説明

音声信号処理装置及び音声出力装置

【課題】安価な構成で無音時の出力雑音を低減できる音声信号処理装置を提供する。
【解決手段】音声信号処理装置は、A/Dコンバータと、比較部と、演算部と、記憶部と、を備える。前記音声信号処理装置は、入力されたアナログ音声信号を信号処理してデジタル音声信号を出力する。前記A/Dコンバータは、前記アナログ音声信号をデジタル値に変換する。前記比較部は、前記A/Dコンバータから出力された前記デジタル値の最新値と、前記デジタル音声信号の前回値と、を比較する。前記演算部は、前記比較部の比較結果に応じて、前記デジタル値の最新値に所定の定数を加算した結果又は前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する。前記記憶部は、前記演算部から出力された前記デジタル音声信号の最新値を、次回の比較で用いられる前記デジタル音声信号の前回値として記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音声信号処理装置及び音声出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インターホン等の音声出力装置は、例えば、マイクロフォンに入力された音声に基づく電気信号を増幅器で増幅し、増幅器からのアナログ音声信号をA/Dコンバータによりデジタル音声信号に変換し、このデジタル音声信号に基づいてスピーカから音声を出力する。
【0003】
この音声出力装置では、マイクロフォンに音声が入力されていない無音時であっても、マイクロフォンに入力される環境ノイズ、又は、増幅器のフリッカノイズ若しくは熱雑音等によって、微小な振幅のアナログ音声信号がA/Dコンバータに入力される。これにより、A/Dコンバータから出力されるデジタル音声信号は変動するので、スピーカから出力雑音が出力される。
【0004】
このような出力雑音は、低雑音の増幅器を用いても無くすことはできない。また、より高精度(高分解能)なA/Dコンバータを用いても、出力雑音を低減することはできるものの無くすことはできない。さらに、低雑音の増幅器や高精度なA/Dコンバータを用いると、コストが増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−41521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価な構成で無音時の出力雑音を低減できる音声信号処理装置及び音声出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、A/Dコンバータと、比較部と、演算部と、記憶部と、を備える音声信号処理装置が提供される。前記音声信号処理装置は、入力されたアナログ音声信号を信号処理してデジタル音声信号を出力する。前記A/Dコンバータは、前記アナログ音声信号をデジタル値に変換する。前記比較部は、前記A/Dコンバータから出力された前記デジタル値の最新値と、前記デジタル音声信号の前回値と、を比較する。前記演算部は、前記比較部の比較結果に応じて、前記デジタル値の最新値に所定の定数を加算した結果又は前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する。前記記憶部は、前記演算部から出力された前記デジタル音声信号の最新値を、次回の比較で用いられる前記デジタル音声信号の前回値として記憶する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る音声出力装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置の信号処理パターンの一例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置の音声処理フローを示すフローチャートである。
【図5】図4の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る音声信号処理装置の音声処理フローを示すフローチャートである。
【図7】図6の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る音声信号処理装置の音声処理フローを示すフローチャートである。
【図9】図8の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。
【図10】比較例に係るアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態についての説明に先立ち、発明者らが知得する比較例のA/Dコンバータによる信号変換結果について説明する。
【0010】
図10は、比較例に係るアナログ音声信号の信号変換結果の一例を示す波形図である。図10は、マイクロフォンと増幅器を介してA/Dコンバータに入力されたアナログ音声信号101が、デジタル音声信号102にA/D変換された様子を表している。また、図10は、横軸に時間を示し、縦軸にデジタル値を示す。図10(a)は音声信号がある状態の例を示し、図10(b)は無音時の状態の例を示す。
【0011】
通常、図10(b)に示すように、無音時であっても、微小な振幅を有するアナログ音声信号101がA/Dコンバータに入力される。この微小な振幅がたとえA/Dコンバータの1LSB幅以下であっても、A/D変換のしきい値(この例では時間軸)を跨ぐと、図10(b)に示すようにデジタル音声信号102に1LSBの変動を生じる(時刻t2,t3,t4等)。このような1LSBの変動を有するデジタル音声信号102を音声に変換すると、使用者に聞こえる出力雑音が生じる。
