説明

顔料分散液、該顔料分散液を用いたインクジェット用インク、インクカートリッジ及び画像形成装置

【課題】インクジェット用として好適なカーボンブラック顔料分散液、該顔料分散液を用いた、高い画像濃度が得られ、吐出安定性及び保存安定性の優れたインクジェット用インク、並びに該インクを用いたインクカートリッジ及び画像形成装置の提供。
【解決手段】(1)少なくともカーボンブラックと分散剤と水を含み、前記分散剤が、ビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとを反応させて得られる重量平均分子量が1.3×10〜1.8×10のビスフェノール系縮合物である顔料分散液。(2)前記顔料分散液を含有するインクジェット用インク。(3)前記インクジェット用インクを容器中に収容したインクカートリッジ20。(4)前記インクジェット用インクを吐出させて画像を形成する吐出手段を有する画像形成装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用として好適な顔料分散液、該顔料分散液を用いたインクジェット用インク、該インクを用いたインクカートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用に用いられる顔料インクは、一般に、水、アルコール類等の水性溶媒中に顔料及び分散剤を予備分散させた分散物を調製した後、該分散物をサンドミル等のメディア型分散機を用いて所定の程度まで分散させる分散工程を行い、次いで、所定の濃度に希釈することにより調製されている。
顔料系の水系インクでは疎水性の顔料を分散させるため、界面活性剤、水溶性樹脂等の分散剤を用いるのが一般的であるが、得られる画像の信頼性が極めて悪いという課題がある。そこで、画質向上を目的として、造膜性の樹脂微粒子をインクに添加する技術が知られている。しかし、複数の成分を微細かつ安定に長期分散させるのは困難であり、これらの微粒子を安定に分散させるために界面活性剤等の分散剤を多く用いると、インクタンクやヘッド内での気泡の発生、画質の劣化などの問題が生じる。また、分散性を向上させる目的で、顔料の表面を親水基に変える方法、親水基を含有した樹脂を用いる方法などが検討されているが、これらの方法は、それぞれ単独では安定であっても、異なる種類を混ぜた場合には分散が不安定になり、保存安定性が悪化するという問題がある。この他にも、分散性を向上させるための種々の手段が提案されているが、カラー顔料インクに関しては高い画像濃度が得られるものの、黒色顔料インクについては未だ十分満足できるものはなく、更なる改良、開発が望まれているのが現状である。
一方、本発明で用いるのと同じビスフェノール系縮合物は公知であるが(特許文献1)、カーボンブラックを用いた黒色顔料インクの分散剤として利用することについては記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来の問題を解決したインクジェット用として好適なカーボンブラック顔料分散液、該顔料分散液を用いた、高い画像濃度が得られ、吐出安定性及び保存安定性の優れたインクジェット用インク、並びに該インクを用いたインクカートリッジ及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の<1>〜<4>の発明によって解決される。
<1> 少なくともカーボンブラックと分散剤と水を含み、前記分散剤が、ビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドを反応させて得られる重量平均分子量が1.3×10〜1.8×10のビスフェノール系縮合物であることを特徴とする顔料分散液。
<2> <1>に記載の顔料分散液を含有することを特徴とするインクジェット用インク。
<3> <2>に記載のインクジェット用インクを容器中に収容したことを特徴とするインクカートリッジ。
<4> <2>に記載のインクジェット用インクを吐出させて画像を形成する吐出手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、従来の問題を解決したインクジェット用として好適なカーボンブラック顔料分散液、該顔料分散液を用いた、高い画像濃度が得られ、インクジェットヘッドの目詰まりが改良され、吐出安定性及び保存安定性の優れたインクジェット用インク、並びに該インクを用いたインクカートリッジ及び画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の画像形成装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
(顔料分散液)
本発明の顔料分散液は、少なくともカーボンブラックと分散剤と水を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
−カーボンブラック−
前記カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ガスブラック及びファーネスブラックのいずれかが好ましい。
カーボンブラックの平均一次粒子径は10.0〜30.0nm、BET比表面積は100〜400m/gであることが好ましい。より好ましくは、平均一次粒子径が15.0〜20.0nm、BET比表面積が150〜300m/gである。
ここで、平均一次粒子径は、例えば電子顕微鏡写真を用いて粒子を撮影し、撮影画像の粒子径と数から算出することができる。また、BET比表面積は、窒素吸着によるBET法によって測定することができる。
【0008】
−分散剤−
前記分散剤としては、ビスフェノール類、アミノベンゼンスルホン酸及びホルムアルデヒドを反応させて得られるビスフェノール系縮合物を用いる。
本発明で用いるビスフェノール類としては、下記化1で表される化合物が好ましい。
【化1】

