鞍乗り型車両の車体構造
【課題】車両の前方から力が加わった場合、車体フレームの重心より低い位置への前方からの力を減少させ、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】車体フレーム13に回動自在に設けられるハンドルと、該ハンドルより延伸し前輪14を軸支するフロントフォーク28L、28Rを有し、車体フレーム13における前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート31と、フロントフォーク28L、28Rに支持され、前輪14の後方を覆い、転舵プレート31と対向して臨む対向カバー30とを有する。対向カバー30は、フロントフォーク28L、28Rに支持されるブレーキキャリパ29Lによって支持される。このため、フロントフォーク28L、28Rが想定以上に車両後方に湾曲した時には、対向カバー30と前頂部33とが摺動する。よって自動二輪車の前方側から力が加わっても、車両のピッチングを抑制する。
【解決手段】車体フレーム13に回動自在に設けられるハンドルと、該ハンドルより延伸し前輪14を軸支するフロントフォーク28L、28Rを有し、車体フレーム13における前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート31と、フロントフォーク28L、28Rに支持され、前輪14の後方を覆い、転舵プレート31と対向して臨む対向カバー30とを有する。対向カバー30は、フロントフォーク28L、28Rに支持されるブレーキキャリパ29Lによって支持される。このため、フロントフォーク28L、28Rが想定以上に車両後方に湾曲した時には、対向カバー30と前頂部33とが摺動する。よって自動二輪車の前方側から力が加わっても、車両のピッチングを抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フレームにフロントサスペンションを介して前輪を懸架する鞍乗り型車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動二輪車の車体フレームと前輪との間には、空間が設けられている。また、この空間は、前記前輪に前方から予期せぬ過大な力が加わった際には、前記前輪を後方へと移動させることで前方からの力を吸収可能となっている。
【0003】
ところが、この空間が前方からの力を吸収するという効果は副次的なものであるため、前方からの力がさらに過大であった場合、該前輪は、前記車体フレームとの干渉を起こすので、後輪の浮き上がり現象であるピッチング現象(以下、ピッチングともいう)が懸念される。
【0004】
例えば、特許文献1は発明「自動二輪車等のサスペンション装置」を開示するものであるが、フロントフォークのエア反力を制御して車体の重心を一定に保つ油圧緩衝器を設けた自動二輪車等のサスペンション装置を開示している。
【0005】
特許文献2は発明「衝撃緩和装置付き車両およびバンパー付き車両」を開示するものであり、小型車両への衝突荷重を吸収できる衝撃緩和装置を前記小型車両に搭載する技術的思想を開示している。
【0006】
また、特許文献3は発明「前輪懸架装置」を開示するものであるが、過大荷重時に車体の前部を押し上げて、ピッチングを抑制する前輪懸架装置を開示している。
【0007】
特許文献4は発明「自動二輪車の前部構造」を開示するものであるが、前輪後方に位置する車体フレームの前部を船の舳先状に形成するか、該車体フレームの前部に舳先状の部材を取付ける技術的思想を開示している。この場合、舳先の先端は、前輪を直進状態に保ったときの前輪幅方向の中心線から左右いずれかへオフセットさせ、過大荷重時には前輪の転舵を促進し、ピッチングを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−82529号公報
【特許文献2】特開2007−269271号公報
【特許文献3】特開2008−80882号公報
【特許文献4】特開2002−264866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントフォーク部に特別なピッチング抑制構造を付加するものや、車体重心を低く抑えるためのサスペンション構造は、構造的に複雑であるとともに、高重量な部材を前輪回りに配設することとなり、車両の重量配分において高度な調整を必要とし、このため、コストも嵩む傾向にある。
【0010】
また、車両前部に舳先状の構造物を設ける場合、タイヤは弾性体であるため、前方から力を受けた際には、前記タイヤが弾性変形した後に前記車両の転舵がはじまり、このため、該転舵には遅れが生じる。また、タイヤの摩擦係数が大きいため、前方からの力が加わった時のハンドルの転舵角度によっては、転舵が緩やかになり、迅速且つ確実な転舵を促すためには、さらなる技術思想の導入が必要であった。
【0011】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、前方からの予期せぬ過大な力が加わった際においても、積極的に前輪を転舵することで、車両のピッチングの抑制が可能な鞍乗り型車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1で特定される発明は、車体フレームと、前記車体フレームに回動自在に設けられるハンドルと、前記ハンドルより延伸し前輪を軸支するフロントフォークと、を有する鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体フレームにおける進行方向前方部分で前記前輪を臨む箇所に設けられるとともに、車幅方向の左右一方から他方に向かって、車両進行方向前方から後方に寄る傾斜部を備える前輪案内部材と、フロントフォークに支持され、前記前輪の後方を覆い、前記前輪案内部材と対向して臨む対向カバーと、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項1の発明によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、前記車体フレームの進行方向側の端部に設けられた前記前輪案内部材と前記対向カバーとが摺動し、前記前輪及び前記対向カバーは前記傾斜部に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0014】
本願の請求項2で特定される発明は、車体フレームと、前記車体フレームに回動自在に設けられるハンドルと、前記ハンドルより延伸し前輪を軸支するフロントフォークと、を有する鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体フレームにおける進行方向前方部分で前記前輪を臨む箇所に設けられるとともに、前記車体フレームの、車幅方向の左右一方の側で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面を有する前輪案内部材を備えることを特徴とする。
【0015】
本願の請求項2に係る発明によれば、鞍乗り型車両の前輪が前方から力を受けてフロントフォークが変形し、前記前輪が前記前輪案内部材に当接したとき、前輪案内部材が前輪からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪は、前輪案内部材によって、車幅方向の、前輪案内部材が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、前輪案内部材の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0016】
本願の請求項3で特定される発明は、請求項2記載の鞍乗り型車両の車体構造において、フロントフォークに支持され、前記前輪の後方を覆い、前記前輪案内部材と対向して臨み、前記前輪よりも摩擦係数が小さい対向カバーを有することを特徴とする。
【0017】
本願の請求項3に係る発明によれば、前輪が後方に移動したとき、摩擦係数が小さい対向カバーが転舵プレートと当接及び摺接するので、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0018】
本願の請求項4で特定される発明は、請求項2記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記前輪と前記前輪案内部材とが離間しているとき、前記前輪案内部材は、待機位置に保持され、前記前輪が前記前輪案内部材に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材は、前記前輪から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする。
【0019】
本願の請求項4に係る発明によれば、前輪が前方から力を受けない通常時には、前輪案内部材は待機位置に保持され、前輪が前方から力を受けて前輪案内部材に当接及び摺接するときに該前輪案内部材が回転するので、前輪が後方に移動したときに前輪の転舵を確実に促進できる。
【0020】
本願の請求項5で特定される発明は、請求項3記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーと前記前輪案内部材とが離間しているとき、前記前輪案内部材は、待機位置に保持され、前記前輪が前記前輪案内部材に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材は、前記対向カバーから受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする。
【0021】
本願の請求項5に係る発明によれば、前輪が前方から力を受けない通常時には、前輪案内部材は待機位置に保持され、前輪が前方から力を受けて対向カバーが前輪案内部材に当接及び摺接するときに該前輪案内部材が回転するので、前輪が後方に移動したときに前輪の転舵を確実に促進できる。
【0022】
本願の請求項6で特定される発明は、請求項項1、3又は5記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、金属部材又は樹脂部材で形成されることを特徴とする。
【0023】
請求項6の発明によれば、前記対向カバーは金属部材又は樹脂部材であるため、前記前輪と比較して、摩擦係数が小さく、硬質でしかも割れにくい。これにより、車両に前方からの力が加わった際に、前記対向カバーは、迅速に前輪の転舵を促進する。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0024】
本願の請求項7で特定される発明は、請求項項1、3、5又は6に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、前記フロントフォークに対して、支持部材を介して設けられ、前記支持部材は、前記前輪が前方から力を受けて前記フロントフォークが変形し、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接するとき、前記支持部材の変形によって、前記対向カバーは前記前輪に当接することを特徴とする。
【0025】
請求項7の発明によれば、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接する際には、前記支持部材の変形によって前記対向カバーが前記前輪に当接するため、対向カバー及び支持部材を過度に高強度とすることなく前記前輪案内部材と面接触で摺動させることができる。このため、対向カバーは軽量化が可能となり、前輪の、いわゆるバネ下荷重があまり大きくなることなく、走行安定性、操舵性が低下しない。
【0026】
本願の請求項8で特定される発明は、請求項1に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記前輪案内部材は、車体フレームの車両進行方向前方に前頂部を有し、前記前頂部は、前記前輪を一方の最大角まで転舵した際の、該前輪の、車幅方向に対する左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置することを特徴とする。
【0027】
請求項8の発明によれば、前記前頂部は、前記前輪を最大角まで転舵した際の該前輪の車幅方向に対して左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置しているため、前方より力が加わった際に、ハンドルの転舵がいずれに位置していたとしても、前記車両は想定された方向に転舵が促進される。このため、前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0028】
本願の請求項9で特定される発明は、請求項1、3、5、6又は7に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、前記フロントフォークに、複数の支持部材を介して支持されることを特徴とする。
【0029】
請求項9の発明によれば、前記フロントフォークが想定した以上に車両後方に湾曲した場合には、対向カバーは、該フロントフォークに支持される部位に配設されるため前記対向カバーと前記案内部材とが摺動する。これにより、前記車両は想定された方向へと転舵が促進される。このため、前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0030】
本願の請求項10で特定される発明は、請求項1に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記傾斜部は、前記対向カバーの、前記傾斜部に沿う変位を円滑にする摺動促進機構を有する、ことを特徴とする。
【0031】
本願の請求項10に係る発明によれば、摺動促進機構が設けられることで、対向カバーの、傾斜部に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0032】
本願の請求項11で特定される発明は、請求項10記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記摺動促進機構は、前記傾斜部の本体部の表面に沿って配置された板状部材と、該板状部材を前記傾斜部の本体部に固定する固定部とを有し、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接するとき、前記固定部による前記板状部材の固定が解除されて、前記板状部材が前記傾斜部の前記本体部に対してスライドする、ことを特徴とする。
【0033】
本願の請求項11に係る発明によれば、摺動促進機構構を、傾斜部の本体部の表面に沿って配置された板状部材と、該板状部材を前記本体部とにより構成することで、前輪が後方に移動して対向カバーが傾斜部に当接したとき、対向カバーと傾斜部との摩擦抵抗で、板状部材が、傾斜部の本体部に対してスライドして分離する。このため、傾斜部に沿った斜め後方への車輪の案内が促進され、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0034】
本願の請求項12で特定される発明は、請求項11記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記板状部材は、樹脂部材により構成され、前記傾斜部の本体部は、金属材料により構成される、ことを特徴とする。
【0035】
本願の請求項12に係る発明によれば、板状部材が樹脂部材により構成され、傾斜部の本体部が金属材料により構成されることで、両者間の摩擦抵抗を小さくすることができ、車輪の斜め後方への案内を一層促進することができる。
【0036】
本願の請求項13で特定される発明は、請求項10記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記摺動促進機構は、複数のローラにより構成される、ことを特徴とする。
【0037】
本願の請求項13に係る発明によれば、摺動促進機構を複数のローラで構成することで、対向カバーの、傾斜部に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0038】
本願の請求項14で特定される発明は、請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12又は13に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーの車高方向の幅は、前記転舵プレートの車高方向の幅よりも大きい、ことを特徴とする。
【0039】
本願の請求項14に係る発明によれば、対向カバーの車高方向の幅が、転舵プレートの車高方向の幅よりも大きいので、ブレーキング作用によってフロントフォークが沈み込んでいる場合であっても、対向カバーを転舵プレートに当接させることができる。従って、転舵プレートによって前輪を確実に転舵させることができる。
【0040】
本願の請求項15で特定される発明は、請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12、13又は14に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、断面円弧形状であって、側面視円弧状に形成されている、ことを特徴とする。
【0041】
本願の請求項15に係る発明によれば、対向カバーが転舵プレートにより押圧されたとき、対向カバーが前輪のタイヤに対して広範囲にバランスよく接触するので、タイヤの変形を少なくできる。従って、前輪を転舵プレートの傾斜部に沿って迅速に斜め後方に案内することができ、転舵を一層促進することができる。
【0042】
本願の請求項16で特定される発明は、請求項1〜15のいずれか1項に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体構造は、車高方向の前記鞍乗り型車両の重心高さよりも低い位置に設置されることを特徴とする。
【0043】
