説明

風養生方法、足場

【課題】上下の鋼管の間を溶接する際に、風の影響を受けることなく、また、作業環境の悪化を防止する。
【解決手段】上下に配置された鋼管20を溶接接続する際の風養生方法は、上下に配置された鋼管20に、それぞれ鋼管20を取り囲むように中間外足場120及び上方外足場130を取付け、上方の鋼管20に取付けられた中間外足場120の外周から複数のシート材125を、隣接するシート材125の側部が互いに重なり合うように垂下させるとともに、下方の鋼管20に取付けられた上方外足場130にシート材125の下端を固定し、シート材125の重なり合う部分の下部を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨を上下に溶接接続する際に、溶接箇所の風養生を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋脚を施工する方法として、橋脚の内部に相当する位置に複数の鋼管を上下方向に連結しながら立設し、これら鋼管の周囲に縦主筋を配筋するとともに、縦主筋を囲繞するようにPCストランドを巻き付け、鋼管の上部に反力を取って、スリップフォームを上昇させながら、このスリップフォーム内にコンクリートを打設することで橋脚を構築するハイブリッドスリップフォーム工法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この工法において、鋼管を上下に連結する際には、上方の鋼管を下方の鋼管の上方に所定の姿勢で仮決めして保持した状態で、鋼管同士の隙間を溶接する必要がある。鋼管同士を接続するための溶接方法としては、ガスシールドアーク溶接が用いられるが、ガスシールドアーク溶接は風の影響を受けやすく、強風時には溶接作業を行うことができない。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載された風養生方法を適用することが考えられる。この方法では、上下の鋼管を溶接する際に、上方の鋼管に傘状の支持部材を取付け、この支持部材の上部をシート材で覆うとともに、支持部材の外周から防風シートを垂下させ、これらシート材で囲まれた空間内で溶接を行う。これにより、風の影響を受けずに溶接作業を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11―131423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法を適用した場合には、シート材で囲まれた空間内に風が流れ込むことがないため、溶接ヒューム等が内部にたまってしまい、作業環境が悪化するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、上下の鉄骨の間を溶接する際に、風の影響を受けることなく、また、作業環境の悪化を防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の風養生方法は、上下に配置された鉄骨を溶接接続する際の風養生方法であって、前記上下に配置された鉄骨に、それぞれ当該鉄骨を取り囲むように足場を取付け、 前記上方の鉄骨に取付けられた足場の外周から複数のシート材を、隣接するシート材の側部が互いに重なり合うように垂下させるとともに、その下部を前記下方の鉄骨に取付けられた足場に固定し、前記シート材の重なり合う部分の下部を互いに固定することを特徴とする。
上記の風養生方法において、前記上方及び下方の鉄骨に取付けられた足場は、エキスパンドメタルからなり、前記下方の鉄骨に取付けられた足場を構成するエキスパンドメタル上に板材を敷き詰めてもよい。
【0009】
また、本発明の足場は、鉄骨を上下に溶接接続する際に用いられる足場であって、鉄骨を取り囲むように取付けられる足場本体と、前記足場本体の外周に、垂下した状態で側部が互いに重なり合うように取付けられた複数のシート材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上下の鉄骨に取付けられた足場の周囲を取り囲むように複数のシート材を設けることで、風の影響を受けることなく上下の鉄骨の溶接作業を行うことができる。また、隣接するシート材の重ね合わさった部分の下部のみ固定することとしたため、上部のシート材の間から風が入り込み、上方へ抜ける。このため、内部に溶接ヒュームがたまることがなく、作業環境の悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その1)である。
【図2】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その2)である。
【図3】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その3)である。
【図4】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その4)である。
【図5】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その5)である。
【図6】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その6)である。
【図7】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その7)である。
【図8】本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図(その8)である。
【図9】内足場及び上方外足場の構成を示す平面図である。
【図10】中間外足場の構成を示す平面図である。
【図11】中間外足場の外周に取付けられたシート材を延ばした状態を示す図である。
