説明

顔料分散剤、顔料組成物、顔料着色剤およびカラーフィルター用塗布液

【課題】画像記録用着色剤などの製造に際し、これらのインキなどの着色剤中に分散した顔料粒子の凝集を防止し、流動性に優れ、安定した上記インキなどの製造を可能にする顔料分散剤を提供すること。
【解決手段】フタルイミドメチル基を導入した、イオン性基を有するキノフタロン化合物からなることを特徴とする顔料分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、顔料組成物、顔料着色剤およびカラーフィルター用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、顔料を、塗料、グラビアインキ、オフセットインキなどのビヒクルに混合分散させる際には、顔料を安定してビヒクル中に分散させることが難しく、ビヒクル中に一旦分散した微細な顔料粒子は、そのビヒクル中で凝集する傾向があり、その結果、顔料が分散されたビヒクルの粘度の上昇、あるいは該顔料が分散されたビヒクルを使用したインキや塗料の着色力の低下や塗膜のグロスの低下などを生ずることとなる。
【0003】
従来、液晶カラーディスプレイや撮像素子などの製造に使用されるカラーフィルター(以下CFと称する)は、感光性樹脂液中に赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の三色の顔料をそれぞれ分散させたCF用塗布液を、CF用基板にスピンコート法により塗布して着色皮膜を形成し、次いで該着色皮膜をフォトマスクを介して露光および現像して着色皮膜をパターン化し、CF用基板に所望の画素を形成させる方法で主に作成されている。
【0004】
CFの製造に使用される主な顔料としては、緑色顔料はフタロシアニングリーン、例えば、C.I.ピグメントグリーン(以下PGと称す)36、PG7など;赤色顔料はジケトピロロピロール(以下DPPと称す)系レッド、例えば、C.I.ピグメントレッド(以下PRと称す)254、アンスラキノン系レッド、例えば、PR177、アゾ系レッド、例えば、PR242など;青色顔料はフタロシアニンブルー、例えば、C.I.ピグメントブルー(以下PBと称す)15:6などが一般的に用いられる。
【0005】
しかしながら、これらの顔料の色相と液晶ディスプレイに要求される色特性には差があり、緑色顔料および赤色顔料には黄色顔料、例えば、C.I.ピグメントイエロー(以下PYと称す)138、PY139、PY150などが補色として少量併用され、青色顔料には紫色顔料、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(以下PVと称す)23などが補色として少量使用されている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−187469号公報
【特許文献2】特開2004−91497公報
【特許文献3】特開2005−112915公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、CFのさらなる性能向上の要請から、着色画素の透明性の改善や、着色画素の透過光のコントラストのアップや、着色画素の顔料濃度を高める必要が生じてきた。しかしながら、通常の顔料の分散で得られたCF用塗布液では、顔料の分散性向上による着色画素の透明性の改良や、顔料濃度が高くなることによる粘度の増大および貯蔵安定性の低下を防止することは困難であり、これらの改善が要望されている。
【0008】
本発明の目的は、印刷インキ(オフセットインキ、グラビアインキなど)、各種塗料、顔料捺染剤、CF用塗布液などの画像表示用着色剤、電子写真用乾式トナーまたは湿式トナー、インクジェット記録用インキ、熱転写記録用インキ、筆記具用インキなどの画像記録用着色剤の製造に際し、これらのインキなどの着色剤中に分散した顔料粒子の凝集を防止し、流動性に優れ、安定した上記インキなどの製造を可能にする顔料分散剤を提供することである。
【0009】
本発明者らは、顔料濃度が高いCF用塗布液の調製に際して、前記の問題点を解決し、CF用塗布液の色品位の向上および低粘度化を可能にする顔料分散剤を開発すべく鋭意研究した結果、特定のキノフタロン化合物が、より少ない量で優れた顔料の分散剤として作用し、CF用塗布液の低粘度化を達成でき、かつ貯蔵時の該塗布液の増粘やゲル化を防止するとともに、CFとして最も重要な特性の一つである着色画素の透明性も向上させることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成は以下の通りである。
1.下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする顔料分散剤。