請求項16の発明によれば、前記車体構造を車高方向の前記鞍乗り型車両の重心高さよりも低い位置に設けることで、前記鞍乗り型車両は車両のピッチングを抑制するとともに、低重心化が図られる。このため、操縦安定性への影響も少ない。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、単純な構造で、複雑な制御を必要とせず安価でありながらも、鞍乗り型車両の前方より予期せぬ過大な力が該鞍乗り型車両に加わった際には、フロントフォークが変形して、対向カバーが傾斜部又は案内面に当接、摺接して車幅方向の一方に案内される。従って、前輪を積極的に且つ迅速に転舵させ、車体フレームへの該車体フレームの重心よりも低い位置からの入力荷重を減少し、ピッチングを抑制する鞍乗り型車両が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車体構造が組み込まれた鞍乗り型車両の1つである自動二輪車の一部省略側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車体構造及びその周辺に、前方より力を受けた直後の状態を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図4】図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図4Bは、本発明の第1の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図7】図7Aは、本発明の第2の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図7Bは、本発明の第2の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図9】図9Aは、本発明の第3の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図9Bは、本発明の第3の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図11】図11Aは、本発明の第4の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図11Bは、本発明の第4の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図13】図13Aは、本発明の第5の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図13Bは、本発明の第5の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る鞍乗り型車両の車体構造について、この構造を適用した鞍乗り型車両である自動二輪車との関係で実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0047】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の車体構造10(以下、「車体構造10」ともいう)が組み込まれた自動二輪車12の側面図であり、本実施形態では、自動二輪車12への適用例により本発明を説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、各種の鞍乗り型車両(スクータ型、オンロード型、オフロード型等を含む)に適用可能である。
【0048】
なお、自動二輪車12において、車体の左右に1つずつ対称的に設けられる機構乃至構成要素については、左のものの参照符号に「L」を付し、右のものの参照符号に「R」を付すものとする。また、理解を容易にするため、各図面において、着座した運転者から見た方向に従って、車体の前方を示す矢印に「Fr」、車体の後方を示す矢印に「Rr」を付して説明する。
【0049】
図1に示すように、自動二輪車12は、車体を構成するクレードル型の車体フレーム13と、操舵輪である前輪14と、駆動輪である後輪16と、前輪14を操舵するハンドル18と、乗員が着座するシート20とを備える。該シート20は、車体フレーム13から車体後方に向けて延設されたシートレール22L、22Rに取付支持部(図示せず)を介して取り付けられている。前輪14はタイヤ14aとホイール14bからなり、後輪16はタイヤ16aとホイール16bからなる。
【0050】
車体フレーム13は、ハンドル18を操舵可能に支承するヘッドパイプ24、左右対称のダウンフレーム25L、25R及びアッパーフレーム26L、26Rによってクレードルスペースを形成している。車体フレーム13は、ダイヤモンド型等であってもよい。また、公知のようにエンジン自体が強度部材としてフレームの一部を兼ねる場合もある。
【0051】
車体前方部において、ハンドル18の下方に前記ヘッドパイプ24が軸支され、該ヘッドパイプ24の下端側には、フロントフォーク28L、28Rが軸支されている。該フロントフォーク28L、28Rは、ホイール14bを回転自在に軸支する。
【0052】
前輪14には、ブレーキロータ27L、27Rとブレーキキャリパ29L、29Rからなるディスクブレーキが配設される。ブレーキロータ27L、27Rはフロントフォーク28L、28Rに支持されるとともに、ハンドル18の握り部に付されるブレーキレバー(図示せず)へと接続されている。
【0053】
また、フロントフォーク28L、28Rには、前輪14を上方から覆うフロントフェンダ23が取り付けられており、さらに、車体フレーム13側から前輪14を覆う対向カバー30が取り付けられている。対向カバー30は、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に取り付けられており、カバー部30aと該カバー部30aを支持する左右二対の支持アーム30bとからなる。この場合、対向カバー30はタイヤ14aよりも摩擦係数の低く硬質な部材、例えば鋼板等の金属部材からなり、断面半円弧状であって、且つ側面視約40度(好適には30度〜50度)の円弧の形状である。また、支持アーム30bは、カバー部30aよりも薄板の金属部材で形成されており、また、該支持アーム30bはブレーキキャリパ29L、29Rによって支持されている。支持アーム30bは走行時に振動しない程度の強度があれば足り、適度に弱く構成されている。このため、支持アーム30bは、カバー部30aよりも軟質の金属部材を用いて形成してもよい。また、図1に示す対向カバー30は車体フレーム13側のみに設けられているが、該対向カバー30を車輪の上方まで延在させフロントフェンダ23と対向カバー30とを一体的にしてもよく、またはフロントフェンダ23と対向カバー30を連続的なデザインとしてもよい。
【0054】
一方、車体後方部において、シート20の下方には、車体フレーム13の後部にリアクッション32で懸架されたスイングアーム34が配設され、該スイングアーム34により、タイヤ16aが回転自在に軸支されている。
【0055】
前記ハンドル18とシート20との間のシート20側における車体フレーム13の上部には燃料タンク36が取り付けられている。該燃料タンク36の前方にはエアバッグ19が配設されている。また、燃料タンク36の下方における車体フレーム13のクレードルスペース内には、例えば4サイクル型からなるエンジン38が配置され、該エンジン38の排気口に接続された排気管40を介した車体後方部には、消音器(マフラ)42が配設されている。さらに、燃料タンク36の下部であってエンジン38の上部には、図示しないエアクリーナ等を収納するエアチャンバ44が設けられている。
【0056】
前記燃料タンク36とシート20と間の下部において、カバー46で覆われた空間には、バッテリ48と、ECU(エンジン制御ECU)50とが並設されている。ECU50は、エンジン38のFI(フューエルインジェクション)制御、各種電装部品の制御、燃費算出及び表示制御等を行う制御部である。
【0057】
前記カバー46の後方において、シートレール22L、22Rには、その後部から斜め上方に延びたU字状のグリップバー52が連結されている。さらに、シート20の下部には、リアフェンダ54が設けられ、該リアフェンダ54にはウインカ56L、56Rが配置されている。前記リアフェンダ54の上部には、テールライト58が取り付けられ、前記リアフェンダ54の前方には、ガードカバー60が取り付けられている。
【0058】
前記ヘッドパイプ24の上方においてハンドル18の前方には、運転者が視認しやすい位置に、ブラケット61を介してメータユニット(表示装置)62が配設され、該メータユニット62の下方においてハンドル18の前方の略中央部には、ヘッドライト68が配置されている。
【0059】
図2に示すように、ダウンフレーム25L、25Rの前方の、対向カバー30を臨む位置には、転舵プレート(前輪案内部材)31が配設される。
【0060】
転舵プレート31は、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部33と、該前頂部33から左方向へ向かって後方に寄る傾斜面(傾斜部)35とを有する。転舵プレート31は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜面35を保持するために、補強部31aによって補強される。
【0061】
ここで、対向カバー30の車高方向の幅をH1とし、転舵プレート31の車高方向の幅をH2とすると、H1とH2との関係は、H1>H2となっている。
【0062】
また、前頂部33は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0063】
本実施形態に係る車体構造10を含む鞍乗り型車両である自動二輪車12は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0064】
図3は、本実施の形態の車体構造10が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。また、図4A、図4Bは、自動二輪車12に、前方より力を受けた場合の概略説明図である。図4Aは前記自動二輪車12が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図4Bは前記自動二輪車12が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0065】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図4Aの矢印に示す自動二輪車12の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0066】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート31へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0067】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート31の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート31からバランスよく押圧される。
【0068】
また、カバー部30aは、傾斜面35よりも高さ方向に適度に長い(H1>H2)ことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート31に当接する。
【0069】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート31の傾斜面35に摺接し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図4Bの矢印α方向)へと変位する。
【0070】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート31から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート31がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0071】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0072】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Pで傾斜面35に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。これにより自動二輪車12は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜面35を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0073】
なお、この場合、前頂部33は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車12の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図4Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0074】
この場合、対向カバー30は、支持アーム30bがフロントフォーク28L、28Rによって支持されるブレーキキャリパ29L、29Rと締結されることで固定されており、このため、フロントフォーク28L、28R、又は、ヘッドパイプ24のいずれが最初に変形したとしても、車体フレーム13側の突出部である転舵プレート31には、対向カバー30が衝突する。この衝突の際、支持アーム30bが先に変形するため、カバー部30a及び支持アーム30bを過度に高強度とする必要がなく、すなわち、支持アーム30b、カバー部30aともに適度に薄く、軽くでき、また、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に設けられているため、対向カバー30が前輪14の、いわゆるバネ下荷重に対して与える影響が小さい。
【0075】
また、前輪14の摩擦係数μ1と対向カバー30の摩擦係数μ2の関係がμ1>μ2であるように部材を設定することで、前輪14と対向カバー30とが係止された状態において、対向カバー30と前輪14が一体となって転舵プレート31と摺動する。このため、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、車体フレーム13と、該車体フレーム13に回動自在に設けられるハンドル18と、該ハンドル18より延伸し前輪14を軸支するフロントフォーク28L、28Rを有し、車体フレーム13における自動二輪車12の進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられるとともに、傾斜面35を備える転舵プレート31と、フロントフォーク28L、28Rに支持され、前輪14の後方を覆い、転舵プレート31と対向して臨む対向カバー30とを有する。このため、自動二輪車12に該自動二輪車12の前方からの推進力の反力が加わった際には、転舵プレート31の傾斜面35と対向カバー30とが摺動し、前輪14及び対向カバー30は傾斜面35に沿って矢印α方向へ案内される。
【0077】
この場合、対向カバー30は、金属部材で形成されているが、金属部材には限らず、タイヤ14aと比較して、摩擦係数が小さく、硬質でしかも割れにくいものであればよい。従って、迅速に前輪14の転舵を促進することが可能となる。
【0078】
また、対向カバー30は断面半円弧形状で、前輪14に近接し、該前輪14と略同心の円弧形状であり、その円弧長さ、すなわち車高方向の幅は傾斜面35の車高方向の幅より大きくなっている。このため、対向カバー30は、前方より力が加わって支持アーム30bが変形したタイヤ14aに対して広範囲に当接して力が分散され、該タイヤ14aの変形(潰れ)を好適に抑制する。
【0079】
そして、フロントフォーク28L、28Rに支持アーム30bを介して設けられる対向カバー30は、前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形することで傾斜面35に当接及び摺接するとき、支持アーム30bの変形によって、前輪14に当接する。すなわち、支持アーム30bの変形によって対向カバー30をタイヤ14aに当接させるため、対向カバー30を過度に高強度とすることなくタイヤ14aと面接触で摺動させることができ、対向カバー30は軽量化が可能となり、前輪14の、いわゆるバネ下荷重があまり大きくなることなく、走行安定性、操舵性への影響は少ない。
【0080】
また、転舵プレート31は、自動二輪車12の進行方向に前頂部33を有し、該前頂部33は、前輪14を一方の最大角まで転舵した際の該前輪14の車幅方向に対する左右中央の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置する。これにより、前輪14を最大角まで左右いずれかに転舵した際に前方から力を受けた場合であっても、自動二輪車12は想定された方向に転舵が促進される。
【0081】
また、対向カバー30は、フロントフォーク28L、28Rに支持されるブレーキキャリパ29L、29Rによって支持される。このため、フロントフォーク28L、28Rが想定した以上に車両後方に湾曲し、塑性変形した場合には、対向カバー30と前頂部33とが摺動する。従って、自動二輪車12に、該自動二輪車12の前方側から力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する。
【0082】
また、転舵プレート31の前頂部33の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示すように、設計条件によっては、転舵プレート70の傾斜を逆向きの傾斜面72とし前頂部74を左側としてもよい。
【0083】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係る車体構造100及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第2の実施形態に係る車体構造100が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造100以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0084】
図6に示すように、第2の実施形態に係る車体構造100は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート(前輪案内部材)131とを備える。
【0085】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造10における対向カバー30と同様に構成されている。
【0086】
転舵プレート131は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部133と、該前頂部133から左方向へ向かって後方に寄る傾斜部135とを有する。転舵プレート131は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜部135を保持するために、補強部131aによって補強される。
【0087】
ここで、第1の実施形態と同様に、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート131の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0088】
また、前頂部133は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0089】
傾斜部135は、前記対向カバー30の、傾斜部135に沿う変位を円滑にする摺動促進機構136を有する。図6に示すように、第2の実施形態において、摺動促進機構136は、傾斜部135の本体部137の表面に沿って配置された板状部材136aと、板状部材136aを傾斜部135の本体部137に固定する複数の固定部136bとを有している。
【0090】
板状部材136aの構成材料としては、例えば、樹脂部材が挙げられる。この場合に、板状部材136aを構成する樹脂部材としては、傾斜部135の本体部137に対して摺動抵抗が小さいものを選定するとよい。
【0091】
また、板状部材136aと、傾斜部135の本体部137との摺動面の一方又は両方に、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の固体潤滑剤をコーティングし、板状部材136aと、傾斜部135の本体部137との摺動抵抗を小さくしてもよい。
【0092】
