説明

鞍乗り型車両

【課題】他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置すると共に、ABSモジュールに対する外乱の影響等を抑えることができる鞍乗り型車両を提供する。
【解決手段】車体左右中心線に沿って延びる単一のメインフレーム15と、メインフレーム15の下方でシリンダ49を略水平に配置したエンジン13と、シリンダ49の上面側に接続される吸気通路51Aと、メインフレーム15を上方から跨いで覆うように設けられる燃料タンク41とを備え、ABSモジュール61が、側面視で燃料タンク41とシリンダ49とに上下から挟まれる位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の鞍乗り型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System、以下、ABSという)を備えた自動二輪車が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来は、ABSを機能させるべくブレーキ液圧の減圧を行うABSモジュールが高価かつ大型であったため、部品スペースが比較的確保し易い大排気量の自動二輪車に適用されてきた。特許文献1記載の車両では、ヘッドパイプの直後であってヘッドパイプから後方へ左右に広がるように延びる左右一対のメインフレームの間にABSモジュールを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−74206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年ではABSモジュールが廉価かつ小型になりつつあることから、種々の車両に搭載できるようにすることが望まれているが、他部品との相対配置のみならず、ABSモジュールに対する外乱の影響や車両の外観性等を考慮することも必要であり、ABSモジュールの搭載方法の工夫が必要とされる。
【0005】
そこで本発明は、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置すると共に、ABSモジュールに対する外乱の影響等を抑えることができる鞍乗り型車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、ヘッドパイプ(6)から後方へ車体左右中心線(CL)に沿って延びる単一のメインフレーム(15)と、前記メインフレーム(15)の下方でシリンダ(49)を略水平に配置したエンジン(13)と、前記シリンダ(49)の上面側に接続される吸気通路(51A)と、前記メインフレーム(15)を上方から跨いで覆うように設けられる燃料タンク(41)と、車輪(2,9)に制動力を与える液圧式ブレーキ(56,57)と、前記車輪(2,9)のスリップを回避するべく前記液圧式ブレーキ(56,57)に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール(61,161)とを備える鞍乗り型車両(1)であって、前記ABSモジュール(61,161)は、側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に配置されることを特徴とする。
なお、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記エンジン(13)の吸気量を制御する吸気調整装置(51)を備え、前記吸気調整装置(51)は、前記メインフレーム(15)と平面視で重なる位置に配置され、前記ABSモジュール(61)は、前記燃料タンク(41)と平面視で重なる位置で前記吸気調整装置(51)の左右一側方に並ぶように配置されることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス(53)を備え、前記ABSモジュール(61)は、前記物品収納ボックス(53)の後方で物品収納ボックス(53)の左右幅内に配置されることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記収納ボックス(53)は、前記左右一側方を向く開口(71a)と、前記開口(71a)を開閉可能に覆う蓋部材(72)とを備え、前記蓋部材(72)は、前記開口(71a)の後方まで延びる延長部(72b)を有し、この延長部(72b)が、前記物品収納ボックス(53)の後方に位置する前記ABSモジュール(61)の前記左右一側方を覆うことを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス(53)を備え、前記ABSモジュール(161