説明

非黒毛和種か否かを鑑定する方法及びキット

【課題】ウシ由来DNAを含む試料に対して、黒毛和種でないウシであるか否かを鑑定する方法、及びキットを提供する。
【解決手段】ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、SNP(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非黒毛和種か否かを鑑定する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
黒毛和種のウシは肉質が優れており、国際的にも高い評価を得ている。
【0003】
それに対してホルスタイン種のウシは肉質の点で黒毛和種に劣るものの、安価であることから大衆向け牛肉として消費されてきた。近年では、より肉質に優れる食用牛肉として、ホルスタイン種雌牛に黒毛和種雄牛を交配した雑種第一代(F1)が盛んに生産・販売されている。
【0004】
近年、F1をあたかも黒毛和種であるかのように偽装して表示したうえで販売するという例が相次いでおり、食品の安全と消費者の信頼を揺るがす大きな社会問題となっている。
【0005】
このため、生産地や流通経路など、子牛が生まれてから市場に出回るまでの記録を追跡することのできる、いわゆるトレーサビリティーシステムの確立が急務とされる。さらに、このトレーサビリティーシステムを補完するという意味で、DNAレベルでの品種鑑定法が求められている。
【0006】
これまでに、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP (s))マーカーを用いて黒毛和種とF1とを鑑定する方法が報告されている(特許文献1、並びに非特許文献1及び2)。しかしながら、これら従来の方法には誤判別のおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-27655号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Development of breed identification markers derived from AFLP in beef cattle. Meat Science, 67, 275-280. (2004)
【非特許文献2】Breed Discrimination Using DNA Markers Derived from AFLP in Japanese Beef Cattle. Asian-Aust. J. Anim. Sci., 19, (8), 1106-1110. (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウシ由来DNAを含む試料に対して、黒毛和種でないウシであるか否かを鑑定する方法、及びキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の方法には誤判別のおそれがあったため、本発明者らは、より精度の高い鑑定方法の確立を目指した。本発明者らの検討により、このためには多くの多型を利用することが必要であることが明らかになった。本発明者らは当初、従来多型解析手段として利用されてきたAFLP(Amplified Fragment. Length Polymorphism)法を利用して上の目的を達成しようとした。しかしながら、検討の結果、この方法で多くの多型を解析し、高精度な鑑定方法を開発することは実質的に不可能であることも判明した。
【0011】
そこで、本発明者らは、ウシゲノムのY染色体を除く全領域をカバーした54,001箇所のSNPs(Bovine 50k SNPs)を搭載するとされるBovineSNP50 BeadChip(illumina ,CA ,USA)を利用することでより多くの多型を解析することとした。高精度な鑑定方法の確立に結びつけるためには多くの個体を用いてSNPマーカーの大規模なスクリーニングを繰り返す必要があった。本発明者らがスクリーニングに供した個体数は、黒毛和種300個体、及びホルスタイン種146個体にも及んだ。この作業量は膨大なものであった。また、スクリーニング作業を進める中で、本発明者らの当初の予測に反し、高い精度を実現するSNPマーカーの数が著しく少ないということが判明した。このため、スクリーニング作業は困難を極めた。これは、黒毛和種とホルスタイン種の間の遺伝的類縁性に起因するものとみられた。本発明者らは選抜基準や選抜手法において創意工夫を凝らすことにより、はじめてスクリーニング作業を成功裏に完了することができた。
【0012】
このように本発明者らは多大な試行錯誤を経て、54,001箇所もの膨大な数のSNPsからスタートして最終的に高精度な鑑定方法を実現する10マーカーにまで到達することに成功し、本発明を完成させた。さらにより高い精度を実現するSNPマーカーの組み合わせについても鋭意検討を行った。すなわち、本発明は次の通りである。
【0013】
項1.ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、次の(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法:
(1)第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(2)配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(3)第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(4)第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(5)第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(6)第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型;
(7)第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(8)第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(9)第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(10)第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
項2.検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)からなる群より選択される少なくとも3種の一塩基多型である、項1に記載の鑑定方法。
項3.検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)の一塩基多型である、項1に記載の鑑定方法。
項4.黒毛和種でないウシが、
(A)ホルスタイン種;又は
(B)ホルスタイン種及びその他の種の交雑種
である、項1〜3のいずれかに記載の鑑定方法。
項5.ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定するキットであって、次の(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出するために必要な材料を含むキット:
(1)第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(2)配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(3)第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(4)第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(5)第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(6)第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型;
