説明

音速制御部材

【課題】本発明は、多孔質部材の物性と音響特性との相関を解明して、工業製品としての品質を安定に確保することが可能な音速制御部材を実現することを目的とする。
【解決手段】多孔部材の熱容量(C)および通気抵抗(R)を以下に示す式1および式2を満足させることによって、課題解決を図った。
【式1】C>1.2×10(C=D×Cm)
【式2】R>F/42.9
但し、Dは構造体の嵩密度、Cmは構造体の比熱、Fは音速を低下させたい所望の音波の周波数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音速を低下させる音速制御部材に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ウレタン樹脂・グラスウール・ゼオライト・活性炭などの多孔質部材は、吸音材として、テレビ装置・カーステレオ・ホームシアターなどの音響装置に具備されているスピーカシステム、あるいはオーディオルーム・防音壁などの防音材に利用されている。
【0003】
例えば、低反発性発泡ウレタン樹脂をスピーカボックスに充填して、スピーカシステムの最低共振周波数を低下させるスピーカシステムが提案されている。これは、スピーカシステムに装着したスピーカユニットの振動板背面から放射された音圧エネルギーを、該ウレタン樹脂に内包されている空気との摩擦すなわち空気流摩擦と、該空気と接触している該ウレタン樹脂との摩擦すなわち粘性流動摩擦との両方によって熱エネルギーに変換させる現象を利用したものである(特許文献1)。
また、微細孔を有する活性炭をスピーカボックスに装填して、スピーカシステムの最低共振周波数を低下させるスピーカシステムが提案されている。これは、活性炭による空気の物理的な吸着/脱着現象を利用して、スピーカボックスの容積拡大効果を図ったものである(特許文献2)。
【特許文献1】特許公開2006−352647
【特許文献2】特許公開2007−6459
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2には多孔質部材の物性と音響特性との相関については記載されていないため、多孔質部材の材料設計ができないと言う問題があった。したがって、所望の音響特性を有する多孔質部材を試行錯誤で探し出さねばならず、工業製品としての品質を安定に確保することが困難であった。
また、多孔質部材の音響特性に関する従来の研究は、多孔質部材内の気体および固体の多孔質部材を伝播する音波の振動伝播に関するものが多く、多孔質部材の物性面からの研究は少なかった(非特許文献1、2)。
【非特許文献1】M.A. Biot, “Theory of Propagation of Elastic Waves in a Fluid-Saturated Porous Solid”, The Journal of The Acoustical Society of America Vol.28, Num.2 ,p168-191 (1956)
【非特許文献2】中川博ほか「Biotの理論を用いた音響特性の予測・その1」、日本音響学会講演論文集、p885−886(2002)
【0005】
そこで本発明は、多孔質部材の物性と音響特性との相関を解明して、工業製品としての品質を安定に確保することが可能な音速制御部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決して目的を達成するために、本発明の音速制御部材は、通気性を有し、かつ熱容量(C)および通気抵抗(R)が以下に示す式1および式2を満足させる構造体からなることを特徴とする。
「式1」C>1.2×10(C=D×Cm)
「式2」R>F/42.9
但し、Dは構造体の嵩密度、Cmは構造体の比熱、Fは音速を低下させたい所望の音波の周波数である。
このような構成にすることによって、構造体内の気体中を伝播する音波の音速を低下させることが可能になる。
【0007】
また、構造体の通気抵抗(R)がF/42.9の10倍以上であることを特徴とする。このような構成にすることにより、音速をより低く低下させることが可能になる。
また、構造体の通気抵抗(R)がF/42.9の100倍以上であることを特徴とする。このような構成にすることによって、音速をさらに低く低下させることが可能になる。
【0008】
本発明のスピーカシステムは、上述の音速制御部材がスピーカボックスに具備されていることを特徴とする。このような構成にすることによって、スピーカシステムの最低共振周波数を低下させることが可能になる。したがって、スピーカシステムの低音再現性の向上が図れる。
【0009】