)は、前記燃料タンク(41)と平面視で重なる位置で前記物品収納ボックス(53)の左右一側方に並ぶように配置されることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、前記ABSモジュール(161)の前記左右一側方を覆うカバー部材(75)を備え、前記ABSモジュール(161)は、前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)の直後に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、メインフレームの下方で略水平に配置したシリンダとメインフレームを跨ぐ燃料タンクとの間に形成された空きスペースを、シリンダの上面側に接続される吸気通路及びABSモジュールの配置スペースとして有効利用することで、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュールを配置できると共に、シリンダによって路面からの跳ね上げがABSモジュールに至り難くすることができる。
【0009】
請求項2に記載した発明によれば、吸気調整装置の左右一側方の空きスペースを有効利用でき、かつ燃料タンクによってABSモジュールに外力が至り難くすることができる。
請求項3に記載した発明によれば、物品収納ボックスの後方の空きスペースを有効利用でき、かつ物品収納ボックスによってABSモジュールに左右外側方からの外力が至り難くすることができる。
請求項4に記載した発明によれば、吸気調整装置の左右一側方に並ぶABSモジュールのさらに左右一側方(車幅方向外側方)を、別途カバー部材を設けることなく覆うことができ、部品点数の増加を抑えた上でABSモジュールの保護及び外観性向上を図ることができる。
請求項5に記載した発明によれば、物品収納ボックスの左右一側方の空きスペースを有効利用でき、かつ燃料タンク及び物品収納ボックスによってABSモジュールに外力が至り難くすることができる。
請求項6に記載した発明によれば、物品収納ボックスの左右一側方に並ぶABSモジュールのさらに左右一側方(車幅方向外側方)をカバー部材で覆うことで、ABSモジュールの保護及び外観性向上を図ると共に、ダウンフレームによって車両前方からの外力がABSモジュールに至り難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態における自動二輪車の左側面図である。
【図2】上記自動二輪車の車体フレーム等の平面図(上面図)である。
【図3】上記自動二輪車の車体フレーム等の正面図(前面図)である。
【図4】上記自動二輪車のブレーキシステムの構成図である。
【図5】本発明の第一実施形態におけるABSモジュールの配置を示す左側面図である。
【図6】図5の平面図である。
【図7】図6のS7−S7断面図である。
【図8】図7のV8矢視図である。
【図9】本発明の第二実施形態におけるABSモジュールの配置を示す左側面図である。
【図10】図9の平面図である。
【図11】図9のABSモジュール支持部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0012】
<第一実施形態>
図1に示す自動二輪車1において、その前輪2は左右フロントフォーク3の下端部に軸支され、左右フロントフォーク3の上部はステアリングステム4及びトップブリッジ4aを介して車体フレーム5前端部のヘッドパイプ6に操向可能に枢支される。トップブリッジ4a上には操向用バーハンドル7が取り付けられる。左右フロントフォーク3間にはフロントフェンダ8が支持される。
【0013】
自動二輪車1の後輪9は、車体後部下側で前後に延びるスイングアーム11の後端部に軸支される。スイングアーム11の前端部は、車体フレーム5下部のピボットパイプ12に上下揺動可能に枢支される。後輪9は、自動二輪車1の原動機であるエンジン13に対し、車体後部左側に配置された例えばチェーン式の伝動機構14を介して連係される。
【0014】
車体フレーム5は、前記エンジン13を取り囲むクレードル形のもので、複数種の鋼材を溶接等により一体に結合してなる。
図2,3を併せて参照し、車体フレーム5は、前記ヘッドパイプ6と、ヘッドパイプ6の後部から下後方へ側面視で比較的緩傾斜をなして延びる単一のメインフレーム15と、メインフレーム15の前端部両側から左右に分岐するように下後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びる左右ダウンフレーム16と、左右ダウンフレーム16の下端部から後方へ湾曲して延びる左右ロアフレーム17と、左右ダウンフレーム16の上部間を連結するフロントアッパクロスパイプ18と、左右ロアフレーム17の前部間を連結するフロントロアクロスパイプ19と、左右ロアフレーム17の後端部間を連結するリアロアクロスパイプ21とを有する。なお、図中符号CLは車体左右中心線を示す。
