説明

頭痛を治療するための固形製剤

頭蓋骨管内に埋め込み、麻酔剤を持続的に放出させ、それにより、片頭痛などの神経血管症状を治療するための、回収可能で徐放性の固形製剤を提供する。該製剤は、ポリマー担体中に含まれる麻酔剤と、回収メンバーとを含み、麻酔剤は担体から徐々に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳神経血管症状、特に頭痛を軽減させるための麻酔成分を添加した、埋め込み可能で回収可能なポリマー製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
翼口蓋神経節(sphenopalatine ganglion;SPG)は、血管拡張、血管収縮、炎症、及び疼痛を含む、頭蓋内の多くのプロセスに関与している。翼口蓋神経節(SPG)遮断は、片頭痛又は群発頭痛を患う患者の一部で効果的であることが報告されている。こうした技術の最初の参考文献は、1917年に出された(例えば、非特許文献1を参照されたい)。様々な外科手術法が現在利用可能であり、その中でも最も普及しているものは経皮SPG高周波神経根切断術であって、術後に疼痛を軽減させることが報告されている。また、ガンマナイフによる三叉神経の放射線手術及び内視鏡による神経節遮断も同じ目的で用いられている。麻酔剤の局所適用によって急性疼痛発作を制御することができるにもかかわらず、反復的なSPG遮断は神経学の業界において一般に受け入れられていない。SPGの薬理学的遮断は、リドカインなどの神経遮断剤の、経鼻、経口、経口蓋、及び外側の投与法に基づいている(非特許文献1〜3)。例えば、局所麻酔剤の経鼻適用は、単純で一般的な技術であるが(非特許文献7)、神経節への局所麻酔剤の拡散は調節が困難であり、こうした遮断は持続性がない。鼻孔から鼻咽頭までの中鼻甲介と下鼻甲介との間の鼻粘膜に局所麻酔し、同じ領域に針を挿入することにより、より長い期間の軽減がもたらされた。
【0003】
このように、リドカイン又はコカインなどの局所麻酔剤及び薬理学的作用剤の経鼻投与は、急性疼痛の軽減及び疼痛の長期制御の双方に効果的であることが見出されたが、これらの作用剤の経鼻送達中に用量を調節することは極めて困難であると同時に、臨床反応が予測不可能である。更に、経鼻製剤には、重大な副作用を有するものや、十分に吸収されず、そのため一貫して作用しないものもあり、それ以外のものは送達手段が複雑なために困難である。
【0004】
頭痛は極めて一般的な症状であり、患者に莫大な苦痛を与え、能力障害を伴うことも多く、片頭痛は、米国内だけで2400万人を苦しめている(非特許文献6)。この問題を解決することは困難であり、失敗に終わることが多い。片頭痛患者の約3分の1は、現在利用可能な治療に反応性を示さないか、又はその副作用に耐えることができない。利用可能な治療を受けることのできる人々の多くは、錯乱及び眠気などの副作用による障害を負っている。最終的に局所麻酔剤を使用することは有用であり得るが、既存の送達手段には前述のような欠点があるため、改良された送達系の必要性が差し迫って感じられる。したがって、本発明の目的は、治療剤の長期送達のための効率的なシステムを提供し、現在の技術的、臨床的な未だ応じられていない前記の必要性に対処することである。
【0005】
大口蓋管経由で効率的な神経遮断麻酔を達成でき、全身麻酔剤なしで歯や口の手術が可能になっていることが示されている(非特許文献3〜5)。したがって、本発明の別の目的は、口蓋管経由及び特に大口蓋管経由で前記作用剤を放出させることを含む、治療剤の長期送達のための効率的な方法を提供することである。
【0006】
本発明の更に別の目的は、翼口蓋神経節(SPG)の近くに、SPGを部分的又は完全に遮断できる医薬成分を確実に長期作用性に放出させる固形製剤(solid dosage form)を配置することを含む、脳神経血管障害を治療する方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、SPGなどの鼻背神経構造(dorsonasal nerve structure)の近くで医薬成分を確実に長期作用性に放出させる固形製剤を提供することである。
【0008】
本発明の更に別の目的は、頭蓋内疼痛の重症度及び発生率を低減させることのできる医薬成分を確実に長期作用性に放出させる固形製剤を提供することである。
【0009】
また、本発明の更なる目的は、片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛などの頭痛を軽減又は治癒させる際に使用する固形製剤を提供することでもある。
【0010】
