説明

音源位置推定装置

【課題】到来時間差観測値に誤差がある場合にも、音源位置の推定誤差を小さくする。
【解決手段】到来ふ仰角が上向きのマルチパス波と到来ふ仰角が下向きのマルチパス波について別個に到来時間差のテーブル値を記憶しておき(209M)、受信したマルチパス波の各々について到来ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行い、観測された到来時間差とテーブル値との不一致度を上向きのふ仰角を有するマルチパス波と下向きのふ仰角を有するマルチパス波の各々について別個に算出して、その和をコスト関数として(210)、音源位置の推定を行う(211)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は音源位置推定装置に関し、特に水中の音源から放射されたパルス状の音波の直接波とマルチパス波を受信し、これらの到来時間差から音源の位置を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の音波伝搬では、音源から直接受波器に到来する音波(直接波)の他に、海面や海底で反射して到来するマルチパス波があり、そのようなマルチパス波は、直接波と異なる時刻に到来する。
水中において音源からのパルス状の音波を受信して音源の位置を推定する技術として、下記の特許文献1に示されるものがある。
【0003】
図1に、特許文献1に示される、従来の音源位置推定装置を示す。図示の音源位置推定装置においては、音響センサー(受波器)で受信した音波を表す信号が入力端子101を介してマルチパス波到来時間差測定器102に入力される。マルチパス波到来時間差測定器102では、直接波とマルチパス波の到来時間差を検出し、検出した到来時間差観測値を示すデータを出力する。
【0004】
一方、到来時間差テーブル作成器103により、水中の音速プロファイルに基づき、各仮想音源からの音波の音線計算を行うことにより音波の到来時間を推定し、推定結果を到来時間差テーブル値(理論値)として、記憶しておく。
【0005】
コスト関数算出器104は、マルチパス波到来時間差測定器102で求めたマルチパス波到来時間差の観測値と到来時間差テーブル作成器103で求めた到来時間差テーブル値より、それらの不一致度を反映したコスト関数の値を算出する。
【0006】
コスト関数算出器104の詳細ブロック構成を図2に示す。
入力端子111にはマルチパス波到来時間差測定器102で求めたマルチパス波到来時間差観測値が入力され、入力端子112には到来時間差テーブル作成器103からのテーブル値が入力される。テーブル値−観測値算出器113は、到来時間差観測値と到来時間差テーブル値との差を算出する。
【0007】
ここで、pを受波位置(受波点)から音源位置までの距離に対応するインデックス、qを音源位置の深度に対応するインデックスとし、マルチパス波到来時間差測定器102で得られるn番目の到来波についての到来時間差をD、到来時間差テーブル作成器103で求めた、仮想音源位置(p,q)の仮想音源からの、n番目の到来時間差テーブル値をE(p,q)とした場合、テーブル値−観測値差算出器203では、テーブル値と観測値の差を次の式(1)で求める。
△D(p,q)= E(p,q)−D …(1)
【0008】
自乗和算出器114は、式(1)の演算結果を自乗したものの、すべてのマルチパス波についての総和(下記の式(2)で表される)を、コスト関数として求め、求めたコスト関数を出力端子115から出力する。
【0009】
【数1】

【0010】
図1の音源位置推定器105では式(2)で与えられるコスト関数が最小となる(p,q)を求め、求められた(p,q)が推定対象(目標)の音源位置を表すものであると推定し、推定結果を、出力端子106を介して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−194627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の従来の装置を用いた場合、音源と受波器を結ぶ線上のコスト関数の値が、音源の位置の前後のかなり広い範囲にわたり小さな値となるため、音源位置を正確に推定することができないという問題があった。即ち、マルチパス波到来時間差測定器102で求められる到来時間差は観測誤差を含むため、コスト関数の値が小さい場所で大きく推定値がずれる可能性が大きく、このため観測誤差が比較的大きいという問題があった。
【0013】
一例として、図3に示すように音速が一定で水深Zbが一定である場合を考える。図3において、Zsは音源の深度、Zrは受波点の深度、rは受波点WRから音源WSまでの水平方向距離を示す。
到来時間差観測値に誤差がないとした場合のコスト関数を求めた結果を図4に示す。横軸は受波点Zrからの水平方向距離r、縦軸は深度(下方向ほど深度が大)zを表す。図中の曲線はコスト関数の等高線であり、このコスト関数が最小となる位置を推定する。
【0014】
到来時間差観測値に誤差がない場合は、真値を推定することができるが、図中のコスト関数は、受波器と音源とを結ぶ線の方向(矢印DMCの方向)に沿って、コスト関数の変化が小さいために、到来時間差の観測値に誤差が含まれる場合は、この方向に沿って、真の音源位置から推定結果がずれる可能性がある。経験的に知られている観測誤差を与えて、図3に示した条件でシミュレーションを30回試行したところ、距離の誤差標準偏差は、距離真値の約15%と、かなり大きい値となった。このようにコスト関数の特質から音源の位置推定誤差が大きいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の音源推定装置は、
