説明

音声通話装置および音声通話システム

【課題】通話の際に通話相手が実際にいる方向または方向および距離を聴者が把握可能とする。
【解決手段】携帯電話端末10は、自端末の位置情報および方位情報、ならびに通話相手である他端末の位置情報に基づいて、自端末から見た他端末の方向または方向と距離を方向・距離算出部104により算出し、この算出結果に応じて、他端末からの通話音声を立体音響処理部105を用いて音像定位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音声通話装置および音声通話システムに係り、特に相手の通話音声を音像定位させて通話を行う音声通話装置および音声通話システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電話(固定電話、携帯電話、IP(Internet Protocol)電話などを含む)や、遠隔地を通信回線で結んで多人数で会議を行える電話会議システムにおいて、通話相手からの音声を音像定位させることにより、通話相手の声が聞こえてくる位置を聴者の周囲で移動できるようにすることが提案されている。そのような技術に関するものとして、例えば特許文献1や特許文献2に開示された技術がある。
【0003】
特許文献1では、例えば通話者が3人の場合に、各通話者をそれぞれ三角形の頂点に配置させるように音像を定位させている。また、特許文献2では、通話相手の電話番号によって通話相手の位置する方向を検出し、その方向に音像を定位させるようにしている。
【特許文献1】特開2004−274147号公報
【特許文献2】特開2000−184017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法には、次に示すような問題があった。
すなわち、特許文献1の場合、各通話者の音像を定位させる場所は、通話者が実際に存在している位置(聴者から見た方向)とは無関係に固定的に決めているため、聴者は通話相手がいる方向や距離を把握することが不可能であり、そのため通話の際の臨場感やリアリティに欠けることとなる。
【0005】
また、特許文献2においては、電話番号によって示される方向に通話者の音像を定位しているので、ある程度、実際の通話者間の位置関係が音像の定位位置に反映されることになるが、電話番号は通話者毎に一つで固定であるため、通話者が移動した場合には音像の定位方向と実際の通話相手がいる方向とが異なってきてしまう。したがって、特に携帯電話には適用することが不可能である。さらに、音像の定位は通話者の方向にのみ基づいて行っているため、聴者は通話相手との距離感を感じることができなかった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、通話の際に通話相手が実際にいる方向を聴者が把握可能な音声通話装置および音声通話システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、他の音声通話装置と通話を行う音声通話装置であって、自装置の存在する位置を示す絶対位置情報を取得する位置情報取得手段と、自装置の向いている方位を検出し、検出した方位を示す方位情報を取得する方位情報取得手段と、他の音声通話装置から送信される当該他の音声通話装置の絶対位置情報を受信する通信手段と、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と、前記方位情報取得手段によって取得された方位情報と、前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の方向を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された方向に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音する音像定位手段とを具備することを特徴とする音声通話装置を提供する。
また、上記音声通話装置において、前記算出手段は、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の距離をも算出し、前記音像定位手段は、前記算出手段によって算出された方向および距離に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音することを特徴とする。
【0008】
この発明において、音声通話装置は、自装置の絶対位置情報および方位情報、ならびに通話を行う他装置の絶対位置情報に基づいて自装置から見た当該他装置の方向または方向と距離を算出し、その算出した方向または方向と距離に応じて当該他装置からの通話音声を音像定位させるように構成されている。これにより、他装置との通話の際、通話相手である他装置からの音声に、通話相手が実際に存在している方向から聴こえてくる音響効果を与え、また、通話相手との実際の距離を反映させた音響効果(例えば、実際の距離が遠い通話相手からの音声は遠くから聴こえ、実際の距離が近い通話相手からの音声は近くから聴こえる音響効果)をも与えることが可能である。したがって、聴者(自装置のユーザ)は、通話の際に通話相手が実際にいる方向または方向および距離を把握することができる。また、他装置との方向・距離の算出には自装置や他装置の存在する位置を示す絶対位置情報(例えば、緯度経度情報)を用いているので、各装置が位置を移動した場合でも、通話音声の音像定位において各装置の実際の移動後の位置が正しく反映される。これにより、聴者は通話相手の方向および距離の把握を常に正しく行うことが可能である。
