説明

面状体の捩回試験装置

【課題】 幅の広い面状体である被試験体を無張力で捩じり(捩回)の繰り返し試験ができる面状体の捩回試験装置を提供する。
【解決手段】 面状体をしている被試験体を捩回させる面状体の捩回試験装置であり、固定クランプを揺動クランプ側に移動できるようにしておくとともに、揺動クランプに連結される面板に二つのローラを回転可能に軸支して面板から張力負担紐を二つのローラの間を通して下延させて固定クランプに連結する一方、固定クランプからも張力負担紐を延出させてその端に錘を吊り下げておき、揺動クランプの揺動に基づく両クランプ点間の左右方向の短縮と伸長に対応して被試験体に負荷される引張力と圧縮力とを面板の揺動と錘による張力負担紐の両側への引っ張りで吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の幅と丈(長さ)を有する薄い面状体の捩回試験装置に関するものである。このような面状体としては、液晶ディスプレー、有機EL及び太陽電池パネル等があり、その幅は1mを超えるものもある。これら面状体は、製造、運搬、保管、施工に際して捩じり(捩回)を受けるが、このような捩回を受けるときは、概ね、引張力も圧縮力も受けない無張力の状態である。したがって、無張力で捩回試験をして耐久性を調べる必要がある。なお、ここでいう無張力とは、引張力も圧縮力も受けない状態のことをいう。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先にケーブル、ハーネス、コードといった線状体を無張力で曲げ(曲回)と捩回を同時に試験できる試験装置を下記特許文献1として提案している。ところが、面状体は上記したように相当広い幅を有しているから、これと同じやり方では捩回や曲回の試験ができないし、ましてや同時にはできない。
【0003】
面状体の被試験体を直立させてその幅方向(左右方向)両端を固定クランプと揺動クランプで上下二点をクランプし(その間はフリーにする)、固定クランプはそのままで揺動クランプを揺動角θで揺動させると、被試験体は断面をとればどこも真っ直ぐであるが、被試験体全体はローラに螺旋形で巻き付いた形状、つまり、捩回した形態になっている。図5はその平面図であるが、捩回させたことでクランプ点間隔Rはθだけ傾き、クランプ点aはa´に移る。したがって、見かけ上は左右方向にLだけ短くなるが、これは平面的に見た場合であり、実際は三次元的に短縮することになる(この場合でも、上下方向の中心線の長さは変わらない)。
【0004】
このため、揺動クランプを固定した垂直面内で揺動させて被試験体を捩回させると、被試験体はそれだけ長くなることになり、引張荷重を与えてしまう。これを吸収するには、短くなった分だけ揺動クランプと固定クランプの一方又は両方を移動できるようにしてその間隔を短縮すればよいのであるが、この場合も被試験体の捩回で移動側のクランプを引っ張ったのでは被試験体に引張荷重を与えてしまう。一方で、一旦捩回させたものを移動側のクランプを移動させた状態で捩じり戻すと、逆に圧縮荷重をかけることになる。よって、これらクランプ点間隔を別の力で短縮したり、伸長させれば、被試験体には引張や圧縮荷重を与えない、つまり、無張力で捩回できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2011−8649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このクランプ点間隔の短縮と伸長を固定クランプ(揺動クランプでもよい)が移動できるようにすることと、その力を被試験体を揺動する駆動力や錘で作動する張力負担紐で負担させて被試験体に張力をかけない、つまり、無張力で捩回できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、請求項1に記載した、面状体をしている被試験体を真っ直ぐに立て、左右両端を揺動クランプと固定クランプとで上下二点でクランプしてその間をフリーにし、揺動クランプの中心を左右に揺動させて被試験体を捩回させる面状体の捩回