説明

音声信号処理回路

【課題】音声信号に高調波を重畳することによりスピーカの再生可能音域よりも低音域の音声を強調して再生する際に生じる音声信号の歪みを防止し、音質の低下を抑制する。
【解決手段】スピーカで再生するべく入力された音声信号のうち、前記スピーカの再生可能最低周波数よりも低い帯域の成分を通過させる低域通過フィルタと、前記スピーカで再生するべく入力された前記音声信号のうち、前記スピーカの前記再生可能最低周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する高域通過フィルタと、前記低域通過フィルタを通過した音声信号から高調波を生成する高調波生成部と、前記高調波生成部の出力に応じた音声信号を、前記高域通過フィルタの出力に応じた音声信号に加算する加算部と、を備える音声信号処理回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビの薄型化や音楽再生機器の小型化など、各種オーディオ機器の小型化、薄型化が進み、音声を出力するためのスピーカも小型化している。
これに伴い、このような小型のスピーカの低音の再生能力不足を補うために、スピーカの再生可能最低周波数よりも低い音域の音声信号を元の音声信号から抽出し、この低音域の音声信号から高調波を生成し、この高調波を元の音声信号に加えてスピーカから出力するようにする技術が開発されている(例えば特許文献1参照)。
このような技術を用いて音声を再生すると、スピーカからは実際には出力されていない低音域の音声が、あたかも出力されているかのように人間に聴こえるため、聴感を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−278158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、低音域の音声信号を元の音声信号から抽出する際には、ローパスフィルタを用いることになるが、ローパスフィルタを通過した低音域の音声信号は、周波数に応じた位相遅れを生じたものとなる。
そして、周波数に応じて異なる位相遅れが生じているこの低音域の音声信号から高調波を生成すると、高調波生成時に位相変化が生じないとしても、生成された高調波の位相は、高調波生成前の音声信号と同様に、周波数に応じて異なるものとなっている。
このため、この高調波と元の音声信号との位相は、周波数によって異なるものとなるため、これらの信号を加え合わせて生成される音声信号の波形は歪み、スピーカから出力される音声の音質を悪化させる一つの要因となる。
つまり、スピーカの再生可能最低周波数よりも低い音域の音声信号から生成した高調波を元の音声信号に加え合わせて出力することにより、低音が強調された聴感の良い音声を再生できるものの、音声信号の波形の歪みにより音質の低下を招くことになる。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、音声信号に高調波を重畳することによりスピーカの再生可能音域よりも低音域の音声を強調して再生する際に生じる音声信号の歪みを防止し、音質の低下を抑制することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一つの側面に係る音声信号処理回路は、スピーカで再生するべく入力された音声信号のうち、前記スピーカの再生可能最低周波数よりも低い帯域の成分を通過させる第1低域通過フィルタと、前記スピーカで再生するべく入力された前記音声信号のうち、前記スピーカの前記再生可能最低周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記第1低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第1高域通過フィルタと、前記第1低域通過フィルタを通過した音声信号から高調波を生成する高調波生成部と、前記高調波生成部の出力に応じた音声信号を、前記第1高域通過フィルタの出力に応じた音声信号に加算する第1加算部と、を備える。
【0007】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、音声信号に高調波を重畳することによりスピーカの再生可能音域よりも低音域の音声を強調して再生する際に生じる音声信号の歪みを防止し、音質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態を説明するための図である。
【図2】ローパスフィルタ及びハイパスフィルタの一例を示す図である。
【図3】バターワースフィルタの位相特性の一例を示す図である。
【図4】ローパスフィルタの位相特性の一例を示す図である。
【図5】バターワースフィルタの位相特性の一例を示す図である。
