説明

顔料およびその製造方法

【課題】顔料が本来有する耐光性を備えつつ、不純物である原料化合物が低減された顔料および顔料組成物を提供する。
【解決手段】式(2)で示される顔料の原料である複素環を有するアセトアリーライドの含有量が466ppm未満である、式(2)で示される顔料。


(式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料およびその製造方法に関し、特に、不純物が低減された所定の構造式で示される顔料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷インキや塗料、例えばインクジェットプリンタ用インキ、カラーフィルター用インキにおいては、顔料を微細な状態で分散させたり、耐光性や着色性などの特性の優れた顔料や染料を用いることにより、高い着色力を発揮させ、印刷物や塗加工物の鮮明な色調、光沢等の適性を持たせたり、カラーフィルター等の塗膜の色度、コントラスト等の適性を持たせたりしている。近年、高品質の印刷物等に対する市場の要請が高まり、これに対応したインキ等が強く望まれている。
【0003】
このような市場の要請に対しては、より微細化した顔料等を用いたり、より特性の優れた顔料や染料を用いたりする方法が採用されている。特に後者のように顔料等自体の特性に着目する場合、顔料等自体の特性の他に、製造過程において生成する副産物(不純物)が印刷物等の特性等に大きく影響を及ぼす場合がある。また、顔料等自体の特性は優れているものの、それに含まれる不純物が、人体に対する安全性、環境に対する有害性の面で問題があり、所望の用途に使用できない場合もある。
【0004】
そこで、このような顔料等に含まれる不純物を除去し、顔料や印刷物等の特性を改善する方法が提案されている(特許文献1〜3)。
特許文献1には、染料や顔料等の中間体として用いられるジブロモベンザンスロンに含まれるブロモ化物やタール状物などの不純物をアミド系および/または含イオウ系溶媒を用いて除去し、最終製品である染料や顔料などの品質を改善することが記載されている。特許文献2には、特にフタロシアニン骨格を持つ顔料に含まれ、カラーフィルターの液晶表示素子の表示特性に悪影響を与えるイオン性不純物を、双極子モーメントが2デバイ以上の有機溶剤を用いて除去することが記載されている。特許文献3には、C.I.Pigment Red 150に含まれ、安全性の面で問題があるとされている3−アミノ−4−メトキシベンズアニリドおよび3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド、さらには、インクジェット印刷機のヘッド詰まりの原因となる多価金属イオンを、アルコール類、含塩素有機溶剤などを用いて除去することが記載されている。
【0005】
ところで、黄色顔料は、一般に耐光性が低いことが知られており、高品質の印刷物等へ対応するには、耐光性の高い黄色顔料が求められている。このような高い耐光性を有する黄色顔料として、後述する式(2)で表わされる顔料が知られている。しかしながら、この顔料には、不純物として、原料物質である後述する式(1)あるいは式(3)で示される化合物が含まれることが判明している。この式(1)で示される化合物は、突然変異原性を有する傾向にあること、また、式(2)で示される化合物は環境に対する有害性を有する傾向にあることがと指摘されているため、高い耐光性を有するにもかかわらず、当該顔料を有効に用いることができないでいるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−85764号公報
【特許文献2】特開2000−66022号公報
【特許文献3】特開2010−195909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献1〜3には、特定の顔料若しくは中間体を特定の溶剤などにて洗浄することにより、それらに含まれる不純物が除去され得ることが記載さている。しかしながら、これらの特許文献では、式(2)で示される顔料とは異なる顔料等が用いられ、従って、除去すべき不純物も異なることから、式(2)で示される顔料に含まれる不純物を低減、除去し得る方法は全く知られていなかった。そこで、本発明の目的とするところは、式(2)で示される顔料が本来有する耐光性を備えつつ、不純物である式(1)で示される化合物が低減された顔料および顔料組成物を提供することにある。また、このような顔料を容易に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、特定範囲の温度の、特定の有機溶剤と、式(1)で示される化合物を含有する式(2)で示される顔料(粗原料)とを接触させることで、粗原料に含まれる式(1)で示される化合物を低減、除去可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1]式(1)で示される化合物の含有量が466ppm未満である、式(2)で示される顔料。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【0013】
[2]式(3)で示される化合物の含有量が85ppm未満である前記[1]記載の顔料。
【0014】
【化3】

【0015】
(式(3)中、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【0016】
[3]式(1)で示される化合物の含有量が466ppm未満である、式(2)で示される顔料を含む顔料組成物。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【0020】
[4]式(3)で示される化合物の含有量が85ppm未満である前記[3]記載の顔料組成物。
【0021】
【化6】