試験装置であり、固定クランプを揺動クランプ側に移動できるようにしておくとともに、揺動クランプに連結される面板に二つのローラを回転可能に軸支して面板から張力負担紐を二つのローラの間を通して下延させて固定クランプに連結する一方、固定クランプからも張力負担紐を延出させてその端に錘を吊り下げておき、揺動クランプの揺動に基づく両クランプ点間の左右方向の短縮と伸長に対応して被試験体に負荷される引張力と圧縮力とを面板の揺動と錘による張力負担紐の両側への引っ張りで吸収したことを特徴とする面状体の捩回試験装置を提供するとともに、これにおいて、請求項2に記載した、被試験体に引張力と圧縮力を発生させないように張力負担紐と錘の引っ張りによる固定クランプの移動を同期させたさせた手段を提供する。
【0008】
また、本発明は、請求項5に記載した、面状体である被試験体を真っ直ぐに立て、左右両端を揺動クランプと固定クランプとで上下二点でクランプし、固定クランプはそのままで揺動クランプを左右に揺動させて被試験体の捩回を試験する面状体の捩回試験装置であり、揺動クランプ及び固定クランプを多数のリンクを枢着して折曲可能にしたリンク状クランプにして被試験体側に彎曲可能にしたことを特徴とする面状体の捩回試験装置を提供したものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、揺動クランプを揺動させることにより、被試験体の捩回や戻り(復帰)によるクランプ点間隔の短縮や伸長に基づく引張力や圧縮力を揺動クランプの揺動力や錘で強制的に引っ張って短縮と伸長をさせることで封殺でき、結果的に、被試験体を無張力で捩回させることができる。これにおいて、請求項2の手段によれば、厳密な意味での無張力で捩回できる。請求項5の発明によると、被試験体の捩回に基づくクランプ点の短縮を両クランプがリンク状クランプになっていることで吸収し、これもほとんど無張力で被試験体を捩回できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】捩回試験装置の第1例の側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】クランプの状態を示す断面図である。
【図4】捩回試験装置の第2例の側面図である。
【図5】面状体を捩回したときの状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の第1例を示す捩回試験装置の側面図、図2は図1のA−A断面図であるが、この試験装置は、装置の基礎となるベッド1と、このベッド1上をスライドできるベース2と、ベース2の上に直立させられる支柱3に取り付けられる固定クランプ4と、固定クランプ4に対向して設けられる揺動クランプ5を揺動するためにその中心に設けられて強制的に揺動駆動される揺動軸6とからなる。
【0012】
さらに、揺動軸6に連結される面板7と、揺動クランプ5と面板7との間に回転可能に軸支される二つのローラ8と、面板7に取り付けられたピン9に上端が連結されてローラ8の間を通って垂れ下がり、プーリ等10で水平に方向転換されてベース2に連結されるとともに、ベース2から延出して同じくプーリ等10で下方に方向転換されて下端に錘11が吊り下げられる張力負担紐12等を有する。
【0013】
図3は固定クランプ4と可動クランプ5による被試験体13のクランプ点の状態の一例を示す断面図であるが、それぞれ相手側に開口したU字体の筐体4a、5aを形成し、この筐体4a、5aの中に被試験体13を挿入し、筐体4a、5aの両面からボルト等のクランプ具14で締め付けてクランプするものが考えられる。
【0014】
この場合、クランプ具14の先端に被試験体13を挟圧するカップ15を設け、カップ15とクランプ具14を回転自在にしておく。被試験体13を捩回させた(左右方向に短縮する)場合でも、被試験体13の上下中央部分の長さは変わらないから、この部分は相対的に伸長できなければならない。したがって、被試験体13がクランプ具14に対して自由に回転できれば、この伸長を阻害しない。この意味で、筐体4a、5aの深さはこれを許容するものである必要がある。