【図6】ハイパスフィルタの位相特性の一例を示す図である。
【図7】ローパスフィルタを通過する周波数fcの音声信号の位相の遅れを説明するための図である。
【図8】ハイパスフィルタを通過する周波数fcの音声信号の位相の進みを説明するための図である。
【図9】第2実施形態を説明するための図である。
【図10】第3実施形態を説明するための図である。
【図11】第4実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
==第1実施形態==
図1は、本発明の一実施形態であるラジオ受信機10の構成を示す図である。ラジオ受信機10は、例えばカーステレオ(不図示)に設けられ、アンテナ20、チューナ21、システムLSI(Large Scale Integration)22、スピーカ120を含んで構成されている。
【0012】
チューナ21は、例えば、アンテナ20を介して受信されるFM(Frequency Modulation)多重放送信号から、指定される受信局の放送信号を抽出し、IF信号に変換して出力する。
【0013】
システムLSI22は、ADコンバータ(ADC)40、デジタル信号処理回路(DSP)41、及びDAコンバータ(DAC)42を含んで構成される。
【0014】
ADコンバータ40は、チューナ21から出力されるIF信号をデジタル信号に変換し、DSP41に出力する。
【0015】
DSP41(音声信号処理回路)は、音声信号を生成するとともに、スピーカ120から出力される音声の音質を改善し、聴感を向上させるように音声信号を変換して出力する。
【0016】
DAコンバータ42は、DSP41から出力された音声信号をアナログ信号に変換する。このアナログ信号は、スピーカ120から音声として出力される。
【0017】
本実施形態に係るDSP41は、スピーカ120の再生可能最低周波数(例えば100ヘルツ)よりも低い音域の音声信号から高調波を生成し、この高調波を元の音声信号に加え合わせて出力する。これによって、スピーカ120からは実際には出力されていない低音域の音声が、あたかも出力されているかのように人間に聴こえるため、スピーカ120から聴こえる音声の低音が強調され、聴感を向上させることができる。さらに本実施形態に係るDSP41は、以下に詳述するように、音声信号の波形の歪みを抑え、音質の低下を抑制することができる。
【0018】
DSP41は、IF処理部50、ローパスフィルタ(第1低域通過フィルタ)60、ハイパスフィルタ(第1高域通過フィルタ)110、高調波生成部80、アンプ90、91、加算部100を含んで構成される。
【0019】
このうち、ローパスフィルタ60、高調波生成部80、アンプ90は、高調波付加部130を構成する。高調波付加部130は、スピーカ120で再生するべく入力された音声信号のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数(例えば100ヘルツ)よりも低い音域の音声信号から高調波を生成する。
【0020】
なお、DSP41に含まれる各ブロックは、例えば、DSP41のコア(不図示)がメモリ(不図示)に格納されたプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。しかしながら例えば、DSP41の各ブロックは、ハードウエアで構成されていても良い。
【0021】
IF処理部50は、IF信号に対して復調処理を施して音声信号S0を生成する。
ローパスフィルタ60は、音声信号S0のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数fc(例えばfc=100ヘルツ)より低い帯域の音声信号を通過させるフィルタである。ハイパスフィルタ110は、音声信号S0のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数fcより高い帯域の音声信号を通過させるフィルタである。
【0022】
なお、本実施形態では、ローパスフィルタ60から出力される音声信号を、音声信号S2とし、ハイパスフィルタ110から出力される音声信号を、音声信号S1とする。
【0023】
ローパスフィルタ60は、図2に示すように、スピーカ120の再生可能最低周波数fcより低い帯域の音声信号を通過させる2次のバターワースフィルタ70,71を含んで構成される。バターワースフィルタ70,71は直列に接続されているため、バターワースフィルタ70,71は、いわゆるリンクウィッツ・ライリー(Linkwitz-Riley)フィルタを構成する。
【0024】
