説明

非線形心拍変動測度を用いた虚血の検出

システムおよび方法は、複数の心臓徴候にアクセスするステップを含む。心臓徴候は、RR間隔またはPP間隔を含む。心拍変動計量は、ある種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の心臓徴候を解析することによって生成される。非線形測定値は、様々な例における近似エントロピ、ポアンカレプロットによるX−Y散布図、フラクタル次元、およびトレンド除去ゆらぎ解析を含むがこれらに限定されない。心拍変動計量に基づいて心虚血状態が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形心拍変動測度を用いた虚血の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
(優先権主張)
本出願は2009年4月22日に出願された米国仮特許出願第61/171,636号明細書、2009年11月4日に出願された同第61/257,904号明細書、および2009年11月4日に出願された同第61/257,910号明細書に対して35 U.S.C.§119(e)の下で優先権の利益を主張し、これらは全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0003】
心臓は、人の循環系の中心である。これは、2つの主要なポンプ機能を行う電気機械システムを含む。心臓の左部は肺から酸素と結合した血液を取り出し、これを体内の臓器に送り出して臓器の酸素代謝要求を満たす。心臓の右部は体内の臓器から脱酸素化された血液を取り出し、これを血液を酸素と結合させる肺に送り出す。これらのポンプ機能は、心筋の収縮から得られる。正常な心臓では、心臓の天然のペースメーカである洞房結節が電気伝導系を通って心臓の様々な領域に伝播して、これらの領域の心筋組織を興奮させる電気インパルスを発生する。正常な電気伝導系における電気インパルスの伝播の協調遅延は、心臓の様々な部分を同期的に収縮させ効率的なポンプ機能をもたらす。ブロックされた、あるいは異常電気伝導および/または悪化した心筋組織は心臓の非同期収縮を引き起こして、心臓および身体の他の部位への血液供給の低下を含む、血流動態性能の低下をもたらす。心臓が身体の代謝要求を満たすのに十分な血液を送り出せない状態は、心不全として知られる。
【0004】
虚血とは、身体の一部分が十分な酸素と、血管の閉塞によって生じる血液供給の中断により代謝産物除去とが損なわれた状態である。虚血の一例は心虚血である。すなわち、心虚血とは、冠動脈の閉塞などにより、心筋における十分な酸素と血液の供給が中断され、代謝産物除去が損なわれた状態である。
【0005】
心筋梗塞(MI)は、心虚血から生じる心筋組織の一部の壊死である。梗塞組織として知られる壊死組織は、正常な健康心筋組織の収縮特性を失っている。したがって、心筋の全体的な収縮性は低下しており、血流動態性能が損なわれる。心筋梗塞が発症すると、梗塞組織の領域の拡張を伴って心臓リモデリングが開始され、左心室全体のサイズが慢性的に広範な拡張をきたし、形状変化に進行する。その結果は、血流動態性能のさらなる低下と心不全発症のリスクの顕著な増大、ならびに心筋梗塞を再発するリスクを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
急性心筋梗塞(AMI)は、米国において約80万人に影響を与えている主要な死因の1つである。本発明者らは、とりわけ、急性心筋梗塞の発症を検出するための信頼性の高いメカニズムには、患者のケアおよび転帰を改善することが求められていることを認識している。
【0007】
急性心筋梗塞の発症を検出するために採用される1つのメカニズムは、患者の心拍変動(HRV)を解析するステップを含む。心拍変動の種々の計量(metric)は、対照患者と比較して虚血性狭心症の患者には顕著な差異があることが示されている。ECG信号の1つのRピークから隣接するRピークまでの時間または距離によって定義される間隔
である「RR間隔」を使用すると、心拍変動は、1つまたはそれ以上の変動パラメータを用いて判定されうる。RR間隔の線形測度(measure)は虚血の徴候(indication)とわずかな相関を示したが、一部の非線形測度は比較的高い相関を示した。したがって、心拍変動の非線形測度を利用するシステムおよび方法は、有効な予知手段または診断手段として使用されうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
例1は、機械可読媒体とこの機械可読媒体に通信可能に結合されたプロセッサとを備えるシステムを表わす。機械可読媒体は、プロセッサによって実行されるとき、複数の心臓徴候にプロセッサをアクセスさせる命令を含みうる。プロセッサは、この後、ある種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の心臓徴候を解析することによって心拍変動計量を生成しうる。心拍変動計量に基づいて、プロセッサは、この後、心虚血状態を検出しうる。心虚血状態の徴候は、この後、ユーザまたは処理に提供されうる。
【0009】
例2では、例1のシステムは、任意選択的に、複数の心臓徴候がRR間隔およびP−P間隔を含むように構成されうる。
例3では、例1または2のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値が近似エントロピを含むように構成されうる。
【0010】
例4では、例1〜3のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値がポアンカレプロットによるX−Y散布図を含むように構成されうる。
例5では、例1〜4のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値がフラクタル次元を含むように構成されうる。
【0011】
例6では、例1〜5のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値がトレンド除去ゆらぎ解析を含むように構成されうる。
例7では、例1〜6のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、心虚血状態が心虚血を示すとき治療を開始し、調整し、または終了するように構成されうる。
【0012】
例8では、例1〜7のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いてベースライン心拍変動計量を確立するように構成されうる。プロセッサは、この後、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて第2の心拍変動計量を取得して、ベースライン心拍変動計量を第2の心拍変動計量と比較し、この比較結果を提供することができる。プロセッサは、この比較結果を使用して心虚血状態を検出しうる。
【0013】
例9では、例1〜8のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて、複数の連続的な心拍変動計量を取得するように構成されうる。プロセッサは、この後、複数の連続的な心拍変動計量のトレンドを示して、トレンド付き心拍変動を提供しうる。
【0014】
例10では、例1〜9のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、トレンド付き心拍変動を用いて心虚血状態を検出するように構成されうる。
例11では、例1〜10のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、心拍変動計量を生成するための命令が、ある期間にわたるRR間隔の変動を判定するための命令を含むように構成されうる。
【0015】
例12では、例1〜11のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、RR間隔の変動を判定するための命令が、RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)を構成するための命令を含むように構成されうる。
【0016】
例13では、例1〜12のいずれか1つまたはそれ以上のシステムは、任意選択的に、期間が30秒〜24時間の持続時間を有するエポックであるように構成されうる。
例14は、複数の心臓徴候にアクセスできるようにするステップを備える方法を表わす。当該方法は、この後、ある種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の心臓徴候を解析することによって心拍変動計量を生成する動作を含む。この後、この心拍変動計量に基づいて、当該方法は、心虚血状態を検出して心虚血状態の徴候をユーザまたは処理に提供する動作を含む。
【0017】
例15では、例14の方法は、任意選択的に、複数の心臓徴候が、RR間隔およびP−P間隔を含むように実施されうる。
例16では、例14または15の方法は、任意選択的に、当該種の非線形測定値が近似エントロピ、ポアンカレプロットによるX−Y散布図、フラクタル次元、およびトレンド除去ゆらぎ解析を含むように実施される。
【0018】
例17では、例14〜16のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、心虚血状態が心虚血を示すとき治療を開始し、調整し、または終了するように実施されうる。
【0019】
例18では、例14〜17のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いてベースライン心拍変動計量を確立するステップをさらに備えて実施されうる。当該方法は、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて第2の心拍変動計量を取得するステップを備える。また、当該方法は、ベースライン心拍変動計量を第2の心拍変動計量と比較して比較結果を提供し、この後、この比較結果を用いて心虚血状態を検出するステップを備える。
