説明

音響信号機

【課題】視覚障害歩行者にとって、視覚に一切頼らず聴覚のみあるいは、聴覚と触覚のみにより横断歩道の渡河を対岸まで安全且つ確実に誘導する手段として音響信号機は重要な手段のひとつとなっていた。この場合、音響信号機にとっては、視覚障害歩行者の横断中に生ずる蛇行の防止、渡河時間の短縮が、安全に且つ確実に誘導するためには欠かせない課題として浮かび上がってきていた。
【解決手段】超指向特性をもつパラメトリックスピーカの音響特性によって、横断歩道上の可聴範囲を視覚障害歩行者の横断歩道上のみにフォーカスし、音の聞こえてくる方向の情報を視覚障害歩行者に正確に伝達する横断歩道・対岸誘導システムを従来の音響信号機に常設する。これによって視覚障害歩行者には正確な渡河の誘導を可能にし、且つ横断歩道以外への拡散された音漏れをも抑えることができるので、近隣住民への騒音問題も解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、視覚障害歩行者に横断歩道用信号機の存在の情報を確実に与え、且つ安全に対岸へ誘導することを可能とした音響誘導システム係り、特に音響出力を指向性放射する超指向性スピーカシステムを備えた横断歩道・対岸誘導システムを備える音響信号機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の音響誘導システムを補助装置として付加された横断歩道用音響信号機(以下、単に音響信号機と称す)は、視覚障害歩行者が道路を安全に横断できるように、歩行者用信号が青色を表示していることを音響で知らせる。この種の装置としては、その音源として一般に擬音式とメロディ式の音が採用されておりまた、音源の出力方式として動電変換を原理とした小口径ラッパ型のスピーカが用いられ、音はこのスピーカの振動版から直接放射されている。例えば、交差点などの東西方向、南北方向の2つの方向の横断歩道がある場合、 南北方向の横断歩道側が青信号になった時には、「ピヨ、ピヨ、・・・」という音がスピーカから流れ、東西方向の横断歩道側が青信号になった時には、南北方向とは異なった音響である「カッコー、カッコー、・・・」という音がスピーカから流れ、視覚障害歩行者に横断歩道用信号機の存在と、横断可能な方向の情報を伝達している。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
一方、横断可能な方向の情報を伝達するだけでは、視覚障害歩行者を安全に対岸まで誘導するには不十分であり、これを解決するための誘導システムとして幾つかの提案がなされている。
例えば、上面に点字等の情報伝達用突起部を備えたブロック列の一部に透明体を介して複数個の発光体を点灯および消灯自在にして埋設し、ブロック上面の点状または線状等の情報伝達突起を、視覚障害歩行者等が踏みつけることで、自己が立っている位置を知ることを可能とし、また、弱視覚障害歩行者等に対しては、ブロックに埋設された発光体からの光を受けることで、進んで行く通路や階段などの変化地帯等を確認できるようにしている。(例えば、特許文献2参照)
【0004】
しかし、従来のこの種の誘導システムでは、弱視覚障害歩行者に対してはブロックの情報伝達用突起部と発光体の光により誘導できるが、全盲の視覚障害歩行者に対しては発光体の光が認識できず、ブロックの情報伝達用突起の触覚に頼らざるを得ない。また、弱視の程度によっては発光体の光の認識が困難な場合もあり、全盲の視覚障害歩行者と同様に情報伝達用の突起部に頼らざるを得なかった。
そこで、より確実な対岸への誘導システムとして、近時開発・実用化された超指向性スピーカシステムによる音の聴覚と、ブロックの触覚とによる2つの感覚を使って判断できる誘導システムも提案されている。例えば、線状の情報伝達用の突起部を有するブロックに組み込んだ超指向性スピーカと、点状の情報伝達用の突起部を有するブロックの複数の中央部に組み込んだ超指向性スピーカに、ブロックの下部にある配線用溝内に配線された地中配線を介して供給される駆動信号により、ブロック上方へ音または音声を放射するよう構成したものも提案されている。(例えば、特許文献3参照)
【0005】
この方法は聴覚と触覚による誘導システムであるために、もともと視覚障害歩行者にとって認識し辛い視覚による従来誘導システムよりも、遥かに確実且つ優れた誘導が可能になる。しかしこの方法による超指向性スピーカは、ブロックの複数個の中央部に組み込むことから、車の往来する路面に設置しなければならず、耐久強度が十分に備わる設計とする必要がある。また、複数個の超指向性スピーカを使用することから路面での設置コストが高くなる傾向にある。その結果、この方法は100メートルを越すような比較的対岸までの道路幅の大きい場合に確実な誘導が望めるために、このような応用に最適なものとして期待されている。
