説明

食品の不快臭マスキング剤、及びマスキング方法

【課題】鳥獣肉臭や魚介類の生臭さのような不快臭をマスキングするアリインの新たな用途、及びアリイン高含有量のニンニクをマスキング剤として使用する方法、更に、この方法によって不快な風味がマスキングされた食品を提供する。
【解決手段】(1)アリインを有効成分とすることを特徴とする食品の不快臭マスキング剤。(2)食品にアリインを添加することを特徴とする食品の不快臭のマスキング方法。(3)アリインとして、ニンニク加工品に含まれるアリインを用いる食品の不快臭マスキング剤、及びマスキング方法。(4)アリインを有効成分とするマスキング剤を添加した食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリインを用いて食品(主として魚介類や鳥獣肉及びその卵や内臓あるいはそれらの加工品)の不快な風味をマスキングする技術に関する。
更に詳しくは、アリインを有効成分とする食品の不快臭のマスキング剤、及び食品にアリインを添加する食品の不快臭のマスキング方法に関する。
アリインとしては、アリイナーゼの作用を阻害して得られるアリイン含有量の高いニンニクの加工品(破砕物、切片等)を主として使用するものである。
【背景技術】
【0002】
魚介類や鳥獣肉、及びその卵や内臓、あるいはそれらの加工品は、特有の鳥獣肉臭や魚介類の生臭さがあり、これらを利用した料理に不快な風味をもたらす。この問題を解決するため、各種香辛料や柑橘類及びハーブ等を添加したりフレーバーを添加したりして不快な風味を打ち消す(マスキング)方法がとられてきた。
しかしながら、場合によって添加した香辛料等の風味が素材の好ましい風味を損なうことがあり、また、それらの風味を嫌う人もいて必ずしも好ましい方法ではない。
その他、魚臭のマスキング方法としては、シャロット及び/又はオニオン抽出物を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、畜肉臭のマスキング剤としてスクラロースを用いる方法(例えば、特許文献2参照)、魚介臭又は鳥獣肉臭のマスキング法として昆布エキスを用いる方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
しかしながら、これらの方法はいまだ十分なものではなく、鳥獣肉臭や魚介類の生臭さのマスキング効果を有し、且つ素材の風味を引き立てる新たなマスキング剤の開発が望まれていた。
【0003】
ニンニクが持つ特有の強い臭気は、アリシンという含硫化合物が主成分であるが、この物質は無臭のアリインがアリイナーゼという酵素の作用を受けて生成する(例えば、非特許文献1参照)。
ニンニクはこの臭気によりマスキングの目的で使用されることもあるが、臭いを低減して有効成分を継続的に摂取したいという要求も強く、低臭化に関して多くの技術が開発されている。それらの中にアリシンが生成する前にアリイナーゼを失活させて低臭ニンニクを製造する技術が開示されているが、これらのニンニクは製造の結果としてアリイン含有量が非常に高い(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0004】
ニンニクはアリシンを始めとする数種類の含硫化合物を含み、有用な生理作用が報告されている。これらの含流化合物のほとんどが、アリインから生成したアリシンを前駆体としている(非特許文献1)。アリシンはチアミン(ビタミンB1チオール型)と結合して吸収性の高いアリチアミンとなるが、アリチアミン生産の基礎技術としてニンニク中のアリインを分離・精製する技術が開示されている(特許文献7)。
【0005】
ところが、アリインや、アリイン高含有量の低臭ニンニクを含む低臭化されたニンニクが、魚介類の生臭さや鳥獣肉臭をマスキングする効果を持つという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−357648
【特許文献2】特開2000−157184
【特許文献3】特開2007−282516
【特許文献4】特開平7−16072
【特許文献5】特開2010−22289
【特許文献6】特願2009−158603
【特許文献7】特開平6−220008