式中、Xは−SO−、−CO−、−S−、−O−、−CH−、−C(CH−、又は共有結合である。
【0009】
これらビスフェノール類の具体例としては、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4′−(パーフルオロイソプロピリデン)ジフェノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4′−ジヒドロキシビフェニル、及びこれらの異性体等が挙げられ、これらは併用しても良い。
本発明で用いるアミノベンゼンスルホン酸の具体例としては、3−アミノベンゼンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸、及びこれらの異性体が挙げられる。
ホルムアルデヒドの使用形態は特に限定されず、通常はホルムアルデヒド水溶液を用いる。
【0010】
本発明で用いるビスフェノール系縮合物は、ビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドを反応させることによって容易に得ることができる。反応させる際には、反応を促進させるためにアルカリを用いることが好ましい。
好ましいアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
本発明の顔料分散液では、重量平均分子量が1.3×10〜1.8×10の範囲のビスフェノール系縮合物を用いる。1.8×10を超えると凝集性が強くなって分散性が悪化し、1.3×10未満ではカーボンブラックに対する吸着性が低下して分散性が悪化する。
【0011】
上記重量平均分子量のビスフェノール系縮合物は、ビスフェノール類、アミノベンゼンスルホン酸、アルカリのモル当量をそれぞれA、B、Cとして、A:B:C=0.45:1.00:0.95〜0.55:1.00:1.25の割合の範囲、好ましくはA:B:C=0.48:1.00:1.00〜0.52:1.00:1.15の割合の範囲となるように反応容器に仕込み、これらの全物質の濃度が25〜35重量%となるように水を添加して水性条件とした後、次の2段階で反応させることにより得られる。
<第1段階の反応>
反応系を100℃以上、好ましくは100℃に保ち、ホルムアルデヒド1.0〜1.2モルを0.5時間掛けて滴下した後、ビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸とを3〜4時間縮合反応させて、ビスフェノール類1個とアミノベンゼンスルホン酸が略2個縮合した構成単位を生成させる。
この反応では、上記構成単位を生成させるのに必要なホルムアルデヒドのみを滴下し、反応系の温度を100℃以上に保っているので、主としてビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸の縮合反応のみを行わせることができる。この場合、過剰のホルムアルデヒドを添加したり、反応温度を100℃未満とした場合には、生成物が高分子化するために、後の反応において分子量を制御することが困難となる。
【0012】
<第2段階の反応>
反応系を80〜85℃に保ち、第1段階で得られた生成物にホルムアルデヒド0.7〜0.9モルを0.5時間掛けて滴下し、5〜20時間反応させる。この場合、滴下するホルムアルデヒドの量は、第1段階で用いたホルムアルデヒドとの合計量が1.95モル以下、特に1.85モル以下となるように調整することが好ましい。
この反応は、第1段階の反応で得られた構成単位が、ビスフェノール部分で互いに縮合反応する高分子化反応である。反応系を80〜85℃に保つことにより、重量平均分子量が1.3×10〜1.8×10の範囲のビスフェノール系縮合物を得ることができる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって容易に求めることができる。
【0013】
本発明で用いるビスフェノール系縮合物の分散能力が優れている理由は明らかでないが、該縮合物が特定範囲の重量平均分子量を有しているので凝集性が小さく、分散質に対する吸着性が高い上に、高負電荷を有していることから分散媒体の負電荷との反発力によって分散質を分散させるためであると推定される。
本発明で用いる水溶性ビスフェノール系縮合物は、分散能力が優れているので、カーボンブラックの水系スラリーを高濃度化することが容易となる。
本発明の顔料分散液は、前記分散剤が重量基準でカーボンブラック1に対し0.005〜1の割合で含まれるのが好ましく、カーボンブラック1に対し0.01〜0.5で含まれるのがより好ましい。前記分散剤の含有量が、0.005以上であれば、本発明の目的を達成しやすく、顔料分散液及びインクの保存安定性も確保でき、その結果、ノズルの目詰まりが発生しにくくなる傾向があり、1以下であれば、顔料分散液及びインクの粘度が高くなりすぎてインクジェット方式での印字が困難になるようなこともない。
【0014】
本発明の顔料分散液では、上記分散剤を採用することにより、顔料分散液のカーボンブラックの体積平均粒子径(D50)を70〜180nm、該カーボンブラックの粒度分布における粒子径標準偏差を前記D50の1/2以下とすることができ、これにより、インクジェット用インクに用いたときに、画像濃度が高く、吐出安定性及び保存安定性が良好な顔料分散液を提供できる。なお、上記カーボンブラックの体積平均粒子径は、粒度分布計(日機装社製、UPA)を用い、23℃、55%RHの環境下で測定したものである。
顔料分散液におけるカーボンブラック濃度は、顔料分散液全体に対して5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。カーボンブラック濃度が5重量%以上であれば生産性が劣ることもなく、50重量%以下であれば、顔料分散液の粘度が高くなりすぎて分散が困難になることもない。
【0015】