【図12】内足場のエキスパンドメタル上に、合板を敷き詰めた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の風養生方法の一実施形態を、ハイブリッドスリップフォーム工法により橋脚を構築する場合に適用した場合を例として、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図8は、本実施形態のハイブリッドスリップフォーム工法により、橋脚を構築する方法を説明するための図である。
橋脚を構築するにあたり、まず、図1に示すように、地盤を掘削し、掘削した部分に1段目の鋼管20を配置し、1段目の鋼管20の下端が埋設されるように基礎10を構築する。そして、1段目の鋼管20の中間部及び上部に内足場110を固定し、1段目の鋼管20の上部に後に詳述する上方外足場130を固定する。
【0013】
図9は、内足場110及び上方外足場130の構成を示す平面図である。同図に示すように上方外足場130は、複数本の鋼管20全体の外周を囲むように配置された内側の環状の鋼材131と、内側の環状の鋼材131の周囲に配置された八角形状の外側の鋼材132と、これら環状の鋼材の間を結ぶ鋼材133と、これら鋼材131、132,133の上方に敷設された、例えば、エキスパンドメタルなどからなる足場板(不図示)と、を備える。また、上方外足場130の外周には手摺が設けられている。
【0014】
内足場110は、上方外足場130により囲まれた領域内の鋼管20の間の隙間に当たる部分に格子状に組まれた鋼材(不図示)と、これら鋼材上の敷設されたエキスパンドメタル111とにより構成される。内足場110は鋼管20の外周面に取付けられた突出部材21により支持されている。また、上方外足場130は内側に向かって進退可能な突出部材134を備え、この突出部材134により内足場110に取付けられることで支持されている。
【0015】
次に、図2に示すように、クレーン300により2段目の鋼管20を揚重して、最下段の鋼管20の上方に隙間をあけて配置し、2段目の鋼管20を仮止用冶具(不図示)により1段目の鋼管20の上方に隙間をあけて保持する。
【0016】
次に、図3に示すように、2段目の鋼管20の中間部及び上部に内足場110を固定し、クレーン300により後述するように外周にシート材125が取付けられた中間外足場120を揚重し、2段目の鋼管20の中間部に中間外足場120を固定する。また、2段目の鋼管20の上部に上方外足場130を固定する。
【0017】
図10は、中間外足場120の構成を示す平面図である。同図に示すように、中間外足場120は、上方外足場130と同様に、複数本の鋼管20全体の外周を囲むように配置された内側の環状の鋼材121と、内側の環状の鋼材121の外周に配置された八角形状の外側の鋼材122と、これら環状の鋼材121,122の間を結ぶ鋼材123と、これら鋼材121,122,123の上方に敷設された、例えば、エキスパンドメタルなどからなる足場板(不図示)と、を備える。また、上方外足場130の外周の各辺には手摺が設けられており、各手摺にはシート材125が取付けられている。また、中間外足場120は内側に向かって進退可能な突出部材124を備え、この突出部材124により内足場110に反力をとることで支持されている。
【0018】
図11は、中間外足場120の外周に取付けられたシート材125を展開した状態を示す図である。図11における中間外足場120の上下左右の辺に取付けられたシート材125Aは、中間外足場120の対応する辺と略同じ幅を有するとともに、後述するように、シート材125Aを垂下させた状態で、下の段の鋼管20に取付けられた上方外足場130まで到達するような長さを有する。また、図11における中間外足場120の斜めの辺に取付けられたシート材125Bは、対応する辺よりも幅広に形成されており、シート材125Bを垂下させた状態で、下の段の鋼管20に取付けられた上方外足場130まで到達するような長さを有する。
【0019】
かかる中間外足場120を取付けた後、1段目と2段目の鋼管20を溶接接続する。図4は、鋼管20を溶接する際の様子を示す図である。同図に示すように、溶接を行う際には、中間外足場120の手摺に取付けられたシート材125を垂下させ、このシート材125の下端部を1段目の鋼管20の上部に取付けられた上方外足場130の手摺に固定する。また、1段目の鋼管20の上部に取付けられた上方外足場130上において作業員が届く高さ範囲で、重なり合った隣接するシート材125をクリップなどにより固定する。
また、図12に示すように、1段目の鋼管20の上部に取付けられた内足場110のエキスパンドメタル111上に、隙間無く合板112を敷き詰める。
【0020】
そして、1段目の鋼管20の上部に取付けられた内足場110上において、1段目と2段目の鋼管20を溶接接続する。この際、上記のように1段目の鋼管20の上部に取付けられた上方外足場130と、2段目の鋼管20の中間に取付けられた中間外足場120との間をシート材125により塞いでいるため、周囲から風が吹き込むのを防止できる。さらに、1段目の鋼管20の上部に取付けられた内足場110に合板112を敷き詰めているため、下方から風が吹き込むのを防止できる。このため、鋼管20を接続するためのガスアーク溶接を、風の影響を受けることなくスムーズに行うことができる。
【0021】
なお、隣接するシート材125は、上記のように下部はクリップで留めているものの、上部は互いに重ね合わせているのみである。これにより、強風時には、風は隣接するシート材125の上部の重ね合わせた部分から内部へ入り込むため、強風時であってもシート材125に過大な風荷重が作用して破損する虞はない。また、1段目の鋼管20の上部に取付けられた内足場110に合板112が敷き詰められて閉鎖されているため、シート材125の重ね合わせた部分から入り込んだ風は、2段目の鋼管20の中間部に取付けられた内足場110のエキスパンドメタル111の隙間を通り上方へ抜けることとなる。このため、下方での溶接作業に影響を与えることはなく、また、このように内部を風が流れることで溶接作業で発生した溶接ヒュームは外部へ排出される。
【0022】
上記のようにして1段目と2段目の鋼管20を接続した後、図5に示すように1段目の上部、2段目の中間部及び上部に取付けられた内足場110において、複数の鋼管を取り囲むように(内足場110の外周に)縦筋30を配筋する。
