説明

風車およびその制御方法

【課題】低周波音の影響を低減できる風車およびその制御方法を提供する。
【解決手段】風車1は、地上に立設された塔の上部にナセルが設置され、そのナセルに支持された水平軸風車であり、ブレードを有し、風を受けて回転する。この風車1は、風車1の回転速度を検出する回転速度検出器2と、風車1の回転速度を制御する回転速度制御装置3と、を備える。そして、回転速度制御装置3は、回転速度検出器2が検出する風車1の回転速度が所定の範囲内で一定時間以上連続する場合、風車1の回転速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードを有し、風を受けて回転する風車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2の削減といった観点から、風力などの自然エネルギーを利用することが注目されている。
【0003】
例えば非特許文献1、2には、風力発電に関する技術が記載されている。風力発電は、風の力で風車のブレードを回し、その回転運動を発電機に伝えて発電するものである。つまり、風力エネルギーを回転エネルギーに変換して、電気エネルギーとして取り出す。風力発電システムは、塔の上部にナセルを設置し、このナセルに水平軸風車(風の方向に対して回転軸がほぼ平行な風車)を取り付けた構造が一般的である。ナセルには、風車の回転軸の回転数を増速して出力する増速機と、増速機の出力によって駆動される発電機とが格納されている。増速機は、風車の回転数を発電機の回転数まで高める(例えば1:100)ものであり、ギアボックスが組み込まれている。
【0004】
また、風力発電システムの風車は、通常、ブレードのピッチ角を調整する可変ピッチ機構を備え、定格回転速度で回転するように、風速の変動に応じてブレードのピッチ角を調整し、風車の回転速度を制御するピッチ制御が行われている。
【0005】
最近では、発電コストを下げるため、風車を大型化する傾向があり、風車の直径が80m以上、出力が2MWクラスの大型風力発電システムが開発されている。大型風力発電システムの風車の場合は、一般に、ブレードの枚数が1〜3枚(主に3枚)であり、定格回転速度が10〜60rpm程度の範囲内に設定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“風力発電(01‐05‐01‐05)”、[online]、原子力百科辞典ATOMICA、[平成22年3月31日検索]、インターネット<URL:http://www.rist.or.jp/atomica/>
【非特許文献2】“スバル風力発電システム SUBARU WIND TURBINE”、[online]、富士重工業株式会社、[平成22年3月31日検索]、インターネット<URL:http://www.subaru-windturbine.jp/windturbine/>
【非特許文献3】“特集 低周波音問題について”、[online]、[平成22年3月31日検索]、インターネット<URL:http://www.soumu.go.jp/kouchoi/substance/chosei/pdf/028/teisyhaaon.pdf>
【非特許文献4】“諸外国における風力発電施設から発生する騒音・低周波音に係る基準等の状況について(暫定版)”、[online]、[平成22年3月31日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=13184&hou_id=10905>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、風力発電の普及に伴い、風車から発生する低周波音問題が取り上げられつつある(例えば、非特許文献3、4参照)。低周波音は、概ね100Hz以下の音波のことであり(特に、20Hz以下の音波を超低周波音と呼ぶ)、低周波音の影響としては、建具などをガタつかせる物的影響や、頭痛、耳鳴り、吐き気、睡眠妨害などの人的影響がある。風車から発生する低周波音の基本周波数fは、回転速度をR(rpm)、ブレードの枚数をZ(枚)とすると、f=RZ/60(Hz)で与えられる。特に、大型風力発電システムの風車の場合は、ブレードの枚数が少なく、回転速度も小さいため、運転風速範囲での正常運転でも低周波音が発生し、また、その音圧レベルも高いことから、低周波音の影響が大きいと想定される。