本発明の他の目的及び利点は、説明が進行するにつれて明らかとなるであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Maxillary Nerve Block: The Pterygopalitine Canal Approach; Hawkins J.M. and Isen D.; Copyright 1998 Journal of the California Dental Association,URL:www.cda.org/library/cda_member/pubs/journal/jour998/maxilla.html
【非特許文献2】Laser-Doppler Blood Flowmetry Measurement of Nasal Mucosa Blood Flow after Injection of the Greater Palatine Canal; Gurr P, Callanan V, and Baldwin D.; J. Laryngol. Otol. 110(2), 1996, 124-8
【非特許文献3】Maxillary Nerve Block: A New Approach Using a Computer-Controlled Anesthetic Delivery System for Maxillary Sinus Elevation Procedure, a Prospective Study; Schwartz-Arad D, Dolev E, Williams W.; Quintessence Int. 35(6), 2004, 477-80
【非特許文献4】Maxilliary Nerve Block Anaesthesia via the Greater Palatine Canal: A Modified Technique and Case Reports; Wong J.D. and Sved A.M.; Aust. Dent. J. 36(1), 1991, 15-21
【非特許文献5】Maxilliary Nerve Block via the Greater Palatine Canal: New Look at an Old Technique; LepereA.J.; Anesth. Pain Control Dent. 2(4), 1993, 195-7
【非特許文献6】The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 17th Ed., Merck & Co. Inc. 1999
【非特許文献7】US Patent No. 5,855,907, Peyman, 1999
【発明の概要】
【0012】
本発明は、口蓋管などの細長い骨管内に埋め込むための回収可能な長期作用性の固形製剤であって、i)薬学的に許容できるポリマーを含む担体メンバーであって、該担体メンバーは細長い構造支持体と任意選択で前記担体メンバーの外表面を形成するフィルムとを具備し、該支持体は遠位端及び近位端を備える、担体メンバーと、ii)前記担体メンバーに含まれる局所麻酔剤と、iii)前記近位端の近くに配置され、前記担体メンバーに連結される回収メンバーとを含み、前記局所麻酔剤の初期量の約90%未満が、基準的な生理的条件下で30日間以内に前記担体メンバーから放出される製剤を提供する。前記担体メンバーは、例えばデンプン、ゼラチン、デキストラン、デキストリン、アルギネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ(L−乳酸)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリリン酸エステル、ポリ(ヒドロキシ−ブチレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(アミノ酸)、キトサン、コラーゲン及びセルロース、ポリエチレンカーボネート、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、生分解性ポリマーを含むことができる。前記担体は、例えばポリカーボネート系脂肪族ポリウレタン、シロキサン系芳香族ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン及び他のシリコーンゴム、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニル芳香族化合物、ポリビニルエステル、ポリアミド、ポリイミド、並びにポリエーテルからなる群から選択される、生体安定性ポリマーを含むことができる。