説明

面状発熱体

【課題】薄くて軽量であるにも拘わらず、発熱効率が高く、しなやかで耐屈曲疲労性にも優れる面状発熱体を提供することにある。
【解決手段】導電性繊維を含む編織物で形成された発熱部と、この発熱部を通電するための電極部とで構成された面状発熱体において、前記導電性繊維を、有機繊維とこの有機繊維の表面を被覆するカーボンナノチューブとで構成する。前記導電性繊維は、有機繊維に振動を与えながら、カーボンナノチューブを含む分散液中に有機繊維を浸漬して、導電層を有機繊維の表面に付着させた繊維であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブで被覆された導電性繊維を含む編織物で形成した発熱部を有する面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、通電による面状発熱体は、数多く商品化されており、用途も多岐にわたっている。例えば、床暖房や壁暖房、融雪装置や凍結防止装置、結露防止や防曇装置、ホットカーペット、車輌シート、園芸用マット、防寒ジャケットや防寒ひざ掛けなどが商品化されている。その中でも、布帛状発熱体は、柔軟性に優れるため、特に広く用いられている。
【0003】
布帛状発熱体には、通電により発熱する電線(ニクロム線やカーボン繊維など)をフェルトなどの生地に縫製などにより取り付けた発熱体が一般的である。このような発熱体は、取り付けた電線を支えるために、比較的厚い生地が用いられる上に、電線が剥き出しにならないように、さらに別の生地で被覆する必要がある。従って、面状発熱体の厚みと重量は必然的に大きくなる。
【0004】
さらに、ニクロム線やカーボン繊維などの電線自体は、繰り返しの屈曲により、断線する懸念があるため、これらを用いた面状発熱体は、繰り返し屈曲が必要となる用途には不適であった。また、電線は、生地に粗く取り付けられているため、これらの発熱電線の近傍部分と離れている部分とでは温度差が生じるという問題もある。
【0005】
このような問題を解決するために、特開2007−220616号公報(特許文献1)及び特開2008−91246号公報(特許文献2)には、柔軟な有機繊維の表面を銀などの金属被覆層で被覆した金属被覆糸を含む編織物で形成された面状発熱体が提案されている。これらの文献では、金属被覆層を形成する方法としては、公知のメッキ処理方法が記載されている。
【0006】
しかし、これらの文献に記載された金属被覆糸では、金属被覆層はメッキ処理された金属層であるため、繰り返しの屈曲により、金属層が破断して導電不良が発生し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−220616号公報(特許請求の範囲、段落[0018])
【特許文献2】特開2008−91246号公報(特許請求の範囲、段落[0025])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、薄くて軽量であるにも拘わらず、発熱効率が高く、しなやかで耐屈曲疲労性にも優れる面状発熱体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、速やかに全面で発熱できる面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、面状発熱体の発熱部を、カーボンナノチューブで被覆された導電性繊維を含む編織物で形成することにより、薄くて軽量であるにも拘わらず、発熱効率が高く、しなやかで耐屈曲疲労性も向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の面状発熱体は、導電性繊維を含む編織物で形成された発熱部と、この発熱部を通電するための電極部とで構成された面状発熱体であって、前記導電性繊維が、有機繊維と、この有機繊維の表面を被覆するカーボンナノチューブとを含む。前記カーボンナノチューブの割合は、有機繊維100質量部に対して、0.1〜50質量部程度であってもよい。前記導電性繊維は、有機繊維と、この有機繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層とで構成され、かつ前記有機繊維の全表面に対する前記導電層の被覆率が60%以上であってもよい。前記有機繊維は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種で構成されていてもよい。前記導電性繊維は、単糸繊度11dtex以下のマルチフィラメント糸又は紡績糸であってもよい。前記導電性繊維は、有機繊維に振動を与えながら、カーボンナノチューブを含む分散液中に有機繊維を浸漬して、導電層を有機繊維の表面に付着させた繊維であってもよい。前記導電性繊維の20℃における線電気抵抗値が1×10−1〜1×10Ω/cm程度であってもよい。前記編織物は、ポリエステル系繊維で構成された経糸と導電性ポリエステル系繊維で構成された緯糸とで構成された織布であってもよい。前記編織物は、電極部との接触部分を除いて、絶縁層で被覆された導電性ポリエステル系繊維で構成された編布であってもよい。
【0012】
本発明の面状発熱体は、20℃において直流又は交流の24Vの印加電圧をかけたとき、電極間における発熱部の温度が60秒間で1℃以上上昇する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、面状発熱体の発熱部をカーボンナノチューブで被覆された導電性繊維を含む編織物で形成することにより、薄くて軽量であるにも拘わらず、発熱効率が高く、しなやかで耐屈曲疲労性などの耐久性も向上できる。さらに、速やかに全面で発熱でき、例えば、20℃において直流又は交流の24Vの印加電圧をかけたとき、電極間における発熱部の温度が60秒間で1℃以上上昇する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の面状発熱体は、導電性繊維を含む編織物で形成された発熱部と、この発熱部を通電するための電極部とで構成されている。
【0015】
[導電性繊維]
導電性繊維は、有機繊維と、この有機繊維の表面を被覆するカーボンナノチューブとを含み、有機繊維を被覆するカーボンナノチューブは、通常、導電層を形成する。
【0016】
(有機繊維)
有機繊維は、発熱部に柔軟性及びしなやかさを付与するために使用され、非合成繊維[例えば、天然繊維(綿、麻、ウール、絹など)、再生繊維(レーヨン、キュプラなど)、半合成繊維(アセテート繊維など)]であってもよいが、導電層との密着性などの点から、少なくとも合成繊維を含むのが好ましい。
【0017】
合成繊維は、繊維形成性の合成樹脂又は合成高分子材料(合成有機重合体)を用いて形成した繊維であり、1種類の合成有機重合体(以下単に「重合体」ということがある)から形成されていてもよいし、2種類以上の重合体から形成されていてもよい。合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂[芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレートなどの全芳香族ポリエステル系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂など)、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ヒドロキシブチレート−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル及びその共重合体)など]、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド及びその共重合体、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミドなど)、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン及びその共重合体など)、アクリル系重合体(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂(ポリエステル型、ポリエーテル型、ポリカーボネート型ポリウレタン系樹脂など)、ポリビニルアルコール系重合体(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)などを挙げることができる。これらの合成樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