【0020】
例19では、例14〜18のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の連続的な心拍変動計量を取得し、この後、複数の連続的な心拍変動計量のトレンド処理を行い、トレンド付き心拍変動を提供しうる。
【0021】
例20では、例14〜19のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、トレンド付き心拍変動を用いて心虚血状態を検出するステップをさらに備えて実施されうる。
【0022】
例21では、例14〜20のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、心拍変動計量を生成するステップが、ある期間にわたるRR間隔の変動を判定するステップを備えるように実施されうる。
【0023】
例22では、例14〜21のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、RR間隔の変動を判定するステップは、RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)を構成するステップを備えるように実施されうる。
【0024】
例23では、例14〜22のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、期間が30秒〜24時間の持続時間を有するエポックでありうるように実施されうる。
例24では、例14〜23のいずれか1つまたはそれ以上の方法は、任意選択的に、虚血状態を臨床医に通信するステップをさらに備えて実施されうる。
【0025】
例25は、メモリ素子とこのメモリ素子に結合されたセンサ素子とからなる装置を表わし、当該センサは複数の心周期の複数の心臓徴候を感知し、複数の心周期の複数の計量を
メモリ素子に保存するように構成される。当該装置は、ある種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の心臓徴候を解析することによって心拍変動計量を生成する手段を含む。また、当該装置は、心拍変動計量に基づいて心虚血状態を検出する手段と、心虚血状態の徴候をユーザまたは処理に提供する手段とを含む。
【0026】
本概要は、本特許出願の主題の概要を提供するものである。これは、排他的または網羅的な説明を提供するものではない。本特許出願に関するさらなる情報を提供するために「発明を実施するための形態」が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】医師−患者間の通信を可能にするシステムの各部を示す図。
【図2】埋め込み型医療機器(IMD)システムを示す接続図。
【図3】埋め込み型医療機器(IMD)を示すブロック図。
【図4】RR間隔およびS1振幅の2つの非線形変動計量に従う、max dP/dT、RR間隔、およびS1振幅を示す一群のグラフ。
【図5】選択された心拍変動計量の変化とmax dP/dTの変化との関係の一例を示す一群の散布図。
【図6】RR間隔ベースの変動計量、収縮変動計量、およびmax dP/dTの関係を示す表。
【図7】選択されたS1変動計量の変化とmax dP/dTの変化との関係の例を示す一群の散布図。
【図8】心虚血状態を検出する方法を示すフローチャート。
【図9】虚血状態を判定するためのポアンカレプロットの使用例を示す図。
【図10】ペーシングパラメータを管理する方法を示すフローチャート。
【図11】コンピュータシステムの形態例における機械を示すブロック図であり、コンピュータシステム内では、本明細書に記載される方法のいずれか1つを機械に実施させる1組または一連の命令が様々な実施形態に従って実行されてもよいことを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面は必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、同様の参照符合は別の図においても同様のコンポーネントを表わす場合がある。異なる添え字を有する同様の参照符合は、同様のコンポーネントの別の事例を表わす場合がある。一部の実施形態は、以下の添付図面の図において、制限的なものではなく例示的なものとして示される。
【0029】
本明細書に記載する例は、非線形心拍変動測度によって虚血を検出するシステムおよび方法を含む。実験動物の冠動脈閉塞を管理する間に様々な心拍変動(HRV)測度を解析する研究が行なわれていた。閉塞事象前および閉塞事象後の間にmax dP/dTによって測定される、非線形心拍変動測度と心筋収縮能とに高い相関があることが観察された。以下でさらに詳しく説明するように、この相関に基づいて、非線形心拍変動測度は虚血の予知計量または診断計量として使用されうる。
【0030】
システムの概要
図1は、医師−患者間の通信を可能にするシステムの各部を示す。図1の例では、患者100には、移動式または埋め込み型医療機器(埋め込み型医療機器)102が提供される。埋め込み型医療機器の例として、ペースメーカ、埋め込み型除細動器(ICD)、心臓再同期治療ペースメーカ(CRT−P)、心臓再同期治療除細動器(CRT−D)、肺動脈(PA)圧力センサ、神経刺激装置、深部脳刺激装置、人口内耳、または網膜インプラントが挙げられる。一部の例では、埋め込み型医療装置102は、生理学的データを感知し、生理学的測度/相関を導出し、後に通信または参照するためのデータを保存することができる。生理学的データの例として、埋め込み型電位図、体表面心電図、心拍間隔(
例えば、AA、VV、AV、またはVA間隔)、頻拍性不整脈識別用などの電位図テンプレート、圧力(例えば、心内圧または全身圧)、酸素飽和度、身体活動、心拍変動、心音、インピーダンス、呼吸、内因性脱分極振幅などが挙げられる。図1には唯一の埋め込み型医療装置102が示されているが、複数の埋め込み型医療装置102が埋め込まれてもよいことは理解される。例えば、特定の機能を有する医療機器が、それらの機能に従って設置されうる。さらに、埋め込み型医療装置102は、各々の装置が1つまたはそれ以上の機能を有する複数の装置から構成されうる。
【0031】
埋め込み型医療装置102は、計算装置106との接続104を用いた双方向通信が可能である。計算装置は、入力を受信し、命令を処理し、データを保存し、人間が読める形式でデータを提示し、他の装置と通信することができる装置でありうる。場合によっては、計算装置は「トランシーバ」と呼ばれうる。埋め込み型医療装置102は、計算装置106からコマンドを受け取り、1つまたはそれ以上の患者徴候を計算装置106に通信することもできる。患者徴候の例として、心拍、心拍変動、頻拍性不整脈エピソード、血流動態安定性、身体活動、治療歴、自律平衡運動トレンド、頻拍性不整脈識別用電位図テンプレート、心拍変動トレンドまたはテンプレート、または感知された生理学的データから得られるトレンド、テンプレート、または抽象概念が挙げられる。患者徴候は、前述の生理学的データなど、1つまたはそれ以上の生理学的徴候を含む。また、埋め込み型医療装置102は、1つまたはそれ以上の装置示度を計算装置106に通信しうる。装置示度の例として、リード/衝撃インピーダンス、ペーシング振幅、ペーシング閾値などの装置計量が挙げられる。ある一定の例では、埋め込み型医療装置102は、感知された生理学的信号データを計算装置106に通信することができ、この後、計算装置106は信号データを処理するために遠隔装置に通信することができる。
【0032】
典型的には、計算装置106は、患者100にごく近接させて配置されうる。計算装置106は、パーソナルコンピュータ、または医療機器プログラマなどの特殊装置に取り付けたり、結合したり、一体化したり、組み込みうる。ある例では、計算装置106は携帯装置でありうる。いくつかの例では、計算装置106は、特殊装置またはパーソナルコンピュータでありうる。ある例では、計算装置106は、リモート・サーバ・システム108と通信するように構成されうる。計算装置106とリモート・サーバ・システム108との通信リンクは、コンピュータまたは遠隔通信ネットワーク110を介して行なわれうる。ネットワーク110は、様々な例において、インターネット、衛星テレメトリ、セルラーテレメトリ、マイクロ波テレメトリ、またはその他の長距離通信ネットワークなど、1つまたはそれ以上の有線または無線ネットワーキングを含みうる。
【0033】
ある例では、1つまたはそれ以上の患者歩行可能または不能な外部センサ112は、計算装置106またはリモート・サーバ・システム108と通信するように構成されうるし、感知されたデータなどの情報の送受信が可能である。外部センサ112は、温度(例えば、体温計)、血圧(血圧計)、血液特性(例えば、血糖値)、体重、体力、知力、食事、または心臓特性など、患者の生理学的データを測定するために使用されうる。また、外部センサ112は、1つまたはそれ以上の環境センサを含みうる。外部センサ112は、様々な地理的位置(患者にごく近接させて、あるいは集団全体に分散されて)に設置されうるし、例えば、温度、大気質、湿度、一酸化炭素濃度、酸素濃度、大気圧、光度、および音など、非患者特性を記録しうる。
【0034】
また、外部センサ112は、患者からの主観的データを測定する装置を含みうる。主観的データは、客観的な生理学的データとは対照的に、患者の感情、知覚、および/または意見に関係している情報を含む。例えば、「主観的な」装置は、「ご気分はいかがですか?」、「痛みはいかがですか?」、「おいしいですか?」などの質問に対する患者の応答を測定しうる。また、このような装置は、「空はどんな色ですか?」や「外は晴れていま
すか?」など、観察データに関係している質問を提示するように構成されうる。当該装置は、患者を刺激して、視覚的な合図および/または聴覚的な合図を用いて患者からの応答データを記録する。例えば、患者は符号化された応答ボタンを押したり、キーパッドで適切な応答を入力したりすることができる。あるいは、応答データは、患者にマイクに向かって話し掛けさせ、この応答を処理するために音声認識ソフトウェアを使用することによって収集されうる。
