説明

非芳香族系有機溶剤

【課題】
本発明によれば、溶解性(溶解力)が向上した、実質的に芳香族炭化水素を含有しない、低臭気の非芳香族系有機溶剤(アルキルシクロヘキサン系溶剤)を得ることができる。
【解決手段】
(A)成分:総炭素数7〜10のアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1の重量比で含有するようにして非芳香族系有機溶剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解性(溶解力)が向上した非芳香族系有機溶剤(アルキルシクロヘキサン系溶剤)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から芳香族系有機溶剤は、溶解性(溶解力)や多様性に優れていることから、溶剤或いは洗浄剤として多くの用途に用いられてきた。
しかしながら、近年、その毒性や臭気の問題から、その溶剤の取扱者の健康への影響や周辺住民・周辺環境への影響などが懸念されていた。
【0003】
厚生労働省は、特定化学物質等障害予防規制でベンゼンの含有量が1vol%を越える溶剤を、有機溶剤中毒予防規則でトルエンとキシレンの合計含有量が5vol%を越える溶剤を、それぞれ使用制限や表示の義務付けなどで対策を講じている。
更に、経済産業省・環境省では、化学物質把握管理促進法において、対象事業者に対してベンゼン、トルエン及びキシレンの消費量の届けを義務付けることで、自主的にそれらの消費量を削減するように促している。
【0004】
このような状況下で、芳香族系溶剤に代わる代替溶剤の開発が要望され、そのニーズは近年益々高まっていた。
【0005】
上記課題に対して、パラフィン系溶剤やナフテン系溶剤などの非芳香族系有機溶剤が種々提案された(特許文献1〜4)。しかしながら、多様化される用途に対して、必ずしも満足できる溶解性(溶解力)が得られるとは限らなかった。その為、より溶解性(溶解力)の高い非芳香族系有機溶剤の開発が切望されていた。
【0006】
【特許文献1】特公昭61−21986号公報
【特許文献2】特公平6−104628号公報
【特許文献3】特開平8−60192号公報
【特許文献4】特開2004−51760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶解性(溶解力)が向上した非芳香族系有機溶剤(アルキルシクロヘキサン系溶剤)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、
(1)特定のアルキルシクロヘキサンにヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物を特定の比率で共存させることにより、当該アルキルシクロヘキサンの溶解性(溶解力)が向上すること、
(2)溶解性(溶解力)が向上した非芳香族系有機溶剤を種々の溶剤用途や洗浄剤用途に適用した場合、当該用途の製品の貯蔵安定性(特に低温貯蔵安定性)が向上すること、
を見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の項目の発明を提供する。
【0010】
(項1)(A)成分:一般式(1)
【化1】

[式中、n個のRは、同一又は異なって、それぞれ、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を表す。nは1〜4の整数を表す。n個のRの炭素数の合計は1〜4の整数である。nが2の場合、2個のRが互いに結合してそれらが結合するシクロヘキサン環と共にビシクロ環を形成していてもよい。]
で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1の重量比で含有する非芳香族系有機溶剤。
【0011】
(項2)上記アルキルシクロヘキサンが、
(i)原油を常圧蒸留して得られる留分、(ii)その留分を水素化して得られる精製処理油、(iii)原油を常圧蒸留して残留した残油を熱分解して得られる軽油、(iv)重油を直接又は間接脱硫して得られる軽質油、(v)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触分解して得られる接触分解油、及び(vi)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触改質して得られる接触改質油からなる群より選ばれる少なくとも1種から留出する沸点範囲100〜240℃の留分を接触水素化反応して得られるものである上記項1に記載の非芳香族系有機溶剤。
【0012】
(項3)(A)成分が、光路長10mmにおける紫外線吸収波長245〜265nmの最大吸光度が0.005以下のものである上記項1又は項2に記載の非芳香族系有機溶剤。
【0013】
(項4)(A)成分が、100〜240℃の範囲の沸点を有するものである上記項1〜3のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0014】
(項5)(A)成分が、40〜70℃の範囲のアニリン点を有するものである上記項1〜4のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0015】
(項6)(A)成分が、15.5〜16.5の範囲の溶解度パラメータを有するものである上記項1〜5のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0016】
(項7)(A)成分が、10〜320の範囲の蒸発速度を有するものである上記項1〜6のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0017】
