説明

非経口投与用のパラセタモール

【課題】従来技術の医薬組成物と比較して利点がある、非経口投与に利用可能な医薬組成物を作製すること。
【解決手段】パラセタモールを含有し、最大200μS/cmの導電率を有する、点滴溶液の形態の、水性医薬組成物であって、C〜Cアルカノールおよびポリエチレングリコールを含有しない、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口投与、特に点滴に好適な、活性成分パラセタモール(アセトアミノフェン)の医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パラセタモールは、優れた忍容性を有し、非常に広く利用される活性成分である(例えば、非特許文献1を参照されたい)。パラセタモールは、数多くの医薬形態、特に経口投与形態として商業的に入手可能である。或る特定の場合、例えば集中治療の間、又はある特定の理由で経口投与が可能でない場合には、パラセタモールの非経口投与が望ましい。
【0003】
薬局方では、非経口剤とは、注射、点滴又は注入を意図した滅菌調製物を意味するものとして理解される。非経口剤は、原則として、無刺激性を保証し、微生物及び粒子によるコンタミネーションを避けるために、特別な配慮の上で調製しなければならない。添加剤はとりわけ、溶解性を向上するための物質、等張化のための物質、緩衝剤、抗酸化剤、キレート化剤、保存料、乳化剤、及び作用を持続させるための添加剤である。
【0004】
水性非経口剤は血漿又はリンパ液に等張、又はほぼ等張でなければならない。低張又は高張の差が激しい場合には、通常、赤血球の損傷、又は組織刺激が起こる。強い低張液を静脈内投与した場合、溶血が起こり、比較的大量の高張液を供給した場合、原形質分離が起こる。
【0005】
水性非経口剤のpHもまた、重要な役割を果たす。血清には4つの緩衝系、すなわち炭酸/炭酸水素塩、血漿タンパク質、第一/第二リン酸塩、及びヘモグロビン/酸素ヘモグロビンが備わっている。血液のpHは7.30〜7.45である。点滴溶液のpHを生理的なpHの範囲に近似すること(体液衡(isohydria))は、安定性の理由で可能ではないことが多い。その場合、最大限可能な生理的なpHの範囲への近似(体水分正常(euhydria))が行われるに過ぎない。点滴溶液の忍容範囲は一般的にpH3.0〜10.5である。実際のpHと生理的なpHの範囲との差異によっては、血液の緩衝系が生理的なpHの範囲に近似するのを可能にするために、十分に時間をかけて点滴を行うことが必要となる。
【0006】
点滴溶液を例えば、酢酸緩衝剤、リン酸緩衝剤又はクエン酸緩衝剤を用いて緩衝することは、血液生来のpH安定化が重複して(superposed)しまうという短所がある。それゆえ、血液生来のpH安定化を保つためには、点滴薬物の緩衝は可能なら行うべきではない。他方で、強酸又は強塩基(例えば、HCl又はNaOH)を用いたpHの調整は緩衝作用に全く結びつかず、それゆえ議論の余地は少ない。
【0007】
パラセタモールの点滴溶液は、従来技術で既知である。
【0008】
ドイツ連邦共和国では、パラセタモールの点滴溶液はPerfalgan(登録商標)の名称で市販されている。該点滴溶液は、特に手術後における中程度の強さの疼痛の短期的治療に、及び緊急の鎮痛若しくは解熱を要するために静脈内投与が臨床的に適正とされた場合、又は他の種類の投与が可能でない場合の発熱の短期的治療に提示される。投与は、15分間の点滴として行われる。パラセタモールに加えて、該点滴溶液は他の構成要素としてシステイン塩酸塩一水和物、リン酸一水素ナトリウム二水和物、塩酸、マンニトール、水酸化ナトリウム及び注射用水を含有する。ナトリウムの含有量は0.04mg/mlと指定されている。有効期間は2年間と指定されているが、保存は30℃超で又は冷蔵庫中で行われるべきではない。
【0009】
特許文献1は、有機溶媒、特にエタノール及びベンジルアルコールを基剤とする、緩衝されたパラセタモール注射形態を開示する。キレート化剤及び抗酸化剤が安定化剤として添加されている。
【0010】
特許文献2は、特に有機溶媒、キレート化剤及び抗酸化剤を含有する、リドカイン塩酸塩と組み合わせたパラセタモールの非経口投与用の、緩衝された組成物を開示する。
【0011】
特許文献3は、パラセタモール、並びにアスコルビン酸、N−アセチル−L−システイン、及び他のSH基含有安定化剤からなる群から選択される抗酸化剤の緩衝された水溶液に関する。溶液はNaClを使用して等張にされている。
【0012】
特許文献4は、フリーラジカル捕捉剤又はフリーラジカル拮抗剤を含有する、パラセタモールの緩衝された水溶液を開示する。
【0013】