本発明の防音壁は、上述の音速制御部材を具備していることを特徴とする。このような構成にすることによって、低周波の音波を吸収することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の音速制御部材によれば、音速を低下させたい所望の周波数を設定するだけで音速制御部材の材料設計が可能になるため、音響部材を用いた工業製品の品質を安定に確保できる効果が得られる。
また、本発明のスピーカシステムによれば、スピーカシステムの最低共振周波数を低下させる効果が得られる。
また、本発明の防音壁によれば、低周波数の音波を吸収する効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図6の図面を参照にして説明する。図1は、本発明に係る音速制御部材の一構成例を示す断面概略図である。図2は、本発明に係るスピーカシステムの一構成例を示す概略断面図である。図3は、本発明に係る密閉型スピーカシステムの一構成例を示す概略断面図である。図4は、本発明に係る音速制御部材の垂直入射吸音率を示す吸音特性図である。図5は、吸音構造の空気層のみの垂直入射吸音率を示す吸音特性図である。図6は、本発明に係る他の音速制御部材の垂直入射吸音率を示す吸音特性図である。
【0012】
(実施の形態1)
本発明に係る音速制御部材の一構成例について説明する。
〔音速制御部材の構成〕
本発明の音速制御部材は、通気性を有し、かつ熱容量(C)が1.2×10より大きく、通気抵抗(R)がF/42.9より大きな物性を有する構造体から構成されている。ここで、Fは音速を低下させたい所望の音波の周波数である。
熱容量(C)は、構造体の嵩密度(D)および比熱(Cm)を通常の測定方法で計測し、嵩密度(D)と比熱(Cm)とを乗算(D×Cm)して求めた計算値である。
熱容量(C)が1.2×10より大きい構造体にすると、構造体内の通気孔中の気体は、周波数F〔Hz〕以下の気体の振動によって生ずる発熱あるいは冷却が速やかに構造体に伝達して吸収されるため、温度変化しない。したがって、ニュートン理論に則った定温状態で気体が振動するようになり、構造体内の気体中を伝播する音波の音速を低下させる作用が発現される点で好ましい。
【0013】
通気抵抗(R)は、単位厚さ(D)の構造体をJISL1096通気性A法で測定した通気度(Q)〔m/sec〕を用いて、以下の算出式から求めた計算値である。
構造体内の通気孔中の気体が定温状態で振動するためには、1/F以下の時間内で気体の振動によって生ずる通気孔中の気体の温度変化を構造体に吸収する必要がある。ここで、通気孔の大きさ・形状分布から求めた通気孔の平均的な直径をL、気体の温度伝導率をaとして熱伝導方程式を解くと、音速を低下させたい所望の音波の周波数(F)と、Lとaとの関係は次式のように表せる。但し、πは円周率である。
a(π/L)>F〔HZ〕・・・・・・・・・・・・(1)
また、通気度(Q)はポワージュの法則により次式で表すことができる。但し、μは気体の粘性係数である。
Q=125〔Pa〕÷D×L÷32÷μ・・・・・(2)
したがって、2式を1式に代入してQを求めると、次式が得られる。但し、次式は、気体を空気として計算したものである。空気の温度伝達率(a)は0.02×10−3、空気の粘性係数(μ)は1.79×10−5〔Pa/sec〕を用いた。また、構造体の単位厚さを1として計算した。
1/Q>F/42.9〔sec/m〕・・・・・・・・(3)
ここで、通気抵抗(R)を1/Qと定義すると、通気抵抗(R)は次式で表せる。
R>F/42.9〔sec/m〕・・・・・・・・・・(4)
【0014】
構造体の通気抵抗(R)をF/42.9の10倍以上、望ましくは100倍以上にすると、通気孔中の気体の温度変化がより速やかに構造体に吸収されるため、特に周波数が1kHz以下の低周波の音速をより低く低下させることができる点で好ましい。
【0015】
構造体の通気抵抗(R)は、通気孔の構造、具体的には孔路長、孔径、孔路壁面の表面積などを調節することによって制御することができる。すなわち、孔路長を長くし、孔径を小さくし、孔表面積を大きくすることによって、通気抵抗(R)を大きくすることができる。
孔路長を長くしかつ孔路壁面の表面積を大きくするには、孔路を蛇行構造にするとよい。このような構造にすることによって、音波の入射方向に対する構造体の厚さを薄くすることができる点で好ましい。
【0016】
〔構造体の構成〕
本発明に適用できる構造体としては、上述した熱容量と通気抵抗とを同時に満足する通気性の材料であればいずれでも用い得る。例えば、樹脂・合成ゴム・金属・セラミック・金属あるいはセラミックと樹脂とからなる複合材などからなる連続気泡発泡体あるいは独立気泡と連続気泡とが混在している半独立気泡発泡体などが適用できる。
