説明

靭皮繊維のパルプ化方法及びその装置

【課題】工程数も少なく短時間でしかも薬品を使用しなくてもよく、且つ、装置も簡単な構造とした靭皮繊維のパルプ化方法及び該方法を具体化した装置を提供すること。
【解決手段】靭皮繊維を含む原料を水に浸漬状態で減圧して抜気して吸水させてから浸漬状態を解除しその後蒸気にて湿潤状態を維持しつつ150℃以上に昇温してその昇温した温度を所定時間保持した後冷却してパルプを得ることを特徴とする靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、和紙などの紙の原料である靭皮繊維のパルプ化方法及び該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、和紙を製造する場合においては、その原料となるコウゾ、三椏、ガンピ等の皮である靭皮繊維をパルプ化するに当っては、図4に示すように、まず、原料を水に一昼夜浸漬したものに乾燥原料重量に対して20%の苛性ソーダを加えて2〜3時間蒸煮し、その後、煮沸を止めて自然冷却する。そして、この冷却された靭皮繊維を濾過して苛性ソーダを含んだ液から取り除いて、更に1日かけて水洗いして苛性ソーダを念入りに除去する。このようにして、未漂白パルプが出来上がり、これを抄いて和紙を製造している。
【0003】
【非特許文献1】越前和紙:福井県和紙工業組合のホームページ中の「越前和紙の特徴」の中に掲載有。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来技術によると、原料の靭皮繊維の水への浸漬から未漂白パルプの出来上り迄、約2日間も要するという問題点がある。又、加えて20%の苛性ソーダという高濃度のアルカリを使用しなければならなく、薬品の負荷量が多く、コストがかかるのに加えて、その洗浄に要する手間や設備もかかるという問題点がある。
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、工程数も少なく短時間でしかも薬品を使用しなくてもよく装置も簡単な靭皮繊維のパルプ化方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段とするところは、請求項1においては、靭皮繊維を含む原料を水に浸漬状態で減圧して抜気して吸水させてから浸漬状態を解除しその後蒸気にて湿潤状態を維持しつつ150℃以上に昇温してその昇温した温度を所定時間保持した後冷却してパルプを得る靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法としたところにある。
【0006】
請求項2においては、前記靭皮繊維を含む原料が、あらかじめ1〜5%のアルカリ水に浸漬して水切りしたものであることにある。
【0007】
請求項3においては、開閉自在な耐圧蓋を有する耐圧缶体と、該耐圧缶体内に給排水する給排水管と、該耐圧缶体内に蒸気を給排する蒸気給排管と、前記耐圧缶体内に出入自在で且つ、内部に靭皮繊維を含む原料を収納出来る流体通過可能な円筒部を有する籠体とを具備することを特徴とする靭皮繊維を含む原料のパルプ化装置を具備することとしたことにある。
【0008】
請求項4においては、請求項3の発明における籠体が、前記円筒部を外周に取外し自在に嵌め込みできる底板と、該底板に下端を固定され上端に引掛部を有する吊り棒と、靭皮繊維を含む原料を収納した前記周壁部の内部上方に被せる落し蓋と、を具備することにある。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、靭皮繊維の原料を水に浸漬状態で減圧して原料である靭皮繊維内部の空気を抜き取って十分に吸水させてから、浸漬した水を抜き取り、水蒸気圧で湿潤状態を維持しつつ150℃以上の高温になるまで昇温してから、所定時間その昇温状態を保持する。これによって、靭皮繊維中の非晶性多糖であるペクチンが加水分解されて低分子化されて水溶化し脱ペクチン化が図られ、未漂白パルプが得られるのである。これらの一連の作業は全て合わせても1時間程度の短時間で行えるという利点がある。又、薬品を使用しないので経済的でありしかも製造装置に耐薬品性部材を使用しなくてもよいことから製造工程設備が安価となる利点がある。
【0010】
請求項2の発明によると、靭皮繊維の原料を、あらかじめ1〜5%のアルカリ水に浸漬して弱アルカリとして水切りしたものであるので、より効率よくパルプ化を図ることが出来る。
【0011】
請求項3の発明によると、上記した靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法を具体化する装置であり、これによってパルプを得ることができる。又、耐圧缶体内に出入自在な籠体に原料の靭皮繊維を入れることができるので、靭皮繊維の出入が簡単である。更に、籠体には蒸気や水などの流体が通過可能となっているので、耐圧缶体に送り込まれた蒸気や水が原料の靭皮繊維とその周囲から全体に過不足なく全体に行き渡るように直ちに接触して、作業時間の短縮化と均一化を図ることができる。更に、耐圧缶体を使用しているので、高圧蒸気を使用することができ150℃以上の昇温が容易である。更に加えて、装置の製作費用が比較的安価である。