合成繊維が2種以上の重合体で形成されている場合は、2種以上の重合体の混合物(アロイ樹脂)で形成された混合紡糸繊維であってもよいし、又は2種以上の重合体が複数の相分離構造を形成した複合紡糸繊維であってもよい。複合紡糸繊維には、例えば、海島構造、芯鞘構造、サイドバイサイド型貼合せ構造、海島構造と芯鞘構造とが組み合わさった構造、サイドバイサイド型貼合せ構造と海島構造が組み合わさった構造などが挙げられる。
【0019】
これらの合成繊維のうち、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系重合体などで構成された繊維が、カーボンナノチューブの付着性が良好であり、しかも耐屈曲疲労性に優れる点から好ましい。なかでも、汎用性及び熱的特性の点から、ポリエステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレート系樹脂)、ポリアミド系樹脂(特に、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド系樹脂)、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂)で構成された繊維が好ましく、特にポリエステル系繊維が熱安定性および寸法安定性が良好である点からより好ましい。また、目的によっては高強力・高弾性を有する液晶系繊維(液晶ポリエステル系繊維など)なども好適に用いることができる。
【0020】
有機繊維の横断面形状は特に制限されず、丸形断面を有する通常の有機繊維であってもよく、丸形断面以外の異形断面を有する有機繊維であってもよい。異形断面繊維である場合は、その横断面形状は、例えば、方形、多角形、三角形、中空形、偏平形、多葉形、ドッグボーン型、T字形、V字形などのいずれであってもよい。これらの形状のうち、カーボンナノチューブを均一に形成し易い点などから、丸型断面形状が汎用される。
【0021】
有機繊維は、モノフィラメント糸、双糸、マルチフィラメント糸、加工したマルチフィラメント糸、紡績糸、テープヤーン、及びそれらの組み合わせなどのいずれであってもよい。マルチフィラメント糸や紡績糸などの複合糸の場合、同一の有機繊維同士を組み合わせた複合糸であってもよく、異なる種類の有機繊維を組み合わせた複合糸であってもよい。
【0022】
本発明では、合成繊維が好ましく、複合糸として合成繊維と非合成繊維とを組み合わせる場合、複合糸の表面への導電層(カーボンナノチューブ)の付着が良好に行われるように、複合糸の質量に対する合成繊維の含有割合が、例えば、0.1質量%以上、好ましくは10質量%以上、特に30質量%以上(例えば、50〜99質量%)が好ましく、また複合糸の表面の0.1%以上、好ましくは10%以上、特に30%以上(例えば、50〜100%)が合成繊維によって占められていることが好ましい。
【0023】
これらのうち、柔軟性やしなやかさ、耐屈曲疲労性に優れる点から、双糸、マルチフィラメント糸、加工したマルチフィラメント糸、紡績糸(特に、合成繊維同士を組み合わせたマルチフィラメント糸、紡績糸)が好ましい。
【0024】
有機繊維を含む糸の太さ(平均繊度)は特に制限されないが、例えば、目標とする面状発熱体の目付け、厚み、柔軟性によって、10〜1000dtexの範囲から選択でき、例えば、20〜500dtex、好ましくは30〜300dtex、さらに好ましくは50〜200dtex(特に70〜150dtex)程度である。
【0025】
マルチフィラメント糸又は紡績糸の場合、単糸繊度(平均単糸繊度)は、しなやかさ及び柔軟性の点から、11dtex以下であってもよく、例えば、0.1〜8dtex、好ましくは0.3〜7dtexさらに好ましくは0.5〜6dtex(特に1〜5dtex)程度である。単糸繊度が大きすぎると、繊維自体の剛直性が強くなり、生地のしなやかさが低下する。マルチフィラメント糸の本数は、例えば、2〜300本、好ましくは5〜200本、さらに好ましくは10〜100本程度である。さらに、撚糸の場合には、撚数は、例えば、200〜5000T/m、好ましくは1000〜4000T/m程度である。
【0026】
本発明では、有機繊維の繊度を前記範囲にすることにより、特に、マルチフィラメント糸又は紡績糸の繊度や本数を前記範囲に調整することにより、面状発熱体の軽量化、ソフト化を図ることができる。
【0027】
(カーボンナノチューブ又は導電層)
本発明では、前記有機繊維の表面をカーボンナノチューブで被覆することにより、導電性を付与できる。有機繊維を被覆するカーボンナノチューブは、導電層ということができる。
【0028】
導電性繊維において、導電発熱性能の点から、有機繊維の表面の一部(局所)だけではなく、繊維の全表面の50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、さらに好ましくは全体(100%)をカバーする被覆率(カバー率)で、導電層(カーボンナノチューブ)が繊維表面に付着していることが好ましい。
【0029】
また、マルチフィラメント糸や紡績糸などの複合糸では、糸の表面に位置する繊維の表面の60%以上(例えば、60〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、好ましくは全体(100%)をカバーする被覆率で導電層(カーボンナノチューブ)が付着しているのが好ましい。
【0030】
有機繊維が、モノフィラメント糸ではなく、マルチフィラメント糸や紡績糸である場合は、糸の内側に位置する繊維表面(糸表面に露出していない繊維表面)には、導電層(特にカーボンナノチューブ)は付着していなくてもよいが、糸の表面に位置する繊維の表面だけでなく、糸の内部に位置する繊維の表面にも導電層(特にカーボンナノチューブ)が付着していると、導電発熱性能が一層良好になる。
【0031】
紡績糸やマルチフィラメント糸などの内部にカーボンナノチューブを付着させるためには、後述する微振動を利用したカーボンナノチューブの付着処理を行うのが好ましい。本発明では、前記繊維の中でも、このような付着処理における効果が顕著に表れる点から、双糸、マルチフィラメント糸、紡績糸、特に、マルチフィラメント糸が好ましく利用できる。
【0032】
カーボンナノチューブ(導電層)の割合は、有機繊維100質量部に対して0.1〜100質量部程度である。なかでも、有機繊維に導電性を付与するためには、カーボンナノチューブの割合が重要であり、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、有機繊維の種類、用途、カーボンナノチューブの種類、カーボンナノチューブ分散液の濃度などに応じて調整し得るが、一般的には、有機繊維100質量部に対して、例えば、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜25質量部、さらに好ましくは1〜20質量部(特に1〜15質量部)程度である。このような割合でカーボンナノチューブが付着された導電性繊維は、有機繊維からのカーボンナノチューブの脱落防止及び導電発熱性能などの点から好ましい。
【0033】
なお、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、界面活性剤の付着量を含まず、カーボンナノチューブがバインダーを用いて有機繊維の表面に付着している場合もバインダーの付着量を含まないカーボンナノチューブ自体の付着量をいう。
