説明

顕微鏡用試料の形成方法

【課題】 例えば透過型電子顕微鏡用の試料を比較的容易に形成することができるようにする。
【解決手段】 比較的大きな直方体形状のガラス基板1上の全面に形成された試料層4の上面の一部に厚さ2.2μmのマスク5を形成する。次に、マスク5を含む試料層4およびガラス基板1の上面側をアルゴンイオンエッチングにより2μm程度除去し、ガラス層3、試料層4およびマスク5からなる試料部形成用凸部2を形成する。次に、試料部形成用凸部2の中央部両側に、集束イオンビームの照射による掘削加工により、溝6を形成し、両溝6間に残存された試料部形成用凸部2により試料部7を形成する。以上の工程は、比較的大きな直方体形状のガラス基板1に対して行なえばよく、ガラス基板1の運搬等を比較的容易に行なうことができる。なお、ガラス基板1を試料支持部材8に固着すれば、その取り扱いをさらに容易とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は顕微鏡用試料の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)では、厚さが例えば0.5μm以下と極めて薄い試料を透過した電子を電子レンズで結像し、TEM像を得ている。このような試料の形成方法としては、任意箇所の微細加工が可能である集束イオンビーム装置を用いた方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−61204号公報
【0004】
上記特許文献1に記載の顕微鏡用試料の形成方法では、まず、観察対象物であるウエハの上面の短冊形状の試料形成領域の両側に、集束イオンビームの照射による掘削加工により、溝を形成し、両溝間に残存されたウエハにより試料形成部を形成する。試料形成部の長さは10〜20μm、幅(厚さ)は0.1〜0.5μm、高さ(深さ)は5μm程度である。
【0005】
次に、先端部の半径が数μm程度のプローブの先端部を試料形成部の側面に静電気力により吸着させ、プローブを持ち上げることにより、試料形成部をウエハから切断し、この切断されたものを試料片として取り出す。次に、プローブの先端部に静電気力により吸着された試料片を方形板状の試料台の側面中央部上側により大きな静電気力により吸着させて転写する。次に、試料片の中央部に対応する部分における試料台の上面中央部に、集束イオンビームの照射による掘削加工により、観察用溝を形成する。かくして、厚さ0.1〜0.5μmの試料片を有する試料を得ている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の顕微鏡用試料の形成方法では、長さ10〜20μm、幅(厚さ)0.1〜0.5μm、高さ(深さ)5μm程度と極めて小さくて薄い試料形成部をプローブの先端部に静電気力により吸着させて切断したり、この切断により得られた試料片をプローブの先端部に静電気力により吸着させて運搬したり、方形板状の試料台の側面中央部上側により大きな静電気力により吸着させて転写したりしているので、その作業に非常な精密さが要求され、熟練者でも大変であるという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、試料を未熟練者であっても比較的容易に形成することができる顕微鏡用試料の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、板状対象物の一部を切断し、直方体状の試料片を形成する工程と、前記試料片の上面の試料部形成領域およびその周囲にマスクを形成する工程と、前記マスクおよび前記試料片の上面側をイオンエッチングし、前記マスクの厚さを薄くするとともに、前記マスク周囲の前記試料片上面側を除去し、前記マスクおよび該マスク下に残存された前記試料片の一部により試料部形成用凸部を形成する工程と、前記試料部形成用凸部の少なくとも一部に集束イオンビーム加工の照射により溝を形成し、前記溝が形成された部分に残存された前記試料部形成用凸部により試料部を形成する工程と、を有することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記溝は前記試料部形成用凸部の中央部両側に形成し、前記両溝間に残存された前記試料部形成用凸部により試料部を形成することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記イオンエッチングはアルゴンイオンエッチングであることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記マスクの形成は、該マスク形成領域に集束イオンビームを照射しながら、カーボン膜、タングステン膜、酸化シリコン膜のいずれかの原料となる化合物ガスを当該マスク形成領域の周辺に供給することにより、行なうことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記マスクを形成した後に、前記試料片を補強部材に固着する工程を有することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記補強部材は、透過型電子顕微鏡で使用される半円弧形状または半円形状の試料支持部材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、板状対象物を切断して得られた、形成すべき試料部よりもサイズが大きい直方体形状の試料片に対して、マスクの形成、イオンエッチングおよび溝の形成を行なうことにより、試料部を形成しているので、形成すべき試料部よりもサイズが大きい直方体形状の試料片の運搬等を行なえばよく、その取り扱いが比較的容易となり、ひいては試料を未熟練者であっても比較的容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1(A)はこの発明の一実施形態としての試料の形成方法により形成された試料の一例の概略斜視図を示し、図1(B)はそのB円部の拡大斜視図であり、FIB加工後(最終仕上げ)を示す。この試料は、一例として、アクティブマトリクス型でスイッチング素子として薄膜トランジスタを用いた液晶表示パネルにおいて、異物やレジスト残り等に起因する点欠陥や線欠陥等の不良解析を透過型電子顕微鏡を用いて行なうためのものである。