前記麻酔剤は、リドカイン、サリチル酸リドカイン一水和物、コカイン、プロカイン、及び2−クロロプロカイン、アムブカイン、アミロカイン、ベトキシカイン、ブピバカイン、レボ−ブピバカイン、ブタカイン、ブタニリシカイン、ブトキシカイン、カルチカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメトカイン、レボ−エチドカイン、エチドカイン、デキストロ−エチドカイン、ベータ−ユーカイン、フォモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシプロカイン、ヒドロキシテトラカイン、ロイシノカインメシレート、レボ−メピバカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、ミルテカイン、オクタカイン、オルトカイン、パレトキシカイン、フェナカイン、ピペロカイン、ピリドカイン、プリロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、リソカイン、ロピバカイン、レボ−ロピバカイン、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、並びに薬学的に許容できるこれらの塩からなる群から選択することができる。本発明の好ましい一実施形態では、前記細長い構造支持体は、前記局所麻酔剤を前記遠位端の近くで選択的に拡散させることのできるように構成される。前記回収メンバーは、前記製剤を一体で、製剤の埋め込み後の任意の時期に、遠位から近位の方向に移動させることのできるように構成されることが好ましい。好ましい一実施形態では、前記担体メンバーは、麻酔剤を含む繊維基質を含む。前記細長い構造支持体は、約5〜15mmの長さを有することができ、約0.2mm〜約2mmの断面積を有することができる。前記細長い構造支持体は中心骨格を具備することができ、前記骨格は1本又は複数の縦軸と縦軸から出ている複数の側部突起とを備える。ここで、前記側部突起は、前記支持体の前記遠位端と前記近位端との間に分布していてもよく、前記担体メンバーにおいて前記支持体と前記フィルムとを空間的に統合しやすくするように構成されることが好ましいであろう。前記担体メンバー又はその一部は、前記麻酔剤と一緒に溶液からエレクトロスピニングすることもできる。前記担体メンバーは、前記麻酔剤をポリマー繊維の表面又は中に結合した繊維基質を含んでいてもよい。前記フィルムは、前記細長い構造支持体の外表面を形成するのに対して、前記担体メンバー及び前記麻酔剤は、前記遠位端、前記近位端、及び前記外表面によって画定される容積内に実質的に含まれる。前記フィルムは、薬学的に許容できるポリマーを含む。該フィルムは、PTFEを含んでいてもよい。一実施形態では、前記遠位端の近くにおける前記フィルムを通した前記麻酔剤の拡散は、前記近位端の近くよりも少なくとも10倍多い。前記外表面は、該製剤を骨管内に配置した後に、該外表面の周囲で成長している線維組織が該外表面に付着するのを最小限に抑えるように構成されることが好ましい。
【0013】
本発明は、患者の脳神経血管障害を抑制する方法を対象とし、該方法は、上記のような固形製剤を前記患者の鼻背神経構造に隣接する口蓋管内に配置するステップを含み、それによって1カ月間を超える期間で前記鼻背神経構造を麻酔して前記脳神経血管障害を抑制する。前記脳神経血管障害は、耳鳴、痙攣、虚血性事象、及び頭痛からなる群から選択することができる。前記頭痛は、片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛からなる群から選択することができる。本発明の方法は、急性片頭痛エピソードを治療するために特に有用である。前記口蓋管は、大口蓋管であることが好ましい。前記鼻背神経構造は、翼口蓋神経節(SPG)を含むことが好ましい。本発明による好ましい方法では、前記固形製剤を患者の翼口蓋窩内に配置し、それによって前記障害を1カ月間を超える期間で抑制する。ここで、該障害の前記抑制は、障害を治癒させること又は症状を軽減させることのいずれかを含んでいてもよく、症状を予防すること(片頭痛の完全な発症を予防することが好ましい)を含んでいてもよい。口蓋管内への固形製剤の前記配置は、注射、又は他の既知の最小侵襲性の導入技術を含んでいてもよい。
【0014】
本発明は、骨管、詳細には口蓋管、好ましくは大口蓋管経由で挿入して、患者の脳神経血管障害を1カ月間を超える期間で抑制する際に使用する、回収可能な、長期作用性の固形製剤であって、i)細長い構造支持体と任意選択で担体メンバーの外表面を形成するフィルムとを具備し、該支持体が遠位端及び近位端を備える、担体メンバーと、ii)前記担体メンバーに含まれる局所麻酔剤と、iii)前記近位端の近くに配置され、前記担体メンバーに連結される回収メンバーとを含み、前記局所麻酔剤の初期量の約90%未満が、基準の生理的条件下で30日間以内に前記担体メンバーから放出される製剤を提供する。前記障害は、耳鳴、痙攣、虚血性事象、及び頭痛からなる群から選択することができる。前記頭痛は、片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛からなる群から選択することができる。前記頭痛は、詳細には、急性片頭痛エピソードを含む。