受波位置における到来波に基づいて音源の位置を推定する音源推定装置において、
複数の仮想音源位置の各々について、該仮想音源位置に仮想音源が存在すると仮定したときの、前記受波位置における最初の到来波と2番目以降の到来波のうちの到来ふ仰角が上向きのものの各々との到来時間差の理論値、並びに前記受波位置における最初の到来波と2番目以降の到来波のうちの到来ふ仰角が下向きのものの各々との到来時間差の理論値を格納する到来時間差理論値格納手段と、
前記受波位置において観測した到来波のデータに基づいて、目標の音源からの最初の到来波と2番目以降の到来波との到来時間差の観測値を算出する到来時間差観測値算出手段と、
前記2番目以降の到来波の各々の到来ふ仰角が上向きか下向きかを判定し、前記2番目以降の到来波のうち、到来ふ仰角が上向きの到来波の各々と、前記最初の到来波との到来時間差と、前記到来ふ仰角が上向きの到来波についての前記到来時間差の理論値との不一致度を第1の不一致度として求め、前記2番目以降の到来波のうち、到来ふ仰角が下向きの到来波の各々と、前記最初の到来波との到来時間差と、前記到来ふ仰角が下向きの到来波についての前記到来時間差の理論値との不一致度を第2の不一致度として求め、前記第1の不一致度と前記第2の不一致度との和をコストとして求めるコスト関数算出手段と、
前記コスト関数算出手段が算出した前記コストが最小となる前記仮想音源位置を前記目標の音源の位置と推定する音源位置推定手段と
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、到来時間差観測値に誤差がある場合にも、音源位置の推定誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の音源位置推定装置を示すブロック図である。
【図2】図1のコスト関数算出器104の詳細を示すブロック図である。
【図3】音速が一定で水深が一定である場合の音波の伝搬経路を示す図である。
【図4】図1の装置で求めたコスト関数の等高線の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1による音源位置推定装置を示すブロック図である。
【図6】実施の形態1における受波器の配置を示す図である。
【図7】受波器におけるサンプル値の絶対値の包絡線の一例を示すグラフである。
【図8】(a)及び(b)は、一対の受波器における受信のタイミングの一例を示す図である。
【図9】到来時間差テーブルの作成に当たり使用される仮想音源位置の一例を示す図である。
【図10】仮想音源位置WSの音源からの伝搬経路の一例を示す図である。
【図11】図5の到来時間差テーブル作成器209の一例を示す機能ブロック図である。
【図12】図5のコスト関数算出器210の一例を示す機能ブロック図である。
【図13】図5の装置で求めたコスト関数の等高線の一例を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態2による音源位置推定装置を示すブロック図である。
【図15】図14のコスト関数算出器220の一例を示す機能ブロック図である。
【図16】図15のふ仰角判定部825の一例を示す機能ブロック図である。
【図17】(a)及び(b)は、一対の受波器における受信のタイミングの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1の音源位置推定装置を図5に示す。
図示の音源位置推定装置は、音源から放射されたパルス状音波の直接波とマルチパス波を受信し、それらの到来時間差に基づいて音源の位置を推定するものであり、音源の推定位置は深度及び受波器からの水平方向距離で表される。なお、音源の位置する方位を示す情報は別途得られるものとする。
【0019】
実施の形態1の音源位置推定装置は、第1及び第2の受波器201及び202を備えている。
第1の受波器201及び第2の受波器202は、後述のように、到来波のふ仰角が上向きか下向きかの情報を得るために設けられたものであり、同じ鉛直線上の異なる位置に設けられている。このように配置されることにより、第1の受波器201及び第2の受波器202のいずれに、到来波(信号)がより早く到来したかに基づいて、到来波のふ仰角が上向きか下向きかの判断を行うことができる。
【0020】
第1及び第2の受波器201及び202は、ふ仰角が上向きか下向きの判別が行えれば良いので、図6に示すように、間隔DWRを開けて配置されている。間隔DWRは受信位置において想定される音速の最大値と受波器201、202で測定可能な最小時間差の積以上の値に設定される。
第1及び第2の受波器201及び202はそれぞれ上側及び下側に配置されるので、「上側の受波器」、「下側の受波器」と呼ばれることもある。
【0021】
上側及び下側の受波器201及び202の出力は、入力端子203及び204を介してそれぞれ第1及び第2の到来時刻決定部205及び206に入力される。
第1及び第2の到来時刻決定部205及び206は、それぞれ上側及び下側の受波器201及び201の出力に基づいて到来時刻を決定乃至検出する。
【0022】