固定部136bは、対向カバー30が板状部材136aに当接及び摺接したときに、板状部材136aから受ける力によって破断する程度に強度が低く構成されるように、材質、形状、寸法等が設定されている。このような固定部136bの構成材料としては、例えば、樹脂部材が挙げられる。
【0093】
図6に示した固定部136bは、傾斜部135の本体部137に螺合するネジの形態を有した留め具であり、ネジの軸部が板状部材136aを貫通するとともに本体部137に螺合し、ネジの頭部と本体部137との間で板状部材136aを挟むことで、板状部材136aが本体部137に固定されている。
【0094】
ここで、固定部136bは、対向カバー30との干渉を避けるために、傾斜部135の車幅方向の左右の端部近傍に設けられている。
【0095】
固定部136bは、前述のものに限られず、頭部を有するピン状のものを板状部材136aに貫通させるとともに本体部137に設けたピン穴に押入して嵌合させたものでもよく、また、本体部137と板状部材136aとを弾性的に挟持するクリップ状のものでもよい。
【0096】
第2の実施形態に係る車体構造100を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0097】
図7Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図7Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0098】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図4Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0099】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート131へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0100】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート131の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート131からバランスよく押圧される。
【0101】
また、カバー部30aは、傾斜部135よりも高さ方向に適度に長いことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート131に当接する。
【0102】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート131の傾斜部135に摺接し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図7Bの矢印α方向)へと変位する。
【0103】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート131から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート131がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0104】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0105】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Pで傾斜面135に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0106】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜部135を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0107】
また、前輪14が後方に移動して対向カバー30が傾斜部135に当接及び摺接するとき、対向カバー30と板状部材136aとの摩擦抵抗により、板状部材136aは矢印α方向への力を受ける。このとき、傾斜部135の本体部137に板状部材136aを固定している固定部136bの強度が適度に低く設定されているから、固定部136bは、板状部材136aが受ける矢印α方向の力によって破断する。すると、傾斜部135の本体部137に対して板状部材136aの固定が解除されるから、板状部材136aが、傾斜部135の本体部137に沿ってα方向にスライドする。このため、傾斜部135に沿った斜め後方への前輪14の案内が促進され、前輪14の転舵が一層促進される。
【0108】
なお、この場合、前頂部133は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車12の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図7Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0109】
以上のように、第2の実施形態によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、車体フレームの進行方向側の端部に設けられた前記転舵プレート131と対向カバー30とが摺動し、前記前輪14及び前記対向カバー30は前記傾斜部135に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0110】
また、第2の実施形態によれば、摺動促進機構136が設けられることで、対向カバー30の、傾斜部135に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0111】
しかも、第2の実施形態によれば、摺動促進機構136を、傾斜部135の本体部137の表面に沿って配置された板状部材136aと、該板状部材136aを前記本体部137とにより構成することで、前輪14が後方に移動して対向カバー30が傾斜部135に当接したとき、対向カバー30と傾斜部135との摩擦抵抗で、板状部材136aが、傾斜部135の本体部137に対してスライドして分離する。このため、傾斜部135に沿った斜め後方への車輪の案内が促進され、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪14をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0112】
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と共通する各構成部分については、第1の実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0113】
また、転舵プレート131の前頂部133の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示した第1の実施形態の変形例と同様に、設計条件によっては、転舵プレート131の傾斜を、逆向きにして、前頂部133を左側としてもよい。
【0114】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係る車体構造200及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第3の実施形態に係る車体構造200が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造200以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0115】
図8に示すように、第3の実施形態に係る車体構造200は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート231(前輪案内部材)とを備える。
【0116】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造200における対向カバー30と同様に構成されている。
【0117】
転舵プレート231は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部233と、該前頂部233から左方向へ向かって後方に寄る傾斜部235とを有する。転舵プレート231は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜部235を保持するために、補強部231aによって補強される。
【0118】
ここで、第1の実施形態と同様に、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート231の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0119】
また、前頂部233は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0120】
傾斜部235は、前記対向カバー30の、前記傾斜部235に沿う変位を円滑にする摺動促進機構236を有する。
【0121】
図8に示すように、第3の実施形態における摺動促進機構236は、複数のローラ238により構成される。複数のローラ238は、傾斜部235の本体部237に沿って配設されており、各ローラ238は、本体部237に固定された上下の支持部材239に、鉛直軸心を中心に回転自在に支持されている。
【0122】
ローラ238は、傾斜部235の略全長に亘る範囲で配設されるのがよく、また、本体部237の車高方向の寸法と同程度の長さを有するのがよい。また、各ローラ238の直径及び配置間隔は、対向カバー30がローラ238に押圧された際に、対向カバー30が喰い込まない程度に小さく狭く設定されている。
【0123】
第3の実施形態に係る車体構造200を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0124】
図9Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図9Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0125】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図9Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0126】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート231へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0127】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って傾斜部235のローラ238に接触し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図9Bの矢印α方向)へと変位する。
【0128】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート231から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート231がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0129】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0130】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点P付近でローラ238に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0131】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜部235を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車のピッチングが抑制できると考えられる。
【0132】
また、第3の実施形態の場合、対向カバー30がローラ238によってα方向にスムーズに案内されるから、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪14の転舵が一層促進される。
【0133】
なお、この場合、前頂部233は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図9Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0134】
以上のように、第3の実施形態によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、車体フレーム13の進行方向側の端部に設けられた転舵プレート231と対向カバー30とが摺動し、前輪14及び前記対向カバー30は傾斜部235に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0135】
また、第3の実施形態によれば、摺動促進機構236が設けられることで、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0136】
しかも、第3の実施形態によれば、摺動促進機構236を複数のローラ238で構成することで、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪14をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0137】
なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と共通する各構成部分については、第1の実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0138】
また、転舵プレート231の前頂部233の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示した第1の実施形態の変形例と同様に、設計条件によっては、転舵プレート231の傾斜を、逆向きにして、前頂部233を左側としてもよい。
【0139】
[第4の実施形態]
図10は、本発明の第4の実施形態に係る車体構造300及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第4の実施形態に係る車体構造300が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造300以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0140】
図10に示すように、第4の実施形態に係る車体構造300は、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート(前輪案内部材)331を備える。
【0141】
転舵プレート331は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、車体フレーム13の、車幅方向の左右一方の側(図10の構成例では右側)で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面302を有する。
【0142】
車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所で、車幅方向の左右一方の側に、ブラケット304が固定され、該ブラケット304の前端に、アーム306が前後方向に揺動可能に軸支されている。このアーム306に、前述した案内面302を有する転舵プレート331が一体的に連結されている。
【0143】
転舵プレート331は、前輪14が前方から力を受けない通常時、すなわち前輪14と前輪案内部材とが離間しているとき、待機位置(初期位置)に保持される。この待機位置は、図10に示すように、車両の前後方向に対して案内面302が傾斜するような位置でもよく、また、車両の前後方向に対して案内面302が直角となるような位置でもよい。
【0144】
アーム306は、前輪14が前方から力を受けない通常時において、車両の走行時の振動や、加減速時の慣性力等によって揺動することがない一方、前輪14からの後方への力を受けたときに、その力によって後方に揺動するように、ブラケット304に取り付けられている。
【0145】
例えば、アーム306の、ブラケット304に対する変位抵抗(回転抵抗)をある程度大きく設定しておき、転舵プレート331を介してアーム306に作用する後方への力が所定以上となったときに、後方に変位(揺動)するように構成してよい。また、転舵プレート331が前述した待機位置を保持するようにバネ等の付勢部材によってアーム306を付勢しておき、アーム306に作用する後方への力が所定以上となったときに、付勢部材の付勢力に抗してアーム306が後方に揺動するように構成してもよい。
【0146】
前述した転舵プレート331、アーム306及びブラケット304は、前方から力を受けた際に大きく変形することがない程度の剛性を有するように、肉厚、材質等が設定されている。
【0147】
また、待機位置にあるときの転舵プレート331は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで延在している。
【0148】
第4の実施形態に係る車体構造300を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0149】
図11Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図11Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0150】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図11Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0151】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、タイヤ14aは車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート331へと衝突する。
【0152】
この後、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24がさらに変形すると、転舵プレート331がタイヤ14aにより後方に押圧される。転舵プレート331は、通常時には待機位置に保持されているが、タイヤ14aにより後方に押圧されたとき、この押圧力が、転舵プレート331を待機位置に保持する力(回転抵抗や付勢力等)を上回るため、転舵プレート331が後方へ揺動(回転)し始める。
【0153】
すると、前輪14は、転舵プレート331の傾斜に沿って、矢印α方向へと案内されると同時に、転舵プレート331に当接する前輪14の後方部分が、転舵プレート331の回転に伴う案内面302の変位によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向(図11Bで左方向)に変位させられる。
【0154】
