説明

頭部伝達関数生成装置、頭部伝達関数生成方法及び音声信号処理装置

【課題】簡易な構成により所望の仮想音像定位感を精度良く得られるようにする。
【解決手段】テレビジョン装置50は、左右のスピーカSPL及びSPRにより7.1チャンネルの音声信号を再生するのに先立ち、音声信号処理部60の2重正規化処理部61により2重正規化処理を行う際、抑制正規化処理回路30の抑制処理部31により各正規化頭部伝達関数の周波数特性におけるゲインを抑制した上で、想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数で正規化することにより、特性の暴れを抑えた2重正規化頭部伝達関数を生成することができ、音声信号処理部60の畳込処理部63で2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む際、タップ数の少ないフィルタ回路を用いて適切な畳込処理を行うことができ、音質を劣化させることなく、リスナに良好な音像定位を与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は頭部伝達関数生成装置、頭部伝達関数生成方法及び音声信号処理装置に関し、例えば搭載するスピーカにより再生する音声の音像位置を調整するテレビジョン装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビジョン装置や当該テレビジョン装置に接続するアンプ装置等においては、仮想音像定位と呼ばれる技術を利用して、再生する音声の音源を所望の位置に仮想的に定位させるものが提案されている。
【0003】
この仮想音像定位は、例えばテレビジョン装置に配置される左右のスピーカ等で音声を再生したときに、予め想定された位置に音像を仮想的に定位させるものであり、具体的には次のような手法により実現される。
【0004】
例えば左右2チャンネルステレオ信号を、テレビジョン装置に配置される左右のスピーカで再生する場合を想定する。
【0005】
図1に示すように、まず所定の測定環境において頭部伝達関数を測定する。具体的には、視聴者(リスナ)の両耳の近傍の位置(測定点位置)に、マイクロホンMLおよびMRを設置する。また、仮想音像定位させたい位置にスピーカSPLおよびSPRを配置する。ここで、スピーカは、電気音響変換部の一例であり、マイクロホンは、音響電気変換部の一例である。
【0006】
そして、ダミーヘッドDH(または人間つまりリスナ自体でも良い)が存在する状態で、まず、一方のチャンネル、例えば左チャンネルのスピーカSPLで、例えばインパルスを音響再生する。そして、その音響再生により発せられたインパルスを上記マイクロホンML及びMRのそれぞれで収音して、左チャンネル用の頭部伝達関数を測定する。この例の場合、頭部伝達関数は、インパルスレスポンスとして測定する。
【0007】
このとき、左チャンネル用の頭部伝達関数としてのインパルスレスポンスには、図1に示すように、スピーカSPLからの音波をマイクロホンMLで収音したインパルスレスポンス(以下、左主成分のインパルスレスポンスという)HLdと、スピーカSPLからの音波をマイクロホンMRで収音したインパルスレスポンス(以下、左クロストーク成分のインパルスレスポンスという)HLcとを含む。
【0008】
次に、右チャネルのスピーカSPRで同様にインパルスを音響再生し、その音響再生により発せられたインパルスを上記マイクロホンMLおよびMRのそれぞれで収音する。そして、右チャンネル用の頭部伝達関数、つまり、右チャンネル用のインパルスレスポンスを測定する。
【0009】
このとき、右チャンネル用の頭部伝達関数としてのインパルスレスポンスには、スピーカSPRからの音波をマイクロホンMRで収音したインパルスレスポンス(以下、右主成分のインパルスレスポンスという)HRdと、スピーカSPRからの音波をマイクロホンMLで収音したインパルスレスポンス(以下、右クロストーク成分のインパルスレスポンスという)HRcとを含む。
【0010】
そしてテレビジョン装置は、左右のスピーカのそれぞれに供給する音声信号に音声信号処理を施すことにより、左チャンネル用の頭部伝達関数及び右チャネル用の頭部伝達関数それぞれのインパルスレスポンスをそのまま畳み込む。
【0011】
すなわちテレビジョン装置は、左チャンネルの音声信号に対し、測定により得た左チャンネル用の頭部伝達関数、すなわち左主成分のインパルスレスポンスHLd及び左クロストーク成分のインパルスレスポンスHLcをそのまま畳み込む。
【0012】
またテレビジョン装置は、右チャンネルの音声信号に対し、測定により得た右チャンネル用の頭部伝達関数、すなわち右主成分のインパルスレスポンスHRd及び右クロストーク成分のインパルスレスポンスHRcをそのまま畳み込む。
【0013】
これによりテレビジョン装置は、左右のスピーカで音響再生するにもかかわらず、例えば左右2チャンネルステレオ音声の場合であれば、あたかもリスナの前方の所望の位置に設置された左右のスピーカで音響再生されているように音像定位(仮想音像定位)させることができる。
【0014】
このように仮想音像定位においては、所定の位置のスピーカから出力された音波を所定の位置のマイクロホンで収音する場合の頭部伝達関数を予め測定しておき、当該頭部伝達関数を音声信号に畳み込むようになされている。
【0015】
ところで頭部伝達関数を測定する場合には、スピーカやマイクロホン自体の音響特性が当該頭部伝達関数に影響を与えてしまう。このためテレビジョン装置は、このような頭部伝達関数を用いて音声信号に対し音声信号処理を施したとしても、必ずしも所望の位置に音像定位させ得ない可能性があった。
【0016】
そこで、頭部伝達関数測定方法として、ダミーヘッドDH等が存在する状態で得られた頭部伝達関数を、当該ダミーヘッドDH等が存在しない状態で得られた素の状態の伝達特性によって正規化するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0017】
この頭部伝達関数測定方法によれば、スピーカやマイクロホン自体の音響特性を排除することができ、高精度な音像定位を得ることが可能となる。
【0018】
また、頭部伝達関数の測定を行う場所が無響室ではない場合、測定された頭部伝達関数には、想定された音源位置(仮想音像定位位置)からの直接波のみではなく、測定を行った部屋に応じて、床、天井や壁面等による反射波の成分も含まれることになる。
【0019】
この頭部伝達関数を音声信号に畳み込んだ場合、測定を行った部屋と同様の音像定位を得ることはできるものの、任意の部屋に応じた任意の反射波による音像定位を得ることはできなかった。
【0020】
一方、部屋や場所の特性を除去するためには、床、天井、壁面などからの音波の反射のない無響室で頭部伝達関数を測定することが考えられる。しかしながら、無響室で測定した頭部伝達関数をそのまま音声信号に畳み込んだ場合、反射波が存在しないため、仮想音像定位位置や方向性がぼけるという問題があった。
【0021】
そこで、他の頭部伝達関数測定方法として、スピーカからマイクロホンまでの直接波及び間接波をそれぞれ別々に測定してそれぞれの頭部伝達関数を求めておき、直接波及び1以上の間接波を音声信号に畳み込むものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0022】
この頭部伝達関数測定方法によれば、壁や床、天井等による反射波を自在に形成することができるので、望む周囲環境や部屋環境に応じた頭部伝達関数を得ることができ、所望の音像定位を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2009−194682公報(第1図)
【0024】
【特許文献2】特開2009−206691公報(第12図、第29図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ところでテレビジョン装置では、特許文献1及び特許文献2それぞれの測定方法により得られた頭部伝達関数を組み合わせることにより、スピーカやマイクロホン自体の音響特性を排除し、且つ、望む周囲環境や部屋環境に応じた所望の音像定位を得ることができると考えられる。この場合、組み合わせ後の頭部伝達関数は、比較的複雑な特性を表すものになると予想される。
【0026】
一方、頭部伝達関数の畳み込み処理として、所定の演算回路において、所定タップ数のFIR(Finite Impulse Response)フィルタやIIR(Infinite Impulse Response)フィルタ等を用いた演算処理を行うことが考えられる。
【0027】
ここで頭部伝達関数が複雑な特性を表す場合、一定の演算精度を保つためには、一般に、比較的多くのタップ数を必要とすることが知られている。
【0028】
しかしながら、演算精度を維持すべく演算回路のタップ数を増加させた場合、当該演算回路の回路規模を拡大させることになり、装置構成の大型化、複雑化、さらにはコストの上昇等を招いてしまうという問題があった。
【0029】
また、複数の頭部伝達関数を組み合わせたときの畳み込み処理を、単一の頭部伝達関数の畳み込み処理を行う場合と同様の少ないタップ数でなる演算回路により行った場合、その演算精度が低下し、所望の音像定位を得られないおそれがある、という問題があった。
【0030】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成の信号処理装置において所望の仮想音像定位感を精度良く得られる頭部伝達関数を生成し得る頭部伝達関数生成装置及び頭部伝達関数生成方法、並びに簡易な構成により所望の仮想音像定位感を精度良く得られる音声信号処理装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
かかる課題を解決するため本発明の頭部伝達関数生成装置においては、mチャンネル(ただしmは2以上の整数)それぞれについて、所定の現実音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネル(ただしnは2以上の整数)それぞれについて、所定の想定音源方向位置に設置した音源から収音部への直接波の方向に関し、リスナ又はダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理部と、nチャンネルの想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの現実正規化頭部伝達関数により正規化することにより、m箇所の現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所の想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理部とを設けるようにした。
【0032】
本発明の頭部伝達関数生成装置は、抑制処理により現実正規化頭部伝達関数と想定正規化頭部伝達関数との相関性を高めた上で2段目の正規化処理を行うことができるため、生成後の定位頭部伝達関数における周波数特性上の暴れを抑えることができる。これに伴い本発明は、生成後の定位頭部伝達関数を用いる信号処理装置において、少ないタップ数の演算回路でも適切な畳込演算処理を可能とすることができる。
【0033】
また本発明の頭部伝達関数生成方法においては、mチャンネル(ただしmは2以上の整数)それぞれについて、所定の現実音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネル(ただしnは2以上の整数)それぞれについて、所定の想定音源方向位置に設置した音源から収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理ステップと、nチャンネルの想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの現実正規化頭部伝達関数で正規化することにより、m箇所の現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所の想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理ステップとを設けるようにした。
【0034】
本発明の頭部伝達関数生成方法は、抑制処理により現実正規化頭部伝達関数と想定正規化頭部伝達関数との相関性を高めた上で2段目の正規化処理を行うことができるため、周波数特性上の暴れを抑えることができる。これに伴い本発明は、生成された定位頭部伝達関数を用いる信号処理装置において、少ないタップ数の演算回路でも適切な畳込演算処理を可能とすることができる。
【0035】
さらに本発明の音声信号処理装置においては、m箇所(ただしmは2以上の整数)の現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所(ただしnは2以上の整数)の想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための定位頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成部と、定位頭部伝達関数をnチャンネルの音声信号にそれぞれ畳み込む畳込処理部と、畳込処理部からのnチャンネルの音声信号を基に、m個の電気音響変換部に供給するためのmチャンネルの音声信号を生成する供給音声信号生成部とを設け、頭部伝達関数生成部は、mチャンネルそれぞれについて、現実音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネルそれぞれについて、想定音源方向位置に設置した音源から収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、リスナ又はダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理部と、nチャンネルの想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの現実正規化頭部伝達関数により正規化することにより2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理部とを設けるようにした。
【0036】
本発明の音声信号処理装置は、抑制処理により現実正規化頭部伝達関数と想定正規化頭部伝達関数との相関性を高めた上で2段目の正規化処理を行うことができるため、生成後の定位頭部伝達関数における周波数特性上の暴れを抑えることができ、少ないタップ数の演算回路により適切な畳込演算処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、抑制処理により現実正規化頭部伝達関数と想定正規化頭部伝達関数との相関性を高めた上で2段目の正規化処理を行うことができるため、生成後の定位頭部伝達関数における周波数特性上の暴れを抑えることができる。これに伴い本発明は、生成後の定位頭部伝達関数を用いる信号処理装置において、少ないタップ数の演算回路でも適切な畳込演算処理を可能とすることができる。かくして本発明は、簡易な構成の信号処理装置において所望の仮想音像定位感を精度良く得られる頭部伝達関数を生成し得る頭部伝達関数生成装置及び頭部伝達関数生成方法を実現できる。
【0038】
また本発明によれば、抑制処理により現実正規化頭部伝達関数と想定正規化頭部伝達関数との相関性を高めた上で2段目の正規化処理を行うことができるため、生成後の定位頭部伝達関数における周波数特性上の暴れを抑えることができ、少ないタップ数の演算回路により適切な畳込演算処理を行うことができる。かくして本発明は、簡易な構成により所望の仮想音像定位感を精度良く得られる音声信号処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来の頭部伝達関数の測定環境を示す略線図である。
