説明

顕微鏡システム

【課題】検鏡法に応じた画像の方向性をより一層活かした画像を生成することができる顕微鏡システムを提供する。
【解決手段】試料からの光を集光して該試料の観察像を生成する顕微鏡と、観察像を電子的に撮像して画像信号を出力する撮像素子42と、画像信号に対応する画像の方向性に関する方向性情報を含む設定情報を顕微鏡から取得する顕微鏡コントロール部と、上記画像に対し、方向性情報に応じて画像のコントラストを強調する処理を実行する信号処理部201とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡の観察像を電子的に撮像する撮像部を備える顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顕微鏡その他光学的な手段を用いた観察装置や測定器においては、一般的な明視野観察、透過観察のほか、位相差(PH)観察、微分干渉(DIC)観察、暗視野(DF)観察、偏光観察等の様々な検鏡法が用いられている。これらの検鏡法によれば、観察物体の形状分布、不純物、異物といった明視野観察や透過観察では検出し難い特徴がより検出され易くなる。
【0003】
例えば、微分干渉観察は、観察物体の一部を通過した光とその近傍を通過した光との位相差を、色又は明暗のコントラストとして表すことにより、観察物体の形状分布や位相差分布を得る。このような微分干渉観察は、生物系標本及び工業系標本の両方の観察に用いられる。また、微分干渉観察は、ほぼ透明な生体標本の形状の観察にも用いられ、微小な構造を検出することができる。さらに、微分干渉観察は、落斜照明と組み合わせて、ICパターン等に生じた傷や不純物、微小突起等の検査や、金属や鉱物の表面形状の観察にも利用される。
【0004】
暗視野観察は、主にドーナツ型のリング照明光を用いて観察物体を斜め方向から照明し、観察物体からの散乱光を観察する検鏡法であり、生物系標本及び工業系標本の両方の観察に用いられる。暗視野観察の場合、生物系標本においては微小な段差や輪郭などを観察することができる。また、微分干渉観察と同様に、ICパターン等における傷や不純物、微小突起等の検査にも利用される。なお、暗視野観察に用いる照明は暗視野照明と呼ばれており、中でも、観察物体に対して一方向から斜めに光を照射する照明は、偏射照明と呼ばれる。
【0005】
これらの検鏡法は、光学的な原理がそれぞれ異なるので、得られる像の特徴やメリット/デメリットが異なる。このため、使用目的や観察したい部位等に応じた検鏡法が使い分けられる。また、検鏡法を使い分けた上で、なお、観察環境や観察部位の特徴等に起因して、所望の観察像が得られないことがある。そのような場合には、光学系の交換や調整といったハードウェアの操作を行ったり、画像処理により取得した画像の補正を行うこともある。
【0006】
例えば、画像の補正方法として、特許文献1には、観察倍率や検鏡方式に応じた補正用画像を用いて、照度むらや歪曲収差を補正する手法が開示されている。また、特許文献2には、対物レンズの交換によって階調特性を切り換え、階調特性に基づいて輪郭強調度を切り換えることにより、最適な輪郭強調を確保する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−281554号公報
【特許文献2】特開2004−235850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微分干渉観察や偏射照明観察のように、撮像した画像にエッジの方向性が表れる検鏡法において、ユーザ所望の画像情報は、この方向性と関連して現れる。このため、撮像した画像に対して画像処理を施す場合にも、画像の方向性を活かした処理を行うことが必要となる。しかしながら、従来、このような画像の方向性を考慮した処理は行われていなかった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、検鏡法に応じた画像の方向性をより一層活かした画像を生成することができる顕微鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る顕微鏡システムは、試料からの光を集光して該試料の観察像を生成する顕微鏡と、前記観察像を電子的に撮像して画像信号を生成する撮像部と、前記画像信号に対応する画像の方向性に関する方向性情報を含む設定情報を前記顕微鏡から取得する制御部と、前記画像に対し、前記方向性情報に応じて画像のコントラストを強調する処理を実行する信号処理部とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記顕微鏡システムにおいて、前記顕微鏡は、複数の検鏡法を切り換えて実行可能な光学系を有し、前記制御部は、前記検鏡法に応じた前記設定情報を取得することを特徴とする。
【0012】
上記顕微鏡システムにおいて、前記信号処理部は、前記画像から水平方向における第1の高周波成分と、垂直方向における第2の高周波成分とを抽出し、前記方向性情報に応じた重みを前記第1の高周波成分と前記第2の高周波成分とにそれぞれ与えて加算することを特徴とする。
【0013】
上記顕微鏡システムにおいて、前記顕微鏡は、偏射照明を有し、前記方向性情報は、前記偏射照明観察において、前記試料を照射する照明光の照射方向に対応する情報であることを特徴とする。
【0014】
上記顕微鏡システムにおいて、前記顕微鏡は、微分干渉観察用の光学系を有し、前記方向性情報は、前記光学系における偏光の分離方向であることを特徴とする。
【0015】
上記顕微鏡システムにおいて、前記信号処理部は、前記方向性情報を用いてバイラテラルフィルタ処理における加重係数を算出し、該加重係数を用いて前記画像に対して前記バイラテラルフィルタ処理を施すことを特徴とする。
【0016】
上記顕微鏡システムにおいて、前記顕微鏡は、微分干渉観察用の光学系を有し、前記方向性情報は、前記光学系における偏光の分離方向であることを特徴とする。
【0017】
上記顕微鏡システムにおいて、前記設定情報は、前記画像の周波数特性を表す周波数特性情報を含み、前記信号処理部は、前記周波数特性情報を用いて前記加重係数のパラメータを設定することを特徴とする。
【0018】
上記顕微鏡システムにおいて、前記周波数特性情報は、前記光学系における前記偏光の分離量であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、顕微鏡の観察像を撮像した画像に対し、顕微鏡から取得した方向性情報に応じて画像のコントラストを強調する処理を実行するので、検鏡法に応じた画像の方向性をより一層活かした画像を生成することができる。従って、ユーザは、選択した検鏡法において、所望の画像情報を容易に観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡システムの概略構成例を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す顕微鏡システムの構成を詳細に示す図である。