【0015】
また、車体フレーム5は、メインフレーム15の後端部両側から左右に分岐するように下後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びた後に下前方へ湾曲してリアロアクロスパイプ21に接合される左右ミドルフレーム22と、左右ミドルフレーム22の下部前側に接合されるマウントブラケット23と、マウントブラケット23の下部にこれを貫通した状態で接合される前記ピボットパイプ12と、左右ミドルフレーム22の上端部よりも後方でメインフレーム15の後端部両側から左右に分岐するように上後方へ側面視で比較的緩傾斜をなして延びる左右シートフレーム24と、左右ミドルフレーム22の下部湾曲部の後側から上後方へ側面視で比較的急傾斜をなして延びて左右シートフレーム24の前後中間部に接合される左右サポートフレーム25と、左右シートフレーム24の前部間、前後中間部間及び後部間をそれぞれ連結するフロントクロスブラケット26、センタークロスブラケット27及びリアクロスブラケット28とを有する。
【0016】
メインフレーム15は、例えば左右分割体を一体に接合してなり、左右幅に対して上下幅を広げた縦長の断面形状を有し、車体左右中心線CLに沿って前後に延びる。メインフレーム15は、その前後端に渡って左右幅が略一定なのに対し、後側ほど上下幅が狭まるように形成される。メインフレーム15の前端部下側には、側面視で左右ダウンフレーム16に沿うように下方へ突出するガセット部15aが形成される。ガセット部15aの下端部は、フロントアッパクロスパイプ18に上方から接合される。
【0017】
左右ダウンフレーム16は、下側ほど車幅方向(左右方向)外側方へ広がるように下方へ延び、その下端部が左右ロアフレーム17の前部湾曲部に接続される。左右ロアフレーム17は、その前半部が側面視で比較的緩傾斜をなして下後方へ延び、後半部が略水平に後方へ延びる。左右ダウンフレーム16及び左右ロアフレーム17は、それぞれ車体左右毎に丸鋼管に曲げ加工等を施して一体形成される。なお、各クロスパイプ、左右ミドルフレーム22、左右シートフレーム24及び左右サポートフレーム25も、それぞれ丸鋼管に曲げ加工等を施してなる。
【0018】
左右ダウンフレーム16の直前には、側面視でこれに沿うように傾斜したフロントガードバー29が配置される。フロントガードバー29は丸鋼管に曲げ加工等を施してなり、正面視で概ね矩形状に形成される。左右ダウンフレーム16の間でフロントアッパクロスパイプ18の下方にはフロントアッパプレート18aが設けられ、このフロントアッパプレート18aにフロントガードバー29の上部が締結固定される。左右ダウンフレーム16の下端部(左右ロアフレーム17の前部湾曲部)には左右フロントロアブラケット29aが設けられ、これら左右フロントロアブラケット29aにフロントガードバー29の下部が締結固定される。
【0019】
左右ロアフレーム17は、その前半部が後側ほど車幅方向内側方に位置するように平面視で傾斜し、後半部が左右位置を略一定にして前後に延びる。左右ロアフレーム17の前部湾曲部は、車体フレーム5の下部における左右幅が最も広い最幅広部Wを形成する。左右ロアフレーム17の後部の車幅方向外側には左右メインステップブラケット31が固設され、左ロアフレーム17の後端部の車幅方向外側にはサイドスタンド支持ブラケット32が固設される。左右ミドルフレーム22の下端部後側にはメインスタンド支持ブラケット33が固設される。
【0020】
左右ミドルフレーム22は、メインフレーム15の後端部両側から下後方へ左右位置を略一定にして延びる。左右ミドルフレーム22の下部湾曲部には、その内周方からマウントブラケット23が接合される。マウントブラケット23は、その上下にエンジン13のクランクケース48の上端部及び後端部をそれぞれ支持すると共に、上下中間部にピボットパイプ12を挿通保持する。
【0021】
左右シートフレーム24は、側面視では後上がりの直線状をなして後方へ延びる。また、左右シートフレーム24は、その前半部が平面視で後側ほど車幅方向内側方に位置するように傾斜し、後半部が左右位置を略一定にして前後に延びる。なお、図中符号36は左右シートフレーム24とスイングアーム11の左右アームとの間に介設される左右リアクッションを示す。
【0022】