図3は、バターワースフィルタ70,71のそれぞれにおける位相特性(位相応答)を示す図である。バターワースフィルタ70,71は2次のローパスフィルタであるため、バターワースフィルタ70,71に入力される信号の周波数が十分低い場合、出力される信号の位相の遅れはほぼ0度である。一方、バターワースフィルタ70,71に入力される信号の周波数が十分高い場合、出力される信号の位相の遅れはほぼ180度となる。また、バターワースフィルタ70,71に入力される信号の周波数がスピーカ120の再生可能最低周波数fcである場合、出力される信号の位相の遅れは90度となる。したがって、このようなバターワースフィルタ70,71が縦続接続されたローパスフィルタ60の位相特性は図4の様になる。
【0025】
ハイパスフィルタ110は、スピーカ120の再生可能最低周波数fcより高い帯域の音声信号を通過させる2次のバターワース75,76を含んで構成される。このため、バターワースフィルタ75,76も、リンクウィッツ・ライリーフィルタを構成する。なお、ここでは、バターワースフィルタ70,71,75,76のQ値は等しくなるよう各フィルタは設計されている。
【0026】
図5は、バターワースフィルタ75,76のそれぞれにおける位相特性を示す図である。バターワースフィルタ75,76は2次のハイパスフィルタであるため、バターワースフィルタ75,76に入力される信号の周波数が十分低い場合、出力される信号の位相の進みはほぼ180度である。一方、バターワースフィルタ75,76に入力される信号の周波数が十分高い場合、出力される信号の位相の進みはほぼ0度となる。また、バターワースフィルタ75,76に入力される信号の周波数がスピーカ120の再生可能最低周波数fcである場合、出力される信号の位相の進みは90度となる。したがって、このようなバターワースフィルタ75,76が縦続接続されたハイパスフィルタ52の位相特性は図6の様になる。
【0027】
ところで、図6に示す位相特性と、図4に示す位相特性とでは、位相のずれが360度になっており、ローパスフィルタ60と、ハイパスフィルタ110の位相特性が同一になっている。このため、ローパスフィルタ60及びハイパスフィルタ110に入力される音声信号S0の全ての周波数成分に対して、ローパスフィルタ60から出力される音声信号S2の位相と、ハイパスフィルタ110から出力される音声信号S1の位相と、は一致することになる。
【0028】
具体的には、例えば図7に示すように、周波数fcの音声信号S0がローパスフィルタ60に入力されると、音声信号S2の位相は音声信号S0に位相に対して180度遅れる。一方、図8に示すように、周波数fcの音声信号S0がハイパスフィルタ110に入力されると、音声信号S1の位相は音声信号S0に位相に対して180度進む。このように、ローパスフィルタ60では位相が遅れ、ハイパスフィルタ110では位相が進むものの、音声信号S1,S2の位相はともに180度になり一致する。
【0029】
次に、高調波生成部80は、ローパスフィルタ60を通過した音声信号S2から高調波を生成する。高調波生成部80は、例えば全波整流回路によって構成することができる。
【0030】
この場合、音声信号S2=sin(wt)とすると、高調波生成部80から出力される音声信号S3は、フーリエ展開するとS3=(2/π)+(4/π)*((1/3)*sin(2wt)-(1/15)*sin(4wt)+(1/35)*sin(6wt)…)と示されるように、偶数次の高調波を含む信号となる。
【0031】
なお高調波生成部80は、高調波を生成するために、全波整流回路以外にも様々な回路により実現することができる。上記のように全波整流回路を用いた場合には偶数次数の高調波が生成できるが、奇数次数の高調波や、偶数次数と奇数次数とが混在した高調波など、高調波生成部80を実現する回路に応じて、様々な高調波を生成することができる。
【0032】
アンプ90は、高調波生成部80から出力される音声信号S3を増幅して出力する。アンプ91は、ハイパスフィルタ110から出力される音声信号S1を増幅して出力する。
【0033】
なお、アンプ90の増幅率とアンプ91の増幅率とは、いずれも等しい値(例えば1倍)にしておけばよいが、例えば一方の増幅率を他方の増幅率よりも大きくすることもできる。このようにすることによって、スピーカ120から出力される音声の音質や音色を制御することもできる。
【0034】
また、アンプ90、91を用いない構成とすることもできる。この場合は、高調波生成部80から出力される音声信号S3やハイパスフィルタ110から出力される音声信号S1は、それぞれ音声信号S5、S4として、直接、加算部100に入力される。
【0035】
なお、アンプ90、91での音声信号S3,S1の位相の変化は等しくなるようにアンプ90、91は設計されている。
【0036】
加算部(第1加算部)100は、音声信号S4と音声信号S5とを加算し、音声信号S6をDAコンバータ42に出力する。DAコンバータ42は、加算部100から出力された音声信号S6を、スピーカ120で再生すべく、アナログ信号に変換する。