【図3A】図3Aは、偏射照明における照明光の照射方向を説明する図である。
【図3B】図3Bは、偏射照明における照明光の照射方向を説明する図である。
【図4】図4は、図1に示す電子カメラの構成例を示すブロック図である。
【図5】図5は、図4に示すハイパスフィルタ処理部の構成例を示すブロック図である。
【図6】図6は、方向性情報に応じた重み係数を説明する図である。
【図7】図7は、図1に示す顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。
【図8】図8は、顕微鏡によって撮像された画像の一例を示す写真である。
【図9】図9は、微分干渉観察における光学系の構成例を示す模式図である。
【図10】図10は、微分干渉観察の原理を説明する図である。
【図11A】図11Aは、微分干渉観察における偏光の分離方向を説明する図である。
【図11B】図11Bは、微分干渉観察における偏光の分離方向及び分離量を説明する図である。
【図12】図12は、実施の形態3における電子カメラが備える信号処理部の構成例を示すブロック図である。
【図13】図13は、バイラテラル処理を説明する図である。
【図14】図14は、バイラテラル処理における加重係数の算出方法を説明する図である。
【図15A】図15Aは、微分干渉プリズム毎の分離量の違いを説明する図である。
【図15B】図15Bは、微分干渉プリズム毎の分離量の違いを説明する図である。
【図16A】図16Aは、偏光の分離量に応じた画像のコントラスト及びぼけの違いを説明する図である。
【図16B】図16Bは、偏光の分離量に応じた画像のコントラスト及びぼけの違いを説明する図である。
【図17】図17は、偏光の分離量に応じた画像の周波数特性の違いを説明する図である。
【図18】図18は、実施の形態3に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。
【図19】図19は、実施の形態4における電子カメラが備える信号処理部の構成例を示すブロック図である。
【図20】図20は、明視野観察画像及び暗視野観察画像における輝度とエッジ頻度との関係を示すグラフである。
【図21】図21は、重み生成パラメータを明視野観察画像又は暗視野観察画像の輝度に応じて決定するための調整係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡システムの概略構成例を示す模式図である。図1に示すように、実施の形態1に係る顕微鏡システム1は、試料からの光を集光して該試料の観察像を生成する顕微鏡2と、該顕微鏡2に取り付けられ、顕微鏡2が生成した観察像を撮像する電子カメラ36と、顕微鏡2及び顕微鏡2の動作を制御する顕微鏡コントロール部41とを備える。この内、顕微鏡2は、透過明視野観察、暗視野観察、位相差観察、微分干渉観察、蛍光観察等の各種の検鏡法を適宜選択して実行可能な構成を有する。
【0022】
顕微鏡2は、略C字形状のアーム3に取り付けられ、試料SPが載置される試料ステージ26と、該試料ステージ26と対向して配置された対物レンズ27と、三眼鏡筒ユニット5と、該三眼鏡筒ユニット5を介して設けられた接眼レンズユニット6と、三眼鏡筒ユニット5に連結された結像レンズユニット100とを有する。結像レンズユニット100の端部には電子カメラ36が設けられている。
【0023】
図2は、図1に示す顕微鏡システム1の構成を詳細に示す図である。図2に示すように、顕微鏡システム1は、照明系として、透過照明光学系11及び落射照明光学系12を備える。
【0024】
透過照明光学系11は透過照明用光源13を備え、この透過照明用光源13から出射する透過照明光の光路上に、透過照明光を集光するコレクタレンズ14と、透過用フィルタユニット15と、透過視野絞り16と、透過シャッタ161と、折曲げミラー17と、透過開口絞り18と、コンデンサ光学素子ユニット19と、トップレンズユニット20とが配置されている。コンデンサ光学素子ユニット19は、コンデンサレンズを含む複数種類の光学素子を組み合わせた光学系を切換可能に構成されている。また、トップレンズユニット20は、複数種類のレンズを交換可能に構成されている。
【0025】
一方、落射照明光学系12は落射照明用光源21を備え、この落射照明用光源21から出射する落射照明光の光路上に、落射用フィルタユニット22と、落射シャッタ23と、落射視野絞り24と、落射開口絞り25とが配置されている。
【0026】
これらの透過照明光学系11及び落射照明光学系12は、観察光の光軸L0とは異なる方向から試料SPに対して照明光を照射する偏射照明が可能に構成されている。偏射照明における照明光の照射方向は、図3A及び図3Bに示すように、照明光LSの光軸L1と観察光の光軸L0との成す照射角度ψと、観察光の光軸L0を法線とする試料面PL内において、基準軸X(例えば観察画像の右手側)から照明光LSの光軸L1を試料面PLに投影した軸L1’に向けて反時計回りに測った回転角φとによって規定される。照明光LSの照射角度ψは、ユーザの操作により任意に設定される。偏射照明観察を行う際には、この照射角度ψが0以外の値に設定される。
【0027】
透過照明光学系11及び落射照明光学系12の各光軸が重なる観察光路S上には、観察の対象となる試料SPを載置する試料ステージ26と、対物レンズ27が複数装着されたレボルバ28と、対物レンズ側光学素子ユニット29と、複数の光学キューブを切換可能に保持するキューブユニット30と、観察光路Sを観察光路S’と観察光路S”とに分岐するビームスプリッタ31とが配置されている。このビームスプリッタ31は、三眼鏡筒ユニット5内に配置されている。
【0028】
レボルバ28は、複数装着された対物レンズ27の内の一つを回転動作により観察光路S上に配置する。このレボルバ28には、観察光路S上に配置された対物レンズ27の種類を検出する対物レンズ検出部38が設けられている。
【0029】
対物レンズ側光学素子ユニット29には、リタデーション調整動作を検出するリタデーション調整動作検出部39が設けられている。
キューブユニット30は、例えば透過明視野観察や蛍光観察といった各種検鏡法に応じて、観察光路S上のダイクロイックミラー等を切り換える。
【0030】