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】New Food Industry,Vol.36,No.11,1−10,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、魚介類や鳥獣肉及びその卵や内臓あるいはそれらの加工品が持つ特有の鳥獣肉臭や魚介類の生臭さをマスキングするアリインの新たな用途及び、アリイン高含有量のニンニクをマスキング剤として使用する方法を提供する。更に、この方法によって不快な風味がマスキングされた食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、冷凍生ニンニクをエタノール又は40%重量以上のエタノールと水の混合溶媒中で粉砕することで、アリイン高含有量の低臭ニンニクを生産する技術を開発した(特開2010―22289(特許文献5))。
更に、生ニンニクを酸性物質、塩基性物質、又はこれを溶解した溶液と共に粉砕してその粉砕物のpHを低い状態(3.0以下)若しくは高い状態(10.3以上)にし、アリイン高含有量の低臭ニンニクを生産する技術を開発した(特願2009−158603(特許文献6)。
そこで、これらの技術により得られた低臭ニンニクを、呈味性を付与する目的でこれらのニンニクを生臭さの強いイカの塩辛や独特の臭みを持つ鶏のレバーの煮込み等に添加したところ、これらの生臭さや臭みが劇的に軽減されることを見出した。
そして、このマスキング効果を示す有効成分を確認するため、アリイン高含有量の低臭ニンニクからアリインを分離・精製して上記食品に添加したところ、ニンニクを添加した場合と同様に生臭さや臭みが低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本願発明は以下のように構成されている。
〔請求項1〕アリインを有効成分とすることを特徴とする食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項2〕アリインとして、ニンニク加工品に含まれるアリインを用いる請求項1に記載する食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項3〕アリインとして、生ニンニクの可食部を破砕する際に、アリイナーゼ不活性化処理を施して得られるニンニク加工品に含まれるアリインを用いる請求項1に記載する食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項4〕ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項5〕ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、10.0以上、好ましくは10.3以上になるように、塩基性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項6〕ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、エタノール、又は40重量%以上のエタノールと水の混合溶媒を加えて粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項7〕ニンニクの加工品が、生ニンニクをマイクロ波加熱処理した後、水中で減圧下に1〜2時間加熱還流し、抽出液を分離し、該抽出液を減圧濃縮して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項8〕不快臭が、魚介臭、又は鳥獣肉臭である請求項1〜7記載の食品の不快臭マスキング剤。
〔請求項9〕請求項1〜請求項8記載の食品の不快臭マスキング剤を含有する食品。
〔請求項10〕請求項1〜請求項9に記載する不快臭のマスキング剤を、アリインとして、0.001〜0.1重量%含有する食品。
〔請求項11〕食品にアリインを添加することを特徴とする食品の不快臭のマスキング方法。
〔請求項12〕アリインとして、請求項1〜請求項8記載のマスキング剤を添加する食品の不快臭のマスキング方法。
〔請求項13〕請求項1〜請求項8に記載する不快臭のマスキング剤を、アリインとして、0.001〜0.1重量%添加する食品の不快臭のマスキング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、魚介類を刺身等で生食するときや、魚介類の内臓を使用した塩辛や酒盗、魚介類の干物の漬け汁等に、アリインやアリイン高含有量の低臭化ニンニクを添加すると、魚介類特有の生臭さを大きく低減できる。また、焼肉のタレやモツ煮込み、レバニラ炒め等に添加すると、鳥獣肉や内臓の臭みを大きく低減できる。しかもニンニク特有の強烈な臭いは無く、アリインの強い呈味性やニンニクの旨味を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用するアリインは試薬として市販されているものでも良いが、食品への添加を考慮すると食品素材から分離・精製したものが望ましい。アリインは、Allium属の植物でも特にニンニク(Allium sativum)に多いため、ニンニクから分離・精製するのが良い。