【0015】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、以下の実施例を通して、また以下の添付の図面を参照することによって、より容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】大口蓋管などの頭蓋管内に埋め込むための本発明の回収可能な固形製剤(10)の実施形態を図式的に示す図である。回収メンバー(3)を備えた円筒形の担体メンバーを示している。外表面の内側にある、構造支持体の遠位端(1)及び近位端(2)の位置を略図で示している。円筒の大きさは、通常、長さ約5〜15mm、直径0.5〜1.5mmである。
【図2】本発明の回収可能な固形製剤の実施形態を図式的に示す図である。回収メンバー(3)を備えた円筒形の担体メンバーを示している。遠位端(1)及び近位端(2)の位置を略図で示している。構造支持体(4)を外表面の内側に図式的に示している。
【図3】本発明の回収可能な固形製剤の実施形態を図式的に示す図である。回収メンバー(3)を備えたほぼ円筒形の担体を示している。更に、1本の縦軸と5個の側部突起とを備える構造支持体の中心骨格(4)を外表面フィルムの内側に図式的に示している。前記支持体は、麻酔剤と共に、前記遠位端、前記近位端、及び前記円筒表面によって画定される容積内に実質的に含まれる。
【図4】本発明の回収可能な固形製剤の実施形態を図式的に示す図である。回収メンバー(3)を備えた円筒形の担体メンバーを示している。遠位端(1)及び近位端(2)の位置を略図で示している。ポリマーフィルムでできている外表面を示している(6)。フィルムにある複数の穿孔によって実現されるであろう、前記麻酔剤の拡散が促進される領域を、前記遠位端の近くに示している(5)。
【図5】ヒト頭部の傍矢状断面を図式的に示す図であり、翼口蓋神経節(11)の部位と、点線で囲まれている、後側部に配置された回収可能な固形製剤(10)とを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
頭痛及び他の脳神経血管障害を治療するために、細長い頭蓋骨管内に挿入するように成形された回収可能な固形製剤がここで提供される。驚くほど効果的な設計は、大口蓋管などの骨管に挿入するように成形された細長い担体と、隣接する鼻背神経構造に局所的に作用するゆっくりと放出される麻酔剤とを含み、作用は何カ月以上も継続させることができ、又は医療状況により前記製剤を除去することによって作用を中断させることもできる。
【0018】
ヒト患者の脳神経血管障害を抑制するシステムが提供され、該システムは、患者の鼻背神経構造に隣接する口蓋管内に配置される回収可能な固形製剤を含み、前記固形製剤は、(i)薬学的に許容できるポリマー、(ii)長期作用性の薬剤、(iii)細長い構造支持体メンバー、及び(iv)回収メンバーを含み、前記固形製剤は、1カ月間を超える期間で、おそらく約3〜6カ月間、前記鼻背神経構造を麻酔して前記脳神経血管障害を抑制することができる。当然、合併症が生じる可能性のある場合、又は重度の有害な副作用が現れた場合には、製剤を容易に回収することができる。前記薬剤は、麻酔剤であることが好ましい。しかし、神経における伝達を減少させる機能を有する可能性があり、したがって本発明の固形製剤に有用であろう有効な医薬要素は他にもある。本発明の重要な態様では、製剤の目的はSPGの活性化頻度を低下させることであり、これは麻酔剤を含む様々な薬剤で達成することができる。
【0019】
前記脳障害は、虚血性事象、耳鳴、脳血管攣縮、又は痙攣を含み得る。急性虚血性事象の間又は後に現れる症状を含むことができる。本発明の好ましい一実施形態では、頭痛を治療する際に、回収可能な該製剤及び該製剤を使用する方法だけでなく、脳障害を抑制するシステムも用いる。該治療は、頭痛を治癒させること又は症状を軽減させることを含むことができ、本発明の他の態様では、治療は、前駆症状の出現の上で、回収可能な該製剤を前記頭蓋管内に配置することによって頭痛を予防することを含むことができる。治療は、好ましくは該症状を抑制するか、又は発作の頻度若しくは重症度を低下させるであろう。頭痛は、片頭痛、群発頭痛、又は血管疾患に関連した頭痛を含むことができる。本システムによって治療される症状は、急性脳神経血管障害を含んでいてもよく、耳鳴エピソード、個々の痙攣、脳血管攣縮のエピソード、急性片頭痛エピソード、群発頭痛に関連した個々の頭痛エピソード、及び血管疾患に関連した個々の頭痛を含むであろう。該システムは、急性片頭痛エピソード中に特に役立つであろう。詳細には、前記管は大口蓋管であり、前記鼻背神経構造は翼口蓋神経節(SPG)である。本システムによって影響を受ける鼻背神経構造は、SPG又はSPGに直接結合している神経組織である。脳神経血管障害という用語は、本明細書中では、脳血管系又は脳神経系に関連した病的状態に用いる。鼻背神経構造という用語には、SPG及びSPGの近くの神経組織が含まれる。