ビームスプリッタ31により分岐された一方の観察光路S’上には、接眼レンズ6aが配置されている。また、ビームスプリッタ31により分岐された他方の観察光路S”上には、中間変倍光学系(ズーム鏡筒)33、ビームスプリッタ34、及び写真接眼レンズユニット35からなる結像レンズユニット100と、撮像素子42を内蔵する電子カメラ36とが配置されている。
【0031】
中間変倍光学系33は、電子カメラ36で撮像する像を変倍するための変倍ズームレンズ33aを内蔵している。なお、中間変倍が不要な場合は、この中間変倍光学系(ズーム鏡筒)33を取り外しても良い。
【0032】
写真接眼レンズユニット35の内部には、写真接眼レンズ35aが設けられている。この写真接眼レンズ35aにより、対物レンズ27からの観察光が撮像素子42の撮像面に結像する。また、写真接眼レンズユニット35には、写真接眼レンズの種類を検出する写真接眼レンズ検出部40が設けられている。
【0033】
結像レンズユニット100には、ビームスプリッタ34によって観察光路S”から分岐された光が入射するオートフォーカス(AF)ユニット371が接続されている。ビームスプリッタ34からオートフォーカスユニット371に向かう光路上には、AF用受光素子34aが配置されている。オートフォーカスユニット371は、このAF用受光素子34aからの出力信号をもとに合焦検出を行う。なお、顕微鏡2において、AF機能が不要な場合には、オートフォーカスユニット371を取り外しても良い。
【0034】
透過照明光学系11における透過用フィルタユニット15、透過視野絞り16、透過シャッタ161、透過開口絞り18、コンデンサ光学素子ユニット19、及びトップレンズユニット20と、落射照明光学系12における落射用フィルタユニット22、落射シャッタ23、落射視野絞り24、及び落射開口絞り25と、レボルバ28と、対物レンズ側光学素子ユニット29と、キューブユニット30と、ビームスプリッタ31と、中間変倍光学系(ズーム鏡筒)33とは、それぞれ、駆動制御部37から出力された各駆動信号によって図示しない各モータにより駆動される。
【0035】
顕微鏡コントロール部41は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用コンピュータによって実現される。顕微鏡コントロール部41には、ユーザによる各種情報や命令の入力を受け付け、対応する情報や操作信号を顕微鏡コントロール部41に入力するキーボードやマウス等の入力部41aと、電子カメラ36が撮像した画像や各種情報を表示するLCDやELディスプレイ等の表示部41bとが設けられている。また、顕微鏡コントロール部41には、透過照明用光源13と、落射照明用光源21と、駆動制御部37と、対物レンズ検出部38と、リタデーション調整動作検出部39と、写真接眼レンズ検出部40と、電子カメラ36とが接続されている。
【0036】
顕微鏡コントロール部41は、入力部41aから入力される各種操作信号に従って、透過照明用光源13及び落射照明用光源21の調光を行うとともに、駆動制御部37に対して制御指示を行う。また、顕微鏡コントロール部41は、透過照明用光源13及び落射照明用光源21に対する制御状態や、駆動制御部37に対する制御状態を始め、対物レンズ検出部38、リタデーション調整動作検出部39、及び写真接眼レンズ検出部40からの検出情報を取得すると共に、これらの検出情報を電子カメラ36に出力し、電子カメラ36における撮像条件を自動設定する。
【0037】
図4は、電子カメラ36の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、電子カメラ36は、撮像素子42を有する。撮像素子42は、例えばCCD等の固体撮像素子(以下、単にCCDという)によって実現され、顕微鏡2の結像レンズユニット100から入射した観察光を光電変換することにより、試料SPを拡大した観察像に対応する電気信号を出力する。この撮像素子42は電子シャッタ機能を有しており、これにより露光時間の制御が行なわれる。
【0038】
また、電子カメラ36は、撮像素子42の出力信号から画像信号成分を抽出するCDS(相関二重サンプリング:correlated double sampling)回路(CDS)43と、CDS回路43の出力信号レベルを所定のゲイン値に調整するゲイン制御手段であり、AGC回路等を含む増幅器(AMP)44と、増幅器44から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器45と、A/D変換器45から出力されるデジタル信号を記憶する第1のフレームメモリ46と、第1のフレームメモリ46に記憶されたデジタル信号(画像信号)に対して色補正等の主信号処理を施す主信号処理部200と、同画像信号に対してエッジ強調処理を施すエッジ信号処理部201とを有する。
【0039】
この内、主信号処理部200は、画像信号をR、G、Bの三原色の各色信号に分離する色分離処理部47と、画像信号のホワイトバランスを調整するホワイトバランス調整部(WB)48と、色再現性を改善するための色補正を行う色補正部49と、色信号に対してガンマ(γ)補正を施す色信号γ補正部50と、R、G、Bの各色信号を輝度信号YLと2つの色差信号(R−Y信号及びB−Y信号)とに変換して色相や色の飽和度等を調整する色差マトリックス処理部51とを含む。
【0040】
一方、エッジ信号処理部201は、画像信号に対してγ補正を施すγ補正部62と、γ補正済みの画像信号から輝度信号(Y信号)を抽出するY信号生成部63と、Y信号から低周波成分を除去して輪郭信号(以下、エッジ信号という)を抽出するハイパスフィルタ(HPF)部64と、ハイパスフィルタ処理部64により抽出されたエッジ信号のノイズ成分を抑圧してS/N比を改善させるコアリング処理を行うコアリング部65と、コアリング処理が施されたエッジ信号に所定の係数を掛け合わせる積算部を含み、エッジ強調処理を行うエッジ強調処理部66とを含む。
【0041】
また、電子カメラ36は、エッジ信号処理部201から出力されたエッジ信号を主信号処理部200から出力された色差信号用の輝度信号YLに加算して輝度信号YHを出力する加算部52と、輝度信号YH及び主信号処理部200から出力された色差信号(R−Y信号及びB−Y信号)からなる画像信号を表示用の信号に変換する信号処理回路を含む液晶ディスプレイからなる表示部59と、画像信号を一時的に記憶するDRAM等からなる内蔵メモリ56と、画像信号の圧縮処理及び伸長処理を行う圧縮伸長処理部57と、画像信号を保存するメモリカード等の記録媒体58と、AF動作及び露光動作を開始させて撮像を行うトリガ信号を発生させ得るトリガスイッチ、シェーディング補正再撮り込みのトリガスイッチ、対物レンズ回転動作スイッチ、開口絞り開閉スイッチ等の複数のスイッチからなる操作部61とを有する。操作部61は、各種スイッチ等への操作に応じた操作信号を後述する制御部60に入力する。