【0011】
(ただし、式中Xは、イオン性基であり、R1は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、無置換または置換のアリール基であり、R2は、水素原子または水酸基であり、R3は、ハロゲン原子であり、pは、0〜4の整数を表し、R4は、水素原子、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ基またはアルキル基であり、qは、0.5〜2の数であり、rは、0.5〜2の数である。)
【0012】
2.イオン性基が、スルホン基またはその塩の基である前記1に記載の顔料分散剤。
【0013】
3.下記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物に、フタルイミドメチル化合物を反応させ、反応生成物にイオン性基を導入することを特徴とする前記1に記載の顔料分散剤の製造方法。
【0014】

(ただし、式中のR1、R2、R3およびpは前記と同意義を有する。)
【0015】
4.下記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物に、イオン性基を有するフタルイミドメチル化合物を反応させることを特徴とする前記1に記載の顔料分散剤の製造方法。
【0016】

(ただし、式中のR1、R2、R3およびpは前記と同意義を有する。)
【0017】
5.顔料および顔料分散剤を含有してなる顔料組成物において、前記顔料分散剤が前記1または2に記載の顔料分散剤であることを特徴とする顔料組成物。
6.さらに顔料分散剤のイオン性基のカウンターのイオン性基を有する重合体を含有する前記5に記載の顔料組成物。
【0018】
7.顔料分散剤の配合割合が、顔料100部に対して0.05〜40質量部である前記5に記載の顔料組成物。
8.前記5に記載の顔料組成物と皮膜形成材料とを含有してなることを特徴とする顔料着色剤。
【0019】
9.画像表示用着色剤、画像記録用着色剤、印刷インキ用着色剤、筆記用インキ用着色剤、プラスチック用着色剤、顔料捺染用着色剤あるいは塗料用着色剤である前記5に記載の顔料着色剤。
10.前記8または9に記載の顔料着色剤を使用してなることを特徴とするCF用塗布液。
【発明の効果】
【0020】
本発明の顔料分散剤は、各種有機顔料を、CF用塗布液などの画像表示用着色剤、画像記録用着色剤、塗料、印刷インキなどの分散媒体中に高濃度かつ低粘度に安定に分散させることができる。本発明の顔料組成物は、特に化学構造や物性の異なる複数の顔料を混合して使用され、しかも粘度が低く、長期保存安定性が要求されるCF用塗布液の着色剤として有用である。例えば、CF用塗布液の顔料として、PG36とPY138とを組み合わせて使用した場合には、本発明の分散剤は双方の顔料に対して優れた分散安定性を与える効果があることから、優れた分光透過率特性を有し、鮮明で冴えた、透明感の高い、しかも耐光性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐水性などの諸堅牢性に優れた緑色画素を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に好ましい実施形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の顔料分散剤は、前記一般式(1)または(2)で表される化合物であり、本発明の顔料分散剤は種々の顔料に対する優れた親和性を有しており、広範囲の顔料に使用可能である。また、本発明の顔料分散剤は優れた顔料分散効果を有していることより、種々の用途において使用される着色剤の製造に使用することができる。
【0022】
前記一般式(1)または(2)においてXで表されるイオン性基は、アニオン性基、カチオン性基またはそれらの塩の基である。アニオン性基としては、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、カルボキシル基などが挙げられ、塩を形成する対イオンとしてはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、1級、2級、3級アミンのイオン、第4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0023】
カチオン性基としては1級、2級、3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジン基、ピリジニウム基、ジアルキル(該アルキル基は炭素数1〜30、以下同様である。)アミノ基、シクロアルキル−アルキルアミノ基、ジシクロアルキルアミノ基、芳香族アミノ基、窒素や酸素、硫黄を含む複素環のアミノ基などが挙げられ、塩を形成する対イオンとしてはハロゲンイオン、リン酸イオン、硫酸イオンなどの無機イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸エステルイオン、リン酸エステルイオンなどの有機酸イオンが挙げられる。上記イオン性基として好ましい基はスルホン基またはその塩の基である。
【0024】
前記下記一般式(1)または(2)において、Xであるイオン性基の個数を表す「r」は整数である必要はなく、「r」の数が異なる化合物(「r」が0の場合も含む)の混合物である場合も含む。すなわち、「r」が整数ではないときは、「r」が異なる化合物の混合物を意味し、例えば、「r」が0.5の場合にはイオン性基が導入されていない化合物とイオン性基が導入されている化合物との混合物を、「r」が1.5の場合は、イオン性基が1個の化合物と2個の化合物との混合物を意味する。また、フタルイミドメチル基の個数を示す「q」も同様である。
【0025】
前記一般式(1)および(2)におけるハロゲン原子とは、塩素原子または臭素原子を意味し、アルキル基とは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの直鎖または分岐のある炭素数が1〜8程度のアルキル基を示し、アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラニル基、フェナントリル基などの芳香族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていても構わない。置換基としては、例えば、ハロゲン基、水酸基、アルキル基などが挙げられるが、特に限定されない。
【0026】
前記一般式(1)あるいは(2)で表される本発明の顔料分散剤は、下記の方法によって得ることができる。
(1)下記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物に、フタルイミドメチル化合物を反応させ、反応生成物にイオン性基を導入する方法。
【0027】