【図2】頭部伝達関数の測定の説明に供する略線図である。
【図3】頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を示す略線図である。
【図4】正規化処理回路の構成を示す略線的ブロック図である。
【図5】測定正規化処理の前後における頭部伝達関数の周波数特性を示す略線図である。
【図6】現実音源方向位置及び想定音源方向位置の説明に供する略線図である。
【図7】定位正規化処理の前後における頭部伝達関数の周波数特性を示す略線図である。
【図8】2重正規化処理後の頭部伝達関数の周波数特性を示す略線図である。
【図9】抑制正規化処理回路の構成を示す略線的ブロック図である。
【図10】7.1チャンネルマルチサラウンドにおけるスピーカ配置例(1)を示す略線図である。
【図11】7.1チャンネルマルチサラウンドにおけるスピーカ配置例(2)を示す略線図である。
【図12】音声信号処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図13】2重正規化処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図14】フロント処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図15】センター処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図16】サイド処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図17】バック処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図18】低域効果処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【図19】第2の実施の形態による2重正規化処理部の構成を示す略線的ブロック図である。
【図20】第2の実施の形態によるフロント処理部の回路構成を示す略線的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本発明の基本原理
2.第1の実施の形態(正規化処理ごとに時間軸データに変換する例)
3.第2の実施の形態(測定装置正規化処理と定位正規化処理との間で周波数軸データを受け渡す例)
4.他の実施の形態
【0041】
<1.本発明の基本原理>
実施の形態に先立ち、ここでは本発明の基本原理について説明する。
【0042】
[1−1.頭部伝達関数の測定]
本発明では、図2(A)及び(B)に示す頭部伝達関数測定システム1により、特定の音源からの反射波成分を除く直接波のみについて、頭部伝達関数を予め測定しておくようになされている。
【0043】
頭部伝達関数測定システム1は、無響室2内にダミーヘッドDH、スピーカSP並びにマイクロホンML及びMRがそれぞれ所定の位置に設置されている。
【0044】
無響室2は、壁面、天井面及び床面において音波を反射させず吸音するようになされている。このため無響室2では、マイクロホンML及びMRによりスピーカSPからの直接波のみを収音することができる。
【0045】
ダミーヘッドDHは、リスナ(すなわち人体)を模した形状に構成されており、当該リスナの聴取位置に設置される。測定用音波を収音する収音部としてのマイクロホンML及びMRは、リスナの耳の耳殻内に相当する測定点位置にそれぞれ設置される。
【0046】
測定用音波を発生する音源としてのスピーカSPは、聴取位置又は測定点位置を基点として、頭部伝達関数を測定しようとする方向の、所定の距離だけ離隔した位置(例えば位置P1)に設置される。以下では、このようにスピーカSPが設置された位置を想定音源方向位置と呼ぶ。
【0047】
音声信号処理部3は、任意の音声信号を生成してスピーカSPへ供給すると共に、マイクロホンML及びMRにおいて収音された音声に基づく音声信号をそれぞれ取得し、所定の信号処理を施し得るようになされている。
【0048】
因みに音声信号処理部3は、例えばサンプリング周波数が96[kHz]でなる8192サンプルのディジタルデータを生成するようになされている。
【0049】
頭部伝達関数測定システム1は、まず図2(A)に示したようにダミーヘッドDHが存在する状態で、頭部伝達関数の測定用音波としてインパルスを音声信号処理部3からスピーカSPへ供給して当該インパルスを再生する。
【0050】
また頭部伝達関数測定システム1は、マイクロホンML及びMRによりそのインパルスレスポンスをそれぞれ収音し、生成した音声信号を音声信号処理部3へ供給する。
【0051】
ここでマイクロホンML及びMRから得られたインパルスレスポンスは、このときのスピーカSPの想定音源方向位置における頭部伝達関数Hを表すものとなり、例えば図3(A)に示すような特性となる。因みに図3(A)は、時間軸データであるインパルスレスポンスを周波数軸データに変換したときの特性を表している。
【0052】
ところで無響室2では、スピーカSPがダミーヘッドDHの右側に設置されている(図2(A))。このため、ダミーヘッドDHの右側に設置されているマイクロホンMRにより得られたインパルスレスポンスは、右主成分のインパルスレスポンスHRd(図1)に相当し、マイクロホンMLにより得られたインパルスレスポンスは、右クロストーク成分のインパルスレスポンスHRc(図1)に相当する。
【0053】
このように頭部伝達関数測定システム1は、まずダミーヘッドDHがある状態で、無響室2において想定音源方向位置における直接波のみの頭部伝達関数Hを測定するようになされている。
【0054】
次に頭部伝達関数測定システム1は、図2(B)に示すように、ダミーヘッドDHを除去した状態で、同様にインパルスを音声信号処理部3からスピーカSPへ供給して当該インパルスを再生する。
【0055】
また頭部伝達関数測定システム1は、同様にマイクロホンML及びMRによりそのインパルスレスポンスをそれぞれ収音し、生成した音声信号を音声信号処理部3へ供給する。
【0056】
ここでマイクロホンML及びMRから得られたインパルスレスポンスは、このときのスピーカSPの想定音源方向位置における、ダミーヘッドDHや障害物等が存在しない素の状態の伝達関数Tを表すものとなり、例えば図3(A)と対応する図3(B)に示すような特性となる。
【0057】
この素の状態の伝達特性Tは、ダミーヘッドDHの影響を排除した、スピーカSP並びにマイクロホンML及びMRによる測定系の特性を表すものとなる。
【0058】
このように頭部伝達関数測定システム1は、ダミーヘッドDHが存在しない状態で、無響室2において想定音源方向位置における直接波のみの素の状態の伝達関数を測定するようになされている。
【0059】
さらに頭部伝達関数測定システム1は、聴取位置を基点として水平方向に10度ごとの角度をなす位置P2、P3、…に測定点位置を設定して、ダミーヘッドDHがある状態の頭部伝達関数及び当該ダミーヘッドDHが存在しない素の状態の伝達特性をそれぞれ測定するようになされている。
【0060】
因みに頭部伝達関数測定システム1では、図1の場合と同様、直接波について、2個のマイクロホンML及びMRそれぞれから、主成分の頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性と、左右のクロストーク成分の頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性とを得ることができる。
【0061】
[1−2.マイクロホン及びスピーカの影響の排除(第1の正規化)]
次に、頭部伝達関数に含まれるマイクロホン及びスピーカの影響の排除について説明する。
【0062】
マイクロホンML及びMR並びにスピーカSPを用いて頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tを測定した場合、当該頭部伝達関数H及び素の状態の伝達関数Tには、上述したように、当該マイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの影響がそれぞれに含まれてしまう。
【0063】
そこで本発明では、特許文献1に記載されている手法と同様、頭部伝達関数Hを素の状態の伝達特性Tで正規化することにより(以下これを測定正規化とも呼ぶ)、マイクロホン及びスピーカの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0064】
因みにここでは、簡略化のため、主成分についてのみ正規化処理の説明をし、クロストーク成分については説明を省略する。
【0065】
図4は、頭部伝達関数の正規化処理を行う正規化処理回路10の構成を示すブロック図である。
【0066】
遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1(図2(A)及び(B))の音声信号処理部3から、想定音源方向位置における直接波のみの素の状態の伝達特性Tを表すデータを取得する。以下では、この素の状態の伝達特性Tを示すデータをXref(m)(ただしm=0,1,2,…,M−1(M=8192))と表記する。
【0067】
また遅延除去頭詰め部12は、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3から、想定音源方向位置における直接波のみの頭部伝達関数Hを表すデータを取得する。以下では、この頭部伝達関数Hを示すデータをX(m)と表記する。
【0068】
遅延除去頭詰め部11及び12は、想定音源方向位置に設置されたスピーカSPからの音波がマイクロホンMRへ到達するまでの時間に相当する遅延時間分だけ、当該スピーカSPにおいてインパルスが再生開始された時点からの頭の部分のデータをそれぞれ除去する。
【0069】
これにより最終的に生成される正規化頭部伝達関数は、インパルスを発生するスピーカSPの位置(すなわち想定音源方向位置)と、インパルスを収音するマイクロホンの位置(すなわち測定点位置)との距離に無関係となる。これを換言すれば、生成される正規化頭部伝達関数は、インパルスを収音する測定点位置から見て、想定音源方向位置の方向のみに応じた頭部伝達関数となる。
【0070】
また遅延除去頭詰め部11及び12は、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)及び頭部伝達関数HのデータX(m)それぞれについて、次段における時間軸データから周波数軸データへの直交変換を踏まえてデータ数を2のべき乗となるよう削減し、FFT(Fast Fourier Transform)部13及び14にそれぞれ供給する。因みにこのときのデータ数はM/2となる。
【0071】
FFT部13及び14は、位相を考慮した複素高速フーリエ変換(複素FFT)処理を行うことにより、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)及び頭部伝達関数HのデータX(m)を時間軸データから周波数軸データにそれぞれ変換する。
【0072】
具体的にFFT部13は、複素FFT処理により、素の状態の伝達特性TのデータXref(m)を実部Rref(m)及び虚部jIref(m)からなるFFTデータ、すなわちRref(m)+jIref(m)に変換し、これを極座標変換部15へ供給する。
【0073】
またFFT部14は、複素FFT処理により、頭部伝達関数のデータX(m)を実部R(m)及び虚部jI(m)からなるFFTデータ、すなわちR(m)+jI(m)に変換し、これを極座標変換部16へ供給する。
【0074】
FFT部13及び14で得られるFFTデータは、周波数特性を表すX−Y座標データとなる。ここで素の状態の伝達特性T及び頭部伝達関数H双方のFFTデータを重ね合わせると、図5(A)に示すように、全般的な傾向としては近似しており相関性が高いものの、相違する部分が散見され、また頭部伝達関数Hのみに特異なピークが現れていることが分かる。
【0075】
因みに両特性の相関が比較的高いのは、頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tそれぞれを測定した状態(すなわち室内の音響特性)が、ダミーヘッドDHの有無のみを相違点とし全体として類似しているからであると考えられる。また、このときのデータ数はM/4となる。
【0076】
極座標変換部15及び16は、これらのFFTデータをX−Y座標データから極座標データにそれぞれ変換する。
【0077】
具体的に極座標変換部15は、素の状態の伝達特性TのFFTデータRref(m)+jIref(m)を大きさ成分である動径γref(m)と、角度成分である偏角θref(m)とに変換する。そして極座標変換部15は、この動径γref(m)及び偏角θref(m)、すなわち極座標データを正規化処理部20へ供給する。
【0078】
また極座標変換部16は、頭部伝達関数HのFFTデータR(m)+jI(m)を動径γ(m)及び偏角θ(m)に変換する。そして極座標変換部16は、この動径γ(m)及び偏角θ(m)、すなわち極座標データを正規化処理部20へ供給する。
【0079】
正規化処理部20は、ダミーヘッドDHが存在する状態で測定された頭部伝達関数Hを、ダミーヘッドDH等の障害物が存在しない素の状態の伝達特性Tにより正規化する。
【0080】
具体的に正規化および正規化処理部20は、次の(1)式及び(2)式に従って正規化処理を行うことにより、正規化処理後の動径γn(m)及び偏角θn(m)をそれぞれ算出し、これらをX−Y座標変換部21へ供給する。
【0081】
【数1】

【0082】
【数2】

【0083】
すなわち正規化処理部20では、大きさ成分について動径γ(m)を動径γref(m)で除算すると共に、角度成分について偏角θ(m)から偏角θref(m)を減算することにより、極座標系のデータについての正規化処理を行うようになされている。
【0084】
X−Y座標変換部21は、正規化処理後における極座標系のデータをX−Y座標系のデータに変換する。
【0085】
具体的にX−Y座標変換部21は、極座標系の動径γn(m)及び偏角θn(m)を、X−Y座標系の実部Rn(m)及び虚部jIn(m)(ただしm=0,1,…,M/4−1)からなる周波数軸データに変換し、逆FFT部22へ供給する。
【0086】
因みに変換後の周波数軸データは、例えば図5(B)に示すような周波数特性となっており、正規化頭部伝達関数HNを表すものとなる。
【0087】
図5(B)からわかるように、正規化頭部伝達関数HNは、正規化前の頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tの双方においてゲインが低かった低域及び高域の部分が持ち上げられたような周波数特性となっている。
【0088】
また他の観点から見れば、正規化頭部伝達関数HNは、おおむね頭部伝達関数Hと素の状態の伝達特性Tとの差分に相当しており、0[dB]を中心として周波数の変化に連れてゲインが正負に変動するような特性となっている。
【0089】
逆FFT(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)部22は、複素逆高速フーリエ変換(複素逆FFT)処理により、X−Y座標系の周波数軸データである正規化頭部伝達関数データを、時間軸の正規化頭部伝達関数データであるインパルスレスポンスXn(m)に変換する。