【0042】
さらに、電子カメラ36は、上記撮像素子42の駆動パルス等の同期信号を発生させるタイミングジェネレータ(TG)53及びシグナルジェネレータ(SG)54と、フレームメモリ46の動作を制御するメモリコントローラ55とを有する。
これらの各部は、データメモリ67に記録されたプログラムを読み込むことによって動作するCPUによって実現される制御部60によって統括的に制御される。
【0043】
次に、エッジ信号処理部201の内、ハイパスフィルタ処理部64の動作について詳しく説明する。
図5は、図4に示すハイパスフィルタ処理部64の構成例を示すブロック図である。図5に示すように、ハイパスフィルタ処理部64は、輝度信号(Y信号)の水平方向における高周波成分を抽出する水平ハイパスフィルタ64aと、Y信号の垂直方向における高周波成分を抽出する垂直ハイパスフィルタ64bと、方向性情報Dirに基づいて、水平方向及び垂直方向の高周波成分にそれぞれ与えられる重み係数を算出する重み係数生成部64cと、積算部64d、64eと、加算部64fとを有する。ここで、方向性情報とは、電子カメラ36が撮像した画像に対してコントラストを強調すべき方向を表す情報である。方向性情報Dirは、例えば偏射照明観察においては、照明光の照射方向を示す回転角φ(図3B参照)に対応する。
【0044】
より詳細には、重み係数生成部64cは、図6に示すように、方向性情報Dirに応じて、水平方向の高周波成分に与えられる重み係数Whと、垂直方向の高周波成分に与えられる重み係数Wvとを算出する。重み係数Wh及びWvは、方向性情報Dirが0°近傍において重み係数Whが大きくなり、方向性情報Dirが90°近傍において重み係数Wvが大きくなり、且つ、両者の和が1となるように設定される。
【0045】
加算部64fは、積算部64dにおいて重み係数Whが積算された水平方向の高周波成分と、積算部64eにおいて重み係数Wvが積算された垂直方向の高周波成分とを加算して、輝度高周波成分Yhを出力する。
【0046】
このように水平方向及び垂直方向におけるエッジ強調の重み係数を設定して輝度高周波成分Yhを生成することにより、表示部59に表示される画像において、照明光の方向に応じてエッジを強調することができる。例えば、方向性情報Dirが0°近傍であるとき(即ち、ほぼX軸に沿って試料SPを照明しているとき)、水平方向の高周波成分(即ち、垂直エッジ)が強調される。一方、方向性情報Dirが90°近傍であるとき(即ち、ほぼY軸に沿って試料SPを照射しているとき)、垂直方向の高周波成分(即ち、水平エッジ)が強調される。さらに、方向性情報Dirが中間的であるとき(例えば、X軸に対して45°近傍又は135°近傍から試料SPを照射しているとき)、水平方向の高周成分と垂直方向の高周波成分とが角度に応じて合成されて強調される。
【0047】
次に、実施の形態1に係る顕微鏡システム1の動作について説明する。図7は、顕微鏡システム1の動作を示すフローチャートである。本実施の形態1においては、照明光の照射角度ψ(図3A参照)が0以外に設定された偏射照明により観察を行う。
【0048】
まず、ステップS10において、電子カメラ36は、電源がONされると、顕微鏡コントロール部41から顕微鏡2における撮影条件を含む種々の設定情報(使用している照明光学系、照明光の照射方向、コンデンサ光学素子ユニットの種類等)を取得する。
【0049】
続くステップS11において、電子カメラ36は、操作部61に設けられた静止画取り込みトリガスイッチの押下により入力されたトリガ信号に従って撮像を行い、試料SPを写した静止画の画像データをフレームメモリ46に記憶させる。
【0050】
ステップS12において、電子カメラ36は、顕微鏡2の設定情報から、方向性情報Dirとして照明光の照射方向の回転角φを抽出する。この回転角φは、試料ステージ26に設けられた図示しないエンコーダにより検出することができる。なお、この際、電子カメラ36は、回転角φを、対応する画像の画像データと関連付けてフレームメモリ46に記憶させても良い。
【0051】
ステップS13において、電子カメラ36は、方向性情報Dirに応じて、ステップS11において取得した画像に対してエッジ強調処理を施す。より詳細には、電子カメラ36は、フレームメモリ46に記憶された画像データに対し、主信号処理部200において所定の処理を施すことにより、輝度信号YLと2つの色差信号(R−Y信号及びB−Y信号)を含む画像信号を生成する。一方、電子カメラ36は、フレームメモリ46に記憶された画像データに対し、エッジ信号処理部201において所定の処理を施すことにより、エッジ信号を生成する。この際、ハイパスフィルタ処理部64は、方向性情報Dir(回転角φ)に基づく重み係数Wh、Wvを算出し、この重み係数Wh、Wvを用いて、水平方向及び垂直方向各々の輝度信号に対してハイパスフィルタ処理を施す。そして、電子カメラ36は、主信号処理部200において生成された画像信号に対して、エッジ信号処理部201において生成されたエッジ信号を加算することにより、エッジ強調された画像信号を生成する。
【0052】
さらに、ステップS14において、電子カメラ36は、生成した画像信号に基づく画像を表示部59に表示させる。或いは、電子カメラ36は、画像信号を顕微鏡コントロール部41に出力して、表示部41bに画像を表示させても良い。
【0053】
図8は、電子カメラ36によって撮像された画像の一例を示す写真である。図8に示すように、例えば、X軸に対して約45°をなす右下方向から照明光を照射した場合(即ち、回転角φ≒315°)、この照明光と平行な方向がコントラストの付く方向となり、照明光とほぼ直交する方向に延びるエッジが観察される。このため、ユーザは、通常、エッジを観察したい方向に応じて、照明光の照射角度を設定する。
【0054】
このような画像に対して、上述したエッジ強調処理を施すと、照明光の方向に対して直交する方向に延びるエッジ(例えば、エッジA)が強調される。一方、照明光の方向と平行な方向に延びるエッジ(例えば、エッジB)は強調されない。即ち、ユーザ所望の方向における画像情報をより一層強調することができる。
【0055】
以上説明したように、実施の形態1によれば、偏射照明観察において、画像の方向性をより一層活かした画像処理が施された画像を生成することができる。
【0056】
なお、上記実施の形態1においては、ハイパスフィルタ処理部64において、互いに直交する高周波成分を抽出する2つのフィルタの出力に対して、方向性情報Dirに応じた重み付けをなすこととしたが、方向性情報Dirに対応した高周波成分を抽出するフィルタの構成としてはこれに限定されない。