【0006】
この発明は、道路幅13〜14メートル程度の最も多い4車線の道路幅の横断歩道に適した横断歩道・対岸誘導システムを備えた横断歩道用音響信号機を提供しようとするものであって、近時開発・実用化された超指向性スピーカシステムの実現する音響特性に着目し、この超指向性スピーカを空中に設置することによってコストを低減するとともに、周知のスピーカあるいはブロックを補助とし、且つもっぱら超指向性スピーカシステムを主体に構成して成る、聴覚による横断歩道・対岸誘導システムを備えた横断歩道用音響信号機を提供しようとするものである。
【0007】
【特許文献1】特開平7−016084号公報
【特許文献2】特開平7−207628号公報
【特許文献3】特開2005−232923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の聴覚を利用したこの種の横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機では、対岸のそれぞれに設置された周知の動電変換を原理とした小口径ラッパ型のスピーカが用いられ、音はこのスピーカの振動板から直接放射されている。この周知のスピーカを用いた音響信号機では、俯角を大きくしてスピーカの足下領域に音を照射するよりは、むしろ俯角を小さくして対岸にスピーカを向けて音を照射したほうが効果的であることが知られている。
ここでスピーカの取り付け角度すなわち俯角とは、路面に対して所定の高さにこの路面との平行線を引いたとき、この平行線より適宜路面に向けた角度を指す。またこの俯角は、一般に音軸が道路の中央面で交差するよう設定され、道路の対岸との距離、取り付け高さに応じて決定されている。
このような周知のスピーカは、視覚障害歩行者によれば、手前あるいは対岸のスピーカのどちらが鳴っているのか分かりにくい、聞き分けにくいとの証言報告がある。そこで、従来の音響信号機ではそのひとつの解決策として、対岸のそれぞれに設置された一対のスピーカを交互に鳴動させたいわゆる「鳴き交わし方式」を採用することで、少なくともどちらのスピーカが鳴っているかを解決しようとしている。
とは言え、周知のスピーカはもともと、大勢の人に音声で情報を伝達するために開発されたものであり、音響指向角が広く音は拡散放射され、音の到達方向がわかりにくいという特性は拭いきれず、横断歩道上の安全誘導には視覚障害歩行者にとってはこれでも不十分であった。また、このような特性から周知のスピーカでは、音が横断歩道上以外にも広がり周辺環境にとっては騒音となる問題があり、ある程度スピーカの音圧を制限しなければならなかった。その結果、従来の聴覚を利用したこの種の横断歩道・対岸誘導システムを備えた信号機では、近隣住民に与える騒音問題で多くのシステムが本来の目的に沿うよう動作されておらず、有効に機能していないという課題があった。
【0009】
ところで一般に横断歩道用の信号機の青時間は、歩行者が横断できる最低秒数として保証されており、普通1メートルあたりの歩行で1秒必要として計算されている。それゆえ信号機の青時間は、横断歩道の対岸までの距離に応じて個別に設定され、横断歩道ごとに個々に異なることが通常である。したがって、視覚障害歩行者はこの横断歩道ごとに異なる時間内に、横断歩道を渡りきらなければならない。
一方、視覚障害歩行者は渡り始めても対岸への方向を見失いやすく、横断中に立ち止まったり、進行方向の修正を繰り返したり、最悪の場合にはあらぬ方向へ進むこともあり得る。
その結果、視覚障害歩行者を安全且つより確実に対岸へ誘導するためには、視覚障害歩行者が(1)より正確な方向を認識するよう情報を確実に伝達すること、(2)渡りきる横断時間をできるだけ短くすること、が重要になる。このことは、横断中の蛇行をいかに防ぐか、あるいは減少させるかが、この種の横断歩道・対岸誘導システムを備えた信号機にとって重要な課題であることを意味する。
【0010】
従来は、この信号機の存在の情報と進行方向の情報とを視覚障害歩行者の聴覚に伝達する方法で実現しようとした場合、すでに述べた「鳴き交わし方式」と呼ばれる方法と、もうひとつの簡便な方法として、同種同時方式と呼ばれる方法が採られていた。同種同時方式とは、対抗する二つのスピーカから横断歩道用の音響信号、例えば「カッコー」を同時に鳴らす方法である。
いずれにしても、周知のスピーカによるこれらの方法はすでに述べたように、もともと大勢の人に音声で情報を伝達するために開発された手段を用いるものであり、且つこの手段が音を広く拡散放射し、俯角を小さくして対岸に向けて音を照射したほうが効果的であるがゆえに、音の方向がわかりにくいという特性は拭いきれず、信号機の存在の情報を伝達することはできても進行方向の情報を正確に伝達するには不十分であった。
