説明

面発光装置とそれを含む照明装置およびディスプレイ装置

【課題】面発光素子の発光効率を増加させる、面発光素子とそれを含む照明装置およびディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】面発光装置が、中央の肉厚部1bが光の放出方向と同方向に突出しており、外周が被保持部として利用可能な肉薄部1aになっている透明基板1と、透明基板1に積層されている陽極となる透明電極2と、透明電極2と対向する陰極になる金属電極6と、透明電極2と金属電極6とに挟まれている発光層4とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光装置とそれを利用した照明装置およびディスプレイ装置、さらには面発光装置を利用した発光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新しい発光体として、近年、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)に加えて、面発光素子であるEL(Electro-Luminescence)素子が普及している。
【0003】
EL素子を用いた面発光装置はすでに携帯電話やオーディオプレーヤーなどのバックライトや小型ディスプレイとして商品化されている。また、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代わる薄型かつ大型のディスプレイとしても、EL素子を利用したELディスプレイは研究されており、商品化されつつある。
【0004】
さらに、ディスプレイ以外のEL素子の用途として、EL素子の発光する光は目に優しく、発光スペクトルが幅広いため、自然の光に近いということから、照明器具にも適している。
【0005】
図8に、EL素子を利用した照明装置の断面図を示す。EL素子27は、透明基板21上に、光透過性のある透明電極(陽極)22、発光層24、金属電極(陰極)26が順に積層された構成である。さらに好ましくは、透明電極22と発光層24の間には、正孔注入・輸送層23、発光層24と金属電極26の間には、電子注入・輸送層25がそれぞれ設けられている。
【0006】
透明電極22と金属電極26とに電圧を印加すると、透明電極22からの正孔が正孔注入・輸送層23を通過し、発光層24に運ばれる。また、金属電極26からの電子が電子注入・輸送層25を通過し、発光層24に運ばれる。発光層24内において、運ばれてきた正孔と電子が結合し、その際に発生するエネルギーにより光が生じる。発光層24で発光した光は、正孔注入・輸送層23、透明電極22、透明基板21を透過し、外部に放出される。
【0007】
EL素子27は、蛍光灯などの光源とは異なり、面発光が可能で、かつ薄く軽量である。発光層24を構成する有機物の組み合わせを変えることにより、様々な色を発光可能である。さらに、EL素子27を湾曲可能な透明基板21に積層すると、湾曲可能な面発光装置を構成することができる。また、EL素子27は蛍光灯などと異なり、水銀などの有害物質を含まないなどの特徴を有する。
【0008】
しかし、一般的に、EL素子27において発光された光は、外部に放出されるのは全体の約20%のみである。残りの80%は外部に放出されず、利用されない。利用されない光の内訳は、具体的には概ね次のとおりである。発光された光のうちの約20%は透明基板21内に閉じ込められ、40〜50%は発光層24内に閉じ込められる。残りの10〜20%は金属陰極26などに吸収される。
【0009】
図9に示すように、透明基板21内に閉じ込められた光31は、透明基板21内で全反射を繰り返し、少なくとも一部は透明基板21の外周端面から外部に放出される。しかしながら、通常、透明基板21の外周は、EL素子27を光源として照明器具などの筐体内部に組み込むときの被保持部として使用される。図8に示すように、EL素子27を利用した照明装置などでは、保持部材28が透明基板21の外周部を保持することによって、EL素子27を含む面発光装置が筐体内部の所定の位置に保持される。その結果、透明基板21の外周端面からの光31は、保持部材28に遮られて筐体内に閉じ込められ、利用することができない。
【0010】
関連する技術として、透明基板の外周端面に反射板を形成し、外周端面から光が透明基板外へ放出されるのを防ぐことで、EL素子の光を効率よく取り出す方法がある。さらには、図10に示すように、透明基板21の外周端面に角度をつけ、反射板29による反射光を外部に放出しやすくする場合もある。この方法は、透明基板21がEL層27側から外側に向かって面積が大きくなるように、反射板29が形成された外周端面を傾斜させ、外周端面で反射した光を、透明基板21の主平面から放出させることで、光取り出し効率を上げている(特許文献1)。または、透明基板内に光を散乱させる光散乱性部と、光を透過する光透過性開口部を有する透明基板を用いることで、光の散乱、透過を増やし、光の全反射を減らすことで、光取り出し効率を上げる方法がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−119211号公報
