説明

風車用駆動装置

【課題】複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用した場合でもその風車用駆動装置が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置を提供する。
【解決手段】作動切替機構19が、出力軸14からピニオン13までにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられる。作動切替機構19は、所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、駆動力伝達経路を連結させる連結状態から駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に作動状態が切り替わり、作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときに、連結状態に復帰可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車に設置され、風車の可動部分における一方の構造体に対して他方の構造体を回転させるように駆動する風車用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、風力発電装置として用いられる風車として、タワーの上部に回転自在に設置されて内部に発電機等が配置されるナセルと、ナセルに設けられたハブ(主軸部)に対して回転自在に設置されたブレード(羽根)とを備えるものが用いられている。このような風車においては、風車の可動部分における一方の構造体に対して他方の構造体を回転させるように駆動する風車用駆動装置として、ヨー駆動装置或いはピッチ駆動装置等が設置されている。ヨー駆動装置は、一方の構造体であるタワーに対して他方の構造体であるナセルを回転させるように駆動し、風向きに応じてナセルを旋回可能に構成されている。ピッチ駆動装置は、一方の構造体であるナセル側のハブに対して他方の構造体であるブレードの軸部を回転させるように駆動し、ブレードのピッチ角を制御可能に構成されている。
【0003】
特許文献1においては、電動機と、電動機の出力軸に取り付けられて回転駆動力を出力するピニオンとを有し、ピニオンが風車のタワーの上部に固定されたリングギアに噛み合うことでナセルを回転駆動するヨー駆動装置としての風車用駆動装置が開示されている。そして、特許文献1においては、2個の風車用駆動装置の各電動機を互いに反対の回転方向に同時駆動することで各電動機の出力軸を停止させるブレーキ機構が開示されている。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、複数のヨー駆動装置を備え、風車のタワーにおいてナセルを旋回させるナセル旋回機構の発明が、本願発明者等によってなされている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−289149号公報
【特許文献2】国際公開WO/2010/047064
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された風車用駆動装置が用いられる場合は、複数設置されたこの風車用駆動装置の作動によってナセルの回転動作が行われる。そして、ブレーキ機構の作動時には、複数の風車用駆動装置における各電動機の出力軸が停止される。一方、風車のナセルに風による外力が作用した場合(風車の可動部分における一方の構造体に外力が作用した場合)、ブレーキ機構が作動した状態であれば電動機の出力軸が停止された状態の風車用駆動装置に力が作用することとなる。また、外力の作用時にナセルが回転動作中であれば、ナセルを回転駆動する方向と逆方向の力が風車用駆動装置に作用する場合もある。このとき、各電動機の出力軸にそれぞれ固定された各ピニオンとリングギアとの噛み合い状態にばらつきがあると、1つの風車用駆動装置のみに対して上述した外力が集中的に作用してしまう状態が発生し易い。しかしながら、特許文献1に開示の風車用駆動装置の場合、外力が1つの風車用駆動装置のみに集中的に作用すると、過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用するため、その風車用駆動装置において使用継続が困難で取替えが必要となるような破損が生じ、その風車用駆動装置が破壊されてしまう虞がある。
【0007】
また、他の可能性として、何らかの不具合により、1つの風車用駆動装置の電動機の出力軸がロックされてしまったり、制御系等の異常により1つの風車用駆動装置のみのブレーキが解除されない場合がある。このように電動機の出力軸が固定されてしまった場合、他の風車用駆動装置の力により、1つの風車用駆動装置に過大な外力が加わり、使用継続が困難で取替えが必要な破損が生じることになる。さらに、1つの風車用駆動装置が破損し過大な外力でもピニオンが回転できない場合、風力発電機のヨー駆動機能を喪失し、発電機能が失われてしまうことになる。尚、上記においては、ヨー駆動装置として設けられた風車用駆動装置の場合について説明したが、ナセル側のハブに対してブレードの軸部を回転させるように駆動するピッチ駆動装置として設けられた風車用駆動装置の場合も同様の問題が生じることになる。
【0008】
上記のような問題を解決することができ、風車用駆動装置の破壊を防止する機構を提供する観点から、本願発明者等によって、特許文献2に記載のナセル旋回機構の発明がなされている。特許文献2に記載のナセル旋回機構においては、風車用駆動装置が複数設置された場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用した場合でもその風車用駆動装置が破壊されてしまうことを防止できる機構が設けられている。そして、上記ナセル旋回機構における風車用駆動装置の破壊を防止するための機構は、電動機の出力軸からピニオンまでにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、所定の大きさ以上のトルクが作用したときに駆動力伝達経路の連結を切り離す切断機構としての切欠部として構成されている。
【0009】
また、出力トルクの向上及び構造の小型化が図られるためには、特許文献2に開示されたヨー駆動装置のように、電動機の出力軸とピニオンとの間において回転駆動力を減速して伝達する減速部が設けられることが望ましい。しかしながら、風車用駆動装置の破壊を防止するための機構としての前述の切欠部が駆動力伝達経路に設けられていると、切断機構としての切欠部が作動して切断された場合、切断による破片が減速部の中に侵入してそのまま入り込んでしまう虞がある。そして、破片が減速部における歯車の摺動面やベアリングの転動面を傷付けてしまい、耐久性を低下させてしまう虞がある。また、破片を噛み込むことにより減速部が回転できなくなり、ヨー駆動機能の喪失やリングギアを破損させる虞がある。このため、切欠部の作動後にこの切欠部を交換する際には、減速部に破片が入り込んでいないか否かについて確認する作業が必要となり、更に交換作業の手間を要することになる。よって、風車用駆動装置の破壊を防止するための機構が設けられる場合には、減速部に破片が入り込んでいないことの確認作業、及び切欠部の交換作業、等のような手間を要する保守作業を削減できる構造が実現されることが望まれる。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用した場合でもその風車用駆動装置が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための第1発明に係る風車用駆動装置は、風車の可動部分における一方の構造体に固定されたリングギアに対して噛み合うピニオンと、前記可動部分において前記一方の構造体に対して回転自在に設置される他方の構造体側に対して固定される電動機と、前記電動機の回転駆動力を出力する出力軸と、前記出力軸に連結されて前記電動機からの回転駆動力が入力される入力軸と、前記ピニオンが固定された出力部と、前記入力軸及び前記出力部に連結され、前記入力軸に入力された回転駆動力を減速して伝達するとともに前記出力部に対して出力する減速部と、前記出力軸を停止させるブレーキ機構と、を備えている。そして、第1発明に係る風車用駆動装置は、前記出力軸から前記ピニオンまでにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、作用するトルクの大きさに応じて作動状態が切り替わる作動切替機構を更に備え、前記作動切替機構は、所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、前記駆動力伝達経路を連結させる連結状態から前記駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に作動状態が切り替わり、作動状態が前記連結解除状態に切り替わった後、作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときに、前記連結状態に復帰可能となることを特徴とする。
【0012】
風車の可動部分において複数の風車用駆動装置が設置されて用いられた場合において、一方の構造体に対して他方の構造体が回転動作中又は停止中に、各ピニオンとリングギアとの噛み合いにばらつきがある状態で外力が他方の構造体に作用すると、その外力が1つの風車用駆動装置のみに集中的に作用することになる。この場合、本発明の風車用駆動装置においては、駆動力伝達経路に所定の大きさ以上のトルクが作用すると、作動切替機構の作動状態が、連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。また、複数の風車用駆動装置が設置されて用いられた場合において、不具合等の発生によっていずれかの風車用駆動装置における電動機の出力軸が固定されてしまうこともある。この場合、本発明によると、電動機の出力軸が固定されてしまった風車用駆動装置においては、他の風車用駆動装置の力によって駆動力伝達経路に所定の大きさ以上のトルクが作用し、作動切替機構の作動状態が、連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。このように、本発明によると、過大な外力が作用した風車用駆動装置においては、作動切替機構が連結状態から連結解除状態に切り替わり、駆動力伝達経路の連結が切り離されて力が伝達されない状態となる。そして、作動切替機構により切り離された箇所を境にして、ピニオンに連結されたピニオン側の部分が電動機側の部分に対して空転するように(空回りするように)駆動されることになる。このため、その風車用駆動装置に破損が生じることがなく、風車用駆動装置が破壊されてしまうことが防止される。
【0013】
そして、本発明の風車用駆動装置では、風車用駆動装置の破壊を防止するための機構としての作動切替機構が、作用するトルクの大きさに応じて連結状態と連結解除状態との間で作動状態が切り替わる機構として設けられている。このため、風車用駆動装置の破壊を防止するための機構として特許文献2に開示されたような切欠部が設けられた形態とは異なり、駆動力伝達経路が切り離された箇所において、切断された破片等が発生することがない。これにより、切断による破片が減速部の中に入り込んで歯車の摺動面を傷付けて耐久性の低下を招くようなこともなく、減速部内に破片が入り込んでいないか否かを確認する作業自体も生じないことになる。また、本発明の風車用駆動装置では、作動切替機構が、作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときに、連結状態に復帰可能に設けられている。このため、特許文献2に開示されたような切欠部が設けられた形態とは異なり、風車用駆動装置の破壊を防止するための機構の交換作業も生じないことになる。よって、減速部の内部を確認する作業、及び一部の機構を交換する作業、等のような手間を要する保守作業も削減されることになる。