【0035】
一部の例では、リモート・サーバ・システム108は、データベースサーバ114、メッセージングサーバ116、ファイルサーバ118、アプリケーションサーバ120、およびウェブサーバ122など、1つまたはそれ以上のコンピュータを備える。データベースサーバ114は、リモート・サーバ・システム108における他のサーバでありうるクライアントにデータベースサービスを提供するように構成されうる。メッセージングサーバ116は、リモート・サーバ・システム108のユーザに対して通信プラットフォームを提供するように構成されうる。例えば、メッセージングサーバ116は、電子メール通信プラットフォームを提供しうる。ショート・メッセージ・サービス(SMS)、インスタントメッセージ、またはページングサービスなどの他のタイプのメッセージングが使用されうる。ファイルサーバ118は、文書、画像、およびウェブサーバ122用または汎用の文書リポジトリとして他のファイルを保存するために使用されうる。アプリケーションサーバ120は、1つまたはそれ以上のアプリケーションをウェブサーバ122に提供し、あるいはクライアント−サーバアプリケーションをクライアント端末126に提供しうる。これらのサーバ114、116、118、120、および112によって提供されるこれらのサービスの一部を有効にするために、リモート・サーバ・システム108は運用データベース124を含みうる。運用データベース124は、様々な機能に使用されうるし、1つまたはそれ以上の論理的または物理的に明確なデータベースから構成されうる。運用データベース124は、個々の患者、患者集団、患者臨床試験などの臨床医データを保存するために使用されうる。さらに、運用データベース124は、個々の患者、患者集団、患者臨床試験などの患者データを保存するために使用されうる。例えば、運用データベース124は、電子機器による医療記録システムからのコピー、一部、要約、またはその他のデータを含みうる。さらに、運用データベース124は、特定の患者または患者群に関する装置設定、特定臨床医または臨床医群に関する好ましい装置設定などの装置情報、装置メーカ情報などを保存しうる。さらに、運用データベース124は、患者徴候の生データ、中間データ、または要約データを転帰見込み(例えば、患者集団プロファイルおよび対応する1年生存率曲線)とともに保存するために使用されうる。
【0036】
ある例では、1つまたはそれ以上のクライアント端末126は、ネットワーク110を介してローカルまたはリモートでリモート・サーバ・システム108に接続されうる。クライアント端末112は、様々な例において有線または無線でありうる接続128を用いてリモート・サーバ・システム108に通信可能に結合されうる。クライアント端末126の例としては、パーソナルコンピュータ、専用端末コンソール、携帯端末(例えば、携帯情報端末(PDA)または携帯電話)、または他の特殊装置(例えば、キオスク)が挙げられうる。様々な例では、1つまたはそれ以上のユーザは、クライアント端末126を用いてリモート・サーバ・システム108にアクセスしうる。例えば、顧客サービス担当者は、クライアント端末126を使用し、リモート・サーバ・システム108に保存された記録にアクセスして患者記録を更新しうる。別の例として、医師または臨床医は、患者診察に関するコメント、試験から、あるいはセンサまたはモニタによって収集された生理学的データ、治療履歴(例えば、埋め込み型医療機器でのショックまたはペーシング治療)、あるいは他の医師所見など、患者関連データを授受するためにクライアント端末126を使用しうる。
【0037】
一部の例では、埋め込み型医療装置102は、患者データを保存して状況に応じた治療
を提供するためのデータを使用するように構成されうる。例えば、過去の生理学的データを使用すると、埋め込み型医療装置102は、致死的な不整脈と非致死的な不整脈を識別して適切な治療を提供しうる。しかしながら、埋め込み型医療装置102で十分な量のデータを収集することによって履歴データの正確なベースラインを確立することが望ましい場合が多い。一部の例では、1つまたはそれ以上の生理学的信号に対するベースラインを確立するために、ある「学習期間」(例えば、30日間)が採用されうる。埋め込み型医療装置102は、ある例では、学習期間に等しい期間など、運用データの移動ウィンドウを保存することができ、さらに、その情報を患者のバイオリズムや生物学的事象の徴候のベースラインとして利用することができる。
【0038】
ベースラインが確立されると、患者の急性疾患と慢性疾患が確率的に判定されうる。ベースラインは、過去の病歴を使用することによって、あるいは患者を患者集団と比較することによって確立されうる。ある例では、経時的な患者の病態変化を検出するためにある診断法において患者に基づくベースラインが採用される。患者由来のベースラインを使用する診断法の例を次節で説明する。
【0039】
ある例では、患者の診断法は、埋め込み型医療装置102によって自動的に収集されて保存されうる。これらの値は一定の時間周期(例えば、24時間周期)を通じた患者の心拍や身体活動に基づくことができ、各診断パラメータは時間周期の関数として保存されうる。一例では、心拍に基づく診断法において正常な内因性の拍動のみが利用される。心拍変動(HRV)患者診断法では、時間周期内の各間隔、例えば、24時間の間に生じる288個の5分の間隔の各間隔における平均心拍が測定されうる。これらの間隔値から、最小心拍(MinHR)、平均心拍(AvgHR)、最大心拍(MaxHR)、および平均NN間隔の標準偏差(SDANN)が計算されて保存されうる。一例では、埋め込み型医療装置102は、HRV Footprint(登録商標)患者診断を計算する。HRV
Footprint(登録商標)患者診断は、心拍(連続する拍動間の間隔)と拍動間変動(連続する間隔と間隔との絶対差)の各組合せにおいて生じる1日の心拍数を計数する二次元ヒストグラムを含みうる。ヒストグラムの各ビン(bin)は、その組合せに対する1日の総数を含む。1以上の計数を含むヒストグラムビンの百分率は、フットプリントパーセント(Footprint%)として日毎に保存されうる。また、埋め込み型医療装置102は、Activity Log(登録商標)患者診断(Activity%)を提供することができ、これは患者身体活動の一般的な測度を含みうるし、装置ベースの加速度計信号が閾値を超えた期間毎の百分率として報告されうる。
【0040】
他の例では、心拍変動は、1つまたはそれ以上の時間、周波数、時間−周波数、または非線形測定値を単独で、あるいは組み合わせて使用して計算されうる。このタイプの計算に使用されうる23個の変動パラメータは、11個の時間領域計量、すなわち、平均値、中央値、正常拍動間の標準偏差(SDNN)、正常拍動間の四分位範囲(IQRNN)、変動係数(CV)、逐次差分の標準偏差(SDSD)、逐次差分の四分位範囲(IQRSD)、正規化IQRSD(NIQRSD)、逐次差分の二乗平均平方根(RMSSD)、逐次差分の変動係数(CVS)、および>50msの隣接する正常間隔間の差の百分率(pNN50)と、4つの周波数領域計量:高および低周波数範囲(HF、LF)における出力、出力比(LF/HF)、および総出力と、3つの時間−周波数計量:高および低周波ウェーブレット出力(HFW、LFW)および出力比(LFW/HFW)と、5つの非線形計量:近似エントロピ(ApEn)、ポアンカレプロットによるX−Y散布図(SigXY)、フラクタクル次元(FD)、およびトレンド除去ゆらぎ解析(DFA1およびDFA2)とを含む。時間、周波数、または時間−周波数タイプの計量の1つでない他の計量に加えて、5つの非線形計量に関連する変動パラメータは、一般に、「非線形計量の群(class)」と称されうる。それゆえ、この説明を目的としてある種の非線形計量を参照するとき、このような参照は5つの既知の非線形計量および非線形計量であると後
に認識される他のすべての心拍変動計量(すなわち、時間、周波数、または時間−周波数計量として分類されない計量)とを含んでいるものと理解されるであろう。
【0041】
図2は、埋め込み型医療機器(IMD)システム200を示す接続図である。埋め込み型医療機器システム200は、心臓206内部に配置されるリードシステム204に結合された埋め込み型医療機器202を含む。リードシステム206は、心臓再同期治療(CRT)を目的として冠状静脈に埋め込むように設計されうる。リードシステム206は、リードシステム206を能動的に測定し制御して心臓ペーシング治療を提供する検出/エネルギ供給システム208を含む埋め込み型医療機器202に結合されうる。
【0042】
検出器/エネルギ供給システム208は、典型的に、電源とアナログ/デジタル(A/D)コンバータ(図示せず)に結合されたプログラマブル回路(例えば、マイクロプロセッサ)とを含む。電極および圧力センサなどの様々なリードシステム装置が、感知/データ収集用のA/Dコンバータにインタフェース接続されうる。あるいは、アナログ調整(例えば、フィルタ処理)がA/Dコンバータとインタフェース接続する前のセンサ信号に適用されうる。また、検出器/エネルギ供給システム208は、エネルギ供給システム(図示せず)を利用する。エネルギ供給システムは、充電キャパシタおよび信号調整回路を含みうる。エネルギシステムは、D/Aコンバータを介してプログラマブル回路にインタフェース接続されうる。検出器/エネルギ供給システム208のコンポーネントおよび機能については、図3を参照して以下でさらに説明する。
【0043】