(項8)(B)成分が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物である上記項1〜7のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0018】
(項9)(B)成分が、アミド系化合物、尿素系化合物、アミン系化合物、ニトリル系化合物、エステル系化合物、炭酸エステル系化合物、エーテル系化合物、アルコール系化合物及びケトン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項8に記載の非芳香族系有機溶剤。
【0019】
(項10)(B)成分が、一般式(2)
O−(XO)n−R(2)
[R及びRは、互いに同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表す。Xは、炭素数2〜3のアルキレン基を表す。nは1〜3の整数を表す。]
で表されるアルキレングリコール系化合物である上記項1〜7のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0020】
(項11)(B)成分が、一般式(2)におけるXがエチレン基かつnが1又は2で表されるアルキレングリコール系化合物である上記項10に記載の非芳香族系有機溶剤。
【0021】
(項12)(B)成分が、50〜240℃の範囲の沸点を有するものである上記項1〜11のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0022】
(項13)(B)成分が、15.1〜26.0(MPa)1/2の範囲の溶解度パラメータを有するものである上記項1〜12のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0023】
(項14)(B)成分が、10〜500の範囲の蒸発速度を有するものである上記項1〜13のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0024】
(項15)(A)成分の溶解度パラメータと(B)成分の溶解度パラメータとの差が、9.5(MPa)1/2以下である上記項1〜14のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0025】
(項16)(A)成分の蒸発速度と(B)成分の蒸発速度との差が、300以下である上記項1〜15のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0026】
(項17)非芳香族系有機溶剤が、35℃以下のアニリン点を有する上記項1〜16のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0027】
(項18)非芳香族系有機溶剤が、15.3〜22.5(MPa)1/2の溶解度パラメータを有する上記項1〜17のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0028】
(項19)非芳香族系有機溶剤が、10〜350の蒸発速度を有するものである上記項1〜18のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0029】
(項20)上記非芳香族系有機溶剤が、塗料用溶剤、インク用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、離型剤用溶剤、ゴム用溶剤、撥水剤用溶剤、撥油剤用溶剤、密封剤用溶剤、クリーニング用溶剤又は加工部品用洗浄剤である上記項1〜19のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【0030】
(項21)
(A)成分:一般式(1)
【化2】

[式中、n個のRは、同一又は異なって、それぞれ、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を表す。nは1〜4の整数を表す。n個のRの炭素数の合計は1〜4の整数である。nが2の場合、2個のRが互いに結合してそれらが結合するシクロヘキサン環と共にビシクロ環を形成していてもよい。]
で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1の重量比となるように混合して該アルキルシクロヘキサンの溶解性を向上させる方法。
【0031】
(項22)上記アルキルシクロヘキサンが、
(i)原油を常圧蒸留して得られる留分、(ii)その留分を水素化して得られる精製処理油、(iii)原油を常圧蒸留して残留した残油を熱分解して得られる軽油、(iv)重油を直接又は間接脱硫して得られる軽質油、(v)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触分解して得られる接触分解油、及び(vi)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触改質して得られる接触改質油からなる群より選ばれる少なくとも1種から留出する沸点範囲100〜240℃の留分を接触水素化反応して得られるものである上記項21に記載の方法。
【0032】
(項23)(A)成分が、光路長10mmにおける紫外線吸収波長245〜265nmの最大吸光度が0.005以下のものである上記項21又は項22に記載の方法。
【0033】
(項24)(A)成分が、100〜240℃の範囲の沸点を有するものである上記項21〜23のいずれかに記載の方法。
【0034】
(項25)(A)成分が、40〜70℃の範囲のアニリン点を有するものである上記項21〜24のいずれかに記載の方法。
【0035】
(項26)(A)成分が、15.5〜16.5の範囲の溶解度パラメータを有するものである上記項21〜25のいずれかに記載の方法。