【0008】
しかし、今までのところ、風車から発生する低周波音に対する有効な低減対策は見出されていない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低周波音の影響を低減できる風車およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、低周波音の影響について次のように考えた。風車は、風速に応じた回転速度の制御が行われ、設定された定格回転速度で回転するように設計されている。また、地形や時間帯によっては、安定した風が吹くこともある。そのため、ある程度の時間、風車からほぼ一定周波数の低周波音が連続して発生することがある。その結果、低周波音の周波数が建具などの固有振動数と一致する場合、建具などのガタつきが発生し続けたり、ほぼ一定周波数の低周波音に曝され続けることで、人が不快感を強く感じると推測される。
【0011】
そして、本発明者は、風車がほぼ一定の回転速度で一定時間回転し続ける場合は、風車の回転速度を制御することで、長時間に亘ってほぼ一定周波数の低周波音が発生することを防止でき、低周波音の影響を低減できると考え、この考えに基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の風車は、ブレードを有し、風を受けて回転する風車であり、風車の回転速度を検出する回転速度検出器と、風車の回転速度を制御する回転速度制御装置と、を備える。そして、回転速度制御装置は、回転速度検出器が検出する風車の回転速度が所定の範囲内で一定時間以上連続する場合、風車の回転速度を制御することを特徴とする。
【0013】
一方、本発明の風車の制御方法は、ブレードを有し、風を受けて回転する風車の制御方法であり、風車が、所定の範囲内の回転速度で一定時間以上連続して回転する場合、風車の回転速度を制御することを特徴とする。
【0014】
本発明の風車および風車の制御方法によれば、運転風速範囲(カットイン風速からカットアウト風速の間)において風車がほぼ一定の回転速度で一定時間回転し続ける場合は、風車の回転速度を積極的に制御することで、長時間に亘ってほぼ一定周波数の低周波音が発生することを防止できる。その結果、低周波音の影響を低減できる。
【0015】
本発明において、所定の範囲内は、適宜設定することができ、例えば回転速度の変化が10%未満と設定することが挙げられる。例えば、回転速度が10%未満の変化である場合は、回転速度のばらつきとみなし、風車が一定の回転速度で回転していると判断する。そして、風車の回転速度を制御するときは、制御前のある一定の回転速度から10%以上変更されるように制御する。また、本発明において、一定時間は、適宜設定することができ、例えば10分、好ましくは5分と設定することが挙げられる。
【0016】
本発明の風車の一形態としては、ブレードのピッチ角を調整する可変ピッチ機構を備え、回転速度制御装置が、可変ピッチ機構により、ブレードのピッチ角を調整することで、風車の回転速度を制御することが挙げられる。
【0017】
この構成によれば、従来の風車に特に大きな変更を加えることなく、制御システムを変更するのみで対応することが可能である。
【0018】
本発明の風車の一形態としては、風車に連動して回転する回転軸と、回転軸に支持された回転体と、回転体の回転に伴い回転磁界を発生するコイルと、コイルに電流を通電する電源と、回転磁界の磁束による誘導電流が流れる導体と、を備える。そして、回転速度制御装置が、電源からコイルへの通電電流を制御して、導体に流れる誘導電流により発生する回転体の回転を停止させる方向のトルクを調整することで、風車の回転速度を制御することが挙げられる。
【0019】
この構成によれば、コイルにより、回転体に回転磁界を発生させ、この回転磁界の磁束による誘導電流が導体に流れることで、この誘導電流によって、回転中の回転体を停止させる方向のトルク(制動トルク)が発生する。制動トルクは導体に発生する誘導電流に比例し、この誘導電流は導体に囲まれた空間内を貫通する回転磁界の磁束の変化に比例するので、回転磁界を発生するコイルへの通電電流を調整することで、制動トルクを調整することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の風車およびその制御方法は、風車がほぼ一定の回転速度で一定時間回転し続ける場合は、風車の回転速度を積極的に制御することで、低周波音の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る風車の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る風車の一例を示す構成図である。