結局、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、案内面302に沿って斜め後方へと案内される。
【0155】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Q1で案内面302に当接する。一方、自動二輪車全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0156】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレーム13には同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は案内面302を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0157】
なお、この場合、転舵プレート331は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側まで延在しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図11Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0158】
以上のように、第4の実施形態によれば、鞍乗り型車両の前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形し、前記前輪14が転舵プレート331に当接したとき、転舵プレート331が前輪14からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0159】
また、第4の実施形態によれば、前輪14が前方から力を受けない通常時には、転舵プレート331は待機位置に保持され、前輪14が前方から力を受けて転舵プレート331に当接及び摺接するときに転舵プレート331が回転するので、前輪14が後方に移動したときに前輪14の転舵を確実に促進できる。
【0160】
なお、転舵プレート331を軸支する位置は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設定することが可能であり、設計条件によっては、転舵プレート331を、図11A及び図11Bに示した配置に対して左右逆に配置し、転舵プレート331を軸支する位置を車両の左側に設定してもよい。
【0161】
[第5の実施形態]
図12は、本発明の第5の実施形態に係る車体構造400及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第5の実施形態に係る車体構造400が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造400以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0162】
図12に示すように、第4の実施形態に係る車体構造400は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレームにおける進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート331(前輪案内部材)とを備える。
【0163】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造400における対向カバー30と同様に構成されている。
【0164】
転舵プレート331は、第4の実施形態の車体構造400における転舵プレート331と同様に構成されている。
【0165】
ここで、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート331の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0166】
第5の実施形態に係る車体構造400を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0167】
図13Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図13Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0168】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図13Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0169】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート331へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0170】
前輪14が後方に移動し、前輪14が強制的に転舵されるまでの前述した過程において、対向カバー30が転舵プレート331に衝突した際、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0171】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート331の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート331からバランスよく押圧される。
【0172】
また、カバー部30aの高さ方向の幅は、傾斜面35の高さ方向の幅よりも長いことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート331に当接する。
【0173】
この後、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、カバー部30aは、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート331の案内面302に摺接する。
【0174】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート331から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、また、転舵プレート331がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがないので、タイヤ14aは迅速にα方向へ案内され始める。
【0175】
フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24がさらに変形すると、転舵プレート331が対抗カバーにより後方に押圧される。転舵プレート331は、通常時には待機位置に保持されているが、対向カバー30により後方に押圧されたとき、この押圧力が、転舵プレート331を待機位置に保持する力(回転抵抗や付勢力等)を上回るため、転舵プレート331が後方へ揺動(回転)し始める。
【0176】
すると、前輪14は対向カバー30と一体となって、転舵プレート331の傾斜に沿って、矢印α方向へと案内されると同時に、対向カバー30が、転舵プレート331の回転に伴う案内面302の変位によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向(図13Bで左方向)に変位させられる。
【0177】
結局、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331に沿って斜め後方へと案内される。
【0178】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Q2で案内面に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0179】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は案内面302を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車のピッチングが抑制できると考えられる。
【0180】
なお、この場合、転舵プレート331は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側まで延在しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図13Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0181】
以上のように、第5の実施形態によれば、鞍乗り型車両の前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形し、対向カバー30が転舵プレート331に当接したとき、転舵プレート331が対向カバー30からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0182】
また、第5の実施形態によれば、前輪14が前方から力を受けない通常時には、転舵プレート331は待機位置に保持され、対向カバー30が前方から力を受けて転舵プレート331に当接及び摺接するときに転舵プレート331が回転するので、前輪14が後方に移動したときに前輪14の転舵を確実に促進できる。
【0183】
また、第5の実施形態によれば、前輪14が後方に移動したとき、摩擦係数が小さい対向カバー30が転舵プレート331と当接及び摺接するので、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。しかも、対向カバー30は、タイヤ14aと比較して、硬質で割れにくいため、転舵プレート331に当接した際に大きく変形することがなく、転舵プレート331によって斜め後方に迅速に案内される。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0184】
なお、転舵プレート331を軸支する位置は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設定することが可能であり、設計条件によっては、転舵プレート331を、図13A及び図13Bに示した配置に対して左右逆に配置し、転舵プレート331を軸支する位置を車両の左側に設定してもよい。
【0185】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。また、本発明は、エアバッグを搭載した鞍乗り型車両において特に有効性が高いが、該エアバッグを搭載した鞍乗り型車両に限定されるものではなく、種々の鞍乗り型車両において用いることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0186】
13…車体フレーム 14…前輪
19…エアバッグ 27L、27R…ブレーキロータ
28L、28R…フロントフォーク 29L、29R…ブレーキキャリパ
30…対向カバー
31、70、131、231、331…転舵プレート
33、74、133、233…前頂部 35、72…傾斜面
135、235…傾斜部 136、236…摺動促進機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フレームにフロントサスペンションを介して前輪を懸架する鞍乗り型車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動二輪車の車体フレームと前輪との間には、空間が設けられている。また、この空間は、前記前輪に前方から予期せぬ過大な力が加わった際には、前記前輪を後方へと移動させることで前方からの力を吸収可能となっている。
【0003】
ところが、この空間が前方からの力を吸収するという効果は副次的なものであるため、前方からの力がさらに過大であった場合、該前輪は、前記車体フレームとの干渉を起こすので、後輪の浮き上がり現象であるピッチング現象(以下、ピッチングともいう)が懸念される。
【0004】
例えば、特許文献1は発明「自動二輪車等のサスペンション装置」を開示するものであるが、フロントフォークのエア反力を制御して車体の重心を一定に保つ油圧緩衝器を設けた自動二輪車等のサスペンション装置を開示している。
【0005】
特許文献2は発明「衝撃緩和装置付き車両およびバンパー付き車両」を開示するものであり、小型車両への衝突荷重を吸収できる衝撃緩和装置を前記小型車両に搭載する技術的思想を開示している。
【0006】
また、特許文献3は発明「前輪懸架装置」を開示するものであるが、過大荷重時に車体の前部を押し上げて、ピッチングを抑制する前輪懸架装置を開示している。
【0007】
特許文献4は発明「自動二輪車の前部構造」を開示するものであるが、前輪後方に位置する車体フレームの前部を船の舳先状に形成するか、該車体フレームの前部に舳先状の部材を取付ける技術的思想を開示している。この場合、舳先の先端は、前輪を直進状態に保ったときの前輪幅方向の中心線から左右いずれかへオフセットさせ、過大荷重時には前輪の転舵を促進し、ピッチングを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−82529号公報
【特許文献2】特開2007−269271号公報
【特許文献3】特開2008−80882号公報
【特許文献4】特開2002−264866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントフォーク部に特別なピッチング抑制構造を付加するものや、車体重心を低く抑えるためのサスペンション構造は、構造的に複雑であるとともに、高重量な部材を前輪回りに配設することとなり、車両の重量配分において高度な調整を必要とし、このため、コストも嵩む傾向にある。
【0010】
また、車両前部に舳先状の構造物を設ける場合、タイヤは弾性体であるため、前方から力を受けた際には、前記タイヤが弾性変形した後に前記車両の転舵がはじまり、このため、該転舵には遅れが生じる。また、タイヤの摩擦係数が大きいため、前方からの力が加わった時のハンドルの転舵角度によっては、転舵が緩やかになり、迅速且つ確実な転舵を促すためには、さらなる技術思想の導入が必要であった。
【0011】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、前方からの予期せぬ過大な力が加わった際においても、積極的に前輪を転舵することで、車両のピッチングの抑制が可能な鞍乗り型車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1で特定される発明は、車体フレームと、前記車体フレームに回動自在に設けられるハンドルと、前記ハンドルより延伸し前輪を軸支するフロントフォークと、を有する鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体フレームにおける進行方向前方部分で前記前輪を臨む箇所に設けられるとともに、車幅方向の左右一方から他方に向かって、車両進行方向前方から後方に寄る傾斜部を備える前輪案内部材と、フロントフォークに支持され、前記前輪の後方を覆い、前記前輪案内部材と対向して臨む対向カバーと、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項1の発明によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、前記車体フレームの進行方向側の端部に設けられた前記前輪案内部材と前記対向カバーとが摺動し、前記前輪及び前記対向カバーは前記傾斜部に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0014】
本願の請求項2で特定される発明は、車体フレームと、前記車体フレームに回動自在に設けられるハンドルと、前記ハンドルより延伸し前輪を軸支するフロントフォークと、を有する鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体フレームにおける進行方向前方部分で前記前輪を臨む箇所に設けられるとともに、前記車体フレームの、車幅方向の左右一方の側で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面を有する前輪案内部材を備えることを特徴とする。
【0015】
本願の請求項2に係る発明によれば、鞍乗り型車両の前輪が前方から力を受けてフロントフォークが変形し、前記前輪が前記前輪案内部材に当接したとき、前輪案内部材が前輪からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪は、前輪案内部材によって、車幅方向の、前輪案内部材が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、前輪案内部材の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0016】
本願の請求項3で特定される発明は、請求項2記載の鞍乗り型車両の車体構造において、フロントフォークに支持され、前記前輪の後方を覆い、前記前輪案内部材と対向して臨み、前記前輪よりも摩擦係数が小さい対向カバーを有することを特徴とする。
【0017】
本願の請求項3に係る発明によれば、前輪が後方に移動したとき、摩擦係数が小さい対向カバーが転舵プレートと当接及び摺接するので、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0018】
本願の請求項4で特定される発明は、請求項2記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記前輪と前記前輪案内部材とが離間しているとき、前記前輪案内部材は、待機位置に保持され、前記前輪が前記前輪案内部材に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材は、前記前輪から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする。
【0019】
本願の請求項4に係る発明によれば、前輪が前方から力を受けない通常時には、前輪案内部材は待機位置に保持され、前輪が前方から力を受けて前輪案内部材に当接及び摺接するときに該前輪案内部材が回転するので、前輪が後方に移動したときに前輪の転舵を確実に促進できる。
【0020】
本願の請求項5で特定される発明は、請求項3記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーと前記前輪案内部材とが離間しているとき、前記前輪案内部材は、待機位置に保持され、前記前輪が前記前輪案内部材に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材は、前記対向カバーから受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする。
【0021】
本願の請求項5に係る発明によれば、前輪が前方から力を受けない通常時には、前輪案内部材は待機位置に保持され、前輪が前方から力を受けて対向カバーが前輪案内部材に当接及び摺接するときに該前輪案内部材が回転するので、前輪が後方に移動したときに前輪の転舵を確実に促進できる。
【0022】
本願の請求項6で特定される発明は、請求項項1、3又は5記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、金属部材又は樹脂部材で形成されることを特徴とする。