【0012】
請求項4の発明によると、前記籠体の構成を前記円筒部と、底板と、吊り棒と、落し蓋とを具備する構成としたので、原料を入れる際には、吊り棒の引掛部に持ち上げロープのフックを引掛けて持ち上げて耐圧缶体内外へ移動できるので原料の円筒部内への投入及び取出し作業が容易である。又、円筒部には底板の外周に取外し自在に嵌め込みしただけであるので、パルプ化された原料を取り出す時には、円筒部のみ持ち上げるだけでその内部の原料は四方に分散してくずれ落ちて容易に排出できる。更に、原料を円筒部に詰め込んでから落し蓋をしておくと、水に浸漬した時には原料が浮き上がることなく、その結果、減圧時に全体から漏れなく内部の空気を抜き取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明を実施する最良の形態について以下図に基づいて説明する。
この発明の靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法は、図1に示すように、原料Aを水に浸漬状態で減圧吸水させてから昇温し、この昇温状態を所定時間保持した後冷却して未漂白パルプを得ることにある。図2、図3に示すこのパルプ化方法に使用する装置についてまず説明する。
【0014】
靭皮繊維を含む原料のパルプ化装置1は、図2に示すように、耐圧蓋2を有する耐圧缶体3と、この耐圧缶体3内に給排水する給排水管4と、該耐圧缶体3内に蒸気を給排する蒸気給排管5と、該耐圧缶体3に空気を給排する給排気管6と、前記耐圧缶体3内に出入自在に収納される籠体7を主な構成とする。
前記耐圧缶体3は、内部の圧力が上昇しても十分に耐え得る強度を有するものであり、その上方には内部に入れてある前記籠体7が出入自在となるように前記耐圧蓋2が取付けられている。又、内部の下方には前記籠体7を載置できる載台8が設けられている。
【0015】
前記給排水管4は、その一端は耐圧缶体3の底部と接続されているが他端側は図外の種々のバルブ等を介して給水源のポンプ等に接続されている。又、前記蒸気給排管5もその一端が耐圧缶体3の胴部と接続されているが他端側は図外の種々のバルブ等を介して蒸気発生源等に接続されている。この実施例では蒸気供給管5aと蒸気排出管5bを別々に設けているが、同一管であってもよい。更に、この耐圧缶体3には、必要に応じて補給水管などが設けられていると共に、給水の上下限を感知するリミットセンサー、耐圧缶体3内、圧力計、温度計などが設けられている。
【0016】
前記籠体7は、網目やパンチング穴などが形成されて液体や気体の流体が通過自在な円筒部9と、この円筒部9の下端縁を外周に嵌め込み載置できる底板10と、該底板10の中心部に下端がねじ止めされ上部に引掛部11を有する吊り棒12と、原料Aを収納した前記円筒部9の内部上方に被せる落し蓋13とを具備している。この落し蓋13は円筒部9と同様に網目やパンチング穴が形成されて流体が通過自在となっていると共に原料Aが浮き上がらないようにするための別の役割を果すものであるから、ある程度の重要のあるものからなっている。又、中心部には吊り棒12を通す中心穴を有している。
【0017】
上記のパルプ化装置1を用いて、原料Aをパルプ化する方法について説明する。
まず、和紙の原料となるコウゾ、三椏、ガンピ等の植物の靭皮繊維である原料Aをあらかじめ耐圧缶体3から外部へ取り出している籠体7の円筒部9内へ入れ、上方から落し蓋13をする。勿論のこと耐圧缶体3の中に籠体7が収納されている時は、耐圧蓋2を開けて耐圧缶体3の上方から原料Aを投入してもよい。そして、吊り棒12の引掛部11に図外のクレーン等によって上昇可能なロープBのフックCを引掛けて持ち上げ移動し、耐圧缶体3内の載台8上に籠体7を載置する。フックCを外して耐圧缶体3内からロープBとフックCを排除してから耐圧蓋2を閉じる。この状態で給排気管6を開放して給排水管4から水を耐圧缶体3の内部へ供給して原料A及び落し蓋13全部が水に浸漬するようにする。このとき、図外のリミットセンサーによって給水が所定水位まで上昇したことを感知して自動的に給水が停止するようにしてもよい。落し蓋13によって原料Aが水面上へ突出することなく全て浸漬した。この状態が整った段階で、給排気管6の給排を切り換えて図外の吸引装置によって耐圧缶体3内部を吸引し耐圧缶体3内を減圧にすると、原料Aの組織内に含まれていた空気が水中に排出され代わりに水が入り込む。その後給排気管6を開放し給排水管4のバルブを操作して耐圧缶体3内の水を排出する。
【0018】
