音出力システム
【課題】受聴者によって聴取される音の特性をより適切に調整する。
【解決手段】スピーカ装置5は、それぞれ音軸の方向が異なるメインスピーカユニット6とサブスピーカユニット7とを有する。信号処理装置1は、入力端11に入力されたオーディオ信号をメインスピーカユニット6に供給するメインスピーカ用ユニット2と、入力端11に入力されたオーディオ信号の特性を調整する調整手段32を備え、この調整手段32による調整後のオーディオ信号をサブスピーカユニット7に供給するサブスピーカ用ユニット3とを有する。
【解決手段】スピーカ装置5は、それぞれ音軸の方向が異なるメインスピーカユニット6とサブスピーカユニット7とを有する。信号処理装置1は、入力端11に入力されたオーディオ信号をメインスピーカユニット6に供給するメインスピーカ用ユニット2と、入力端11に入力されたオーディオ信号の特性を調整する調整手段32を備え、この調整手段32による調整後のオーディオ信号をサブスピーカユニット7に供給するサブスピーカ用ユニット3とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音を表す信号(以下「オーディオ信号」という)に応じて音を出力する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号に応じた音を出力するシステムとして各種の構成が従来から提案されている(特許文献1)。例えば、図9に示す音出力システムは信号処理装置91とスピーカ装置92とからなる。このうち信号処理装置91は、例えばオーディオ信号に含まれる各周波数成分ごとの音圧レベルを増減させるイコライザや、オーディオ信号を増幅させるパワーアンプなど、オーディオ信号の特性を調整するための手段を含んでいる。一方、スピーカ装置92は、ツィータ(tweeter)、スコーカ(squawker)およびウーファ(woofer)と呼ばれる3つのスピーカユニット921を備えている。信号処理装置91から出力されたオーディオ信号は、ネットワーク922によってそれぞれ帯域の異なる3つの周波数成分に分割され、それぞれ3つのスピーカユニット921に供給される。
【特許文献1】特開平5−130689号公報(段落0021および第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、スピーカ装置92から発せられて受聴者に聴取される音は、スピーカ装置92から直接的に(すなわちリスニングルームの壁面における反射を経ることなく)受聴者に至る音(以下「直接音」という)と、スピーカ装置92から発せられて壁面における反射などを経た後に受聴者に至る音(以下「間接音」という)とに大別される。そして、図9に示した従来の構成のもとでは、オーディオ信号に対して一括して信号処理装置91による特性の調整がなされるため、直接音と間接音とが併せて調整されることとなる。しかしながら、この構成のもとでは、スピーカ装置92から出力される音の特性を必ずしも適切に調整することができないという問題があった。この問題点について具体例を挙げて説明すれば以下の通りである。
【0004】
図10(a)は、図9に示したスピーカ装置92から出力されて受聴者に聴取される音の周波数特性を示すグラフである。この図においては、直接音の周波数特性(以下「軸上特性」という)SPL1と、直接音および間接音を総和したときの周波数特性(以下「定常態伝送特性」という)SPL0とが示されている(以下に示すグラフにおいても同様である)。一般に、直接音は受聴者が知覚する音色や音像に重大な影響を及ぼすため、この直接音の特性たる軸上特性SPL1は、図10(a)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一であることが望ましい。このとき、定常態伝送特性SPL0に着目すると、各スピーカユニット921に割り当てられる周波数帯域の境界に相当するクロスオーバ周波数の近傍において音圧レベルが他の帯域よりも低い部分(以下「ディップ」という)Dが現れる場合がある。ここで、オーディオ信号のうちディップDに相当する周波数成分を信号処理装置91のイコライザなどを用いて増加させれば、図10(b)に示すように定常態伝送特性SPL0をほぼ均一にすることも可能である。しかしながら、このような調整を行なった場合には軸上特性SPL1にも影響が及ぶこととなる。すなわち、図10(b)に示すように、軸上特性SPL1のうちクロスオーバ周波数の近傍に他の帯域よりも音圧レベルが高い部分(以下「ピーク」という)Pが現れる。このような特性を有する直接音は、受聴者にとって耳障りなものとなるのである。
【0005】
一方、図11(a)は、スピーカ装置92から受聴者までの距離が大きい場合の軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0を表すグラフである。この図においても、図10(a)と同様に、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1がほぼ均一となるようにオーディオ信号の調整がなされている場合を想定している。ここで、スピーカ装置92から受聴者までの距離が大きい場合には、特に間接音の高周波成分が受聴者に到達しにくくなる。このため、図11(a)に示すように、定常態伝送特性SPL0に着目すると周波数の高い帯域ほど音圧レベルが低くなる。一方、この音圧レベルの不均一を解消するためにオーディオ信号のうち周波数が高い成分の音圧レベルを信号処理装置91のイコライザによって増加させると、図11(b)に示すように、軸上特性SPL1において高周波成分の音圧レベルが他の帯域と比較して大きくなる。このように音圧レベルが不均一である直接音は、図10(b)に示した場合と同様に受聴者にとって耳障りなものとなる。
【0006】
以上に例示したように、従来の技術のもとでは直接音と間接音とが相互に連動するように調整されるため、軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0の双方を所望の特性に調整することができないという問題が生じ得るのである。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、受聴者によって聴取される音の特性をより適切に調整することができる音出力システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、音軸が受聴者に向くように配置され、供給されたオーディオ信号を放音する第1の放音手段と、前記第1の放音手段の音軸とは異なる方向の音軸を有し、供給されたオーディオ信号を放音する第2の放音手段と、オーディオ信号が入力される入力手段と、前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第1の放音手段に供給する第1の調整手段と、前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第2の放音手段に供給する第2の調整手段とを具備し、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号の内容に応じた関係になるように、音圧レベルを調整することを特徴とする音出力システムを提供する。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記入力手段から入力されるオーディオ信号は、楽曲を示すオーディオ信号であり、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号が示す楽曲の曲調に応じた関係になるように、音圧レベルを調整してもよい。
【0010】
また、別の好ましい態様において、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が、さらに、前記第1の放音手段と受聴者との距離に応じた関係になるように、音圧レベルを調整してもよい。
【0011】
また、別の好ましい態様において、前記第2の調整手段は、前記入力手段から入力されるオーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整し、前記第1の放音手段と受聴者との距離が大きいほど、高周波数帯域側に属する成分の音圧レベルが大きくなるように調整してもよい。
【0012】
また、別の好ましい態様において、前記第2の調整手段は、前記第1の放音手段および前記第2の放音手段の放音により、定常態伝送特性が所定の周波数帯域において均一になるように、特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整してもよい。
【0013】