特許文献5は、プロピレングリコール及びクエン酸緩衝剤を含有し、所定の熱処理により得られるパラセタモールの水溶液に関する。
【0014】
特許文献6は、グルコース、フルクトース又はグルコネート、及びホルムアルデヒドスルホキシレート、亜硫酸ナトリウム又は亜ジチオン酸ナトリウムを含有する、パラセタモールの緩衝された水溶液を開示する。
【0015】
特許文献7は、パラセタモール、並びにアスコルビン酸、N−アセチル−L−システイン、及び他のSH基含有安定化剤からなる群から選択される抗酸化剤の水溶液に関する。溶液は、NaClを使用して等張にされ、1mg/l未満の酸素含有量を有する。
【0016】
特許文献8及び特許文献9は、2ppm未満の酸素含有量を有する、パラセタモールの緩衝された水溶液を調製する方法に関する。
【0017】
特許文献10は、緩衝剤、等張化剤、及びパラセタモール二量体を含有する、水性パラセタモール製剤を開示する。
【0018】
特許文献11は、ナノ粒子形態のパラセタモールを含有する組成物に関する。
【0019】
特許文献12は、要約書によると、組成物、特に、パラセタモールの非経口投与用の、活性成分がポリエチレングリコール及びプロピレングリコールに溶解した組成物を開示する。該組成物は、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤及び注射調製物の製造に好適である。しかしながら、要約書からは水性組成物に関する情報は得られず、特に点滴溶液に関しては同様に得られない。
【0020】
特許文献13は、ポリエチレングリコール及びアルコールを含有し、使用前に水で希釈して注射可能な溶液をもたらす、本質的に無水のパラセタモール組成物に関する。
【0021】
特許文献14は、キレート化剤、抗酸化剤及び緩衝剤を含有するパラセタモール組成物を開示する。
【0022】
特許文献15は、鼻腔投与用の、本質的に無水のパラセタモール組成物に関する。
【0023】
特許文献16は、経口投与用のパラセタモールナノ分散液を開示する。
【0024】
しかしながら、従来技術で既知の、パラセタモールの非経口投与用の医薬組成物は、あらゆる観点で満足のいくものではない。パラセタモールは、比較的溶解度に乏しい上に酸化されやすく、そのため、組成物の相応な保存安定性を保証するために、通例適切な基準が定められている。
【0025】
それゆえ、パラセタモールの非経口投与用の医薬組成物は通例緩衝される。そうすることで血液生来の緩衝作用が緩衝剤と重複し、適切な場合であっても、比較的時間をかけた点滴のみが可能になる。リン酸緩衝剤の場合、特に二価の金属カチオン(Ca2+、Mg2+)を伴うと、不溶性の複合体が生成し得る。これは、適切な欠乏症の患者に有害作用があるだけでなく、適切な電解液との同時点滴(一定の状況で提示され得る)を困難にする。
【0026】
さらには、既知の医薬組成物の多くは、比較的高い電解質濃度(特にナトリウムイオン)を含有し、細胞から間質中への水の浸透圧による移動につながり得る。
【0027】
さらに、パラセタモールの非経口投与用の医薬組成物は、通例複数の異なる成分を含有するが、これは特に経済的な観点で不利である。非経口剤の特定の要件のため、特定の純度の基準が保たれ、定期的に分析的なモニタリングがなされなければならない。それゆえ、パラセタモールの非経口投与用の既知の医薬組成物は、通例不適合及び副作用を引き起こし得る或る特定の抗酸化剤を含有する。このような抗酸化剤が省かれた場合、これは通例保存安定性の低下につながる。
【0028】
他のパラセタモールの非経口投与用の医薬組成物は、無水形態、特にアルコール性溶液の形態に調製される。これは投与直前に、例えば水で希釈されなければならない。これらの組成物は、それゆえ、それ自体で即時使用可能ではなく、それらが使用可能となる前に、特別な、相対的に複雑な(involved)調製物の計量を必要とする。そのようにして得られるアルコール性で水性組成物には、特にアルコール含有量のために、無視できない短所がある(例えば、点滴に不向きである)。希釈のような調製物の計量もまた、コンタミネーションを導入する危険を常に伴い、これは滅菌基準でリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】欧州特許出願公開第916347号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0203175号
【特許文献3】国際公開第02/072080号
【特許文献4】米国特許第6,028,222号
【特許文献5】国際公開第03/033026号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1889607号
【特許文献7】欧州特許出願公開第1752139号