【0036】
(項27)(A)成分が、10〜320の範囲の蒸発速度を有するものである上記項21〜26のいずれかに記載の方法。
【0037】
(項28)(B)成分が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物である上記項21〜27のいずれかに記載の方法。
【0038】
(項29)(B)成分が、アミド系化合物、尿素系化合物、アミン系化合物、ニトリル系化合物、エステル系化合物、炭酸エステル系化合物、エーテル系化合物、アルコール系化合物及びケトン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記項28に記載の方法。
【0039】
(項30)(B)成分が、一般式(2)
O−(XO)n−R(2)
[R及びRは、互いに同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表す。Xは、炭素数2〜3のアルキレン基を表す。nは1〜3の整数を表す。]
で表されるアルキレングリコール系化合物である上記項21〜27のいずれかに記載の方法。
【0040】
(項31)(B)成分が、一般式(2)におけるXがエチレン基かつnが1又は2で表されるアルキレングリコール系化合物である上記項30に記載の方法。
【0041】
(項32)(B)成分が、50〜240℃の範囲の沸点を有するものである上記項21〜31のいずれかに記載の方法。
【0042】
(項33)(B)成分が、15.1〜26.0(MPa)1/2の範囲の溶解度パラメータを有するものである上記項21〜32のいずれかに記載の方法。
【0043】
(項34)(B)成分が、10〜500の範囲の蒸発速度を有するものである上記項21〜33のいずれかに記載の方法。
【0044】
(項35)(A)成分の溶解度パラメータと(B)成分の溶解度パラメータとの差が、9.5(MPa)1/2以下である上記項21〜34のいずれかに記載の方法。
【0045】
(項36)(A)成分の蒸発速度と(B)成分の蒸発速度との差が、300以下である上記項21〜35のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、溶解性(溶解力)が向上した、実質的に芳香族炭化水素化合物を含有しない、低臭気の非芳香族系有機溶剤を得ることができる。また、本発明の溶剤を種々の溶剤用途や洗浄剤用途に適用することにより、当該用途の製品の貯蔵安定性(特に低温貯蔵安定性)の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
(A)成分:アルキルシクロヘキサン
本発明に係る(A)成分は、上記一般式(1)で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なく1種である。前記アルキルシクロヘキサンは、本発明の効果を損なわない限り、市販されているものを使用することができる。
【0048】
具体的に(A)成分としては、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、sec−ブチルシクロヘキサンのモノアルキル置換シクロヘキサン;1,2−、1,3−又は1,4−ジメチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルエチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−ジエチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−メチル−n−プロピルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルイソプロピルシクロヘキサンのジアルキル置換シクロヘキサン;1,2,3−、1,2,4−又は1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,2−ジメチル−3−エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチル−4−エチルシクロヘキサン、1,3−ジメチル−2−エチルシクロヘキサン、1,3−ジメチル−4−エチルシクロヘキサン、1,3−ジメチル−5−エチルシクロヘキサン、1,4−ジメチル−2−エチルシクロヘキサンのトリアルキル置換シクロヘキサン;1,2,3,4−、1,2,3,5−又は1,2,4,5−テトラメチルシクロヘキサンのテトラアルキル置換シクロヘキサン;ヘキサヒドロインダン、デカリン等のビシクロ環型シクロヘキサンなどが例示される。これらは、単独で若しくは2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0049】
中でも、一般式(1)におけるn個のRの合計炭素数が8〜9であるアルキルシクロヘキサンが好ましい。具体的には、エチルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−ジメチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルエチルシクロヘキサン、1,2,3−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0050】