左右ミドルフレーム22、左右シートフレーム24の前半部及び左右サポートフレーム25は、側面視逆三角形状の空間を形成する。前記空間の左側にはエンジン吸気部品であるエアクリーナボックス37が配置され、前記空間の右側には車載電源であるバッテリ38が配置される。前記空間の車幅方向外側方は、合成樹脂製の左右サイドカバー39によりそれぞれ覆われる。
【0023】
車体上部前側には、メインフレーム15及び左右シートフレーム24の前部に支持される燃料タンク41が配置される。車体上部後側であって燃料タンク41の後方には、左右シートフレーム24に支持される鞍乗りシート42が配置される。鞍乗りシート42は、運転者用の前シートと後部同乗者用の後シートとを一体に有する。車体上後端部には、後シートの後端部の外方を囲うように形成されたグラブレール43が配設されると共に、後シートの後方及び左右下方を外方から覆うように形成されたテールカウル44が配設される。
【0024】
グラブレール43は例えば丸鋼管に曲げ加工等を施してなり、その後方には各種鋼材からなるリアキャリア45が接合される。テールカウル44の内方には、後輪9の上方を間隔を空けて覆うリアフェンダ(不図示)が配置される。前記リアフェンダの後部からは、テールカウル44よりも下方で後輪9の上後方を間隔を空けて覆う後尾フェンダ47が延出する。テールカウル44、前記リアフェンダ及び後尾フェンダ47はそれぞれ合成樹脂製とされる。
【0025】
側面視でメインフレーム15、ミドルフレーム22、ダウンフレーム16及びロアフレーム17に囲まれる部位には、前記エンジン(内燃機関)13が搭載される。
エンジン13は、クランクシャフト(不図示)の回転中心軸線(クランク軸線)C1を左右方向(車幅方向)に沿わせた空冷単気筒エンジンであり、クランクケース48の前端部からシリンダ49を略水平に(詳細にはやや前上がりに傾斜させて)前方に突出させた構成を有する。なお、図中符号C2はシリンダ49の突出方向に沿うシリンダ軸線を示す。シリンダ49は、側面視でシリンダ軸線C2の延長線が前輪2と交差する範囲で傾斜する。
【0026】
シリンダ49は、前記突出方向でクランクケース48側から順にシリンダ本体49a、シリンダヘッド49b及びヘッドカバー49cを有する。シリンダ本体49a内にはピストン(不図示)が往復動可能に嵌装され、このピストンの往復動がクランクケース48前部内の前記クランクシャフトの回転動に変換される。クランクシャフトの回転動力は、クランクケース48後部内のクラッチ及びトランスミッション(何れも不図示)を介してクランクケース48の後部左側に出力され、前記チェーン式の伝動機構14を介して後輪9に伝達される。
【0027】
シリンダ49の上方には、キャブレター(吸気調整装置)51が吸気通路51Aを略水平にして配置される。キャブレター51は、車体左右中央部(平面視でメインフレーム15と重なる位置)に配置され、その前端部が下方に向けて湾曲する接続管51aを介してシリンダヘッド49b上側の吸気ポートに接続される。キャブレター51の後端部には、前記エアクリーナボックス37から前方へ延びるコネクティングチューブ37aが接続される。なお、キャブレター51に代わりスロットルボディを用いた構成としてもよい。
【0028】
シリンダヘッド49b下側の排気ポートには、排気管52の基端部が接続される。前記排気ポートは、シリンダヘッド49b下側で右下方に向けて斜めに開口する。排気管52は、前記排気ポートからシリンダヘッド49bの右下方に向けて延びた後に後方へ湾曲し、右ロアフレーム17の車幅方向外側方を略水平に後方へ延びる。排気管52の後端部は、車体下部右側でやや後上がりに傾斜して延在する筒状のサイレンサ52aの前端部に接続される。
【0029】
なお、図中符号53はシリンダ49の上方かつメインフレーム15の下方に配置される物品収納ボックスを、符号31aは左右ロアフレーム17の後部に支持される運転者用の左右メインステップを、符号54aは左右メインステップ31aの後方に離間して配置される左右ピリオンステップを、符号54はピボットパイプ12の左右端部及び左右サポートフレーム25の中間部に支持されて後端部に左右ピリオンステップ54aを支持する左右ピリオンステップブラケットを、符号55は車体後部左側に配置されて左シートフレーム24及び左ピリオンステップブラケット54に支持されるドレスガードを、符号55aはドレスガード55の下端部と左ピリオンステップブラケット54の後端部との間に介在して車幅方向外側方に張り出す足置きをそれぞれ示す。
【0030】
図4に示すように、自動二輪車1は、油圧式(液圧式)の前後輪ブレーキ56,57を備える。