本発明によれば、第2の放音手段の音軸が第1の放音手段の音軸とは異なる方向を向いた構成のもとで、第2の放音手段から発せられる音の特性が第1の放音手段から発せられる音の特性とは独立に調整されるようになっている。したがって、例えば第1の放音手段から発せられた音を直接音として受聴者に聴取させる一方、第2の放音手段から発せられた音を間接音として受聴者に聴取させる構成のもとで、直接音の特性に影響を与えることなく間接音の特性を調整することができる。より具体的には、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、任意にパワーレスポンスを調整することができる。このパワーレスポンスは、第1および第2の放音手段による発音に伴なって音出力システムの全方向に放出されるエネルギを総和したときの周波数特性である。定常態伝送特性SPL0はパワーレスポンスに応じて変化するから、本発明によれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、定常態伝送特性SPL0を調整することができると言える。
【0014】
なお、本明細書における「音軸」とは、スピーカの正面方向に延在する軸を意味する。具体例を挙げれば、放音手段としてコーン型のスピーカユニットを用いた場合にはコーン(略円錐体)の中心軸が音軸に相当し、ホーン型のスピーカユニットを用いた場合にはホーンの中心軸が音軸に相当し、ドーム型のスピーカユニットを用いた場合にはドームの中心軸が音軸に相当するといった具合である。換言すれば、磁界中に配置された導電体の振動によって音を発する構成のスピーカユニットにあっては、略円筒状をなすボイスコイルの中心軸が音軸に相当すると言うこともできる。
【0015】
なお、調整手段は、利用者(例えば受聴者)によって与えられた指示に応じてオーディオ信号の特性を調整する構成としてもよいし、予め定められたアルゴリズムに基づいて自動的にオーディオ信号の特性を調整する構成としてもよい。このうち後者に係る構成においては、受聴者が聴取する直接音および間接音について双方の音圧レベルが広い周波数帯域にわたって均一となるようにオーディオ信号の特性を調整することが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、受聴者によって聴取される音の特性をより適切に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
<A:音出力システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、このシステムは、信号処理装置1とスピーカ装置5とを有する。このうち信号処理装置1は、上位装置(図示略)から供給されるオーディオ信号をスピーカ装置5に供給するための手段である。この上位装置としては、例えば、光ディスクや磁気ディスクといった各種の記録媒体から読み出したデータに基づいてオーディオ信号を出力する光ディスク再生装置や、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格に準拠したデータに基づいてオーディオ信号を生成して出力する音源装置、あるいは周囲の音を収音してオーディオ信号を出力する手段たるマイクロホンなどが採用され得る。一方、スピーカ装置5は、信号処理装置1から供給されたオーディオ信号に応じた音を出力する手段であり、リスニングルーム200の床面に配置される。このリスニングルームに居る受聴者Rは、スピーカ装置5から出力された音を聴取する。
【0019】
このスピーカ装置5は、メインスピーカユニット(第1の放音手段)6と、サブスピーカユニット(第2の放音手段)7と、これらのスピーカユニットを収容するキャビネット(筐体)51とを有する。メインスピーカユニット6およびサブスピーカユニット7としては、従来から知られているコーン型スピーカやホーン型スピーカ、ドーム型スピーカといった各種の構成のスピーカユニットを採用することができる。要するに、オーディオ信号に応じた音を出力し得る手段であればその構成の如何は不問である。
【0020】
ここで、図2は、音軸の方向に特に着目してスピーカ装置5の構成を示す図である。このうち図2(a)はスピーカ装置5を側面からみた図であり、図2(b)はスピーカ装置5を上面からみた図である。同図に示すように、メインスピーカユニット6は、その音軸6aが受聴者Rに向くように(すなわち音軸6a上に受聴者Rが位置するように)キャビネット51に配置されている。したがって、メインスピーカユニット6から発せられた音の少なくとも一部は、図1に示すように、リスニングルーム200の壁面において反射することなく直接音として受聴者Rに聴取されることとなる。一方、サブスピーカユニット7は、その音軸7aがメインスピーカユニット6の音軸6aとは異なる方向を向くようにキャビネット51に配置されている。より具体的には、サブスピーカユニット7の音軸7aは、図2(b)に示すようにスピーカ装置5を鉛直方向の上方からみたみたときにメインスピーカユニット6の音軸6aとは反対側を向き、なおかつ図2(a)に示すようにスピーカ装置5を水平方向からみたときにメインスピーカユニット6の音軸6aよりも上方を向くようになされている。したがって、サブスピーカユニット7から発せられた音は、図1に示すように、リスニングルームの壁面において1回または複数回にわたって反射した後に間接音として受聴者Rに聴取されることとなる。換言すれば、サブスピーカユニット7から出力された音が間接音として受聴者Rに聴取されるように、サブスピーカユニット7の音軸7aの方向が定められていると言うこともできる。
【0021】
一方、図1に示した信号処理装置1は、メインスピーカ用ユニット2とサブスピーカ用ユニット3とを有する。このうちメインスピーカ用ユニット2は上位装置から入力端11に入力されたオーディオ信号をメインスピーカユニット6に供給するための手段であり、入力端11からメインスピーカユニット6に至る伝送ライン21を有する。これに対し、サブスピーカ用ユニット3は入力端11に入力されたオーディオ信号をサブスピーカユニット7に供給するための手段であり、メインスピーカユニット6の伝送ライン21から分岐してサブスピーカユニット7に至る伝送ライン31を有する。
【0022】
サブスピーカ用ユニット3は、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号の特性を調整するための調整手段32を有する。この調整手段32は、オーディオ信号の音圧レベルを調整するためのボリューム321と、オーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整するためのイコライザ322と、オーディオ信号を増幅してサブスピーカユニット7に出力するパワーアンプ323とを有する。一方、メインスピーカ用ユニット2も同様に、メインスピーカユニット6に供給されるべきオーディオ信号の特性を調整するための調整手段22として、ボリューム221とイコライザ222とパワーアンプ223とを備えている。
【0023】
また、信号処理装置1は、摘みやボタンといった各種の操作子を含む入力装置(図示略)を備えている。調整手段22および32によってオーディオ信号に施される調整の内容は、利用者が入力装置に対して行なった操作の内容に応じて決定される。
【0024】
この構成のもと、入力端11から入力されて伝送ライン21に至ったオーディオ信号は、調整手段22によって特性が調整された後にメインスピーカユニット6から音として出力される。このメインスピーカユニット6から出力された音は、受聴者Rによって直接音として聴取される。一方、入力端11から入力されたオーディオ信号は、伝送ライン21から分岐した伝送ライン31を介して調整手段32に至り、この調整手段による調整の後にサブスピーカユニット7から音として出力される。このサブスピーカユニット7から出力された音は、受聴者Rによって間接音として聴取される。
【0025】
このように、本実施形態においては、間接音を出力するサブスピーカユニット7に供給されるオーディオ信号の特性が、メインスピーカユニット6に供給されるオーディオ信号とは独立して調整されるようになっている。したがって、メインスピーカユニット6から受聴者Rに至る直接音の特性に影響を与えることなく、サブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音の特性を調整することができる。換言すれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、任意にパワーレスポンスを調整することができるのである。このパワーレスポンスは、スピーカ装置5による発音に伴なって当該スピーカ装置5の全方向に放出されるエネルギを総和したときの周波数特性である。直接音と間接音とを総和したときの周波数特性である定常態伝送特性SPL0は、このパワーレスポンスの影響を受ける。したがって、本実施形態によれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、定常態伝送特性SPL0を広い周波数帯域にわたって均一に調整することができる。この効果について詳述すると以下の通りである。
【0026】