(7)第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(8)第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(9)第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(10)第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
項6.検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)からなる群より選択される少なくとも3種の一塩基多型である、項4に記載のキット。
項7.検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)の一塩基多型である、項5に記載の鑑定方法。
項8.一塩基多型の有無を検出するために必要な材料が、一塩基多型を含むDNA断片をPCR反応で増幅するために使用される一組のプライマーである、項5〜7のいずれかに記載の鑑定キット。
項9.黒毛和種でないウシが、
(A)ホルスタイン種;又は
(B)ホルスタイン種及びその他の種の交雑種
である、項5〜8のいずれかに記載の鑑定キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウシ由来DNAを含む試料に対して、黒毛和種でないウシ由来であるか否かを非常に低い誤判別率で鑑定することができる。特に、試料が(A)ホルスタイン種由来;又は(B)ホルスタイン種及びその他の種の交雑種由来であるか否かを、著しく低い誤判別率で鑑定することができる。
【0015】
また、本発明によれば、SNPマーカーを利用するため、簡便に、低コストで、かつ短時間で鑑定を行うことができる。
【0016】
さらに、牛肉等に対して、本発明による牛肉等の鑑定を販売前に実施するようにすれば、社会問題と化しているいわゆる「偽装表示」を抑止することができる。本発明の有効活用により、食品の安全と消費者の信頼の確保につながることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.本発明の鑑定方法について
1−1.鑑定方法に供する試料の説明
本発明の鑑定方法に供する試料としては、ウシ由来DNAを含んでいる試料であればよく特に限定されない。例えば、市場で一般的に入手することのできる牛肉を用いることができる。牛肉としては例えば、もも肉、肩肉、またはロース肉等を用いることができる。その他にも、肝臓組織、リンパ節、または血液等も用いることができる。
【0018】
本発明の鑑定方法は、鑑定対象試料が黒毛和牛であるか否かを鑑定することができる。本発明の鑑定方法は、特に鑑定対象試料が(イ)黒毛和種由来;(ロ)ホルスタイン種由来;又は(ハ)黒毛和種とホルスタイン種との交雑種由来である場合には、著しく高い精度で鑑定することができる。本発明の鑑定方法に供する試料群としては、産地が全く不明である試料群であってもよいし、黒毛和種由来由来の試料に黒毛和種由来でないウシ由来の試料が混入している、若しくは混入が疑われる試料群であれば好ましい。(イ)黒毛和種由来;(ロ)ホルスタイン種由来;又は(ハ)黒毛和種とホルスタイン種との交雑種由来の試料が混入している、若しくは混入が疑われる試料群であればより好ましい。
【0019】
これらの試料からDNAを抽出および精製する方法としては、公知のいずれかの方法を利用することができる。
【0020】
1−2.SNPの検出方法の説明
SNPの検出方法は、SNPを検出できる方法であればよく特に限定されない。例えば、PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法、RFLP法、AFLP(Amplified Fragment. Length Polymorphism)法、PCR-SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法、およびインベーダーアッセイ法等が挙げられる。
【0021】
PCR-RFLP 法は、SNPの一方の型が制限酵素認識配列の一部分を構成しており、他方の型だと制限酵素認識配列を構成しない場合に有用な方法である。このような場合には、SNPの一方の型を含むDNAは切断しないが他方の型を含むDNAを切断するような制限酵素が存在することになる。PCR-RFLP 法ではこのような制限酵素認識配列、またはSNP部位においてその一塩基が変異された配列を含むDNA断片をPCR法によって増幅する。このPCR増幅産物を前記制限酵素で切断し、その断片の長さにより、多型の有無を判定することができる。断片の長さは、それぞれの断片をアガロースゲル電気泳動に供すること等によって確かめることができる。
【0022】
また、DNAシーケンサー等を用いてDNA塩基配列を決定することでSNPを検出することもできる。
【0023】
本発明で利用するSNP(1)〜(10)はいずれも後述の通り一方の型が制限酵素認識配列の一部分を構成しており、他方の型だと制限酵素認識配列を構成しない。このためPCR-RFLP法が簡便性という観点からは好ましい。
【0024】
本発明で用いるSNPを検出するにあたっては、これを含むDNA断片をあらかじめPCR法によって増幅しておくことが解析上好ましい。PCR法の条件はSNPを含むDNA断片が増幅されればよく特に限定されない。PCR法に用いるプライマーは、対象遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。プライマーの塩基数は、目的のDNA断片を増幅することができればよく特に限定されないが、10塩基から40塩基が好ましく、15塩基から30塩基がより好ましく、18塩基から25塩基がよりさらに好ましい。例えば、表1に記載のプライマーを用いることができる。
【0025】
【表1】

【0026】
PCR反応の条件はSNPを含むDNA断片が増幅されればよく特に限定されない。例えば、90℃〜98℃で5秒〜4分、好ましくは94℃で2分の熱変性の後、90℃〜98℃で5秒〜4分、好ましく94℃で30秒の変性反応、40℃〜80℃で5秒〜4分、好ましくは55〜65℃で30秒のアニーリング反応、及び68℃〜74℃で30秒〜2分、好ましくは72℃で1分の伸長反応を1サイクルとしてこれを25〜50サイクル、好ましくは30〜35サイクル行い、その後68℃〜74℃で30秒〜10分、好ましくは72℃で 7分の伸長反応を行うことができる。
【0027】
1−3.SNPの説明
本発明で用いるSNPは次の(1)〜(10)を含む。
(1)第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(2)配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(3)第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(4)第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(5)第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(6)第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型;
(7)第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(8)第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(9)第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(10)第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
【0028】
1−3−1.SNP(1)の説明
本発明で用いるSNP(1)は、第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「Hapmap41762-BTA-117570」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA (Breed Identification marker derived from Bead Array) 16」と名付けられた。
【0029】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(1)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(1)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.321であった。