(ただし、式中のR1、R2、R3およびpは前記と同意義を有する。)
(2)前記キノフタロン化合物に、イオン性基を有するフタルイミドメチル化合物を反応させる方法。
(3)前記キノフタロン化合物を後述のホルムアルデヒド発生剤と反応させてメチロール基を導入しておき、これにイオン性基を有していてもよいフタルイミド化合物と反応させる方法。
上記(1)および(2)の方法が好ましい。
【0028】
前記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物は、置換基を有していてもよい無水フタル酸と置換基を有していてもよいキナルジンから従来公知の方法で容易に合成でき、また、市場からPY138などとして入手して使用することができる。
【0029】
また、上記キノフタロン化合物に反応させるフタルイミドメチル化合物は、特許文献1に記載の方法などより、少なくとも1個の水素原子を有し、他の置換基を有してもよいフタルイミドとホルマリン、トリオキサンあるいはパラホルムアルデヒドから容易に合成できるN−ヒドロキシメチルフタルイミド化合物あるいはその誘導体であり、例えば、好ましい具体例としては、N−ヒドロキシメチルフタルイミド、N−ヒドロキシメチル−3−ニトロフタルイミド、N−ヒドロキシメチル−4−ニトロフタルイミド、N−ヒドロキシメチル−3−メチルフタルイミド、N−ヒドロキシメチル−4−メチルフタルイミドなどが挙げられる。
【0030】
上記キノフタロン化合物と、イオン性基を有していてもよいN−ヒドロキシメチルフタルイミド化合物との反応は、両者を脱水縮合によって行うことができ、脱水縮合が可能な方法はいずれも有効であるが、特に好ましい方法は両者を濃硫酸(例えば、95乃至99質量%)中に溶解し、約10乃至100℃程度の温度で1乃至24時間反応させる方法である。この方法においてN−ヒドロキシメチルフタルイミド化合物の使用量は、前記一般式(1)または(2)において、「q」が0.5〜2になる量である。
【0031】
ここで「q」は整数である必要はなく、「q」の数が異なる化合物(「q」が0の場合も含む)の混合物である場合も含む。「q」が0.5よりも低い数であると、顔料分散剤としての効果が不十分である場合があり、一方、「q」が2.0よりも高い数でフタルイミドメチル基を導入しようとすると、反応条件を厳しくせざるを得ず、最終的に得られる顔料組成物の色のくすみの原因になるなどの不都合が生じる場合がある。
【0032】
以上の如くして得られたフタルイミドメチル置換キノフタロン化合物に必要に応じてイオン性基を導入することで、本発明の分散剤が得られる。イオン性基がスルホン基である場合を代表例として説明する。スルホン基は上記フタルイミドメチル置換キノフタロン化合物を、発煙硫酸などのスルホン化剤でスルホン化することによって導入することができる。スルホン基の導入は、予め前記フタルイミドメチル化合物に導入しておいてもよい。導入されるスルホン基の数(「r」)は0.5〜2.0である。「r」が0.5よりも低い数であると、顔料分散剤としての効果が不十分である場合があり、一方、「r」が2.0よりも高い数でイオン性基を導入しようとすると、反応条件を厳しくせざるを得ず、最終的に得られる顔料組成物の色のくすみの原因になると同時に、顔料分散剤の溶解性が上がり過ぎて分散性が低下するなどの不都合が生じる場合がある。
【0033】
上記導入されたスルホン基とアミン塩を形成するアミンとしては、例えば、(モノ、ジまたはトリ)アルキルアミン類、置換または未置換のアルキレンジアミン類、アルカノールアミン類、アルキルアンモニウムクロライドなどが挙げられるが、特に4級アンモニウム塩が好ましい。また、スルホン基と金属塩を形成する金属としては、例えば、Li、Na、Kなどのアルカリ金属、Ca、Ba、Al、Mn、Sr、Mg、Niなどの多価金属が挙げられる。