埋め込み型医療機器システム200は、電気機械的タイミングに基づく治療制御法を実施するために使用されうる。埋め込み型医療機器202は、リードシステム204に電気的および物理的に結合されうる。埋め込み型医療機器202のハウジングおよび/またはヘッダは、心臓206に電気刺激エネルギを供給して心臓の電気活性を感知するために使用される1つまたはそれ以上の電極220および222を組み込みうる。埋め込み型医療機器202は、缶(can)電極222として埋め込み型医療機器ハウジングのすべてまたは一部を利用しうる。埋め込み型医療機器202は、例えば、埋め込み型医療機器202のヘッダまたはハウジングに設置される不関電極220を含みうる。埋め込み型医療機器202が缶電極222および不関電極220の両方を含む場合、電極220および222は電気的に互いに絶縁されうる。
【0044】
心臓206は、右心房210、右心室212、左心房214、および左心室216などの、複数の生理学的構造物を含む。リードシステム204は、様々な方法を用いて冠状静脈洞の中に埋め込まれうる。図2に示すこのような1つの方法は、左鎖骨下静脈または左橈側皮静脈などの経皮アクセス血管に開口を形成することを伴う。ペーシングリード線は、上大静脈を経由して心臓の右心房210内に導かれうる。リードシステム204は、右心房210から冠静脈洞入口部の中に送られうる。冠静脈洞入口部は、右心房210への冠状静脈洞218の開口部である。リードシステム204は、冠状静脈洞218を経由して左心室216の冠状静脈に導かれうる。リードシステム204の遠位端は、冠状静脈の中に留まりうる。
【0045】
リードシステム204は、ペーシング信号を心臓206に提供し、心臓206によって生成される電気心臓信号を検出し、血液酸素飽和度を感知するために使用されうるし、さらに、不整脈などの心臓疾患を治療するためにある一定の予め定められた条件下で心臓206に電気エネルギを供給するために使用されうる。リードシステム204は、ぺーシング、感知、および/または除細動に使用される1つまたはそれ以上の電極を含みうる。図2に示す例では、リードシステム204は、心臓内右心室(RV)リードシステム224、心臓内右心房(RA)リードシステム226、心臓内左心室(LV)リードシステム228、および心臓外左心房(LA)リードシステム230を含む。リードシステム204
は、電気機械的タイミング法に基づく治療に使用されうる。他のリード線および/または電極は追加的または代替的に使用されうる。
【0046】
リードシステム204は、人体に埋め込まれた心臓内リード線224、226、228を含み、心臓内リード線224、226、228の各部は心臓206に挿入されうる。心臓内リード線224、226、228は、心臓206の電気活性を感知し、心臓206に電気刺激エネルギ、例えば、様々な不整脈を治療するためのペーシングパルスおよび/または除細動ショックを供給する心臓206内に定置可能な1つまたはそれ以上の電極を含む。
【0047】
また、リードシステム204は、電極、例えば、1つまたはそれ以上の心腔を感知および/またはペーシングする、心臓206の外部の位置に定置された心外膜電極またはセンサ232および234を有する1つまたはそれ以上の心臓外リード線230を含みうる。
【0048】
右心室リードシステム224は、SVCコイル236、右心室コイル238、右心室チップ電極240、および右心室リング電極242を含む。右心室リードシステム224は、右心房210を通って右心室212の中に延在する。特に、右心室チップ電極240、右心室リング電極242、および右心室コイル電極238は、心臓への電気刺激パルスを感知しこれを供給するために右心室212内の適切な位置に定置されうる。SVCコイル236は、心臓206の右心房210内の適切な位置に、または右心房210につながる大静脈に定置されうる。
【0049】
一構成では、缶電極222を基準とした右心室チップ電極240は、右心室212における単極ペーシングおよび/または感知を実施するために使用されうる。右心室212における双極ペーシングおよび/または感知は、右心室チップ電極240および右心室リング電極242を用いて実施されうる。さらに別の構成では、右心室リング電極242は、任意選択的に、省略され、双極ペーシングおよび/または感知が、例えば、右心室チップ電極240および右心室コイル238を用いて実現されうる。右心室リードシステム224は、一体化された双極ペースおよび/またはショックリード線として構成されうる。右心室コイル238およびSVCコイル236は、除細動電極でありうる。
【0050】
左心室リード線228は、左心室216をペーシングおよび/または感知する左心室216内またはその周囲の適切な位置に設置された左心室遠位電極244および左心室近位電極246を含む。左心室リード線228は、上大静脈を経由して心臓の右心房210内に導かれうる。左心室リード線228は、右心房210から、冠静脈洞入口部、冠状静脈洞218の開口部の中に配置されうる。左心室リード線228は、冠状静脈洞218を通って左心室216の冠状静脈に導かれうる。この静脈は、リード線が心臓の右側から直接アクセスできない左心室216の表面に達して心筋を去る血液の血中酸素濃度を感知するアクセス経路として使用されうる。左心室リード線228の配置は、鎖骨下静脈アクセスと、左心室に最も近くに左心室電極244および246を挿入するように予め形成されたガイドカテーテルとによって達成されうる。
【0051】
左心室216内の単極ペーシング/感知は、例えば、缶電極222を基準とした左心室遠位電極244を使用することによって実施されうる。左心室遠位電極244および左心室近位電極246は、左心室216の双極感知および/ペース電極として一緒に使用されうる。左心室リード線228および右心室リード線224は、埋め込み型医療機器202とともに、心不全の様々な症状に苦しむ患者の心拍出効率を高めて心室が実質的に同時にあるいは段階的にペーシングされるように心臓再同期治療を提供するために使用されうる。
【0052】
右心房リード線226は、右心房210を感知しペーシングするために右心房210内の適切な位置に定置された右心房チップ電極248および右心房リング電極250を含む。一構成では、例えば、缶電極222を基準とした右心房チップ電極248は、右心房210内に単極ペーシングおよび/または感知を提供するために使用されうる。別の構成では、右心房チップ電極248および右心房リング電極250は、双極ペーシングおよび/または感知を提供するために使用されうる。
【0053】
左心室リード線228は、圧力トランスデューサ252を含みうる。圧力トランスデューサ252は、例えば、マイクロ電気機械システム(MEMS)でありうる。MEMS技術では、シリコンなどの材料で微小な機械装置を組み立てるために半導体技術が採用される。圧力トランスデューサ252は、血流に曝される微小測定容量のトランスデューサまたはピエゾ抵抗トランスデューサを含みうる。また、抵抗歪みゲージなどの他の圧力トランスデューサ技術が圧力トランスデューサ252として採用されうる。圧力トランスデューサ252は、左心室リード線228の長さに沿って配置される1つまたはそれ以上の導体に結合されうる。圧力トランスデューサ252は、左心室リード線228と一体化されうる。圧力トランスデューサ252などのトランスデューサは、電気機械的遅延(EMD)情報を測定するのに有用な肺動脈(PA)圧情報を測定するために使用されうる。
【0054】
図3は、埋め込み型医療機器(IMD)202を示すブロック図である。埋め込み型医療機器202は、電気機械的タイミングに基づく治療制御に適している場合がある。埋め込み型医療機器202は、機能ブロックに分割されうる。これらの機能ブロックが配置されうる構成は数多く存在し、図3に示す例は可能な1つの配置にすぎないことは当業者によって理解されるであろう。さらに、埋め込み型医療機器202は、プログラマブル・マイクロプロセッサ・ベースの論理回路を意図するが、他の回路による実施も採用されうる。
【0055】
埋め込み型医療機器202は、心臓から心臓信号を受信して電気刺激エネルギをペーシングパルスおよび/または除細動ショックの形で心臓に供給する回路を含む。一実施形態では、P型埋め込み型医療機器900の回路は、ケースに収められ人体に埋め込むのに適したハウジングに密閉される。埋め込み型医療機器202への電源は、電気化学バッテリ300によって供給されうる。コネクタブロック(図示せず)は、リード線システムの導体を埋め込み型医療機器202の回路に物理的および電気的に取り付けるために提供される埋め込み型医療機器202のハウジングに取り付けられうる。
【0056】
埋め込み型医療機器202は、制御システム302およびメモリ304を含むプログラマブル・マイクロプロセッサ・ベース・システムでありうる。メモリ304は、様々なペーシング、除細動、および感知モードを他のパラメータとともに保存しうる。さらに、メモリ304は、埋め込み型医療機器202の他のコンポーネントによって受信される信号を示すデータを保存しうる。メモリ302は、例えば、過去のEMT/EMD情報、血中酸素濃度、血流情報、灌流情報、心音、心運動、EGM、および/または治療データの保存に使用されうる。病歴データストレージは、例えば、トレンド処理(trending)またはその他の診断目的に使用される長期の患者モニタリングから得られたデータを含みうる。病歴データは、他の情報と同様に、必要または要望に応じて外部プログラマ306に送信されうる。
【0057】
制御システム302およびメモリ304は、埋め込み型医療機器202の動作を制御するために埋め込み型医療機器202の他のコンポーネントと連携しうる。制御システム302は、ペーシング刺激に対する心臓応答を分類する心臓応答分類プロセッサ308を組み込む。制御システム302は、ペースメーカ制御回路310、不整脈検出器312、心臓信号形態解析用テンプレートプロセッサ314、1つまたはそれ以上のセンサに基づく
血液灌流、血流、および/または血圧を測定するように構成された血液検出器316などのさらなる機能部品を含みうる。制御システム302は、任意選択的にあるいは追加的に、例えば、加速度計、マイクロフォン、圧力トランスデューサ、インピーダンスセンサ、または他の運動または音を感知する装置からのセンサ情報を用いて機械的な心臓活動を検出するように構成された機械的心臓活動検出器318を含みうる。