【0034】
さらに、導電性繊維は、有機繊維の表面において均一な厚みで導電層が付着されており、例えば、導電層の厚みは、略全表面において、例えば、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜4μm、さらに好ましくは0.3〜3μmの範囲にある。このような均一な導電層を有する導電性繊維は、カーボンナノチューブの脱落防止、また均一な導電発熱性能とする点から好ましい。このように厚みを制御するためには、後述するように、分散液で処理する際、有機繊維に微振動を与えることで、マルチフィラメント糸であっても、分散液がマルチフィラメント糸の束の内部にまで浸透し、有機繊維の単糸1本1本の表面すべてにわたって均一な樹脂層を形成できる。
【0035】
有機繊維の表面にカーボンナノチューブを前記した量及び厚みの範囲内で調整し、付着させることによって、目的に沿った導電性を付与できる。導電性繊維の20℃における線電気抵抗値は、導電発熱性の点から、例えば、1×10−2〜1×10Ω/cm、好ましくは1×10−1〜5×10Ω/cm、さらに好ましくは10〜1×10Ω/cm(特に1×10〜5×10Ω/cm)程度である。前記線抵抗値が大きすぎると、通電量が低く良好な発熱量が得られない反面、小さすぎても、通電性が良好なため、やはり良好な発熱量が得られない。また、その抵抗値の対数の標準偏差(例えば、長さ方向における10箇所以上での測定値の偏差)は、1.0未満を示し、ばらつきの少ない繊維方向に安定した導電性能を付与できる。
【0036】
カーボンナノチューブは、特徴的な構造として、炭素の六員環配列構造を有する1枚のシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた直径数nm程度のチューブ状構造を有する。このグラフェンシートにおける炭素の六員環配列構造には、アームチェア型構造、ジグザグ型構造、カイラル(らせん)型構造などが含まれる。前記グラフェンシートは、炭素の六員環に五員環または七員環が組み合わさった構造を有する1枚のシート状グラファイトであってもよい。カーボンナノチューブとしては、1枚のシート状グラファイトで構成された単層カーボンナノチューブの他、前記筒状のシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブの内部にさらに径の小さいカーボンナノチューブを1個以上内包する多層カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じた形状のカーボンナノコーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなどが知られている。これらのカーボンナノチューブは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
これらのカーボンナノチューブのうち、カーボンナノチューブ自体の強度の向上の点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。さらに、導電性の点から、グラフェンシートの配列構造は、アームチェア型構造が好ましい。
【0038】
本発明で用いるカーボンナノチューブの製造方法は特に制限されず、従来から知られている方法によって製造できる。
【0039】
具体的には、化学的気相成長法において、触媒[鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属またはフェロセン、前記金属の酢酸塩などの遷移金属化合物と、硫黄または硫黄化合物(チオフェン、硫化鉄など)の混合物など]の存在下、炭素含有原料(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノールなどのアルコール類など)を加熱することにより生成できる。すなわち、前記炭素含有原料及び前記触媒を雰囲気ガス(アルゴン、ヘリウム、キセノンなどの不活性ガス、水素など)と共に300℃以上(例えば、300〜1000℃程度)に加熱してガス化して生成炉に導入し、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲内の範囲内の一定温度で加熱して触媒金属を微粒子化させると共に炭化水素を分解させることによって微細繊維状(チューブ状)炭素を生成させる。これにより生成した繊維状炭素は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含有していて純度が低く、結晶性も低いので、次に800〜1200℃の範囲内の好ましくは一定温度に保持された熱処理炉で処理して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除くのが好ましい。さらに、微細繊維状炭素を2400〜3000℃の温度でアニール処理して、カーボンナノチューブにおける多層構造の形成を一層促進すると共にカーボンナノチューブに含まれる触媒金属を蒸発することによって製造できる。
【0040】
カーボンナノチューブの平均径(軸方向に対して直交する方向の直径又は横断面径)は、例えば、0.5nm〜1μm(例えば、0.5〜500nm、好ましくは0.6〜300nm、さらに好ましくは0.8〜100nm、特に1〜80nm)程度から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5〜10nm、好ましくは0.7〜8nm、さらに好ましくは1〜5nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5〜300nm、好ましくは10〜100nm、好ましくは20〜80nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜300μm(特に20〜100μm)程度である。
【0041】
導電層は、製造工程で用いられる分散液に含まれる界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、両性イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれもが使用できる。
【0042】
両性イオン界面活性剤には、スルホベタイン類、ホスホベタイン類、カルボキシベタイン類、イミダゾリウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類などが含まれる。
【0043】
スルホベタイン類としては、例えば、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩(スルホネート)、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ドデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ヘキサデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩などのジC1−4アルキルC8−24アルキルアンモニオC1−6アルカンスルホン酸塩、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)などのステロイド骨格を有するアルキルアンモニオC1−6アルカンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0044】
ホスホベタイン類としては、例えば、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリンなどのC8-24アルキルホスホコリン、レシチンなどのグリセロリン脂質、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのポリマーなどが挙げられる。