特許文献4や特許文献5に記載された方法等で製造したアリイン高含有量の低臭ニンニクを水抽出し、抽出液をイオン交換樹脂を充填したカラムに吸着させて他の水溶性成分を除去した後、吸着画分をODS(オクタデシルシリル基)で修飾されたシリカゲルを充填したカラムで分離・精製することにより高純度のアリインが得られる。
【0013】
特許文献4に記載の方法で製造されたアリイン高含有量の低臭ニンニクは、備前化成株式会社(岡山県赤磐郡熊山町徳富363番地)より購入することができる。
また、特許文献5に記載の方法で製造されたアリイン高含有量の低臭ニンニクは、本発明者が開発したものである。
更に、特許文献6に記載の方法で製造された、ニンニクを破砕してペースト化したときのpHが3.0以下、またはpHが10.0以上になるように加工して製造したアリイン高含有量の低臭ニンニクも、本発明者の開発品である。
【0014】
本発明が対象とする食品には、魚介類の生臭さや鳥獣の肉あるいは内臓の臭みを有する食品が広く包含される。例えば、生鮮の魚介類としてマグロ、カツオ、ブリ、タイ、イワシ、イカ等の魚類の刺身やこれらの加工品としての塩辛、干物、缶詰、蒲鉾、つみれ、魚肉ソーセージ、魚粉等、更には辛子明太子、イクラの醤油漬け等の魚卵加工品が含まれる。
また、アワビ、ハマグリ、アサリ、シジミ等の貝類の刺身やこれらの加工品としての煮貝、缶詰、佃煮等が含まれる。その他カニ、エビの肉や内臓(カニ味噌等)及びこれらの加工品である缶詰等が含まれる。
【0015】
一方、例えば鳥獣肉として牛、豚、鶏、羊、ヤギ、馬、ウサギ、アヒル、鴨、合鴨、七面鳥、鳩等の肉が挙げられ、これらの加工品としてハム、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、食肉を主原料とする缶詰、冷凍食品、レトルトパウチ食品、餃子、シュウマイ等が含まれる。
【0016】
本発明に係る魚介類の生臭さや、鳥獣の肉あるいは内臓の臭みが低減された食品を得るためには、結果として食品にアリインが含有されていれば良い。しかしながら、アリイン含有量の高い製剤は試薬としての販売のみであり、価格も大変高い。安価にアリインを添加するには、アリイン含有量の高いニンニク加工品を使用するのが合理的である。当該ニンニク加工品を食品に添加する時期や順序及び添加方法に制約は無い。
【0017】
発明の効果を得るための添加割合は、食品の種類又はそれに含まれる魚介類及び鳥獣肉類の種類やその量によって異なり、一概に特定することは困難であるが、通常アリインとして0.001〜0.1重量%の範囲で適宜選択できる。例えば、アリインを1%含む低臭ニンニク加工品の場合、添加割合は0.1〜10%の範囲で選択すればよい。
【0018】
本発明のマスキング剤は、アリインを有効成分とするものである。当該マスキング剤は少なくともアリインを含有するものであれば良いが、本発明の効果を損なわないことを条件に、各種調味料や保存料、乳化剤、栄養強化剤等の他の食品添加物と混合しても良い。
【0019】
言うまでも無いことだが、ニンニク特有の臭いであるアリシンの臭いによって食品の不快な臭いをカモフラージュする方法は、本発明の範疇には入らない。また、アリイナーゼを失活させてアリシンの生成を抑制する(結果として多量のアリインが残存する)ことで製造されたもの以外の低臭化あるいは無臭化ニンニクも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】アリイン標準品(A)、及びカラム精製した高純度のアリインを含む画分(B)を高速液体クロマトグラフィーで分析したときのクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
特許文献5に記載の方法に従い、アリイン高含有量の低臭ニンニクエキスを作製した。すなわち、中国産冷凍ニンニク200.6gに99.5%エタノール(特級エタノール、関東化学株式会社)に純水を加えて調製した重量比60%の混合溶媒を400.8g加え、5℃の冷蔵庫に30分間置いて解凍した。解凍後ニンニクを水溶液ごとジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズし、吸引濾過して液体分を回収した。ロータリーエバポレーター(RE400、ヤマト科学株式会社)で減圧濃縮してエタノールを除去した後、残液の重量に対して5%の活性炭(特製白鷺、キリンフードテック株式会社)を加え、良く混合した後吸引濾過した。濾液を回収して真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥後、ミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化した。本粉末を純水にて溶解し、HPLCシステム(Prominence:株式会社島津製作所)でアリイン含有量を測定した。以下に分析条件を示す。
