説明

音声信号伝送システム

【課題】簡便な構成で音声信号を伝送可能な音声信号伝送システムを提供する。
【解決手段】アナログ音声信号をデジタル音声信号に変換して出力するアナログ・デジタ
ル変換器15と、アナログ・デジタル変換器15から出力されたデジタル音声信号をアナ
ログ音声信号に変換して出力するデジタル・アナログ変換器とを備え、アナログ・デジタ
ル変換器15は、比較器18と積分器17とを有し、比較器18および積分器17により
発振回路16を構成することで、アナログ音声信号を当該アナログ音声信号に応じてパル
ス幅が変化するデジタル音声信号に変換し、デジタル・アナログ変換器は、デジタル音声
信号をアナログ音声信号に変換するローパスフィルタ回路を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ音声信号を長距離に亘って伝送するには、外部ノイズを抑えるため、同軸ケー
ブル等が使用される。また、伝送距離が比較的短い場合には、長いスピーカー・ケーブル
を用いて、アナログ音声信号をスピーカーに伝送し出力させる。1つの音声入力装置から
複数の音声出力装置(スピーカー等)にアナログ音声信号を伝送する場合、1つの音声出
力装置ごとに1本ずつ複数のケーブルが使用される。
【0003】
そのため、音声入力装置の増幅器出力から何本もの同軸ケーブルを配線したり、何本も
のスピーカー・ケーブルを長距離に亘って束のように引き回したりと、配線に大変な手間
が掛かる。例えば、駅の構内放送のように何台ものスピーカーからアナウンスする場合、
放送設備から何本もの同軸ケーブルが引き出されて、その1本1本が各スピーカーアンプ
まで配線されるので、配線量が多く、配線の手間も掛かる作業となる。また、異常があっ
た場合に、どの配線に異常があるかを探す必要があり、管理の手間も掛かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−14297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、アナログ音声信号をデジタル化して伝送することも考えられるが(例えば、特
許文献1を参照)、専用のアナログ・デジタル変換器を使用するため、回路が複雑になり
、高価な電子部品や電子機器等を用いる必要もあった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、簡便な構成で音声信号を伝送
可能な音声信号伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的達成のため、本発明に係る音声信号伝送システムは、アナログ音声信号
をデジタル音声信号に変換して出力するアナログ・デジタル変換器と、前記アナログ・デ
ジタル変換器から出力された前記デジタル音声信号を前記アナログ音声信号に変換して出
力するデジタル・アナログ変換器とを備え、前記アナログ・デジタル変換器は、比較器と
積分器とを有し、前記比較器および前記積分器により発振回路を構成することで、前記ア
ナログ音声信号を当該アナログ音声信号に応じてパルス幅が変化する前記デジタル音声信
号に変換し、前記デジタル・アナログ変換器は、前記デジタル音声信号を前記アナログ音
声信号に変換するローパスフィルタ回路を有している。
【0008】
なお、上述の発明において、前記比較器の出力端子と正相入力端子との間に前記積分器
を電気的に接続して、前記発振回路を構成することが好ましい。
【0009】
また、上述の発明において、前記デジタル・アナログ変換器が複数設けられる場合には
、前記アナログ・デジタル変換器から出力された前記デジタル音声信号を前記複数の前記
デジタル・アナログ変換器にそれぞれ伝送する伝送手段(例えば、実施形態における出力
回路19)を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較器および積分器により発振回路を構成することで、アナログ音声
信号を当該アナログ音声信号に応じてパルス幅が変化するデジタル音声信号に変換するた
め、簡単な発振回路でアナログ音声信号に変換することができ、簡便な構成で音声信号を
伝送することが可能になる。
【0011】
なお、比較器の出力端子と正相入力端子との間に積分器を電気的に接続して、発振回路
を構成することにより、簡単な回路構成で、アナログ音声信号をデジタル音声信号に変換