【0045】
カルボキシベタイン類としては、例えば、ジメチルラウリルカルボキシベタインなどのジメチルC8−24アルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタインなどが挙げられる。イミダゾリウムベタイン類としては、例えば、ラウリルイミダゾリウムベタインなどのC8−24アルキルイミダゾリウムベタインなどが挙げられる。アルキルアミンオキシドとしては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシドなどのトリC8−24アルキル基を有するアミンオキシドなどが挙げられる。
【0046】
これらの両性イオン界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、両性イオン界面活性剤において、塩としては、アンモニア、アミン(例えば、アミン、エタノールアミンなどのアルカノールアミン等)、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムなど)等との塩が挙げられる。
【0047】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのC6−24アルキルベンゼンスルホン酸塩など)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのジC3−8アルキルナフタレンスルホン酸塩など)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのC6−24アルキルスルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジC6−24アルキルスルホコハク酸塩など)、アルキル硫酸塩(例えば、硫酸化脂、ヤシ油の還元アルコールと硫酸とのエステルのナトリウム塩などのC6−24アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン(平均付加モル数2〜3モル程度)アルキルエーテル硫酸塩など)、アルキルリン酸塩(例えば、モノ〜トリ−ラウリルエーテルリン酸などのリン酸モノ〜トリ−C8−18アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩など)などが挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。塩としては、前記両性イオン界面活性剤と同様の塩が例示できる。
【0048】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのモノ又はジC8−24アルキル−トリ又はジメチルアンモニウム塩など)、トリアルキルベンジルアンモニウム塩[例えば、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのC8−24アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム塩など)など]、アルキルピリジニウム塩(例えば、セチルピリジニウムブロマイドなどのC8−24アルキルピリジニウム塩など)などが挙げられる。これらの陽イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、塩としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、過塩素酸などとの塩が挙げられる。
【0049】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンC6−24アルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC6−18アルキルフェニルエーテルなど)、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル[例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンソルビタンC8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C8−24脂肪酸エステルなど]、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC8−24脂肪酸エステル)などが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記ノニオン性界面活性剤において、エチレンオキサイドの平均付加モル数は、1〜35モル、好ましくは2〜30モル、さらに好ましくは5〜20モル程度である。
【0050】
これらの界面活性剤のうち、製造工程において使用される分散液中において、カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を防ぎながら、カーボンナノチューブを水などの分散媒中に安定に微細に分散させることができる点から、陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤との組み合わせ、両性イオン界面活性剤単独のいずれかが好ましく、両性イオン界面活性剤が特に好ましい。そのため、両性イオン界面活性剤の使用下にカーボンナノチューブを分散させた分散液を用いて有機繊維を処理すると、カーボンナノチューブをそれらの繊維表面に、斑なく付着させることができる。
【0051】
両性イオン界面活性剤としては上記で具体例として挙げたもののいずれもが使用でき、そのうちでも、スルホベタイン類、特に、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネートなどのジC1-4アルキルC8−24アルキルアンモニオC1−6アルカンスルホネートが好ましい。
【0052】
界面活性剤の割合は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、0.01〜100質量部、好ましくは0.03〜50質量部、さらに好ましくは0.05〜30質量部(特に0.1〜20質量部)程度である。界面活性剤の割合がこの範囲にあると、カーボンナノチューブの均一性を向上させるとともに、高い導電性を維持できる。
【0053】
導電層には、前記界面活性剤に加えて、さらにハイドレート(水和安定剤)が含まれていてもよい。水和安定剤は、導電性繊維を製造する工程で用いられる分散液中において、界面活性剤の水などの液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるとともに、導電層としてカーボンナノチューブを繊維表面に固定させるまで分散状態を維持することに寄与する。
【0054】
水和安定剤の種類は、界面活性剤の種類、液体媒体(分散媒)の種類などによって異なり得るが、液体媒体として水を使用した場合は、例えば、前記非イオン性界面活性剤(界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を使用した場合)、親水性化合物(水溶性化合物)などが使用できる。
【0055】
親水性化合物(水溶性化合物)としては、例えば、多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ショ糖など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2−4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、水溶性多糖類(カラギーナン、アルギン酸又は塩など)、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1−3アルキルセルロース又はその塩など)、水溶性蛋白質(ゼラチンなど)などが例示できる。