【0030】
このSNP(1)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常CATGであり制限酵素Nla IIIの認識部位であるのに対し、第152番目のグアニンがアデニンに置換されている相補鎖側配列TATGはNla IIIの認識部位ではない。したがって、Nla IIIを用いればこのSNP(1)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Nla IIIにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0031】
1−3−2.SNP(2)の説明
本発明で用いるSNP(2)は、配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「BTB-01970209」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 7」と名付けられた。
【0032】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(2)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(2)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.500であった。
【0033】
このSNP(2)が位置する前後の塩基配列は通常GAATCであり制限酵素Hinf Iの認識部位であるのに対し、グアニンがアデニンに置換されている配列AAATCはHinf Iの認識部位ではない。したがって、Hinf Iを用いればこのSNP(2)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Hinf Iにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0034】
1−3−3.SNP(3)の説明
本発明で用いるSNP(3)は、第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-84483」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 22」と名付けられた。
【0035】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(3)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(3)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.359であった。
【0036】
このSNP(3)が位置する前後の塩基配列は通常TCGAであり制限酵素Taq Iの認識部位であるのに対し、シトシンがチミンに置換されている配列TTGAはTaq Iの認識部位ではない。したがって、Taq Iを用いればこのSNP(3)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Taq Iにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0037】
1−3−4.SNP(4)の説明
本発明で用いるSNP(4)は、第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-97073」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 35」と名付けられた。
【0038】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(4)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(4)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.308であった。
【0039】
このSNP(4)が位置する前後の塩基配列は通常CCGCであり制限酵素Aci Iの認識部位であるのに対し、グアニンがアデニンに置換されている配列CCACはAci Iの認識部位ではない。したがって、Aci Iを用いればこのSNP(4)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Aci Iにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0040】
1−3−5.SNP(5)の説明
本発明で用いるSNP(5)は、第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「Hapmap57526-rs29013535」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 6」と名付けられた。
【0041】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(5)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(5)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.295であった。
【0042】
このSNP(5)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常CCGGであり制限酵素Msp Iの認識部位であるのに対し、グアニンがアデニンに置換されている相補鎖側配列CTGGはMsp Iの認識部位ではない。したがって、Msp Iを用いればこのSNP(5)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Msp Iにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0043】
1−3−6.SNP(6)の説明
本発明で用いるSNP(6)は、第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-BAC-35323」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 28」と名付けられた。
【0044】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(6)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(6)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.295であった。
【0045】
このSNP(6)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常GTACであり制限酵素Rsa Iの認識部位であるのに対し、チミンがグアニンに置換されている相補鎖側配列GTCCはRsa Iの認識部位ではない。したがって、Rsa Iを用いればこのSNP(6)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Rsa Iにより切断されないDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0046】
1−3−7.SNP(7)の説明
本発明で用いるSNP(7)は、第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-BAC-35312」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 24」と名付けられた。
【0047】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(7)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(7)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.410であった。
【0048】