【0014】
従って、本発明によると、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用した場合でもその風車用駆動装置が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置を提供することができる。
【0015】
第2発明に係る風車用駆動装置は、第1発明の風車用駆動装置において、前記減速部は、少なくとも一部が、前記入力軸に連結されるとともに前記入力軸に入力された回転駆動力を減速して伝達する第1減速部と、前記出力部に連結されるとともに前記第1減速部から伝達された回転駆動力を更に減速して伝達して前記出力部に対して出力する第2減速部と、を有し、前記作動切替機構は、少なくとも一部が、前記駆動力伝達経路における前記出力軸、前記入力軸、及び前記第1減速部のうちの少なくともいずれかに設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、作動切替機構が、電動機の出力軸、入力軸、及び第1減速部の少なくともいずれかに設けられるため、駆動力伝達経路において小さいトルクが作用する入力側に作動切替機構が設けられることになる。このため、小型の作動切替機構を容易に実現することができる。
【0017】
第3発明に係る風車用駆動装置は、第2発明の風車用駆動装置において、前記第1減速部は、太陽歯車と、前記太陽歯車に噛み合うとともに自転しながら当該太陽歯車の周囲を公転する複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車のそれぞれを自転自在に支持するとともに複数の前記遊星歯車を公転自在に支持する遊星枠と、を有する遊星歯車減速機として設けられ、前記作動切替機構は、少なくとも一部が前記第1減速部に設けられていることを特徴とする。
【0018】
この発明によると、作動切替機構が、遊星歯車減速機として設けられた第1減速部に設けられるため、減速部において小さいトルクが作用する入力側で小型の作動切替機構を容易に実現できる。そして、第1減速部は、太陽歯車、遊星歯車、遊星枠、等を備える遊星歯車減速機として設けられるため、各構成要素が、入力軸の軸方向に垂直な面方向に沿ってコンパクトに配置されることになる。このため、入力軸の近傍の領域であって入力軸の軸方向に垂直な面方向に広がる領域とその領域にコンパクトに配置された構成要素を効率よく活用して、作動切替機構を設けることができる。よって、減速部の入力側の領域における作動切替機構の配置及び構造の自由度を向上させることができる。
【0019】
第4発明に係る風車用駆動装置は、第3発明の風車用駆動装置において、前記作動切替機構は、前記第1減速部に設けられるとともに複数の前記遊星歯車の周囲に配置されて複数の前記遊星歯車と噛み合う遊星用リングギアと、前記入力軸及び前記減速部を収容する本体に対して前記遊星用リングギアの軸方向の移動が規制された状態で回転可能に当該遊星用リングギアを保持する保持部と、を有し、前記保持部と前記遊星用リングギアとの間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、作動状態が、前記遊星用リングギアの前記保持部に対する回転が規制された前記連結状態から、前記遊星用リングギアが前記保持部に対して回転する前記連結解除状態に切り替わることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、作動切替機構が、遊星歯車の周囲に配置される遊星用リングギアと、この遊星用リングギアを回転可能に保持する保持部とで構成されるため、遊星歯車減速機の周囲における環状の領域を有効的に活用して作動切替機構を設置することができる。よって、遊星歯車減速機として設けられた第1減速部において、コンパクトな構造で作動切替機構を組み込むことができる。
【0021】
第5発明に係る風車用駆動装置は、第4発明の風車用駆動装置において、前記保持部は、前記本体に固定され、リング状に形成されるとともに前記遊星用リングギアをその外周に沿って保持する保持リング部材と、前記保持リング部材に対して摺動自在に配置され、前記保持リング部材から前記遊星用リングギアに向かって先端側が突出することで、前記遊星用リングギアの外周に凹み形成された第1凹み部分に対して係合する第1係合ピンと、前記本体及び前記保持リング部材のうちの少なくともいずれかに設置され、前記第1係合ピンを前記保持リング部材から前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する第1バネ部材と、を有していることを特徴とする。
【0022】
この発明によると、保持部と遊星用リングギアとの間で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造について、保持リング部材、第1係合ピン、及び第1バネ部材による簡素な構造で実現することができる。
【0023】
第6発明に係る風車用駆動装置は、第5発明の風車用駆動装置において、前記第1係合ピンの前記保持リング部材に対する変位を検知する変位センサと、前記第1係合ピンの前記第1凹み部分に対する係合が外れる位置まで当該第1係合ピンが移動したことが前記変位センサで検知されたときに、前記ブレーキ機構による前記出力軸の停止動作を解除するように当該ブレーキ機構を制御し、又は、前記電動機の出力トルクを低下させるように当該電動機を制御する第1コントローラと、を更に備えていることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わった状態、即ち、第1係合ピンが外れて遊星用リングギアが保持リング部材に対して回転する状態になったときに、ブレーキ機構による出力軸の停止動作が解除され、又は電動機の出力トルクが低下する。このため、保持リング部材に対する遊星用リングギアの回転速度の上昇を抑制することができ、第1係合ピン及び遊星用リングギアの外周にて生じる摩耗を低減することができる。
【0025】
第7発明に係る風車用駆動装置は、第5発明の風車用駆動装置において、前記作動切替機構の作動状態が前記連結解除状態に切り替わった後に、前記第1バネ部材で付勢された前記第1係合ピンが前記第1凹み部分に係合する位置まで前記遊星用リングギアを回転させるように、前記電動機の駆動を制御する第2コントローラを更に備えていることを特徴とする。
【0026】
この発明によると、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わると、第2コントローラの制御による電動機の駆動によって、第1係合ピンが第1凹み部分に係合する位置まで遊星用リングギアが回転する。このため、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わった後に、作動切替機構の作動状態を連結状態に速やかに復帰させることができる。
【0027】
第8発明に係る風車用駆動装置は、第2発明の風車用駆動装置において、前記入力軸に設けられた前記作動切替機構は、筒状に形成されるとともに前記出力軸の外周に対して固定される第1筒状部と、前記第1筒状部に対して同心状に配置されるとともに、前記第1筒状部の外周に対して内周にて摺接して回転可能に配置される第2筒状部と、前記第2筒状部に対して摺動自在に配置され、前記第2筒状部から前記第1筒状部に向かって先端側が突出することで、前記第1筒状部の外周に凹み形成された第2凹み部分に対して係合し、前記第1筒状部の前記第2筒状部に対する回転を規制する第2係合ピンと、前記第2筒状部に設置され、前記第2係合ピンを当該第2筒状部から前記第1筒状部に向かって突出させる方向に付勢する第2バネ部材と、を有し、当該作動切替機構は、前記第1筒状部と前記第2筒状部との間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、前記第2係合ピンの前記第2凹み部分への係合が外れ、作動状態が、前記第1筒状部の前記第2筒状部に対する回転が規制された前記連結状態から、前記第1筒状部が前記第2筒状部に対して回転する前記連結解除状態に切り替わることを特徴とする。
【0028】
この発明によると、入力軸に設けられた作動切替機構が、同心状で互いに回転可能な第1及び第2筒状部と、第1及び第2筒状部に設置された第2係合ピン及び第2バネ部材とでコンパクトに構成される。このため、作動切替機構を入力軸に容易に組み込むことができる。また、入力軸で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造について、第1筒状部、第2筒状部、第2係合ピン、及び第2バネ部材による簡素な構造で実現することができる。
【0029】
第9発明に係る風車用駆動装置は、第4発明の風車用駆動装置において、前記保持部は、前記遊星用リングギアに対して、前記遊星用リングギアの軸方向と平行に前記入力軸側から前記出力部側に向かって、先端側が突出することで、前記遊星用リングギアの端面に凹み形成された第3凹み部分に対して係合する第3係合ピンと、前記本体の内部に設置され、前記第3係合ピンを前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する付勢機構と、を有していることを特徴とする。
【0030】
この発明によると、本体の内部に設置された付勢機構によって付勢された第3係合ピンが遊星用リングギアの端面に対して遊星用リングギアの軸方向と平行に突出して係合する。このため、保持部と遊星用リングギアとの間で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造を本体の内部に設置できる。これにより、本体の内部に封じ込められた潤滑油が漏れてしまう虞の無い作動切替機構を実現することができる。
【0031】
第10発明に係る風車用駆動装置は、第9発明の風車用駆動装置において、前記第3係合ピンは、複数設けられ、前記付勢機構は、複数の前記第3係合ピンを保持する保持プレートと、前記保持プレートを前記遊星用リングギアに向かって突出させることで複数の前記第3係合ピンを前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する1つの第3バネ部材と、を有していることを特徴とする。
【0032】
この発明によると、付勢機構は、保持プレートを1つの第3バネ部材によって付勢することで、保持プレートを介して複数の第3係合ピンを遊星用リングギアに向かって付勢する。このため、複数の第3係合ピンを付勢するためのバネ部材を複数設ける場合に比して、構成の簡素化を図ることができる。また、第3係合ピンを付勢するためのバネ部材が複数設けられる場合、第3係合ピンを付勢するためのバネ部材による付勢荷重を調整し、更に複数のバネ部材間でバランスさせる煩雑な作業が必要となる。これに対し、複数の第3係合ピンを付勢するための第3バネ部材は1つのみ設けられるため、第3バネ部材による付勢荷重の調整作業が容易となる。
【0033】