第1及び第2の受波器201及び202は、それらで受信される音波をサンプリングすることで得られるサンプル値を表すデータを出力するが、音波をサンプリングすることで得られるサンプル値の絶対値を時間軸上に並べたものの包絡線は、例えば、図7に示す如くとなる。なお、サンプル値の絶対値の代りにサンプル値の自乗値の包絡線を用いる場合もある。
【0023】
第1及び第2の到来時刻決定部205及び206では、それぞれ上側及び下側の受波器201及び202からのデータの列に基づき到来波の受信時刻(到来時刻)を判断する。到来時刻の判断には、従来と同様に、レプリカ相関による方法、立ち上がり検出による方法などを用いることができる。これらの方法は、例えば上記特許文献1においてマルチパス波到来時間差測定器の動作の一部として説明されている。
【0024】
図8(a)及び(b)に、第1及び第2の到来時刻決定部205及び206で決定乃至検出された上側の受波器201及び下側の受波器202におけるパルス状波の到来時刻(検出タイミング)を示す。図8(a)は、上側の受波器201における検出タイミングを、早い順にTA、TA、…で示し、図8(b)は、下側の受波器202における検出タイミングを、早い順にTB、TB、…で示す。
ノイズを信号と誤って検出したり、検出漏れが発生しなければ、最初の検出タイミングが直接波の検出タイミングであり、2番目以降の検出タイミングがマルチパス波の検出タイミングである。
【0025】
第1のマルチパス波到来時間差算出部207は、第1の到来時刻決定部205の出力に基づいて、上側の受波器201で受信したマルチパス波の各々についての到来時間差(1番目の到来波との到来時間差)を算出する。即ち、1番目の到来波PAと2番目の到来波PA(1番目のマルチパス波)の到来時間差DU、1番目の到来波PAと3番目の到来波PAの到来時間差DU、一般化すれば、1番目の到来波PAとn番目の到来波PA(n=2、3、…)との到来時間差DUを算出する。このようにして算出された到来時間差DUを示すデータの列[DU、DU、…]はコスト関数算出器210に供給される。
【0026】
同様に、第2のマルチパス波到来時間差算出部208は、第2の到来時刻決定部206の出力に基づいて、下側の受波器202で受信したマルチパス波の各々についての到来時間差(1番目の到来波との到来時間差)を算出する。即ち、1番目の到来波PBと2番目の到来波PB(1番目のマルチパス波)の到来時間差DL、1番目の到来波PBと3番目の到来波PBの到来時間差DL、一般化すれば、1番目の到来波PBとn番目の到来波PB(n=2、3、…)との到来時間差DLを算出する。このようにして算出された到来時間差DLを示すデータの列[DL、DL、…]はコスト関数算出器210に供給される。
【0027】
第1の到来時刻決定部205と第1のマルチパス波到来時間差算出部207の組合せは、図1のマルチパス波到来時間差測定器102と同様の機能を有し、第2の到来時刻決定部206と第2のマルチパス波到来時間差算出部208の組合せも、図1のマルチパス波到来時間差測定器102と同様の機能を有する。
【0028】
上記のように、第1のマルチパス波到来時間差算出部207と第2のマルチパス波到来時間差算出部208とは、受波位置において観測した到来波の到来時刻(検出タイミング)に基づいて、推定対象(目標)の音源からの最初の到来波と2番目以降の到来波の各々との到来時間差の観測値を算出する到来時間差観測値算出手段を構成し、そのうち、第1のマルチパス波到来時間差算出部207が、第1の受波器201への最初の到来波と2番目以降の到来波の各々との到来時間差の観測値を算出し、第2のマルチパス波到来時間差算出部208が、第2の受波器202への最初の到来波と2番目以降の到来波の各々との到来時間差の観測値を算出する。
【0029】
到来時間差テーブル作成器209は、入力端子213を介して供給される仮想音源の設定位置データと入力端子214を介して供給される音速プロファイルデータに基づいて、到来時間差テーブルを作成し、記憶部209Mに保存する。
【0030】
到来時間差テーブルを作成する際の仮想音源位置は例えば、図9に示すように設定される。
図9に示す例では、探索領域を仮想的にメッシュ(格子)状に区切り、各交点を仮想音源位置(p,q)(p=1,2,…P、q=1,2,…Q)とする。なお、p、qはそれぞれ距離r、深度zを表す値そのものではなく、距離、深度に対応するインデックスであり、自然数1〜P、1〜Qで表される。
【0031】
メッシュ幅(仮想音源位置の間隔)は、所望の音源位置の推定精度に応じて設定される。メッシュ幅を狭くするほど高い精度で測定を行なうことができるが、データ量、演算量が多くなり、リアルタイムでの処理が困難となる。従って、高精度が要求される場合には、メッシュ幅を狭くし、高速性が重視される場合には、メッシュ幅を広くする。
【0032】
仮想音源位置WSからの伝搬経路は例えば図10に示すように想定される。図10には、簡単のため、5つの伝搬経路WP1〜WP5のみが示されている。伝搬経路(音線:音のエネルギーの流れ)が直線的でないのは、水温、塩分濃度などの不均一性のため、音速が一定ではないことによる。
一度も反射をせずに受波点WRに達した波は直接波と呼ばれ、海面や海底で1回以上反射して受波器に達した波はマルチパス波と呼ばれる。
【0033】
