説明

面発光装置

【課題】面発光素子で発した光を面発光装置の側方に放射させることができる面発光素子とそれを用いた面発光装置を提供する。
【解決手段】本発明の面発光装置は、多角形の透明基板1と、透明基板1の一方の面上に配置されている発光素子7であって、陽極となる透明電極2、透明電極2と対向する陰極になる陰電極6、および透明電極2と陰電極6とに挟まれている発光層4を含む積層体である発光素子7とを有する。また、透明基板1は、各辺の長さと厚さの関係が、透明基板1の厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上10以下となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光素子、特にEL(Electro−Luminescence)素子を利用した面発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新しい発光体として、近年、LED(Light Emitting Diode)素子に加えて、面発光素子であるEL(Electro−Luminescence)素子が普及している。
【0003】
EL素子を用いた面発光装置はすでに携帯電話やオーディオプレーヤーなどのバックライトや小型ディスプレイとして商品化されている。また、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代わる薄型かつ大型のディスプレイとしても、EL素子を利用したELディスプレイは研究されており、商品化されつつある。
【0004】
さらに、ディスプレイ以外のEL素子の用途として、EL素子の発光する光は目に優しく、発光スペクトルが幅広いため、自然の光に近いということから、照明器具にも適している。
【0005】
面発光装置は透明基板上にEL素子が設けられたものであり、EL素子は、透明基板上に、光透過性のある透明電極(陽極)、発光層、金属電極(陰極)が順に積層された構成である。
【0006】
一般的に、EL素子において発光された光のうち、外部に放出されるのは全体の約20%のみである。残りの80%は外部に放出されず、利用されない。利用されない光の内訳は、具体的には概ね次のとおりである。発光された光のうちの約20%は透明基板内に閉じ込められ、40〜50%は発光層内に閉じ込められる。残りの10〜20%は金属電極などに吸収される。
【0007】
透明基板で光が閉じ込められる原因は、透明基板の屈折率と面発光装置の外部の媒体、例えば空気との屈折率の違いが大きいことにより、EL素子から放射される光が透明基板の外部へ放射されずに反射してしまうためである。そこで、関連技術の一例として、透明基板の、EL素子が設けられていない側の面に、透明基板の屈折率と面発光装置の外部の媒体の屈折率との中間の屈折率を有する層を設けることで、光の反射を減らし、面発光装置の外部へ放射する光を増やす方法がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−327698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
LED素子を有する発光装置を照明器具として使用する場合、LED素子は指向性が強いため、ダウンライトやスポットライトなどに特に適している。一方、面発光素子であるEL素子を有する面発光装置を照明器具として使用する場合、EL素子はLED素子ほど強い指向性がないため、シーリングライトなど、ある程度の広い範囲を照らす照明器具に特に適している。しかしながら、EL素子は、LED素子ほど強い指向性はないが、ランバーシャンに近い配光分布を持ち、EL素子を有する面発光装置を照明器具に用いる場合、照明器具の側方から放射される光が多くない。そのため、EL素子を有する照明器具を部屋の天井に貼り付け、主照明として用いると、部屋の上部が暗くなっていた。人は部屋全体が明るく見えたとき、その部屋が明るいと感じる感覚を有する。そのため、部屋の天井に貼り付けて使用するEL素子を有する照明器具は、実際に照明器具の外に放射される光量に応じた明るさを感じさせることができないという問題があった。そのため、EL素子で発する光を面発光装置の側方に向けて放射させることが求められるが、特許文献1などで開示されている方法は、EL素子からの光を透明基板の平面、つまり面発光装置の正面から効率よく放射させることはできるが、面発光装置の側方に光を放射させることは困難である。
【0010】