例えば、スピーカ装置5から出力されて受聴者Rに聴取される音の軸上特性SPL1と定常態伝送特性SPL0とが図3(a)に示した状態にある場合(例えば、狭い音響空間においてスピーカ装置5と受聴者Rとの距離が小さい場合)を想定する。すなわち、軸上特性SPL1は広い周波数帯域にわたって均一であるのに対し、定常態伝送特性SPL0については特定の帯域B1およびB2にディップDが現れている場合である。この場合、サブスピーカ用ユニット3のイコライザ322によって、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号のうち帯域B1およびB2に属する周波数成分の音圧レベルを適宜に上昇させれば、図3(b)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一な定常態伝送特性SPL0が得られる。このとき、メインスピーカユニット6から出力される直接音には何らの影響もないから、図3(b)に示すように、軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0の双方が広い周波数帯域にわたって均一となる。
【0027】
ここで、ロックやポップスといったリズミカルな楽曲が再生される場合には、特に直接音が、受聴者Rによって知覚される音の印象を決定づける重要な要素となる。これに対し、オルガンによって演奏された楽曲やクラシック楽曲などが再生される場合には、特に間接音が、受聴者Rによって知覚される音の印象を決定づける重要な要素となる。本実施形態によれば、直接音に関わる軸上特性SPL1および間接音に関わる定常態伝送特性SPL0の双方を広い周波数帯域にわたって均一とすることができるから、リズミカルな楽曲やクラシック楽曲といった曲調の異なる楽曲が再生されたとしても、受聴者Rが知覚する音色のバランスが異なるという問題は生じない。また、それぞれ異なる周波数帯域が割り当てられた複数のスピーカユニットから出力される音同士のつながりを改善することにより(すなわちクロスオーバ周波数の近傍におけるディップDを解消することにより)、臨場感のある自然な音をハイファイ再生することができる。
【0028】
また、図4(a)は、スピーカ装置5と受聴者Rとの距離が大きいとき(例えば教会や講堂などの広い音響空間)の軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0を示す図である。同図に示すように、軸上特性SPL1については広い周波数帯域にわたって均一であるのに対し、定常態伝送特性SPL0については周波数の高い領域ほど音圧レベルが低下している。間接音は、受聴者Rに到達するまでの長い経路において、空気による吸収などに伴なって特に高域成分が減衰しやすいからである。このような場合には、サブスピーカ用ユニット3のイコライザ322によって、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号のうち帯域B3に属する周波数成分の音圧レベルを適宜に上昇させれば、図4(b)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一な定常態伝送特性SPL0が得られる。一方、このように定常態伝送特性SPL0を調整したとしても、メインスピーカユニット6から出力される直接音の特性には何らの影響も与えられないから、図4(b)に示すように、軸上特性SPL1についても広い周波数帯域にわたる均一な特性が維持される。
【0029】
ここで、広い音響空間などにおいてスピーカ装置5と受聴者Rとの距離が大きい場合には、スピーカ装置5から発せられて最初に受聴者Rに到達する音の波面(第1波面)の特性、すなわち直接音の特性が、受聴者Rの知覚する音の印象を決定づける重要な要素となる。広い音響空間においては、狭い音響空間と比較して、直接音が受聴者Rに到達してから間接音が受聴者Rに到達するまでに長い時間を要するからである。したがって、このような広い音響空間のもとで、図11(b)に示したように定常態伝送特性SPL0の調整に伴なって軸上特性SPL1の均一性が損なわれると、利用者はスピーカ装置5から発せられた音に対して特に不自然な印象を受ける。これに対し、本実施形態によれば、定常態伝送特性SPL0が軸上特性SPL1とは独立して調整されるから、定常態伝送特性SPL0を均一に調整することによって残響感の豊かな音が得られる一方、この調整に伴なって受聴者Rによる音の印象が変えられることはない。換言すると、本実施形態に係るスピーカ装置5を広い音響空間に設置した場合には、スピーカ装置5から発せられた音が時間領域において聴感に与える影響を改善することができるのである。
【0030】
また、本実施形態においては、メインスピーカ用ユニット2のボリューム221とサブスピーカ用ユニット3のボリューム321とを独立に調整することによって、メインスピーカユニット6から受聴者Rに至る直接音とサブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音との音圧レベルのバランスを任意に変化させることができる。したがって、本実施形態によれば、受聴者Rによって知覚される音の残響感を適宜に変更することができる。例えば、サブスピーカ用ユニット3のボリューム321を調整すれば、サブスピーカユニット7から壁面における反射を経て受聴者Rに至る間接音(すなわち残響音)の音圧レベルが増大するから、受聴者Rによって知覚される残響感を大きくすることができる。逆に、残響感を小さくするためには、サブスピーカ用ユニット3のボリューム321を調整することによって、サブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音の音圧レベルを下げればよい。一般的に、受聴者Rによって残響音として聴取される間接音の特性は、リスニングルーム200における壁面の吸音特性やリスニングルームの容積、あるいはスピーカ装置5から受聴者Rまでの距離といった各種の条件に影響を受けるが、本実施形態においては直接音と間接音とのバランスを任意に調整することによって、この条件を適宜に補正することができるのである。
【0031】
<B:変形例>
以上に説明した実施形態はあくまでも例示である。したがって、この形態に対しては本発明の趣旨から逸脱しない範囲で種々の変形を加えることができる。具体的には、以下のような変形例が考えられる。
【0032】
<B−1:変形例1>
上記実施形態に示した調整手段22および32、あるいはメインスピーカユニット6およびサブスピーカユニット7の構成を以下のように変更してもよい。
【0033】
(1)第1の態様
上記実施形態においては、メインスピーカユニット6にオーディオ信号を供給するためのメインスピーカ用ユニット2にボリューム221とイコライザ222とを含ませる構成を例示した。この構成によれば、軸上特性SPL1にディップやピークが現れている場合であっても、ボリューム221またはイコライザ222を適宜に動作させることによって、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1が均一となるように調整することができる。しかしながら、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1が平坦になるようにメインスピーカユニット6の構成自体が予め設計されている場合には、図5に示すように、図1に示したボリューム221とイコライザ222とを省略することもできる。
【0034】
(2)第2の態様
上記実施形態においては、信号処理装置1にイコライザ222および322を含ませる構成を例示したが、直接音と間接音との音圧レベルのバランスのみを調整するのであれば、図6に示すようにイコライザ222および322を省略してもよい。なお、図6に示す構成においては、サブスピーカユニット7の前段にパッシブネットワーク75が設けられている。このパッシブネットワーク75は、オーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分のみを選択的に出力するフィルタとして機能するものである。この構成によれば、イコライザ322を省略した構成であっても、間接音のうちパッシブネットワーク75の通過帯域に属する成分の音圧レベルを増加させることができるから、定常態伝送特性SPL0を補正することができる。
【0035】
(3)第3の態様
上記実施形態においては、音軸を受聴者Rに向けたスピーカユニット(メインスピーカユニット6)をひとつとした場合を例示したが、これを複数としてもよい。すなわち、図7に示すように、図1に示したメインスピーカユニット6に代えて、パッシブネットワーク65と第1のメインスピーカユニット61と第2のメインスピーカユニット62とを設けてもよい。このうちパッシブネットワーク65は、メインスピーカ用ユニット2から供給されたオーディオ信号をそれぞれ帯域が異なる2つの周波数成分に分割する手段である。これら2つの周波数成分のうち低周波数側のオーディオ信号は第1のメインスピーカユニット61に供給される一方、高周波数側のオーディオ信号は第2のメインスピーカユニット62に供給される。この構成によれば、第1のメインスピーカユニット61をウーファとして機能させ、第2のメインスピーカユニット62をツィータとして機能させることができる。なお、ここではメインスピーカユニットの数を2つとした場合を例示したが3つ以上としてもよいことはもちろんである。この場合、パッシブネットワーク65は、オーディオ信号を、メインスピーカユニットと同数かそれよりも少ない数の周波数成分に分割することとなる。
【0036】
(4)第4の態様