第11発明に係る風車用駆動装置は、第10発明に係る風車用駆動装置において、前記第3バネ部材は、皿状に盛り上がるように形成されたリング状のバネ部材として設けられていることを特徴とする。
【0034】
第3係合ピンを付勢するバネ部材がコイルバネとして設けられた場合、風車用駆動装置の本体内の限られたスペースに設置可能なコイルバネによって大きな付勢荷重を出力可能なバネ仕様を確保することが困難となり易い。そのため、保持部と遊星用リングギアとの間で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構成において、上記のトルクとして設定可能なトルクの大きさが小さくなってしまい易い。しかし、上記の発明によると、第3バネ部材が、皿状に盛り上がるように形成されたリング状のバネ部材である皿バネとして設けられている。このため、本体内の限られたスペースであっても、十分に大きな付勢荷重を出力可能なバネ仕様の第3バネ部材を設置することができる。よって、作動切替機構において作動状態が連結状態と連結解除状態との間で切り替わる際の所定の大きさのトルクについて、設定可能なトルクの大きさを十分に大きく設定することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置に作用した場合でもその風車用駆動装置が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る風車用駆動装置が適用される風車を示す斜視図である。
【図2】図1に示す風車においてタワーに対して回転自在にナセルが設置された部分である風車の可動部分を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る風車用駆動装置を示す正面側から見た断面図である。
【図4】図3の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図5】図4のA−A線矢視位置から見た断面図である。
【図6】図4のA−A線矢視位置から見た断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る風車用駆動装置を示す正面側から見た断面図である。
【図8】図7に示す風車用駆動装置における入力軸を拡大して示す拡大断面図である。
【図9】図8のC−C線矢視位置から見た断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る風車用駆動装置について正面側から見た断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。
【図11】図10のD−D線矢視位置から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る風車用駆動装置は、風車に設置され、風車の可動部分における一方の構造体に対して他方の構造体を回転させるように駆動する風車用駆動装置として広く用いることができる。とくに、本実施形態に係る風車用駆動装置は、風車のタワーに対してナセルを回転させるようにヨー駆動するヨー駆動装置、及びナセル側のハブに対してブレードの軸部を回転させるようにピッチ駆動するピッチ駆動装置として用いることができる。尚、第1乃至第3実施形態では、ヨー駆動装置として用いられる場合を例にとって説明するが、この例に限らず、ピッチ駆動装置を含む他の風車用駆動装置に関して、広く適用することができるものである。
【0038】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る風車用駆動装置1が適用される風車101を示す斜視図である。図1に示すように、風車101は、タワー102、ナセル103、主軸部であるハブ104、ブレード105等を備えている。タワー102は、地上から鉛直上方に向かって延びるように設置され、ナセル103は、タワー102の上部に対して回転自在に設置されている。また、ナセル103は、後述する風車用駆動装置1によって水平面内で回転(旋回)するように設置され、その内部には、図示しない動力伝達軸や発電機等が配置されている。ハブ104は、上記の動力伝達軸に連結され、ナセル103に対して回転可能に設けられている。そして、ブレード105は、複数枚(本実施形態では、3枚)設けられ、ハブ104に対して均等角度に放射状に延びるように取り付けられている。尚、ブレード105は、ハブ104に設置されている軸部において、その軸心を中心としてハブ104に対して回転自在に設置されている。そして、ブレード105は、図示しないピッチ駆動装置によって回転駆動されることで、そのピッチ角の変更が行われるように構成されている。
【0039】
また、図2は、タワー102に対して回転自在にナセル103が設置された部分である風車101の可動部分110を拡大して示す断面図である。尚、図2では、風車用駆動装置1について断面図ではなく外形図として図示している。ナセル103は、その底部103aにおいて、タワー102の上部に対して軸受106を介して回転自在に設置されている。そして、タワー102の上部には、内周に内歯が形成されたリングギア107が固定されている(図2では、リングギア107の内歯の各歯の図示を省略している)。尚、リングギア107の歯は、内周に設けられているものに限らず、外周に設けられているものであってもよい。
【0040】
ナセル103内においては、複数の風車用駆動装置1が配置され、各風車用駆動装置1の本体11が底部103aに対してそれぞれ固定されている。各本体11には、電動機12がそれぞれ固定されている。また、風車用駆動装置1は、その出力用のピニオン13がナセル103の底部103aに形成された孔から下方に突出してリングギア107に噛み合うように配置されている(尚、図2では、ピニオン13は模式的に図示している)。そして、風車用駆動装置1は、リングギア107の内側の周方向に沿って複数個所(例えば、4箇所)に配置されている。可動部分110において上記のように各風車用駆動装置1が設置されていることにより、本実施形態では、各ピニオン13は、可動部分110の一方の構造体であるタワー102に固定されたリングギア107に対して噛み合うように構成されている。そして、各電動機12は、可動部分110において一方の構造体に対して回転自在に設置される他方の構造体であるナセル103側に対して固定されている(即ち、電動機12は、ナセル103に対して本体11を介して固定されている)。
【0041】
次に、本発明の第1実施形態に係る風車用駆動装置1について詳しく説明する。図3は、風車用駆動装置1を示す正面側から見た断面図である。図2及び図3に示す風車用駆動装置1は、上述のようにナセル103をタワー102に対して回転させるヨー駆動装置として設けられている。この風車用駆動装置1は、本体11、電動機12、ピニオン13、出力軸14、ブレーキ機構15、入力軸16、減速部17、出力部18、作動切替機構19、コントローラ20、等を備えて構成されている。尚、図3では、風車用駆動装置1におけるコントローラ20の図示を省略している。
【0042】
風車用駆動装置1は、図2及び図3に示すように、上側に配置された一端側において本体11に対して電動機12が固定されて取り付けられ、下側に配置された他端側において出力部18が本体11から突出するように配置されている。この出力部18の端部には、ピニオン13が固定されている。そして、風車用駆動装置1は、電動機12から入力された回転駆動力を減速して伝達してピニオン13に出力し、リングギア107に噛み合うこのピニオン13を回転させることで、ナセル103を回転させる。尚、以下の説明においては、風車用駆動装置1において、電動機12が取り付けられる側である入力側を一端側として、ピニオン13が配置される側である出力側を他端側として説明する(第2実施形態及び第3実施形態の説明も同様とする)。
【0043】
出力軸14は、電動機12の回転駆動力を出力する電動機12の出力軸部として設けられている。そして、後述する入力軸16は、出力軸14に連結されて電動機12からの回転駆動力が入力される軸部材として設けられている。ブレーキ機構15は、電動機12に取り付けられており、出力軸14を停止させるための摩擦ブレーキとして設けられている。
【0044】
図4は、図3における一部を拡大した断面図であって、入力軸16及び減速機17の一部を示す拡大断面図である。また、図5は、図4のA−A線矢視位置から見た断面図である。尚、図3及び図4における本体11の内部の断面は、図5のB−B線矢視位置から見た断面に対応している。図3乃至図5に示すように、入力軸16は、出力軸14に連結されて減速部17に対して回転駆動力を伝達するように構成されている。
【0045】
入力軸16には、一端側に向かって開口するとともに出力軸14の他端側の端部が挿入されるカップリング穴21が形成された筒状部分が設けられている。また、カップリング穴21には、キー溝が形成されている。このキー溝に嵌め込まれるキー37を介して、カップリング穴21に嵌め込まれるように挿入された出力軸14の端部と入力軸16とが、キー結合により固定されて連結される。また、入力軸16は、カップリング穴21が設けられる一端側とは反対の他端側において、後述の減速部17の遊星歯車減速機17aにおける太陽歯車26と一体に形成されている。これにより、入力軸16は、遊星歯車減速機17aに対して回転駆動力を伝達するように構成されている。
【0046】
本体11は、入力軸16及び減速部17を収容するケース11a及びカバー11bを備えて構成されている。尚、出力軸14、入力軸16、減速機17及び出力部18は、本体11の内側で、風車用駆動装置1の回転中心線P(図3において一点鎖線で図示)の方向に沿って直列に配置されている。また、この本体11は、減速部17が配置される内部が外部に対して密封され、その内部に潤滑油が封じ込められている。
【0047】
ケース11aは、両端部が開口した筒状に形成されており、一端側の開口部はカバー11bにより覆われ、他端側の開口部からは出力部18が突出している。そして、ケース11aの他端側における内周には、出力側シール部材(22、23)が取り付けられている。出力側シール部材(22、23)は、リング状に形成され、そのリップ部が出力部18及びその周囲に取り付けられたリング状の部材にそれぞれ摺接し、本体11内の潤滑油を封止している。尚、図3では、本体11内の潤滑油の図示を省略している。また、ケース11aの他端側の端部の内周には軸受24が取り付けられており、この軸受24を介して、出力部18がケース11aに対して回転自在に保持されている。
【0048】
カバー11bは、筒状に形成されるとともに他端側から一端側にかけて段状に縮径するように構成されている。そして、カバー11bは、その他端側の端部においてケース11aの一端側の端部に対してボルトにより固定され、ケース11aの一端側の開口部を覆うように設けられている。また、カバー11bは、その一端側の端部において、出力軸14が挿入されて配置される貫通孔が中心に形成された円盤状の部分が設けられている。この円盤状の部分に対して、電動機12が固定されている。尚、上記の円盤状の部分における貫通孔の内周には、リング状に形成されて本体11内の潤滑油を封止する入力側シール部材25が取り付けられている。この入力側シール部材25は、その内周のリップ部において入力軸16のカップリング部16aの外周に摺接するように配置されている。
【0049】