【0023】
請求項6の発明によれば、前記対向カバーは金属部材又は樹脂部材であるため、前記前輪と比較して、摩擦係数が小さく、硬質でしかも割れにくい。これにより、車両に前方からの力が加わった際に、前記対向カバーは、迅速に前輪の転舵を促進する。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0024】
本願の請求項7で特定される発明は、請求項項1、3、5又は6に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、前記フロントフォークに対して、支持部材を介して設けられ、前記支持部材は、前記前輪が前方から力を受けて前記フロントフォークが変形し、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接するとき、前記支持部材の変形によって、前記対向カバーは前記前輪に当接することを特徴とする。
【0025】
請求項7の発明によれば、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接する際には、前記支持部材の変形によって前記対向カバーが前記前輪に当接するため、対向カバー及び支持部材を過度に高強度とすることなく前記前輪案内部材と面接触で摺動させることができる。このため、対向カバーは軽量化が可能となり、前輪の、いわゆるバネ下荷重があまり大きくなることなく、走行安定性、操舵性が低下しない。
【0026】
本願の請求項8で特定される発明は、請求項1に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記前輪案内部材は、車体フレームの車両進行方向前方に前頂部を有し、前記前頂部は、前記前輪を一方の最大角まで転舵した際の、該前輪の、車幅方向に対する左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置することを特徴とする。
【0027】
請求項8の発明によれば、前記前頂部は、前記前輪を最大角まで転舵した際の該前輪の車幅方向に対して左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置しているため、前方より力が加わった際に、ハンドルの転舵がいずれに位置していたとしても、前記車両は想定された方向に転舵が促進される。このため、前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0028】
本願の請求項9で特定される発明は、請求項1、3、5、6又は7に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、前記フロントフォークに、複数の支持部材を介して支持されることを特徴とする。
【0029】
請求項9の発明によれば、前記フロントフォークが想定した以上に車両後方に湾曲した場合には、対向カバーは、該フロントフォークに支持される部位に配設されるため前記対向カバーと前記案内部材とが摺動する。これにより、前記車両は想定された方向へと転舵が促進される。このため、前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0030】
本願の請求項10で特定される発明は、請求項1に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記傾斜部は、前記対向カバーの、前記傾斜部に沿う変位を円滑にする摺動促進機構を有する、ことを特徴とする。
【0031】
本願の請求項10に係る発明によれば、摺動促進機構が設けられることで、対向カバーの、傾斜部に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0032】
本願の請求項11で特定される発明は、請求項10記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記摺動促進機構は、前記傾斜部の本体部の表面に沿って配置された板状部材と、該板状部材を前記傾斜部の本体部に固定する固定部とを有し、前記対向カバーが前記傾斜部に当接及び摺接するとき、前記固定部による前記板状部材の固定が解除されて、前記板状部材が前記傾斜部の前記本体部に対してスライドする、ことを特徴とする。
【0033】
本願の請求項11に係る発明によれば、摺動促進機構構を、傾斜部の本体部の表面に沿って配置された板状部材と、該板状部材を前記本体部とにより構成することで、前輪が後方に移動して対向カバーが傾斜部に当接したとき、対向カバーと傾斜部との摩擦抵抗で、板状部材が、傾斜部の本体部に対してスライドして分離する。このため、傾斜部に沿った斜め後方への車輪の案内が促進され、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0034】
本願の請求項12で特定される発明は、請求項11記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記板状部材は、樹脂部材により構成され、前記傾斜部の本体部は、金属材料により構成される、ことを特徴とする。
【0035】
本願の請求項12に係る発明によれば、板状部材が樹脂部材により構成され、傾斜部の本体部が金属材料により構成されることで、両者間の摩擦抵抗を小さくすることができ、車輪の斜め後方への案内を一層促進することができる。
【0036】
本願の請求項13で特定される発明は、請求項10記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記摺動促進機構は、複数のローラにより構成される、ことを特徴とする。
【0037】
本願の請求項13に係る発明によれば、摺動促進機構を複数のローラで構成することで、対向カバーの、傾斜部に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0038】
本願の請求項14で特定される発明は、請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12又は13に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーの車高方向の幅は、前記転舵プレートの車高方向の幅よりも大きい、ことを特徴とする。
【0039】
本願の請求項14に係る発明によれば、対向カバーの車高方向の幅が、転舵プレートの車高方向の幅よりも大きいので、ブレーキング作用によってフロントフォークが沈み込んでいる場合であっても、対向カバーを転舵プレートに当接させることができる。従って、転舵プレートによって前輪を確実に転舵させることができる。
【0040】
本願の請求項15で特定される発明は、請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12、13又は14に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記対向カバーは、断面円弧形状であって、側面視円弧状に形成されている、ことを特徴とする。
【0041】
本願の請求項15に係る発明によれば、対向カバーが転舵プレートにより押圧されたとき、対向カバーが前輪のタイヤに対して広範囲にバランスよく接触するので、タイヤの変形を少なくできる。従って、前輪を転舵プレートの傾斜部に沿って迅速に斜め後方に案内することができ、転舵を一層促進することができる。
【0042】
本願の請求項16で特定される発明は、請求項1〜15のいずれか1項に記載の鞍乗り型車両の車体構造において、前記車体構造は、車高方向の前記鞍乗り型車両の重心高さよりも低い位置に設置されることを特徴とする。
【0043】
請求項16の発明によれば、前記車体構造を車高方向の前記鞍乗り型車両の重心高さよりも低い位置に設けることで、前記鞍乗り型車両は車両のピッチングを抑制するとともに、低重心化が図られる。このため、操縦安定性への影響も少ない。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、単純な構造で、複雑な制御を必要とせず安価でありながらも、鞍乗り型車両の前方より予期せぬ過大な力が該鞍乗り型車両に加わった際には、フロントフォークが変形して、対向カバーが傾斜部又は案内面に当接、摺接して車幅方向の一方に案内される。従って、前輪を積極的に且つ迅速に転舵させ、車体フレームへの該車体フレームの重心よりも低い位置からの入力荷重を減少し、ピッチングを抑制する鞍乗り型車両が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車体構造が組み込まれた鞍乗り型車両の1つである自動二輪車の一部省略側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車体構造及びその周辺に、前方より力を受けた直後の状態を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図4】図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図4Bは、本発明の第1の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図7】図7Aは、本発明の第2の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図7Bは、本発明の第2の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図9】図9Aは、本発明の第3の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図9Bは、本発明の第3の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図11】図11Aは、本発明の第4の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図11Bは、本発明の第4の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る車体構造及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。
【図13】図13Aは、本発明の第5の実施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受ける直前の状態の概略説明図であり、図13Bは、本発明の第5の施形態に係る車体構造が組み込まれた自動二輪車が、前方より力を受けた直後の状態の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明に係る鞍乗り型車両の車体構造について、この構造を適用した鞍乗り型車両である自動二輪車との関係で実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0047】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の車体構造10(以下、「車体構造10」ともいう)が組み込まれた自動二輪車12の側面図であり、本実施形態では、自動二輪車12への適用例により本発明を説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、各種の鞍乗り型車両(スクータ型、オンロード型、オフロード型等を含む)に適用可能である。
【0048】
なお、自動二輪車12において、車体の左右に1つずつ対称的に設けられる機構乃至構成要素については、左のものの参照符号に「L」を付し、右のものの参照符号に「R」を付すものとする。また、理解を容易にするため、各図面において、着座した運転者から見た方向に従って、車体の前方を示す矢印に「Fr」、車体の後方を示す矢印に「Rr」を付して説明する。
【0049】
図1に示すように、自動二輪車12は、車体を構成するクレードル型の車体フレーム13と、操舵輪である前輪14と、駆動輪である後輪16と、前輪14を操舵するハンドル18と、乗員が着座するシート20とを備える。該シート20は、車体フレーム13から車体後方に向けて延設されたシートレール22L、22Rに取付支持部(図示せず)を介して取り付けられている。前輪14はタイヤ14aとホイール14bからなり、後輪16はタイヤ16aとホイール16bからなる。
【0050】
車体フレーム13は、ハンドル18を操舵可能に支承するヘッドパイプ24、左右対称のダウンフレーム25L、25R及びアッパーフレーム26L、26Rによってクレードルスペースを形成している。車体フレーム13は、ダイヤモンド型等であってもよい。また、公知のようにエンジン自体が強度部材としてフレームの一部を兼ねる場合もある。
【0051】
車体前方部において、ハンドル18の下方に前記ヘッドパイプ24が軸支され、該ヘッドパイプ24の下端側には、フロントフォーク28L、28Rが軸支されている。該フロントフォーク28L、28Rは、ホイール14bを回転自在に軸支する。
【0052】
前輪14には、ブレーキロータ27L、27Rとブレーキキャリパ29L、29Rからなるディスクブレーキが配設される。ブレーキロータ27L、27Rはフロントフォーク28L、28Rに支持されるとともに、ハンドル18の握り部に付されるブレーキレバー(図示せず)へと接続されている。
【0053】
また、フロントフォーク28L、28Rには、前輪14を上方から覆うフロントフェンダ23が取り付けられており、さらに、車体フレーム13側から前輪14を覆う対向カバー30が取り付けられている。対向カバー30は、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に取り付けられており、カバー部30aと該カバー部30aを支持する左右二対の支持アーム30bとからなる。この場合、対向カバー30はタイヤ14aよりも摩擦係数の低く硬質な部材、例えば鋼板等の金属部材からなり、断面半円弧状であって、且つ側面視約40度(好適には30度〜50度)の円弧の形状である。また、支持アーム30bは、カバー部30aよりも薄板の金属部材で形成されており、また、該支持アーム30bはブレーキキャリパ29L、29Rによって支持されている。支持アーム30bは走行時に振動しない程度の強度があれば足り、適度に弱く構成されている。このため、支持アーム30bは、カバー部30aよりも軟質の金属部材を用いて形成してもよい。また、図1に示す対向カバー30は車体フレーム13側のみに設けられているが、該対向カバー30を車輪の上方まで延在させフロントフェンダ23と対向カバー30とを一体的にしてもよく、またはフロントフェンダ23と対向カバー30を連続的なデザインとしてもよい。
【0054】
一方、車体後方部において、シート20の下方には、車体フレーム13の後部にリアクッション32で懸架されたスイングアーム34が配設され、該スイングアーム34により、タイヤ16aが回転自在に軸支されている。
【0055】
前記ハンドル18とシート20との間のシート20側における車体フレーム13の上部には燃料タンク36が取り付けられている。該燃料タンク36の前方にはエアバッグ19が配設されている。また、燃料タンク36の下方における車体フレーム13のクレードルスペース内には、例えば4サイクル型からなるエンジン38が配置され、該エンジン38の排気口に接続された排気管40を介した車体後方部には、消音器(マフラ)42が配設されている。さらに、燃料タンク36の下部であってエンジン38の上部には、図示しないエアクリーナ等を収納するエアチャンバ44が設けられている。
【0056】
前記燃料タンク36とシート20と間の下部において、カバー46で覆われた空間には、バッテリ48と、ECU(エンジン制御ECU)50とが並設されている。ECU50は、エンジン38のFI(フューエルインジェクション)制御、各種電装部品の制御、燃費算出及び表示制御等を行う制御部である。
【0057】
前記カバー46の後方において、シートレール22L、22Rには、その後部から斜め上方に延びたU字状のグリップバー52が連結されている。さらに、シート20の下部には、リアフェンダ54が設けられ、該リアフェンダ54にはウインカ56L、56Rが配置されている。前記リアフェンダ54の上部には、テールライト58が取り付けられ、前記リアフェンダ54の前方には、ガードカバー60が取り付けられている。
【0058】
前記ヘッドパイプ24の上方においてハンドル18の前方には、運転者が視認しやすい位置に、ブラケット61を介してメータユニット(表示装置)62が配設され、該メータユニット62の下方においてハンドル18の前方の略中央部には、ヘッドライト68が配置されている。
【0059】
図2に示すように、ダウンフレーム25L、25Rの前方の、対向カバー30を臨む位置には、転舵プレート(前輪案内部材)31が配設される。
【0060】
転舵プレート31は、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部33と、該前頂部33から左方向へ向かって後方に寄る傾斜面(傾斜部)35とを有する。転舵プレート31は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜面35を保持するために、補強部31aによって補強される。
【0061】
ここで、対向カバー30の車高方向の幅をH1とし、転舵プレート31の車高方向の幅をH2とすると、H1とH2との関係は、H1>H2となっている。
【0062】
また、前頂部33は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0063】
本実施形態に係る車体構造10を含む鞍乗り型車両である自動二輪車12は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0064】
図3は、本実施の形態の車体構造10が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。また、図4A、図4Bは、自動二輪車12に、前方より力を受けた場合の概略説明図である。図4Aは前記自動二輪車12が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図4Bは前記自動二輪車12が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0065】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図4Aの矢印に示す自動二輪車12の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0066】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート31へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0067】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート31の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート31からバランスよく押圧される。
【0068】
また、カバー部30aは、傾斜面35よりも高さ方向に適度に長い(H1>H2)ことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート31に当接する。