【0015】
次に、被試験体13の捩回試験について捩回を例にとって説明すると、固定クランプ4と可動クランプ5に被試験体13の左右両端の上下二点をクランプ具14でクランプし、揺動軸6を一定の揺動角と速度とで揺動回転させる。すると、揺動クランプ5は揺動し、これに伴って被試験体13は捩回し、見かけ上は左右方向に短縮したようになるのは上述したとおりである。
【0016】
このままであると、固定クランプ4が移動できるとしても、被試験体13で引っ張ることになり、被試験体13に引張荷重がかかるのも上述したとおりである。そこで、この移動を張力負担紐(以下、紐)12で行うのである。つまり、面板7の揺動で紐12を引っ張り、固定クランプ4を引き寄せるのであり(もちろん、錘11も一緒に)、こうすると、被試験体13には張力はかからない。このようにして、捩回の間中、被試験体13は無張力に保たれる。すなわち、被試験体13の捩回は無張力で行われるのである。
【0017】
これを可能にするには、被試験体13の短縮量と紐12の引張量が同じである必要がある。揺動クランプ5、つまり、面板7が揺動すると、紐12を通すローラ8も傾き、このとき、紐12はローラ8に巻き付いてピン9とプーリ10間が長くなり、上方に引っ張られ、固定クランプ4を引き寄せる(揺動クランプ5側或いは両方を移動できるようにしてもよい)。被試験体3の短縮量と紐12の引張量を一致させるには、ローラ8の径を適宜に調整したり、ローラ8のセットを面板7に対して上下に調整することで可能になる(ただし、揺動は左右同じであるから、ローラ8の軸芯の中点の移動はこの点を通る垂直線上を移動させる)。
【0018】
このとき、被試験体3に負荷される引張荷重は揺動角の変化と同じにはなっていないことがあるが、それでも、被試験体3を捩回させただけ、ローラ8も揺動して紐12を引っ張り上げる。したがって、捩回による短縮と紐12の引張とは同期して作動しており、捩回の途中で被試験体3に引張荷重はかけていないといえる。なお、より厳密に同期させるには、捩回の角度(揺動角)による被試験体3の引張荷重を予め求めておくとともに、揺動角の変化に基づいて紐12の引張量を調整すればよい。
【0019】
具体的には、ローラ8のセットを面板7に対してサーボモータ等(駆動源のこと、なお、電動シリンダや油圧シリンダでもよい)で上下又は左右に移動できるようにしておき(ピン9とプーリ10との間の紐12が長いほど大きな引張量を出せる)、揺動角をセンサーで検知して駆動源に同期させるように出力することである。この場合、駆動源の揺動角と速度とは被試験体3に負荷される圧縮荷重に対応させるのはもちろんである。これによると、大きな揺動角度であっても、捩回の間中、被試験体3には引張荷重はかからず、完全な無張力で捩回試験ができる。
【0020】
一方、揺動角の減少による固定クランプ4の元の位置への復帰も同様であり、この場合は錘11で紐12を引っ張る。揺動角が小さくなり、紐12の引張力が緩めば、錘11が固定クランプ4を引っ張って元に復帰させる。この点で、錘11はある程度重いものを使用しておく方が反応が早い。なお、固定クランプ4の復帰も被試験体3の伸長に厳密に対応させておくことができる。具体的には、錘11自体或いは錘11に加えて何らかの駆動源を用いて固定クランプ4 を戻すのであり、その速度と量を被試験体3にかかる圧縮荷重と同期させるのは上記と同じである。
【0021】
図4は第2例の側面図であるが、本例のものは、支柱3をベッド1に不動にして取り付け、これに直接固定クランプ4を取り付ける。また、揺動クランプ5は揺動軸6に直接取り付け、これら固定クランプ4と揺動クランプ5とで被試験体13の左右両端をクランプする。
【0022】
本例では、固定クランプ4及び揺動クランプ5として、リンク16をピン17で連結したチェンのような彎曲可能なリンク状クランプ18としたものであり、これにより、リンク状クランプ18は引っ張られると彎曲できるものになる。ただし、彎曲は被試験体13側にのみできるようにしておき、直立を超えて反被試験体13側には彎曲できないようにしておくのが好ましい。元に戻るときの反動で被試験体13に引張荷重をかけないためである。図示は省略するが、 リンク16の背等にストッパ片等をつけておけばよい。こうすると、クランプ具14は被試験体13の全高に亘ってクランプしてもよい。