【0090】
具体的に逆FFT部22は、次の(3)式に従った演算処理を行うことにより、時間軸の正規化頭部伝達関数データであるインパルスレスポンスXn(m)を生成し、これをIR(インパルスレスポンス)簡略化部23へ供給する。
【0091】
【数3】

【0092】
IR簡略化部23は、インパルスレスポンスXn(m)を処理可能な、すなわち後述する畳込処理が可能なインパルス特性のタップ長に簡略化することにより正規化頭部伝達関数HNとする。
【0093】
具体的にIR簡略化部23は、インパルスレスポンスXn(m)を80タップに、すなわちデータ列の先頭から80個のデータでなるインパルスレスポンスXn(m)(m=0,1,…,79)に簡略化し、これを所定の記憶部に記憶させる。
【0094】
この結果、正規化処理回路10は、リスナの聴取位置又は測定点位置を基点としてスピーカSPを所定の想定音源方向位置に設置したとき(図2(A)及び(B))における、当該想定音源方向位置に対する主成分の正規化頭部伝達関数HNを生成することができる。
【0095】
このようにして生成された正規化頭部伝達関数HNは、測定に用いたマイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの特性による影響が除去されたものとなる。
【0096】
このため正規化処理回路10は、例えば頭部伝達関数測定システム1において周波数特性が平坦な、特性の良い高価なマイクロホンやスピーカ等をわざわざ用いることなく、測定に用いたマイクロホンML及びMR並びにスピーカSPの特性の影響を除去することができる。
【0097】
因みに正規化処理回路10は、クロストーク成分についても同様の演算処理を行うことにより、想定音源方向位置に対するクロストーク成分の正規化頭部伝達関数HNを生成し、これを所定の記憶部に記憶させるようになされている。
【0098】
なお正規化処理回路10における各信号処理は、全てDSP(Digital Signal Processor)で行うことができる。この場合において、遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14、極座標変換部15及び16、正規化処理部20、X−Y座標変換部21、逆FFT部22並びにIR簡略部23については、それぞれをDSPで構成しても良く、或いは全体をまとめて1個若しくは複数個のDSPで構成するようにしても良い。
【0099】
このように正規化処理回路10は、頭部伝達関数Hを素の状態の伝達特性Tで正規化することにより(以下これを測定正規化処理と呼ぶ)、マイクロホンML及びMR並びに及びスピーカSPといった測定用の機器による影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0100】
[1−3.仮想音像定位(第2の正規化)]
次に、頭部伝達関数を用いた仮想音像定位について説明する。一般に、頭部伝達関数は、リスナの位置を基準としたときの音源の方向及び位置に応じて相違することが知られている。
【0101】
すなわち、音像を定位させたい所望の位置(以下これを想定音源方向位置PAと呼ぶ)についての頭部伝達関数H(以下これを想定方向頭部伝達関数HAと呼ぶ)を音声信号に畳み込むことにより、当該音声信号に基づいた音声を聴取したリスナに対し、その音像を当該想定音源方向位置PAに定位させることが可能となる。
【0102】
例えば、図6(A)、(B)及び(C)に示すように、リスナの前方にテレビジョン装置50が設置されており、その下方左右にスピーカSPL及びSPRが搭載されているものとする。
【0103】
ここで右側のスピーカSPRに着目すると、当該スピーカSPRは、リスナを基点に表示パネル50Dのほぼ中央の位置(以下これを表示中心50Cと呼ぶ)に対して右方向に15度、下方向に10度の位置に搭載されているものとする。以下、このように現実に音源(スピーカSPL及びSPR等)が配置されている位置を現実音源方向位置PRと呼ぶ。
【0104】
またテレビジョン装置50における右側のスピーカSPRから出力される音声の音像を定位させたい位置(想定音源方向位置PA)としては、リスナを基点に表示中心50Cに対して右方向に30度、上下方向に関しては同等の位置であるものとする。
【0105】
ところで、リスナが音源から出力された音声を実際に聴取するときには、当該リスナの位置を基準とした現実の音源の方向及び位置に応じた音声、すなわち現実音源方向位置PRについての頭部伝達関数H(以下これを現実方向頭部伝達関数HRと呼ぶ)が畳み込まれたような音声を聴取することになる。
【0106】
このため、音声信号に対し想定方向頭部伝達関数HAを単純に畳み込むだけでは、音源が設置されている位置に関する現実方向頭部伝達関数HRの影響も含まれてしまい、所望の位置に適切に音像定位させ得ず、また音質の劣化を招くおそれがある。
【0107】
そこで本発明では、特許文献2に記載されている手法と同様、想定方向頭部伝達関数HAを現実方向頭部伝達関数HRによって正規化することにより(以下これを定位正規化と呼ぶ)、現実音源方向位置PRの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0108】
ここでは、マイクロホン及びスピーカ等の測定用の機器による影響を排除する測定正規化の場合と同様、正規化処理回路10(図4)により正規化処理を行う場合について検討する。
【0109】
この場合、正規化処理回路10の遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1(図2(A)及び(B))の音声信号処理部3から、現実音源方向位置PRにおける直接波のみの現実方向頭部伝達関数HRを表すデータを取得する。
【0110】
この現実方向頭部伝達関数HRは、上述した第1の正規化処理により正規化されており、図7に破線で示すような周波数特性を有している。
【0111】
また遅延除去頭詰め部11は、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3から、想定音源方向位置PAにおける直接波のみの想定方向頭部伝達関数HAを表すデータを取得する。
【0112】
この想定方向頭部伝達関数HAも、上述した第1の正規化処理により正規化されており、図7に実線で示すような周波数特性を有している。
【0113】
その後正規化処理回路10は、第1の正規化処理を行う場合と同様の演算処理を行うことにより、想定方向頭部伝達関数HAを現実音源方向位置PRにより正規化した正規化頭部伝達関数HNを生成し、これを正規化頭部伝達関数記憶部23に記憶させる。因みに、このとき生成された正規化頭部伝達関数HNは、図7(B)に示すような特性となる。
【0114】
このように正規化処理回路10は、正規化された想定方向頭部伝達関数HAを正規化された現実方向頭部伝達関数HRでさらに正規化した場合には(以下これを定位正規化処理と呼ぶ)、現実音源方向位置PRの影響を排除した正規化頭部伝達関数HNを生成することができる。
【0115】
[1−4.2重正規化処理における制限処理]
ところで図7(A)を再度参照すると、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRは、いずれも0[dB]を中心として正負に変動する特性ではあるものの、互いに相違する部分も散見される。
【0116】
一方、図7(B)を参照すると、正規化頭部伝達関数HNは、特に楕円で特定した箇所Q1において、図7(A)の想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRから予想される両者の差分に相当する特性よりも、正負に多く変動した、いわば暴れた特性となっている。
【0117】
この場合、正規化処理回路10により定位正規化処理を行ったとしても、生成された正規化頭部伝達関数HNを用いた音声信号処理を行った際に、必ずしも所望の音像定位を得られず、音声信号における音質を劣化させてしまうおそれがある。
【0118】
このような正規化頭部伝達関数における特性の暴れは、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRの相違の度合いと、正規化処理回路10(図4)の構成とに起因したものと考えられる。
【0119】
すなわち想定方向頭部伝達関数HAは、第1の正規化処理を経ているため0[dB]を中心に正負に変動する特性であるものの、局所的に−30[dB]を超えるような比較的大きな変動幅を有している。
【0120】
また現実方向頭部伝達関数HRは、同様に第1の正規化処理を経ているため0[dB]を中心に正負に変動する特性であるものの、想定方向頭部伝達関数HAとは異なる周波数において、局所的に−30[dB]を超えるような比較的大きな変動幅を有している。
【0121】
このような特性の相違は、想定音源方向位置PA及び現実音源方向位置PR(図6)の相違、すなわち上下方向及び左右方向についての距離(又はリスナを基点とした角度)の大きさに起因していると考えられる。
【0122】
すなわち想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRは、必ずしも相関性が高いとはいえない。このため、定位正規化処理により想定方向頭部伝達関数HAを現実方向頭部伝達関数HRで正規化した正規化頭部伝達関数HNは、本来であれば、0[dB]を中心として正負に高頻度で変動するものと考えられる。
【0123】
また正規化処理回路10(図4)は、上述したように、IR簡略化部23によりインパルスレスポンスXn(m)を80タップのデータに簡略化する。これは、テレビジョン装置50等において実際に頭部伝達関数Hを用いて音声信号処理を行う場合に、当該頭部伝達関数Hに基づいたフィルタ処理を行う演算回路の処理能力を考慮したためである。
【0124】
ここで正規化処理回路10における正規化処理では、測定正規化処理のように入力される2種類の頭部伝達関数における相関が高い場合には、生成後の正規化頭部伝達関数において応答に要するタップ数が比較的少なくなる。このためこの場合には、タップ数が少なく制限された場合であっても、両者の小さな相違を適切に反映した良好な正規化頭部伝達関数を生成することができる。
【0125】
しかしながら、一般に、ディジタルフィルタ回路におけるタップ数を制限した場合には、そのフィルタ特性が制限され、急峻なフィルタ特性を得ることが困難になる。
【0126】
すなわち正規化処理回路10における正規化処理では、定位正規化処理のように入力される2種類の頭部伝達関数における相関が低い場合には、生成後の正規化頭部伝達関数において応答に要するタップ数が比較的多くなる。このためこの場合には、タップ数が少なく制限されると、両者の大きな相違を適切に反映することができず、特性が暴れたような正規化頭部伝達関数を生成することになる。
【0127】
仮に、IR簡略化部23における簡略化のタップ数を160タップに倍増した場合、図7(B)と対応する図8(A)に示すように、図7(A)の想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRから予想される、両者の差分に相当する特性に近づいたような正規化頭部伝達関数が得られる。
【0128】
しかしながら、このようにタップ数を増加した正規化頭部伝達関数は、演算回路の処理能力に制約があるテレビジョン装置50でそのまま利用することはできない。テレビジョン装置50においてタップ数の多い正規化頭部伝達関数を利用するには、演算回路の処理能力を増強する必要があるものの、これにより構成の複雑化や製造コストの増加等といった新たな問題を生じることになってしまう。
【0129】
そこで、正規化頭部伝達関数におけるタップ数を増加させることなく、且つ適切な正規化処理を実現するための手法を検討すると、正規化前における想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRの相関性を高めておくことが考えられる。
【0130】
改めて想定方向頭部伝達関数HAの特性(図7(A))を参照すると、0[dB]を基準として、−20[dB]或いは−30[dB]以上といった大きく且つ急峻なピークディップが現れている。
【0131】
想定方向頭部伝達関数HAは、上述した頭部伝達関数測定システム1により実測されたインパルスレスポンスを基に、第1の正規化処理を経て生成されたものであるため、想定音源方向位置PA(図6)についての頭部伝達関数を精度良く表したものと考えられる。
【0132】
しかしながら、一般に、正しく測定・生成された頭部伝達関数の周波数特性においては、−20[dB]や−30[dB]を超えるような大きく且つ急峻なピークディップが現れる可能性は低い。すなわち、想定方向頭部伝達関数HAにおける大きく且つ急峻なピークディップは、測定環境や演算処理の結果生じたものであり、正しく測定・生成された場合には、より小さな変動幅(ゲイン)のピークとして現れるものと考えられる。
【0133】
また人間の聴覚特性を考慮すると、頭部伝達関数における−30[dB]を超える大きく且つ急峻なピークディップは、音声信号に畳み込んだときに、むしろ音質の悪化としてリスナに認識される可能性もある。
【0134】
このため、このように大きなピークディップを仮に−20[dB]程度に抑えるよう補正したとしても、当該頭部伝達関数を畳み込んだ音声について、リスナに音質の劣化や音像定位の悪化を感じさせることは殆ど無いと考えられる。
【0135】
また現実方向頭部伝達関数HRに現れるピークディップついても、想定方向頭部伝達関数HAの場合と同様のことが考えられる。
【0136】
そこで本発明では、定位正規化処理において、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRの周波数特性におけるレベルをある程度の範囲に抑制するよう補正した上で、正規化処理を行うこととした。
【0137】
具体的に本発明では、定位正規化処理については、正規化処理回路10に代えて、図9に示す抑制正規化処理回路30により行う。
【0138】
この抑制正規化処理回路30は、全体的に正規化処理回路10と類似した構成を有しているものの、極座標変換部15及び16と正規化処理部20との間に抑制処理部31を設けた点が相違している。
【0139】
抑制処理部31は、頭部伝達関数の大きさ成分である動径γref(m)及びγ(m)について、抑制値limitvalを用いて抑制する抑制処理を行うようになされている。
【0140】
この抑制値limitvalは、動径γ(m)と同次元の、すなわち極座標系における動径を表す定数であり、実際には0.1に設定され、抑制処理部31に記憶されている。
【0141】
抑制値limitvalの値(0.1)は、当該制御値limitval及び1/limitvalをそれぞれ極座標系からX−Y座標系に変換したときに、それぞれ20[dB]及び−20[dB]となる値として設定されている。
【0142】
すなわち抑制処理部31は、この抑制値limitvalを用いることにより、極座標変換部15から供給される動径γref(m)について、周波数データに変換したときのゲインが−20[dB]から+20[dB]までの範囲に収まるよう制限する。
【0143】
具体的に抑制処理部31は、次に示す(4)式により、動径γ(m)を抑制動径γ’ref(m)に補正する。
【0144】
【数4】

【0145】
この(4)式において抑制処理部31は、動径γref(m)が値1/limitvalよりも大きい場合及び値limitvalよりも小さい場合に抑制動径γ’ref(m)を値limitvalとし、それ以外の場合に動径γref(m)をそのまま抑制動径γ’ref(m)とするよう補正する。