【0017】
具体的な構造体の材料としては、熱可塑性ポリウレタン・熱可塑性ポリオレフィン・熱可塑性ポリスチレンなどのエラストマ、NBR・SBR・シリコンゴム・エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム、ポリプロピレン樹脂・ポリエチレン樹脂などの樹脂、アルミニウムなどの金属、あるいはアルミナなどのセラミックを発泡させた発泡体が適用できる。また、アルミニウムなどの金属粒子・磁器などのセラミック粒子・ガラス粒子などの粒子を、スチレンブタジエン共重合体などの結着樹脂に分散した複合材が適用できる。
【0018】
以上に説明した発泡体あるいは複合材からなる構造体は、孔路を蛇行構造に形成することができる点で好ましい。また、これらの構造体は、熱容量(C)が1.2×10より大きく、かつ通気抵抗(R)の制御が容易である点で好ましい。通気抵抗(R)をF/42.9〔sec/m〕より大きくするには、発泡体の場合は発泡率を、また複合材の場合は粒子の粒度および粒子と結着材との混合比を最適化することによって成し得る。
【0019】
(実施の形態2)
図1は、本発明に係る音速制御部材の一構成例を示す断面概略図である。音速制御部材10は、実施の形態1で説明した構造体11と、例えばペルチェ素子などの冷却手段12とから構成されている。冷却手段12は、接着剤・取付金具などの担持手段によって、構造体11の4面に担持されている。
尚、図1では冷却手段12が構造体11の4面に担持されているが、構造体11の通気性が保持され、かつ構造体11中の気体が冷却される構成であれば冷却手段2の担持方法は図1に限定されるものではない。
【0020】
図1のように冷却手段12で構造体11を冷却すると、通気孔中の気体の振動によって音圧が高くなるときに生ずる発熱が冷却手段12で迅速に吸収され、通気孔中の気体の温度が変化しないため、数十Hz以下の低音域の音速を効果的に低下させることができる。
尚、冷却手段12に加えて構造体11を加熱する加熱手段(図示せず)を設けて、音圧が低くなるときに生ずる熱吸収を加熱手段で迅速に加熱して通気孔中の気体の温度を変化しないようにすると、より効果的な音速低下効果を得ることができる。
したがって、本実施形態の音速制御部材は、低音再現性を重視したスピーカシステム、あるいは低音域の音波を吸収する防音システムなどに好適である。
【0021】
(実施の形態3)
図2は、本発明に係るスピーカシステムの一構成例を示す概略断面図である。本実施形態のスピーカシステム20は、スピーカボックス21と、スピーカボックス21の一面に具備されたスピーカユニット22と、実施の形態1もしくは実施の形態2で説明した音速制御部材23とから構成されている。
このような構成にすることによって、スピーカユニット22の背面から放射した音波の音速が低下するため、スピーカシステム20の最低共振周波数を低下させることができる。
尚、音速制御部材23の取付け位置は、スピーカボックス21内の任意の位置でよく、図2の位置に限定されるものではない。
【0022】
音速制御部材23は音響抵抗部材としての機能を有する。音響抵抗部材の機能を発現させるためには、図2に示すように音速制御部材23をスピーカユニット22の近傍に取り付けると良い。具体的には、スピーカユニット22の背面と音速制御部材23とで囲まれる空間の体積V1と、音速制御部材23の背面とスピーカボックス21の内壁とで囲まれる空間の体積V2との比(V1/V2)が、1/2以下、好ましくは1/5以下になる位置に音速制御部材23を設ける。
このような位置に音速制御部材23を配置すると、スピーカシステム20の制動抵抗の制御が可能になるため、スピーカシステム20の最低共振周波数付近における音圧の平坦化と、最低共振周波数の低下とが同時に実現される点で好ましい。
【0023】
尚、本実施形態では、スピーカシステム20として密閉型スピーカシステムを例にして説明したが、バスレフ型スピーカシステム・ドロンコーン型スピーカシステムなど一般によく知られている他のスピーカシステムにも適用できることは勿論である。
【0024】
(実施の形態4)
図3は、本発明に係る密閉型スピーカシステムの一構成例を示す概略断面図である。本実施形態の密閉型スピーカシステムの基本構成は、図2に示すスピーカシステム20と同じである。したがって、図2と同じ構成要素には同一の符号を付与し、詳しい説明は省略する。ここでは、図2と異なる構成についてのみ説明することにする。
【0025】
図3に示す密閉型スピーカシステム30は、図2に示すスピーカボックス21内の任意の場所に調湿手段31を設けた構成になっている。ここで、調湿手段31とは、スピーカボックス21内の湿度を所定値に制御する湿度制御手段である。