【0056】
これらの水和安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水和安定剤のうち、グリセリンなどの多価アルコールなどが汎用される。
【0057】
水和安定剤の割合は、前記界面活性剤100質量部に対して、例えば、0.01〜500質量部、好ましくは1〜400質量部、さらに好ましくは10〜300質量部程度である。
【0058】
導電層には、前記界面活性剤に加えて、さらにバインダーが含まれていてもよい。バインダーは、カーボンナノチューブと有機繊維との接着性を向上させる。
【0059】
バインダーとしては、慣用の接着性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが例示できる。これらの接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
これらのバインダーのうち、分散媒として水を用いる場合、親水性接着性樹脂、例えば、水性ポリエステル系樹脂、水性アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂が好ましい。
【0061】
水性ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分(テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸など)とジオール成分(エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルカンジオールなど)との反応により得られるポリエステル樹脂において、親水性基が導入されたポリエステル樹脂が使用できる。親水性基の導入方法としては、例えば、ジカルボン酸成分として、スルホン酸塩基やカルボン酸塩基などの親水性基を有するジカルボン酸成分(5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、3官能以上の多価カルボン酸など)を用いる方法、ジオール成分として、ポリエチレングリコール、ジヒドロキシカルボン酸を用いる方法などが例示できる。
【0062】
水性アクリル系樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸−エチレン共重合体、これらの塩などが例示できる。
【0063】
酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニル単位を含む重合体又はそのケン化物であり、例えば、ポリ酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などであってもよい。
【0064】
さらに、バインダーとしては、有機繊維と同系統の接着性樹脂を使用するのが好ましい。すなわち、例えば、有機繊維として、ポリエステル系繊維を使用した場合には、バインダーとしては水性ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。
【0065】
バインダーの割合は、カーボンナノチューブの表面を完全に被覆することなくカーボンナノチューブを繊維表面に円滑に付着させる点から、カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、50〜400質量部、好ましくは60〜350質量部、さらに好ましくは100〜300質量部(特に100〜200質量部)程度である。
【0066】
なお、本発明では、有機繊維の表面とカーボンナノチューブとが互いの親和性により付着されているため、バインダーは必ずしも必要ではなく、バインダーを含有しない場合であっても導電層が有機繊維の表面に強固に付着している。すなわち、導電性繊維はバインダーを実質的に含有しない繊維であってもよい。
【0067】
特に、有機繊維がポリエステル繊維で形成されている場合には、ポリエステル繊維とカーボンナノチューブとの親和性が高いため、バインダーを用いなくてもカーボンナノチューブがポリエステル繊維の繊維表面に強固に付着し、バインダーを用いなくても充分な付着強度を発現し、少量のバインダーを用いることでカーボンナノチューブの繊維表面への付着強度が一層高くなる。
【0068】
導電層は、さらに慣用の添加剤、例えば、表面処理剤(例えば、シランカップリング剤などのカップリング剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
(絶縁層)
導電性繊維は、編織物において、導電性繊維同士の接触通電により、電気抵抗が低下し、発熱効率が低下するのを抑制する点から、カーボンナノチューブ(又は導電層)の上に、電極部との接触部分を除いて、さらに絶縁層を形成してもよい。
【0070】
絶縁層としては、前記有機繊維を構成する合成樹脂、非合成樹脂などで構成されていてもよい。さらに、絶縁層は、カーボンナノチューブの付着にバインダーを使用した場合には、バインダー、特に、導電層を構成するバインダーと同種又は同一のバインダーで形成してもよい。この場合、導電層を形成した後に、カーボンナノチューブを含有しないバインダー溶液を用いて導電層にバインダーで構成された絶縁層を被覆することにより、導電層に対して密着力の高い絶縁層を簡便に形成できる。
【0071】
絶縁層の被覆率は、適宜選択でき、例えば、導電層の表面の一部(局所)に形成してもよく、導電層の全表面の50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは90%以上(例えば、90〜100%)、さらに好ましくは全体(100%)を被覆してもよい。絶縁層の厚みは、例えば、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜4μm、さらに好ましくは0.3〜3μm程度であってもよい。
【0072】
[編織物]
本発明の面状発熱体における発熱部は、前記導電性繊維を含む編織物で形成されている。発熱部を構成する編織物には、織物、編物の他、レース地、網なども含まれる。これらの編織物のうち、全面に亘って発熱でき、発熱効率に優れる点から、織物及び編物が好ましい。
【0073】
織物としては、慣用の織物(織物生地又は織布)、例えば、タフタ織などの平織、綾織又は斜紋織(ツイル織)、朱子織、パイル織などが挙げられる。これらの織物のうち、高密度の組織を形成でき、発熱効率を向上し易い点から、ツイル織、平織が好ましい。
【0074】
編物としても、慣用の編物(編物生地又は編布)、例えば、平編(天竺編)、経編、丸編、横編、両面編、ゴム編、パイル編などが挙げられる。編物も編糸の全部又は一部を導電性繊維で構成してもよいが、編物の場合、織物に比べて、繊維の交絡関係及び通電方向が複雑であり、繊維同士が接触し、部分的に導通性が高まって発生するヒートスポットを抑制するため、絶縁層を形成するのが好ましい。
【0075】
さらに、編織物は、少なくとも導電性繊維を含んでいればよく、その割合は、編織物の種類に応じて選択でき、例えば、編織物全体に対して、例えば、1質量%以上(例えば、1〜100質量%)、好ましくは10〜100質量%(例えば、20〜90質量%)、さらに好ましくは30〜100質量%(例えば、40〜80質量%)程度である。
【0076】
導電性繊維と非導電性繊維とを組み合わせて編織物を形成する場合、非導電性繊維としては、導電性繊維を構成する有機繊維が利用でき、なかでも、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維が好ましく、ポリエステル系繊維が特に好ましい。非導電性繊維も、横断面形状や種類も、マルチフィラメント糸や紡績糸における単糸繊度、本数、撚り数などについても、導電性繊維と同様の繊維を利用できる。なお、織物の経糸として、非導電性繊維を使用する場合、導電性繊維で構成された緯糸の繊度に対して、例えば、1.1〜2倍、好ましくは1.2〜1.9倍、さらに好ましくは1.3〜1.8倍程度の繊度であってもよい。