【0023】
次に、2段目の鋼管20の中間外足場120及び上方外足場130をクレーン300により揚重して取り外す。なお、取り外した中間外足場120及び上方外足場130は、次の段の鋼管20を溶接接続する際に利用できる。そして、図6に示すように1段目の鋼管20に取付けられた上方外足場130を上昇させ、2段目の鋼管20の上部に固定する。
このように図2〜図6を参照して説明した工程を繰り返すことにより、上方に向かって鋼管20を溶接接続していくとともに、縦筋30を配筋していく。
【0024】
そして、最上段の鋼管20の接続作業が完了した後、図7に示すように、鋼管20の最上部に反力架台200を設け、反力架台200により吊持されるようにスリップフォーム装置210を設置する。なお、スリップフォーム装置210の上部にはPCストランドを巻き付けるための送り出し装置220が設けられている。
【0025】
次に、スリップフォーム装置210を上昇させながらその上部において送り出し装置220により縦筋30の周囲にPCストランド40を巻き付ける。また、これと並行してスリップフォーム装置210を型枠として用いて、PCストランド40を巻き付けた部分にコンクリートを打設しながらスリップフォーム装置210を上昇させる。なお、内足場110はコンクリート内に埋設されることとなるが、上記のように内足場はエキスパンドメタルからなるため、メッシュを通じてコンクリートが通過可能であるため、コンクリートを連続して打設することができる。そして、橋脚の最上部までコンクリートの打設が完了し、打設したコンクリートが硬化した後、スリップフォーム装置を地上高さまで下降させて撤去し、反力架台200をクレーン300により撤去する。
以上の工程により、図8に示すように橋脚を構築することができる。
【0026】
本実施形態によれば、上下の鋼管20を溶接する際に、上方の鋼管20に取付けられた中間外足場120と、下方の鋼管20に取付けられた上方外足場130との間をシート材125により覆うため、上下の鋼管20をガスアーク溶接する際に風の影響を受けることなく施工できる。
【0027】
また、下方の鋼管20の上部に取付けられた内足場110を構成するエキスパンドメタル111上に合板112を敷設することとしたため、下方から吹き込む風を防ぐことができる。
【0028】
また、隣接するシート材125同士を、下部はクリップで留め、上部は重ね合わせるのみとしたため、水平方向に吹き付ける風は、シート材125の上部の重ね合わせた部分の隙間から内部に入り込む。このため、強風時であっても、シート材125に過度な風荷重が作用するのを防ぎ、シート材125が破損するのを防止できる。
【0029】
また、このようにシート材125の上部の隙間から入り込んだ風は下方の鋼管20の上部に取付けられた内足場110を構成するエキスパンドメタル111が合板により塞がれているため、上方の鋼管20の中間部に取付けられた内足場110のエキスパンドメタル111の隙間を吹き抜けることとなる。このため、内部に入り込んだ風が溶接作業を妨げることなく、さらに、溶接により発生した溶接ヒュームが外部へ排出され、作業環境の悪化を防止できる。
【0030】
なお、本実施形態では、上方の鋼管20の中間部に取付けた中間外足場120からシート材125を吊下げ、下方の鋼管20の上部に取付けた上方外足場130にシート材125の下部を固定するものとしたが、これら外足場の取付位置はこれに限らず、上方の鋼管20と下方の鋼管20にそれぞれ外足場が取付けられていれば、上方の鋼管20に取付けられた外足場からシート材125を吊下げ、シート材の下方を下方の鋼管20に取付けられた外足場に固定することで、上下の鋼管20の溶接部を取り囲むことができる。
【0031】
また、本実施形態では、上下方向に溶接接続された鋼管が内部に埋設された橋脚を構築する場合を例として説明したが、これに限らず、角鋼管やH型鋼などの鉄骨が上下方向に連結された橋脚を構築する場合であっても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0032】
10 基礎 20 鋼管
30 縦筋 40 PCストランド
110 内足場 111 エキスパンドメタル
112 合板 120 中間外足場
121,122,123 鋼材 124,134 突出部材
125 シート材 130 上方外足場
200 反力架台 210 スリップフォーム装置
220 巻付装置 300 クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に配置された鉄骨を溶接接続する際の風養生方法であって、
前記上下に配置された鉄骨に、それぞれ当該鉄骨を取り囲むように足場を取付け、
前記上方の鉄骨に取付けられた足場の外周から複数のシート材を、隣接するシート材の側部が互いに重なり合うように垂下させるとともに、その下部を前記下方の鉄骨に取付けられた足場に固定し、
前記シート材の重なり合う部分の下部を互いに固定することを特徴とする風養生方法。
【請求項2】
請求項1記載の風養生方法であって、
前記上方及び下方の鉄骨に取付けられた足場は、エキスパンドメタルからなり、
前記下方の鉄骨に取付けられた足場を構成するエキスパンドメタル上に板材を敷き詰めることを特徴とする風養生方法。
【請求項3】
鉄骨を上下に溶接接続する際に用いられる足場であって、
鉄骨を取り囲むように取付けられる足場本体と、
前記足場本体の外周に、垂下した状態で側部が互いに重なり合うように取付けられた複数のシート材とを備えることを特徴とする足場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−42939(P2011−42939A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190388(P2009−190388)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】