説明

音響用木質材料及びその製造方法並びにアコースティック楽器

【課題】従来の天然木材の問題点を解消し、かつ天然木材と同等の音質を有する音響用木質材料及びその製造方法並びにアコースティック楽器を提供する。
【解決手段】繊維長さが50mm以上の複数の木質材2と、エポキシ樹脂3とを含み、木質材2が木質繊維または木質単板からなり、木質材2の繊維長方向が相互に一方向に揃えられていることを特徴とする音響用木質材料1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響用木質材料及びその製造方法並びにアコースティック楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラリネット等のアコースティック楽器や、音響材料の原材料には、主に、グラナディラ等の天然木材が用いられている。
しかしながら、楽器または音響材料の原料として天然木材を用いるにあたっては、(1)天然木材が天然資源であることからその枯渇の問題が常につきまとい、環境に対する負荷が大きい。(2)たとえ植林したとしても伐採まで長期間を要する。(3)天然の材料であるので、固さや比重などのばらつきが大きく、音質にも個体差が生じてしまう。(4)湿度による膨張、収縮が大きく割れやすい。(5)グラナディラ等は希少であるがゆえに高価である。といった問題がある。
【0003】
下記特許文献には、天然木材を原材料とする各種の複合材料が開示されている。しかしいずれの場合も、天然木材とは異なる音質を有するものであり、天然木材の代替品として用いることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3654900号公報
【特許文献2】特許第3581869号公報
【特許文献3】特開2005−105245号公報
【特許文献4】特開2006−117768号公報
【特許文献5】特開2007−196692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来の天然木材の問題点を解消し、かつ天然木材と同等の音質を有する音響用木質材料及びその製造方法並びにアコースティック楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の音響用木質材料は、繊維長さが50mm以上の複数の木質材と、エポキシ樹脂とを含み、前記木質材が木質繊維または木質単板からなり、各木質材の繊維長方向が相互に一方向に揃えられていることを特徴とする。
また、本発明のアコースティック楽器は、先に記載の音響用木質材料が備えられてなることを特徴とする。
次に、本発明の音響用木質材料の製造方法は、繊維長さが50mm以上の複数の木質材と、未硬化のエポキシ性樹脂との混合物とを、前記複数の木質材の繊維長方向が一方向に揃うように成形型に投入して加熱圧縮成形する工程を具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の音響用木質材料によれば、複数の木質材の繊維長方向が一方向に揃えられているので、天然木材に近い異方性を付与させることができ、天然木材と同等の音質を発揮させることができる。また、エポキシ樹脂を含むことで、高い強度と高い音速と低い振動減衰率(tanδ)を実現でき、更に木材特有の吸放湿による寸法変化を少なくできる。
また、本発明の音響用木質材料の製造方法によれば、木質材の繊維長さ方向を一方向に揃えて加熱圧縮成形することで、天然木材に近い異方性を付与させることができ、天然木材と同等の音質を有する音響用木質材料を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態である楽器用木質材料の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態である楽器用木質材料の別の例を示す断面模式図である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1〜3の楽器用木質材料の振動減衰率(tanδ)と音速との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の音響用木質材料は、複数の木質材と、エポキシ樹脂とが複合化されて構成されている。複数の木質材は、楽器用木質材料の内部においてその繊維長方向が相互に一方向に揃えられている。