前輪ブレーキ56は、前輪2のハブ部右側に一体回転可能に設けられるフロントディスク56aと、右フロントフォーク3の下部に支持されてフロントディスク56aを挟圧可能なフロントキャリパ56bとを有する。フロントキャリパ56bは、油圧の供給によりフロントディスク56aを挟圧して前輪2の回転を制動する。フロントキャリパ56bに油圧を供給するフロントマスターシリンダ58は、操向用バーハンドル7の右グリップ近傍に取り付けられる。フロントマスターシリンダ58が発生する油圧は、前上流油圧配管58a、ABSモジュール61の油圧回路部、及び前下流油圧配管58bを介してフロントキャリパ56bに供給される。
【0031】
後輪ブレーキ57は、後輪9のハブ部右側に一体回転可能に設けられるリアディスク57aと、スイングアーム11の右アームの後部に支持されてリアディスク57aを挟圧可能なリアキャリパ57bとを有する。リアキャリパ57bは、油圧の供給によりリアディスク57aを挟圧して後輪9の回転を制動する。リアキャリパ57bに油圧を供給するリアマスターシリンダ59は、車体下部右側の右メインステップ31a近傍に取り付けられる。リアマスターシリンダ59が発生する油圧は、後上流油圧配管59a、ABSモジュール61の油圧回路部、及び後下流油圧配管59bを介してリアキャリパ57bに供給される。
【0032】
すなわち、自動二輪車1は、フロントマスターシリンダ58とフロントキャリパ56bとの間、並びにリアマスターシリンダ59とリアキャリパ57bとの間に、共通(単一)のABSモジュール61を備える。ABSモジュール61は、前後輪2,9の制動時のスリップ(ロック)を検出した際にこれを回避するべく対応するキャリパへの供給油圧を減圧し、当該キャリパへの油圧供給が間欠的となるように制御する。
【0033】
図5に示すように、ABSモジュール61は、側面視で燃料タンク41の前後中間部(及びメインフレーム15の後部)の下方かつエンジン13の前後中間部(シリンダ49の基端部及びクランクケース48)の上方に位置するように配置される。
【0034】
図6を併せて参照し、ABSモジュール61は、例えば右側から順に直方体状の電子制御部61a、同じく直方体状の油圧回路部61b、及び円柱状の電動モータ61cを並べて一体のユニットとした構成を有する。電子制御部61aの前部左側には左方に向けてコネクタ61dが突設され、このコネクタ61dにメインハーネスから延びる電気配線(何れも不図示)が接続される。電動モータ61cの中心軸線C3は左右方向と平行になるように配置される。なお、車幅方向外側に電子制御部61aが設けられることで、比較的熱がこもり易い車幅方向内側を避けて電子制御部61aを配置できる。
【0035】
ABSモジュール61は、左右方向では車体左右中央部に位置するキャブレター51とその右方に離間して配置される後述のカバー部72bとの間に配置され、かつ前記物品収納ボックス53の左右幅内に納まるように配置され、さらには燃料タンク41の左右幅内に納まるように(平面視で燃料タンク41と重なるように)配置される。ABSモジュール61は、車体左右中心線CLよりも右側方に配置されている。
【0036】
ABSモジュール61は、前後方向では物品収納ボックス53よりも後方かつ前記カバー部72bの後端よりも前方に位置し、上下方向では前述の如く燃料タンク41の前後中間部の下方かつエンジン13の前後中間部の上方に位置するように配置される。
【0037】
油圧回路部61bの左側面(電動モータ61c側の側面)の前部には前マスターポート62aが開口し、この前マスターポート62aに前記フロントマスターシリンダ58から延びる前上流油圧配管58aがニップルを介して接続される。油圧回路部61bの左側面の後部には後マスターポート63aが開口71aし、この後マスターポート63aに前記リアマスターシリンダ59から延びる後上流油圧配管59aがニップルを介して接続される。
【0038】
油圧回路部61bの上面の前部には前キャリパポート62bが開口71aし、この前キャリパポート62bに前記フロントキャリパから延びる前下流油圧配管58bがニップルを介して接続される。油圧回路部61bの上面の後部には後キャリパポート63bが開口71aし、この後キャリパポート63bに前記リアキャリパから延びる後下流油圧配管59bがニップルを介して接続される。
【0039】
ABSモジュール61は、油圧回路部61bに締結固定されるモジュール側ステー64と、メインフレーム15の右側面に溶接固定されるフレーム側ステー65とを介して、メインフレーム15に支持される。
【0040】
図7,8を併せて参照し、モジュール側ステー64は鋼板に曲げ加工等を施してなり、油圧回路部61bの下方に配置される下板部64aと、下板部64aの後縁から上方に屈曲して延びる側板部64bとを一体に有する。下板部64aは、油圧回路部61bの下面に、上方を指向するボルト66aによりラバーブッシュ66を介して締結される。側板部64bは、油圧回路部61bの後面に、前方を指向するボルト66bにより同じくラバーブッシュ66を介して締結される。