【0012】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、音声信号処理装置を用いた音声出力装置について説明し、次に、音声信号処理装置について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る音声出力装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、音声出力装置は、マイクロフォン1と、増幅器2と、音声信号処理装置3と、D/Aコンバータ4と、フィルタ5と、増幅器6と、スピーカ7と、を備える。本明細書では、D/Aコンバータ4とフィルタ5と増幅器6とスピーカ7とを合わせたものを音声出力部8と称す。この音声出力装置を用いて、例えば、インターホンや電話機を構成できる。
【0015】
マイクロフォン1は、入力された音声を電気信号である音声信号に変換する。増幅器2は、マイクロフォン1からの音声信号を増幅する。
【0016】
音声信号処理装置3は、増幅器2の出力信号がアナログ音声信号として入力され、このアナログ音声信号を信号処理してデジタル音声信号を出力する。
【0017】
D/Aコンバータ4は、音声信号処理装置3から出力されたデジタル音声信号をD/A変換する。フィルタ5は、D/Aコンバータ4の出力信号の所定の周波数成分を通過させる。増幅器6は、フィルタ5の出力信号を増幅する。スピーカ7は、増幅器6の出力信号に基づいて音声を出力する。つまり、音声出力部8は、音声信号処理装置3から出力されたデジタル音声信号に基づいて音声を出力する。
【0018】
増幅器2は、ライン入力端子(図示せず)から入力された音声信号を増幅しても良い。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置3の構成を示すブロック図である。図2に示すように、音声信号処理装置3は、A/Dコンバータ11と、記憶部12と、比較部13と、演算部14と、定数記憶部15と、を備える。
【0020】
A/Dコンバータ11は、入力されたアナログ音声信号をデジタル値にA/D変換する。例えば、A/Dコンバータ11は、10ビットのA/Dコンバータである。
【0021】
比較部13は、A/Dコンバータ11から出力されたデジタル値の最新値D(n)と、記憶部12に記憶されているデジタル音声信号の前回値D’(n−1)と、を比較する。ここで、nは、A/D変換のタイミングを表す正の整数である。
【0022】
演算部14は、比較部13の比較結果に応じて、A/Dコンバータ11から出力されたデジタル値の最新値D(n)に所定の定数mを加算した結果又はデジタル値の最新値D(n)を、デジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。ここでは、定数mは正の定数である。
【0023】
具体的には、演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より大きい場合、デジタル値の最新値D(n)に正の定数mを加算した結果“D(n)+m”をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。また、演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)以下である場合、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。
【0024】
記憶部12は、演算部14から出力されたデジタル音声信号の最新値D’(n)を、次回の比較で用いられるデジタル音声信号の前回値D’(n−1)として記憶する。
【0025】
定数記憶部15は定数mを記憶している。定数mは、例えば、外部からの設定によって変更可能となっている。
【0026】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置3の信号処理パターンの一例を示す図である。図3は、横軸に時間を示し、縦軸にデジタル値を示す。
【0027】
図2を参照して説明したように、演算部14における信号処理パターンは、前回(n−1回目)に演算部14から出力された“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)”と、最新(n回目)のA/D変換結果である“デジタル値の最新値D(n)”との比較結果に応じて決まる。
【0028】
図3(a)は、D’(n−1)>D(n)、図3(b)は、D’(n−1)<D(n)、図3(c)は、D’(n−1)=D(n)のそれぞれの場合の、A/Dコンバータ11から出力されたデジタル値(各図中、矢印の左側)と演算部14から出力されたデジタル音声信号(各図中、矢印の右側)とを示す。
【0029】
図3(a)に示すD’(n−1)>D(n)の場合、演算部14は、A/Dコンバータ11から出力されたデジタル値の最新値D(n)(右図中の白丸)に定数mを加算した結果“D(n)+m”を、デジタル音声信号の最新値D’(n)(右図中の黒丸)として出力する。
【0030】
図3(b)に示すD’(n−1)<D(n)の場合、又は、図3(c)に示すD’(n−1)=D(n)の場合、演算部14は、加算を行わず、デジタル値の最新値D(n)をそのままデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。
【0031】
前述のように、デジタル音声信号の最新値D’(n)は、記憶部12に記憶され、次回の比較でデジタル音声信号の前回値D’(n−1)として用いられる。
【0032】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る音声信号処理装置3の音声処理フローを示すフローチャートである。図4及び次に説明する図5では、定数mを1としている。
【0033】