【0020】
一態様では、本発明は、ヒト患者の脳神経血管障害を抑制する方法を提供し、該方法は、(i)薬学的に許容できるポリマーと、(ii)長期作用性の局所麻酔剤と、(iii)細長い構造支持体メンバーと、(iv)回収メンバーとを含む固形製剤であって、それによって1カ月間を超える期間で前記鼻背神経構造を麻酔して前記脳神経血管障害を抑制することができる固形製剤を、患者の鼻背神経構造に隣接する翼口蓋窩内又はその近くに配置することを含む。前記障害は、耳鳴、脳血管攣縮、痙攣、神経血管性頭痛、及び急性虚血性事象の間又は後に現れる症状からなる群から選択される。好ましい一実施形態では、本発明による方法は、片頭痛の治療を可能にする。耳鳴エピソード、個々の痙攣、脳血管攣縮のエピソード、急性片頭痛エピソード、群発頭痛に関連した個々の頭痛エピソード、及び血管疾患に関連した個々の頭痛からなる群から選択される、急性脳神経血管障害を治療することもできる。本発明の方法は、患者において脳神経血管障害の前駆症状が発症した後に用いることもできる。
【0021】
前記鼻背神経構造は、翼口蓋神経節であることが好ましい。前記鼻背神経構造は、前記患者の翼口蓋神経節に直接結合している神経組織であってもよい。本発明の製剤は、解剖学的に成形されるか、又は骨管、詳細には頭蓋骨管、より詳細には口蓋骨管を経由して挿入できるような形状をとっていてもよい。本発明の文脈中で、口蓋管という用語は、他に明記がなければ、大口蓋管、若しくは小口蓋管のいずれか、又はこれらの上方に広がる、蝶口蓋窩(又は翼口蓋窩)(pterygopalatine (or sphenoparatine) fossa))としても知られている部分のことをいう。
【0022】
本発明によるシステムにおいて使用する前記薬剤は、リドカイン、サリチル酸リドカイン一水和物、コカイン、プロカイン、2−クロロプロカイン、アムブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、レボ−ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリシカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、コカエチレン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、アミノ安息香酸エチル、レボ−エチドカイン、エチドカイン、デキストロ−エチドカイン、ベータ−ユーカイン、ユープロシン、フェナルコミン、フォモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシプロカイン、ヒドロキシテトラカイン、p−アミノ安息香酸イソブチル、ロイシノカインメシレート、レボキサドロール、メペリジン、レボ−メピバカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、ミルテカイン、ネパイン、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレトキシカイン、フェナカイン、ピペコロキシリジド、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、サメリジン、プリロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、キニーネ尿素、リソカイン、ロピバカイン、レボ−ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ベラトリジン、ゾラミン、アデノシン、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸、及び薬学的に許容できるこれらの塩、又は神経シグナル伝達に対して抑制的な作用を有する他の薬剤から選択することができる。
【0023】
一実施形態では、本発明による固形製剤は、前記製剤を一体で、製剤の埋め込み後約1〜365日の間の任意の時期に、通常の生理的条件下で、遠位から近位の方向に移動させることのできる回収メンバーを備えて提供されてもよい。
【0024】
他の実施形態では、該固形製剤は、三叉神経痛、片頭痛、群発頭痛、若しくは非定型顔面痛の治療用の、ステロイド、フェノール又はSPGに対する他の薬理学的作用剤を含んでいてもよい。該製剤は、SPG管内に埋め込まれる生分解性の棒状基質中に製剤化される薬理学的作用剤を含み、薬理学的成分を、局所的に、長期間、制御式に放出する。
