顔面神経根持続刺激電極および顔面神経根持続刺激電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置
【課題】顔面神経根持続刺激電極に要求される安定した装着ができる顔面神経根持続刺激電極と、この電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置を提供する。
【解決手段】顔面神経根持続刺激電極10は、脳幹の顔面神経核から延在する顔面神経根を電気的に刺激して顔面神経が支配する眼輪筋と口輪筋の収縮反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極10であって、顔面神経根H2を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極1aと、電極1aに電気的接続され、顔面神経根H2に当接する当接部2bと、当接部2bを露出させて電極1aを被覆するガード部2と、薄片形状をなし前記ガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3と、を備え、脳幹Fから出てきた顔面神経根H2と、顔面神経根H2に交差する前下小脳動脈Mとの間に延設部3を挟むようにして保持し、当接部2bを顔面神経根H2に密着させて固定するように構成した。
【解決手段】顔面神経根持続刺激電極10は、脳幹の顔面神経核から延在する顔面神経根を電気的に刺激して顔面神経が支配する眼輪筋と口輪筋の収縮反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極10であって、顔面神経根H2を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極1aと、電極1aに電気的接続され、顔面神経根H2に当接する当接部2bと、当接部2bを露出させて電極1aを被覆するガード部2と、薄片形状をなし前記ガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3と、を備え、脳幹Fから出てきた顔面神経根H2と、顔面神経根H2に交差する前下小脳動脈Mとの間に延設部3を挟むようにして保持し、当接部2bを顔面神経根H2に密着させて固定するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面神経線維を刺激する顔面神経根持続刺激電極、および、顔面神経根持続刺激電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顔面神経は、12ある脳神経の一つであり、第七脳神経と呼ばれている。顔面神経は、顔の表情を作る「表情筋」の運動を支配し、顔面を覆う筋肉は、顔面神経という一本の神経によって調節されている。
図13は、人の顔面表情筋に4つの分枝を出す顔面神経を説明する模式図である。図13に示すように、脳の中の顔面神経核Gから出た顔面神経Hは、右耳の奥から出てきて、表情筋、つまり、右目の眼輪筋Jと右口元の口輪筋Kに至る。
【0003】
図14は、図13の顔面神経を示す拡大図である。図14に示すように、顔面神経Hは、顔面神経核Gから神経線維を送り出し、隣接する聴神経Lの裏を通って出ているのが判る。この顔面神経Hは、脳幹内部の顔面神経H1と、脳幹から出てきた根元のところを示す顔面神経根H2と、脳槽部の顔面神経H3と、側頭骨内の顔面神経H4(図示してある!)とから構成されている。
【0004】
図15は、従来の釣り鐘形の電極を示す斜視図である。図16は従来の釣り鐘形の電極を留置した様子を示す説明図である。
図15に示すように、従来の釣り鐘形電極16は、上部が釣り鐘の形状をしており、下部は半球状にしたガード部によって球状に形成されている。また、図16に示すように、この釣り鐘形電極16の留置位置は、顔面神経の起始部に接触するように留置し、1Hzの頻度で持続的に顔面神経を刺激するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】河野道宏、谷口真「聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍手術における術中顔面神経モニタリング」臨床脳波 vol50no.8-2008/8 永井書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この電極16が釣り鐘形をした球状をしているため、顔面神経の上に留置しただけではなかなか安定しないという問題があった。また、釣り鐘形電極16は、リード線(電気コード)に微小の力がかかると動いてしまうため、顔面神経の一定の箇所を持続して刺激することが困難であるという問題があった。
さらに、従来の釣り鐘形電極16は、顔面神経に密着させ、安定して載置することが困難であり、移動したり、刺激位置がずれてしまうという問題があった。
このため、従来の顔面神経のモニタリング装置よりも、より安定して持続的に、確実に刺激ができてモニタリングができる顔面神経持続刺激電極と、それを使用したモニタリング装置が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、これらの問題を解決するために創案されたものであり、顔面神経の根元を持続的に刺激して安定した刺激やモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供と、この顔面神経根持続刺激電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題の解決を達成するため、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)の発明は、脳幹(F)の顔面神経核(G)から延在する顔面神経(H)の根元である顔面神経根(H2)を電気的に刺激して顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の収縮筋電図反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記顔面神経根(H2)を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極(1a)と、前記電極(1a)に電気的接続され、前記顔面神経根(H2)に当接する当接部(2b)と、
前記当接部(2b)を露出させて前記電極(1a)を被覆するガード部(2)と、薄片形状をなし前記ガード部(2)の周りに張り出すように形成された延設部(3)と、を備え、
脳幹(F)から出てきた前記顔面神経根(H2)と、前記顔面神経根(H2)に交差す
る前下小脳動脈(M)との間に前記延設部(3)を挟むようにして保持し、前記当接部(
2b)を前記顔面神経根(H2)に密着させて固定するように構成したことを特徴とする
。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記延設部(3)は前記ガード部(2)の全周に設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記延設部(3)はシリコンから形成なることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記当接部(2b)は、前記顔面神経根(H2)の外周面に合わせて凹形状(2c)または凸形状(2e)、フラット形状(2f)に形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、顔面神経根持続刺激電極(10)を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置(12)であって、請求項1から請求項4に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)と、前記顔面神経根持続刺激電極(10)が装着される患者の顔面神経根(H)を刺激する電気刺激手段(6a)と、前記顔面神経根持続刺激電極(10)で刺激された前記顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の筋肉の収縮反応を表示する表示手段(6b)と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、顔面神経根持続刺激電極は、脳幹から出てきた顔面神経の根元である顔面神経根と、この顔面神経根に交差する前下小脳動脈との間に前記延設部を挟むようにして保持し、当接部を顔面神経根に密着させて固定するように構成したことにより、顔面神経根の安定した刺激ができるため、顔面神経核から延設された顔面神経根に装着して眼輪筋と口輪筋を支配する筋肉の収縮反応をモニタリングすることができる。