【0146】
このことは、頭部伝達関数をX−Y座標系に変換したときのゲインについて、−20[dB]よりも小さい場合には−20[dB]に補正し、+20[dB]よりも大きい場合には+20[dB]に補正し、それ以外の場合は値を変更しないことを意味している。これを換言すれば、抑制処理部31は、極端に大きなピークディップのみを縮小してゲインを±20[dB]の範囲内に収めるように抑制していることになる。
【0147】
また抑制処理部31は、極座標変換部16から供給される動径γ(m)についても、動径γref(m)と同様、抑制値limitvalを用いることにより、周波数データに変換したときのゲインが−20[dB]から+20[dB]までの範囲に収まるよう抑制する。
【0148】
具体的に抑制処理部31は、次に示す(5)式により、動径γ(m)を抑制動径γ’(m)に補正する。
【0149】
【数5】

【0150】
その後抑制処理部31は、補正した抑制動径γ’ref(m)及びγ’(m)と、極座標変換部15及び16から供給された状態のままの偏角θref(m)及びθ(m)とを、それぞれ正規化処理部20へ供給する。
【0151】
正規化処理部20は、(1)式に代わる次の(6)式と、上述した(2)式とに従って正規化処理を行うことにより、正規化処理後の動径γn(m)及び正規化処理後の偏角θn(m)をそれぞれ算出し、これらをX−Y座標変換部21へ供給する。
【0152】
【数6】

【0153】
すなわち抑制正規化処理回路30の正規化処理部20では、抑制動径γ’(m)を抑制動径γ’ref(m)で除算すると共に、偏角θ(m)から偏角θref(m)を減算することにより、正規化処理(定位正規化処理)を行うようになされている。
【0154】
この結果、抑制正規化処理回路30により最終的に生成される正規化頭部伝達関数HNは、図7(B)と対応する図8(B)に示すような特性を有するものとなる。この図8(B)からわかるように、当該正規化頭部伝達関数HNは、図7(B)の場合と比較して、全体的にピークの数が少なく、またピークの大きさも小さくなっており、特に楕円で特定した箇所Q1については、特性の暴れが抑えられている。
【0155】
このことは、生成された正規化頭部伝達関数HNについて、80タップの時点で応答が適切に収束していることを意味している。
【0156】
このように抑制処理部31による抑制処理は、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRの周波数特性における余分なピークの削減や縮小を行い、互いに近づけるよう補正することにより、正規化処理後における特性の暴れを抑えている。
【0157】
ところで、抑制処理においてゲインを−20[dB]から+20[dB]の範囲に抑える補正処理が、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRを互いに近づけることになるのは、両者が基準となる0[dB]を中心に変動する特性であることによる。
【0158】
仮に想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRの変動の基準となるゲインが相違していた場合、当該ゲインを抑制すべき幅を適切に規定することができない。
【0159】
すなわち抑制処理は、想定方向頭部伝達関数HA及び現実方向頭部伝達関数HRがそれぞれ1段目の正規化処理(測定正規化処理)を経たことにより、両者のゲインの基準が統一されているために、互いの相関を高めることができるのである。
【0160】
実際にこの正規化頭部伝達関数HNを用いて音声信号処理を行い試聴したところ、良好な音質及び音像定位を得ることができた。
【0161】
このように本発明では、定位正規化処理において、抑制処理を行ってから正規化処理を行うことにより、比較的少ないタップ数により良好なフィルタ処理を行い得るような正規化頭部伝達関数HNを生成するようになされている。
【0162】
<2.第1の実施の形態>
次に、上述した基本原理に基づく実施の形態として、テレビジョン装置50について説明する。
【0163】
[2−1.テレビジョン装置によるマルチサラウンド音声の再生]
第1の実施の形態によるテレビジョン装置50は、図6(A)〜(C)に示したように、表示パネル50Dの下方の位置(すなわち現実音源方向位置)に左右のスピーカSPL及びSPRが搭載されている。
【0164】
このためテレビジョン装置50では、特に音声信号処理を施すことなくスピーカSPL及びSPRからそれぞれの音声をそのまま再生した場合、表示パネル50Dの中央の位置よりも下側から出力されているような音像を形成することになる。
【0165】
ところで、テレビジョン装置50により映像を表示すると共に音声を出力するコンテンツについては、その音声が2チャンネルのもの以外にも、5.1チャンネルや7.1チャンネル等のマルチサラウンドとして供給されるものがある。
【0166】
例えば図10(A)は、ITU−R(International Telecommunication Union-Radiocommunication Sector)による7.1チャンネルマルチサラウンドの場合のスピーカ配置例を示したものである。
【0167】
ITU−Rの7.1チャンネルマルチサラウンドのスピーカ配置例では、リスナの位置P0を中心とした円周上に、各チャンネルのスピーカを位置し、各スピーカから各チャンネルの音声信号に基づいた音声を出力するように定められている。
【0168】
図10(A)において、センターチャンネルのスピーカ位置PCは、リスナの正面位置となっている。また左前方チャンネルのスピーカ位置PLF及び右前方チャンネルのスピーカ位置PRFは、センターチャンネルのスピーカ位置PCを中心として、その両側にそれぞれ30度の角範囲だけ離れた位置となっている。
【0169】
左側方チャンネルのスピーカ位置PLS及び左後方チャンネルのスピーカ位置PLBは、リスナの正面位置から左へ120度ないし150度の範囲にそれぞれ配置される。また右側方チャンネルのスピーカ位置PRS及び右後方チャンネルのスピーカ位置PRBは、リスナの正面位置から右へ120度ないし150度の範囲にそれぞれ配置される。因みにこれらのスピーカ位置PLS及びPLB並びにPRS及びPRBは、リスナに対して左右対称の位置に設定される。
【0170】
図11(A)は、図10(A)のスピーカ配置例において、リスナの位置からテレビジョン装置50の方向を見た状態を示している。また図11(B)は、図10(A)のスピーカ配置例を横方向から見た状態を示している。
【0171】
すなわちこの配置例では、テレビジョン装置50の表示中心50Cとほぼ同一の高さにスピーカ位置PC、PLF、PRF、PLS、PRS、PLB及びPRBが配置されている。
【0172】
因みに低域効果チャンネル(以下LFE(Low Frequency Effect)チャンネルと呼ぶ)用のスピーカについては、低域成分の音声における指向性が低いことから、任意の位置に配置することができる。
【0173】
そしてテレビジョン装置50は、事前の設定やリスナの操作等に応じて、2チャンネルのスピーカSPL及びSPRを用いて、5.1チャンネルや7.1チャンネル等のマルチサラウンド音声信号を再生するようになされている。
【0174】
すなわちテレビジョン装置50は、例えば7.1チャンネルのマルチサラウンド音声信号を現実音源方向位置にある2チャンネルのスピーカSPL及びSPRのみで再生したときに、リスナに対し、各スピーカ位置PC、PLF、PRF、PLS、PRS、PLB及びPRBをそれぞれ想定音源方向位置とする音像定位を与えるようになされている。
【0175】
このときテレビジョン装置50は、各想定音源方向位置に応じた直接波の正規化頭部伝達関数と、現実音源方向位置に応じた直接波の各正規化頭部伝達関数とを基に、上述した2重正規化処理を経た正規化頭部伝達関数を生成して、畳み込み処理を行うようになされている。
【0176】
[2−2.テレビジョン装置の回路構成]
テレビジョン装置50は、図12に示す音声信号処理部60により、7.1チャンネルの音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成し、これを所定のアンプ(図示せず)経由でスピーカSPL及びSPRへ供給するようになされている。
【0177】
音声信号処理部60は、頭部伝達関数を音声信号へ畳み込む畳込処理部63、8チャンネルの音声信号から2チャンネルの音声信号を生成する加算処理部64及び音声信号に所定の後処理を施す後処理部65を有している。また音声信号処理部60は、2重正規化頭部伝達関数を生成する2重正規化処理部61及び各種頭部伝達関数及び素の状態の伝達関数等を記憶する不揮発性の記憶部62も設けられている。
【0178】
記憶部62は、頭部伝達関数測定システム1(図2)により種々の想定音源方向位置について測定した頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tをそれぞれ記憶している。
【0179】
また記憶部62は、頭部伝達関数測定システム1により同様に測定した、現実音源方向位置(すなわちテレビジョン装置50における左右のスピーカSPL及びSPRの位置)についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tもそれぞれ記憶している。
【0180】
[2−2−1.2重正規化処理部の構成]
2重正規化処理部61は、図13に示すように、1段目の正規化処理を行う現実正規化処理回路10R及び想定正規化処理回路10Aと、2段目の正規化処理を行う抑制正規化処理回路30とにより構成されている。
【0181】
ここでは、想定音源方向位置に関する頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性をそれぞれHA及びTAとし、現実音源方向位置に関する頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性をそれぞれHR及びTRとして説明する。
【0182】
現実正規化処理回路10Rは、正規化処理回路10(図4)と同様に構成されており、現実音源方向位置に関し、頭部伝達関数HRを素の状態の伝達特性TRで正規化することにより正規化頭部伝達関数HNRを生成して、これを抑制正規化処理回路30へ供給する。
【0183】
想定正規化処理回路10Aは、やはり正規化処理回路10(図4)と同様に構成されており、想定音源方向位置に関し、頭部伝達関数HAを素の状態の伝達特性TAで正規化することにより正規化頭部伝達関数HNAを生成して、これを抑制正規化処理回路30へ供給する。
【0184】
抑制正規化処理回路30(図9)は、想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数HNAを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数HNRで正規化することにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。
【0185】
このとき抑制正規化処理回路30は、上述したように、抑制処理部31により正規化頭部伝達関数HNA及びHNRのゲインをそれぞれ抑制した上で2段目の正規化処理を行うようになされている。
【0186】
その後2重正規化処理部61は、生成した2重正規化頭部伝達関数HN2を記憶部62(図12)に記憶させる。因みに2重正規化処理部61は、後述する畳込処理部63において用いる種々の2重正規化頭部伝達関数をそれぞれ生成して記憶部62に記憶させるようになされている。
【0187】
[2−2−2.畳込処理部の構成]
畳込処理部63(図12)は、7.1チャンネルの音声信号それぞれに対し、2重正規化処理により生成された2重正規化頭部伝達関数を畳み込む畳込処理を行う。
【0188】
畳込処理部63は、この2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込むことにより、各頭部伝達関数の測定時におけるスピーカ及びマイクロホンの影響を排除すると共に、想定音源方向位置に音像を定位させるようになされている。
【0189】
このとき畳込処理部63では、各チャンネルについて、所定時間に相当する遅延処理を行うと共に、主成分の正規化頭部伝達関数の畳込処理と、クロストーク成分の正規化頭部伝達関数の畳込処理と、クロストークキャンセル処理とを行うようになされている。
【0190】
因みにクロストークキャンセル処理とは、左チャンネル用のスピーカSPL及び右チャンネル用のスピーカSPRで音声信号を再生したときに、リスナの位置において生じる物理的なクロストーク成分を相殺するための処理である。また畳込処理部63では、処理の簡略化のため、直接波についてのみの畳込処理を行い、反射波に関する畳込処理を行わないものとしている。
【0191】
ところで図10(A)では、センターチャンネルのスピーカ位置PC及びリスナの位置P0を通る仮想的な中心線に関して、左右の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルの各スピーカ位置は、それぞれ左右対称となっている。またテレビジョン装置50における左右のスピーカSPL及びSPRの位置についても、左右対称となっている。
【0192】
このためテレビジョン装置50は、正規化頭部伝達関数の畳込処理において、前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルのそれぞれについて、左右で互いに同等の正規化頭部伝達関数を利用することができる。
【0193】
そこで以下の説明では、便宜上、想定音源方向位置に応じた正規化頭部伝達関数(以下これを想定正規化頭部伝達関数と呼ぶ)のうち主成分の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルについては、左右を問わずにそれぞれF、S及びBと表記する。また想定音源方向位置に応じた正規化頭部伝達関数(以下これを想定正規化頭部伝達関数と呼ぶ)のうちセンターチャンネル及び低域効果チャンネルについては、それぞれC及びLFEと表記する。
【0194】
さらに想定正規化頭部伝達関数のうちクロストーク成分の前方チャンネル、側方チャンネル及び後方チャンネルについては、左右を問わずにそれぞれxF、xS及びxBと表記し、低域効果チャンネルについては、xLFEと表記する。
【0195】
また現実正規化頭部伝達関数については、左右を問わずに主成分をFrefと表記し、クロストーク成分をxFrefと表記する。
【0196】
これらの表記を用いると、例えば2重正規化処理により任意の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置に応じた主成分の正規化頭部伝達関数でさらに正規化することは、当該任意の正規化頭部伝達関数に対する1/Frefの乗算として表すことができる。
【0197】
さらに畳込処理部63は、1チャンネルごと又は互いに対応する左右の2チャンネルごとに、音声信号の畳込処理を行うようになされている。具体的に畳込処理部63は、フロント処理部63F、センター処理部63C、サイド処理部63S、バック処理部63B並びに低域効果処理部63LFEを有している。
【0198】
[2−2−2−1.フロント処理部の構成]
フロント処理部63Fは、図14に示すように、左前方チャンネルの音声信号SLF及び右前方チャンネルの音声信号SRF対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0199】