【0026】
発明者等の実験によると、音速制御部材が放置されている雰囲気の湿度と、音速制御部材中の気体を伝播する音速との間に相関が得られた。すなわち、音速制御部材を低湿の雰囲気に放置した場合と、高湿の雰囲気に放置した場合とを比較すると、低湿の方が高湿より音速の低下効果が大きくなると言う結果が得られた。そこで、音速の低下効果が大きくなる湿度条件について詳しく実験で調べた結果、相対湿度が50%以下、好ましくは30%以下(但し、0%は除く)になると音速の低下効果が大きくなり、70%以上になると音速の低下効果が著しく小さくなることが分かった。
【0027】
音速制御部材が放置されている雰囲気の湿度と、音速制御部材中の気体を伝播する音速との間に相関が得られたのは、空気中の水蒸気(気体状態の水)による音速制御部材の通気孔の表面への吸着脱着が起きているからであると考えられる。すなわち、音速制御部材中を伝搬する音波の音圧が高くなると水蒸気の吸着が起こり、音圧が低くなると水蒸気の脱着が起こると推察される。以下に、その理由について詳しく説明する。
【0028】
空気の状態方程式(PV=nRT)において、水蒸気の吸着脱着が起こると水蒸気のモル数が変化し、それが空気のモル数nの変化を引き起こす。空気のモル数の変化Δnが、音圧変化ΔPと定数νとによってΔn=−ν(ΔP/P)と関連付けられるとき、状態方程式を微分すると水蒸気の体積弾性率κはΓPとなる。ここで、Γは1/(1+ν/n)である。
【0029】
そして、空気の音速は体積弾性率κと空気密度ρとの比(κ/ρ)の平方根となるので、吸着脱着があるときは、吸着脱着が無いときに比べΓの平方根(1より小さい)分だけ音速が遅くなる。
さらに、通気孔の中では、通気孔の壁面に接触する空気の粘性によって、空気の振動を制動する作用が働く。これは、空気密度ρが4/3倍に増えたのと等価となる。よって、音速は空気密度ρの逆数(1/ρ)の平方根に比例するので、請求項1における「式2」(R>F/42.9)の条件の下では、空気の音速は0.866
倍に低下する。
【0030】
したがって、通気孔の中では、ニュートン理論に則った定温状態での気体の振動による音速低下と、水蒸気の吸着脱着による音速低下と、通気孔の壁面に接触する空気の粘性による音速低下とが重畳して起こるものと推察される。
【0031】
本発明に適用できる調湿制御手段31としては、スピーカボックス21内の相対湿度を50%以下、好ましくは30%以下に保持するものであればいずれでも用い得る。
例えば、シリカゲル・活性炭・シラス・炭酸ナトリウム水・珪藻土などの調湿材、あるいは除湿機などが適用できる。中でも調湿材は、調湿制御手段31の構成が簡単になる点で好ましい。
【0032】
〔音速の求め方〕
以下に、音速制御部材の通気孔中を伝播する音波の音速の求め方について説明する。
本発明では、穴開きボードの背面に空気層を持つ吸音構造の垂直入射吸音率を測定し、穴開きボードの吸音率のピーク周波数から計算で音速を求めた。
【0033】
穴開きボードの吸音率のピーク周波数fは、5式に示すように、空気層のキャパシタンスCbの共振周波数f〔Hz〕と等価になる。
f=1/(2π√MCb)・・・・・・・・・・(5)
但し、Mは穴開きボードの穴の空気質量である。
一方、キャパシタンスCbは式6となる。
Cb=V/(ρcS)・・・・・・・・・・・(6)
但し、Vは該空気層の体積、ρは空気の密度、cは音速、Sは穴の総面積である。
したがって、該ピーク周波数fを測定することによって、式5および式6から該空気層の音速が求められる。
【0034】
該空気層に音速制御部材を充填した場合の音速c’を上述した方法で算出すると、空気層のみの音速cから音速c’に変化する。よって、該空気層に音速制御部材を充填した場合の穴開きボードの吸音率のピーク周波数f’は、f×(c’/c)になる。
したがって、空気層のみの音速cは既知であるから、該空気層のみの吸音率のピーク周波数fと、該空気層に音速制御部材を充填したときの吸音率のピーク周波数f’との比を求めることによって、音速制御部材内の音速c’(c’=c×f’/f)が求められる。
【0035】
(具体的実施例1)
上述した「音速の求め方」に準拠して、以下に示す音速制御部材の垂直入射吸音率を測定した。その測定結果を図4に示す。図5は、空気層に音速制御部材を充填しないときの垂直入射吸音率を測定した測定結果である。
穴開きボード:ボード厚:0.2mm、穴径:直径0.2mm、穴の開口率:2%
音速制御部材:ブリヂストン社製の発泡ウレタン樹脂「ウレタンフォームDOX」(以下、略して「DOX」と言う)
「DOX」の熱容量:約2×10
「DOX」の通気抵抗(R):約1500(通気度:約6.4×10−4/sec)