【0077】
編織物の単位面積当たりの重さ(目付量)としては、発熱効率の点から、例えば、10〜300g/m、好ましくは30〜250g/m、さらに好ましくは50〜200g/m程度である。目付量をこの範囲にすることにより、軽量で薄くてしなやかであり、かつ高い発電効率を有する発電部を形成できる。
【0078】
編織物の厚みは、例えば、0.1〜1mm、好ましくは0.15〜0.8mm、さらに好ましくは0.2〜0.6mm程度である。
【0079】
さらに、織物の場合、経糸及び/又は緯糸の全部又は一部を導電性繊維で構成してもよい。特に、経糸及び緯糸のいずれかを導電性繊維で構成することにより、打ち込み本数の調整により発熱効率を容易に制御できるとともに、簡便な方法で導電性繊維の接触を軽減でき、ヒートスポットを抑制できる点で好ましい。さらに、発熱効率を向上させるため、糸密度(打ち込み本数)を調整してもよい。例えば、経糸に40〜70dtex(特に50〜60dtex)、緯糸に75〜150dtex(特に80〜100dtex)を用いた場合、経密度は、例えば、110〜210本/インチ、好ましくは115〜200本/インチ、さらに好ましくは120〜190本/インチ程度としてもよい。一方、緯密度は、例えば、70〜130本/インチ、好ましくは75〜125本/インチ、さらに好ましくは80〜120本/インチ程度としてもよい。このような糸密度で織物を構成し、かつ緯糸又は経糸として、導電性繊維を使用すると、有効に発熱効率を向上できる。さらに、緯糸として導電性繊維を使用し、かつ経糸として非導電性繊維を使用すると、カーボンナノチューブの脱落が抑制される点から特に好ましい。
【0080】
導電性繊維を含む編織物は、有機繊維の表面に導電層が強固に付着しているため、耐久性も高い。JIS L 0217の103号に準拠した洗濯後の表面漏洩電気抵抗値は、洗濯前の表面漏洩電気抵抗値に対して、例えば、1〜10000倍(例えば、1〜1000倍)、好ましくは1〜100倍、さらに好ましくは1〜10倍(特に1〜5倍)程度である。
【0081】
[導電性繊維及び発熱部の製造方法]
導電性繊維は、カーボンナノチューブを含む分散液を用いて、有機繊維の表面にカーボンナノチューブを含む導電層を付着させる工程の後、導電層が表面に付着した有機繊維を乾燥する工程を経て製造される。
【0082】
導電層の付着工程において、分散液中におけるカーボンナノチューブの濃度は、特に制限されないが、目的とする電気抵抗値に応じて、分散液の全質量に対してカーボンナノチューブの含有量が0.1〜30質量%(特に0.1〜10質量%)となる範囲から適宜選択できる。バインダーを使用する場合も、カーボンナノチューブに対して所望の割合となるように、このような範囲から選択できる。
【0083】
カーボンナノチューブを分散させるための分散媒(液体媒体)としては、例えば、慣用の極性溶媒(水、アルコール類、アミド類、環状エーテル類、ケトン類など)、慣用の疎水性溶媒(脂肪族又は芳香族炭化水素類、脂肪族ケトン類など)、又はこれらの混合溶媒などが使用できる。これらの溶媒のうち、簡便性や操作性の点から、水が好ましく用いられる。
【0084】
また、処理に用いるカーボンナノチューブの分散液は、水などの液体媒体中にカーボンナノチューブを凝集することなく安定に分散させるために、前記界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤の使用量は、例えば、カーボンナノチューブ100質量部に対して、界面活性剤を1〜100質量部(特に5〜50質量部)程度の範囲から選択できる。
【0085】
界面活性剤、特に両性イオン界面活性剤を用いたカーボンナノチューブの分散液では、界面活性剤の液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるために、分散液中にハイドレート(水和安定剤)を添加するのが好ましい。
【0086】
水和安定剤の使用量は、界面活性剤100質量部に対して、10〜500質量部(特に50〜300質量部)程度の範囲から選択できる。
【0087】
このような分散液の調製方法は、特に制限されず、カーボンナノチューブ間の凝集、バンドル化を生ずることなく、カーボンナノチューブが水などの液体媒体中に微分散状態で安定に分散した分散液を調製できる方法であれば、いずれの方法で調製してもよい。
【0088】
特に、本発明では、界面活性剤(特に両性イオン界面活性剤)の存在下で、水性媒体のpHを4.0〜8.0、好ましくは4.5〜7.5、さらに好ましくは5.0〜7.0に保持しながら、水性媒体(水)中にカーボンナノチューブを分散処理する調製方法が好ましい。この調製方法における分散処理は、分散装置としてメディアを用いたミル(メディアミル)を用いて行うのが好ましい。メディアミルの具体例としては、ビーズミル、ボールミルなどを挙げることができる。ビーズミルを用いる場合には、直径が0.1〜10mm、好ましくは0.1〜1.5mm(例えば、ジルコニアビーズなど)などが好ましく用いられる。特に、予めボールミルを用いて、カーボンナノチューブ、界面活性剤(及び必要に応じてバインダーなど)を水性媒体中に混合してペースト状物を調製した後、ビーズミルを用いて界面活性剤を含む水性媒体を加えて分散液を調製してもよい。
【0089】
この調製方法で得られる分散液においては、界面活性剤によってカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を生ずることなく、水性媒体中に微分散状で安定に分散しているので、この分散液を用いて処理を行うと、繊維表面にカーボンナノチューブを均一に付着させることができる。
【0090】
カーボンナノチューブの分散液による有機繊維の処理方法は、特に制限されず、有機繊維の繊維表面にカーボンナノチューブを含む導電層を均一に付着できる方法であればいずれの方法であってもよい。そのような処理方法としては、例えば、有機繊維をカーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法、タッチ式ローラを用いたサイジング装置、ドクター、パッド、噴霧装置、糸プリント装置などの被覆装置を用いて有機繊維をカーボンナノチューブの分散液で処理する方法などが挙げられる。
【0091】
分散液を用いた処理における温度は、特に限定されず、例えば、0〜150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは10〜50℃程度であり、通常、常温で処理される。
【0092】
これらの処理方法のうち、均一な導電層を形成できる点から、カーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法、糸プリント方法が好ましい。さらに、分散液での付着処理において有機繊維に微振動を付与する方法が好ましい。繊維に微振動を付与しながら、有機繊維を処理すると、分散液が紡績糸の内部、マルチフィラメント糸の束の内部にまで浸透し、繊維の内部や繊維の単糸1本1本の全表面にわたって均一な導電層を形成できる。
【0093】
微振動の振動数としては、例えば、20Hz以上であればよく、例えば、20〜2000Hz、好ましくは50〜1000Hz、さらに好ましくは100〜500Hz(特に100〜300Hz)程度である。
【0094】
微振動を付与する手段は、特に限定されず、慣用の手段、例えば、機械的な手段や超音波を使用する手段などが挙げられる。機械的な手段としては、例えば、繊維をサイジング装置や浸漬槽などに案内するための糸ガイド又はサイジング装置や浸漬槽自体に振動を付与することにより、もしくは分散液に振動を付与することにより、繊維に振動を付与する方法であってもよい。
【0095】
分散液を用いた付着処理は、1回だけの操作であってもよいし、同じ操作を複数回繰り返してもよい。
【0096】