本発明の目的は、上述した課題である、面発光素子で発した光を面発光装置の側方に放射させるのは困難である、という課題を解決する、面発光素子とそれを用いた面発光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の面発光装置は、多角形の透明基板と、透明基板の一方の面上に配置されている発光素子であって、陽極となる透明電極、透明電極と対向する陰極になる陰電極、および透明電極と陰電極とに挟まれている発光層を含む積層体である発光素子とが設けられている。さらに、透明基板は、各辺の長さと厚さの関係が、透明基板の厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上10以下となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、面発光素子で発した光を透明基板の側方に放射させることができるため、面発光装置の正面だけでなく側方に放射される光の強度を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る面発光素子を含む面発光装置の実施形態の一例の概略構成図である。
【図2】透明基板が薄い場合のEL素子から放射された光の経路を示す図である。
【図3】透明基板が厚い場合のEL素子から放射された光の経路を示す図である。
【図4】透明基板の厚さと長さを変化させたときの光線追跡法によるシミュレーションで求めた面発光装置の光の配光分布を示す図である。
【図5】本発明の面発光装置を照明器具として使用する場合の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0015】
図1は、本発明に係る面発光素子を含む面発光装置の実施形態の一例の概略構成図を示したものである。
【0016】
本発明の面発光装置は、透明基板1とEL素子7とからなる。本発明の面発光装置に使用される発光素子であるEL素子7は、透明基板1の一方の面上に、透明電極(陽極)2、発光層4、金属電極(陰極)6が順に積層された積層体の構成であり、透明基板1から、発光層4の光を出射させる面発光装置である。
【0017】
透明基板1は、例えばガラスで構成されている。陽極となる透明電極2は、例えば光透過性の高いITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)などから成る。陰極となる金属電極6は、主にアルミニウムからなる。発光層4は有機材料からなるEL(Electro−Luminescence)層である。
【0018】
このEL素子7の発光原理について説明する。透明電極2で発生した正孔が発光層4に輸送され、一方、金属電極6で発生した電子が発光層4に輸送される。そして、発光層4において、透明電極2から送られてくる正孔と金属電極6から送られてくる電子が結合し、その際に発生するエネルギーにより発光が生じる。この発光した光が、透明基板1を通過し、主に透明基板1の平面から外部へ放射される。
【0019】
この面発光装置を照明器具などの用途として使用する場合、上述のように、EL素子7で発した光を透明基板1の平面、つまり面発光装置の正面からだけではなく、面発光装置の側方から放射させることが望ましい。
【0020】
本発明者は、EL素子7からの光が、主に透明基板1の平面から放射されるのは、透明基板1が薄いことに起因していると考えた。そこで、透明基板1に適度な厚みを持たせることで、透明基板1の側面積を大きくし、EL素子7からの光を透明基板1の側面からも放射することが可能になり、面発光装置の側方へ光を放射させることができると考えた。
【0021】
そこで本発明では、透明基板1の側面積を大きくする、すなわち、厚さを厚くしている。図2および図3に、EL素子7からの光がどのように透明基板1から外部に放出されるのかの一例を示す。図2は透明基板1が薄い場合、図3は透明基板1が厚い場合である。
【0022】
図2に示すように、透明基板1が薄い場合は、EL素子7から放射された光の一部は、透明基板1と金属電極6との間で反射を繰り返しながら進み、透明基板1の側面から放射される。図3に示すように、透明基板1が厚い場合は、EL素子7から放射された光の一部は、透明基板1と金属電極6との間で薄い透明基板1の場合より少ない数の反射を繰り返しながら進み、透明基板1の側面から放射される。金属電極6は、光を吸収する特性を有するため、金属電極6で光が反射するたびに、光が吸収され、光の強度が低下してしまう。したがって、透明基板1の厚さを厚くすることで、光の反射の回数を減らすことができ、光の強度の低下を抑制することができる。
【0023】
また、本発明では、透明基板1の厚さを厚くすることから、透明基板1の機械的強度が高くなるため、面発光装置を輸送しているときなどに損傷が生じにくくなる。
【0024】
このような考察の下に本発明者が実験を繰り返した結果、透明基板1が正方形の場合、一辺の長さをa、厚さをbとして、0.5≦a/4b≦10を満たすようにすると、透明基板1の平面からだけでなく、側面からも外部に光が放射され、特に本発明の面発光素子を有する面発光装置を照明器具として使用する場合に適した配光分布となることがわかった。
【0025】
図4は、正方形状の透明基板1の長さと厚さを変化させたときの光線追跡法によるシミュレーションで求めた面発光装置の光の配光分布を示す図である。横軸方向が透明基板1に対して水平方向、縦軸方向が透明基板1に対して垂直方向の配光を示している。等間隔に刻まれた同心円は相対強度を示すものであり、1つの目盛の間隔は0.01である。また、a/4bが、0.3、0.4、0.5、0.75、1.5、2.75、9.2、22.3の8通りの面発光装置の配光分布を示している。