本発明の顔料分散液には、カーボンブラック、分散剤、水以外に、必要に応じて水溶性有機溶剤、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、防腐剤等の各種添加剤を添加することができる。
前記水溶性有機溶剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;N−メチルピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン誘導体;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0016】
本発明の顔料分散液は、カーボンブラック、分散剤、水、及び必要に応じて各種添加剤をサンドミル、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、ナノマイザー、ホモジナイザー等の公知の分散機で湿式分散処理することによって得ることができる。
ここで、湿式分散処理とは、カーボンブラック、分散剤、水、及び必要に応じて添加する水溶性有機溶剤などの混合物を、分散機により、いわゆる湿式分散方式で微粉砕し分散する処理のことを意味する。
本発明の顔料分散液は、特に顔料系インクジェット用インクとして好適に使用することができる。
【0017】
(インクジェット用インク)
本発明のインクジェット用インクは、本発明の顔料分散液を含有し、水、水溶性有機溶剤、界面活性剤、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
インク中のカーボンブラックの含有量は、インク全体の処方にもよるが、1〜20重量%が好ましく、3〜15重量%がより好ましい。カーボンブラックの含有量が低すぎなければ、画像濃度が低すぎて印字の鮮明さに欠けるようなことはなく、カーボンブラックの含有量が高すぎなければ、インクの粘度が高くなりすぎたりノズルの目詰まりが発生しやすくなることもない。
【0018】
前記水溶性有機溶剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の水溶性溶剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。具体的には、上記顔料分散液と同様のものを用いることができる。
水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量に対して0〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましく、10〜35重量%が更に好ましい。
前記界面活性剤としては、例えばノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、などが用いられる。
前記その他の成分としては、例えば消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤、比抵抗調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、粘度調整剤などが挙げられる。
【0019】
本発明のインクジェット用インクには、保存安定性、画像の耐擦過性等を向上させるために水分散性樹脂粒子を配合するのが好ましい。水分散性樹脂粒子とは、連続相が水であり、分散相が樹脂成分である樹脂エマルジョンを意味する。分散相の樹脂成分としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。本発明のインクジェット用インクにおいては、ポリウレタン樹脂エマルジョンがインクの分散安定化剤としての効果が大きいので特に好ましい。
ポリウレタン樹脂エマルジョンには、比較的親水性の通常のポリウレタン系樹脂を外部に乳化剤を用いてエマルジョン化したものと、樹脂自体に乳化剤の働きをする官能基を共重合等の手段で導入した自己乳化型のものがある。
本発明のインクジェット用インクに好ましく用いられるアニオン性自己乳化型のポリウレタン樹脂エマルジョンは後者に属する。その際、顔料の固着性・分散安定性や分散剤との各種組み合わせにおいて、常に分散安定性に優れているアニオン性のポリウレタン系樹脂としては、ポリエステル型、ポリカーボネート型よりもエーテル型である方が好ましい。理由は定かではないが、非エーテル型は耐溶剤性に弱いものが多く、インクの高温保存時に粘度が高くなりやすい。
【0020】
前記エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンのうち、酸価が40〜120、分子量が500〜50000、及び一次粒子の平均粒子径が20nm以下、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下のものが好適である。
とりわけガスブラックタイプのカーボンブラッックは、一次粒子の平均粒子径が小さい場合に、エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンとのマッチングが良く、分散が安定するようである。特に、一次粒子の平均粒子径を10nm以下にすることによって、印刷を継続している途中でインクジェットプリンターは作動しているのにインクが吐出しなくなるトラブルを防止する効果が高まる。
インクが吐出しなくなった場合には、インクジェット記録装置のインクヘッドのノズル孔を含むインク流路を掃除すれば印刷再開可能となるが、これでは実用性を阻害することになる。なお、本発明でいうエーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンの平均粒子径は、23℃、55%RHの環境において、日機装製マイクロトラックUPAで測定した値である。
【0021】