【0057】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
実施の形態2においては、図1及び図2に示す顕微鏡システム1において、微分干渉観察を行うことを特徴とする。
【0058】
図9は、微分干渉観察における光学系の構成例を示す模式図である。微分干渉観察においては、照明光学系の一部をなすポラライザ(偏光板)101、微分干渉(DIC)プリズム102、及びコンデンサレンズ103と、観察光学系の一部をなす対物レンズ104、微分干渉プリズム105、及びアナライザ(偏光板)106からなる光学系が用いられる。図2に示す顕微鏡システム1において微分干渉観察を行う場合には、トップレンズユニット20において、使用する光学系が、ポラライザ101と微分干渉プリズム102とコンデンサレンズ103とを含む光学系に切り換えられる。キューブユニット30において、使用する光学キューブが、微分干渉プリズム105とアナライザ106とを含む光学キューブに切り換えられる。
【0059】
ここで、微分干渉観察の原理について、図9及び図10を参照しながら説明する。
図9に示す光学系に、ポラライザ101側から照明光L2を照射すると、照明光L2はまず、ポラライザ101によって1方向に振動する偏光に変換される。この偏光は、微分干渉プリズム102によって2方向に振動する2本の偏光La及びLbに分けられ、ほぼ平行に試料SPに入射する。これらの偏光La及びLbの進路はわずかにずれているため、偏光La及びLbが試料SPの厚さの異なる部分(領域R1)を通過する際、試料SP内を通過する距離の差により、光路差が生じる。その後、これらの偏光La及びLbは、対物レンズ104を介して微分干渉プリズム105に入射し、ここで同じ進路に合成され、アナライザ106を通過する。この際、偏光La及びLbの間に光路差Δが生じていると、光の干渉により明暗のコントラストが生じる。このコントラストを画像化することにより、試料SPの厚さ方向における情報を得ることができる。
【0060】
このような原理から、微分干渉観察によって得られた画像においては、偏光La及びLbが互いに分離する方向にコントラストが観察される。言い換えると、偏光La、Lbの分離方向と直交する方向に延びるエッジが観察される。このため、ユーザは、微分干渉プリズム105の向きを調節することにより、所望の方向におけるエッジを観察することができる。
【0061】
以下においては、図11A及び図11Bに示すように、観察光の光軸L0を法線とする試料面PL内において、偏光La、Lbの分離方向を基準軸Xから測った回転角φ’により偏光La、Lbの分離方向を規定する。また、試料面PLにおける偏光La、Lbの間隔を、偏光La、Lbの分離量δとする。
【0062】
次に、実施の形態2に係る顕微鏡システム1の動作について説明する。実施の形態2に係る顕微鏡システム1の動作は全体として図7に示すものと同様であり、ステップS12において抽出する方向性情報Dirの内容が実施の形態1とは異なっている。
【0063】
ステップS12において、電子カメラ36は、顕微鏡2の設定情報から、方向性情報Dirとして、偏光La、Lbの分離方向を表す回転角φ’を抽出する。この回転角φ’は、顕微鏡コントローラ41が取得したトップレンズユニット20に設けられたエンコーダーパルス、及び、キューブユニット30に設けられたエンコーダーパルスから抽出することができる。
【0064】
続くステップS13において、電子カメラ35は、方向性情報Dirに応じて、ステップS11において取得した画像に対してエッジ強調処理を施す。詳細には、ハイパスフィルタ処理部64が、方向性情報Dirである回転角φ’に基づいて重み係数Wh、Wvを算出し、この重み係数Wh、Wvを用いて水平方向及び垂直方向における高周波成分を画像信号から抽出する(図5及び図6参照)。ステップS13におけるその他の処理については、実施の形態1において説明したものと同様である。
【0065】
以上説明したように、実施の形態2によれば、偏光La、Lbの分離方向と平行な高周波成分を強調(即ち、分離方向と直交する方向のエッジを強調)するので、画像の方向性をより一層活かした画像処理が施された画像を生成することが可能となる。
【0066】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
実施の形態3に係る顕微鏡システムの構成は、電子カメラ36の内部構成の一部を除いて図1及び図2に示すものと同様である。また、本実施の形態3は、実施の形態2と同様に、図9に示す光学系を図2に示す顕微鏡2にセットして微分干渉観察を行う場合に適用される。
【0067】
図12は、実施の形態3に係る顕微鏡システムが備える電子カメラの内部構成の一部を示すブロック図である。図12に示すように、実施の形態3における電子カメラは、図4に示す主信号処理部200及びエッジ信号処理部201の代わりに、ベイヤ(Bayer)パターンで配列された生データに対して信号処理を施す信号処理部300を有する。以下、ベイヤ(Bayer)パターンで配列された生データのことを、ベイヤ画像と呼ぶ。なお、信号処理部300以外の電子カメラ36の構成については、図4に示すものと同様である。
【0068】
図12に示すように、信号処理部300は、入力されたベイヤ画像に対して色分離処理を施して、各画素にR、G、B成分を持つ信号を生成する色分離処理部301と、ホワイトバランス調整部(WB)302と、R、G、Bの各色信号を輝度信号Yと2つの色差信号(Cr信号及びCb信号)とに変換して色相や色の飽和度等を調整する色差マトリックス処理部303とを有する。この内、Cr信号及びCb信号は、そのまま信号処理部300から出力される。
【0069】
また、信号処理部300は、色差マトリックス処理部303から出力された輝度信号Yに対し、方向性情報Dirに基づくバイラテラルフィルタ処理を施して、所定の方向についてエッジ強調された輝度信号Ylを生成するバイラテラルフィルタ処理部304と、輝度信号Ylに対して輝度γ補正処理を施す輝度γ補正部305と、元の輝度信号Yから輝度信号Ylを減算することによりテクスチャ成分を抽出する減算部306と、テクスチャ成分に対してテクスチャ強調処理を施すテクスチャ強調処理部307と、γ補正された輝度信号と、テクスチャ強調処理が施されたテクスチャ成分とを合成して変換輝度信号Y’を生成する加算部308とを有する。
【0070】
ここで、バイラテラルフィルタ処理とは、図13に示すように、処理対象画素P0(x0,y0)及びその周囲画素Pi(xi,yj)に対し、次式(1)によって表される加重加算を行う処理である。
【数1】