乾燥工程では、カーボンナノチューブの分散液で処理を行った有機繊維から液体媒体を除去し、乾燥することで、繊維表面にカーボンナノチューブが導電層として均一に薄層状態で付着した導電性繊維を得る。
【0097】
乾燥温度は、分散液中の液体媒体(分散媒)の種類に応じて選択でき、分散媒として水を用いた場合には、有機繊維の材質にもよるが、通常、100〜230℃(特に110〜200℃)程度の乾燥温度が採用される。ポリエステル繊維の場合、例えば、120〜230℃(特に150〜200℃)程度であってもよい。
【0098】
発熱部は、導電性繊維を原料として織成又は編成して製造してもよいが、非導電性有機繊維で構成された編織物を、カーボンナノチューブを含む分散液で処理することに製造してもよい。製造条件は、前記導電性繊維の製造方法と同様である。特に、分散液の処理方法としては、分散液中に浸漬する方法(ディップ・ニップ方式)が好ましい。さらに、編織物を処理する場合にも、編織物内部にまでカーボンナノチューブを浸透できる点から、前述の微振動を編織物に付与しながら処理する方法が好ましい。
【0099】
[面状発熱体]
本発明の面状発熱体は、前記編織物で形成された発熱部と、この発熱部を通電するための電極部とで構成されている。電極部は、慣用の電極部を利用でき、通常、一対の電極部で構成され、電池などの電源から供給される電流を発熱部の導電性繊維に流すための入口部及び出口部に相当する。
【0100】
電極部は、通電可能な導電材料で形成されており、導電性を有していれば特に限定されず、炭素材やセラミックなどであってもよいが、通常、金属が利用される。金属としては、例えば、タングステンなどの周期表第6A族金属、マンガンなどの周期表第7A族金属、鉄、ニッケル、コバルト、白金などの周期表第8族金属、銅、銀、金などの周期表第1B族金属、亜鉛などの周期表第2B族金属、アルミニウムなどの周期表第3B族金属、スズ、鉛などの周期表第4B族金属、ビスマスなどの周期表第5B族金属などが挙げられる。これらの金属のうち、クロム、ニッケル、銅、銀、金、アルミニウムなどの金属が汎用される。
【0101】
電極部の形状は、発熱部の形状に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、通常、矩形状シートである発熱部の両端部に配設されるため、帯状又は線状(繊維状又は棒状)である。電極部のサイズは、発熱部の形状に応じて選択できる。例えば、電極部が帯状の場合、幅及び厚みは、発熱体のサイズに応じて選択でき、幅が1〜100mm、好ましくは2〜50mm、さらに好ましくは3〜30mm程度であり、厚みが0.01〜1mm、好ましくは0.02〜0.5mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mm程度であってもよい。線状の場合、線径は、発熱体のサイズに応じて選択でき、例えば、0.1〜30mm、好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは3〜10mm程度である。
【0102】
電極部の配設方法は、電極間が一定の間隔を有し、かつ電極間で導電性繊維が連続するように配設されれば、特に限定されず、通常、矩形状シートである発熱部の両端部に配設されるが、電極間の間隔(距離)を調整し、発熱温度を制御する目的などから、電極部を発熱部の両端部から中央部よりの発熱部の上に配設してもよい。電極部間の間隔(距離)は、発熱部のサイズや用途に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、1cm〜10m程度の範囲から選択でき、例えば、3〜100cm、好ましくは5〜50cm、さらに好ましくは10〜30cm程度であるが、道路や建築物など、10mを超える間隔であってもよい。
【0103】
電極部を発熱部に固定する方法としては、その形状に応じて選択でき、発熱部の編織物の一部として編織成する方法、導電性粘着剤を用いて貼着する方法、縫製により固定する方法、固定具を利用して固定する方法などが挙げられる。
【0104】
これらの方法のうち、発熱部が織物の場合、繊維状電極部を織物の一部として織成する方法、帯状電極部を導電性粘着剤で貼着する方法、線状又は帯状電極部を縫製により固定する方法などが好ましい。例えば、緯糸が導電性繊維で構成された編物の場合、金属繊維などの繊維状の電極部を織物の緯方向の両端に経糸として導入する方法、帯状電極部の長さ方向を経糸と平行にして、織物の緯方向の両端部で帯状電極部を導電性粘着剤で織物に貼着する方法などであってもよい。なお、経糸が導電性繊維で構成された編物の場合、経方向と緯方向との関係は逆になる。
【0105】
導電性粘着剤としては、金属粉(前記、導電性材料で例示の金属で構成された金属粉など)を含有する粘着剤(例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、オレフィン系粘着剤など)が利用できる。なお、導電性粘着剤を有する帯状電極部として、市販の導電性粘着テープ(導電粘着層を有する金属箔)を利用してもよい。
【0106】
発熱部が編物の場合、帯状電極部を導電性粘着剤で貼着する方法、線状又は帯状電極部を縫製により固定する方法などが好ましい。例えば、経編、横編、丸編ともに編物生地のコース方向の両端で金属繊維などの繊維状電極部を縫い付ける方法、帯状電極部の長さ方向を経糸とコース方向と平行にして、編物のウエール方向の両端部で帯状電極部を導電性粘着剤で編物に貼着する方法などであってもよい。
【0107】
さらに、発熱部を構成する導電性繊維が絶縁層で被覆されている場合、電極部との接触部分(例えば、発熱部の両端部など)の絶縁層を除去するのが好ましい、絶縁層の除去方法としては、絶縁層を溶解又は分解可能な溶媒(例えば、アルカリ水溶液、酸性水溶液など)で除去する方法などが利用できる。例えば、絶縁層がポリエステル系バインダーで構成されている場合には、アルカリ水溶液で浸漬又は洗浄することにより除去してもよい。
【0108】
面状発熱体の発熱特性(到達温度及び速度)は、導電性繊維の線電気抵抗値、編織物における導電性繊維の密度、織編物の組織、電極部間の間隔、印加電圧などにより調整できる。面状発熱体の発熱特性は、用途に応じて調整すればよいが、本発明の面状発熱体は発熱効率が高く、速やかに高い温度に到達でき、例えば、20℃において直流又は交流の24Vの印加電圧をかけたとき、電極間における発熱部の60秒間での上昇温度は1℃以上であり、例えば、2〜100℃、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは10〜70℃(特に20〜60℃)程度であってもよい。なお、到達温度を上昇させるためには、単位面積当たりの導電性繊維の本数を増加させること、電極部間の間隔を小さくすること、全体の抵抗値を下げて通電量を増加することなどが効果的である。さらに、電極間の幅が制限される用途などでは、所定幅の面状発熱体を複数組用意して並列に配置することにより、所定の到達温度を有する面状発熱体とすることもできる。
【実施例】
【0109】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0110】
実施例1
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製:
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
【0111】
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(バイエル社製、Baytube)30.4gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で攪拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化研究所製「AS ONE」)に載せて1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