【特許文献2】特開2005−050708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の方法では、透明基板21の外周端面における反射光が再び透明基板21内で全反射を繰り返す可能性がある。また、通常、光源としてEL素子27を用いる場合、透明基板21の端部が保持部材28によって保持されて、EL素子27を含む面発光装置が筐体内に組み込まれる。そのため、透明基板21の外周端面に傾斜を付けた場合であっても透明基板21の外周端面における反射光が、保持部材28に遮られてしまう可能性がある。したがって、透明基板21の外周端面における反射光が保持部材28に遮られることなく外部に放出されるためには、外周端面の傾斜角をきちんと調整しなければならない。さらに、照明器具やディスプレイ装置などの機器ごとに保持部材のサイズ、形状が異なる場合があるため、各々の機器ごとに透明基板21の外周端面の傾斜角を変えなければならず、コストがかさんでしまう。
【0012】
また、特許文献2の方法は、透明基板に光散乱性部や光透過性開口部を形成するために、微細な加工を多く施さねばならず、手間がかかり、かつコストがかさんでしまう。
【0013】
本発明の目的は、上記課題の面発光装置の発光効率を上げるためにはコストがかかり、構成が複雑であるという問題を解決する、面発光装置とそれを含む照明装置およびディスプレイ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、中央の肉厚部が光の放出方向と同方向に突出しており、外周が被保持部として利用可能な肉薄部になっている透明基板と、透明基板に積層されている陽極となる透明電極と、透明電極と対向する陰極になる陰電極と、透明電極と陰電極とに挟まれている発光層とを有する、面発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、透明基板の中央の肉厚部が光の放出方向と同方向に突出しており、外周が被保持部として利用可能な肉薄部になっていることで、発光層からの光を肉厚部の外周端面からも外部に放射できるため、面発光装置の発光効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0017】
図1は、本発明に係る本発明の面発光装置を含む照明装置の実施形態の一例の概略構成図を示したものである。
【0018】
EL素子7は、透明基板1上に、透明電極2、正孔注入・輸送層3、発光層4、電子注入・輸送層5、陰電極6が順に積層された構成である。透明基板1はガラスや合成樹脂などの光透過性を有する材料からなる。透明電極2は、光透過性の高いITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)を、真空蒸着により透明基板1上に蒸着させたものである。金属電極6は、主にアルミニウムからなる。発光層4は有機材料からなる有機EL(エレクトロルミネッセンス)層である。正孔注入・輸送層3および電子注入・輸送層5は、例えば金属錯体などからなる。また、正孔注入・輸送層3は光透過性を有している。
【0019】
このEL素子7の発光原理について説明する。透明電極2が発生した正孔が正孔注入・輸送層3に注入されて輸送され、一方、金属電極6からの電子が電子注入・輸送層5に注入されて輸送される。そして、発光層4において、正孔注入・輸送層3から送られてくる正孔と、電子注入・輸送層5から送られてくる電子が結合し、その際に発生するエネルギーにより発光が生じる。
【0020】
図2に示す、本発明に係る実施形態の面発光装置の一例では、透明基板1が、光の放出方向に向かって突き出る肉厚部1bと、それ以外の肉薄部1aからなる。肉厚部1bは透明基板1の中央に位置し、肉薄部1aは透明基板1の外周に位置しており、この肉厚部1bと肉薄部1aとの境界には段部Sが構成されている。また、図2には、この面発光装置において実際にEL素子7を発光させた場合に、発光層4が発光した光がどのように透明基板1から放出するのかの一例を示している。この例で示される光の経路は、透明基板1内で全反射する場合についての例である。また、わかりやすいように、透明基板1の下面中央部から光が入射した場合の一例のみを示す。
【0021】