【0034】
本発明の顔料組成物は、顔料と上記顔料分散剤とからなる。顔料分散剤の顔料に対する配合割合は、顔料100質量部に対して、0.05〜40質量部の割合が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10質量部の割合である。顔料分散剤の配合割合が少なすぎると、目的とする分散剤の効果が十分に得られにくくなる。また、顔料分散剤の配合割合が多すぎると、多く用いただけの効果が得られず、逆に、その結果、得られた顔料組成物を使用した塗料やインキのビヒクルの諸物性の低下をもたらし、さらには、顔料分散剤自体の持つ色によって分散させるべき顔料の色相が大きく変化してしまう。
【0035】
本発明の顔料分散剤の使用によって分散効果が得られる顔料としては、例えば、溶性・不溶性アゾ顔料、高分子量アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノフタロン顔料、メチン・アゾメチン顔料、アゾメチンアゾ顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、金属錯体顔料が挙げられる。これらの中でも特にPR177、PR242、PR254、PY138、PY139、PY150、PG7、PG36、ポリ(12〜16)ブロム銅フタロシアニングリーン顔料から選ばれる顔料が好ましい。
【0036】
本発明の顔料組成物は、顔料と顔料分散剤とを従来公知の方法により混合して製造することができ、製造方法は特に限定されない。例えば、顔料紛末と顔料分散剤の粉末とを分散機を使用せずに混合する方法;顔料と顔料分散剤とをニーダー、ロール、アトライター、横型ビーズミルなどの各種分散機で機械的に混合する方法;水系または有機溶剤系などの顔料のサスペンションに、本発明の顔料分散剤を溶解または微分散させた液を添加および混合し、顔料表面に顔料分散剤を均一に沈着させる方法;硫酸などの強い溶解力をもつ溶媒に顔料および顔料分散剤を溶解した後、水などの貧溶媒によって共析出させる方法などがある。このように、顔料組成物を調製する場合、顔料分散剤は、溶液、スラリー、ペーストおよび紛末のどの形態で使用してもよく、いずれの形態でも本発明の効果を発揮させることができる。
【0037】
本発明の顔料着色剤は、上記の顔料組成物および皮膜形成材料としての重合体、オリゴマーおよび/またはモノマーを含有してなり、画像表示用着色剤、画像記録用着色剤、印刷インキ用着色剤、筆記用インキ用着色剤、プラスチック用着色剤、顔料捺染用着色剤、塗料用着色剤などに使用される。特に画像表示材料としてCF用塗布液などの画像表示方法に使用され、また、画像記録剤、例えば、インクジェットインクあるいは電着記録液、電子写真方式現像剤としてそれぞれインクジェット記録方法あるいは電着記録方式、電子写真方式などの画像記録方法に使用される。
【0038】
本発明の顔料着色剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば、次のような方法が挙げられる。
(1)顔料と顔料分散剤とを予め公知の方法で混合し、得られた顔料組成物をビヒクルなどに添加してビヒクル中に分散させる方法。
(2)ビヒクルなどに顔料を分散させる際、ビヒクルなどに顔料と顔料分散剤を所定の割合で別々に添加してビヒクル中に分散させる方法。
(3)顔料と顔料分散剤をそれぞれビヒクルなどに別々に分散させた後、得られた各分散液を所定の割合で混合し、分散する方法。
(4)ビヒクルなどに顔料を分散させて得られた分散液に、顔料分散剤を所定の割合で添加して顔料を分散させる方法。
などがあり、いずれの方法においても目的とする顔料分散効果を有する顔料着色剤が得られる。