【特許文献8】米国特許第6,992,218号
【特許文献9】仏国特許出願公開第2809619号
【特許文献10】米国特許出願公開第2006/0084703号
【特許文献11】米国特許出願公開第2006/0292214号
【特許文献12】韓国特許第930011994号
【特許文献13】国際公開第00/07588号
【特許文献14】米国特許第2005/203175号
【特許文献15】国際公開第01/08662号
【特許文献16】国際公開第2008/007150号
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】G. G. Graham et al., Drug Safety, 2005, 28(3), 227-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、従来技術の医薬組成物と比較して利点がある、非経口投与に利用可能な医薬組成物を作製するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この目的は、本発明の特許請求の範囲の主題により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
驚くべきことに、パラセタモールは電解質濃度が低く保たれた場合、酸化的分解に対して安定化され得ることが分かった。電解質の添加は、不安定化につながる。
【0034】
導電率を電解質の含有量の測定に用いる場合、導電率が増加するにつれ保存安定性は低下する。これにより、最小限の成分で間に合わせることができ、それにもかかわらず相応な保存安定性を有する、パラセタモールの非経口投与用の組成物、特に点滴溶液を調製することが可能である。
【0035】
外見上は電気的に中性な、一貫して非イオン性、又は双性イオン性の化合物を成分として添加した場合、実質的に組成物の導電率は増加せず、このため、組成物の高い保存安定性は保たれ、必要に応じて、成分の種類によってはさらに改善され得る。
【0036】
本発明は、パラセタモールを含有し、最大200μS/cmの導電率を有する、好ましくは点滴溶液の形態の、非経口投与用の水性医薬組成物に関する。
【0037】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は水性である。非経口投与を意図しているため、本発明による組成物は好ましくは注射用水(欧州薬局方(Ph. Eur.))を含有する。好ましくは、注射用水は、本発明による組成物の唯一の液体の構成要素である。それゆえ、本発明による組成物は、好ましくは有機溶媒を含有しない。これらのうちで、当業者に既知の本質的に低分子量の有機化合物は全て、水中でのパラセタモールの溶解度を増大させる目的でのみ利用される。これらは、とりわけアルコール、特にエタノール、プロピレングリコール、グリセロール、ベンジルアルコールのようなC〜Cアルカノール、及び水酸基を含有する他の低分子量有機化合物を含む。さらなる候補は、より高分子量の物質、特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びそれらの混合物又は共重合体である。特に好ましくは、本発明による組成物は、C〜Cアルカノール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコール(PEG)からなる群から選択される有機溶媒を含有しない。
【0038】
点滴溶液及び注射溶液は、原則として互いに区別される。
【0039】
注射とは、滅菌済薬物を体内に、注射器、及び中空針を使用して注入することである。一回の注入の容量は、通例0.1ml〜20mlである。点滴とは対照的に、薬物は、数秒から最大数分の間、手動の圧力が注射器に加えられて投与される。注射は静脈内には行われないことが多く、例えば、皮下、又は筋肉内に行われる。この場合、局所的な作用が達成されるか、又はそうでなければ、全身的な作用のためには、活性成分の持効性型が局所的に形成され、そこから活性成分が血液循環中に徐々に放出される。薬物が静脈内に注射される場合、厳重な注意が必要とされる。投与中の投与速度(1ml/分〜3ml/分)が正確に保たれることがとても重要である。この方法では最大5mlを注射しても良い。必要な投与量がより大きい場合、薬物は担体溶液中に注入し、短時間の点滴の手段で与えられなければならない。点滴の基本的な違いは、注射の場合には通例、より大きな血管に針が打たれると意図せぬ静脈内投与又は動脈内投与が起こり、これは、例えばアナフィラキシーショックを引き起こし得るため、特により大きな血管に針を打たないように配慮することからも明らかである。
【0040】