【図3】本発明に係る風車において、回転速度制御装置が風車の回転速度を制御するか否かの判断手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る風車の回転速度を制御する具体的手段の第2の構成例を示す概略図であり、(A)は、回転軸側から見た正面図であり、(B)は、回転軸の軸方向に沿って切断した側面半断面図である。
【図5】本発明に係る風車の回転速度を制御する具体的手段の第2の構成例を示す概略図であり、一部分を分解した要部拡大斜視図である。
【図6】本発明に係る風車の回転速度を制御する具体的手段の第2の構成例において、回転体が回転したときの磁性体凸部と磁性体突起部との間に発生する磁場(磁束密度)Tの時間的変化を示す模式図である。
【図7】本発明に係る風車の回転速度を制御する具体的手段の第2の構成例を示す概略図であり、回転体が回転中の一状態を示す正面図である。
【図8】本発明に係る風車の回転速度を制御する具体的手段の第2の構成例を備える風車を利用した発電システムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、図を用いて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0023】
(実施の形態)
図1に示す本発明に係る風車1は、地上に立設された塔201の上部にナセル202が設置され、そのナセル202に支持された水平軸風車である。この風車1は、3枚のブレード10を有し、回転軸11の先端に固定されたハブ12に各ブレード10が放射状に取り付けられている。また、ナセル202には、風向風速計203が取り付けられている。
【0024】
風車1は、図2に示すように、回転速度検出器2と、回転速度制御装置3とを備える。
【0025】
回転速度検出器2は、風車1の回転速度を検出する機器である。回転速度は、回転数を時間で割って求めることができる。回転速度検出器2には、ロータリエンコーダなどの市販の回転速度計を用いることができ、例えば風車1に連動して回転する回転軸11に回転速度計を設けることが挙げられる。回転速度検出器2は、検出した風車1の回転速度を回転速度制御装置3に出力する。
【0026】
回転速度制御装置3は、風車1の回転速度を制御する装置である。この回転速度制御装置3には、回転速度検出器2により検出された風車1の回転速度が入力される。なお、風車の回転速度を制御する具体的手段については後述する。
【0027】
回転速度制御装置3は、回転速度検出器2から入力された風車1の回転速度が所定の範囲内で一定時間以上連続すると判断した場合、風車1の回転速度を制御する。ここで、回転速度制御装置3の風車1の回転速度を制御するか否かの判断手順の一例を、図3を用いて説明する。
【0028】
≪ステップS1:初期化≫
タイマtの初期化と、基準となる回転速度R0の初期化が行われる。ここでは、先に回転速度検出器から入力された回転速度の値を回転速度R0に設定する。
【0029】
≪ステップS2:回転速度R1の取得≫
回転速度検出器から入力された現時点の回転速度を取得し、この値を回転速度R1の値に設定する。
【0030】
≪ステップS3:回転速度R1が所定の範囲内にあるかの判定≫
回転速度R1が所定の範囲内にあるか否かを判定する。ここでは、所定の範囲内を、基準となる回転速度R0に対する回転速度R1の変化が10%未満と設定する。基準となる回転速度R0に対して回転速度R1が10%未満の変化である場合は、風車が一定の回転速度で回転しているとみなし、次のステップS4に進む。一方、基準となる回転速度R0に対して回転速度R1が10%以上の変化である場合は、ステップS1に戻り、タイマtの初期化と、基準となる回転速度R0の値を回転速度R1の値に変更する。
【0031】
≪ステップS4:一定の回転速度R0で一定時間回転し続けているかの判定≫