さらに、顔面神経根持続刺激電極に要求される安定した装着ができるため、安定した刺激やモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供ができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、延設部はガード部の全周に設けられたことにより、脳幹から出てきた顔面神経根と、この顔面神経根に交差する前下小脳動脈との位置にずれがあっても柔軟に延設部を挟むことができるため、顔面神経根に安定した刺激をすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、延設部がシリコンから形成なることにより、シリコンは生体親和性樹脂であり、柔らかく、周辺の脳および血管組織に対してソフトに接触できるため、傷つけにくい。また、シリコンの柔軟性により、生体の間になじんでしっかりと電極部を貼付できる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、当接部は、顔面神経根の外周面に合わせて凹形状、または、凸形状、フラット形状に形成された電極の中から選択され、顔面神経根に密着させることができるので、顔面神経根持続刺激電極に要求される安定した刺激とモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供ができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、顔面神経根持続刺激電極を使用したモニタリング装置は、安定した装着が容易にできる顔面神経根持続刺激電極を使用することにより、ノイズを低減し、クリアな波形によって、解読が容易な鮮明な波形を得ることができ、記録感度と記録強度を向上させる顔面表情筋の筋電図モニタリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の顔面神経根持続刺激電極の全体を示す全体図である。
【図2】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図3】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図4】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図5】図2に示す顔面神経根持続刺激電極の断面図拡大であり、(a)は電極部の当接部が凹形状のもの、(b)は当接部が凸形状のもの、(c)当接部がフラット形状のものを示す拡大断面図である。
【図6】図14に示す二点鎖線の領域の拡大図であり、本発明の顔面神経根持続刺激電極の装着場所を示す拡大図である。
【図7】顔面神経根と前下小脳動脈または細小動脈との間に装着した様子を示し、(a)は当接部が凹形状の電極部、(b)は当接部が凸形状の電極部、(c)当接部がフラット形状の電極部を示す模式図である。
【図8】顔面神経根持続刺激電極のもう一つの実施例を示す拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図9】顔面神経根持続刺激電極のもう一つの実施例を示す拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図10】(a)、(b)はもう一つの実施例を示し、顔面神経根持続刺激電極を装着した様子を示す拡大図である。
【図11】(a)は顔面神経根持続刺激電極を使用したモニタリング装置の全体のシステム構成を示す模式図、(b)は顔面神経根持続刺激電極モニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図12】モニター画像の波形を示し、(a)は眼輪筋、(b)は口輪筋の波形である。
【図13】人の顔面表情筋に4つの分枝を出す顔面神経を説明する模式図である。
【図14】図13の顔面神経根を示す拡大図である。
【図15】従来の釣り鐘形の電極を示す斜視図である。
【図16】従来の釣り鐘形の電極を留置した様子を示し、左側の症例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、顔面神経根持続刺激電極10は、電極部1と電線部13とから構成されている。
【0020】
≪電極部の構成≫
図1に示すように、顔面神経根持続刺激電極10の電極部1は、断面すると図5の(a)に示すように、顔面神経根H2(図6参照)を電気的に刺激する電極1aと、電極1aに電気的接続され、顔面神経根H2に当接する当接部2bと、この当接部2bを露出させ、電極1aのその他の周りを包囲する絶縁体で形成したガード部2と、ガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3とから構成されている。
【0021】
<電極>
図5の(a)に示すように、電極1aは、顔面神経根H2に持続的に刺激を与えるための電極であり、薄い円盤上に形成されている。電極1の材質は、例えば、白金(Pt)箔から形成されている。電極1aの直径dは約2.0mm、厚みTが0.5mmであり、薄型の円形をしている。電線は電極1aから直角に立ち上がっている。
【0022】
<電極部のサイズ>
電極部1の直径d2は、図2(b)、図3(b)、図4(b)に示すように、φ2.5mmである。また、高さ寸法hは約2.0mm、h1は0.25mm、h2は1.5mm(図2(b)参照)である。延設部3の厚みtは0.25mmである。
また、図2の(b)に示すように、延設部3の直径d1は、3.5mm(直径2.5mm+0.5mm×2)である。
図3の(b)に示すように、延設部3′の直径d1′は、4.5mm(直径2.5mm+1.0mm×2)である。
図4の(b)に示すように、延設部3″の直径d1″は、5.5mm(直径2.5mm+1.5mm×2)である。
なお、図3、図4の(b)に示すように、延設部3の直径を大きくするに従い、厚みtを、0.25〜0.5mmの範囲で厚くしてもよい。
なお、電極1aの形状は円形のほかに、小判形や、楕円形であっても構わない。
【0023】
<当接部の構成>
当接部2bは、電極1aと電気的に接続しており、導電性の高い金属によって形成されている。導電性の高い金属は、例えば、金(AU)が好適である。金は、極めて電気抵抗が小さいことから、安定した電気的刺激を与えることができる。また、当接部2bは、顔面神経根H2の外周面に合わせて当接しやすくするために凹部2cに形成されている。この凹部2cのくぼみは、0.2mmが好適である。
【0024】
図5の(b)は、当接部2bが凸形状である。図5の(b)に示すように、(a)との相違点は、顔面神経根持続刺激電極10′の電極部1′の当接部2bの形状が、凸部2eに形成されている点である。凸部2eのふくらみは、0.05〜0.2mmが好適である。
図5の(c)は、当接部がフラット形状である。図5の(c)に示すように、(a)との相違点は、顔面神経根持続刺激電極10″の電極部1″の当接部2bの形状が、フラット部2fに形成されている点である。
これらの3種類の顔面神経根持続刺激電極の実際の臨床での使用頻度を概算する。顔面神経根持続刺激電極10と、顔面神経根持続刺激電極10′と、顔面神経根持続刺激電極10″での比率は、約6:2:2である。
【0025】
<ガード部の構成>
ガード2は、前記した当接部2bを除き、絶縁材の樹脂で被覆してガードしている。その形状は正面視では三角形であり、円錐状に形成されている。また、図2、図3、図4の(c)に示すように、凹部2cに当接する顔面神経根H2の軸線cの方向に合わせたライン状、またはドッド状のマーキング2dが貼付、または、刻設されている。マーキング2dの色は、ガード2の樹脂が黒色であるため、明度の開きが大きい黄色とするが、たとえば、白色、赤色や緑色、その他の色であっても構わない。このガード2の下部の外周部には、全周に亘って延設部3が形成されている。
【0026】
<延設部の構成>
延設部3,3′,3″は、図2〜4に示すように、ガード部2の全周に亘って張り出すように、ハット状に設けられている。この延設部3の材質は、生体親和性樹脂によって形成されている。この生体親和性樹脂は、たとえば、シリコン(シリコーンともいう)から形成されている。このシリコンは有機珪素化合物の集合体であり、ゴムのように弾力性に富むので、臓器の隙間に装着するには傷を付けにくいため、好適である。この延設部3,3′,3″は、また、シリコンの代わりに、同様に弾力性に富み、柔らかいポリウレタン樹脂、ソフトプラスチックやゴム等であってもよい。