【0022】
(式(3)中、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【0023】
[5]前記[1]若しくは[2]記載の顔料又は前記[3]若しくは[4]記載の顔料組成物を含む顔料分散体。
【0024】
[6]前記[5]記載の顔料分散体を含むインク。
【0025】
[7]40℃より高く、沸点以下の温度の、アセトニトリル、アクリロニトリル、ピロリドン類、ホルムアミド類およびスルホキシド類から選択される少なくとも一種の溶剤と、式(1)で示される化合物を含有する式(2)で示される顔料とを接触させる工程を含む式(2)で示される顔料の製造方法。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る、式(2)で示される顔料および式(2)で示される顔料を含む顔料組成物は、不純物である式(1)で示される化合物が低減されており、当該顔料が本来有する耐光性を備えつつ、安全な顔料および顔料組成物を提供することができる。また、他の不純物である式(3)で示される化合物の含有量が低減される場合は、環境に対する有害性も低減されたより安全な顔料、顔料組成物を提供することができる。
また、本発明に係る式(2)で示される顔料の製造方法によれば、不純物が低減された顔料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の上記の式(2)で示される顔料(以下、特にことわらない限り、単に「顔料」と称する。)および顔料組成物は、式(1)で示される化合物(以下、特にことわらない限り、「不純物1」と称する。)の含有量が466ppm未満であることを特徴とする。また、本発明の顔料および顔料組成物では、上記の式(3)で示される化合物(以下、特にことわらない限り、「不純物2」と称する。)の含有量が85ppm未満であることが好ましい。上述したように、本発明の顔料および顔料組成物は、不純物1の含量が低減されていることから、人体に対する安全性が高く、また、不純物2の含量が低減されている場合は、環境に対する有害性を低減することができる。
【0031】
ところで、式(2)で示される顔料は、従来より、例えば次のように製造されてきた。
まず、式(3)で示される化合物を定法に従ってジアゾ化してジアゾ化液を調製する。また、別途、式(1)で示される化合物をカップリング成分として含む反応液を調製する。そして、ジアゾ化液および反応液を混合し、定法に従って、カップリング反応させることにより、式(2)で示される顔料が生成する。そして、生成した顔料を含む混合物をろ過した後、残渣を水洗し、脱水してプレスケーキとし、乾燥して乾燥ブロックとした後、乾燥ブロックを粉砕することで、粉末状の顔料が得られる。しかし、このような方法により製造された顔料には、例えば不純物1が多く含まれることとなり、エームス試験において陽性となる顔料しか得ることができなかった。また、不純物2が多く含まれることが多く、環境に対する有害性の面で問題のある顔料となってしまう場合が多かった。
【0032】
そこで、本発明では、顔料と、特定の温度範囲にある特定の溶剤とを接触させることで、式(1)で示される化合物や式(2)で示される化合物などの不純物を効率的に溶剤に移行させて、顔料に含まれるこれらの不純物を除去することを可能にした。
【0033】
以下に、上記の各不純物を除去することが可能な本発明の顔料の製造方法を説明する。
本発明の顔料の製造方法は、40℃より高く、沸点以下の温度の、アセトニトリル、アクリロニトリル、ピロリドン類、ホルムアミド類およびスルホキシド類から選択される少なくとも一種の溶剤と、式(1)で示される化合物を含有する式(2)で示される顔料とを接触させる工程を含むものである。
【0034】
本発明では、式(2)で示される顔料を、例えば、上述のようにして、予め調製したジアゾ化液および反応液を混合して、カップリング反応させることで得る。そして、得られた不純物を多く含む顔料(以下、「粗原料」と称する場合がある。)と、上記の特定の溶剤と接触させる。その際の顔料(粗原料)の形態としては特に限定はなく、上記のようにしてカップリング反応させて生成した式(2)で示される顔料を含む混合物をろ過した後の残渣、脱水した後のプレスケーキ、乾燥ブロック、乾燥・粉砕後の顔料、などを用いることができる。
【0035】
本発明で用いることができる溶剤は、アセトニトリル、アクリロニトリル、ピロリドン類、ホルムアミド類およびスルホキシド類から選択される少なくとも一種の溶剤である。これらの溶剤を用いることで、効果的に粗原料である不純物を多く含む顔料から、不純物を効率的に除去し、その含有量を低減することができる。
【0036】
上記のピロリドン類としては特に限定はないが、効率的に不純物の除去を行う観点からは、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン(1−ビニル−2−ピロリドン)、N−エチルピロリドン(1−メチル−2−ピロリドン)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
上記のホルムアミド類としては、一般式が、Q1−NQ2−CHO(Q1およびQ2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはフェニル基を示す。)で示されるものであれば、特に限定はないが、最終的に行う水による洗浄を効率的に行う観点からは、水溶性を示すものが好ましく、Q1およびQ2は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基が好ましい。このようなホルムアミド類としては、例えば、Q1およびQ2の少なくとも一方が、アルキル基であるのが好ましく、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
上記のスルホキシド類としては、一般式が、Q3−SO−Q4(Q3およびQ4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはフェニル基を示す。)で示されるものであれば、特に限定はないが、最終的に行う水による洗浄を効率的に行う観点からは、水溶性を示すものが好ましく、Q3およびQ4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基が好ましい。このようなスルホキシド類としては、例えば、Q3およびQ4の少なくとも一方が、アルキル基であるのが好ましく、ジメチルスルホキシドなどを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