【0011】
この試料は直方体形状のガラス基板1を備えている。ガラス基板1の上面中央部には平面ほぼH字形状の試料部形成用凸部2が設けられている。試料部形成用凸部2は、ガラス基板1上に一体的に突出されたガラス層3と、ガラス層3の上面に設けられた試料層4と、試料層4の上面に設けられたマスク5とからなっている。試料層4およびマスク5の詳細については後述する。
【0012】
試料部形成用凸部2の長さ方向中央部における幅方向両側には平面長方形状の溝6がガラス層3の上部に達するまで設けられている。そして、両溝6間に残存された、ガラス層3の上部と、その上面に設けられた試料層4と、その上面に設けられたマスク5とにより、試料部7が構成されている。ガラス基板1の側面両端部には、透過型電子顕微鏡で使用されるステンレス鋼等からなる半円弧形状の試料支持部材(補強部材)8の両端部がエポキシ系樹脂等からなる接着剤(図示せず)を介して固着されている。
【0013】
ここで、この試料の一部の寸法の一例について説明する。試料部形成用凸部2の長さは10μm、幅は1μm、高さは2.2μmである。試料部7の長さは3μm、幅は0.1μm、高さは1.5μmである。ガラス基板1の長さは3mm、幅は0.5mmである。
【0014】
次に、この顕微鏡用試料の形成方法の一例について説明する。まず、図2に示すように、ガラス基板1の上面に試料層4が設けられた板状対象物11を用意する。ここで、試料層4について、図2に示す板状対象物11の一部の断面図である図3を参照して説明する。
【0015】
ガラス基板1の上面の所定の箇所にはクロム等からなるゲート電極12および該ゲート電極12に接続されたゲートライン13が設けられている。ゲート電極12およびゲートライン13を含むガラス基板1の上面には窒化シリコン、酸化シリコン等からなるゲート絶縁膜14が設けられている。ゲート電極12上におけるゲート絶縁膜14の上面の所定の箇所には真性アモルファスシリコンからなる半導体薄膜15が設けられている。
【0016】
半導体薄膜15の上面の所定の箇所には窒化シリコン等からなるチャネル保護膜16が設けられている。チャネル保護膜16の上面両側およびその両側における半導体薄膜15の上面にはn型アモルファスシリコンからなるオーミックコンタクト層17、18が設けられている。オーミックコンタクト層17、18の各上面にはクロム等からなるソース電極19およびドレイン電極20が設けられている。
【0017】
ここで、ゲート電極12、ゲート絶縁膜14、半導体薄膜15、チャネル保護膜16、オーミックコンタクト層17、18、ソース電極19およびドレイン電極20により、逆スタガ型でチャネル保護膜型の薄膜トランジスタ21が構成されている。
【0018】
ゲート絶縁膜14の上面の所定の箇所にはクロム等からなるデータライン22がドレイン電極20に接続されて設けられている。薄膜トランジスタ21およびデータライン22を含むゲート絶縁膜14の上面には窒化シリコン、酸化シリコン等からなるオーバーコート膜23が設けられている。ここで、ガラス基板1上に設けられたもののすべてにより、試料層4が構成されている。
【0019】
さて、図2に示す板状対象物11を用意したら、次に、図4(A)において実線で示すように、板状対象物11を切断し、図4(B)に示すように、直方体形状の試料片31を形成する。この状態における試料片31は、直方体形状のガラス基板1の上面に試料層4が設けられた構造となっている。試料片31の長さは3mm、幅は0.5mmである。次に、必要に応じて、試料片31の切断面を機械研磨する。
【0020】
次に、図5(A)、(B)に示すように、試料片31の試料層4の上面中央部に直方体形状のマスク5を形成する。マスク5の形成は、該マスク形成領域に集束イオンビームを照射しながら、カーボン膜、タングステン膜、酸化シリコン膜のいずれかの原料となる化合物ガスを当該マスク形成領域の周辺に供給することにより、行なう。マスク5の長さは10μm、幅は1μm、高さは2.2μmである。
【0021】
次に、図6に示すように、試料片31のガラス基板1の側面両端部に、透過型電子顕微鏡で使用されるステンレス鋼等からなる半円弧形状の試料支持部材(補強部材)8の両端部をエポキシ系樹脂等からなる接着剤(図示せず)を介して固着する。なお、試料支持部材8は半円形状であってもよい。
【0022】
次に、図7に示すように、マスク5を含む試料片31の上面側を、アルゴンイオンミリンダ装置(図示せず)を用いてアルゴンイオンビームを照射することにより、アルゴンイオンエッチングを行なう。この場合、マスク5の周囲における試料片31の上面側を2μm程度エッチングして除去する。すると、図8に示すように、当初の高さが2.2μmであったマスク5の上面側は2μm程度エッチングされて除去され、マスク5の厚さが0.2μm程度と薄くなる。