式(1)において、vfilterdは処理対象画素P0(x0,y0)のフィルタ処理後の画素値であり、viは周囲画素Pi(xi,yi)の画素値であり、Wiは周囲画素Pi(xi,yi)に与えられる加重係数である。
【0071】
式(1)に示すように、バイラテラルフィルタ処理においては、処理対象画素P0と周囲画素Piとの位置関係、及び、処理対象画素P0と周囲画素Piとの画素値の差とに応じて加重係数を動的に生成することができる。そこで、実施の形態3においては、この加重係数を算出する際に、方向性情報Dirに基づいて、画像内でコントラストが付く方向における加重係数を小さく設定する。それにより、コントラストが付く方向における輝度差を強調すると共に、それと直交する方向における輝度差を平滑化する。
【0072】
具体的には、加重係数Wiは、次のようにして算出される。
まず、図14に示すように、画像内でコントラストが付く方向の軸(T軸)を検出し、コントラストが付く方向と直交する方向の軸(S軸)の基準軸Xからの回転角θを取得する。
【0073】
これより、S軸及びT軸からなる座標系において、周囲画素Pi(xi,yi)に対応する座標(s,t)は次式(2)及び(3)によって与えられる。
s=xi×cosθ+yi×sinθ …(2)
t=g×(−xi×sinθ+yi×cosθ) …(3)
ここで、gはT軸方向への平滑化の強さを調整する値であり、g>1である。g>1とすることにより、T軸方向への画素間の距離を大きく見積もることになるため、対応する加重係数が小さくなる。
【0074】
上記座標(s,t)を用いて、処理対象画素P0と周囲画素Piとの距離に応じた重みWpiは、次式(4)によって与えられる。
【数2】

式(4)において、係数kpは、処理対象画素P0と周囲画素Piとの位置関係(距離)に応じた重みを決めるパラメータ(重み生成パラメータ)であり、詳細は後述する。また、係数Apは所定の定数である。これにより、図14に示すように、画素間の距離に応じた加重係数Wpiの分布が得られる。
【0075】
一方、処理対象画素P0と周囲画素Piとの画素値の差に応じた重みWviは、次式(5)によって与えられる。
【数3】

式(5)において、係数kvは、処理対象画素P0と周囲画素Piとの画素値の差に応じた重みを決めるパラメータ(重み生成パラメータ)であり、詳細は後述する。また、係数Avは所定の定数である。
【0076】
これより、バイラテラルフィルタ処理における加重係数Wiは、次式(6)によって与えられる。
i=Wpi×Wvi …(6)
【0077】
次に、パラメータkp及びkvの決定方法について説明する。
微分干渉観察においては、微分干渉プリズム102によって分離される偏光La、Lbの分離量δ(図11B参照)に応じて、取得される画像における周波数特性が異なる。例えば、図15Aに示す分離量δが小さい微分干渉プリズム102Aと、図15Bに示す分離量δが大きい微分干渉プリズム102Bとを比較すると、微分干渉プリズム102Aを用いた場合、図16Aに示すように、コントラストは低いが、ぼけの小さい画像が得られる。反対に、微分干渉プリズム102Bを用いた場合、図16Bに示すように、コントラストは高いが、ぼけの大きい画像が得られる。
【0078】
また、図17に示すように、分離量δが大きい場合、高周波成分の減衰の大きい画像が得られる。この場合、高周波成分をあまり抽出する必要がないので、処理対象画素P0と近い周囲画素の加重係数Wnも、処理対象画素P0から遠い周囲画素の加重係数Wfも共に大きな値として良い。反対に、分離量δが小さい場合、高周波成分の減衰の少ない画像が得られる。この場合、高周波成分を抽出する必要があるため、処理対象画素P0から離れた画素における加重係数Wfを小さくする必要がある。
【0079】
そこで、画像における周波数特性を推定することにより、コントラストを強調すべき周波数をより正確に定めることができる。具体的には、パラメータkp及びkvを、分離量δに応じて次のように規定する。
【0080】
(1)分離量δが小さい場合
パラメータkp:処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の距離が大きくなるにつれて、加重係数Wpiが急激に小さくなるようにするため、パラメータkpを小さくする。
パラメータkv:処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の画素値の差が大きくなるにつれて、加重係数Wviが急激に小さくなるようにするため、パラメータkvを小さくする。
【0081】
(2)分離量δが大きい場合
パラメータkp:処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の距離が大きくなるにつれて、加重係数Wpiが緩やかに小さくなるようにするため、パラメータkpを大きくする。
パラメータkv:処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の画素値の差が大きくなるにつれて、加重係数Wviが緩やかに小さくなるようにするため、パラメータkvを大きくする。
【0082】
次に、実施の形態3に係る顕微鏡システムの動作について説明する。図18は、実施の形態3に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。なお、図18に示すステップS30、S31、及びS35は、図7に示すステップS10、S11、及びS14とそれぞれ対応している。また、実施の形態3においては、実施の形態2と同様に、図9に示す光学系を図2に示す顕微鏡2にセットして微分干渉観察を行う。
【0083】
ステップS31に続くステップS32において、電子カメラ36は、顕微鏡2の設定情報から、方向性情報Dirとして、微分干渉プリズム102によって分離された偏光La、Lbの分離方向の回転角φ’を抽出する(図11B参照)。この回転角φ’は、顕微鏡コントローラ41が取得したトップレンズユニット20に設けられたエンコーダーパルス、及び、キューブユニット30に設けられたエンコーダーパルスから抽出することができる。
【0084】
ステップS33において、電子カメラ36は、顕微鏡2の設定情報から、周波数情報として偏光La、Lbの分離量δを抽出する。この分離量δは、顕微鏡2にセットされた微分干渉プリズム102毎に決まるため、電子カメラ36は、顕微鏡コントロール部41が読み取った微分干渉プリズム102の識別信号から分離量δを取得することができる。
【0085】