上記の各溶剤は、1種用いても良いし、2種以上用いてもよい。
【0040】
本発明では、上記の溶剤と顔料を接触させる際、溶剤の温度は40℃より高く、沸点以下である。これにより、溶剤への不純物の移行を容易に行うことが可能となる。40℃以下の場合は、顔料中の不純物の含量を効率的に低減できない傾向にある。また、溶剤の温度の下限としては、70℃が好ましく、80℃がより好ましく、100℃がさらに好ましく、120℃が特に好ましい。
【0041】
所定温度範囲の溶剤と顔料との接触のさせ方は、特に限定はなく、例えば、(a)液状の溶剤と顔料とを混合する方法、(b)ソックスレー抽出装置を用いる方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
(a)液状の溶剤と顔料とを混合する方法としては、例えば、所定の撹拌容器に溶剤を充填し、そこに粗原料である不純物を多く含む顔料を添加し、混合する方法が挙げられる。撹拌容器としては、特に限定はなく、本技術分野において一般的に使用されるも撹拌槽を用いることができる。また、この際の顔料(固形分重量基準)と溶剤(容積基準)の混合比率(%w/v)は、特に限定はなく、例えば、8〜20%w/vであるが、これらに限定されるものではなく、不純物の除去の程度などを考慮して、適宜決定することができる。
【0043】
また、溶剤の温度は、顔料を添加した後に、上記の温度範囲になるように加熱しても良いし、予め加熱した溶剤に、顔料を添加しても良い。また、前者の場合、昇温速度は、特に限定はないが、操作の安全性の観点からは、2〜5℃/分が好ましい。所定温度の溶剤と顔料とを接触させる時間は、特に限定はなく、不純物の除去の程度などを考慮して、適宜決定することができるが、概ね90〜120分程度である。
【0044】
(b)ソックスレー抽出装置を用いる方法としては、一般的なソックスレー抽出装置を用いることができる。一般的なソックスレー抽出装置は、加熱部と冷却部と抽出部とを備えており、加熱部は、加熱手段によって加熱されるようになっている溶剤を配するための容器を備え、溶剤を前記容器に収容し、これを加熱して、蒸発した溶剤を冷却部に導入して冷却し、液化した溶剤を抽出部に導入して該抽出部に収容されている粗原料である顔料に接触させて、該顔料から不純物を溶剤に溶解させて抽出し、不純物を溶解した溶剤を前記容器に環流させるように構成されている。
【0045】
この(b)の方法では、加熱して蒸発した溶剤を冷却、凝結した溶剤と、粗原料である顔料とを接触させている。この際の溶剤の温度は、ある程度の幅を有する。即ち、凝結した直後の溶剤は、沸点と同程度の温度を有するが、粗原料である顔料に滴下され、一定期間接触させているときには、沸点の約10〜15%程度低下した温度になる。従って、この時の温度が40℃より低くならないような溶剤を使用するか、加温装置を用いる必要がある。また、この方法は、比較的少量の溶剤で、不純物の除去が容易である点で有効である。また、(b)の方法は、(a)の方法では不純物の溶剤への移行が効率的に行えない場合にも有効である。尚、粗原料である顔料と溶剤の使用量比や接触時間は、特に限定はなく、溶剤への不純物の溶出の程度を考慮して、適宜決定することができる。
【0046】
上記のようにして、所定温度範囲の溶剤と粗原料である顔料とを接触させて、溶剤に不純物を移行し、粗原料である顔料から不純物を除去した後、必要に応じて、溶剤と顔料との混合物を冷却した後、フィルタープレス、多機能ろ過機、ヌッチェなどの一般的なろ過装置にてろ過し、不純物が除去された顔料と、粗原料から溶出した不純物を含む溶剤とに分離する。上記の混合物の冷却温度としては、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下にするとよい。また、必要に応じて、所定量の新たな溶剤を用いて、残渣物である顔料をかけ洗いする。この際に使用する溶剤の種類としては、不純物の除去に使用した溶剤と同じ種類の溶剤が好ましい。また、溶剤の使用量としては、特に限定はなく、残渣に残存する、不純物を溶解した溶剤を新たな溶剤に置換ができる程度でよい。
【0047】
その後、純水、脱イオン水などの水を用いて、顔料をさらに洗浄してもよい。また、当該水に替えて、あるいは、水による洗浄後に、溶剤を用いて顔料を洗浄してもよい。この場合の溶剤としては、不純物を除去するために使用する上述の溶剤を用いても良いし、後述する顔料分散体を調製する際に使用する溶媒を用いても良い。
【0048】
本発明では、このようにして水もしくは溶剤で洗浄した後、または、水で洗浄した後に溶剤で洗浄した後の顔料と媒体を含むものを顔料組成物として得ることができる。この顔料組成物は、式(2)で示される顔料と、水及び/又は溶剤とを含むものである。また、当該顔料組成物の性状としては、特に限定はなく、液状、ペースト状など適宜選択することができる。また、顔料組成物中の顔料(固形分)の含有率は、特に限定はなく、例えば、20〜60重量%とすることができる。さらに、必要に応じて、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、防錆剤、保湿剤などを添加しても良い。
尚、このようにして得られた本発明の顔料組成物は、式(1)で示される化合物の含有量が、466ppm未満となっている。また、式(3)で示される化合物の含有量を、85ppm未満とすることができる。
【0049】
また、本発明では、上記のようにして例えば水で洗浄した後、脱水機により脱水し、乾燥機にて乾燥し、得られた乾燥物を公知の粉砕機を用いて粉砕することで、本発明に係る式(2)で示される顔料を得ることができる。この顔料に含まれる式(1)で示される化合物(不純物1)は、466ppm未満となっている。また、式(3)で示される化合物(不純物2)の含有量を、85ppm未満とすることができる。尚、これらの不純物は、例えば、後述する方法で、測定することができる。
【0050】