記憶部12により、演算部14から出力されたデジタル音声信号の最新値D’(n)を、次回の比較で用いられるデジタル音声信号の前回値D’(n−1)として記憶する(ステップS11)。
【0034】
次に、A/Dコンバータ11により、アナログ音声信号をデジタル値にA/D変換してデジタル値の最新値D(n)を得る(ステップS12)。
【0035】
次に、比較部13により、ステップS12で得られたデジタル値の最新値D(n)と、ステップS11で記憶部12に記憶されたデジタル音声信号の前回値D’(n−1)と、を比較する(ステップS13)。“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)>デジタル値の最新値D(n)”の場合(ステップS13:Yes)、演算部14により、“D(n)+1”をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS14)。その後、ステップS11に戻る。
【0036】
一方、“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)>デジタル値の最新値D(n)”ではない場合(ステップS13:No)、演算部14により、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS15)。その後、ステップS11に戻る。
【0037】
連続したA/D変換結果に対して、以上の処理を繰り返し行なう。
【0038】
図5は、図4の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。図5は、横軸に時間を示し、縦軸にデジタル値を示す。図5(a)は、マイクロフォンに音声が入力されている状態(音声信号がある状態)、即ちアナログ音声信号51の振幅が大きい状態を示す。図5(b)は、無音時の状態、即ちアナログ音声信号51の振幅が微小な状態を示す。図5(a),(b)のアナログ音声信号51の波形は、図10(a),(b)の比較例のアナログ音声信号101の波形と同一である。
【0039】
図5(a),(b)に示すように、“D’(n−1)>D(n)”の場合の各タイミング(図5(a)の時刻t6〜t9等、図5(b)の時刻t5〜t7,t9等)では、入力されたアナログ音声信号51がA/D変換されて得られたデジタル値の最新値D(n)(白丸53)は、1が加算されてデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)へ変換されている。
【0040】
また、“D’(n−1)<D(n)”又は“D’(n−1)=D(n)”の場合の各タイミング(図5(a)の時刻t1〜t5等、図5(b)の時刻t1〜t4,t8等)では、入力されたアナログ音声信号51がA/D変換されて得られたデジタル値の最新値D(n)は、そのままデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)として出力されている。このようにして、アナログ音声信号51はデジタル音声信号に変換されている。
【0041】
図5(b)に示すように、無音時の場合、マイクロフォン1から入力される環境ノイズ、又は、増幅器2のフリッカノイズ若しくは熱雑音といった成分により発生した微小な振幅のアナログ音声信号によるデジタル音声信号の1LSBの変動は、本実施形態の信号処理により解消される。即ち、図10(b)の比較例と異なり、時刻t2以降でデジタル音声信号は一定値となる。このような一定値のデジタル音声信号を音声出力装置の音声出力部8で音声に変換しても、デジタル音声信号に起因する出力雑音は生じない。
【0042】
また、図5(a)に示す様に音声信号がある場合、A/D変換されたデジタル値の一部に1が加算されるだけなので、原音に与える歪みは最小限である。このように、簡易な手法により絶大な効果を発揮できる。
【0043】
図4,5では、定数mを1として説明したが、定数mは、無音時にA/Dコンバータ11から出力されたデジタル値の変動幅に応じて設定してもよい。例えば、無音時にA/Dコンバータ11から出力されたデジタル値が2LSB変動する場合、定数mを2としても良い。この無音時のデジタル値の変動幅は、例えば、マイクロフォン1や増幅器2の特性に応じて決まり得る。
【0044】
以上で説明したように、本実施形態によれば、記憶部12に記憶されたデジタル音声信号の前回値D’(n−1)がA/Dコンバータ11から出力されたデジタル値の最新値D(n)より大きい場合、この最新値D(n)に正の定数mを加算した結果をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力するようにしている。これにより、無音時に微小なアナログ音声信号が入力されている時に、デジタル値の最新値D(n)がデジタル音声信号の前回値D’(n−1)からmLSB低下した場合であっても、デジタル値の最新値D(n)にmLSB加算した結果(つまり、D’(n−1)と等しい値)がデジタル音声信号として出力される。従って、無音時のデジタル音声信号の変動を低減することができる。よって、高価な高精度(高分解能)のA/Dコンバータを用いずに、且つ、複雑な信号処理を行わずに、安価且つ簡単な構成で無音時の出力雑音を低減できる。
【0045】
また、定数mを1に設定すれば、音声信号がある場合に原音に与える影響を最小限にできる。
【0046】
なお、図4の音声処理フローをソフトウェアで実行することも可能である。この場合、既存のマイコン等を用いてソフトウェアを実行することで、セットコストや回路規模を増加させずに出力雑音を低減できる。
【0047】
(第2の実施形態)
本実施形態では、音声信号処理装置3の音声処理フローの一部(演算部14の動作)が第1の実施形態と異なる。その他の構成及び動作は、図1,2の第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0048】