オーディオ信号を遅延させる手段をサブスピーカ用ユニット3の調整手段32に含ませてもよい。図8は、本態様に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。なお、図8においては、図7に示した構成と同様に、2つのメインスピーカユニット61および62とパッシブネットワーク65とが設けられた場合を想定している。
【0037】
図8(a)に示すように、本態様においては、サブスピーカ用ユニット3の調整手段32のうちイコライザ322とパワーアンプ323との間に遅延手段325が設けられている。この遅延手段325は、イコライザ322から出力されたオーディオ信号を遅延させてパワーアンプ323に出力する手段である。具体的には、FIRフィルタやその他の遅延素子を遅延手段325として採用することができる。この遅延手段325による遅延時間は、利用者が入力装置を操作することによって適宜に変更することができる。
【0038】
一方、図8(b)は、図8(a)に示したスピーカ装置5を正面からみたときの図である。図8(a)および(b)に示すように、本態様においては、図1に示したサブスピーカユニット7に代えて、第1のサブスピーカユニット71、第2のサブスピーカユニット72および第3のサブスピーカユニット73という3つのスピーカユニットが設けられている。このうち第1のサブスピーカユニット71は、その音軸7aが鉛直方向上向きとなるように配置されている。また、図8(b)に示すように、第2のサブスピーカユニット72は、スピーカ装置5を正面からみたときに音軸7aが水平方向右向きとなるように配置されている。一方、第3のサブスピーカユニット7は、スピーカ装置5を正面から見たときに音軸7aが水平方向左向きとなるように配置されている。すなわち、略直方体状のキャビネット51の各面が略直方体の空間であるリスニングルーム200の各壁面と平行になるようにスピーカ装置5が配置されたときに、第1ないし第3のサブスピーカユニット71〜73の音軸7aがリスニングルーム200の各壁面と垂直をなすように、各サブスピーカユニット71〜73の方向が定められているのである。一方、サブスピーカ用ユニット3のパワーアンプ323からオーディオ信号が出力される伝送ライン33は3つに分岐しており、その3つの伝送ライン331は第1ないし第3のサブスピーカユニット71〜73にそれぞれ接続されている。さらに、図1に示したボリューム321に代えて、分岐後の3本の伝送ライン331の各々にボリューム326が設けられており、各サブスピーカユニット71〜73に供給されるオーディオ信号の音圧レベルが個別に調整されるようになっている。なお、サブスピーカユニットの数は3つに限られるものではなく、それ以外の数であってもよい。
【0039】
この構成によれば、受聴者Rによって聴取される音を、形状や広さなどが異なる各種の音響空間において聴取される音に近づけることができる。例えば、遅延手段325による遅延時間を長い時間に調整すれば、メインスピーカユニット61および62によって出力された音が直接音として受聴者Rに聴取されてから、サブスピーカユニット71〜73によって出力された音が間接音として受聴者Rに聴取されるまでの時間は長くなる。したがって、放音された音が長い距離を経た後に受聴者Rに至るような広い空間と同様の聴覚的効果をリスニングルーム200に居る受聴者Rに体験させることができる。また、例えば、音軸7aが水平方向を向く第2のサブスピーカユニット72および第3のサブスピーカユニット73から出力される音の音圧レベルを大きくすれば、水平方向から受聴者Rに到達する間接音の音圧レベルが大きくなる。したがって、周囲が包まれている感覚を受聴者Rに体験させることができる。このように、本態様によれば、受聴者Rが知覚する音響効果を適宜に制御することができるのである。
【0040】
(5)その他の態様
信号処理装置1における調整手段22および32の構成要素は以上に説明したものに限られない。例えば、ボリューム221および321に代えて、またはこれとともにアッテネータを含ませてもよいし、その他に各種のフィルタを含ませても良い。また、実施形態として図1に示した構成、または第1ないし第4の態様として図5から図8に示した構成をそれぞれ適宜に組み合わせてもよいことはもちろんである。
【0041】
<B−2:変形例2>
上記実施形態および変形例においては、調整手段22および32による調整の内容が受聴者Rによる操作に応じて決定される構成を例示したが、その他の条件に基づいて調整の内容が決定される構成を採用してもよい。例えば、図1に示したイコライザ322による調整の内容(例えば音圧レベルを調整すべき周波数帯域や音圧レベルの調整量)を、広い周波数帯域にわたって定常態伝送特性SPL0が均一となるように、すなわち受聴者Rによって聴取される直接音および間接音の音圧レベルが略均一となるように決定してもよい。
【0042】
<B−3:変形例3>
上記実施形態および変形例においては、信号処理装置1とスピーカ装置5とを別体の装置とした場合を例示したが、信号処理装置1の各部をスピーカ装置5のキャビネット51に収容して一体の装置としてもよい。また、上記実施形態および変形例に示した信号処理装置1の構成要素の一部をスピーカ装置5に収容してもよいし、スピーカ装置5の構成要素の一部を信号処理装置1に収容してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同音出力システムにおけるスピーカ装置の構成を示す図である。
【図3】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図4】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図5】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図6】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図7】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図8】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図9】従来の音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図10】従来の技術における問題点を説明するための図である。
【図11】従来の技術における問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
1……信号処理装置、11……入力端、2……メインスピーカ用ユニット、22,32……調整手段、221,321,326……ボリューム、222,322……イコライザ、223,323……パワーアンプ、3……サブスピーカ用ユニット、325……遅延手段、5……スピーカ装置、51……キャビネット、6,61,62……メインスピーカユニット、6a,7a……音軸、7,71,72,73……サブスピーカユニット、200……リスニングルーム、R……受聴者。
【技術分野】
【0001】
本発明は、音を表す信号(以下「オーディオ信号」という)に応じて音を出力する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号に応じた音を出力するシステムとして各種の構成が従来から提案されている(特許文献1)。例えば、図9に示す音出力システムは信号処理装置91とスピーカ装置92とからなる。このうち信号処理装置91は、例えばオーディオ信号に含まれる各周波数成分ごとの音圧レベルを増減させるイコライザや、オーディオ信号を増幅させるパワーアンプなど、オーディオ信号の特性を調整するための手段を含んでいる。一方、スピーカ装置92は、ツィータ(tweeter)、スコーカ(squawker)およびウーファ(woofer)と呼ばれる3つのスピーカユニット921を備えている。信号処理装置91から出力されたオーディオ信号は、ネットワーク922によってそれぞれ帯域の異なる3つの周波数成分に分割され、それぞれ3つのスピーカユニット921に供給される。
【特許文献1】特開平5−130689号公報(段落0021および第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、スピーカ装置92から発せられて受聴者に聴取される音は、スピーカ装置92から直接的に(すなわちリスニングルームの壁面における反射を経ることなく)受聴者に至る音(以下「直接音」という)と、スピーカ装置92から発せられて壁面における反射などを経た後に受聴者に至る音(以下「間接音」という)とに大別される。そして、図9に示した従来の構成のもとでは、オーディオ信号に対して一括して信号処理装置91による特性の調整がなされるため、直接音と間接音とが併せて調整されることとなる。しかしながら、この構成のもとでは、スピーカ装置92から出力される音の特性を必ずしも適切に調整することができないという問題があった。この問題点について具体例を挙げて説明すれば以下の通りである。
【0004】