【0010】
木質材は、少なくとも50mm以上の繊維長さを有する木質繊維または木質単板を例示できる。木質繊維としては、麻繊維、ケナフ繊維、ジュート繊維、竹を解繊させた繊維、竹の爆砕繊維等といった、天然木材を繊維状に加工して得られるものを用いることができる。竹の爆砕繊維の調製は、例えば、竹を所定の長さに切断し、気密の圧力容器に充填してから例えば140〜200℃、0.36MPa〜1.55MPaの水蒸気雰囲気中で加圧加熱処理を行い、その後、圧力容器を開放することで竹を爆砕して繊維化すればよい。このようにして爆砕した竹繊維の太さは、平均で0.1〜1mm程度、好ましくは平均で0.1〜0.5mm程度になる。また、木質単板としては、例えば、グラナディラ、樺、スプルース、カエデ、ナラ、メランティ、タモ、ポプラ、ブビンガ、マホガニー、けやき、カポール、ブナ等の天然木材から切り出された単板が好ましく用いられる。
【0011】
木質材の繊維長さを50mm以上にすることで、複数の木質材を相互に一方向に揃えやすくなり、天然木材と同等の異方性を付与させることができる。繊維長さが50mm未満では木質材が一方向に揃いにくく、異方性を付与することが困難になる。繊維長さが50mm以上であれば、木質材の繊維長さは全体的に均一でもよく不均一でもよい。なお、木質材が木質単板の場合の繊維長さは、繊維長方向に沿った木質単板の全長とすることができる。同様に、木質材が木質繊維の場合の繊維長さは、繊維長方向に沿った木質繊維の全長とすることができる。
【0012】
次に、エポキシ樹脂は、木質材に含浸されていてもよく、木質材の表面に付着されていても良い。エポキシ樹脂によって複数の木質材が一体となって固化成形される。また、エポキシ樹脂の含有率は5〜50質量%の範囲が好ましく、10〜40質量%の範囲がより好ましく、20〜30質量%の範囲が最も好ましい。含有率が50質量%を超えると木質材の繊維長方向が一方向に揃わなくなり、また、含有率が5質量%未満では木質材同士の接着強度が低下するので好ましくない。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ノボラック型、ビフェニル型といったものがよい。
【0013】
また、音響用木質材料の比重は、狙いとする天然木材の比重に合わせればよい。例えばグラナディラ材の比重に合わせる場合には、音響用木質材料の比重を0.8〜1.4の範囲とするのが好ましく、0.9〜1.3の範囲とするのがより好ましく、1.0〜1.2の範囲とするのが最も好ましい。比重がこの範囲から外れると、音質が低下する場合がある。比重の調整は、圧縮成形する際に圧力を制御するか、あるいは発泡成形を行って楽器用木質材料の内部に気泡を形成させることで行えばよい。
【0014】
図1には、音響用木質材料の一例であって、木質材として木質繊維を用いた場合の断面模式図を示している。図1に示す音響用木質材料1は、複数の木質繊維2がエポキシ樹脂3によって固化成形され、各木質繊維の繊維長方向が一方向Dに揃えられている。エポキシ樹脂3は、一部が木質繊維2に含浸されていても良く、また木質繊維2の表面のみに付着していても良い。
【0015】
また、図2には、音響用木質材料の別の例であって、木質材として木質単板を用いた場合の断面模式図を示している。図2に示す音響用木質材料11は、複数の木質単板12が相互に積層された状態でエポキシ樹脂によって相互に接着され、各木質単板12の繊維長方向が一方向Dに揃えられている。エポキシ樹脂は木質単板12に含浸されており、木質単板12の表面付近のエポキシ樹脂によって木質単板同士が接合されている。なお、エポキシ樹脂は木質単板12の表面のみに付着していてもよい。
【0016】
次に、音響用木質材料の製造方法の一例について説明する。
この例では、木質材に未硬化のエポキシ性樹脂を含浸させて混合物とした後、木質材の繊維長方向が一方向に揃うように混合物を成形型に投入して加熱圧縮成形する。
【0017】
先ず、繊維長さが50mm以上の複数の木質材を用意する。木質材としては、木質繊維でもよく、木質単板でもよい。