上記のように、本発明の式(2)で示される顔料は、式(1)で示される化合物のジアゾ化物と式(3)で示される化合物をカップリング反応させることで得ることができる。従って、式(2)で示される化合物の式中のR1〜R3で示される置換基は、式(1)および(3)で示される化合物に由来する。そのため、式(2)で示される顔料を得るにあたっては、式(1)および(3)の置換基の種類および位置、並びに、それによる特性を考慮することになる。
【0051】
ここで、本発明の顔料では、式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。置換基がいずれの場合であっても、顔料は優れた耐光性を有する。
【0052】
また、式(3)で示す化合物の環境への有害性の観点からは、R2およびR3は、共に−Clが好ましい。
【0053】
本発明では、R1〜R3の種類、配置は、顔料の特性、式(1)と式(2)の化合物の反応性、毒性、環境への有害性などを考慮して、適宜決定することができる。
【0054】
上記のようにして得られた本発明の顔料および顔料組成物は、不純物1の含有量が466ppm未満である。これにより、安全な顔料および顔料組成物を提供することができることは既に述べた通りであるが、本発明では、人体に対する安全性を簡易的に判断する指標としてAmes(エームス)試験を用いる。この試験は、薬事法、化学物質審査規制法、労働安全衛生法、農薬取締法などにおいて実施が求められる一般的な試験である。
【0055】
エームス試験は、細菌を用いて化学物質の有する変異性を検出する試験である。この試験の概略は次のとおりである。まず、遺伝子操作によりアミノ酸が存在しなければ生育できない状態に変異させたネズミチフス菌を用い、この変異させたネズミチフス菌に、変異原性を有する化学物質を作用させると、細胞内のDNAに突然変異を引き起こし、アミノ酸がなくても増殖できるようになり、コロニーを形成する。そして、このコロニー数と化学物質を作用させない場合のコロニー数を比較することにより、変異原性の有無を知ることができるというものである。
【0056】
また、変異原性の有無の判断基準は、一般的に、試験の成立条件として陰性対照の自然復帰変異コロニー数と陽性対照の復帰変異コロニー数が背景データの範囲内であることとし、この試験成立条件を満たした上で、サンプルでの復帰変異コロニー数が、陰性対照の2倍以上で、かつ被検物質(例えば不純物1)の濃度に依存して増加した場合に陽性と判定される。
【0057】
本発明では、式(1)で示される化合物の含有量が466ppm未満である場合、エームス試験が陰性となることが期待できるが、エームス試験が陰性となることがより期待できる観点からは、300ppm未満が望ましく、100ppm未満がより望ましく、10ppm未満がさらに望ましい。
【0058】
次に、本発明の顔料分散体について説明する。
本発明の顔料分散体は、上記の顔料または顔料組成物、媒体のほか、必要に応じて、分散剤、他の顔料などを含む。
【0059】
顔料分散体に用いる顔料、または、顔料組成物に含まれる顔料、並びにこれ以外の顔料の粒子径は、発色性や、保存安定性の観点から、平均一次粒子径が50nm以上200nm以下であることが好ましい。一次粒子径は、電子顕微鏡で測定することができる。また一次粒子径は、ミキサー、サンドミル、ニーダー等の分散機や、分級機を用いて適宜制御することができる。
【0060】
また、本発明の顔料分散体中の顔料の含有量は、特に限定はないが、保存安定性や、後述するようなインクとして使用することを考慮して、10〜20重量%(固形分)であるのが好ましい。
【0061】
本発明で用いることができる、上記式(2)で示される顔料以外の顔料としては、本発明の効果を阻害しない安全でインク用として使用可能なものを適宜選択して用いることができる。
【0062】
前記媒体としては、最終的に得られるインクの用途に応じて適宜選択することができ、有機系溶媒、水性溶媒何れを用いても良い。
有機系溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールアセテート類、飽和炭水素類、不飽和炭化水素類、環状飽和炭化水素類、環状不飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類等の有機溶剤が広く利用できる。
水性溶媒としては、水及び/又は水溶性の有機溶媒が挙げられる。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水や超純水を用いることができる。水溶性の有機溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、水よりも蒸気圧の小さいもの、例えば、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールエーテル類、ケトン類、エステル類、低級アルコキシアルコール類、アミン類、アミド類、複素環類、スルホキシド類、スルホン類などが挙げられる。また、カビやバクテリア等の発生を防ぐ目的で紫外線処理、過酸化水素水処理等により滅菌されたものを用いても良い。
【0063】
また、本発明の顔料分散体に含まれる媒体の含有量は、特に限定はないが、概ね、顔料100重量部に対して500〜1500重量部とするとよい。
【0064】
前記の分散剤としては、特に限定はなく、公知のものが全て使用可能であり、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤であって顔料の分散剤として用いられているものを全て使用することができる。例えば、アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルを挙げることができ、ノニオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルポリオキシエチレンアルキルアミン等を挙げることができる。
これらの分散剤は、顔料の全重量に対して10〜70重量%、好ましくは15〜40重量%の範囲で使用することができる。
【0065】
