説明

風揺れ阻止機構を備えた建物免震システム

【課題】建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができ、しかも、それを簡素なシステム構成で実現することができる、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムを提供する。
【解決手段】建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知する第2錘20と、第2錘20が、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知した時、第1錘12の地震検知によって固定解除機構19が風揺れ阻止機構1による固定を解除するのを阻止する固定解除阻止機構24とが備えられている。第2錘20は、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動いて建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知するようになされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
戸建ての免震住宅等に用いられる建物免震システムとして、転がり支承などによって免震支承された建物の上部構造部が台風等の風を受けて揺れてしまうことがないよう、風揺れ阻止機構と、地震による基礎側の揺れを検知するセンサーとを備えさせ、基礎側の揺れを検知しない限り基礎と上部構造部とが風揺れ阻止機構によって固定状態を維持して免震不能状態に保持され、基礎側の揺れが検知されると風揺れ阻止機構による固定が解除されて免震可能状態が形成されるようになされたものがある。
【特許文献1】特開2004−211357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の免震システムで用いられている地震検知センサーは、建物の固有周期帯(例えば、3〜3.5sec)を含む基礎側の揺れをも検知するため、そのような揺れに対しても、風揺れ阻止機構による固定が解除されて免震可能状態が形成されてしまい、それが原因で、建物が共振して大きく揺れ、大きな被害が発生するおそれが皆無とはいえないという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができ、しかも、それを簡素なシステム構成で実現することができる、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、建物の基礎と上部構造部との間に介設され、上部構造部を免震する免震支承部と、
建物の基礎と上部構造部とを解除可能に固定して連結し、前記免震支承部による免震支承によって上部構造部が風を受けて揺れるのを阻止する風揺れ阻止機構と、
基礎側の揺れを検知する第1地震検知センサーと、
該第1地震検知センサーからの基礎側の揺れを検知した時、前記風揺れ阻止機構による固定を解除する固定解除機構と
が備えられた、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムにおいて、
前記建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知する第2地震検知センサーと、
該第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知した時、前記第1地震検知センサーの地震検知によって固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを阻止する固定解除阻止機構と
が備えられていることを特徴とする、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムによって解決される(第1発明)。
【0006】
このシステムでは、第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知した時、固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを、固定解除阻止機構が阻止し、免震不能状態が維持されて、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができる。しかも、それを風揺れ阻止機構を利用した簡素なシステム構成で実現することができる。
【0007】
第1発明において、前記第1地震検知センサーが、基礎側の揺れによって動く第1錘からなり、
前記固定解除機構が、第1錘の動きに連動して風揺れ阻止機構による固定を無電気で解除する機械式伝動機構からなり、
前記第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動く第2錘からなり、
前記固定解除阻止機構が、第2錘の動きに連動して固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを無電気で阻止する機械式伝動機構からなっているとよい(第2発明)。
【0008】
この場合は、停電時に地震で基礎が揺れても、固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除して免震可能状態が形成され、その地震による基礎の揺れが建物の固有周期帯を含む揺れである場合は、固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを固定解除阻止機構が阻止して免震不能状態が維持され、停電時であっても、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができる。
【0009】
しかも、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動く第2錘を第2地震検知センサーとし、固定解除阻止機構が、風揺れ阻止機構による固定を解除するのを阻止するようにしているので、簡素な検知機構によって、建物の共振被害の発生を防ぐことができる。
【0010】