延設部3,3′,3″の外縁部は、図5に示すように、丸くR状にした形状にしている。
なお、延設部3の形状は、これは一例であって、この他の形状は、例えば、一部を切り欠いた形状であっても構わない。
【0027】
<取手>
取手2aは、円錐状に形成されたガード部2の頂部に設けられた棒状部であり、電極部1を臓器の間に押し分けて装着する際にピンセット(図示せず)によって把持する把持部である。その取手2aの長さLは1.5〜2mmである。その取手2aの先端から第1電線1bが延設されている。この取手2aによって容易に把持できるため、電極部1を装着しやすくできる。
【0028】
<電線部の構成>
図1に示すように、電線部13は、極細の長さ0.5mの第1電線1bに接続され、ジョイント1cを介して約2.0mの細線の第2電線1dに接続され、ピンチップ1eのプラグに接続されている。
なお、第1電線1bは、ここでは太さφ0.4mmであるが、φ0.3〜0.5mmが好適であり、赤色の絶縁体によって皮膜されている。第2電線1dの太さはφ1.2mmであり、これより長くしても短くしても構わない。
【0029】
<電極部の装着場所>
ここで、顔面神経根持続刺激電極10の電極部1の装着場所を説明する。
図6に示すように、電極部1の装着場所は、顔面神経Hが脳幹Fから出た直後の根元、つまり、顔面神経根H2と前下小脳動脈Mとの間である。顔面神経根H2と前下小脳動脈Mはくも膜ひだによって密着しているが、前下小脳動脈Mは、顔面神経根H2から容易に剥がすことができる。この前下小脳動脈Mを顔面神経根H2から剥がし、その間の隙間に電極部1の延設部3をすべりこませ、これらの太い血管によって電極部1をしっかり挟持し、固定する。
【0030】
または、電極部1の装着場所は、脳幹Fから出た顔面神経Hの直後の根元、つまり、顔面神経根H2と細小動脈Nとの間である。顔面神経根H2と細小動脈Nはくも膜ひだによって密着しているが、細小動脈Nは顔面神経根H2から容易に剥がすことができる。この細小動脈Nを顔面神経根H2から剥がし、その間の隙間に、電極部1の延設部3をすべりこませ、これらの細い血管によって電極部1を挟持し、固定する。
つまり、脳幹Fから顔面神経根H2が出てきた直後には、約94%の確率で、太い血管(前下小脳動脈M)と、細い血管(細小動脈N)が隣接して、顔面神経根Hを横切っている。また、脳脊髄液を産生する脈絡叢Pが、聴神経Lの根元を覆っている。
そして、顔面神経Hは蝸牛神経核から延びた聴神経Lの裏を通っている。また、顔面神経Hは、顔面神経核Gから出てきた根元の顔面神経根H2が顔面神経核Gに一番近いため、装着場所としては、この顔面神経根H2が好適である。
【0031】
図6は、電極部1の延設部3は、ちょうどクロス状に顔面神経根Hの正面を横切る細小動脈Nと顔面神経根H2の間に挟持され固定された状態を示している。
電極部1の中央は円形の電極1aが配置され、その回りは円錐状のガード部2によってガードされ、さらに、やわらかくて安全な延設部3がハット状に形成され、その延設部3を細小動脈N、または、前下小脳動脈M、その隙間を利用して電極部1を固定する。このように、これまでの電極部1にはない延設部3を設けたことにより、安定した刺激ができる電極部1の提供が可能になった。また、多くの場合、さらに脈絡叢Pにより強固に把持される。脈絡叢Pにより固定してもよい。
【0032】
電極部1の当接面2bの形状には、顔面神経根の形状に合わせて、凹形状、凸形状、フラット形状の3種類が用意されている。
図7の(a)に示すように、顔面神経根Hの断面が、略楕円形になっているため、この楕円形の外周面に合わせて、当接部2bが凹部2cであればフィットできる。このケースは約60%の比率で圧倒的に多い。
図7の(a)に示すように、電極部1の延設部3は、ちょうど顔面神経根H2の正面を横切るように、前下小脳動脈Mとクロスするところに装着し、顔面神経根Hと前下小脳動脈M、または、顔面神経根Hと細小動脈Nとによって挟持され、固定される。また、脈絡叢Pにより把持され、固定される。
または、電極部1の延設部3は、ちょうど顔面神経根H2の正面を横切るように、細小動脈Nとが、クロスするところに装着し、顔面神経根Hと前下小脳動脈M、または、顔面神経根Hと細小動脈Nとによって挟持され、固定される。また、脈絡叢Pにより強固に把持され、固定される。
【0033】
図7の(b)に示すように、顔面神経根Hの断面が、扁平形になっている場合、この凹部の外周面に合わせて、当接部2bが凸部2eであればフィットできる。このケースは約20%の比率である。
また、図7の(c)に示すように、顔面神経根Hの断面が、フラット形になっている場合、このフラットの外周面に合わせて、当接部2bがフラット部2fであればフィットできる。このケースは約20%の比率である。
この結果、本発明の顔面神経根持続刺激電極により、顔面神経繊維の全てを一括刺激することができる。
【実施例2】
【0034】
実施例1と実施例2との相違点は、延設部3の形状にあるため、その相違点の説明をし、その他は重複するため、詳細な説明は省略する。
図8の(a)、(b)、(c)に示すように、この実施例2は、実施例1のガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3、つまり、ハット状の延設部3が、キャップ状の延設部3bになっている点が相違する。延設部3bのつば長さeは、0.5〜1.5mmである。図8に示す延設部3bのつば長さeは、0.5mmである。図9に示すつば長さe″は、1.5mmである。つば長さe′1.0mmは図示せず。
【0035】
また、延設部3bの配置は、図8、図9の(a)に示すように、凹部2cに当接する顔面神経根H2の仮想の軸線cの方向と延設部3bの中心線との角度αは、60〜90度が好適である。これは、患者によって若干相違するためであり、若干の取付け位置を変えた電極部1を用意することにより、ほんどの人に適合させることができる。
つまり、顔面神経根Hと太い血管の前下小脳動脈Mは平行な場合は、角度αは90度が好適であり、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが20度で交差している場合は、角度αは70度が好適であり、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが40度で交差している場合は、角度αは50度が好適であるが、いろいろである。
また、図8、図9の(c)に示すように、ガード部2には仮想の軸線cの方向に合わせたラインのマーキング2dが貼付、または、刻設されている。
【0036】
図10の(a)に示すように、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが交差、または接近するところの顔面神経根Hの根元付近に延設部3b″を差し込み、電極部1を装着する。この装着方法は同様である。
【0037】
<電極部の装着方法>
顔面神経根持続刺激電極11の電極部1の装着方法は、顔面神経根H2の仮想の軸線cとマーキング2dのラインを一致させるとともに、脳幹Fから出た直後の根元、つまり、顔面神経根H2と、太い血管の前下小脳動脈Mとの間、または、細い血管の細小動脈Nとの間に、延設部3bを装着し固定する方法である。
このように、ひさし(庇)状の延設部3を全周に亘り張り出すように形成されたハット状の延設部3とは異なり、庇状の延設部3が一部分であっても電極部1を固定することができる。
これにより、電極部1は、脳幹Fから出た顔面神経根H2と前下小脳動脈Mと間に装着することにより、電極部1を固定することができるため、安定した、極めてノイズが低減した良好な電位の測定が可能になる。
なお、図10の(b)ではキャップ状延設部3b″を他方にも設け、聴神経Lと脳脊髄液を産生する脈絡叢Pとの間にキャップ状延設部3b″を挿入している。このようにしてもよい。
【0038】
図11の(a)に示すように、顔面神経の顔面表情筋の筋電図によるモニタリング装置12は、顔面神経根持続刺激電極10と、この顔面神経根持続刺激電極10が装着される患者の顔面神経根Hを刺激する電気刺激手段(刺激装置)6aと、顔面神経根持続刺激電極10で誘発された電位を表示する表示手段(表示部)6bと、電気刺激手段(刺激装置)6aおよび表示手段(表示部)6bを制御する制御部と入力手段(入力ボックス)と、レファレンス電極(参照電極)とを備え、さらに、同相の混入する背景筋電図を排除する増幅器6cと、この増幅器6cで増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器6dとを備えた装置から構成されている。