また、本発明では、分散剤として、分散能を有する水溶性樹脂を使用することもできる。使用し得る水溶性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂を挙げることができ、具体的にはスチレン−アクリル酸共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合物の塩、スチレン−マレイン酸共重合物の塩、スチレン−無水マレイン酸共重合物の塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物の塩などを挙げることができる。また、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、ヒドロキシエチルアクリレートなどのモノマーが共重合されてもよい。更に、これらは、単独又は複数の組み合わせで添加してもよい。これらの水溶性樹脂は、水性のインクジェットプリンタ用インクに使用する場合は、一旦溶媒に溶けてしまえば水性インクジェット用プリンタの使用温度又は室温で、顔料の析出やゲル化が生じないため好適である。
これらの水溶性樹脂は、顔料の全重量に対して10〜100重量%、好ましくは15〜60重量%の範囲で使用することができる。
【0066】
また、上記の各成分以外に、他の任意成分として、例えば、表面張力調整剤又は浸透剤、湿潤乾燥防止剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、防錆剤、保湿剤などを含有することができる。これらは、必要に応じて、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本発明の顔料分散体は、保存安定性の観点から、pHが7〜10であるのが好ましい。また、初期粘度は、保存安定性の観点から、2〜30mPa・sであるのが好ましい。
【0068】
本発明の顔料分散体の製造方法は特に限定はなく、例えば、本発明の顔料または顔料組成物、媒体、その他の任意成分を投入し、(高速)ディスパー等で分散する方法等が挙げられる。さらに、必要に応じて、ビーズミルやロールミル等で分散してもよい。そして、最終的に、得られた顔料分散体に含まれ得る一定以上の大きさの粒子を除去するため、フィルターろ過や遠心分離を行う。また、フィルターろ過を行う際は、必要に応じて、顔料分散体に含まれる粒子の粒子径を所定粒子径になるように調整するようにフィルターの孔径(メッシュの大きさ)を適宜選択してもよい。もっとも、フィルターろ過は、顔料分散体の段階で行ってもよいが、インクを調製する段階で行っても良いし、顔料分散体およびインクの調製時のそれぞれの段階で行っても良い。
【0069】
次に、本発明のインクについて説明する。
本発明のインクは、上記の顔料分散体を含むものであれば、その構成に限定はなく、インクの用途に応じて、さらに、インク用媒体、インク用界面活性剤などを含有することができる。
【0070】
本発明のインクにおいて使用可能なインク用媒体およびインク用界面活性剤は、上述の顔料分散体において使用可能なものを、用途に応じて適宜選択することができる。また、インク用媒体の使用量は、インクの用途に応じて適宜決定することができるが、概ね、インク全体に対して、5〜30重量%添加するとよい。インク用界面活性剤の使用量は、同じく、インクの用途に応じて適宜決定することができるが、概ね、インク全体に対して、0.1〜5重量%添加するとよい。
【0071】
また、本発明のインクには、必要に応じて、湿潤乾燥防止剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、防錆剤、保湿剤などの任意成分を含有することができる。これらの任意成分は、必要に応じて、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらのインク中の含量は、各成分の機能を発揮する範囲で適宜選択することができる。
【0072】
本発明のインクは、上記のように、不純物の含有量が低減された顔料または顔料組成物を用いて得られた顔料分散体を含むものであるため、各種の紙類、樹脂製の基材、表面処理された金属類や木材などへ着色用のインクとして好適に使用することができる。また、本発明のインクを用いて着色されたものは、人体に直接に接触するような用途に使用可能である。従って、本発明のインクは、例えば、インクジェットプリンタ用インクとして好適である。
【0073】
本発明のインクの一例として、インクジェットプリンタ用インクの製造方法を簡単に説明すると、上記の顔料分散体に、インク用媒体、インク用界面活性剤、防腐剤などの任意成分を添加し、混合、撹拌する。混合、撹拌の方法は特に限定はなく、一般的なミキサーを用いても良いし、顔料の分散性をより向上させるために、ビーズミルを用いてもよい。さらに、必要に応じて、インクに含まれ得る一定以上の大きさの粒子を除去するため、フィルターろ過などを行ってもよい。
【0074】
このようにして得られたインクジェットプリンタ用インクは、例えば、光沢(印字濃度:OD)、彩度C*が、従来から用いてきた顔料と概ね同様の値を示し、式(2)で示される顔料自体が従来より有する特性を保持したものである。
【実施例】
【0075】
(製造例)
<ジアゾ化液の調製>
500mLの容器にイオン交換水120mL、塩酸18g、酢酸6.8g、ポリオキシアルキレンアルキルアミン2gを投入して、混合、撹拌した。次に、2,5−ジクロロアニリン16gを投入した後、氷を加えて液温を約5℃に調節し、亜硝酸ナトリウム6gを投入して容器内の液温が10℃以下に保持しつつ、30分間撹拌してジアゾ化液を得た。
【0076】
<反応液1の調製>
300mLの容器にイオン交換水200mL、2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾール23.5gを投入して30分間撹拌した。その後、水酸化カリウム5.2gを添加して30分間撹拌し、反応液を得た。
【0077】
<顔料の合成>
上記のように調製したジアゾ化液をろ紙(No.5C)でろ過し、ろ液を2Lの容器に投入した。ろ液にスルファミン酸1g、酢酸ナトリウム15gを投入した後、液温を25℃、pHを2.0〜3.0に調整した。液温を25℃に保持しつつ、上記の反応液1を投入して60分間撹拌した。次に、液温を90℃に昇温してから30分間撹拌した後、30%水酸化ナトリウム水溶液を投入してpHを8.5にした。最終的に得られた反応液をろ過し、残渣をイオン交換水にて洗浄した後、80℃にて乾燥した。乾燥させた残渣をサンプルミルで粉砕し、粉末状の下式(4)で示される顔料(粗原料)を得た。
【0078】
【化9】

