋12aが存在するにも拘わらず、この補助鉄筋12aの影響を受けることなく、グラフ上の特性線Aの健全部分に対応する線分A1、A2間でこれら両線分A1、A2の傾きと逆の傾きを示す線分A3の中点位置y1で破断箇所を明確に特定することができた。
【0056】
前記したところでは、強磁性体12を磁化させた後、永久磁石5、6を除去して強磁性体12からの残留磁束密度を測定した。これに対し、図2に示した門型の永久磁石6を用いた場合、該門型永久磁石を除去することなく、この永久磁石6の静止下あるいは磁気検知部15との一体的な移動下で、強磁性体12からの長手方向と直角な方向の磁束密度成分を測定することが考えられる。しかしながら、永久磁石6からの漏れ磁束が磁気検知部15の磁気センサ16を横切ることによる漏れ磁束の悪影響を排除し、正確な判定を可能とする上で、前記したとおり、門型永久磁石6を除去した後、強磁性体12の残留磁束を測定することが望ましい。
【0057】
また、鉄筋12の主鉄筋12bを検査対象とした例について説明したが、補助鉄筋12aを検査対象とすることができる。また、本発明は、コンクリート以外の種々の非磁性体下に存在する強磁性体の非破壊検査に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る非破壊検査方法における磁化工程を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に係る非破壊検査方法における磁化工程の他の例を示す図1と同様な図面である。
【図3】本発明に係る磁化工程よって生じる強磁性体の残留磁束の一例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る非破壊検査方法によって得られる磁束密度の変化の一例を強磁性体の破断箇所との関係で示すグラフである。
【図5】本発明に係る非破壊検査装置を概略的に示すブロック図である。
【図6】本発明に係る非破壊検査装置の他の例を示す図5と同様な図面である。
【図7】本発明に係る非破壊検査方法の検査対象の一例を示す鉄筋コンクリート板の縦断面である。
【図8】図7に示した鉄筋コンクリート板の実測により得られた図4と同様なグラフである。
【符号の説明】
【0059】
5、6 永久磁石
10、110 非破壊検査装置
11 コンクリート(非磁性体)
11a 表面
12(12a、12b) 鉄筋(強磁性体)
12a 補助鉄筋
12b 主鉄筋
13 異常箇所
15 磁気検知部
16(16a、16b) 磁気センサ
18 演算回路(微分回路)
19 傾き判定回路
20 表示手段(判定表示回路)
21 演算回路(差分回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体下に在る長尺状の強磁性体の残留磁束密度を測定し、この測定により求められた磁束密度の分布から前記強磁性体の異常の有無を推定する非破壊検査方法であって、前記強磁性体に磁束方向を反転させることのない直流外部磁界を付与し、該強磁性体をその長手方向に磁化した後、前記外部磁界を除去し、MIセンサまたはフラックスゲート型センサを用いて前記非磁性体の表面上で前記強磁性体の長手方向に沿って該強磁性体の残留磁束密度についての該強磁性体の長手方向と直角な方向の磁束密度成分を測定し、該磁束密度成分の前記強磁性体の長手方向に沿った分布に基づいて異常箇所の有無を判定することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
前記強磁性体は前記非磁性体中に該非磁性体の表面に沿って埋設されており、前記非磁性体の表面に沿った面上での該面に垂直な残留磁束密度成分が測定される請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記強磁性体への直流外部磁界の付与は、前記非磁性体の表面上で前記強磁性体の長手方向に磁化された永久磁石を前記強磁性体の長手方向へ移動させることにより行われる請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記測定値の前記強磁性体の長手方向についての微分値を求め、この微分値の変化に基づいて異常箇所の有無を判定する請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記微分値として、微分近似値が用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記微分近似値は、前記強磁性体の長手方向への所定の変位量毎の磁束密度変化量である請求項4に記載の非破壊検査方法。
【請求項7】
非磁性体内に該非磁性体表面に沿って埋設された強磁性体の異常の有無を推定するための非破壊検査装置であって、前記非磁性体の表面に沿った面上で、予め直流外部磁界により長手方向に磁化された強磁性体の長手方向に沿って該強磁性体からの前記非磁性体表面に直角な残留磁束密度成分を測定するMIセンサまたはフラックスゲート型センサと、該センサによって得られた測定値の長手方向についての微分値を求める微分回路と、該微分回路により求めた微分値によって示される傾きが閾値を超えて変化したか否かを判定する傾き判定回路と、該傾き判定回路の判定結果を表示する表示手段とを備える非破壊検査装置。