【0058】
テレメトリ回路320は、埋め込み型医療機器202と外部プログラマ306との間に通信を提供するために実現されうる。ある例では、テレメトリ回路320およびプログラマ306は、信号およびデータを送受信するためにワイヤ・ループ・アンテナおよび無線周波数遠隔測定リンクを用いて通信する。こうして、プログラミングコマンドおよび他の情報は、埋め込み中および埋め込み後にプログラマ306から制御システム302に転送されうる。さらに、例えば、EMT/EMD、捕捉閾値、捕捉検出、および/または心臓応答の分類に関する保存された心臓データは、他のデータとともに、埋め込み型医療機器202からプログラマ306に転送されうる。
【0059】
また、テレメトリ回路320によって、埋め込み型医療機器202は埋め込み型医療機器202の外部にある1つまたはそれ以上の受信装置またはシステムと通信しうる。例として、埋め込み型医療機器202は、テレメトリ回路320を経由して患者装用、患者携帯、またはベッドサイド通信システムと通信しうる。一構成では、1つまたはそれ以上の生理学的または非生理学的センサ(患者の皮下、皮膚、または外部)は、BLUETOOTH(登録商標)またはIEEE802規格などの周知の通信規格に適応するインタフェースなど、短距離無線通信インタフェースが装備されうる。このようなセンサによって取得されるデータは、テレメトリ回路320を介して埋め込み型医療機器202に通信されうる。なお、無線トランスミッタまたはトランシーバを備える生理学的または非生理学的センサは患者外部の受信システムと通信しうる。埋め込み型医療機器202と通信する外部センサは、本発明の実施形態に従って電気機械的タイミングおよび/または遅延を測定するために使用されうる。
【0060】
図2に示され図3で再現されるように、1本または複数本のリード線が埋め込み型医療機器202に結合され、感知および治療のために提供されうる。図3に示す例では、電極は、右心房チップ248、右心房リング250、右心室チップ240、右心室リング242、右心室コイル238、SVCコイル236、左心室遠位電極244、左心室近位電極246、左心房遠位電極234、左心房近位電極232、不関電極220を含み、缶電極222は、スイッチマトリクス322を介して感知回路324、326、328、330、および332に結合されうる。
【0061】
右心房感知回路324は、心臓の右心房から電気信号を検出して増幅する働きをする。右心房の双極感知は、例えば、右心房チップ248と右心房リング250の間に発生する電圧を感知することによって実施されうる。単極感知は、例えば、右心房チップ248と缶電極222の間に発生する電圧を感知することによって実施されうる。右心房感知回路324からの出力は、制御システム320に結合されうる。
【0062】
右心室感知回路326は、心臓の右心室から電気信号を検出して増幅する働きをする。右心室感知回路326は、例えば、右心室心拍数チャネル334および右心室ショックチャネル336を含みうる。右心室チップ電極240を使用して感知された右心室心臓信号は、右心室近接場信号でありうるし、右心室心拍数チャネル信号によって表わされうる。双極右心室心拍数チャネル信号は、右心室チップ240と右心室リング242の間に発生する電圧として感知されうる。代替的には、右心室の双極感知は、右心室チップ電極240および右心室コイル238を用いて実施されうる。右心室の単極心拍数チャネル感知は、例えば、右心室チップ240と缶電極222の間に発生する電圧を感知することによっ
て実施されうる。
【0063】
右心室コイル電極238を使用して感知される右心室心臓信号は、右心室形態または右心室ショックチャネル信号とも称される非近接場信号でありうる。具体的には、右心室ショックチャネル信号は、右心室コイル238とSVCコイル236の間に発生する電圧として検出されうる。また、右心室ショックチャネル信号は、右心室コイル238と缶電極222の間に発生する電圧として検出されうる。別の構成では、缶電極222とSVCコイル電極236は電気的に短絡可能であり、右心室ショックチャネル信号は、右心室コイル238と缶電極222/SVCコイル236の組合せとの間に発生する電圧として検出されうる。
【0064】
左心房心臓信号は、心外膜電極として構成されうる1つまたはそれ以上の左心房電極232、234を使用して感知されうる。左心房感知回路328は、心臓の左心房からの電気信号を検出して増幅する働きをする。左心房の双極感知および/またはペーシングは、例えば、左心房遠位電極234および左心房近位電極232を用いて実施されうる。左心房の単極感知および/またはペーシングは、例えば、左心房遠位電極234から缶電極222または左心房近位電極232から缶電極222を用いて達成されうる。
【0065】
左心室感知回路330は、心臓の左心室からの電気信号を検出して増幅する働きをする。左心室の双極感知は、例えば、左心室遠位電極244と左心室近位電極246の間に発生する電圧を感知することによって実施されうる。単極感知は、例えば、左心室遠位電極244または左心室近位電極246と缶電極222との間に発生する電圧を感知することによって実施されうる。任意選択的に、左心室コイル電極(図示せず)は、患者の心臓血管系、例えば、左心臓に隣接する冠状静脈洞に挿入されうる。左心室電極244、246、左心室コイル電極(図示せず)、および/または缶電極222の組合せを用いて検出された信号は、左心室感知回路330によって感知されて増幅されうる。左心室感知回路330の出力は、制御システム302に結合されうる。
【0066】
誘発応答感知回路332は、心臓応答を分類するための電極の様々な組合せを用いて発生する電圧を感知して増幅する働きをする。
1つまたはそれ以上の感知回路324、326、238、330、332は、心収縮に対応する電気的脱分極を含む内因性心臓信号を受信する感知増幅器(図示せず)を含みうる。感知増幅器は、このような入力心臓脱分極を検出して出力電気信号を制御システム302または埋め込み型医療機器202の他の部分に提供しうる。ある例では、感知増幅器は、さらに、心収縮に関連する所望の電気脱分極を検出するためにフィルタ回路またはその他の信号処理回路も含む。また、埋め込み型医療機器202は、検知された電気脱分極信号を受信してその出力デジタル表現を提供するアナログ−デジタル(A/D)コンバータ(図示せず)を含みうる。ある例では、A/Dコンバータは、感知増幅器によって電気信号出力をサンプリングする関連のサンプルホールド回路を含む。ピーク検出器(図示せず)が、A/Dコンバータからデジタル化された信号を受け取って、心収縮に関連する信号ピークを検出しうる。これらの信号ピークは、心室心収縮に関連するQRS群にR波を含みうる。心房性脱分極に関連するP波を用いて心房心収縮を検出するために開示された構造および技術も使用されうることが理解される。
【0067】
ピーク検出器は、各R波のタイミングに関する情報を心拍間隔抽出モジュール(図示せず)に出力しうる。この情報に基づいて、心拍間隔抽出モジュールは、定期的にサンプリングされうる、例えば、このようなサンプル間の時間差が均一でありうる離散時間信号を提供する。このような各サンプルは、検出された心拍に対応する関連の時間間隔(「心拍間隔」)を含む。
【0068】
制御システム320内にあるペースメーカ制御310は、適切な条件下で予め確立されたペーシング療法に従ってペーシング信号をそれぞれ右心室チップ電極240および右心房チップ電極248に通信する。ペーシング療法に従って発生する制御信号は、右心房ペーシング回路334、左心房ペーシング回路336、左心室ペーシング回路338、および右心室ペーシング回路340の1つまたはそれ以上のペーシング回路に送信されるペースメーカ制御310で開始されうる。ある例では、ペーシングパルスは、右心室ペーシング回路338によって右心室に、かつ/または右心房ペーシング回路334によって右心房に提供されてもよい。
【0069】
電気的除細動または除細動の制御信号は、高いエネルギパルスを開始させるために制御システム302で発生されてもよい。高エネルギ電気的除細動または除細動パルスは、細動または頻脈の検出に応答して除細動パルス発生器342によって発生されうる。高エネルギ電気的除細動または除細動パルスは、例えば、心室頻脈または心室細動を停止させるために、リード線によって右心室に導かれうる。
【0070】
ケーススタディ
実験動物の冠動脈閉塞を管理する間に様々な心拍変動(HRV)測度を解析する研究が行なわれていた。生理学的データが、閉塞前および閉塞後に収集された。データは、左心室圧力、心音、および心電図(ECG)記録を含んでいた。左心室(LV)圧力は侵襲的カテーテルを用いて得られ、心音は表面加速度計を用いて得られた。心電図から、Rピークが検出された。これらのRピークは、その後に測定されるRR間隔を識別するために使用された。RR間隔は5分のエポックに分解され、各種の時間領域、周波数領域、時間−周波数領域、および非線形計量を含む23個の心拍変動計量を用いて解析された。
【0071】
詳細には、23個の変動計量は、11個の時間領域計量、すなわち、平均値、中央値、正常拍動間の標準偏差(SDNN)、正常拍動間の四分位範囲(IQRNN)、変動係数(CV)、逐次差分の標準偏差(SDSD)、逐次差分の四分位範囲(IQRSD)、正規化した逐次差分の四分位範囲(NIQRSD)、逐次差分の二乗平均平方根(RMSSD)、逐次差分の変動係数(CVS)、および>50msの隣接する正常間隔間の差の百分率(pNN50)と、4つの周波数領域計量、すなわち、高および低周波範囲(HF、LF)における出力、出力比(LF/HF)、および総出力と、3つの時間−周波数計量、すなわち、高および低周波ウェーブレット出力(HFW、LFW)および出力比(LFW/HFW)と、5つの非線形計量、すなわち、近似エントロピ(ApEn)、ポアンカレプロットによるX−Y散布図(SigXY)、フラクタクル次元(FD)、およびトレンド除去ゆらぎ解析(DFA1およびDFA2)とを含む。