【0069】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート31の傾斜面35に摺接し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図4Bの矢印α方向)へと変位する。
【0070】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート31から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート31がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0071】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0072】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Pで傾斜面35に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。これにより自動二輪車12は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜面35を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0073】
なお、この場合、前頂部33は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車12の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図4Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0074】
この場合、対向カバー30は、支持アーム30bがフロントフォーク28L、28Rによって支持されるブレーキキャリパ29L、29Rと締結されることで固定されており、このため、フロントフォーク28L、28R、又は、ヘッドパイプ24のいずれが最初に変形したとしても、車体フレーム13側の突出部である転舵プレート31には、対向カバー30が衝突する。この衝突の際、支持アーム30bが先に変形するため、カバー部30a及び支持アーム30bを過度に高強度とする必要がなく、すなわち、支持アーム30b、カバー部30aともに適度に薄く、軽くでき、また、自動二輪車12の重心Gよりも低位置に設けられているため、対向カバー30が前輪14の、いわゆるバネ下荷重に対して与える影響が小さい。
【0075】
また、前輪14の摩擦係数μ1と対向カバー30の摩擦係数μ2の関係がμ1>μ2であるように部材を設定することで、前輪14と対向カバー30とが係止された状態において、対向カバー30と前輪14が一体となって転舵プレート31と摺動する。このため、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、車体フレーム13と、該車体フレーム13に回動自在に設けられるハンドル18と、該ハンドル18より延伸し前輪14を軸支するフロントフォーク28L、28Rを有し、車体フレーム13における自動二輪車12の進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられるとともに、傾斜面35を備える転舵プレート31と、フロントフォーク28L、28Rに支持され、前輪14の後方を覆い、転舵プレート31と対向して臨む対向カバー30とを有する。このため、自動二輪車12に該自動二輪車12の前方からの推進力の反力が加わった際には、転舵プレート31の傾斜面35と対向カバー30とが摺動し、前輪14及び対向カバー30は傾斜面35に沿って矢印α方向へ案内される。
【0077】
この場合、対向カバー30は、金属部材で形成されているが、金属部材には限らず、タイヤ14aと比較して、摩擦係数が小さく、硬質でしかも割れにくいものであればよい。従って、迅速に前輪14の転舵を促進することが可能となる。
【0078】
また、対向カバー30は断面半円弧形状で、前輪14に近接し、該前輪14と略同心の円弧形状であり、その円弧長さ、すなわち車高方向の幅は傾斜面35の車高方向の幅より大きくなっている。このため、対向カバー30は、前方より力が加わって支持アーム30bが変形したタイヤ14aに対して広範囲に当接して力が分散され、該タイヤ14aの変形(潰れ)を好適に抑制する。
【0079】
そして、フロントフォーク28L、28Rに支持アーム30bを介して設けられる対向カバー30は、前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形することで傾斜面35に当接及び摺接するとき、支持アーム30bの変形によって、前輪14に当接する。すなわち、支持アーム30bの変形によって対向カバー30をタイヤ14aに当接させるため、対向カバー30を過度に高強度とすることなくタイヤ14aと面接触で摺動させることができ、対向カバー30は軽量化が可能となり、前輪14の、いわゆるバネ下荷重があまり大きくなることなく、走行安定性、操舵性への影響は少ない。
【0080】
また、転舵プレート31は、自動二輪車12の進行方向に前頂部33を有し、該前頂部33は、前輪14を一方の最大角まで転舵した際の該前輪14の車幅方向に対する左右中央の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置する。これにより、前輪14を最大角まで左右いずれかに転舵した際に前方から力を受けた場合であっても、自動二輪車12は想定された方向に転舵が促進される。
【0081】
また、対向カバー30は、フロントフォーク28L、28Rに支持されるブレーキキャリパ29L、29Rによって支持される。このため、フロントフォーク28L、28Rが想定した以上に車両後方に湾曲し、塑性変形した場合には、対向カバー30と前頂部33とが摺動する。従って、自動二輪車12に、該自動二輪車12の前方側から力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する。
【0082】
また、転舵プレート31の前頂部33の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示すように、設計条件によっては、転舵プレート70の傾斜を逆向きの傾斜面72とし前頂部74を左側としてもよい。
【0083】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係る車体構造100及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第2の実施形態に係る車体構造100が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造100以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0084】
図6に示すように、第2の実施形態に係る車体構造100は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート(前輪案内部材)131とを備える。
【0085】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造10における対向カバー30と同様に構成されている。
【0086】
転舵プレート131は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部133と、該前頂部133から左方向へ向かって後方に寄る傾斜部135とを有する。転舵プレート131は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜部135を保持するために、補強部131aによって補強される。
【0087】
ここで、第1の実施形態と同様に、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート131の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0088】
また、前頂部133は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0089】
傾斜部135は、前記対向カバー30の、傾斜部135に沿う変位を円滑にする摺動促進機構136を有する。図6に示すように、第2の実施形態において、摺動促進機構136は、傾斜部135の本体部137の表面に沿って配置された板状部材136aと、板状部材136aを傾斜部135の本体部137に固定する複数の固定部136bとを有している。
【0090】
板状部材136aの構成材料としては、例えば、樹脂部材が挙げられる。この場合に、板状部材136aを構成する樹脂部材としては、傾斜部135の本体部137に対して摺動抵抗が小さいものを選定するとよい。
【0091】
また、板状部材136aと、傾斜部135の本体部137との摺動面の一方又は両方に、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の固体潤滑剤をコーティングし、板状部材136aと、傾斜部135の本体部137との摺動抵抗を小さくしてもよい。
【0092】
固定部136bは、対向カバー30が板状部材136aに当接及び摺接したときに、板状部材136aから受ける力によって破断する程度に強度が低く構成されるように、材質、形状、寸法等が設定されている。このような固定部136bの構成材料としては、例えば、樹脂部材が挙げられる。
【0093】
図6に示した固定部136bは、傾斜部135の本体部137に螺合するネジの形態を有した留め具であり、ネジの軸部が板状部材136aを貫通するとともに本体部137に螺合し、ネジの頭部と本体部137との間で板状部材136aを挟むことで、板状部材136aが本体部137に固定されている。
【0094】
ここで、固定部136bは、対向カバー30との干渉を避けるために、傾斜部135の車幅方向の左右の端部近傍に設けられている。
【0095】
固定部136bは、前述のものに限られず、頭部を有するピン状のものを板状部材136aに貫通させるとともに本体部137に設けたピン穴に押入して嵌合させたものでもよく、また、本体部137と板状部材136aとを弾性的に挟持するクリップ状のものでもよい。
【0096】
第2の実施形態に係る車体構造100を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0097】
図7Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図7Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0098】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図4Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0099】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート131へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0100】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート131の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート131からバランスよく押圧される。
【0101】
また、カバー部30aは、傾斜部135よりも高さ方向に適度に長いことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート131に当接する。
【0102】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート131の傾斜部135に摺接し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図7Bの矢印α方向)へと変位する。
【0103】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート131から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート131がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0104】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0105】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Pで傾斜面135に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0106】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜部135を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0107】
また、前輪14が後方に移動して対向カバー30が傾斜部135に当接及び摺接するとき、対向カバー30と板状部材136aとの摩擦抵抗により、板状部材136aは矢印α方向への力を受ける。このとき、傾斜部135の本体部137に板状部材136aを固定している固定部136bの強度が適度に低く設定されているから、固定部136bは、板状部材136aが受ける矢印α方向の力によって破断する。すると、傾斜部135の本体部137に対して板状部材136aの固定が解除されるから、板状部材136aが、傾斜部135の本体部137に沿ってα方向にスライドする。このため、傾斜部135に沿った斜め後方への前輪14の案内が促進され、前輪14の転舵が一層促進される。
【0108】
なお、この場合、前頂部133は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車12の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図7Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0109】
以上のように、第2の実施形態によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、車体フレームの進行方向側の端部に設けられた前記転舵プレート131と対向カバー30とが摺動し、前記前輪14及び前記対向カバー30は前記傾斜部135に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0110】
また、第2の実施形態によれば、摺動促進機構136が設けられることで、対向カバー30の、傾斜部135に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0111】
しかも、第2の実施形態によれば、摺動促進機構136を、傾斜部135の本体部137の表面に沿って配置された板状部材136aと、該板状部材136aを前記本体部137とにより構成することで、前輪14が後方に移動して対向カバー30が傾斜部135に当接したとき、対向カバー30と傾斜部135との摩擦抵抗で、板状部材136aが、傾斜部135の本体部137に対してスライドして分離する。このため、傾斜部135に沿った斜め後方への車輪の案内が促進され、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪14をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0112】
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と共通する各構成部分については、第1の実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0113】
また、転舵プレート131の前頂部133の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示した第1の実施形態の変形例と同様に、設計条件によっては、転舵プレート131の傾斜を、逆向きにして、前頂部133を左側としてもよい。
【0114】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係る車体構造200及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第3の実施形態に係る車体構造200が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造200以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0115】
図8に示すように、第3の実施形態に係る車体構造200は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート231(前輪案内部材)とを備える。
【0116】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造200における対向カバー30と同様に構成されている。
【0117】
転舵プレート231は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、中央部より右に変位した前頂部233と、該前頂部233から左方向へ向かって後方に寄る傾斜部235とを有する。転舵プレート231は、肉厚の高強度部材であって、さらに、車両の前方より力が加わった場合においても、傾斜部235を保持するために、補強部231aによって補強される。
【0118】
ここで、第1の実施形態と同様に、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート231の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0119】
また、前頂部233は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで変位している。
【0120】
傾斜部235は、前記対向カバー30の、前記傾斜部235に沿う変位を円滑にする摺動促進機構236を有する。
【0121】
図8に示すように、第3の実施形態における摺動促進機構236は、複数のローラ238により構成される。複数のローラ238は、傾斜部235の本体部237に沿って配設されており、各ローラ238は、本体部237に固定された上下の支持部材239に、鉛直軸心を中心に回転自在に支持されている。
【0122】
ローラ238は、傾斜部235の略全長に亘る範囲で配設されるのがよく、また、本体部237の車高方向の寸法と同程度の長さを有するのがよい。また、各ローラ238の直径及び配置間隔は、対向カバー30がローラ238に押圧された際に、対向カバー30が喰い込まない程度に小さく狭く設定されている。
【0123】
第3の実施形態に係る車体構造200を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0124】