使用用途においてトルエンを代替したい場合、上記一般式(1)におけるn個のRの炭素数の合計が8となるアルキルシクロヘキサンが好ましい。具体的にはエチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−ジメチルシクロヘキサンなどが挙げられ、それらの(A)成分中における組成比は75容量%以上、好ましくは90容量%以上が推奨される。又、キシレンを代替したい場合、上記一般式(1)におけるn個のRの炭素数の合計が9となるアルキルシクロヘキサンが好ましい。具体的にはn−プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,2,3−、1,2,4−、又は1,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルエチルシクロヘキサンなどが挙げられ、それらの(A)成分中における組成比は75容量%以上、好ましくは90容量%以上が推奨される。
【0051】
本発明に係るアルキルシクロヘキサンの好ましい原料源として、例えば、原油等から留出するアルキルベンゼンを含有する留分を接触水素化反応して得られるアルキルシクロヘキサン、中沸点および高沸点芳香族石油ナフサ品を接触水素化反応して得られるアルキルシクロヘキサンなどが推奨される。
該留分としては、(i)原油を常圧蒸留して得られる留分、(ii)その留分を水素化して得られる精製処理油、(iii)原油を常圧蒸留して残留した残油を熱分解して得られる軽油、(iv)重油を直接又は間接脱硫して得られる軽質油、(v)前記の(i)〜(iv)の何れかを接触分解して得られる接触分解油、及び(vi)前記の(i)〜(iv)の何れかを接触改質して得られる接触改質油からなる群より選ばれる少なくとも1種から留出する沸点範囲(常圧における)100〜240℃、好ましくは110〜200℃、より好ましくは120〜185℃の留分が推奨される。特に、その留分は、炭素数7〜10のアルキルベンゼンがその留出する留分中に90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上含有しているものが推奨される。
【0052】
前記炭素数7〜10のアルキルベンゼンとして、具体的にはトルエン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼンのモノアルキル置換ベンゼン;1,2−、1,3−又は1,4−ジメチルベンゼン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルエチルベンゼン、1,2−、1,3−又は1,4−ジエチルベンゼン、1,2−、1,3−又は1,4−メチル−n−プロピルベンゼン、1,2−、1,3−又は1,4−メチルイソプロピルベンゼンのジアルキル置換ベンゼン;1,2,3−、1,2,4−又は1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2−ジメチル−3−エチルベンゼン、1,2−ジメチル−4−エチルベンゼン、1,3−ジメチル−2−エチルベンゼン、1,3−ジメチル−4−エチルベンゼン、1,3−ジメチル−5−エチルベンゼン、1,4−ジメチル−2−エチルベンゼンのトリアルキル置換ベンゼン;1,2,3,4−、1,2,3,5−又は1,2,4,5−テトラメチルベンゼンのテトラアルキル置換ベンゼン;インデン、インダン、ナフタレン、テトラリン等の縮合環型ベンゼンなどが例示される。
【0053】
当該留分を接触水素化反応して得られるアルキルシクロヘキサンは、本発明の効果を損なわない範囲で、直鎖状及び分岐状の脂肪族炭化水素を主成分とするパラフィン、イソパラフィン、オレフィン、高沸点のアルキルシクロヘキサン(炭素数11以上)などの不純物が含有していてもよい。通常、前記不純物の含有量は、当該アルキルシクロヘキサンに対して好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0054】
また、上記中沸点および高沸点芳香族石油ナフサ品としては、例えばソルベッソ100、150(商品名、エクソン化学製)、スワゾール100、310、1000、1500、1800(商品名、丸善石油化学製)、スーパーゾールA、10、1500、1800、ハイゾール100(商品名、新日本石油化学製)などの市販品が例示され、アルキルベンゼンの原料源として使用することができる。
【0055】
上記留分を接触水素化する方法は、アルキルベンゼンを核水素化してアルキルシクロヘキサンが得ることができれば、特にその方法に限定はなく、バッチ反応、連続反応など公知の接触水素化方法が使用できる(例えば、特開2003−313562号公報、特開2004−155730号公報など)。
【0056】
本発明に係る接触水素化反応で使用される触媒は、特に限定はなく従来公知の接触水素化反応に用いられる触媒が使用できる。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、銀、インジウム、白金などの金属およびその酸化物が挙げられる。これらの化合物をそのまま用いてもよく、担持触媒やラネー触媒の形態で使用してもよい。
【0057】
接触水素化反応の反応条件は、実用的な反応速度を得ることができれば特に限定されない。例えば、無反応溶媒、水素分圧0.1〜20MPaの範囲、反応温度20〜250℃の範囲などの反応条件が例示される。
【0058】
本発明に係る(A)成分の最大吸光度(紫外線吸収波長;245〜265nm、光路長;10mm)は、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.001以下である。
【0059】
本発明に係る(A)成分の沸点は、好ましくは100〜240℃の範囲、より好ましくは110〜200℃の範囲、特に好ましくは120〜185℃の範囲である。
【0060】
本発明に係る(A)成分のアニリン点は、好ましくは40〜70℃の範囲、より好ましくは40〜65℃の範囲である。
【0061】
本発明に係る(A)成分の溶解度パラメータは、好ましくは15.5〜16.5(MPa)1/2の範囲、より好ましくは15.7〜16.3(MPa)1/2の範囲である。
【0062】