【0025】
本発明の一実施形態では、固形製剤は、繊維基質の形態を有するであろう、薬学的に許容できるポリマーを含んで提供される。含まれる繊維は、約50nm〜5000nmの範囲内の直径を有することができる。局所的に作用する麻酔剤は、この繊維基質に結合される。一実施形態では、繊維に麻酔剤を浸透させる。担体メンバー又は構造支持体を形成するポリマーを、麻酔剤の溶液又は懸濁液に浸し、乾燥させてもよい。ポリマーと麻酔剤とを一緒に溶液からエレクトロスピニングすることもできる。麻酔剤を添加した安定な形態の担体メンバーを調製するために、当分野で知られているいかなる方法を用いてもよい。50nm〜5000nmの範囲内の直径を有するポリマー外被は、担体メンバーを覆って前記薬剤が基質外に拡散するのを制限する。
【0026】
該製剤の長さは、5mm〜15mmの範囲内であることが好ましく、他の2つの大きさは、0.5mm〜1.5mmの範囲内である。担体メンバーは、例えば、長さ5〜15mm、直径0.5〜1.5mmの円筒に近い形状を有していてもよく、麻酔剤を浸透させた繊維基質が基本的に充填され、骨管内への麻酔剤の拡散速度を決定する50〜5000nmのメンブレンによって覆われる。該基質は絡み合った繊維によって形成される。該製剤は、例えば0.5〜5mgのリドカインを含んでいてもよい。
【0027】
可能性のある本発明の一実施形態では、製剤は、繊維基質の形状を有するであろう。この場合、麻酔剤又は他の薬剤は、ポリマー繊維中に溶解されていてもよく、又はマイクロ粒子若しくはナノ粒子の形態でポリマー繊維間に若しくは繊維自体の中に封入されていてもよい。本発明の一実施形態では、固形製剤は、リドカインなどの薬剤をPLGAなどの担体ポリマーと混合しながら、双方をDMSOなどの有機溶剤に溶解させることによって調製する。次いで、溶解したポリマー及び薬剤を、機械的安定性を製剤に与える構造支持体を予め入れた型に注入する。
【0028】
一実施形態では、担体ポリマーは生分解性であり、構造支持体及び回収メンバーはいずれも生体安定性である。最終的に該製剤に添加し、製剤の外表面を覆う、ポリマーフィルムは、更に、i)該製剤を注射若しくは挿入する際、又は回収しようとする際の摩擦を減少させ、ii)例えば全体の拡散速度を低下させることにより、又は前記遠位端の近くでの拡散速度を選択的に変えることにより、薬剤放出に影響を及ぼせるようにし、iii)該製剤の安定性を高めることができ、このことは該製剤を回収する際にも役立つ。ポリマーフィルム、例えばePTFEは、製剤内への結合組織の成長のレベルを更に低下させるであろう。
【0029】
本文中の近位及び遠位という用語は製剤の配向性に関するものであり、該製剤を埋め込む医師は、遠位部分は最初に骨管内に入り、SPGの近くに配置される一方、近位端は口腔の(硬)口蓋により近いことを理解するであろう。
【0030】
このように、本発明は、局所麻酔剤を利用するが既存の治療方法の欠点を克服している、脳神経血管症状、特に頭痛を治療する製剤及び方法を対象とする。治療剤の長期送達のための効率的なシステムを提供し、現在の技術的、臨床的な未だ応じられていない必要性に対処している。一態様では、治療剤を大口蓋管内に放出させることを含む、治療剤の長期送達のための効率的な方法を提供する。本発明の他の態様では、局所麻酔剤を確実に長期作用性に放出させる固形製剤をSPGの近くに配置することを含む、脳神経血管障害を治療する方法を提供する。該方法は、頭痛を治療する際に特に有用である。また、本発明は、片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛などの頭痛を軽減又は治癒させる際に使用する固形製剤も提供する。
【0031】
以下の実施例により、本発明を更に説明及び例示する。
【実施例】
【0032】
塩酸リドカイン粉末を、ベーリンガーインゲルハイム(Bohringer Ingelheim)社から購入したレゾマー(RESOMER)(登録商標)RG858S[ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド、PLGA](CAS番号26780−50−7、物質番号63292)と重量比1:1で混合して、双方をDMSOに溶解し、平台上に置いてDMSOを完全に蒸発させた。その後、DMSO残留分を更に除去するために、この調合剤を穏やかな真空チャンバー内に入れた。次いで、長方形のリドカインHCl/PLGA固体製剤の形状に切断した。
【0033】