することができる。
【0012】
また、アナログ・デジタル変換器から出力されたデジタル音声信号を複数のデジタル・
アナログ変換器にそれぞれ伝送する伝送手段を備えることで、既存の通信規格(例えば、
RS−485等)を用いて、アナログ・デジタル変換器から出力された同一のデジタル音
声信号を複数のデジタル・アナログ変換器に対して同時に伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】発振回路の回路図である。
【図2】音声信号伝送システムのシステム構成図である。
【図3】音声入力装置のブロック図である。
【図4】入力信号がない状態での積分器出力および比較器出力の変化を示すグラフである。
【図5】正の入力信号が入力された状態での積分器出力および比較器出力の変化を示すグラフである。
【図6】負の入力信号が入力された状態での積分器出力および比較器出力の変化を示すグラフである。
【図7】入力アナログ信号の変化に対するデジタル信号の変化を示すグラフである。
【図8】音声出力装置のブロック図である。
【図9】ローパスフィルタ回路の回路図である。
【図10】入力デジタル信号の変化に対するアナログ信号の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態に係る
音声信号伝送システム1を図2に示している。この音声信号伝送システム1は、1つの音
声入力装置10と、複数の音声出力装置20A〜20Dと、音声入力装置10と各音声出
力装置20A〜20Dとをそれぞれ電気的に接続する伝送ケーブル30とを備えて構成さ
れる。なお、図2において、複数の音声出力装置として、第1音声出力装置20A、第2
音声出力装置20B、第3音声出力装置20C、および第4音声出力装置20Dを示して
いるが、これに限られるものではなく、これよりも多数もしくは少数の音声出力装置を用
いることができる。
【0015】
音声入力装置10は、図3に示すように、マイクロホン11(音声信号を外部から入力
する装置としてマイクロホン11を例示しているが、当該マイクロホン11を他の音声信
号入力装置と置き換えてもよい)と、マイクロホン11から音声信号が入力される増幅器
12と、増幅器12と電気的に接続されたアナログ・デジタル変換器15と、伝送ケーブ
ル30と電気的に接続される出力回路19とを有して構成される。マイクロホン11は、
音声(音波)を電気信号(アナログ音声信号)に変換・増幅して増幅器12に出力する。
増幅器12は、マイクロホン11から入力されたアナログ音声信号を必要な電気信号の大
きさまで増幅してアナログ・デジタル変換器15に出力する。アナログ・デジタル変換器
15は、増幅器12から入力されたアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換して出力
回路19に出力する。出力回路19は、IC(Integrated Circuit)等の電子部品を用い
て構成され、アナログ・デジタル変換器15から出力されたデジタル音声信号を所定の通
信規格(例えば、RS−485等)で各音声出力装置20A〜20Dに向けて送信(出力
)する。
【0016】
なお、所定の通信規格として、例えば、バス型のマルチポイント接続に対応し、複数対
複数の接続が可能な通信規格であるRS−485や、一対複数のマルチドロップ接続に対
応した通信規格であるRS−422等が用いられる。このようにして音声入力装置10の
出力回路19から出力されたデジタル音声信号は、伝送ケーブル30を介して、各音声出
力装置20A〜20Dにそれぞれ送信される。
【0017】
ところで、アナログ・デジタル変換器15は、図1に示すように、一方の端子が増幅器
12と接続された第1の入力側コンデンサCc1と、第1の入力側コンデンサCc1と直
列に接続された入力側抵抗器Riと、入力側抵抗器Riと直列に接続された発振回路16
とを有して構成される。第1の入力側コンデンサCc1は、増幅器12から入力されるア
ナログ音声信号について、DC(直流)成分を除去するとともに、単一電源で回路を構成
する場合に、回路のバイアス電位に対して影響がないようにAC(交流)成分のみの結合
とするものである。これにより、低周波成分を除去することができるとともに、基準電圧
を非常に安定なものとしている従来のアナログ・デジタル変換器のような精度安定を必要