【0041】
フレーム側ステー65は鋼板に曲げ加工等を施してなり、上下方向と略直交する平板状の下板部65aと、下板部65aの右側縁から上方に屈曲して延びる側板部65bとを一体に有する。側板部65bの上端部はメインフレーム15の右側面に当接し溶接される。なお、フレーム側ステー65がメインフレーム15に締結固定される構成であってもよい。
【0042】
フレーム側ステー65の下板部65a上にはモジュール側ステー64の下板部64aが当接し、これらが上方を指向する前後一対のボルト68により締結される。これにより、ABSモジュール61が前記各ラバーブッシュ66を介してメインフレーム15にラバーマウントされる。
【0043】
図5,6を参照し、側面視で燃料タンク41の前部(及びメインフレーム15の前部)の下方かつシリンダ49となる位置には、前記物品収納ボックス53が配置される。物品収納ボックス53は、略矩形状の断面形状を有して左右に延びて右方に開放する有底筒状のボックス本体71と、ボックス本体71右端の開口71aを開閉可能に閉塞する蓋体72とを有する。ボックス本体71及び蓋体72は合成樹脂製とされ、それぞれ別個に一体形成される。
【0044】
ボックス本体71は、その左側(底部71d側)に向かうほど断面形状をやや縮小させるように先細りに形成される。ボックス本体71の右端部後側は、左右方向と略直交する平板状の段差部71bを形成しつつ開口71aの後部を後方に拡大させる。段差部71bの左方には、蓋体72に支持されたキーシリンダ73の係止爪を係合可能な係合突部71cが突設される。
【0045】
蓋体72は、開口71aを閉塞する蓋本体72aと、その後方に連なるカバー部72bとを一体に有する。カバー部72bは、ボックス本体71の後方空間を車幅方向外側方(右側方)から覆う。これら蓋本体72a及びカバー部72bにより、前後に長い側面視略楕円形状の外観を有する蓋体72が形成される。
【0046】
蓋本体72aの後部には、左右方向に沿う円筒状の前記キーシリンダ73の右端部が支持される。キーシリンダ73の左端部には前記係止爪が設けられ、このキーシリンダ73の操作により蓋体72の施錠状態と施錠解除状態とが切り替えられる。
【0047】
図7を併せて参照し、カバー部72bは左方に開放する容器形状をなし、その内部にABSモジュール61を入り込ませるようにしてこれを右方から覆う。カバー部72bは、ABSモジュール61の左方に隣接するキャブレター51をも右方から覆っている。
【0048】
以上説明したように、上記第一実施形態における自動二輪車1は、ヘッドパイプ6から後方へ車体左右中心線CLに沿って延びる単一のメインフレーム15と、前記メインフレーム15の下方でシリンダ49を略水平に配置したエンジン13と、前記シリンダ49の上面側に接続される吸気通路51Aと、前記メインフレーム15を上方から跨いで覆うように設けられる燃料タンク41と、前後輪2,9に制動力を与える液圧式の前後輪ブレーキ56,57と、前記前後輪2,9のスリップを回避するべく前記前後輪ブレーキ56,57に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール61とを備える鞍乗り型車両であって、前記ABSモジュール61が、側面視で前記燃料タンク41と前記シリンダ49とに上下から挟まれる位置に配置されることを特徴とする。
【0049】
この構成によれば、メインフレーム15の下方で略水平に配置したシリンダ49とメインフレーム15を跨ぐ燃料タンク41との間に形成された空きスペースを、シリンダ49の上面側に接続される吸気通路51A及びABSモジュール61の配置スペースとして有効利用することで、他部材の配置等への影響を抑えてコンパクトにABSモジュール61を配置できると共に、シリンダ49によって路面からの跳ね上げがABSモジュール61に至り難くすることができる。
【0050】
また、上記自動二輪車1は、側面視で前記燃料タンク41と前記シリンダ49とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス53を備え、前記ABSモジュール61が、前記物品収納ボックス53の後方で物品収納ボックス53の左右幅内に配置されることで、物品収納ボックス53の後方の空きスペースを有効利用でき、かつ物品収納ボックス53によってABSモジュール61に左右外側方からの外力が至り難くすることができる。
【0051】