またフロント処理部63Fは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部63FA及び後段のクロストークキャンセル処理部63FBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0200】
頭部伝達関数畳込処理部63FAは、音声信号を所定時間遅延させた上で、左右の主成分及びクロストーク成分それぞれについて、想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化(すなわち定位正規化)した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0201】
具体的に頭部伝達関数畳込処理部63FAは、遅延回路101、102、103及び104と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路105、106、107及び108とにより構成されている。
【0202】
遅延回路101及び畳込回路105は、左前方チャンネルの直接波における主成分の音声信号SLFについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0203】
遅延回路101は、左前方チャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。かかる遅延処理は、正規化処理回路10(図9)等において頭部伝達関数を生成した際、遅延除去頭詰め部11及び12により当該経路長に応じた遅延時間を除去したことに対応しており、いわば「仮想音像定位位置からリスナの位置までの距離感」を再現する効果を与えるものである。
【0204】
畳込回路105は、遅延回路101から供給される音声信号に対し、左前方チャンネルの主成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数Fを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数F/Frefを畳み込む。
【0205】
このとき畳込回路105は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数F/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部105は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部63FBへ供給する。
【0206】
遅延回路102及び畳込回路106は、左前方チャンネルから右チャンネルへのクロストーク(以下これを左前方クロストークと呼ぶ)による音声信号xLFについての遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0207】
遅延回路102は、左前方クロストークについて、想定音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ遅延させる。
【0208】
畳込回路106は、遅延回路102から供給される音声信号に対し、左前方クロストークに関して想定正規化頭部伝達関数xFを現実正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xF/Frefを畳み込む。
【0209】
このとき畳込回路106は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数xF/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理を行う。その後畳込処理部106は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部63FBへ供給する。
【0210】
遅延回路103及び畳込回路107は、右前方チャンネルから左チャンネルへのクロストーク(以下これを右前方クロストークと呼ぶ)による音声信号xRFについての遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0211】
この遅延回路103及び畳込回路107は、図10(A)について上述した左右対称性から、遅延回路102及び畳込回路106とそれぞれ同様に構成されている。このため遅延回路103及び畳込回路107は、右前方クロストークの音声信号に対し、遅延回路102と同様の遅延処理及び畳込回路106と同様の畳込処理を行うようになされている。
【0212】
遅延回路104及び畳込回路108は、右前方チャンネルの直接波における主成分の音声信号SRFについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0213】
この遅延回路104及び畳込回路108は、図10(A)について上述した左右の対称性から、遅延回路101及び畳込回路105とそれぞれ同様に構成されている。このため遅延回路104及び畳込回路108は、音声信号SRFに対し、遅延回路101と同様の遅延処理及び畳込回路105と同様の畳込処理を行うようになされている。
【0214】
クロストークキャンセル処理部63FBは、4系統の音声信号それぞれについて、所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返す。すなわちクロストークキャンセル処理部63FBは、4系統の音声信号それぞれについて2次のキャンセル処理を行うようになされている。
【0215】
遅延回路111、112、113、114、121、122、123及び124は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0216】
畳込回路115、116、117、118、125、126、127及び128は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0217】
加算回路131、132、133、134、135及び136は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0218】
ここでフロント処理部63Fから出力される音声信号S2LF及びS2RFは、それぞれ次の(7)式及び(8)式のように表すことができる。
【0219】
【数7】

【0220】
【数8】

【0221】
但し(7)式及び(8)式では、遅延処理をD()とし、畳込処理をF()としており、またクロストークキャンセル用の遅延処理及び畳込処理を次の(9)式に示す定数Kにより表している。
【0222】
【数9】

【0223】
かくしてフロント処理部63Fは、左チャンネル用の音声信号S2LF及び右チャンネル用の音声信号S2RFを生成し、これらを後段の加算処理部64(図12)へ供給する。
【0224】
[2−2−2−2.センター処理部の構成]
センター処理部63Cは、図14と対応する図15に示すように、センターチャンネルの音声信号SCに対し、主成分について正規化頭部伝達関数の畳込処理を行うようになされている。
【0225】
またセンター処理部63Cは、フロント処理部63Fと同様、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部63CA及び後段のクロストークキャンセル処理部63CBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0226】
頭部伝達関数畳込処理部63CAは、頭部伝達関数畳込処理部63FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、主成分について想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0227】
頭部伝達関数畳込処理部63CAは、遅延回路141と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路142とにより構成され、センターチャンネルにおける主成分の音声信号SCについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0228】
遅延回路141は、センターチャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0229】
畳込回路142は、遅延回路141から供給される音声信号に対し、センターチャンネルの主成分に関する想定正規化頭部伝達関数Cを現実正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数C/Frefを畳み込む。
【0230】
このとき畳込回路142は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数C/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部142は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部63CBへ供給する。
【0231】
クロストークキャンセル処理部63CBは、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返すようになされている。
【0232】
遅延回路143及び145は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0233】
畳込回路144及び146は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0234】
加算回路147、148、149及び150は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0235】
かくしてセンター処理部63Cは、左チャンネル用の音声信号S2LC及び右チャンネル用の音声信号S2RCを生成し、これらを後段の加算処理部64(図12)へ供給する。
【0236】
因みにセンター処理部63Cは、センターチャンネルの音声信号SCを左チャンネル及び右チャンネルの両方に加算することになる。これによりにより音声信号処理部60は、センターチャンネル方向の音声の定位感をより良くすることができる。
【0237】
[2−2−2−3.サイド処理部の構成]
サイド処理部63Sは、図14と対応する図16に示すように、左側方チャンネルの音声信号SLS及び右側方チャンネルの音声信号SRS対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0238】
またサイド処理部63Sは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部63SA及び後段のクロストークキャンセル処理部63SBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0239】
頭部伝達関数畳込処理部63SAは、頭部伝達関数畳込処理部63FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、左右の主成分及びクロストーク成分それぞれについて想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0240】
具体的に頭部伝達関数畳込処理部63SAは、遅延回路161、162、163及び164と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路165、166、167及び168とにより構成されている。
【0241】
遅延回路161〜164及び畳込回路165〜168は、遅延回路101〜104及び畳込回路105〜108における主成分及びクロストーク成分に関する想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数に関し、前方チャンネルの正規化頭部伝達関数F及びxFを、側方チャンネルの正規化頭部伝達関数S及びxSにそれぞれ置き換えた演算処理を行う。
【0242】
このとき畳込回路165〜168は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数S/Fref又はxS/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。
【0243】
クロストークキャンセル処理部63SBは、クロストークキャンセル処理部63FBと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を行うようになされている。
【0244】
ただしクロストークキャンセル処理部63SBは、クロストークキャンセル処理部63FBと異なり、主成分である2系統の音声信号のみについて、4次のキャンセル処理、すなわち4段階の遅延処理及び畳込処理を繰り返すようになされている。
【0245】
遅延回路171、172、173、174、175、176、177及び178は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0246】
畳込回路181、182、183、184、185、186、187及び188は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0247】
加算回路191、192、193、194、195、196、197、198、199及び200は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0248】
かくしてフロント処理部63Sは、左チャンネル用の音声信号S2LS及び右チャンネル用の音声信号S2RSを生成し、これらを後段の加算処理部64(図12)へ供給する。
【0249】
[2−2−2−4.バック処理部の構成]
バック処理部63Bは、図16と対応する図17に示すように、左後方チャンネルの音声信号SLB及び右後方チャンネルの音声信号SRB対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0250】
またバック処理部63Bは、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部63BA及び後段のクロストークキャンセル処理部63BBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0251】
頭部伝達関数畳込処理部63BAは、頭部伝達関数畳込処理部63SAと対応した構成となっており、遅延回路201、202、203及び204と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路205、206、207及び208とにより構成されている。
【0252】
遅延回路201〜204及び畳込回路205〜208は、遅延回路161〜164及び畳込回路165〜168における主成分及びクロストーク成分に関する想定正規化頭部伝達関数に関し、側方チャンネルの正規化頭部伝達関数S及びxSを、後方チャンネルの正規化頭部伝達関数B及びxBにそれぞれ置き換えた演算処理を行う。
【0253】
このとき畳込回路205〜208は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数B/Fref又はxB/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。
【0254】