としない、アナログ音声信号の信号変化のみを発振回路16に入力することができる。
【0018】
入力側抵抗器Riは、アナログ音声信号に応じて、発振回路16の積分器17に流れる
電流を変化させる(すなわち変調する)ための電流の大きさを決めるものである。なお、
本実施形態において、アナログ・デジタル変換器15に入力されるアナログ音声信号の入
力電圧をViとし、入力側抵抗器Riを流れる電流をIiとする。
【0019】
発振回路16は、積分器17と、比較器18と、2つの発振用抵抗器Rc1,Rc2と
を有して構成される。また、積分器(積分回路)17は、積分用演算増幅器Ufと、積分
用抵抗器Rfと、積分用コンデンサCfとを有して構成される。積分用演算増幅器Ufの
正相入力端子(+入力端子)には、基準電圧Vоが入力される。基準電圧Vоは、片電源
の場合には電源電圧の1/2とし、両電源の場合にはグラウンド電圧とする。積分用演算
増幅器Ufの逆相入力端子(−入力端子)には、積分用抵抗器Rfの一方の端子と、積分
用コンデンサCfの一方の端子と、入力側抵抗器Riの端子が接続される。積分用演算増
幅器Ufの出力端子は、第1発振用抵抗器Rc1を介して比較器18の正相入力端子と接
続される。また、積分用演算増幅器Ufの出力端子と第1発振用抵抗器Rc1の一方の端
子との接続点には、積分用コンデンサCfの他方の端子が接続される。
【0020】
比較器18の逆相入力端子(−入力端子)には、基準電圧Vоが入力される。基準電圧
Vоは、積分用演算増幅器Ufに入力されているものと同一のものである。比較器18の
正相入力端子(+入力端子)は、上述したように、第1発振用抵抗器Rc1を介して積分
用演算増幅器Ufの出力端子と接続されるが、比較器18の正相入力端子と第1発振用抵
抗器Rc1の他方の端子との接続点には、第2発振用抵抗器Rc2の一方の端子が接続さ
れる。比較器18の出力端子には、第2発振用抵抗器Rc2の他方の端子と、積分用抵抗
器Rfの他方の端子が接続される。これにより、比較器18の出力端子と正相入力端子と
の間に積分器17が電気的に接続される。また、比較器18の出力端子は、出力回路19
と接続される。
【0021】
このような発振回路16において、積分器17の出力電圧Vsと比較器18の出力電圧
Vdは、第1発振用抵抗器Rc1と第2発振用抵抗器Rc2の抵抗比により分圧されて、
比較器18の正相入力端子に入力される。そして、比較器18への入力電圧が基準電圧V
оに達すると、比較器18の出力電圧Vdが(高低)反転して積分器17の動作が逆方向
になることで、回路が発振するようになっている。このように、市販の安価なオペアンプ
(積分用演算増幅器Uf)と比較器18により簡単に、発振回路16を構成することがで
きる。また、発振回路16の安定度はアナログ音声信号に影響しなければよいので、高価
な回路部品により高い安定度を得る必要もない。
【0022】
第1発振用抵抗器Rc1と第2発振用抵抗器Rc2の抵抗比は、積分器17の出力電圧
Vsが飽和するより前に、比較器18の入力電圧が基準電圧Vоに達するような比率に設
定される。このとき、積分器17の出力電圧Vsが電源電圧内で安定して発振できるよう
に、通常、第1発振用抵抗器Rc1の抵抗値が第2発振用抵抗器Rc2の抵抗値より小さ
くなるように設定される。
【0023】
次に、発振回路16の動作について図4〜図6を参照しながら説明する。図4は、入力
信号(入力電圧Vi)がない状態での積分器17の出力電圧Vsの変化と比較器18の出
力電圧Vdの変化を示している。なお、図4のように基準電圧Vоに対する入力電圧Vi
の交流成分のみを考える場合は、第1の入力側コンデンサCc1が無いものとして扱うこ
とができる。
【0024】
まず、比較器18の出力電圧Vdが高(ハイ)電圧の状態になった時点(図4における
a時点)から説明する。比較器18の出力電圧Vdがハイ電圧なので、比較器18から積
分用抵抗器Rfを介して電流(この電流を便宜的に正方向電流Ifと称する)が流れる。
この正方向電流Ifは積分器17へ流れるので、アナログ音声信号の入力がない場合、積
分電流Ic=Ifとして積分用コンデンサCfが充電される。そのため、積分器17の出
力電圧Vsは、積分電流Icによる充電に比例して徐々に低下する。例えば、積分用コン
デンサCfの静電容量をCfとし、積分用抵抗器Rfの抵抗値をRfとすると、両電源の