電気刺激手段6aは、1〜3Hzで発振する電気刺激であり、顔面神経根H2に向けて刺激電流を発して顔面神経根H2を刺激する。電気刺激手段6aは、制御部に電気的に接続されている。この刺激電流は、0.1〜2.0mAが好適である。
【0039】
詳しくは、図11の(b)を使用して説明する。図11の(b)は顔面神経根持続刺激電極10を使用したモニタリング装置の構成を示すブロック図である。主要な部位を説明する。
<インピーダンス変換器の構成>
増幅器側から生体側をみた場合の信号源抵抗を低くするために、インピーダンス変換器を使って、つぎの差動増幅器の負担を軽減する。このインピーダンス変換は、できるだけ電極の近くが望ましい。このようにして、レファレンス電極と顔面神経根持続刺激電極により得られた顔面表情筋収縮筋電図電位との間に測定された電位差は、入力手段のインピーダンス変換器に入力される。
【0040】
<増幅器の構成>
差動増幅器であり、インピーダンス変換器より出力された電位差の信号は、差動増幅器によって定められた増幅率で増幅され、この時、レファレンス電極と顔面神経根持続刺激電極により得られた顔面表情筋収縮筋電図と同相で混入する背景筋電図が排除される。
これにより同相の混入する自発放電筋電図を排除する。差動増幅器の出力は、図示しないフィルタ回路を通して必要な筋電図成分を取り出し、自発放電筋電図などの不要な成分を減衰させる。
<A/D変換器の構成>
増幅器の出力は、筋電図を増幅させた連続した電気信号である。A/D変換器は、この連続したアナログ信号をデジタル信号に変換する。
<過大入力除去装置の構成>
過大入力除去装置は、検出信号の背景自発筋電図を減衰させるため、加算部でデジタル信号に加算して加算平均を行うが、過大な入力があった場合は、加算処理データから除去する装置である。
<加算部の構成>
加算部は、デジタル信号に過大入力除去装置からの入力分と加算平均を行うための回路である。
【0041】
<表示部の構成>
図12の(a)に示すように、表示手段の表示部6bは、液晶画面である。表示画面6bに表示されるデータは、図13の(a)に示すように、たて軸が電位、横軸が時間であり、ツマミ(入力手段)によりON、OFFされ、さらに、倍率の選択も可能になっている。また、表示手段の表示部6bである液晶画面は、図12の(b)に示すように、制御部に電気的に接続されている。液晶画面は、デジタルコンピュータのディスプレイであり、顔面神経根持続刺激電極10で検出した検出信号の入力波形の表示と、条件設定や処理中の状態の表示も行うことができる。
<記録部の構成>
記録部は、表示画面6bに表示されたデータを印刷するための汎用のプリンタであり、インクジェットプリンタやレーザプリンタが好適である。
<刺激装置の構成>
刺激装置には、電気刺激があり、ここでは、電気刺激手段6aである。
【0042】
<制御部の構成>
制御部は、CPU(コンピューターの中央処理装置)とプログラムメモリから構成されている。制御部は、電気刺激手段6aおよび表示手段6bを入力手段からの入力信号に基づいて駆動させるための装置であり、電源部に電気的に接続されている。制御部には顔面神経根持続刺激電極10で誘発した微小の電位を増幅させて表示手段を駆動させる増幅器の機能も備えている。さらに、制御部は、電気刺激手段6aおよび表示手段6bを入力手段からの入力信号に基づいて駆動させるための装置であり、電源部に電気的に接続されている。
この新たな顔面神経根持続刺激電極10を使用したモニタリングの方法、ならびに、フィードバックシステム、さらに、このモニタリング結果に応じて手術部位、手術スピード、手術方法を変えることが可能になった、という成果が得られた。実際、これまで困難とされてきた聴神経腫瘍手術においても、本発明の顔面神経根持続刺激電極10により、ほぼ95%の確率での顔面神経Hを形態学的に温存でき、90%の確率で顔面神経Hを機能的に維持することが可能になっている。
【0043】
この顔面神経根持続刺激電極10,11を使用したモニタリング装置12は、従来のモニタリング装置と比較評価すれば、刺激電極の安定性、密着性、網羅性等について性能が飛躍的に向上できたことが判る。つまり、手術の際、顔面神経用の持続刺激電極10,11を留置するだけでしっかり固定できなかった従来の電極とは、比較にならないほど安定した固定方法により、顔面神経根においてもリアルタイムにモニタリングが可能になるため、高頻度、高特異性、そして、高感度の状態で顔面表情筋の筋電図の電位が、鋭敏かつ感度よく観察できることから、顔面神経Hの神経機能を温存させることが飛躍的に向上した。
【0044】
なお、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、技術的思想を同じくして変形、改造が可能である。たとえば、本実施形態においては、顔面神経根持続刺激電極10のサイズは、直径φ2.5mm、高さhを2.0mmの略円錐形としたが、サイズはこれに限定されるものではなく、これよりも大きくても、小さくても構わない。また、延設部3についても庇状であればよく、開示した庇状の形状に限定されず、この他の形状であってもよい。
また、電極1aの形状は、円形のほかに、小判形や、楕円形であっても構わない、としたが、たとえば、四辺形や三角形等その他の形状であっても構わない。
また、材質は電極1aが白金であり、当接部2bの凹部2cが金(AU)製としたが、凹形状状の金板としてもよい。なお、金を生体親和性樹脂の導電性シリコンに置き替えても構わない。
さらに、図10の(a)に示すように、キャップ状の延設部3b″の配置は、当接部2bの凹部2cの軸線cの方向と交差する角度αの一方に配置するとしたが、図10の(b)に示すように、一方と他方の両方に配置しても構わない。
また、マーキングは、ライン状としたが、ドッドにしてもよいし、延設部3,3bにマーキング設けても構わない。
【符号の説明】
【0045】
1,1′,1″ 電極部
1a 電極
1b 第1電線(第1リード線)
1c ジョイント
1d 第2電線(第2リード線)
1e ピンチップ
2 ガード部
2a 取手
2b 当接部
2c 凹部
2d マーキング
2e 凸部
2f フラット部
3,3′,3″ 延設部
3a ハット状の延設部
3b,3b″ キャップ状の延設部
6 顔面神経根持続刺激電極モニタリング装置
6a 音刺激手段
6b 表示手段
6c 増幅器
6d A/D変換器
10,10′,10″,11,11′ 顔面神経根持続刺激電極
12 モニタリング装置
13 電線部
F 脳幹
G 顔面神経核
H 顔面神経
H1 顔面神経(脳幹内部)
H2 顔面神経根
H3 顔面神経根(脳槽部)
I 蝸牛神経
J 眼輪筋
K 口輪筋
L 聴神経
M 前下小脳動脈(太い血管)
N 細小動脈(細い血管)
P 脈絡叢
a 直径(ガード部)
b 直径(延設部)
c 軸線
d 直径(電極)
e,e′,e″ つば長さ
f くぼみ深さ(ふくらみ)
s 先端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面神経線維を刺激する顔面神経根持続刺激電極、および、顔面神経根持続刺激電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顔面神経は、12ある脳神経の一つであり、第七脳神経と呼ばれている。顔面神経は、顔の表情を作る「表情筋」の運動を支配し、顔面を覆う筋肉は、顔面神経という一本の神経によって調節されている。
図13は、人の顔面表情筋に4つの分枝を出す顔面神経を説明する模式図である。図13に示すように、脳の中の顔面神経核Gから出た顔面神経Hは、右耳の奥から出てきて、表情筋、つまり、右目の眼輪筋Jと右口元の口輪筋Kに至る。
【0003】
図14は、図13の顔面神経を示す拡大図である。図14に示すように、顔面神経Hは、顔面神経核Gから神経線維を送り出し、隣接する聴神経Lの裏を通って出ているのが判る。この顔面神経Hは、脳幹内部の顔面神経H1と、脳幹から出てきた根元のところを示す顔面神経根H2と、脳槽部の顔面神経H3と、側頭骨内の顔面神経H4(図示してある!)とから構成されている。
【0004】
図15は、従来の釣り鐘形の電極を示す斜視図である。図16は従来の釣り鐘形の電極を留置した様子を示す説明図である。
図15に示すように、従来の釣り鐘形電極16は、上部が釣り鐘の形状をしており、下部は半球状にしたガード部によって球状に形成されている。また、図16に示すように、この釣り鐘形電極16の留置位置は、顔面神経の起始部に接触するように留置し、1Hzの頻度で持続的に顔面神経を刺激するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】河野道宏、谷口真「聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍手術における術中顔面神経モニタリング」臨床脳波 vol50no.8-2008/8 永井書店