このSNP(7)が位置する前後の塩基配列は通常CTTGAGであり制限酵素BspT Iの認識部位でないのに対し、グアニンがアデニンに置換されている配列CTTAAGはBspT Iの認識部位である。したがって、BspT Iを用いればこのSNP(7)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、BspT Iにより切断されるDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0049】
1−3−8.SNP(8)の説明
本発明で用いるSNP(8)は、第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型である。「Hapmap43965-BTA-89883」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 14」と名付けられた。
【0050】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(8)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(8)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.526であった。
【0051】
このSNP(8)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常AGTTであり制限酵素Tsp509 Iの認識部位でないのに対し、シトシンがチミンに置換されている相補鎖側配列AATTはTsp509 Iの認識部位である。したがって、Tsp509 Iを用いればこのSNP(8)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Tsp509 Iにより切断されるDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0052】
1−3−9.SNP(9)の説明
本発明で用いるSNP(9)は、第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-103129」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 18」と名付けられた。
【0053】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(9)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(9)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.436であった。
【0054】
このSNP(9)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常CTGGであり制限酵素Msp Iの認識部位でないのに対し、アデニンがグアニンに置換されている相補鎖側配列CCGGはMsp Iの認識部位である。したがって、Msp Iを用いればこのSNP(9)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Msp Iにより切断されるDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0055】
1−3−10.SNP(10)の説明
本発明で用いるSNP(10)は、第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型である。「ARS-BFGL-NGS-40630」と呼ばれることもあるSNPである。本発明者らによってSNPマーカーに転化され、「BIBA 8」と名付けられた。
【0056】
本発明者が黒毛和種300頭及びホルスタイン種146頭を用いて検討した限りにおいては、このSNP(10)は、黒毛和種のウシにおいては全くみられなかった。このSNP(10)がホルスタイン種においてみられる遺伝子頻度は0.500であった。
【0057】
このSNP(10)が位置する前後の相補鎖側塩基配列は通常AGTTであり制限酵素Alu Iの認識部位でないのに対し、アデニンがグアニンに置換されている相補鎖側配列AGCTはAlu Iの認識部位である。したがって、Alu Iを用いればこのSNP(10)を含む塩基配列と含まない塩基配列とを判別することができる。具体的には、Alu Iにより切断されるDNA断片を有する試料は黒毛和種でないウシ、好ましくはホルスタイン種又はホルスタイン種及びその他の種との交雑種であると鑑定することができる。
【0058】
1−4.鑑定基準の説明
本発明の鑑定方法は、SNP(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法である。
【0059】
本発明において「複数の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定する」とは、(i)試料において当該複数の一塩基多型の有無を同時に検出し、いずれか少なくとも1つが検出された場合に当該試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定すること、又は、(ii)試料において当該複数の一塩基多型の有無を逐次に検出していき、いずれか少なくとも1つが検出された場合に当該試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することを意味する。(ii)の場合において、一塩基多型の逐次検出は任意の順番で行うことができる。また、(ii)の場合において、いずれか少なくとも1つが検出された時点で検出作業を止めてもよい。
【0060】
特に、著しく低い誤判別率と、高い検出率の両立という点では、SNP(1)〜(6)のうち少なくとも3種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定する方法が好ましい。SNP(1)〜(6)の全部について一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定する方法がより好ましい。
【0061】
なお、本明細書において、「SNP(1)〜(10)より選択される特定のSNP群を検出し、いずれか少なくとも1つのSNPが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定すること」には、当該SNP群に属するSNPの有無に加えて当該SNP群に属しない別のSNPの有無についても併せて検出し、これら全ての検出対象SNPの中から少なくとも1種が検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することも含まれる。このように解釈する理由は、SNP(1)〜(10)について既に説明した通り、SNP(1)〜(10)のうち1種でも検出されれば一定の誤判別率の下、その被検体は黒毛和種由来でないと鑑定することができるからである。
【0062】
1−4−1.検出率の説明
非黒毛和種ウシ試料が正しく非黒毛和種ウシであると鑑定される確率のことを本明細書において検出率(Pi)という。検出率を向上させることは鑑定の感度を高めることにつながる。鑑定の感度が高まることで鑑定作業の効率性が増す。検出しようとする対象となるSNP(本明細書において「検出対象SNP」ということがある。)として1種のSNPを用いる場合、検出率は、この検出対象SNPが非黒毛和種ウシの試料由来DNAに存在している確率として算出される。非黒毛和種ウシ試料におけるこの検出対象SNPの対立遺伝子頻度をPaとすると、この鑑定方法の検出率はPi=Paとして算出される。また、検出対象SNPとしてn個(nは2以上の整数である)のSNPを用い、これらのうちいずれか1種が検出された試料を非黒毛和種ウシ由来の試料であると鑑定する場合、検出率は、Pi=1-(1-Pi1)(1-Pi2) (1-Pi3)…(1-Pin)として算出される。
【0063】
1−4−2.誤判別率の説明