図10(a)は、図9に示したスピーカ装置92から出力されて受聴者に聴取される音の周波数特性を示すグラフである。この図においては、直接音の周波数特性(以下「軸上特性」という)SPL1と、直接音および間接音を総和したときの周波数特性(以下「定常態伝送特性」という)SPL0とが示されている(以下に示すグラフにおいても同様である)。一般に、直接音は受聴者が知覚する音色や音像に重大な影響を及ぼすため、この直接音の特性たる軸上特性SPL1は、図10(a)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一であることが望ましい。このとき、定常態伝送特性SPL0に着目すると、各スピーカユニット921に割り当てられる周波数帯域の境界に相当するクロスオーバ周波数の近傍において音圧レベルが他の帯域よりも低い部分(以下「ディップ」という)Dが現れる場合がある。ここで、オーディオ信号のうちディップDに相当する周波数成分を信号処理装置91のイコライザなどを用いて増加させれば、図10(b)に示すように定常態伝送特性SPL0をほぼ均一にすることも可能である。しかしながら、このような調整を行なった場合には軸上特性SPL1にも影響が及ぶこととなる。すなわち、図10(b)に示すように、軸上特性SPL1のうちクロスオーバ周波数の近傍に他の帯域よりも音圧レベルが高い部分(以下「ピーク」という)Pが現れる。このような特性を有する直接音は、受聴者にとって耳障りなものとなるのである。
【0005】
一方、図11(a)は、スピーカ装置92から受聴者までの距離が大きい場合の軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0を表すグラフである。この図においても、図10(a)と同様に、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1がほぼ均一となるようにオーディオ信号の調整がなされている場合を想定している。ここで、スピーカ装置92から受聴者までの距離が大きい場合には、特に間接音の高周波成分が受聴者に到達しにくくなる。このため、図11(a)に示すように、定常態伝送特性SPL0に着目すると周波数の高い帯域ほど音圧レベルが低くなる。一方、この音圧レベルの不均一を解消するためにオーディオ信号のうち周波数が高い成分の音圧レベルを信号処理装置91のイコライザによって増加させると、図11(b)に示すように、軸上特性SPL1において高周波成分の音圧レベルが他の帯域と比較して大きくなる。このように音圧レベルが不均一である直接音は、図10(b)に示した場合と同様に受聴者にとって耳障りなものとなる。
【0006】
以上に例示したように、従来の技術のもとでは直接音と間接音とが相互に連動するように調整されるため、軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0の双方を所望の特性に調整することができないという問題が生じ得るのである。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、受聴者によって聴取される音の特性をより適切に調整することができる音出力システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、音軸が受聴者に向くように配置され、供給されたオーディオ信号を放音する第1の放音手段と、前記第1の放音手段の音軸とは異なる方向の音軸を有し、供給されたオーディオ信号を放音する第2の放音手段と、オーディオ信号が入力される入力手段と、前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第1の放音手段に供給する第1の調整手段と、前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第2の放音手段に供給する第2の調整手段とを具備し、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号の内容に応じた関係になるように、音圧レベルを調整することを特徴とする音出力システムを提供する。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記入力手段から入力されるオーディオ信号は、楽曲を示すオーディオ信号であり、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号が示す楽曲の曲調に応じた関係になるように、音圧レベルを調整してもよい。
【0010】
また、別の好ましい態様において、前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が、さらに、前記第1の放音手段と受聴者との距離に応じた関係になるように、音圧レベルを調整してもよい。
【0011】
また、別の好ましい態様において、前記第2の調整手段は、前記入力手段から入力されるオーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整し、前記第1の放音手段と受聴者との距離が大きいほど、高周波数帯域側に属する成分の音圧レベルが大きくなるように調整してもよい。
【0012】
また、別の好ましい態様において、前記第2の調整手段は、前記第1の放音手段および前記第2の放音手段の放音により、定常態伝送特性が所定の周波数帯域において均一になるように、特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整してもよい。
【0013】
本発明によれば、第2の放音手段の音軸が第1の放音手段の音軸とは異なる方向を向いた構成のもとで、第2の放音手段から発せられる音の特性が第1の放音手段から発せられる音の特性とは独立に調整されるようになっている。したがって、例えば第1の放音手段から発せられた音を直接音として受聴者に聴取させる一方、第2の放音手段から発せられた音を間接音として受聴者に聴取させる構成のもとで、直接音の特性に影響を与えることなく間接音の特性を調整することができる。より具体的には、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、任意にパワーレスポンスを調整することができる。このパワーレスポンスは、第1および第2の放音手段による発音に伴なって音出力システムの全方向に放出されるエネルギを総和したときの周波数特性である。定常態伝送特性SPL0はパワーレスポンスに応じて変化するから、本発明によれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、定常態伝送特性SPL0を調整することができると言える。
【0014】
なお、本明細書における「音軸」とは、スピーカの正面方向に延在する軸を意味する。具体例を挙げれば、放音手段としてコーン型のスピーカユニットを用いた場合にはコーン(略円錐体)の中心軸が音軸に相当し、ホーン型のスピーカユニットを用いた場合にはホーンの中心軸が音軸に相当し、ドーム型のスピーカユニットを用いた場合にはドームの中心軸が音軸に相当するといった具合である。換言すれば、磁界中に配置された導電体の振動によって音を発する構成のスピーカユニットにあっては、略円筒状をなすボイスコイルの中心軸が音軸に相当すると言うこともできる。
【0015】
なお、調整手段は、利用者(例えば受聴者)によって与えられた指示に応じてオーディオ信号の特性を調整する構成としてもよいし、予め定められたアルゴリズムに基づいて自動的にオーディオ信号の特性を調整する構成としてもよい。このうち後者に係る構成においては、受聴者が聴取する直接音および間接音について双方の音圧レベルが広い周波数帯域にわたって均一となるようにオーディオ信号の特性を調整することが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、受聴者によって聴取される音の特性をより適切に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
<A:音出力システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、このシステムは、信号処理装置1とスピーカ装置5とを有する。このうち信号処理装置1は、上位装置(図示略)から供給されるオーディオ信号をスピーカ装置5に供給するための手段である。この上位装置としては、例えば、光ディスクや磁気ディスクといった各種の記録媒体から読み出したデータに基づいてオーディオ信号を出力する光ディスク再生装置や、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格に準拠したデータに基づいてオーディオ信号を生成して出力する音源装置、あるいは周囲の音を収音してオーディオ信号を出力する手段たるマイクロホンなどが採用され得る。一方、スピーカ装置5は、信号処理装置1から供給されたオーディオ信号に応じた音を出力する手段であり、リスニングルーム200の床面に配置される。このリスニングルームに居る受聴者Rは、スピーカ装置5から出力された音を聴取する。
【0019】