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この電極16が釣り鐘形をした球状をしているため、顔面神経の上に留置しただけではなかなか安定しないという問題があった。また、釣り鐘形電極16は、リード線(電気コード)に微小の力がかかると動いてしまうため、顔面神経の一定の箇所を持続して刺激することが困難であるという問題があった。
さらに、従来の釣り鐘形電極16は、顔面神経に密着させ、安定して載置することが困難であり、移動したり、刺激位置がずれてしまうという問題があった。
このため、従来の顔面神経のモニタリング装置よりも、より安定して持続的に、確実に刺激ができてモニタリングができる顔面神経持続刺激電極と、それを使用したモニタリング装置が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、これらの問題を解決するために創案されたものであり、顔面神経の根元を持続的に刺激して安定した刺激やモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供と、この顔面神経根持続刺激電極を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題の解決を達成するため、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)の発明は、脳幹(F)の顔面神経核(G)から延在する顔面神経(H)の根元である顔面神経根(H2)を電気的に刺激して顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の収縮筋電図反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記顔面神経根(H2)を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極(1a)と、前記電極(1a)に電気的接続され、前記顔面神経根(H2)に当接する当接部(2b)と、
前記当接部(2b)を露出させて前記電極(1a)を被覆するガード部(2)と、薄片形状をなし前記ガード部(2)の周りに張り出すように形成された延設部(3)と、を備え、
脳幹(F)から出てきた前記顔面神経根(H2)と、前記顔面神経根(H2)に交差す
る前下小脳動脈(M)との間に前記延設部(3)を挟むようにして保持し、前記当接部(
2b)を前記顔面神経根(H2)に密着させて固定するように構成したことを特徴とする
。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記延設部(3)は前記ガード部(2)の全周に設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記延設部(3)はシリコンから形成なることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)であって、前記当接部(2b)は、前記顔面神経根(H2)の外周面に合わせて凹形状(2c)または凸形状(2e)、フラット形状(2f)に形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、顔面神経根持続刺激電極(10)を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置(12)であって、請求項1から請求項4に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)と、前記顔面神経根持続刺激電極(10)が装着される患者の顔面神経根(H)を刺激する電気刺激手段(6a)と、前記顔面神経根持続刺激電極(10)で刺激された前記顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の筋肉の収縮反応を表示する表示手段(6b)と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、顔面神経根持続刺激電極は、脳幹から出てきた顔面神経の根元である顔面神経根と、この顔面神経根に交差する前下小脳動脈との間に前記延設部を挟むようにして保持し、当接部を顔面神経根に密着させて固定するように構成したことにより、顔面神経根の安定した刺激ができるため、顔面神経核から延設された顔面神経根に装着して眼輪筋と口輪筋を支配する筋肉の収縮反応をモニタリングすることができる。さらに、顔面神経根持続刺激電極に要求される安定した装着ができるため、安定した刺激やモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供ができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、延設部はガード部の全周に設けられたことにより、脳幹から出てきた顔面神経根と、この顔面神経根に交差する前下小脳動脈との位置にずれがあっても柔軟に延設部を挟むことができるため、顔面神経根に安定した刺激をすることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、延設部がシリコンから形成なることにより、シリコンは生体親和性樹脂であり、柔らかく、周辺の脳および血管組織に対してソフトに接触できるため、傷つけにくい。また、シリコンの柔軟性により、生体の間になじんでしっかりと電極部を貼付できる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、当接部は、顔面神経根の外周面に合わせて凹形状、または、凸形状、フラット形状に形成された電極の中から選択され、顔面神経根に密着させることができるので、顔面神経根持続刺激電極に要求される安定した刺激とモニタリングができる顔面神経根持続刺激電極の提供ができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、顔面神経根持続刺激電極を使用したモニタリング装置は、安定した装着が容易にできる顔面神経根持続刺激電極を使用することにより、ノイズを低減し、クリアな波形によって、解読が容易な鮮明な波形を得ることができ、記録感度と記録強度を向上させる顔面表情筋の筋電図モニタリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の顔面神経根持続刺激電極の全体を示す全体図である。
【図2】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図3】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図4】図1に示す電極部の顔面神経根持続刺激電極の拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図5】図2に示す顔面神経根持続刺激電極の断面図拡大であり、(a)は電極部の当接部が凹形状のもの、(b)は当接部が凸形状のもの、(c)当接部がフラット形状のものを示す拡大断面図である。
【図6】図14に示す二点鎖線の領域の拡大図であり、本発明の顔面神経根持続刺激電極の装着場所を示す拡大図である。
【図7】顔面神経根と前下小脳動脈または細小動脈との間に装着した様子を示し、(a)は当接部が凹形状の電極部、(b)は当接部が凸形状の電極部、(c)当接部がフラット形状の電極部を示す模式図である。
【図8】顔面神経根持続刺激電極のもう一つの実施例を示す拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図9】顔面神経根持続刺激電極のもう一つの実施例を示す拡大図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図10】(a)、(b)はもう一つの実施例を示し、顔面神経根持続刺激電極を装着した様子を示す拡大図である。
【図11】(a)は顔面神経根持続刺激電極を使用したモニタリング装置の全体のシステム構成を示す模式図、(b)は顔面神経根持続刺激電極モニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図12】モニター画像の波形を示し、(a)は眼輪筋、(b)は口輪筋の波形である。