【0009】
また、上記音声通話装置において、前記他の音声通話装置が複数であってこれら複数の音声通話装置と同時に通話する手段を有し、前記音像定位手段は、前記複数の音声通話装置のそれぞれに対して前記算出手段により算出された方向または方向および距離に応じ、通話音声を音声通話装置毎に音像定位させることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、多者間で同時通話を行う場合にも、各通話相手からの音声を、当該通話相手の方向または方向および距離に応じて個別に音像定位させることができる。これにより、聴者は複数の通話相手それぞれの位置を把握しながら通話をすることが可能である。例えば、複数の通話相手が同じ方向にいる場合でも距離によって音像が異なるので区別が可能である。
【0011】
また、上記音声通話装置において、前記他の音声通話装置から所定時間間隔で送信される絶対位置情報を前記通信手段によって受信し、この受信した絶対位置情報を用いて前記音像定位手段による音像定位を通話中に更新することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、所定の時間間隔で通話相手の最新の絶対位置情報を取得することにより音像定位の更新を行うので、通話中に各装置が移動しても、直ちに(せいぜい所定時間間隔程度の遅れで)移動の影響を音像定位に反映させることができる。これにより、聴者は通話相手の方向および距離の把握を常に正しく行うことが可能である。
【0013】
また、本発明は、2以上の音声通話装置間で通話を行う音声通話システムであって、各音声通話装置が、自装置の存在する位置を示す絶対位置情報を取得する位置情報取得手段と、自装置の向いている方位を検出し、検出した方位を示す方位情報を取得する方位情報取得手段と、他の音声通話装置から送信される当該他の音声通話装置の絶対位置情報を受信する通信手段と、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と、前記方位情報取得手段によって取得された方位情報と、前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の方向を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された方向に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音声通話装置毎に音像定位させ発音する音像定位手段とを具備することを特徴とする音声通話システムを提供する。
また、上記音声通話システムにおいて、前記算出手段は、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の距離をも算出し、前記音像定位手段は、前記算出手段によって算出された方向および距離に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通話の際に通話相手が実際にいる方向を聴者が把握可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態による携帯電話端末10(音声通話装置)が通話を行っている際のネットワークの接続状態を示した図である。なお、本実施形態では、音声通話装置が携帯電話端末10の場合を例にとって説明を行うが、音声通話装置は携帯電話端末だけに限られず、固定電話端末やIP電話端末、電話会議システムの通話端末などであってもよい。
【0016】
図1において、5台の携帯電話端末10(端末A、端末B、端末C、端末D、端末E)が携帯電話通信網30に接続して、相互に通話を行っている。このような複数人による同時通話のサービスは、プッシュ・トゥ・トーク(Push To Talk)と呼ばれるものであり、既に実際のサービスが開始されている。例えば図1では、端末Aのユーザが話す音声は、携帯電話通信網30を通って他の端末B、C、D、Eへ送信され、これら端末でその音声を聴くことができる。また、端末Aでは、他の端末B、C、D、Eからの音声を聴くことができる。
【0017】
図2は、図1に示した各携帯電話端末10の実際の位置関係を表した図である。同図において、端末Aから見て、端末Bは北東方向10km、端末Cは東方向2km、端末Dは南東方向30km、端末Eは南西方向200mにそれぞれ存在している。また、端末Aのユーザは北を向き、端末Aの表示ディスプレイの面を南に向けている(ユーザの顔と表示ディスプレイとが相対している)。以下、図2を用い、携帯電話端末10が他の端末からの音声をどのように音像定位させるかを、端末Aを例にとりながら説明する。
【0018】
端末A〜端末Eの各携帯電話端末10は、それぞれ、自端末の存在する位置を示す位置情報と、自端末の向いている方位を示す方位情報とを取得する。具体的には、各携帯電話端末10はGPS(Global Positioning System)機能を搭載しており、このGPS機能により自端末の絶対位置である緯度と経度を取得する。この緯度と経度が、上記位置情報である。また、各携帯電話端末10は地磁気センサを搭載し、端末の所定軸が向いている方位を検出可能とされている。この検出された方位が、上記方位情報である。ここでは、上記所定軸を、表示ディスプレイの面の法線方向にとる。この場合、図2の端末Aの方位情報は「南」となる。