場合(基準電圧Vo=0)で入力電流Ii=0のとき、Vs=−(1/Cf)・∫(Vd
/Rf)・dtとなる。
【0025】
前述したように、積分器17の出力電圧Vsと比較器18の出力電圧Vdは、第1発振
用抵抗器Rc1と第2発振用抵抗器Rc2の抵抗比により分圧されて、比較器18の正相
入力端子に入力される。そして、比較器18への入力電圧が基準電圧Vоよりも低くなっ
た時点(図4におけるb時点)で、比較器18の出力電圧Vdが高(ハイ)電圧から低(
ロー)電圧に切り替わる。
【0026】
このとき、比較器18の出力電圧Vdがロー電圧なので、積分用抵抗器Rfを介してハ
イ電圧の場合と逆方向の電流(この電流を便宜的に逆方向電流−Ifと称する)が流れる
。そうすると、積分電流Icもハイ電圧の場合と逆方向の電流となるので、アナログ音声
信号の入力がない場合、積分電流Ic=−Ifとして積分用コンデンサCfが放電される
。そのため、積分器17の出力電圧Vsは、積分用コンデンサCfによる放電に比例して
徐々に上昇する。そして、比較器18への入力電圧が基準電圧Vоよりも高くなった時点
(図4におけるc時点)で、比較器18の出力電圧Vdが低(ロー)電圧から高(ハイ)
電圧に切り替わる。
【0027】
以降同様にして、図4におけるd,e,f…の時点で、比較器18の出力電圧Vdが(
高低)反転して積分器17の動作が逆方向になることにより、発振が継続される。このよ
うにして、アナログ音声信号の入力がない状態に対応した、比較器18の出力電圧Vdが
矩形のパルス状となるデジタル音声信号を得ることができる。なお、比較器18の出力電
圧Vdが両極電圧の場合でも、発振周波数の大きな変動がないので、コンデンサ結合によ
り、デジタル音声信号を出力回路19へ簡単に伝送することが可能である。
【0028】
図5は、正電圧の入力信号が入力された場合の積分器17の出力電圧Vsの変化と比較
器18の出力電圧Vdの変化を(実線で)示している。また、入力信号がない状態での積
分器17の出力電圧Vsの変化と比較器18の出力電圧Vdの変化を破線で示している。
なお、図5のように基準電圧Vоに対する入力電圧Viの交流成分のみを考える場合は、
第1の入力側コンデンサCc1が無いものとして扱うことができる。
【0029】
まず、比較器18の出力電圧Vdが低(ロー)電圧の状態になった時点(図5における
b時点)から説明する。比較器18の出力電圧Vdがロー電圧なので、積分用抵抗器Rf
を介して逆方向電流−Ifが流れる。アナログ音声信号が正電圧の場合、積分器(積分回
路)17に(正方向の)入力電流Iiが流れるため、積分電流Ic=(−If+Ii)と
して積分用コンデンサCfが放電される。そのため、積分器17の出力電圧Vsは、入力
電流Iiの分だけ積分電流Icの絶対値が少なくなるので、積分用コンデンサCfによる
放電に比例して、アナログ音声信号の入力がない場合よりも緩やかな変化率で上昇する。
そして、比較器18への入力電圧が基準電圧Vоよりも高くなった時点(図5におけるc
′時点)で、比較器18の出力電圧Vdが低(ロー)電圧から高(ハイ)電圧に切り替わ
る。
【0030】
このとき、比較器18の出力電圧Vdがハイ電圧なので、比較器18から積分用抵抗器
Rfを介して正方向電流Ifが流れる。アナログ音声信号が正電圧の場合、積分器(積分
回路)17に(正方向の)入力電流Iiが流れるため、積分電流Ic=(If+Ii)と
して積分用コンデンサCfが充電される。そのため、積分器17の出力電圧Vsは、入力
電流Iiの分だけ積分電流Icの絶対値が多くなるので、積分電流Icによる充電に比例
して、アナログ音声信号の入力がない場合よりも急な変化率で低下する。そして、比較器
18への入力電圧が基準電圧Vоよりも低くなった時点(図5におけるd時点)で、比較
器18の出力電圧Vdが高(ハイ)電圧から低(ロー)電圧に切り替わる。
【0031】
以降同様にして、比較器18の出力電圧Vdが(高低)反転して積分器17の動作が逆
方向になることにより、発振が継続される。このようにして、アナログ音声信号として正
電圧の入力信号が入力された場合に対応した、比較器18の出力電圧Vdが矩形のパルス
状となるデジタル音声信号を得ることができる。なお、積分用コンデンサCfでの充放電
に拘らず、入力電流Iiの値が同じであるため、積分電流Icの向きが反転する際に入力
電流Iiが逆向きに作用する。従って、アナログ音声信号として正電圧の入力信号が入力