【0037】
このように、本実施形態に係るDSP41は、スピーカ120で再生するべく入力された音声信号S0のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数よりも低い音域の音声信号S2をローパスフィルタ60で抽出する一方で、このローパスフィルタ60と位相特性がほぼ等しいハイパスフィルタ110を用いて、音声信号S0から、スピーカ120の再生可能最低周波数よりも高い音域の音声信号S1を抽出するようにしている。このため、音声信号S2の位相と音声信号S1の位相とを、全ての周波数に亘って一致させることができる。
【0038】
そして、アンプ90、91は音声信号の位相変化が等しくなるように設計されているため、加算器100で加算される音声信号S5と、音声信号S4と、の位相のずれを抑制することができる。
【0039】
このようにして、本実施形態に係るDSP41は、加算器100から出力される音声信号S6の波形の歪みを抑えることができるので、スピーカ120から出力される音声の音質の低下を抑制することができる。
【0040】
なお本実施形態では、説明の簡単化のために、モノラル音声の音質低下を抑制する場合の例を示しているが、ステレオ音声の音質低下を抑制する場合も同様である。ステレオ音声の音質低下を抑制する場合には、例えば、Lチャンネルの音声信号とRチャンネルの音声信号とに対して上述したように高調波をそれぞれ生成し、各高調波をそれぞれ元の音声信号に加え合わせるようにすれば良い。以下に述べるその他の実施形態においても同様である。
【0041】
==第2実施形態==
図9は、DSP41の第2の実施形態について説明するための図である。図1に示した第1実施形態のDSP41と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明する。
【0042】
図9に示すように、第2実施形態のDSP41は、第1実施形態のDSP41に対して、ハイパスフィルタ(第2高域通過フィルタ)111と、ハイパスフィルタ(第3高域通過フィルタ)112とが追加されたものである。
【0043】
ハイパスフィルタ111は、高調波生成部80と、加算部100と、の間に設けられ、高調波生成部80が生成した高調波の音声信号S3のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数fc(例えば100ヘルツ)よりも高い帯域の音声信号S8を通過させる。
【0044】
つまり、高調波生成部80に入力される音声信号S2は、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の音声信号であるので、高調波生成部80から出力される音声信号S3には、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の音声信号も含まれているが、ハイパスフィルタ111により、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の成分を遮断することができる。
【0045】
また、ハイパスフィルタ112は、ハイパスフィルタ111と略同一の位相特性を持ち、ハイパスフィルタ110と、加算部100と、の間に設けられ、ハイパスフィルタ110を通過した音声信号S1のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも高い帯域の音声信号S7を通過させる。
【0046】
このように、ハイパスフィルタ111の位相特性と、ハイパスフィルタ112の位相特性とを一致させることにより、音声信号S3と音声信号S1との位相変化を等しくできるので、第1実施形態と同様に、加算器100で加算される音声信号S5と、音声信号S4と、の位相のずれを抑制することができる。このため、本実施形態に係るDSP41は、加算器100から出力される音声信号S6の波形の歪みを抑えることができ、スピーカ120から出力される音声の音質の低下を抑制することができる。
【0047】
また、加算部100に入力される音声信号S5は、ハイパスフィルタ111によって、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の成分が遮断された音声信号であり、加算部100に入力される音声信号S4も、ハイパスフィルタ112によって、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の成分が遮断された音声信号であるので、加算器100から出力される音声信号S6は、スピーカ120の再生可能最低周波数fcよりも低い帯域の成分を含まない。
【0048】