上記エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンのガラス転移点は−50〜150℃の範囲が好ましい。より好ましくは−10〜100℃の範囲である。理由は定かではないが、ガラス転移点が150℃を超えるとエーテル系ポリウレタン樹脂の成膜性はガラス状で硬いが、顔料粒子とエーテル系ポリウレタン樹脂が画像支持体に同時に着弾し、できた印字部分の耐擦過性は意外にもろく、一方、150℃以下ではポリウレタン状で柔らかいが耐擦過性に優れたものができる。しかしながら、−50℃未満となると、膜が柔らかすぎて耐擦過性は劣る。以上の点から、同じ添加量では、ガラス転移点が−50〜150℃の範囲の方が耐擦過性の効果が大きい。なお、本発明でいう樹脂のガラス転移点は、DSC(示差走査熱量計)、TMA(熱機械分析)のいずれかの測定法によるものである。
【0022】
上記エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンは、室温以下の最低造膜温度を有するものであることが好ましく、より好ましくは最低造膜温度が25℃以下のものである。エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョンの膜形成を室温以下、特に25℃以下で行なえば、画像形成された画像支持体を特に加熱又は乾燥等の処理を行なわなくても、紙繊維との結着が自動的に進行するので好ましい。
ここで、「最低造膜温度(MFT)」とは、エーテル系ポリウレタン樹脂エマルジョン粒子を水に分散させて得られた水性エマルジョン粒子をアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。最低造膜温度未満の温度領域では白色粉末状となる。
「造膜性」とは、樹脂微粒子を水に分散させて樹脂エマルジョンの形態としたとき、この樹脂エマルジョンの連続層である水成分を蒸発させていくと、樹脂の皮膜が形成されることを意味する。この樹脂皮膜は、インク中の顔料を画像支持体表面に強固に固着する役割を担う。これによって、耐擦性及び耐水性に優れた画像が実現できると考えられる。
【0023】
本発明のインクジェット用インクは、特に制限なく公知の方法により製造することができ、例えば本発明の顔料分散液、水、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤等を攪拌混合し、フィルター、遠心分離装置等で粗大粒子をろ過し、必要に応じて脱気することによって得られる。
本発明のインクジェット用インクは、後述するように該インクを収容するインクカートリッジに好適に用いることができる。また、後述するように、本発明のインクジェット用インクを用いて、紙等の画像支持体に吐出させる画像形成装置としてのインクジェット記録装置により、画像形成することができる。
【0024】
(インクカートリッジ)
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクジェット用インクを容器中に収容したものである。容器には特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを有するもの、プラスチックケースなどが好適に挙げられる。
【0025】
(画像形成装置)
本発明の画像形成装置は、本発明のインクジェット用インクを吐出させて画像を形成する吐出手段を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
印字(吐出)する方法としては、連続噴射型、又はオンデマンド型が挙げられる。前記オンデマンド型としては、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式等が挙げられる。
【0026】
ここで、本発明のインクカートリッジ及び画像形成装置(インクジェット記録装置)について、図1を参照して説明する。
図1において、本発明のインクジェット用インクが収容されるインクカートリッジ20は、キャリッジ18内に収納される。ここで、インクカートリッジ20は便宜上複数設けられているが、複数である必要はない。このような状態でインクジェット用インクが、インクカートリッジ20からキャリッジ18に搭載された液滴吐出ヘッド18aに供給される。なお、図1において、吐出ノズル面は下方向を向いた状態であるため見えない状態であるが、この吐出ノズルからインクジェット用インクが吐出される。
キャリッジ18に搭載された液滴吐出ヘッド18aは、主走査モータ26で駆動されるタイミングベルト23によって、ガイドシャフト21、22にガイドされて移動する。
一方、特定のコート紙(画像支持体)はプラテン19によって液滴吐出ヘッド18aと対面する位置に置かれる。なお、図1中、1はインクジェット記録装置、2は本体筐体、16はギア機構、17は副走査モータ、25はギア機構をそれぞれ示す。
【0027】
本発明のインクジェット用インク又はインクカートリッジを収容したインクジェット記録装置を用いて画像支持体上に画像を形成すると、オンデマンドで画像支持体上に印刷された画像形成体が得られる。また、インクジェット用インクの補充はインクカートリッジ単位で取り替えることが可能である。
前記画像支持体としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが挙げられる。これらの中でも、紙が特に好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、電子顕微鏡写真を用いて粒子を撮影し、撮影画像の粒子の径と数から算出することで測定し、カーボンブラックのBET比表面積は、窒素吸着によるBET法によって測定した。
【0029】
<分散剤液1の作製>
攪拌装置、還流装置、ホルムアルデヒド水溶液滴下装置及び温度調節装置を備えた反応容器に、下記の物質を下記の量仕込んだ。