点滴とは、通例、時間をかけた、通常、相対的に大量の(薬剤含有)液体の体内への滴下による流入のことであり、点滴の持続時間によって、持続点滴(数時間(several hours)、また多くの場合、中断することなく24時間)と短期点滴(3時間未満、多くの場合15分〜30分)とに区別することができる。流入は通例、注射とは異なり、圧力の積極的な行使によるものではなく、補給機(supply)中の液柱の静水圧によって起こるものである。点滴は多くの場合静脈内で行われる。それゆえ、点滴溶液の組成物は、通常注射溶液の組成物とは特に活性成分濃度の点で根本的に異なる。
【0041】
好ましいことには、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液中では、全ての成分が完全に溶解した形で存在し、すなわち、好ましくは分散液ではなく、乳濁液や懸濁液でもない。本発明による組成物は好ましくは粒子及び変色(discoloration)を含まない。特に、本発明による組成物は、好ましくはナノ粒子も含有しない。
【0042】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、パラセタモール(アセトアミノフェン)を含有する。パラセタモールは、好ましくは完全に溶解した形で存在する。本発明による組成物中でのパラセタモールの濃度は、室温で、好ましくはその飽和濃度未満であり、特に好ましくは少なくともその飽和濃度の95%未満の濃度(95% below its saturation concentration)である。好ましい実施形態では、パラセタモールの濃度は、組成物を基準として10.0±7.5g/l、10.0±6.0g/l、10.0±5.0g/l、10.0±4.0g/l、10.0±3.0g/l又は10.0±2.5g/l;より好ましくは10.0±2.0g/l、さらにより好ましくは10.0±1.5g/l、最も好ましくは10.0±1.0g/l、及び特に10.0±0.5g/lの範囲である。
【0043】
好ましい実施形態では、パラセタモールの含有量は、組成物を基準として、1.2重量%未満、又は重量で1.3重量%超のいずれかである。
【0044】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、パラセタモールに加えてさらなる活性成分を含有し得る。しかしながら、好ましくは本発明による組成物は、唯一の活性成分としてパラセタモールを含有する。
【0045】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、最大200μS/cmの導電率を有する。水溶液の導電率の測定は、当業者に既知であり、好適な測定機器は商業的に入手可能である。導電率は好ましくは室温で測定される。好ましくは、本発明による組成物の導電率は、最大190μS/cm、最大180μS/cm、最大170μS/cm、最大160μS/cm、最大150μS/cm、最大140μS/cm、最大130μS/cm、最大120μS/cm又は最大110μS/cm;より好ましくは最大100μS/cm、最大90μS/cm、最大80μS/cm、最大70μS/cm、又は最大60μS/cm;さらにより好ましくは最大50μS/cm、最大40μS/cm、又は最大30μS/cm;最も好ましくは最大25μS/cm、最大20μS/cm又は最大15μS/cm;及び特に最大12.5μS/cm、最大10μS/cm又は最大7.5μS/cmである。
【0046】
従って、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、比較的低い導電率により区別される。このため、比べてみると等張食塩水溶液(0.9重量%のNaCl)の導電率は7500μS/cm超である。水性組成物の導電率は、本質的にイオンによって影響される。このことは、コールラウシュの法則、又はデバイ・ヒュッケル・オンサガーの法則による平方根則に基づいて予想することができる。実験項中でより詳細に示されるように、パラセタモール自体は、実質的に、導電率には寄与しない(1000mlの水中に10gのパラセタモール:約4μS/cm)。しかしながら、100mgのNaClをこの活性成分溶液に添加すると(0.01重量%のNaCl)、すぐに導電率が約200μS/cmへと増加することにつながる。
【0047】