【請求項8】
非磁性体内に該非磁性体表面に沿って埋設された強磁性体の異常の有無を推定するための非破壊検査装置であって、前記非磁性体の表面に沿った面上で、予め直流外部磁界により長手方向に磁化された強磁性体の長手方向へ相互に間隔をおいて該強磁性体の長手方向へ一体的に移動され、前記強磁性体からの前記非磁性体表面に直角な残留磁束密度成分をそれぞれ測定する一対のMIセンサまたはフラックスゲート型センサと、該両センサによって求められた測定値の差分を求める演算回路と、該演算回路により求めた差分によって示される傾きが閾値を超えて変化したか否かを判定する傾き判定回路と、該傾き判定回路の判定結果を表示する表示手段とを備える非破壊検査装置。
【請求項9】
前記一対のセンサは、移動方向へ相互に40mm乃至60mmの間隔をおく請求項7に記載の非破壊検査装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート体の鉄筋の破断を検知する非破壊検査方法であって、
前記鉄筋の長手方向に沿ってコンクリート体上を永久磁石を移動させることにより、鉄筋を磁化させて鉄筋の長手方向に沿って磁界を発生させ、
この後、前記永久磁石を取り除いて、磁気センサを鉄筋の長手方向に沿って前記コンクリート体上を移動させながら、前記コンクリート体の表面上での鉄筋の残留磁束密度について、鉄筋の長手方向と直角な方向の磁束密度成分を測定し、
該磁束密度成分の前記鉄筋の長手方向に沿った分布に基づいて破断箇所の有無を判定することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
前記測定値の前記鉄筋の長手方向についての微分値を求め、この微分値の変化に基づいて異常箇所の有無を判定する請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記微分値として、微分近似値が用いられ、
この微分近似値は、前記長手方向に対する予め設定した所定距離で、この所定距離間における前記磁束密度成分の差を除した値であることを特徴とする請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記微分近似値は、前記鉄筋の長手方向への所定の変位量毎の磁束密度変化量である請求項3に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
コンクリート体の鉄筋の破断を検知する非破壊検査装置であって、
前記コンクリート体表面に直角に向く磁界の残留磁束密度成分を測定する磁気センサと、
この磁気センサを前記鉄筋の長手方向に沿って前記コンクリート体上を移動させた際に得られる磁気センサの測定値から、その長手方向についての微分値を求める微分回路と、
該微分回路により求めた微分値によって示される傾きが閾値を超えて変化したか否かを判定する傾き判定回路と、
該傾き判定回路の判定結果を表示する表示手段とを備え、
前記鉄筋の長手方向に磁界が向くように前記鉄筋を予め磁化させておき、前記磁気センサを鉄筋の長手方向に沿ってコンクリート体上を移動させることにより、前記鉄筋の破断を検知することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項6】
コンクリート体の鉄筋の破断を検知する非破壊検査装置であって、
前記コンクリート体表面に直角に向く磁界の残留磁束密度成分を測定し且つ前記長手方向に所定距離離間して配置された一対の磁気センサと、
この一対の磁気センサを前記鉄筋の長手方向に沿って前記コンクリート体上を移動させた際に得られる一対の磁気センサの測定値の差分を求める演算回路と、 該演算回路により求めた差分によって示される傾きが閾値を超えて変化したか否かを判定する傾き判定回路と、
該傾き判定回路の判定結果を表示する表示手段とを備え、
前記鉄筋の長手方向に磁界が向くように前記鉄筋を予め磁化させておき、前記一対の磁気センサを鉄筋の長手方向に沿ってコンクリート体上を移動させることにより、前記鉄筋の破断を検知することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項7】
前記一対の磁気センサは、移動方向へ相互に40mm乃至60mmの間隔をおく請求項6に記載の非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−177747(P2006−177747A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370505(P2004−370505)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【特許番号】特許第3734822号(P3734822)
【特許公報発行日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】