このスピーカ装置5は、メインスピーカユニット(第1の放音手段)6と、サブスピーカユニット(第2の放音手段)7と、これらのスピーカユニットを収容するキャビネット(筐体)51とを有する。メインスピーカユニット6およびサブスピーカユニット7としては、従来から知られているコーン型スピーカやホーン型スピーカ、ドーム型スピーカといった各種の構成のスピーカユニットを採用することができる。要するに、オーディオ信号に応じた音を出力し得る手段であればその構成の如何は不問である。
【0020】
ここで、図2は、音軸の方向に特に着目してスピーカ装置5の構成を示す図である。このうち図2(a)はスピーカ装置5を側面からみた図であり、図2(b)はスピーカ装置5を上面からみた図である。同図に示すように、メインスピーカユニット6は、その音軸6aが受聴者Rに向くように(すなわち音軸6a上に受聴者Rが位置するように)キャビネット51に配置されている。したがって、メインスピーカユニット6から発せられた音の少なくとも一部は、図1に示すように、リスニングルーム200の壁面において反射することなく直接音として受聴者Rに聴取されることとなる。一方、サブスピーカユニット7は、その音軸7aがメインスピーカユニット6の音軸6aとは異なる方向を向くようにキャビネット51に配置されている。より具体的には、サブスピーカユニット7の音軸7aは、図2(b)に示すようにスピーカ装置5を鉛直方向の上方からみたみたときにメインスピーカユニット6の音軸6aとは反対側を向き、なおかつ図2(a)に示すようにスピーカ装置5を水平方向からみたときにメインスピーカユニット6の音軸6aよりも上方を向くようになされている。したがって、サブスピーカユニット7から発せられた音は、図1に示すように、リスニングルームの壁面において1回または複数回にわたって反射した後に間接音として受聴者Rに聴取されることとなる。換言すれば、サブスピーカユニット7から出力された音が間接音として受聴者Rに聴取されるように、サブスピーカユニット7の音軸7aの方向が定められていると言うこともできる。
【0021】
一方、図1に示した信号処理装置1は、メインスピーカ用ユニット2とサブスピーカ用ユニット3とを有する。このうちメインスピーカ用ユニット2は上位装置から入力端11に入力されたオーディオ信号をメインスピーカユニット6に供給するための手段であり、入力端11からメインスピーカユニット6に至る伝送ライン21を有する。これに対し、サブスピーカ用ユニット3は入力端11に入力されたオーディオ信号をサブスピーカユニット7に供給するための手段であり、メインスピーカユニット6の伝送ライン21から分岐してサブスピーカユニット7に至る伝送ライン31を有する。
【0022】
サブスピーカ用ユニット3は、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号の特性を調整するための調整手段32を有する。この調整手段32は、オーディオ信号の音圧レベルを調整するためのボリューム321と、オーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整するためのイコライザ322と、オーディオ信号を増幅してサブスピーカユニット7に出力するパワーアンプ323とを有する。一方、メインスピーカ用ユニット2も同様に、メインスピーカユニット6に供給されるべきオーディオ信号の特性を調整するための調整手段22として、ボリューム221とイコライザ222とパワーアンプ223とを備えている。
【0023】
また、信号処理装置1は、摘みやボタンといった各種の操作子を含む入力装置(図示略)を備えている。調整手段22および32によってオーディオ信号に施される調整の内容は、利用者が入力装置に対して行なった操作の内容に応じて決定される。
【0024】
この構成のもと、入力端11から入力されて伝送ライン21に至ったオーディオ信号は、調整手段22によって特性が調整された後にメインスピーカユニット6から音として出力される。このメインスピーカユニット6から出力された音は、受聴者Rによって直接音として聴取される。一方、入力端11から入力されたオーディオ信号は、伝送ライン21から分岐した伝送ライン31を介して調整手段32に至り、この調整手段による調整の後にサブスピーカユニット7から音として出力される。このサブスピーカユニット7から出力された音は、受聴者Rによって間接音として聴取される。
【0025】
このように、本実施形態においては、間接音を出力するサブスピーカユニット7に供給されるオーディオ信号の特性が、メインスピーカユニット6に供給されるオーディオ信号とは独立して調整されるようになっている。したがって、メインスピーカユニット6から受聴者Rに至る直接音の特性に影響を与えることなく、サブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音の特性を調整することができる。換言すれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、任意にパワーレスポンスを調整することができるのである。このパワーレスポンスは、スピーカ装置5による発音に伴なって当該スピーカ装置5の全方向に放出されるエネルギを総和したときの周波数特性である。直接音と間接音とを総和したときの周波数特性である定常態伝送特性SPL0は、このパワーレスポンスの影響を受ける。したがって、本実施形態によれば、軸上特性SPL1に影響を与えることなく、定常態伝送特性SPL0を広い周波数帯域にわたって均一に調整することができる。この効果について詳述すると以下の通りである。
【0026】
例えば、スピーカ装置5から出力されて受聴者Rに聴取される音の軸上特性SPL1と定常態伝送特性SPL0とが図3(a)に示した状態にある場合(例えば、狭い音響空間においてスピーカ装置5と受聴者Rとの距離が小さい場合)を想定する。すなわち、軸上特性SPL1は広い周波数帯域にわたって均一であるのに対し、定常態伝送特性SPL0については特定の帯域B1およびB2にディップDが現れている場合である。この場合、サブスピーカ用ユニット3のイコライザ322によって、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号のうち帯域B1およびB2に属する周波数成分の音圧レベルを適宜に上昇させれば、図3(b)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一な定常態伝送特性SPL0が得られる。このとき、メインスピーカユニット6から出力される直接音には何らの影響もないから、図3(b)に示すように、軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0の双方が広い周波数帯域にわたって均一となる。
【0027】
ここで、ロックやポップスといったリズミカルな楽曲が再生される場合には、特に直接音が、受聴者Rによって知覚される音の印象を決定づける重要な要素となる。これに対し、オルガンによって演奏された楽曲やクラシック楽曲などが再生される場合には、特に間接音が、受聴者Rによって知覚される音の印象を決定づける重要な要素となる。本実施形態によれば、直接音に関わる軸上特性SPL1および間接音に関わる定常態伝送特性SPL0の双方を広い周波数帯域にわたって均一とすることができるから、リズミカルな楽曲やクラシック楽曲といった曲調の異なる楽曲が再生されたとしても、受聴者Rが知覚する音色のバランスが異なるという問題は生じない。また、それぞれ異なる周波数帯域が割り当てられた複数のスピーカユニットから出力される音同士のつながりを改善することにより(すなわちクロスオーバ周波数の近傍におけるディップDを解消することにより)、臨場感のある自然な音をハイファイ再生することができる。
【0028】
また、図4(a)は、スピーカ装置5と受聴者Rとの距離が大きいとき(例えば教会や講堂などの広い音響空間)の軸上特性SPL1および定常態伝送特性SPL0を示す図である。同図に示すように、軸上特性SPL1については広い周波数帯域にわたって均一であるのに対し、定常態伝送特性SPL0については周波数の高い領域ほど音圧レベルが低下している。間接音は、受聴者Rに到達するまでの長い経路において、空気による吸収などに伴なって特に高域成分が減衰しやすいからである。このような場合には、サブスピーカ用ユニット3のイコライザ322によって、サブスピーカユニット7に供給されるべきオーディオ信号のうち帯域B3に属する周波数成分の音圧レベルを適宜に上昇させれば、図4(b)に示すように広い周波数帯域にわたってほぼ均一な定常態伝送特性SPL0が得られる。一方、このように定常態伝送特性SPL0を調整したとしても、メインスピーカユニット6から出力される直接音の特性には何らの影響も与えられないから、図4(b)に示すように、軸上特性SPL1についても広い周波数帯域にわたる均一な特性が維持される。
【0029】