【0072】
また、Rピークは、左心室圧および心音から血流動態測定を開始する合図を送るために使用された。左心室圧信号は、まず個々の拍動を抽出するためにR波マーカを用いて解析された。各拍動は、この後、左心室dP/dT信号を発生するために微分された。Rピーク位置の後に開始する200msウィンドウを用いて、左心室dP/dTの最大値(max dP/dT)が抽出された。max dP/dTは、虚血に起因する左心室性能(収縮性)の低下を定量化するための基準測度として使用されうる。
【0073】
また、Rピークは、心音信号を解析するために使用された。最初の各心音拍動は、Rピークマーカを用いて取得された。各波形は、この後、20Hz〜90Hzの遮断周波数を有する帯域通過フィルタでフィルタ処理された。Rピーク後の250msウィンドウは、候補S1ピークを測定するために使用された。この後、試験期間中の最大の最も整合性のあるS1ピークを測定するために、動的プログラミングによる追跡アルゴリズムが採用された。
【0074】
種々のパラメータ(例えば、RR間隔、max dP/dT、およびS1振幅)と一定の変動計量との関係の例を示すために代表的なデータセットが提示されうる。図4は、RR間隔およびS1振幅の2つの非線形変動計量とともに、max dP/dT、RR間隔、およびS1振幅を示す一群のグラフである。示される変動計量は、虚血に起因する左心室性能(max dP/dT)の変化を最も予測しているものと思われる。試験の過程において、max dP/dTが減少し、閉塞後に著しく低下している。バルーン拡張閉塞は、自律的補償機構によるものと考えられる収縮性の反射性増加をもたらした。収縮性の増加はまた、RR間隔およびRR間隔から生じたSigXYの変化にも反映された。バルーン拡張の直後の期間は、自律反射によるものと考えられる比較的高いSigXYを有した。
【0075】
虚血プロトコル中、左心室収縮性は、max dP/dTによる測定では平均で18.5%に減少していた。部検(necropsy)中に測定された乏血性腫瘤とmax dP/dTの変化との間に一定の関係は見られなかった。虚血に起因する変化を評価するために、max dP/dTの変化が左心室収縮性変化の基準として採用された。
【0076】
先に触れた23個の計量は、プロトコル中にすべての5分エポックからのRR間隔に対して測定された。計量は閉塞の前後に解析され、これらの計量の変化はmax dP/dTの変化と比較された。変動計量の多くは、max dP/dTの変化と十分な相関が見られた。図5は、選択された心拍変動計量とmax dP/dTの変化との関係の例を示す一群の散布図である。図6は、RR間隔ベースの変動計量、収縮変動計量、およびmax dP/dTの関係を示す表である。RR間隔の線形測度は、max dP/dT(r〜0.7)と中程度の相関を示したが、RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)によるX−Y拡がりなどの非線形測度の一部は、max dP/dT(r=−0.92)と比較的高い相関を示した。図5を再び参照すると、散布図は、RR間隔が虚血中の収縮性の変化と高い相関がないかもしれないが、変動パラメータ(例えば、SigXY)は新たな予測情報を提供しうる。
【0077】
また、先に触れた23個の計量は、プロトコル中にすべての5分エポックの間のS1振幅に対して測定された。閉塞前後のこれらの計量の変化は、この後、対応する期間中にmax dP/dTの変化と比較された。図7は、選択されたS1変動計量の変化とmax
dP/dTの変化との関係の例を示す一群の散布図である。図6を再び参照すると、S1間隔ベースの変動計量とmax dP/dTの変化とのすべての関係の例が示される。S1振幅ベースの計量の変化とmax dP/dTの変化との間には緩やかな相関があるが、非線形測度、例えば、S1振幅のApEnの少なくとも1つは、虚血に起因する収縮性の変化と高い相関が(r=0.96)があることが観察された。
【0078】
前述のように、RR間隔およびS1振幅の多数の線形および非線形変動計量が虚血検出に使用されうる。心拍変動(SigXY)およびS1(ApEn)の変化は、バルーン閉塞プロトコル中にmax dP/dTによって測定されるような左心室収縮性と高い相関がある。これらの調査結果は、心臓負荷の増加を補償するためのメカニズムとして虚血事象中の自律神経系の緊張の変化に関係している場合がある。非線形測度によって計算される、2つの非侵襲的センサ、心電図および心音図からの信号の変動は、左心室圧の変化と高い相関がありうる。
【0079】
運用例
図8は、心虚血状態を検出する方法800を示すフローチャートである。802において、複数の心臓徴候がアクセスされうる。様々な実施形態では、心臓徴候は、RR間隔またはP−P間隔を含む。RR間隔は、連続的なR波間の間隔であるとして理解され、P−P間隔は心電図における連続的なP波間の間隔であるとして理解される。
【0080】
804において、心拍変動(HRV)計量は、ある種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて複数の心臓徴候を解析することによって生成されうる。様々な実施形態では、非線形測定値は、近似エントロピ、ポアンカレプロットによるX−Y散布図、フラクタクル次元、およびトレンド除去ゆらぎ解析の1つまたはそれ以上を含む。他の非線形測定値がここに列挙したものと容易に置き換えられ、あるいは統合されうることが理解される。
【0081】
ある例では、心拍変動計量は、ある期間にわたるRR間隔の変動を測定することによって生成されうる。いくつかの例では、当該期間は、30秒〜24時間の持続時間を有するエポックでありうる。特定の例では、当該期間は、5分エポックでありうる。RR間隔の変動は、RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)を構成することによって判定されうる。一般に、ポアンカレプロットは、信号の変動を表現するグラフ手法である。本アプリケーションでは、2次元プロットが現在のRR値に対する次のRR値から作成される。従来、SigXYを計算するために、a)x軸統計的分散(SigX)を計算し、b)y軸統計的分散(SigY)を計算し、c)SigXY=sqrt(SigX+SigY)
を用いてSigXおよびSigYを組み合わせる、3つのステップが採用され、ここで、分散は分布の平均値周辺の変数値の散乱である。
【0082】
使用されうる別の非線形測定値は、信号の近似エントロピ(ApEn)である。エントロピは、システム内のランダム性の測度である。ApEn値が高くなると、セグメントはよりランダムになる。他の非線形測定値としてフラクタクル次元(FD)が挙げられ、これは、空間充填性およびトレンド除去ゆらぎ解析(DFA)を測定することによって計算される時系列の複雑さの測度であり、トレンド除去ゆらぎ解析(DFA)は非定常時系列からの長距離レンジ相関の測定値である。非線形測度の1つまたはそれ以上は、心拍変動計量を生成するために、互いにあるいは他の種の心拍変動測度と組み合わせられうることが理解される。
【0083】
806において、心虚血状態が心拍変動計量に基づいて検出されうる。虚血状態の検出は、心拍変動計量をベースライン値または閾値などの所定値と比較することによって実施されうる。ある例では、心拍変動計量が閾値に違反すると虚血状態であるとの判定を下すように、心拍変動計量は受け入れられる閾値と比較されうる。受け入れられる閾値は、何らかの団体によって認められた値(例えば、医学的な委員会によって承認された値)、臨床医による規定値、またはシステムによる規定値(例えば、統計的に判定された集団ベースの自動生成される値)でありうる。
【0084】
808において、心虚血状態の徴候は、ユーザまたは処理に提供されうる。例えば、806において行なわれた評価の結果は、ユーザまたはシステムに通信されて、条件または状態についてユーザに警報を発し、又は患者の電子機器による医療記録に評価を記録する。評価が埋め込み型医療機器202によって実施される場合など、埋め込み型医療機器202から制御システム302に通信するために、通信はテレメトリ回路320によって有効にされうる。さらに、警告、警報、情報メッセージ、ステータスメッセージ、または埋め込み型医療装置102からのその他の情報をリモート・サーバ・システム108の他のユーザに通信するためにメッセージングサーバ116が使用されうる。別の例では、リモート・サーバ・システム108は、806において行なわれる評価を実施し、結果をリモート・サーバ・システム108の他の部分(例えば、ウェブサーバ122)またはその他の送り先(例えば、計算装置106を介してクライアント端末126のユーザまたは患者)に通信しうる。
【0085】
さらなる例では、ベースライン心拍変動計量は、当該種の非線形測定値のうちの1つの
測定値を用いて確立されうる。この後、第2の心拍変動計量が、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて得られうる。ベースライン心拍変動計量は、第2の心拍変動計量と比較されて比較結果を提供しうるし、心虚血状態は、この後、この比較結果を用いて検出されうる。例えば、閾値限界は、第2の心拍変動計量がベースライン心拍変動計量と比較されるときに閾値限界に違反していると虚血状態であると判定が下されるように確立されうる。
【0086】
さらなる例では、複数の連続的な心拍変動計量が、当該種の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて得られうる。複数の連続的な心拍変動計量は、この後、トレンド処理が行われ、トレンド付き心拍変動を提供しうる。複数の連続的な心拍変動計量は、急性または慢性期間にわたって、定期的または反復的に得られうる。急性期間の例として、患者は、診療を受ける際に、複数の期間にわたって測定された心拍変動を有しうる。慢性期間の例として、トレンド付き心拍変動は、心拍変動の毎日の集約的な測定に基づいて流動的な3ヶ月という期間にわたって計算されうる。ある例では、急性または慢性的なトレンド付き心拍変動測定値が組み合わされてトレンド付き心拍変動を提供しうる。ある例では、心虚血状態は、トレンド付き心拍変動を用いて検出されうる。トレンド付き心拍変動計量は、閾値と比較されて虚血状態が存在するかどうかが判定される。
