説明

音源方向検出装置

【課題】複数の音源が発する音の周波数が同一であっても、各音源の方向を適切に検出することができる音源方向検出装置を提供する。
【解決手段】 音源方向検出装置1は、車両の走行音を受ける複数のマイクロホン2と、ECU4とを備えている。ECU4は、各マイクロホン2の出力信号に基づいて、走行音を発する接近車両(音源)の方位分布(方向分布)を表す音源方向分布データを生成するマイクロホンアレー処理部11と、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位の系列を計算する車両方位推定部12と、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピーク値が高い方位の系列に対してクラスタリング処理を行うことにより、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位をクラス毎にグループ化し、当該方位の範囲内からの車両到来の可能性を判断する車両検出部13とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源(例えば走行音を発する車両等)の方向を検出する音源方向検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の音源方向検出装置としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載の音源方向検出装置は、複数の音源から発信された音を2つのマイクにより検出し、各マイクから出力された音響信号を高速フーリエ変換してパワースペクトル信号を生成し、このパワースペクトル信号を周波数毎にグループ分けし、各グループ毎に音源の方向を判定することで、複数の音源の方向を検出するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−183202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、周波数の異なる音を発する複数の音源の方向を検出することはできるが、複数の音源が発する音の周波数が同一である場合には、各音源の方向を適切に検出することができないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、複数の音源が発する音の周波数が同一であっても、各音源の方向を適切に検出することができる音源方向検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音源方向検出装置は、音源からの音を受ける複数のマイクロホンと、複数のマイクロホンで受けた各音の到達時間差の情報を所定時間だけ取得し、所定時間毎の音源方向分布データを生成する音源方向分布生成手段と、所定時間毎の各音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向をクラス毎にグループ化するクラスタリング手段と、クラスタリング手段によりグループ化されたクラスにおける各音源方向のばらつき度に基づいて、音源の方向を特定する音源方向特定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の音源方向検出装置においては、複数のマイクロホンで受けた各音の到達時間差の情報を所定時間だけ取得し、所定時間毎の音源方向分布データを生成した後、所定時間毎の各音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向をクラス毎にグループ化し、クラスにおける各音源方向のばらつき度に基づいて、音源の方向を特定する。ここで、音源が複数ある場合には、音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向が複数存在することから、所定時間毎の各音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向が複数のクラスにグループ化され、各クラス毎に音源の方向が特定される。従って、音源が発する音の周波数に関係なく、音源の方向が特定されることになる。これにより、複数の音源が発する音の周波数が同一であっても、各音源の方向を同時に且つ精度良く検出することができる。
【0008】
好ましくは、音源方向特定手段は、クラスタリング手段によりグループ化されたクラスにおいてクラス重心から各音源方向までの平均距離を求め、当該平均距離を予め設定された値と比較して音源の方向を特定する。この場合には、グループ化されたクラスにおける各音源方向のばらつき度に基づいた音源の方向の特定を、簡単に且つ確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の音源が発する音の周波数が同一であっても、各音源の方向を適切に検出することができる。これにより、例えば同じ周波数の走行音を発する複数台の車両が接近する場合に、これらの車両の到来方向を適切に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる音源方向検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】車両におけるマイクロホンアレーの搭載例を示す図である。
【図3】複数フレーム分の音源方向分布データの一例を示すグラフである。
【図4】図3に示した複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピーク値が高い上位数位の方位の系列に対してクラスタリング処理を行う様子を示す図である。