図9Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図9Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0125】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図9Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0126】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、突出部である対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート231へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0127】
この後、カバー部30aは、タイヤ14aと当接したまま、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って傾斜部235のローラ238に接触し、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、迅速且つ確実に車両の左後方側(図9Bの矢印α方向)へと変位する。
【0128】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート231から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、迅速にα方向へと案内される。また、転舵プレート231がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがない。
【0129】
タイヤ14aが多少変形した場合であっても、対向カバー30はホイール14bに支持されるので、結局、前輪14はα方向へと即時に案内されることとなる。
【0130】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点P付近でローラ238に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0131】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は傾斜部235を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車のピッチングが抑制できると考えられる。
【0132】
また、第3の実施形態の場合、対向カバー30がローラ238によってα方向にスムーズに案内されるから、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪14の転舵が一層促進される。
【0133】
なお、この場合、前頂部233は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側に位置しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図9Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前記前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0134】
以上のように、第3の実施形態によれば、鞍乗り型車両に該鞍乗り型車両の前方より力が加わった際には、車体フレーム13の進行方向側の端部に設けられた転舵プレート231と対向カバー30とが摺動し、前輪14及び前記対向カバー30は傾斜部235に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0135】
また、第3の実施形態によれば、摺動促進機構236が設けられることで、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗が小さくなるので、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0136】
しかも、第3の実施形態によれば、摺動促進機構236を複数のローラ238で構成することで、対向カバー30の、傾斜部235に対する摺動抵抗を効果的に小さくすることができ、前輪14の転舵が一層促進される。このため、前方より力が加わった際に、前輪14をより迅速に転舵させることが可能となり、車両のピッチングを、より効果的に抑制することが可能となる。
【0137】
なお、第3の実施形態において、第1の実施形態と共通する各構成部分については、第1の実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0138】
また、転舵プレート231の前頂部233の変位方向は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設けることが可能であり、図5に示した第1の実施形態の変形例と同様に、設計条件によっては、転舵プレート231の傾斜を、逆向きにして、前頂部233を左側としてもよい。
【0139】
[第4の実施形態]
図10は、本発明の第4の実施形態に係る車体構造300及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第4の実施形態に係る車体構造300が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造300以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0140】
図10に示すように、第4の実施形態に係る車体構造300は、車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート(前輪案内部材)331を備える。
【0141】
転舵プレート331は、自動二輪車の重心よりも低位置に設けられており、車体フレーム13の、車幅方向の左右一方の側(図10の構成例では右側)で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面302を有する。
【0142】
車体フレーム13における進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所で、車幅方向の左右一方の側に、ブラケット304が固定され、該ブラケット304の前端に、アーム306が前後方向に揺動可能に軸支されている。このアーム306に、前述した案内面302を有する転舵プレート331が一体的に連結されている。
【0143】
転舵プレート331は、前輪14が前方から力を受けない通常時、すなわち前輪14と前輪案内部材とが離間しているとき、待機位置(初期位置)に保持される。この待機位置は、図10に示すように、車両の前後方向に対して案内面302が傾斜するような位置でもよく、また、車両の前後方向に対して案内面302が直角となるような位置でもよい。
【0144】
アーム306は、前輪14が前方から力を受けない通常時において、車両の走行時の振動や、加減速時の慣性力等によって揺動することがない一方、前輪14からの後方への力を受けたときに、その力によって後方に揺動するように、ブラケット304に取り付けられている。
【0145】
例えば、アーム306の、ブラケット304に対する変位抵抗(回転抵抗)をある程度大きく設定しておき、転舵プレート331を介してアーム306に作用する後方への力が所定以上となったときに、後方に変位(揺動)するように構成してよい。また、転舵プレート331が前述した待機位置を保持するようにバネ等の付勢部材によってアーム306を付勢しておき、アーム306に作用する後方への力が所定以上となったときに、付勢部材の付勢力に抗してアーム306が後方に揺動するように構成してもよい。
【0146】
前述した転舵プレート331、アーム306及びブラケット304は、前方から力を受けた際に大きく変形することがない程度の剛性を有するように、肉厚、材質等が設定されている。
【0147】
また、待機位置にあるときの転舵プレート331は、前輪14を最大角度転舵した際に車両の前方より力が加わった場合であっても、前輪14が同一方向に転舵を促進される位置まで延在している。
【0148】
第4の実施形態に係る車体構造300を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0149】
図11Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図11Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0150】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図11Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0151】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、タイヤ14aは車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート331へと衝突する。
【0152】
この後、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24がさらに変形すると、転舵プレート331がタイヤ14aにより後方に押圧される。転舵プレート331は、通常時には待機位置に保持されているが、タイヤ14aにより後方に押圧されたとき、この押圧力が、転舵プレート331を待機位置に保持する力(回転抵抗や付勢力等)を上回るため、転舵プレート331が後方へ揺動(回転)し始める。
【0153】
すると、前輪14は、転舵プレート331の傾斜に沿って、矢印α方向へと案内されると同時に、転舵プレート331に当接する前輪14の後方部分が、転舵プレート331の回転に伴う案内面302の変位によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向(図11Bで左方向)に変位させられる。
【0154】
結局、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、案内面302に沿って斜め後方へと案内される。
【0155】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Q1で案内面302に当接する。一方、自動二輪車全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0156】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレーム13には同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は案内面302を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車12のピッチングが抑制できると考えられる。
【0157】
なお、この場合、転舵プレート331は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側まで延在しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図11Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0158】
以上のように、第4の実施形態によれば、鞍乗り型車両の前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形し、前記前輪14が転舵プレート331に当接したとき、転舵プレート331が前輪14からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、前記鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、前記鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0159】
また、第4の実施形態によれば、前輪14が前方から力を受けない通常時には、転舵プレート331は待機位置に保持され、前輪14が前方から力を受けて転舵プレート331に当接及び摺接するときに転舵プレート331が回転するので、前輪14が後方に移動したときに前輪14の転舵を確実に促進できる。
【0160】
なお、転舵プレート331を軸支する位置は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設定することが可能であり、設計条件によっては、転舵プレート331を、図11A及び図11Bに示した配置に対して左右逆に配置し、転舵プレート331を軸支する位置を車両の左側に設定してもよい。
【0161】
[第5の実施形態]
図12は、本発明の第5の実施形態に係る車体構造400及びその周辺を拡大した一部省略拡大斜視図である。なお、第5の実施形態に係る車体構造400が搭載される鞍乗り型車両の、当該車体構造400以外の部分の構成は、第1の実施形態に係る車体構造10が搭載される鞍乗り型車両12の構成と同様であるので、該鞍乗り型車両12と同一又は同様の要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0162】
図12に示すように、第4の実施形態に係る車体構造400は、前輪14の後方を覆う対向カバー30と、車体フレームにおける進行方向前方部分で前輪14を臨む箇所に設けられた転舵プレート331(前輪案内部材)とを備える。
【0163】
対向カバー30は、第1の実施形態の車体構造400における対向カバー30と同様に構成されている。
【0164】
転舵プレート331は、第4の実施形態の車体構造400における転舵プレート331と同様に構成されている。
【0165】
ここで、対向カバー30の車高方向の幅は、転舵プレート331の車高方向の幅よりも大きく設定されている。
【0166】
第5の実施形態に係る車体構造400を含む鞍乗り型車両である自動二輪車は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果について説明する。
【0167】
図13Aは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突する直前の状態を示し、図13Bは前記自動二輪車が何らかの障害物に衝突した直後の状態を示す。
【0168】
例えば、前輪14が何らかの障害物に衝突したことを想定したならば、図13Aの矢印に示す自動二輪車の推進力の反力が前輪14に加わる。ここで、前輪14に加わった前記反力により、フロントフォーク28L、28Rとヘッドパイプ24は車体フレーム13方向へと撓む。
【0169】
この際、前記反力が、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の降伏応力を上回るほど大きいと、前記フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24は塑性変形し、対向カバー30は車体フレーム13の前方に設けられた転舵プレート331へと衝突する。この時、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0170】
前輪14が後方に移動し、前輪14が強制的に転舵されるまでの前述した過程において、対向カバー30が転舵プレート331に衝突した際、対向カバー30の支持アーム30bは変形するため、カバー部30aは略同形状のままタイヤ14aと当接する。
【0171】
この場合、カバー部30aは側面視約40度であるため、タイヤ14aの広範囲を被覆し、タイヤ14aは大きく変形することなく、従って、タイヤ14aの変形による時間遅れが生ずることがない。また、カバー部30aは高さ方向略中央部が転舵プレート331の傾斜面35に対向する。このため、対向カバー30は転舵プレート331からバランスよく押圧される。
【0172】
また、カバー部30aの高さ方向の幅は、傾斜面35の高さ方向の幅よりも長いことから、ブレーキング作用によってフロントフォーク28L、28Rが沈み込んでいる場合であっても転舵プレート331に当接する。
【0173】
この後、前輪14及び対向カバー30の一体状態を維持しつつ、カバー部30aは、フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24の変形に従って転舵プレート331の案内面302に摺接する。
【0174】
換言すれば、対向カバー30のカバー部30aは適度に硬く、その面積は広く、しかも高さ方向中央部分が転舵プレート331から押圧されるため、支持アーム30bが屈曲した後、カバー部30aは、タイヤ14aに対して広範囲にバランスよく接触する。従って、タイヤ14aはあまり変形することなく、また、転舵プレート331がタイヤ14a又はホイール14bの一部に喰い込んでしまうことがないので、タイヤ14aは迅速にα方向へ案内され始める。
【0175】
フロントフォーク28L、28R又はヘッドパイプ24がさらに変形すると、転舵プレート331が対抗カバーにより後方に押圧される。転舵プレート331は、通常時には待機位置に保持されているが、対向カバー30により後方に押圧されたとき、この押圧力が、転舵プレート331を待機位置に保持する力(回転抵抗や付勢力等)を上回るため、転舵プレート331が後方へ揺動(回転)し始める。
【0176】
すると、前輪14は対向カバー30と一体となって、転舵プレート331の傾斜に沿って、矢印α方向へと案内されると同時に、対向カバー30が、転舵プレート331の回転に伴う案内面302の変位によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向(図13Bで左方向)に変位させられる。
【0177】
結局、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331に沿って斜め後方へと案内される。
【0178】
これにより、前輪14は強制的に転舵され、対向カバー30は中心軸Jから左方にずれた点Q2で案内面に当接する。一方、自動二輪車12全体の重心Gは中心軸上にあって前方Frへと進もうとすることから、結局右方にずれた矢印β方向へ向かうこととなる。
【0179】
前輪14の転舵の結果として、自動二輪車は、略水平面内に移動する力を受けることになり、円直面内で回転させる力はほとんど発生することがない。従って、前輪14に加わった車両進行方向と逆向き(Rr方向)への反力は車体フレームには同方向(Rr方向)では加わらず、また、エネルギの伝達は案内面302を摺動する時間幅に分散されるため、衝撃性も著しく緩和され得る。このため、自動二輪車のピッチングが抑制できると考えられる。
【0180】
なお、この場合、転舵プレート331は、前輪14を最大角まで転舵した際の、該前輪14の進行方向に対して左右中央の延長上よりもさらに自動二輪車の外側まで延在しているため、例えば、前輪14が最大転舵角までの転舵中(図13Aの二点鎖線参照)に何らかの障害物に衝突したとしても、前輪14は同一方向へと強制的に転舵される。
【0181】