された場合のデジタル音声信号の周期は、アナログ音声信号の入力がない場合と同じであ
り、入力電流Iiの値に応じて、比較器18の出力電圧Vdの高(ハイ)電圧と低(ロー
)電圧の期間比、すなわち、パルスのデューティー比が変化することになる。図5の例で
は、アナログ音声信号として正電圧の入力信号が入力された場合、アナログ音声信号の入
力がない場合と比較して、比較器18の出力電圧Vdがロー電圧からハイ電圧に切り替わ
る時点がcからc′へ変化するように、ロー電圧の期間が長くなるとともにハイ電圧の期
間が短くなる。
【0032】
図6は、負電圧の入力信号が入力された場合の積分器17の出力電圧Vsの変化と比較
器18の出力電圧Vdの変化を(実線で)示している。また、入力信号がない状態での積
分器17の出力電圧Vsの変化と比較器18の出力電圧Vdの変化を破線で示している。
なお、図6のように基準電圧Vоに対する入力電圧Viの交流成分のみを考える場合は、
第1の入力側コンデンサCc1が無いものとして扱うことができる。
【0033】
まず、比較器18の出力電圧Vdが低(ロー)電圧の状態になった時点(図6における
d時点)から説明する。比較器18の出力電圧Vdがロー電圧なので、積分用抵抗器Rf
を介して逆方向電流−Ifが流れる。アナログ音声信号が負電圧の場合、積分器(積分回
路)17に正電圧の場合と逆方向の入力電流−Iiが流れるため、積分電流Ic=(−I
f−Ii)として積分用コンデンサCfが放電される。そのため、積分器17の出力電圧
Vsは、入力電流−Iiの分だけ積分電流Icの絶対値が多くなるので、積分用コンデン
サCfによる放電に比例して、アナログ音声信号の入力がない場合よりも急な変化率で上
昇する。そして、比較器18への入力電圧が基準電圧Vоよりも高くなった時点(図6に
おけるe″時点)で、比較器18の出力電圧Vdが低(ロー)電圧から高(ハイ)電圧に
切り替わる。
【0034】
このとき、比較器18の出力電圧Vdがハイ電圧なので、比較器18から積分用抵抗器
Rfを介して正方向電流Ifが流れる。アナログ音声信号が負電圧の場合、積分器(積分
回路)17に正電圧の場合と逆方向の入力電流−Iiが流れるため、積分電流Ic=(I
f−Ii)として積分用コンデンサCfが充電される。そのため、積分器17の出力電圧
Vsは、入力電流−Iiの分だけ積分電流Icの絶対値が少なくなるので、積分電流Ic
による充電に比例して、アナログ音声信号の入力がない場合よりも緩やかな変化率で低下
する。そして、比較器18への入力電圧が基準電圧Vоよりも低くなった時点(図6にお
けるf時点)で、比較器18の出力電圧Vdが高(ハイ)電圧から低(ロー)電圧に切り
替わる。
【0035】
以降同様にして、比較器18の出力電圧Vdが(高低)反転して積分器17の動作が逆
方向になることにより、発振が継続される。このようにして、アナログ音声信号として負
電圧の入力信号が入力された場合に対応した、比較器18の出力電圧Vdが矩形のパルス
状となるデジタル音声信号を得ることができる。なお、積分用コンデンサCfでの充放電
に拘らず、正電圧の場合と逆方向の入力電流−Iiの値が同じであるため、積分電流Ic
の向きが反転する際に入力電流−Iiが逆向きに作用する。従って、アナログ音声信号と
して負電圧の入力信号が入力された場合のデジタル音声信号の周期は、アナログ音声信号
の入力がない場合と同じであり、正電圧の場合と逆方向の入力電流−Iiの値に応じて、
比較器18の出力電圧Vdの高(ハイ)電圧と低(ロー)電圧の期間比、すなわち、パル
スのデューティー比が変化することになる。図6の例では、アナログ音声信号として負電
圧の入力信号が入力された場合、アナログ音声信号の入力がない場合と比較して、比較器
18の出力電圧Vdがロー電圧からハイ電圧に切り替わる時点がeからe″へ変化するよ
うに、ハイ電圧の期間が長くなるとともにロー電圧の期間が短くなる。
【0036】
なお、発振回路16の動作説明において、一方向から電流が供給される向きを一義的に
決めて説明を行っている。そのため、電流方向を逆方向に定義すれば、逆方向電流が流れ
たときに積分用コンデンサCfが充電される。このように、充電の反対を放電と定義し、
便宜的に充電および放電のうち一方を定義して説明を行っている。また、比較器18の低
(ロー)電圧が出力回路19の低(ロー)電圧とは限らない。インターフェースの定義に