このような想定に基づいて、仮想音源位置の各々からの到来時間差を推測し、推測値(理論値)を時間差テーブル値として求め、記憶部209Mに記憶しておく。到来時間差テーブル作成器209は、仮想音源位置の各々でパルス状音波が発せられたと仮定した場合に、上側の受波器201における第1の到来波(直接波)の推定到来時刻と、上側の受波器201に上向きのふ仰角でi番目(i=1、2…)に到来すると推定されるマルチパス波の到来時刻との差(到来時間差)の推測値乃至理論値EU(i=1、2、…)の組乃至列[EU、EU、…EU]を、すべての仮想音源について求め、記憶部209Mに格納し、同様に、下側の受波器202における第1の到来波(直接波)の推定到来時刻と、下側の受波器202に下向きのふ仰角でj番目(j=1、2…)に到来すると推定されるマルチパス波の到来時刻との差(到来時間差)の推測値乃至理論値EL(j=1、2、…)の組乃至列[EL、EL、…EL]を、すべての仮想音源について求め、記憶部209Mに格納する。このように、記憶部209Mは、到来時間差理論値格納手段としての役割を果たす。
【0034】
なお、Iは、経験的に受波器201で受信可能と推定される、ふ仰角が上向きのマルチパス波の最大数以上の値に、Jは、経験的に受波器202で受信可能と推定される、ふ仰角が下向きのマルチパス波の最大数以上の値に、それぞれ定められる。
【0035】
全ての仮想音源位置(p,q)(p=1、2、…P、q=1、2、…Q)の各々についての、上側の受波器201での到来時間差の列
EU(p,q)、EU(p,q)、…(p=1、2、…P、q=1、2、…Q)
が得られ、これらがテーブル形式のデータとされ、上向きふ仰角到来時間差テーブル値として到来時間差テーブル作成器209の記憶部209M内に記憶されている。
同様に、全ての仮想音源位置(p,q)の各々についての、下側の受波器202での到来時間差の列
EL(p,q)、EL(p,q)、…(p=1、2、…P、q=1、2、…Q)
が得られ、これらがテーブル形式のデータとされ、下向きふ仰角到来時間差テーブル値として到来時間差テーブル作成器209の記憶部209M内に記憶されている。
【0036】
コスト関数算出器210は、第1及び第2の到来時刻決定部205、206の出力(到来時刻を示す信号)を入力とするとともに、第1及び第2のマルチパス波到来時間差算出部207及び208で得られた到来時間差データ(観測値)と、到来時間差テーブル作成器210で作成された到来時間差テーブルの値(理論値)を入力とし、これらに基づいてコスト関数を求め、求めたコスト関数を音源位置推定器211に入力する。
【0037】
音源位置推定器211では、コスト間数算出器210で作成したコスト関数が最小となる仮想音源の距離及び深度を音源位置の推定値とし、該推定値を出力端子212から出力する。
【0038】
以下、到来時間差テーブル作成器209の動作を、図11を参照してより詳細に説明する。
入力端子213からは、仮想音源の距離rを表すインデックスPと深度zを表すインデックスQの設定値が入力される。
入力端子214からは、音速プロファイルが入力される。
これらのデータに基づき音線計算処理部703では音線計算を行う。音線計算の結果として、各到来波の到来時間の推測値(理論値)と到来ふ仰角の推測値(理論値)が求められる。
【0039】
ふ仰角判定部704では、音線計算処理部703における計算の結果に基づいて、各仮想音源位置からのマルチパス波の各々について到来ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行い、判定結果を到来時間差算出部705に供給する。
【0040】
到来時間差算出部705は、音線計算処理部703における計算の結果に基づき、さらにふ仰角判定部704における判定結果に基づき、上向きと判定されたマルチパス波については、上側の受波器201における到来時間差(直接波と当該マルチパス波の到来時間の差)を算出し、算出した到来時間差(推測値)を、記憶部209M内のふ仰上向き到来時間差テーブル706にテーブル値として書き込み、下向きと判断されたマルチパス波については、下側の受波器202における到来時間差(直接波と当該マルチパス波の到来時間の差)を算出し、算出した到来時間差(推測値)を、記憶部209M内のふ仰下向き到来時間差テーブル707にテーブル値として書き込む。
【0041】
このような処理を行う結果、ふ仰上向き到来時間差テーブル706には、各仮想音源位置(p,q)から発し、上側の受波器201に上側から(上向きのふ仰角で)到来するマルチパス波の各々についての到来時間差を表すデータの組が、それぞれの仮想音源毎に格納され、ふ仰下向き到来時間差テーブル707には、各仮想音源位置(p,q)から発し、下側の受波器202に下側から(下向きのふ仰角で)到来するマルチパス波の各々についての到来時間差を表すデータの組が、それぞれの仮想音源毎に格納される。
これらのテーブル706、707に格納されたデータは、後述のように、端子708、709を介してコスト関数算出器210に供給される。
【0042】
次に、コスト関数算出器210の動作を、図12を参照してより詳細に説明する。
入力端子801には、第1の到来時刻決定部205の出力が供給され、入力端子802には、第2の到来時刻決定部206の出力が供給され、入力端子803には、第1のマルチパス波到来時間差算出部207の出力が供給され、入力端子804には、第2のマルチパス波到来時間差算出部208の出力が供給される。
【0043】