以上のように、第5の実施形態によれば、鞍乗り型車両の前輪14が前方から力を受けてフロントフォーク28L、28Rが変形し、対向カバー30が転舵プレート331に当接したとき、転舵プレート331が対向カバー30からの力を受けて後方に回転する。すると、前輪14は、転舵プレート331によって、車幅方向の、転舵プレート331が軸支された側とは反対側の方向に押されながら、転舵プレート331の傾斜に沿って車両進行方向後方へと案内される。従って、鞍乗り型車両は強制的に転舵を促進される。このため、鞍乗り型車両の前方より力が加わった際にも、車両のピッチングを抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0182】
また、第5の実施形態によれば、前輪14が前方から力を受けない通常時には、転舵プレート331は待機位置に保持され、対向カバー30が前方から力を受けて転舵プレート331に当接及び摺接するときに転舵プレート331が回転するので、前輪14が後方に移動したときに前輪14の転舵を確実に促進できる。
【0183】
また、第5の実施形態によれば、前輪14が後方に移動したとき、摩擦係数が小さい対向カバー30が転舵プレート331と当接及び摺接するので、転舵をより迅速に、且つ効率的に促進せしめる。しかも、対向カバー30は、タイヤ14aと比較して、硬質で割れにくいため、転舵プレート331に当接した際に大きく変形することがなく、転舵プレート331によって斜め後方に迅速に案内される。このため、車両のピッチングを素早く抑制する鞍乗り型車両の提供が可能となる。
【0184】
なお、転舵プレート331を軸支する位置は、車種、車体に依存はせず、左右いずれにも設定することが可能であり、設計条件によっては、転舵プレート331を、図13A及び図13Bに示した配置に対して左右逆に配置し、転舵プレート331を軸支する位置を車両の左側に設定してもよい。
【0185】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。また、本発明は、エアバッグを搭載した鞍乗り型車両において特に有効性が高いが、該エアバッグを搭載した鞍乗り型車両に限定されるものではなく、種々の鞍乗り型車両において用いることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0186】
13…車体フレーム 14…前輪
19…エアバッグ 27L、27R…ブレーキロータ
28L、28R…フロントフォーク 29L、29R…ブレーキキャリパ
30…対向カバー
31、70、131、231、331…転舵プレート
33、74、133、233…前頂部 35、72…傾斜面
135、235…傾斜部 136、236…摺動促進機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレーム(13)と、前記車体フレーム(13)に回動自在に設けられるハンドル(18)と、前記ハンドル(18)より延伸し前輪(14)を軸支するフロントフォーク(28L、28R)と、を有する鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体フレーム(13)における進行方向前方部分で前記前輪(14)を臨む箇所に設けられるとともに、車幅方向の左右一方から他方に向かって車両進行方向前方から後方に寄る傾斜部(35、135、235)を備える前輪案内部材(31、131、231)と、
フロントフォーク(28L、28R)に支持され、前記前輪(14)の後方を覆い、前記前輪案内部材(31、131、231)と対向して臨む対向カバー(30)と、を有することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項2】
車体フレーム(13)と、前記車体フレーム(13)に回動自在に設けられるハンドル(18)と、前記ハンドル(18)より延伸し前輪(14)を軸支するフロントフォーク(28L、28R)と、を有する鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体フレーム(13)における進行方向前方部分で前記前輪(14)を臨む箇所に設けられるとともに、前記車体フレーム(13)の、車幅方向の左右一方の側で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面を有する前輪案内部材(331)を備えることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
フロントフォーク(28L、28R)に支持され、前記前輪(14)の後方を覆い、前記前輪案内部材(331)と対向して臨み、前記前輪(14)よりも摩擦係数が小さい対向カバー(30)を有することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項4】
請求項2記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記前輪(14)と前記前輪案内部材(331)とが離間しているとき、前記前輪案内部材(331)は、待機位置に保持され、
前記前輪(14)が前記前輪案内部材(331)に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材(331)は、前記前輪(14)から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項5】
請求項3記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)と前記前輪案内部材(331)とが離間しているとき、前記前輪案内部材(331)は、待機位置に保持され、
前記前輪(14)が前記前輪案内部材(331)に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材(331)は、前記対向カバー(30)から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項6】
請求項1、3又は5記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、金属部材又は樹脂部材で形成されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項7】
請求項1、3、5又は6記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、前記フロントフォーク(28L、28R)に対して、支持部材(30b)を介して設けられ、
前記支持部材(30b)は、前記前輪(14)が前方から力を受けて前記フロントフォーク(28L、28R)が変形し、前記対向カバー(30)が前記傾斜部(35、135、235)に当接及び摺接するとき、前記支持部材(30b)の変形によって、前記対向カバー(30)は前記前輪(14)に当接することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項8】
請求項1に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記前輪案内部材(31)は、車体フレーム(13)の車両進行方向前方に前頂部(33、133、233)を有し、
前記前頂部(33、133、233)は、前記前輪(14)を一方の最大角まで転舵した際の、該前輪(14)の、車幅方向に対する左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項9】
請求項1、3、5、6又は7に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、前記フロントフォーク(28L、28R)に、複数の支持部材を介して支持されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項10】
請求項1に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記傾斜部(135、235)は、前記対向カバー(30)の、前記傾斜部(135)に沿う変位を円滑にする摺動促進機構(136、236)を有する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項11】
請求項10記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記摺動促進機構(136)は、前記傾斜部(135)の本体部(137)の表面に沿って配置された板状部材(136a)と、該板状部材(136a)を前記傾斜部(135)の本体部(137)に固定する固定部(136b)とを有し、前記対向カバー(30)が前記傾斜部(135)に当接及び摺接するとき、前記固定部(136b)による前記板状部材(136a)の固定が解除されて、前記板状部材(136a)が前記本体部(137)に対してスライドする、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項12】
請求項11記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記板状部材(136a)は、樹脂部材により構成され、
前記傾斜部(135)の本体部(137)は、金属材料により構成される、
ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項13】
請求項10記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記摺動促進機構(236)は、複数のローラ(238)により構成される、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項14】
請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12又は13に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)の車高方向の幅は、前記前輪案内部材(31、131、231、331)の車高方向の幅よりも大きい、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項15】
請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12、13又は14に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、断面円弧形状であって、側面視円弧状に形成されている、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体構造は、車高方向の前記鞍乗り型車両(12)の重心高さよりも低い位置に設置されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項1】
車体フレーム(13)と、前記車体フレーム(13)に回動自在に設けられるハンドル(18)と、前記ハンドル(18)より延伸し前輪(14)を軸支するフロントフォーク(28L、28R)と、を有する鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体フレーム(13)における進行方向前方部分で前記前輪(14)を臨む箇所に設けられるとともに、車幅方向の左右一方から他方に向かって車両進行方向前方から後方に寄る傾斜部(35、135、235)を備える前輪案内部材(31、131、231)と、
フロントフォーク(28L、28R)に支持され、前記前輪(14)の後方を覆い、前記前輪案内部材(31、131、231)と対向して臨む対向カバー(30)と、を有することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項2】
車体フレーム(13)と、前記車体フレーム(13)に回動自在に設けられるハンドル(18)と、前記ハンドル(18)より延伸し前輪(14)を軸支するフロントフォーク(28L、28R)と、を有する鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体フレーム(13)における進行方向前方部分で前記前輪(14)を臨む箇所に設けられるとともに、前記車体フレーム(13)の、車幅方向の左右一方の側で軸支されて、前後方向に揺動自在であり、車幅方向に延在する案内面を有する前輪案内部材(331)を備えることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
フロントフォーク(28L、28R)に支持され、前記前輪(14)の後方を覆い、前記前輪案内部材(331)と対向して臨み、前記前輪(14)よりも摩擦係数が小さい対向カバー(30)を有することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項4】
請求項2記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記前輪(14)と前記前輪案内部材(331)とが離間しているとき、前記前輪案内部材(331)は、待機位置に保持され、
前記前輪(14)が前記前輪案内部材(331)に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材(331)は、前記前輪(14)から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項5】
請求項3記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)と前記前輪案内部材(331)とが離間しているとき、前記前輪案内部材(331)は、待機位置に保持され、
前記前輪(14)が前記前輪案内部材(331)に当接及び摺接するとき、前記前輪案内部材(331)は、前記対向カバー(30)から受ける力によって、前記待機位置から、車幅方向の左右の他方且つ車両前後方向の後方に変位するように回転する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項6】
請求項1、3又は5記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、金属部材又は樹脂部材で形成されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項7】
請求項1、3、5又は6記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、前記フロントフォーク(28L、28R)に対して、支持部材(30b)を介して設けられ、
前記支持部材(30b)は、前記前輪(14)が前方から力を受けて前記フロントフォーク(28L、28R)が変形し、前記対向カバー(30)が前記傾斜部(35、135、235)に当接及び摺接するとき、前記支持部材(30b)の変形によって、前記対向カバー(30)は前記前輪(14)に当接することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項8】
請求項1に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記前輪案内部材(31)は、車体フレーム(13)の車両進行方向前方に前頂部(33、133、233)を有し、
前記前頂部(33、133、233)は、前記前輪(14)を一方の最大角まで転舵した際の、該前輪(14)の、車幅方向に対する左右中央の、且つ、前輪の進行方向後方への延長上よりも車両の外側に位置することを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項9】
請求項1、3、5、6又は7に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、前記フロントフォーク(28L、28R)に、複数の支持部材を介して支持されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項10】
請求項1に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記傾斜部(135、235)は、前記対向カバー(30)の、前記傾斜部(135)に沿う変位を円滑にする摺動促進機構(136、236)を有する、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項11】
請求項10記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記摺動促進機構(136)は、前記傾斜部(135)の本体部(137)の表面に沿って配置された板状部材(136a)と、該板状部材(136a)を前記傾斜部(135)の本体部(137)に固定する固定部(136b)とを有し、前記対向カバー(30)が前記傾斜部(135)に当接及び摺接するとき、前記固定部(136b)による前記板状部材(136a)の固定が解除されて、前記板状部材(136a)が前記本体部(137)に対してスライドする、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項12】
請求項11記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記板状部材(136a)は、樹脂部材により構成され、
前記傾斜部(135)の本体部(137)は、金属材料により構成される、
ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項13】
請求項10記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記摺動促進機構(236)は、複数のローラ(238)により構成される、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項14】
請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12又は13に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)の車高方向の幅は、前記前輪案内部材(31、131、231、331)の車高方向の幅よりも大きい、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項15】
請求項1、3、5、6、7、9、10、11、12、13又は14に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記対向カバー(30)は、断面円弧形状であって、側面視円弧状に形成されている、ことを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の鞍乗り型車両(12)の車体構造において、
前記車体構造は、車高方向の前記鞍乗り型車両(12)の重心高さよりも低い位置に設置されることを特徴とする鞍乗り型車両(12)の車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−254278(P2010−254278A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208642(P2009−208642)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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