タイマtの値が予め設定した時間T0以上経過したか否かを判定する。時間T0以上経過していない場合は、ステップS2に戻る。一方、時間T0以上経過した場合は、風車が一定の回転速度で一定時間回転し続けていると判断し、次のステップ5に進む。
【0032】
≪ステップS5:回転速度の制御≫
風車の回転速度を制御する。ここでは、回転速度を制御するときは、制御前の回転速度R0から10%以上変更されるように制御する。回転速度の制御後、ステップS1に戻る。
【0033】
次に、風車の回転速度を制御する具体的手段について説明する。
【0034】
(例1)
風車の回転速度を制御する具体的手段の第1の構成例としては、ブレードのピッチ角を調整する可変ピッチ機構を備える構成が挙げられる。従来の可変ピッチ機構を備える風車の場合、運転風速範囲(カットイン風速からカットアウト風速の間)において回転速度を一定に保つようにピッチ制御を行っている。本発明では、回転速度制御装置3(図2参照)が、回転速度検出器2から入力された風車1の回転速度が所定の範囲内で一定時間以上連続すると判断した場合、回転速度制御装置3から可変ピッチ機構に信号を送り、ブレードのピッチ角を調整する。なお、可変ピッチ機構は、風車1のハブ12(図1参照)に組み込まれている。
【0035】
上記した第1の構成例を備える風車において、回転速度を制御するときは、例えば、風速に対し回転方向のトルクが小さくなるようにブレードのピッチ角(傾き)を風向に対して小さくして、回転速度を落とすことができる。また、既に、回転速度制御装置により風速に対し回転速度を落としている場合は、ブレードのピッチ角を更に小さくして回転速度を落とす他、風速に対し回転方向のトルクが大きくなるようにブレードのピッチ角(傾き)を風向に対して大きくして、回転速度を上げることができる。したがって、上記構成により、ブレードのピッチ角を調整することで、風車の回転速度を制御することができる。
【0036】
(例2)
具体的手段の第2の構成例としては、誘導電流を利用して風車の回転速度を制御することが挙げられる。例えば図4、5に示すように、回転体31と、ヨーク32と、コイル33と、導体34とを備える構成とする。なお、図4においては、導体のみ断面で示している。
【0037】
回転体31は、風車の回転軸11のハブ側とは反対側でナセルに格納され、回転軸11に支持された円筒状の部材である。この例では、回転体31が回転軸11から放射状に延びる支持部材315を介して回転軸11に支持されている。回転体31の外周面には、回転体31の遠心方向に突出し、回転体31の軸方向に並ぶ一対の磁性体凸部311,312が一体に設けられている。また、軸方向に並ぶ一対の磁性体凸部311,312を一組として、これが周方向に等間隔をあけて複数(この場合、18組)並設されている。この回転体31は、磁性体凸部311,312を含めて磁性材料で形成されており、使用する磁性材料としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ケイ素鋼、パーマロイ、及びフェライトなどが挙げられる。なお、ここでは、風車がハブ側から見て反時計回りに回転し、回転体31が回転軸11側から見て反時計回りに回転する(図4(A)中の矢印は回転方向を示す)。
【0038】
ヨーク32は、回転体31の外周側に回転体31と所定間隔をあけて配置された円筒状の部材である。ヨーク32の内周面には、上記した回転体11に設けられた磁性体凸部311,312に対応するように、回転体31側に突出し、回転体31の軸方向に並ぶ一対の磁性体突起部321,322が一体に設けられている。この例では、軸方向に並ぶ一対の磁性体突起部321,322を一組として、これが周方向に等間隔をあけて複数(この場合、18組)並設されている。また、このヨーク32は、回転体31と同様、磁性体突起部321,322を含めて磁性材料で形成されている。ここでは、ヨーク32が回転しないように固定されている。
【0039】
コイル33は、一対の磁性体凸部311,312と一対の磁性体突起部321,322とが互いに対向するとき、回転体31、一対の磁性体凸部311,312、一対の磁性体突起部321,322、及びヨーク32で囲まれる空間内を通るように巻回されている。この例では、コイル33が、回転体31とヨーク32との間の環状空間に配置され、回転体31と間隔をあけてヨーク32側に固定されている。また、このコイル33は、常電導の銅コイルであり、図示しない直流電源に接続されている。ここでは、コイル33に通電する直流電流の向きを、回転体11の回転方向と同じ方向とする(図5中の矢印は電流が流れる方向を示す)。