【0022】
カラム:Phenomenex Luna 5m C18,250mm×4.6mm、
溶離液:水、カラム温度:50℃、流速:1ml/ml、検出波長:210nm
アリインの標準品はLKT Labotarories,Inc製造のL(+)Alliin(純度99.34%)を和光純薬工業株式会社より購入した。測定の結果、本粉末のアリイン含有量は3460mg/100gであった。
【0023】
0.25規定の塩酸水溶液と0.25規定の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄したカラムクロマトグラフ用DEAE−セルロース(和光純薬工業株式会社)を直径3cm、長さ60cmのカラム(GT30クロマトカラム600mm:柴田科学株式会社)に充填し、本粉末の25%重量水溶液20mlをカラム上端から注ぎ入れた。下端のコックを開いて自然落下により溶液を固定相に導いた後、純水を上端から順次2L注入してDEAE−セルロースに対する非吸着成分を流し出した。流出液を時々サンプリングし、HPLCシステムで分析して非吸着性の不純物がほとんど検出されなくなったのを確認し、0.25mol/L塩化ナトリウム水溶液で吸着成分を溶出させた。溶出液を50mlずつフラクションとして回収し、各フラクションをHPLCシステムで分析してアリイン含有量の高い画分を分取した。
【0024】
次に、水で膨潤させたカラムクロマトグラフ用ODS充填剤(ワコーシル25C18:和光純薬工業株式会社)を直径3cm、長さ120cmのカラム(GT30クロマトカラム1200mm:柴田科学株式会社)に充填し、DEAE−セルロースカラムで得たアリイン含有量の高い画分をカラムの上端から注ぎ入れた。下端のコックを開いて自然落下により溶液を固定相に導いた後、純水を上端から順次注入してアリインと不純物を分離した。溶出液を10mlずつフラクションとして回収し、各フラクションをHPLCシステムで分析してアリイン含有量の高い画分を分取した。分取した画分は再度同ODSカラムに注入してアリインと不純物を分離し、溶出液を10mlずつのフラクションとして回収してアリイン純度の高い画分を回収した。アリイン標準品と高純度のアリイン画分をHPLCシステムで分析したクロマトグラムを図1に示す。このアリイン画分を真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥し、76mgの白色粉末を得た。分析の結果、純度は72.3%であった。
【実施例2】
【0025】
特許文献6の記載の方法に従い、純水50mlに無水クエン酸9.6gを溶解した酸性溶液を中国産冷凍生ニンニク100.2gに加え、冷蔵庫で30分放置し解凍した。ジューサー(TM807、株式会社テスコム)で粉砕後、スラリーをpH計で測定し、pHが3.0以下であることを確認した。このスラリーに重曹8.3gを攪拌しながら少量ずつ加えて中和し、pHを5.02とした。このスラリーを半分に分けて一方はそのまま凍結し(低臭ニンニクペースト)、もう一方は凍結乾燥して粉砕した(低臭ニンニクFD粉末)。
また、備前化成株式会社より、無臭国産ニンニクエキスパウダー(特許文献4)を入手した。
更に、比較のため、中国産冷凍生ニンニク100.6gに純水を50ml加えてジューサー(TM807、株式会社テスコム)で粉砕後凍結乾燥したニンニク粉末も作製した。
これらのニンニクペースト及び粉末のアリイン含有量を、実施例1の場合と同様にHPLCシステムで分析した。分析結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示されるように、脱臭処理されたニンニク加工品は脱臭処理されていないニンニク粉末に比べて12.8〜46.8倍という高濃度のアリインを含有していることがわかる。
【実施例3】
【0028】