試料の体積:φ30mm×30mm
測定環境:20℃、60%RH
【0036】
図4と図5との比較から判るように、「DOX」の吸音率のピーク波長は、空気層のみの吸音率のピーク波長と比較して約70%低くなっている。したがって、図5の空気層の音速を約340m/secとすると、「DOX」の通気孔を伝播する音波の音速は約284m/secになる。
【0037】
(具体的実施例2)
音速制御部材として以下の発泡ウレタン樹脂を用い、具体的実施例1と同様の測定条件で垂直入射吸音率を測定した。その測定結果を図6に示す。
発泡ウレタン樹脂:ブリヂストン社製「ウレタンフォームCWZZ」(以下、略して「CWZZ」と言う)
「CWZZ」の熱容量:約2×10
「CWZZ」の通気抵抗(R):約11000(通気度:約0.88×10−4/sec)
【0038】
図6から判るように、「CWZZ」の吸音率のピーク波長は、空気層のみの吸音率のピーク波長と比較して約60%低くなっている。したがって、図5の空気層の音速を約340m/secとすると、「CWZZ」の通気孔を伝播する音波の音速は約204m/secになる。
【0039】
(比較例1)
音速制御部材として以下の発泡ウレタン樹脂を用い、具体的実施例1と同様の測定条件で垂直入射吸音率を測定した。その測定結果を図7に示す。
発泡ウレタン樹脂:ブリヂストン社製「ウレタンフォームDOX」(以下、略して「VPX」と言う)
熱容量:約2×10
通気抵抗(R):約24(通気度:約1.04cc/sec)
【0040】
図7から判るように、「VPX」の吸音率のピーク波長は、空気層のみの吸音率のピーク波長と比較して約10%しか低くなっていない。したがって、「VPX」は「DOX」および「CWZZ」と比較すると音速低下効果がほとんどないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る音速制御部材は、スピーカシステム・カーステレオ・テレビ装置などの音響機器、オーディオルーム・防音室などの防音壁材に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る音速制御部材の一構成例を示す断面概略図。
【図2】本発明に係るスピーカシステムの一構成例を示す概略断面図。
【図3】本発明に係る密閉型スピーカシステムの一構成例を示す概略断面図。
【図4】本発明に係る音速制御部材の垂直入射吸音率を示す吸音特性図。
【図5】吸音構造の空気層のみの垂直入射吸音率を示す吸音特性図。
【図6】本発明に係る他の音速制御部材の垂直入射吸音率を示す吸音特性図。
【図7】比較例1で用いた発泡ウレタン樹脂の垂直入射吸音率を示す吸音特性図。
【符号の説明】
【0043】
10 音速制御部材
11 構造体
12 冷却手段
20 スピーカシステム
21 スピーカボックス
23 音速制御部材
30 密閉型スピーカシステム
31 調湿手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有し、かつ熱容量(C)および通気抵抗(R)が以下に示す式1および式2を満足させる構造体からなり、前記構造体内の気体中を伝播する音波の音速を低下させる音速制御部材。
「式1」C>1.2×10(C=D・Cm)
「式2」R>F/42.9
但し、Dは構造体の嵩密度、Cmは構造体の比熱、Fは音速を低下させたい所望の音波の周波数である。
【請求項2】
前記構造体の通気抵抗(R)が、F/42.9の10倍以上である請求項1に記載の音速制御部材。
【請求項3】
前記構造体の通気抵抗(R)が、F/42.9の100倍以上である請求項1に記載の音速制御部材。
【請求項4】
前記構造体に冷却手段が具備されている請求項1に記載の音速制御部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の音速制御部材がスピーカボックス内に具備されているスピーカシステム。
【請求項6】
前記スピーカボックス内に調湿手段が具備されている請求項5に記載のスピーカシステム。
【請求項7】
請求項1に記載の音速制御部材が具備されている防音壁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−175469(P2009−175469A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14396(P2008−14396)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(500119916)ビバコンピュータ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】