その結果、この従来の方法は聴覚障害者にとって重要な蛇行を防ぎ正確な対岸方向へと誘導し、且つ横断時間を短くするには依然として不十分であった。
【0011】
そこでこの発明は、あたかもスポットライトのように聞こえるエリアを限定することが可能ないわゆる超指向性の音響特性をもつパラメトリックスピーカに着目し、音の情報を一人またはグループの人だけに伝達し、且つその周りにいる人には聞こえないようにする方法として注目される超指向性スピーカシステムを適用する。すなわち、周知のスピーカは音源近くで音圧の高いエリアがあるが、総じてレベル変動が少なく、音が拡散するのに対し、パラメトリックスピーカは空気の非線形性を利用するもので、音軸周辺に音圧の高いエリアを形成し、指向性の鋭さにその特徴がある。したがって上述の適応は、聴覚に信号機の存在の情報を伝達し、且つ進行方向の情報をも正確に伝達する必要のあるこの種の音響信号機に、最適な性能を十分発揮することが期待できる。
【0012】
ところで、視覚障害歩行者の聴覚に信号機の存在の情報を伝達するのみならず、進行方向の情報を正確に伝達し、蛇行を防ぎ横断時間を短くするには、もうひとつの課題がある。これは、単に指向性の鋭いスピーカを用いただけでは解決しない。
すなわち横断歩道を渡るとき歩行者は、信号機が青になって音の鳴る方向の対岸のスピーカに向かって歩き始める。このとき、視覚障害歩行者はスタート位置で体の向きが横断歩道に対して平行でなかった場合、超指向性スピーカが周知のスピーカに比べてスピーカの位置を同定しやすいものの、歩行の変位(蛇行)を生じてしまう。したがって、視覚障害歩行者がより正確な方向を認識するよう情報を確実に伝達する方法・歩行の変位(蛇行)を少なくするためには、例え指向性が鋭く、対岸のスピーカの位置が定位できても、スタート位置での体の向きが歩行の軌跡に重大な影響を及ぼす。このことは、視覚障害歩行者の体の向きが横断歩道に対して平行であるよう矯正することが重要であることを意味する。その結果、スタート位置での音の聴取は、横断歩道用の信号機の存在を視覚障害歩行者に知らせ、体の向きを歩道に沿って直進するよう正してゆくために重要である。
特に「暗騒音」が大きい場合、横断歩道を挟んで対岸に一対の超指向性スピーカを配置したとき、この超指向性スピーカの真下のスタート位置のみならず、ゴール付近でも、指向性が鋭いがゆえにまた、俯角を小さくした場合には音が小さく、聞きにくくなる傾向にある。このため、前の音が鳴っている方向は分かりやすいものの、より安全で確実な歩行の変位(蛇行)防止と渡りきる時間の短縮は解決しきっていない。これは指向性の鋭いスピーカを適応したとき固有の何らかの補強手段が特に、スタート位置やゴール位置付近での歩行誘導に必要であるとのもうひとつの課題になった。
【0013】
この発明は、上述のような幾つかの課題を解決するためになされたもので、超指向性スピーカシステムを主体に構成することにより、一切視覚によらず聴覚により解決し、周知のスピーカおよびもしくは触覚ブロックを補助的に組み合わせることにより、視覚障害歩行者にとってより安全・確実な歩行誘導を実現する横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る音響信号機は、歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器とを有する超指向性スピーカシステムを備え、横断中の歩行者に対して該放射器から放射された超指向性の可聴音が一度に途切れることのないように、該放射器の取り付け角度を設定した横断歩道・対岸誘導手段を備える。
【0015】
また、この発明に係る音響信号機は、歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器とを有する超指向性スピーカシステムを設け、前記音源から出力される音声信号によって鳴動するスピーカと、上記変調器もしくはスピーカへ上記音源から出力される音声信号を選択的に切替えて供給する切替器と、該切替器を予め設定した時間または周囲騒音レベルに応じて選択切り替え制御する制御器と、を設けた横断歩道・対岸誘導手段を備える。
【0016】
加えてこの発明に係る音響信号機は、上記超指向性の可聴音を生成する放射器の取り付け角度とは異なる角度で取り付けられた第2の放射器およびもしくはスピーカを設け、この複数個の放射器およびもしくは複数個のスピーカの鳴動の組合せを上記切替器で適宜、上記制御器による制御で切り替える横断歩道・対岸誘導手段を備える。
【0017】