幾つかの特定の実施例を用いて本発明を説明してきたが、多くの変更形態及び変形形態が可能である。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外、いかなる形であれ本発明を限定することを意図したものではないということが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)薬学的に許容できるポリマーを含む担体メンバーであって、前記担体メンバーは細長い構造支持体と任意選択で前記担体メンバーの外表面を形成するフィルムとを具備し、該支持体は遠位端及び近位端を備える、担体メンバーと、
ii)前記担体メンバーに含まれる局所麻酔剤と、
iii)前記近位端の近くに配置され、前記担体メンバーに連結される回収メンバーと
を含み、
前記局所麻酔剤の初期量の約90%未満が、通常の生理的条件下で30日間以内に前記担体メンバーから放出される、
口蓋管内に埋め込むための回収可能な長期作用性の固形製剤。
【請求項2】
前記担体メンバーが生分解性ポリマーを含む、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーが、デンプン、ゼラチン、デキストラン、デキストリン、アルギネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ(L−乳酸)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリリン酸エステル、ポリ(ヒドロキシ−ブチレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(アミノ酸)、キトサン、コラーゲン及びセルロース、ポリエチレンカーボネート、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の固形製剤。
【請求項4】
前記担体メンバーが生体安定性ポリマーを含む、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項5】
前記生体安定性ポリマーが、ポリカーボネート系脂肪族ポリウレタン、シロキサン系芳香族ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン及び他のシリコーンゴム、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニル芳香族化合物、ポリビニルエステル、ポリアミド、ポリイミド、並びにポリエーテルからなる群から選択される、請求項4に記載の固形製剤。
【請求項6】
前記麻酔剤が、リドカイン、サリチル酸リドカイン一水和物、コカイン、プロカイン、及び2−クロロプロカイン、アムブカイン、アミロカイン、ベトキシカイン、ブピバカイン、レボ−ブピバカイン、ブタカイン、ブタニリシカイン、ブトキシカイン、カルチカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメトカイン、レボ−エチドカイン、エチドカイン、デキストロ−エチドカイン、ベータ−ユーカイン、フォモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシプロカイン、ヒドロキシテトラカイン、ロイシノカインメシレート、レボ−メピバカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、ミルテカイン、オクタカイン、オルトカイン、パレトキシカイン、フェナカイン、ピペロカイン、ピリドカイン、プリロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、リソカイン、ロピバカイン、レボ−ロピバカイン、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、並びに薬学的に許容できるこれらの塩からなる群から選択される、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項7】
前記細長い構造支持体が、前記局所麻酔剤を前記遠位端の近くで選択的に拡散させることのできるように構成される、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項8】
前記回収メンバーが、前記製剤を一体で、製剤の埋め込み後の任意の時期に、遠位から近位の方向に移動させることのできるように構成される、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項9】
前記担体メンバーが繊維ポリマー基質を含み、この基質は前記麻酔剤を含む、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項10】
前記細長い構造支持体が約5mm〜15mmの長さを有する、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項11】