【0112】
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学(株)製、「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で30.0g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=2.96w/w%、バインダーの含有量=2.26w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.3〜6.8に維持されていた。
【0113】
(2)ポリエステル加工糸へのカーボンナノチューブの付着処理:
(i)市販のポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、「FD84T48」、84dtex/48フィラメント)に対して、前記(1)で得られたカーボンナノチューブの水性分散液を用い、一般的なサイジング糊付け手法でカーボンナノチューブを付着した。詳しくは、ポリエステル加工糸を分散液に浸漬する際に、微振動させた糸ガイドを通して、200Hzの微振動を糸に与え、次いで、170℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した90dtexの導電繊維を得た。
【0114】
(ii)前記(2)で得られた導電繊維におけるカーボンナノチューブの付着量を前記方法で測定したところ、付着量は導電繊維1g当たり0.032gであった。電気抵抗値は3.2×10Ω/cmであり、電気抵抗値の対数の標準偏差は0.82であった。
【0115】
さらに、光学顕微鏡観察により、この導電繊維の表面はすべて実質的にカーボンナノチューブで黒く覆われており、カーボンナノチューブに覆われていない部分は実質的に見当たらず、表面被覆率は100%であった。また、得られた導電繊維断面のSEM観察により、その表面にはカーボンナノチューブを含む樹脂層の厚みが0.2〜0.4μmのほぼ均一な層を形成していることが判明した。さらに、SEM観察の結果、マルチフィラメント糸の繊維間にも均一な導電層が形成されていることが確認できる。
【0116】
(3)織布の作成:
得られた導電繊維を緯糸に配置し、レギュラーポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、56dtex/36フィラメント)を経糸として用い、5/1ツイル組織にて織物を作成した、緯糸の打ち込み本数は112本/インチであった。幅3cmの導電性テープ((株)スリオンテック製、スリオンテープNo.8785)を、織布の経方向と導電性テープの長さ方向を平行にして、織布の緯方向の両端部に貼着して電極とし、電極間14cmの面状発熱体を作成した。20℃雰囲気下で、24Vの交流電圧を印加したところ、20秒後に生地全面が71℃に到達し、その後71℃を維持していた。
【0117】
実施例2
実施例1と同様の経糸、緯糸を用い、平組織にて織布を作成した、緯糸の打ち込み本数は76本/インチであった。幅3cmの導電性テープ((株)スリオンテック製、スリオンテープNo.8785)を、織布の経方向と導電性テープの長さ方向を平行にして、織布の緯方向の両端部に貼着して電極とし、電極間1mの面状発熱体を作成した。20℃雰囲気下で、24Vの交流電圧を印加したところ、20秒後に生地全面が28℃に到達し、その後28℃を維持していた。また、100Vの交流電圧を印加したところ、20秒後に生地全体が48℃に到達し、その後48℃を維持していた。
【0118】
実施例3
実施例1の導電性繊維に対して、バインダー(明成化学(株)製「メイバインダーNS」)を固形成分換算で4重量%含有する処理液を用いて、一般的なサイジング糊付け手法で導電層の上にさらに絶縁層を形成し、94dtexの絶縁コーティング導電繊維を得た。この繊維を用いて丸編み生地を作成し、ウエール方向に切り開いて、コース方向の両端1cm幅を0.1Nのアルカリ液中に浸漬し、絶縁層を除去した。絶縁層を除去した部分に、幅3cmの導電性テープ((株)スリオンテック製、スリオンテープNo.8785)を貼着して電極とし、電極間20cmの面状発熱体を作成した。20℃雰囲気下で、24Vの交流電圧を印加したところ、20秒後に生地全面が36℃に到達し、その後36℃を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の面状発熱体は、各種の分野、例えば、道路などの屋外設備のための用途(例えば、ロードヒーティング、融雪装置、凍結防止装置など)、農業用途(例えば、園芸用マットなど)、建造物の構成要素としての用途(例えば、結露防止や防曇装置、床暖房、壁暖房など)、ベヒクルの内部構成要素としての用途(例えば、電車、自動車などの車輌、航空機などの座席シートなど)、防寒のための身飾品のための用途(例えば、ジャケット、ベスト、ひざ掛けなどの衣料、寝具、靴、カイロ、ホットカーペットなど)などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維を含む編織物で形成された発熱部と、この発熱部を通電するための電極部とで構成された面状発熱体であって、前記導電性繊維が、有機繊維と、この有機繊維の表面を被覆するカーボンナノチューブとを含む面状発熱体。
【請求項2】
カーボンナノチューブの割合が、有機繊維100質量部に対して、0.1〜50質量部である請求項1記載の面状発熱体。
【請求項3】
導電性繊維が、有機繊維と、この有機繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層とで構成され、かつ前記有機繊維の全表面に対する前記導電層の被覆率が60%以上である請求項1又は2記載の面状発熱体。
【請求項4】
有機繊維が、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選択された少なくとも一種の合成繊維で構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項5】
導電性繊維が、単糸繊度11dtex以下のマルチフィラメント糸又は紡績糸である請求項1〜4のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項6】
導電性繊維が、有機繊維に振動を与えながら、カーボンナノチューブを含む分散液中に有機繊維を浸漬して、導電層を有機繊維の表面に付着させた繊維である請求項1〜5のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項7】
導電性繊維の20℃における線電気抵抗値が1×10−1〜1×10Ω/cmである請求項1〜6のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項8】
編織物が、ポリエステル系繊維で構成された経糸と導電性ポリエステル系繊維で構成された緯糸とで構成された織布である請求項1〜7のいずれかに記載の面状発熱体。
【請求項9】
編織物が、電極部との接触部分を除いて、絶縁層で被覆された導電性ポリエステル系繊維で構成された編布である請求項1〜7のいずれかに記載の面状発熱体。

【公開番号】特開2010−192218(P2010−192218A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34432(P2009−34432)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(591045105)クラレリビング株式会社 (21)
【出願人】(598007263)茶久染色株式会社 (1)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】