黒毛和種ウシ試料が誤って非黒毛和種ウシ試料であると鑑定される確率のことを本明細書において誤判別率(Pm)という。誤判別率を改善することは鑑定の精度を高めることにつながる。鑑定の精度が高まることでより鑑定の信頼性が増す。検出対象SNPとして1種のSNPを用いる場合、黒毛和種ウシ試料におけるこの検出対象SNPの対立遺伝子頻度をPbとすると、この鑑定方法の誤判別率はPm =1-(1-Pb)2として算出される。また、検出対象SNPとしてn個(nは2以上の整数である)のSNPを用い、これらのうちいずれか1種が検出された試料を非黒毛和種ウシ由来の試料であると鑑定する場合、誤判別率は、Pm =1-(1-Pm1)(1-Pm2) (1-Pm3)…(1-Pmn)として算出される。
【0064】
1−4−3.鑑定方法の説明
検出対象SNPの数は、どのSNPを選択するかにもよるが、鑑定の感度という観点では3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。なお、作業効率の面からは検出対象SNPの種類は少ないほうがより好ましい。8以下が好ましく、7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
【0065】
SNPが実際に検出された数がある特定の基準数(以下、「鑑定の基準数」ということがある。)以上であればその試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定する。この鑑定の基準数は、鑑定の感度という観点では1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がよりさらに好ましい。
【0066】
具体的には、鑑定対象が(イ)黒毛和種由来;(ロ)ホルスタイン種由来;又は(ハ)ホルスタイン種及びその他の種の交雑種由来である場合、例えば、SNP(1)〜(10)のいずれか1種のみをそれぞれ検出対象としたとき、鑑定の基準数を1とすると、検出率は概ね0.2671〜0.4555の範囲内であり、誤判別率は概ね0.0000〜0.0199の範囲内である。なお、この場合においても検出率が比較的低いとはいえ一定の鑑定結果が得られるので鑑定方法として実施することはできる。ただし、特に高い感度が求められるときはこの限りでない。例えばSNP(1)〜(6)を全て検出対象とし、鑑定の基準数を1とすると検出率が0.9043程度となるので鑑定の感度という点では好ましい。
【0067】
検出対象SNPとしては、鑑定の精度という観点では誤判別率が特に低いことからSNP(1)〜(6)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。例えば検出対象SNPとしてSNP(1)〜(6)からなる群より選択される少なくとも1種のSNPを用いると、誤判別率が0.0000程度となるので好ましい。
【0068】
2.本発明の鑑定キットについての説明
以下、本発明の鑑定キットについて説明するが、鑑定キットに供する試料、SNPの検出方法、SNP、及び鑑定基準についての説明は、上記した本発明の鑑定方法についての説明と同様であるため省略する。
【0069】
2−1.SNPを検出するために必要な材料についての説明
SNPを検出するために必要な材料は、SNPの検出方法によって異なる。例えば、PCR反応によりSNPを含むDNA断片をまず増幅する必要があるような検出方法を用いる場合には、PCR反応に必要なプライマーのセットがSNPを検出するために必要となる。そのような検出方法としては例えばPCR-RFLP法及びPCR-SSCP法等が挙げられる。本発明の鑑定キットはSNPを検出するために必要な材料としてそのようなプライマー、又は一組のプライマー(プライマーセット)を含んでいてもよい。プライマーの配列は限定されず、常法に従って決定することができる。プライマーの塩基数は、目的のDNA断片を増幅することができればよく特に限定されないが、10塩基から40塩基が好ましく、15塩基から30塩基がより好ましく、18塩基から25塩基がよりさらに好ましい。プライマーとしては、例えば表1に記載のプライマーを検出対象SNPに応じて選択することができる。表1に記載のプライマーを用いる場合には、アニーリング温度を同表に記載の通りとすることによって効率的にDNA断片を増幅することができる。
【0070】
例えば、PCR-RFLP法を検出方法として用いる場合、必要な制限酵素のセットもSNPを検出するために必要となる。本発明の鑑定キットはSNPを検出するために必要な材料としてそのような制限酵素、又は一組の制限酵素を含んでいてもよい。そのような制限酵素としては、1−3.で説明した制限酵素を検出対象SNPに応じて選択すればよい。
【0071】
SNPを検出するために必要な材料にはさらに、鑑定を行う手順を示した指示書が含まれていてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0073】
ホルスタイン種においてのみ特異的に一方の対立遺伝子が検出されることを条件とし、SNPマーカーの選抜を行った。具体的には、次に説明する通り、BovineSNP50 BeadChipを用いて、黒毛和種及びホルスタイン種のサンプルを用いて第一次スクリーニング及び第二次スクリーニングを順次行うことにより選抜を行った。なお、第一次スクリーニングは第一系統及び第二系統の計二系統を実施した。
【0074】
なお、本実施例において、黒毛和種におけるマイナーアリルを1-allele、他方のアリルを2-alleleと定義し、1-alleleをホモで有する個体、ヘテロの個体、2-alleleをホモで有する個体の遺伝子型をそれぞれ11-type、12-typeおよび22-typeと定義した。
【0075】
[方法]
ゲノムDNAの精製
ウシゲノムDNAは筋肉組織、肝臓組織、リンパ節および血液より抽出し、精製した。
【0076】
筋肉組織からのゲノムDNA精製
組織約0.1gをステンレス製ハサミで細断し、TNESU溶液(10mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 1mM EDTA, 1% SDS, 6M Urea)7ml、Proteinase K溶液(10mg/ml in water)200μlを加えた後、DNAを切断しないようにゆっくりと振とうして37℃で一晩インキュベートした。当量のTE-フェノール(フェノールを60℃で溶かし、0.1%になるように8-hydroxyquinolineを加え、TE buffer(10mM Tris-HCl ; pH8.0, 1mM EDTA)で水飽和したもの)・クロロフォルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加え、10分間激しく転倒混和した後に3,000rpmで10分間遠心分離し水層を分取した。さらに、等量のクロロフォルム・イソアミルアルコール(24:1)を加え、10分間転倒混和した後に3,000rpmで10分間遠心分離し水層を分取した。次に等量のジエチルエーテルを加え、白色になった水層が透明になるまでやや強めに振とうした後、室温で約60分間静置し、パスツールピペットを用いてエーテル層を除き、エーテルを通風除去した。そして100%エタノールを2倍量混合しDNAを沈殿させた。沈殿させたDNAは70%エタノールで洗浄し室温で乾燥させた後、沈殿したDNAの収量が十分量であると判断したサンプルは2ml、少量であると判断したサンプルは1ml のTE buffer(10mM Tris-HCl ; pH8.0, 1mM EDTA)に溶解して4℃で保存した。
【0077】
肝臓組織からのゲノムDNA精製
組織からのゲノムDNAは以下のように抽出した。組織約1.0gをホモジナイザーでホモジナイズし、TNE溶液(10mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 1mM EDTA)20mlを加えながらガーゼを用いて濾過し、3,000rpmで10分間遠心分離した。その後上清を除き、TNE溶液を15ml加え良く混和して、再び3,000rpmで10分間遠心分離し上清を除いた。そして生理食塩水/EDTA (0.16M NaCl, 1mM EDTA)1mlに良く混和し、ザルコシル溶液(0.5% N-lauroylsarcosine sodium salt, 10mM Tris-HCl pH8.0, 10mM EDTA)15mlを加えてDNAを切断しないようにゆっくりと振とうしてDNAを溶出させた。そしてProteinase K溶液200μlを加え、37℃で一晩インキュベートした。当量のTE-フェノールを加え10分間ゆっくりと混和した。3,000rpm で10分間遠心分離し、水層とフェノール層の間にできる蛋白質を取らないように水層を分取した。この水層にフェノール・クロロフォルム・イソアミルアルコールを加え、10分間遠心分離し水層を分取した。この水層に当量のクロロフォルム・イソアミルアルコールを加え10分間混和した後、3,000rpmで5分間遠心分離した。次に水層を分取し、当量のジエチルエーテルを加え、白色になった水層が透明になるまでやや強めに振とうした後3,000rpmで数秒間遠心分離し、エーテルを通風除去した。そして10分の1量の3M酢酸ナトリウム溶液(酢酸でpH5.2に調整)を加え、-20℃で冷却した100%エタノールを2倍量混合しDNAを沈殿させた。そのDNAは70%エタノールで洗浄し室温で乾燥させた後、2mlのTE bufferに溶解して4℃で保存した。