次に、用意した木質材を、未硬化のエポキシ樹脂を含む溶液に浸漬する。例えば、未硬化のエポキシ樹脂を10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%の濃度で溶剤に希釈させた液に浸漬する。希釈液中のエポキシ樹脂の濃度が薄すぎると、接着強度が低下するので好ましくなく、濃度が高すぎると、希釈液の粘度が高くなって扱いにくくなり、またエポキシ樹脂を木質材に含浸させにくくなる。所定時間浸漬することで、未硬化のエポキシ樹脂を木質材中にその含有率が5〜50質量%の範囲となるように含浸させる。木質材中のエポキシ樹脂の含有率は、希釈液中のエポキシ樹脂の濃度または浸漬時間で調整すればよい。木質材が木質単板の場合は、減圧雰囲気中でエポキシ樹脂の溶液に浸漬することで、より短時間のうちにエポキシ樹脂を木質単板に含浸させることができる。
【0018】
次に、エポキシ樹脂を含浸させた木質材を大気中で乾燥させる。これにより、エポキシ樹脂の溶剤を完全に除去させる。乾燥時間は溶剤が完全に取り除かれるように適宜調整すればよい。
【0019】
次に、エポキシ樹脂を含浸させた複数の木質材を、その繊維長方向が一方向に揃うようにして成形型に投入する。木質材が木質繊維の場合は、繊維長方向が一方向に揃うように木質繊維を成形型に充填すればよい。また、木質材が木質単板の場合は、繊維長方向が一方向に揃うように木質単板同士を積層した状態で、木質単板を成形型に充填すればよい。
【0020】
次に、成形型内の木質材を加熱圧縮成形し、所定の形状に成形すると同時にエポキシ樹脂を硬化させる。加熱圧縮成形の条件は例えば、加熱温度をエポキシ樹脂の硬化温度以上、エポキシ樹脂の分解温度以下の範囲とし、面圧力を例えば10MPaとし、加圧時間を例えば60分とすればよい。また、この圧縮成形時に、音響用木質材料の比重を調整する。好ましくは比重が0.8〜1.4の範囲になるように、面圧力を調整する。また、加熱圧縮成形の際に、複数の木質材を充填させた成形型内に発泡剤等を添加し、圧縮成形と同士に発泡させ、音響用木質材料の内部に気泡を形成させることで比重を調整してもよい。
このようにして、音響用木質材料を製造する。
【0021】
次に、音響用木質材料の製造方法の別の例について説明する。この例では、未硬化のエポキシ樹脂とともに、木質材をその繊維長方向が一方向に揃えるようにして成形型に投入した後、加熱圧縮成形する。
先ず、繊維長さが50mm以上の複数の木質材を用意する。木質材としては、木質繊維でもよく、木質単板でもよい。
【0022】
次に、用意した木質材を、その繊維長方向が一方向に揃うようにして成形型に投入する。木質材が木質繊維の場合は、繊維長方向が一方向に揃うように木質繊維を成形型に充填すればよい。また、木質材が木質単板の場合は、繊維長方向が一方向に揃うように木質単板を複数枚積層した状態で、木質単板を成形型に充填すればよい。
【0023】
また、成形型には、木質材とともに未硬化のエポキシ樹脂を充填する。未硬化のエポキシ樹脂としては、粉末状、塊状またはフィラー状など各種の形態のものを用いることができる。この場合のエポキシ樹脂の平均粒径は0.01〜2mmが好ましく、0.05〜0.5mmが最も好ましい。平均粒径が小さすぎると、取り扱いが不便なので好ましくなく、平均粒径が大きすぎると、圧縮成形時に内部に気泡が残存してしまい、比重が低下するので好ましくない。また、木質材とエポキシ樹脂は、予め混合物にしてから成形型に充填してもよく、木質材とエポキシ樹脂を別々に成形型に充填して混合物としてもよい。なお、本例の場合は、エポキシ樹脂を溶剤に溶解させる必要がなく、溶剤除去の工程が不要になる。音響用木質材料におけるエポキシ樹脂の含有率の調整は、未硬化のエポキシ樹脂の混合率を調整することで行えばよい。
【0024】
次に、先の例の場合と同様にして、成形型内の木質材とエポキシ樹脂とを加熱圧縮成形し、所定の形状に成形すると同時にエポキシ樹脂を硬化させる。このようにして、音響用木質材料を製造する。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の音響用木質材料によれば、複数の木質材の繊維長方向が一方向に揃えられているので、天然木材に近い異方性を付与させることができ、天然木材と同等の音質を発揮させることができる。また、エポキシ樹脂を含むことで、高い強度と高い音速と低い振動減衰率(tanδ)を実現でき、更に木材特有の吸放湿による寸法変化を少なくできる。