図3乃至図5に示す減速部17は、入力軸16及び出力部18に連結され、入力軸16から入力された回転駆動力を減速して伝達するとともに、ピニオン13が固定された出力部18に対して出力するように構成されている。尚、ピニオン13は、出力部18の他端側の端部にスプライン結合を介して取り付けられるとともに、例えば、出力部18の端部に螺合するリングナットを有する固定機構(図示せず)によって出力部18に固定されている。
【0050】
また、減速部17については、平歯車減速機、遊星歯車減速機、偏心型減速機、又は、これらの任意の組み合わせによる減速機、等として構成することができる。そして、本実施形態では、減速部17は、入力軸16から回転駆動力が入力される遊星歯車減速機17a、遊星歯車減速機17aから回転駆動力が入力されるスパーギア17b、スパーギア17bから回転駆動力が入力されて出力部18に出力する偏心型減速機17c、を備えた機構として構成されている。尚、図3では、偏心型減速機17cについては破線で示し、詳細な図示を省略している。
【0051】
遊星歯車減速機17aは、入力軸16に連結されるとともに入力軸16に入力された回転駆動力を減速して伝達する本実施形態における第1減速部を構成している。一方、スパーギア17b及び偏心型減速機17cは、出力部18に連結されるとともに第1減速部である遊星歯車減速機17aから伝達された回転駆動力を更に減速して伝達して出力部18に対して出力する本実施形態における第2減速部を構成している。尚、詳細な図示が省略されている偏心型減速機17cは、クランク軸と外歯歯車とキャリアとを備えて構成されている。
【0052】
また、遊星歯車減速機17aは、太陽歯車26、遊星歯車27、遊星枠28、遊星用リングギア29、出力ギア35、等を備えて構成されている。太陽歯車26は、風車用駆動装置1の回転中心線Pに配置された平歯車部分として設けられ、前述のように、入力軸16の他端側において入力軸16と一体に形成されている。遊星歯車27は、平歯車として設けられ、太陽歯車26の周囲において太陽歯車26の周方向に沿って等角度間隔で複数配置されている。そして、複数の遊星歯車27は、太陽歯車26に噛み合うとともに自転しながら太陽歯車26の周囲を公転するように配置されている。
【0053】
また、遊星枠28は、複数の軸部28aが設けられており、複数の軸部28aのそれぞれにおいて複数の遊星歯車27のそれぞれを自転自在に支持するように設けられている。更に、複数の軸部28aが一体に形成された遊星枠28は、複数の遊星歯車27を太陽歯車26の周囲で公転自在に支持するように構成されている。出力ギア35は、軸状の歯車部材として設けられ、回転中心線P上に配置されている。そして、出力ギア35は、その一端側には、遊星枠28の内周に設けられたスプライン溝に嵌り合うスプライン歯が設けられ、他端側には、スパーギア17bに噛み合う歯車部分が設けられている。
【0054】
また、遊星用リングギア29は、内周に歯が形成されたリング状の歯車部材として設けられ、複数の遊星歯車27の周囲に配置され、内周の歯が複数の遊星歯車27のそれぞれと噛み合うように構成されている。また、第1減速部である遊星歯車機構17aに設けられた遊星用リングギア29は、後述の作動切替機構19の要素としても構成されている。
【0055】
作動切替機構19は、出力軸14からピニオン13までにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、作用するトルクの大きさに応じて作動状態が切り替わる機構として設けられている。そして、作動切替機構19は、遊星用リングギア29と、本体11に対して遊星用リングギア29の軸方向(回転中心線Pと平行な方向)の移動が規制された状態で回転可能に遊星用リングギア29を保持する保持部30と、を備えて構成されている。尚、本実施形態では、作動切替機構19は、その一部である遊星用リングギア29が、駆動力伝達経路における第1減速部である遊星歯車減速機17aに設けられるように構成されている。
【0056】
保持部30は、保持リング部材31と、係合ピン32と、バネ部材33とを備えて構成されている。保持リング部材31は、リング状の部材として形成され、本体11のカバー11bにおける段状に縮径した部分の内周側にボルトによって固定されている。そして、保持リング部材31は、内周において遊星用リングギア29の外周に摺接可能に設けられており、遊星用リングギア29をその外周に沿って保持するように構成されている。尚、保持リング部材31の内周側における他端側の縁部には、遊星用リングギア29に対して係止するフランジ状部分が設けられている。これにより、ボルトによってカバー11bに固定された保持リング部材31のフランジ状部分と、カバー11bの内壁との間において、遊星用リングギア29が保持され、遊星用リングギア29の本体11に対する軸方向の移動が規制されるように構成されている。
【0057】
係合ピン32は、胴部分が円柱形状のピン状の部材として設けられ、先端側の端部が半球状に形成されるとともに、その反対側の端部にフランジ状の平坦な端面が形成されている。尚、係合ピン32は、複数設けられ、本実施形態における第1係合ピンを構成している。そして、各係合ピン32は、保持リング部材31に形成された貫通孔を先端側が内側に向かって貫通した状態で、保持リング部材31に対して摺動自在に配置されている。更に、この係合ピン32は、保持リング部材31から遊星用リングギア29に向かって先端側が突出することで、遊星用リングギア29の外周に凹み形成された凹み部分29aに対して係合するように構成されている。
【0058】
遊星用リングギア29の外周に設けられる凹み部分29aは、係合ピン32に対応して複数設けられており、本実施形態における第1凹み部分を構成している。そして、各凹み部分29aは、係合ピン32の先端側の形状に対応した凹み穴として形成されている。尚、本実施形態では、係合ピン32及び凹み部分29aが、それぞれ複数設けられ、保持リング部材31及び遊星用リングギア29の周方向において等角度間隔で配置された形態を例示しているが、この通りでなくてもよい。即ち、係合ピン32及び凹み部分29aは、それぞれ1つであってもよく、また、複数設けられている場合であっても、保持リング部材31及び遊星用リングギア29の周方向において等角度間隔で配置されていなくてもよい。また、凹み部分29aの数が係合ピン32の数よりも多くてもよい。
【0059】
バネ部材33は、例えば、コイルバネとして設けられており、複数備えられ、本実施形態における第1バネ部材を構成している。そして、各バネ部材33は、本体11のカバー11bにおいて孔状の空間領域として設けられた複数のバネ室のそれぞれに、圧縮するように弾性変形した状態で設置されている。更に、各バネ部材33は、一方の端部が、バネ室を外部に対して塞ぐようにカバー11bに対して固定される蓋部材36に対して支持され、他方の端部が、係合ピン32におけるフランジ状の平坦な端面に当接するように配置されている。これにより、バネ部材33は、保持リング部材31及び遊星用リングギア29の径方向において、係合ピン32を保持リング部材31から遊星用リングギア29に向かって突出させる方向に付勢するように構成されている。
【0060】
尚、カバー11bにおいては、保持リング部材31に形成された貫通孔とバネ室とを連通するとともに係合ピン32の胴部分が摺動自在に配置される貫通孔が更に設けられている。そして、カバー11bにおけるバネ室に連通する貫通孔は、バネ室に対して縮径するように形成されており、バネ室に連通する端部にて、係合ピン32のフランジ状の端部と係止するように設けられている。これにより、係合ピン32の保持リング部材31からの突出量が規制されるように構成されている。尚、本実施形態では、バネ部材33が本体11に設置されている形態を例にとって説明しているが、この通りでなくてもよく、バネ部材33は、本体11及び保持リング部材31のうちの少なくともいずれかに設置されていればよい。
【0061】
上述した作動切替機構19は、バネ部材33によって付勢された係合ピン32の先端側が遊星用リングギア29に突出して凹み部分29aに係合した状態では、遊星用リングギア29が保持リング部材31に対して連結されている。即ち、保持リング部材31を貫通する係合ピン32の先端側が遊星用リングギア29に対して係合することで、遊星用リングギア29の保持部30に対する回転が規制されており、作動切替機構19の作動状態が、駆動力伝達経路を連結させる連結状態となっている。
【0062】
一方、風車用駆動装置1の作動時には、保持部30と遊星用リングギア29との間で作用するトルクがつり合う状態になっており、遊星用リングギア29の凹み穴状の凹み部分29aから係合ピン32の先端側における半球状の端部に対して荷重が作用している。そして、保持部30と遊星用リングギア29との間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときには、凹み部分29aから係合ピン32の端部に作用する荷重により、係合ピン32の凹み部分29aに対する係合が外れる位置まで、係合ピン32が、バネ部材33のバネ力に抗してカバー11b側に付勢されることになる。
【0063】
図6は、図5と同様に、図4のA−A線矢視位置から見た断面図であって、係合ピン32が凹み部分29aから外れた状態を示す図である。図6に示すように、係合ピン32が凹み部分29aから外れると、遊星用リングギア29が保持部30の保持リング部材31に対して回転する状態となり、作動切替機構19の作動状態が、前述の連結状態から、駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に切り替わることになる。尚、係合ピン32が凹み部分29aから外れるときのトルクの大きさについては、バネ部材33の仕様等を適宜選択することで、種々の水準に設定することができる。
【0064】
作動切替機構19の作動状態が上記の連結解除状態に一旦切り替わると、保持部30と遊星用リングギア29との間で作用するトルクが上記の所定の大きさ以上である限り、作動切替機構19の作動状態は、連結解除状態のままとなる。即ち、遊星用リングギア29が回転して凹み部分29aが係合ピン32に対向する位置まで達して係合ピン32がバネ部材33のバネ力によって一旦突出しても、再び、前述と同様に作動し、係合ピン32が凹み部分29aから外れることになる。
【0065】
しかし、作動切替機構19の作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作動切替機構19に作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときには、作動切替機構19は、作動状態が連結状態に復帰可能となる。即ち、この場合には、遊星用リングギア29が回転して凹み部分29aが係合ピン32に対向する位置まで達すると、バネ部材33のバネ力によって突出した係合ピン32の先端側が凹み部分29aに係合し、そのまま係合状態が外れずに維持される状態となる。よって、作動切替機構19の作動状態が連結状態に復帰することになる。
【0066】
また、風車用駆動装置1においては、図5及び図6に示すように、変位センサ34が備えられている。変位センサ34は、係合ピン32の保持リング部材31に対する変位を検知するセンサとして設けられ、例えば、非接触式検出方式の近接センサとして構成されている。尚、変位センサ34は、係合ピン32の保持リング部材31に対する変位を検知するセンサであればよく、近接センサ以外のセンサ、例えば、接触式検出方式のリミットスイッチなどとして構成されていてもよい。また、本実施形態では、1つの係合ピン32に対応して変位センサ34が設置されている形態を例にとって図示しているが、この通りでなくてもよく、複数の係合ピン32に対応して変位センサ34が複数設置されていてもよい。