【0023】
ここで、試料層4の厚さが最大でも1.5μm未満であるとする。すると、マスク5の周囲における試料片31の上面側が2μm程度エッチングされて除去されることにより、マスク5下以外の領域における試料層4がすべて除去され、且つ、マスク5下以外の領域におけるガラス基板1の上面側がある程度除去される。そして、この状態では、マスク5下に試料層4およびガラス層3が残存され、これらにより試料部形成用凸部2が形成されている。
【0024】
次に、図9に示すように、試料部形成用凸部2の長さ方向中央部における幅方向両側に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射することにより、掘削加工を行なう。すると、図1(B)に示すように、試料部形成用凸部2の長さ方向中央部における幅方向両側に、ガラス層3の上部まで達する平面長方形状の溝6が形成される。この状態では、両溝6間に残存された、ガラス層3の上部と、その上面に設けられた試料層4と、その上面に設けられたマスク5とにより、試料部7が構成されている。試料部7の長さは3μm、幅は0.1μm、高さは1.5μmである。
【0025】
以上のように、上記顕微鏡用試料の形成方法では、板状対象物11を切断して得られた、形成すべき試料部7よりもサイズが大きい直方体形状の試料片31に対して、マスク5の形成、アルゴンイオンエッチングおよび溝6の形成を行なうことにより、試料部7を形成しているので、形成すべき試料部7よりもサイズが大きい直方体形状の試料片31の運搬等を行なえばよく、その取り扱いが比較的容易となり、ひいては試料を未熟練者であっても比較的容易に形成することができる。しかも、図6に示すように、試料片31を試料支持部材8に固着した後においては、試料片31を試料支持部材8で補強することができるので、その取り扱いをさらに容易とすることができる。
【0026】
なお、マスク5は、印刷等により塗布されたフォトレジスト膜あるいはスパッタ等により成膜された銅等からなる金属膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることによって形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態としての試料の形成方法により形成された試料の一例の概略斜視図、(B)はそのB円部の拡大斜視図。
【図2】図1に示す試料の形成方法の一例において、当初用意した板状対象物の斜視図。
【図3】図2に示す板状対象物の一部の断面図。
【図4】(A)は板状対象物の切断を説明するために示す斜視図、(B)はその切断により得られた試料片の斜視図。
【図5】(A)は図4に続く工程の斜視図、(B)はそのB円部の拡大斜視図。
【図6】図5に続く工程の斜視図。
【図7】図6に続く工程の斜視図。
【図8】図7に示す工程の結果を説明するために示す斜視図。
【図9】図8に続く工程の斜視図。
【符号の説明】
【0028】
1 ガラス基板
2 試料部形成用凸部
3 ガラス層
4 試料層
5 マスク
6 溝
7 試料部
8 試料支持部材
11 板状対象物
31 試料片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状対象物の一部を切断し、直方体状の試料片を形成する工程と、
前記試料片の上面の試料部形成領域およびその周囲にマスクを形成する工程と、
前記マスクおよび前記試料片の上面側をイオンエッチングし、前記マスクの厚さを薄くするとともに、前記マスク周囲の前記試料片上面側を除去し、前記マスクおよび該マスク下に残存された前記試料片の一部により試料部形成用凸部を形成する工程と、
前記試料部形成用凸部の少なくとも一部に集束イオンビーム加工の照射により溝を形成し、前記溝が形成された部分に残存された前記試料部形成用凸部により試料部を形成する工程と、
を有することを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記溝は前記試料部形成用凸部の中央部両側に形成し、前記両溝間に残存された前記試料部形成用凸部により前記試料部を形成することを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の発明において、前記イオンエッチングはアルゴンイオンエッチングであることを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の発明において、前記マスクの形成は、該マスク形成領域に集束イオンビームを照射しながら、カーボン膜、タングステン膜、酸化シリコン膜のいずれかの原料となる化合物ガスを当該マスク形成領域の周辺に供給することにより、行なうことを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の発明において、前記マスクを形成した後に、前記試料片を補強部材に固着する工程を有することを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の発明において、前記補強部材は、透過型電子顕微鏡で使用される半円弧形状または半円形状の試料支持部材であることを特徴とする顕微鏡用試料の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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