発光層4から正孔注入・輸送層3および透明電極2を介して透明基板1の下面の中央に入射した光の一部(図示せず)は、そのまま透明基板1の肉厚部1bを透過して外部に放射されるが、一部の光11は、透明基板1内で全反射を繰り返し、図1の場合と同様に、透明基板1の最外周の端面、すなわち肉薄部1aの外周端面Aから放出され、保持部材8に向かっている。しかし、同様に透明基板1の下面に入射した別の光12は、透明基板1内で全反射を繰り返しながら進んだ後に、透明基板1の段部S、具体的には保持部材8に覆われていない肉厚部1bの外周端面Bから外部に放出される。この光12は、透明基板1から外部に放出された後に、保持部材8に取り込まれないため、EL素子を含む面発光装置の光量増加に寄与している。
【0022】
図3を図8、9と対比しながら、さらに本実施形態の特徴を説明する。
【0023】
図3は、図2に示した実施形態の一例の透明基板の端部を拡大した図であり、図8は関連技術である照明装置を示す図であり、図9はその平板状の透明基板の端部を拡大した図である。
【0024】
上述したとおり、関連技術の照明装置では、発光した光31の一部が平板状の透明基板21内で全反射を繰り返し、平板状の透明基板の外周端面Aから外部に放射される。しかし、この放射された光31は、照明装置の保持部材28に取り込まれてしまい、利用できない。
【0025】
本発明では、透明基板1の外周に、照明装置の保持部材8に保持される肉薄部1aの外周端面Aのほかに、それよりも内側に位置して保持部材8に保持されない肉厚部1bの外周端面Bが設けられている。発光した光11は、関連技術と同じように、端面Aから放射され、照明装置の保持部材8に取り込まれる。しかし、別の光12は、肉厚部1bの外周端面Bから外部に放射される。肉厚部1bの外周端面Bから放射された光34は、照明装置の保持部材8に取り込まれることはない。
【0026】
このように、本発明によると、肉厚部1bと肉薄部1aの境界に段部Sを構成することによって、照明装置の保持部材8に保持される端面以外に、保持部材8に保持されない位置に端面を1つ、あるいは複数設け、面発光装置の光量を増加させることができる。これは、透明基板1の主平面から光を外部に放射するのみならず、保持部材8に覆われない位置に新たに設けた肉厚部1bの外周端面Bからも光を外部に放射できるからである。
【0027】
実際に、関連技術のように、平板状の透明基板21を用いた場合と、透明基板1が光の放出方向に向かって突き出るような肉厚部1bと、その外側に位置して被保持部となる肉薄部1aとを有し、段部Sが形成された場合の、EL照明装置が外部に照射する光の量(光束量)の違いを測定した。図4にその測定を行った際の発光スペクトルを示す。電源としてKEITHLEY社製ソースメータ2425を使用した。測定時の電流は20mA、電圧は3.5Vである。また、光束量の測定には、浜松ホトニクス社製PMA−11を使用した。
【0028】
図4から、関連技術の平板状の透明基板21を用いたEL照明装置よりも、肉厚部1bと肉薄部1aとを有し、段部Sが形成された透明基板1を用いたEL照明装置の方が、すべての波長において、発光強度が同等以上になっていることがわかる。光束量は、平板状の透明基板21を用いたEL照明装置よりも、肉厚部1bと肉薄部1aとを有し、段部Sが形成された透明基板1を用いたEL照明装置の方が、28%増加した。
【0029】
透明基板1は、図5に示すように透明基板1の端部に曲率を持たせたり、テーパー処理を施したりすることで、透明基板1の肉厚部1bの外周端面から放出される光の配光を制御することができる。
【0030】
また、必ずしも一枚の平板を加工して肉厚部1bと肉薄部1aとを形成する必要はなく、大きさの異なる平板を積層することによって肉厚部1bと肉薄部1aを形成してもよく、透明基板1の表面に、透明基板1内での光の全反射を減らすために、光の錯乱処理を施してもよい。さらには、図6、7で示すように、複数の段部Sを有する階段形状を形成していてもよい。
【0031】
図7に示す、本発明に係る実施形態の面発光装置の他の一例では、透明基板1が、2段の段部Sを有する階段形状を有している。この構成では、透明基板1の下面の中央から入射された光13は、透明基板1内で全反射を繰り返し、肉薄部1aの外周端面Aから放射され、照明装置の保持部材8に取り込まれる。しかし、同様に入射された別の光14、15は、透明基板1内で全反射を繰り返しながら進んだ後に、透明基板1の肉厚部1bの複数の端面Bから外部に放射される。これらの光14、15は、外部に放射された後に、保持部材8に取り込まれないため、EL照明装置としての光量増加に寄与している。
【0032】
なお、以上の説明ではEL素子を含む面発光装置を筐体内に保持している照明装置を例に挙げた。この照明装置は電子機器等のバックライトとして用いられるものであっても、屋内または屋外の照明器具として用いられるものであってもよい。また、図示しないが、前記したのと同様な保持部材を有する筐体を含むディスプレイ装置を本発明の面発光装置を利用して構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る実施形態の照明装置の一例を示した概略構成の断面図である。