【0079】
(実施例1)
製造例にて得られた粗原料を105℃で加熱乾燥した。この粗原料50gを、450mLのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入した後、撹拌しながら、80℃まで昇温した後(昇温時間は約1時間)、80℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下になるまで冷却してから、ヌッチェでろ過した。ろ別した残渣を、150mLのNMP(常温)でかけ洗いした。
NMPにてかけ洗いした後の残渣を、さらに、イオン交換水2Lにて洗浄し、ろ別した残渣を、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物として得た。
その後、105℃で加熱乾燥させたものを、サンプルミルで粉砕し、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0080】
(実施例2)
製造例にて得られた粗原料とNMPとを撹拌した時の温度を105℃にした以外は、実施例1と同様にして、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0081】
(実施例3)
製造例にて得られた粗原料とNMPとを撹拌した時の温度を120℃にした以外は、実施例1と同様にして、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0082】
(実施例4)
溶剤としてNMPに替えてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた以外は、実施例3と同様にして、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0083】
(実施例5)
溶剤としてNMPに替えてジメチルスルホキシドを用いた以外は、実施例3と同様にして、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0084】
(実施例6)
製造例にて得られた粗原料を105℃で加熱乾燥した。この粗原料20gを円筒ろ紙に入れ、300mLのアセトニトリルを用い、ソックスレー抽出装置を用いて、定法に従って、粗原料から不純物を抽出した。粗原料に接触するアセトニトリル(沸点82℃)の温度は概ね76℃〜82℃であり、抽出時間は40時間とした。
円筒ろ紙内に、式(4)で示される顔料とアセトニトリルを含むペースト状の顔料組成物を得た。
その後、105℃で加熱乾燥させたものを、サンプルミルで粉砕し、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0085】
(比較例1)
製造例にて得られた粉末状の粗原料を105℃で加熱乾燥し、粉末状の黄色顔料を得た。
【0086】
(比較例2)
製造例にて得られた粗原料とNMPとを撹拌した時の温度を40℃にした以外は、実施例1と同様にして、式(4)で示される顔料と水イオン交換水を含むペースト状の顔料組成物、式(4)で示される粉末状の黄色顔料を得た。
【0087】
(評価)
<2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾールの測定>
実施例1〜6および比較例1〜2で得られた粉末状の黄色顔料200mgとアセトニトリル水溶液(容積比:アセトニトリル/水=70/30)を混合して30分間振とうした後、さらに超音波処理機により30分間超音波を照射した。その後、5000rpmで30分間遠心分離を行い、上澄みを測定用サンプルとした。
下記の条件にて高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、得られた測定サンプル中の2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾールを測定し、顔料(固形分)を基準として算出した。算出結果を表1に示す。
装置:Waters社製、Alliance 2695
分離カラム:GL Science社製、Inertsil ODS−3、5μm、4.6×150mm column
移動相:Acetonitrile/Water(70/30)の溶液
カラム温度:30℃
流速:0.5ml/min
成分検出波長:299.3nm
【0088】
<2,5−ジクロロアニリンの測定>
アセトニトリル水溶液に替えて、メタノールを用いた以外は、<2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾールの測定>と同様にして、測定用サンプルを得た。
下記の条件にて高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、得られた測定サンプル中の2,5−ジクロロアニリンを測定し、顔料(固形分)を基準として算出した。算出結果を表1に示す。
装置:Waters社製、Alliance 2695
分離カラム:Waters社製、Atlantis dC18、4.6×150mm
移動相:Methanol/10mM Formate buffer pH3.0(50/50)の溶液
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
成分検出波長:240nm
【0089】
<Ames試験>
実施例および比較例で得られた洗浄液をサンプルとして用い、日本国内のガイドライン(薬事法、労働安全衛生法、化学物質審査規制法、農薬取締法など)で示されている方法に準拠して、Ames試験を行った。試験結果を表1に示す。
尚、判定基準は、試験の成立条件として陰性対照の自然復帰変異コロニー数と陽性対照の復帰変異コロニー数が背景データの範囲内であることとし、この試験成立条件を満たした上で、サンプルでの復帰変異コロニー数が、陰性対照の2倍以上で、かつ被検物質である2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾールの濃度に依存して増加した場合に陽性と判定した。
【0090】
【表1】