また、第1発明において、第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動いて検知を行う第2錘からなるとよい(第3発明)。この場合は、簡素な検知機構によって、建物の共振被害の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムは、以上のとおりのものであるから、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができ、しかも、それを風揺れ阻止機構を利用した簡素なシステム構成で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態の風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムは、建物の基礎と上部構造部との間に介設された図示しない免震支承部と、図1(イ)に示すような風揺れ阻止機構1とが備えられている。
【0014】
風揺れ阻止機構1は、油圧シリンダー型のものからなっており、シリンダー2内にピストン3が配置され、ピストン3を挟む一方の室4ともう一方の室5とがシリンダー2の外で配管6にて連通状態に接続されると共に、該配管6に開閉弁7が設けられ、室4,5及び配管6内にオイル8が入れられ、シリンダー2が建物の基礎の側に連結されると共に、ピストン3のロッド9が建物の上部構造部の側に連結されるようになされた構造のものからなっていて、
基礎側と上部構造部とに連結されることにより、図2(イ)に示すように、開閉弁7が閉じた状態では、一方の室4ともう一方の室5との、配管6を通じた行き来を阻止され、シリンダー2とピストン3との相対移動が阻止されて、風揺れ阻止の免震不能状態を形成し、図2(ロ)(ハ)に示すように、開閉弁7が開いた状態では、オイルが一方の室4ともう一方の室5との、配管6を通じた行き来を許容され、シリンダー2とピストン3とが相対移動をすることができて、免震可能状態を形成するようになされている。なお、風揺れ阻止機構1において、10は基礎側への連結部、11は上部構造部側への連結部である。
【0015】
そして、基礎側には、図1(ロ)に示すように、地震による基礎の揺れを検知する第1地震検知センサーを構成する第1錘12が備えられている。該第1錘12は、上下方向に向けられた第1ロッド13の上端部に取り付けられており、該第1ロッド13の長さ方向の中間部には受け14が備えられ、第1ロッド13の下端側をベース15の水平プレート部15aに貫通させ、受け14を同水平プレート部15a上に支承させた状態にされて、傾倒可能に水平プレート15aに直立状態に保持されている。該ベース15は、基礎側、具体的には、基礎、あるいは、床下土間、あるいは、基礎に連結された風揺れ阻止機構のシリンダーなどに付設されて備えられている。
【0016】
また、水平プレート部15aの下方において、上記のベース15には、第1シーソー材16が水平軸線回りで回転可能に枢設されており、該第1シーソー材16の枢結部16aを挟む一方の側の長手方向の中間部に、前記第1ロッド13の下端部が連結され、図3(イ)に示すように、基礎側の揺れによって、第1錘12と第1ロッド13が傾倒する動きをすると、それに連動して、第1シーソー材16の枢結部16aを挟む前記一方の側が上昇し、もう一方の側が下降する回転動作をするようになされている。
【0017】
そして、図1(ロ)に示すように、第1シーソー材16の枢結部16aを挟む前記もう一方の側には、開閉弁7の弁体7aを閉の位置に保持する係合部17が備えられ、図3(イ)に示すように、第1錘12と第1ロッド13が傾倒する動きをして第1シーソー材16の枢結部16aを挟む前記もう一方の側が下降すると、弁体7aと係合部17との係合が解除され、弁体7aがバネ18の復元付勢力によって後退して開閉弁7が開かれるようになされて、風揺れ阻止機構1による建物の基礎と上部構造部との固定を解除する機械式伝動機構による固定解除機構19が構成されている。なお、7aは、開閉弁7内の流路である。
【0018】
また、基礎側には、図1(ロ)に示すように、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知する第2地震検知センサーを構成する第2錘20が、第1錘12を挟んで弁体7aとは反対の側に備えられている。該第2錘20は、上下方向に向けられた第2ロッド21の上端部に取り付けられており、該第2ロッド21の長さ方向の中間部には受け22が備えられ、第2ロッド21の下端側をベース15の水平プレート部15aに貫通させ、受け22を同水平プレート部15a上に支承させ、水平プレート部15aに対して若干締め付けられた状態にされ、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによって共振することで、第2ロッド21と共に、傾倒する動きをするように、水平プレート部16aに直立状態に保持されている。
【0019】
また、水平プレート部15aの下方において、ベース15には、第2シーソー材23が水平軸線回りで回転可能に枢設されており、該第2シーソー材23の枢結部23aを挟む一方の長手方向の中間部に、前記第2ロッド21の下端部が連結され、図3(ロ)に示すように、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによって第2錘20が共振し、傾倒する動きをすると、それに連動して、第2シーソー材23の枢結部23aを挟む前記一方の側が上昇し、もう一方の側が下降して前記第1シーソー材16の枢結部16aを挟む前記一方の側の端部と係合し、該一方の側の上昇を阻止して、風揺れ阻止機構1による固定が固定解除機構19によって解除されるのを阻止する機械式伝動機構による固定解除阻止機構24が構成されている。
【0020】
上記の風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムでは、地震により、建物の固有周期帯を含まない基礎側の揺れを生じると、図3(イ)に示すように、それを第2錘20は検知せず、第1錘12が検知して第1ロッド13と共に傾倒する動きをし、それによって、第1シーソー材16が第2シーソー材23に妨げられることなく、回転し、係合部17と弁体7aとの係合が解除されて弁体7aが後退し、開閉弁7が開いて、風揺れ阻止機構1による建物の基礎と上部構造部との固定が解除され、免震可能状態となって、上部構造部が免震される。