本発明に係る(A)成分の蒸発速度は、好ましくは10〜320の範囲、より好ましくは30〜280の範囲、特に好ましくは50〜250の範囲である。
【0063】
(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物
本発明に係る(B)成分は、ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、(A)成分の溶解力をさらに向上させる特性を有するものである。(B)成分は、本発明を損なわない限り、市販されているものを使用することができる。尚、(B)成分は、実質的に芳香族化合物を含有していないものである。
【0064】
前記の中でも本発明に係る(B)成分は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子などをヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物が好ましく、具体的には下記のような非芳香族有機化合物が例示される。
【0065】
具体的に、窒素原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系化合物;N,N−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等の尿素系化合物;トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、ピリジン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等のアミン系化合物;アセトニトリル等のニトリル系化合物、などが例示される。
【0066】
また、酸素原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸2−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−エトキシエチル、酢酸1−メトキシ−2−プロピル、酢酸1−エトキシ−2−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン等のモノエステル類、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル等の多価エステル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−n−プロピルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルイソプロピルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−n−ブチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−t−ブチルエステル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールエステル類、乳酸エチル、クエン酸トリブチル等のヒドロキシ基含有エステル類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル類などのエステル系化合物;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸エステル系化合物;
【0067】
ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、ジ−n−シクロヘキシルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,8−シネオール、メチラール等のアルキルエーテル類、ジエチルアセタール等のアセタール類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコールジイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジエーテル類、モルホリン等のアミノエーテル類などのエーテル系化合物;
【0068】
メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エチルブタノール、n−オクタノール等のモノオール類、グリセリン等の多価アルコール類、3−メトキシ−3−メチルブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシエトキシプロパノール等のアルコキシアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール等の(ポリ)アルキレングルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテル類などのアルコール系化合物;
【0069】
アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルn−ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ホロン、イソホロン、メシチルオキシド、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のジアルキルケトン類、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のヒドロキシ基含有ケトン類、アセトニルアセトン等のジケン類などのケトン系化合物、などが例示される。
【0070】
また、硫黄原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物としては、例えば、二硫化炭素、ジメチルスルホキシドなどが例示される。