次に、蒸気供給管5aを通じて、耐圧缶体3内へ図外の蒸気供給装置から圧力蒸気を圧送する。これによって、耐圧缶体3内の温度は昇温し、湿潤状態を維持しつつ150℃以上の温度を5〜30分間保持するようにする。高温状態に置く時間は温度の高低によって影響を受けるので、一概には規定できないが、概ね150℃では25〜30分程度である。その後、蒸気供給管5aのバルブを閉じてから蒸気排出管5bのバルブを操作して蒸気を抜いて常温までに自然冷却あるいは給排水管4から冷却水を給水してする。この150℃以上の高温状態において、原料Aの組織内中の水は高温水となりイオン積上昇による酸触媒としての機能が発現し、原料A内のペクチンが加水分解され、低分子化され水溶化する脱ペクチン化が図られるのである。このペクチンは非晶性多糖であることから、ポリガラクチュロン酸としての繊維間を接着する役目を果たしていたのが、この脱ペクチン化によって接着の役目を果さなくなって靭皮繊維がうまく解繊されて、パルプ化が図られ未漂白パルプが得られるのである。
【0019】
〔実施例1〕
原料としてコウゾの靭皮繊維(白皮)20kgを先に落し蓋13をしておき、耐圧缶体3の中に入れる。給排水管4から耐圧缶体3の内部に籠体7の落し蓋13より上方に水位が上がるまで給水し耐圧蓋2を閉じて密封してから、給排気管6のバルブを開けて減圧した。このときの真空到達度は常温で8.0kpa(abs)であった。これを10分間継続した。これによって、原料Aの組織内に存在する空気を十分に脱気させ水を吸収させることができた。その後、給排気管6を開放して耐圧缶体3内を常圧に戻して、更に10分間放置して原料A内に更に十分水が浸透されるようにした。
次に、耐圧缶体3に満たされている水を排出してから、蒸気供給管5aのバルブを開けて耐圧缶体3内に蒸気を導入し常温から170℃になる迄約20分間で昇温させ、この170℃の状態を15分間保持した。その後、蒸気供給管5aのバルブを閉め、蒸気排水管5bのバルブを開けて耐圧缶体3から蒸気を排出し、常圧に戻してから給排水管4のバルブを操作して耐圧缶体3内に給水して約5分間冷却した後に排水し処理を終えた。処理の終った原料Aは耐圧蓋2を開けて吊り棒12の引掛部11にフックDをかけてロープBで引き上げて耐圧缶体3外へ取り出してから、落し蓋13を取り外し、円筒部9のみを持ち上げて原料Aを底板9及びその周辺に排出した。この後、この処理の終った原料Aを用いて和紙を抄いた。
このようにして、抄いた和紙は、従来の方法で処理した原料を用いて抄いた和紙と変るところはなかった。
【0020】
〔実施例2〕
前記実施例1の原料としてのコウゾの靭皮繊維(白皮)を、籠体7の中に入れて水に浸漬する前に、木灰が懸濁した水に浸漬して水切りしたものを用いた。このときの懸濁水は3%のアルカリ水であった。このような前処理を施すことで、より効率よくパルプ化を図ることが出来た。なお、この実施例では、木灰を用いたがこれに限定されず、1乃至5%程度の弱アルカリ水であれば、同様の効果を得ることが出来る。
【0021】
なお、以上の説明においては、耐圧缶体を縦型のもので説明したが、横型の耐圧缶体を用いた場合でも同様に適用できるので、この発明の範囲内に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明は上記した通り、和紙の製造には好適に用いることができるのみならず、洋紙の製造にも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の処理法のフローチャート。
【図2】本発明の実施例の概略断面説明。
【図3】籠体の全体斜視図説明。
【図4】従来法の処理法のフローチャート
【符号の説明】
【0024】
1 パルプ化装置
2 耐圧蓋
3 耐圧缶体
4 給排水管
5 蒸気給排管
6 給排気管
7 籠体
9 円筒部
10 底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靭皮繊維を含む原料を水に浸漬状態で減圧して抜気して吸水させてから浸漬状態を解除しその後蒸気にて湿潤状態を維持しつつ150℃以上に昇温してその昇温した温度を所定時間保持した後冷却してパルプを得ることを特徴とする靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法。
【請求項2】
前記靭皮繊維を含む原料が、あらかじめ1〜5%のアルカリ水に浸漬して水切りしたものであることを特徴とする請求項1の靭皮繊維を含む原料のパルプ化方法。
【請求項3】
開閉自在な耐圧蓋を有する耐圧缶体と、該耐圧缶体内に給排水する給排水管と、該耐圧缶体内に蒸気を給排する蒸気給排管と、前記耐圧缶体内に出入自在で且つ、内部に靭皮繊維を含む原料を収納出来る流体通過可能な円筒部を有する籠体とを具備することを特徴とする靭皮繊維を含む原料のパルプ化装置。
【請求項4】
前記籠体は、前記円筒部を外周に取外し自在に嵌め込みできる底板と、該底板に下端を固定され上端に引掛部を有する吊り棒と、靭皮繊維を含む原料を収納した前記周壁部の内部上方に被せる落し蓋とを具備することを特徴とする請求項3の靭皮繊維を含む原料のパルプ化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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