【0019】
そして各携帯電話端末10は、携帯電話通信網30を介して、互いの位置情報をやりとりする。これにより、各携帯電話端末10は、他の携帯電話端末の位置情報を取得してその所在位置、すなわち緯度および経度を把握可能とされる。そして、各携帯電話端末10は、自端末において取得した自端末の位置情報(緯度および経度)と、携帯電話通信網30を介して取得した他の各携帯電話端末の位置情報(緯度および経度)とから、自端末に対する他端末の相対的な位置、すなわち方位(東西南北で表される)を算出し、さらに必要に応じて距離も算出する。この相対的な位置算出の結果、例えば端末Aでは、図2に示すような他の各端末B、C、D、Eの方位と距離を把握することとなる。なお、図2では距離も示しているが、距離を算出しない場合は各端末の方位のみが示される。
【0020】
さらに各携帯電話端末10は、上記算出した他端末の方位に上記地磁気センサで検出した自端末の向いている方位(上記方位情報により示される方位)を加味することによって、自端末から見た他端末の存在する方向、すなわち自端末から見て他端末は左右何度の方向に存在するか、を算出する。図2の端末Aの場合、方位情報は「南」であるので、端末Aから見た端末B(方位は北東)の方向は、右45度(表示ディスプレイの裏面の法線方向を左右±0度とする)と算出される。同様に、端末C(方位は東)の方向は右90度、端末D(方位は南東)の方向は右135度、端末E(方位は南西)の方向は左135度と算出される。
【0021】
こうして、各携帯電話端末10において、自端末から見た他端末の存在する方向、または方向と距離が算出されることになる。各携帯電話端末10は、算出した他の各端末の方向または方向と距離に応じて、それら他の各端末からの音声を端末毎にそれぞれ音像定位させ、発音する。一つの具体例として、各携帯電話端末10は、算出した他の各端末の方向と同じ方向に当該端末からの音声を音像定位させる。この場合、例えば端末Aでは、端末Bからの音声を右45度方向に音像定位させ、端末Cからの音声を右90度方向に音像定位させ、端末Dからの音声を右135度方向に音像定位させ、端末Eからの音声を左135度方向に音像定位させる。これにより、携帯電話端末10のユーザは、通話相手の音声を、当該通話相手が実際に存在している方向から発せられているように聴くことができる。
【0022】
また、各携帯電話端末10は、上記算出した距離にも応じて音像定位させる場合の具体例として、算出した距離が遠い端末については音声を遠くに音像定位させ、算出した距離が近い端末については音声を近くに音像定位させる。これにより、通話相手の音声が聴こえてくる位置に当該通話相手までの実際の距離が反映されることになり、携帯電話端末10のユーザが通話の際に通話相手との距離感を感じることができ、通話の臨場感やリアリティをさらに向上させることができる。
【0023】
図3は、上記算出された他の端末までの距離(算出距離;横軸)と、当該端末からの音声を音像定位させる距離(音像定位距離;縦軸)との設定例を示したグラフである。
【0024】
図3には4つの曲線S1、S2、S3、S4が描かれている。ここでは、各携帯電話端末10は、通話相手の端末が複数ある場合、それら複数の端末の最大の算出距離に応じて、4つの曲線のうち1つを選択して適用する。各曲線は、曲線S1が最大算出距離100m未満に対応し、曲線S2が最大算出距離100m以上1km未満に対応し、曲線S3が最大算出距離1km以上10km未満に対応し、曲線S4が最大算出距離10km以上300km未満に対応している。
【0025】
具体的に図2の例に即して説明すると、端末Aにおいて算出距離の最大値は端末Dの30kmであるので、端末Aでは曲線S4が選択される。その結果、端末Aでは、端末B(算出距離は10km)に対して音像定位距離が10m、端末C(算出距離は2km)に対して音像定位距離が9m、端末D(算出距離は30km)に対して音像定位距離が11m、端末E(算出距離は200m)に対して音像定位距離が6.5m、にそれぞれ設定されることになる。
【0026】
また、図2において端末Aが端末Cおよび端末Eとのみ通話をする場合には、算出距離の最大値は端末Cの2kmであるので、端末Aでは曲線S3が選択される。そしてこの場合、端末Aにおいて、端末Cに対して音像定位距離が10m、端末Eに対して音像定位距離が7.5m、にそれぞれ設定される。
【0027】
図3に示したような、最大の算出距離に応じて音像定位距離の設定を異ならせるという方式を用いることにより、複数の端末で通話を行う場合に、各端末までの距離の違いを明瞭に表現した音像定位を実現することができるので、通話の臨場感向上に好適である。
なお、図3に示した各曲線においては、実際の距離が大きくなる程、距離差による音像定位距離の差が小さくなるような曲線となっており、相手端末が非常に離れている場合でも音声が遠くなり過ぎないようにしているが、曲線の形状はこれに限らず、いかなる形状でもよい。
【0028】
次に、以上の動作を行う携帯電話端末10の具体的構成を、図4および図5を用いて説明する。
図4は、携帯電話端末10のハードウェア構成図を示したものである。
【0029】
図4において、CPU11は、携帯電話端末10の各部を制御する中央処理装置であり、ROM12から所定のプログラムを読み込んで実行する。
ROM12は、読み出し専用メモリであり、CPU11が実行するプログラムを格納している。