よって、ハイ電圧およびロー電圧のどちらに定義してもよい。
【0037】
以上の説明からわかるように、アナログ音声信号の入力波形の変化は、デジタル音声信
号のパルス幅比(デューティー比)の変化となる。図7は、アナログ音声信号である入力
信号(入力電圧Vi)の変化が、デジタル音声信号(比較器18の出力電圧Vd)におけ
る高(ハイ)電圧と低(ロー)電圧の期間幅の変化に置き換えられることを示している。
なお、デジタル音声信号の発振周波数(搬送周波数)は、アナログ音声信号の周波数(数
kHz〜10kHz)と比べて十分に高い周波数(数100kHz)であるから、図7に
示すデジタル音声信号の実際の波形は、アナログ音声信号の入力波形と比較して、繰り返
し回数がさらに多くなる。また、デジタル音声信号の発振周波数は、比較器18の出力電
圧Vd、基準電圧Vо、第1発振用抵抗器Rc1の抵抗値、第2発振用抵抗器Rc2の抵
抗値、積分用コンデンサCfの静電容量、および積分用抵抗器Rfの抵抗値により決定さ
れる。
【0038】
デジタル音声信号におけるパルス幅比(デューティー比)が変化すると、そのデジタル
音声信号のDC(直流)成分が変化することになる。デジタル音声信号のDC成分は、デ
ジタル音声信号を積分することで検出することができる。なお、デジタル音声信号の積分
は、デジタル音声信号から低周波数成分を取り出すことに相当する。そのため、デジタル
音声信号からアナログ音声信号を再生するには、デジタル音声信号を積分すればよく、す
なわち、ローパスフィルタによりデジタル音声信号から低周波数成分を取り出せばよい。
アナログ音声信号の周波数とデジタル音声信号の発振周波数(搬送周波数)との間に十分
な開きがあれば、簡単なローパスフィルタでデジタル音声信号の低周波数成分を分離する
ことができる。また、簡単なローパスフィルタは、汎用のオペアンプICを使用すること
で容易に回路構成することができるため、必要な次数(段数)のローパスフィルタを用い
て、アナログ音声信号を安価で容易に分離(再生)することが可能である。そこで、各音
声出力装置20A〜20Dにはそれぞれ、デジタル・アナログ変換器としてローパスフィ
ルタ回路が設けられている。
【0039】
各音声出力装置20A〜20Dは、それぞれ同様の構成である。そのため、本実施形態
においては、第1音声出力装置20Aについてのみ説明を行い、他の音声出力装置20B
〜20Dの説明を省略する。第1音声出力装置20Aは、図8に示すように、伝送ケーブ
ル30と電気的に接続される入力回路21と、入力回路21と電気的に接続されたデジタ
ル・アナログ変換器22と、デジタル・アナログ変換器22と電気的に接続されたドライ
ブ回路26と、ドライブ回路26と電気的に接続されたスピーカー27(音声信号を処理
する装置としてスピーカー27を例示しているが、当該スピーカー27を他の音声信号処
理装置と置き換えてもよい)とを有して構成される。
【0040】
入力回路21は、IC(Integrated Circuit)等の電子部品を用いて構成され、音声入
力装置10の出力回路19から所定の通信規格(例えば、RS−485等)で送信されて
きたデジタル音声信号を受信して、デジタル・アナログ変換器22に出力する。デジタル
・アナログ変換器22は、入力回路21から入力されたデジタル音声信号をアナログ音声
信号に変換してドライブ回路26に出力する。ドライブ回路26は、アナログ音声信号を
増幅する増幅器で、デジタル・アナログ変換器22から入力されたアナログ音声信号を増
幅してスピーカー27に出力する。スピーカー27は、ドライブ回路26から入力された
電気信号(アナログ音声信号)を膜の機械的振動に変えて音を出し、音声入力装置10の
マイクロホン11に入力された音声を出力する。
【0041】
ところで、デジタル・アナログ変換器22は、図9に示すように、一方の端子が入力回
路21と接続された第2の入力側コンデンサCc2と、第2の入力側コンデンサCc2と
直列に接続されたローパスフィルタ回路23と、ローパスフィルタ回路23と直列に接続
された出力側コンデンサCc3とを有して構成される。第2の入力側コンデンサCc2は
、入力回路21とローパスフィルタ回路23との間に電位差がある場合に、AC(交流)
成分のみの結合としてDC(直流)電位差をなくすものである。また、出力側コンデンサ
Cc3は、ローパスフィルタ回路23とドライブ回路26との間に電位差がある場合に、