・4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン 0.5モル 〔125.2重量部〕
・4−アミノベンゼンスルホン酸 1.00モル〔173.2重量部〕
・水酸化ナトリウム 1.10モル〔 44.0重量部〕
・水 〔745.0重量部〕

得られた混合液を100℃に加熱し、ホルムアルデヒド1.00モル(37重量%水溶液81.1重量部)を0.5時間掛けて滴下した後、100℃で3時間反応させた(第1段階の反応)。
次いで、反応系を80℃に冷却した後、ホルムアルデヒド0.70モル(37重量%ホルムアルデヒド水溶液56.8重量部)を0.5時間掛けて滴下し、更に80〜85℃で16時間反応させて縮合物の水溶液を得た(第2段階の反応)。
得られた縮合物の固形分濃度を10重量%に調整して、分散剤液1とした。
GPCを用いて測定した上記縮合物の重量平均分子量は1.5×10であった。なおGPCによる重量平均分子量の測定は、下記の条件に従って行った。

・カラム :KB−80M+KB−803+KB−802.5(昭和電工社製)
・カラム温度:55℃
・溶離液 :0.05モル硝酸ナトリウム水溶液とアセトニトリルの体積比が8:2
の溶液
・流速 :1.0ml/分
・分子量標準試料 :ポリエチレングリコール
・検出器 :示差屈折計