これにより、スピーカ120を規定値(再生可能最低周波数)以下の周波数で振動させずにすむので、スピーカ120の破損や故障を防止することも可能になる。
【0049】
なお、音声信号S3がハイパスフィルタ111を通過する際にも、音声信号S1がハイパスフィルタ112を通過する際にも、いずれも信号の位相が進むので、これらのハイパスフィルタ111、112は、図2に例示したような2次のバターワース75,76を含む必要はなく、また、リンクウィッツ・ライリーフィルタを構成する必要もない。
【0050】
もちろんこれらのハイパスフィルタ111、112は、2次のバターワース75,76を含み、リンクウィッツ・ライリーフィルタを構成するようにしてもよい。
【0051】
==第3実施形態==
図10は、DSP41の第3の実施形態について説明するための図である。図1に示した第1実施形態のDSP41と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明する。
【0052】
図10に示すように、第3実施形態のDSP41は、第1実施形態のDSP41に対して、ローパスフィルタ(第2低域通過フィルタ)61と、ローパスフィルタ(第3低域通過フィルタ)62と、ハイパスフィルタ(第4高域通過フィルタ)113と、加算部(第2加算部)101とが追加されたものである。
【0053】
ローパスフィルタ61は、高調波生成部80と、加算部100と、の間に設けられ、高調波生成部80が生成した高調波の音声信号S3のうち、所定周波数よりも低い帯域の成分を通過させる。
【0054】
つまり、ローパスフィルタ61によって、高調波生成部80から出力される音声信号S3に含まれる高調波のうち、上記所定周波数よりも高い帯域の成分を遮断することができる。
【0055】
ここで、この所定周波数は、スピーカ120の再生可能最低周波数fcの値の3倍ないし5倍の範囲内の値とするのが良い。例えばスピーカ120の再生可能最低周波数fcが100ヘルツである場合には、300ヘルツから500ヘルツの範囲の値とするのがよい。このように、高調波生成部80によって生成された音声信号S3のうち、スピーカ120の再生可能最低周波数fcの値の3倍ないし5倍の範囲内の周波数よりも高い周波数の音声信号を遮断することによって、スピーカ120から出力される音声から耳障りに感じる音声を遮断できるので、聴感をより向上させることが可能となる。
【0056】
次にローパスフィルタ62及びハイパスフィルタ113は、ハイパスフィルタ110と、加算部100と、の間に並列に設けられる。
【0057】
ローパスフィルタ62は、ハイパスフィルタ110を通過した音声信号S1のうち、上記所定周波数よりも低い帯域の音声信号S10を通過させる。またハイパスフィルタ113は、ハイパスフィルタ110を通過した音声信号S1のうち、上記所定周波数よりも高い帯域の音声信号S9を通過させる。
【0058】
そして、ローパスフィルタ62は、バターワースフィルタ70,71を直列に接続したリンクウィッツ・ライリーフィルタにより構成される。またハイパスフィルタ113も、バターワースフィルタ75,76を直列に接続したリンクウィッツ・ライリーフィルタにより構成される。
【0059】
従って、ローパスフィルタ62の位相特性と、ハイパスフィルタ113の位相特性と、はいずれも略等しい。このため、音声信号S9と音声信号S10の各周波数での位相は、一致している。
【0060】
従って、加算部101で音声信号S9と音声信号S10を加え合わせても、加算部101から出力される音声信号S11の波形の歪みを抑制することができる。
【0061】
なお、音声信号S11は、音声信号S1を、上記所定周波数よりも高い成分と低い成分とで一旦分離して、再び加え合わせて生成したものであるので、音声信号S1と同じ波形の音声信号となる。つまり、ローパスフィルタ62とハイパスフィルタ113と加算部101は、全体としてみれば、オールパスフィルタを構成する。
【0062】
またローパスフィルタ61も、ローパスフィルタ62と同様に、バターワースフィルタ70,71を直列に接続したリンクウィッツ・ライリーフィルタにより構成される。
【0063】
従って、ローパスフィルタ61の位相特性と、ローパスフィルタ62の位相特性と、ハイパスフィルタ113の位相特性は全て略等しい。このため、音声信号S3と音声信号S1との位相変化を等しくできるので、音声信号S12と音声信号S11の位相のずれを抑制することができる。
【0064】
これにより、第3実施形態においても、加算器100で加算される音声信号S5と、音声信号S4と、の位相のずれを抑制できるので、本実施形態に係るDSP41は、加算器100から出力される音声信号S6の波形の歪みを抑えることができ、スピーカ120から出力される音声の音質の低下を抑制することができる。
【0065】
==第4実施形態==