【0067】
図2に示すコントローラ20は、ブレーキ機構15及び電動機12をそれぞれ駆動する各ドライブ装置に対して指令信号を出力し、ブレーキ機構15及び電動機12の作動を制御する制御装置として構成されている。また、このコントローラ20は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)、メモリ、インターフェース等を備えて構成され、更に、変位センサ34の検出信号が受信されるように構成されている。
【0068】
また、コントローラ20は、本実施形態における第1コントローラを構成している。そして、コントローラ20は、係合ピン32の凹み部分29aに対する係合が外れる位置まで係合ピン32が移動したことが変位センサ34で検知されたときに、ブレーキ機構15による出力軸14の停止動作を解除させる指令信号をブレーキ機構15のドライブ装置に対して出力するように構成されている。或いは、コントローラ20は、係合が外れる位置まで係合ピン32が移動したことが変位センサ34で検知されたときに、電動機12の出力トルクを低下させる指令信号を電動機12のドライブ装置に対して出力するように構成されている。これにより、コントローラ20は、作動切替機構19の作動状態が連結状態から連結解除状態に切り替わったときに、ブレーキ機構15による出力軸14の停止動作を解除するようにブレーキ機構15を制御し、又は、電動機12の出力トルクを低下させるように電動機12を制御するよう構成されている。尚、コントローラ20は、作動切替機構19の作動状態が連結状態から連結解除状態に切り替わって電動機12の出力トルクを低下させる場合に、出力トルクがゼロになるまで電動機12の出力トルクを低下させるように構成されていてもよい。
【0069】
また、コントローラ20は、本実施形態における第2コントローラも構成している。そして、コントローラ20は、作動切替機構19の作動状態が連結解除状態に切り替わった後に、例えば、所定時間経過後に、バネ部材33で付勢された係合ピン32が凹み部分29aに係合する位置まで遊星用リングギア29を回転させるように、電動機12の駆動を制御するよう構成されている。これにより、作動切替機構19の作動状態が、連結解除状態に切り替わった後に速やかに連結状態に復帰することになる。尚、上記のように連結状態に復帰させるために電動機12を駆動する場合、コントローラ20は、例えば、電動機12を低速で駆動するように制御するよう構成されている。
【0070】
上述した風車用駆動装置1は、コントローラ20が、例えば風向計(図示せず)の検知結果に基づいて、ナセル103の向きを風向きに応じて旋回させる旋回指令を発して電動機12を運転させることにより、作動する。電動機100の運転が開始されると、出力軸14から回転駆動力が入力軸16に入力され、この回転駆動力が、入力軸16から減速部17に伝達される。そして、減速部17において回転駆動力が減速して伝達され、出力部18が回転し、この出力部18に固定されたピニオン13から大きなトルクが出力されることになる。また、リングギア107に対して各風車用駆動装置1の各ピニオン13が噛み合いながら回転することで、複数の風車用駆動装置1が取り付けられたナセル103の回転動作が行われる。また、所望の停止位置までナセル103が回転すると、コントローラ20からの指令に基づいて電動機12の運転が停止されるとともにブレーキ機構15が作動し、ナセル103が停止することになる。
【0071】
一方、ナセル103の停止中にナセル103に対して風による外力が作用した場合、ブレーキ機構15により出力軸14が停止した状態の風車用駆動装置1に力が作用することになる。また、ナセル103の回転動作中に風による外力がナセル103に作用した場合、逆方向の力が風車用駆動装置1に作用する場合もある。このとき、各風車用駆動装置1の各ピニオン13とリングギア107との噛み合い状態にばらつきがあり、1つの風車用駆動装置1のみに対して過大な外力が集中的に作用すると、その風車用駆動装置1における駆動力伝達経路に設けられた作動切替機構19に所定の大きさ以上のトルクが作用することになる。この場合、前述したように、作動切替機構19の作動状態が連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。このため、風車用駆動装置1では、作動切替機構19において駆動力伝達経路の連結が切り離され、風車用駆動装置1に破損が生じることなく、全ての構成要素が保護されることになる。また、作動切替機構19に作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となると、作動切替機構19の作動状態が連結状態に復帰するため、そのまま通常の運転動作が継続されることになる。
【0072】
また、1つの風車用駆動装置1の電動機12の不具合、もしくは制御系等の異常により、出力軸14が固定されてしまった場合、他の風車用駆動装置1がリングギア103を回転させるためのトルクが1つの風車用駆動装置1に集中し、その風車用駆動装置1における作動切替機構19に所定の大きさ以上のトルクが作用することになる。この場合も、作動切替機構19の作動状態が連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。このため、前述の場合と同様に、風車用駆動装置1では、作動切替機構19において駆動力伝達経路の連結が切り離され、風車用駆動装置1に破損が生じることなく、全ての構成要素が保護されることになる。
【0073】
以上説明した風車用駆動装置1によると、風車101の可動部分110において複数の風車用駆動装置1が設置されて用いられた場合において、タワー102(一方の構造体)に対してナセル103(他方の構造体)が回転動作中又は停止中に、各ピニオン13とリングギア107との噛み合いにばらつきがある状態で外力がナセル103に作用すると、その外力が1つの風車用駆動装置1のみに集中的に作用することになる。この場合、風車用駆動装置1においては、駆動力伝達経路に所定の大きさ以上のトルクが作用すると、作動切替機構19の作動状態が、連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。また、複数の風車用駆動装置1が設置されて用いられた場合において、不具合等の発生によっていずれかの風車用駆動装置1における電動機12の出力軸14が固定されてしまうこともある。この場合、本実施形態によると、電動機12の出力軸14が固定されてしまった風車用駆動装置1においては、他の風車用駆動装置1の力によって駆動力伝達経路に所定の大きさ以上のトルクが作用し、作動切替機構19の作動状態が、連結状態から連結解除状態に切り替わることになる。このように、本実施形態によると、過大な外力が作用した風車用駆動装置1においては、作動切替機構19が連結状態から連結解除状態に切り替わり、駆動力伝達経路の連結が切り離されて力が伝達されない状態となる。そして、作動切替機構19により切り離された箇所を境にして、ピニオン13に連結されたピニオン13側の部分が電動機12側の部分に対して空転するように(空回りするように)駆動されることになる。このため、その風車用駆動装置1に破損が生じることがなく、風車用駆動装置1が破壊されてしまうことが防止される。
【0074】
そして、本実施形態では、風車用駆動装置1の破壊を防止するための機構としての作動切替機構19が、作用するトルクの大きさに応じて連結状態と連結解除状態との間で作動状態が切り替わる機構として設けられている。このため、風車用駆動装置1の破壊を防止するための機構として特許文献2に開示されたような切欠部が設けられた形態とは異なり、駆動力伝達経路が切り離された箇所において、切断された破片等が発生することがない。これにより、切断による破片が減速部17の中に入り込んで歯車の摺動面を傷付けて耐久性の低下を招くようなこともなく、減速部17内に破片が入り込んでいないか否かを確認する作業自体も生じないことになる。また、風車用駆動装置1では、作動切替機構19が、作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときに、連結状態に復帰可能に設けられている。このため、特許文献2に開示されたような切欠部が設けられた形態とは異なり、風車用駆動装置1の破壊を防止するための機構の交換作業も生じないことになる。よって、減速部17の内部を確認する作業、及び一部の機構を交換する作業、等のような手間を要する保守作業も削減されることになる。
【0075】
従って、本実施形態によると、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置1に作用した場合でもその風車用駆動装置1が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置1を提供することができる。
【0076】
また、風車用駆動装置1によると、作動切替機構19が、遊星歯車減速機17aとして設けられた第1減速部に設けられるため、減速部17において小さいトルクが作用する入力側で小型の作動切替機構19を容易に実現できる。そして、第1減速部は、太陽歯車26、遊星歯車27、遊星枠28、等を備える遊星歯車減速機17aとして設けられるため、各構成要素が、入力軸16の軸方向に垂直な面方向に沿ってコンパクトに配置されることになる。このため、入力軸16の近傍の領域であって入力軸16の軸方向に垂直な面方向に広がる領域とその領域にコンパクトに配置された構成要素を効率よく活用して、作動切替機構19を設けることができる。よって、減速部17の入力側の領域における作動切替機構の配置及び構造の自由度を向上させることができる。
【0077】
また、風車用駆動装置1によると、作動切替機構19が、遊星歯車27の周囲に配置される遊星用リングギア29と、この遊星用リングギア29を回転可能に保持する保持部30とで構成されるため、遊星歯車減速機17aの周囲における環状の領域を有効的に活用して作動切替機構19を設置することができる。よって、遊星歯車減速機17aとして設けられた第1減速部において、コンパクトな構造で作動切替機構19を組み込むことができる。
【0078】
また、風車用駆動装置1によると、保持部30と遊星用リングギア29との間で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造について、保持リング部材31、係合ピン32、及びバネ部材33による簡素な構造で実現することができる。
【0079】
また、風車用駆動装置1によると、作動切替機構19の作動状態が連結解除状態に切り替わった状態、即ち、係合ピン32が外れて遊星用リングギア29が保持リング部材31に対して回転する状態になったときに、ブレーキ機構15による出力軸14の停止動作が解除され、又は電動機12の出力トルクが低下する。このため、保持リング部材31に対する遊星用リングギア29の回転速度の上昇を抑制することができ、係合ピン32及び遊星用リングギア29の外周にて生じる摩耗を低減することができる。
【0080】