【0039】
さらに、上記(1)〜(4)の方法において、顔料分散剤のイオン性基のカウンターのイオン性基(対イオン性基)を有する重合体(高分子分散剤)を添加して分散させる方法が好ましい。より効果的には、上記(1)または(2)の方法で、さらに対イオン性基を有する重合体と併用する分散方法が望ましい。
【0040】
本発明の顔料着色剤の用途の例を、画像表示材料の1例のCF用塗布液について説明する。CF用塗布液の皮膜形成性材料としては、従来公知のCF用塗布液に使用される皮膜形成性重合体が用いられる。また、液媒体としては有機溶剤、水、有機溶剤と水の混合物が使用される。また、必要に応じて従来公知の添加剤、例えば、分散助剤、平滑化剤、密着化剤などの添加剤を塗布液に添加することができる。
【0041】
上記皮膜形成材料を含む塗布液中の皮膜形成材料に対する顔料組成物の添加質量割合は、皮膜形成材料100質量部に対し、5質量部乃至500質量部の範囲が好ましい。皮膜形成材料を含む塗布液としては、感光性の皮膜形成材料を含む塗布液または非感光性皮膜形成材料を含む塗布液が使用される。感光性の皮膜形成材料を含む塗布液としては、例えば、紫外線硬化性インキ、電子線硬化インキなどに用いられる感光性の皮膜形成材料を含む塗布液が挙げられ、非感光性皮膜形成材料を含む塗布液としては、例えば、凸版インキ、平版インキ、グラビアインキ、スクリーンインキなどの印刷インキに使用するワニス、常温乾燥および焼き付け塗料に使用するワニス、電着塗装に使用するワニス、熱転写リボンに使用するワニスなどが挙げられる。
【0042】
感光性皮膜形成材料としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂などおよび不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などが挙げられ、さらに反応性希釈剤として各種のモノマーを加えることができる。
【0043】
また、感光性樹脂を含む塗布液にベンゾインエーテル、ベンゾフェノンなどの光重合開始剤を加え、従来公知の方法により練肉することにより、光硬化性の感光性塗布液とすることができる。また、上記の光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を使用して熱硬化性塗布液とすることができる。
【0044】
非感光性の皮膜形成材料の例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸系共重合体の水溶性塩、水溶性アミノポリエステル系樹脂などが挙げられる。
【実施例】
【0045】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中、「部」または「%」とあるのは特に断らない限り質量基準である。
実施例1
<N−ヒドロキシメチルフタルイミド(HMPI)の合成>
温度計と冷却管を付した三口フラスコに、水1,000部とフタルイミド294部を攪拌しながら、35%ホルマリン300部を投入した。加熱して90〜100℃にすると内容物は完全に溶解し、そのまま30分攪拌した。その後、室温まで冷却すると白色の生成物が析出した。この析出物を濾過し、冷水2,000部で洗浄し、室温で減圧乾燥して344.8部のHMPIを得た。
【0046】
<PY138のフタルイミドメチル化物>
PY138の41.7部を95%濃硫酸450部に添加し、室温で攪拌しながら完全に溶解させた。これに、31.9部のHMPIを添加し、その後80〜85℃で7時間反応させた。冷却後、反応混合物を3,500部の氷水中に析出させ、濾過および水洗し、70℃で24時間乾燥させて50.7部の下記のPY138のフタルイミドメチル化物(5)を得た。
【0047】