【0091】
(実施例7)
実施例1で調製した顔料18g、分散剤(BASF社製、「ジョンクリル JDX6639」)18.6g、防腐剤(ケイ・アイ化成株式会社製、「バイオキラーL」)0.18g、イオン交換水63.3gを容器に投入し、ディスパーで10分間撹拌した。次いで、φ0.5mmのジルコニアビーズ460gを投入して30℃で3時間撹拌して、分散体を得た。得られた分散体を5μmフィルターにてろ過した。ろ液に顔料濃度(固形分)が15重量%になるようにイオン交換水を添加し、顔料分散体を調製した。
得られた顔料分散体26.7g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル10g、ジエチレングリコール15g、界面活性剤(エアープロダクツジャパン株式会社製、「サーフィノール(登録商標)465」)0.8g、イオン交換水47.5gを容器に投入し、ディスパーで撹拌し、インクジェットプリンタ用インクを調製した。
【0092】
(比較例3)
実施例1で調製した顔料に代えて、製造例にて得られた顔料(粗原料)を用いた以外は、実施例7と同様にして、顔料分散体およびインクジェットプリンタ用インクを調製した。
【0093】
(評価)
<粘度測定>
粘度計(東機産業製、TV−22型粘度計)を用い、実施例7および比較例3において調製した顔料分散体の調製直後の粘度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0094】
<pH測定>
実施例7および比較例3にて調製した顔料分散体のpHを、pH計にて測定した。測定結果を表2に示す。
【0095】
<光沢ODの測定>
実施例7および比較例3にて調製したインクジェットプリンタ用インクを用い、市販のインクジェットプリンタにより、いわゆる「ベタ印刷」を行った。記録紙媒体は光沢紙(セイコーエプソン株式会社製、<光沢>)を使用した。
印字濃度(OD)は、濃度計(グレタグマクベス社製、「GRETAG(登録商標) RD−19」)を使用し、単一のサンプルについてODを5点測定し、それらを平均した値を採用した。測定結果を表2に示す。
【0096】
<彩度C*の測定>
実施例7および比較例3にて調製したインクジェットプリンタ用インクを用い、市販のインクジェットプリンタにより、いわゆる「ベタ印刷」を行った。記録紙媒体は光沢紙(セイコーエプソン株式会社製、<光沢>)を使用した。この際、デューティ(Duty)を段階的に変更してベタ印刷した。
デューティ(Duty)を段階的に変更する毎に、分光測色計(コニカミノルタ社製、「CM−3700d」)を用いて、a*、b*を測定し、下式により彩度C*を算出した。算出したC*のうちの最大値を表2に示す。
*={(a*2+(b*20.5
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、実施例7で得られた顔料分散体は、初期粘度やpHの値から、保存安定性が期待でき、また、実施例7で得られたインクは、インクジェット用として必要とされる光沢OD(概ね1.3以上が良いとされる。)と、彩度C*(概ね75以上が良いとされる。)を備えていることから、実施例7の顔料分散体およびインクは何れも概ね従来(比較例3)と同様の特性を有しており、しかも、従来品に相当する比較例3とは異なり、不純物が低減された安全性に優れたものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物の含有量が466ppm未満である、式(2)で示される顔料。
【化1】