また、風車用駆動装置1によると、作動切替機構19の作動状態が連結解除状態に切り替わると、コントローラ20の制御による電動機12の駆動によって、係合ピン32が凹み部分29aに係合する位置まで遊星用リングギア29が回転する。このため、作動切替機構19の作動状態が連結解除状態に切り替わった後に、作動切替機構19の作動状態を連結状態に速やかに復帰させることができる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図7は、第2実施形態に係る風車用駆動装置2を示す正面側から見た断面図である。図7に示す風車用駆動装置2は、第1実施形態の風車用駆動装置1と同様に、ヨー駆動装置として設けられ、本体11、電動機12、ピニオン13、出力軸14、ブレーキ機構15、入力軸42、減速部17、出力部18、作動切替機構43、コントローラ20、等を備えて構成されている。尚、図7では、風車用駆動装置2におけるコントローラ20の図示を省略している。但し、風車用駆動装置2は、入力軸42及び作動切替機構43の構成において、第1実施形態とは異なっている。本実施形態の説明では、第1実施形態と同様の構成については、図面において同一の符号を付すことで、又は、同一の符号を引用することで、説明を省略し、第1実施形態とは構成の異なる点について説明する。
【0082】
風車用駆動装置2においては、駆動力伝達経路に設けられる作動切替機構43は、減速部17の遊星歯車減速機17aに設けられておらず、出力軸14に連結されて電動機12からの回転駆動力が入力される入力軸42に設けられている。尚、風車用駆動装置2の遊星歯車減速機17aは、作動切替機構が設けられていないため、複数の遊星歯車27の周囲に配置されて内周の歯で各遊星歯車27に噛み合う遊星用リングギア41の形態が、第1実施形態とは異なっている。風車用駆動装置2では、遊星用リングギア41は、本体11のカバー11bにおける段状に縮径した部分の内周側にボルトによって固定されている。
【0083】
図8は、作動切替機構43が設けられた入力軸42を拡大して示す拡大断面図である。また、図9は、図8のC−C線矢視位置から見た断面図である。図7乃至図9に示すように、入力軸42は、第1実施形態と同様に、一端側に向かって開口するとともに出力軸14の他端側の端部が挿入される部分が設けられる。そして、キー37を介して、出力軸14の端部と入力軸16とが、キー結合により固定されて連結される。また、入力軸42における後述の第2筒状部45は、出力軸14に連結される一端側とは反対の他端側において、太陽歯車26と一体に形成されている。
【0084】
作動切替機構43は、第1実施形態の作動切替機構19と同様に、出力軸14からピニオン13までにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、作用するトルクの大きさに応じて作動状態が切り替わる機構として設けられている。しかし、作動切替機構43は、第1実施形態とは異なり、入力軸42に設けられており、第1筒状部44と、第2筒状部45と、係合ピン46と、バネ部材47と、を備えて構成されている。
【0085】
第1筒状部44は、円筒状に形成された部材として設けられ、出力軸14の外周に対してキー37を介したキー結合によって固定される。第2筒状部45は、一端側に向かって開口するとともに他端側において太陽歯車26と一体に形成された円筒状の部分として設けられている。そして、この第2筒状部45は、第1筒状部44に対して同心状に(即ち、第2筒状部45の中心軸線が第1筒状部44の中心軸線と重なるように)配置されるとともに、第1筒状部44の外周に対して内周にて摺接して回転可能に配置されている。
【0086】
係合ピン46は、胴部分が円柱形状のピン状の部材として設けられ、先端側の端部が半球状に形成されるとともに、その反対側の端部にフランジ状の平坦な端面が形成されている。尚、係合ピン46は、複数設けられ、本実施形態における第2係合ピンを構成している。そして、各係合ピン46は、第2筒状部45に形成された貫通孔を先端側が内側に向かって貫通した状態で、第2筒状部45に対して摺動自在に配置されている。更に、この係合ピン46は、第2筒状部45から第1筒状部44に向かって先端側が突出することで、第1筒状部44の外周に凹み形成された凹み部分44aに対して係合するように構成されている。
【0087】
第1筒状部44の外周に設けられる凹み部分44aは、係合ピン46に対応して複数設けられており、本実施形態における第2凹み部分を構成している。そして、各凹み部分44aは、係合ピン46の先端側の形状に対応した凹み穴として形成されている。尚、本実施形態では、係合ピン46及び凹み部分44aが、それぞれ複数設けられ、第2筒状部45及び第1筒状部44の周方向において等角度間隔で配置された形態を例示しているが、この通りでなくてもよい。即ち、係合ピン46及び凹み部分44aは、それぞれ1つであってもよく、また、複数設けられている場合であっても、第2筒状部45及び第1筒状部44の周方向において等角度間隔で配置されていなくてもよい。また、凹み部分44aの数が係合ピン46の数よりも多くてもよい。
【0088】
バネ部材47は、例えば、コイルバネとして設けられており、複数備えられ、本実施形態における第2バネ部材を構成している。そして、各バネ部材47は、第2筒状部45において孔状の空間領域として設けられた複数のバネ室のそれぞれに、圧縮するように弾性変形した状態で設置されている。更に、各バネ部材47は、一方の端部が、バネ室を外部に対して塞ぐように第2筒状部45に対して固定される蓋部材48に対して支持され、他方の端部が、係合ピン46におけるフランジ状の平坦な端面に当接するように配置されている。これにより、バネ部材47は、第2筒状部45及び第1筒状部44の径方向において、係合ピン46を第2筒状部45から第1筒状部44に向かって突出させる方向に付勢するように構成されている。尚、第2筒状部45においては、係合ピン46の胴部分が摺動自在に配置される貫通孔とバネ室とが連通するように構成されている。そして、係合ピン46の胴部分が配置される上記の貫通孔は、バネ室に対して縮径するように形成されており、バネ室に連通する端部にて、係合ピン46のフランジ状の端部と係止するように設けられている。これにより、係合ピン46の第2筒状部45からの突出量が規制されるように構成されている。
【0089】
上述した作動切替機構43は、バネ部材47によって付勢された係合ピン46の先端側が第1筒状部44に突出して凹み部分44aに係合した状態では、第1筒状部44が第2筒状部45に対して連結されている。即ち、第2筒状部45から突出する係合ピン46の先端側が第1筒状部44に対して係合することで、第1筒状部44の第2筒状部45に対する回転が規制されており、作動切替機構43の作動状態が、駆動力伝達経路を連結させる連結状態となっている。
【0090】
一方、風車用駆動装置2の作動時には、第1筒状部44と第2筒状部45との間で作用するトルクがつり合う状態になっており、第1筒状部44の凹み穴状の凹み部分44aから係合ピン46の先端側における半球状の端部に対して荷重が作用している。そして、第1筒状部44と第2筒状部45との間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときには、凹み部分44aから係合ピン46の端部に作用する荷重により、係合ピン46の凹み部分44aに対する係合が外れる位置まで、係合ピン46が、バネ部材47のバネ力に抗して第2筒状部45側に付勢されることになる。
【0091】
係合ピン46が凹み部分44aから外れると、第1筒状部44が第2筒状部45に対して回転する状態となり、作動切替機構43の作動状態が、前述の連結状態から、駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に切り替わることになる。尚、係合ピン46が凹み部分44aから外れるときのトルクの大きさについては、バネ部材47の仕様等を適宜選択することで、種々の水準に設定することができる。
【0092】
作動切替機構43の作動状態が上記の連結解除状態に一旦切り替わると、第1筒状部44と第2筒状部45との間で作用するトルクが上記の所定の大きさ以上である限り、作動切替機構43の作動状態は、連結解除状態のままとなる。即ち、第1筒状部44が回転して凹み部分44aが係合ピン46に対向する位置まで達して係合ピン46がバネ部材47のバネ力によって一旦突出しても、再び、前述と同様に作動し、係合ピン46が凹み部分44aから外れることになる。
【0093】
しかし、作動切替機構43の作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作動切替機構43に作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときには、作動切替機構43は、作動状態が連結状態に復帰可能となる。即ち、この場合には、第1筒状部44が回転して凹み部分44aが係合ピン46に対向する位置まで達すると、バネ部材47のバネ力によって突出した係合ピン46の先端側が凹み部分44aに係合し、そのまま係合状態が外れずに維持される状態となる。よって、作動切替機構43の作動状態が連結状態に復帰することになる。
【0094】
以上説明した本実施形態の風車用駆動装置2によると、作動切替機構43が設けられているため、第1実施形態の風車用駆動装置1と同様の効果を奏することができる。即ち、本実施形態によると、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置2に作用した場合でもその風車用駆動装置2が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置2を提供することができる。
【0095】
また、風車用駆動装置2によると、入力軸42に設けられた作動切替機構43が、同心状で互いに回転可能な第1筒状部44及び第2筒状部45と、第1筒状部44及び第2筒状部45に設置された係合ピン46及びバネ部材47とでコンパクトに構成される。このため、作動切替機構43を入力軸42に容易に組み込むことができる。また、入力軸42で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造について、第1筒状部44、第2筒状部45、係合ピン46、及びバネ部材47による簡素な構造で実現することができる。
【0096】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図10は、第3実施形態に係る風車用駆動装置3について正面側から見た断面の一部を拡大して示す拡大断面図である。また、図11は、図10のD−D線矢視位置から見た断面図である。尚、図10における本体11の内部の断面は、図11のE−E線矢視位置から見た断面に対応している。図10及び図11に示す風車用駆動装置3は、第1実施形態の風車用駆動装置1と同様に、ヨー駆動装置として設けられ、本体11、電動機12、ピニオン13、出力軸14、ブレーキ機構15、入力軸14、減速部17、出力部18、作動切替機構50、コントローラ20、等を備えて構成されている。尚、図10及び図11では、風車用駆動装置3におけるコントローラ20の図示が省略されている。但し、風車用駆動装置3は、作動切替機構50の構成において、第1実施形態とは異なっている。本実施形態の説明では、第1実施形態と同様の構成については、図面において同一の符号を付すことで、又は、同一の符号を引用することで、説明を省略し、第1実施形態とは構成の異なる点について説明する。
【0097】
作動切替機構50は、第1実施形態の作動切替機構19と同様に、出力軸14からピニオン13までにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、作用するトルクの大きさに応じて作動状態が切り替わる機構として設けられている。そして、作動切替機構50は、遊星用リングギア51と、本体11に対して遊星用リングギア51の軸方向(回転中心線Pと平行な方向)の移動が規制された状態で回転可能に遊星用リングギア51を保持する保持部52と、を備えて構成されている。
