説明

面状発熱体とこれを用いた衣料

【課題】柔軟性、通気性及び軽量性、日常生活耐性に優れる面状発熱体と、これを利用する衣料を提供する。
【解決手段】面状発熱体1を矩形シート状の発熱部10と、その両端に配設された電極部11R、11Lとで構成する。発熱部10は、横糸として金属被覆糸100a、縦糸として絶縁糸100bをそれぞれ用い、これを平織りの編織物として構成する。金属被膜糸100aは、芯材1000に対し、Ag材料を主材料としてなる金属被覆層1001をコートした構成とする。電極部11R、11Lにはミニプラグソケット110R、110Lを設け、外部電源から給電を行えるようにする。発熱部10の発熱抵抗としては、端子間抵抗値を5Ω以上100Ω以下、より望ましくは10以上30Ω以下の範囲に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は面状発熱体とこれを用いる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、例えば使い捨てカイロや白金触媒カイロをさらに平坦なシート状に加工したものの他、一定の電気抵抗を有する金属線をシート体内部に利用し、これに外部より給電して、ジュール熱により発熱させる構成が知られている。
金属線を利用する面状発熱体は、不燃材との組み合わせで電気炉の熱源として使用されたり、溶接手段として超高温環境で使用されるが、一般にはホットカーペットとしての利用の他、特許文献1に示すように合成繊維等に当該金属線を混紡させて、自動車用の着座センサーとして普及している。近年では、この合成繊維との組み合わせによる面状発熱体の利用が拡大しつつあり、例えば衣料への適用が模索されている。
【0003】
衣料への適用例としては、例えば衣料の表面に金属膜を形成し、当該金属膜に通電を行いジュール熱を発生させる構成(特許文献2)が知られている。
ここで、衣料に配設することを前提とする場合、面状発熱体の効果を良好に得るためには、衣料との一体感や日常生活耐性を備える特性、いわゆるウェアラブル性が重要である。当該特性としては、
(a)着衣とともに人間の動作に合わせて柔軟に追随する特性、
(b)洗濯処理等によって劣化するのを防止する特性、
(c)肌着等への適用において通気性を有すること、
(d)軽量性を備えること、
等の諸特性を想定することができる。
【特許文献1】特開2002-270338号公報
【特許文献2】特開2005-59580号公報
【特許文献3】特開平09-111515公報
【特許文献4】特開2003-183980号公報
【特許文献5】特開2001-234468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の面状発熱体では、上記(a)〜(d)の諸特性を総合的に満たすべきウェアラブル性について十分な配慮がなされていない状況にある。
例えば特性(a)については、衣料表面に金属膜を蒸着させる構成の場合、繊維が目詰まりして通気性が大幅に損なわれる。また、金属線を利用すると、一般繊維に比べて極端に密に編織されやすく、通気性が無くなるほか、当該金属線の太さや本数によっては面状発熱体の柔軟性が損なわれ、人体動作に追随することが困難になり易い。
【0005】
また特性(b)については、洗濯時には金属被覆層が大量の水、水圧、界面活性剤等の化学薬品に接触するので、これらに対する強度が必要である。さらに洗濯後には高温、多湿処理によるアイロン掛け、プレス処理等にも耐えうる性能が要求される。ところが、このような環境においても耐性を発揮できる材料は見出されていない。
さらに、仮に特性(a)、(b)を備えているとしても、特性(c)については具体的な対策は講じられておらず、面状発熱体としては、未だ改善すべき余地が残されている。
【0006】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、柔軟性、通気性及び軽量性、日常生活耐性に優れる面状発熱体と、これを利用する衣料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、金属被覆糸を編織してなるシート状の発熱部と、当該発熱部に対して外部より給電するための電極部とを備える面状発熱体であって、前記発熱部は、その全体又は一部が金属被覆糸で構成されており、前記金属被覆糸は、芯材に金属被覆層を配設した1本以上の金属被覆繊維からなるものとした。
ここで前記発熱部は、編織物で構成することもできる。
【0008】
さらに、前記金属被覆層の主材料には銀材料を選択することもできる。
また、前記芯材はポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アセテート、レーヨン、羊毛、絹、木綿、麻のうち少なくとも1種以上からなる構成とすることもできる。