また、木質材の繊維長さが50mm以上なので、木質材が一方向に揃いやすくなり、音響用木質材料に高い異方性を付与することができ、天然木材と同等の音質を発揮させることができる。
【0026】
また、エポキシ樹脂の含有率を5〜50質量%の範囲とすることで、木質材の繊維長方向が一方向に揃いやすくなるとともに、木質材同士の接着強度を向上させて音響用木質材料の強度を高めることができる。
更に、比重が0.8〜1.4の範囲とすることで、狙いとする天然木材の比重に近づけることができ、音質を向上できる。
【0027】
本実施形態の音響用木質材料は、アコースティック楽器の構成部材として好適に用いることができる。より具体的には、本実施形態の音響用木質材料は、クラリネット、オーボエ、ピッコロ、リコーダー等の木管楽器の材料として適しており、その他にも、弦楽器や打楽器等の多くの楽器を構成するあらゆる木製部品の代替材料として用いることができる。
本実施形態の音響用木質材料を用いたアコースティック楽器は、通常用いられる木材に代えて本実施形態の音響用木質材料を用い、定法により製造できる。本実施形態の音響用木質材料を用いたアコースティック楽器は、天然木材を用いた楽器に比べて、同等またはそれ以上の音質を有しており、個体差もない。
また、本実施形態の音響用木質材料は、スピーカーの振動板、スピーカーボックス等の各種の音響用部材の材料としても好適に用いることができる。
【0028】
次に、本実施形態の音響用木質材料の製造方法によれば、木質材を一方向に揃えて加熱圧縮成形することで、天然木材に近い異方性を付与させることができ、天然木材と同等の音質を有する音響用木質材料を製造できる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
先ず、平均太さが0.3mmの爆砕竹繊維を繊維長さが500mmとなるように切断した。次に、未硬化のエポキシ樹脂(メーカー名:ジャパンエポキシレジン株式会社、製品名:JER828)が50質量%の濃度で含まれ、更に硬化剤が含まれるアセトン/メタノール混合溶液に、繊維長さを調整済みの爆砕竹繊維を浸漬した。最終的なエポキシ樹脂の含有率は、含浸時間を制御することで調整した。エポキシ樹脂が爆砕竹繊維に含浸した頃合いを見計らい、爆砕竹繊維を溶液から引き上げ、大気中で1日間乾燥した。
【0030】
次に、エポキシ樹脂を含浸させた爆砕竹繊維を、その繊維長方向が一方向に揃うようにして成形型に投入し、加熱温度200℃、面圧力10MPa、加圧時間60分の条件で加熱圧縮成形した。このようにして、500mm×40mm×40mmの直方体状の実施例1の音響用木質材料を製造した。なお、爆砕竹繊維の繊維長方向は、音響用木質材料の長手方向に揃えた。
【0031】
(実施例2)
先ず、解繊した竹繊維(平均太さ0.5mm)を繊維長さが50mmとなるように切断した。次に、竹繊維と平均粒径が0.1mmとなるように粉砕した粉末状の未硬化のエポキシ樹脂(メーカー名:ジャパンエポキシレジン株式会社、製品名:JER1002)と硬化剤とを混合した。最終的なエポキシ樹脂の含有率は、爆砕繊維とエポキシ樹脂の混合割合を制御することで調整した。そして、この混合物を成形型に投入した。成形型に投入する際に、竹繊維の繊維長さ方向を一方向に揃えた。
【0032】
そして、加熱温度200℃、面圧力10MPa、加圧時間60分の条件で加熱圧縮成形した。このようにして、500mm×40mm×40mmの直方体状の実施例2の音響用木質材料を製造した。なお、爆砕竹繊維の繊維長方向は、音響用木質材料の長手方向に揃えた。
【0033】
(実施例3)
0.6mmの厚さにスライスした500mm×40mmのカバ単板を用意した。カバ単板の繊維長さ方向はカバ単板の長手方向に沿っている。次に、未硬化のエポキシ樹脂(メーカー名:ジャパンエポキシレジン株式会社、製品名:JER828)が50質量%の濃度で含まれ、更に硬化剤が含まれるアセトン/メタノール混合溶液に、カバ単板を浸漬させてから減圧することにより、エポキシ樹脂を真空含浸させた。最終的なエポキシ樹脂の含有率は、含浸時間を制御することで調整した。エポキシ樹脂の所定量がカバ単板の内部に含浸した頃合いを見計らい、カバ単板を溶液から引き上げ、大気中で1日間乾燥した。