RAM13は、随時読み出し書き込みメモリであり、上記図3の音像定位距離の設定を記憶するとともに、CPU11によってプログラム実行時に一時データの記憶に使用される。
【0030】
DSP14は、デジタル信号処理装置であり、通話先の携帯電話端末から受信した音声に対して所定の音像定位を施すための処理を実行する。この音像定位処理については後述する。
【0031】
マイク15は、ユーザの音声を入力としてアナログの音声信号を生成し、生成したアナログ音声信号を図示しないADコンバータによってデジタル音声信号に変換して出力する。
スピーカ16は、通話先の携帯電話端末から受信されDSP14により音像定位が施されたデジタル音声信号を図示しないDAコンバータによってアナログ音声信号に変換し、音声を発音する。このスピーカ16は、音像定位された音声を立体音響として発音するために、右用スピーカ16aと左用スピーカ16bの2つのスピーカから構成される(図5参照)。
【0032】
GPSモジュール18は、GPS衛星から受信した所定のGPS信号に基づいて携帯電話端末10(自端末)の位置する場所の緯度と経度を算出し、位置情報として出力する。
地磁気センサ19は、携帯電話端末10の表示ディスプレイ(図示せず)が向いている方位を検出し、方位情報として出力する。
【0033】
通信インタフェース20は、通信データを変調して通話先の携帯電話端末へ送信するとともに、通話先の携帯電話端末からの変調された通信データを受信して復調する。送受信される通信データには、音声信号とGPSモジュール18により得られる位置情報とが含まれる。
バス21は、CPU11、ROM12、RAM13、DSP14、マイク15、スピーカ16、GPSモジュール18、地磁気センサ19、通信インタフェース20を接続しており、これら各部の間でやりとりされるデータを伝送する。
【0034】
図5は、携帯電話端末10の機能ブロック図を示したものである。同図において、送信側の携帯電話端末10と受信側の携帯電話端末10とを分け、それぞれ送信と受信に関連する機能のみを示したが、これは説明の便宜上のためであり、両者の実際の構成は同一である。また、以下では送信側、受信側の携帯電話端末10を、それぞれ図2の端末B、端末Aであるとして説明する。なお、通話者間で話をする側を送信側、その話を聴いている側を受信側とする。
【0035】
図5において、送信側の携帯電話端末10(端末B)では、マイク15から端末Bのユーザの通話音声による音声信号がデータコントローラ101に入力される。また、位置情報取得手段102によって端末Bの位置情報が取得されて、この位置情報もデータコントローラ101へ入力される。ここで、位置情報取得手段102は、図4のGPSモジュール18により実現されるものである。
【0036】
データコントローラ101は、端末Bから送信する通信データを制御する。具体的には、マイク15からの音声信号と位置情報取得手段102からの位置情報とを通信インタフェース20へ供給し、通信インタフェース20にそれらのデータ(通信データ)を送信させる。この時、音声信号は常時送信するが、位置情報はある所定の時間間隔毎に送信する、という制御を行うようにすることもできる。所定の時間間隔の一例として、例えば500ミリ秒程度の値に設定すればよい。こうすることで、端末Bが位置を移動した場合でも、移動後の位置情報が所定の時間間隔毎に送信されるので、受信側の携帯電話端末10における後述する音像定位処理に端末Bが移動した結果を直ちに反映させることができる。なお、データコントローラ101は、図4のCPU11が所定のプログラムをROM12から読み込んで実行する機能によって実現されるものである。
【0037】
一方、図5の受信側の携帯電話端末10(端末A)では、端末Bから送信された通信データが通信インタフェース20により受信され、受信された通信データがデータコントローラ101へ入力される。データコントローラ101は、入力された通信データからそれに含まれる音声信号と位置情報とをそれぞれ取得し、取得した音声信号を立体音響処理部105へ供給するとともに、取得した位置情報を方向・距離算出部104へ供給する。
【0038】
また、端末Aの位置情報取得手段102によって端末Aの位置情報が取得されて、その位置情報が方向・距離算出部104へ入力され、方位情報取得手段103によって端末Aの方位情報が取得されて、その方位情報も方向・距離算出部104へ入力される。ここで、方位情報取得手段103は、図4の地磁気センサ19により実現されるものである。
【0039】
方向・距離算出部104は、データコントローラ101から供給される、通話相手である端末B(他端末)の位置情報と、位置情報取得手段102から入力される端末A(自端末)の位置情報と、方位情報取得手段103から入力される端末Aの方位情報とに基づいて、端末Aから見た端末Bの方向と距離とを算出して、算出した方向と距離を示すデータを方向・距離データとして立体音響処理部105へ供給する。この方向および距離の算出方法については、図2を用いて既に説明したとおりである。なお、方向・距離算出部104は、図4のCPU11が所定のプログラムを読み込んで実行する機能によって実現されるものである。
【0040】