【0030】
〔実施例1〕
<顔料分散液(A)>
・カーボンブラック ・・・150重量部
(NIPEX160−IQ、degussa社製、ガスブラック)
・分散剤液1(10重量%固形分) ・・・45重量部
・蒸留水 ・・・805重量部

上記の混合物をプレミックス後ディスクタイプのビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製、KDL型バッチ式)で、直径0.3mmジルコニアビーズを用いて周速10m/s、液温10℃で5分間分散した後、遠心分離機(久保田商事社製、Model−3600)で粗大粒子を遠心分離し、表1に示す顔料分散液(A)を作製した。
【0031】
<インク(a)>
上記の方法で得られた顔料分散液(A)を用いて下記処方によりインクを調製し、30分間攪拌した後、孔径0.8μmのメンブランフィルターでろ過し真空脱気して実施例1のインク(a)を作製した。

・顔料分散液A(顔料濃度15重量%) 53.3重量%
・グリセリン 8.5重量%
・3−メチル−1,3−ブタンジオール 17.0重量%
・2―エチル−1,3−ヘキサンジオール 2.0重量%
・2−ピロリドン 2.0重量%
・アニオン性自己乳化型のエーテル系ポリウレタン 2.84重量%
(W5661、三井化学ポリウレタン社製) (酸価:48、重量平均分子量:
20000、平均粒子径:11.0nm、濃度:35.2%)
・フッ素系界面活性剤 2.5重量%
(FS−300、DuPont社製、有効成分40重量%)
・防腐防カビ剤(プロキセルLV、アベシア社製) 0.05重量%
・アミン系有機pH調整剤 0.6重量%
・純水 残部

【0032】
〔実施例2〕
カーボンブラックを、NIPEX150(degussa社製、ガスブラック)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、表1に示す顔料分散液(B)及びインク(b)を作製した。
【0033】
〔実施例3〕
カーボンブラックを、color Black FW18(degussa社製、チャンネルブラック)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、表1に示す顔料分散液(C)及びインク(c)を作製した。
【0034】
〔実施例4〕
カーボンブラックを、color Black S170(degussa社製、チャンネルブラック)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、表1に示す顔料分散液(D)及びインク(d)を作製した。
【0035】
〔実施例5〕
カーボンブラックを、FW2(degussa社製、チャンネルブラック)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、表1に示す顔料分散液(E)及びインク(e)を作製した。
【0036】
〔比較例1〕
分散剤として下記化2で表されるPOE−β−ナフチルエーテルを使用し、下記の配合とした点以外は、実施例1と同様にして表1に示す顔料分散液(F)及びインク(f)を作製した。
【化2】

<顔料分散液(F)>
・カーボンブラック ・・・150重量部
(NIPEX160−IQ、degussa社製、ガスブラック)
・分散剤液(10重量%固形分) ・・・150重量部
・蒸留水 ・・・700重量部

【0037】
〔比較例2〕
分散剤をナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物(竹本油脂社製、パイオニンA−45−PN)に変え、下記の配合とした点以外は、実施例1と同様にして、表1に示す顔料分散液(G)及びインク(g)を作製した。

<顔料分散液(G)>
・カーボンブラック ・・・150重量部
(NIPEX160−IQ、degussa社製、ガスブラック)
・分散剤液(10重量%固形分) ・・・ 95重量部
・蒸留水 ・・・755重量部