【0009】
また本発明は、前記本発明の面状発熱体における電極部に対し、外部より給電を行うための電源部と、当該給電に係る条件を調節するための制御部とが接続されてなる発熱体セットとした。
ここで、前記電極部及び前記電源部は、互いに脱着自在に接続されているものとすることができる。
【0010】
さらに本発明は、前記本発明の発熱体セットを備える衣料とした。
【発明の効果】
【0011】
以上の構成を有する本発明の面状発熱体は、金属被覆糸を編織して構成されるため、当該糸同士の間に一定の間隙が確保される。このため、通気性が失われることはない。
また、本発明ではジュール熱による発熱手段として金属材料を用いるが、金属材料を芯材をコートする金属被覆層として用いるため、金属線を用いた従来構成や衣料表面の繊維に一体的に金属膜を配設する従来構成に比べ、格段に柔軟に構成することができ、動作追随性に優れる。このため衣料としても最適な構成となっている。
【0012】
さらに、Ag材料を利用した金属被覆繊維については製造技術が確立しており(特許文献4及び5)、これを本発明の金属被膜糸に利用すれば、洗濯処理による劣化防止等の日常生活耐性を十分備える発熱体が実現されることとなる。
なお、当該特許文献4及び5の技術に対し、本発明ではAg材料に一定量の通常繊維を交編又は交織する方法等により、通電可能な面状発熱体とした点で明確に異なる発明である。
【0013】
また特許文献3には、ニクロム線等をガラスコートした電熱線を利用する構成が開示されているが、この構成では柔軟性が得られにくく、本願発明の有するウェアラブル性に及ばないことが明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態1)
<面状発熱体の構成>
図1は、本発明の実施の形態1における面状発熱体の構成を示す図である。
図1(a)は面状発熱体の外観図、図1(b)は発熱体の部分拡大図、図1(c)は発熱体を構成する繊維構造の部分拡大図である。
【0015】
面状発熱体1は、矩形シート状の発熱部10と、その両端に配設された電極部11R、11Lとで構成される。
発熱部10は、図1(b)に示すように、金属被覆繊維である金属被覆糸100aを横糸とし、ポリエステル等の合成繊維である絶縁糸100bを縦糸として、例えば織物(平織り構造)で形成されている。これにより、一定密度で金属被覆糸100a、絶縁糸100bが編織され、且つ、適度な間隙101が確保されるようになっている。
【0016】
発熱部10の発熱抵抗としては、本発明のウェアラブル性を考慮して、例えば端子間抵抗値が5Ω以上100Ω以下の範囲とすることができ、さらに10Ω以上30Ω以下の範囲に調整することが好適であると考えられる。
なお、発熱部10は当然ながら矩形に限定せず、これ以外のパターン形状で形成してもよい。また、発熱部10においては絶縁糸100bを用いることは必須ではなく、金属被覆糸100aのみで発熱部10の全体を構成してもよいが、実際に適度な発熱抵抗を調節する上では、発熱部10の一部として絶縁糸100bを含む構成とするのが好適であると言える。
【0017】
金属被覆糸100aは、図1(c)に示すように、芯材1000に対し金属被覆層1001をコートした構成を有する。
芯材(芯糸)1000は、一般的な繊維材料から構成される。すなわち、例えば合成繊維、半合成繊維、天然繊維等を用いることができる。
合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリアクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールが好適である。
【0018】
半合成繊維としては、例えば、アセテート、レーヨン等が好ましく、天然繊維としては、羊毛、絹、木綿、麻等が好適である。
金属被覆層1001は、ここではAgを主材料として構成されたものである。
なお、金属被覆糸としては、ここでは金属被覆繊維である市販材料(三菱マテリアル株式会社製「シルファイバー(登録商標」)を用いることが可能である。当該金属被覆繊維の製造方法としては、特許文献4又は5に開示されている。
【0019】
金属被覆糸100aは、1本の金属被覆繊維として構成してもよいし、これを複数本束ねて構成してもよい。ここで芯材1000は1本でもよいし、その複数本を束ね、これに一体的に金属被覆層1001を配して構成してもよい。
芯材1000に対する金属被覆層1001の被覆態様は、芯材1000に対して略全面的に層状にコーティングさせるのが望ましいが、一部コーティングしても、それなりの効果は望める。またこの他、芯材1000に対して金属細線を巻き付けて構成してもよい。
【0020】