ふ仰角判定部805は、第1及び第2の到来時刻決定部205、206の出力を、入力端子801、802を介して受け、受波器201、202で受信した到来波の各々についてふ仰角が上向きであるか下向きであるかを判定し、判定結果YULを出力する。
【0044】
図8(a)及び(b)に示す例では、1番目、2番目、4番目の到来波については、上側の受波器201のほうがより早いタイミングで受信しており、3番目、5番目の到来波については、下側の受波器のほうがより早いタイミングで受信している。これらのことから、1番目、2番目、4番目の到来波は、上方から到来したこと、即ちふ仰角が上向きであること、3番目、5番目の到来波は下方から到来したこと、即ちふ仰角が下向きであることが分かる。
【0045】
データ抽出部806は、ふ仰角判定部805における判定結果YULに基づいて、第1のマルチパス波到来時間差算出部207から出力される到来時間差を表すデータのうち、ふ仰角判定部805でふ仰角が上向きと判定されたマルチパス波についての到来時間差のみを選択乃至抽出して、ふ仰上向きテーブル値一観測値差算出器808に供給する。
【0046】
データ抽出部807は、ふ仰角判定部805における判定結果YULに基づいて、第2のマルチパス波到来時間差算出部208から出力された到来時間差を表すデータのうち、ふ仰角判定部805でふ仰角が下向きと判定されたマルチパス波についての到来時間差のみを選択乃至抽出して、ふ仰下向きテーブル値一観測値差算出器809に供給する。
【0047】
ふ仰角判定部805で上向きと判定されたマルチパス波についての、上側の受波器201における到来時間差を
FU、(a=1、2、…)で表し、
ふ仰角判定部805で下向きと判定されたマルチパス波についての、下側の受波器202における到来時間差を
FL、(b=1、2、…)で表す。
それぞれのマルチパスの伝搬経路が図10に示す通り(即ち、推定通り)であれば、1番目、2番目、4番目の到来波(直接波と第1、第3のマルチパス波)が上向きのふ仰角を有し、3番目、5番目の到来波(第2、第4のマルチパス波)が下向きのふ仰角を有することになり、したがって、
FU=DU
FU=DU
FL=DL
FL=DL
となる。
到来時間差FU、FU、…がふ仰上向きテーブル値一観測値差算出器808に供給され、到来時間差FL、FL、…がふ仰下向きテーブル値一観測値差算出器809に供給される。
【0048】
なお、同じ到来波の受波器201、202における受信のタイミングの差は極めて小さいことから、例えば検出タイミングの差が所定値以下であれば、同じ到来波が受信されたと判断することとしても良い。また、第1の到来時刻決定部205で到来時刻と決定された時点及びその前後にわたるサンプル値の列と、第2の到来時刻決定部206で到来時刻と決定された時点及びその前後にわたるサンプル値の列の相関が高い場合に、これらの到来時刻が同じ到来波の検出タイミングであると判断することとしても良い。
【0049】
ふ仰上向きテーブル値一観測値差算出器808は、第1のマルチパス波到来時間差算出部207から入力端子803を介して供給される到来時間差の観測値のうち、データ抽出部806で抽出されたふ仰上向きのマルチパス波についての到来時間差の観測値の列の各要素FU、FU、…と、ふ仰上向き到来時間差テーブル706から入力端子708を介して供給されるふ仰上向き到来時間差テーブル値EU(p,q)、EU(p,q)、…(p=1〜P,q=1〜Q)の各々の各要素とを受け、両者の対応する要素間の差を算出する。即ち、ふ仰上向き到来時間差テーブル値のi番目の要素をEU(p,q)、ふ仰上向きのマルチパス波についての到来時間差の観測値のi番目の要素をFUとすると、次の式で表される計算を行う。
△FU(p,q)= EU(p,q)−FU …(3)
【0050】
ふ仰上向き自乗和算出器812では、式(3)の演算結果を自乗したものの、すべての、ふ仰角上向きのマルチパス波についての総和(下記の式(4)で表される)を求める。
【数2】

【0051】
式(4)で、I’は、I’≦Iであり、ふ仰角が上向きのマルチパス波がI番目まで検出された場合には、I’=Iであり、I番目まで検出されなかった場合には、検出されたふ仰角が上向きのマルチパス波の数を表す。
【0052】
同様に、ふ仰下向きテーブル値一観測値差算出器809は、第2のマルチパス波到来時間差算出部208から入力端子802を介して供給される到来時間差の観測値のうち、データ抽出部807で抽出されたふ仰下向きのマルチパス波についての到来時間差の観測値の列の各要素FL、FL、…と、ふ仰下向き到来時間差テーブル707から入力端子709を介して供給されるふ仰下向き到来時間差テーブル値EL(p,q)、EL(p,q)、…(p=1〜P、q=1〜Q)の各々の各要素とを受け、両者の対応する要素間の差を算出する。即ち、ふ仰下向き到来時間差テーブル値のi番目の要素をEL(p,q)、ふ仰下向きのマルチパス波についての到来時間差の観測値のi番目の要素をFLとすると、次の式で表される計算を行う。
△FL(p,q)= EL(p,q)−FL …(5)
【0053】
ふ仰下向き自乗和算出器813では、式(5)の演算結果を自乗したものの、すべての、ふ仰角下向きのマルチパス波についての総和(下記の式(6)で表される)を求める。
【数3】

【0054】
式(6)で、J’は、J’≦Jであり、ふ仰角が下向きのマルチパス波がJ番目まで検出された場合には、J’=Jであり、J番目まで検出されなかった場合には、検出されたふ仰角が下向きのマルチパス波の数を表す。
【0055】