【図2】図1における実施形態の照明装置の光の経路を一例を示す図である。
【図3】図2の透明基板の端部付近を拡大した図である。
【図4】関連技術の平板状の透明基板を用いた照明装置と、本発明に係る段部を有する透明基板を用いた照明装置の発光スペクトルを示した図である。
【図5】本発明に係る実施形態の他の照明装置の一例を示した概略構成であり、端部に曲率をもたせた透明基板を用いた照明装置の断面図である。
【図6】本発明に係る実施形態の他の照明装置の一例を示した概略構成であり、複数の段部を有する透明基板を用いた照明装置の断面図である。
【図7】本発明に係る実施形態の他の照明装置の一例の概略構成の断面と、光の経路の一例を示した図である。
【図8】関連技術の照明装置の概略構成の断面と、光の経路の一例を示した図である。
【図9】図8の透明基板の端部を拡大した図である。
【図10】平板状の透明基板の端面に角度をつけた照明装置の端部付近の断面を拡大して示し、かつEL素子を発光させたときの光の経路の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 透明基板
1a透明基板肉薄部
1b透明基板肉厚部
2 透明電極(陽極)
3 正孔注入・輸送層
4 発光層
5 電子注入・輸送層
6 金属電極(陰極)
7 EL素子
8 保持部材
11〜15光の経路
21透明基板
22透明電極(陽極)
23正孔注入・輸送層
24発光層
25電子注入・輸送層
26金属電極(陰極)
27EL素子
28保持部材
29反射板
31〜32光の経路
A〜B外周端面
S 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央の肉厚部が光の放出方向と同方向に突出しており、外周が被保持部として利用可能な肉薄部になっている透明基板と、前記透明基板に積層されている陽極となる透明電極と、前記透明電極と対向する陰極になる陰電極と、前記透明電極と前記陰電極とに挟まれている発光層とを有する、面発光装置。
【請求項2】
前記透明基板の前記肉厚部と前記肉薄部との境界に段部が構成されている、請求項1に記載の面発光装置。
【請求項3】
前記透明基板の前記段部が角度90度以下の端縁部を有している、請求項2に記載の面発光装置。
【請求項4】
前記透明基板の前記段部が曲率を持っている、請求項2に記載の面発光装置。
【請求項5】
前記透明基板の前記肉厚部と前記薄肉部の境界に複数の前記段部からなる階段形状が構成されている、請求項2から4のいずれか1項に記載の面発光装置。
【請求項6】
前記肉厚部と前記肉薄部との境界の前記段部の形成は、それぞれ大きさの異なる透明基板を積層することによって形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の面発光装置。
【請求項7】
前記積層を形成するために使用する前記透明基板の表面に、光の散乱処理が施されている、請求項6に記載の面発光装置。
【請求項8】
前記発光層がエレクトロルミネッセンス層である、請求項1から7のいずれか1項に記載の面発光装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の面発光装置と、前記透明基板の肉薄部をつかんで保持する保持部材とを有する、照明装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の面発光装置と、前記透明基板の肉薄部をつかんで保持する保持部材とを有する、ディスプレイ装置。
【請求項11】
透明基板と、前記透明基板に積層されている陽極となる透明電極と、前記透明電極と対向する陰極となる陰電極と、前記透明電極と前記陰電極に挟まれている発光層とを有する面発光装置を用いる光の放射方法であって、前記透明電極からの正孔と前記陰極からの電子を前記発光層内で結合させて、その結合エネルギーによって発光させ、前記発光層からの光を前記透明電極と前記透明基板の肉厚部とを介して外部に放射させるとともに、前記透明基板内で反射された光を、前記肉厚部と前記透明基板外周の肉薄部との境界に構成された段部から外部に放射させる、光の放射方法。
【請求項12】
前記透明基板内で反射された光の少なくとも一部を、前記段部の一部を構成する前記肉厚部の外周端面から外部に放射させる、請求項11に記載の光の放射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−49978(P2010−49978A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214119(P2008−214119)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】