立体音響処理部105は、データコントローラ101から供給される端末Bからの音声信号に対して、方向・距離算出部104から供給される上記の方向・距離データに従って音像定位処理を施す。そして、音像定位処理を施した音声信号を左右それぞれのスピーカ(右用スピーカ16a、左用スピーカ16b)から発音させる。ここで、立体音響処理部105による音像定位の具体例は前述したとおりであり、例えば、上記方向・距離データが示す方向と同じ方向であって、且つ上記方向・距離データが示す距離に対応する図3の音像定位距離に、端末Bの音像を定位させる。ここで、図3の音像定位距離の設定は、上記したようにRAM13に記憶されており、立体音響処理部105はRAM13からこの設定を読み出して、音像定位距離を決定する。こうして、端末Bからの通話音声が、端末Aから見た端末Bの方向と距離に応じた場所から聴こえるように、端末Aのスピーカ16から発音されることになる。なお、方向データのみに従って音像定位処理を施してもよく、その場合は、端末Bからの通話音声が端末Aから見た端末Bの方向から聴こえるように、端末Aのスピーカ16から発音されることになる。
【0041】
図6は、立体音響処理部105の内部構成を示す機能ブロック図である。立体音響処理部105は図4のDSP14が実行するプログラムによって実現され、通話相手となる端末の数に応じて、同じものが複数構成される。例えば、端末Bからの音声信号は図6の音声信号1として、また端末Cからの音声信号は図6の音声信号2として、それぞれ立体音響処理部105−1、105−2に入力され、音像定位処理を施された後の各立体音響処理部105の出力である音声信号は、合成された上でスピーカ16から発音される。
【0042】
各立体音響処理部105は、2つのフィルタ部1052a、1052bを備えており、データコントローラ101からの音声信号は、2つのチャンネルの音声信号としてこれら2つのフィルタ部へ入力される。各フィルタ部1052は、頭部伝達関数(Head Related Transfer Function;HRTF)に基づくフィルタ処理を入力された音声信号に施すものである。この頭部伝達関数は、音像を定位させる位置から聴者の鼓膜までの音の伝達特性を表す伝達関数であり、予め測定等によって求められた所定の頭部伝達関数が各フィルタ部1052に設定されている。
【0043】
また、図6では、フィルタ部1052a、1052bの前段にそれぞれ遅延付与部1051a、1051bが設けられるとともに、フィルタ部1052a、1052bの後段にはクロストークキャンセル部1053が設けられている。これら遅延付与部1051とクロストークキャンセル部1053は、音像定位させる音により立体的な音響効果を付与するために利用されるものである。
【0044】
次に、本実施形態による複数の携帯電話端末10が通話をする際に、送信側と受信側の各携帯電話端末10で実行される処理の手順を説明する。
【0045】
図7は、送信側の携帯電話端末10の処理手順を示したフローチャートである。
図7において、携帯電話端末10が複数端末による通話を開始(ステップS11)すると、位置情報取得手段102(GPSモジュール18)において自端末の位置情報が取得される(ステップS12)。携帯電話端末10のデータコントローラ101は、通信インタフェース20に、この取得した位置情報を通信データとして所定の時間間隔で通話相手の全端末へ送信させる(ステップS13)。
【0046】
図8は、受信側の携帯電話端末10の処理手順を示したフローチャートである。
図8において、携帯電話端末10が複数端末による通話を開始(ステップS21)し、送信側の携帯電話端末から送信された通信データに含まれる位置情報が通信インタフェース20により受信される(ステップS22)。また、位置情報取得手段102(GPSモジュール18)において自端末の位置情報が取得され(ステップS23)、方位情報取得手段103(地磁気センサ19)において自端末の方位情報が取得される(ステップS24)。
【0047】
そして、方向・距離算出部104が通話相手の各端末について自端末(受信側の携帯電話端末10)から見た各端末の方向または方向と距離を算出し、方向・距離データを立体音響処理部105へ出力する(ステップS25)。立体音響処理部105は通話相手の各端末からの音声信号に対して、方向・距離算出部104から入力された各端末の方向データまたは方向・距離データに従い音像定位処理を施す(ステップS26)。この結果、音像定位処理が施された各端末からの音声信号が合成されて、スピーカ16から発音される(ステップS27)。ステップS22からステップS27の処理は通話が終わるまで繰り返され、所定の時間間隔で送信側の携帯電話端末から送信される位置情報を受信すると、その都度、方向・距離算出部104において方向データまたは方向・距離データが更新され、通話相手の端末からの音声に対する音像定位が更新されていく。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、携帯電話端末10は、自端末の位置情報および方位情報、ならびに通話相手である他端末の位置情報に基づいて、自端末から見た他端末の方向または方向と距離を方向・距離算出部104により算出し、この算出結果に応じて、他端末からの通話音声を立体音響処理部105を用いて音像定位させている。これにより、他端末との通話の際に、通話相手が実際に存在している方向または方向と距離に応じた場所からその通話相手の音声が聴こえてくる音響効果が得られる。
【0049】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態による携帯電話端末(音声通話装置)が通話を行っている際のネットワークの接続状態を示した図である。