一方、電極部11R、11Lは、導電性に優れる導電材料から構成された帯状体であって、発熱部10の両端部において、少なくとも発熱部10の表面に露出して配され、前記金属被覆糸100aの金属被覆層1001に対して電気的に接続するように、当該端部上に配設されている。
当該電極部11R、11Lは、例えば金属被覆糸100aを用いて構成することができるが、発熱体10への給電手段として設ける理由から、電力損失がない(抵抗値が0である)ことが理想的である。実際には、電極部11R、11Lを構成する金属被覆糸100aの編織密度、幅、厚み等の各パラメータを設定して、その抵抗値が発熱部10に対して出来る限り非常に小さくなるよう(現実的には0.1Ω程度以下まで)調整を行うことが望ましい。
【0021】
当該電極部11R、11Lには、図1(a)に示すように、ミニプラグ用ソケット110R、110Lが設けられている。当該ミニプラグ用ソケット110R、110Lは、外部電源からの給電配線を接続するためのものである。
以上の構成を持つ面状発熱体は、ミニプラグ用ソケット110R、110Lを利用して給電配線に接続され、衣料の所定位置に配設される。そして、ミニプラグ用ソケット110R、110Lから所定の電力供給を受けることで、発熱作用が発揮される。
【0022】
ここで、本発明の面状発熱体1は、金属被覆糸100a及び絶縁糸100bの編織物としても構成できる。編織物とすることにより、当該金属被覆糸100a、絶縁糸100bの間に均一に一定の間隙101が確保される。このため、例えば布地表面に対して一様に金属膜を配設した従来構成(特許文献2)に比べ、良好な通気性を確保することができる。また、発熱部10は繊維径、編織密度の各調節によって、金属被覆糸100a及び絶縁糸100bの密度を適度に維持しつつ、通気性を確保できる点で特に有効である。また、各種既存の合成繊維との交編又は交織も容易になっている。
【0023】
さらに金属被覆糸100aにおいて金属材料は金属被覆層1001のみに使用されており、当該繊維の体積の大部分が合成繊維からなる芯材1000で構成されている。このため、中実の金属線や繊維状に一体的に金属膜を配設する従来構成(例えば特許文献2、3)に比べ、本発明は格段に軽量且つ柔軟に構成することができ、動作追随性に優れている。このため、面状発熱体1は、衣料用としても最適なウェアラブル性を備える構成となっている。
【0024】
また、Ag材料を利用した金属被覆繊維についてはすでに製造技術が確立しており(特許文献4及び5)、これを金属被覆糸100aとして利用すれば、日常生活耐性を十分備える発熱体を比較的容易に製造することができる。
なお本願発明では、面状発熱体1を構成する上の留意点として、例えば金属被覆糸100a及び絶縁糸100bを所定の方法で編織してこれらの糸の混率を調整し、電極11R及び11L間の端子間抵抗値を調整することで、発熱体10における所定の発熱抵抗を確保するようにする。
【0025】
ここで、前記端子間抵抗値の調整は、金属被覆糸100aの電極部11R、11Lへの接点の度合い(例えば接点数の増減)を調整することによって行える。
これにより同一の給電条件において、前記端子間抵抗値を増加(すなわち、前記接点数を低減)させれば、これに比例して発熱量を増加させることができる。また、反対に同一の給電条件において、前記抵抗値を低減(すなわち、前記接点数を増加)させれば、発熱量を低く調節することができる。
【0026】
このように発熱体1の抵抗制御は、導電糸(本実施の形態1では金属被覆糸100a)と絶縁糸(100b)の混率、又は前記接点数の調整のほか、発熱体1自身の形状(例えば縦・横比率)、糸100a、100bの編織方法等によっても調整が可能である。実際に作製する場合には、これらのパラメータに基づき、総合的に調整することが好適である。
また、発熱体10を一旦構成した上で、当該発熱体10に絶縁材料をスプレーで吹き付ける等 の被膜形成を行えば、絶縁性を向上させることもできる。
【0027】
<発熱ベストの構成>
次に、上記本発明の面状発熱体1の具体的適用例について説明する。
図2(a)、(b)は、本発明の面状発熱体を内蔵するベストジャケット(発熱ベスト)の模式的な構成を示す図である。
当図に示されるベストジャケット5は、ベストジャケット5と、発熱体セット16とで構成される。
【0028】
ベストジャケット5は、ベスト本体50と、ポケット51R、51Lを有し、中綿・外ナイロンの構成からなる。主な用途としてはスウェットパーカーやネルシャツのアンダーウェアとして用いられる構成を想定している。ここで、その素材に遠赤素材を用いることで、保温効果を高めるようにしてもよい。