さらにこの発明に係る音響信号機は、歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、上記変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器と有する超指向性スピーカシステムを備え、横断中の歩行者に対して該放射器から放射された超指向性の可聴音が一度に途切れることのないように、該放射器の取り付け角度を設定した聴覚手段と、横断歩道の対岸に向かって横断歩道と平行となる位置を識別可能とする目印を有する少なくとも横断歩道の端に設けられて成る触覚手段と、を有する横断歩道・対岸誘導手段を備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、超指向性スピーカシステムの実現する音響特性に着目し、この超指向性スピーカを空中に設置することによってコストを比較的低減するとともに、もっぱら超指向性スピーカシステムを主体に構成することにより、視覚障害歩行者に対して信号機の存在情報を確実な聴覚で伝達し、横断方向の正確な情報伝達、横断中の蛇行防止、横断時間の短縮、渡りきるまでの一層の安全・確実な歩行誘導を可能とする。
またこの発明の横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機によれば、音が横断歩道上以外にも広がることによる近隣住民に与える騒音問題に対し、超指向性スピーカシステムを主体として構成することにより解決し、周囲の騒音問題を極力押さえつつ信号機本来の目的に沿うよう有効に機能することが可能となる。
加えてこの発明によれば、上述のような課題を一切視覚によらず聴覚あるいは触覚との組み合わせにより解決すべく、主に超指向性スピーカの有する音響特性に着目して成されたものであって、周知の動電変換を原理とした電気音響変換方式の周知のスピーカあるいは触覚ブロックを適宜補助として組合せることにより、視覚障害歩行者にとってより安全・確実な歩行誘導を実現した横断歩道・対岸誘導システムを備える音響信号機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムおける超指向性スピーカシステム主要部の概略構成を示すブロック図である。図に示すように、この超指向性スピーカシステムは、音源1、切替器2、後述の変調器3、増幅器4、放射器5と、制御器6、可聴信号用増幅器7、電気音響変換方式の周知のオーディオ用スピーカ8を備える。音源1は歩行者用信号が青色を表示している間のみ可聴信号を出力する。切替器2は、制御器6からの制御により、後述するように音源からの可聴信号を変調器3に出力するか、可聴信号用増幅器7に出力するか、変調器3及び可聴信号用増幅器7の両方に出力するかを適宜選択的に切替える。変調器3は、超音波帯域に属する搬送波を上記切替器2より与えられた音源1の可聴信号によって変調する。増幅器4は、変調器3から出力されるこの変調信号を増幅する。放射器5は、増幅器4から出力される超音波信号を空気中に放射するいわゆるパラメトリックスピーカで、指向性の鋭い超音波ビームを放射する。一方、可聴信号用増幅器7からの可聴信号の出力は、周知のスピーカ8より音になって拡声される。
上記変調器3、増幅器4及び放射器5に至る構成は、可聴音を直線性の高い超音波に変換し、狙った方向に鋭い超音波ビームを放射するパラメトリックスピーカおよびその駆動部を構成している。
【0020】
ここで用いられるパラメトリックスピーカとは、空気の非線形性を利用するもので、指向性の鋭さにその特徴が現れる。すなわちこのスピーカの原理は、数十kHzの超音波を可聴音で振幅変調(あるいは周波数変調)し、空気の非線形性を利用して空中に可聴音を再生するもので、可聴音が超音波ビーム内で縦型アレイとして発生して分布する(すなわち有限振幅超音波の自己復調現象がテレビアンテナのように縦型アレイ状に分布する)ことから、アンテナ理論と同じ原理による指向性が得られ、従来のスピーカに比べて格段に鋭くなるものである。例えば、28kHzの超音波を聞きたい可聴信号で包絡線変調する。この変調波は聞こえない。しかし空気のもつ非線形性は通信で言う復調器のような働きをする。その結果、変調超音波は自然に可聴信号を空間内に作り出し、且つ変調超音波の2次波が空気中に仮想音源として機能して、この信号が耳に聞こえる。
したがって、従来のスピーカはいわば裸電球の光のように、背面を含む広いエリアに音場を形成するので、エリアをコントロールすることが出来ないのに対し、この発明で使用するパラメトリックスピーカは、あたかもスポットライトのように聞こえるエリアを限定(設定)することが可能となる。