【図2】図1に示した各携帯電話端末の実際の位置関係を表した図である。
【図3】他の端末までの距離と当該他の端末からの音声を音像定位させる距離との設定例を示したグラフである。
【図4】携帯電話端末のハードウェア構成図である。
【図5】携帯電話端末の機能ブロック図である。
【図6】立体音響処理部の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図7】送信側の携帯電話端末の処理手順を示したフローチャートである。
【図8】受信側の携帯電話端末の処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10…携帯電話端末 11…CPU 12…ROM 13…RAM 14…DSP 15…マイク 16…スピーカ 18…GPSモジュール 19…地磁気センサ 20…通信インタフェース 21…バス 30…携帯電話通信網 101…データコントローラ 102…位置情報取得手段 103…方位情報取得手段 104…方向・距離算出部 105…立体音響処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の音声通話装置と通話を行う音声通話装置であって、
自装置の存在する位置を示す絶対位置情報を取得する位置情報取得手段と、
自装置の向いている方位を検出し、検出した方位を示す方位情報を取得する方位情報取得手段と、
他の音声通話装置から送信される当該他の音声通話装置の絶対位置情報を受信する通信手段と、
前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と、前記方位情報取得手段によって取得された方位情報と、前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の方向を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された方向に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音する音像定位手段と
を具備することを特徴とする音声通話装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の距離をも算出し、
前記音像定位手段は、前記算出手段によって算出された方向および距離に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音する
ことを特徴とする請求項1に記載の音声通話装置。
【請求項3】
前記他の音声通話装置が複数であってこれら複数の音声通話装置と同時に通話する手段を有し、
前記音像定位手段は、前記複数の音声通話装置のそれぞれに対して前記算出手段により算出された方向または方向および距離に応じ、通話音声を音声通話装置毎に音像定位させる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音声通話装置。
【請求項4】
前記他の音声通話装置から所定時間間隔で送信される絶対位置情報を前記通信手段によって受信し、この受信した絶対位置情報を用いて前記音像定位手段による音像定位を通話中に更新する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの項に記載の音声通話装置。
【請求項5】
2以上の音声通話装置間で通話を行う音声通話システムであって、
各音声通話装置が、
自装置の存在する位置を示す絶対位置情報を取得する位置情報取得手段と、
自装置の向いている方位を検出し、検出した方位を示す方位情報を取得する方位情報取得手段と、
他の音声通話装置から送信される当該他の音声通話装置の絶対位置情報を受信する通信手段と、
前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と、前記方位情報取得手段によって取得された方位情報と、前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の方向を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された方向に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音声通話装置毎に音像定位させ発音する音像定位手段と
を具備することを特徴とする音声通話システム。
【請求項6】
前記算出手段は、前記位置情報取得手段によって取得された自装置の絶対位置情報と前記通信手段によって受信された前記他の音声通話装置の絶対位置情報とに基づいて、自装置に対する前記他の音声通話装置の距離をも算出し、
前記音像定位手段は、前記算出手段によって算出された方向および距離に応じ、前記他の音声通話装置からの通話音声を音像定位させ発音する
ことを特徴とする請求項5に記載の音声通話システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−160397(P2008−160397A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346002(P2006−346002)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】