AC(交流)成分のみの結合としてDC(直流)電位差をなくすものである。なお、第2
の入力側コンデンサCc2および出力側コンデンサCc3は、必要がなければ設けなくて
もよい。
【0042】
ローパスフィルタ回路23は、例えば、第1ローパスフィルタ回路24と、第1ローパ
スフィルタ回路24と直列に接続された第2ローパスフィルタ回路25とからなり、4次
のローパスフィルタを構成している。第1ローパスフィルタ回路24は、多重帰還型ロー
パスフィルタであり、第1演算増幅器U1と、3つの抵抗器R1〜R3と、2つのコンデ
ンサC1〜C2とを有して構成される。第1演算増幅器U1の正相入力端子(+入力端子
)には、基準電圧Vоが入力される。基準電圧Vоは、片電源の場合には電源電圧の1/
2とし、両電源の場合にはグラウンド電圧とする。第1演算増幅器U1の逆相入力端子(
−入力端子)は、第1抵抗器R1および第2抵抗器R2を介して、第2の入力側コンデン
サCc2(すなわち、入力回路21)と接続される。第1演算増幅器U1の出力端子は、
第2ローパスフィルタ回路25と接続される。
【0043】
第1抵抗器R1と第2抵抗器R2との接続点には、第3抵抗器R3の一方の端子が接続
され、第3抵抗器R3の他方の端子が第1演算増幅器U1の出力端子と接続される。また
、第1抵抗器R1と第2抵抗器R2との接続点には、第1コンデンサC1の一方の端子が
接続され、第1コンデンサC1の他方の端子が接地される。第1演算増幅器U1の逆相入
力端子と第2抵抗器R2との接続点には、第2コンデンサC2の一方の端子が接続され、
第2コンデンサC2の他方の端子が第1演算増幅器U1の出力端子と接続される。
【0044】
第2ローパスフィルタ回路25は、多重帰還型ローパスフィルタであり、第2演算増幅
器U2と、3つの抵抗器R4〜R6と、2つのコンデンサC3〜C4とを有して構成され
る。第2演算増幅器U2の正相入力端子(+入力端子)には、基準電圧Vоが入力される
。基準電圧Vоは、第1演算増幅器U1の場合と同様に設定される。第2演算増幅器U2
の逆相入力端子(−入力端子)は、第4抵抗器R4および第5抵抗器R5を介して、第1
ローパスフィルタ回路24(すなわち、第1演算増幅器U1の出力端子)と接続される。
第2演算増幅器U2の出力端子は、出力側コンデンサCc3(すなわち、ドライブ回路2
6)と接続される。
【0045】
第4抵抗器R4と第5抵抗器R5との接続点には、第6抵抗器R6の一方の端子が接続
され、第6抵抗器R6の他方の端子が第2演算増幅器U2の出力端子と接続される。また
、第4抵抗器R4と第5抵抗器R5との接続点には、第3コンデンサC3の一方の端子が
接続され、第3コンデンサC3の他方の端子が接地される。第2演算増幅器U2の逆相入
力端子と第5抵抗器R5との接続点には、第4コンデンサC4の一方の端子が接続され、
第4コンデンサC4の他方の端子が第2演算増幅器U2の出力端子と接続される。
【0046】
このようなローパスフィルタ回路23により、デジタル音声信号の発振周波数(搬送周
波数)を含む高周波数成分を減衰させて、音声周波数を含む低周波数成分を通過させるこ
とで、入力回路21から入力されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換して再生
することができる。図10は、デジタル音声信号として発振回路16(比較器18)の出
力電圧Vdが入力された場合のローパスフィルタ回路23の出力電圧Vfの変化を示して
いる。図10より、デジタル音声信号のデューティー比の変化が直流電位の変化となり、
アナログ音声信号の電圧の変化として再生されることがわかる。なお、前述したように、
デジタル音声信号の発振周波数(搬送周波数)は、アナログ音声信号の周波数(数kHz
〜10kHz)と比べて十分に高い周波数(数100kHz)であるから、図10に示す
デジタル音声信号の実際の波形は、アナログ音声信号の出力波形と比較して、繰り返し回
数がさらに多くなる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、比較器18および積分器17により発振回
路16を構成することで、アナログ音声信号を当該アナログ音声信号に応じてパルス幅(
デューティー比)が変化するデジタル音声信号に変換するため、簡単な発振回路でアナロ
グ音声信号に変換することができ、簡便な構成で音声信号を伝送することが可能になる。