非経口投与用の医薬組成物、好ましくは点滴溶液に関連して、電解質及び緩衝剤は特に、導電率への影響を有する。したがって、本発明による組成物は、仮にあったとしても比較的少量の電解質及び/又は緩衝物質しか含有しない。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、実質的に、3価の電解質、例えば、PO3−及びHOC(COを含有しない。他の好ましい実施形態では、本発明による組成物は、実質的に、2価の電解質、例えば、Ca2+、Mg2+、HPO2−及びHOC(COCOHを含有しない。さらなる好ましい実施形態では、本発明による組成物は、実質的に、1価の電解質、例えば、Na、K、NH、Cl、CHCO、HPO及びHOCCO(COH)を含有しない。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、最大5mmol/l/pHの緩衝能βを有する。緩衝能βの定義及び決定は当業者に既知である。一般的に、緩衝能とは、組成物のpHを一単位変えるために必要な強いタンパク質分解物質(proteolyte)(酸又は塩基)の物質量である。好ましくは、緩衝能の測定は室温で行われる。
【0050】
好ましくは、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、最大4.5mmol/l/pH、最大4.0mmol/l/pH、最大3.5mmol/l/pH、最大3.0mmol/l/pH、最大2.5mmol/l/pH、最大2.0mmol/l/pH、最大1.5mmol/l/pH、又は最大1.0mmol/l/pH;好ましくは最大0.9mmol/l/pH、最大0.8mmol/l/pH、最大0.7mmol/l/pH、最大0.6mmol/l/pH、最大0.5mmol/l/pH、最大0.4mmol/l/pH、最大0.3mmol/l/pH、最大0.2mmol/l/pH、又は最大0.1mmol/l/pH;さらにより好ましくは最大0.09mmol/l/pH、最大0.08mmol/l/pH、最大0.07mmol/l/pH、最大0.06mmol/l/pH、最大0.05mmol/l/pH、最大0.04mmol/l/pH、最大0.03mmol/l/pH、最大0.02mmol/l/pH又は最大0.01mmol/l/pH;最も好ましくは最大0.009mmol/l/pH、最大0.008mmol/l/pH、最大0.007mmol/l/pH、最大0.006mmol/l/pH、又は最大0.005mmol/l/pHの緩衝能βを有する;特に好ましくは、本発明による組成物は、実質的に緩衝されていない。
【0051】
好ましくは、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、5.0〜7.5の範囲のpHを有する。好ましい実施形態では、本発明による組成物は5.5±0.5、より好ましくは5.5±0.4、さらにより好ましくは5.5±0.3、最も好ましくは5.5±0.2、及び特に5.5±0.1の範囲のpHを有する。他の好ましい実施形態では、本発明による組成物は6.0±0.5、より好ましくは6.0±0.4、さらにより好ましくは6.0±0.3、最も好ましくは6.0±0.2、及び特に6.0±0.1の範囲のpHを有する。さらなる好ましい実施形態では、本発明による組成物は、6.5±0.5、より好ましくは6.5±0.4、さらにより好ましくは6.5±0.3、最も好ましくは6.5±0.2、及び特に6.5±0.1の範囲のpHを有する。他の好ましい実施形態では、本発明による組成物は7.0±0.5、より好ましくは7.0±0.4、さらにより好ましくは7.0±0.3、最も好ましくは7.0±0.2、及び特に7.0±0.1の範囲のpHを有する。
【0052】
特に好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液のpHは、生来のものであり、すなわち、成分によって決まり、緩衝剤の添加、及び強酸又は強塩基の添加のいずれにも影響されない。
【0053】
好ましくは、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、1つ以上の非イオン性等張化剤を含有する。好適な非イオン性等張化剤は当業者に既知であり、特にグルコース、フルクトース、及びマンニトールである。好ましくは、非イオン性等張化剤は糖アルコール、特にマンニトール(マンニット)である。
【0054】
非イオン性等張化剤、好ましくはマンニトールの濃度は、組成物を基準として、好ましくは、35±25g/l、より好ましくは35±20g/l、さらにより好ましくは35±15g/l、最も好ましくは35±10g/l、及び特に35±5g/lの範囲である。好ましい実施形態では、組成物、好ましくは点滴溶液を基準として、マンニトールの絶対含有量は、0.91重量%未満又は1.17重量%超のいずれかである。
【0055】