また、上記自動二輪車1は、前記エンジン13の吸気量を制御する吸気調整装置(キャブレター51)を備え、前記吸気調整装置が、前記メインフレーム15と平面視で重なる位置に配置され、前記ABSモジュール61が、前記燃料タンク41と平面視で重なる位置で前記吸気調整装置の左右一側方に並ぶように配置されることで、吸気調整装置の左右一側方の空きスペースを有効利用でき、かつ燃料タンク41によってABSモジュール61に外力が至り難くすることができる。
【0052】
また、上記自動二輪車1は、前記収納ボックス53が、前記左右一側方を向く開口71aと、前記開口71aを開閉可能に覆う蓋体72とを備え、前記蓋体72が、前記開口71aの後方まで延びる延長部(カバー部72b)を有し、この延長部が、前記物品収納ボックス53の後方に位置する前記ABSモジュール61の前記左右一側方を覆うことで、吸気調整装置の左右一側方に並ぶABSモジュール61のさらに左右一側方(車幅方向外側方)を、別途カバー部材を設けることなく覆うことができ、部品点数の増加を抑えた上でABSモジュール61の保護及び外観性向上を図ることができる。
【0053】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態について、図9〜11を参照して説明する。
この実施形態は、前記第一実施形態に対して、車体左右中心線CLよりも左側方で物品収納ボックス53の左方に隣接するようにABSモジュール161が配置される点で特に異なる。その他の、第一実施形態と同一構成には同一符号を付して詳細説明は省略する。
【0054】
ABSモジュール161は、側面視で燃料タンク41の前部(及びメインフレーム15の前部)の下方かつシリンダ49の上方に位置するように配置される。ABSモジュール161は、左右方向では燃料タンク41の左右幅内に納まるように(平面視で燃料タンク41と重なるように)、かつフロントガードバー29の左右幅内に納まるように配置される。また、ABSモジュール161は、前後方向では物品収納ボックス53の前後幅内に納まるように配置され、上下方向では物品収納ボックス53の上下幅内に納まるように配置される。ABSモジュール161は、左ダウンフレーム16の後方でこれに近接して配置される。なお、ABSモジュール161自体の構成は第一実施形態のABSモジュール61の構成に準ずる。
【0055】
ABSモジュール161は、油圧回路部61bの下面及び前面にボルト66a,66bによりラバーブッシュ66を介して締結固定される前記モジュール側ステー64と、左ダウンフレーム16の上下中間部に溶接固定されるフレーム側ステー69とを介して、左ダウンフレーム16に支持される。
【0056】
フレーム側ステー69は鋼板に曲げ加工等を施してなり、左ダウンフレーム16に溶接される基部69aと、基部69aから後方に延びて油圧回路部61bの下方に配置される下板部69bとを一体に有する。なお、フレーム側ステー69が左ダウンフレーム16(車体フレーム5)に締結固定される構成であってもよい。
【0057】
フレーム側ステー69の下板部69b上にはモジュール側ステー64の下板部64aが当接し、これらが上方を指向する前後一対のボルト68により締結される。これにより、ABSモジュール161が前記ラバーブッシュ66を介して左ダウンフレーム16にラバーマウントされる。
【0058】
ABSモジュール161の左方には、これを車幅方向外側方(左側方)から覆うカバー部材75が配設される。カバー部材75は右方に開放する容器形状をなし、その内部にABSモジュール161を入り込ませるようにしてこれを左方から覆う。カバー部材75は、フレーム側ステー69に取り付けられたカバーステー76に支持される。カバー部材75は、図では前記蓋体72の蓋本体72aと同等の大きさとされるが、蓋体72と左右対称をなすように前後に長い楕円形状とし、物品収納ボックス53後方のキャブレター51をも左方から覆うようにしてもよい。
【0059】
以上説明したように、上記第二実施形態では、第一実施形態の特徴構成及び作用効果に加え、側面視で前記燃料タンク41と前記シリンダ49とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス53を備え、前記ABSモジュール161が、前記燃料タンク41と平面視で重なる位置で前記物品収納ボックス53の左右一側方に並ぶように配置されることで、物品収納ボックス53の左右一側方の空きスペースを有効利用でき、かつ燃料タンク41及び物品収納ボックス53によってABSモジュール161に外力が至り難くすることができる。
【0060】