図11は、DSP41の第4の実施形態について説明するための図である。図1に示した第1実施形態のDSP41と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明する。
【0066】
図11に示すように、第4実施形態のDSP41は、第2実施形態で追加された構成要素(ハイパスフィルタ111及びハイパスフィルタ112)と、第3実施形態で追加された構成要素(ローパスフィルタ61、ローパスフィルタ62、ハイパスフィルタ113、及び加算部101)と、を追加するとともに、高調波付加部130を、LチャンネルとRチャンネルとで共用するようにしたものである。
【0067】
なおLチャンネルとRチャンネルとで高調波付加部130を共用するために、第4実施形態に係る高調波付加部130は、加算部102が追加されている。
【0068】
加算部102は、Lチャンネルの音声信号S0とRチャンネルの音声信号S0’とを加え合わせて、ローパスフィルタ60に出力する。
【0069】
第4実施形態のように、LチャンネルとRチャンネルとで高調波付加部130を共用することによって、高調波付加部130によって低音感を増した聴感の高いステレオ音声の再生を可能にしつつ、装置構成を合理化することができ、DSP41の製造容易化やコスト低減を図ることも可能となる。
【0070】
以上、各実施形態について詳細に説明した。いずれの態様によっても、音声信号に高調波を重畳することによりスピーカ120の再生可能音域よりも低音域の音声を強調して再生する際に生じる音声信号の歪みを防止し、音質の低下を抑制することが可能となる。
【0071】
なお上記実施形態では、一例として、ローパスフィルタ60、61、62は、2個のバターワースフィルタ70、71を直列接続してリンクウィッツ・ライリーフィルタとして構成される例を説明した。また、ハイパスフィルタ110、113は、2個のバターワースフィルタ75、76を直列接続してリンクウィッツ・ライリーフィルタとして構成される例を説明した。
【0072】
しかしながら、例えば、1次のローパスフィルタを4つ縦続接続したフィルタをローパスフィルタ60、61、62として用い、1次のハイパスフィルタを4つ縦続接続したフィルタをハイパスフィルタ110、113として用いても良い。
【0073】
また、2次のローパス・チェビシェフフィルタを2つ縦続接続したフィルタをローパスフィルタ60、61、62として用い、2次のハイパス・チェビシェフフィルタを2つ縦続接続したフィルタをハイパスフィルタ110、113として用いても良い。
【0074】
ただし、例えばチェビシェフフィルタ等を用いた場合、チェビシェフフィルタから出力される信号にリップル等が発生することがある。このため、本実施形態のように、例えばバターワースフィルタ70,71で構成されるリンクウィッツ・ライリーフィルタを用いる方が、より効果的に音質の低下を防ぐことができる。
【0075】
なお、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0076】
10 ラジオ受信機
20 アンテナ
21 チューナ
22 システムLSI
40 ADコンバータ(ADC)
41 デジタル信号処理回路(DSP)
42 DAコンバータ(DAC)
50 IF処理部
60、61、62 ローパスフィルタ(LPF)
70、71、75、76 バターワースフィルタ
80 高調波生成部
90、91 アンプ
100、101、102 加算部
110、111、112、113 ハイパスフィルタ(HPF)
120 スピーカ
130 高調波付加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカで再生するべく入力された音声信号のうち、前記スピーカの再生可能最低周波数よりも低い帯域の成分を通過させる第1低域通過フィルタと、
前記スピーカで再生するべく入力された前記音声信号のうち、前記スピーカの前記再生可能最低周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記第1低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第1高域通過フィルタと、
前記第1低域通過フィルタを通過した音声信号から高調波を生成する高調波生成部と、
前記高調波生成部の出力に応じた音声信号を、前記第1高域通過フィルタの出力に応じた音声信号に加算する第1加算部と、
を備えることを特徴とする音声信号処理回路。
【請求項2】
請求項1に記載の音声信号処理回路であって、
前記高調波生成部と、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記高調波生成部が生成した前記高調波のうち、前記スピーカの前記再生可能最低周波数よりも高い帯域の成分を通過させる第2高域通過フィルタと、