クロストークキャンセル処理部63BBは、クロストークキャンセル処理部63SBと同様に構成されており、同様の遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0255】
すなわち遅延回路211、212、213、214、215、216、217及び218は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0256】
また畳込回路221、222、223、224、225、226、227及び228は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0257】
加算回路231、232、233、234、235、236、237、238、239及び240は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0258】
かくしてフロント処理部63Bは、左チャンネル用の音声信号S2LB及び右チャンネル用の音声信号S2RBを生成し、これらを後段の加算処理部64(図12)へ供給する。
【0259】
[2−2−2−5.低域効果処理部の構成]
低域効果処理部63LFEは、図14と対応する図18に示すように、低域効果チャンネルの音声信号SLFEに対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳込処理を行うようになされている。
【0260】
また低域効果処理部63LFEは、フロント処理部63Fと同様、機能的に前段の頭部伝達関数畳込処理部63LFEA及び後段のクロストークキャンセル処理部63LFEBに大きく分けられており、それぞれ複数の遅延回路、畳込回路及び加算器の組み合わせにより構成されている。
【0261】
頭部伝達関数畳込処理部63LFEAは、頭部伝達関数畳込処理部63FAと同様、音声信号を所定時間遅延させた上で、主成分及びクロストーク成分それぞれについて想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込むようになされている。
【0262】
頭部伝達関数畳込処理部63LFEAは、遅延回路251及び252と、例えば80タップのIIRフィルタでなる畳込回路253及び254とにより構成され、低域効果チャンネルの直接波における主成分の音声信号SFEについて畳込処理を行うようになされている。
【0263】
遅延回路251及び畳込回路253は、低域効果チャンネルにおける主成分の音声信号SLFEについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0264】
遅延回路251は、低域効果チャンネルの主成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0265】
畳込回路253は、遅延回路141から供給される音声信号に対し、低域効果チャンネルの主成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数LFEを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数LFE/Frefを畳み込む。
【0266】
このとき畳込回路253は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数LFE/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理、すなわち畳込処理を行う。その後畳込処理部253は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部63LFEBへ供給する。
【0267】
遅延回路252及び畳込回路254は、低域効果チャンネルの直接波におけるクロストーク分の音声信号xLFEについて遅延処理及び畳込処理を行うようになされている。
【0268】
遅延回路252は、低域効果チャンネルのクロストーク成分について、仮想音像定位位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ音声信号を遅延させる。
【0269】
畳込回路254は、遅延回路252から供給される音声信号に対し、低域効果チャンネルのクロストーク成分に関して想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数xLFEを現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xLFE/Frefを畳み込む。
【0270】
このとき畳込回路254は、2重正規化処理部61において予め生成され記憶部62に記憶されている2重正規化頭部伝達関数xLFE/Frefを読み出し、これを音声信号に畳み込む演算処理を行う。その後畳込処理部254は、畳込処理を施した音声信号をクロストークキャンセル処理部63LFEBへ供給する。
【0271】
クロストークキャンセル処理部63LFEBは、音声信号を所定時間遅延させた上で、クロストーク成分について想定音源方向位置の正規化頭部伝達関数を現実音源方向位置の正規化頭部伝達関数によりさらに正規化した2重正規化頭部伝達関数を畳み込む処理を2段階繰り返すようになされている。
【0272】
遅延回路255及び257は、現実音源方向位置からのクロストーク(xFref)に関し、当該現実音源方向位置からリスナの位置までの経路長に応じた遅延時間だけ、それぞれに供給される音声信号を遅延させる。
【0273】
畳込回路256及び258は、現実音源方向位置に関してクロストーク成分の正規化頭部伝達関数xFrefを主成分の正規化頭部伝達関数Frefで正規化した2重正規化頭部伝達関数xFref/Frefを、それぞれに供給される音声信号に畳み込む。
【0274】
加算回路261、262及び263は、それぞれ供給された音声信号を加算する。
【0275】
かくして低域効果処理部63LFEは、音声信号S2LFEを生成し、これを左右それぞれのチャンネルに分配して後段の加算処理部64(図12)へ供給する。
【0276】
因みに低域効果処理部63LFEは、低域効果チャンネルの音声信号SLFEを、クロストークも考慮して左チャンネル及び右チャンネルの両方に加算することになる。これによりにより音声信号処理部60は、低域効果チャンネルの音声信号LFEによる低域音声成分を、より広がり良く再生することができる。
【0277】
[2−2−3.加算処理部の構成]
加算処理部64(図12)は、左チャンネル加算部64L及び右チャンネル加算部64Rにより構成されている。
【0278】
左チャンネル加算部64Lは、畳込処理部63から供給される左チャンネル用の音声信号S2FL、S2CL、S2SL、S2BL及びS2LFELを全て加算することにより音声信号S3Lを生成し、これを後処理部65へ供給する。
【0279】
これにより左チャンネル加算部64Lは、本来左チャンネル用である音声信号SLF、SLS及びSLBと、右チャンネル用である音声信号SRF、SRF及びSRBのクロストーク成分と、センターチャンネル及び低域効果チャンネルの音声信号SC及びSLFEとを加算することになる。
【0280】
右チャンネル加算部64Rは、畳込処理部63から供給される右チャンネル用の音声信号S2FR、S2CR、S2SR、S2BR及びS2LFERを全て加算することにより音声信号S3Rを生成し、これを後処理部65へ供給する。
【0281】
これにより右チャンネル加算部64Rは、本来右チャンネル用である音声信号SRF、SRF及びSRBと、左チャンネル用である音声信号SLF、SLS及びSLBのクロストーク成分と、センターチャンネル及び低域効果チャンネルの音声信号SC及びSLFEとを加算することになる。
【0282】
[2−2−4.後処理部の構成]
後処理部65は、音声信号のレベル調整を行うレベル調整部66L及び66R、音声信号の振幅を制限する振幅制限部67L及び67R、並びに音声信号のノイズ成分を軽減するノイズ軽減部68L及び68Rにより構成されている。
【0283】
まず後処理部65は、加算処理部64から供給される音声信号S3L及びL3Rをそれぞれレベル調整部66L及び66Rへ供給する。
【0284】
レベル調整部66L及び66Rは、音声信号S3L及びS3Rについて、それぞれスピーカSPL及びSPRからの出力に適したレベルに調整することにより音声信号S4L及びS4Rを生成し、それぞれ振幅制限部67L及び67Rへ供給する。
【0285】
振幅制限部67L及び67Rは、音声信号S4L及びS4Rについて振幅を制限する処理を行うことにより音声信号S5L及びS5Rを生成し、それぞれノイズ軽減部68L及び68Rへ供給する。
【0286】
ノイズ軽減部68L及び68Rは、音声信号S5L及びS5Rについてノイズを軽減する処理を行うことにより音声信号S6L及びS6Rを生成し、図示しないアンプを介してこれらをスピーカSPL及びSPR(図11)へ供給する。
【0287】
これに応じてテレビジョン装置50は、左右のスピーカSPL及びSPRから、音声信号S6L及びS6Rに基づいた音声を出力する。この結果テレビジョン装置50は、スピーカSPL及びSPRからの当該音声を聴取したリスナに対し、7.1チャンネルの各想定音源方向位置に音像が定位しているかのような聴感を与えることができる。
【0288】
[2−3.動作及び効果]
以上の構成において、第1の実施の形態によるテレビジョン装置50は、予め頭部伝達関数測定システム1により測定された、種々の想定音源位置についての頭部伝達関数H及び素の状態の伝達特性Tを音声信号処理部60の記憶部62に記憶させておく。
【0289】
そしてテレビジョン装置50は、7.1チャンネルの音声信号を再生する際、音声信号処理部60の2重正規化処理部61(図13)により、想定音源方向位置及び現実音源方向位置に応じた2重正規化処理を行う。
【0290】
すなわち2重正規化処理部61は、1段目の正規化処理(測定正規化処理)として、正規化処理回路10(図4)により、想定音源方向位置及び現実音源方向位置それぞれについて、頭部伝達関数HA及びHRを素の状態の伝達特性TA及びTRで正規化することにより、それぞれの正規化頭部伝達関数HNA及びHNRを生成する。
【0291】
続いて2重正規化処理部61は、2段目の正規化処理(定位正規化処理)として、抑制正規化処理回路30(図9)により、想定正規化頭部伝達関数HNAを現実正規化頭部伝達関数HNRで正規化することにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。
【0292】
このとき抑制正規化処理回路30は、抑制処理部31において、各正規化頭部伝達関数を周波数データとして表したときのゲインを−20[dB]から+20[dB]までの範囲に収めるよう、抑制値limitvalを用いて抑制する。
【0293】
このことは、互いに相関性が低いそれぞれの正規化頭部伝達関数について、相関性を低下させる要因となり得る周波数特性上のピークを縮小させ、互いの相関性を高めることにつながる。
【0294】
この結果、抑制正規化処理回路30は、生成する2重正規化頭部伝達関数の周波数特性に現れるピークを削減すると共にその大きさを小さくすることができ、特性の暴れの出現を抑えることができる(図8(B))。このことは、フィルタ回路において当該2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む際に必要なタップ数を大幅に削減できることを意味する。
【0295】
テレビジョン装置50は、このように生成した2重正規化頭部伝達関数を用いて畳込処理を行うことにより、音質を劣化させることなく、良好な音像定位を得ることができる。
【0296】
このときテレビジョン装置50は、例えば80タップのように比較的少ないタップ数のフィルタ回路により畳込処理を行ったとしても、2重正規化頭部伝達関数を適切に音声信号に畳み込むことができる。このためテレビジョン装置50は、音声信号処理部60の回路構成を大規模化・複雑化することなく簡易な構成とすることができ、省電力化や低コスト化に寄与することができる。
【0297】
またテレビジョン装置50は、1段目の正規化処理により、現実音源方向位置及び想定音源方向位置それぞれについて、頭部伝達関数を素の状態の伝達特性により正規化している。このためテレビジョン装置50は、頭部伝達関数測定システム1において各頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性の測定に用いたスピーカ及びマイクロホンの特性を完全に排除した2重正規化頭部伝達関数を得ることができる。
【0298】
特に頭部伝達関数Hは、図3(A)等に示したように、スピーカSPやマイクロホンML等といった測定用の機器の影響により、高域及び低域が低下したような周波数特性となる。一般には、イコライザ等を用いて補正する手法が知られているものの、適切に補正することは難しく、また適切に補正できなかった場合には音質の劣化を招くおそれもあった。
【0299】
この点においてテレビジョン装置50は、1段目の正規化処理(測定正規化処理)を行うことにより、音質の劣化を招くことなく、測定用の機器による影響を適切に排除することができる。
【0300】
さらにテレビジョン装置50は、抑制正規化処理回路30(図9)について、特許文献1等にも開示されている既存の正規化処理回路10(図4)に対し、抑制処理部31を追加するだけで良い。また抑制処理部31は、(4)式及び(5)式に示したような、比較的容易な演算処理である抑制処理を行うだけで良い。
【0301】
このためテレビジョン装置50は、既存の正規化処理回路10に対し極めて簡易な構成の抑制処理部31を追加するだけで、適切な抑制処理を行い得るような抑制正規化処理回路30を構成することができる。
【0302】
以上の構成によれば、第1の実施の形態によるテレビジョン装置50は、左右のスピーカSPL及びSPRにより7.1チャンネルの音声信号を再生する際、まず音声信号処理部60の2重正規化処理部61により2重正規化処理を行う。このとき2重正規化処理部61の抑制正規化処理回路30は、抑制処理部31により各正規化頭部伝達関数の周波数特性におけるゲインを抑制した上で、想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数で正規化することにより、特性の暴れを抑えた2重正規化頭部伝達関数を生成する。これによりテレビジョン装置50は、音声信号処理部60の畳込処理部63で2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む際、タップ数の少ないフィルタ回路を用いて適切な畳込処理を行うことができ、音質を劣化させることなく、リスナに良好な音像定位を与えることができる。
【0303】
<3.第2の実施の形態>
[3−1.テレビジョン装置の構成]
第2の実施の形態によるテレビジョン装置350(図11)は、第1の実施の形態によるテレビジョン装置50と比較して、音声信号処理部60に代わる音声信号処理部360を有している点が相違するものの、他の部分については同様に構成されている。このため、当該他の部分については説明を省略する。
【0304】
音声信号処理部360(図12)は、第1の実施の形態による音声信号処理部60と比較して、2重正規化処理部61に代わる2重正規化処理部361及びフロント処理部63Fに代わるフロント処理部363Fを有している点が相違するものの、他の部分については同様に構成されている。このため、ここでは当該他の部分についての説明を省略する。
【0305】
[3−2.2重正規化処理部の構成]