本実施形態では、定数mは負の定数である。演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より小さい場合、デジタル値の最新値D(n)に負の定数mを加算した結果(つまり、D(n)から負の定数mの絶対値|m|を減算した結果)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。また、演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)以上である場合、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。
【0049】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る音声信号処理装置3の音声処理フローを示すフローチャートである。図6及び次に説明する図7では、負の定数mを−1とする。
【0050】
図6に示すように、本実施形態の音声処理フローでは、図4に示した第1の実施形態の処理フローにおける比較条件(ステップS13)と演算処理(ステップS14)を変更している。具体的には、図4のステップS13の比較条件を“D’(n−1)>D(n)”から“D’(n−1)<D(n)”に変更している(ステップS23)。また、ステップS14の演算処理を、“D’(n)=D(n)+1”から“D’(n)=D(n)−1”に変更している(ステップS24)。ステップS11,S12,S15の処理は、第1の実施形態と同様である。
【0051】
具体的には、ステップS11,S12の処理後、ステップS23において、“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)<デジタル値の最新値D(n)”の場合(ステップS23:Yes)、演算部14により、“D(n)−1”をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS24)。その後、ステップS11に戻る。
【0052】
一方、“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)<デジタル値の最新値D(n)”ではない場合(ステップS23:No)、第1の実施形態と同様に、演算部14により、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS15)。その後、ステップS11に戻る。
【0053】
図7は、図6の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。図7(a),(b)では、アナログ音声信号51及び座標軸は図5(a),(b)の第1の実施形態と同一であり、デジタル音声信号が図5(a),(b)と異なる。
【0054】
図7(a),(b)に示すように、“D’(n−1)<D(n)”の場合の各タイミング(図7(a)の時刻t2〜t5等、図7(b)の時刻t2〜t4,t8等)では、入力されたアナログ音声信号51がA/D変換されて得られたデジタル値の最新値D(n)(白丸53)は、1が減算されてデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)へ変換されている。
【0055】
また、“D’(n−1)>D(n)”又は“D’(n−1)=D(n)”の場合の各タイミング(図7(a)の時刻t6〜t9等、図7(b)の時刻t5〜t7,t9等)では、入力されたアナログ音声信号51がA/D変換されて得られたデジタル値の最新値D(n)は、そのままデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)として出力されている。このようにして、アナログ音声信号51はデジタル音声信号に変換されている。
【0056】
図7(b)に示すように、本実施形態の音声処理フローによっても、図5(b)の第1の実施形態と同様に、無音時の場合におけるデジタル音声信号の1LSBの変動は解消される。即ち、デジタル音声信号は一定値となる。
【0057】
以上で説明したように、本実施形態によれば、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より小さい場合、デジタル値の最新値D(n)に負の定数mを加算した結果をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力するようにしている。これにより、無音時に微小なアナログ音声信号が入力されている時、デジタル値の最新値D(n)がデジタル音声信号の前回値D’(n−1)から|m|LSB増加した場合であっても、デジタル値の最新値D(n)から|m|LSB減算された結果(つまり、D’(n−1)と等しい値)がデジタル音声信号として出力される。従って、無音時のデジタル音声信号の変動を低減することができる。つまり、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0058】
(第3の実施形態)
本実施形態では、音声信号処理装置3の音声処理フローとして、第1の実施形態と第2の実施形態の音声処理フローを組み合わせたものを用いている。つまり、本実施形態の音声信号処理装置3は、演算部14の動作が第1の実施形態と異なる。その他の構成及び動作は、図1,2の第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0059】