【0071】
また、リン原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物としては、例えば、ヘキサメチルホスホルイミドヘキサメチルホスホルアミドなどが例示される。
【0072】
これら非芳香族有機化合物は、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0073】
中でも、多様性の観点から酸素原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物が好ましく、特に上記一般式(2)で表されるアルキレングリコール系化合物が好ましい。
【0074】
具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール等の(ポリ)アルキレングルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコールジイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−n−プロピルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルイソプロピルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−n−ブチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテル−t−ブチルエステル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールエステル類などが例示される。これらは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0075】
前記アルキレングリコール系化合物の中でも、一般式(2)におけるXがエチレン基かつnが1又は2のものが好ましい。
【0076】
本発明に係る(B)成分の沸点は、好ましくは50〜240℃の範囲、より好ましくは60〜190℃の範囲である。
【0077】
本発明に係る(B)成分の溶解度パラメータは、好ましくは15.1〜26.0(MPa)1/2の範囲、より好ましくは15.5〜20.0(MPa)1/2の範囲である。
【0078】
本発明に係る(B)成分の蒸発速度は、好ましくは10〜500の範囲、より好ましくは20〜350の範囲、特に好ましくは30〜250の範囲である。
【0079】
本発明の非芳香族系有機溶剤
本発明の非芳香族系有機溶剤は、上記(A)成分:一般式(1)で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、上記(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有する。
【0080】
それらの重量比は、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1であり、好ましく1:0.01〜0.75、より好ましく1:0.01〜0.5である。(A)成分:(B)成分=1:0.001より小さいと有意な溶解力の向上が認められない。また、(A)成分:(B)成分=1:1を越えると低臭気の非芳香族系有機溶剤の優れた性能が発揮されなくなる虞がある。
【0081】
上記(A)成分と(B)成分との組み合わせ及びその組成比(重量比)は、用途に合わせて適宜選択することができる。
【0082】
例えば、塗料、インク、ゴム用溶剤又は接着剤等に使用される樹脂やバインダー成分等を溶解させることなどを主目的とする用途の場合、溶解力(溶解性)及び貯蔵安定性の観点から、本発明の非芳香族系有機溶剤は、好ましくは35℃以下、より好ましくは20℃以下、特に好ましくは0℃以下の範囲のアニリン点を有するもの、及び/又は好ましくは15.3〜22.5(MPa)1/2の範囲、より好ましくは15.4〜20.5(MPa)1/2の範囲、特に好ましくは15.6〜18.5(MPa)1/2の範囲の溶解度パラメータを有するものが推奨される。
【0083】
又、塗料、インク、接着剤、ゴム用溶剤、洗浄剤又は離型剤等に使用される有機溶剤を揮発(蒸発)させて使用することを主目的とする用途の場合、揮発性(蒸発性)の観点から、本発明の非芳香族系有機溶剤は、好ましくは10〜350の範囲、より好ましくは20〜300の範囲、特に好ましくは30〜250の範囲の蒸発速度を有するもの、及び/又は好ましくは50〜240℃の範囲、より好ましくは60〜190℃の範囲の沸点を有するものが推奨される。
【0084】
(A)成分と(B)成分との互いの相溶性、前記用途の使用方法などの観点から、(A)成分の溶解度パラメータと(B)成分の溶解度パラメータとの差は、好ましくは9.5(MPa)1/2以下、より好ましくは5.0(MPa)1/2以下、特に好ましくは4.0(MPa)1/2以下が推奨される。
【0085】
また、前記用途の使用方法などの観点から、(A)成分の蒸発速度と(B)成分の蒸発速度との差は、好ましくは300以下、より好ましくは250以下が推奨される。
【0086】
本明細書及び請求の範囲において、溶解度パラメータは、“塗装と塗料”(1981年6月号)に記載の方法に準じて算出される。尚、混合溶媒の溶解度パラメータ(δmix)は、各成分(i)のモル分率Viとその溶解度パラメータδiと積の総和から求められ、下記式(E)に従って算出される。
δmix=ΣViδi (E)
【0087】
本明細書及び請求の範囲において、蒸発速度は、測定温度25℃における酢酸n−ブチルの蒸発速度100に対する相対値として求められ、下記式(F)に従って算出される。
蒸発速度=(T/T)X100 (F)
[式中、Tは、酢酸n−ブチルを100%減量に要した時間、Tは、試料を100%減量に要した時間を表す。]