【0078】
リンパ節からのDNA精製
リンパ節約0.5gをテフロン(登録商標)・ペッスルとステンレスメッシュを用いて、生理食塩水/EDTA中ですり潰しガーゼで濾過した後、3,000rpmで10分間遠心分離した。その後上清を除去して20mlの生理食塩水/EDTAを加えよく混和し、再び3,000rpmで10分間遠心分離した。そして上清を除き約1mlの生理食塩水/EDTAによく混和し、20mlのザルコシル溶液を加えてDNAを溶出させた。その後の操作は肝臓組織からのDNAの精製と同様に行った。
【0079】
全血からのDNA精製
約10mlの全血を3,000rpmで10分間遠心分離し、パスツールピペットを用いて白血球層を分取した。40mlの0.2%NaCl溶液を加えてよく混和して血球を溶血させ、3,000rpmで10分間遠心分離し上清を除いた。その後0.5mlの0.16M NaCl/1mM EDTA溶液を加えてよく懸濁した後、20mlのザルコシル溶液を加えDNAを切断しないようにゆっくりと振とうし、DNAを溶出させた。その後の操作は肝臓組織からのDNAの精製と同様に行った。
【0080】
DNAの定量
Nano Drop ND-1000(NanoDrop Technologies, Wilmongton, DE, USA)を用い、精製したDNA濃度と純度を測定した。DNAの定量は260nmの吸光度の測定で行った。OD260=1.00は2本鎖のDNAが50μg/mlの濃度に相当する。また同時に280nmの吸光度も測定し、OD260/OD280比が1.8±0.1であれば、蛋白質、界面活性剤、フェノールなどの不純物のない純度の高いDNAを回収できたとみなした。
【0081】
PCR法による遺伝子領域の増幅
ゲノムDNAを10ng/μlに調整してPCR反応の鋳型DNAとした。各マーカーのプライマー配列については、表1に示した。鋳型DNA(10ng/μl)1.0μl、10×Ex Taq Buffer 1.0μl、dNTP Mixture 0.8μl、Forward primer、Reverse primer(10 pmol/μl)をそれぞれ0.50μl、TaKaRa Ex TaqTM Hot Start Version(TaKaRa,Tokyo,Japan)0.05μl、超純水6.15μlを加えて全量を10μlとして反応を行った。反応にはサーマルサイクラーを用い、PCRの条件は基本的には以下のように設定した。すなわち、94℃ 2分後、94℃30秒、65℃ 30秒、72℃ 1分を1サイクルとして30サイクル繰り返した後、72℃ 7分の伸長反応を行った。ただし、PCR増幅がしにくいプライマーについては、65℃のアニーリング温度を適宜下げる、または反応を35サイクルにして行った。
【0082】
制限酵素による切断
反応はPCR産物5.0μl、10×制限酵素Buffer 1.5μl、制限酵素はBIBAマーカーの多型周辺の塩基配列に応じてそれぞれTsp509I(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、PspGI(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、BssSI(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、MseI(Fermentas International Inc. , Canada)、MspI(Fermentas International Inc. , Canada)、HinfI(Fermentas International Inc. , Canada)、AluI(Fermentas International Inc. , Canada)、HpyCH4III(New England BioLabs, Inc., MA, USA)、NlaIII(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、RsaI(Fermentas International Inc. , Canada)、BsuRI(Fermentas International Inc. , Canada)、TaqI(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、BspTI(Fermentas International Inc. , Canada)、MboI(Fermentas International Inc. , Canada)、HpyCH4V(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、TspRI(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)、AciI(New England BioLabs, Inc.,MA, USA)0.25μl、滅菌超純水8.25μlを加えて全量15.0μlで行い、各制限酵素の適正温度でウォーターバスを用い、8時間以上インキュベートした。ただし、NlaIIIに関しては、PCR産物5.0μl、10×制限酵素Buffer 1.5μl、100×BSA 0.15μl、制限酵素0.25μl、滅菌超純水8.1μlを加えて全量15.0μlで反応を行い、制限酵素の適正温度である37℃でウォーターバスを用い、8時間以上インキュベートした。
【0083】
アガロースゲル電気泳動
エチジウムブロマイドを加え作成した3.0%アガロースゲル(Bio-Rad Laboratories, Tokyo, Japan)にて、1×TBE bufferを満たした電気泳動装置を用いて100Vで20分間電気泳動した。制限酵素処理したPCR産物15μlには40%グリセロール液5μlを加えて全量20μlずつアプライし、断片の大きさの指標としては断片長が既知のDNA断片を用いた。電気泳動後、紫外線照射してバンドを確認した。
【0084】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動
ゲル溶液の作成は、尿素 35g、10×TBE(1L中にTris 108g, Boric Acid 55g, Na3EDTA・2H2O 9.3g)8.4ml、アクリルアミド(40% Achrylamide monomer, 5% N,N’-methylanbisachrylamide; GE Healthcare Bio-Sciences KK, Tokyo, Japan)10.5 ml、これに超純水を加えて全量を70mlにしてよく撹拌し、尿素が完全に溶けた後、脱気した。これに10%APS 350μl、TEMED 35μlを加え、ゲル板にゆっくり流し込み、上部にコームを差し込み2時間以上放置した。電気泳動には、スラブ型電気泳動装置を用いた。コームにはシャークコームを用いた。bufferには0.6×TBE bufferを使用し、確認するバンドのサイズに応じてそれぞれ、900Vで20分間または45分間電気泳動した。制限酵素処理したPCR産物15μlにはSequence Stop Solution(10mM NaOH, 95% formamid, 0.05%ブロモフェノールブルー, 0.05% キシレンシアノール)5μlを加えて約2μlずつアプライし、断片の大きさの指標としてはブロモフェノールブルー、キシレンシアノールおよび断片長が既知のDNA断片を用いた。