ここで、広い音響空間などにおいてスピーカ装置5と受聴者Rとの距離が大きい場合には、スピーカ装置5から発せられて最初に受聴者Rに到達する音の波面(第1波面)の特性、すなわち直接音の特性が、受聴者Rの知覚する音の印象を決定づける重要な要素となる。広い音響空間においては、狭い音響空間と比較して、直接音が受聴者Rに到達してから間接音が受聴者Rに到達するまでに長い時間を要するからである。したがって、このような広い音響空間のもとで、図11(b)に示したように定常態伝送特性SPL0の調整に伴なって軸上特性SPL1の均一性が損なわれると、利用者はスピーカ装置5から発せられた音に対して特に不自然な印象を受ける。これに対し、本実施形態によれば、定常態伝送特性SPL0が軸上特性SPL1とは独立して調整されるから、定常態伝送特性SPL0を均一に調整することによって残響感の豊かな音が得られる一方、この調整に伴なって受聴者Rによる音の印象が変えられることはない。換言すると、本実施形態に係るスピーカ装置5を広い音響空間に設置した場合には、スピーカ装置5から発せられた音が時間領域において聴感に与える影響を改善することができるのである。
【0030】
また、本実施形態においては、メインスピーカ用ユニット2のボリューム221とサブスピーカ用ユニット3のボリューム321とを独立に調整することによって、メインスピーカユニット6から受聴者Rに至る直接音とサブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音との音圧レベルのバランスを任意に変化させることができる。したがって、本実施形態によれば、受聴者Rによって知覚される音の残響感を適宜に変更することができる。例えば、サブスピーカ用ユニット3のボリューム321を調整すれば、サブスピーカユニット7から壁面における反射を経て受聴者Rに至る間接音(すなわち残響音)の音圧レベルが増大するから、受聴者Rによって知覚される残響感を大きくすることができる。逆に、残響感を小さくするためには、サブスピーカ用ユニット3のボリューム321を調整することによって、サブスピーカユニット7から受聴者Rに至る間接音の音圧レベルを下げればよい。一般的に、受聴者Rによって残響音として聴取される間接音の特性は、リスニングルーム200における壁面の吸音特性やリスニングルームの容積、あるいはスピーカ装置5から受聴者Rまでの距離といった各種の条件に影響を受けるが、本実施形態においては直接音と間接音とのバランスを任意に調整することによって、この条件を適宜に補正することができるのである。
【0031】
<B:変形例>
以上に説明した実施形態はあくまでも例示である。したがって、この形態に対しては本発明の趣旨から逸脱しない範囲で種々の変形を加えることができる。具体的には、以下のような変形例が考えられる。
【0032】
<B−1:変形例1>
上記実施形態に示した調整手段22および32、あるいはメインスピーカユニット6およびサブスピーカユニット7の構成を以下のように変更してもよい。
【0033】
(1)第1の態様
上記実施形態においては、メインスピーカユニット6にオーディオ信号を供給するためのメインスピーカ用ユニット2にボリューム221とイコライザ222とを含ませる構成を例示した。この構成によれば、軸上特性SPL1にディップやピークが現れている場合であっても、ボリューム221またはイコライザ222を適宜に動作させることによって、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1が均一となるように調整することができる。しかしながら、広い周波数帯域にわたって軸上特性SPL1が平坦になるようにメインスピーカユニット6の構成自体が予め設計されている場合には、図5に示すように、図1に示したボリューム221とイコライザ222とを省略することもできる。
【0034】
(2)第2の態様
上記実施形態においては、信号処理装置1にイコライザ222および322を含ませる構成を例示したが、直接音と間接音との音圧レベルのバランスのみを調整するのであれば、図6に示すようにイコライザ222および322を省略してもよい。なお、図6に示す構成においては、サブスピーカユニット7の前段にパッシブネットワーク75が設けられている。このパッシブネットワーク75は、オーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分のみを選択的に出力するフィルタとして機能するものである。この構成によれば、イコライザ322を省略した構成であっても、間接音のうちパッシブネットワーク75の通過帯域に属する成分の音圧レベルを増加させることができるから、定常態伝送特性SPL0を補正することができる。
【0035】
(3)第3の態様
上記実施形態においては、音軸を受聴者Rに向けたスピーカユニット(メインスピーカユニット6)をひとつとした場合を例示したが、これを複数としてもよい。すなわち、図7に示すように、図1に示したメインスピーカユニット6に代えて、パッシブネットワーク65と第1のメインスピーカユニット61と第2のメインスピーカユニット62とを設けてもよい。このうちパッシブネットワーク65は、メインスピーカ用ユニット2から供給されたオーディオ信号をそれぞれ帯域が異なる2つの周波数成分に分割する手段である。これら2つの周波数成分のうち低周波数側のオーディオ信号は第1のメインスピーカユニット61に供給される一方、高周波数側のオーディオ信号は第2のメインスピーカユニット62に供給される。この構成によれば、第1のメインスピーカユニット61をウーファとして機能させ、第2のメインスピーカユニット62をツィータとして機能させることができる。なお、ここではメインスピーカユニットの数を2つとした場合を例示したが3つ以上としてもよいことはもちろんである。この場合、パッシブネットワーク65は、オーディオ信号を、メインスピーカユニットと同数かそれよりも少ない数の周波数成分に分割することとなる。
【0036】
(4)第4の態様
オーディオ信号を遅延させる手段をサブスピーカ用ユニット3の調整手段32に含ませてもよい。図8は、本態様に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。なお、図8においては、図7に示した構成と同様に、2つのメインスピーカユニット61および62とパッシブネットワーク65とが設けられた場合を想定している。
【0037】
図8(a)に示すように、本態様においては、サブスピーカ用ユニット3の調整手段32のうちイコライザ322とパワーアンプ323との間に遅延手段325が設けられている。この遅延手段325は、イコライザ322から出力されたオーディオ信号を遅延させてパワーアンプ323に出力する手段である。具体的には、FIRフィルタやその他の遅延素子を遅延手段325として採用することができる。この遅延手段325による遅延時間は、利用者が入力装置を操作することによって適宜に変更することができる。
【0038】
一方、図8(b)は、図8(a)に示したスピーカ装置5を正面からみたときの図である。図8(a)および(b)に示すように、本態様においては、図1に示したサブスピーカユニット7に代えて、第1のサブスピーカユニット71、第2のサブスピーカユニット72および第3のサブスピーカユニット73という3つのスピーカユニットが設けられている。このうち第1のサブスピーカユニット71は、その音軸7aが鉛直方向上向きとなるように配置されている。また、図8(b)に示すように、第2のサブスピーカユニット72は、スピーカ装置5を正面からみたときに音軸7aが水平方向右向きとなるように配置されている。一方、第3のサブスピーカユニット7は、スピーカ装置5を正面から見たときに音軸7aが水平方向左向きとなるように配置されている。すなわち、略直方体状のキャビネット51の各面が略直方体の空間であるリスニングルーム200の各壁面と平行になるようにスピーカ装置5が配置されたときに、第1ないし第3のサブスピーカユニット71〜73の音軸7aがリスニングルーム200の各壁面と垂直をなすように、各サブスピーカユニット71〜73の方向が定められているのである。一方、サブスピーカ用ユニット3のパワーアンプ323からオーディオ信号が出力される伝送ライン33は3つに分岐しており、その3つの伝送ライン331は第1ないし第3のサブスピーカユニット71〜73にそれぞれ接続されている。さらに、図1に示したボリューム321に代えて、分岐後の3本の伝送ライン331の各々にボリューム326が設けられており、各サブスピーカユニット71〜73に供給されるオーディオ信号の音圧レベルが個別に調整されるようになっている。なお、サブスピーカユニットの数は3つに限られるものではなく、それ以外の数であってもよい。
【0039】
この構成によれば、受聴者Rによって聴取される音を、形状や広さなどが異なる各種の音響空間において聴取される音に近づけることができる。例えば、遅延手段325による遅延時間を長い時間に調整すれば、メインスピーカユニット61および62によって出力された音が直接音として受聴者Rに聴取されてから、サブスピーカユニット71〜73によって出力された音が間接音として受聴者Rに聴取されるまでの時間は長くなる。したがって、放音された音が長い距離を経た後に受聴者Rに至るような広い空間と同様の聴覚的効果をリスニングルーム200に居る受聴者Rに体験させることができる。また、例えば、音軸7aが水平方向を向く第2のサブスピーカユニット72および第3のサブスピーカユニット73から出力される音の音圧レベルを大きくすれば、水平方向から受聴者Rに到達する間接音の音圧レベルが大きくなる。したがって、周囲が包まれている感覚を受聴者Rに体験させることができる。このように、本態様によれば、受聴者Rが知覚する音響効果を適宜に制御することができるのである。