【0048】
<化合物(5)のスルホン化>
上記化合物(5)50部を20%発煙硫酸250部に溶解し、その後80℃で6時間反応させた。冷却後、反応混合物を氷水中に析出させ、濾過および水洗し、下記で表される顔料分散剤(A)のペースト280部(純量56部)を得た。この水ペーストを乾燥させ、硫黄の元素分析により1分子あたり平均1.1個のスルホン基が導入されている顔料分散剤(A)56部を得た。
【0049】

【0050】
実施例2
実施例1のPY138の代りにテトラクロロキノフタロンを使用した以外は実施例1と同様にして下記で表される顔料分散剤(B)55部を得た。
【0051】

【0052】
実施例3
実施例1の顔料分散剤(A)のペースト90部(純量18部)に水240部を加え25℃で1時間攪拌した。これにテトラブチルアンモニウムクロライド7部を加え、1時間攪拌し、濾過、水洗および乾燥し、下記で表される顔料分散剤(C)17部を得た。
【0053】

【0054】
実施例4
実施例3において顔料分散剤(A)の代りに顔料分散剤(B)を使用した以外は、実施例3と同様にして下記で表される顔料分散剤(D)18部を得た。
【0055】

【0056】
実施例6(顔料組成物(1)の調製)
水1,000部にPY138を19.0部加えて分散させ、スラリー化する。そこに、水50部に実施例1で得られた顔料分散剤(A)1.0部および苛性ソーダ0.1部を分散させてスラリー化したものを加える。その混合スラリーを70℃まで加熱し、pHを4〜5に調整する。20分間撹拌した後、濾過、乾燥、粉砕して、本発明の顔料組成物(1)を19.9部得た。
【0057】
実施例7(顔料組成物(2)の調製)
水1,000部にPY138を19.0部加えて分散させ、スラリー化する。そこに、水50部に実施例2で得られた顔料分散剤(B)1.0部、テトラブチルアンモニウムクロライド0.9部および苛性ソーダ0.1部を分散させてスラリー化したものを加える。その混合スラリーを70℃まで加熱し、pHを4〜5に調整する。20分間撹拌した後、濾過、乾燥、粉砕して、本発明の顔料組成物(2)を20部得た。
【0058】
実施例8(顔料組成物(3)の調製)
顔料分散剤(A)の代わりに、実施例3で得られた顔料分散剤(C)を用いる以外は、実施例6と同様の操作を行なって、顔料組成物(3)を得た。
【0059】
実施例9(顔料組成物(4)の調製)
顔料分散剤(A)の代わりに、実施例4で得られた顔料分散剤(D)を用いる以外は、実施例6と同様の操作を行なって、顔料組成物(4)を得た。
【0060】
実施例10(顔料組成物(5)の調整)
水1,000部にPY138を19.0部加えて分散させ、スラリー化する。そこに、水50部に実施例1で得られた顔料分散剤(A)1.0部および苛性ソーダ0.1部を分散させてスラリー化したものを加える。30分間攪拌した後、塩化カルシウム(6水塩)3.0部を水50部に溶解した溶液を加え、顔料分散剤(A)のカルシウム塩を形成させ、その混合スラリーを70℃まで加熱し、pHを4〜5に調整する。20分間攪拌した後、濾過、乾燥および粉砕して本発明の顔料組成物(5)を19.9部得た。
【0061】
実施例11〜15
それぞれ前記顔料組成物(1)〜(5)を用い、顔料分散剤の効果を評価するために、下記配合(1)のCF用塗布液を作製した。
配合(1)
・顔料組成物(1)〜(5) 20.0部
・ポリアクリル酸樹脂 30.0部
・シンナー 50.0部
上記配合成分を容器に入れ、ジルコニアビーズを加えてペイントコンディショナーにて分散させ、CF用塗布液を作製した。
【0062】
実施例16〜20
それぞれ前記顔料組成物(1)〜(5)およびカチオン性高分子分散剤を用い、カチオン性高分子分散剤の併用の効果を評価するために、下記配合(2)のCF用塗布液を作製した。
配合(2)
・顔料組成物(1)〜(5) 20.0部
・カチオン性高分子分散剤 4.0部
・ポリアクリル酸樹脂 30.0部
・シンナー 46.0部
上記配合成分を容器に入れ、ジルコニアビーズを加えてペイントコンディショナーにて分散させ、CF用塗布液を作製した。
【0063】
比較例1
顔料組成物(1)20.0部の代わりに、PY138を20.0部用いること以外は、実施例16と同様の操作を行なって、顔料分散剤を添加していないCF用塗布液を作製した。
【0064】
前記実施例のCF用塗布液の流動性と展色面のグロスを比較例の場合と比較した。塗布液の流動性および展色面のグロスは、下記の方法に従って測定し、比較例の場合と相対評価を行なった。
「流動性」:B型粘度計を用い、室温(25℃)、30rpmの条件で測定した。
「グロス」:バーコーター(巻線の太さ0.45mm)を使用して、ポリプロピレンフィルムに展色し、展色面のグロスを目視およびグロスメーターにて比較した。なお、グロスの高いものを良好とし、評価結果を下記のように表示した。
○:良好
△:やや良好
×:不良
以上の結果を表1に示す。
【0065】