好ましくは、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液中における非イオン性等張化剤、好ましくはマンニトールの重量比率は、パラセタモールの重量比率よりも大きい。好ましくは、非イオン性等張化剤:パラセタモールの相対重量比は>1:1、より好ましくは>1.5:1、さらにより好ましくは>2:1、最も好ましくは>2.5:1、及び特に>3:1又は>3.5:1である。好ましい実施形態では、パラセタモールのマンニトールに対する相対重量比は、1:0.7超、又は1:1未満のいずれかである。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、適切な場合、マンニトールに加えてシステインを含有する。システインはpH7では双性イオンとして存在するが、本発明によると、システインは電気的中性であるために、非イオン性等張化剤として解釈され、それは実質的に、組成物の導電率に寄与しない。pH5.5〜7では、システインは緩衝剤の性質を全く持たないことが分かった。
【0057】
システインの濃度は、組成物、好ましくは点滴溶液を基準として、好ましくは0.1±0.09g/l、より好ましくは0.1±0.08g/l、さらにより好ましくは0.1±0.07g/l、最も好ましくは0.1±0.06g/l、及び特に0.1±0.05g/lの範囲である。
【0058】
好ましくは、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液中におけるパラセタモールの重量比率はシステインの重量比率より大きい。好ましくは、パラセタモール:システインの相対重量比は>50:1、より好ましくは>60:1、さらにより好ましくは>70:1、最も好ましくは>80:1、及び特に>90:1又は>95:1である。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、マンニトール及びシステインの両方を含有する。この場合、本発明による組成物中におけるマンニトールの重量比率は、好ましくはシステインの重量比率より大きい。好ましくは、マンニトール:システインの相対重量比は>100:1、より好ましくは>200:1、さらにより好ましくは>250:1、最も好ましくは>300:1、及び特に>350:1又は>360:1である。
【0060】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、仮にあったとしても、全て合わせて最大100mmol/l、より好ましくは全て合わせて最大10mmol/l、さらにより好ましくは全て合わせて最大1.0mmol/l、最も好ましくは全て合わせて最大0.1mmol、及び特に全て合わせて最大0.01mmol/lのアルカリ金属カチオンしか含有しない。好ましい実施形態では、本発明による組成物は実質的に溶解した状態及び固体のいずれの塩も含有しない。この組成物中では、等電点条件下の双性イオン性化合物、例えば、システインのようなアミノ酸は塩とは解釈されない。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、キレート化剤,
例えば、EDTAを含有しない。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、全て合わせて最大5つの成分を含有する。すなわち、パラセタモール及び水に加えて、組成物は最大3つのさらなる成分からなる。水中で解離してカチオン、及びアニオンを与えるイオン性化合物は、ここでは2つの化合物と数える。特に好ましくは、本発明による組成物は最大4つの成分を含有する。特に好ましくは、本発明による組成物は、水、パラセタモール、及びマンニトール及び/又はシステインからなる。
【0063】
特に好ましい実施形態では、本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、水、パラセタモール、及び1つ以上の非イオン性等張化剤のほかには、さらなる成分を全く含有しない。
【0064】
本発明による組成物は、好ましくは即時使用可能、すなわち、好ましくは特に、特別な調製物の計量なしに直ちに投与できる(使用準備済)。すなわち、好ましくは、本発明による組成物を希釈したり、さらなる成分を加える必要なく、組成物を患者に投与することができる。
【0065】
本発明による組成物は、非経口投与、特に静脈内点滴を目的とし、すなわち、好ましくは点滴溶液である。この目的のために、組成物が生理学的に忍容可能なモル浸透圧濃度(osmolarity(またはosmolality))を有することが必要である。好ましくは、本発明による組成物は、少なくとも0.22osmol/l、より好ましくは少なくとも0.23osmol/l、より好ましくは少なくとも0.24osmol/l、さらにより好ましくは少なくとも0.25osmol/l、最も好ましくは少なくとも0.26osmol/l、及び特に少なくとも0.27osmol/lのモル浸透圧濃度を有する。好ましくは、本発明による組成物は、最大0.36osmol/l、より好ましくは最大0.34osmol/l、より好ましくは最大0.32osmol/l、さらにより好ましくは最大0.30osmol/l、最も好ましくは最大0.29osmol/l、及び特に最大0.28osmol/lのモル浸透圧濃度を有する。比べて、等張食塩水溶液は、0.9%(質量%)の塩化ナトリウムを含有し、血液血漿のモル浸透圧濃度に近似の308mosmol/lのモル浸透圧濃度に対応する。リンガー点滴溶液の理論的モル浸透圧濃度は309mOsm/lである。乳酸リンガー溶液の理論的モル浸透圧濃度は262mOsm/lと293mOsm/lとの間である。