前記面状発熱体1は、一例として、ユーザの首筋付近に対応するエリアAに対し、不図示の面ファスナーで脱着自在に固定されている。当該エリアAへの配設は、ユーザに対し最も適した温感領域を考慮したものであるが、本発明の面状発熱体1は、当然ながらこれ以外のエリア(例えば腰痛対策等の所定患部に対応するエリア)に設けてもよいし、ベストジャケット5の内面全体にわたり配設するようにしてもよい。
【0029】
なお、面状発熱体1は面ファスナーにより脱着自在にされているが、これはメンテナンス性を考慮したものであって、当該面状発熱体1自体は洗濯処理等に対して耐性を有するように構成されているので、この脱着自在構成は必須ではない。従って、直接縫製によりベスト本体50に固定してもよい。
発熱体セット16は、面状発熱体1、コントローラ2、バッテリーケース3を給電方向上流側とし、下流側にコントローラ2、面状発熱体1を同順に配線4で電気接続することで構成される。
【0030】
面状発熱体1のソケット110R、110Lは、配線4におけるライン40R、40Lの各端部に設けられたプラグ41R、41Lに対して接続されている。ライン40R、40Lはそれぞれコントローラ2から面状発熱体1付近まで延出される。コントローラ2は、ユーザが操作しやすい位置(ポケット内)に設けられている。
なお、プラグ41R、41L及びソケット110R、110Lは、互いに脱着が容易になるように設けているものであって、結線として配線を行う場合にはこれを省略することもできる。
【0031】
バッテリーケース3は、駆動源の一例として単四型(AAA)アルカリ電池2本を直列接続で内蔵し、配線42R、42Lに対して3V出力を呈する構成である。当該配線はコントローラ2において。配線40R、40Lと接続され、面状発熱体1へ電力供給される。内蔵電池としては当然ながらこれ以外の種類、規格品、或いは専用品であってもよい。ボタン型電池を使用すれば、軽量化が望める。また、二次電池を利用すれば、ランニングコストの低減が望める。二次電池のうち、リチウムイオン電池を用いれば、軽量且つ高出力を期待することができる。
【0032】
コントローラ2は、発熱体の温度調節手段であって、筐体200にボタンスイッチ201、調節ダイヤル202が備えられ、内部に所定の可変抵抗素子とプッシュ型(ボタン)スイッチが直列接続された基板が配設されている。当該コントローラ2は、バッテリーケース3から供給される電力に基づき、ボタンスイッチ201にて供給電力のON/OFF制御を行い、ダイヤル202にて抵抗値調整(発熱体の温度調整)を行う。
【0033】
なお、コントローラ2は必須の構成ではなく、これを省いて、直接バッテリーケース3と面状発熱体1とを配線4で接続してもよいが、細やかな温度設定を行うために、コントローラ2を用いることが望ましい。
また、面状発熱体1に外部より公知のサーモスタット素子を配設し、当該素子による温度をコントローラ2の基板にて管理し、面状発熱体1における一定の発熱温度値を上限として、当該温度値に達したときは配線42R、42Lへの給電をオートカットする省電力化・安全化対策を講じることもできる。
【0034】
以上の構成によれば、ユーザの動作に併せて面状発熱体1の形状変形が追随し、良好な動作が可能である。また、前述のように金属被覆糸100a、絶縁糸100bの間隙101により通気性も確保されている。
なお、ここでは面状発熱体をベストジャケットに適用する例について説明したが、本発明の衣料は当然ながらこれ以外の衣料に適用してもよい。上着、肌着の他、ズボン、手袋、靴下等に利用することも可能である。
【0035】
<発熱体の温度調整効果について>
以下、本発明の実施例について行った実験の結果を説明する。
(実験目的)
金属被覆糸(銀被覆糸)と絶縁糸(ポリエステル繊維)とをフライス交編してなる生地を用いて、本発明の面状発熱体の実施例を作製し、通電発熱試験を行った。
【0036】
当該実施例としては表1に示すように、面積の異なる短冊状の実施例(サンプルA〜F)を用意した。銀被覆糸とポリエステル繊維との混率は、サンプルA〜Cについては2:1とし、サンプルD〜Fについて1:2とした。
各サンプルA〜Fは縦長に使用し、両端を電極としてのクリップで挟んで通電させた。
【0037】
【表1】

【0038】
<実験1>
実験で得られた測定値は表2の通りである。
【0039】
【表2】

【0040】
表2のデータに基づき、図3及び図4に、消費電力約2.5Wの一定条件にて測定した温度上昇と生地面積との関係についてのグラフを示す。Δtは室温からの温度上昇を示している。
図3及び図4に示されるように、サンプルA〜C、D〜Fの測定値はそれぞれ同一の曲線上に位置している。従って、当該各曲線の示す関数に基づけば、銀被覆糸とポリエステル繊維の混率により、発熱体の抵抗値が任意に制御可能であることが確認できる。
【0041】
また、実験で使用した出力約2.5W範囲では、温度上昇が最大でも20℃以下であり、安全な温度範囲で十分な発熱効果が得られることも確認できる。