電気泳動後、ゲル板をはがし、染色した。染色には、10%酢酸溶液 1L (停止液) 、1g AgNO3 1L(染色液)、30g NaCO3 1L(現像液)を用いた。また染色液は使用する直前に37% Formaldehyde 1.5mlを加え、現像液は氷上に保存し、使用する直前に37% Formaldehyde 1.5mlとSodium Thiosulfate 200μlを加えた。ゲル板をトレイに入れ、停止液 500mlを加え、20分間振とうした。その後、超純水で3回洗浄し、染色液にゲル板を浸し、30分間振とうした。染色が終わったゲル板は、銀が落ちすぎない程度に超純水に軽く浸し、すばやく現像液に浸し、バンドが現れるまで振とうした。その後、適度なところで停止液500 mlを加えて反応を止めた後、超純水で再び洗浄し、DNAバンドを確認した。
【0085】
(1−1)第一次スクリーニング(第一系統)
BovineSNP50 BeadChipを用いて、黒毛和種29サンプルの遺伝子型判別を行い、黒毛和種29サンプルの遺伝子型がすべて22-typeであり、1-alleleが検出されないSNPマーカーを選抜した。
【0086】
次に、ホルスタイン種39サンプルの遺伝子型判別も同様に行い、上の選抜されたSNPマーカーのうち、さらにホルスタイン種のみに特異的に1-alleleが検出されるSNPマーカーを選抜した。
【0087】
その結果、全54,001SNPsのうち、5,678マーカーが候補マーカーとして選抜された。
【0088】
さらに、この5,678マーカーを、(i) BovineSNP50 BeadChipによるホルスタイン種39サンプルにおいて1-alleleの対立遺伝子頻度がおよそ0.30以上であること、(ii) 多型周辺配列に対してBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/index.shtml)による相同性検索を行うと、データベース上に高い相同性を有する配列の存在が確認できること、及び(iii) SNP部位を含む塩基配列領域が、一方の多型のときにちょうど制限酵素認識部位を構成することを条件として選抜した。条件を満たすマーカーのうちランダムに19マーカーを選抜した。これら19マーカーをBIBA1〜19と命名し、続いてSNPマーカーへの転化を試みた。BIBA1〜19の詳細を表2に示す。なお、BIBA6、8、14、16、及び18については相補鎖の対立遺伝子を示している。対立遺伝子の太字はホルスタイン種特異的な対立遺伝子を示す。
【0089】
(1−2)第一次スクリーニング(第二系統)
第一系統の第一次スクリーニングのときに用いたサンプルに新たに黒毛和種21サンプル、及びホルスタイン種11サンプルを追加し、さらに第一系統と選抜条件を変えた上で、同様にBovineSNP50 BeadChipによる遺伝子型判別を行った。サンプルが増えたことにより、さらに高精度のスクリーニングが可能となった。
【0090】
黒毛和種50サンプルの遺伝子型がすべて22-typeであり、1-alleleが検出されないSNPマーカーを選抜した。ホルスタイン種50サンプルの遺伝子型判別も同様に行い、上の選抜されたSNPマーカーのうち、さらにホルスタイン種のみに特異的に1-alleleが検出されるSNPマーカーを選抜した。
【0091】
その結果、全54,001SNPsのうち、4,016マーカーが候補マーカーとして選抜された。
【0092】
さらに、この4,016マーカーを、(i) BovineSNP50 BeadChipによるホルスタイン種50サンプルにおいて1-alleleの対立遺伝子頻度がおよそ0.30以上であること、及び(ii) 黒毛和種50サンプルの遺伝子型がすべて一致していることを条件として選抜した。条件を満たすマーカーは435マーカーあったが、これらのうちランダムに16マーカーを選抜した。これら16マーカーをBIBA20〜35と命名し、続いてSNPマーカーへの転化を試みた。BIBA20〜35の詳細を表2に示す。なお、BIBA28については相補鎖の対立遺伝子を示している。対立遺伝子の太字はホルスタイン種特異的な対立遺伝子を示す。
【0093】
【表2】

【0094】
BovineSNP50 BeadChipによりBIBA1〜35における遺伝子型がそれぞれ11-type、12-typeおよび22-typeであるとされた各1サンプルに対しPCR-RFLP法およびミスマッチPCR-RFLP法による遺伝子型判別を行った。BIBA1〜35すべてにおいて両遺伝子型が一致したため、SNPマーカーへの転化に成功したと見なした。
【0095】
(2)第二次スクリーニング
第一次スクリーニングで選抜されたSNPマーカー(BIBA1〜35)を利用し、黒毛和種250サンプル、及びホルスタイン種146サンプルからなるウシサンプルに対する遺伝子型判別を実施した。なお、第二次スクリーニング以後のスクリーニングの実施は、ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法の実施であるともいえる。
【0096】
PCR-RFLP法及びミスマッチPCR-RFLP法で解析できるようにするため、SNP部位を含む周辺の塩基配列領域が、一方の多型の場合には特定の制限酵素の認識部位となるが、他方の多型の場合には当該制限酵素が認識しなくなるようにした。SNPによっては、いずれの多型の場合でも周辺の塩基配列領域が制限酵素認識部位を構成しないようなものもあり、そのようなSNPを用いる場合は、ミスマッチプライマーを利用する必要があった。一方の多型のときに限り増幅断片がちょうど制限酵素認識部位を構成するようにミスマッチプライマーを設計した。プライマーの設計には、OLIGO 4.0 primer analysis program(Molecular Biology Insights , Inc , CO ,USA)を用いた。
【0097】
このようにして開発されたBIBAマーカーの詳細を表3〜7に示す。下線部は多型部位、太字はホルスタイン種特異的な対立遺伝子を表す。二重下線部はミスマッチPCR-RFLPにおいてミスマッチを作成した部位を表す。なお、BIBA6、8、14、16、18、及び28に関しては、「検出法」に相補鎖の塩基配列を示している。
【0098】
BIBA3、BIBA6、BIBA7およびBIBA8は3%アガロースゲルで20分間電気泳動を行い、BIBA1、BIBA2、BIBA4およびBIBA5は5%ポリアクリルアミドゲルで20分間電気泳動を行い検出した。BIBA9、BIBA10、BIBA12およびBIBA16は3%アガロースゲルで20分間電気泳動を行い、BIBA11、BIBA13およびBIBA15は5%ポリアクリルアミドゲルで20分間、BIBA14は5%ポリアクリルアミドゲルで45分間電気泳動を行い検出した。BIBA18は3%アガロースゲルで20分間電気泳動を行い、BIBA17およびBIBA19は5%ポリアクリルアミドゲルで20分間電気泳動を行い検出した。BIBA 20〜35は3%アガロースゲルで20分間電気泳動を行い検出した。
【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
【表7】

【0104】
(2−1)第二次スクリーニング(第一系統)
第二次スクリーニングとして、まずはじめにBIBA1〜BIBA19の検討を行った。その際、まず黒毛和種50サンプル及びホルスタイン種50サンプルの遺伝子型判別を行った。遺伝子型判別の結果を表8に示す。「1」はホルスタイン種特異的な対立遺伝子を、「2」は黒毛和種およびホルスタイン種に共通して観察される対立遺伝子を表す。「P」はホルスタイン種特異的な対立遺伝子の頻度を示す。
【0105】
黒毛和種において11-typeおよび12-typeの個体が検出されたマーカーに関しては、以後の遺伝子型判別は行わず、黒毛和種約50サンプル全てで22-typeであった6マーカー(BIBA6、BIBA7、BIBA8、BIBA14、BIBA16及びBIBA18)に関してのみ以後の遺伝子型判別を行った。これら6マーカーを用いて黒毛和種250サンプル、ホルスタイン種146サンプルに対する遺伝子型判別を行った結果を表9に示す。
【0106】
また、BovineSNP50 BeadChipによるホルスタイン種39サンプルの対立遺伝子頻度と、PCR-RFLP法及びミスマッチPCR-RFLP法による遺伝子型判別におけるホルスタイン種の対立遺伝子頻度に大きな乖離が観察されないことを検証した。両対立遺伝子頻度の乖離は、BovineSNP50 BeadChipによる遺伝子型情報に基づく対立遺伝子頻度と、PCR-RFLP法およびミスマッチPCR-RFLP法による遺伝子型情報に基づく対立遺伝子頻度の差の絶対値として算出した。各マーカーにおける両対立遺伝子頻度および、両対立遺伝子頻度の乖離を表10に示す。「対立遺伝子頻度1」は BovineSNP50 BeadChipによる遺伝子型情報に基づき算出したホルスタイン種約40サンプルにおけるホルスタイン種特異的な対立遺伝子の頻度を示している。「対立遺伝子頻度2」はPCR-RFLP法による遺伝子型情報に基づき算出したホルスタイン種約50サンプルにおけるホルスタイン種特異的な対立遺伝子の頻度を示している。「対立遺伝子頻度の差」は