ステップS34において、信号処理部300は、方向情報と周波数情報とに応じて、ステップS31において取得した画像に対してエッジ強調処理を行う。詳細には、信号処理部300は、まず、ベイヤ画像に対して色分離処理を施した画像信号に対してホワイトバランス調整を行う。そして、色差マトリックス処理により、画像信号を輝度信号Yと色差信号(Cr信号及びCb信号)とに分離する。そして、輝度信号Yに対して、方向性情報Dirを用いたバイラテラルフィルタ処理を施す。この際、バイラテラルフィルタ処理部304は、方向性情報Dirとして取得した回転角φ’から回転角θ(θ=φ’−90°)を算出し、この回転角θと周波数特性情報として取得した分離量δとを用いて式(2)〜(6)により加重係数Wiを算出する。バイラテラルフィルタ処理部304は、この加重係数Wiを用いて、式(1)によって与えられるフィルタ処理を画像信号に施すことにより、画像内のコントラストが付く方向におけるエッジが強調され、該方向と直交するコントラストが付かない方向が平滑化された輝度信号Ylを生成する。
【0086】
さらに、信号処理部300は、輝度信号Ylに対して輝度γ補正を施すと共に、バイラテラルフィルタ処理前の輝度信号Yからバイラテラルフィルタ処理後の(即ち、平滑化された)輝度信号Ylを減算することによりテクスチャ成分を抽出して、テクスチャ強調処理を行う。そして、γ補正された輝度信号と強調されたテクスチャ成分とを合成し、変換輝度信号Y’を出力する。
その後の処理については、実施の形態1において説明したものと同様である。
【0087】
以上説明したように、実施の形態3によれば、方向性情報としての回転角φ’及び周波数特性情報としての分離量δに基づき、画素間の距離や画素間の画素値の差といった画素同士の相互の関係に基づく加重係数を用いたフィルタ処理を行うので、微分干渉観察により取得された画像における方向性をより一層活かした画像を生成することが可能となる。
【0088】
以上説明した実施の形態1〜3においては、検鏡法に応じて画像に表れる方向性に着目し、この方向性を決定付ける光学系の設定情報に基づいて画像処理を行うので、検鏡法の特性に応じて、画像内の方向性をより一層活かした画像を生成することができる。従って、ユーザは、選択した検鏡法において、所望の画像情報を容易に観察することが可能となる。
【0089】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。
実施の形態4に係る顕微鏡システムは、電子カメラ36の内部構成の一部を除いて図1及び図2に示すものと同様である。また、本実施の形態4は、明視野観察と暗視野観察とを切り換えて観察を行う場合に適用される。
【0090】
図19は、実施の形態4に係る顕微鏡システムが備える電子カメラの内部構成の一部を示すブロック図である。図19に示すように、実施の形態4における電子カメラは、実施の形態3と同様、ベイヤ画像に対して信号処理を施す信号処理部400を備える。信号処理部400は、図12に示すバイラテラルフィルタ処理部304の代わりに、検鏡法情報Obに基づいて演算を行うバイラテラルフィルタ処理部401を有する。検鏡法情報Obとは、処理対象である画像が明視野観察と暗視野観察との内のいずれで撮像されたかを表す情報であり、顕微鏡2の設定情報から抽出することができる。なお、図19に示すバイラテラルフィルタ処理部401以外の各部の動作については、実施の形態3と同様である。また、信号処理部400以外の電子カメラ36の構成については、図4に示すものと同様である。
【0091】
バイラテラルフィルタ処理401は、実施の形態3と同様、上式(1)によって表される加重加算を行う。この際、周囲画素Pi(xi,yi)に与えられる加重係数Wiは、次式(7)によって与えられる。
i=Wpi×Wvi …(7)
【0092】
実施の形態4において、式(7)の内、処理対象画素P0と周囲画素Piとの距離に応じた重みWpiは、次式(8)によって与えられる。
【数4】

【0093】
また、処理対象画素P0と周囲画素Piとの画素値の差に応じた重みWviは、次式(9)によって与えられる。
【数5】

【0094】
ここで、図20に示すように、明視野観察により取得された画像(明視野観察画像)においては、輝度の高い領域にエッジが多く見られる。一方、暗視野観察により取得された画像(暗視野観察画像)においては、輝度の低い領域にエッジが多く見られる。このため、互いに異なる検鏡法により取得された画像に対して一律の画像処理を施すと、検鏡法に応じて画像に現れる本来のエッジ特性を活かすことができなくなる。
【0095】
そこで、実施の形態4においては、上式(8)、(9)における重み生成パラメータkp’、kv’を、検鏡法及び処理対象の画像の輝度に基づいて適応的に決定する。具体的には、明視野観察においては、輝度が低い領域における平滑化を強くして、輝度が高い領域おけるエッジが強調されるように重み生成パラメータkp’、kv’を決定する。一方、明視野観察においては、輝度が高い領域における平滑化を強くして、輝度が低い領域におけるエッジが強調されるように重み生成パラメータkp’、kv’を決定する。
【0096】
そのために、バイラテラルフィルタ処理部401は、まず、設定情報から抽出された検鏡法情報Obに基づき、図21に示す検鏡法ごとに設定された関数kc=fl(y)とkc=fd(y)との内のいずれか選択する。図21において、関数fl(y)は、明視野観察における調整係数kcを与える関数であり、輝度yが高くなるほど小さくなる調整係数kcを与える。また、関数fd(y)は、暗視野観察における調整係数kcを与える関数であり、輝度yが高くなるほど大きくなる調整係数kcを与える。
【0097】
続いて、バイラテラルフィルタ処理部401は、処理対象の画像内の各画素の画素値に基づき輝度yを算出し、選択した関数(fl(y)又はfd(y))により与えられる調整係数kcを用いて、次式(10)、(11)により、重み生成パラメータkp’、kv’を算出する。
p’=kc×kp …(10)
v’=kc×kv …(11)
式(10)、(11)において、パラメータkpは、処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の距離に基づく重みWpに関するパラメータであり、パラメータkvは、処理対象画素P0と周囲画素Piとの間の画素値の差に基づく重みWvに関するパラメータであり、いずれも予め定められた値である。
【0098】
さらに、バイラテラルフィルタ処理部401は、重み生成パラメータkp’、kv’を用いて加重係数Wiを算出し、この加重係数Wiを用いて画像にバイラテラルフィルタ処理を施す。その後の処理については、実施の形態3と同様である。
【0099】
以上説明したように、実施の形態4によれば、明視野観察又は暗視野観察により取得された画像に対し、検鏡法及び輝度に応じて決定される重み生成パラメータに基づく加重係数を用いたバイラテラルフィルタ処理を施すので、検鏡法に応じて現れる本来のエッジ特性を活かした画像を生成することが可能となる。