このとき、このパラメトリックスピーカを駆動するためには、可聴信号を取り出して、その信号の大小に応じて超音波を放射する変調器が必要となる。この場合、従来は変調のプロセスをアナログ回路で実現していたが、近時、信号が忠実に抽出できること、また細かな調整が容易に行えることから、このプロセスをデジタル処理する包絡変調器が開発されてきている。この発明の変調器3は、これを用いる。
【0021】
言い換えれば、図1のこの発明の変調器3は、超音波のキャリア信号を音源1から出力される音声信号によって変調し、増幅器4に供給する。増幅器4は取得した変調信号を増幅し、上述のパラメトリックスピーカに相当する放射器5に供給する。さらに放射器5は取得した超音波の変調信号を空気中に放射する。放射器5から空気中に放射された変調信号は、上述のように空気の非線形パラメトリック現象により自己復調されて空気中に仮想音源を形成し、この放射器5で狙ったエリアには人に聞こえる可聴音が得られる。
図2は、道路幅が比較的狭い場合におけるこの発明の実施の形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を示す図であって、音響信号機が横断歩道の一方の端にのみ設けられた例を示している。
【0022】
図2に示すように、上述の超指向性スピーカシステム主要部を構成する音源1、切替器2、変調器3、増幅器4、制御器6、可聴信号用増幅器7は、屋外用ラック9に収納され、横断歩道の端に適宜設置されたポール等に取り付けられる。また放射器5は、歩行者用信号機10とともに該ポールの上部に取り付けられ、図3に示すように、ここでは放射器5の取り付け角度すなわち、すでに述べた俯角は対岸の端に合わせられている。そして周知のスピーカ8はここでは道路幅が狭いために、上記放射器5と同じような位置の該ポールの上部に取り付けられている。加えて図2に示す11は、横断中の視覚障害歩行者である。
ここで、図3はこの発明の実施の形態1に係る音響信号機が適用された横断歩道を横から見た図を示し、図4は図3の横断歩道を上から見た場合を示し、図5は道路幅が図3よりも広いとき(放射器5の取付け角度すなわち俯角が小さくなったとき)のこの発明の音響信号機が適用された横断歩道を横から見た場合を示している。
【0023】
次に動作について説明する。いま歩行者用信号機10が青信号になると、周知のスピーカ8から例えば「カッコー」などの音響信号が発せられる。このとき同時に、放射器5から強い指向性を持って超音波が放射される。この超音波の変調信号はすでに述べたように、空気中で復調されて横断歩道上の限られたエリアに可聴範囲12を形成する。点字ブロック等により横断歩道手前まで来た視覚障害歩行者11は、周知のスピーカ8と放射器5で信号機の存在と青であることの情報が伝達され、図3のように横断歩道を渡り始める。
横断歩道を渡り始めた視覚障害歩行者11は、図4に示すように横断歩道の対岸方向から外れ進行方向が変位したとき(B点)、同時に可聴範囲12からも外れるため、放射器5から強い指向性を持って伝達されてきている音が聞こえなくなり、横断歩道から外れたことを認識する。
【0024】
このとき、人は一般的に聞こえる方向へ向き直る習性があり、音の弱くなる方向へ向き直る。その結果、視覚障害歩行者11は、さらに音が聞こえる位置まで歩く方向を修正(C点)することで、横断歩道上からずれることなく横断歩道対岸(D点)まで渡りきることが可能となる。
横断歩道対岸(D点)方向からスタートした視覚障害歩行者11は、この図2では後方より音を聞くことになるが、指向性の鋭い音を聞くことによって同様に横断歩道を渡ることが可能となる。この図2〜3に示す実施の形態1では、人の習性に着目し、このことにより超指向性の音と相俟って視覚障害歩行者11を横断歩道の対岸まで誘導し、比較的簡便な小規模の対岸誘導システムを備えた音響信号機で構成している。したがって、この場合は道路幅のごく狭いときに適応する。
【0025】
次に図5に示すように、横断歩道の距離が図3よりも長い場合、可聴範囲12をさらに遠くまで届かせる必要がある。このときには、放射器の角度を地面に対し水平に近く(俯角を小さく)設置することとなる。この場合、図5に示すように放射器5の下側付近では可聴範囲12から外れるため、超指向性の音は聞こえず、誘導ができなくなる。このことは、すでに述べたように指向性が鋭いがゆえに生ずるもので、放射器5を水平に近くに設置(俯角を小さく)すればするほど顕著になり、的確な誘導ができなくなる。
しかしそれでも放射器5の下側付近の聞こえ難い場所がごく狭い場合すなわち、横断歩道の対岸のゴール近くであるならば、このエリアに向けてごく低音圧レベルの音を周知の電気音響変換方式を採用した小型スピーカ(図示せず)で補うことも可能である。このことは、狭い場所への拡声であるため、小音量で周囲への騒音とはならず、且つ低価格でシステムの実現が可能となる。
【0026】
実施の形態2.