【0066】
表1に示したように、本発明の顔料分散剤を用いたCF用塗布液は、比較例の場合と比較して、高流動特性を示し、カチオン性高分子分散剤を併用した場合はさらに高流動特性を示し、本発明の顔料分散剤の効果が認められた。
【0067】
さらに、本発明の顔料分散剤を添加した顔料組成物を、オフセットインキなどの印刷インキ、ニトロセルロースラッカー、メラミンアルキッド塗料などの各種塗料、塩化ビニール樹脂などの合成樹脂の着色などに使用したが、いずれの場合も顔料は凝集を起こさず、良好な分散性を示した。また、最近、高分散性が特に要求されている電子写真用乾式トナーまたは湿式トナー、インクジェット記録用インキ、熱転写記録用インキ、筆記具用インキなどの製造に本発明の顔料分散剤を用いたが、これらの場合にも本発明の顔料分散剤による優れた分散性の効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の顔料分散剤は、各種有機顔料を、CF用塗布液などの画像表示用着色剤、画像記録用着色剤、塗料、印刷インキなどの分散媒体中に高濃度かつ低粘度に安定に分散させることができる。本発明の顔料組成物は、特に化学構造や物性の異なる複数の顔料を混合して使用され、しかも粘度が低く、長期保存安定性が要求されるCF用塗布液の着色剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする顔料分散剤。


(ただし、式中Xは、イオン性基であり、R1は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、無置換または置換のアリール基であり、R2は、水素原子または水酸基であり、R3は、ハロゲン原子であり、pは、0〜4の整数を表し、R4は、水素原子、1〜3個のハロゲン原子、ニトロ基またはアルキル基であり、qは、0.5〜2の数であり、rは、0.5〜2の数である。)
【請求項2】
イオン性基が、スルホン基またはその塩の基である請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
下記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物に、フタルイミドメチル化合物を反応させ、反応生成物にイオン性基を導入することを特徴とする請求項1に記載の顔料分散剤の製造方法。

(ただし、式中のR1、R2、R3およびpは前記と同意義を有する。)
【請求項4】
下記一般式(3)または(4)で表されるキノフタロン化合物に、イオン性基を有するフタルイミドメチル化合物を反応させることを特徴とする請求項1に記載の顔料分散剤の製造方法。

(ただし、式中のR1、R2、R3およびpは前記と同意義を有する。)
【請求項5】
顔料および顔料分散剤を含有してなる顔料組成物において、前記顔料分散剤が請求項1または2に記載の顔料分散剤であることを特徴とする顔料組成物。
【請求項6】
さらに顔料分散剤のイオン性基のカウンターのイオン性基を有する重合体を含有する請求項5に記載の顔料組成物。
【請求項7】
顔料分散剤の配合割合が、顔料100部に対して0.05〜40質量部である請求項5に記載の顔料組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の顔料組成物と皮膜形成材料とを含有してなることを特徴とする顔料着色剤。
【請求項9】
画像表示用着色剤、画像記録用着色剤、印刷インキ用着色剤、筆記用インキ用着色剤、プラスチック用着色剤、顔料捺染用着色剤あるいは塗料用着色剤である請求項5に記載の顔料着色剤。
【請求項10】
請求項8または9に記載の顔料着色剤を使用してなることを特徴とするカラーフィルター用塗布液。

【公開番号】特開2008−95007(P2008−95007A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279997(P2006−279997)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】