【0098】
また、作動切替機構50は、その一部である遊星用リングギア51が、駆動力伝達経路における第1減速部である遊星歯車減速機17aに設けられるように構成されている。そして、遊星用リングギア51は、第1実施形態の遊星用リングギア29と同様に、複数の遊星歯車27の周囲に配置され、内周の歯が複数の遊星歯車27のそれぞれと噛み合うように構成されている。
【0099】
しかし、遊星用リングギア51は、遊星用リングギア29とは異なった形態で本体11に対して取り付けられている。具体的には、遊星用リングギア51は、本体11のケース11aにおいて周方向に沿って延びるとともに内側に向かってフランジ状に突出した部分に対して、他端側の端面が当接した状態で、設置されている。そして、遊星用リングギア51は、一端側の端面が、ケース11aに取り付けられた保持部52における後述の係合ピン53によって他端側に向かって押し付けられている。また、遊星用リングギア51は、その外周及び他端側の端面において、本体11に対して摺動可能に設置されている。上記により、遊星用リングギア51は、保持部52によって本体11に対して回転可能に保持され、遊星用リングギア51の本体11に対する軸方向の移動が規制されるように構成されている。
【0100】
保持部52は、係合ピン53と、付勢機構54とを備えて構成されている。係合ピン53は、胴部分が円柱形状のピン状の部材として設けられ、先端側の端部が半球状に形成されている。尚、係合ピン53は、複数設けられ、本実施形態における第3係合ピンを構成している。そして、係合ピン53は、遊星用リングギア51に対して、遊星用リングギア51の軸方向と平行に入力軸16側から出力部18側に向かって(即ち、一端側から他端側に向かって)、先端側が突出することで、遊星用リングギア51の端面に凹み形成された凹み部分51aに対して係合するように構成されている。
【0101】
遊星用リングギア51に設けられる凹み部分51aは、遊星用リングギア51の一端側の端面に設けられている。そして、凹み部分51aは、係合ピン53に対応して複数設けられており、本実施形態における第3凹み部分を構成している。また、各凹み部分51aは、係合ピン53の先端側の形状に対応した凹み形状を有する溝状の部分として形成されている。尚、本実施形態では、係合ピン53及び凹み部分51aが、それぞれ複数設けられ、遊星用リングギア51の周方向において等角度間隔で配置された形態を例示しているが、この通りでなくてもよい。例えば、係合ピン53及び凹み部分51aは、遊星用リングギア51の周方向において等角度間隔で配置されていなくてもよい。また、凹み部分51aの数が係合ピン53の数よりも多くてもよい。
【0102】
付勢機構54は、本体11の内部に設置され、係合ピン53を遊星用リングギア51に向かって突出させる方向に向かって付勢する機構として設けられている。そして、付勢機構54は、保持プレート55と、皿バネ56と、押さえプレート57と、を備えて構成されている。
【0103】
保持プレート55は、リング状に形成された平たい板状の部材として設けられ、複数の係合ピン53を保持する部材として構成されている。そして、保持プレート55には、リング状の周方向に沿って設けられる複数の孔が設けられている。この複数の孔は、複数の係合ピン53と同数設けられ、保持プレート55の周方向において等角度間隔で配置されている。そして、この複数の孔のそれぞれには、係合ピン53のそれぞれが、半球状に形成された先端側の端部とは反対側の端部において、嵌合して固定される。これにより、複数の係合ピン53が、1つの保持プレート55に保持されている。
【0104】
皿バネ56は、1つ設けられ、保持プレート55の一端側に配置されている。そして、皿バネ56は、保持プレート55と後述の押えプレート57との間において両者に当接した状態で配置されている。また、皿バネ56は、皿状に盛り上がるように形成されたリング状のバネ部材として設けられている。そして、この皿バネ56は、保持プレート55を遊星用リングギア51に向かって突出させることで複数の係合ピン53を遊星用リングギア51に向かって突出させる方向に付勢する本実施形態の第3バネ部材として設けられている。
【0105】
押さえプレート57は、リング状に形成された平たい板状の部材として設けられ、皿バネ56を保持プレート55に向かって押さえつけた状態で保持する部材として構成されている。そして、押さえプレート57は、その外周側の縁部分において、複数のボルトによって本体11のケース11aに固定されている。尚、ケース11aには、一端側に向かって段状に拡径する部分が設けられている。そして、この段状に拡径する部分に対して押さえプレート57の外周側の縁部分が当接した状態で、押さえプレート57を貫通してケース11aに螺合する上記の複数のボルトによって、押さえプレート57が本体11に固定されている。尚、押さえプレート57、皿バネ56、及び保持プレート55にそれぞれ設けられた中央の貫通孔の中心の領域には、入力軸16が配置されている。
【0106】
上述した作動切替機構50においては、皿バネ56によって保持プレート55を介して付勢された複数の係合ピン53の先端側が遊星用リングギア51に突出して凹み部分51aに係合した状態では、遊星用リングギア51が保持部52に対して連結されている。即ち、複数の係合ピン53の先端側が遊星用リングギア51に対して係合することで、遊星用リングギア51の保持部52に対する回転が規制されており、作動切替機構50の作動状態が、駆動力伝達経路を連結させる連結状態となっている。
【0107】
一方、風車用駆動装置3の作動時には、保持部52と遊星用リングギア51との間で作用するトルクがつり合う状態になっており、遊星用リングギア51の凹み穴状の凹み部分51aから係合ピン53の先端側における半球状の端部に対して荷重が作用している。そして、保持部52と遊星用リングギア51との間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときには、凹み部分51aから係合ピン53の端部に作用する荷重により、係合ピン53の凹み部分51aに対する係合が外れる位置まで、係合ピン53が、皿バネ56のバネ力に抗して押さえプレート57側に付勢されることになる。このとき、複数の係合ピン53は、保持プレート55とともに、一体の状態で、押さえプレート57側に付勢される。
【0108】
係合ピン53が凹み部分51aから外れると、遊星用リングギア51が本体11のケース11aに対して回転する状態となり、作動切替機構50の作動状態が、前述の連結状態から、駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に切り替わることになる。尚、係合ピン53が凹み部分51aから外れるときのトルクの大きさについては、皿バネ56の仕様等を適宜選択することで、種々の水準に設定することができる。
【0109】
作動切替機構50の作動状態が上記の連結解除状態に一旦切り替わると、保持部52と遊星用リングギア51との間で作用するトルクが上記の所定の大きさ以上である限り、作動切替機構50の作動状態は、連結解除状態のままとなる。即ち、遊星用リングギア51が回転して凹み部分51aが係合ピン53に対向する位置まで達し、保持プレート55を介して作用する皿バネ56のバネ力によって係合ピン53が一旦突出しても、再び、前述と同様に作動し、係合ピン53が凹み部分51aから外れることになる。
【0110】
しかし、作動切替機構50の作動状態が連結解除状態に切り替わった後、作動切替機構50に作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときには、作動切替機構50は、作動状態が連結状態に復帰可能となる。即ち、この場合には、遊星用リングギア51が回転して凹み部分51aが係合ピン53に対向する位置まで達すると、保持プレート55を介して作用する皿バネ56のバネ力によって突出した係合ピン53の先端側が凹み部分51aに係合し、そのまま係合状態が外れずに維持される状態となる。よって、作動切替機構50の作動状態が連結状態に復帰することになる。
【0111】
以上説明した本実施形態の風車用駆動装置3によると、作動切替機構50が設けられているため、第1実施形態の風車用駆動装置1と同様の効果を奏することができる。即ち、本実施形態によると、複数設置されて用いられた場合において過大な外力が1つの風車用駆動装置3に作用した場合でもその風車用駆動装置3が破壊されてしまうことを防止でき、破壊を防止するための機構に関しての手間を要する保守作業も削減することができる、風車用駆動装置3を提供することができる。
【0112】
また、風車用駆動装置3によると、本体11の内部に設置された付勢機構54によって付勢された係合ピン53が遊星用リングギア51の端面に対して遊星用リングギア51の軸方向と平行に突出して係合する。このため、保持部52と遊星用リングギア51との間で作用するトルクの大きさに応じて連結状態及び連結解除状態の間で作動状態を切り替える構造を本体11の内部に設置できる。これにより、本体11の内部に封じ込められた潤滑油が漏れてしまう虞の無い作動切替機構50を実現することができる。
【0113】
また、風車用駆動装置3によると、付勢機構54は、保持プレート55を1つのバネ部材である皿バネ56によって付勢することで、保持プレート55を介して複数の係合ピン53を遊星用リングギア51に向かって付勢する。このため、複数の係合ピン53を付勢するためのバネ部材を複数設ける場合に比して、構成の簡素化を図ることができる。また、係合ピン53を付勢するためのバネ部材が複数設けられる場合、係合ピン53を付勢するためのバネ部材による付勢荷重を調整し、更に複数のバネ部材間でバランスさせる煩雑な作業が必要となる。これに対し、複数の係合ピン53を付勢するためのバネ部材としての皿バネ56は1つのみ設けられるため、バネ部材(皿バネ56)による付勢荷重の調整作業が容易となる。
【0114】
また、風車用駆動装置3によると、保持プレート55を介して複数の係合ピン53を付勢するバネ部材が、皿状に盛り上がるように形成されたリング状のバネ部材である皿バネ56として設けられている。このため、本体11内の限られたスペースであっても、十分に大きな付勢荷重を出力可能なバネ仕様のバネ部材(皿バネ56)を設置することができる。よって、作動切替機構50において作動状態が連結状態と連結解除状態との間で切り替わる際の所定の大きさのトルクについて、設定可能なトルクの大きさを十分に大きく設定することができる。
【0115】
以上、本発明の第1乃至第3実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、次のように変更して実施することができる。
【0116】
(1)上記の実施形態では、ヨー駆動装置として設けられた風車用駆動装置を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。風車の可動部分における一方の構造体であるナセル側のハブに対して他方の構造体であるブレードを回転させるように駆動するピッチ駆動装置として設けられた風車用駆動装置を実施してもよい。
【0117】
(2)上記の実施形態では、作動切替機構が第1減速部又は入力軸に設けられている場合を例にとって説明したが、この通りでなくもよい。即ち、作動切替機構は、駆動力伝達経路における第1減速部及び入力軸以外の位置に設けられる形態であってもよい。例えば、作動切替機構が、電動機の回転駆動力を出力する出力軸に設けられる形態であってもよい。