【図13】人の顔面表情筋に4つの分枝を出す顔面神経を説明する模式図である。
【図14】図13の顔面神経根を示す拡大図である。
【図15】従来の釣り鐘形の電極を示す斜視図である。
【図16】従来の釣り鐘形の電極を留置した様子を示し、左側の症例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、顔面神経根持続刺激電極10は、電極部1と電線部13とから構成されている。
【0020】
≪電極部の構成≫
図1に示すように、顔面神経根持続刺激電極10の電極部1は、断面すると図5の(a)に示すように、顔面神経根H2(図6参照)を電気的に刺激する電極1aと、電極1aに電気的接続され、顔面神経根H2に当接する当接部2bと、この当接部2bを露出させ、電極1aのその他の周りを包囲する絶縁体で形成したガード部2と、ガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3とから構成されている。
【0021】
<電極>
図5の(a)に示すように、電極1aは、顔面神経根H2に持続的に刺激を与えるための電極であり、薄い円盤上に形成されている。電極1の材質は、例えば、白金(Pt)箔から形成されている。電極1aの直径dは約2.0mm、厚みTが0.5mmであり、薄型の円形をしている。電線は電極1aから直角に立ち上がっている。
【0022】
<電極部のサイズ>
電極部1の直径d2は、図2(b)、図3(b)、図4(b)に示すように、φ2.5mmである。また、高さ寸法hは約2.0mm、h1は0.25mm、h2は1.5mm(図2(b)参照)である。延設部3の厚みtは0.25mmである。
また、図2の(b)に示すように、延設部3の直径d1は、3.5mm(直径2.5mm+0.5mm×2)である。
図3の(b)に示すように、延設部3′の直径d1′は、4.5mm(直径2.5mm+1.0mm×2)である。
図4の(b)に示すように、延設部3″の直径d1″は、5.5mm(直径2.5mm+1.5mm×2)である。
なお、図3、図4の(b)に示すように、延設部3の直径を大きくするに従い、厚みtを、0.25〜0.5mmの範囲で厚くしてもよい。
なお、電極1aの形状は円形のほかに、小判形や、楕円形であっても構わない。
【0023】
<当接部の構成>
当接部2bは、電極1aと電気的に接続しており、導電性の高い金属によって形成されている。導電性の高い金属は、例えば、金(AU)が好適である。金は、極めて電気抵抗が小さいことから、安定した電気的刺激を与えることができる。また、当接部2bは、顔面神経根H2の外周面に合わせて当接しやすくするために凹部2cに形成されている。この凹部2cのくぼみは、0.2mmが好適である。
【0024】
図5の(b)は、当接部2bが凸形状である。図5の(b)に示すように、(a)との相違点は、顔面神経根持続刺激電極10′の電極部1′の当接部2bの形状が、凸部2eに形成されている点である。凸部2eのふくらみは、0.05〜0.2mmが好適である。
図5の(c)は、当接部がフラット形状である。図5の(c)に示すように、(a)との相違点は、顔面神経根持続刺激電極10″の電極部1″の当接部2bの形状が、フラット部2fに形成されている点である。
これらの3種類の顔面神経根持続刺激電極の実際の臨床での使用頻度を概算する。顔面神経根持続刺激電極10と、顔面神経根持続刺激電極10′と、顔面神経根持続刺激電極10″での比率は、約6:2:2である。
【0025】
<ガード部の構成>
ガード2は、前記した当接部2bを除き、絶縁材の樹脂で被覆してガードしている。その形状は正面視では三角形であり、円錐状に形成されている。また、図2、図3、図4の(c)に示すように、凹部2cに当接する顔面神経根H2の軸線cの方向に合わせたライン状、またはドッド状のマーキング2dが貼付、または、刻設されている。マーキング2dの色は、ガード2の樹脂が黒色であるため、明度の開きが大きい黄色とするが、たとえば、白色、赤色や緑色、その他の色であっても構わない。このガード2の下部の外周部には、全周に亘って延設部3が形成されている。
【0026】
<延設部の構成>
延設部3,3′,3″は、図2〜4に示すように、ガード部2の全周に亘って張り出すように、ハット状に設けられている。この延設部3の材質は、生体親和性樹脂によって形成されている。この生体親和性樹脂は、たとえば、シリコン(シリコーンともいう)から形成されている。このシリコンは有機珪素化合物の集合体であり、ゴムのように弾力性に富むので、臓器の隙間に装着するには傷を付けにくいため、好適である。この延設部3,3′,3″は、また、シリコンの代わりに、同様に弾力性に富み、柔らかいポリウレタン樹脂、ソフトプラスチックやゴム等であってもよい。
延設部3,3′,3″の外縁部は、図5に示すように、丸くR状にした形状にしている。
なお、延設部3の形状は、これは一例であって、この他の形状は、例えば、一部を切り欠いた形状であっても構わない。
【0027】
<取手>
取手2aは、円錐状に形成されたガード部2の頂部に設けられた棒状部であり、電極部1を臓器の間に押し分けて装着する際にピンセット(図示せず)によって把持する把持部である。その取手2aの長さLは1.5〜2mmである。その取手2aの先端から第1電線1bが延設されている。この取手2aによって容易に把持できるため、電極部1を装着しやすくできる。
【0028】
<電線部の構成>
図1に示すように、電線部13は、極細の長さ0.5mの第1電線1bに接続され、ジョイント1cを介して約2.0mの細線の第2電線1dに接続され、ピンチップ1eのプラグに接続されている。
なお、第1電線1bは、ここでは太さφ0.4mmであるが、φ0.3〜0.5mmが好適であり、赤色の絶縁体によって皮膜されている。第2電線1dの太さはφ1.2mmであり、これより長くしても短くしても構わない。
【0029】
<電極部の装着場所>
ここで、顔面神経根持続刺激電極10の電極部1の装着場所を説明する。
図6に示すように、電極部1の装着場所は、顔面神経Hが脳幹Fから出た直後の根元、つまり、顔面神経根H2と前下小脳動脈Mとの間である。顔面神経根H2と前下小脳動脈Mはくも膜ひだによって密着しているが、前下小脳動脈Mは、顔面神経根H2から容易に剥がすことができる。この前下小脳動脈Mを顔面神経根H2から剥がし、その間の隙間に電極部1の延設部3をすべりこませ、これらの太い血管によって電極部1をしっかり挟持し、固定する。
【0030】
または、電極部1の装着場所は、脳幹Fから出た顔面神経Hの直後の根元、つまり、顔面神経根H2と細小動脈Nとの間である。顔面神経根H2と細小動脈Nはくも膜ひだによって密着しているが、細小動脈Nは顔面神経根H2から容易に剥がすことができる。この細小動脈Nを顔面神経根H2から剥がし、その間の隙間に、電極部1の延設部3をすべりこませ、これらの細い血管によって電極部1を挟持し、固定する。
つまり、脳幹Fから顔面神経根H2が出てきた直後には、約94%の確率で、太い血管(前下小脳動脈M)と、細い血管(細小動脈N)が隣接して、顔面神経根Hを横切っている。また、脳脊髄液を産生する脈絡叢Pが、聴神経Lの根元を覆っている。
そして、顔面神経Hは蝸牛神経核から延びた聴神経Lの裏を通っている。また、顔面神経Hは、顔面神経核Gから出てきた根元の顔面神経根H2が顔面神経核Gに一番近いため、装着場所としては、この顔面神経根H2が好適である。
【0031】
図6は、電極部1の延設部3は、ちょうどクロス状に顔面神経根Hの正面を横切る細小動脈Nと顔面神経根H2の間に挟持され固定された状態を示している。
電極部1の中央は円形の電極1aが配置され、その回りは円錐状のガード部2によってガードされ、さらに、やわらかくて安全な延設部3がハット状に形成され、その延設部3を細小動脈N、または、前下小脳動脈M、その隙間を利用して電極部1を固定する。このように、これまでの電極部1にはない延設部3を設けたことにより、安定した刺激ができる電極部1の提供が可能になった。また、多くの場合、さらに脈絡叢Pにより強固に把持される。脈絡叢Pにより固定してもよい。
【0032】
電極部1の当接面2bの形状には、顔面神経根の形状に合わせて、凹形状、凸形状、フラット形状の3種類が用意されている。
図7の(a)に示すように、顔面神経根Hの断面が、略楕円形になっているため、この楕円形の外周面に合わせて、当接部2bが凹部2cであればフィットできる。このケースは約60%の比率で圧倒的に多い。
図7の(a)に示すように、電極部1の延設部3は、ちょうど顔面神経根H2の正面を横切るように、前下小脳動脈Mとクロスするところに装着し、顔面神経根Hと前下小脳動脈M、または、顔面神経根Hと細小動脈Nとによって挟持され、固定される。また、脈絡叢Pにより把持され、固定される。