【0021】
一方、地震により、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを生じると、図3(ロ)に示すように、それを第2錘20が検知して共振し、第2ロッド21と共に傾倒する動きをし、それによって、第2シーソー材23が回転をし、第1錘12と第1ロッド13の傾倒による第1シーソー材16の回転が阻止され、係合部17と弁体7aとの係合が解除されずに開閉弁7は閉じたままで、免震不能状態が維持されて、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生が防がれる。
【0022】
このように、上記の風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムによれば、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れによる建物の共振被害の発生を防ぐことができ、しかも、それを風揺れ阻止機構1を利用した簡素なシステム構成で実現することができる。
【0023】
なお、本実施形態では、第1錘12の傾倒動作による免震可能状態が、例えば震度5などの所定の震度以上の揺れで形成されるようになされていて、それよりも小さい震度では風揺れ阻止機構1によって免震不能状態を維持するようになされており、第2錘20は、そのような震度以上の基礎側の揺れであって、建物の固有周期帯を含む揺れ、によって共振をして傾倒動作をするようになされていて、その傾倒動作によって風揺れ阻止機構1の固定解除が阻止されて免震不能状態が維持されるようになされている。なお、図示実施形態と異なる構成を採用することによって、基礎側の揺れで先行して傾倒した第1錘が、第2錘の後行する傾倒動作によって直立状態に戻り、それによって免震不能状態が維持される構成にされていてもよい。
【0024】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、第1,第2の地震検知センサーとして、地震による揺れで傾倒する動きをする錘を採用したり、固定解除機構19や固定解除阻止機構24として、第1,第2のシーソー材16,23を採用したり、風揺れ阻止機構1として油圧シリンダー型のものを採用した場合を示したが、その他の地震検知センサー、その他の固定解除機構、その他の固定解除阻止機構、その他の風揺れ阻止機構が採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図(イ)は実施形態の免震システムにおける風揺れ阻止機構を示す一部断面平面図、図(ロ)は同システムにおける第1,第2の地震検知センサー、固定解除機構、固定解除阻止機構及び開閉弁を示す断面正面図である。
【図2】図(イ)〜図(ハ)はそれぞれ、風揺れ阻止機構の作動状態を示す一部断面平面図である。
【図3】図(イ)及び図(ロ)はそれぞれ、同システムにおける第1,第2の地震検知センサー、固定解除機構、固定解除阻止機構及び開閉弁の作動状態を示す断面正面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…風揺れ阻止機構
12…第1錘(第1地震検知センサー)
19…固定解除機構
20…第2錘(第2地震検知センサー)
24…固定解除阻止機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の基礎と上部構造部との間に介設され、上部構造部を免震する免震支承部と、
建物の基礎と上部構造部とを解除可能に固定して連結し、前記免震支承部による免震支承によって上部構造部が風を受けて揺れるのを阻止する風揺れ阻止機構と、
基礎側の揺れを検知する第1地震検知センサーと、
該第1地震検知センサーからの基礎側の揺れを検知した時、前記風揺れ阻止機構による固定を解除する固定解除機構と
が備えられた、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システムにおいて、
前記建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知する第2地震検知センサーと、
該第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯を含む基礎側の揺れを検知した時、前記第1地震検知センサーの地震検知によって固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを阻止する固定解除阻止機構と
が備えられていることを特徴とする、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システム。
【請求項2】
前記第1地震検知センサーが、基礎側の揺れによって動く第1錘からなり、
前記固定解除機構が、第1錘の動きに連動して風揺れ阻止機構による固定を無電気で解除する機械式伝動機構からなり、
前記第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動く第2錘からなり、
前記固定解除阻止機構が、第2錘の動きに連動して固定解除機構が風揺れ阻止機構による固定を解除するのを無電気で阻止する機械式伝動機構からなる請求項1に記載の、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システム。
【請求項3】
前記第2地震検知センサーが、建物の固有周期帯と同じ固有周期帯を備え、該固有周期帯を含む基礎側の揺れに共振することによってのみ動いて検知を行う第2錘からなる請求項1に記載の、風揺れ阻止機構を備えた建物免震システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138475(P2009−138475A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317735(P2007−317735)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】