また、上記第二実施形態では、前記ABSモジュール161の前記左右一側方を覆うカバー部材75を備え、前記ABSモジュール161が、前記ヘッドパイプ6又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム16の直後に配置されることで、物品収納ボックス53の左右一側方に並ぶABSモジュール161のさらに左右一側方(車幅方向外側方)をカバー部材75で覆うことで、ABSモジュール161の保護及び外観性向上を図ると共に、ダウンフレーム16によって車両前方からの外力がABSモジュール161に至り難くすることができる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、前後輪ブレーキの一方のみ等、複数の液圧式ブレーキの一部のみに対応するABSモジュールを有する鞍乗り型車両や、液圧式のドラムブレーキを有する車両にも適用可能である。ここで、前記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 前輪(車輪)
6 ヘッドパイプ
9 後輪(車輪)
13 エンジン
15 メインフレーム
16 ダウンフレーム
41 燃料タンク
49 シリンダ
51 キャブレター(吸気調整装置)
51A 吸気通路
53 物品収納ボックス
56 前輪ブレーキ(液圧式ブレーキ)
57 後輪ブレーキ(液圧式ブレーキ)
61,161 ABSモジュール
71a 開口
72 蓋体(蓋部材)
72b カバー部(延長部)
75 カバー部材
CL 車体左右中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドパイプ(6)から後方へ車体左右中心線(CL)に沿って延びる単一のメインフレーム(15)と、前記メインフレーム(15)の下方でシリンダ(49)を略水平に配置したエンジン(13)と、前記シリンダ(49)の上面側に接続される吸気通路(51A)と、前記メインフレーム(15)を上方から跨いで覆うように設けられる燃料タンク(41)と、車輪(2,9)に制動力を与える液圧式ブレーキ(56,57)と、前記車輪(2,9)のスリップを回避するべく前記液圧式ブレーキ(56,57)に作用する液圧を減圧可能なABSモジュール(61,161)とを備える鞍乗り型車両であって、
前記ABSモジュール(61,161)は、側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に配置されることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記エンジン(13)の吸気量を制御する吸気調整装置(51)を備え、
前記吸気調整装置(51)は、前記メインフレーム(15)と平面視で重なる位置に配置され、前記ABSモジュール(61)は、前記燃料タンク(41)と平面視で重なる位置で前記吸気調整装置(51)の左右一側方に並ぶように配置されることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス(53)を備え、
前記ABSモジュール(61)は、前記物品収納ボックス(53)の後方で物品収納ボックス(53)の左右幅内に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記収納ボックス(53)は、前記左右一側方を向く開口(71a)と、前記開口(71a)を開閉可能に覆う蓋部材(72)とを備え、
前記蓋部材(72)は、前記開口(71a)の後方まで延びる延長部(72b)を有し、この延長部(72b)が、前記物品収納ボックス(53)の後方に位置する前記ABSモジュール(61)の前記左右一側方を覆うことを特徴とする請求項3に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
側面視で前記燃料タンク(41)と前記シリンダ(49)とに上下から挟まれる位置に物品収納ボックス(53)を備え、
前記ABSモジュール(161)は、前記燃料タンク(41)と平面視で重なる位置で前記物品収納ボックス(53)の左右一側方に並ぶように配置されることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記ABSモジュール(161)の前記左右一側方を覆うカバー部材(75)を備え、
前記ABSモジュール(161)は、前記ヘッドパイプ(6)又はその近傍から下方へ延びるダウンフレーム(16)の直後に配置されることを特徴とする請求項5に記載の鞍乗り型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−71596(P2013−71596A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212157(P2011−212157)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】