【0066】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、優れた保存安定性によって区別される。驚くべきことに、低い導電率で、及びそれに伴って、対応するより低い電解質濃度で、緩衝物質を完全に省くことができ、それにもかかわらず相応な保存安定性が達成されることが分かっている。好ましくは、密閉容器中で4週間、60℃で保存後のパラセタモールの含有量は、好ましくは実験項中により綿密に示される条件の下で、元来、すなわち、保存前に組成物中に含有されるパラセタモールの少なくとも99.0%、より好ましくは少なくとも99.2%、さらにより好ましくは少なくとも99.4%、最も好ましくは少なくとも99.6%、及び特に少なくとも99.8%である。
【0067】
本発明による組成物、好ましくは点滴溶液は、当業者に既知の従来法により調製することができる。好ましくは、本明細書では初めに、
A)0.50mg/l未満の酸素含有量を有する注射用水を導入し;
B)パラセタモール及びさらなる成分を、可能な限り広範に酸素を排除しながら、所望量でA)の水に溶解させ、
C)必要に応じて、溶液のpHを生理学的に忍容可能な酸又は塩基の添加により所望の値に調整する。
便宜的に、
D)次に、所望のpHに調整した溶液を0.2μmメンブレンフィルターで濾過し、続いて、点滴溶液の容器中に充填し、121℃で15分加熱滅菌する。
【0068】
本発明による溶液の調製法のさらなる好ましい変法は、工程A)で、酸素を追い出すために水に不活性ガスを通し、工程B)の混合の間、および適切な場合、全てのさらなる工程で、作業は不活性ガス雰囲気下で実行される。
【0069】
本発明のさらなる態様は、本発明による組成物を含有する容器に関する。ここで、本発明による組成物は、好ましくは、「使用準備済」調製物である、すなわち、直ちに使用できる。特に、好ましくは、使用前に希釈工程又は溶解工程は必要ない。
【0070】
本発明による組成物は、非経口剤調製物に関して通例の容器中にパッケージングされる。容器は、即時注射可能な(injection-ready)溶液用に関して通例であるような、瓶又は袋であり得る。ガラス製又はプラスチック製の容器が好ましい。容器がプラスチック容器ならば、プラスチック容器は好ましくはポリオレフィン系の材料からなり、任意に酸素障壁層を含有する二つ目の袋で包まれ、これらの袋の間に酸素吸収剤を有することができる。好適なパッケージング材料は当業者に既知である。これに関しては、例えば、E. Bauer, Pharmaceutical Packaging Handbook, Informa Health Care 2009;又はD. A. Dean, Pharmaceutical Packaging Technology, Taylor & Francis 2000において十分に言及が為されている。
【0071】
本発明による組成物は、保護的ガス下、例えばN、CO、又はAr下でパッケージングされてもよい。好ましい実施形態では、本発明による組成物は、最大50ppm、より好ましくは最大20ppm、さらにより好ましくは最大10ppm、最も好ましくは最大5ppm、及び特に最大2ppm又は最大1ppmの溶存酸素含有量を有する。
【0072】
好ましくは、組成物は有機溶媒を含まず、5.5〜7の範囲のpH、及び最大2.00mg/l、より好ましくは最大1.50mg/l、さらにより好ましくは最大1.25mg/l、最も好ましくは最大1.00mg/l、及び特に最大0.50mg/lの酸素含有量を有する。
【0073】
本発明による組成物の非経口投与は、基本的に全ての通例の手段で、特に静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、脳室内、関節内、眼球内、脊髄内、脳槽内、腹腔内、鼻腔内、又はエアロゾルとして実行することができる。好ましくは、投与は静脈内に実行され、その際、組成物は好ましくは点滴溶液として提示される。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明による組成物は、2分〜24時間にわたる、より好ましくは3分〜6時間の間にわたる、さらにより好ましくは5分〜1時間にわたる、最も好ましくは10分〜45分にわたる、及び特に15分の静脈内点滴のために調製される点滴溶液である。