【0040】
(5)その他の態様
信号処理装置1における調整手段22および32の構成要素は以上に説明したものに限られない。例えば、ボリューム221および321に代えて、またはこれとともにアッテネータを含ませてもよいし、その他に各種のフィルタを含ませても良い。また、実施形態として図1に示した構成、または第1ないし第4の態様として図5から図8に示した構成をそれぞれ適宜に組み合わせてもよいことはもちろんである。
【0041】
<B−2:変形例2>
上記実施形態および変形例においては、調整手段22および32による調整の内容が受聴者Rによる操作に応じて決定される構成を例示したが、その他の条件に基づいて調整の内容が決定される構成を採用してもよい。例えば、図1に示したイコライザ322による調整の内容(例えば音圧レベルを調整すべき周波数帯域や音圧レベルの調整量)を、広い周波数帯域にわたって定常態伝送特性SPL0が均一となるように、すなわち受聴者Rによって聴取される直接音および間接音の音圧レベルが略均一となるように決定してもよい。
【0042】
<B−3:変形例3>
上記実施形態および変形例においては、信号処理装置1とスピーカ装置5とを別体の装置とした場合を例示したが、信号処理装置1の各部をスピーカ装置5のキャビネット51に収容して一体の装置としてもよい。また、上記実施形態および変形例に示した信号処理装置1の構成要素の一部をスピーカ装置5に収容してもよいし、スピーカ装置5の構成要素の一部を信号処理装置1に収容してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同音出力システムにおけるスピーカ装置の構成を示す図である。
【図3】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図4】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図5】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図6】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図7】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図8】同実施形態の変形例に係る音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図9】従来の音出力システムの構成を示すブロック図である。
【図10】従来の技術における問題点を説明するための図である。
【図11】従来の技術における問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
1……信号処理装置、11……入力端、2……メインスピーカ用ユニット、22,32……調整手段、221,321,326……ボリューム、222,322……イコライザ、223,323……パワーアンプ、3……サブスピーカ用ユニット、325……遅延手段、5……スピーカ装置、51……キャビネット、6,61,62……メインスピーカユニット、6a,7a……音軸、7,71,72,73……サブスピーカユニット、200……リスニングルーム、R……受聴者。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音軸が受聴者に向くように配置され、供給されたオーディオ信号を放音する第1の放音手段と、
前記第1の放音手段の音軸とは異なる方向の音軸を有し、供給されたオーディオ信号を放音する第2の放音手段と、
オーディオ信号が入力される入力手段と、
前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第1の放音手段に供給する第1の調整手段と、
前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第2の放音手段に供給する第2の調整手段と
を具備し、
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号の内容に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする音出力システム。
【請求項2】
前記入力手段から入力されるオーディオ信号は、楽曲を示すオーディオ信号であり、
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号が示す楽曲の曲調に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の音出力システム。
【請求項3】
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が、さらに、前記第1の放音手段と受聴者との距離に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音出力システム。
【請求項4】
前記第2の調整手段は、前記入力手段から入力されるオーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整し、前記第1の放音手段と受聴者との距離が大きいほど、高周波数帯域側に属する成分の音圧レベルが大きくなるように調整する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の音出力システム。
【請求項5】
前記第2の調整手段は、前記第1の放音手段および前記第2の放音手段の放音により、定常態伝送特性が所定の周波数帯域において均一になるように、特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項4に記載の音出力システム。
【請求項1】
音軸が受聴者に向くように配置され、供給されたオーディオ信号を放音する第1の放音手段と、
前記第1の放音手段の音軸とは異なる方向の音軸を有し、供給されたオーディオ信号を放音する第2の放音手段と、
オーディオ信号が入力される入力手段と、
前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第1の放音手段に供給する第1の調整手段と、
前記入力手段に入力されるオーディオ信号の音圧レベルを調整して、前記第2の放音手段に供給する第2の調整手段と
を具備し、
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号の内容に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする音出力システム。
【請求項2】
前記入力手段から入力されるオーディオ信号は、楽曲を示すオーディオ信号であり、
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が前記入力手段に入力されるオーディオ信号が示す楽曲の曲調に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の音出力システム。
【請求項3】
前記第1の調整手段と、前記第2の調整手段とは、双方の音圧レベルの関係が、さらに、前記第1の放音手段と受聴者との距離に応じた関係になるように、音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音出力システム。
【請求項4】
前記第2の調整手段は、前記入力手段から入力されるオーディオ信号のうち特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整し、前記第1の放音手段と受聴者との距離が大きいほど、高周波数帯域側に属する成分の音圧レベルが大きくなるように調整する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の音出力システム。
【請求項5】
前記第2の調整手段は、前記第1の放音手段および前記第2の放音手段の放音により、定常態伝送特性が所定の周波数帯域において均一になるように、特定の周波数帯域に属する成分ごとに音圧レベルを調整する
ことを特徴とする請求項4に記載の音出力システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−295634(P2007−295634A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210113(P2007−210113)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【分割の表示】特願2003−141767(P2003−141767)の分割
【原出願日】平成15年5月20日(2003.5.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【分割の表示】特願2003−141767(P2003−141767)の分割
【原出願日】平成15年5月20日(2003.5.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]