市販のイカの塩辛(株式会社竹田食品)に、実施例1で調製した60%エタノール抽出エキス粉末、精製アリインの水溶液(1mg/mlの濃度に調製)、実施例2で調製した低臭ニンニクペースト、低臭ニンニク粉末及び無臭国産ニンニクエキスパウダーを添加してマスキング効果を調べた。塩辛を20.0gずつビーカーに小分けし、それらに上記サンプルを表2のように添加した。尚、添加量は低臭ニンニクペーストを基準とし、ペーストが含有するアリイン含有量とほぼ同量のアリインが添加されるよう、他のサンプルの添加量を決定した(低臭ニンニクペーストとしてA:1%、B:2%、C:3%)。サンプル添加後はよく攪拌した後冷蔵庫内に一晩静置し、翌日臭い及び味について官能評価を行った。
臭いと味は官能的に密接な関係にあるが、臭いは気化した成分、味は主に水溶性の成分を感じるものであるから、両者で感じ方が異なる場合がある。そこで、パネラーに臭いと味の両方の官能評価を依頼した。尚、臭いの評価はパネラーが実際に臭いを嗅いで行い、味の評価は口に入れて食したときに感じる風味について行った。
【0029】
【表2】

【0030】
官能評価は5人のパネラーで行い、5段階で評価して各パネラーの評価値を平均した。臭いの場合評価基準は、5;強く臭う(無添加品を基準)、4;やや強く臭う、3;明確に臭いを感じる、2;やや臭う、1;ほとんど臭わない、とした。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
どのサンプルについても添加量が増加するにつれて臭いはより低減されたが、低臭ニンニクペーストと低臭ニンニク粉末の場合他のサンプルよりもニンニクの風味が残っているため、他のサンプルと比べて評価が低くなった。
【0033】
味に関する評価は臭いの場合と同じ5人のパネラーで行い、5段階で評価して各パネラーの評価値を平均した。評価基準は、5;強い生臭さを風味として感じる、4;やや強い生臭さを風味として感じる、3;明確に生臭さを風味として感じる、2;少し生臭さを風味として感じる、1;風味にほとんど生臭さを感じない、とした。結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
どのサンプルについても添加量が増加するにつれて生臭い風味はより低減されたが、低臭ニンニクペーストと低臭ニンニク粉末の場合他のサンプルよりもニンニクの風味を強く感じるため、生臭さが感じにくくなったように思われる。無臭国産ニンニクエキスパウダー(備前化成)についても、添加量が多くなるにつれて塩辛には無い風味が付け加わるようであった。また、低臭ニンニクペーストや低臭ニンニク粉末が付与したニンニクの風味は強いものではなく、塩辛の旨味を十分引き出す好ましい風味であった。
【実施例4】
【0036】
アリインが魚介類に対するマスキング効果を発揮する場合の下限値を知るため、実施例3で使用したイカの塩辛に精製アリイン水溶液(濃度1mg/ml)と純水を表5のように加え、良く撹拌した後実施例3の場合と同様の官能評価を行った。結果を表5に示す。評価基準は臭い、味ともに実施例3の場合と同様とした。
【0037】
【表5】

【0038】
イカ塩辛20.0gに精製アリイン水溶液を200μl加えた時点で臭い、味共に不快臭の低減効果が確認できた。この添加量はイカ塩辛100gに対しアリインを1mg加えた量に相当するが、重量百分率で0.001%と極めて微量である。
【実施例5】
【0039】
表6のような処方の調味液を作製し、100ml容量のガラスビーカー13個に40mlずつ分注した。無添加のビーカーをコントロールとし、他の12個のビーカーに表1に示されたサンプルをアリイン含有量がほぼ同じになるように表7のように添加した(低臭ニンニクペーストとしてA:1%、B:2%、C:3%)。サンプル添加後、各ビーカーに生の鶏レバーを24.0gずつ浸漬し、沸騰水中に浸して30分間加熱した。加熱後室温まで冷却し、実施例3と同じパネラーで官能評価を行った。
【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
官能評価は5段階で評価し、各パネラーの評価値を平均した。臭いの場合評価基準は、5;強く臭う(無添加品を基準)、4;やや強く臭う、3;明確に臭いを感じる、2;やや臭う、1;ほとんど臭わない、とした。結果を表8に示す。
【0043】
【表8】

【0044】
どのサンプルについても添加量が増加するにつれて臭いはより低減されたが、塩辛の場合と同様に低臭ニンニクペーストと低臭ニンニク粉末の場合他のサンプルよりもニンニクの風味が残っているため、他のサンプルと比べて評価が低くなった。また、塩辛の場合と比べて、無臭国産ニンニクエキスパウダー(備前化成)の評価が相対的に少し低かった。
【0045】
味に関する評価は臭いの場合と同じ5人のパネラーで行い、5段階で評価して各パネラーの評価値を平均した。評価基準は、5;強いレバー臭さを風味として感じる(無添加品を基準)、4;やや強いレバー臭さを風味として感じる、3;明確にレバー臭さを風味として感じる、2;少しレバー臭さを風味として感じる、1;風味にほとんどレバー臭さを感じない、とした。結果を表9に示す。