【0048】
なお、比較器18の出力端子と正相入力端子との間に積分器17を電気的に接続して、
発振回路16を構成することにより、簡単な回路構成で、アナログ音声信号をデジタル音
声信号に変換することができる。
【0049】
また、音声入力装置10のアナログ・デジタル変換器15から出力されたデジタル音声
信号を、複数の音声出力装置20A〜20Dのデジタル・アナログ変換器22にそれぞれ
伝送する出力回路19を備えることで、既存の通信規格(例えば、RS−485等)を用
いて、アナログ・デジタル変換器15から出力された同一のデジタル音声信号を複数のデ
ジタル・アナログ変換器22に対して同時に伝送することができる。
【0050】
なお、上述の実施形態において、増幅器12にマイクロホン11が接続されているが、
これに限られるものではなく、外部増幅器からのアナログ音声信号が入力される構成であ
ってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態において、ドライブ回路26にスピーカー27が接続されている
が、これに限られるものではなく、デジタル・アナログ変換器22が再生したアナログ音
声信号を、ドライブ回路26の増幅器を介して、別体の音声信号処理装置へ出力する構成
であってもよい。
【0052】
また、上述の実施形態において、1つの音声入力装置10(アナログ・デジタル変換器
15)に対して複数の音声出力装置20A〜20D(デジタル・アナログ変換器22)が
電気的に接続されているが、これに限られるものではなく、既存の通信規格(RS−48
5)を用いて、複数の音声入力装置(アナログ・デジタル変換器)を複数の音声出力装置
(デジタル・アナログ変換器)と電気的に接続することも可能である。
【0053】
また、上述の実施形態において、4次のローパスフィルタを構成しているが、これに限
られるものではない。ローパスフィルタの次数は、アナログ音声信号と搬送デジタル信号
との分離抑圧能力(具体的には、音声周波数に対する搬送周波数の抑圧比)によって決ま
るものであり、必要に応じて、4次よりも次数の高い(もしくは低い)ローパスフィルタ
を構成することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 音声信号伝送システム
10 音声入力装置
15 アナログ・デジタル変換器
16 発振回路
17 積分器
18 比較器
19 出力回路
20 音声出力装置
21 入力回路
22 デジタル・アナログ変換器
23 ローパスフィルタ回路
30 伝送ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ音声信号をデジタル音声信号に変換して出力するアナログ・デジタル変換器と

前記アナログ・デジタル変換器から出力された前記デジタル音声信号を前記アナログ音
声信号に変換して出力するデジタル・アナログ変換器とを備え、
前記アナログ・デジタル変換器は、比較器と積分器とを有し、前記比較器および前記積
分器により発振回路を構成することで、前記アナログ音声信号を当該アナログ音声信号に
応じてパルス幅が変化する前記デジタル音声信号に変換し、
前記デジタル・アナログ変換器は、前記デジタル音声信号を前記アナログ音声信号に変
換するローパスフィルタ回路を有することを特徴とする音声信号伝送システム。
【請求項2】
前記比較器の出力端子と正相入力端子との間に前記積分器を電気的に接続して、前記発
振回路を構成することを特徴とする請求項1に記載の音声信号伝送システム。
【請求項3】
前記デジタル・アナログ変換器が複数設けられ、
前記アナログ・デジタル変換器から出力された前記デジタル音声信号を前記複数の前記
デジタル・アナログ変換器にそれぞれ伝送する伝送手段を備えることを特徴とする請求項
1または2に記載の音声信号伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−5215(P2013−5215A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134163(P2011−134163)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000105338)ケル株式会社 (51)
【Fターム(参考)】