【0118】
(3)上記の実施形態では、第1減速部が遊星歯車減速機として設けられている形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、第1減速部が遊星歯車減速機以外の減速機として構成されていてもよい。
【0119】
(4)上記の第3実施形態において、第1実施形態の変位センサ及び第1コントローラと同様に構成された変位センサ及びコントローラが設けられた形態が実施されてもよい。具体的には、第3実施形態の風車用駆動装置において、付勢機構における押さえプレートに対する第3係合ピンの変位を検知する変位センサと、この変位センサの検知結果に基づいてブレーキ機構又は電動機を制御するコントローラとが、備えられていてもよい。そして、このコントローラは、第3係合ピンの第3凹み部分に対する係合が外れる位置まで第3係合ピンが移動したことが上記の変位センサで検知されたときに、ブレーキ機構による電動機の出力軸の停止動作を解除するようにブレーキ機構を制御し、又は、電動機の出力トルクを低下させるように電動機を制御するように構成される。この変形例によると、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わった状態、即ち、第3係合ピンが外れて遊星用リングギアが保持部に対して回転する状態になったときに、ブレーキ機構による出力軸の停止動作が解除され、又は電動機の出力トルクが低下する。このため、保持部に対する遊星用リングギアの回転速度の上昇を抑制することができ、第3係合ピン及び遊星用リングギアの端面にて生じる摩耗を低減することができる。
【0120】
(5)上記の第3実施形態において、第1実施形態の第2コントローラと同様に構成されたコントローラが設けられた形態が実施されてもよい。具体的には、第3実施形態の風車用駆動装置において、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わった後に、第3バネ部材で付勢された第3係合ピンが第3凹み部分に係合する位置まで遊星用リングギアを回転させるように、電動機の駆動を制御するコントローラが、備えられていてもよい。この変形例によると、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わると、上記のコントローラの制御による電動機の駆動によって、第3係合ピンが第3凹み部分に係合する位置まで遊星用リングギアが回転する。このため、作動切替機構の作動状態が連結解除状態に切り替わった後に、作動切替機構の作動状態を連結状態に速やかに復帰させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、風車に設置され、風車の可動部分における一方の構造体に対して他方の構造体を回転させるように駆動する風車用駆動装置として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0122】
1 風車用駆動装置
12 電動機
13 ピニオン
14 出力軸
15 ブレーキ機構
16 入力軸
17 減速部
18 出力部
19 作動切替機構
101 風車
102 タワー(一方の構造体)
103 ナセル(他方の構造体)
110 可動部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車の可動部分における一方の構造体に固定されたリングギアに対して噛み合うピニオンと、
前記可動部分において前記一方の構造体に対して回転自在に設置される他方の構造体側に対して固定される電動機と、
前記電動機の回転駆動力を出力する出力軸と、
前記出力軸に連結されて前記電動機からの回転駆動力が入力される入力軸と、
前記ピニオンが固定された出力部と、
前記入力軸及び前記出力部に連結され、前記入力軸に入力された回転駆動力を減速して伝達するとともに前記出力部に対して出力する減速部と、
前記出力軸を停止させるブレーキ機構と、
を備えている風車用駆動装置であって、
前記出力軸から前記ピニオンまでにおける駆動力が伝達される経路である駆動力伝達経路に設けられ、作用するトルクの大きさに応じて作動状態が切り替わる作動切替機構を更に備え、
前記作動切替機構は、所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、前記駆動力伝達経路を連結させる連結状態から前記駆動力伝達経路の連結を切り離して解除させる連結解除状態に作動状態が切り替わり、作動状態が前記連結解除状態に切り替わった後、作用するトルクの大きさが所定の大きさ未満となったときに、前記連結状態に復帰可能となることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の風車用駆動装置であって、
前記減速部は、前記入力軸に連結されるとともに前記入力軸に入力された回転駆動力を減速して伝達する第1減速部と、前記出力部に連結されるとともに前記第1減速部から伝達された回転駆動力を更に減速して伝達して前記出力部に対して出力する第2減速部と、を有し、
前記作動切替機構は、少なくとも一部が、前記駆動力伝達経路における前記出力軸、前記入力軸、及び前記第1減速部のうちの少なくともいずれかに設けられていることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の風車用駆動装置であって、
前記第1減速部は、太陽歯車と、前記太陽歯車に噛み合うとともに自転しながら当該太陽歯車の周囲を公転する複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車のそれぞれを自転自在に支持するとともに複数の前記遊星歯車を公転自在に支持する遊星枠と、を有する遊星歯車減速機として設けられ、
前記作動切替機構は、少なくとも一部が前記第1減速部に設けられていることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の風車用駆動装置であって、
前記作動切替機構は、
前記第1減速部に設けられるとともに複数の前記遊星歯車の周囲に配置されて複数の前記遊星歯車と噛み合う遊星用リングギアと、前記入力軸及び前記減速部を収容する本体に対して前記遊星用リングギアの軸方向の移動が規制された状態で回転可能に当該遊星用リングギアを保持する保持部と、を有し、
前記保持部と前記遊星用リングギアとの間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、作動状態が、前記遊星用リングギアの前記保持部に対する回転が規制された前記連結状態から、前記遊星用リングギアが前記保持部に対して回転する前記連結解除状態に切り替わることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の風車用駆動装置であって、
前記保持部は、
前記本体に固定され、リング状に形成されるとともに前記遊星用リングギアをその外周に沿って保持する保持リング部材と、
前記保持リング部材に対して摺動自在に配置され、前記保持リング部材から前記遊星用リングギアに向かって先端側が突出することで、前記遊星用リングギアの外周に凹み形成された第1凹み部分に対して係合する第1係合ピンと、
前記本体及び前記保持リング部材のうちの少なくともいずれかに設置され、前記第1係合ピンを前記保持リング部材から前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する第1バネ部材と、
を有していることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の風車用駆動装置であって、
前記第1係合ピンの前記保持リング部材に対する変位を検知する変位センサと、
前記第1係合ピンの前記第1凹み部分に対する係合が外れる位置まで当該第1係合ピンが移動したことが前記変位センサで検知されたときに、前記ブレーキ機構による前記出力軸の停止動作を解除するように当該ブレーキ機構を制御し、又は、前記電動機の出力トルクを低下させるように当該電動機を制御する第1コントローラと、
を更に備えていることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項7】
請求項5に記載の風車用駆動装置であって、
前記作動切替機構の作動状態が前記連結解除状態に切り替わった後に、前記第1バネ部材で付勢された前記第1係合ピンが前記第1凹み部分に係合する位置まで前記遊星用リングギアを回転させるように、前記電動機の駆動を制御する第2コントローラを更に備えていることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項8】
請求項2に記載の風車用駆動装置であって、
前記入力軸に設けられた前記作動切替機構は、
筒状に形成されるとともに前記出力軸の外周に対して固定される第1筒状部と、
前記第1筒状部に対して同心状に配置されるとともに、前記第1筒状部の外周に対して内周にて摺接して回転可能に配置される第2筒状部と、
前記第2筒状部に対して摺動自在に配置され、前記第2筒状部から前記第1筒状部に向かって先端側が突出することで、前記第1筒状部の外周に凹み形成された第2凹み部分に対して係合し、前記第1筒状部の前記第2筒状部に対する回転を規制する第2係合ピンと、
前記第2筒状部に設置され、前記第2係合ピンを当該第2筒状部から前記第1筒状部に向かって突出させる方向に付勢する第2バネ部材と、
を有し、
当該作動切替機構は、前記第1筒状部と前記第2筒状部との間で所定の大きさ以上のトルクが作用したときに、前記第2係合ピンの前記第2凹み部分への係合が外れ、作動状態が、前記第1筒状部の前記第2筒状部に対する回転が規制された前記連結状態から、前記第1筒状部が前記第2筒状部に対して回転する前記連結解除状態に切り替わることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項9】
請求項4に記載の風車用駆動装置であって、
前記保持部は、
前記遊星用リングギアに対して、前記遊星用リングギアの軸方向と平行に前記入力軸側から前記出力部側に向かって、先端側が突出することで、前記遊星用リングギアの端面に凹み形成された第3凹み部分に対して係合する第3係合ピンと、
前記本体の内部に設置され、前記第3係合ピンを前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する付勢機構と、
を有していることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項10】
請求項9に記載の風車用駆動装置であって、
前記第3係合ピンは、複数設けられ、
前記付勢機構は、
複数の前記第3係合ピンを保持する保持プレートと、
前記保持プレートを前記遊星用リングギアに向かって突出させることで複数の前記第3係合ピンを前記遊星用リングギアに向かって突出させる方向に付勢する1つの第3バネ部材と、
を有していることを特徴とする、風車用駆動装置。
【請求項11】
請求項10に記載の風車用駆動装置であって、
前記第3バネ部材は、皿状に盛り上がるように形成されたリング状のバネ部材として設けられていることを特徴とする、風車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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