前記第1高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第1高域通過フィルタを通過した音声信号のうち、前記スピーカの前記再生可能最低周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記第2高域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第3高域通過フィルタと、
をさらに備えることを特徴とする音声信号処理回路。
【請求項3】
請求項1に記載の音声信号処理回路であって、
前記高調波生成部と、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記高調波生成部が生成した前記高調波のうち、所定周波数よりも低い帯域の成分を通過させる第2低域通過フィルタと、
前記第1高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第1高域通過フィルタを通過した音声信号のうち、前記所定周波数よりも低い帯域の成分を通過させ、前記第2低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第3低域通過フィルタと、
前記第1高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に、前記第3低域通過フィルタと並列に設けられ、前記第1高域通過フィルタを通過した音声信号のうち、前記所定周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記第2低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第4高域通過フィルタと、
前記第3高域通過フィルタ及び前記第4高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第3低域通過フィルタを通過した音声信号と、前記第4高域通過フィルタを通過した音声信号とを加算する第2加算部と、
をさらに備えることを特徴とする音声信号処理回路。
【請求項4】
請求項2に記載の音声信号処理回路であって、
前記第2高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第2高域通過フィルタを通過した高調波のうち、所定周波数よりも低い帯域の成分を通過させる第2低域通過フィルタと、
前記第3高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第3高域通過フィルタを通過した音声信号のうち、前記所定周波数よりも低い帯域の成分を通過させ、前記第2低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第3低域通過フィルタと、
前記第3高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に、前記第3低域通過フィルタと並列に設けられ、前記第3高域通過フィルタを通過した音声信号のうち、前記所定周波数よりも高い帯域の成分を通過させ、前記第2低域通過フィルタと略同一の位相特性を有する第4高域通過フィルタと、
前記第3高域通過フィルタ及び前記第4高域通過フィルタと、前記第1加算部と、の間に設けられ、前記第3低域通過フィルタを通過した音声信号と、前記第4高域通過フィルタを通過した音声信号とを加算する第2加算部と、
をさらに備えることを特徴とする音声信号処理回路。
【請求項5】
請求項3または4に記載の音声信号処理回路であって、
前記所定周波数の値は、前記スピーカの前記再生可能最低周波数の値の3倍ないし5倍の範囲内の値である
ことを特徴とする音声信号処理回路。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の音声信号処理回路であって、
前記低域通過フィルタ及び前記高域通過フィルタは、いずれもリンクウィッツ・ライリーフィルタである
ことを特徴とする音声信号処理回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−46242(P2013−46242A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182835(P2011−182835)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(300057230)セミコンダクター・コンポーネンツ・インダストリーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (119)
【Fターム(参考)】