【0088】
本発明の非芳香族系有機溶剤は、塗料、インキ、接着剤、ゴム、離型剤、粘着剤、撥水剤若しくは撥油剤、密封剤、クリーニング用溶剤、精密部品若しくは金属材料等の加工部品用洗浄剤など、従来公知の各種用途に好適に使用できる。
【0089】
以下、本発明を更に具体的に説明するために、実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
アニリン点
アニリン点は、JIS K 2256に記載の方法に準じて測定した。アニリン点が低いほど、溶解力が高いことを示す。
【0091】
組成分析
本発明に係る(A)成分及び(B)成分の組成は、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。
【0092】
常温貯蔵安定性
試料をサンプル瓶に入れて、25℃で1ヶ月間保存した。試験前後の試料の外観の変化を目視で評価した。
【0093】
低温貯蔵安定性
試料をサンプル瓶に入れて、0℃で15日間保存した。試験前後の試料の外観の変化を目視で評価した。
【0094】
顔料分散性
試料をサンプル瓶に入れて、20℃で1週間保存した。試験前後の顔料の分散状態を目視で評価した。
【0095】
蒸発速度
ろ紙(No.5C、φ90cm)が置かれた2つのシャーレを、直接風が当たらないようにカバーで覆われた電子天秤2台に載せた。次に、一方に酢酸n−ブチル、他方に試料をそれぞれ0.70g秤り取った。25℃で、酢酸n−ブチルおよび試料の重量減少率が100%となるまでの時間を計測した。
【0096】
沸点範囲
JIS−K2435に記載の常圧蒸留法で測定した初留点と乾点を温度範囲とした。
【実施例】
【0097】
実施例1
原油を常圧蒸留して得られる留分を接触改質して接触改質油を得た。次にその接触改質油を蒸留して総炭素数9であるアルキルベンゼン(留分中の含有量;99重量%、沸点範囲165〜177℃)を得た。そのアルキルベンゼンを接触水素化反応し、本発明に係るアルキルシクロヘキサン((A)成分含有量:99重量%、アニリン点:55℃、溶解度パラメータ:15.8、蒸発速度:80、紫外線最大吸光度:0.001未満、沸点範囲142〜157℃)を得た。
該アルキルシクロヘキサン42重量部、及び(B)成分としてジエチレングリコールジメチルエーテル(溶解度パラメータ:16.9、蒸発速度:50、沸点:162℃)18重量部を混合して、本発明の非芳香族系有機溶剤(アニリン点:33℃、溶解度パラメータ:16.1、蒸発速度:70、沸点範囲:142〜162℃)60重量部を得た。
次に、ヘキサメチレンジイソシアネート35重量部、ポリエステルポリオール(商品名:ニッポラン1100、日本ポリウレタン(株)製)100重量部、オクチル酸第一錫0.2重量部、及び前記溶剤60重量部を混合して、ポリウレタン塗料組成物を調製した。常温貯蔵安定性試験及び低温貯蔵安定性試験の結果、この塗料組成物は、白濁、増粘、沈殿、凝集及びゲル化せず、貯蔵安定性が良好であった。
【0098】
比較例1
本発明の非芳香族系有機溶剤の代わりに、実施例1で使用した(A)成分を単独で60重量部使用した他は、実施例1と同様に行って、本発明外のポリウレタン塗料組成物を得た。常温貯蔵安定性試験の試験開始3日目で該塗料組成物は相分離を起こした。
【0099】
実施例2
原油を常圧蒸留して得られる留分を接触分解して接触分解油を得た。次に接触分解油を蒸留して総炭素数8であるアルキルベンゼン(留分中の含有量;99重量%、沸点範囲139〜141℃)を得た。そのアルキルベンゼンを接触水素化反応し、本発明に係るアルキルシクロヘキサン((A)成分含有量:99重量%、アニリン点:45℃、溶解度パラメータ:16.2、蒸発速度:140、紫外線最大吸光度:0.001未満、沸点範囲123〜132℃)を得た。
該アルキルシクロヘキサン40重量部、及び(B)成分としてイソプロパノール(溶解度パラメータ23.5、蒸発速度:180、沸点:83℃)10重量部とを混合して、本発明の非芳香族系有機溶剤(アニリン点:14℃、溶解度パラメータ:18.5、蒸発速度:180、沸点範囲:83〜132℃)50重量部を得た。
次に、ポリアミド系樹脂(軟化点130℃、重量平均分子量5000のダイマー酸系ポリアミド)50重量部を前記溶剤50重量部に溶解させた。次に、サンドミルを用いて酸化チタン(顔料、商品名:タイペークR−550、石原産業製)10重量部をその樹脂溶液に分散させて、グラビアインキ組成物を調製した。
顔料分散性試験の結果、このインキ組成物は、調製直後と同等の良好な分散状態を保持していた。また、常温貯蔵安定性試験及び低温貯蔵安定性試験の結果、該組成物は増粘、沈殿及びゲル化せず、貯蔵安定性が良好であった。
【0100】
比較例2
本発明の非芳香族系有機溶剤の代わりに、実施例2で使用した(A)成分を単独で50重量部使用した他は、実験例2と同様に行って、本発明外のグラビアインキ組成物を調製した。このグラビアインキ組成物は、実施例2で調製したグラビアインキ組成物と比較して粘度が高くなり、顔料の分散性も悪かった。
【0101】
実施例3
(A)成分として実施例2で用いたアルキルシクロヘキサン270重量部と、(B)メチルエチルケトン(溶解度パラメータ19.0、蒸発速度:390、沸点:80℃)180重量部を混合して、本発明の非芳香族系有機溶剤(アニリン点:−1℃、溶解度パラメータ:17.6、蒸発速度:220、沸点範囲:80〜132℃)450重量部を得た。
次に、ネオプレンAC(商品名、デュポン社製)100重量部、マグネシア4重量部及び亜鉛華4重量部を溶融混練りした後、その混練物108重量部、t−ブチルフェノール樹脂45重量部及び前記溶剤450重量部を混合攪拌して、溶液型接着剤組成物を調製した。常温貯蔵安定性試験及び低温貯蔵安定性試験の結果、この接着剤組成物は、粘度の変化はなく、固形分の析出もなく、貯蔵安定性が良好であった。