【0075】
本発明のさらなる一態様は、疼痛の治療用の上記の組成物、好ましくは点滴溶液、又は疼痛の治療用の上記の組成物の製造のためのパラセタモールの使用に関する。好ましくは疼痛は中程度の強さの疼痛、好ましくは手術後の疼痛である。
【0076】
好ましい実施形態では、患者は高齢の又は小児科の患者である。
【0077】
以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、限定的になることを意図しない。
【実施例】
【0078】
パラセタモール及びさらなる成分の水溶液を調製した。溶液の導電率を測定し、パラセタモールの保存安定性を、分解生成物の生成により決定する(二量体の生成については、例えば、D. W. Pottert et al, J Biol Chem, 1985, 280(22), 12174-80; W. Clegg et al., Acta Crystallographica, 1998, C54, 1881-2を参照されたい)。
【0079】
結果は以下の2つの表にまとまっている。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラセタモールを含有し、最大200μS/cmの導電率を有する、点滴溶液の形態の、水性医薬組成物であって、C〜Cアルカノールおよびポリエチレングリコールを含有しない、組成物。
【請求項2】
最大5.0mmol/l/pHの緩衝能βを有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
5.0〜7.0の範囲のpHを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
非イオン性等張化剤を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記非イオン性等張化剤が糖アルコールであることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記非イオン性等張化剤の重量比率がパラセタモールの重量比率よりも大きいことを特徴とする、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも0.25osmol/lのモル浸透圧濃度(osmolarity)を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
事実上塩を含有しないことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
パラセタモールが10.0±5.0g/lの濃度で存在することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
4週間、60℃で保存後のパラセタモールの含有量は、元来組成物中に含有されるパラセタモールの少なくとも99.0%であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
使用準備済形態で存在することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
最大0.36osmol/lのモル浸透圧濃度を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
静脈内点滴用の点滴溶液が2分〜24時間の間にわたって調製されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
疼痛の治療用の、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記疼痛が手術後の疼痛であることを特徴とする、請求項14に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−524738(P2012−524738A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506383(P2012−506383)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002368
【国際公開番号】WO2010/121762
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(509063694)フレゼニウス カービ ドイチュラント ゲーエムベーハー (8)
【Fターム(参考)】