【0040】
この例では、コイル33が常電導コイルである場合を例に説明したが、コイル33が超電導コイルであってもよい。コイルに直流電流を通電し、磁界を発生させる場合、超電導コイルであれば、電気抵抗がゼロであり、大電流を通電してもコイルに発熱(損失)が実質的に生じない。そのため、常電導コイルに比較して、大電流を通電することによるコイルの発熱(損失)を抑制することができ、電力損失なしで、強い磁界を発生させることが可能である。
【0041】
導体34は、上記したヨーク32に設けられた磁性体突起部321,322の周囲を囲むように配置される環状の部材である(図5参照)。各導体34は、導電材料で形成されており、使用する導電材料としては、例えば、アルミニウムや銅、鉄などの金属が挙げられる。この例では、導体34にアルミニウムが使用されており、軽量化が図られている。
【0042】
次に、上記した第2の構成例を備える風車において、回転速度を制御するメカニズムについて説明する。
【0043】
コイル33が通電されると、電流が流れる方向(図4(B)の場合、紙面手前から奥の方向)の右回りに磁界が発生し、回転体31、一対の磁性体凸部311,312、一対の磁性体突起部321,322、及びヨーク32に磁束が流れ、磁気回路が形成される(図4(B)中の点線矢印は磁束の流れのイメージを示す)。具体的には、一対の磁性体凸部311,312と一対の磁性体突起部321,322とが対向するとき、回転体31→一方の磁性体凸部311→一方の磁性体突起部321→ヨーク32→他方の磁性体突起部322→他方の磁性体凸部312→回転体31の磁気回路が形成される。そして、回転体31が回転することにより、一対の磁性体凸部311,312と一対の磁性体突起部321,322とが互いに対向して近接するときは、磁気回路中の磁気ギャップが小さくなり、磁気回路中に流れる磁束が増える。一方、一対の磁性体凸部311,312と一対の磁性体突起部321,322とが離間するときは、磁気回路中の磁気ギャップが大きくなり、磁気回路中に流れる磁束が減る。つまり、回転体31の外周側に周方向に磁束が変化し、回転体31の回転に伴う回転磁界が生じる。したがって、回転体31の回転により、ヨーク32に流れる磁束が変化することから、磁性体突起部321,322の周囲に配置された環状の導体34を貫通する磁束が変化し、導体34に誘導起電力(逆起電力)が発生する。その結果、導体34に誘導電流が流れ、この誘導電流により、回転体31の回転を停止させる方向のトルク(制動トルク)が発生する。
【0044】
図6は、回転体31が回転したときの磁性体凸部311,312と磁性体突起部321,322との間に発生する磁場(磁束密度)Tの時間的変化を示す模式図である。磁場Tは、図1(A)に示すように、磁性体凸部311,312と磁性体突起部321,322とが互いに対向して、磁性体凸部‐磁性体突起部間のギャップ長が最も小さくなるときは、極大かつ最大となる。一方、図7に示すように、回転体31の回転(この場合、10°)により、磁性体突起部321,322に対し磁性体凸部311,312がずれて、磁性体凸部‐磁性体突起部間のギャップ長が最も大きくなるときは、極小かつ最小となる。
【0045】
上記した第2の構成例を備える風車において、回転速度を制御するときは、回転制御装置が電源(図示せず)からコイル33への通電電流を制御することにより行う。コイル33に流れる電流を大きくすると、回転磁界の磁束密度が大きくなり、導体34を貫通する磁束が増えることから、導体34に流れる誘導電流を大きくすることができる。その結果、誘導電流により発生する回転体31の制動トルクを大きくできるので、回転速度を落とすことができる。また一方で、コイル33に流れる電流を小さくすると、導体34に流れる誘導電流を小さくすることができ、誘導電流により発生する回転体31の制動トルクを小さくできるので、回転速度を上げることができる。したがって、上記構成により、導体34に流れる誘導電流により発生する回転体31の制動トルクを調整することで、風車の回転速度を制御することができる。なお、上記した第2の構成例を備える風車において、回転体31、ヨーク32、コイル33及び導体34は、ナセル202(図1参照)に格納することができる。
【0046】