【図5】図1に示したECUにより実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係わる音源方向検出装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係わる音源方向検出装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の音源方向検出装置1は、車両に搭載され、走行音を発する接近車両の到来方向を検出する装置である。
【0013】
図1において、音源方向検出装置1は、車両の走行音を受けて電気信号に変換する複数のマイクロホン2からなるマイクロホンアレー3と、CPU、ROMやRAM等のメモリ、入出力回路等により構成されたECU(Electronic Control Unit)4と、接近車両に関する情報をドライバに対して呈示するための表示器5とを備えている。
【0014】
各マイクロホン2は、図2に示すように、車両Pの幅方向に並ぶように設置されている。マイクロホン2は、バンパー部6に設置されていても良いし(図2(a)参照)、ボンネット7内部におけるウィンドシールド8の近傍に設置されていても良いし(図2(b)参照)、ルーフキャリア9内に設置されていても良い(図2(c)参照)。
【0015】
ECU4は、マルチチャンネルAD変換部10と、マイクロホンアレー処理部11と、車両方位推定部12と、車両検出部13とを有している。マルチチャンネルAD変換部10は、各マイクロホン2の出力信号(音波信号)をデジタル信号に変換する。
【0016】
マイクロホンアレー処理部11は、マルチチャンネルAD変換部10から出力された各チャネルのデジタル信号に基づいて、走行音を発する接近車両(音源)の方位分布(方向分布)を表す音源方向分布データを生成する。
【0017】
ここで、各マイクロホン2の位置は空間的にずれているため、各マイクロホン2の間には、接近車両から発する走行音の位相差(到達時間差)が発生する。このため、マイクロホンアレー処理部11は、マルチチャンネルAD変換部10から出力された各チャネルのデジタル信号に基づいて、接近車両から各マイクロホン2への走行音の到達時間差を求め、既知の手法を用いて音源方向分布データを生成する。このような手法としては、相互相関法、CSP(Cross-power Spectrum Phase Analysis)法や、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法、線形予測法等といったマイクロホンアレーによる到来方位推定法が挙げられる。
【0018】
マイクロホンアレー処理部11により生成される音源方向分布データは、図3に示すように、横軸が方位を示し、縦軸が音の強さを示すものであり、車両の到来の可能性が高い方位に強い値が出力される。音源方向分布データは、マイクロホンアレー処理部11によってフレームという時間単位で処理され、逐次計算され、車両方位推定部12に送られてくる。
【0019】
車両方位推定部12は、図3に示すように、マイクロホンアレー処理部11により得られる複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位の系列を計算し、それをFIFOメモリに蓄えておく。
【0020】
車両検出部13は、図4に示すように、車両方位推定部12により得られる複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピーク値が高い上位数位(ここでは3位)の方位の系列に対してクラスタリング処理を行うことにより、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位をクラス毎(ここでは3クラス)にグループ化する。
【0021】
クラスタリング手法としては、例えば方位別(左方と右方)に予め範囲を設定することで、複数方位からの走行音をクラスタリングしたり、時系列データの状態(移動量の変化等)の推定からクラスタリング(パーティクルフィルタ等)したり、同一強度信号の周辺探索により類似信号を抽出してクラスタリング(探索やパターンマッチング等)することが挙げられる。
【0022】
そして、車両検出部13は、クラス毎にセントロイド(クラスの重心)から各方位までの平均距離を計算し、その平均距離に基づいて当該方位の範囲内から車両が到来してくる可能性を判断する。セントロイドから各方位までの平均距離は、図4に示すように、各方位がどの程度の広がりを持っているかを示している。各方位の広がり(ばらつき度)が小さくなるほど、当該方位の範囲内から車両が到来してくる可能性が高くなる。
【0023】
図1に戻り、表示器5は、車両検出部13により接近車両が存在することが検出されたときに、その旨と接近車両の方位及び近さ等の情報とを表示する。
【0024】
図5は、ECU4により実行される処理手順の詳細を示すフローチャートである。同図において、まずマルチチャンネルAD変換部10から出力される各チャネルのデジタル音波信号を所得し(手順S51)、接近車両から各マイクロホン2への走行音の到達時間差に応じた音源方向分布データを生成する(手順S52)。
【0025】
続いて、音源方向分布データにおけるピーク値を抽出し、音源方向分布データにおいてピークを取る方位を算出し、その方位をFIFOメモリに格納する(手順S53)。そして、所定フレーム分の音源方向分布データについてピークを取る方位を算出したかどうかを判定し(手順S54)、所定フレーム分の音源方向分布データについてピークを取る方位を算出していないときは、手順S51に戻る。
【0026】
所定フレーム分の音源方向分布データについてピークを取る方位を算出したときは、各フレームについて音源方向分布データに存在する複数のピークのうち、ピーク値が大きい上位M位(M≧2)のピークを選定する(手順S55)。そして、各フレームの音源方向分布データにおいて上位M位のピークを取る方位に対してクラスタリング処理を行う(手順S56)。これにより、各フレームの音源方向分布データにおいてピークを取る方位は、M個のクラス(図3及び図4では3クラス)にグループ分けされる。