【0023】
以上の状態で揺動軸6を揺動させて被試験体13を捩回させる。この場合も、被試験体13の上下両端を最大とする左右方向の短縮が起こるが、これをリンク状クランプ18が彎曲して吸収する。なお、被試験体13に引張力が働いたときにリンク状クランプ19が彎曲するので、それまでに多少の引張力は働くが、彎曲させることでこれをほとんど無視できる程度のものにできる(無張力といってもよい)。なお、リンク状クランプ18は固定クランプ4側、揺動クランプ5側の一方だけでもよい。
【0024】
また、揺動クランプ5が中立近くなると、逆に伸長が必要になるが、このときも、リンク状クランプ19が彎曲から直立になって(ストッパ機構があるものはそれ以上は彎曲しない)圧縮荷重が生ずるのを防ぐ。この意味で、支柱3とリンク状クランプ18の間に彎曲になったものを引き戻すスプリング(図示省略)を設けておくのが適する。本例のものは、構造が極めて簡単になり、製造コストを大幅に低減できる利点がある。
【符号の説明】
【0025】
1 ベッド
2 ベース
3 支柱
4 固定クランプ
4a 〃 の筐体
5 固定クランプ
5a 〃 の筐体
6 揺動軸
7 面板
8 ローラ
9 ピン
10 プーリ
11 錘
12 張力負担紐
13 被試験体
14 クランプ具
15 カップ
16 リンク
17 ピン
18 リンク状クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状体をしている被試験体を真っ直ぐに立て、左右両端を揺動クランプと固定クランプとで上下二点でクランプしてその間をフリーにし、揺動クランプの中心を左右に揺動させて被試験体を捩回させる面状体の捩回試験装置であり、固定クランプを揺動クランプ側に移動できるようにしておくとともに、揺動クランプに連結される面板に二つのローラを回転可能に軸支して面板から張力負担紐を二つのローラの間を通して下延させて固定クランプに連結する一方、固定クランプからも張力負担紐を延出させてその端に錘を吊り下げておき、揺動クランプの揺動に基づく両クランプ点間の左右方向の短縮と伸長に対応して被試験体に負荷される引張力と圧縮力とを面板の揺動と錘による張力負担紐の両側への引っ張りで吸収したことを特徴とする面状体の捩回試験装置。
【請求項2】
被試験体に引張力と圧縮力を発生させないように張力負担紐と錘の引っ張りによる固定クランプの移動を同期させた請求項1の面状体の捩回試験装置。
【請求項3】
張力負担紐の引張量の調整を二つのローラのセットを上下方向又は左右方向に移動させることで対処した請求項1又は2の面状体の捩回試験装置。
【請求項4】
揺動クランプ及び固定クランプのクランプ具を揺動クランプ及び固定クランプに対して回転可能にした請求項1〜3いずれかの面状体の捩回試験装置。
【請求項5】
面状体である被試験体を真っ直ぐに立て、左右両端を揺動クランプと固定クランプとで上下二点でクランプし、固定クランプはそのままで揺動クランプを左右に揺動させて被試験体の捩回を試験する面状体の捩回試験装置であり、揺動クランプ及び固定クランプを多数のリンクを枢着して折曲可能にしたリンク状クランプにして被試験体側に彎曲可能にしたことを特徴とする面状体の捩回試験装置。
【請求項6】
リンク状クランプを直立側に引き寄せるスプリングを設けた請求項5の面状体の捩回試験装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64658(P2013−64658A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203908(P2011−203908)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(511017195)ユアサシステム機器株式会社 (3)
【Fターム(参考)】