または、電極部1の延設部3は、ちょうど顔面神経根H2の正面を横切るように、細小動脈Nとが、クロスするところに装着し、顔面神経根Hと前下小脳動脈M、または、顔面神経根Hと細小動脈Nとによって挟持され、固定される。また、脈絡叢Pにより強固に把持され、固定される。
【0033】
図7の(b)に示すように、顔面神経根Hの断面が、扁平形になっている場合、この凹部の外周面に合わせて、当接部2bが凸部2eであればフィットできる。このケースは約20%の比率である。
また、図7の(c)に示すように、顔面神経根Hの断面が、フラット形になっている場合、このフラットの外周面に合わせて、当接部2bがフラット部2fであればフィットできる。このケースは約20%の比率である。
この結果、本発明の顔面神経根持続刺激電極により、顔面神経繊維の全てを一括刺激することができる。
【実施例2】
【0034】
実施例1と実施例2との相違点は、延設部3の形状にあるため、その相違点の説明をし、その他は重複するため、詳細な説明は省略する。
図8の(a)、(b)、(c)に示すように、この実施例2は、実施例1のガード部2の周りに張り出すように形成された延設部3、つまり、ハット状の延設部3が、キャップ状の延設部3bになっている点が相違する。延設部3bのつば長さeは、0.5〜1.5mmである。図8に示す延設部3bのつば長さeは、0.5mmである。図9に示すつば長さe″は、1.5mmである。つば長さe′1.0mmは図示せず。
【0035】
また、延設部3bの配置は、図8、図9の(a)に示すように、凹部2cに当接する顔面神経根H2の仮想の軸線cの方向と延設部3bの中心線との角度αは、60〜90度が好適である。これは、患者によって若干相違するためであり、若干の取付け位置を変えた電極部1を用意することにより、ほんどの人に適合させることができる。
つまり、顔面神経根Hと太い血管の前下小脳動脈Mは平行な場合は、角度αは90度が好適であり、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが20度で交差している場合は、角度αは70度が好適であり、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが40度で交差している場合は、角度αは50度が好適であるが、いろいろである。
また、図8、図9の(c)に示すように、ガード部2には仮想の軸線cの方向に合わせたラインのマーキング2dが貼付、または、刻設されている。
【0036】
図10の(a)に示すように、顔面神経根Hと前下小脳動脈Mとが交差、または接近するところの顔面神経根Hの根元付近に延設部3b″を差し込み、電極部1を装着する。この装着方法は同様である。
【0037】
<電極部の装着方法>
顔面神経根持続刺激電極11の電極部1の装着方法は、顔面神経根H2の仮想の軸線cとマーキング2dのラインを一致させるとともに、脳幹Fから出た直後の根元、つまり、顔面神経根H2と、太い血管の前下小脳動脈Mとの間、または、細い血管の細小動脈Nとの間に、延設部3bを装着し固定する方法である。
このように、ひさし(庇)状の延設部3を全周に亘り張り出すように形成されたハット状の延設部3とは異なり、庇状の延設部3が一部分であっても電極部1を固定することができる。
これにより、電極部1は、脳幹Fから出た顔面神経根H2と前下小脳動脈Mと間に装着することにより、電極部1を固定することができるため、安定した、極めてノイズが低減した良好な電位の測定が可能になる。
なお、図10の(b)ではキャップ状延設部3b″を他方にも設け、聴神経Lと脳脊髄液を産生する脈絡叢Pとの間にキャップ状延設部3b″を挿入している。このようにしてもよい。
【0038】
図11の(a)に示すように、顔面神経の顔面表情筋の筋電図によるモニタリング装置12は、顔面神経根持続刺激電極10と、この顔面神経根持続刺激電極10が装着される患者の顔面神経根Hを刺激する電気刺激手段(刺激装置)6aと、顔面神経根持続刺激電極10で誘発された電位を表示する表示手段(表示部)6bと、電気刺激手段(刺激装置)6aおよび表示手段(表示部)6bを制御する制御部と入力手段(入力ボックス)と、レファレンス電極(参照電極)とを備え、さらに、同相の混入する背景筋電図を排除する増幅器6cと、この増幅器6cで増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器6dとを備えた装置から構成されている。
電気刺激手段6aは、1〜3Hzで発振する電気刺激であり、顔面神経根H2に向けて刺激電流を発して顔面神経根H2を刺激する。電気刺激手段6aは、制御部に電気的に接続されている。この刺激電流は、0.1〜2.0mAが好適である。
【0039】
詳しくは、図11の(b)を使用して説明する。図11の(b)は顔面神経根持続刺激電極10を使用したモニタリング装置の構成を示すブロック図である。主要な部位を説明する。
<インピーダンス変換器の構成>
増幅器側から生体側をみた場合の信号源抵抗を低くするために、インピーダンス変換器を使って、つぎの差動増幅器の負担を軽減する。このインピーダンス変換は、できるだけ電極の近くが望ましい。このようにして、レファレンス電極と顔面神経根持続刺激電極により得られた顔面表情筋収縮筋電図電位との間に測定された電位差は、入力手段のインピーダンス変換器に入力される。
【0040】
<増幅器の構成>
差動増幅器であり、インピーダンス変換器より出力された電位差の信号は、差動増幅器によって定められた増幅率で増幅され、この時、レファレンス電極と顔面神経根持続刺激電極により得られた顔面表情筋収縮筋電図と同相で混入する背景筋電図が排除される。
これにより同相の混入する自発放電筋電図を排除する。差動増幅器の出力は、図示しないフィルタ回路を通して必要な筋電図成分を取り出し、自発放電筋電図などの不要な成分を減衰させる。
<A/D変換器の構成>
増幅器の出力は、筋電図を増幅させた連続した電気信号である。A/D変換器は、この連続したアナログ信号をデジタル信号に変換する。
<過大入力除去装置の構成>
過大入力除去装置は、検出信号の背景自発筋電図を減衰させるため、加算部でデジタル信号に加算して加算平均を行うが、過大な入力があった場合は、加算処理データから除去する装置である。
<加算部の構成>
加算部は、デジタル信号に過大入力除去装置からの入力分と加算平均を行うための回路である。
【0041】
<表示部の構成>
図12の(a)に示すように、表示手段の表示部6bは、液晶画面である。表示画面6bに表示されるデータは、図13の(a)に示すように、たて軸が電位、横軸が時間であり、ツマミ(入力手段)によりON、OFFされ、さらに、倍率の選択も可能になっている。また、表示手段の表示部6bである液晶画面は、図12の(b)に示すように、制御部に電気的に接続されている。液晶画面は、デジタルコンピュータのディスプレイであり、顔面神経根持続刺激電極10で検出した検出信号の入力波形の表示と、条件設定や処理中の状態の表示も行うことができる。
<記録部の構成>
記録部は、表示画面6bに表示されたデータを印刷するための汎用のプリンタであり、インクジェットプリンタやレーザプリンタが好適である。
<刺激装置の構成>
刺激装置には、電気刺激があり、ここでは、電気刺激手段6aである。
【0042】
<制御部の構成>
制御部は、CPU(コンピューターの中央処理装置)とプログラムメモリから構成されている。制御部は、電気刺激手段6aおよび表示手段6bを入力手段からの入力信号に基づいて駆動させるための装置であり、電源部に電気的に接続されている。制御部には顔面神経根持続刺激電極10で誘発した微小の電位を増幅させて表示手段を駆動させる増幅器の機能も備えている。さらに、制御部は、電気刺激手段6aおよび表示手段6bを入力手段からの入力信号に基づいて駆動させるための装置であり、電源部に電気的に接続されている。
この新たな顔面神経根持続刺激電極10を使用したモニタリングの方法、ならびに、フィードバックシステム、さらに、このモニタリング結果に応じて手術部位、手術スピード、手術方法を変えることが可能になった、という成果が得られた。実際、これまで困難とされてきた聴神経腫瘍手術においても、本発明の顔面神経根持続刺激電極10により、ほぼ95%の確率での顔面神経Hを形態学的に温存でき、90%の確率で顔面神経Hを機能的に維持することが可能になっている。
【0043】