また、発明者らの行った別の実験により、混率の違いによる電極端子間の抵抗値の差があっても、同面積に同じ電力を印加すれば、温度上昇値は同じになることが確認された。
<実験2>
実験で得られた測定値は表3の通りである。
【0042】
【表3】

【0043】
表3のデータに基づき、図5に、同一サンプル(サンプルB)使用時での温度上昇と消費電力との関係を示す。
図5に示されるように、各データの測定値から線形性が確認される。これにより任意の温度上昇値に設定するためには、消費電力で制御が可能であると言える。
以上より、本願の面状発熱体を設計する際には、
a.面状発熱体に使用できる電源について、その印加電圧を決定する。
【0044】
b.面状発熱体の面積を決定する。
c.前記電源から逆算される端子間抵抗値を算出する。
d.上記図3、図4で示した関数等に基づき、端子間抵抗値が所定の値になるように、銀被覆糸と他の糸との混率を決める。
との各手順で行うことができる。
【0045】
<その他の事項>
本発明の発熱部10に係る編織物としては、実施例のフライス編みに限定されるものではなく、例えば図6に示すように平編み(天竺編み、シングルジャージー)としてもよく、さらに、ゴム編み(フライス編み、リブ編み)、パール編み等の丸編地やその他の横編地、デンビー編み、アトラス編み、コード編み、クサリ編み等の縦編地、または織物の構成とすることが挙げられる。
【0046】
本発明では、発熱部10をいずれの構成の編織物としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば衣料に対して脱着可能に配設可能な携帯用カイロとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1における面状発熱体の構成を示す図である。
【図2】面状発熱体の適用例を示す図である。
【図3】本発明の実施例の性能を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例の性能を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例の性能を示すグラフである。
【図6】面状発熱体のその他のバリエーションを示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 面状発熱体
2 コントローラ
3 バッテリーケース
4 配線
5 ベストジャケット(発熱ベスト)
10 発熱エリア
11R、11L 電極部
16 発熱体セット
40R、40L、42R、42L ライン
41R、41L ソケット
100a 金属被覆糸
100b 絶縁糸
101 間隙
110R、110L ミニプラグ
1000 芯材
1001 Agコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の発熱部と、当該発熱部に対して外部より給電するための電極部とを備え、
前記発熱部は、その全体又は一部が金属被覆糸で構成されており、
前記金属被覆糸は、芯材に金属被覆層を配設した1本以上の金属被覆繊維からなる
ことを特徴とする面状発熱体。
【請求項2】
前記発熱部が、編織物で構成されてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
前記金属被覆層の主材料は銀材料である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の面状発熱体。
【請求項4】
前記芯材はポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、アセテート、レーヨン、羊毛、絹、木綿、麻のうち少なくとも1種以上からなる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の面状発熱体における電極部に対し、外部より給電を行うための電源部と、当該給電に係る条件を調節するための制御部とが接続されてなる
ことを特徴とする発熱体セット。
【請求項6】
前記電極部及び前記電源部は、互いに脱着自在に接続されている
ことを特徴とする請求項5に記載の発熱体セット。
【請求項7】
請求項6に記載の発熱体セットを備える
ことを特徴とする衣料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−220616(P2007−220616A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42693(P2006−42693)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】