前記細長い構造支持体が約0.2mm〜2mmの断面積を有する、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項12】
前記細長い構造支持体が中心骨格を具備し、前記骨格が1本又は複数の縦軸と縦軸から出ている複数の側部突起とを備え、前記側部突起が前記支持体の前記遠位端と前記近位端との間に分布しており、前記担体メンバーにおいて前記支持体と前記フィルムとを空間的に統合しやすくするように構成される、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項13】
前記担体メンバー又はその一部と前記麻酔剤とが一緒に溶液からエレクトロスピニングされる、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項14】
前記フィルムが前記細長い構造支持体の外表面を形成し、前記担体メンバー及び前記麻酔剤が前記遠位端、前記近位端、及び前記外表面によって画定される容積内に実質的に含まれる、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項15】
前記フィルムが薬学的に許容できるポリマーを含む、請求項1に記載の固形製剤。
【請求項16】
前記ポリマーフィルムがPTFEを含む、請求項15に記載の固形製剤。
【請求項17】
前記遠位端の近くにおける前記フィルムを通した前記麻酔剤の拡散が、前記近位端の近くよりも少なくとも10倍多い、請求項15に記載の固形製剤。
【請求項18】
前記外表面が、線維性の体組織が該外表面に付着するのを最小限に抑えるように構成される、請求項15に記載の固形製剤。
【請求項19】
患者の脳神経血管障害を抑制する方法であって、請求項1に記載の固形製剤を前記患者の鼻背神経構造に隣接する口蓋管内に配置するステップを含み、それによって1カ月間を超える期間で前記鼻背神経構造を麻酔して前記脳神経血管障害を抑制する前記方法。
【請求項20】
前記脳神経血管障害が耳鳴、痙攣、虚血性事象、及び頭痛からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記頭痛が片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記頭痛が急性片頭痛エピソードを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記口蓋管が大口蓋管である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記鼻背神経構造が翼口蓋神経節(SPG)を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記固形製剤を前記患者の大口蓋管内若しくは小口蓋管内又は翼口蓋窩内に配置するステップを含み、それによって前記障害を1カ月間を超える期間で抑制し、前記障害を抑制することが片頭痛を治癒、軽減、又は予防することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記配置するステップが注射することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
大口蓋管経由で挿入して、患者の脳神経血管障害を1カ月間を超える期間で抑制する際に使用する、請求項1に記載の回収可能な固形製剤。
【請求項28】
前記障害が耳鳴、痙攣、虚血性事象、及び頭痛からなる群から選択される、請求項27に記載の前記障害を抑制する際に使用する製剤。
【請求項29】
前記頭痛が片頭痛、群発頭痛、及び緊張性頭痛からなる群から選択される、請求項28に記載の前記障害を抑制する際に使用する製剤。
【請求項30】
前記頭痛が急性片頭痛エピソードを含む、請求項28に記載の前記障害を抑制する際に使用する製剤。
【請求項31】
前記頭痛が群発頭痛を含む、請求項28に記載の前記障害を抑制する際に使用する製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−515388(P2011−515388A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500348(P2011−500348)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000314
【国際公開番号】WO2009/116047
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510251523)ペインドュアー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】