【0027】
続いて、M個のクラスについてクラス重心から各方位までの距離の平均値AvC(M)を算出する(手順S57)。そして、クラス重心から各方位までの距離の平均値AvC(M)が予め設定された基準値よりも小さいかどうかを判定する(手順S58)。距離の平均値AvC(M)が基準値よりも小さいときは、当該クラスに対応する各方位を含む範囲内から接近する車両が存在するものと判断し(手順S59)、距離の平均値AvC(M)が基準値よりも小さくないときは、接近する車両が存在しないものと判断する(手順S60)。
【0028】
以上のフローチャートにおいて、手順S51,S52はマイクロホンアレー処理部11により実行され、手順S53,S54は車両方位推定部12により実行され、手順S55〜S60は車両検出部13により実行される。
【0029】
また、マルチチャンネルAD変換部10、マイクロホンアレー処理部11及び車両方位推定部12は、複数のマイクロホン2で受けた各音の到達時間差の情報を所定時間だけ取得し、所定時間毎の音源方向分布データを生成する音源方向分布生成手段を構成する。車両検出部13の手順S55,S56は、所定時間毎の各音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向をクラス毎にグループ化するクラスタリング手段を構成する。車両検出部13の手順S57〜S60は、クラスタリング手段によりグループ化されたクラスにおける各音源方向のばらつき度に基づいて、音源の方向を特定する音源方向特定手段を構成する。
【0030】
ところで、車両の到来方位を検出する方法としては、上述したように複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位の系列を計算した後、そのピークを取る方位の分散値を求めることが考えられる。この場合には、方位の分散値が小さいほど、方位の変動が小さくなるため、その方位の範囲内から車両が到来している可能性が高いとみなすことができる。
【0031】
しかし、左右両側から車両が同時に接近する等のように複数の接近車両が存在する場合には、各車両に対応して複数のピークが音源方向分布データに発生するため、これらを適切に処理する必要がある。ところが、複数の車両が存在する場合には、複数フレームの音源方向分布データにおいてピークを取る方位が安定しないため、信頼性の高い分散値が得られない。
【0032】
これに対し本実施形態では、各マイクロホン2から出力される音波信号に基づいて音源方向分布データを生成し、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピークを取る方位の系列を求め、複数フレーム分の音源方向分布データにおいてピーク値が高い上位数位の方位の系列に対してクラスタリングを行い、クラス毎にクラス重心から複数フレーム分の方位までの平均距離を計算し、これを上記の分散値の代わりとして用いる。そして、その値に基づいて当該方位の範囲内から車両が接近するかどうかを判断する。
【0033】
このように車両の到来方位毎に音源方向分布データに存在するピークをグループ化することにより、車両到来方位の検出の信頼性を向上させることができる。これにより、例えば見通しが悪い交差点において同一の周波数の走行音を発する車両が左右両側から同時に接近してくるような場合でも、各車両の到来方向を高精度に且つ安定して検出することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、音源方向分布データのピーク値(音の強さ)を用いて、マイクロホンアレー3と接近車両との距離を求めるようにしても良い。
【0035】
また、上記実施形態の音源方向検出装置1は、自動車等の車両に搭載されるものであるが、本発明は、同一周波数の音を発する複数の音源の方向を検出するものであれば、車両以外のものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…音源方向検出装置、2…マイクロホン、4…ECU、10…マルチチャンネルAD変換部(音源方向分布生成手段)、11…マイクロホンアレー処理部(音源方向分布生成手段)、12…車両方位推定部(音源方向分布生成手段)、13…車両検出部(クラスタリング手段、音源方向特定手段)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音を受ける複数のマイクロホンと、
前記複数のマイクロホンで受けた各音の到達時間差の情報を所定時間だけ取得し、所定時間毎の音源方向分布データを生成する音源方向分布生成手段と、
前記所定時間毎の各音源方向分布データにおいてピークを取る音源方向をクラス毎にグループ化するクラスタリング手段と、
前記クラスタリング手段によりグループ化されたクラスにおける各音源方向のばらつき度に基づいて、前記音源の方向を特定する音源方向特定手段とを備えることを特徴とする音源方向検出装置。
【請求項2】
前記音源方向特定手段は、前記クラスタリング手段によりグループ化されたクラスにおいてクラス重心から前記各音源方向までの平均距離を求め、当該平均距離を予め設定された値と比較して前記音源の方向を特定することを特徴とする請求項1記載の音源方向検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252853(P2011−252853A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128210(P2010−128210)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】