以上説明した本発明に係る風車およびその制御方法は、風車がほぼ一定の回転速度で一定時間回転し続ける場合は、風車の回転速度を制御することで、低周波音の影響を低減できる。
【0047】
<熱媒体加熱装置>
上記した第2の構成例を備える風車の場合、誘導電流が導体34に流れることで、導体34が電気抵抗によって発熱する。そこで、この熱を利用して水などの熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置を実現してもよい。
【0048】
例えば図4(A)に示すように、各導体34から熱媒体が熱を受け取れるように、各導体34に熱媒体が流通する配管を設けることが考えられる。この例では、各導体34に、回転体31の軸方向に沿って貫通する貫通孔を設け、軸方向に並ぶ一対の磁性体突起部321,322に配置された前後の導体34の各貫通孔を通るように、配管35が挿通されている。この配管35は、金属で形成されており、導体34と熱的に接続されている。また、例えばこの例では、配管35の一端側から熱媒体を供給し、他端側から排出する構成としたり、配管35の一端側において、配管35と別の配管35とを接続する接続管を取り付け、配管35の他端側から熱媒体を供給し、接続管を介して、別の配管35の他端側から排出する構成としたりすることができる。即ち、前者の場合は片道の流路、後者の場合は往復の流路となり、後者の場合、前者の場合と比較して、熱媒体の加熱距離を長くすることができる。
【0049】
また、熱媒体加熱装置の場合、導体34から熱が逃げるのを防ぐため、例えば図4に示すように、導体34の周囲を断熱材34iで覆ってもよい。断熱材34iには、例えば、ロックウール、グラスウール、発泡プラスチック、レンガ、セラミックスなどを使用することができる。
【0050】
<発電システム>
さらに、上記した熱媒体加熱装置により加熱した熱媒体の熱を発電に利用する発電システムを実現してもよい。このような発電システムの一例としては、例えば図8に示すように、上記した第2の構成例を備える風車1と、蓄熱器50と、発電部60とを備える構成とする。
【0051】
風車1は、上記した熱媒体加熱装置の構成を備える。熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置30の部分(図4に示す回転軸11の一部、回転体31、ヨーク32、コイル33、導体34及び配管35など)は、ナセル202に格納されている。また、塔201の下部(地上)に蓄熱器50及び発電部60が設置されている。以下、図8に示す発電システムPの構成を詳しく説明する。なお、ここでは、熱媒体が水である場合を例に説明する。
【0052】
熱媒体加熱装置30の配管には、熱媒体加熱装置30に水を供給する給水管51と、熱媒体加熱装置30により加熱された水を蓄熱器50に送る輸送管52が接続されている。熱媒体加熱装置30は、導体に誘導電流が流れることで発生した熱で配管を流通する水を加熱する。
【0053】
熱媒体加熱装置30は、水を発電に適した温度(例えば200℃〜350℃)まで加熱し、高温高圧水を発生させる。高温高圧水は、熱媒体加熱装置30と蓄熱器50とを連結する輸送管52を通って蓄熱器50に送られる。
【0054】
蓄熱器50は、輸送管52を通って送られてきた高温高圧水の熱を蓄え、また、熱交換器を用いて発電に必要な蒸気を発電部60に供給する。なお、熱媒体加熱装置30により蒸気を発生させてもよい。蓄熱器50としては、例えば、蒸気アキュムレーターや、溶融塩や油などを用いた顕熱型、或いは、融点の高い溶融塩の相変化を利用した潜熱型の蓄熱器を利用することができる。潜熱型の蓄熱方式は蓄熱材の相変化温度で蓄熱を行うため、一般に、顕熱型の蓄熱方式に比べて蓄熱温度域が狭帯域であり、蓄熱密度が高い。
【0055】
発電部60は、蒸気タービン61と発電機62とを組み合わせた構造であり、蓄熱器50から供給された蒸気によって蒸気タービン61が回転し、発電機62を駆動して発電する。
【0056】
蓄熱器50に送られた高温高圧水又は蒸気は、復水器71で冷却され水に戻される。その後、ポンプ72に送られ、高圧水にして給水管51を通って熱媒体加熱装置30に送られることで循環する。
【0057】