【0034】
次に、エポキシ樹脂を含浸させた90枚のカバ単板を、その繊維長方向が一方向に揃うようにして成形型に投入し、加熱温度200℃、面圧力10MPa、加圧時間60分の条件で加熱圧縮成形した。このようにして、500mm×40mm×40mmの直方体状の実施例3の音響用木質材料を製造した。なお、カバ単板の繊維長さ方向は、音響用木質材料の長手方向に揃えた。
【0035】
(比較例1)
竹繊維の繊維長さが30mmである以外は上記実施例2と同様にして、比較例1の音響用木質材料を製造した。
(比較例2)
竹繊維の繊維長さ方向をランダムな方向に揃えた以外は上記実施例2と同様にして、比較例2の音響用木質材料を製造した。
(比較例3)
未硬化の熱硬化性樹脂として液状のメラミン樹脂を用い、加熱圧縮成形時の温度を130℃、面圧力を7MPaとした以外は上記実施例3と同様にして、比較例3の音響用木質材料を製造した。
【0036】
各例の音響用木質材料について、諸特性を表1及び図3に示す。なお、表1中、音速と振動減衰率は次のように求めた。FFT(小野計測器製DS2000)を用い、自由振動法により両端自由撓み振動の1次振動の共振周波数から弾性率を算出し、弾性率と比重(ρ)から音速((E/ρ)1/2))を算出した。また、1次振動の共振ピークのタイムエンベローブから振動減衰率(tanδ)を求めた。音速及び振動減衰率は、音響用木質材料の繊維長さ方向に沿う方向で測定した。測定は全て、22℃、60%RHの室内で行った。また、表1には、参考例としてグラナディラの音速及び振動減衰率を併記した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1及び図3に示すように、実施例1〜3では、繊維長方向に沿って4000〜4800m/sの高い音速と、5×10-3〜7×10-3程度の低い振動減衰率を示すことがわかる。特に、実施例1及び2は、天然のグラナディラ材の音速及び振動減衰率に近い値を示しており、天然木材とほぼ同等の音質を有していることがわかる。
実施例1〜3の音響用木質材料を切削加工してクラリネットを作成したところ、良好な音色が得られた。
【0039】
一方、比較例1〜3では、音速が実施例1〜3より低く、また、減衰振動率も実施例1〜3に比べて増大していることがわかる。これは、比較例1では竹繊維の繊維長さが短く、比較例2では竹繊維の繊維長さ方向が不揃いであり、比較例3では樹脂がエポキシ樹脂でなくメラミン樹脂であったためと推定される。
比較例1〜3の音響用木質材料を切削加工してクラリネットを作成したところ、実施例1〜3に比べて音色が劣っていた。
【符号の説明】
【0040】
1、11…音響用木質材料、2…木質繊維(木質材)、3…エポキシ樹脂、12…木質単板(木質材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長さが50mm以上の複数の木質材と、エポキシ樹脂とを含み、
前記木質材が木質繊維または木質単板からなり、各木質材の繊維長方向が相互に一方向に揃えられていることを特徴とする音響用木質材料。
【請求項2】
請求項1に記載の音響用木質材料が備えられてなるアコースティック楽器。
【請求項3】
繊維長さが50mm以上の複数の木質材と、含有率が5〜50質量%の範囲の未硬化のエポキシ性樹脂との混合物とを、前記複数の木質材の繊維長方向が一方向に揃うように成形型に投入して加熱圧縮成形する工程を具備してなることを特徴とする音響用木質材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−184420(P2010−184420A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29843(P2009−29843)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】