【0100】
以上説明した実施の形態1〜4において、主信号処理部200及びエッジ信号処理部201、並びに、信号処理部300、400は、アナログ回路又はデジタル回路によって実現しても良いし、CPU等のハードウェアにプログラムを読み込むことにより実現しても良い。後者の場合、ユーザが設定した検鏡法に応じて顕微鏡コントロール部41が各部に制御信号を出力した際に、電子カメラ36のCPUが主信号処理部200及びエッジ信号処理部201、又は信号処理部300、400に対応する動作プログラムを読み込むようにしても良い。
【0101】
本発明は、上記した各実施の形態そのままに限定されるものではなく、各実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成してもよい。或いは、異なる実施の形態に示した構成要素を適宜組み合わせて形成してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 顕微鏡システム
2 顕微鏡
3 アーム
5 三眼鏡筒ユニット
6 接眼レンズユニット
6a 接眼レンズ
11 透過照明光学系
12 落射照明光学系
13 透過照明用光源
14 コレクタレンズ
15 透過用フィルタユニット
17 折曲げミラー
19 コンデンサ光学素子ユニット
20 トップレンズユニット
21 落射照明用光源
22 落射用フィルタユニット
23 落射シャッタ
26 試料ステージ
27 対物レンズ
28 レボルバ
29 対物レンズ側光学素子ユニット
30 キューブユニット
31、34 ビームスプリッタ
33 中間変倍光学系
33a 変倍ズームレンズ
34a AF用受光素子
35 写真接眼レンズユニット
35a 写真接眼レンズ
36 電子カメラ
37 駆動制御部
38 対物レンズ検出部
39 リタデーション調整動作検出部
40 写真接眼レンズ検出部
41 顕微鏡コントロール部
41a 入力部
41b 表示部
42 撮像素子
43 CDS回路
44 増幅器(AMP)
45 A/D変換器
46 フレームメモリ
47 色分離処理部
49 色補正部
50 色信号γ補正部
51 色差マトリックス処理部
52 加算部
53 タイミングジェネレータ(TG)
54 シグナルジェネレータ(SG)
55 メモリコントローラ
56 内蔵メモリ
57 圧縮伸長処理部
58 記録媒体
59 表示部
60 制御部
61 操作部
62 γ補正部
63 Y信号生成部
64 ハイパスフィルタ(HPF)処理部
64a 水平ハイパスフィルタ
64b 垂直ハイパスフィルタ
64c 重み係数生成部
64d、64e 積算部
64f 加算部
65 コアリング部
66 エッジ強調処理部
67 データメモリ
100 結像レンズユニット
101 ポラライザ
102、102A、102B、105 微分干渉(DIC)プリズム
103 コンデンサレンズ
104 対物レンズ
106 アナライザ
161 透過シャッタ
200 主信号処理部
201 エッジ信号処理部
300、400 信号処理部
301 色分離処理部
303 色差マトリックス処理部
304、401 バイラテラルフィルタ処理部
305 輝度γ補正部
306 減算部
307 テクスチャ強調処理部
308 加算部
371 オートフォーカス(AF)ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの光を集光して該試料の観察像を生成する顕微鏡と、
前記観察像を電子的に撮像して画像信号を生成する撮像部と、
前記画像信号に対応する画像の方向性に関する方向性情報を含む設定情報を前記顕微鏡から取得する制御部と、
前記画像に対し、前記方向性情報に応じて画像のコントラストを強調する処理を実行する信号処理部と、
を備えることを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項2】
前記顕微鏡は、複数の検鏡法を切り換えて実行可能な光学系を有し、
前記制御部は、前記検鏡法に応じた前記設定情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡システム。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記画像から水平方向における第1の高周波成分と、垂直方向における第2の高周波成分とを抽出し、前記方向性情報に応じた重みを前記第1の高周波成分と前記第2の高周波成分とにそれぞれ与えて加算することを特徴とする請求項1又は2に記載の顕微鏡システム。
【請求項4】
前記顕微鏡は、偏射照明を有し、
前記方向性情報は、前記偏射照明における観察において、前記試料を照射する照明光の照射方向に対応する情報であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の顕微鏡システム。
【請求項5】
前記顕微鏡は、微分干渉観察用の光学系を有し、
前記方向性情報は、前記光学系における偏光の分離方向であることを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡システム。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記方向性情報を用いてバイラテラルフィルタ処理における加重係数を算出し、該加重係数を用いて前記画像に対して前記バイラテラルフィルタ処理を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載の顕微鏡システム。
【請求項7】
前記顕微鏡は、微分干渉観察用の光学系を有し、
前記方向性情報は、前記光学系における偏光の分離方向であることを特徴とする請求項6に記載の顕微鏡システム。
【請求項8】
前記設定情報は、前記画像の周波数特性を表す周波数特性情報を含み、
前記信号処理部は、前記周波数特性情報を用いて前記加重係数のパラメータを設定することを特徴とする請求項6又は7に記載の顕微鏡システム。
【請求項9】
前記周波数特性情報は、前記光学系における前記偏光の分離量であることを特徴とする請求項8に記載の顕微鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−88680(P2013−88680A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230200(P2011−230200)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】