和算出器814では、式(4)及び式(6)の演算結果を用いて、次の演算を行い、演算結果を接続端子815から出力する。
J(p,q)=JU(p,q)+JL(p,q) …(7)
式(7)のJ(p,q)が本実施の形態1で用いるコスト関数である。
【0056】
音源位置推定器211では式(7)で与えられるコスト関数が最小となる(p,q)を求め、求められた(p,q)が推定対象(目標)の音源位置WSを表すものであると推定する。
【0057】
式(4)、式(6)で求められる自乗和はともに、観測値と理論値(テーブル値)との一致度が大きいほど小さくなる。従って、式(4)、式(6)の自乗和の和で与えられる式(7)のコスト関数の値が小さいほど上記の一致度が大きい(不一致度が小さい)ことを意味する。従って式(7)のコスト関数が最小となる(p,q)を求めることは、一致度が最も大きい(不一致度が最も小さい)(p,q)を求めることを意味する。
【0058】
以上のようにしてコスト関数を求め、該コスト関数が最小となる(p,q)を求めることで、音源位置の推定を正確に行うことができる。即ち、従来例のコスト関数は、図4中の矢印DMCで示した方向に沿う領域でコスト関数の差が小さく、従って、到来時間差観測値に誤差がある場合に、音源位置の推定誤差が大きいという問題があったが、本実施の形態1では、上記のように、マルチパス波の到来ふ仰角の上向き、下向きのそれぞれについて別個の到来時間差のテーブルを用い、別個の不一致度(を表す値)JU、JLを求め、これらの和をコスト関数として、音源位置の推定を行なうこととしており、これにより推定誤差を低減することができる。
【0059】
一例として、従来例と同様に、図3に示すように音速が一定で水深の変化が無い場合を考える。従来例と同条件で到来時間差観測値に誤差がないとした場合のコスト関数を、図13に示す。従来例と同様に、横軸は受波点Zrからの水平方向距離r、縦軸は深度(下方向ほど深度が大)zを表す。図中の線はコスト関数の等高線である。図示のように、コスト関数の等高線は音源位置真値を中心に楕円状になり、受波器に近い場所はコストが大きくなるように変化している。従って、コスト関数の形状から定性的に改善していることが判る。
【0060】
また、従来例と同様に、経験的に知られている観測誤差を与えて、図3に示した条件でシミュレーションを30回試行したところ、距離の誤差標準偏差は距離真値の約5%と従来例と比較して約1/3となり、音源の位置推定誤差に低減に寄与することが確認された。
【0061】
なお、上記の実施の形態1では、ふ仰角の判定のために2つの受波器における到来時刻の差を用いているが、2つの受波器の代わりに、例えば、鉛直受波器アレイを用いることも可能である。
【0062】
実施の形態2.
上記の実施の形態1の方法では、各受波器で受信した音波が、信号のみから成る場合には問題ないが、ノイズが誤って信号と検出(誤検出)されたり、検出されるべき信号が検出されない場合には、問題がある。誤検出の場合には、誤った組合せで受波器間での到来時間差を計算し、誤ったふ仰角の上下判定の結果に基づいてコスト算出を行う可能性があり、コスト算出に誤りが生じ、音源位置推定を誤る可能性がある。検出されるべき信号が検出されない場合には、ふ仰角の判定のために用いるべき一対の信号(受信タイミング)が揃わず、そのため、到来時間差テーブルとの比較(不一致度の算出)が適切に行なえないという問題がある。
【0063】
本発明の実施の形態2における音源位置推定装置を図14に示す。図14の音源位置推定装置は概して図5に示す音源位置推定装置と同じであるが、図5のコスト関数算出器210の代わりに、コスト関数算出器220が設けられている。
【0064】
図14のコスト関数算出器220は、例えば図15に示すように構成されている。図14及び図15に示されるコスト関数算出器220は、図5及び図12に示されるコスト関数算出器210と概して同じであるが、入力端子215を介して供給される受波器位置データ(受波器間距離DWRを表す)を受けるとともに、入力端子214を介して供給される音速プロファイルデータを受ける。また、図15に示すように、ふ仰角判定部805の代わりに、ふ仰角判定部825を備えている。ふ仰角判定部825は、ふ仰角判定部805と同様の機能を有するほか、以下のような付加的な機能をも有する。
【0065】
図16は、ふ仰角判定部825の詳細を示す。図示のふ仰角判定部825は、到来時間差最小組合せ算出部853と、受波器間最大到来時間差算出部855と、観測値・最大値時間差比較部854と、データ抽出部858と、ふ仰角上下判定部859とを有する。
【0066】
到来時間差最小組合せ算出853では、入力端子801、802を介して供給される第1及び第2の到来時刻決定部205、206の出力に基づき、2つの受波器201、202における到来波の到来時刻(タイミング)のうちで、差が最も小さい組合せを求める。その動作を、図17(a)及び(b)を用いて説明する。第1の到来時刻決定部205で検出された、上側の受波器201における到来時刻(タイミング)をtA(c=1,2,…)、第2の到来時刻決定部206で検出された下側の受波器202における到来時刻(タイミング)をtB(d=1,2,…)とし、2つの受波器における到来時刻の内、差が最小となる組合せを求める。
【0067】
例えば、時刻tAの各々について時刻tBのうちで最も差の小さいものを求め、時刻tB(d=1、2、…)のうちで、時刻tA(c=1、2、…)のいずれについても差が最小と判断されなかったものは、除外される。