図6はこの発明の実施の形態2に係り、図2の場合よりも例えば4車線の道路幅を有するような比較的広い横断歩道の場合における対岸誘導システムを備えた音響信号機を示す図であって、視覚障害歩行者11を対岸までより安全・確実に誘導すべく、横断歩道・対岸誘導システムおける超指向性スピーカシステムを構成している。この音響信号機では図6に示すように、同じ構成の超指向性スピーカシステムを横断歩道の両岸に相対向するよう配置して構成している。
【0027】
すなわち横断歩道の両岸には、図2と同様な放射器5と対岸放射器5’とが一対を成して相対向するように配置され、それぞれの音軸が道路の中央面で交差するよう設定された俯角で取り付けられている。また、これらの放射器5と対岸放射器5’の下側付近では、より確実な誘導を実現するために、可聴範囲12および対岸可聴範囲12’から外れた路面上のエリアをそれぞれカバーすべく音軸が路面と交差するよう比較的大きな俯角で取り付けられた第2放射器13と対岸第2放射器13’が、横断歩道の両岸にそれぞれ設けられている。
【0028】
ここで図7は、このような図6の例えば4車線の道路幅を有するような比較的広い横断歩道にあって、この発明の対岸誘導システムを備えた音響信号機が適用されたときの横断歩道を横から見た場合を示している。
この図7に示すように、第2放射器13と対岸第2放射器13’は、第2可聴範囲14と、対岸第2可聴範囲14’を放射器5と対岸放射器5’のそれぞれ下側付近に形成し、すでに図5で述べた周知のスピーカ(図示せず)による補助よりも、一段と正確に視覚障害歩行者11を進行方向へと誘導する。さらに図6に示すようにここでは、周知のスピーカ8と対岸スピーカ8’が、視覚障害歩行者11以外の歩行者用に供されるために、横断歩道の両岸にそれぞれ設けられている。また、横断歩道の両端いいかえれば横断歩行者の足下に、周知の点字ブロックなどで構成される一対の触覚ブロック15、対岸第2触覚ブロック15’が設けられ、視覚障害歩行者11に対する触覚手段を構成している。
【0029】
この周知のスピーカ8と対岸スピーカ8’はすでに述べたように、俯角を小さくして対岸に向けて音を照射したほうが効果的であるがゆえに、上述の第2放射器13と対岸第2放射器13’および第2放射器13と対岸第2放射器13’とは、予め異なる俯角で取り付けられている。この場合、上述の放射器5と対岸放射器5’はすでに述べた音響信号を途切れることのないように「同種同時方式」で鳴動するように設定しなければならないが、周知のスピーカ8と対岸スピーカ8’はすでに述べた「鳴き交わし方式」としても良い。以下はこの方式の音響信号を用いた場合に沿って説明する。
【0030】
いま図6、図7で歩行者用信号機10が青信号になると、周知のスピーカ8、対岸スピーカ8’から例えば「カッコー」などの音響信号が交互に発せられる。このとき同時に、放射器5、対岸放射器5’、第2放射器13、対岸第2放射器13’から強い指向性を持って超音波が放射される。この超音波の変調信号はすでに述べたように、空気中で復調されて図7に示す可聴範囲12、対岸可聴範囲12’、第2可聴範囲14、対岸第2可聴範囲14’を形成する。視覚障害歩行者11は、図6の周知の点字ブロックで構成される対岸第2触覚ブロック15’等により、図7のように横断歩道手前(E点)まで来て、周知のスピーカ8、対岸スピーカ8’と、対岸第2放射器13’により信号機の存在情報と青であることの情報が伝達され、横断歩道を渡り始めようとする。このとき視覚障害歩行者11は、上述の対岸第2放射器13’からの音響信号を聞きながら足下の対岸第2触覚ブロック15’で、体の向きが横断歩道に対して平行となるよう正して行く。
その結果、横断中の蛇行防止と渡りきる時間の短縮に重要なスタート位置での音の聴取と、体の向きを歩道に沿って直進するよう正すことが可能となり、横断歩道用の信号機の存在を視覚障害歩行者11に確実に知らせるとともに、正確な進行方向への誘導を可能にしている。
【0031】
図7に示すように、横断歩道手前(E点) まで来た視覚障害歩行者11は、次第に後方へと変化する対岸第2放射器13’からの音響信号を聞きながら、横断歩道を渡り始める。やがて、対岸第2放射器13’により形成された対岸第2可聴範囲14’を通り過ぎた視覚障害歩行者11は、同じく次第に後方へと変化する対岸放射器5’からの音響信号を聞きながら、対岸放射器5’により形成された対岸可聴範囲12’を通り、横断歩道の中央部に差し掛かる。さらに進むと、視覚障害歩行者11は、放射器5からの次第に前方より聞こえてくる音響信号を聞きながら、前進する。やがて、この放射器5により形成された可聴範囲12を通り過ぎた視覚障害歩行者11は、第2放射器13により形成された第2可聴範囲14に差し掛かり、この第2放射器13からの次第に音の大きくなる音響信号に導かれてゴール位置(F点)に到達する。