【0026】
a/4bが0.3から0.4では、透明基板1に対して垂直方向に放射される光の強度よりも、透明基板1に対して垂直方向から25°付近から45°付近の範囲に放射される光の強度の方が強いことがわかる。
【0027】
a/4bが0.5から9.2では、透明基板1に対して垂直方向から45°以上の範囲にほぼ均等の強度で光が放射されていることがわかる。
【0028】
a/4bが22.3では、透明基板1に対して垂直方向から34°付近に放射される光の強度は強いが、34°付近よりも大きい範囲になると、急に放射される光の強度が弱くなっている。
【0029】
以上のことより、a/4b<0.5のときは、透明基板1に対して垂直方向、つまり正面方向への光の強度よりも、水平方向、つまり側方への光の強度が強くなっている。この場合、面発光装置を主照明として使用すると、部屋の上部が明るく照らされることになり、部屋の中央部は暗く感じてしまうようになる。そのため、a/4b<0.5となる面発光装置は、主照明として使用することはあまり好ましくない。また、a/4b≧22.3のときは、透明基板1に対して垂直方向、つまり正面方向への光の強度が強く、水平方向、つまり側方への光の強度が弱いため、面発光装置を主照明として使用しても部屋の上部を明るくすることはできない。そのため、図4に示す配光分布を考慮すると、透明基板1の一辺の長さをa、厚さをbとすると、0.5≦a/4b≦10となる関係を満たせば、面発光装置の正面に放射される光の強度を低下させることなく、側方に向けても十分な強度を有する光を放射させることが可能となる。また、透明基板1が厚くなると光の取り出し効率が向上する範囲があり、この点も考慮すると、0.5≦a/4b≦5の範囲にすることがより好ましい。
【0030】
なお、1枚の透明基板1が、0.5≦a/4b≦10の関係を満たすようにしてもよいが、複数の薄い透明な板を光学接触した状態で積層させ、その積層体が0.5≦a/4b≦10の関係を満たすようにしてもよい。
【0031】
透明基板1が正方形でない場合、例えば長方形の場合、長辺の長さをa’、短辺の長さをa’’、厚さをbとすると、0.5≦a’/4b≦10、0.5≦a’’/4b≦10の2つの関係を満たすようにする。つまり、多角形の場合、各辺を4bで割ったときに、0.5以上10以下となるような関係をすべて満たすようにすればよい。また、透明基板1が円のときは、直径をcとし、厚さをbとすると、0.5≦c/4b≦10を満たすようにすれば良い。楕円のときは、長辺の長さをd、短編の長さをd’とし、厚さをbとすると、0.5≦d/4b≦10、0.5≦d’≦10の2つの関係を満たすようにすればよい。
【0032】
透明基板1としては、上述のガラスのほかに、アクリル、ポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)などが挙げられる。
【0033】
本発明に係る面発光装置は、図5に示すように、筐体8とEL素子7を設けた透明基板1とを光学接触させ、さらに筐体8とコンバータ回路、インバータ回路および点灯回路などを有する電源部9とを一体化することで、取り扱いが簡便な照明器具とすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 透明基板
2 透明電極(陽極)
4 発光層
6 金属電極(陰極)
7 EL素子(発光素子)
8 筐体
9 電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形の透明基板と、前記透明基板の一方の面上に配置されている発光素子であって、陽極となる透明電極、前記透明電極と対向する陰極になる陰電極、および前記透明電極と前記陰電極とに挟まれている発光層を含む積層体である前記発光素子とを有する面発光装置において、
前記透明基板は、各辺の長さと厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上10以下となる、面発光装置。
【請求項2】
前記透明基板は、各辺の長さと厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となる、請求項1に記載の面発光装置。
【請求項3】
円形の透明基板と、前記透明基板の一方の面上に配置されている発光素子であって、陽極となる透明電極、前記透明電極と対向する陰極になる陰電極、および前記透明電極と前記陰電極とに挟まれている発光層を含む積層体である前記発光素子とを有する面発光装置において、
前記透明基板は、直径と厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、直径を4bで割ると、0.5以上10以下となる、面発光装置。
【請求項4】
前記透明基板は、直径と厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、直径の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となる、請求項3に記載の面発光装置。