【0087】
さらなる例では、心虚血状態が心虚血の徴候を示すときに治療が開始されうる。治療の開始は、従来の治療に置き換わるもしくは従来の治療を補うために、あるいは過去に全く存在しなかった治療を開始するために行なわれうる。ある例では、心虚血状態が心虚血の徴候を示すときに、1つまたはそれ以上の治療が開始され、調整され、または終了されてもよい。治療は、心臓内ペーシング治療、薬物管理、運動管理、生活様式管理、迷走神経刺激療法、またはこれらの組合せを含みうるが、これらに限定されない。別の例として、1つまたはそれ以上のペーシングパラメータを変更するなどの治療を医師が実施しうる場合に、診療を受けることが推奨されうる。
【0088】
ある例では、心拍変動計量は、心虚血状態検出の特異度を向上するために、STセグメントおよび肺動脈圧などの他の検出器とともに使用されうる。例えば、心筋収縮能の変動測定値を相互参照することによって、虚血状態が十分な信頼性をもって測定されうる。図6に示すように、一部の心筋収縮能変動測度は、max dP/dTと高い相関があった(例えば、S1のApEn)。したがって、ある例では、非線形計量を用いて得られる心拍変動計量は、虚血状態を判定するために、S1のApEnと組み合わせられうるか、あるいはS1のApEnが相互参照されうる。
【0089】
メッセージは、埋め込み型医療機器202またはリモート・サーバ・システム108によって発生されて、ユーザ(例えば、患者または臨床医)に警告し、装置ステータスまたは患者評価あるいは他の情報提供を目的として記録しうる。例えば、虚血状態が測定されるとき、メッセージが発生されて担当臨床医に伝達されうる。虚血状態が定期的に測定されるとき、この状態が測定されるたびに通信されうる。別の例では、虚血状態は、これが虚血性事象を示唆するときに通信されうる。ここでは虚血状態を説明しているが、治療事象、心拍変動計量、その他の生理学的条件や環境条件など、いかなる情報も通信されうることは理解される。
【0090】
図9は、虚血状態を測定するためのポアンカレプロットの使用例を示す。900において心室脱分極が検出され、902においてRR間隔が心電図のR波から計算されうる。904において、ポアンカレプロットが生成され、その例は項目912において示される。906において、X軸およびY軸の拡がり(分散)が計算されうる。この後、908において、結合された拡がり測定値が計算される。結合された測定値は、線形結合となりうる。ある例では、結合された測定値は、前述のように、SigXYである。特に、SigX
とSigYは、SigXY=sqrt(SigX+SigY)を用いて結合され、ここで、SigXは、x軸における統計的分散の測定値であり、SigYは、y軸における統計的分散の測定値であり、SigXY分散は、分布の平均値周辺の変数値の散乱である。910において、結合された拡がりが既に得られた結合された拡がり測定値と比べて15単位だけ変化するとき、虚血であるとの判定が下されうる。
【0091】
図10は、ペーシングパラメータを管理する方法1000を示すフローチャートである。1002において、1つまたはそれ以上の測定が開始される。測定値は、心拍変動を導出、あるいは取得するために使用される測定値を含みうる。例えば、RR間隔は、診療を受ける間に測定されて既に取得された測定値と比較されうる。別の例として、P−P間隔は、心拍変動計量を取得するために測定されて使用されうる。ある例では、1つまたはそれ以上の心拍変動測定値が、データストアに保存されて傾向分析において使用される。保存されたデータは、様々な例において、さらに2つの特定時間における心拍変動の2点間比較に、あるいは多点トレンド分析として使用されうる。1004において、1つまたはそれ以上のペーシングパラメータが設定されうる。ペーシングパラメータは、様々なペーシング、除細動、感知モードに関するパラメータを含むが、これらに限定されない。例えば、ペーシング装置に関連して、ペーシング振幅、ペーシング頻度、およびパルス幅などの様々なパラメータが臨床医などの診療従事者によって設定または調整されうる。1006において、虚血状態が測定されうる。ある例では、測定は、前述のように、方法800または方法900を用いて実施されうる。1008において、虚血状態が定常的であるか、あるいは向上しているかが判定されうる。ある例では、経時的に取得された2つまたはそれ以上の心拍変動の測定値の比較が虚血の進行を判定するために採用される。心拍変動測定値の増加は、心臓性能の向上を示している場合があり、虚血状態の向上を反映している場合がある。虚血状態が向上していないか、あるいは現状を維持している場合、ペーシングパラメータを変更するために方法1000はブロック1004に戻り、方法1000はブロック1006において虚血状態を再び測定するフロー図に従う。ペーシングパラメータは図10に関連して説明されているが、検出された虚血状態に対処するためのリード線再配置や電気的再配置など、患者の装置に対するいかなる変更もブロック1004において実施されうることが理解される。例として、複数組のペーシングパラメータを経時的に発生させて使用し、使用される各組の有効性を追跡し、ペーシングパラメータを変更して持続している虚血状態を管理しうる。
【0092】
機械構造の例
図11は、コンピュータシステム1100の形態例の機械を示すブロック図であり、コンピュータシステム1100内で、1組の命令が本明細書に記載される方法のいずれか1つまたはそれ以上を機械に実施させるために実行されてもよい。代替的な例では、機械は、スタンドアロン式装置として動作し、あるいは他の機械に(例えば、ネットワークで)接続されてもよい。ネットワーク配置では、機械は、サーバ−クライアントネットワーク環境におけるサーバまたはクライアント機械として、あるいはピアー・ツー・ピア(または分散型)ネットワーク環境におけるピア機械として動作してもよい。機械は、サーバコンピュータ、クライアントコンピュータ、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型パソコン、携帯端末(PDA)、携帯電話、ウェブアプライアンス、デバイスプログラマ、リピータ、またはその機械が行うべき動作を指定する1組の命令(シーケンシャルなまたはその他)を実行しうる任意の機械であってよい。さらに、唯一の機械が示されているが、「機械」という用語は、本明細書に記載される方法のいずれか1つまたはそれ以上を実施するために1組(または複数組)の命令を個別あるいは一緒に実行する機械の任意の集合と解釈されるべきである。
【0093】
コンピュータシステム1100の例は、プロセッサ1102(例えば、中央演算処理装置(CPU)、グラフィックス・プロセシング・ユニット(GPU)、またはこれらの両
方)、メインメモリ1104、およびスタティックメモリ1106を含み、これらはバス1108を介して互いに通信する。コンピュータシステム1100は、さらにビデオディスプレイ1110(例えば、液晶ディスプレイ(LCD)または陰極線管(CRT))を含んでいてもよい。また、コンピュータシステム1100は、英数字入力装置1112(例えば、キーボード)、ユーザ・インタフェース・ナビゲーション装置1114(例えば、マウス)、ディスク・ドライブ・ユニット1116、信号発生装置1118(例えば、スピーカ)、およびネットワーク・インタフェース・デバイス1120を含む。
【0094】
ディスク・ドライブ・ユニット1116は、本明細書に記載されるいずれか1つまたはそれ以上の方法または機能を具体化する1組または複数組の命令(例えば、ソフトウェア1124)を保存する機械可読媒体1122を含む。また、ソフトウェア1124は、コンピュータシステム1100によってソフトウェア1124を実行中に、メインメモリ1104内および/またはプロセッサ1102内に完全に、あるいは少なくとも部分的に常駐していてもよく、メインメモリ1104およびプロセッサ1102も機械可読媒体を構成する。ソフトウェア1124は、さらに、ネットワーク・インタフェース・デバイス1120を介してネットワーク1126上で送受信されてもよい。
【0095】
コンピュータシステム1100は、プロセッサ1102とともに示されているが、本明細書に記載されるシステムおよび方法は、マルチプロセッサコンピュータ(例えば、2つまたはそれ以上の独立したプロセッサあるいは単一プロセッサ内の2つまたはそれ以上のコア)、マルチコンピュータシステム(例えば、分散コンピューティング環境)、または分散型の単一プロセッサおよびマルチプロセッサコンピュータの混合体を含むが、これらに限定されない1つまたはそれ以上のコンピュータシステム上の1つまたはそれ以上のプロセッサで実施されうることが理解される。
【0096】
機械可読媒体1122は、実施形態例では単一媒体として示されるが、「機械可読媒体」という用語は、1組または複数組の命令を保存する単一媒体または複数媒体(例えば、集中型または分散型データベース、および/または関連のキャッシュまたはサーバ)を含むものと解釈されるべきである。また、「機械可読媒体」という用語は、機械によって実行される1組の命令を保存し、符号化し、実行することができ、しかも本発明の方法のいずれか1つまたはそれ以上を機械に実施させる任意の媒体を含むものと解釈されるべきである。したがって、「機械可読媒体」という用語は、半導体メモリ、光媒体、および磁気媒体など、有形的表現媒体を含むが、これらに限定されないものと解釈されるべきである。
【0097】
補注