【0102】
比較例3
本発明の非芳香族系有機溶剤の代わりに、実施例3で使用した(A)成分を単独で450重量部使用した他は、実施例3と同様に行って、本発明外の溶液型接着剤組成物を調製した。常温貯蔵安定性試験の試験開始1日目で固形分が析出して白濁を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:一般式(1)
【化1】

[式中、n個のRは、同一又は異なって、それぞれ、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を表す。nは1〜4の整数を表す。n個のRの炭素数の合計は1〜4の整数である。nが2の場合、2個のRが互いに結合してそれらが結合するシクロヘキサン環と共にビシクロ環を形成していてもよい。]
で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1の重量比で含有する非芳香族系有機溶剤。
【請求項2】
上記アルキルシクロヘキサンが、
(i)原油を常圧蒸留して得られる留分、(ii)その留分を水素化して得られる精製処理油、(iii)原油を常圧蒸留して残留した残油を熱分解して得られる軽油、(iv)重油を直接又は間接脱硫して得られる軽質油、(v)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触分解して得られる接触分解油、及び(vi)前記の(i)〜(iv)のいずれかを接触改質して得られる接触改質油からなる群より選ばれる少なくとも1種から留出する沸点範囲100〜240℃の留分を接触水素化反応して得られるものである請求項1に記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項3】
(B)成分が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子をヘテロ原子として有する非芳香族有機化合物である請求項1又は請求項2に記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項4】
(B)成分が、アミド系化合物、尿素系化合物、アミン系化合物、ニトリル系化合物、エステル系化合物、炭酸エステル系化合物、エーテル系化合物、アルコール系化合物及びケトン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項5】
(B)成分が、一般式(2)
O−(XO)n−R(2)
[R及びRは、互いに同一又は異なって、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表す。Xは、炭素数2〜3のアルキレン基を表す。nは1〜3の整数を表す。]
で表されるアルキレングリコール系化合物である請求項1又は請求項2に記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項6】
(A)成分の溶解度パラメータと(B)成分の溶解度パラメータとの差が、9.5(MPa)1/2以下である請求項1〜5のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項7】
(A)成分の蒸発速度と(B)成分の蒸発速度との差が、300以下である請求項1〜6のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項8】
非芳香族系有機溶剤が、35℃以下のアニリン点を有する請求項1〜7のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項9】
非芳香族系有機溶剤が、15.3〜22.5(MPa)1/2の溶解度パラメータを有する請求項1〜8のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項10】
非芳香族系有機溶剤が、10〜350の蒸発速度を有するものである請求項1〜9のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項11】
上記非芳香族系有機溶剤が、塗料用溶剤、インク用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、離型剤用溶剤、ゴム用溶剤、撥水剤用溶剤、撥油剤用溶剤、密封剤用溶剤、クリーニング用溶剤又は加工部品用洗浄剤である請求項1〜10のいずれかに記載の非芳香族系有機溶剤。
【請求項12】
(A)成分:一般式(1)
【化2】

[式中、n個のRは、同一又は異なって、それぞれ、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基を表す。nは1〜4の整数を表す。n個のRの炭素数の合計は1〜4の整数である。nが2の場合、2個のRが互いに結合してそれらが結合するシクロヘキサン環と共にビシクロ環を形成していてもよい。]
で表されるアルキルシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:ヘテロ原子を有する非芳香族有機化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを、(A)成分:(B)成分=1:0.001〜1の重量比となるように混合して該アルキルシクロヘキサンの溶解性を向上させる方法。

【公開番号】特開2006−282900(P2006−282900A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106067(P2005−106067)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】