【0046】
【表9】

【0047】
どのサンプルについても添加量が増加するにつれてレバー臭い風味はより低減されたが、
低臭ニンニクペーストと低臭ニンニク粉末及び無臭国産ニンニクエキスパウダー(備前化成)は、添加量が最も少ないCの試作品でも僅かに後味にレバー臭さを感じた。また、特に低臭ニンニク粉末では、強くは無いが明確にニンニクの風味を感じた。更に低臭ニンニクペーストと低臭ニンニク粉末では、添加量が増えるにつれて他のサンプルでは感じなかった甘味を感じるようになった。これは、好ましい風味を付加するという点で良い特徴である。
【実施例6】
【0048】
アリインが鳥獣肉類に対するマスキング効果を発揮する場合の下限値を知るため、実施例5で使用した鶏レバー用調味液を40mlずつ6個の100ml容量のガラスビーカーに分注し、それぞれに精製アリイン水溶液(濃度1mg/ml)と純水を表10のように添加した。その後各ビーカーに実施例5の場合と同様に生の鶏レバーを浸漬して加熱した。加熱後室温まで冷却し、実施例5の場合と同様の官能評価を行った。結果を表10に示す。評価基準は臭い、味ともに実施例5の場合と同様とした。
【0049】
【表10】

【0050】
鶏レバーにおいても、調味液40mlに精製アリイン水溶液(濃度1mg/ml)を400μl、すなわちアリインを0.001%加えた時点で臭い、味共に不快臭の低減効果が確認できた。
【0051】
以上の実施例で示されたように、使用した精製アリイン水溶液及びニンニクサンプルは魚介類及び鳥獣肉類に対し不快臭を軽減する作用がある。アリインの添加量としてはイカの塩辛、鳥レバー用調味液に対して共に0.001%と非常に微量で効果を確認することができ、アリインが大変優れたマスキング剤であることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリインを有効成分とすることを特徴とする食品の不快臭マスキング剤。
【請求項2】
アリインとして、ニンニク加工品に含まれるアリインを用いる請求項1に記載する食品の不快臭マスキング剤。
【請求項3】
アリインとして、生ニンニクの可食部を破砕する際に、アリイナーゼ不活性化処理を施して得られるニンニク加工品に含まれるアリインを用いる請求項1に記載する食品の不快臭マスキング剤。
【請求項4】
ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、3.0以下、好ましくは2.8以下になるように、酸性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
【請求項5】
ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、その粉砕物のpHが、10.0以上、好ましくは10.3以上になるように、塩基性物質又はこれを溶解した溶液を混合して粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
【請求項6】
ニンニク加工品が、ニンニクの可食部に、エタノール、又は40重量%以上のエタノールと水の混合溶媒を加えて粉砕して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
【請求項7】
ニンニクの加工品が、生ニンニクをマイクロ波加熱処理した後、水中で減圧下に1〜2時間加熱還流し、抽出液を分離し、該抽出液を減圧濃縮して得られるニンニク加工品を用いる請求項3記載の食品の不快臭マスキング剤。
【請求項8】
不快臭が、魚介臭、又は鳥獣肉臭である請求項1〜7記載の食品の不快臭マスキング剤。
【請求項9】
請求項1〜請求項8記載の食品の不快臭マスキング剤を含有する食品。
【請求項10】
請求項1〜請求項9に記載する不快臭のマスキング剤を、アリインとして、0.001〜0.1重量%含有する食品。
【請求項11】
食品にアリインを添加することを特徴とする食品の不快臭のマスキング方法。
【請求項12】
アリインとして、請求項1〜請求項8記載のマスキング剤を添加する食品の不快臭のマスキング方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項8に記載する不快臭のマスキング剤を、アリインとして、0.001〜0.1重量%添加する食品の不快臭のマスキング方法。



【図1】
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