図示の例では、時刻tBは、時刻tA〜tAのいずれについても、差が最小とはならないため、除外される。
【0068】
一方、時刻tAと時刻tAのいずれも、時刻tBとの差が最小であるが、時刻tAよりも時刻tAの方が時刻tBとの差が小さいので、時刻tAが残され(時刻tBと対を成すものとして選択され)、時刻tAは除外される。
【0069】
以上の結果、時刻tAと時刻tB、時刻tAと時刻tB、時刻tAと時刻tB、時刻tAと時刻tB、時刻tAと時刻tBが互いに対を成すものとして(従って同じ到来波の検出タイミングとして)選択され、時刻tAと時刻tAはノイズによるものと見なされ除外される。
【0070】
受波器間最大到来時間差算出部855では、入力端子215から入力した受波器間距離DWRと、入力端子214から入力した音速プロファイルの、受波器201、202の近傍における音速の値Cから、
tmax=DWR/C …(8)
により、同じ伝搬経路を辿った音波の、受波器201における到来のタイミングと、受波器202における到来のタイミングの時間差の理論的最大値tmaxを計算する。受波器201、202は鉛直方向に整列しているので、到来ふ仰角の絶対値が大きいほど上記の時間差は大きくなる。
【0071】
観測値・最大値時間差比較部854では、組み合わせ算出部853で決めた到来のタイミング(時刻)の対の時間差(観測値)tobsが受波器間最大到来時間差tmaxを超えているか否か、即ち、
tobs>tmax
であるか否かを判定し、判定結果YVNを出力する。判定結果YVNは、データ抽出部858に供給されるほか、出力端子862を介して図15のデータ抽出部806、807に供給される。判定結果YVNは、第1及び第2の受波器201、202における到来時刻の対が、同じ到来波の検出タイミングである蓋然性が高い(信頼性が高い)か否かを示し、tobs≦tmaxであれば、上記蓋然性が高いことを意味し、従って、当該到来時刻のデータがふ仰角の判定、到来時間差の比較などに利用するのに適していることを意味し、逆にtobs>tmaxであれば、上記蓋然性が低く、当該到来時刻のデータがふ仰角の判定、到来時間差の比較などに利用するのに適さないことを意味する。
【0072】
データ抽出部858では、観測値・最大値時間差比較部854による判定結果YVNに基づいて、入力端子801、802を介して供給される第1及び第2の到来時刻決定部205、206の出力を、ふ仰角の判定に使用するかしないかを決定し、ふ仰角の判定に使用すると決定した時刻を表すデータ(到来時刻決定部205、206の出力)を抽出して、ふ仰角上下判定部859に供給する。即ち、各時刻対(互いに対をなすと判断された検出時刻)に関し、
tobs>tmax
の場合には、当該時刻対を、ふ仰角の判定に使用しないこととし、ふ仰角上下判定部859に供給しない。
【0073】
一方、各時刻対に関し、
tobs≦tmax
の場合には、当該時刻対を表すデータを抽出して、ふ仰角上下判定部859に供給する。
【0074】
ふ仰角上下判定部859では、データ抽出部858から供給された時刻対を表すデータについて、ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行い、判定結果YULを、接続端子861を介して出力する。
【0075】
データ抽出部806は、ふ仰角判定部825における判定結果(ふ仰角が上向きか下向きかの判定結果YUL、及び各検出タイミングtA,tBの信頼性についての判定結果YVN)に応じて、第1のマルチパス波到来時間差算出部207の出力(入力端子803を介して供給される)のうちの、データ抽出部858で抽出された到来時刻に対応し、かつふ仰角上下判定部859でふ仰角が上向きと判定された到来時間差データ値のみを抽出して、ふ仰上向きテーブル値一観測値差算出器808に供給する。
【0076】
データ抽出部807は、ふ仰角判定部805における判定結果(ふ仰角が上向きか下向きかの判定結果YUL、及び各検出タイミングtA,tBの信頼性についての判定結果YVN)に応じて、第2のマルチパス波到来時間差算出部208の出力(入力端子804を介して供給される)のうちの、データ抽出部858で抽出された到来時刻に対応し、かつふ仰角上下判定部859でふ仰角が下向きと判定された到来時間差データ値のみを抽出して、ふ仰下向きテーブル値一観測値差算出器809に供給する。
【0077】
図15のふ仰上向きテーブル値一観測値差算出器808及びふ仰下向きテーブル値一観測値差算出器809では、データ抽出部806及び807で抽出された到来時間差の観測値を用いて、差分の算出及びそれに基づくコスト関数の算出を行なう。コスト関数算出器220の他の部分の動作は実施の形態1について説明したのと同様である。
【0078】
実施の形態1では雑音の影響の無いほぼ理想的な状況にのみ到来音波のふ仰角の上下を判別したコスト関数を利用することができたが、本実施の形態2で説明したように到来音波のふ仰角の判定を行う(信頼性の高いデータのみを用いてふ仰角の判定、到来時間差の比較(不一致度の検出)を行う)ことにより、SN比がさほど高く無く到来時間差に誤検出や未検出がある場合にも、到来音波のふ仰上下を判別したコスト関数を適用することが可能となる。
【0079】
このため、SN比がさほど高く無く到来時間差に誤検出や未検出がある場合にもコスト関数を円錐状に保つことができ、音源の位置推定精度を保つことができる。