この顔面神経根持続刺激電極10,11を使用したモニタリング装置12は、従来のモニタリング装置と比較評価すれば、刺激電極の安定性、密着性、網羅性等について性能が飛躍的に向上できたことが判る。つまり、手術の際、顔面神経用の持続刺激電極10,11を留置するだけでしっかり固定できなかった従来の電極とは、比較にならないほど安定した固定方法により、顔面神経根においてもリアルタイムにモニタリングが可能になるため、高頻度、高特異性、そして、高感度の状態で顔面表情筋の筋電図の電位が、鋭敏かつ感度よく観察できることから、顔面神経Hの神経機能を温存させることが飛躍的に向上した。
【0044】
なお、本発明は前記した実施形態に限られるものではなく、技術的思想を同じくして変形、改造が可能である。たとえば、本実施形態においては、顔面神経根持続刺激電極10のサイズは、直径φ2.5mm、高さhを2.0mmの略円錐形としたが、サイズはこれに限定されるものではなく、これよりも大きくても、小さくても構わない。また、延設部3についても庇状であればよく、開示した庇状の形状に限定されず、この他の形状であってもよい。
また、電極1aの形状は、円形のほかに、小判形や、楕円形であっても構わない、としたが、たとえば、四辺形や三角形等その他の形状であっても構わない。
また、材質は電極1aが白金であり、当接部2bの凹部2cが金(AU)製としたが、凹形状状の金板としてもよい。なお、金を生体親和性樹脂の導電性シリコンに置き替えても構わない。
さらに、図10の(a)に示すように、キャップ状の延設部3b″の配置は、当接部2bの凹部2cの軸線cの方向と交差する角度αの一方に配置するとしたが、図10の(b)に示すように、一方と他方の両方に配置しても構わない。
また、マーキングは、ライン状としたが、ドッドにしてもよいし、延設部3,3bにマーキング設けても構わない。
【符号の説明】
【0045】
1,1′,1″ 電極部
1a 電極
1b 第1電線(第1リード線)
1c ジョイント
1d 第2電線(第2リード線)
1e ピンチップ
2 ガード部
2a 取手
2b 当接部
2c 凹部
2d マーキング
2e 凸部
2f フラット部
3,3′,3″ 延設部
3a ハット状の延設部
3b,3b″ キャップ状の延設部
6 顔面神経根持続刺激電極モニタリング装置
6a 音刺激手段
6b 表示手段
6c 増幅器
6d A/D変換器
10,10′,10″,11,11′ 顔面神経根持続刺激電極
12 モニタリング装置
13 電線部
F 脳幹
G 顔面神経核
H 顔面神経
H1 顔面神経(脳幹内部)
H2 顔面神経根
H3 顔面神経根(脳槽部)
I 蝸牛神経
J 眼輪筋
K 口輪筋
L 聴神経
M 前下小脳動脈(太い血管)
N 細小動脈(細い血管)
P 脈絡叢
a 直径(ガード部)
b 直径(延設部)
c 軸線
d 直径(電極)
e,e′,e″ つば長さ
f くぼみ深さ(ふくらみ)
s 先端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳幹(F)の顔面神経核(G)から延在する顔面神経(H)の根元である顔面神経根(H2)を電気的に刺激して顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の収縮筋電図反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極(10)であって、
前記顔面神経根(H2)を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極(1a)と、前記電極(1a)に電気的接続され、前記顔面神経根(H2)に当接する当接部(2b)と、
前記当接部(2b)を露出させて前記電極(1a)を被覆するガード部(2)と、
薄片形状をなし前記ガード部(2)の周りに張り出すように形成された延設部(3)と、を備え、
脳幹(F)から出てきた前記顔面神経根(H2)と、前記顔面神経根(H2)に交差する前下小脳動脈(M)との間に前記延設部(3)を挟むようにして保持し、前記当接部(2b)を前記顔面神経根(H2)に密着させて固定するように構成したことを特徴とする顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項2】
前記延設部(3)は前記ガード部(2)の全周に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項3】
前記延設部(3)はシリコンから形成なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項4】
前記当接部(2b)は、前記顔面神経根(H2)の外周面に合わせて凹形状(2c)または凸形状(2e)、フラット形状(2f)に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)と、
前記顔面神経根持続刺激電極(10)が装着される患者の顔面神経根(H)を刺激する電気刺激手段(6a)と、
前記顔面神経根持続刺激電極(10)で刺激された前記顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の筋肉の収縮反応を表示する表示手段(6b)と、
を備えたことを特徴とする顔面神経根持続刺激電極(10)を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置(12)。
【請求項1】
脳幹(F)の顔面神経核(G)から延在する顔面神経(H)の根元である顔面神経根(H2)を電気的に刺激して顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の収縮筋電図反応をモニタリングするための顔面神経根持続刺激電極(10)であって、
前記顔面神経根(H2)を電気的に刺激する微弱電流が供給される電極(1a)と、前記電極(1a)に電気的接続され、前記顔面神経根(H2)に当接する当接部(2b)と、
前記当接部(2b)を露出させて前記電極(1a)を被覆するガード部(2)と、
薄片形状をなし前記ガード部(2)の周りに張り出すように形成された延設部(3)と、を備え、
脳幹(F)から出てきた前記顔面神経根(H2)と、前記顔面神経根(H2)に交差する前下小脳動脈(M)との間に前記延設部(3)を挟むようにして保持し、前記当接部(2b)を前記顔面神経根(H2)に密着させて固定するように構成したことを特徴とする顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項2】
前記延設部(3)は前記ガード部(2)の全周に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項3】
前記延設部(3)はシリコンから形成なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項4】
前記当接部(2b)は、前記顔面神経根(H2)の外周面に合わせて凹形状(2c)または凸形状(2e)、フラット形状(2f)に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載の顔面神経根持続刺激電極(10)と、
前記顔面神経根持続刺激電極(10)が装着される患者の顔面神経根(H)を刺激する電気刺激手段(6a)と、
前記顔面神経根持続刺激電極(10)で刺激された前記顔面神経(H)が支配する眼輪筋(J)と口輪筋(K)の筋肉の収縮反応を表示する表示手段(6b)と、
を備えたことを特徴とする顔面神経根持続刺激電極(10)を使用した顔面表情筋の筋電図モニタリング装置(12)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−213979(P2010−213979A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66214(P2009−66214)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【特許番号】特許第4303782号(P4303782)
【特許公報発行日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(508075731)
【出願人】(508075775)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【特許番号】特許第4303782号(P4303782)
【特許公報発行日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(508075731)
【出願人】(508075775)
【Fターム(参考)】
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