【0032】
ここで注意すべき点は、視覚障害歩行者11が横断歩道の中央部に達したとき、後方から聞こえてくる対岸放射器5’からの音響信号の音圧レベルが最も小さくなると同時に、前方からの放射器5からの音響信号の音圧レベルもまた最も小さくなる点である。すなわちこの位置で周囲騒音が大きい場合には、視覚障害歩行者11は一瞬間、聞こえてくる方向が分からなくなる可能性がある。したがって、視覚障害歩行者11はこの中央部で一瞬立ち止まる可能性があるが、ここではすでに述べた周知のスピーカ8と対岸スピーカ8’による「鳴き交わし方式」の音響信号でさらに前進し続けることができ、前進さえすればわずかな間で、前方からの放射器5からの音響信号が聞こえてくる。その結果、次第に前方より聞こえてくる音響信号によって、さらに正確な進行方向への誘導を可能にしている。
【0033】
この中央部での問題は、ここでは放射器5および対岸放射器5’のそれぞれの音軸が道路の中央面で交差するよう設定された俯角で取り付けられた例で説明してきたが、放射器5および対岸放射器5’より放射される超音波ビームは、ある程度のビーム幅を有しているので、この俯角を調整することによっても解決される。
以上のようにして視覚障害歩行者11は、指向性の鋭い音響信号により蛇行することなく最後まで横断歩道を渡りきることが可能となる。
【0034】
ところでこの発明の横断歩道・対岸誘導システムを備える音響信号機は、図1に示すように切替器2と制御器6とを備えている。これらは、実施の形態1では音源1の可聴信号の出力を周知のスピーカ8側か放射器5側への出力とするかを切替えるようにも使用されるが、この実施の形態2では、放射器5と第2放射器13の音声出力のタイミングを制御器6によりコントロールするようにしても良い。すなわち、歩行者用信号10が青になった状態で最初に第2放射器13から音を、次に放射器5から音を出し、順次繰返し音を出すように制御器6で切替器2を制御する。その結果、視覚障害歩行者11は第2放射器13からの音を聞くことにより歩き出すタイミンクをつかみ易くなり、より効果的な誘導を可能とすることができる。これらの切替器2と制御器6は、このように複数個の放射器ならびに周知のスピーカからの音響出力を適宜、組み合わせでコントロールする。
【0035】
また、車などの通行量の変化により横断歩道周辺の騒音レベルは変動し、通行量の多い時間帯では騒音レベルが高くなり、横断歩道上の可聴範囲内でも聞き取り難くなるときが生ずる。この場合には、制御器6からの制御で放射器5側から周知のスピーカ8側へ切り替えることも可能である。スピーカ8はすでに述べたように、通常の電気音響変換方式を採用しているため、十分な音量を確保することが可能となる。このとき切り換えるタイミングは、タイマーによる時間制御または、図示しないマイクにより騒音レベルを測定し、一定の騒音レベルになったときに切り換えるようにしても良い。
【0036】
以上のようにこの発明によれば、鋭い指向性を有する超音波により、視覚障害歩行者に対してより正確な方向を認識するよう情報を確実に伝達することができ、横断中の進行方向の変位を防ぐとともに蛇行を減少させ、且つ渡りきる横断時間を短くすることができる。またこの発明によれば、鋭い指向性を有する超音波により、周囲の騒音とならない横断歩道・対岸誘導システムを備えた信号機を実現することができ、視覚障害歩行者を安全且つより確実に対岸へ誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムおける超指向性スピーカシステム主要部の概略構成を示すブロック図である
【図2】この発明の実施の形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を適用した横断歩道を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を適用した横断歩道を横から見た図を示す。
【図4】この発明の実施の形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を、道路幅が図3よりも広い場合(俯角が小さくなった場合)に適用した横断歩道を横から見た図を示す。