本実施形態では、定数mは正の定数m1又は負の定数m2である。正の定数m1と負の定数m2は絶対値が異なってもよい。演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より大きい場合、デジタル値の最新値D(n)に正の定数m1を加算した結果をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。また、演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より小さい場合、デジタル値の最新値D(n)に負の定数m2を加算した結果(つまり、D(n)から負の定数m2の絶対値|m2|を減算した結果)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。さらに、演算部14は、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)と等しい場合、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する。
【0060】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る音声信号処理装置の音声処理フローを示すフローチャートである。図8及び次に説明する図9では、正の定数m1を1とし、負の定数m2を−1とする。
【0061】
ステップS11,S12,S13,S14の処理は、第1の実施形態と同様である。つまり、ステップS11,S12の処理後、ステップS13において、“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)>デジタル値の最新値D(n)”である場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に移行する。そして、ステップS14の処理後、ステップS11に戻る。
【0062】
一方、ステップS13において“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)>デジタル値の最新値D(n)”ではない場合(ステップS13:No)、ステップS23に移行する。
【0063】
ステップS23において“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)<デジタル値の最新値D(n)”の場合(ステップS23:Yes)、演算部14により、“D(n)−1”をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS24)。その後、ステップS11に戻る。
【0064】
一方、ステップS23において“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)<デジタル値の最新値D(n)”ではない場合(ステップS23:No)、演算部14により、デジタル値の最新値D(n)をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力する(ステップS15)。即ち、“デジタル音声信号の前回値D’(n−1)=デジタル値の最新値D(n)”である場合、ステップS15の処理を行う。その後、ステップS11に戻る。
【0065】
図9は、図8の音声処理フローによるアナログ音声信号の信号変換結果を示す波形図である。図9は、横軸に時間を示し、縦軸にデジタル値を示す。図9(a)は、マイクロフォンに音声が入力されている状態、即ちアナログ音声信号51の振幅が大きい状態を示す。図9(b)は、無音時の状態、即ちアナログ音声信号51の振幅が微小な状態を示す。図9(a)のアナログ音声信号51の波形は、図10(a)の比較例のアナログ音声信号101の波形と同一である。図9(b)のアナログ音声信号51の波形は、図10(b)の比較例のアナログ音声信号101の波形と異なる。
【0066】
図9(a),(b)に示すように、“D’(n−1)>D(n)”の場合の各タイミング(図9(a)の時刻t7〜t9等、図9(b)の時刻t6等)では、入力されたアナログ音声信号51がA/D変換されて得られたデジタル値の最新値D(n)(白丸53)は、1が加算されてデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)へ変換されている。
【0067】
また、“D’(n−1)<D(n)”の場合の各タイミング(図9(a)の時刻t2〜t5等、図9(b)の時刻t2〜t4,t8等)では、デジタル値の最新値D(n)(白丸53)は、1が減算されてデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)へ変換されている。
【0068】
また、“D’(n−1)=D(n)”の場合の各タイミング(図9(a)の時刻t6等、図9(b)の時刻t5,t7,t9等)では、デジタル値の最新値D(n)は、そのままデジタル音声信号の最新値D’(n)(黒丸52)として出力されている。このようにして、アナログ音声信号51はデジタル音声信号に変換されている。
【0069】
図9(b)に示すように、無音時の場合におけるデジタル音声信号の2LSBの変動は、本実施形態の信号処理により解消される。即ち、デジタル音声信号は一定値となる。
【0070】