2重正規化処理部361は、2重正規化処理部61と同様、想定音源方向位置及び現実音源方向位置それぞれの頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を基に2重正規化頭部伝達関数を生成するようになされているものの、その回路構成が当該2重正規化処理部61と相違している。
【0306】
具体的に2重正規化処理部361は、図4、図9及び図13と対応する図19に示すように、2つの正規化処理回路10に相当する正規化処理回路362及び363と、1つの抑制正規化処理回路30に相当する抑制正規化処理回路364とを組み合わせたような構成となっている。
【0307】
正規化処理回路362は、現実音源方向位置について測定正規化処理を行うようになされている。この正規化処理回路362は、正規化処理回路10と比較して、同様の遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14、極座標変換部15及び16、並びに正規化処理部20を有しているものの、X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23が省略されている。
【0308】
このため正規化処理回路362は、正規化処理回路10と同様の演算処理により、現実正規化頭部伝達関数HNRを表す極座標系のデータ(以下これらを動径γ0n(m)及び偏角θ0n(m)とする)を生成し、これらをそのまま抑制正規化処理回路364へ供給する。
【0309】
また正規化処理回路363は、想定音源方向位置について測定正規化処理を行うようになされている。この正規化処理回路363は、正規化処理回路362と同様の回路構成を有している。
【0310】
このため正規化処理回路363は、正規化処理回路10と同様の演算処理により、想定正規化頭部伝達関数HNAを表す極座標系のデータ(以下これらを動径γ1n(m)及び偏角θ1n(m)とする)を生成し、これらをそのまま抑制正規化処理回路364へ供給する。
【0311】
すなわち正規化処理回路362及び363は、後述する抑制正規化処理回路364において極座標系のデータを用いた正規化処理を行うことを考慮し、敢えて後半の処理を省略することになる。
【0312】
抑制正規化処理回路364は、想定正規化頭部伝達関数HNAを現実正規化頭部伝達関数HNR測定で正規化する処理、すなわち定位正規化処理を行うようになされている。
【0313】
この抑制正規化処理回路364は、抑制正規化処理回路30と比較して、同様の抑制処理部31、正規化処理部20、X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23を有しているものの、遅延除去頭詰め部11及び12、FFT部13及び14並びに極座標変換部15及び16が省略されている。
【0314】
このため抑制正規化処理回路364は、まず現実正規化頭部伝達関数HNR及び想定正規化頭部伝達関数HNAそれぞれの極座標系のデータ、すなわち動径γ0n(m)及び偏角θ0n(m)並びに動径γ1n(m)及び偏角θ1n(m)を抑制処理部31へ供給する。
【0315】
すなわち抑制正規化処理回路364は、正規化処理回路362及び363からそれぞれ供給されるデータが既に極座標系の形式であるため、抑制正規化処理回路30における前半の処理を省略することになる。
【0316】
抑制処理部31は、(4)式及び(5)式とそれぞれ対応する次の(10)式及び(11)式により、動径γ0n(m)及びγ1n(m)をそれぞれ抑制動径γ’0n(m)及びγ’1n(m)に補正し、正規化処理部20へ供給する。
【0317】
【数10】

【0318】
【数11】

【0319】
正規化処理部20は、2段階目の正規化処理として、(6)式に対応する次の(12)式と、上述した(2)式とに従って正規化処理を行うことにより、正規化処理後の動径γn(m)及び正規化処理後の偏角θn(m)をそれぞれ算出し、これらをX−Y座標変換部21へ供給する。
【0320】
【数12】

【0321】
その後X−Y座標変換部21、逆FFT部22及びIR簡略化部23は、それぞれ抑制正規化処理回路30の場合と同様の処理を行うことにより、2重正規化頭部伝達関数HN2を生成する。
【0322】
このように第2の実施の形態による2重正規化処理部361は、1段目の正規化処理から2段目の正規化処理までの間、各正規化頭部伝達関数を表すデータを極座標系のまま受け渡すことにより、座標系の変換処理やFFT処理の無駄を省くようになされている。
【0323】
[3−3.フロント処理部の構成]
フロント処理部363Fは、図14と対応する図20に示すように、フロント処理部63Fと同様、左前方チャンネルの音声信号SLF及び右前方チャンネルの音声信号SRF対し、主成分及びクロストーク成分についてそれぞれ正規化頭部伝達関数の畳み込みを行うようになされている。
【0324】
またフロント処理部363Fは、フロント処理部63Fと同様、前段の頭部伝達関数畳込処理部363FA及び後段のクロストークキャンセル処理部363FBに大きく分けられている。
【0325】
頭部伝達関数畳込処理部363FAは、フロント処理部63Fの頭部伝達関数畳込処理部63FAと同様に構成されている。一方、クロストークキャンセル処理部363FBは、クロストークキャンセル処理部63FBの一部を簡略化したような構成となっている。
【0326】
具体的にクロストークキャンセル処理部363FBは、クロストークキャンセル処理部63FBと同様の遅延回路111、114、121及び124と、畳込回路115、118、125及び128を有している。その一方でクロストークキャンセル処理部363FBは、クロストークキャンセル処理部63FBにおける遅延回路112、113、122及び123と、畳込回路116、117、126及び127が省略されている。
【0327】
すなわちクロストークキャンセル処理部363FBでは、左前方クロストーク及び右前方クロストークの2系統の音声信号についてのみ2次のキャンセル処理を行うようになされている。
【0328】
かくしてフロント処理部363Fは、第1の実施の形態と比較して、同様の畳込処理及び簡略化されたクロストークキャンセル処理を行うことにより、左チャンネル用の音声信号S2LF及び右チャンネル用の音声信号S2RFを生成するようになされている。
【0329】
[3−4.動作及び効果]
以上の構成において、第2の実施の形態によるテレビジョン装置350は、第1の実施の形態と同様、予め頭部伝達関数測定システム1により測定された、種々の想定音源位置についての頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を音声信号処理部360の記憶部62に記憶させておく。
【0330】
そしてテレビジョン装置350は、7.1チャンネルの音声信号を再生する際、音声信号処理部360の2重正規化処理部361により、想定音源方向位置及び現実音源方向位置に応じた2重正規化処理を行う。
【0331】
このとき2重正規化処理部361は、1段目の正規化処理から2段目の正規化処理までの間、正規化頭部伝達関数を表すデータを周波数軸で表され極座標系のまま受け渡す。
【0332】
このため2重正規化処理部361は、第1の実施の形態による2重正規化処理部61と比較して、一度X−Y座標系に変換してから再度極座標系に変換し、また一度逆FFT処理を行ってから再度FFT処理を行うといった、複数回の正規化処理を連続的に行うことに伴う無駄な変換処理を省略し、演算処理の効率化を図ることができる。
【0333】
この場合においても2重正規化処理部361は、抑制処理部31により各正規化頭部伝達関数の動径を抑制値limitvalを用いて抑制することにより、互いの相関性を高めて、周波数特性に現れるピークを縮小して特性の暴れを抑えることができる。
【0334】
この結果、テレビジョン装置350は、第1の実施の形態と同様、生成した2重正規化頭部伝達関数を用いて畳込処理を行うことにより、音質を劣化させることなく、良好な音像定位を得ることができる。
【0335】
このときテレビジョン装置350は、例えば80タップのように比較的少ないタップ数のフィルタ回路により畳込処理を行ったとしても、2重正規化頭部伝達関数を適切に音声信号に畳み込むことができる。このためテレビジョン装置350は、音声信号処理部360の回路構成を大規模化・複雑化することなく簡易な構成とすることができ、省電力化や低コスト化に寄与することができる。
【0336】
またテレビジョン装置350は、フロント処理部363Fのクロストークキャンセル処理部363FBにおいて、第1の実施の形態よりも簡略化したクロストークキャンセル処理を行う。
【0337】
このためテレビジョン装置350は、畳込演算処理における処理負荷を軽減することができ、第1の実施の形態よりも回路構成の簡素化・低コスト化等を図ることができる。
【0338】
その他、第2の実施の形態によるテレビジョン装置350は、第1の実施の形態によるテレビジョン装置50と同様の作用効果を奏し得る。
【0339】
以上の構成によれば、第2の実施の形態によるテレビジョン装置350は、2重正規化処理部361において、1段目の測定正規化処理から2段目の定位正規化処理までの間、正規化頭部伝達関数を表すデータを周波数軸で表され極座標系のまま受け渡す。2重正規化処理部361は、抑制処理部31により各正規化頭部伝達関数の周波数特性におけるゲインを抑制した上で、想定正規化頭部伝達関数を現実正規化頭部伝達関数で正規化することにより、特性の暴れを抑えた2重正規化頭部伝達関数を生成する。これによりテレビジョン装置350は、2重正規化頭部伝達関数の生成に要する演算処理を大幅に簡略化できると共に、音声信号処理部360の畳込処理部63で2重正規化頭部伝達関数を音声信号に畳み込む際、タップ数の少ないフィルタ回路を用いて適切な畳込処理を行うことができる。この結果テレビジョン装置350は、音声信号の音質を劣化させることなく、リスナに良好な音像定位を与えることができる。
【0340】
<4.他の実施の形態>
なお上述した第1の実施の形態においては、抑制処理部31(図9)により、動径γ(m)及びγref(m)について、周波数軸で表したときのゲインが−20[dB]から+20[dB]までの範囲に収まるように抑制する場合について述べた。
【0341】
本発明はこれに限らず、例えば抑制値limitvalの値を適宜設定することによりゲインを抑制する範囲を定めるようにしても良く、また上限値と下限値とで異なる抑制値(例えば所定の上限抑制値limitval1及び下限抑制値limitval2等)を用いるようにしても良い。
【0342】
さらには、周波数軸で表したときのゲインに関し、所定の範囲内ではなく、所定のゲイン数以上(例えば所定の下限抑制値limitval2以上)或いは所定のゲイン数以下(例えば所定の上限抑制値limitval1以下)となるように抑制するようにしても良い。
【0343】
また、頭部伝達関数を周波数軸で表したときの周波数に応じて抑制値limitvalの値を相違させるようにしても良い。例えば、周波数を2以上の周波数帯に分割して当該周波数帯ごとに抑制値limitvalの値を設定しても良く、或いは所定の関数等を用いて抑制値limitvalの値を周波数の値に応じて無段階に変化させる等しても良い。
【0344】
特にこの場合、例えば一般的な人間の可聴帯域内と可聴帯域外とに分割し、可聴帯域外において可聴帯域内よりも抑制値limitvalの値を小さくしてゲインの変動幅をさらに抑えるようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0345】
また上述した第1の実施の形態においては、抑制処理部31により、現実音源方向位置の動径γref(m)及び想定音源方向位置の動径γ(m)について、同一の抑制値limitvalを用いて、周波数軸で表したときのゲインを抑制する場合について述べた。
【0346】
本発明はこれに限らず、例えば現実音源方向位置の動径γref(m)と想定音源方向位置の動径γ(m)とで適用する抑制値limitvalを相違させても良く、或いはいずれか一方のみ抑制処理を行うようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0347】
さらに上述した第1の実施の形態においては、抑制処理部31において、頭部伝達関数を極座標系で表したデータにおける動径γ(m)及び動径γref(m)について抑制値limitvalを用いて補正することにより抑制処理を行うようにした場合について述べた。
【0348】
本発明はこれに限らず、例えばX−Y座標系等、頭部伝達関数を種々の形式で表したデータに対し抑制処理を行うようにしても良い。この場合、抑制値limitvalに代えて、当該座標系に対応する形式に変換した抑制値を用い、適切な抑制処理を行うようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0349】
さらに上述した第1の実施の形態においては、テレビジョン装置50により7.1チャンネルの音声信号についての再生処理を行う際に、2重正規化頭部伝達関数を生成してから畳込処理を行うようにした場合について述べた。
【0350】
本発明はこれに限らず、例えばテレビジョン装置50の初期設定操作等において、ユーザが7.1チャンネルの音声信号に対する音声信号処理の設定を行ったとき等に、2重正規化頭部伝達関数を生成して記憶部62等に記憶させておくようにしても良い。この場合テレビジョン装置50は、実際に7.1チャンネルの音声信号が供給された際に、記憶部62から生成済みの2重正規化頭部伝達関数を読み出して畳込処理を行うようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0351】
さらに上述した第1の実施の形態においては、ITU−Rにより規定されたスピーカの配置(図7(A))を想定音源方向位置として、7.1チャンネルマルチサラウンド(すなわち合計8チャンネル)の音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成して再生する場合について述べた。
【0352】
本発明はこれに限らず、例えば図10(B)に示すようにTHX社の推奨するスピーカの配置を想定音源方向位置とし、また5.1チャンネルや9.1チャンネル等といった任意のチャンネル数及びスピーカ配置を想定した音声信号を基に2チャンネルの音声信号を生成して再生するようにしても良い。
【0353】
またスピーカにより実際に音声を再生する位置(現実音源方向位置)の数、すなわち最終的に生成する音声信号のチャンネル数としても、2チャンネルに限らず、例えば4チャンネルや5.1チャンネル等のような任意のチャンネル数としても良い。
【0354】
これらの場合、畳込処理において、各想定音源方向位置を各現実音源方向位置でそれぞれ正規化した2重正規化頭部伝達関数を各音声信号にそれぞれ畳み込むようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0355】
さらに上述した第1の実施の形態においては、想定音源方向位置及び現実音源方向位置が、リスナが正面を向いたときに左右対称であることを利用して左右の対応するチャンネルについては同一の2重正規化頭部伝達関数を用いて畳込処理を行う場合について述べた。
【0356】
本発明はこれに限らず、例えば想定音源方向位置及び現実音源方向位置が左右非対称である場合に、各想定音源方向位置及び各現実音源方向位置に対応する適切な2重正規化頭部伝達関数をそれぞれ生成し、それぞれを用いて畳込処理を行うようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0357】