上記した発電システムは、風車の回転エネルギーを直接熱エネルギーに変換し、電気エネルギーとして取り出すものであり、従来の風力発電システムと異なる新規な発電システムである。そして、発電システムPによれば、熱を電気エネルギーに変換する構成としたことで、蓄熱器を用いて熱としてエネルギーを蓄えることにより、高価な蓄電池を用いなくても安定した発電を行うことができる。また、従来の風力発電システムのように増速機を設ける必要がなく、故障し易いギアボックスのトラブルを回避することができる。さらに、蓄電池を備える蓄電システムは、コンバータなどの部品が必要であるため、システムの複雑化、電力損失の増大を招くのに対し、熱を蓄熱器に蓄えて発電に必要な熱を取り出すことができる蓄熱システムは、簡易であり安価である。
【0058】
上記した発電システムでは、熱媒体が水である場合を説明したが、熱媒体には、例えば、油、液体金属(Na、Pbなど)、溶融塩などの液体、並びに気体を使用することができる。水以外の液体金属などを熱媒体に使用する場合は、例えば、配管を流通する一次熱媒体に液体金属などを使用し、輸送管を通って送られてきた一次熱媒体の熱で熱交換器を介して二次熱媒体(水)を加熱し、蒸気を発生させてもよい。
【0059】
また、配管を流通する熱媒体に、常圧で100℃超の沸点を有する例えば油、液体金属、溶融塩などを使用した場合は、水に比較して、100℃超に加熱したときに、配管内の熱媒体の気化による内圧上昇を抑制し易い。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、回転体、ヨーク及び導体の形状を適宜変更したり、これら部材に使用する材料を適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の風車およびその制御方法は、例えば風車を備える風力エネルギー変換システムに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 風車 2 回転速度検出器 3 回転速度制御装置
10 ブレード 11 回転軸 12 ハブ
30 熱媒体加熱装置
31 回転体
311,312 磁性体凸部 315 支持部材
32 ヨーク
321,322 磁性体突起部
33 コイル
34 導体 34i 断熱材
35 配管
50 蓄熱器 51 給水管 52 輸送管
60 発電部 61 蒸気タービン 62 発電機
71 復水器 72 ポンプ
201 塔 202 ナセル 203 風向風速計
P 発電システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードを有し、風を受けて回転する風車であって、
前記風車の回転速度を検出する回転速度検出器と、
前記風車の回転速度を制御する回転速度制御装置と、を備え、
前記回転速度制御装置は、前記回転速度検出器が検出する前記風車の回転速度が所定の範囲内で一定時間以上連続する場合、前記風車の回転速度を制御することを特徴とする風車。
【請求項2】
前記ブレードのピッチ角を調整する可変ピッチ機構を備え、
前記回転速度制御装置が、前記可変ピッチ機構により、前記ブレードのピッチ角を調整することで、前記風車の回転速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の風車。
【請求項3】
前記風車に連動して回転する回転軸と、
前記回転軸に支持された回転体と、
前記回転体の回転に伴い回転磁界を発生するコイルと、
前記コイルに電流を通電する電源と、
前記回転磁界の磁束による誘導電流が流れる導体と、を備え、
前記回転速度制御装置が、前記電源から前記コイルへの通電電流を制御して、前記導体に流れる誘導電流により発生する前記回転体の回転を停止させる方向のトルクを調整することで、前記風車の回転速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の風車。
【請求項4】
ブレードを有し、風を受けて回転する風車の制御方法であって、
前記風車が、所定の範囲内の回転速度で一定時間以上連続して回転する場合、前記風車の回転速度を制御することを特徴とする風車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220218(P2011−220218A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89854(P2010−89854)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】