以上で説明したように、本実施形態によれば、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より大きい場合、デジタル値の最新値D(n)に正の定数m1を加算した結果をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力するようにしている。また、デジタル音声信号の前回値D’(n−1)がデジタル値の最新値D(n)より小さい場合、デジタル値の最新値D(n)に負の定数m2を加算した結果をデジタル音声信号の最新値D’(n)として出力するようにしている。これにより、無音時に微小なアナログ音声信号が入力されている時、デジタル値の最新値D(n)がデジタル音声信号の前回値D’(n−1)からm1LSB低下した場合であっても、デジタル値の最新値D(n)にm1LSB加算した結果(つまり、D’(n−1)と等しい値)がデジタル音声信号として出力される。また、デジタル値の最新値D(n)がデジタル音声信号の前回値D’(n−1)から|m2|LSB増加した場合であっても、デジタル値の最新値D(n)から|m2|LSB減算した結果(つまり、D’(n−1)と等しい値)がデジタル音声信号として出力される。従って、無音時のデジタル音声信号の変動を低減することができる。つまり、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0071】
なお、前述したように、各実施形態で説明した音声信号処理装置3の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、音声信号処理装置3の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0072】
また、音声信号処理装置3の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0073】
以上で説明した各実施形態の音声信号処理装置及び音声出力装置によれば、安価な構成で無音時の出力雑音を低減できる。
【0074】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
1 マイクロフォン
2 増幅器
3 音声信号処理装置
4 D/Aコンバータ
5 フィルタ
6 増幅器
7 スピーカ
8 音声出力部
11 A/Dコンバータ
12 記憶部
13 比較部
14 演算部
15 定数記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたアナログ音声信号を信号処理してデジタル音声信号を出力する音声信号処理装置であって、
前記アナログ音声信号をデジタル値に変換するA/Dコンバータと、
前記A/Dコンバータから出力された前記デジタル値の最新値と、前記デジタル音声信号の前回値と、を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に応じて、前記デジタル値の最新値に所定の定数を加算した結果又は前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する演算部と、
前記演算部から出力された前記デジタル音声信号の最新値を、次回の比較で用いられる前記デジタル音声信号の前回値として記憶する記憶部と、を備える
ことを特徴とする音声信号処理装置。
【請求項2】
前記定数は正の定数であり、
前記演算部は、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値より大きい場合、前記デジタル値の最新値に前記正の定数を加算した結果を前記デジタル音声信号の最新値として出力し、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値以下である場合、前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項3】
前記定数は負の定数であり、
前記演算部は、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値より小さい場合、前記デジタル値の最新値に前記負の定数を加算した結果を前記デジタル音声信号の最新値として出力し、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値以上である場合、前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項4】
前記定数は正の定数又は負の定数であり、
前記演算部は、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値より大きい場合、前記デジタル値の最新値に前記正の定数を加算した結果を前記デジタル音声信号の最新値として出力し、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値より小さい場合、前記デジタル値の最新値に前記負の定数を加算した結果を前記デジタル音声信号の最新値として出力し、前記デジタル音声信号の前回値が前記デジタル値の最新値と等しい場合、前記デジタル値の最新値を前記デジタル音声信号の最新値として出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項5】
前記定数の絶対値は1であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の音声信号処理装置。
【請求項6】
入力された音声を音声信号に変換するマイクロフォンと、
前記音声信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器の出力信号が前記アナログ音声信号として入力される請求項1から請求項5の何れかに記載の音声信号処理装置と、
前記音声信号処理装置から出力された前記デジタル音声信号に基づいて音声を出力する音声出力部と、を備える
ことを特徴とする音声出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−257179(P2012−257179A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130380(P2011−130380)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】