対立遺伝子頻度1と対立遺伝子頻度2の差の絶対値を示している。両値の乖離は0.003〜0.180に分布し、最大のものでもBIBA19の0.180であり、両値の間には大きな乖離は観察されなかった。
【0107】
【表8】

【0108】
【表9】

【0109】
【表10】

【0110】
(2−2)第二次スクリーニング(第二系統)
BIBA1〜BIBA19の検討を行った第二次スクリーニング(第一系統)において、BovineSNP50 BeadChipによる遺伝子型情報から推定された対立遺伝子頻度と、PCR-RFLP法およびミスマッチPCR-RFLP法による遺伝子型判別結果から算出された対立遺伝子頻度の間には大きな乖離が観察されなかった。そのため、BIBA20〜35の検討を行う第二次スクリーニング(第二系統)においては、まず黒毛和種サンプルのみの遺伝子型判別を行った。その際、11-typeおよび12-typeが検出され、誤判別率が1%を上回る可能性が高くなった段階で検討を中止し、以後の遺伝子型判別は行わなかった。黒毛和種250サンプルの遺伝子型判別を完了した4マーカー(BIBA22、BIBA24、BIBA28およびBIBA35)に関して、ホルスタイン種146サンプルの遺伝子型判別を行った。候補マーカー検討の第二段階における遺伝子型判別の結果を表11に示す。網掛け部は遺伝子型判別を行わなかったことを示す。
【0111】
これまでの結果に、さらに黒毛和種50サンプルに対する遺伝子型判別結果を加えた結果を表12に示す。
【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
(3)第三次スクリーニング
遺伝子型判別の完了したBIBAマーカーの黒毛和種およびホルスタイン種における対立遺伝子頻度に基づき、各マーカーの鑑定能の評価を行った。各マーカーにおける誤判別率Pmの値は、0.00〜2.00%であった。そこで、F1検出率91.68%、誤判別率0.68%であると報告されている従来のマーカーセットよりさらに高精度のマーカーセットを開発するため、これら10個のマーカーのうち誤判別率0%である6マーカーを用いて鑑定を実際に行って性能を評価した。検出率を優先した6マーカーの鑑定能を表7に示す。また、6マーカーそれぞれを用いてPCR-RFLP法による多型検出を行った結果を図1及び2に示す。
6個のマーカーの組合せによる、鑑定能の推移を表13に示す。組合せは、優先順位の高いマーカーを順次追加し、マーカー数は1個〜6個までとし、各組合せにおける検出率と誤判別率の値を算出した。例えば表13におけるマーカーの組合せのうち、C6の場合は、検出率(Pi)及び誤判別率(Pm)は次のようにして算出した。
Pi = 1-(1-Pi16)(1-Pi7)(1-Pi22)(1-Pi35)(1-Pi6)(1-Pi28
Pm= 1-(1-Pm16)(1-Pm7)(1-Pm22)(1-Pm35)(1-Pm6)(1-Pm28
表13に示す通り、上位6マーカーの組合せにより、検出率90.43%、誤判別率0.00%の鑑定能が達成できた。この鑑定能は従来技術と比較すると、誤判別のおそれがない点において非常に優れている。また、本発明の方法は従来技術と比較して遜色ない検出率を達成している。一般にはマーカーの数を増やすほど誤判別を防ぐことは難しくなり、逆にマーカーの数を減らせば検出率が低くなってしまう傾向がある。このように一般に高い誤判別率と高い検出率を両立させることは困難であるにもかかわらず、本発明の方法ではこれらを両立させることに成功しており、この点においても本発明は大変優れたものであるといえる。
【0115】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定する方法であって、次の(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出し、いずれか少なくとも1つが検出された試料を黒毛和種でないウシ由来の試料であると鑑定することを特徴とする方法:
(1)第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(2)配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(3)第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(4)第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(5)第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(6)第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型;
(7)第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(8)第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(9)第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(10)第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。
【請求項2】
検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)からなる群より選択される少なくとも3種の一塩基多型である、請求項1に記載の鑑定方法。
【請求項3】
検出する前記一塩基多型が前記(1)〜(6)の一塩基多型である、請求項1に記載の鑑定方法。
【請求項4】
黒毛和種でないウシが、
(A)ホルスタイン種;又は
(B)ホルスタイン種及びその他の種の交雑種
である、請求項1〜3のいずれかに記載の鑑定方法。
【請求項5】
ウシ由来DNAを含む試料が黒毛和種でないウシ由来の試料であるか否かを鑑定するキットであって、次の(1)〜(10)からなる群より選択される少なくとも1種の一塩基多型の有無を検出するために必要な材料を含むキット:
(1)第5番目の染色体に含まれる配列番号1に示した塩基配列の第152番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(2)配列番号2に示した塩基配列の第218番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(3)第5番目の染色体に含まれる配列番号3に示した塩基配列の第153番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(4)第7番目の染色体に含まれる配列番号4に示した塩基配列の第180番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(5)第26番目の染色体に含まれる配列番号5に示した塩基配列の第267番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(6)第16番目の染色体に含まれる配列番号6に示した塩基配列の第493番目のチミンがグアニンに置換された一塩基多型;
(7)第16番目の染色体に含まれる配列番号7に示した塩基配列の第146番目のグアニンがアデニンに置換された一塩基多型;
(8)第3番目の染色体に含まれる配列番号8に示した塩基配列の第285番目のシトシンがチミンに置換された一塩基多型;
(9)第9番目の染色体に含まれる配列番号9に示した塩基配列の第352番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型;及び
(10)第8番目の染色体に含まれる配列番号10に示した塩基配列の第267番目のアデニンがグアニンに置換された一塩基多型。

【公開番号】特開2011−67178(P2011−67178A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223172(P2009−223172)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】