【0080】
尚、実施の形態2では、ふ仰角の計測に2つの受波器の時間差を用いているが、3つ以上の受波器を用いて、ふ仰角の上下の判定を行うこととしても良い。
【0081】
また、音速プロファイルを測定できなかった場合については、式(8)の音速プロファイルの受波器201,202の近傍における音速の値Cの代わりに代表的な音速1500m/sを用いて、
tmax=DWR/1500 …(9)
を利用することも可能である。
【符号の説明】
【0082】
201、202 受波器、 205、206 到来時刻決定部、 207、208 マルチパス波到来時間差算出部、 209 到来時間差テーブル作成器、 210 コスト関数算出器、 211 音源位置推定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受波位置における到来波に基づいて音源の位置を推定する音源推定装置において、
複数の仮想音源位置の各々について、該仮想音源位置に仮想音源が存在すると仮定したときの、前記受波位置における最初の到来波と2番目以降の到来波のうちの到来ふ仰角が上向きのものの各々との到来時間差の理論値、並びに前記受波位置における最初の到来波と2番目以降の到来波のうちの到来ふ仰角が下向きのものの各々との到来時間差の理論値を格納する到来時間差理論値格納手段と、
前記受波位置において観測した到来波のデータに基づいて、目標の音源からの最初の到来波と2番目以降の到来波との到来時間差の観測値を算出する到来時間差観測値算出手段と、
前記2番目以降の到来波の各々の到来ふ仰角が上向きか下向きかを判定し、前記2番目以降の到来波のうち、到来ふ仰角が上向きの到来波の各々と、前記最初の到来波との到来時間差と、前記到来ふ仰角が上向きの到来波についての前記到来時間差の理論値との不一致度を第1の不一致度として求め、前記2番目以降の到来波のうち、到来ふ仰角が下向きの到来波の各々と、前記最初の到来波との到来時間差と、前記到来ふ仰角が下向きの到来波についての前記到来時間差の理論値との不一致度を第2の不一致度として求め、前記第1の不一致度と前記第2の不一致度との和をコストとして求めるコスト関数算出手段と、
前記コスト関数算出手段が算出した前記コストが最小となる前記仮想音源位置を前記目標の音源の位置と推定する音源位置推定手段と
を備えた音源推定装置。
【請求項2】
前記受波位置に複数個の受波器が設けられ、
前記コスト関数算出手段が、前記複数個の受波器の出力に基づいて前記到来ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の音源推定装置。
【請求項3】
前記受波位置の、深度方向の異なる位置に第1及び第2の受波器が設けられ、
前記コスト関数算出手段が、同じ到来波の、前記第1及び第2の受波器での受波時刻の差に基づいて、当該到来波の到来ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の音源推定装置。
【請求項4】
前記第1の受波器で検出された到来波の各々について、その検出のタイミングと、
前記第2の受波器において検出された複数の到来波のうち、その検出のタイミングと前記第1の受波器における検出のタイミングとの差が最小であり、かつ該差が所定値以下であるものを、前記第1の受波器で検出された到来波と同じ到来波であると判定し、
該判定により同じと判定された到来波の検出のタイミングに基づいて前記到来ふ仰角が上向きか下向きかの判定を行う
ことを特徴とする請求項3に記載の音源位置推定装置。
【請求項5】
前記所定値が、2つの受波器間における前記検出のタイミングの差が、当該受波器間の距離及び前記受波位置における音速に基づいて計算される、前記検出のタイミングの差の理論的最大値以下であるか否かを判断するための値であることを特徴とする請求項4に記載の音源位置推定装置。
【請求項6】
前記同じと判定された到来波についての到来時間差の観測値のみを前記到来時間差の理論値との不一致度の算出に用いることを特徴とする請求項4に記載の音源位置推定装置。
【請求項7】
前記複数の受波器が鉛直受波器アレイを構成するものであることを特徴とする請求項2に記載の音源位置推定装置。
【請求項8】
前記到来時間差理論値格納手段に格納されている到来時間差の理論値が、受波位置の深度、仮想音源位置の距離、深度、及び音速プロファイルに基づいて算出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の音源位置推定装置。
【請求項9】
前記コスト関数算出手段は、
前記到来ふ仰角が上向きの到来波についての前記到来時間差観測値と前記到来時間差理論値との差の二乗の総和を前記第1の不一致度として計算し、
前記到来ふ仰角が下向きの到来波についての前記到来時間差観測値と前記到来時間差理論値との差の二乗の総和を前記第2の不一致度として計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の音源位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−149864(P2011−149864A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12186(P2010−12186)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】