【請求項5】
楕円形の透明基板と、前記透明基板の一方の面上に配置されている発光素子であって、陽極となる透明電極、前記透明電極と対向する陰極になる陰電極、および前記透明電極と前記陰電極とに挟まれている発光層を含む積層体である前記発光素子とを有する面発光装置において、
前記透明基板は、長辺と短辺と厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、長辺を4bで割ると、0.5以上10以下となり、また短辺を4bで割ると0.5以上10以下となる、面発光装置。
【請求項6】
前記透明基板は、長辺の長さと短辺の長さと厚さの関係が、前記透明基板の厚さをbとし、長辺を4bで割ると、0.5以上5以下となり、また短辺を4bで割ると、0.5以上5以下となる、請求項5に記載の面発光装置。
【請求項7】
前記透明基板は薄い透明な板を光学接触で積層したものである、請求項1から6のいずれか1項に記載の面発光装置。
【請求項8】
前記透明基板は、ガラス、アクリル、ポリカーボネート、またはポリエチレンテレフタレートで構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の面発光装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の面発光装置が筐体内部に設けられ、前記面発光装置と前記筐体の内面とが光学接触により接しており、前記筐体には電源部が設けられている、照明器具。
【請求項10】
前記電源部には、インバータ回路、コンバータ回路、および点灯回路が設けられている、請求項9に記載の照明器具。
【請求項11】
透明基板と、前記透明基板に積層されている陽極となる透明電極と、前記透明電極と対向する陰極となる陰電極と、前記透明電極と前記陰電極に挟まれている発光層とを有する面発光装置を用いる光の放射方法であって、
前記透明電極からの正孔と前記陰電極からの電子を前記発光層内で結合させて、その結合エネルギーによって発光させ、前記発光層からの光を前記透明基板の平面から外部に放射させるとともに、前記透明基板を厚くし、前記透明基板で反射した光が前記陰電極で反射するまでの、前記基板に対して水平方向の移動距離を増やすことで、前記透明基板から光が放射するまでの前記陰電極での反射の回数を減らし、前記透明基板の側面から強度の強い光を外部に放射させる、光の放射方法。
【請求項12】
前記透明基板として、各辺の長さと厚さの関係が、厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上10以下となる多角形の前記透明基板を使用し、前記発光層からの光を前記透明基板の平面から外部に放射させるとともに、前記透明基板内で反射した光を前記透明基板の側面から外部に放射させる、請求項11に記載の光の放射方法。
【請求項13】
前記透明基板として、各辺の長さと厚さの関係が、厚さをbとし、各辺の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となる多角形の前記透明基板を使用する、請求項12に記載の光の放射方法。
【請求項14】
前記透明基板として、直径と厚さの関係が、厚さをbとし、直径を4bで割ると、0.5以上10以下となる円形の前記透明基板を使用し、前記発光層からの光を前記透明基板の平面から外部に放射させるとともに、前記透明基板内で反射した光を前記透明基板の側面から外部に放射させる、請求項11に記載の光の放射方法。
【請求項15】
前記透明基板として、直径と厚さの関係が、厚さをbとし、円周の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となる円形の前記透明基板を使用する、請求項14に記載の光の放射方法。
【請求項16】
前記透明基板として、長辺の長さと短辺の長さと厚さの関係が、厚さをbとし、長辺の長さを4bで割ると、0.5以上10以下となり、短辺の長さ4bで割ると、0.5以上10以下となる楕円形の前記透明基板を使用し、前記発光層からの光を前記透明基板の平面から外部に放射させるとともに、前記透明基板内で反射した光を前記透明基板の側面から外部に放射させる、請求項11に記載の光の放射方法。
【請求項17】
前記透明基板として、長辺の長さと短辺の長さと厚さの関係が、厚さをbとし、長辺の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となり、短辺の長さを4bで割ると、0.5以上5以下となる楕円形の前記透明基板を使用する、請求項16に記載の光の放射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−34871(P2011−34871A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181489(P2009−181489)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】