前述の「発明を実施するための形態」は、「発明を実施するための形態」の一部を形成する添付図面への参照を含む。図面は、本発明が実施されうる具体的な実施形態を実例として示す。また、これらの実施形態は、本明細書では「例」と称される。このような例は、図示されて説明されるもの以外の要素を含みうる。上記の記載は、説明を意図したものであり、限定を意図したものではない。例えば、前述の例(あるいはその1つまたはそれ以上の態様)は、互いに組み合わせて使用されてもよい。上記の記載を検討すると、当業者によって認識される実施形態などが採用されうる。
【0098】
本明細書で参照されるすべての出版物、特許、および特許文献は、あたかも参照によって個別に組み入れられるように、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。本明細書と参照によってこのように組み入れられたこれらの文献との間に使用法の矛盾する場合、組み入れられた参考文献における使用法は本明細書の使用法に対する補足と考えられるべきであり、すなわち、相容れない矛盾に対しては本明細書に記載の使用法が基準となる。
【0099】
本明細書では、「a」または「an」という用語は、特許文献において一般的であるように、「少なくとも1つの」または「1つまたはそれ以上の」のあらゆる他の事例または用法と無関係に1つまたは1つ以上を含むものとして使用される。本明細書では、「または(or)」という用語は、他に指示がない限り、「AまたはB」が「AであるがBでない」、「BであるがAでない」、および「AおよびB」を含むように非排他的論理和を指すために使用される。添付の特許請求の範囲では、「含む(including)」および「ここで
(in which)」という用語は「備える(comprising)」「ここに(wherein)」というそ
れぞれの用語の同等の平易な英語として使用される。また、以下の特許請求の範囲において、「含む(including)」および「備える(comprising)」という用語は非限定的であ
り、すなわち、請求項のそのような用語の後に列挙されるものに加えて要素を含むシステム、装置、項目、または処理は、やはりその請求項の範囲に入るものと見なされる。さらに、以下の特許請求の範囲では、「第1の(first)」、「第2の(second)」、および
「第3の(third)」などの用語は、単に標識としてのみ使用され、それらの対象に数値
的要件を課すことを意図するものではない。
【0100】
要約は、読者が技術的開示の性質を迅速に確認しうるように、37 C.F.R.§1.72(b)に従って記載されている。これは、特許請求の範囲または意味を解釈または限定するために使用されないことを考慮して提示されている。また、前述の「発明を実施するための形態」において、本開示を簡素化するために様々な特徴がグループ化されている場合がある。これは、開示されてはいるが請求項に含まれない特徴がいずれの請求項にも不可欠であることを表わすものと解釈されるべきではない。むしろ、発明の主題は、開示された特定の実施形態のすべての特徴にあるものではない場合がある。それゆえ、以下の特許請求の範囲では、各請求項が個別の実施形態として独立して「発明を実施するための形態」に組み入れられている。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲とかかる特許請求の範囲によって権利が与えられる等効物の全範囲とを参照して判定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械可読媒体と、
該機械可読媒体に通信可能に結合されたプロセッサであって、前記機械可読媒体は命令を含み、該命令が前記プロセッサによって実行されるとき、前記プロセッサは、
複数の心臓徴候にアクセスし、
一群の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて前記複数の心臓徴候を解析することによって心拍変動計量を生成し、
前記心拍変動計量に基づいて、心虚血状態を検出し、
前記心虚血状態の徴候をユーザまたは処理に提供する、プロセッサと、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記複数の心臓徴候はRR間隔およびP−P間隔を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記一群の非線形測定値は近似エントロピを含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記一群の非線形測定値はポアンカレプロットによるX−Y散布図を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項5】
前記一群の非線形測定値はフラクタル次元を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項6】
前記一群の非線形測定値はトレンド除去ゆらぎ解析を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記機械可読媒体は、前記プロセッサによって実行されるとき、
前記心虚血状態が心虚血を示すとき前記プロセッサが治療の開始、調整、または終了を行う命令を含む、請求項1〜6の何れか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記機械可読媒体は、前記プロセッサによって実行されるとき、前記プロセッサが、
前記一群の非線形測定値のうちの前記測定値を用いてベースライン心拍変動計量を確立し、
前記一群の非線形測定値のうちの前記測定値を用いて第2の心拍変動計量を取得し、
前記ベースライン心拍変動計量を前記第2の心拍変動計量と比較して比較結果を提供し、
前記比較結果を用いて前記心虚血状態を検出する、
命令を含む、請求項1〜7の何れか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記機械可読媒体は、前記プロセッサによって実行されるとき、前記プロセッサが、
前記一群の非線形測定値のうちの前記測定値を用いて複数の連続する心拍変動計量を取得し、
前記複数の連続する心拍変動計量のトレンド処理を行い、トレンド付き心拍変動を提供する、
命令を含む、請求項1〜8の何れか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記機械可読媒体は、前記プロセッサによって実行されるとき、プロセッサが、前記トレンド付き心拍変動を用いて前記心虚血状態を検出する命令を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記心拍変動計量を生成するための前記命令は、ある期間にわたるRR間隔の変動を決定するための命令を含む、請求項1〜9の何れか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記RR間隔の変動を判定するための命令は、前記RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)を構成するための命令を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
複数の心臓徴候にアクセスするステップと、
一群の非線形測定値のうちの1つの測定値を用いて前記複数の心臓徴候を解析することによって心拍変動計量を生成するステップと、
前記心拍変動計量に基づいて、心虚血状態を検出するステップと、
前記心虚血状態の徴候をユーザまたは処理に提供するステップと、
を備える方法。
【請求項14】
前記一群の非線形測定値は、近似エントロピ、ポアンカレプロットによるX−Y散布図、フラクタル次元、およびトレンド除去ゆらぎ解析を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記心虚血状態が心虚血を示すとき治療を開始し、調整し、または終了するステップをさらに備える、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記一群の非線形測定値から選択された測定値を用いてベースライン心拍変動計量を確立するステップと、
前記一群の非線形測定値から選択された測定値を用いて第2の心拍変動計量を取得するステップと、
前記ベースライン心拍変動計量を前記第2の心拍変動計量と比較して比較結果を提供するステップと、
前記比較結果を用いて前記心虚血状態を検出するステップと、
をさらに備える、請求項13〜15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記一群の非線形測定値から選択された測定値を用いて複数の連続的な心拍変動計量を取得するステップと、
前記複数の連続的な心拍変動計量のトレンド処理を行い、トレンド付き心拍変動を提供するステップと、
前記トレンド付き心拍変動を用いて前記心虚血状態を検出するステップと、
をさらに備える、請求項13〜16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記心拍変動計量を生成するステップは、前記変動をある時間にわたるRR間隔で判定するステップを備える、請求項13〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記変動をRR間隔で判定するステップは、前記RR間隔のポアンカレプロット(SigXY)を作り上げるステップを備える、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−524615(P2012−524615A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507270(P2012−507270)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/031227
【国際公開番号】WO2010/123751
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】