【化2】

(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【請求項2】
式(3)で示される化合物の含有量が85ppm未満である請求項1記載の顔料。
【化3】

(式(3)中、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【請求項3】
式(1)で示される化合物の含有量が466ppm未満である、式(2)で示される顔料を含む顔料組成物。
【化4】

【化5】

(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【請求項4】
式(3)で示される化合物の含有量が85ppm未満である請求項3記載の顔料組成物。
【化6】

(式(3)中、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)
【請求項5】
請求項1若しくは2記載の顔料又は請求項3若しくは4記載の顔料組成物を含む顔料分散体。
【請求項6】
請求項5記載の顔料分散体を含むインク。
【請求項7】
40℃より高く、沸点以下の温度の、アセトニトリル、アクリロニトリル、ピロリドン類、ホルムアミド類およびスルホキシド類から選択される少なくとも一種の溶剤と、式(1)で示される化合物を含有する式(2)で示される顔料とを接触させる工程を含む式(2)で示される顔料の製造方法。
【化7】

【化8】

(式(1)および式(2)中、R1は、−H、−0CH3または−OC25を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に−Hまたは−Clを示す。)



【公開番号】特開2013−82807(P2013−82807A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223460(P2011−223460)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000180058)山陽色素株式会社 (30)
【Fターム(参考)】