【0038】
次に、作製したインク(a)〜(g)に含まれる粒子の体積平均粒子径(D50)を、日機装社製の粒度分布計UPAを用いて、23℃、55%RHの環境で測定した。結果を表2に示す。
また、リコー社製のインクジェットプリンタGX5000を用いて、普通紙−はやい(カラーマッチング−しない)モードで画像を出力した。このモードにおける黒ベタ部のインク付着量が8.2g/mとなるように印加電圧波形を調製した。
記録用メディアとしてゼロックス社製、PPC用紙4200紙を用い、以下のようにして画像濃度、吐出安定性及び保存安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
<画像濃度>
画像サンプルのベタ画像をX−Rite濃度計(X−Rite社製)で測定した。
【0040】
<吐出安定性>
各インクを用いて印刷物を印刷した後、プリンタヘッドにキャップした状態でプリンタを40℃の環境下で1ヶ月間放置した。放置後のプリンタの吐出状態が初期の吐出状態に回復するか否かを、下記のクリーニング動作回数の基準によって評価した。
〔評価基準〕
○:1回の動作により回復した場合。
△:2回〜3回の動作により回復した場合。
×:3回以上の動作によっても回復がみられなかった場合。
【0041】
<保存安定性>
各インクをポリエチレン容器に入れて密封し、70℃で3週間保存した後の粒子径、
表面張力、及び粘度を測定し、初期物性との変化率により下記基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:粒子径、表面張力、粘度の全ての項目で変化率が5%未満であった場合。
○:粒子径、表面張力、粘度の全ての項目で変化率が10%未満であった場合。
△:粒子径、表面張力、粘度の全ての項目で変化率が30%未満であった場合。
×:粒子径、表面張力、粘度の少なくとも1つの項目で変化率が30%以上であっ
た場合。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
<分散剤液2〜5の作製>
分散剤液1における4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン及び4−アミノベンゼンスルホン酸に代えて、表3に示した化合物をそれぞれ使用し、分散剤液1におけるビスフェノール、アミノベンゼンスルホン酸及び水酸化ナトリウムの各モル数を表3に示したモル数に変えると共に、第1段階及び第2段階の反応で用いたホルムアルデヒドのモル数を表3に示したモル数にそれぞれ変えた点以外は、分散剤液1と同様にしてビスフェノール系縮合物の分散剤液を調整した。得られたビスフェノール系縮合物の重量平均分子量を表4に示す。
【表3】

【表4】

【0045】
〔実施例6〕
分散剤液1を分散剤液2に変えた点以外は、実施例1と同様にして表5に示す顔料分散液(H)及びインク(h)を作製した。
【0046】
〔実施例7〕
分散剤液1を分散剤液3に変えた点以外は、実施例1と同様にして表5に示す顔料分散液(I)及びインク(i)を作製した。
【0047】
〔比較例3〕
分散剤液1を分散剤液4に変えた点以外は、実施例1と同様にして表5に示す顔料分散液(J)及びインク(j)を作製した。
【0048】
〔比較例4〕
分散剤液1を分散剤液5に変えた点以外は、実施例1と同様にして表5に示す顔料分散液(K)及びインク(k)を作製した。
【0049】
【表5】

【0050】
次に、作製したインク(h)〜(k)に含まれる粒子の体積平均粒子径(D50)、
画像濃度、吐出安定性、及び保存安定性について評価した。結果を表6に示す。
【表6】

【0051】
表2及び表6の結果から、実施例1〜7の本発明の顔料分散液を用いたインクジェット用インクは、高い画像濃度であり、吐出安定性、及び保存安定性においても比較例1〜4より優れたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の顔料分散液及び該顔料分散液を用いたインクジェット用インクは、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェットプリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、などに好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 インクジェット記録装置
2 本体筐体
16 ギア機構
17 副走査モータ
18 キャリッジ
18a 液滴吐出ヘッド
19 プラテン
20 インクカートリッジ
21 ガイドシャフト
22 ガイドシャフト
23 タイミングベルト
25 ギア機構
26 主走査モータ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開平6−93067号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカーボンブラックと分散剤と水を含み、前記分散剤が、ビスフェノール類とアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとを反応させて得られる重量平均分子量が1.3×10〜1.8×10のビスフェノール系縮合物であることを特徴とする顔料分散液。
【請求項2】
請求項1に記載の顔料分散液を含有することを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット用インクを容器中に収容したことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項4】
請求項2に記載のインクジェット用インクを吐出させて画像を形成する吐出手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270252(P2010−270252A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124299(P2009−124299)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】