【図5】この発明の実施の形態1に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を適用した横断歩道を上から見た図を示す。
【図6】この発明の実施の形態2に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を適用した横断歩道を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る横断歩道・対岸誘導システムを備えた音響信号機を適用した横断歩道を横から見た図を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 音源、2 切替器、3 変調器、4 増幅器、5 放射器、6 制御器、7 可聴信号用増幅器、8 スピーカ、9 屋外用ラック、10 歩行者用信号機、11 視覚障害歩行者、12 可聴範囲、12’ 対岸可聴範囲、13 第2放射器、13’ 対岸第2放射器、14 第2可聴範囲、14’ 対岸第2可聴範囲、5’ 対岸放射器、8’ 対岸スピーカ、9’ 対岸屋外用ラック、15 触覚ブロック、15’ 対岸第2触覚ブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、
音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、
変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器と
を有する超指向性スピーカシステムを備えた横断歩道・対岸誘導手段であって、
横断中の歩行者に対して該放射器から放射された超指向性の可聴音が一度に途切れることのないように、該放射器の取り付け角度を設定した横断歩道・対岸誘導手段を
備えて成ることを特徴とした音響信号機。
【請求項2】
歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、
音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、
変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器と
を有する超指向性スピーカシステムを備えた横断歩道・対岸誘導手段であって、
前記音源から出力される音声信号によって鳴動するスピーカと、
前記変調器もしくはスピーカへ前記音源から出力される音声信号を選択的に切替えて供給する切替器と、
該切替器を予め設定した時間または周囲騒音レベルに応じて選択切り替え制御する制御器と、
を設けた横断歩道・対岸誘導手段を備えて成る
ことを特徴とした音響信号機。
【請求項3】
前記超指向性の可聴音を生成する放射器の取り付け角度とは異なる角度で取り付けられた第2の放射器およびもしくはスピーカを設け、
この複数個の放射器およびもしくはスピーカの鳴動の組合せを前記切替器で適宜、前記制御器による制御で切り替える横断歩道・対岸誘導手段を備えて成る
ことを特徴とした請求項1および請求項2記載の音響信号機。
【請求項4】
歩行者用信号が青色を表示していることを知らせる音源と、
音源から出力される音声信号によって超音波帯域に属する搬送波を変調する変調器と、
前記変調器からの変調信号を超音波として放出し、この超音波から空気を介して超指向性の可聴音を生成する放射器と
を有する超指向性スピーカシステムを備えた横断歩道・対岸誘導手段であって、
横断中の歩行者に対して該放射器から放射された超指向性の可聴音が一度に途切れることのないように、該放射器の取り付け角度を設定した聴覚手段と、
横断歩道の対岸に向かって横断歩道と平行となる位置を識別可能とする目印を有する少なくとも横断歩道の端に設けられて成る触覚手段と、
を有する横断歩道・対岸誘導手段を備えて成る
ことを特徴とした音響信号機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−40685(P2008−40685A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212471(P2006−212471)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】