さらに上述した第1の実施の形態においては、音声信号処理部60の2重正規化処理部61において、現実音源方向位置及び想定音源方向位置それぞれについて、頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性を基に、1段目の測定正規化処理を行った上で2段目の定位正規化処理を行うようにした場合について述べた。
【0358】
本発明はこれに限らず、例えば1段目の測定正規化処理を予め行うことにより、現実音源方向位置及び想定音源方向位置それぞれについての正規化頭部伝達関数を生成して記憶部62に記憶しておき、当該正規化頭部伝達関数を読み出して抑制正規化処理回路30へ供給するようにしても良い。第2の実施の形態においては、1段目の測定正規化処理を行って得られた極座標系のデータのまま記憶部62に記憶させておくようにすれば良い。
【0359】
さらに上述した第1の実施の形態においては、正規化処理回路10及び抑制正規化処理回路30のIR簡略化部23において、インパルスレスポンスXn(m)を80タップに簡略化するようにした場合について述べた。
【0360】
本発明はこれに限らず、例えば160タップや320タップ等、任意のタップ数に簡略化するようにしても良い。この場合、信号処理部60の畳込処理部63を構成するDSP等の演算処理能力に応じて適宜定めるようにすれば良い。またこの場合、タップ数の増加に伴い、測定正規化後のゲインに関し、2重正規化後の周波数特性上に暴れが生じないような変動幅が広がると考えられる。このため、簡略化後のタップ数の増加に応じて、抑制値limitvalの値を小さくする等、抑制処理の内容を適宜変更するようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0361】
さらに上述した第1の実施の形態においては、頭部伝達関数測定システム1の音声信号処理部3において、サンプリング周波数が96[kHz]でなる8192サンプルのディジタルデータを生成するようにした場合について述べた。
【0362】
本発明はこれに限らず、例えば48[kHz]や192[kHz]といった任意のサンプリング周波数でなり、4096サンプルや16384サンプルといった任意のサンプル数でなるディジタルデータを生成するようにしても良い。特にこの場合、最終的に生成する頭部伝達関数のタップ数等に応じて定めるようにすると良い。
【0363】
さらに上述した第1の実施の形態においては、2段目の定位正規化処理において抑制処理を行うようにした場合について述べた。
【0364】
本発明はこれに限らず、例えば頭部伝達関数及び素の状態の伝達特性におけるゲインの変動幅が極めて大きい場合等に、1段目の測定正規化処理においても抑制処理を行うようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0365】
さらに上述した第1の実施の形態においては、畳込処理部63の各クロストークキャンセル処理部63FB等において、遅延処理と2重化正規頭部伝達関数の畳込処理との組み合わせでなるクロストークキャンセル処理を2回行う、すなわち2次のキャンセル処理を行うようにした場合について述べた。
【0366】
本発明はこれに限らず、各クロストークキャンセル処理部63FB等において、スピーカSPの位置や部屋の物理的な制約等に応じて、任意の次数でなるキャンセル処理を行うようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0367】
さらに上述した第1の実施の形態においては、テレビジョン装置50の音声信号処理部60において、畳込処理部63により直接波のみを畳み込むようにした場合について述べた。
【0368】
本発明はこれに限らず、音声信号処理部60において、壁面、天井面及び床面等における反射波についても畳込処理を行うようにしても良い。具体的には、特許文献2に開示されているような畳込処理を行うようにすれば良い。
【0369】
すなわち想定音源方向位置方向からの反射波については、図1に破線で示すように、仮想音像定位させたい位置から壁等の反射箇所で反射された後にマイクロホンへ入射する方向を、反射波についての想定音源方向位置の方向と考える。そして畳込処理としては、想定音源方向位置方向からマイクロホン位置に入射するまでの、反射波についての音波の経路長に応じた遅延を音声信号に施して正規化頭部伝達関数を畳み込むようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0370】
さらに上述した第1の実施の形態においては、2重正規化頭部伝達関数を生成して音声信号に畳み込む音声信号処理装置としてのテレビジョン装置50に本発明を適用するようにした場合について述べた。
【0371】
本発明はこれに限らず、例えば各種頭部伝達関数及びそれぞれに対応する素の状態の伝達特性を基に、2重正規化頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成装置に本発明を適用するようにしても良い。この場合、例えば生成した2重正規化頭部伝達関数をテレビジョン装置やマルチチャンネルアンプ装置等に記憶させておき、当該2重正規化頭部伝達関数を読み出して音声信号への畳込処理を行うようにすれば良い。第2の実施の形態についても同様である。
【0372】
さらに上述した実施の形態においては、抑制処理部としての抑制処理部31と、定位正規化処理部としての正規化処理部20とによって頭部伝達関数生成装置としてのテレビジョン装置50を構成する場合について述べた。
【0373】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる抑制処理部と、定位正規化処理部とによって頭部伝達関数生成装置を構成するようにしても良い。
【0374】
さらに上述した実施の形態においては、頭部伝達関数生成部としての2重正規化処理部61と、畳込処理部としての畳込処理部63と、供給音声信号生成部としての加算処理部64及び後処理部65と、抑制処理部としての抑制処理部31と、定位正規化処理部としての正規化処理部20とによって音声信号処理装置としてのテレビジョン装置50を構成する場合について述べた。
【0375】
本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる頭部伝達関数生成部と、畳込処理部と、供給音声信号生成部と、抑制処理部と、定位正規化処理部とによって音声信号処理装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0376】
本発明は、テレビジョン装置の他、マルチチャンネルアンプ装置やBlu−ray Disc(登録商標)プレーヤ等のように、マルチチャンネルの音声信号を有するコンテンツを再生し、又はその音声をスピーカへ供給する種々の電子機器でも利用することができる。
【符号の説明】
【0377】
1……頭部伝達関数測定システム、SP、SPL、SPR……スピーカ、ML、MR……マイクロホン、DH……ダミーヘッド、10……正規化処理回路、10R……現実正規化処理回路、10A……想定正規化処理回路、11、12……遅延除去頭詰め部、13、14……FFT部、15、16……極座標変換部、20……正規化処理部、21……X−Y座標変換部、22……逆FFT部、23……IR簡略化部、30……抑制正規化処理回路、31……抑制処理部、50、350……テレビジョン装置、60、360……音声信号処理部、61、361……2重正規化処理部、62……記憶部、63……畳込処理部、63F、363F……フロント処理部、64……加算処理部、65……後処理部、H……頭部伝達関数、T……素の状態の伝達特性、HN……正規化頭部伝達関数、HN2……2重正規化頭部伝達関数、γ(m)、γref(m)、γ’(m)、γ’ref(m)……動径、θ(m)、θref(m)……偏角。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
mチャンネル(ただしmは2以上の整数)それぞれについて、所定の現実音源方向位置に設置した音源からリスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、上記リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネル(ただしnは2以上の整数)それぞれについて、所定の想定音源方向位置に設置した音源から上記収音部への直接波の方向に関し、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理部と、
nチャンネルの上記想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの上記現実正規化頭部伝達関数により正規化することにより、m箇所の上記現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所の上記想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理部と
を有する頭部伝達関数生成装置。
【請求項2】
上記抑制処理部は、
上記現実正規化頭部伝達関数の動径及び上記想定正規化頭部伝達関数の動径をそれぞれ抑制する
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項3】
上記抑制処理部は、
上記現実正規化頭部伝達関数の動径及び上記想定正規化頭部伝達関数の動径を、それぞれ所定の上限抑制値以下、所定の下限抑制値以上、又は当該上限抑制値以下且つ当該下限抑制値以上に抑制する
請求項2に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項4】
上記正規化処理部は、
上記正規化の処理として、上記現実正規化頭部伝達関数の動径を上記想定正規化頭部伝達関数の動径により除算すると共に、上記現実正規化頭部伝達関数の偏角から上記想定正規化頭部伝達関数の偏角を減算する
請求項2に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項5】
上記抑制処理部は、
上記現実正規化頭部伝達関数及び上記想定正規化頭部伝達関数における利得を、それぞれ所定の上限抑制値以下、所定の下限抑制値以上、又は当該上限抑制値以下且つ当該下限抑制値以上に抑制する
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項6】
上記抑制処理部は、
上記上限抑制値及び上記下限抑制値を、周波数に応じて相違させる
請求項5に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項7】
上記抑制処理部は、
可聴帯域外において、可聴帯域内よりも上記上限抑制値を低減させる
請求項6に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項8】
上記抑制処理部は、
可聴帯域外において、可聴帯域内よりも上記下限抑制値を増加させる
請求項6に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項9】
上記頭部伝達関数生成部は、
mチャンネルそれぞれについて、上記現実音源方向位置に設置した音源から上記収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化して上記現実正規化頭部伝達関数を生成する現実正規化処理部と、
nチャンネルそれぞれについて、上記想定音源方向位置に設置した音源から上記収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化して上記想定正規化頭部伝達関数を生成する想定正規化処理部と
をさらに有する請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項10】
上記現実正規化処理部は、
上記直接波方向頭部伝達関数及び上記素の状態における伝達特性それぞれを時間軸データから周波数軸データに直交変換しX−Y座標系から極座標系に変換した上で上記正規化し、
上記想定正規化処理部は、
上記直接波方向頭部伝達関数及び上記素の状態における伝達特性それぞれを時間軸データから周波数軸データに直交変換しX−Y座標系から極座標系に変換した上で上記正規化し、
上記定位正規化処理部は、
周波数軸データでなり極座標系で表された上記現実正規化頭部伝達関数を、周波数軸データでなり極座標系で表された上記想定正規化頭部伝達関数で正規化する
請求項9に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項11】
予め生成された上記現実正規化頭部伝達関数及び上記想定正規化頭部伝達関数をそれぞれ記憶する記憶部
をさらに有し、
上記頭部伝達関数生成部の上記抑制処理部は、
上記記憶部からmチャンネルの上記現実正規化頭部伝達関数及びnチャンネルの上記想定正規化頭部伝達関数をそれぞれ読み出して上記利得を抑制する
請求項1に記載の頭部伝達関数生成装置。
【請求項12】
mチャンネル(ただしmは2以上の整数)それぞれについて、所定の現実音源方向位置に設置した音源から上記リスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネル(ただしnは2以上の整数)それぞれについて、所定の想定音源方向位置に設置した音源から上記収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理ステップと、
nチャンネルの上記想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの上記現実正規化頭部伝達関数で正規化することにより、m箇所の現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所の想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理ステップと
を有する頭部伝達関数生成方法。
【請求項13】
m箇所(ただしmは2以上の整数)の現実音源方向位置にそれぞれ設置される電気音響変換部で音響再生したときにn箇所(ただしnは2以上の整数)の想定音源方向位置に音像をそれぞれ定位させるための定位頭部伝達関数を生成する頭部伝達関数生成部と、
上記定位頭部伝達関数をnチャンネルの音声信号にそれぞれ畳み込む畳込処理部と、
上記畳込処理部からのnチャンネルの音声信号を基に、上記m個の電気音響変換部に供給するためのmチャンネルの音声信号を生成する供給音声信号生成部と
を有し、
上記頭部伝達関数生成部は、
mチャンネルそれぞれについて、上記現実音源方向位置に設置した音源から上記リスナの耳の位置に設置した収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した現実正規化頭部伝達関数と、nチャンネルそれぞれについて、上記想定音源方向位置に設置した音源から上記収音部への直接波の方向に関し、リスナ又は所定のダミーヘッドが存在する状態における頭部伝達関数を、上記リスナ又は上記ダミーヘッドが存在しない素の状態における伝達特性により正規化した想定正規化頭部伝達関数とを、それぞれ周波数軸データで表したときの利得を抑制する抑制処理部と、
nチャンネルの上記想定正規化頭部伝達関数をmチャンネルの上記現実正規化頭部伝達関数により正規化することにより2重正規化された定位頭部伝達関数を生成する定位正規化処理部と
を有する音声信号処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate